(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022177567
(43)【公開日】2022-12-01
(54)【発明の名称】ロープ式エレベータのシーブ検査システム及びシーブ検査方法
(51)【国際特許分類】
B66B 3/00 20060101AFI20221124BHJP
B66B 5/00 20060101ALI20221124BHJP
B66B 11/08 20060101ALI20221124BHJP
【FI】
B66B3/00 R
B66B5/00 G
B66B11/08 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021083919
(22)【出願日】2021-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】000232955
【氏名又は名称】株式会社日立ビルシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】松本 俊昭
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 悠太
(72)【発明者】
【氏名】大西 友治
【テーマコード(参考)】
3F303
3F304
3F306
【Fターム(参考)】
3F303BA01
3F303CB41
3F303CB46
3F304BA07
3F304BA13
3F304BA26
3F306AA02
3F306BB01
3F306BB06
(57)【要約】
【課題】簡単な作業によりエレベータに設置可能なセンサを用いて、シーブの摩耗を検査する。
【解決手段】ロープ式のエレベータのシーブに生じる摩耗を検査するシステムにおいて、巻上機のシーブに設置された角速度検出装置と、乗りかごに設置された加速度検出装置と、角速度検出装置及び加速度検出装置のデータに基づいて、シーブの状態の判定をする摩耗検査装置と、を備え、摩耗検査装置は、乗りかごの加速度とシーブの角速度とを用いてシーブの半径又は直径を算出し、半径又は直径とその初期値又は設計値との差がシーブ摩耗基準値を下回るかどうかによりシーブが摩耗しているかを判定する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロープ式のエレベータのシーブに生じる摩耗を検査するシステムにおいて、
巻上機のシーブに設置された角速度検出装置と、
乗りかごに設置された加速度検出装置と、
前記角速度検出装置及び前記加速度検出装置のデータに基づいて、前記シーブの状態の判定をする摩耗検査装置と、を備え、
前記摩耗検査装置は、前記乗りかごの加速度と前記シーブの角速度とを用いて前記シーブの半径又は直径を算出し、前記半径又は前記直径とその初期値又は設計値との差がシーブ摩耗基準値を下回るかどうかにより前記シーブが摩耗しているかを判定することを特徴とするロープ式エレベータのシーブ検査システム。
【請求項2】
前記差がロープ油堆積基準値を上回るかどうかにより前記シーブの表面にロープ油が堆積しているかを判定する、請求項1記載のロープ式エレベータのシーブ検査システム。
【請求項3】
前記シーブの前記半径又は前記直径は、前記乗りかごの移動距離を前記シーブの回転角の変化量で除することにより算出する、請求項1記載のロープ式エレベータのシーブ検査システム。
【請求項4】
前記摩耗検査装置による前記判定の結果は、所定の機器に表示され、又は通知される、請求項1記載のロープ式エレベータのシーブ検査システム。
【請求項5】
ロープ式のエレベータのシーブに生じる摩耗を検査する方法において、
巻上機のシーブに設置された角速度検出装置が、前記シーブの角速度を検出し、
乗りかごに設置された加速度検出装置が、前記乗りかごの加速度を検出し、
摩耗検査装置が、前記角速度検出装置及び前記加速度検出装置のデータに基づいて、前記シーブの状態の判定をし、
前記摩耗検査装置は、前記乗りかごの前記加速度と前記シーブの前記角速度とを用いて前記シーブの半径又は直径を算出し、前記半径又は前記直径とその初期値又は設計値との差がシーブ摩耗基準値を下回るかどうかにより前記シーブが摩耗しているかを判定することを特徴とするロープ式エレベータのシーブ検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロープ式エレベータのシーブ検査システム及びシーブ検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ロープ式エレベータは、巻上機のシーブ(滑車)に巻き付けたロープの両端のそれぞれに、乗りかごと釣合錘とを連結しており、巻上機やブレーキを適切に動作させることで、乗りかご昇降及び停止を行っている。
