(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022177620
(43)【公開日】2022-12-01
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 11/03 20060101AFI20221124BHJP
B60C 5/00 20060101ALI20221124BHJP
B60C 11/13 20060101ALI20221124BHJP
【FI】
B60C11/03 E
B60C5/00 H
B60C11/13 B
B60C11/13 C
B60C11/03 C
B60C11/03 300A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021084018
(22)【出願日】2021-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100096714
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124121
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 由美子
(74)【代理人】
【識別番号】100176566
【弁理士】
【氏名又は名称】渡耒 巧
(74)【代理人】
【識別番号】100180253
【弁理士】
【氏名又は名称】大田黒 隆
(72)【発明者】
【氏名】山下 記正
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131BB06
3D131BC12
3D131BC20
3D131CB07
3D131EB03U
3D131EB07U
3D131EB24V
3D131EB24X
3D131EB33U
3D131EB43V
3D131EB48U
3D131EC02V
3D131EC02X
(57)【要約】
【課題】オンロード用の駆動輪として用いられる空気入りタイヤにおいて、トラクション性能を損なうことなく排水性を向上させる技術を提供する。
【解決手段】トレッド踏面部に、複数の幅方向溝11,12を含む方向性パターンが設けられてなり、駆動輪として使用される空気入りタイヤ100である。トレッド部1のタイヤ幅方向の断面において、タイヤ赤道CLからトレッド接地端TEまでのタイヤ表面に沿って測ったトレッド半幅領域を2等分したそれぞれの領域を、タイヤ赤道側からトレッドセンター部Tcおよびトレッドショルダー部Tsとしたとき、複数の幅方向溝11,12が、トレッドセンター部Tcを横切って延在するとともに、タイヤ回転方向に向かって突出する凸形状を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド踏面部に、複数の幅方向溝を含む方向性パターンが設けられてなり、駆動輪として使用される空気入りタイヤであって、
トレッド部のタイヤ幅方向の断面において、タイヤ赤道からトレッド接地端までのタイヤ表面に沿って測ったトレッド半幅領域を2等分したそれぞれの領域を、タイヤ赤道側からトレッドセンター部およびトレッドショルダー部としたとき、
前記複数の幅方向溝が、前記トレッドセンター部を横切って延在するとともに、タイヤ回転方向に向かって突出する凸形状を有することを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
接地面内に、前記幅方向溝が2~6本含まれる請求項1記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記幅方向溝の、タイヤ赤道上で測った溝幅の平均値Wgが、4mm以上13mm以下である請求項1または2記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記幅方向溝の、踏み込み側における溝壁と溝底との境界部の曲率半径rと、最大溝深さDwとの比r/Dwが、15%以上である請求項1~3のうちいずれか一項記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
