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特開2022-17764海洋構造物および海洋構造物の施工方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022017764
(43)【公開日】2022-01-26
(54)【発明の名称】海洋構造物および海洋構造物の施工方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 27/52 20060101AFI20220119BHJP
   E02D 27/14 20060101ALI20220119BHJP
   E02D 27/32 20060101ALI20220119BHJP
【FI】
E02D27/52 A
E02D27/14
E02D27/32 Z
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020120503
(22)【出願日】2020-07-14
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】日鉄エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 公一
(72)【発明者】
【氏名】風野 裕明
(72)【発明者】
【氏名】武川 啓悟
(72)【発明者】
【氏名】石田 悠
(72)【発明者】
【氏名】森下 和帆
【テーマコード(参考)】
2D046
【Fターム(参考)】
2D046CA07
2D046DA05
2D046DA62
(57)【要約】
【課題】施工時におけるグラウトの海洋への排出を抑制しつつ、低コスト化を図る。
【解決手段】海底11に打設された杭20と、杭20の内径よりも小さな外径の脚31と、杭20と脚31との間に形成されたグラウト充填空間50と、を備えた海洋構造物10において、(1)グラウト充填空間50に充填された海水、又は(2)グラウト充填空間50に注入されたグラウトであって海水に希釈されたグラウト、又は(3)グラウト充填空間50に注入されたグラウトの一部、を脚31内部に注入する注入部59を更に備える。
【選択図】図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
海底に打設された杭と、
前記杭の内径よりも小さな外径の脚と、
前記杭と前記脚との間に形成されたグラウト充填空間と、
を備えた海洋構造物において、
(1)前記グラウト充填空間に充填された海水、又は(2)前記グラウト充填空間に注入されたグラウトであって海水に希釈されたグラウト、又は(3)前記グラウト充填空間に注入されたグラウトの一部、を前記脚内部に注入する注入部を更に備える、
ことを特徴とする海洋構造物。
【請求項2】
前記注入部は、前記グラウト充填空間に注入されたグラウトの一部とともに海水も前記脚内部に注入する、
請求項1に記載の海洋構造物。
【請求項3】
前記注入部は、前記グラウト充填空間からグラウトが溢れた場合に、溢れたグラウトを前記脚内部に注入する、
請求項1または2に記載の海洋構造物。
【請求項4】
前記注入部は、前記グラウト充填空間の上方に設けられている、
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の海洋構造物。
【請求項5】
前記注入部は、前記グラウト充填空間の上端に設けられたフランジプレートに設けられている、
請求項4に記載の海洋構造物。
【請求項6】
前記脚の周囲には、前記グラウト充填空間と連通するグラウトシールが設けられている、
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の海洋構造物。
【請求項7】
前記グラウト充填空間の下部には、仕切りプレートが設置されている、
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の海洋構造物。
【請求項8】
海底に打設された杭と、
前記杭の内径よりも小さな外径の脚と、
前記杭と前記脚との間に形成されたグラウト充填空間であってグラウトが流れるグラウト充填空間と、
を備えた海洋構造物において、
前記グラウト充填空間を流れるグラウトが前記脚内部に流れるよう、当該グラウトの流れの向きを変更する変更部を更に備える、
ことを特徴とする海洋構造物。
【請求項9】
前記変更部は、前記グラウト充填空間を流れるグラウトの下流に設けられた、
請求項8に記載の海洋構造物。
【請求項10】
前記脚の周囲に設けられたグラウトシールと、
前記グラウト充填空間と前記変更部との間に設けられたフランジプレートと、
を更に備え、
前記フランジプレートは、前記グラウト充填空間を流れるグラウトの一部が前記グラウトシールの内部に流れるよう、前記グラウト充填空間を流れるグラウトの流れの向きを変える、
請求項8または9に記載の海洋構造物。
【請求項11】
前記杭の内部の海底面は、前記杭の外部の海底面よりも低く、
前記脚の下端は、前記杭の外部の海底面よりも下方に位置する、
請求項1乃至10のいずれか1項に記載の海洋構造物。
【請求項12】
前記脚は、ジャケット脚である、
請求項1乃至11のいずれか1項に記載の海洋構造物。
【請求項13】
杭を海底に打設するステップと、
前記杭の内径よりも小さな外径の脚を前記杭に挿入するステップと、
前記杭と前記脚との間に形成されたグラウト充填空間と、前記脚内部と、を連通する通路を設けるステップと、
前記グラウト充填空間にグラウトを注入するステップと、
を備えることを特徴とする海洋構造物の施工方法。
【請求項14】
前記脚に取り付けられたグラウトシールで前記杭の上部を覆うステップを更に備える、
請求項13に記載の海洋構造物の施工方法。
【請求項15】
前記グラウトを注入するステップは、前記グラウトシールで前記杭が覆われた後に前記グラウトを注入する、
請求項14に記載の海洋構造物の施工方法。
【請求項16】
前記杭を海底に打設するステップの後に、前記杭内部に仕切り部材を設置するステップを更に備える、
