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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022177573
(43)【公開日】2022-12-01
(54)【発明の名称】コイル封入磁心およびコイル部品
(51)【国際特許分類】
   H01F 17/04 20060101AFI20221124BHJP
   H01F 1/24 20060101ALI20221124BHJP
   H01F 1/26 20060101ALI20221124BHJP
【FI】
H01F17/04 F
H01F1/24
H01F1/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021083934
(22)【出願日】2021-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】大塚 翔太
(72)【発明者】
【氏名】殿山 恭平
(72)【発明者】
【氏名】西川 朋永
(72)【発明者】
【氏名】名取 光夫
(72)【発明者】
【氏名】川口 裕一
(72)【発明者】
【氏名】島村 淳一
【テーマコード(参考)】
5E041
5E070
【Fターム(参考)】
5E041AA00
5E041BB05
5E041CA01
5E070AA01
5E070BA12
(57)【要約】      (修正有)
【課題】絶縁性の向上と初透磁率の向上を両立させ得るコイル封入磁心およびコイル部品を提供する。
【解決手段】コイル部品2において、コイル封入磁心17は、磁性粉、樹脂および改質剤を含み、内部導体通路12、13およびスルーホール導体からなるコイルを封入する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性粉および樹脂を含み、前記導体からなるコイルを封入するコイル封入磁心であって、
改質剤を含むコイル封入磁心。
【請求項2】
前記改質剤は、ポリカプロラクトン構造を有する物質であることを特徴とする請求項1に記載のコイル封入磁心。
【請求項3】
前記改質剤の含有量は、前記コイル封入磁心の総量に対して0.1~0.8wt%であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のコイル封入磁心。
【請求項4】
前記磁性粉は、軟磁性金属を含む請求項1から請求項3までのいずれかに記載のコイル封入磁心。
【請求項5】
前記磁性粉は、軟磁性金属からなる軟磁性磁性粉がSiОを含む絶縁コーティングで被覆された絶縁コーティング粒子の一部である請求項4に記載のコイル封入磁心。
【請求項6】
前記磁性粉は、互いに粒径の異なる少なくとも2種類の磁性粉である小径粉および大径粉を有する請求項1から請求項5までのいずれかに記載のコイル封入磁心。
【請求項7】
導体からなるコイルと、
磁性粉および樹脂を含み、前記コイルを封入するコイル封入磁心と、
前記コイルに電気的に接続する一対の外部端子と、を有し、
前記コイル封入磁心が改質剤を含むコイル部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイル封入磁心およびコイル部品に関し、特に、電子機器中の電源平滑回路向けチョークコイルなどのように、電源用インダクタなどとして好ましく用いられるコイル部品およびこれに含まれるコイル封入磁心に関する。
【背景技術】
【0002】
民生用又は産業用の電子機器分野では、電源用のインダクタとして表面実装型のコイル部品を用いることが多くなっている。表面実装型のコイル部品は、小型・薄型で電気的絶縁性に優れ、しかも低コストで製造できるためである。表面実装型のコイル部品の具体的構造のひとつに、プリント回路基板技術を応用した平面コイル構造がある。
【0003】
このようなコイル部品においては、コイル(導体)を封入するコイル封入磁心の電気的・磁気的特性が、コイル部品の電気的・磁気的特性に大きな影響を与える。たとえば、磁性粉間の磁気的凝集力を弱めるために、コイル封入磁心に分散剤を添加する技術が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、コイル封入磁心に分散剤を添加する従来技術では、微量の添加では磁性粉間の絶縁性が不十分となる問題があり、添加量が多すぎると磁気特性の低下を招く問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11-126721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、その目的は、絶縁性の向上と初透磁率の向上を両立させ得るコイル封入磁心およびコイル部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係るコイル封入磁心は、
