(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022177600
(43)【公開日】2022-12-01
(54)【発明の名称】付加造形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 10/60 20210101AFI20221124BHJP
B23H 1/00 20060101ALI20221124BHJP
B23H 1/04 20060101ALI20221124BHJP
B29C 64/135 20170101ALI20221124BHJP
B29C 64/188 20170101ALI20221124BHJP
B29C 64/35 20170101ALI20221124BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20221124BHJP
B33Y 40/20 20200101ALI20221124BHJP
B29C 64/393 20170101ALI20221124BHJP
B33Y 50/02 20150101ALI20221124BHJP
B22F 10/62 20210101ALI20221124BHJP
B22F 10/64 20210101ALI20221124BHJP
F01D 25/00 20060101ALN20221124BHJP
B22F 10/28 20210101ALN20221124BHJP
B22F 10/25 20210101ALN20221124BHJP
B23K 26/34 20140101ALN20221124BHJP
B23K 26/21 20140101ALN20221124BHJP
【FI】
B22F10/60
B23H1/00 A
B23H1/04 Z
B29C64/135
B29C64/188
B29C64/35
B33Y10/00
B33Y40/20
B29C64/393
B33Y50/02
B22F10/62
B22F10/64
F01D25/00 X
B22F10/28
B22F10/25
B23K26/34
B23K26/21 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021083983
(22)【出願日】2021-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】谷川 秀次
(72)【発明者】
【氏名】畑中 雅哉
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 竜太
(72)【発明者】
【氏名】牧ヶ野 大志
(72)【発明者】
【氏名】徳武 太郎
【テーマコード(参考)】
3C059
4E168
4F213
【Fターム(参考)】
3C059AA01
3C059DA05
3C059DB02
3C059DC01
3C059DC02
3C059HA11
3C059HA13
3C059HA16
4E168BA35
4E168BA81
4E168JB04
4F213AC04
4F213AH16
4F213AP19
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL03
4F213WL13
4F213WL55
4F213WL67
4F213WL85
4F213WW02
4F213WW21
4F213WW24
4F213WW26
4F213WW31
(57)【要約】
【課題】効果的な冷却が可能な付加造形物の製造方法を提供する。
【解決手段】付加造形物の製造方法は、複数の内部通路を有する付加造形物について、前記複数の内部通路の各々の内壁面における付着物の有無を検査するステップと、前記複数の内部通路のうち、前記検査するステップで前記付着物の存在が検出された内部通路について選択的に前記付着物を除去するステップと、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の内部通路を有する付加造形物について、前記複数の内部通路の各々の内壁面における付着物の有無を検査するステップと、
前記複数の内部通路のうち、前記検査するステップで前記付着物の存在が検出された内部通路について選択的に前記付着物を除去するステップと、
を備える
付加造形物の製造方法。
【請求項2】
前記複数の内部通路の各々は、曲がり部を有する
請求項1に記載の付加造形物の製造方法。
【請求項3】
前記除去するステップでは、絶縁材で覆われた基部と、絶縁材で覆われずに露出された先端部と、を有する電極を用いて放電加工をすることにより、前記内部通路の内壁面に付着した前記付着物を除去する
