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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022177666
(43)【公開日】2022-12-01
(54)【発明の名称】判定方法、判定装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/382 20190101AFI20221124BHJP
   G01R 31/367 20190101ALI20221124BHJP
   G01R 31/385 20190101ALI20221124BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20221124BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20221124BHJP
   B60L 3/00 20190101ALN20221124BHJP
   B60L 50/60 20190101ALN20221124BHJP
   B60L 58/10 20190101ALN20221124BHJP
【FI】
G01R31/382
G01R31/367
G01R31/385
H02J7/00 Q
H01M10/48 P
H01M10/48 301
B60L3/00 S
B60L50/60
B60L58/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021084084
(22)【出願日】2021-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 佑介
【テーマコード(参考)】
2G216
5G503
5H030
5H125
【Fターム(参考)】
2G216AB01
2G216BA44
2G216BA71
2G216CB12
2G216CB35
2G216CB42
2G216CB44
2G216CB51
5G503AA07
5G503BA01
5G503BB02
5G503CA01
5G503CB11
5G503EA05
5G503EA09
5G503FA06
5H030AA09
5H030AS08
5H030FF22
5H030FF43
5H030FF44
5H125AA01
5H125AC12
5H125BC01
5H125BC03
5H125EE23
5H125EE24
5H125EE25
5H125EE27
(57)【要約】
【課題】演算負荷を低減できる判定方法、判定装置及びプログラムを提供する。
【解決手段】判定方法は、蓄電装置の充電受入性能及び/又は放電性能を判定する。判定方法は、判定時点における前記蓄電装置の充電状態に基づいて推定される、想定通電パターンを通電後の、前記蓄電装置の開放電圧を取得し、前記蓄電装置の内部抵抗並びに判定時点の充電状態及び温度に基づいて推定される、前記想定通電パターンを通電後の、前記想定通電パターンに起因する電圧変動を取得し、前記想定通電パターンを通電前の前記蓄電装置の分極成分に基づいて推定される、前記想定通電パターンを通電前の通電履歴に起因する電圧変動を取得し、取得した前記開放電圧、前記想定通電パターンに起因する電圧変動及び前記通電履歴に起因する電圧変動に基づいて、前記想定通電パターンを前記蓄電装置に通電可能か否かを判定する。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電装置の充電受入性能及び/又は放電性能を判定する判定方法であって、
判定時点における前記蓄電装置の充電状態に基づいて推定される、想定通電パターンを通電後の、前記蓄電装置の開放電圧を取得し、
前記蓄電装置の内部抵抗並びに判定時点の充電状態及び温度に基づいて推定される、前記想定通電パターンを通電後の、前記想定通電パターンに起因する電圧変動を取得し、
前記想定通電パターンを通電前の前記蓄電装置の分極成分に基づいて推定される、前記想定通電パターンを通電前の通電履歴に起因する電圧変動を取得し、
取得した前記開放電圧、前記想定通電パターンに起因する電圧変動及び前記通電履歴に起因する電圧変動に基づいて、前記想定通電パターンを前記蓄電装置に通電可能か否かを判定する
判定方法。
【請求項2】
前記想定通電パターンに起因する電圧変動は、前記蓄電装置のオーム性内部抵抗による第1電圧変動及び非オーム性内部抵抗による第2電圧変動を含む
請求項1に記載の判定方法。
【請求項3】
前記通電履歴に起因する電圧変動は、前記想定通電パターンを通電前の前記蓄電装置の分極成分から前記想定通電パターンを通電前の前記蓄電装置のオーム性内部抵抗を減算して得られる
請求項1又は請求項2に記載の判定方法。
【請求項4】
前記開放電圧及び前記想定通電パターンに起因する電圧変動に対し、前記想定通電パターンを通電前の時点における通電方向に応じて、前記通電履歴に起因する電圧変動を加算又は減算して得られる電圧値に基づき、前記想定通電パターンを前記蓄電装置に通電可能か否かを判定する
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の判定方法。
【請求項5】
蓄電装置の充電受入性能及び/又は放電性能を判定する判定装置であって、
判定時点における前記蓄電装置の充電状態に基づいて推定される、想定通電パターンを通電後の、前記蓄電装置の開放電圧を取得する第1取得部と、
前記蓄電装置の内部抵抗並びに判定時点の充電状態及び温度に基づいて推定される、前記想定通電パターンを通電後の、前記想定通電パターンに起因する電圧変動を取得する第2取得部と、
前記想定通電パターンを通電前の前記蓄電装置の分極成分に基づいて推定される、前記想定通電パターンを通電前の通電履歴に起因する電圧変動を取得する第3取得部と、
取得した前記開放電圧、前記想定通電パターンに起因する電圧変動及び前記通電履歴に起因する電圧変動に基づいて、前記想定通電パターンを前記蓄電装置に通電可能か否かを判定する判定部と
を備える判定装置。
【請求項6】
蓄電装置の充電受入性能及び/又は放電性能を判定するコンピュータに、
判定時点における前記蓄電装置の充電状態に基づいて推定される、想定通電パターンを通電後の、前記蓄電装置の開放電圧を取得し、
前記蓄電装置の内部抵抗並びに判定時点の充電状態及び温度に基づいて推定される、前記想定通電パターンを通電後の、前記想定通電パターンに起因する電圧変動を取得し、
前記想定通電パターンを通電前の前記蓄電装置の分極成分に基づいて推定される、前記想定通電パターンを通電前の通電履歴に起因する電圧変動を取得し、