請求項13乃至15のいずれか1項に記載の海洋構造物の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海洋構造物および海洋構造物の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、下記特許文献1に記載のグラウト接合構造が知られている。このグラウト接合構造は、洋上風力発電設備の風車を支持するために用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-115373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の海洋構造物では、施工時におけるグラウトの海洋への排出を抑制しつつ、低コスト化を図ることに改善の余地がある。なお、グラウトの海洋への排出は、日本などの一部地域において、周辺環境への影響を考慮して現時点では承認されていない。
【0005】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、施工時におけるグラウトの海洋への排出を抑制しつつ、低コスト化を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
<1>本発明の一態様に係る海洋構造物は、海底に打設された杭と、前記杭の内径よりも小さな外径の脚と、前記杭と前記脚との間に形成されたグラウト充填空間と、を備えた海洋構造物において、(1)前記グラウト充填空間に充填された海水、又は(2)前記グラウト充填空間に注入されたグラウトであって海水に希釈されたグラウト、又は(3)前記グラウト充填空間に注入されたグラウトの一部、を前記脚内部に注入する注入部を更に備える、ことを特徴とする海洋構造物。
<2>上記<1>に係る海洋構造物では、前記注入部は、前記グラウト充填空間に注入されたグラウトの一部とともに海水も前記脚内部に注入する、構成を採用してもよい。
<3>上記<1>または<2>に係る海洋構造物では、前記注入部は、前記グラウト充填空間からグラウトが溢れた場合に、溢れたグラウトを前記脚内部に注入する、構成を採用してもよい。
【0007】
グラウト充填空間にグラウトを注入する前、グラウト充填空間には海水が充填されている。このグラウト充填空間にグラウトを注入すると、まず、(1)グラウト充填空間に充填された海水が、注入部を通して脚内部に注入される。グラウト充填空間がグラウトによって徐々に満たされていくと、(2)グラウト充填空間に注入されたグラウトであって海水に希釈されたグラウト(品質が悪いグラウト)が、注入部を通して脚内部に注入されたり、(3)グラウト充填空間に注入されたグラウトの一部(グラウトの上澄みを含む)が、注入部を通して脚内部に注入されたりする。その結果、グラウト充填空間がグラウトによって満たされつつ、グラウト充填空間に注入されるグラウトが、海洋中に排出されることが抑制される。
脚の外径が杭の内径よりも小さい。その結果、海洋構造物の低コスト化を図ることができる。
【0008】
<4>上記<1>乃至<3>のいずれか1項に係る海洋構造物では、前記注入部は、前記グラウト充填空間の上方に設けられている、構成を採用してもよい。
【0009】
注入部が、グラウト充填空間の上方に設けられている。そのため、海水の比重よりも高い比重を有するグラウトをグラウト充填空間に注入することで、グラウト充填空間に充填された海水や、海水に希釈されたグラウトなどを、グラウト充填空間から円滑に排出することができる。
【0010】
<5>上記<4>に係る海洋構造物では、前記注入部は、前記グラウト充填空間の上端に設けられたフランジプレートに設けられている、構成を採用してもよい。
【0011】
注入部が、グラウト充填空間の上端に設けられたフランジプレートに設けられている。よって、注入部を杭や脚に設ける必要が無い。これにより、例えば、杭や脚の強度を確保し易くすること等ができる。
【0012】
<6>上記<1>乃至<5>のいずれか1項に係る海洋構造物では、前記脚の周囲には、前記グラウト充填空間と連通するグラウトシールが設けられている、構成を採用してもよい。
【0013】
脚の周囲にグラウトシールが設けられている。したがって、グラウトがグラウト充填空間から海洋に排出されることを、グラウトシールによって確実に抑制することができる。
【0014】
<7>上記<1>乃至<6>のいずれか1項に係る海洋構造物では、前記グラウト充填空間の下部には、仕切りプレートが設置されている、構成を採用してもよい。
【0015】
グラウト充填空間の下部に仕切りプレートが設置されている。これにより、グラウト充填空間に充填されたグラウトに、海底地盤土が混入するのを抑制することができる。よって、海底であっても高品質な施工を実現することができる。
仕切りプレートとして、例えば工場や地上などで予め形成した鋼板などを使用することができる。この場合、施工現場である海底において、仕切りプレートを、例えば、単に海底に設置するだけでよく、施工を短時間で完了させることができる。なお仕切りプレートに代えて、例えば、海底地盤土の混合を防止するための下地となるグラウトを打設し、このグラウトを海底で凝固させる場合には、凝固が完了するまで待機する必要が生じ、施工に時間がかかる。
【0016】
<8>本発明の一態様に係る海洋構造物は、海底に打設された杭と、前記杭の内径よりも小さな外径の脚と、前記杭と前記脚との間に形成されたグラウト充填空間であってグラウトが流れるグラウト充填空間と、を備えた海洋構造物において、前記グラウト充填空間を流れるグラウトが前記脚内部に流れるよう、当該グラウトの流れの向きを変更する変更部を更に備える、ことを特徴とする。
【0017】
変更部が、グラウト充填空間を流れるグラウトが脚内部に流れるよう、当該グラウトの流れの向きを変更する。よって、グラウト充填空間に注入されてグラウト充填空間を流れるグラウトが、変更部によって流れの向きを変更させられて脚内部に流れる。その結果、グラウト充填空間がグラウトによって満たされつつ、グラウト充填空間に注入されるグラウトが、海洋中に排出されることが抑制される。
脚の外径が杭の内径よりも小さい。その結果、海洋構造物の低コスト化を図ることができる。
【0018】
<9>上記<8>に係る海洋構造物では、前記変更部は、前記グラウト充填空間を流れるグラウトの下流に設けられた、構成を採用してもよい。
【0019】
変更部が、グラウト充填空間を流れるグラウトの下流に設けられている。そのため、グラウト充填空間にグラウトを注入したとき、グラウト充填空間をグラウトによって満たしつつ、過剰なグラウトを、グラウト充填空間から円滑に排出することができる。
【0020】