請求項1又は2に記載の付加造形物の製造方法。
【請求項4】
前記基部の少なくとも一部及び前記先端部が前記内部通路に挿入された状態で放電加工をすることにより、前記内部通路の内壁面に付着した前記付着物を除去する
請求項3に記載の付加造形物の製造方法。
【請求項5】
前記電極は、変形可能な長尺電極である
請求項3又は4に記載の付加造形物の製造方法。
【請求項6】
前記電極は、付加製造で形成された電極である
請求項3乃至5の何れか一項に記載の付加造形物の製造方法。
【請求項7】
前記電極の前記先端部を含む部分は、曲がった形状を有する
請求項3乃至6の何れか一項に記載の付加造形物の製造方法。
【請求項8】
前記除去するステップでは、前記内部通路内にエッチング液を供給して化学研磨をすることにより、前記内部通路の内壁面に付着した前記付着物を除去する
請求項1又は2に記載の付加造形物の製造方法。
【請求項9】
前記内部通路内に前記エッチング液を供給した後、前記エッチング液に含まれる塩分の沸点以上の温度で前記付加造形物の熱処理をする
請求項8に記載の付加造形物の製造方法。
【請求項10】
前記付着物の最大径をDaとし、前記付着物の除去後に前記内壁面上に残る残留物の許容高さをH1としたとき、前記化学研磨による前記付着物の除去量は(Da-H1)/2以下である
請求項8又は9に記載の付加造形物の製造方法。
【請求項11】
前記検査するステップで前記付着物の存在が検出された内部通路について、放電加工による前記付着物の除去が可能か否かを判定するステップを備え、
前記判定するステップで放電加工による前記付着物の除去が可能でないと判定された場合、前記除去するステップでは、エッチング液を用いた化学研磨により、前記内部通路の内壁面に付着した付着物を除去する
請求項1又は2に記載の付加造形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、付加造形物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内部通路を有する物品を付加製造により製造することがある。
【0003】
例えば、特許文献1には、冷却媒体が流通する複数の冷却通路を有するタービン部品を積層造形法で形成することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、付加造形物の内部通路の内壁面には、例えば付加造形物の製造時に生じるスパッタ又は焼結金属粉末や、付加造形物を使用する製品の運転中に内部通路に入り込む異物(煤又は塵等)等の、意図しない付着物が付着する場合がある。内部通路に流体を供給して付加造形物の冷却を行う場合、上述の付着物による内部通路における流体特性の低下(例えば圧力損失の上昇等)及びこれによる冷却性能の低下につながるため、付着物を除去することが望ましい。
【0006】
一方、付加造形物の内部通路の内壁面に付着した付着物を除去するために、付加造形物を化学エッチング液に浸漬させて、付加造形物の表面を化学研磨する手法が採られることがある。しかし、この場合、全ての内部通路の内壁面が平滑面になり、付加製造で得られる適度な表面粗さによる良好な伝熱促進効果が損なわれる場合がある。
【0007】
上述の事情に鑑みて、本発明の少なくとも一実施形態は、効果的な冷却が可能な付加造形物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の少なくとも一実施形態に係る付加造形物の製造方法は、
複数の内部通路を有する付加造形物について、前記複数の内部通路の各々の内壁面における付着物の有無を検査するステップと、
前記複数の内部通路のうち、前記検査するステップで前記付着物の存在が検出された内部通路について選択的に前記付着物を除去するステップと、
を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、効果的な冷却が可能な付加造形物の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】一実施形態に係る付加造形物の製造方法のフローチャートである。
【
図2】付加造形物の断面の一例を示す概略図である。
【
図3】一実施形態に係る付着物除去で用いる放電加工装置の概略図である。
【
図4】放電加工で用いる電極の一例を示す図である。
【
図5】放電加工により付着物を除去する手順を説明するための図である。
【
図6A】放電加工で用いる電極の断面の一例を示す図である。
【
図6B】放電加工で用いる電極の断面の一例を示す図である。