磁性粉および樹脂を含み、導体からなるコイルを封入するコイル封入磁心であって、
改質剤を含む。
【0008】
本発明に係るコイル封入磁心は、改質剤を含むため、改質剤が磁性粉同士の接触を防止することにより、絶縁性の向上と初透磁率の向上とを両立することができる。
【0009】
また、前記改質剤は、ポリカプロラクトン構造を有する物質であってもよい。
【0010】
ポリカプロラクトン構造を有する改質剤は、コイル封入磁心の絶縁性の向上と初透磁率の向上とをもたらす効果が顕著である。
【0011】
また、たとえば、前記改質剤の含有量は、前記コイル封入磁心の総量に対して0.1~0.8wt%であってもよい。
【0012】
改質剤の含有量を上記の範囲とすることにより、コイル封入磁心の絶縁性の向上と初透磁率の向上とをもたらす効果が特に顕著である。
【0013】
また、たとえば、前記磁性粉は、軟磁性金属を含んでいてもよい。
【0014】
軟磁性金属を含む磁性粉を用いることにより、コイル封入磁心の初透磁率を高めることができる。
【0015】
また、たとえば、前記磁性粉は、軟磁性金属からなる軟磁性磁性粉がSiОを含む絶縁コーティングで被覆された絶縁コーティング粒子の一部であってもよい。
【0016】
磁性粉が絶縁コーティング粒子の一部であることにより、コイル封入磁心の絶縁性をより向上させることができる。
【0017】
また、たとえば、前記磁性粉は、互いに粒径の異なる少なくとも2種類の磁性粉である小径粉および大径粉を有してもよい。
【0018】
3種類の磁性粉を有することにより、コイル封入磁心の密度が向上し、初透磁率を向上させることができる。
【0019】
また、本発明に係るコイル部品は、導体からなるコイルと、
磁性粉および樹脂を含み、前記コイルを封入するコイル封入磁心と、
前記コイルに電気的に接続する一対の外部端子と、を有し、
前記コイル封入磁心が改質剤を含む。
【0020】
本発明に係るコイル部品は、コイル封入磁心が改質剤を含むため、改質剤が磁性粉同士の接触を防止することにより、コイル封入磁心の絶縁性の向上と初透磁率の向上とを両立する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、本発明の第1実施形態に係るコイル部品の斜視図である。
図2図2は、図1に示すコイル部品の分解斜視図である。
図3図3は、図1に示すIII-III線に沿う断面図である。
図4図4は、図1に示すIV-IV線に沿う断面図である。
図5図5は、絶縁コーティングされた磁性粉の模式図である。
図6図6は、改質剤の添加量とコイル封入磁心の絶縁破壊強さに関する測定結果を表すグラフである。
図7図7は、改質剤の添加量とコイル封入磁心の初透磁率に関する測定結果を表すグラフである。
図8図8は、改質剤の添加量とコイル封入磁心の3点曲げ強度に関する測定結果を表すグラフである。
図9図9は、本発明の第2実施形態に係るコイル部品の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
【0023】
第1実施形態
本発明に係るコイル部品の一実施形態として、図1図4に示すコイル部品2が挙げられる。図1に示すように、コイル部品2は、矩形平板形状の本体部10と、本体部10のX軸方向の両端にそれぞれ装着してある一対の外部端子4、4とを有する。外部端子4、4は、本体部10のX軸方向端面を覆うと共に、X軸方向端面の近くで、本体部10のZ軸方向の上面10aと下面10bとを一部覆っている。さらに、外部端子4、4は、本体部10のY軸方向の一対の側面をも一部覆っている。
【0024】
図2に示すように、本体部10は、上部コア15と下部コア16とからなるコイル封入磁心17と、内部導体通路12、13およびスルーホール導体18(図3参照)を有するコイル19とを有する。また、本体部10は、そのZ軸方向の中央部に、絶縁基板11を有する。
【0025】
絶縁基板11は、ガラスクロスにエポキシ樹脂を含浸させた一般的なプリント基板材料からなることが好ましいが特に限定はない。
【0026】
また、本実施形態では絶縁基板11の形状が矩形であるが、その他の形状であってもよい。絶縁基板11の形成方法にも特に制限はなく、たとえば射出成形、ドクターブレード法、スクリーン印刷などにより形成される。
【0027】