トレッド踏面部に、前記複数の幅方向溝の間を連通させる複数の周方向溝が設けられてなり、一対の該幅方向溝の間に設けられた複数の該周方向溝のうち、タイヤ赤道に最も近い周方向溝をセンター部周方向溝とし、他の周方向溝をショルダー部周方向溝としたとき、該ショルダー部周方向溝の最大溝深さDsと、該センター部周方向溝の最大溝深さDcとの比Ds/Dcが、0.1~0.6を満足する請求項1~4のうちいずれか一項記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記トレッド踏面部に複数のブロックが画成されてなり、該複数のブロックのうちタイヤ赤道上に位置するセンターブロックの、タイヤ赤道上で測ったタイヤ周方向長さの平均値Lcと、前記幅方向溝の、タイヤ赤道上で測った溝幅の平均値Wgとの比Lc/Wgが、500%以下である請求項1~5のうちいずれか一項記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記複数の幅方向溝の凸形状が、1または2以上の円弧からなる形状である請求項1~6のうちいずれか一項記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤ(以下、単に「タイヤ」とも称する)に関し、詳しくは、トレッド踏面部に設けられたトレッドパターンの改良に係る空気入りタイヤ、特には、駆動輪である二輪車用または三輪車用の空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、空気入りタイヤのトレッド踏面部には、用途に応じた走行性能を確保するために、複数の溝部や陸部からなるトレッドパターンが形成されている。特に、主として非舗装路面での走行が想定されるオフロード用自動二輪車の駆動輪として用いられるタイヤにおいては、軟土質路面におけるトラクション性能を得るために、タイヤ赤道上に配置される幅方向溝が、タイヤ回転方向とは逆方向に向かって凸となるような形状を呈する、方向性を有するブロックパターンが汎用されている。
【0003】
このようなブロックパターンに係る先行技術としては、例えば、特許文献1に、タイヤのトレッド踏面のうちセンター部に、複数の幅方向溝及び複数の周方向溝によって区画された陸部を有する、回転方向が指定される自動二輪車用タイヤにおいて、陸部の少なくとも1つが所定の条件を満足する形状を有するものとした自動二輪車用タイヤが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2020/031641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されているように、通常、駆動輪のトレッドパターンにおいて、タイヤ赤道上に配置される幅方向溝の形状は、タイヤ回転方向とは逆方向に向かって凸となるような形状とすることが一般的である。
【0006】
一方で、舗装路面での走行が想定されるオンロード用の駆動輪として用いられるタイヤにおいては、オフロード用の場合のような高いネガティブ比のパターンでは十分なトラクションが確保できないため、溝の割合を減らしつつ、排水性を確保することが必要となる。
【0007】
しかしながら、オンロード用の駆動輪として用いられるタイヤにおいて、単に溝の割合を減らしつつ、特許文献1に記載されているような従来一般的な方向性を有する凸形状の幅方向溝を設けた場合、舗装路面における排水性およびトラクション性を得ることができなかった。特に、オフロード用の二輪車用タイヤでは課題とはならない排水性を、十分には得ることができなかった。
【0008】
そこで本発明の目的は、トレッドパターンを改良することにより、オンロード用の駆動輪として用いられる空気入りタイヤにおいて、トラクション性能を損なうことなく排水性を向上させる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は鋭意検討した結果、タイヤ赤道上に配置される幅方向溝を、従来一般的なタイヤとは異なり、タイヤ回転方向に向かって凸となるような形状とすることで、オンロード用の駆動輪として適切なトラクション性能を確保しつつ、排水性を向上させたタイヤが得られることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、トレッド踏面部に、複数の幅方向溝を含む方向性パターンが設けられてなり、駆動輪として使用される空気入りタイヤであって、