【
図6C】放電加工で用いる電極の断面の一例を示す図である。
【
図6D】放電加工で用いる電極の断面の一例を示す図である。
【
図6E】放電加工で用いる電極の断面の一例を示す図である。
【
図7】放電加工により付着物を除去する手順を説明するための図である。
【
図8】化学研磨により付着物を除去する手順を説明するための図である。
【
図9】付加造形物の内部通路の内壁面に付着した付着物の模式図である。
【
図10】一実施形態に係る付加造形物の製造方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0012】
(付加造形物の製造方法)
図1は、一実施形態に係る付加造形物の製造方法のフローチャートである。
図1に示すように、一実施形態に係る付加造形物の製造方法は、付加製造により付加造形物を形成するステップ(S101)と、付加造形物の内部通路の内壁面に付着した付着物を除去するステップ(S102~S112)と、を含む。
【0013】
図2は、ステップS101で形成される付加造形物の断面の一例を示す概略図である。ステップS101では、付加製造により、複数の内部通路2を有する金属製の付加造形物1を形成する。付加造形物1は、使用時に高温となる機器の部品であってもよく、例えば、ガスタービン、蒸気タービン、圧縮機、ターボチャージャ、飛翔体又はロケットエンジン等の部品であってもよい。付加造形物1は、ガスタービン又は蒸気タービンのタービン翼又は分割環であってもよい。内部通路2の各々は、付加造形物1を冷却するための冷却流体を流すための通路であってもよい。
【0014】
ステップS101での付加製造の手法として、粉末床溶融結合(PBF:Powder Bed Fusion)方式(以下、PBF方式ともいう。)又は指向性エネルギー堆積(DED:Directed
Energy Deposition)方式(以下、DED方式ともいう。)を採用してもよい。
【0015】
PBF方式では、金属粉末を敷き詰める操作、及び、熱源となるレーザ又は電子ビーム等で造形する部分を選択的に溶融及び凝固させる操作を繰り返すことにより、所望の形状の造形体を成形する。
【0016】
DED方式では、金属粉末の供給と、熱源となるレーザ又は電子ビーム等の照射を同時に行い、任意の位置にて金属粉末を溶融及び凝固させて積層することで、所望の形状の造形体を成形する。
【0017】
付加製造により形成された付加造形物1の表面1a(
図2参照)、及び、内部通路2の内壁面3は、完全な平滑面ではなく、多少粗い表面を有する。内部通路2の内壁面3が適度な表面粗さを有することにより、内壁面3を介した冷却流体と付加造形物1との間の伝熱効果が高くなる。すなわち、付加造形物1の効果的な冷却の観点から、内部通路2の内壁面3は、完全な平滑面である場合に比べて、表面粗さを有する方が有利である。
【0018】
複数の内部通路2の各々は、付加造形物1の表面1aに開口する少なくとも1つの開口を有する。
図2に示す例示的な実施形態では、内部通路2は、付加造形物1の表面1aに開口する2つの開口2a,2bを有する。これらの開口2a,2bは、付加造形物1が構成する機器(ガスタービン等)の運転中に、付加造形物1の内部通路2における冷却流体の入口又は出口として機能するようになっていてもよい。
【0019】
内部通路2の等価直径(水力直径)は、5mm以下であってもよく、あるいは、0.5mm以上2mm以下であってもよい。
【0020】
複数の内部通路2の各々は、曲がり部を有していてもよい。ここで曲がり部を含む通路はとは、一直線状の通路ではなく、湾曲部又は屈曲部を含む通路であることを意味し、複数の直線状部分が湾曲部又は屈曲部を介して接続された通路を含む。なお、
図2に示す例では、複数の内部通路2は曲線形状を有する。ステップS101では、付加製造の手法を用いるので、曲がり部を含む比較的複雑な形状を有する内部通路2を有する付加造形物1を形成することができる。なお、内部通路2の各々は、通路の途中で断面形状、等価直径を変更してもよい。
【0021】
付加造形物1の内部通路2の内壁面3には、意図しない付着物50が付着する場合がある(
図2参照)。このような意図しない付着物50は、例えば、付加造形物1の製造時に生じるスパッタ又は焼結金属粉末、あるいは、付加造形物1を使用する製品(例えばガスタービン等)の運転中に内部通路2に入り込む異物(煤又は塵等)等であってもよい。
【0022】
ステップS102~S112では、付加造形物1の複数の内部通路2の各々について、内壁面3に付着物50が存在するか否かを検査し(S104)、内壁面3における付着物50の存在が検出された内部通路について選択的に付着物を除去する(S106~S108)。