<10>上記<8>または<9>に係る海洋構造物では、前記脚の周囲に設けられたグラウトシールと、前記グラウト充填空間と前記変更部との間に設けられたフランジプレートと、を更に備え、前記フランジプレートは、前記グラウト充填空間を流れるグラウトの一部が前記グラウトシールの内部に流れるよう、前記グラウト充填空間を流れるグラウトの流れの向きを変える、構成を採用してもよい。
【0021】
フランジプレートが、グラウト充填空間を流れるグラウトの一部がグラウトシールの内部に流れるよう、グラウト充填空間を流れるグラウトの流れの向きを変える。よって、グラウト充填空間に注入された過剰なグラウトを、脚内部だけでなく、グラウトシールの内部にも排出することができる。
なお、フランジプレートが脚に固定されている場合、脚を杭に挿入するときに、例えば、フランジプレートを杭の上端に突き当てることで、杭が、フランジプレートを介して脚を支持することができる。この場合、グラウト充填空間にグラウトを充填してグラウトが凝固するまでの間、杭がフランジプレートを介して脚を仮受けしておくことができる。
【0022】
<11>上記<1>乃至<10>のいずれか1項に係る海洋構造物では、前記杭の内部の海底面は、前記杭の外部の海底面よりも低く、前記脚の下端は、前記杭の外部の海底面よりも下方に位置する、構成を採用してもよい。
<12>上記<1>乃至<11>のいずれか1項に係る海洋構造物では、前記脚は、ジャケット脚である、構成を採用してもよい。
【0023】
<13>本発明の一態様に係る海洋構造物の施工方法は、杭を海底に打設するステップと、前記杭の内径よりも小さな外径の脚を前記杭に挿入するステップと、前記杭と前記脚との間に形成されたグラウト充填空間と、前記脚内部と、を連通する通路を設けるステップと、前記グラウト充填空間にグラウトを注入するステップと、を備えることを特徴とする。
【0024】
グラウト充填空間と脚内部とが通路を通して連通している。したがって、グラウト充填空間にグラウトを注入するとき、グラウト充填空間に充填されていた海水や、グラウト充填空間に過剰に注入されたグラウトが、通路を通して脚内部に流れる。その結果、グラウト充填空間がグラウトによって満たされつつ、グラウト充填空間に注入されるグラウトが、海洋中に排出されることが抑制される。
脚の外径が杭の内径よりも小さい。その結果、海洋構造物の低コスト化を図ることができる。
【0025】
<14>上記<13>に係る海洋構造物の施工方法では、前記脚に取り付けられたグラウトシールで前記杭の上部を覆うステップを更に備える、構成を採用してもよい。
【0026】
脚に取り付けられたグラウトシールで杭の上部を覆う。したがって、グラウトがグラウト充填空間から海洋に排出されることを、グラウトシールによって確実に抑制することができる。
【0027】
<15>上記<14>に係る海洋構造物の施工方法では、前記グラウトを注入するステップは、前記グラウトシールで前記杭が覆われた後に前記グラウトを注入する、構成を採用してもよい。
【0028】
グラウトシールで杭が覆われた後にグラウトを注入する。したがって、グラウトがグラウト充填空間から海洋に排出されることを、グラウトシールによって一層確実に抑制することができる。
【0029】
<16>上記<13>乃至<15>のいずれか1項に係る海洋構造物の施工方法では、前記杭を海底に打設するステップの後に、前記杭内部に仕切り部材を設置するステップを更に備える、構成を採用してもよい。
【0030】
杭内部に仕切り部材を設置する。これにより、グラウト充填空間に充填されたグラウトに、海底地盤土が混入するのを抑制することができる。よって、海底であっても高品質な施工を実現することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、施工時におけるグラウトの海洋への排出を抑制しつつ、低コスト化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明の一実施形態に係る海洋構造物を示す側面図である。
図2図1に示す海洋構造物を構成するジャケットを含む縦断面図である。
図3図2に示す海洋構造物の要部の縦断面図である。
図4図2に示す海洋構造物の要部の下面図である。
図5図2に示す海洋構造物の施工方法を説明する図であって、第1ステップを示す図である。
図6図2に示す海洋構造物の施工方法を説明する図であって、第3ステップを示す図である。
図7図2に示す海洋構造物の施工方法を説明する図であって、第3ステップを示す図である。
図8図2に示す海洋構造物の施工方法を説明する図であって、第4ステップを示す図である。
図9図8に示す図における要部の拡大図であって、図2に示す部分に相当する図である。
図10図9に示す図における更なる要部の拡大図であって、図3に示す部分に相当する図である。
図11】本発明の一実施形態の第1変形例に係る海洋構造物を示す縦断面図であって、図10に相当する図である。
図12】本発明の一実施形態の第2変形例に係る海洋構造物を示す縦断面図であって、図10に相当する図である。
図13】本発明の一実施形態の第3変形例に係る海洋構造物を示す縦断面図であって、図10に相当する図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図面を参照し、本発明の一実施形態に係る海洋構造物10、および海洋構造物10の施工方法を説明する。
図1から図4に示すように、海洋構造物10は、杭20と、ジャケット30と、を備えている。なお図1には、海洋構造物10の施工に用いられる作業船85も併せて図示されている。
【0034】
図3に示すように、杭20は、海底11に打設されている。杭20は、中空であり、管状である。杭20は、ジャケット30の後述する脚31と同数設けられている。各杭20は、海底11において脚31が固定される位置に打設されている。杭20の内部の海底面12(すなわち、海底地盤土の表面)は、杭20の外部の海底面12よりも低い。海底面12を形成する海底地盤土は、杭20の内部において削られている。杭20は、鋼製である。
【0035】
杭20には、プレート受け21が設けられている。プレート受け21は、ドーナツ状(環状)である。プレート受け21は、杭20を海底11に打設する前に、杭20に予め固定されている。
【0036】
プレート受け21には、仕切りプレート22(仕切り部材)が設置されている。プレート受け21は、仕切りプレート22を下方から支持する。仕切りプレート22は、プレート受け21に単に置かれているだけである。すなわち、仕切りプレート22は、プレート受け21に、溶接などによって固定されてはいない。仕切りプレート22の外径は、杭20の内径よりも小さく、プレート受け21の内径よりも大きい。仕切りプレート22は、後述するグラウト充填空間50の下部に設置される。仕切りプレート22は、鋼製である。