トレッド部のタイヤ幅方向の断面において、タイヤ赤道からトレッド接地端までのタイヤ表面に沿って測ったトレッド半幅領域を2等分したそれぞれの領域を、タイヤ赤道側からトレッドセンター部およびトレッドショルダー部としたとき、
前記複数の幅方向溝が、前記トレッドセンター部を横切って延在するとともに、タイヤ回転方向に向かって突出する凸形状を有することを特徴とするものである。
【0011】
本発明のタイヤにおいては、接地面内に、前記幅方向溝が2~6本含まれることが好ましい。また、本発明のタイヤにおいては、前記幅方向溝の、タイヤ赤道上で測った溝幅の平均値Wgが、好適には4mm以上13mm以下である。さらに、本発明のタイヤにおいては、前記幅方向溝の、踏み込み側における溝壁と溝底との境界部の曲率半径rと、最大溝深さDwとの比r/Dwが、15%以上であることが好ましい。
【0012】
さらにまた、本発明のタイヤにおいては、トレッド踏面部に、前記複数の幅方向溝の間を連通させる複数の周方向溝が設けられてなり、一対の該幅方向溝の間に設けられた複数の該周方向溝のうち、タイヤ赤道に最も近い周方向溝をセンター部周方向溝とし、他の周方向溝をショルダー部周方向溝としたとき、該ショルダー部周方向溝の最大溝深さDsと、該センター部周方向溝の最大溝深さDcとの比Ds/Dcが、0.1~0.6を満足することが好ましい。
【0013】
さらにまた、本発明のタイヤにおいては、前記トレッド踏面部に複数のブロックが画成されてなり、該複数のブロックのうちタイヤ赤道上に位置するセンターブロックの、タイヤ赤道上で測ったタイヤ周方向長さの平均値Lcと、前記幅方向溝の、タイヤ赤道上で測った溝幅の平均値Wgとの比Lc/Wgが、500%以下であることが好ましい。
【0014】
さらにまた、本発明のタイヤにおいては、前記複数の幅方向溝の凸形状を、1または2以上の円弧からなる形状とすることができる。
【0015】
ここで、本発明においてタイヤの諸寸法は、特に断りのない限り、タイヤが生産され、使用される地域において有効な産業規格で規定されたリムにタイヤを組み付け、かかる産業規格において規定された内圧を充填した無負荷状態で測定した値をいうものとする。また、上記産業規格とは、例えば、日本ではJATMA(日本自動車タイヤ協会) YEAR BOOKであり、欧州ではETRTO(European Tyre and Rim Technical Organisation) STANDARD MANUALであり、米国ではTRA(THE TIRE and RIM ASSOCIATION INC.) YEAR BOOKである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、上記構成としたことにより、オンロード用の駆動輪として用いられる空気入りタイヤにおいて、トラクション性能を損なうことなく排水性を向上させることが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の空気入りタイヤの一例である二輪車用タイヤのトレッド踏面部を示す部分展開図である。
【
図2】
図1中のY-Y線に沿う二輪車用タイヤの幅方向断面図である。
【
図3】
図1に示す二輪車用タイヤのトレッド踏面部を示す正面図である。
【
図4】
図1中のX1-X2線に沿う幅方向溝の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0019】
図1に、本発明の空気入りタイヤの一例である二輪車用タイヤのトレッド踏面部の部分展開図を示す。
図2に、
図1中のY-Y線に沿う二輪車用タイヤの幅方向断面図を示す。
図3に、
図1に示す二輪車用タイヤのトレッド踏面部の正面図を示す。
図4に、
図1中のX1-X2線に沿う幅方向溝の断面図を示す。また、
図1および
図3中の矢印はタイヤ回転方向を示し、
図3中の点線で囲まれた斜線領域は、接地面を示す。
【0020】
図示するように、本発明の空気入りタイヤ100は、接地部を形成するトレッド部1と、その両端からタイヤ半径方向内側にそれぞれ延びる一対のサイドウォール部2およびビード部3と、を有している。また、本発明の空気入りタイヤ100は、トレッド踏面部に、複数の幅方向溝11,12を含む方向性パターンが設けられ、駆動輪として使用されるタイヤである。
