(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022177701
(43)【公開日】2022-12-01
(54)【発明の名称】リポソーム分散液およびリポソーム分散液を含む化粧料、皮膚外用剤
(51)【国際特許分類】
A61K 8/65 20060101AFI20221124BHJP
A61K 8/55 20060101ALI20221124BHJP
A61K 8/34 20060101ALI20221124BHJP
A61K 8/04 20060101ALI20221124BHJP
【FI】
A61K8/65
A61K8/55
A61K8/34
A61K8/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021084132
(22)【出願日】2021-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】593106918
【氏名又は名称】株式会社ファンケル
(71)【出願人】
【識別番号】390010205
【氏名又は名称】協和ファーマケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】寺西 諒真
(72)【発明者】
【氏名】安田 純子
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AB051
4C083AB052
4C083AC121
4C083AC122
4C083AD431
4C083AD432
4C083AD571
4C083AD572
4C083BB07
4C083CC02
4C083CC03
4C083CC04
4C083DD45
4C083EE01
4C083EE12
(57)【要約】
【課題】微生物に対する保存効力性と、長期保管性とに優れたリポソーム分散液と、このリポソーム分散液を含む皮膚外用剤を提供すること。
【解決手段】(A)水、(B)水添レシチン、(C)ブチレングリコール、(D)加水分解コラーゲンを含有するリポソームと、(E)ペンチレングリコールを含むリポソーム分散液、およびこのリポソーム分散液を含む化粧料、皮膚外用剤。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)水、(B)水添レシチン、(C)ブチレングリコール、(D)加水分解コラーゲンを含有するリポソームと、(E)ペンチレングリコールを含むことを特徴とするリポソーム分散液。
【請求項2】
リポソーム分散液100質量%に対し、(E)成分を2.5質量%以上含むことを特徴とする請求項1に記載のリポソーム分散液。
【請求項3】
(B)成分と(D)成分の質量比が1:0.2~1:1.1の範囲内であることを特徴とする請求項1または2に記載のリポソーム分散液。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかを満たすリポソーム分散液を含む化粧料または皮膚外用剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リポソーム分散液と、このリポソーム分散液を含む化粧料、皮膚外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
リポソームとはリン脂質からなる脂質二重膜の単層、または複数層からなるカプセル構造のことをいう。リン脂質の分子は松葉のような形をしていて、リン酸部分が親水性、脂肪酸エステル部分が疎水性という2つの性質を併せ持っているので、水に放たれると、疎水性の部分が内側に集まり、親水性の部分が外側に向くことで脂質二重膜となり、球形のリポソームを形成する。リポソームは、水溶性の薬効成分をその親水性の部分に、油溶性の薬効成分をその疎水性の部分に閉じこめることができる。
リポソームは、大きさ100~300nm(0.1~0.3μm)程度が一般的であり、ナノサイズの粒子であることから、リポソームに保持された成分は皮膚浸透性が向上することが知られている。また感触にも優れることから、皮膚外用剤の効果向上や使用感改善に幅広く配合されている。
【0003】