【0023】
より詳しく説明すると、付加造形物1に合計N本の内部通路2が形成されている場合、まず、1本目の内部通路2について(S102)、内壁面3に付着物50が存在するか否かを検査する(S104)。ステップS104では、例えば、内部通路2にボアスコープ等のカメラを挿入して内部通路2の中を撮像することにより、あるいは、内部通路2にワイヤ等を挿入することにより、付着物50の有無を確認してもよい。また、この際に、ボアスコープ又はワイヤ等を用いて、付着物50の位置(例えば、開口2aからの深さ)を計測してもよい。
【0024】
ステップS104で内壁面に付着物50が存在することが検出された場合には(S106でYes)、内壁面3から付着物50を除去する(S110)。ステップS110では、例えば、放電加工又は化学研磨により付着物50を除去することができる(詳しくは後述する)。一方、内壁面に付着物50が存在しない場合には(S106でNo)、何もせず次のステップに進む。そして、これらの一連のステップS104~S108を、1本目の内部通路2からN本目の内部通路2まで繰り返す(S110,S112)。このようにして、付加造形物1の複数の内部通路2から付着物50が除去された付加造形物1を得ることができる。
【0025】
より具体的に、
図2に示す例では、付加造形物1に内部通路2A及び内部通路2Bが形成されている。まず、1本目の内部通路2Aについて(S102)、内壁面3に付着物50が存在するか否かを検査する(S106)。その結果、内壁面に付着物50が存在することが検出されるので(S106でYes)、この付着物50を除去する(S108)。次に、2本目の内部通路2Bについて(S110,S112)、内壁面3に付着物50が存在するか否かを検査する(S106)。その結果、内壁面に付着物50が存在することが検出されないので(S106でNo)、このフローを終了する。
【0026】
上述の方法によれば、複数の内部通路2を有する付加造形物1について、複数の内部通路2の各々の内壁面3における付着物50の有無を検査し、検査の結果、付着物50の存在が検出された内部通路2について選択的に付着物50を除去する。したがって、複数の内部通路2のうち、付着物50が存在する内部通路2については、付着物50を除去することで、内部通路2における付着物50による流体特性の低下(例えば圧力損失の上昇等)を抑制することができる。また、複数の内部通路2のうち、付着物50が存在していない内部通路2については、付着物除去の処理をしないので、付加製造により得られる内部通路の内壁面3の表面粗さによる伝熱促進効果を維持することができる。よって、上述の方法によれば、複数の内部通路2に冷却流体を供給することにより、付加造形物1の効果的な冷却が可能となる。
【0027】
図3は、一実施形態に係る付着物除去で用いる放電加工装置の概略図である。
図4は、放電加工で用いる電極の一例を示す図である。
図5は、放電加工により付着物を除去する手順を説明するための図である。
【0028】
一実施形態では、ステップS108では、絶縁材で覆われた基部24と、絶縁材で覆われずに露出された先端部22と、を有する電極20を用いて放電加工を行うことにより、付着物50を除去する。ステップS108では、例えば
図3に示す放電加工装置を用いて放電加工を行ってもよい。
図3に示す放電加工装置10は、電極20と、電極20を把持する把持部12と、電極送り部14と、直流電源16と、を備える。
【0029】
図4に示すように、放電加工で用いられる電極20は、絶縁材26(例えばワニス等)で覆われた基部24と、絶縁材で覆われずに露出された先端部22と、を有する。
図3に示すように、電極20は、付加造形物1の内部通路2に挿入可能な長尺形状のものである。電極20として、エナメル線を用いてもよい。
【0030】
電極20の直径De(等価直径)は、加工対象の付加造形物1の内部通路2の直径(等価直径)よりも小さく、例えば、0.3mm以上1.0mm以下であってもよい。また、電極20の先端部22の長さH1は、電極20の直径Deの0倍以上2倍以下の長さであってもよい。
【0031】
電極送り部14は、付加造形物1の内部通路2に対する電極20の挿入量を調整可能に構成される。電極送り部14は、例えば把持部12を動かすためのアクチュエータを含んでいてもよく、把持部12を介して電極20を動かすことで、電極20の送り量を調節するようになっていてもよい。
【0032】