【0021】
本発明においては、トレッド部1のタイヤ幅方向の断面において、タイヤ赤道CLからトレッド接地端TEまでのタイヤ表面に沿って測ったトレッド半幅領域を2等分したそれぞれの領域を、タイヤ赤道CL側からトレッドセンター部Tcおよびトレッドショルダー部Tsとする。すなわち、タイヤ表面に沿って測ったトレッド接地端TE間の距離をトレッド幅TWとしたとき、トレッドセンター部Tcは、タイヤ赤道CLを中心とするトレッド幅TWの1/2の領域であり、トレッドショルダー部Tsは、トレッドセンター部Tcのタイヤ幅方向外側に位置する、片側がトレッド幅TWの1/4である一対の領域である。
【0022】
図1に示すように、本発明のタイヤにおいては、トレッド踏面部に設けられた複数の幅方向溝11,12が、タイヤ赤道CLを中心とするトレッド幅TWの1/2の領域であるトレッドセンター部Tcを横切って延在するとともに、タイヤ表面上で、タイヤ回転方向に向かって突出する凸形状を有している。
【0023】
本発明によれば、トレッドセンター部Tcを横切って延在する幅方向溝11,12を、タイヤ回転方向に向かって突出する凸形状としたことで、オンロード用として要求される舗装路面における排水性、特には、車体を傾けて走行する際の排水性についても満足できるウェット性能に優れたタイヤを得ることが可能となった。一方で、本発明のタイヤにおいては、駆動輪として要求されるトラクション性能についても確保することができるものである。
【0024】
前述したように、駆動輪となるオフロード用タイヤにおいては従来一般的に、軟土質路面でのトラクション性能を優先させるために、タイヤ赤道上に幅方向溝を配置する場合、タイヤ回転方向とは逆方向に向かって凸となるような形状としていたが、本発明者は検討の結果、これとは逆方向の凸形状とすることで、排水性とトラクション性能とを両立させたタイヤが得られることを見出したものである。これに対し、駆動されないタイヤの場合、トラクション性能は要求されないので、タイヤ赤道上に配置される幅方向溝を、タイヤ回転方向に向かって凸となるように配置することが一般的であるが、本発明におけるように、駆動輪となるタイヤにおいてこのような方向性の幅方向溝を採用することは、当業界ではこれまで行われていなかった。
【0025】
例えば、本発明の空気入りタイヤの一例としての自動二輪車用タイヤの場合、フロントタイヤは駆動されず、リアタイヤが駆動輪となるので、本発明のタイヤはリアタイヤとして使用されることが好ましい。
【0026】
また、図示する本発明の空気入りタイヤ100は、トレッド踏面部において、複数の幅方向溝11,12および複数の周方向溝21,22,23により複数のブロック31,32が画成された、いわゆるブロックパターンを有するものであるが、前述したようにブロックパターンは一般にオフロード用のタイヤで用いられるものであり、舗装路面での走行が想定されたオンロード用のタイヤにおいて、ブロックパターンを採用する例は多くない。
【0027】
本発明の空気入りタイヤ100において、幅方向溝11,12の配置条件としては、トレッドセンター部Tcを横切って延在するとともに、タイヤ回転方向に向かって突出する凸形状を有するものであれば、特に制限されるものではない。
【0028】
例えば、幅方向溝11,12の形状としては、凸形状が、1または2以上の円弧からなる形状であるものとすることができ、直線状の部分を有していてもよい。幅方向溝11,12の形状が1つの円弧からなるものである場合、タイヤ赤道CLを基準とした幅方向溝11,12の曲率半径Rは、80mm以上400mm以下であることが好ましく、120mm以上370mm以下であることがより好ましい。曲率半径Rを上記範囲内とすることで、凸形状の頂点における溝底の応力集中を抑制して、クラックの発生等を抑制し、耐久性を確保することができるとともに、蹴り出し側と踏み込み側との摩耗に差が生ずることを抑制して、偏摩耗の誘発を抑制することができる。なお、図示する例において、幅方向溝11,12は、タイヤ回転方向後方側に曲率中心を有する円弧状に形成されている。
【0029】