取得した前記開放電圧、前記想定通電パターンに起因する電圧変動及び前記通電履歴に起因する電圧変動に基づいて、前記想定通電パターンを前記蓄電装置に通電可能か否かを判定する
処理を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、判定方法、判定装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の安全性能や乗り心地の向上のために、車両へ搭載される電子機器が増加している。代表的な例として、環境への負荷を低減するためのStart-Stop機能(アイドリングストップ機能)や、自動運転機能のための電子機器が搭載されている。このような傾向に伴い、電子機器へ電力を供給するための蓄電装置の状態を早期に検知し、電力の供給可否を予測するニーズが高まりつつある。
【0003】
特許文献1には、蓄電池において充放電可能な電力を精度よく算出することのできる電池制御装置が開示されている。特許文献1に記載の電池制御装置では、蓄電池を電気的な等価回路に見立ててその充放電挙動を模擬することにより、充放電可能電力を算出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-114135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の電池制御装置では、現在の蓄電池の状態を推定するために、等価回路から微分方程式を導出し、指数関数を含む演算処理や容量成分の逐次的な演算処理を行う必要がある。このため、演算負荷が大きく、高性能のコンピュータを必要とする。演算負荷の増大により、適切な更新周期内で電力供給可否を予測できないことが懸念される。
【0006】
本開示の目的は、演算負荷を低減できる判定方法、判定装置及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係る判定方法は、蓄電装置の充電受入性能及び/又は放電性能を判定する。判定方法は、判定時点における前記蓄電装置の充電状態に基づいて推定される、想定通電パターンを通電後の、前記蓄電装置の開放電圧を取得し、前記蓄電装置の内部抵抗並びに判定時点の充電状態及び温度に基づいて推定される、前記想定通電パターンを通電後の、前記想定通電パターンに起因する電圧変動を取得し、前記想定通電パターンを通電前の前記蓄電装置の分極成分に基づいて推定される、前記想定通電パターンを通電前の通電履歴に起因する電圧変動を取得し、取得した前記開放電圧、前記想定通電パターンに起因する電圧変動及び前記通電履歴に起因する電圧変動に基づいて、前記想定通電パターンを前記蓄電装置に通電可能か否かを判定する。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、判定方法は演算負荷を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】蓄電装置及び判定装置等の構成例を示すブロック図である。
図2】判定装置の構成例を示す機能ブロック図である。
図3】放電時における蓄電装置の等価回路モデルの一例を示す回路図である。
図4】想定通電パターンが放電である場合における、通電履歴のない蓄電素子の想定通電パターンに係る判定方法を説明する説明図である。
図5】想定通電パターンが放電である場合における、充放電履歴のある蓄電装置の想定通電パターンに係る判定方法を説明する説明図である。
図6】充電時における蓄電装置の等価回路モデルの一例を示す回路図である。
図7】想定通電パターンが充電である場合における、通電履歴のない蓄電素子の想定通電パターンに係る判定方法を説明する説明図である。
図8】想定通電パターンが充電である場合における、充放電履歴のある蓄電装置の想定通電パターンに係る判定方法を説明する説明図である。
図9】判定処理手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(1)判定方法は、蓄電装置の充電受入性能及び/又は放電性能を判定する。
判定方法は、判定時点における前記蓄電装置の充電状態に基づいて推定される、想定通電パターンを通電後の、前記蓄電装置の開放電圧を取得し(図5のVocv_p参照)、
前記蓄電装置の内部抵抗並びに判定時点の充電状態及び温度に基づいて推定される、前記想定通電パターンを通電後の、前記想定通電パターンに起因する電圧変動(以下、単に「想定通電パターンに起因する電圧変動」とも称する)を取得し(図5のVz0_p+Vz1_p参照)、
前記想定通電パターンを通電前の前記蓄電装置の分極成分に基づいて推定される、前記想定通電パターンを通電前の通電履歴に起因する電圧変動(以下、単に「通電履歴に起因する電圧変動」とも称する)を取得し(図5のVz1参照)、
取得した前記開放電圧、前記想定通電パターンに起因する電圧変動及び前記通電履歴に起因する電圧変動に基づいて、前記想定通電パターンを前記蓄電装置に通電可能か否かを判定する。
【0011】
上記構成によれば、想定通電パターンを通電後の蓄電装置の開放電圧、想定通電パターンに起因する電圧変動、及び通電履歴に起因する電圧変動に基づき、想定通電パターンを通電後の蓄電装置における電圧値を推定する。推定結果に応じて、想定通電パターンを蓄電装置に通電可能か否か、すなわち蓄電の充電受入性能及び/又は放電性能を判定できる。
【0012】
想定通電パターンとは、蓄電装置の使用用途に応じて決定される。想定通電パターンは、例えば、蓄電装置を備える車両に搭載される各種電子機器の消費電流量に基づく電流パターンである。想定通電パターンでの通電ができないと判定した場合、判定装置は、判定結果に応じた情報を車両へ通知する。
【0013】
例えば、車両における充電装置の異常により蓄電装置の電圧が低下しており、エンジンを再始動できないと予測された場合、即座にアイドリングストップ機能を不能にする(マスクする)ことが望ましい。他の例として、路側帯(又は路肩(the side of a road))への退避及び停車といった自動運転終了時の縮退動作(10秒程度の時間を要する)を完了できないと予測された場合、即座に自動運転機能を終了することが望ましい。走行中に使用する安全関連負荷(ハンドルやブレーキ)のオンによる過渡的な放電で、電子機器の動作電圧範囲を逸脱する又は蓄電装置の放電可能電流を超えると予測された場合、自動運転終了時の縮退動作に移行することが望ましい。そのためには、蓄電装置の現在の状態に基づき、想定通電パターンでの蓄電装置からの電力供給の可否を判定することが必要である。電力供給ができないとの判定結果を受けた場合、車両は即座に縮退動作へ移行することで、安全を確保できる。