【0037】
図1に示すように、ジャケット30は、固定式の海洋プラットホームである。ジャケット30は、全体として四角錘状に形成されている。ジャケット30は、鋼製である。
ジャケット30は、脚31(ジャケット脚31)と、デッキ32と、斜材33と、を備えている。
【0038】
脚31は、4本設けられている。各脚31は、中空であり、管状である。
図2に示すように、各脚31は、基部34と、本体部35と、を備えている。
基部34は、杭20の内部に差し込まれている。基部34の外径は、杭20の内径よりも小さい。基部34の下端は、杭20の外部の海底面12よりも下方に位置している。基部34の上端は、杭20の外部の海底面12よりも上方に位置している。基部34は、鉛直方向に対して実質的に平行である。
【0039】
図3に示すように、基部34の下端は、ボトムキャップ36によって閉塞されている。ボトムキャップ36には、ガイド37が設けられている。ガイド37は、ボトムキャップ36から下方に突出している。ガイド37は、下方に向けて突となる錘状である。ガイド37は、基部34が杭20の内部に差し込まれることを案内する。
【0040】
基部34には、フランジプレート38が設けられている。フランジプレート38は、後述するグラウト充填空間50の上端に位置する。フランジプレート38は、環状である。フランジプレート38は、基部34の外周面から径方向の外側に突出している。フランジプレート38の外径は、杭20の外径よりも大きい。フランジプレート38は、杭20の上端よりも上方に位置している。フランジプレート38は、杭20によって下方から支持されている。
【0041】
フランジプレート38には、筒39が設けられている。筒39は、フランジプレート38の外周縁から上方に立ち上がっている。
【0042】
図2に示すように、本体部35は、基部34の上端から上方に延びている。本体部35は、基部34よりも長い。本体部35は、鉛直方向に対して傾斜している。本体部35は、下方から上方に向かうに従い、ジャケット30の中央に向けて延びている。本体部35の上端は、海水面13よりも上方(海上)に配置されている。本体部35には、本体部35の内部と外部とを連通する図示しない貫通孔が形成されている。貫通孔は、海水面13の近くに形成されている。
【0043】
図1に示すように、デッキ32は、ジャケット30の頂部に設けられている。デッキ32は、4本の脚31の上端に設けられている。デッキ32は、4本の脚31によって支持されている。
斜材33は、水平方向に隣り合う脚31を連結する。斜材33は、デッキ32よりも下方に位置している。斜材33は、脚31の本体部35を水平方向に連結する。斜材33は、水平方向に対して傾斜している。斜材33は、水平方向に隣り合う脚31の間にたすき掛けされている。斜材33は、鉛直方向に複数段(図示の例では2段)設けられている。
【0044】
ここで図3に示すように、杭20と脚31との間には、グラウト充填空間50が形成されている。グラウト充填空間50には、グラウト51が充填される。グラウト充填空間50は、全体で4つ形成されている。
【0045】
グラウト充填空間50は、(1)杭20の内周面、(2)脚31(基部34)の外周面、(3)仕切りプレート22の上面、(4)ボトムキャップ36の下面、(5)フランジプレート38の下面、の間に形成されている。グラウト充填空間50には、グラウト51が注入され、グラウト51が流れる。グラウト充填空間50に注入されたグラウト51が凝固することにより、杭20と脚31とが接合される。
【0046】
グラウト充填空間50には、供給管52が接続されている。図1および図2に示すように、供給管52は、海上からグラウト充填空間50にグラウト51を供給する。供給管52は、4つのグラウト充填空間50それぞれに対応して1つずつ設けられている。供給管52は、全体で4つ設けられている。なお図示の例では、供給管52にバルブ53が設けられているが、バルブ53はなくてもよい。
【0047】
各供給管52は、ジャケット30に設けられている。各供給管52の上端は、デッキ32の上方に位置している。各供給管52は、デッキ32の上方からデッキ32を鉛直方向に貫通した後、脚31(本体部35)の上端から脚31の内部に差し込まれている。各供給管52は、脚31に沿って、脚31の上端から下端まで延びている。
【0048】
図3に示すように、各供給管52は、ボトムキャップ36を鉛直方向に貫通し、グラウト充填空間50に差し込まれている。各供給管52の下端は、グラウト充填空間50にグラウト51を注入する注入口となっている。各供給管52は、脚31の中心軸に対して、脚31の径方向にずらされている。供給管52は、脚31と同軸ではない。
【0049】
グラウト充填空間50では、供給管52(注入口)から注入されたグラウト51が、ボトムキャップ36と仕切りプレート22との間から杭20の径方向の外側に広がり、杭20の内周面と脚31の外周面との間を通して上昇する(後述する図10も参照)。グラウト充填空間50では、下方の空間が上流であり、上方の空間が下流となる。
【0050】
脚31の周囲には、グラウトシール54が設けられている。グラウトシール54は、杭20および脚31を径方向の外側から覆う。グラウトシール54は、中空であり、管状である。グラウトシール54は、杭20や脚31に比べて軟質な材料によって形成されている。グラウトシール54は、例えば帆布によって形成されたシートである。
【0051】
グラウトシール54の上端は、筒39(脚31)に固定されている。グラウトシール54の下端は、杭20に固定されている。グラウトシール54は、筒39や杭20それぞれに、固定用のベルト55によって固定されている。ベルト55は、筒39や杭20それぞれの外面との間にグラウトシール54を挟み込んだ状態で、筒39や杭20に対して外側から締め込まれている。
【0052】
グラウトシール54の内部は、グラウト充填空間50と連通している。本実施形態では、フランジプレート38と杭20の上端との間にライナープレート56が局所的に配置されている。ライナープレート56は、スペーサとして機能する。フランジプレート38において、ライナープレート56が配置されていない領域の下面は、杭20の上端に、隙間57をあけて対向している。この隙間57が、グラウト充填空間50とグラウトシール54の内部とを連通している。なお、ライナープレート56の厚さや、隙間57の鉛直方向の大きさも、例えば、50~100mmである。