直流電源16は、電極20と付加造形物1との間に直流電圧を印加するように構成される。直流電源16の一方の端子は、付加造形物1に設けられる端子18を介して付加造形物1に接続される。直流電源16の他方の端子は、把持部12に取り付けられる端子19を介して電極20に接続される。
【0033】
図5を参照して、上述の放電加工装置10を用いて付着物50を除去する手順を説明する。まず、電極送り部14を操作して、付加造形物1の内部通路2に沿って電極20を先端部22から挿入し、電極20の先端部22を、内部通路2の内壁面3上の付着物50に近付ける。電極20の先端20a(先端部22)と付着物50の距離を所定値以上(例えば0.1mm以上)に維持した状態で、直流電源16により電極20と付加造形物1との間に直流電圧を印加して、放電加工を開始して付着物50を内壁面3から除去する。
【0034】
上述の方法によれば、絶縁材26で覆われた基部24と露出された先端部22とを有する電極20を用いて放電加工を行う。したがって、内部通路2内にて電極20の先端部22を付着物50の近くに位置させることにより、電極20の基部24と内部通路2の内壁面3との間の短絡を抑制しながら、内部通路2内における付着物50が付着した部位にて局所的に放電させることができる。よって、内部通路2の他の部位に損傷を与えるリスクを低減しながら、付着物50を除去することができる。これにより、例えば、放電加工で生じた損傷により廃却せざるを得ない部品を低減することができ、コストを低減することができる。
【0035】
上述のように放電加工を行う際には、電極20の基部24の少なくとも一部及び先端部22が内部通路2に挿入された状態で放電加工をすることにより、内部通路2の内壁面3に付着した付着物50を除去するようにしてもよい。
【0036】
この場合、基部24の少なくとも一部及び先端部22が内部通路2に挿入された状態で放電加工を行う。したがって、内部通路2内にて電極20の先端部22を付着物50の近くに位置させることにより、電極20の基部24と内部通路2の内壁面3との間の短絡を抑制しながら、内部通路2内における付着物50が付着した部位にて局所的に放電させることができる。よって、内部通路2の他の部位に損傷を与えるリスクを低減しながら、付着物50を除去することができる。
【0037】
放電加工を行うための電極20は、変形可能な長尺電極であってもよい。
【0038】
このように、変形可能な長尺電極を用いることにより、内部通路2の形状に追従して電極20が変形することができる。よって、内部通路2が複雑な形状を有する場合であっても、電極20を内部通路2にスムーズに挿入して、付着物50の近くに電極20の先端部22を位置させることができる。
【0039】
放電加工を行うための電極20は、付加製造で形成されたものであってもよい。なお、電極20の材料としては、通電性の良好な金属を好適に用いることができる。電極20の材料として、例えば、銅、銅合金又はアルミ合金を用いることができる。
【0040】
付加製造により形成された付加造形物1の内部通路2は、様々な形状を有する場合がある。この点、上述のように、放電加工で用いる電極20を付加製造で形成することにより、内部通路2に対応した形状の電極20を作製することができる。よって、このように作成した電極20を内部通路2に挿入することで、付着物50の近くに電極20の先端部22をスムーズに位置させることができる。
【0041】
図6A~
図6Eは、それぞれ、放電加工を行うための電極20の断面の一例を示す図である。
図6A~
図6Eに示す電極20の断面形状は、それぞれ、円形、矩形、台形、三角形、家形である。しかしながら電極20の断面形状はこれらの例に限られず、付加造形物1の内部通路2の形状に応じた形状の電極20を作製することができる。
【0042】
図7は、放電加工により付着物50を除去する手順を説明するための図である。
図7に示すように、放電加工を行うための電極20の先端部22を含む部分28は、曲がった形状を有する。例えば、当該部分28における電極20の中心線の曲率半径は、基部24における電極20の曲率半径よりも小さい。
【0043】
内部通路2の直径に比べて電極20の直径が比較的大きい場合や、内部通路2の曲線部の曲率半径が小さい場合等には、内部通路2に電極20を挿入したときに電極20が曲がり切れず、電極20の先端部22が付着物50の位置に届きにくいことが考えられる。この点、上述のように、電極20の先端部22を含む部分が曲がった形状を有するので、電極20の基部24が大きく曲がらなくても、電極20の先端部22が付着物50の位置に届くようにできる。
【0044】
図8は、化学研磨により付着物50を除去する手順を説明するための図である。一実施形態では、ステップS108では、付加造形物1の内部通路2内にエッチング液を供給して化学研磨をすることにより、内部通路2の内壁面3に付着した付着物50を除去する。