【0014】
他の例として、車両における充電装置の異常により蓄電装置の電圧が上昇しており、走行中に使用する安全関連負荷のオフによる過渡的な充電で、電子機器の動作電圧範囲を逸脱する又は蓄電装置の充電受入電流を超えると予測された場合、自動運転終了時の縮退動作に移行することが望ましい。そのためには、蓄電装置の現在の状態に基づき、想定通電パターンでの電力受け入れの可否を判定することが必要である。電力受け入れができないとの判定結果を受けた場合、縮退動作中、車両は回生ブレーキを使わない方法で停止できる。
【0015】
このように蓄電装置の運用中に、想定通電パターンの通電可否を短時間で精度よく判定することが求められる。従来、蓄電装置を電気的な等価回路モデルに見立てて、蓄電装置の電圧挙動を模擬し、充放電の可否を判定することが行われている。
車両の使用時における蓄電装置の状態(特に分極状態)を模擬するためには、等価回路モデルから微分方程式を導出し、指数関数を含む演算処理や容量成分の逐次的な演算処理を行う必要がある。
【0016】
他方、上記(1)の判定方法では、想定通電パターンを通電前の通電履歴に起因する電圧変動を取得する。想定通電パターンを通電前の通電履歴とは、判定時点(判定処理を実行する現在の時点)よりも前の時点における、蓄電装置の充電若しくは放電又は充放電の履歴である。通電履歴に起因する電圧変動を、想定通電パターンを通電後の電圧予測値に対し加算又は減算することで、過去の通電履歴を考慮した最終的な電圧値を予測できる。
【0017】
この判定方法によれば、従来の方法よりも短時間で充放電能力を判定できる。充電受入性能及び放電性能の両方を判定できるため、蓄電装置の充電及び放電の両方における通電電流を良好に制御できる。演算処理を低減することで、判定装置のスペックを高める必要がなくなり、コストを低減できる。電子機器(車両ECU)が間欠的にスリープモードに移行する等の理由により逐次演算が困難な場合であっても、本アルゴリズムにより判定処理が可能となる。
【0018】
(2)判定方法において、前記想定通電パターンに起因する電圧変動は、前記蓄電装置のオーム性内部抵抗による第1電圧変動(図5のVz0_p)及び非オーム性内部抵抗による第2電圧変動(図5のVz1_p)を含んでもよい。
【0019】
上記構成によれば、想定通電パターンに起因する電圧変動を、実際のバッテリ試験の実測データ等に基づいて容易に決定できる。予め想定通電パターンに起因する電圧変動を求め、記憶しておくことで、判定時の演算負荷をより低減できる。
【0020】
(3)判定方法において、前記通電履歴に起因する電圧変動(図5のVz1)は、前記想定通電パターンを通電前の前記蓄電装置の分極成分(図5のVz1+Vz0)から前記想定通電パターンを通電前の前記蓄電装置のオーム性内部抵抗(図5のVz0)を減算して得られるものであってもよい。
【0021】
上記構成によれば、通電履歴に起因する電圧変動は、判定時点における蓄電装置の分極成分及び蓄電装置のオーム性内部抵抗に基づき算出できる。蓄電装置の分極成分及び蓄電装置のオーム性内部抵抗は、判定時点における蓄電装置の電圧、電流及び温度等の計測値並びにSOC(State of Charge )等から容易に算出できるため、演算負荷を低減できる。
【0022】
(4)判定方法において、前記開放電圧及び前記想定通電パターンに起因する電圧変動に対し、前記想定通電パターンを通電前の時点における通電方向に応じて、前記通電履歴に起因する電圧変動を加算又は減算して得られる電圧値に基づき、前記想定通電パターンを前記蓄電装置に通電可能か否かを判定してもよい。
【0023】
上記構成によれば、開放電圧及び前記想定通電パターンに起因する電圧変動、すなわち通電履歴を考慮しない電圧値(図4参照)に対し、想定通電パターンを通電前の通電履歴における通電方向に応じて、通電履歴に起因する電圧変動が加算又は減算される。これにより、通電履歴に起因する電圧変動を、判定に好適に反映することができる。
【0024】
(5)判定装置は、蓄電装置の充電受入性能及び/又は放電性能を判定する。
判定装置は、判定時点における前記蓄電装置の充電状態に基づいて推定される、想定通電パターンを通電後の、前記蓄電装置の開放電圧を取得する第1取得部と、前記蓄電装置の内部抵抗並びに判定時点の充電状態及び温度に基づいて推定される、前記想定通電パターンを通電後の、前記想定通電パターンに起因する電圧変動を取得する第2取得部と、前記想定通電パターンを通電前の前記蓄電装置の分極成分に基づいて推定される、前記想定通電パターンを通電前の通電履歴に起因する電圧変動を取得する第3取得部と、取得した前記開放電圧、前記想定通電パターンに起因する電圧変動及び前記通電履歴に起因する電圧変動に基づいて、前記想定通電パターンを前記蓄電装置に通電可能か否かを判定する判定部とを備える。
【0025】
(6)プログラムは、蓄電装置の充電受入性能及び/又は放電性能を判定するコンピュータに、判定時点における前記蓄電装置の充電状態に基づいて推定される、想定通電パターンを通電後の、前記蓄電装置の開放電圧を取得し、前記蓄電装置の内部抵抗並びに判定時点の充電状態及び温度に基づいて推定される、前記想定通電パターンを通電後の、前記想定通電パターンに起因する電圧変動を取得し、前記想定通電パターンを通電前の前記蓄電装置の分極成分に基づいて推定される、前記想定通電パターンを通電前の通電履歴に起因する電圧変動を取得し、取得した前記開放電圧、前記想定通電パターンに起因する電圧変動及び前記通電履歴に起因する電圧変動に基づいて、前記想定通電パターンを前記蓄電装置に通電可能か否かを判定する処理を実行させる。
【0026】
以下、本開示をその実施の形態を示す図面を参照して具体的に説明する。
【0027】
図1は、本実施形態における判定装置2を備える蓄電装置1の構成例を示すブロック図である。本実施形態において、判定装置2は、複数の電子機器を備える車両に搭載される。判定装置2は、例えば電池管理システム(BMS:Battery Management system )である。判定装置2は、蓄電装置1の電圧値及び蓄電装置1に流れる電流値を含む計測データを取得し、取得した計測データに基づき、蓄電装置1の通電可否を判定する。
【0028】
蓄電装置1は、車両ECU(Electronic Control Unit )8や、エンジン始動用のスターターモータ及び電装品等の負荷9に接続されている。蓄電装置1は、複数の蓄電素子3からなる組電池30を備える。蓄電素子3は、リチウムイオン電池等の二次電池であってもよい。スターターモータが発電機として機能する場合、蓄電装置1はスターターモータから供給される電力(回生電力)によって充電される。また、スターターモータが動力源として機能する場合、蓄電装置1はスターターモータ及び他の電子機器に対して電力供給を行う。