【0053】
図4に示すように、ライナープレート56は、フランジプレート38における周方向の一部分に限定して配置されている。言い換えると、フランジプレート38は、ライナープレート56が設けられた第1領域38aと、ライナープレート56が設けられていない第2領域38bと、を備えている。第1領域38aは、第2領域38bよりも周方向に小さい。ライナープレート56の周方向の大きさは、フランジプレート38の周方向の大きさの半分以下(半分未満)である。
【0054】
図3に示すように、ライナープレート56は、フランジプレート38の第1領域38aの下面に固定されている。ライナープレート56の下面は、杭20の上端に接触している。フランジプレート38は、ライナープレート56を介して杭20に支持されている。第1領域38aは、供給管52を間に挟んで脚31の中心軸の反対側に位置している。言い換えると、第1領域38aは、供給管52に対して径方向の外側に位置している。
【0055】
なお、フランジプレート38の第1領域38aの上面には、第1領域38aを補強する仮受けリブ40が設けられている。仮受けリブ40は、フランジプレート38から上方に突出している。仮受けリブ40は、基部34(脚31)の外周面および筒39の内周面それぞれに連結されている。図示の例では、仮受けリブ40は、周方向に間隔をあけて複数設けられている。
【0056】
フランジプレート38の第2領域38bの下面は、杭20の上端に、前記隙間57をあけて対向している。フランジプレート38は、グラウト充填空間50を流れるグラウト51の一部がグラウトシール54の内部に流れるよう、グラウト充填空間50を流れるグラウト51の流れの向きを変える。すなわち、グラウト充填空間50を流れるグラウト51は、前記隙間57を通して、グラウト充填空間50からグラウトシール54内に流入する。
【0057】
グラウト51は、少なくとも、グラウト充填空間50の上端まで充填されている。さらに本実施形態では、グラウト51は、グラウトシール54の内部にも充填されている。グラウトシール54の内部の一部は、海水であってもよく、海水に希釈されたグラウト51であってもよい。なお、海水に希釈されたグラウト51は、通常のグラウト51よりも比重が低い。
グラウト51としては、経時硬化性の材料が挙げられる。グラウト51としては、例えば、超高強度グラウト材が挙げられる。
【0058】
そして本実施形態では、海洋構造物10には、グラウト充填空間50と脚31内部とを連通する配管58(通路)が設けられている。配管58は、(1)グラウト充填空間50に充填された海水、又は(2)グラウト充填空間50に注入されたグラウト51であって海水に希釈されたグラウト51(品質が悪いグラウト51)、又は(3)グラウト充填空間50に注入されたグラウト51の一部(グラウト51の上澄みを含む)、を脚31内部に注入する注入部59として機能する。配管58は、グラウト充填空間50を流れるグラウト51が脚31内部に流れるよう、当該グラウト51の流れの向きを変更する変更部60としても機能する。
【0059】
配管58は、グラウト充填空間50の上方に設けられている。配管58は、フランジプレート38に設けられている。言い換えると、フランジプレート38は、グラウト充填空間50と変更部60との間に設けられている。配管58は、グラウト充填空間50を流れるグラウト51の下流に設けられている。
配管58は、フランジプレート38の第2領域38bに設けられている。図4に示すように、配管58は、周方向に間隔をあけて複数(図示の例では3つ)設けられている。
【0060】
図3に示すように、各配管58は、第1部分58aと、第2部分58bと、を備えている。第1部分58aは、フランジプレート38を上下方向に貫通し、グラウト充填空間50に開口している。第1部分58aは、フランジプレート38から上方に延びている。第2部分58bは、第1部分58aの上端から、脚31(基部34)の外周面に延びている。第2部分58bは、脚31を水平方向に貫通し、脚31の内部に開口している。
各配管58の少なくとも一部は、筒39によって水平方向の外側から覆われている。なお図示の例では、各配管58の上端は、筒39の上端よりも上方に位置している。
【0061】
図4に示すように、フランジプレート38の第2領域38bには、配管58に加え、エマージェンシーホール61が形成されている。エマージェンシーホール61は、周方向に隣り合う配管58の間に形成されている。エマージェンシーホール61は、グラウト充填空間50に開口している。エマージェンシーホール61には、離脱可能な栓62が嵌め込まれている。栓62は、エマージェンシーホール61を塞いでいる。
【0062】
エマージェンシーホール61は、緊急時に、グラウト充填空間50にグラウト51を注入するための穴である。緊急時としては、例えば、供給管52でグラウト詰まりが発生した場合などが挙げられる。この場合、栓62をエマージェンシーホール61から取り外し、エマージェンシーホール61からグラウト充填空間50にグラウト51を注入する。
【0063】
次に、海洋構造物10の施工方法について説明する。この施工方法は、以下の各ステップを含む。
(第1ステップ)杭20を海底11に打設するステップ
(第2ステップ)杭20内部に仕切りプレート22(仕切り部材)を設置するステップ
(第3ステップ)ジャケット30の脚31を杭20に挿入するステップ
(第4ステップ)脚31に取り付けられたグラウトシール54で杭20の上部を覆うステップ
(第5ステップ)グラウト充填空間50にグラウト51を注入するステップ
以上の各ステップは、記載した順(第1ステップから第5ステップの順)に実施される。
【0064】
(第1ステップ)
第1ステップでは、図5に示すように、杭20を海底11に打設する。杭20は、例えば図示しないテンプレート等を用いて位置決めした上で、海底11に打設する。
また第1ステップでは、杭20の内部を、洗浄機80を用いて洗浄する。洗浄機80は、例えば、クレーン船83によって吊り下げられる。このとき、杭20の内部における海底地盤土を掘削し、杭20の内部における海底面12が、杭20の外部における海底面12よりも低くなる。杭20の内部における海底面12上には、プレート受け21が位置している。
【0065】
(第2ステップ)