【0045】
化学研磨により付着物50を除去する際には、まず、付加造形物1の内部通路2の開口2aの部分にチューブ30の一端を挿入する。そして、チューブ30の他端からエッチング液を流し込み、該チューブ30を介して内部通路2の中にエッチング液を供給する。このようにして、エッチング液により、付着物50を溶解させて除去する。なお、エッチング液の温度は、化学研磨に適した温度に調節される。
【0046】
エッチング液としては、酸、アルカリ、および塩を成分に含むものを用いることができる。エッチング液の成分と内部通路2の内壁面3又は付着物50との酸化還元反応により、内壁面3又は付着物50の表面部分が溶解されることで、付着物50が除去される、又は、付着物50のサイズが小さくなる。付加製造物1の材料がNi基超合金又はCo基超合金の場合、エッチング液として、塩化第二鉄を主成分として含むものを用いることができる。
【0047】
上述の方法によれば、複数の内部通路2のうち、付着物50の存在が検出された内部通路2について選択的にエッチング液を供給することで、該内部通路2の内壁面3に付着した付着物50を確実に除去することができる。
【0048】
幾つかの実施形態では、内部通路2内へのエッチング液の供給を終えた後、エッチング液に含まれる塩分の沸点以上の温度で付加造形物1の熱処理をしてもよい。なお、エッチング液による処理後、熱処理の前に、内部通路2を水又は湯で洗浄する手順を行ってもよい。
【0049】
エッチング液として塩化第二鉄を主成分として含むものを使用する場合、エッチングでの化学反応により塩化第二鉄の一部は塩化第一鉄に変化する。塩化第二鉄の沸点は約306℃であり、塩化第一鉄の沸点は約1020℃である。したがって、このエッチング液を用いる場合、エッチング処理後の熱処理の温度は、塩化第一鉄の沸点である1020℃以上の温度で行ってもよい。
【0050】
上述の方法によれば、エッチング液を用いた化学研磨処理の後、該エッチング液に含まれる塩分の沸点以上の温度で付加造形物1の熱処理をするようにしたので、化学研磨処理の後に残留した塩分を効果的に除去することができる。これにより、付加造形物1の腐食リスクを低減することができる。
【0051】
図9は、付加造形物1の内部通路2の内壁面3に付着した付着物50の模式図である。
幾つかの実施形態では、付着物50の最大径をDaとし、付着物50の除去後に内壁面3上に残る残留物の許容高さをH1としたとき、化学研磨による付着物50の除去量は(Da-H1)/2以下である。ここで、付着物50の除去量とは、内壁面3を基準とする高さ方向における付着物50の除去量である。
【0052】
上述の方法によれば、化学研磨による付着物50の除去量を(Da-H1)/2以下としたので、化学研磨にかかる時間の増大を抑制しながら、あるいは、内部通路2の内壁面3の減肉量の増大を抑制しながら、内部通路2に付着した付着物50を十分に除去することができる。
【0053】
図10は、一実施形態に係る付加造形物の製造方法のフローチャートである。
図10に示すフローチャートは、
図1に示すフローチャートと基本的に同じであり、同一の手順を行うステップについては同一の符号を付して説明を省略する。
図10に示すフローチャートでは、付着物50を除去する際に放電加工又は化学研磨のどちらを行うかを選定するためのステップS207を含む点で、
図1に示すフローチャートと異なる。
【0054】
図10に示すフローチャートに係る方法では、ステップS104~S106で、内部通路2の内壁面に付着物50があることが検出された場合に(S106でYes)、放電加工で用いる電極20の先端部が、内部通路2内の付着物50に到達可能であるか否かを判定する(S107)。ステップS107では、内部通路2の形状に基づき、あるいは、内部通路2に放電加工で用いる電極20を挿入することで、内部通路2内の付着物50に到達可能であるか否かを判定してもよい。
【0055】
ステップS107での判定の結果、放電加工で用いる電極20の先端部が内部通路2内の付着物50に到達可能である場合には(S107でYes)、放電加工により、内部通路2内の付着物50を除去する(S108A)。ステップS107での判定の結果、放電加工で用いる電極20の先端部が内部通路2内の付着物50に到達可能でない場合には(S107でNo)、化学研磨により、内部通路2内の付着物50を除去する(S108B)。
【0056】