【0029】
判定装置2は、制御部21、記憶部22、電圧計測部23、入力部24、出力部25等を備える。
【0030】
制御部21は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等を備える演算回路である。制御部21が備えるCPUは、ROMや記憶部22に格納された各種コンピュータプログラムを実行し、上述したハードウェア各部の動作を制御することによって、装置全体を本開示の判定装置として機能させる。制御部21は、計測開始指示を与えてから計測終了指示を与えるまでの経過時間を計測するタイマ、数をカウントするカウンタ、日時情報を出力するクロック等の機能を備えていてもよい。
【0031】
記憶部22は、フラッシュメモリ等の不揮発性記憶装置である。記憶部22には各種のコンピュータプログラム及びデータが記憶される。記憶部22に記憶されるコンピュータプログラムには、蓄電装置1の通電可否を判定するための判定プログラム221が含まれる。記憶部22に記憶されるデータには、判定プログラム221において用いられる判定データ222が含まれる。判定データ222には、例えば蓄電装置1に応じた想定通電パターン、シミュレーションで用いられる蓄電装置1の等価回路モデル等が記憶される。想定通電パターンは、充電又は放電に係る通電電流値及び通電時間等を含む。等価回路モデルは、回路構成を示す構成情報、および等価回路モデルを構成する各素子の値等により記述される。記憶部22には、このような等価回路モデルの回路構成を示す構成情報、および等価回路モデルを構成する各素子の値等が記憶される。
【0032】
記憶部22に記憶されるコンピュータプログラム(コンピュータプログラム製品)は、当該コンピュータプログラムを読み取り可能に記録した非一時的な記録媒体Mにより提供されてもよい。記録媒体Mは、CD-ROM、USBメモリ、SD(Secure Digital)カード等の可搬型メモリである。制御部21は、図示しない読取装置を用いて、記録媒体Mから所望のコンピュータプログラムを読み取り、読み取ったコンピュータプログラムを記憶部22に記憶させる。代替的に、上記コンピュータプログラムは通信により提供されてもよい。判定プログラム221は、単一のコンピュータ上で、または1つのサイトにおいて配置されるか、もしくは複数のサイトにわたって分散され、通信ネットワークによって相互接続された複数のコンピュータ上で実行されるように展開することができる。
【0033】
電圧計測部23は、電圧検知線を介して蓄電素子3の両端に夫々接続されている。電圧計測部23は、各蓄電素子3の電圧値を所定時間間隔で計測することにより、各蓄電素子3の電圧や組電池30の総電圧を取得する。制御部21は、電圧計測部23を通じて電圧値を取得する。
【0034】
入力部24は、例えば電流センサ及び温度センサ等を含む各種センサ7を接続するためのインタフェースを備える。入力部24は、電流センサが所定時間間隔で計測した電流に関する信号、温度センサにより計測された蓄電素子3ないし蓄電装置1の温度に関する信号等を受け付ける。制御部21は、入力部24を通じて電流値及び温度データを取得する。
【0035】
出力部25は、車両ECUと通信する通信インタフェースを備える。制御部21は、蓄電装置1における通電可否の判定結果が得られた場合、判定結果に基づく情報を出力部25から車両ECUへ出力する。車両ECUは、判定装置2から取得した情報に基づき、各種処理を実行する。
【0036】
代替的に、出力部25は、表示装置を接続するためのインタフェースを備えてもよい。表示装置の一例は、液晶ディスプレイ装置である。制御部21は、蓄電装置1における通電可否の判定結果が得られた場合、判定結果に基づく情報を出力部25から表示装置へ出力する。表示装置は、出力部25から出力される情報に基づき判定結果を表示する。
【0037】
出力部25は、外部装置と通信する通信インタフェースを備えてもよい。出力部25に通信可能に接続される外部装置は、ユーザや管理者等が使用するパーソナルコンピュータ、スマートフォンなどの端末装置である。制御部21は、蓄電装置1における通電可否の判定結果が得られた場合、判定結果に基づく情報を出力部25から端末装置へ送信する。端末装置は、出力部25より送信される情報を受信し、受信した情報に基づき自装置のディスプレイに推定結果を表示させる。判定装置2は、蓄電装置1における通電可否の判定結果をユーザに報知するために、LEDランプやブザー等の報知部を備えてもよい。
【0038】
図1は、判定装置2がBMSである例を示す。代替的に、判定装置2は、離れた場所に配置されてもよい。判定装置2は、蓄電素子3から離れた場所にあって、BMSと通信接続されるサーバ装置や、ECUを含んでもよい。通電可否の判定を行う場所は限定されず、例えばサーバ装置やECUで行ってもよい。
【0039】
図1は、蓄電装置1として、リチウムイオン二次電池である蓄電素子3を備える車載用の低電圧電源を示す。蓄電素子3は、分極特性を有する他の二次電池や電気化学セルであってもよい。
【0040】
図2は、判定装置2の構成例を示す機能ブロック図である。判定装置2の制御部21は、記憶部22に記憶された判定プログラム221を読み出して実行することにより、開放電圧取得部(第1取得部)211、パターン電圧取得部(第2取得部)212、分極電圧取得部(第3取得部)213、予測電圧取得部214及び判定部215として機能する。
【0041】
図3は、放電時における蓄電装置1の等価回路モデルの一例を示す回路図である。図4は、想定通電パターンが放電である場合における、通電履歴のない蓄電装置1の想定通電パターンに係る判定方法を説明する説明図である。図5は、想定通電パターンが放電である場合における、充放電履歴のある蓄電装置1の想定通電パターンに係る判定方法を説明する説明図である。図4及び図5に示すグラフのうち、上側のグラフは通電に伴う蓄電装置1の電圧値の時間変化を、真ん中のグラフは通電に伴う蓄電装置1の電流値の時間変化を、下側のグラフは通電可否の判定結果の時間変化をそれぞれ示す。図2から図5を用いて、本実施形態における通電可否の判定方法を具体的に説明するとともに、制御部21の各機能部の機能を説明する。
【0042】
等価回路モデルは、蓄電装置1の電圧源及び抵抗やコンデンサなどの回路素子を組合せ、蓄電装置1の充放電挙動を模擬するものである。図3に一例として示す等価回路モデルは、蓄電装置1としてリチウムイオン電池を用いたときのモデルである。等価回路モデルは、正極端子と負極端子との間に直列に接続される定電圧源、直流抵抗成分を模擬するための直流抵抗器、及び過渡的な分極特性を模擬するためのRC並列回路を備える。