【0003】
しかし、摩擦などが原因で部品が摩耗すると、エレベータの動作に支障が出る可能性がある。例えば、巻上機を適切なタイミングで停止しても、摩耗によりシーブの摩擦抵抗が低下していれば、シーブとロープとの間でスリップが発生し、乗りかごが所望の位置で停止しない等の問題が生じる。したがって、シーブ等の部品の過度な摩耗を早期に検出し、適切な時期に部品交換等のメンテナンスを実施できるようにする必要がある。
【0004】
特許文献1には、パルス発生器を有するかご位置検知手段により巻上機の綱車の回転量を検知し、この回転量によりかご位置を検知し、かごに設けられた着床検知装置により昇降路内の複数の被参照手段を参照し、綱車回転量検知手段により、かごが基準距離を走行している間に発生した綱車の回転量を検知し、綱車の回転量により綱車の溝部の摩耗量を推定演算する、エレベータの綱車摩耗量測定装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されているエレベータの綱車摩耗量測定装置は、昇降路内の複数の被参照手段を設置し、モータ軸にパルス発生器を設置する必要があり、改造に要する作業量が多い。また、特許文献1においては、シーブの表面にロープの油が堆積し、シーブ径が大きくなる問題については考慮されていない。
【0007】
本発明は、簡単な作業によりエレベータに設置可能なセンサを用いて、シーブの摩耗を検査することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のロープ式エレベータのシーブ検査システムは、ロープ式のエレベータのシーブに生じる摩耗を検査するシステムにおいて、巻上機のシーブに設置された角速度検出装置と、乗りかごに設置された加速度検出装置と、角速度検出装置及び加速度検出装置のデータに基づいて、シーブの状態の判定をする摩耗検査装置と、を備え、摩耗検査装置は、乗りかごの加速度とシーブの角速度とを用いてシーブの半径又は直径を算出し、半径又は直径とその初期値又は設計値との差がシーブ摩耗基準値を下回るかどうかによりシーブが摩耗しているかを判定する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、簡単な作業によりエレベータに設置可能なセンサを用いて、シーブの摩耗を検査することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例のロープ式エレベータの全体構成を示す概略図である。
【
図4】実施例の摩耗検出システムを示すブロック図である。
【
図5】実施例の摩耗検査方法を示すフローチャートである。
【
図6】
図4の状態判定ユニット12による具体的な計算方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を用いて、実施例を説明する。
【実施例0012】
まず、
図1~
図3を用いて、検査対象であるロープ式エレベータの全体構成を説明する。
【0013】
図1は、実施例のロープ式エレベータの全体構成を示す概略図である。
【0014】
本図に示すように、ロープ式エレベータは、乗りかご41と、釣合錘42と、これらを両端部に連結したロープ43と、巻上機5と、を備えている。ロープ43は、巻上機5に巻き付けられている。巻上機5は、昇降路4の上部の機械室4aに設置されている。巻上機5の駆動に伴い、ロープ43が移動することにより、乗りかご41と釣合錘42とが昇降路4内をつるべ式に昇降する。
【0015】
巻上機5には、角速度検出装置2(ジャイロセンサ)が取り付けられている。乗りかご41には、加速度検出装置3が取り付けられている。
【0016】
なお、本図においては、昇降路4の上部に機械室4aが設けられているが、機械室4aを設けない構成であってもよく、昇降路4の上部に巻上機5を直接設置してもよい。
【0017】
図2は、機械室の床上に設置した巻上機の一例を示したものである。
【0018】
本図において、巻上機5は、モータ51と、モータ51の回転軸に連結された減速機52と、減速機52の出力軸に固定されたシーブ53(トラクションシーブ)と、シーブ53と同一平面上に回転可能に配置したプーリ54と、を備えた比較的大型のものである。ロープ43は、シーブ53及びプーリ54の溝に巻き付けられている。シーブ53には、角速度検出装置2が取り付けられている。