放電加工の場合、化学研磨に比べて局所的な処理を行うことで付着物50を除去するため、内部通路2の内壁面3の表面粗さを維持しやすい。この点、上述の方法によれば、放電加工による付着物50の除去が可能な場合には放電加工により、放電加工による付着物50の除去が可能でない場合には化学研磨により付着物50を除去する。したがって、付加製造により得られる内部通路2の内壁面3の表面粗さをできるだけ維持しながら、付着物50を除去することができる。よって、付加造形物1の効果的な冷却が可能となる。
【0057】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0058】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係る付加造形物の製造方法は、
複数の内部通路(2)を有する付加造形物(1)について、前記複数の内部通路の各々の内壁面(3)における付着物(50)の有無を検査するステップ(S102)と、
前記複数の内部通路のうち、前記検査するステップで前記付着物の存在が検出された内部通路について選択的に前記付着物を除去するステップ(S106~S108)と、
を備える。
【0059】
上記(1)の方法によれば、複数の内部通路を有する付加造形物について、複数の内部通路の各々の内壁面における付着物の有無を検査し、検査の結果、付着物の存在が検出された内部通路について選択的に付着物を除去する。したがって、複数の内部通路のうち、付着物が存在する内部通路については、付着物を除去することで、内部通路における付着物による流体特性の低下(例えば圧力損失の上昇等)を抑制することができる。また、複数の内部通路のうち、付着物が存在していない内部通路については、付着物除去の処理をしないので、付加製造により得られる内部通路の内壁面の表面粗さによる伝熱促進効果を維持することができる。よって、上記(1)の方法によれば、複数の内部通路に冷却流体を供給することにより、付加造形物の効果的な冷却が可能となる。
【0060】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)の方法において、
前記複数の内部通路の各々は、曲がり部を有する。
【0061】
付加製造では、曲がり部を含む比較的複雑な形状の内部通路を含む付加造形物を形成することができる。上記(2)の方法によれば、曲がり部を含む比較的複雑な形状の内部通路を含む付加造形物について、複数の内部通路の各々の内壁面における付着物の有無を検査し、検査の結果、付着物の存在が検出された内部通路について選択的に付着物を除去する。したがって、上記(1)で述べたように、複数の内部通路に冷却流体を供給することにより、付加造形物の効果的な冷却が可能となる。
【0062】
(3)幾つかの実施形態では、上記(1)又は(2)の方法において、
前記除去するステップでは、絶縁材(26)で覆われた基部(24)と、絶縁材で覆われずに露出された先端部(22)と、を有する電極(20)を用いて放電加工をすることにより、前記内部通路の内壁面に付着した前記付着物を除去する。
【0063】
上記(3)の方法によれば、絶縁材で覆われた基部と露出された先端部とを有する電極を用いて放電加工を行う。したがって、内部通路内にて電極の先端部を付着物の近くに位置させることにより、電極の基部と内部通路の内壁面との間の短絡を抑制しながら、内部通路内における付着物が付着した部位にて局所的に放電させることができる。よって、内部通路の他の部位に損傷を与えるリスクを低減しながら、付着物を除去することができる。
【0064】
(4)幾つかの実施形態では、上記(3)の構成において、
前記基部の少なくとも一部及び前記先端部が前記内部通路に挿入された状態で放電加工をすることにより、前記内部通路の内壁面に付着した前記付着物を除去する。
【0065】
上記(4)の構成によれば、基部の少なくとも一部及び先端部が内部通路に挿入された状態で放電加工を行う。したがって、内部通路内にて電極の先端部を付着物の近くに位置させることにより、電極の基部と内部通路の内壁面との間の短絡を抑制しながら、内部通路内における付着物が付着した部位にて局所的に放電させることができる。よって、内部通路の他の部位に損傷を与えるリスクを低減しながら、付着物を除去することができる。
【0066】
(5)幾つかの実施形態では、上記(3)又は(4)の方法において、
前記電極は、変形可能な長尺電極である。
【0067】
上記(5)の方法によれば、変形可能な長尺電極を用いるので、内部通路の形状に追従して電極が変形することができる。よって、内部通路が複雑な形状を有する場合であっても、電極を内部通路にスムーズに挿入して、付着物の近くに電極の先端部を位置させることができる。
【0068】