第2ステップでは、杭20内部に仕切りプレート22を設置する。このとき、例えば、ダイバー84が、仕切りプレート22を杭20の上端から杭20内部に落とす。仕切りプレート22は、プレート受け21によって受け止められて支持される。
【0066】
(第3ステップ)
第3ステップでは、図6および図7に示すように、ジャケット30の脚31を杭20に挿入する。
第3ステップでは、図6に示すように、ジャケット30は、輸送台船81により据え付け位置の付近に搬送されている。なお、ジャケット30の脚31には、フランジプレート38や供給管52、配管58などに加え、グラウトシール54の上端が、ベルト55によって固定されている。グラウトシール54の上端は、筒39に固定されている。グラウトシール54の上端以外の部分は、脚31に固定されていない。グラウトシール54は、例えば、グラウトシール54の上端を起点として、巻き上げられている。
【0067】
第3ステップでは、図7に示すように、ジャケット30は、クレーン船83によって、輸送台船81から吊り上げられ、据え付け位置に吊り下げられる。このとき、脚31の基部34が杭20の内部に差し込まれる。ライナープレート56(フランジプレート38)が杭20の上端に突き当たると、脚31が杭20によって支持される。このとき、脚31は杭20によって仮受けされる。なお脚31内部には、例えば、本体部35に形成された前記貫通孔から海水が浸入して充填される。なお図示の例では、クレーン船83は、第1ステップで洗浄機80を吊り下げたクレーン船83と同一である。
【0068】
ライナープレート56(フランジプレート38)が杭20の上端に突き当たると、杭20と脚31との間にグラウト充填空間50が形成される。このとき、グラウト充填空間50には、海水が充填されている。
脚31には、前述したように配管58が予め設けられている。そのため、グラウト充填空間50が形成されるときには、グラウト充填空間50と脚31内部とが連通されることとなる。第3ステップは、グラウト充填空間50と脚31内部とを連通する配管58を設けるステップを兼ねていると言える。
【0069】
(第4ステップ)
第4ステップでは、図8に示すように、脚31に取り付けられたグラウトシール54で杭20の上部を覆う。第4ステップは、例えば、ダイバー84によって実施される。ダイバー84は、まず、脚31に巻き上げられているグラウトシール54を巻き戻す。ダイバー84は、巻き戻したグラウトシール54の下端を、ベルト55によって杭20に固定する。これにより、グラウトシール54の上端が脚31に固定され、かつ、グラウトシール54の下端が杭20に固定された状態となる。グラウトシール54の内部は、海水が充填されている。
【0070】
(第5ステップ)
第5ステップでは、図1図9および図10に示すように、グラウト充填空間50にグラウト51を注入する。
このときまず、作業船85がジャケット30の近くまで移動する。作業船85には、ミキサー86と、グラウトホース87と、が積み込まれている。
【0071】
ミキサー86は、グラウト51を攪拌する。ミキサー86には、グラウト51が流動性を具備する状態で貯留されている。
グラウトホース87は、図示しないポンプを介してミキサー86に接続される。グラウトホース87は、各供給管52に着脱可能である。グラウトホース87には、バルブがあってもなくてもよい。なお、供給管52にバルブがない場合、グラウトホース87にバルブがあることが好ましい。
【0072】
作業船85の移動と並行して、または作業船85の移動と前後して、各供給管52の内部を海水によってフラッシングする。なお、フラッシングはしてもしなくてもよい。
【0073】
そして図10に示すように、グラウト51を各供給管52に供給し、各供給管52から各グラウト充填空間50にグラウト51を注入する。
【0074】
すると、まず、(1)グラウト充填空間50に充填された海水が、配管58を通して脚31内部に注入される。グラウト充填空間50がグラウト51によって徐々に満たされていくと、(2)グラウト充填空間50に注入されたグラウト51であって海水に希釈されたグラウト51(品質が悪いグラウト51)が、配管58を通して脚31内部に注入されたり、(3)グラウト充填空間50に注入されたグラウト51の一部(グラウト51の上澄みを含む)が、配管58を通して脚31内部に注入されたりする。
【0075】
すなわち、配管58は、グラウト充填空間50に注入されたグラウト51の一部とともに海水も脚31内部に注入する。また配管58は、グラウト充填空間50からグラウト51が溢れた場合に、溢れたグラウト51を脚31内部に注入する。言い換えると、配管58は、グラウト充填空間50を流れるグラウト51が脚31内部に流れるよう、当該グラウト51の流れの向きを変更する。
以下、グラウト充填空間50へのグラウト51の注入に伴って、グラウト充填空間50から排出される海水やグラウト51(希釈されたグラウト51含む)を、海水等という。
【0076】
グラウト充填空間50から排出される海水等は、配管58を通して脚31内部に注入されるだけではなく、グラウトシール54の内部にも注入される。海水等は、杭20の上端とフランジプレート38との間の前記隙間57を通してグラウトシール54内に注入される。言い換えると、海水等は、グラウト充填空間50から、配管58および隙間57に分岐され、脚31内部およびグラウトシール54それぞれに排出(注入)される。海水等がグラウトシール54の内部に注入されると、グラウトシール54が膨張する。
以上の結果、グラウト充填空間50がグラウト51によって満たされつつ、グラウト充填空間50に注入されるグラウト51が、海洋中に排出されることが抑制される。
【0077】
なお、グラウト充填空間50へのグラウト51の注入量の管理は、例えば、以下の指標に基づいて判断することができる。
(指標1)供給管52へのグラウト51の供給量
(指標2)グラウトシール54の膨出の程度
(指標3)配管58内へのグラウト51の到達状況
【0078】
供給管52へのグラウト51の供給量は、例えば、グラウトホース87や供給管52に流量計を設けること等により測定される。
グラウトシール54の膨出の程度は、例えば、ダイバー84が目視することで確認される。
配管58内へのグラウト51の到達状況は、例えば、配管58が透明な材料によって形成されている場合には、ダイバー84が目視することで確認される。
【0079】