【0043】
定電圧源は、直流電圧を出力する電圧源である。定電圧源が出力する電圧は、蓄電装置1の開放電圧(OCV:Open Circuit Voltage)であり、Vocvと記載する。開放電圧Vocvは、例えばSOCの関数として与えられる。開放電圧Vocvは、蓄電装置1の実容量の関数として与えられてもよい。
【0044】
直流抵抗器は、蓄電装置1の直流抵抗成分(直流インピーダンス)を模擬するためのものであり、抵抗素子R0を含む。抵抗素子R0は、通電電流、電圧、SOC、温度などに応じて変動する値として与えられる。直流抵抗器のインピーダンスが定まれば、この等価回路モデルに電流Iが流れたときに直流抵抗器に発生する電圧を計算できる。直流抵抗器に発生する電圧を、直流抵抗電圧Vz0とする。
【0045】
RC並列回路は、並列に接続された抵抗素子R1及び容量素子C1から構成される。RC並列回路を構成する抵抗素子R1及び容量素子C1は、蓄電装置1のSOC、温度などに応じて変動する値として与えられる。抵抗素子R1及び容量素子C1によって、RC並列回路のインピーダンスが定まる。RC並列回路のインピーダンスが定まれば、この等価回路モデルに電流Iが流れたときにRC並列回路に発生する電圧を計算できる。RC並列回路に発生する電圧を分極電圧Vz1とする。
【0046】
以上の等価回路モデルにおいて、放電時に発生する端子電圧Vは、直流抵抗電圧Vz0、分極電圧Vz1、及び開放電圧Vocvを用いて、下記(1)(2)式で表すことができる。
V=Vocv-(Vz0+Vz1)…(1)
Vocv=Vocv_start-ΔVocv…(2)
ここで、Vocv_startは放電開始前(シミュレーション開始前)における開放電圧Vocv、ΔVocvは放電開始時点からシミュレーション時点までにおける開放電圧Vocvの変化量である。直流抵抗電圧Vz0及び分極電圧Vz1は、放電方向(正極端子から負極端子へ向かう方向)を正とする。
【0047】
上記等価回路モデルを構成する抵抗素子R0、抵抗素子R1及び容量素子C1(以下、回路パラメータとも称する)は公知の手法により得られる。回路パラメータは、例えばバッテリ試験の実測データを基に、温度及びSOC等の関係を考慮して設定できる。判定装置2は、得られた回路パラメータと、温度及びSOC等とを対応付けて判定データ222に記憶している。
【0048】
図3に示す等価回路モデルを用いることで、図4に示す如く充放電履歴のない場合における蓄電装置1に想定通電パターンを通電した際の電圧挙動を予測できる。充放電履歴のない場合とは、想定通電パターンの通電前において、蓄電装置1に充放電電流(通電電流)が流れていない場合を意味する。充放電履歴のない場合とは、想定通電パターンの通電前において、蓄電装置1を流れる電流量が閾値以下である場合、及び蓄電装置1を流れる電流量が暗電流程度に小さい場合を含んでもよい。図4に示すように、蓄電装置1に充放電電流が流れていない状態から、想定通電パターン(図4の例では、放電電流200Aで10秒間)による通電を想定した場合、蓄電装置1に流れる電流値は、判定時点(判定処理を行う現在の時点)を基準に通電前の0Aから200Aに変化し、所定の通電時間経過後の時点(通電後の時点)を基準に再び0Aに変化する。この蓄電装置1における端子電圧Vは、通電前のOCV電圧から放電(想定通電パターンによる通電)に伴い低下する。想定通電パターンを通電後の時点における端子電圧V_pは、上記式(1)(2)により、想定通電パターンを通電後の時点における開放電圧Vocv_pから、電圧変動値Vz0_p+Vz1_pを減算することで算出できる。
【0049】
上述の処理により得られる端子電圧V_pは、想定通電パターンを通電前において充放電履歴のない場合の予測値である。実際の車両使用中では、充放電履歴のある場合での電圧挙動を模擬する必要がある。充放電履歴のある場合とは、運転中に蓄電装置1へ充放電電流が流れ続けている場合、すなわち想定通電パターンの通電前において、蓄電装置1に充放電電流が流れている場合を意味する。充放電履歴のある場合、図5に示すように、蓄電装置1に流れる電流値は、判定時点において、当初の0Aから通電前の充放電履歴に起因した電流値へ増加している。想定通電パターンによる通電を想定した場合、電流値は、判定時点を基準に200Aに変化し、通電後の時点を基準に再び0Aに変化する。この蓄電装置1における端子電圧Vは、当初のOCV電圧から通電前の充放電履歴に起因して低下した後、判定時点から想定通電パターンによる放電に伴いさらに低下する。
【0050】
充放電履歴のある場合、上記等価回路モデルにおけるRC並列回路の容量素子C1に蓄積又は放出される電荷量に応じて分極電圧Vz1が変化する。この変化を反映するため、上記(1)式において、分極電圧Vz1を逐次計算する必要があり、演算負荷が増大する。本実施形態では、判定時点における蓄電装置1の電圧の計測値に基づき、簡易な手法にて充放電履歴に応じた分極電圧Vz1を算出する。算出した分極電圧Vz1を、等価回路モデルによる充放電履歴のない予測電圧値にオフセットとして加味することで、充放電履歴を考慮した電圧値を効率的に推定する。以下に、本実施形態における電圧値の推定方法及び当該電圧値による通電可否の判定方法を詳述する。
【0051】
図2において、開放電圧取得部211は、充放電履歴のない場合における、想定通電パターンを通電後の開放電圧Vocv_pを取得する。開放電圧Vocv_pは、判定時点における開放電圧Vocvから、想定通電パターンによる開放電圧の変化量ΔVocvを減算することで得られる。判定時点とは、判定処理を実行する現在の時点であり、想定通電パターンの通電前の時点である。
【0052】
開放電圧取得部211は、バッテリ試験の実測データ等に基づき得られる、想定通電パターンに応じた蓄電装置1のSOC及びΔVocvの関係を予め記憶している。開放電圧取得部211は、判定時点における蓄電装置1のSOCに基づき、判定時点におけるSOCに応じた開放電圧Vocvと、想定通電パターンによるΔVocvとを特定する。判定時点における開放電圧Vocvは、判定時点におけるSOCを用いて、予め記憶するSOC-OCV曲線に基づき特定できる。開放電圧取得部211は、特定した開放電圧VocvからΔVocvを減算することにより、想定通電パターンを通電後の開放電圧Vocv_pを算出する。得られた開放電圧Vocv_pは、予測電圧取得部214へ出力される。
【0053】