一方、リポソーム原料は、一般的に微生物汚染が起こりやすいことで知られており、長期的な安定保管が困難であることが知られている。そのため、リポソーム原料には、一般的に防腐剤が併せて配合されている。例えば、特許文献1には、ソルビン酸およびサリチル酸またはその水溶性塩の組み合わせを配合した微生物汚染に対する保存効力に優れたリポソーム製剤が提案されている。しかしながら、特許文献1で用いられているソルビン酸、サリチル酸は、皮膚刺激の点から好ましくなく、また、他の防腐剤に置き換えるにしても、昨今、防腐剤に対してアレルギー反応や忌避感を示す消費者が一定数存在することから、防腐剤を配合することは、決して好ましいものとはされていない。
特許文献2には、疎水性のアルカンジオールを含有したリポソームを含む組成物が提案されている。しかし、疎水性のアルカンジオールは、経時的にその疎水性部分がリポソームの脂質二重膜に取り込まれ、リポソーム自体の安定性が損なわれることが懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2003-535030号公報
【特許文献2】特開2012-072065号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
微生物に対する保存効力と、長期保管性とに優れたリポソーム分散液と、このリポソーム分散液を含む化粧料、皮膚外用剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、(A)水、(B)水添レシチン、(C)ブチレングリコール、(D)加水分解コラーゲンを含有するリポソームと、(E)ペンチレングリコールを含むことを特徴とするリポソーム分散液の発明、及びこのリポソーム分散液を含む化粧料、皮膚外用剤である。
【0007】
(A)水は分散媒であり、(C)ブチレングリコールは(B)水添レシチンの溶剤(溶媒)として働く。(E)ペンチレングリコールは抗菌作用を有する成分である。従来技術においては、ペンチレングリコールをリポソーム分散液に配合すると、経時的にリポソームの粒径が変化し、40℃2ヶ月保管の前後での粒径変化が20%を超え、やがてリポソーム自体が壊れる原因となった。
【0008】
本発明の構成(A)水、(B)水添レシチン、(C)ブチレングリコール、(D)加水分解コラーゲンを含有するリポソームとすることで、保存効力(防腐)を高めるために分散液に含有させた(E)ペンチレングリコールによるリポソーム粒子の不安定化(経時的に粒径が変化し、やがて壊れる要因となる)が生じず、本発明のリポソーム分散液は保管安定性に優れるものとなる。なお、本発明においては、リポソームの保管安定性の良し悪しをリポソームの粒径の変化率で判断する。すなわち、リポソームの粒径の変化率が小さいもの(保管前後での粒径変化が全て±20%以内であるもの)は、リポソーム自体が壊れないので保管安定性が良好となる。
【0009】
本発明のリポソーム分散液は、リポソーム自体が壊れない点と、保存効力(防腐性)が高い点の2つの側面から保管安定性に極めて優れたものである。本発明のリポソーム分散液は、化粧品や皮膚外用剤の原料として長期間ストックでき、リポソーム分散液の煩雑な製造をまとめて行えるので、製造コストを下げることができる有用な技術である。本発明のリポソーム分散液を含有する化粧料や皮膚外用剤は、皮膚安全性に優れ、優れた使用感となる。また、本発明のリポソーム分散液は、そのままでも、皮膚刺激のない使用感の良好な化粧料や皮膚外用剤として提供することができる。
【0010】
本発明の課題を解決するための主な手段は、次のとおりである。
1.(A)水、(B)水添レシチン、(C)ブチレングリコール、(D)加水分解コラーゲンを含有するリポソームと、(E)ペンチレングリコールを含むことを特徴とするリポソーム分散液。
2.リポソーム分散液100質量%に対し、(E)成分を2.5質量%以上含むことを特徴とする1.に記載のリポソーム分散液。
3.(B)成分と(D)成分の質量比が1:0.2~1:1.1の範囲内であることを特徴とする1.または2.に記載のリポソーム分散液。
4.1.~3.のいずれかを満たすリポソーム分散液を含む化粧料または皮膚外用剤。
【0011】
5.加水分解コラーゲンを有効成分とする、炭素数5以上の多価アルコールを含むリポソーム分散液の保存安定剤。
【発明の効果】
【0012】
本発明のリポソーム分散液は、微生物に対する保存効力に優れている。また、長期保管した後もリポソームの変化は少なく、保管安定性に優れている。
