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  • 特開-酸素溶断ランスパイプの着火器 図1
  • 特開-酸素溶断ランスパイプの着火器 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022177720
(43)【公開日】2022-12-01
(54)【発明の名称】酸素溶断ランスパイプの着火器
(51)【国際特許分類】
   F23Q 13/00 20060101AFI20221124BHJP
   B23K 7/00 20060101ALI20221124BHJP
【FI】
F23Q13/00 A
B23K7/00 W
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021084153
(22)【出願日】2021-05-18
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】000180254
【氏名又は名称】酸素アーク工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】弁理士法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原 健一
(72)【発明者】
【氏名】坂井 明彦
(57)【要約】
【課題】着火作業の回数を重ねても基体が損傷にくく、しかも熱伝導を抑え安全性に優れた酸素溶断ランスパイプの着火器を提供する。
【解決手段】木材からなる基体10と、この基体に設けられた筒体装着穴12の底面に設置されたベース材20と、このベース材の上に設置された筒体30と、この筒体内に挿入された燃焼材43とを備える着火器1である。ベース材20及び筒体30は木材より難燃焼性の材料からなり、ベース材20は、筒体30の外周面と筒体装着穴12の内周面との間に隙間Wが生じるように、筒体30の下端部を保持又は固定している。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
木材からなる基体と、この基体に設けられた筒体装着穴の底面に設置されたベース材と、このベース材の上に設置された筒体と、この筒体内に挿入された燃焼材とを備える、酸素溶断ランスパイプの着火器であって、
前記ベース材及び前記筒体は木材より難燃焼性の材料からなり、
前記ベース材は、前記筒体の外周面と前記筒体装着穴の内周面との間に隙間が生じるように、前記筒体の下端部を保持又は固定している、酸素溶断ランスパイプの着火器。
【請求項2】
前記筒体の上端は前記基体の表面から突出している、請求項1に記載の酸素溶断ランスパイプの着火器。
【請求項3】
前記基体は下方向に傾斜する傾斜面を有し、前記筒体装着穴は前記傾斜面に設けられ、更に前記基体には前記筒体装着穴の下部に連続する切欠きが設けられている、請求項1又は2に記載の酸素溶断ランスパイプの着火器。
【請求項4】
前記ベース材はモルタルからなり、前記筒体は金属からなる、請求項1から3のいずれか一項に記載の酸素溶断ランスパイプの着火器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素溶断ランスパイプの着火器に関する。なお、本明細書では、「酸素溶断ランスパイプ」を単に「ランスパイプ」ともいう。
【背景技術】
【0002】
従前より、ガス切断や機械的切断では困難を伴う対象材(板厚の厚い鋼材など)を切断あるいは穿孔する際には、酸素溶断装置を用いた溶断を行っている。
酸素溶断装置は、内部に酸素流路を有する金属製のランスパイプに対して、外部より一定以上の熱源を先端部に与えて、ランスパイプを溶融・着火させ、酸素流路に送り込まれている酸素とランスパイプとで、連続的に酸化反応を起こさせて自己燃焼させ、その先端部の酸化反応熱によって対象材(被溶断物)を切断あるいは穿孔する溶断装置である。
【0003】
このような酸素溶断装置において、ランスパイプの先端部に着火するための技術として、特許文献1に、「主に木材や圧縮した紙材等からなる適宜着火材基体に、ランスパイプの先端部分が挿入可能な着火用挿入穴を設け、鉄を主体とした金属粉を臘や樹脂の如きバインダーにて固形化してなる着火用燃焼材を、ランスパイプ挿入空間が開口近傍に残るように着火用挿入穴に内装せしめて構成したことを特徴とする酸素ランスパイプ用着火材」、及び「酸素ボンベからの酸素を、ホースを介してランスパイプ内に供給すると共に、ランスパイプ先端から噴出せしめ、このランスパイプの先端部分を、主に木材や圧縮した紙材等からなる着火材基体の着火用挿入穴内に挿入すると共に、この着火用挿入穴内に適宜火種を入れ、ランスパイプ先端から噴出されて、ランスパイプ外表面と着火用挿入穴内壁面との間隙を着火用挿入穴開口部分に向って移動する返り酸素で、着火材基体の着火用挿入穴内壁部分を燃焼せしめ、この着火用挿入穴内壁部分の燃焼による一次燃焼で、着火用挿入穴内に予め内装せしめてある鉄を主体とした金属粉を臘や樹脂等のバインダーにて固形化してなる着火用燃焼材を燃焼せしめ、この着火用燃焼材の燃焼による発熱量の大きい二次燃焼で、着火用挿入穴内にあるランスパイプの先端部分を燃焼せしめるようにすることを特徴とした酸素ランスパイプの着火方法」が開示されている。
【0004】