開放電圧取得部211は、蓄電装置1の計時劣化を考慮するため、判定時点における蓄電装置1の実容量(満充電容量)を取得し、取得した蓄電装置1の実容量を加味した判定時点におけるSOC(相対的SOC)に基づき開放電圧Vocv_pを算出してもよい。相対的SOCを用いることにより、蓄電装置1の初期の実容量を基に算出したSOC(絶対的SOC)を用いる場合に比べて推定精度を向上できる。
【0054】
パターン電圧取得部212は、充放電履歴のない場合における、想定通電パターンに起因する電圧変動を取得する。想定通電パターンに起因する電圧変動とは、等価回路モデルを用いた場合における、想定通電パターンを通電後の直流抵抗電圧Vz0_p及び分極電圧Vz1_pの合計値である。ここで、直流抵抗電圧Vz0_pは、蓄電装置1のオーム性内部抵抗による第1電圧変動に相当する。分極電圧Vz1_pは、蓄電装置1の非オーム性内部抵抗による第2電圧変動に相当する。放電時において、想定通電パターンに起因する電圧変動は降下電圧値である。
【0055】
パターン電圧取得部212は、判定時点における蓄電装置1のSOC及び温度に基づき決定される内部抵抗と、想定通電パターンの電流値とを用いて、想定通電パターンを通電後の電圧変動値Vz0_p+Vz1_pを取得する。内部抵抗(回路パラメータ)は、抵抗素子R0、抵抗素子R1及び容量素子C1を含む。想定通電パターンが放電の場合、電圧変動値は、電圧降下値となる。内部抵抗は、実測データに基づき設定される初期値を用いてもよいが、蓄電装置1の計時劣化を考慮し、初期値にマージンを加味した値を用いることが好ましい。得られた電圧変動値Vz0_p+Vz1_pは、予測電圧取得部214へ出力される。
【0056】
分極電圧取得部213は、等価回路モデルを用い、想定通電パターンを通電前の充放電履歴に起因する分極電圧Vz1を取得する。分極電圧取得部213は、判定時点における端子電圧V、開放電圧Vocv及び直流抵抗電圧Vz0に基づき、開放電圧Vocvから端子電圧Vを減算して得られる値から、直流抵抗電圧Vz0を減算することにより、判定時点における分極電圧Vz1を算出する。ここで、分極電圧Vz1は、想定通電パターンを通電前の充放電履歴に起因する電圧変動に相当する。開放電圧Vocvと端子電圧Vとの差分は、蓄電装置1の分極成分に相当する。直流抵抗電圧Vz0は、蓄電装置1のオーム性内部抵抗に相当する。放電時において、分極電圧Vz1は降下電圧値である。
【0057】
判定時点における端子電圧Vは、判定時点における蓄電装置1の電圧値の計測データを用いることができる。判定時点における開放電圧Vocvは、判定時点におけるSOC及び温度を用いて、予め記憶するSOC-OCV曲線に基づき得られる。この場合において、蓄電装置1の計時劣化を考慮するため、判定時点における蓄電装置1の実容量を加味した相対的SOCを用いることが好ましい。判定時点における直流抵抗電圧Vz0は、判定時点における蓄電装置1の電流値の計測データと、予め判定データ222に記憶する抵抗素子R0の値とを乗算することで得られる。得られた分極電圧Vz1は、予測電圧取得部214へ出力される。
【0058】
予測電圧取得部214は、想定通電パターンを通電後の開放電圧Vocv_p、想定通電パターンに起因する電圧変動値Vz0_p+Vz1_p、及び通電前の充放電履歴に起因する分極電圧Vz1に基づき、想定通電パターンを通電後の電圧値V_pを取得する。予測電圧取得部214は、開放電圧Vocv_p及び電圧変動値Vz0_p+Vz1_pに基づき、等価回路モデルを用い上記式(1)により電圧値V_pを算出する。予測電圧取得部214は、算出した電圧値V_pから、分極電圧Vz1をオフセットとして減算することで、充放電履歴を考慮した最終的な電圧値V_pを予測する。予測電圧取得部214は、取得した想定通電パターンを通電後の蓄電装置1における電圧値V_pを、判定部215に出力する。
【0059】
予測電圧取得部214は、蓄電装置1の放電時において、分極電圧Vz1のオフセット条件を分極電圧Vz1≧0としてよい。分極電圧Vz1が充電方向の成分である場合(Vz1<0)には、放電電流を通電することにより容量素子C1における電荷蓄積が解消されるため、分極電圧Vz1を考慮する必要がない。
【0060】
予測電圧取得部214は、予め記憶する減衰率α(0≦α≦1)を用いて、オフセットとして加味する分極電圧Vz1を減衰させることが好ましい。判定時点における分極電圧Vz1の通電後(所定時間後)の時点に与える影響は、経過時間が長い程小さくなる。従って、分極電圧Vz1に減衰率αを乗算して得られた値をオフセットとして加味することで、より最終的な電圧値V_pの推定精度を向上できる。
【0061】
判定部215は、予め規定される閾値と、予測電圧取得部214にて予測された電圧値V_pとに基づき、想定通電パターンによる通電の可否を判定する。予め規定される閾値は、例えば自動運転動作に係る電圧値の下限値(例えば10V)であってもよい。得られた電圧値V_pが閾値を下回らない場合、判定部215は、想定通電パターンによる通電(自動運転動作の継続)は可能であると判定する。得られた電圧値V_pが閾値を下回る場合、判定部215は、想定通電パターンによる通電は不可であると判定する。判定部215は、判定結果に基づく情報を出力部25から車両ECUへ出力する。
【0062】
車両ECUは、自動運転動作の継続可能との判定結果を取得した場合、自動運転を継続する。車両ECUは、自動運転動作の継続不可との判定結果を取得した場合、他の車両ECU及び/又は車載機器へ信号を出力し、即座に縮退動作へ移行する。判定装置2は、簡易な計算手法により通電可否を効率的に判定できるため、車両に対し速やかに判定結果を出力できる。
【0063】
上記では、想定通電パターンが放電である場合の例を説明した。判定装置2は、想定通電パターンが充電である場合も同様に通電可否の判定処理を実行する。図6は、充電時における蓄電装置1の等価回路モデルの一例を示す回路図である。図7は、想定通電パターンが充電である場合における、通電履歴のない蓄電装置1の想定通電パターンに係る判定方法を説明する説明図である。図8は、想定通電パターンが充電である場合における、充放電履歴のある蓄電装置1の想定通電パターンに係る判定方法を説明する説明図である。図6及び図7に示すグラフのうち、上側のグラフは通電に伴う蓄電装置1の電圧値の時間変化を、真ん中のグラフは通電に伴う蓄電装置1の電流値の時間変化を、下側のグラフは通電可否の判定結果の時間変化をそれぞれ示す。
【0064】
図6に示す等価回路モデルにおいて、充電時に発生する端子電圧Vは、直流抵抗電圧Vz0、分極電圧Vz1、及び開放電圧Vocvを用いて、下記(3)(4)式で表すことができる。