また配管58内へのグラウト51の到達状況を確認するために、図11に示す第1変形例に係る海洋構造物10Aのように、配管58に確認用のバルブ58cを設けてもよい。図示の例では、配管58に、サンプル取得用の排出管58dが接続されている。排出管58dは、配管58の第1部分58aの上端から上方に延びている。排出管58dの上端は、排出口となっている。バルブ58cは、前記排出管58dに設けられている。
この場合、排出口に予め図示しない袋をかぶせた状態でバルブ58cを開け、前記袋に排出口からサンプルを注入する。前記袋にサンプルが十分注入されたら回収し、例えばサンプルの密度などを確認することで、配管58へのグラウト51の到達状況が確認される。
【0080】
上記いずれの指標によっても、グラウト充填空間50にグラウト51が十分、充填されたと判断された場合には、グラウト充填空間50へのグラウト51の更なる注入を停止する。
【0081】
なお、配管58によって脚31内部に海水等が注入されると、注入された海水等の体積に応じて、予め脚31内部に充填されていた海水が、例えば、本体部35の前記貫通孔を通して海水中に放出される。グラウト51は海水よりも比重が高いことから、脚31内部に注入されたグラウト51は、配管58から脚31内部の下方に向けて移動する。なお前記貫通孔は、配管58に対して十分に距離が離れるほど、上方に位置していて、配管58に注入されたグラウト51が貫通孔から排出することは規制されている。
【0082】
また、グラウト51の供給管52への注入の前に、先行材を注入してもよい。先行材は、グラウト51の一部の成分を除外した材料である。前記一部の成分は、グラウト51の流動性を高めるために先行材からは除外される。例えば、グラウト51として骨材を含有する材料を用いる場合、グラウト51から骨材を除いた材料を先行材として用いることができる。すなわち、先行材の成分は、グラウト51の成分と共通しているものの、グラウト51よりも流動性が高い。よって、先行材をグラウト51に先行して供給管52に注入することで、配管58内でのグラウト51の詰まりを抑制することができる。
【0083】
本実施形態では、4本の供給管52が設けられており、各供給管52にグラウト51を注入する前に、各供給管52に先行材を注入することが好ましい。4本の供給管52のうち、最も先に実施する供給管52へ供給時には、先行材を、グラウトホース87が接続されるポンプで吸い上げて、グラウトホース87を通して供給管52に供給することが好ましい。これにより、ポンプ内やグラウトホース87内でのグラウト51の詰まりも抑制することができる。なお、残りの3本の供給管52へのグラウト51の注入は、ポンプやグラウトホース87を通さず、直接的に供給管52に注入してもよい。
【0084】
このように、グラウト51に先行して先行材を供給管52に注入した場合であっても、グラウト充填空間50には先行材が注入され、先行材の体積分、グラウト充填空間50に充填されていた海水が、配管58から杭20内部に注入される。前述したように、先行材の成分はグラウト51の成分と共通している。よって、グラウト51に先行してグラウト充填空間50に注入されていた先行材は、グラウト51が注入されるとグラウト51と混ざり合ってグラウト51の一部となる。
【0085】
以上のステップ1からステップ5を実施することで、海洋構造物10の施工が完了する。
【0086】
以上説明したように、本実施形態に係る海洋構造物10、および海洋構造物10の施工方法によれば、グラウト充填空間50に注入されるグラウト51が、海洋中に排出されることが抑制される。
脚31の外径が杭20の内径よりも小さい。その結果、海洋構造物10の低コスト化を図ることができる。
【0087】
配管58が、グラウト充填空間50を流れるグラウト51の下流に設けられている。そのため、グラウト充填空間50にグラウト51を注入したとき、グラウト充填空間50をグラウト51によって満たしつつ、過剰なグラウト51を、グラウト充填空間50から円滑に排出することができる。
【0088】
配管58が、グラウト充填空間50の上方に設けられている。そのため、海水の比重よりも高い比重を有するグラウト51をグラウト充填空間50に注入することで、グラウト充填空間50に充填された海水や、海水に希釈されたグラウト51などを、グラウト充填空間50から円滑に排出することができる。
【0089】
配管58が、グラウト充填空間50の上端に設けられたフランジプレート38に設けられている。よって、配管58を杭20や脚31に設ける必要が無い。これにより、例えば、杭20や脚31の強度を確保し易くすること等ができる。
【0090】
脚31の周囲にグラウトシール54が設けられている。したがって、グラウト51がグラウト充填空間50から海洋に排出されることを、グラウトシール54によって確実に抑制することができる。
【0091】
フランジプレート38が、グラウト充填空間50を流れるグラウト51の一部がグラウトシール54の内部に流れるよう、グラウト充填空間50を流れるグラウト51の流れの向きを変える。よって、グラウト充填空間50に注入された過剰なグラウト51を、脚31内部だけでなく、グラウトシール54の内部にも排出することができる。
【0092】
なお本実施形態のように、フランジプレート38が脚31に固定されている場合、脚31を杭20に挿入するときに、例えば、フランジプレート38を杭20の上端に突き当てることで、杭20が、フランジプレート38を介して脚31を支持することができる。この場合、グラウト充填空間50にグラウト51を充填してグラウト51が凝固するまでの間、杭20がフランジプレート38を介して脚31を仮受けしておくことができる。
【0093】
グラウト充填空間50の下部に仕切りプレート22が設置されている。これにより、グラウト充填空間50に充填されたグラウト51に、海底地盤土が混入するのを抑制することができる。よって、海底11であっても高品質な施工を実現することができる。
【0094】
仕切りプレート22として、例えば工場や地上などで予め形成した鋼板などを使用することができる。この場合、施工現場である海底11において、仕切りプレート22を、例えば、単に海底11に設置するだけでよく、施工を短時間で完了させることができる。なお仕切りプレート22に代えて、例えば、海底地盤土の混合を防止するための下地となるグラウト51を打設し、このグラウト51を海底11で凝固させる場合には、凝固が完了するまで待機する必要が生じ、施工に時間がかかる。
【0095】