また、幅方向溝11,12のタイヤ幅方向長さとしては、トレッド幅TWの1/2以上で設けることが必要であるが、好適には幅方向溝11,12は、図示するように、トレッドセンター部Tcを横切ってトレッドショルダー部Tsまで延び、トレッド接地端TEまたはその近傍で終端するように設けるものとする。幅方向溝11,12が、タイヤ幅方向両側においてトレッド接地端TEまたはその近傍までにわたり延在するものとすることで、特に、二輪車用タイヤの場合に、車体を傾けて走行する際の排水性を、より良好に確保することができる。
【0030】
さらに、幅方向溝11,12の溝幅としては、タイヤ赤道CL上で測った溝幅の平均値Wgで、4mm以上13mm以下であることが好ましく、5mm以上11mm以下であることがより好ましい。幅方向溝11,12の溝幅を上記範囲内とすることで、排水性とトラクション性能とをより良好に両立させることができるので、好ましい。ここで、本発明において溝幅とは、その溝の延在方向に対して垂直な断面における開口部の最大幅を意味する。なお、幅方向溝11,12の最大溝深さは、排水性とトラクション性能との両立の観点から、0.6mm以上12mm以下とすることができる。
【0031】
ここで、幅方向溝11,12の溝幅Wgについては、さらに、トレッド踏面部に配置された複数のブロック31,32のうちタイヤ赤道CL上に位置するセンターブロック31の、タイヤ赤道CL上で測ったタイヤ周方向長さの平均値Lcと、溝幅Wgとの比をLc/Wgとしたとき、比Lc/Wgの値が、百分率で示して500%以下であることが好ましい。幅方向溝11,12の溝幅Wgに対するセンターブロック31の周方向長さの比率が上記範囲を満足するものとすることで、本発明のタイヤが二輪車用タイヤである場合に、オンロードにおける直進安定性を向上させる効果が得られるので、好ましい。上記比Lc/Wgの値は、250~460%とすることがより好ましい。
【0032】
さらにまた、幅方向溝11,12は、
図3に示すように、タイヤの接地面F内に2~6本、特には、3~5本にて含まれるよう配置されていることが好ましく、これにより、排水性と剛性とを良好にバランスさせることができる。ここで、接地面とは、タイヤをリムに組み付け、前述した産業規格における規定内圧を充填して規定荷重を負荷した際におけるタイヤの接地面を意味する。特に、本発明のタイヤが二輪車用タイヤまたは三輪車用タイヤである場合には、直進走行時における接地面を意味する。
【0033】
さらにまた、
図4の断面図に示すように、本発明においては、幅方向溝11の、踏み込み側X1における溝壁11Wと溝底11Bとの境界部の曲率半径rと、最大溝深さDwとの比をr/Dwとしたとき、比r/Dwの値が、百分率で示して15%以上であることが好ましい。幅方向溝11の最大溝深さDwに対する上記曲率半径rの比率を、上記範囲としたことで、走行時にトラクションがかかった際に踏み込み側X1において生ずる、当該境界部に対する応力集中を抑制することができ、ブロックの耐久性を高めることができる。上記比r/Dwの値は、20~300%とすることがより好ましい。なお、蹴り出し側X2については、踏み込み側X1におけるような応力集中は生じないので、上記のような条件は必要としない。ここでは幅方向溝11について説明したが、幅方向溝12についても同様である。踏み込み側X1における上記曲率半径rの値は、具体的には例えば、3mm以上8mm以下とすることができる。
【0034】
また、本発明においては、
図1に示すように、トレッド踏面部に、複数の周方向溝21~23が、複数の幅方向溝11,12の間を連通させるように設けられている。本発明においては、幅方向溝11,12により排水性が確保されるため、周方向溝21~23の配置条件については特に制限されるものではない。
【0035】
本発明においては、好適には、一対の幅方向溝11,12の間に設けられた複数の周方向溝、図示する例では3本の周方向溝21~23のうち、タイヤ赤道CLに最も近い周方向溝21をセンター部周方向溝とし、他の周方向溝22,23をショルダー部周方向溝としたとき、ショルダー部周方向溝22,23の最大溝深さDsと、センター部周方向溝21の最大溝深さDcとの比Ds/Dcが、0.1~0.6を満足するものとする。すなわち、タイヤ赤道CLに最も近いセンター部周方向溝21の溝深さを最も大きくして、それ以外のショルダー部周方向溝22,23の溝深さを、上記範囲で小さく設定することが好ましい。これにより、剛性を適切に確保して、操縦安定性を向上させることができる。上記比Ds/Dcの値は、0.2~0.5とすることがより好ましい。