V=Vocv+(Vz0+Vz1)…(3)
Vocv=Vocv_start+ΔVocv…(4)
ここで、Vocv_startは放電開始前(シミュレーション開始前)における開放電圧Vocv、ΔVocvは放電開始時点からシミュレーション時点までにおける開放電圧Vocvの変化量である。直流抵抗電圧Vz0及び分極電圧Vz1は、充電方向(負極端子から正極端子へ向かう方向)を正とする。
【0065】
図6に示す等価回路モデルを用いることで、図7に示す如く充放電履歴のない場合における蓄電装置1に想定通電パターンを通電した際の電圧挙動を予測できる。図7に示すように、蓄電装置1に充放電電流が流れていない状態から、想定通電パターン(図7の例では、充電電流200Aで10秒間)による通電を想定した場合、蓄電装置1に流れる電流値は、判定時点(現時点)を基準に通電前の0Aから200Aに変化し、所定の通電時間経過後の時点(通電後の時点)を基準に再び0Aに変化する。この蓄電装置1における端子電圧Vは、通電前のOCV電圧から放電(想定通電パターンによる通電)に伴い低下する。想定通電パターンを通電後の時点における端子電圧V_pは、上記式(3)(4)により、想定通電パターンを通電後の時点における開放電圧Vocv_pに、電圧変動値Vz0_p+Vz1_pを加算することで算出できる。
【0066】
充放電履歴のある場合、図8に示すように、蓄電装置1に流れる電流値は、判定時点において、当初の0Aから通電前の充放電履歴に起因した電流値へ低下している。想定通電パターンによる通電を想定した場合、電流値は、判定時点を基準に200Aに変化し、通電後の時点を基準に再び0Aに変化する。この蓄電装置1における端子電圧Vは、当初のOCV電圧から通電前の充放電履歴に起因して増加した後、判定時点から想定通電パターンによる放電に伴いさらに増加する。
【0067】
判定装置2は、上述の想定通電パターンが放電である場合と同様の手法により、等価回路モデルによる充放電履歴のない予測電圧値に、判定時点における電圧の計測値に基づき算出した分極電圧Vz1をオフセットとして加味することで、充放電履歴を考慮した最終的な電圧値を推定する。
【0068】
想定通電パターンが充電である場合において、パターン電圧取得部212は、充放電履歴のない場合における、想定通電パターンに起因する電圧変動値Vz0_p+Vz1_pを取得する。放電時において、想定通電パターンに起因する電圧変動は上昇電圧値である。
【0069】
分極電圧取得部213は、判定時点における端子電圧V、開放電圧Vocv、及び直流抵抗電圧Vz0に基づき、端子電圧Vから開放電圧Vocvを減算して得られる値に、直流抵抗電圧Vz0を減算することにより、判定時点における分極電圧Vz1を算出する。ここで、端子電圧Vと開放電圧Vocvとの差分は蓄電装置1の分極成分に相当する。充電時において、分極電圧Vz1は上昇電圧値である。
【0070】
予測電圧取得部214は、開放電圧Vocv_p及び電圧変動値Vz0_p+Vz1_pに基づき、等価回路モデルを用い上記式(3)により電圧値V_pを算出する。予測電圧取得部214は、算出した電圧値V_pに、分極電圧Vz1をオフセットとして加算することで、充放電履歴を考慮した最終的な電圧値V_pを予測する。
【0071】
蓄電装置1の充電時において、分極電圧Vz1のオフセット条件は、放電時と同様に分極電圧Vz1≧0であってよい。蓄電装置1の充電時において、分極電圧Vz1が放電方向の成分である場合(Vz1<0)には、充電電流を通電することにより容量素子C1における電荷蓄積が解消されるため、分極電圧Vz1を考慮する必要がない。蓄電装置1の充電時においても、放電時と同様に、減衰率α(0≦α≦1)を用いて、オフセットとして加味する分極電圧Vz1を減衰させることが好ましい。
【0072】
判定部215は、予め規定される閾値と、予測電圧取得部214にて予測された電圧値V_pとに基づき、想定通電パターンによる通電の可否を判定する。予め規定される閾値は、例えば充電受入可能な電圧値の上限値(例えば16V)であってもよい。得られた電圧値V_pが閾値を上回らない場合、判定部215は、想定通電パターンによる通電(過渡的な充電による充電受入)は可能であると判定する。得られた電圧値V_pが閾値を上回る場合、判定部215は、想定通電パターンによる通電は不可であると判定する。判定部215は、判定結果に基づく情報を出力部25から車両ECUへ出力する。
【0073】
車両ECUは、過渡的な充電による充電受入が可能との判定結果を取得した場合、過渡的な充電による充電受入を継続する。車両ECUは、過渡的な充電による充電受入による充電受入が不可との判定結果を取得した場合、他の車両ECU及び/又は車載機器へ信号を出力し、上述の縮退動作を実行させる。上述の処理によれば、放電時のみならず充電時においても想定通電パターンに伴う電圧値を効率的に予測することができるため、予測結果に応じて蓄電装置1への充放電電流を好適に制御できる。
【0074】
上記では、電圧値に係る閾値に基づき通電可否を判定する例を説明した。代替的に、閾値は、例えば充電受入可能な電流値の上限値(例えば100A)であってもよい。判定装置2は、想定通電パターンと、蓄電装置1の計測データ等とに基づき、想定通電パターンを通電した場合における、充電受入可能な電流値を予測する。判定装置2は、予測した充電受入可能な電流値と閾値とを比較することにより、通電可否を判定する。
【0075】
図9は、判定処理手順の一例を示すフローチャートである。判定装置2の制御部21は、例えば車両の使用中において所定の時間間隔で、判定プログラム221に従って以下の処理を実行する。制御部21は、蓄電装置1に出入りする電流の方向に応じて、放電側及び充電側に係る判定処理を適宜切り替えて実行してよい。
【0076】
判定装置2の制御部21は、電圧計測部23及び入力部24を通じて、判定時点(判定処理を実行する現在の時点)における蓄電装置1の電流値、電圧値及び温度を含む計測データ、並びに当該計測データに応じたSOC及び内部抵抗を取得する(ステップS11)。SOCの算出方法は限定されるものではないが、一例として、制御部21は、電流積算の手法を用いてよい。制御部21は、判定データ222に記憶する情報に基づき、判定時点におけるSOC及び温度等に応じた内部抵抗を取得する。制御部21は、蓄電装置1の計時劣化を考慮するため、判定時点における蓄電装置1の実容量をさらに取得してもよい。制御部21は、不図示の外部装置を介してSOC及び内部抵抗等を取得してもよい。
【0077】