【0019】
【0020】
本図に示す巻上機5は、比較的小型のいわゆるギアレス巻上機である。巻上機5には、モータ51に減速機の機能が組み込まれている。シーブ53は、モータ51の回転軸に接続され、ギヤを介することなく回転する構成となっている。シーブ53には、角速度検出装置2が取り付けられている。
【0021】
なお、本図においては、角速度検出装置2は、シーブ53の回転軸に設置されているが、角速度検出装置2の設置位置は、これに限定されるものではなく、シーブ53の周縁部であってもよい。
【0022】
図4は、実施例の摩耗検出システムを示すブロック図である。
【0023】
本図に示すように、摩耗検査システムは、摩耗検査装置1と、角速度検出装置2と、加速度検出装置3と、を備えている。
【0024】
以下、本図を用いて、各装置を詳細に説明する。
【0025】
<角速度検出装置>
角速度検出装置2は、角速度データを計測する角速度センサ21と、角速度データを摩耗検査装置1に送信する角速度送信部22と、を備えている。
【0026】
角速度検出装置2は、磁石を有し、シーブ53(
図3)の回転軸に直交する平面部に磁力により取り付けることができるようになっている。すなわち、着脱可能である。計測の際に取り付け、計測が終了したら取り外してもよい。常時取り付けておき、角速度データが必要な時に計測してもよい。そして、シーブ53の回転量を判定するために必要な角速度データを摩耗検査装置1に送信する。データの送信は、無線または有線で通信可能である。装置に内蔵されたバッテリーにより動作するが、外部からの給電により動作するようにしてもよい。
【0027】
<加速度検出装置>
加速度検出装置3は、加速度データを計測する加速度センサ31と、加速度データを摩耗検査装置1に送信する加速度送信部32と、を備えている。
【0028】
加速度検出装置3は、磁石を有し、乗りかご41(
図1)に磁力により取り付けることができるようになっている。すなわち、着脱可能である。計測の際に取り付け、計測が終了したら取り外してもよい。常時取り付けておき、加速度データが必要な時に計測してもよい。そして、乗りかご41の移動方向(上下方向)の加速度を検出する向きに設置し、移動時の加速度を検出し、加速度データを摩耗検査装置1に送信する。
【0029】
なお、加速度センサ31は、一方向の振動だけ計測する一軸加速度センサでもよいが、様々な方向の振動を計測できるように多軸加速度センサを用いることがより望ましい。データの送信は、無線または有線で通信可能である。装置に内蔵されたバッテリーにより動作するが、外部からの給電により動作するようにしてもよい。
【0030】
以上のように、角速度検出装置2及び加速度検出装置3は、着脱が容易であり、簡単な作業により設置することができる。
【0031】
<摩耗検査装置>
摩耗検査装置1は、計測値記録ユニット11と、状態判定ユニット12と、を備えている。摩耗検査装置1は、角速度検出装置2及び加速度検出装置3の計測値(角速度データ及び加速度データ)に基づいて、巻上機5のシーブ53に摩耗がないか判定し、その判定結果を表示する検査装置である。なお、摩耗検査装置1は、具体的には、CPU(Central Processing Unit)等の演算装置、半導体メモリ等の記憶装置、液晶ディスプレイ等の表示装置、および、通信装置を備えたコンピュータである。摩耗検査装置1は、角速度検出装置2及び加速度検出装置3と無線または有線で通信可能なものであれば、機械室4aや昇降路4に据え置かれたコンピュータ端末であってもよいし、作業者が携帯できる携帯端末であってもよい。
【0032】
計測値記録ユニット11は、角速度記録部11aと、角速度送信部11bと、加速度記録部11cと、加速度送信部11dと、を備えている。角速度記録部11aは、角速度検出装置2から送信された角速度データを受信し記録する。角速度記録部11aに記録された角速度データは、角速度送信部11bによって状態判定ユニット12に送信される。加速度記録部11cは、加速度検出装置3から送信された加速度データを受信し記録する。加速度記録部11cに記録された加速度データは、加速度送信部11dによって状態判定ユニット12に送信される。
【0033】
状態判定ユニット12は、シーブの角速度積分部12aと、加速度によるかご移動距離算出部12bと、シーブ摩耗判定部12cと、判定結果表示部12dと、を備えている。