また、絶縁基板11のZ軸方向の上面(一方の主面)に、円形スパイラル状の内部導体通路12から成る内部電極パターンが形成してある。内部導体通路12はコイル19の一部を構成する。また、内部導体通路12の材質としては、特に制限されないが、たとえば、Cu、Auなどの金属の良導体が挙げられる。
【0028】
スパイラル状の内部導体通路12の内周端には、接続端12aが形成してある。また、スパイラル状の内部導体通路12の外周端には、本体部10の一方のX軸方向端部(X負方向端部)に沿って露出するようにリード用コンタクト12bが形成してある。
【0029】
絶縁基板11のZ軸方向の下面(他方の主面)には、スパイラル状の内部導体通路13から成る内部電極パターンが形成してある。内部導体通路13はコイル19の一部を構成する。また、内部導体通路13の材質としては、特に制限されないが、内部導体通路12と同様に、たとえば、Cu、Auなどの金属の良導体が挙げられる。
【0030】
スパイラル状の内部導体通路13の内周端には、接続端13aが形成してある。また、スパイラル状の内部導体通路13の外周端には、本体部10の他方のX軸方向端部(X正方向端部)に沿って露出するようにリード用コンタクト13bが形成してある。
【0031】
図3に示すように、接続端12aと接続端13aとは、Z軸方向には絶縁基板11を挟んで反対側に形成してあり、X軸方向、Y軸方向には同じ位置に形成してある。そして、接続端12aと接続端13aとは、絶縁基板11に形成してあるスルーホール11iに埋め込まれているスルーホール導体18を通して電気的に接続してある。すなわち、スパイラル状の内部導体通路12と、同じくスパイラル状の内部導体通路13とは、スルーホール導体18を通して電気的に直列に接続してある。
【0032】
図2に示すように、本体部10の上面10a側(X軸正方向側)から見たスパイラル状の内部導体通路12は、外周端のリード用コンタクト12bから内周端の接続端12aに向かって反時計回りのスパイラルを構成している。
【0033】
これに対して、本体部10の上面10a側(X軸正方向側)から見たスパイラル状の内部導体通路13は、内周端である接続端13aから外周端であるリード用コンタクト13bに向かって反時計回りのスパイラルを構成している。
【0034】
これにより、スパイラル状の内部導体通路12、13に電流が流れることによって生じる磁束の方向が、2つの内部導体通路12、13で一致し、スパイラル状の内部導体通路12、13で発生する磁束は重畳して強め合い、大きなインダクタンスを得ることができる。このように、導体からなる内部導体通路12、13とスルーホール導体18とは、コイル19を構成する。
【0035】
図2に示すように、上部コア15は、矩形平板状のコア本体の中央部に、Z軸方向の下方に向けて突出する円柱状の中脚部15aを有する。また、上部コア15は、矩形平板状のコア本体のY軸方向の両端部に、X軸方向の下方に向けて突出する板状の側脚部15bを有する。
【0036】
下部コア16は、上部コア15のコア本体と同様な矩形平板状の形状を有し、上部コア15の中脚部15aと側脚部15bとが、それぞれ下部コア16の中央部およびY軸方向の端部に連結されて一体化される。
【0037】
なお、図2では、コイル封入磁心17が、上部コア15と下部コア16とに分離されて描かれているが、これらは、後述する磁心組成物により一体化されて形成されても良い。また、上部コア15に形成してある中脚部15aおよび/または側脚部15bは、下部コア16に形成されていても良い。いずれにしても、コイル封入磁心17は、完全な閉磁路を構成してあり、閉磁路内にギャップは存在しない。
【0038】
図2に示すように、上部コア15と内部導体通路12との間には、保護絶縁層14が介在してあり、これらは絶縁されている。また、下部コア16と内部導体通路13との間には、矩形シート状の保護絶縁層14が介在してあり、これらは絶縁されている。保護絶縁層14の中央部には、円形の貫通孔14aが形成してある。また、絶縁基板11の中央部にも、円形の貫通孔11hが形成してある。これらの貫通孔14aおよび11hを通して、上部コア15の中脚部15aが下部コア16の方向に延びて下部コア16の中央と連結してある。
【0039】
図4に示すように、本実施形態では、外部端子4が、本体部10のX軸方向端面に接触する内層4aと、内層4aの表面に形成される外層4bとを有する。内層4aは、本体部10のX軸方向の端面近くで、本体部10の上面10aおよび下面10bの一部も覆っており、その外表面を外層4bが覆っている。図4に示すように、一対の外部端子4、4は、リード用コンタクト12b、13bを介して、コイル封入磁心17に封入されるコイル19に電気的に接続する。