なお、本発明の技術的範囲は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0096】
配管58は前記実施形態に示した形態に限られない。
例えば、図12に示す第2変形例に係る海洋構造物10Bのように、配管58が筒39に設けられていてもよい。配管58は、筒39の内周面から脚31の外周面に延びている。配管58は、グラウトシール54の内部と脚31内部とを連通している。言い換えると、配管58は、グラウトシール54の内部を通して、グラウト充填空間50と脚31内部とを連通している。
この変形例では、グラウト充填空間50から排出される海水等は、グラウトシール54の内部、配管58を通して脚31内部に注入される。
【0097】
また前記実施形態では、配管58が注入部59および変更部60として機能するとしたが、本発明はこれに限られない。
例えば、図13に示す第3変形例に係る海洋構造物10Cのように、配管58に代えて、開口58A(通路)を採用してもよい。開口58Aは、配管58と同様に、グラウト充填空間50と脚31内部とを連通する。開口58Aは、脚31を水平方向(径方向)に貫通する。開口58Aは、脚31の周方向に間隔をあけて複数設けられている。開口58Aは、配管58と同様に、注入部59および変更部60として機能する。
【0098】
なお、配管58や開口58A(以下、まとめて通路という)は、グラウト充填空間50において、グラウト51が最低限、充填が求められる高さ位置よりも上方に位置していることが好ましい。通路は、杭20の上端よりも上方に位置していることが好ましい。この場合、グラウト充填空間50において、杭20の上端に至る位置まで、グラウト51を円滑に充填することができる。
【0099】
海洋構造物10は、ジャケット30に限られない。本発明は、モノパイルやトリポッドにも適用可能である。
【0100】
その他、本発明の趣旨に逸脱しない範囲で、前記実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、前記した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0101】
10 海洋構造物
11 海底
12 海底面
20 杭
22 プレート
30 ジャケット
31 脚
38 フランジプレート
50 グラウト充填空間
51 グラウト
54 グラウトシール
59 注入部
60 変更部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
【手続補正書】
【提出日】2020-10-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
海底に打設された杭と、
前記杭の内径よりも小さな外径であり前記杭内部に配置された脚と、
前記杭の内周面と前記脚の外周面との間に形成され、注入口からグラウトが注入されるグラウト充填空間と、
を備えた海洋構造物において、
前記グラウト充填空間における前記注入口よりも下流側と前記脚内部とを接続し、(1)前記グラウト充填空間に充填された海水、又は(2)前記グラウト充填空間に注入されたグラウトであって海水に希釈されたグラウト、又は(3)前記グラウト充填空間に注入されたグラウトの一部、を前記脚内部に注入する注入部を更に備える、
ことを特徴とする海洋構造物。
【請求項2】
前記注入部は、前記グラウト充填空間に注入されたグラウトの一部とともに海水も前記脚内部に注入する、
請求項1に記載の海洋構造物。
【請求項3】
前記注入部は、前記グラウト充填空間の上方に設けられている、
請求項1または2に記載の海洋構造物。
【請求項4】
前記注入部は、前記グラウト充填空間の上端に設けられたフランジプレートに設けられている、
請求項に記載の海洋構造物。
【請求項5】
前記脚の周囲には、前記グラウト充填空間と連通するグラウトシールが設けられている、
請求項1乃至のいずれか1項に記載の海洋構造物。
【請求項6】
前記グラウト充填空間の下部には、仕切りプレートが設置されている、
請求項1乃至のいずれか1項に記載の海洋構造物。
【請求項7】
海底に打設された杭と、
前記杭の内径よりも小さな外径であり前記杭内部に配置された脚と、
前記杭の内周面と前記脚の外周面との間に形成されたグラウト充填空間であって注入口から注入されたグラウトが流れるグラウト充填空間と、
を備えた海洋構造物において、
前記グラウト充填空間における前記注入口よりも下流側と前記脚内部とを接続し、前記グラウト充填空間を流れるグラウトが前記脚内部に流れるよう、当該グラウトの流れの向きを変更する変更部を更に備える、
ことを特徴とする海洋構造物。
【請求項8】
前記変更部は、前記グラウト充填空間を流れるグラウトの下流に設けられた、
請求項に記載の海洋構造物。
【請求項9】
前記脚の周囲に設けられたグラウトシールと、
前記グラウト充填空間と前記変更部との間に設けられたフランジプレートと、
を更に備え、
前記フランジプレートは、前記グラウト充填空間を流れるグラウトの一部が前記グラウトシールの内部に流れるよう、前記グラウト充填空間を流れるグラウトの流れの向きを変える、
請求項またはに記載の海洋構造物。
【請求項10】
前記杭の内部の海底面は、前記杭の外部の海底面よりも低く、
前記脚の下端は、前記杭の外部の海底面よりも下方に位置する、
請求項1乃至のいずれか1項に記載の海洋構造物。
【請求項11】
前記脚は、ジャケット脚である、
請求項1乃至10のいずれか1項に記載の海洋構造物。
【請求項12】
杭を海底に打設するステップと、
前記杭の内径よりも小さな外径の脚を前記杭に挿入するステップと、
前記杭の内周面と前記脚の外周面との間に形成されたグラウト充填空間と、前記脚内部と、を連通する通路を設けるステップと、
前記グラウト充填空間にグラウトを注入口から注入し、前記注入口よりも下流側に位置する前記通路を通して、前記グラウトの一部を前記脚内部に注入するステップと、
を備えることを特徴とする海洋構造物の施工方法。
【請求項13】
前記脚に取り付けられたグラウトシールで前記杭の上部を覆うステップを更に備える、
請求項12に記載の海洋構造物の施工方法。
【請求項14】
前記グラウトを注入するステップは、前記グラウトシールで前記杭が覆われた後に前記グラウトを注入する、
請求項13に記載の海洋構造物の施工方法。
【請求項15】
前記杭を海底に打設するステップの後に、前記杭内部に仕切り部材を設置するステップを更に備える、
請求項12乃至14のいずれか1項に記載の海洋構造物の施工方法。