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特開2022-177657微量セルロースおよびセルロース誘導体の確認方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022177657
(43)【公開日】2022-12-01
(54)【発明の名称】微量セルロースおよびセルロース誘導体の確認方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/06 20060101AFI20221124BHJP
   G01N 30/72 20060101ALI20221124BHJP
   G01N 30/88 20060101ALI20221124BHJP
【FI】
G01N30/06 G
G01N30/72 A
G01N30/88 P
G01N30/88 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021084073
(22)【出願日】2021-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001276
【氏名又は名称】弁理士法人小笠原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】相川 徹
(72)【発明者】
【氏名】西川 洋平
(72)【発明者】
【氏名】大林 佑美
(72)【発明者】
【氏名】薮原 靖史
(57)【要約】
【課題】混合物中の微量なセルロースおよびセルロース誘導体の確認方法を提供することを目的とする。
【解決手段】混合物中の微量セルロースおよびセルロース誘導体の確認方法であって、超臨界水により、微量のセルロースおよびセルロース誘導体を含む混合物の分解液を、ガスクロマトグラフィー質量分析計で定性分析する微量セルロースおよびセルロース誘導体の確認方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
混合物中の微量セルロースおよびセルロース誘導体の確認方法であって、
超臨界水により、微量のセルロースおよびセルロース誘導体を含む前記混合物の分解液を、ガスクロマトグラフィー質量分析計で定性分析する微量セルロースおよびセルロース誘導体の確認方法。
【請求項2】
ジメチルシクロペンテン-1-オン、トリメチルシクロペンテン-1-オンを検出することにより、前記混合物中の微量セルロースおよびセルロース誘導体の存在を確認する、微量セルロースおよびセルロース誘導体の確認方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散性、界面活性、強度アップをはじめとする様々な機能向上のために添加される微量なセルロースおよびセルロース誘導体の確認手法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースは、グルコースが結合した多糖類の一種で植物由来の地球上に最も多く存在する炭水化物であり、紙や繊維として利用されるほか、様々な誘導体が利用されている。これらセルロース誘導体の主な用途としては、火薬や接着剤に使用されるニトロセルロース、繊維やフィルター、フィルムに利用されるアセチルセルロース、増粘剤や界面活性剤として利用されるカルボキシメチルセルロース、無害で不活性なために医療用にも利用されているヒドロキシプロピルセルロースなどがある。
【0003】
その中で、界面活性剤や分散剤など機能向上のために添加される使用されるセルロース及びセルロース誘導体(以降セルロース誘導体と呼ぶ)は、添加量が少ないために分離精製が難しく、その存在確認が困難である場合が多い。また、インクや塗料などの混合組成物中に存在する微量のセルロース誘導体も添加量が少なく、その存在確認が困難となっている。しかしながら、混合成分中に存在するセルロース誘導体や製品中に存在するセルロース誘導体の存在を確認することは、安全性確認や製品の品質管理に必要であり、微量のセルロース誘導体の存在確認ができる手法の開発が必要となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭59-162452号公報
【特許文献2】特開昭62-151745号公報
【特許文献3】特開昭62-157560号公報
【特許文献4】特開2004-344041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
セルロース誘導体の存在を確認する手法としては、セルロース誘導体に少量の酸を添加して熱分解したとき発生するガスをGC(ガスクロマトグラフ)で分離して、C化合物を確認する手法が特許文献1に記載されている。しかしながら、この手法では、操作が煩雑であり、尚且つ微量のセルロースでは熱分解生成物が検出できないという欠陥があった。
【0006】
また、ヒドロキシアルキルセルロースのアルキレンオキサイドの平均分子数とアルキレンオキサイドの置換数を同時に13C-NMRで求める手法が特許文献2に記載されている。また、カルボキシメチルセルロースを鉱酸で加水分解し、生じた置換グルコースを等速電気泳動で置換体分率を求める手法が特許文献3に記載されている。しかしながら、これらの手法は、混合物中の成分、さらには、微量の成分を検出することはできないという問題があった。
【0007】
さらに、非水溶性セルロースをセルラーゼ溶液中で可溶化して、非水溶性セルロース含有量を求める手法が特許文献4に記載されている。しかしながらこの手法でも、混合物中の成分、さらには、微量の成分を検出することはできないという問題があった
【0008】
本発明は上記問題を鑑みてなされたものであり、混合物中の微量なセルロースおよびセルロース誘導体の確認方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、混合物中の微量セルロースおよびセルロース誘導体の確認方法であって、超臨界水により、微量のセルロースおよびセルロース誘導体を含む混合物の分解液を、ガスクロマトグラフィー質量分析計で定性分析する微量セルロースおよびセルロース誘導体の確認方法である。
【0010】
また、ジメチルシクロペンテン-1-オン、トリメチルシクロペンテン-1-オンを検出することにより、混合物中の微量セルロースおよびセルロース誘導体の存在を確認するである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、混合物中のセルロースおよびセルロース誘導体の確認方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