【0034】
角速度積分部12aは、計測値記録ユニット11から受信した角速度データを積分し積分値を算出する。
【0035】
また、かご移動距離算出部12bは、計測値記録ユニット11から受信した加速度データを2階積分することにより乗りかご41の移動距離を算出する。
【0036】
シーブ摩耗判定部12cは、角速度積分部12aにより算出したシーブ53の角速度積分値と、かご移動距離算出部12bにより算出された乗りかご41の移動距離からシーブ53の半径を算出する。算出したシーブの半径とその設計値、もしくはあらかじめ計測し登録した初期値との差から、シーブ53の摩耗およびシーブ53表面へのロープ油の堆積を判定する。
【0037】
そして、判定結果表示部12dでは、シーブ摩耗判定部12cの判定結果を基に、部品の摩耗の有無や点検箇所の表示を行い、必要に応じて、作業者に部品交換等を指示する。
【0038】
<摩耗検査システムの処理>
図5は、実施例の摩耗検査方法を示すフローチャートである。
【0039】
なお、本図においては省略しているが、摩耗検査装置1(
図4)には、シーブの初期状態時(エレベータの据付直後や部品交換の直後)に計測したデータが、初期値として登録されているものとする。
【0040】
まず、ステップS1では、作業者が計測開始指令を入力すると、角速度検出装置2及び加速度検出装置3による計測が開始される。なお、計測開始指令は、作業者によって摩耗検査装置1に入力されたものを角速度検出装置2及び加速度検出装置3に送信したものであってもよいし、作業者が角速度検出装置2及び加速度検出装置3に直接入力したものであってもよい。
【0041】
ステップS2では、作業者が直接エレベータを操作し、最下階と最上階との間で乗りかご41(
図1)が往復する高速移動を実施する。
【0042】
ステップS3では、作業者が計測終了指令を入力したかを判定し、指令があった場合は、ステップS4に進み、角速度検出装置2及び加速度検出装置3の計測を終了する。一方、指令がない場合は、判定を繰り返す。なお、計測終了指令は、作業者によって摩耗検査装置1に入力されたものを角速度検出装置2及び加速度検出装置3に送信したものであってもよいし、作業者が角速度検出装置2及び加速度検出装置3に直接入力したものであってもよい。
【0043】
ステップS5では、角速度検出装置2及び加速度検出装置3の計測値を計測値記録ユニット11に記録し、さらに、記録した計測値を状態判定ユニット12に送信する。
【0044】
ステップS6では、状態判定ユニット12は、計測値記録ユニット11から受信した角速度検出装置2及び加速度検出装置3の計測値に基づいて、異常(シーブの摩耗)の有無を判定する。シーブの摩耗があると判定された場合は、ステップS7に進み、作業者にシーブの点検を指示する。
【0045】
一方、シーブの摩耗がないと判定された場合は、ステップS8に進み、シーブの表面に油の堆積があるかを判定する。油の堆積があると判定された場合は、ステップS9に進み、作業者にシーブの清掃を指示する。
【0046】
一方、シーブの表面に油の堆積がないと判定された場合は、ステップS10に進み、作業者に点検不要の連絡をする。
【0047】
まとめると、ステップS7、S9及びS10においては、判定結果表示部12d、携帯端末等に点検、作業等の要否について表示又は通知をする。言い換えると、摩耗検査装置1による判定の結果は、所定の機器に表示され、又は通知される。
【0048】
図6は、
図4の状態判定ユニット12による具体的な計算方法を示すフローチャートである。
【0049】
状態判定ユニット12に内蔵されたメモリには、シーブの新設直後又は交換直後の初期状態における計測により取得されたシーブ半径計測初期値(r2)並びにシーブ摩耗判定値(m1)及びロープ油堆積判定値(m2)が記録されている。なお、シーブ半径計測初期値(r2)が記録されていない場合は、シーブ半径設計値(r3)を用いる。また、m1は「シーブ摩耗基準値」と呼んでもよく、m2は「ロープ油堆積基準値」と呼んでもよい。
【0050】
図6において、ステップS51では、計測値記録ユニット11内の角速度送信部11bより受信したシーブの角速度データ(ω1)を、角速度積分部12aで絶対値に変換した後に積分する。積分した計算値(回転角の変化量)をφ1とする。
【0051】
ステップS52では、かご移動距離算出部12bにて、計測値記録ユニット11から受信した加速度データを2階積分することにより、乗りかご41の移動距離(L1)を算出する。