本発明のリポソーム分散液は、抗菌剤を実質的に配合せずとも微生物に対する保存効力に優れ、また、長期に亘って保管することができるため、例えば化粧品の原料としてストックすることができる。従来のリポソーム、リポソーム分散液は、配合成分の影響を受けやすく、防腐性、粒子安定性の2つの観点から良好に長期保存することができず、最終形態の化粧料や皮膚外用剤を製造するときにリポソーム分散液をその都度調製する必要があったが、本発明のリポソーム分散液であれば、ストックが可能であるため、煩雑な製造工程を頻繁に行う必要がなく、化粧料や皮膚外用剤に好適に用いることができる。本発明のリポソーム分散液は、抗菌力のある多価アルコールにより微生物に対する保存効力が高められており、さらに、リポソームの粒径の変化といったリポソーム分散液の不安定化が抑制された保存安定性の高い、いわゆる防腐剤を含有しないリポソーム分散液のため、それを含む化粧料や皮膚外用剤も当然皮膚安全性に優れたものとなる。
本発明の化粧料、皮膚外用剤は、保湿性のある使用感の良好なものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例1のリポソーム分散液を、2ヶ月保管した前後の粒径変化を示す図。
【
図2】比較例1のリポソーム分散液を、2ヶ月保管した前後の粒径変化を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
「リポソーム分散液」
本発明のリポソーム分散液は、(A)水、(B)水添レシチン、(C)ブチレングリコール、(D)加水分解コラーゲンを含有するリポソームと、(E)ペンチレングリコールを含む。
【0015】
・リポソーム
本発明のリポソームは、(A)水、(B)水添レシチン、(C)ブチレングリコール、(D)加水分解コラーゲンを含有する。
(A)水
水は、リポソーム分散液の主媒体であり、精製水、脱イオン水、純水等を用いることができる。水の含有量は、本発明のリポソーム分散液全体100質量%に対し、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。
【0016】
(B)水添レシチン
水添レシチンは、リン脂質であり、リポソームの脂質二重膜の主たる構成要素である。水添レシチンは、卵黄レシチンや大豆レシチン等の天然のレシチン中の不飽和炭素鎖の一部ないしは全部を水素添加により飽和結合に変えた水素添加レシチン、あるいは、合成したホスファチジルコリンの水素添加物が挙げられる。水添レシチンは、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中で大豆レシチン由来の水添大豆レシチンが好ましい。
水添レシチンの配合量は、本発明のリポソーム分散液100質量%に対し、0.01質量%以上5質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上3質量%以下であることがより好ましい。
【0017】
水添レシチンの市販品としては、日光ケミカルズ株式会社製 レシノールS-10M(ホスファチジルコリン含量55~65%)、レシノールS-10E(ホスファチジルコリン含量75~85%)、日清オイリオ株式会社製 ベイシスLP-60HR(ホスファチジルコリン含量65~75%)、日本油脂株式会社製 COATSOME NC-61(ホスファチジルコリン含量60%以上)、キューピー株式会社製 卵黄レシチンPL100P(ホスファチジルコリン含量約80%)等が挙げられる。
また、本発明の効果を妨げない範囲において、非水添レシチン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジン酸、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール等の他のリン脂質を併用することもでき、例えば、水添レシチン100質量%に対し、他のリン脂質10質量%以下で併用することができる。
【0018】
(C)ブチレングリコール
ブチレングリコールは、リポソーム分散液を調製する際に(B)水添レシチンの溶媒として使用する。
ブチレングリコールの含有量は、リポソーム分散液の調製が容易となるため、(B)水添レシチン1質量%に対して、2質量%以上8質量%以下が好ましく、3質量%以上7質量%以下がより好ましい。
【0019】