【0040】
ここで、本体部10におけるコイル封入磁心17は、磁性粉および樹脂を含む。また、コイル封入磁心17は、改質剤を含む。すなわち、コイル封入磁心17は、磁性粉、樹脂および改質剤を含む磁性材料で構成してある。
【0041】
以下、本実施形態における磁性粉について説明する。
【0042】
本実施形態における磁性粉は、たとえば、互いに粒径(D50)の異なる少なくとも2種類の磁性粉である小径粉および大径粉を有する。ただし、コイル封入磁心17を構成する磁性粉としてはこれに限定されず、1種類または3種類以上の粒径の磁性粉を有するものであってもよい。ここで、D50とは、積算値が50%である粒度の直径を指す。
【0043】
そして、2種類の磁性粉のうち、D50が大きい磁性粉を大径粉、大径粉よりD50が小さい磁性粉を小径粉とする。磁性粉は、軟磁性金属を含むことが好ましい。本実施形態に係る磁性粉は、大径粉が鉄または鉄基合金からなり、小径粉がNi-Fe合金からなり、いずれも軟磁性金属からなる。ただし、小径粉は鉄基合金からなるものであってもよい。また、磁性粉はフェライト粉であってもよい。
【0044】
本実施形態の鉄基合金とは、鉄が80重量%以上含まれる合金を指す。また、鉄が80重量%以上含まれていれば大径粉の種類に特に制限はなく、Fe基アモルファス粉、カルボニル鉄粉(純鉄粉)の他、各種Fe系合金、ナノ結晶を用いることができる。
【0045】
本実施形態のNi-Fe合金とは、Niが28重量%以上含まれ、残部がFeおよびその他の元素からなる合金を指す。その他の元素の含有量に特に制限はないが、Ni-Fe合金全体を100重量%とする場合に8重量%以下とすることができる。
【0046】
さらに、本実施形態に係る磁性粉は、図5に示す軟磁性金属からなる軟磁性粉20のように、SiОを含む絶縁コーティング22で被覆された絶縁コーティング粒子23の一部であってもよい。なお、「絶縁コーティングで被覆されている」とは、当該粉末における全粉末粒子のうち、50%以上の粉末粒子が絶縁コーティングされている場合を指す。
【0047】
絶縁コーティング粒子23の粒径は図5のd1の長さである。また、図5のd2の長さ、すなわち、当該絶縁コーティング粒子23における絶縁コーティング22の最大厚みが当該絶縁コーティング粒子23における絶縁コーティング22の厚みとなる。また、絶縁コーティング22は必ずしも軟磁性粉20の表面の全てを覆っている必要はない。表面の50%以上が絶縁コーティング22に覆われている軟磁性粉20は絶縁コーティング粒子23であるとみなす。
【0048】
本実施形態における磁性粉が上記の構成を有することで、初透磁率、コアロス、耐電圧、絶縁抵抗および直流重畳特性などが優れたコイル部品2を得ることができる。
【0049】
以下、本実施形態における磁性粉についてさらに詳細に説明する。
【0050】
大径粉のD50(大径粉が絶縁コーティング粒子23の一部である場合は絶縁コーティン粒子のD50)は特に制限はないが、10~40μmであることが好ましく、15~30μmであることが更に好ましい。小径粉のD50(小径粉が図5に示す絶縁コーティング粒子23の一部である場合は絶縁コーティン粒子23のD50)には特に制限はないが、0.5~1.5μmであることが好ましく、0.5~1.0μm(1.0μmを含まない)であることがより好ましく、0.7~0.9μmであることがさらに好ましい。
【0051】
小径粉の粒径のばらつきは小さい方が好ましい。具体的には、小径粉のD90(積算値が90%である粒度の直径。なお、小径粉が絶縁コーティング粒子23の一部である場合は絶縁コーティン粒子のD90)が4.0μm以下であることが好ましい。D90が4.0μm以下であることで初透磁率が向上し、コアロスが低下する。
【0052】
大径粉および小径粉は球状であることが好ましい。本実施形態において球状であるとは、具体的には、球形度が0.9以上である場合をいう。また、球形度は画像式粒度分布計で測定することができる。
【0053】
Ni-Fe合金におけるNiの含有率は40~85%であることが好ましく、75~82%であることが特に好ましい。Niの含有率を上記の範囲内とすることで初透磁率が向上し、コアロスが低下する。なお、上記の含有率は重量比率である。
【0054】
磁性粉全体に占める小径粉の配合比率は5~25%であることが好ましく、6.5~20%であることが更に好ましい。小径粉の配合比率を上記の範囲内とすることで、初透磁率が向上し、コアロスが低下する。なお上記の配合比率は重量比率である。
【0055】