【0036】
ここで、図示するように、ショルダー部周方向溝22,23を複数で設ける場合には、上記最大溝深さDsは、複数のショルダー部周方向溝22,23の最大溝深さの平均値とする。また、ショルダー部周方向溝22,23の具体的条件としては、溝幅は、好適には4mm以上13mm以下とすることができ、最大溝深さは、好適には0.6mm以上12mm以下とすることができる。さらに、ショルダー部周方向溝22,23の、タイヤ周方向に対する角度は、-45°以上45°以下とすることができる。なお、本発明においては、ショルダー部周方向溝の本数についても、特に制限はない。
【0037】
本発明においては、複数の幅方向溝11,12と複数の周方向溝21~23とにより画成される複数のブロック31,32の配置条件についても、特に制限されるものではない。例えば、本発明において、ブロック31,32のタイヤ周方向長さは、26mm以上41mm以下とすることができる。また、ブロック31,32のタイヤ幅方向長さについては、15mm以上44mm以下とすることができる。ここで、上記タイヤ周方向長さおよびタイヤ幅方向長さは、いずれも各ブロックにおける最大値を意味する。
【0038】
また、図示するパターンにおいては、ブロック31,32のタイヤ幅方向外側に、幅方向溝11,12と周方向溝22,23とにより区画されたショルダー陸部33が設けられているが、本発明においては、このショルダー陸部33の形状等についても、特に制限はない。
【0039】
なお、図示するように、本発明においては実質的に、複数の幅方向溝11,12および複数の周方向溝21~23により形成されるパターンが、タイヤ赤道CLに対して対称な形状で、タイヤ周方向に繰り返し、配置ピッチの1/2だけずらして配設されている。ここで、本発明においてパターンの配置ピッチとは、タイヤトレッドに設けられた溝によって形成される模様の、タイヤ周方向における繰り返しの一単位を意味する。
【0040】
本発明の空気入りタイヤ100においては、ネガティブ比が、70%未満であることが好ましく、10~60%の範囲内であることがより好ましく、20~50%の範囲内であることが特に好ましい。ネガティブ比を上記範囲とすることで、踏面部の排水性を良好に確保しつつ、操縦安定性および乗り心地を良好に維持することができる。ここで、ネガティブ比とは、溝がないと仮定したトレッド表面の面積に対する溝の面積の割合であり、トレッド踏面部の面積に占める、サイプを除いた溝部の割合を意味する。
【0041】
本発明の空気入りタイヤ100においては、トレッド踏面部におけるトレッドパターンについて上記条件を満足するものであればよく、それ以外のタイヤ構造や使用材料の詳細などについては特に制限されないが、例えば、以下のように構成することができる。
【0042】
図示する空気入りタイヤ100は、一対のビード部3間にまたがってトロイド状に延在する2枚のカーカスプライ4を骨格とする。本発明において、カーカスプライ4は、比較的高弾性のテキスタイルコードを互いに平行に配列させて形成され、その枚数は、少なくとも1枚であればよく、3枚以上であってもよい。また、カーカスプライ4の両端部は、ビード部3において、図示するようにビードコア5の周りにタイヤ内側から外側に折り返して係止しても、または、両側からビードワイヤで挟み込んで係止してもよく、いずれの固定方法を用いてもよい。
【0043】
図示する空気入りタイヤ100において、トレッド部1におけるカーカスプライ4のタイヤ半径方向外側には、2層のベルト層6が配置されている。本発明において、ベルト層6は、少なくとも1層で配置することができ、コード方向が層間で互いに交錯するように配置された2層以上の傾斜ベルト層からなるものであっても、また、タイヤ周方向に螺旋状に巻回されたゴム被覆コードからなる1層以上のスパイラルベルトであってもよい。また、ベルト層6を構成する補強材としては、ナイロン繊維、芳香族ポリアミド(商品名:ケブラー)、スチール等が挙げられる。中でも、芳香族ポリアミドやスチールは、高温時においても伸長せずにトレッド部分の膨張を抑制することができる補強材である。
【0044】