(D)加水分解コラーゲン
加水分解コラーゲンは、ペンチレングリコールを含有する本発明のリポソーム分散液の保管安定性を向上させる。加水分解コラーゲンは、ペンチレングリコール等の炭素数5以上の多価アルコールによって生じるリポソーム分散液の不安定化、例えばリポソームの粒径の変化を防止することによって保存安定性を向上させることができる。加水分解コラーゲンは、リポソームを不安定化させるペンチレングリコールに代表される炭素数5以上の多価アルコール共存下において、リポソームの保存安定剤として作用するので、含有させることが必須である。リポソームを長期の保管において不安定化させる炭素数5以上の多価アルコールとしては、ペンチレングリコール、オクタンジオール、ヘキサンジオールなどが例示できる。リポソームの不安定化とは、5、25、40℃に2ヶ月保管した前後でのリポソームの平均粒径を測定し、その変化率を計算して、いずれかが±20%を超えることである。なお、本明細書において、粒径はメジアン径であり、既知の方法、例えば、動的光散乱法等で測定することが可能である。加水分解コラーゲンを含有させることで、リポソームを不安定化させる成分が含有されても、経時的にリポソームの粒径が変化し、やがて壊れることを抑えることができる。
【0020】
加水分解コラーゲンは、コラーゲン又はゼラチンの加水分解物である。本発明の加水分解コラーゲンは、一般的に化粧料へ配合されるものであれば特に限定することなく使用することができ、起源としては豚、牛、鳥などの獣や、魚類、貝類、クラゲ類、海綿類などが例示できる。ただし、臭い、生産性、経済性の観点から、海洋の生物に由来するコラーゲンが好ましい。加水分解の方法は特に制限されず、加水分解酵素による加水分解、酸あるいはアルカリによる加水分解、微生物発酵による加水分解方法のいずれでもよい。本発明で用いる加水分解コラーゲンは低分子量であることが好ましく、具体的にそれらの重量平均分子量は400~1200であることが好ましい。また、本発明で用いる加水分解コラーゲンとしては、トリペプチドを20質量%以上含有するものが好ましい。市販品としてはゼライス社製 CTP-F60(重量平均分子量500、トリペプチド含率≧55%)、CTP-F(重量平均分子量1000、トリペプチド含率≧25%)、CTP-S(重量平均分子量1000、トリペプチド含率≧25%)、CTP-M30(重量平均分子量1000、トリペプチド含率≧25%)等が例示できる。
【0021】
加水分解コラーゲンの含有量は、リポソーム分散液の保管安定性の観点から、(B)水添レシチン1質量部に対して、0.2質量部以上1.1質量部以下が好ましく、0.3質量部以上1質量部以下がより好ましい。すなわち、(B)成分と(D)成分の質量比が1:0.2~1:1.1が好ましく、1:0.3~1:1がより好ましい。
さらに、加水分解コラーゲンは、トリペプチドを20質量%以上含有することが好ましく、30質量%以上含有することがより好ましく、50質量%以上含有することがさらに好ましい。トリペプチドを高い割合で含有することにより、化粧料や皮膚外用剤として用いた際に、コラーゲン合成促進、ヒアルロン酸産生促進効果も期待できる。
【0022】
(E)ペンチレングリコール
ペンチレングリコールは、本発明のリポソーム分散液の微生物に対する保存効力を向上させる。本発明においては、細菌類および酵母についてはISO防腐基準のCriteria Aに記載された基準を満たし、カビについては28日後に初期の菌数を超えないものを、良好な保存効力であると判断する。
下記で詳述するが、ペンチレングリコールは、リポソームを形成した後に配合する。水溶性の成分は一般的にリポソーム内外へと比較的自由に分配されるが、本発明のリポソーム分散液が優れた保存効力性を示すことから、大部分のペンチレングリコールは、リポソームの外相成分として配合されている。
ペンチレングリコールの含有量は、微生物に対する保存効力の観点から、本発明のリポソーム分散液100質量%に対し、2.5質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましい。含有量の上限は、本発明の効果を奏する範囲内であればよいが、例えば、リポソーム分散液100質量%に対し、10質量%以下程度である。
【0023】