絶縁コーティング22の厚みには特に制限はないが、小径粉の絶縁コーティング22の平均厚みを5~45nmとすることが好ましく、特に好ましくは10~35nmである。また、小径粉と大径粉とで絶縁コーティング22の厚みを同一としてもよく、大径粉の絶縁コーティング22の厚みを小径粉の絶縁コーティング22の厚みよりも厚くしてもよい。
【0056】
絶縁コーティング22の材質には特に制限はなく、本技術分野において一般的に用いられている絶縁コーティングを用いることができる。SiOからなるガラスを含む被膜またはリン酸塩を含むリン酸塩化成皮膜が好ましく、SiOからなるガラスを含む被膜が特に好ましい。また、絶縁コーティングの方法にも特に制限はなく、本技術分野で通常用いられる方法を用いることができる。
【0057】
さらに、本実施形態に係る磁性粉は、D50が大径粉のD50より小さく、小径粉のD50より大きい中径粉をさらに有していてもよい。すなわち、磁性粉は、互いに粒径の異なる少なくとも3種類の磁性粉である小径粉、中径粉、および大径粉を有していてもよい。
【0058】
この場合、中径粉も大径粉、小径粉と同様に絶縁コーティングされていることが好ましい。
【0059】
中径粉のD50(中径粉が絶縁コーティング粒子23の一部である場合は図5に示す絶縁コーティング粒子23のD50)が3.0~10μmであることが好ましい。中径粉のD50が上記の範囲内であることで透磁率が向上する。
【0060】
中径粉の材質には特に制限はないが、大径粉と同様に鉄または鉄基合金からなることが好ましい。
【0061】
さらに、磁性粉全体に占める各粉末の配合比率としては、大径粉の配合比率が70~80%、中径粉の配合比率が10~15%、小径粉の配合比率が10~15%であることが好ましい。上記の配合比率であることで特にコアロスが低下し、透磁率が向上する。
【0062】
本実施形態における大径粉、中径粉、小径粉の粒径、絶縁コーティングの厚み等は透過型電子顕微鏡により測定される。なお、通常は、本実施形態における大径粉、中径粉、小径粉の粒径や材質等は、コイル部品2の製造工程では実質的に変化しない。
【0063】
本実施形態に係る磁性粉として、絶縁コーティングされた上記の磁性粉を用いることで、低加圧又は非加圧成形下において高密度なコイル封入磁心17を成形することができ、高透磁率且つ低損失なコイル封入磁心17を実現することができる。
【0064】
なお、高密度なコイル封入磁心17を得ることができるのは、大径粉のみを用いる場合に生じる隙間を中径粉および/または小径粉が埋めるためであると考えられる。また、コイル封入磁心17の密度をさらに高くするために、中径粉を用いず小径粉のみを用いることが考えられる。中径粉を用いないことで、中径粉を用いる場合よりも透磁率が高いコイル封入磁心17が得られる場合がある。
【0065】
これに対し、中径粉と小径粉の両方を用いる場合には、小径粉のNi含有量の変化などの各種条件が変化しても、各種条件の変化に応じた特性の変化が小さいコイル封入磁心17を得ることができる。したがって、中径粉と小径粉の両方を用いる場合には、小径粉のみを用いる場合よりもコイル封入磁心17の製造安定性が高くなる。
【0066】
コイル封入磁心17における磁性粉の含有率は90~99重量%であることが好ましく、95~99重量%であることがさらに好ましい。樹脂や改質剤に対する磁性粉の量を少なくすれば飽和磁束密度および透磁率は小さくなり、逆に磁性粉の量を多めにすれば飽和磁束密度および透磁率は大きくなるので、磁性粉の量で飽和磁束密度および透磁率を調整することができる。
【0067】
コイル封入磁心17に含まれる樹脂は絶縁結着材として機能する。樹脂の材料としては液状エポキシ樹脂又は粉体エポキシ樹脂を用いることが好ましい。また、樹脂の含有率は1~10重量%であることが好ましく、1~5重量%であることがさらに好ましい。また、磁性粉と樹脂と改質剤とを混合させるときには、樹脂溶液を用いて磁心組成物を得ることが好ましい。樹脂溶液の溶媒には特に限定はない。
【0068】
コイル封入磁心17に含まれる改質剤は磁性粉同士の接触を抑制する。改質剤の材料としては、ポリカプロラクトン構造を有する物質であることが好ましい。ポリカプロラクトン構造を有する物質としては、たとえば、ポリカプロラクトンジオール、ポリカプロラクトンテトラオールなどのウレタンの原料、もしくはポリエステルの一部があげられる。
【0069】
コイル封入磁心17における改質剤の含有量は、コイル封入磁心17の総量に対して0.1~0.8wt%であることが好ましい。改質剤の含有量を所定以上とすることにより、絶縁性および初透磁率の効果的な向上を期待できる。また、改質剤の含有量を所定以下とすることにより、3点曲げ強度の低下を防止することができる。なお、コイル封入磁心17において、樹脂が熱で反応し、結着材として機能するのに対して、改質剤は樹脂のような反応を示さない。