また、本発明の空気入りタイヤ100において、ビードコア5のタイヤ半径方向外側にはビードフィラー7を配置することができ、タイヤの最内層には図示しないインナーライナーを配置することができる。
【0045】
さらに、本発明の空気入りタイヤ100においては、タイヤ断面高さSHに対する、タイヤ最大幅位置の高さSWHの比率が、40%~75%の範囲内であることが好ましい。タイヤ断面高さSHと、タイヤ最大幅位置の高さSWHとの比率SWH/SHを、百分率で示して40%~75%の範囲とすることで、適切な接地面を有し、操縦安定性に優れたタイヤとすることができる。また、特に、本発明のタイヤが二輪車用タイヤである場合に、コーナリング走行時において、バンクさせた状態での操縦安定性を向上させることができる。ここで、タイヤ断面高さSHとは、タイヤの外径と上記産業規格で規定されるリムのリム径との差の1/2をいう。
【0046】
本発明の空気入りタイヤ100は、駆動輪として使用されるものであれば、どのような種類のタイヤにも適用できるが、好適には、二輪車用タイヤまたは三輪車用タイヤであり、特には、自動二輪車用タイヤまたは自動三輪車用タイヤであり、中でも、自動二輪車のリアタイヤとして好適に使用される。また、本発明の空気入りタイヤ100は、ラジアル構造およびバイアス構造のいずれのタイヤにも適用することができる。
【0047】
本発明の空気入りタイヤ100は、上記所定の形状を有し、トレッドセンター部を横切って延在する複数の幅方向溝11,12を含むトレッドパターンを有することから、舗装路面における排水性に優れるとともに、トラクション性能にも優れるものであり、特に、舗装路面での走行を主とするオンロード用自動二輪車において有用である。
【実施例0048】
以下、具体的な実施例を用いて、本発明を、より詳細に説明する。
【0049】
(実施例1)
トレッド踏面部に、
図1に示すような複数の幅方向溝を含む方向性パターンが設けられた自動二輪車用のリアタイヤを、タイヤサイズ170/60R17M/Cにて作製した。この供試タイヤにおいては、複数の幅方向溝が、トレッドセンター部を横切って延在し、タイヤ回転方向に向かって突出する、1つの円弧からなる凸形状を有していた。また、この供試タイヤは、以下の条件を満足するものであった。
【0050】
・接地面内に含まれる幅方向溝の本数:3本。
・タイヤ赤道上で測った幅方向溝の溝幅の平均値Wg:9.0mm。
・タイヤ赤道上で測ったセンターブロックのタイヤ周方向長さの平均値Lcと、上記溝幅の平均値Wgとの比Lc/Wg:460%。
・幅方向溝の、踏み込み側における溝壁と溝底との境界部の曲率半径rと、最大溝深さDwとの比r/Dw:58%。
・ショルダー部周方向溝の最大溝深さDsと、センター部周方向溝の最大溝深さDcとの比Ds/Dc:0.4。
・ネガティブ比:25.6%。
【0051】
得られた供試タイヤを、リムサイズMT4.50×17M/Cのリムに組み付け、1200ccクラスの自動二輪車のリアタイヤに装着して、内圧290kPaを充填した。フロントタイヤには、タイヤサイズ120/70R19M/Cの市販のタイヤを用いた。
【0052】
(排水性の評価)
上記自動二輪車につき、水深1mm程度に散水された舗装路面のテストコースで、プロのライダーによる実車走行を行い、排水性を評価した。速度条件としては、3rdギアで、約40km/hにてテストコースに侵入するものとした。車両操作としては、直線コースに侵入後、GPSによる車速が60km/h以上となるまでアクセル全開で走行させ、60km/hとなった時点での駆動輪の車輪速度を測定した。なお、車輪速度は、車体に取り付けられたセンサーを使用して計測した。車速が同一であれば、車輪速度が小さいほど路面とタイヤとの間に滑りが発生しておらず、排水性が良好であることを示す。
【0053】
(比較例1)
方向性パターンにおける幅方向溝の凸形状の突出方向が、タイヤ回転方向に対し逆方向となるようにしてリアタイヤに装着した以外は、実施例1と同様にして、排水性の評価を行った。
【0054】
これらの結果を、下記の表1中に示す。
【0055】
【0056】
上記表中に示すように、トレッドセンター部を横切って延在する幅方向溝について、タイヤ回転方向に向かって突出する凸形状を有するものとすることで、良好な排水性を実現でき、水膜を有する路面におけるスリップの発生を低減できることが確かめられた。