本発明で使用するリポソームは、上記した(A)~(D)成分を含む。本発明のリポソームは、この(A)~(D)成分を含めばよく、本発明の効果を阻害しない範囲でその他の成分を含むこともできる。その他の成分としては、リポソームの内相や脂質二重膜の間に含ませる親水性または親油性の薬効成分や、リポソームに温度やpH反応性を付与するための外部応答性化合物、脂質二重膜の一部となるステロールや共重合体等が挙げられる。また、化粧料、医薬部外品、医薬品に用いられる、エタノール等の水溶性有機溶剤、各種の水性または油性の有効成分、ビタミン類、美容成分、美白剤、エモリエント剤、保湿剤、キレート剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、pH調整剤、色剤、香料(精油含む)等が挙げられる。
【0024】
「リポソーム分散液の製造方法」
本発明のリポソーム分散液は、例えば、以下のようにして調製することができる。
まず、(B)水添レシチン、(C)ブチレングリコールを60~95℃に加温し均一に溶解する。これとは別に、(D)加水分解コラーゲンと(A)水とを60~95℃に加温し均一に混合する。加熱温度は、80℃以上が好ましく、85℃以上がより好ましい。一方、加熱温度が高すぎると、各成分が酸化や熱変性をしてしまう場合があるとともに、加熱に要する時間や費用が増加し、(A)水が蒸発して組成比率が変化してしまう場合があるため、加熱温度は90度以下であることが好ましい。
【0025】
(B)、(C)の混合物に対して、(D)、(A)の溶液を撹拌しながら滴下し、その後、高圧微細化装置等を用いて処理し、リポソームを調製する。高圧微細化装置を用いて加える剪断力の大きさにより、リポソームの大きさを調整することができる。リポソームの大きさは、特に制限されないが、小さい方が肌への吸収性に優れるため、動的光散乱法による平均粒径が200nm以下であることが好ましく、150nm以下であることがより好ましい。処理後は、リポソームの形態変化が誘導されないように氷浴等で30℃程度に速やかに冷却することが好ましい。また、リポソーム形成前の液状物に有効成分等を配合することで、リポソームの内相と脂質二重膜の内部に有効成分等を含有させることができる。
最後に、(E)ペンチレングリコール(ペンタンジオール)を配合することで、本発明のリポソーム分散液が得られる。
【0026】
「化粧料、皮膚外用剤」
本発明の化粧料や皮膚外用剤は、上記したリポソーム分散液を含む。このリポソーム分散液は、パラベンなどのいわゆる抗菌剤(防腐剤)を実質的に含有せず、抗菌性を有する多価アルコール(ペンチレングリコール)を含有させることで微生物に対する保存効力に優れたものとなる。また、リポソームの粒径の変化率が小さい、すなわちリポソームの形態が変化せず壊れないので、長期に亘って保管することができるものである。よって、あらかじめリポソーム分散液を調製し、常温でストックしておくことで、一般的な常温保存の各種化粧品原料と同等の扱いで保管できる。化粧品や皮膚外用剤を調製するときには、煩雑なリポソームの製造を何度も繰り返すことなく、原料として用いることができる。本発明の化粧料や皮膚外用剤は、リポソーム原料由来のパラベンなどの防腐剤を含まないので、皮膚安全性に優れたものとなり、優れた使用感となる。なお、本明細書において、防腐剤を含まないとは、意図的に配合しないことを意味し、ある作用の付与を目的として混合物を配合した際に、その混合物に当初から含まれる防腐剤を除外するものではない。
またリポソーム分散液は、そのままで化粧料や皮膚外用剤として提供することができる。
【0027】
本発明の皮膚外用剤は化粧料、医薬部外品、医薬品を含むものであって、化粧水、乳液、クリーム、ジェル等の、溶液状、乳化物状、高分子ゲル状製剤とすることができる。また、泡状製剤、多層状製剤、スプレー製剤、不織布等に含浸させたシートあるいはゲルパック製剤であってもよい。調製したリポソーム分散液をそのまま皮膚外用剤として用いてもよく、化粧水、乳液、クリーム、ジェル等の保湿用皮膚外用剤に、リポソーム分散液を配合してもよい。本発明の皮膚外用剤の剤型は、水溶液、水中油型乳化組成物、油中水型乳化組成物、多重乳化組成物、多層状剤のいずれでもよい。
【0028】