また、従来の分散剤では、改質剤のような効果は得ることができない。その理由としては、改質剤は、磁性粉表面をコーティングするよう全面に吸着しているのに対し、分散剤は磁性粉表面に吸着する部位(吸着基)と吸着しない部位があることが、影響していると推測される。
【0070】
以下、コイル部品2の製造方法について述べる。
【0071】
まず、絶縁基板11に、スパイラル状の内部導体通路12、13をめっき法により形成する。めっき条件に特に限定はない。また、めっき法以外の方法により形成してもよい。
【0072】
次に、内部導体通路12、13が形成された絶縁基板11の両面に、保護絶縁層14を形成する。保護絶縁層14の形成方法に特に限定はない。例えば、絶縁基板11を高沸点溶剤にて希釈した樹脂溶解液に浸漬させ乾燥させることで保護絶縁層14を形成することができる。
【0073】
次に、図2に示す上部コア15および下部コア16の組合せからなるコイル封入磁心17を形成する。そのために、保護絶縁層14が形成してある絶縁基板11の表面に、上述した磁心組成物を塗布する。塗布方法には特に限定はないが、印刷により塗布することが一般的である。
【0074】
次に、印刷により塗布された磁心組成物の溶剤分を揮発させてコイル封入磁心17を形成し、図1に示す本体部10を形成する。
【0075】
さらに、本体部10およびコイル封入磁心17の密度を向上させる。本体部10およびコイル封入磁心17の密度を向上させる方法には特に限定はないが、例えばプレス処理による方法が挙げられる。
【0076】
そして、本体部10の上面10aおよび下面10bを研削し、本体部10を所定の厚みにそろえる。その後、熱硬化させて樹脂を架橋させる。研削方法には特に限定はないが、例えば、固定砥石による方法が挙げられる。また、熱硬化の温度および時間には特に制限はなく、樹脂の種類等により適宜制御すればよい。
【0077】
その後に、本体部10を個片状に切断する。切断方法に特に限定はないが、たとえばダイシングによる方法が挙げられる。
【0078】
以上の方法で、図1で示される外部端子4が形成される前の本体部10が得られる。なお、切断前の状態では、本体部10は、X軸方向およびY軸方向に一体的に連結されている。
【0079】
また、切断後、個片化された本体部10にエッチング処理を行う。エッチング処理の条件としては、特に限定されない。
【0080】
次に、エッチング処理された本体部10のX軸方向の両端に電極材を塗布して内層4aを形成する。電極材としては、上述した磁心組成物に用いられるエポキシ樹脂と同様のエポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂にAg粉などの導体粉を含有させた導体粉含有樹脂が用いられる。
【0081】
次に、内層4aとなる電極ペーストが塗布された製品に対してバレルめっきにて端子めっきを施し、外層4bを形成する。外層4bは2層以上の多層構造であってもよい。外層4bの形成方法および材質に特に制限はないが、例えば内層4a上にNiめっきを施し、さらにNiめっき上にSnめっきを施すことで形成できる。以上の方法でコイル部品2を製造することができる。
【0082】
本実施形態では、本体部10のコイル封入磁心17が磁性粉と樹脂とを含むため、磁性粉の間に微小なギャップが形成された状態となることによって飽和磁束密度が高められる。このため、上部コア15と下部コア16との間にエアギャップを形成することなく磁気飽和を防止することができる。したがって、ギャップを形成するために磁性コアを高い精度で機械加工する必要はない。
【0083】
さらに本実施形態によるコイル部品2では、基板面に集合体として形成することでコイル19の位置精度が非常に高く、小型化、薄型化が可能である。磁性粉として軟磁性金属材料を用いることにより、フェライトよりも直流重畳特性が向上し、磁気ギャップの形成を省略することができる。
【0084】
また、コイル部品2では、磁心組成物およびコイル封入磁心17に、ポリカプロラクトン構造を有する物質である改質剤が含まれるため、コイル封入磁心17における磁性粉同士の接触を抑制することができる。これにより、コイル封入磁心17における絶縁性および初透磁率を向上させることができる。
【0085】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。たとえば、図1図4に示されたコイル部品以外の形態であっても、コイル19を封入するコイル封入磁心であって磁性粉、樹脂および改質剤を含有するものであれば、全て本発明のコイル部品である。