(6)幾つかの実施形態では、上記(3)乃至(5)の何れかの方法において、
前記電極は、付加製造で形成された電極である。
【0069】
付加製造により形成された付加造形物の内部通路は、様々な形状を有する場合がある。 この点、上記(6)の方法によれば、放電加工で用いる電極は付加製造で形成される。したがって、内部通路に対応した形状の電極を付加製造で作製することにより、該電極を内部通路に挿入することで、付着物の近くに電極の先端部を位置させることができる。
【0070】
(7)幾つかの実施形態では、上記(3)乃至(6)の何れかの方法において、
前記電極の前記先端部を含む部分(28)、曲がった形状を有する。
【0071】
内部通路の直径に比べて電極の直径が比較的小さい場合や、内部通路の曲線部の曲率半径が小さい場合等には、内部通路に電極を挿入したときに電極が曲がり切れず、電極の先端部が付着物の位置に届きにくいことが考えられる。上記(7)の方法によれば、電極の先端部が曲がった形状を有するので、電極の基部が大きく曲がらなくても、電極の先端部が付着物の位置に届くようにできる。
【0072】
(8)幾つかの実施形態では、上記(1)又は(2)の方法において、
前記除去するステップでは、前記内部通路内にエッチング液を供給して化学研磨をすることにより、前記内部通路の内壁面に付着した前記付着物を除去する。
【0073】
上記(8)の方法によれば、複数の内部通路のうち、付着物の存在が検出された内部通路について選択的にエッチング液を供給することで、該内部通路の内壁面に付着した付着物を確実に除去することができる。
【0074】
(9)幾つかの実施形態では、上記(8)の方法において、
前記内部通路内に前記エッチング液を供給した後、前記エッチング液に含まれる塩分の沸点以上の温度で前記付加造形物の熱処理をする。
【0075】
上記(9)の方法によれば、エッチング液を用いた化学研磨処理の後、該エッチング液に含まれる塩分の沸点以上の温度で付加造形物の熱処理をするようにしたので、化学研磨処理の後に残留した塩分を効果的に除去することができる。これにより、付加造形物の腐食リスクを低減することができる。
【0076】
(10)幾つかの実施形態では、上記(8)又は(9)の方法において、
前記付着物の最大径をDaとし、前記付着物の除去後に前記内壁面上に残る残留物の許容高さをH1としたとき、前記化学研磨による前記付着物の除去量は(Da-H1)/2以下である。
【0077】
上記(10)の方法によれば、化学研磨による付着物の除去量を(Da-H1)/2以下としたので、化学研磨にかかる時間の増大を抑制しながら、あるいは、内部通路の内壁面の減肉量の増大を抑制しながら、内部通路に付着した付着物を十分に除去することができる。
【0078】
(11)幾つかの実施形態では、上記(1)又は(2)の方法において、
前記検査するステップで前記付着物の存在が検出された内部通路について、放電加工による前記付着物の除去が可能か否かを判定するステップ(S107)を備え、
前記判定するステップで放電加工による前記付着物の除去が可能でないと判定された場合、前記除去するステップでは、エッチング液を用いた化学研磨により、前記内部通路の内壁面に付着した付着物を除去する。
【0079】
上記(11)の方法によれば、放電加工による付着物の除去が可能な場合には放電加工により、放電加工による付着物の除去が可能でない場合には化学研磨により、付着物を除去する。したがって、付加製造により得られる内部通路の内壁面の表面粗さをできるだけ維持しながら、付着物を除去することができる。よって、付加造形物の効果的な冷却が可能となる。
【0080】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
【0081】
本明細書において、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
また、本明細書において、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
また、本明細書において、一の構成要素を「備える」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【符号の説明】
【0082】
1 付加造形物
1a 表面
2 内部通路
2A 内部通路
2B 内部通路
2a 開口
2b 開口
3 内壁面
5a 開口
10 放電加工装置
12 把持部
14 電極送り部
16 直流電源
18 端子
19 端子
20 電極
20a 先端
22 先端部
24 基部
26 絶縁材
28 部分
30 チューブ
50 付着物