【0052】
ステップS53では、ステップS52で算出したL1とステップS51で算出したφ1とを用いて、次の式(1)により、シーブの半径(r1)を算出する。
【0053】
r1=L1÷φ1 …(1)
すなわち、乗りかご41の移動距離(L1)をシーブの回転角の変化量(φ1)で除することにより、シーブの半径(r1)を算出する。
【0054】
なお、r1は、上記式(1)により算出することが望ましいが、次の式(2)により算出してもよい。
【0055】
r1=V1÷ω1 …(2)
ここで、V1は、計測値記録ユニット11から受信した加速度データを1階積分することにより算出した乗りかご41の移動速度である。
【0056】
すなわち、乗りかご41の移動速度(V1)をシーブの角速度(ω1)で除することにより、シーブの半径(r1)を算出する。
【0057】
シーブの半径(r1)は、シーブの摩耗状態及びロープ表面の油堆積状態を判定するために用いる。
【0058】
上記式(2)は、次のようにして導出される。
【0059】
一般的な角速度と周速との関係式から次の式が得られる。
【0060】
(乗りかごの移動速度)=(シーブの周速)=(シーブの角速度)×(シーブの半径)
ゆえに、シーブの半径は、次の式により算出される。
【0061】
(シーブの半径)=(乗りかごの移動速度)÷(シーブの角速度)
この式を書き換えると、上記式(2)が得られる。
【0062】
しかしながら、シーブの摩耗量及びロープ油の堆積によるシーブの半径の変化は小さく、シーブの半径に対して数%以下である。
【0063】
そのため、ステップS53のシーブの半径(r1)を算出する処理においては、判定精度を上げるため、往復の時系列データの積分値を用いて計算を行うことが望ましい。これは、シーブの角速度(ω1)の瞬間値を用いると、シーブの半径(r1)の値がその瞬間値に依存し、瞬間値の誤差に影響されるからである。
【0064】
よって、r1は、上記式(2)を用いて算出することができ、シーブの部分的な摩耗又はシーブの表面の一部に油が堆積している状態を検知できるが、上記式(1)を用いて算出する方が時間的な平均値を用いることになるため望ましい。
【0065】
ステップS54では、シーブの摩耗状態等を判定するために、ステップS53で算出したシーブ半径(r1)と判定用のテーブル内に格納されているシーブ半径計測初期値(r2)との差を計算する(r1-r2)。r2が得られていない場合は、r2の代わりにシーブ半径設計値(r3)を用いる。
【0066】
ステップS55では、(r1-r2)の値がシーブ摩耗判定値(m1)を下回った場合に、シーブが摩耗していると判定する(ステップS56)。
【0067】
一方、(r1-r2)の値がシーブ摩耗判定値(m1)以上である場合には、ステップS57に進む。ステップS57では、(r1-r2)の値がロープ油堆積判定値(m2)を超えた場合に、シーブ表面にロープ油が堆積したと判定する(ステップS58)。(r1-r2)の値がロープ油堆積判定値(m2)以下である場合には、異常なしと判定する(ステップS59)。
【0068】
なお、シーブの摩耗の判定については、状態判定ユニット12内での摩耗状態判定では、過去の検査データと移動時間のデータとを保持することが可能であり、前回から今回の摩耗量の増加と移動時間との変化から、交換基準時期を算出して表示することが可能である。
【0069】
摩耗検査装置1は、データサーバーとも通信可能であり、検査結果をデータサーバーに送信し、検査結果及び交換時期が表示されたレポートを出力することも可能である。また、ウェブアプリケーションに結果を表示し、エレベータのオーナーが交換時期や検査結果を確認することも可能である。
【0070】
上記の判定においては、シーブの半径(r1)を算出し、大小関係の比較を行ったが、シーブの直径(d1)を算出して判定に用いてもよい。
1:摩耗検査装置、2:角速度検出装置、3:加速度検出装置、4:昇降路、4a:機械室、5:巻上機、11:計測値記録ユニット、11a:角速度記録部、11b:角速度送信部、11c:加速度記録部、11d:加速度送信部、12:状態判定ユニット、12a:角速度積分部、12b:かご移動距離算出部、12c:シーブ摩耗判定部、12d:判定結果表示部、21:角速度センサ、22:角速度送信部、31:加速度センサ、32:加速度送信部、41:乗りかご、42:釣合錘、43:ロープ、51:モータ、52:減速機、53:シーブ、54:プーリ。