【0086】
第2実施形態
図9は、本発明の第2実施形態に係るコイル部品102を示す断面図である。コイル部品102は、図2に示すコイル部品2とは一部構造が異なり、複数のコイル導体パターンC1、C2、C3、C4からなるコイルと、磁性粉および樹脂を含む磁性体層111、112からなるコイル封入磁心117と、コイルに電気的に接続する一対の外部端子104、104と、を有する。また、コイル部品102は、層間絶縁層140、141、142、143、144と、電極層161、162とを有する。
【0087】
図9に示すコイル導体パターンC1~C4は、それぞれスパイラル状に2ターン巻回されたコイルパターンを形成している。各コイル導体パターンC1~C4は、層間絶縁層141~144を介して積層されている。上下に隣接するコイル導体パターンC1~C4同士は、間に挟む層間絶縁層141~143を貫通するビア導体を介して接続されている。これにより、コイル導体パターンC1~C4は、互いに接続された1つのコイルを形成している。
【0088】
コイル導体パターンC1~C4およびビア導体は、たとえばCu等の良導体で構成され、層間絶縁層141~143は、たとえば樹脂等で形成される。
【0089】
磁性体層111、112からなるコイル封入磁心117は、図2に示す上部コア15および下部コア16からなるコイル封入磁心17と同様の材質であり、閉磁路を形成する。また、磁性体層111、112からなるコイル封入磁心117は、図2に示すコイル封入磁心17と同様に、改質剤を含む。なお、磁性体層111、112に含まれる磁性粉、樹脂および改質剤は、第1実施形態に係るコイル封入磁心17に含まれる磁性粉、樹脂および改質剤と同様とすることができる。
【0090】
コイル部品102の側面に形成される一対の外部端子104は、コイル封入磁心117に封入されるコイル(コイル導体パターンC1~C4)に対して、電極層161、162を介して接続している。電極パターン161、162は、たとえばCu等で構成され、外部端子104は、たとえばNiとSnの積層膜から構成されるが、これのみには限定されない。
【0091】
第2実施形態に係るコイル部品102は、たとえば以下のようにして作成される。すなわち、所定の支持基板の上に、層間絶縁層140~144となる樹脂層と、コイル導体パターンC1~C4および電極層161、162となる導体層とを、交互に積層して形成したのち、不要部分(たとえば磁性体層112の中脚部分112aに相当する部分)の樹脂を除去する。樹脂が除去された空間に、第1実施形態で説明したコイル封入磁心17の作製時と同様の磁心組成物を埋め込んで磁性体層112を形成したのち、支持基板を除去して、さらに同様の磁心組成物を用いて、磁性体層111を形成する。
【0092】
次に、熱硬化させて磁性体層111、112に含まれる樹脂を架橋させたのち、個片に切断して電極層161、162を露出させ、電極層161、162のうえに外部端子104を形成し、図9に示すコイル部品102を得る。なお、層間絶縁層140~144は、スピンコート法による塗布や、フォトグラフィー法のよるパターニングにより形成することができる。また、コイル導体パターンC1~C4および電極層161、162となる導体層は、スパッタリングなどの薄膜法による膜形成と、電解メッキ法による膜成長により、形成することができる。
【0093】
図9に示すコイル部品102も、第1実施形態に係るコイル部品2と同様に、磁心組成物およびコイル封入磁心117に、ポリカプロラクトン構造を有する物質である改質剤が含まれるため、コイル封入磁心117における磁性粉同士の吸着を抑制することができる。これにより、コイル封入磁心117における絶縁性および初透磁率を向上させることができる。また、コイル部品102は、コイル部品2との共通部分については、コイル部品2と同様の効果を奏する。
【実施例0094】
以下、本発明を、実施例に基づき説明する。ただし、本発明は、これらの実施例のみには限定されない。
【0095】
コイル封入磁心17に含まれる改質剤の含有量がコイル封入磁心17の総量に対して0wt%、0.1wt%、0.2wt%、0.3wt%、0.4wt%、0.5wt%、0.6wt%、0.8wt%、1.0wt%、1.2wt%である10種類の試料を作成し、各試料について、初透磁率μi、絶縁破壊強さ(第電圧)、3点曲げ強度について評価を行った。改質剤としては、ポリカプロラクトン構造を有する物質(商品名BYK-LP C 22435(メーカ:BYK))を用いた。
【0096】
各試料においてコイル封入磁心17に含まれる改質剤以外の成分については共通であり、以下に示す通りである。