筆者らが鋭意研究を重ねた結果、セルロース誘導体は、超臨界水分解で分解を制限できる上、分解物は超臨界流体に溶解するものだけを抽出することが可能で、分解された低分子成分はGC/MSで確認可能であることなどを発見した。
【0013】
本実施形態に係るセルロース誘導体は、特に制限はないが、セルロース繊維、セルロースナノファイバー、ニトロセルロース、アセチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、セルロースナノファイバー及びそれらを出発原料とするセルロース誘導体や紙などが上げられ、これらは単体でも混合物でもよい。セルロース誘導体の濃度は、0.001重量%以上であれば、GC/MSで十分確認可能であるが、GC/MSのスペクトルとして十分確認するためには0.1重量%以上であることが望ましい。
【0014】
本実施形態に係る超臨界水分解は、超臨界状態の水(臨界温度374.3℃、臨界圧力22.12MPa)を容器中で加熱することによって実現するが、容器は水の臨界圧力以上の十分大きい圧力に耐えることができる圧力容器であることが必要である。また、温度は水の臨界温度以上の十分大きい温度に耐えることができる材質であることが必要である。ここで、臨界温度以上の温度の実現は、オーブン、電気炉などで容易に可能である。
【0015】
セルロース誘導体の分解を十分に進めるためには亜臨界状態ではなく、超臨界状態の水を用いる必要がある。ただし、臨界圧力や臨界温度を大きく超えてしまうと、セルロース誘導体の分解が進みすぎてしまう。そこで、例えば、超臨界分解条件を、水の超臨界450℃、50MPa以下とすることができる。
【0016】
使用されるGC/MSには特に制限はなく、例えば、水素、ヘリウムなどをキャリアガスとして、キャピラリーカラムなどをオーブン中で加熱しながら分離し、MS(質量分析計)でマススペクトルを得ることが可能なほとんどすべてのGC/MSが利用できる。
【0017】
GC/MSによる定性分析には、セルロース誘導体の超臨界水分解液をそのまま利用できる。また、場合によっては、フィルタリング(ろ過)することもでき、さらには、低沸点の溶媒を追加することもできる。分析には、シリンジを使用し、溶媒及び水を検出して、MSを汚す(痛める)ことが無いよう、カット分析するのが望ましい。
【0018】
GC/MSによる定性分析において、セルロース誘導体の有無は、例えば、ジメチルシクロペンテン-1-オン、トリメチルシクロペンテン-1-オンを検出することで確認できる。これは、セルロースおよびその誘導体の熱分解機構として、単糖、2-フランカルボン酸を経て、ジメチルシクロペンテン-1-オン、トリメチルシクロペンテン-1-オンなどが生成するからである。
【0019】
本実施形態に係る微量セルロースおよびセルロース誘導体の確認法は、超臨界水分解を用いて、セルロース誘導体が添加された材料の超臨界水分解液を作成し、当該超臨界水分解液に対してGC/MSによる定性分析を行う。これにより、界面活性剤や分散剤として使用される微量のセルロース誘導体やプラスチックに混合されている微量なセルロース誘導体を確認する手法を提供することができる。
【実施例0020】
以下、本発明を実施例及び比較例をあげて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0021】
実施例及び比較例で使用した(熱分解)GC/MSの分析条件を示す。
装置:GCMS-QP2010(島津製作所)、カラムHP-5MS(30m、内層0.25μm、内径0.25mm:Agilent)、キャリアガス:He(Split 1/10)、GCオーブン:(GC/MS)50℃(3min)-300℃(20℃/min、15min)、(熱分解GC/MS)50℃(5min)-120℃(10℃/min)-320℃(20℃/min、25min)、INJ温度300℃、MS温度200℃、MS:scanモード測定(15-700m/z)
【0022】
(溶液A)
水性ウレタン樹脂(WBR016U:大成ファインケミカル;固形分30%)にCMC(カルボキシメチルセルロースナトリウム:富士フィルム和光純薬)を固形分比0.1%添加した溶液Aを用意した。
【0023】
(実施例1)
密閉型超臨界反応容器TSC-0011Type(耐圧硝子工業製)に、溶液Aを5ml入れ、密閉した。ついで、当該容器を、電気炉VTDS-2R(いすゞ製作所製)で、400℃*1hr処理し、溶液Aの超臨界水分解液A1を得た。超臨界水分解液A1を0.22μmのPTFE製シリンジフィルターでフィルタリングして分析溶液A2とした。分析溶液A2をGC/MSで定性分析したところ、メチルシクロペンテン-1-オン、トリメチルシクロペンテン-1-オンが確認された。
【0024】
(比較例1)
20mgの分析溶液Aを乾燥させ、590℃熱分解GC/MSで定性分析したが、レボグルコサンは検出されなかった。
【0025】
(粒子B)
ポリジビニルベンゼン粒子の表面に、セルロースナノファイバー(ELLEX:大王製紙)を0.1重量%コーティングしたナノ粒子Bを用意した。
【0026】
密閉型超臨界反応容器TSC-0011Typeに、粒子Bを2g入れ、密閉した。ついで、当該容器を、電気炉VTDS-2Rで、400℃*1hr処理し、粒子Bの超臨界水分解物B1を得た。超臨界水分解物B1を0.22μmのPTFE製シリンジフィルターでフィルタリングして分析溶液B2とした。分析溶液B2をGC/MSで定性分析したところ、メチルシクロペンテン-1-オン、トリメチルシクロペンテン-1-オンが確認された。
【0027】
(比較例2)
5mgの粒子Bを590℃熱分解GC/MSで定性分析したが、レボグルコサンは検出されなかった。
【0028】
なお、実施例の検出対象がシクロペンテン誘導体であり、比較例の検出対象がレボグルコサンと異なっているのは、セルロースを熱分解GCMSで分析すると、ハードに熱で分解され、レボグルコサンが主成分として検出され、セルロースを超臨界分解で分解すると、ソフトに加水分解的に弱い部分を分解し、シクロペンテン誘導体が生成されるためである。
【0029】
【表1】
【0030】
表1に記載の実施例1及び比較例1~2の結果から明らかなように、超臨界水分解を用いて、セルロース誘導体が添加された材料の超臨界水分解溶液とすることで、微量のセルロース誘導体を検出することができた。すなわち、界面活性剤や分散剤として使用される微量のセルロース誘導体やプラスチックに混合されている微量なセルロース誘導体を確認する手法を提供できることが明らかになった。