そして、本発明の皮膚外用剤は、その用途に基づいて、化粧料、医薬部外品、医薬品に用いられる他の成分を含有することができる。このような他の成分としては、例えば、エタノール等の水溶性有機溶剤、各種の水性または油性の有効成分、ビタミン類、美容成分、美白剤、エモリエント剤、保湿剤、キレート剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、pH調整剤、色剤、香料(精油含む)などを挙げることができ、本発明の効果を阻害しない範囲で配合することができる。
【実施例0029】
以下、実施例に基づいて本発明について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。また、表中の組成の単位は、質量%を示す。
【0030】
以下の成分の一部あるいは全てと精製水を用いて、試験例1~3、実施例1、2および比較例1のリポソーム分散液を調製した。なお、当該リポソーム分散液はこのまま化粧料または皮膚外用剤として用いることができるものである。
(B)水添レシチン 日本サーファクタント工業社製 「レシノール S-10M Plus」
(C)1,3-ブチレングリコール(BG) ダイセル社製
(D)加水分解コラーゲン ゼライス社製 「CTP-F60」
エクトイン メルク社製 「RonaCare Ectoin」
(E)ペンチレングリコール 高級アルコール工業社製
【0031】
「評価方法」
・微生物に対する保存効力
微生物に対する保存効力の試験は、ISOに規定される手法により実施した。具体的には、細菌類および酵母についてはISO防腐基準のCriteria Aに記載された基準を満たし、カビについては28日後に初期の菌数を超えないものを、良好な保存効力であると判断して○とし、それ以外を×とした。
・保管安定性
リポソーム分散液の平均粒径から評価した。
粒度分布計(大塚電子社製 「ELSZ-1000」)を用いて、動的光散乱法でリポソームの粒径を測定した。5、25、40℃で2ヶ月保管した後に同様にしてリポソームの粒径を測定し、以下の基準で評価した。
○:保管前後での粒径変化が全て±20%以内である。
×:保管前後での粒径変化が±20%を超えるものがある
【0032】
「試験1:(E)ペンチレングリコールの配合量検討」
表1に示す試験例1~3の組成で(B)水添レシチン、(C)ブチレングリコールを計り取り85℃で均一溶解した。この組成物に対して、85℃に加熱した(A)水を撹拌しながら滴下し、その後、ホモミキサー(プライミクス社製、ホモミクサーMARKII、6000rpm)を用いて処理し、リポソームを調製した。その後、氷浴を用いて30℃へと速やかに冷却した。次いで、高圧微細化装置(吉田機械興業社製、NanoVater)で粒径を調整した。(E)ペンチレングリコールを配合し、リポソーム分散液を得た。
結果を表1に示す。
【0033】
【0034】
・結果
(E)ペンチレングリコールを3質量%含有することにより、微生物に対する保存効力が向上した。ただし、いずれも保管安定性は不十分であった。
【0035】
「試験2:(C)加水分解コラーゲンの配合」
表2に示す実施例1、2、比較例1の組成で、(B)水添レシチン、(C)ブチレングリコールを計り取り85℃で均一溶解した。(D)加水分解コラーゲンと(A)水とを85℃に加温し均一に混合した。
(D)、(A)の混合物に対して、(B)、(C)の溶液を撹拌しながら滴下し、その後、ホモミキサー(プライミクス社製、ホモミクサーMARKII、6000rpm)を用いて処理し、リポソームを調製した。その後、氷浴にて速やかに30℃へと冷却した。次いで、高圧微細化装置(吉田機械興業社製、NanoVater)で粒径を調整した。(E)ペンチレングリコールを配合することで、リポソーム分散液を得た。
結果を表2に示す。実施例1、比較例1の粒径変化をそれぞれ
図1、2に示す。
【0036】
【0037】
・結果
本発明である実施例1、2で得たリポソーム分散液は、保管安定性、微生物に対する保存効力に優れていた。(D)加水分解コラーゲンとエクトインの両方を配合した実施例2も保管安定性、微生物に対する保存効力に優れており、エクトインのような有効成分を配合しても、保管安定性を保つことができた。実施例1、実施例2のリポソーム分散液は、どちらも皮膚刺激のない使用感の良好な化粧水として提供できた。
(C)加水分解コラーゲンに代えてエクトイン(環状アミノ酸)のみを含む比較例1で得たリポソーム分散液は、微生物に対する保存効力は優れていたが、40℃で2ヶ月保管した後にリポソームの粒径が5倍以上も大きくなり、保管安定性に劣っていた。