<磁性粉>
(1)大径粉:Fe基アモルファス粉(D50:26μm)
(2)中径粉:カルボニル鉄粉(D50:4.0μm)
(3)小径粉:Ni-Fe合金粉(Ni含有率:78重量%、D50:0.9μm、D90:1.2μm)
コイル封入磁心17において、磁性粉としては、大径粉を80%、中径粉を10%、小径粉を10%の配合比で用いた。各大径粉、中径粉、小径粉については、SiOを含むガラスからなる絶縁被膜を、被膜の膜厚が20nm以上になるように形成した。
【0097】
<樹脂>
エポキシ樹脂
【0098】
磁性粉に対してエポキシ樹脂と改質剤とを表1に示す配合比とし、さらに溶剤を加えて混合した10種類の磁心組成物を準備した。準備した磁心組成物を用いて、絶縁破壊強さ、初透磁率、三点曲げ強度をそれぞれ測定するための試料を作製した。
【表1】
【0099】
<絶縁破壊強さ>
絶縁破壊強さの試験では、上述した磁性組成物を用いて、厚み0.65mmに成形・硬化したコイル封入磁芯の試料を作製して行った。絶縁破壊強さの試験では、作製した試料の厚み方向に、2mAの直流電流が流れたときの電圧を計測し、計測した電圧をもとに、絶縁破壊強さ(V/mm)を算出した。図6は、改質剤の含有量が異なる10種類の試料について、絶縁破壊強さを測定した結果を表すグラフである。
【0100】
図6に示すように、改質剤を含む試料は、改質剤を含まない(添加量0wt%)の試料に対して、絶縁破壊強さの向上が見られる。ただし、10種類の試料の中では、改質剤の添加量が0.4wt%であるものが最も絶縁破壊強さが良好であり、改質剤の添加量が0.1~0.8wt%の試料で特性向上が顕著であり、0.2~0.6wt%の試料で特に顕著な特性向上がみられた。
【0101】
<初透磁率>
初透磁率の試験では、準備した磁心組成物を、図2に示す保護絶縁層14および内部導体通路12、13が形成された絶縁基板11に対して塗布して成形、硬化させて本体部10を作製し、本体部10の両端に幅1.3mmの外部端子4を設け、図1図4に示すコイル部品2と同様(ただし、改質剤の含有量はそれぞれ異なる)の試料を準備した。図7は、改質剤の含有量が異なる10種類の試料について、初透磁率μiを測定した結果を示すグラフである。
【0102】
図7に示すように、改質剤を含む試料は、改質剤を含まない(添加量0wt%)の試料に対して、初透磁率μiの向上が見られる。ただし、10種類の試料の中では、改質剤の添加量が0.6wt%であるものが最も初透磁率μiが良好であり、改質剤の添加量が0.2~0.8wt%の試料で特性向上が顕著であり、0.3~0.6wt%の試料で特に顕著な特性向上がみられた。
【0103】
<三点曲げ強度>
三点曲げ強度の試験では、準備した磁心組成物を用いて、幅5mm、長さ30mm、厚さ0.7mmに成形したコイル封入磁芯の試料を作製した。三点曲げ強度の試験では、オートグラフ(島津製作所製AGS-X)を使用して、改質剤の含有量が異なる各試料の室温での三点曲げ強度を測定した。測定条件は、ロードセル容量5kN、支点間距離10mm、試験速度1mm/分とした。オートグラフで測定した破断時の荷重W(N)から、次の式1で三点曲げ強度σを算出した。
σ=(3×L×W)/(2×b×h^2) (式1)
なお、式1において、Lは支点間距離、bは試料の幅、hは試料の厚さである。図8は、改質剤の含有量が異なる10種類の試料について、三点曲げ強度を測定した結果を示すグラフである。
【0104】
図8に示すように、改質剤を含む試料は、改質剤の含まない(添加量0wt%)の試料に対して、三点曲げ強度が若干低下する傾向が見られる。ただし、改質剤の添加量が0.8wt%以下である試料については、60MPa以上の値を示し、十分な三点曲げ強度を有することが確認された。
【符号の説明】
【0105】
2、102… コイル部品
4… 外部端子
4a… 内層
4b… 外層
10… 本体部
10a… 上面
10b… 下面
17… コイル封入磁心
11… 絶縁基板
12,13… 内部導体通路
12a,13a… 接続端
12b,13b… リード用コンタクト
14… 保護絶縁層
15… 上部コア
15a… 中脚部
15b… 側脚部
16… 下部コア
18… スルーホール導体
20… 磁性粉
22… 絶縁コーティング粒子
22… 絶縁コーティング
11i… スルーホール
C1~C4… コイル導体パターン
111、112… 磁性体層
117… コイル封入磁心
104、105… 外部端子
140~144… 層間絶縁層
161、162 … 電極層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9