制御部21は、充放電履歴のない場合における、放電側及び/又は充電側の想定通電パターンを通電後の開放電圧Vocv_pを取得する(ステップS12)。放電側の判定処理の場合、制御部21は、判定時点における開放電圧Vocvから、想定通電パターンによる開放電圧の変化量ΔVocvを減算することにより、開放電圧Vocv_pを算出する。充電側の判定処理の場合、制御部21は、判定時点における開放電圧Vocvに、想定通電パターンによる開放電圧の変化量ΔVocvを加算することにより、開放電圧Vocv_pを算出する。
【0078】
制御部21は、充放電履歴のない場合における、想定通電パターンに起因する電圧変動値Vz0_p+Vz1_pを取得する(ステップS13)。制御部21は、判定時点における蓄電装置1のSOC及び温度に基づき決定される内部抵抗と、想定通電パターンの電流値とを用いて、想定通電パターンを通電後の電圧変動値Vz0_p+Vz1_pを取得する。
【0079】
制御部21は、予め放電側及び/又は充電側の想定通電パターン、蓄電装置1のSOC及び温度等に基づき算出される開放電圧Vocv_p及び電圧変動値Vz0_p+Vz1_pを判定データ222に記憶していてもよい。この場合制御部21は、判定データ222に記憶する情報を参照し、取得した蓄電装置1のSOC及び温度等に応じた開放電圧Vocv_p及び電圧変動値Vz0_p+Vz1_pを取得する。
【0080】
制御部21は、判定時点における端子電圧Vを取得する(ステップS14)。制御部21は、判定時点における蓄電装置1の電圧値の計測データを、判定時点における端子電圧Vとして取得する。
【0081】
制御部21は、予め記憶するSOC-OCV曲線を用いて、判定時点におけるSOC及び温度に基づき、判定時点における開放電圧Vocvを取得する(ステップS15)。
【0082】
制御部21は、判定時点における蓄電装置1の電流値の計測データと、予め判定データ222に記憶する抵抗素子R0の値とを乗算して得られる値を取得することにより、判定時点における直流抵抗電圧Vz0を取得する(ステップS16)。
【0083】
制御部21は、取得した判定時点における端子電圧V、開放電圧Vocv、及び直流抵抗電圧Vz0に基づき、放電側及び/又は充電側の想定通電パターンを通電前の充放電履歴に起因する分極電圧Vz1を取得する(ステップS17)。放電側の判定処理の場合、制御部21は、開放電圧Vocvから端子電圧V及び直流抵抗電圧Vz0を減算して得られる値を、分極電圧Vz1とする。充電側の判定処理の場合、制御部21は、端子電圧Vから開放電圧Vocv及び直流抵抗電圧Vz0を減算して得られる値を、分極電圧Vz1とする。
【0084】
制御部21は、取得した分極電圧Vz1が0以上であるか否か、すなわち分極電圧Vz1がオフセット条件を満たすか否かを判定する(ステップS18)。分極電圧Vz1が0未満であると判定した場合(ステップS18:NO)、制御部21は、オフセット処理をスキップし、処理をステップS20に進める。
【0085】
分極電圧Vz1が0以上であると判定した場合(ステップS18:YES)、制御部21は、取得した分極電圧Vz1に減衰処理を施したオフセット値を取得する(ステップS19)。制御部21は、ステップS17において取得した分極電圧Vz1に、予め記憶する減衰率αを乗算して得られる値を、分極電圧Vz1のオフセット値として取得する。計算の簡易のため、ステップS19の処理は省略してもよい。
【0086】
制御部21は、想定通電パターンを通電後の開放電圧Vocv_p、想定通電パターンに起因する電圧変動値Vz0_p+Vz1_p、及び通電前の充放電履歴に起因する分極電圧Vz1に基づき、想定通電パターンを通電後の電圧値V_pの予測値を取得する(ステップS20)。放電側の判定処理の場合、制御部21は、開放電圧Vocv_pから電圧変動値Vz0_p+Vz1_pを除算して得られた電圧値V_pに対し、分極電圧Vz1をオフセットとして減算することで、最終的な電圧値V_pを算出する。充電側の判定処理の場合、制御部21は、開放電圧Vocv_pに電圧変動値Vz0_p+Vz1_pを加算して得られた電圧値V_pに対し、分極電圧Vz1をオフセットとして加算することで、最終的な電圧値V_pを算出する。
【0087】
制御部21は、予測した電圧値V_pに基づき、想定通電パターンによる通電の可否を判定する(ステップS21)。制御部21は、予測した電圧値V_pと、予め規定される閾値との大小関係を判断し、予測した電圧値V_pが閾値以上であるか否かを判断する。放電側の判定処理の場合において、予測した電圧値V_pが閾値(例えば自動運転動作に係る電圧値の下限値)以上であるとき、制御部21は、想定通電パターンによる放電を可能と判定する。充電側の判定処理の場合において、予測した電圧値V_pが閾値(例えば充電受入可能な電圧値の上限値)未満であるとき、制御部21は、想定通電パターンによる充電を可能と判定する。
【0088】
制御部21は、判定結果に基づく情報を出力部25から車両ECUへ出力し、一連の処理を終了する(ステップS22)。制御部21は、処理をステップS11に戻し、判定処理を繰り返してもよい。
【0089】
車両ECUは、判定装置2から判定結果を受信することにより、縮退動作への移行等の処理を実行できる。
【0090】
上記の各実施形態に示したシーケンスは限定されるものではなく、各処理手順は処理内容に矛盾の無い範囲でその順序を変更して実行されてもよく、また並行して複数の処理が実行されてもよい。
【0091】
判定方法、判定装置及びプログラムは、車両以外の用途にも適用可能であり、航空機、フライイングビークル、HAPS(High Altitude Platform Station)等の飛行体に適用されてもよいし、船舶や潜水艦に適用されてもよい。判定方法、判定装置及びプログラムは、高度な安全性が求められる(リアルタイム計算が求められる)移動体に適用することが好ましいが、移動体に限らず、定置用蓄電装置に適用されてもよい。
【0092】
今回開示した実施の形態は、全ての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。各実施例にて記載されている技術的特徴は互いに組み合わせることができ、本発明の範囲は、特許請求の範囲内での全ての変更及び特許請求の範囲と均等の範囲が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0093】
1 蓄電装置
2 判定装置
21 制御部
22 記憶部
23 電圧計測部
24 入力部
25 出力部
221 判定プログラム
222 判定データ
M 記録媒体
3 蓄電素子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9