しかし、特許文献1の着火材では着火材基体を一次燃焼させることを前提としているから、着火作業の回数を重ねる毎に、着火材基体の形状が崩れて着火作業に支障をきたすだけでなく、激しく炎を上げてしまう状況にもなり、周囲への安全上、そのたびに消火作業(放水、酸素遮断等)の必要がある。また、着火作業終了後、着火材基体の形状損傷、帯熱等により、その持ち運びにも不自由な点がある。
【0005】
一方、本発明者らは特許文献2において、基体を一次燃焼させることを前提としない着火器を提案している。この着火器によれば、上述の特許文献1に比べると基体の損傷や燃焼を大きく抑えることができる。しかし、この着火器においても、基体に挿入される着火材を多数個使用していくと着火材の熱で基体が炭化し、ランスパイプの先端から吹き付けられる酸素と着火の際の炎に反応し、基体が損傷したり炎を上げたりする場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3541393号公報
【特許文献2】特許第6744682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、着火作業の回数を重ねても基体が損傷にくく、しかも熱伝導を抑え安全性に優れた酸素溶断ランスパイプの着火器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一観点によれば、次の酸素溶断ランスパイプの着火器が提供される。
木材からなる基体と、この基体に設けられた筒体装着穴の底面に設置されたベース材と、このベース材の上に設置された筒体と、この筒体内に挿入された燃焼材とを備える、酸素溶断ランスパイプの着火器であって、
前記ベース材及び前記筒体は木材より難燃焼性の材料からなり、
前記ベース材は、前記筒体の外周面と前記筒体装着穴の内周面との間に隙間が生じるように、前記筒体の下端部を保持又は固定している、酸素溶断ランスパイプの着火器。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、燃焼材を挿入する筒体の外周面と筒体を装着する筒体装着穴の内周面との間に隙間が存在し、しかも筒体装着穴の底面には木材より難燃焼性の材料からなるベース材が設置されているから、着火作業時に燃焼材の燃焼による熱が基体に伝わりにくくなる。そのため、着火作業の回数を重ねても基体が損傷にくくなる。更に、基体は木材からなるから、熱伝導を抑えることができ安全性にも優れている。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態である酸素溶断ランスパイプの着火器の斜視図。
図2図1のA-A断面図。
図3図1の着火器及び特許文献2に開示されている着火器による繰り返し着火試験の結果(試験後の着火器の外観)を示す写真(左側が図1の着火器、右側が特許文献2の着火器。)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は本発明の一実施形態である酸素溶断ランスパイプの着火器(以下、単に「着火器」という。)1の斜視図、図2図1のA-A断面図である。
本実施形態の着火器1は、基体10、ベース材20、筒体30及び着火材40を備える。
基体10は木材からなり、一辺が100mm程度の立方体の正面の上辺部分を切り欠いて下方向に傾斜する傾斜面11とした七面体の形状を有する。そして傾斜面11に直径が60mm程度で深さが60mm程度の筒体装着穴12が設けられている。筒体装着穴12の深さ方向は傾斜面11に垂直である。また、基体10には筒体装着穴12の下部に連続する切欠き13が設けられている。
【0012】
ベース材20は木材より難燃焼性の材料からなり、図2に表れているように筒体装着穴12の底面に設置されるものである。本実施形態においてベース材20はモルタルからなり、筒体30の外周面と筒体装着穴12の内周面との間に所定幅の隙間Wが生じるように、筒体30の下端部を固定している。
【0013】
筒体30は木材より難燃焼性の材料からなり、筒体装着穴12に装着されるものである。本実施形態において筒体30は真鍮からなり、上述の通り筒体30の下端部をベース材20で固定することで、筒体30の外周面と筒体装着穴12の内周面との間に所定幅の隙間Wが生じるように、筒体装着穴12に装着されている。この筒体30の直径(外径)は55mm程度、高さは70mm程度である。一方、上述の通り筒体装着穴12の直径(内径)は60mm程度で深さは60mm程度である。したがって、本実施形態において筒体30の外周面と筒体装着穴12の内周面との間の隙間Wの幅は2.5mm程度であり、また、筒体30の上端は傾斜面11(基体10の表面)から10mm程度突出している。
【0014】
着火材40は、特許文献2に開示されている着火材と実質的に同一の構成を有するもので、外周材41、底材42及び燃焼材43を含む。
外周材41は成形炭で円筒状に形成されており、ランスパイプの先端部分が挿入可能な貫通孔41aを有する。本実施形態において貫通孔41aの直径(円筒状の外周材41の内径)は20mm程度であるが、使用するランスパイプの外径(一般的には10~20mm程度)に応じて、そのランスパイプの先端部分が挿入可能な大きさとする。外周材41の外径は筒体30の内径よりわずかに小さく、外周材41の高さは筒体30の高さより10mm程度低く、筒体30に挿入した状態では図2に示しているように外周材41の上端面の高さ位置は、筒体30の上端の高さ位置と同一又は若干低い位置としている。
【0015】
底材42は成形炭より難燃焼性の材料で形成されており、貫通孔41aの下端を塞ぐものである。本実施形態において底材42は、鉄粉を無機バインダー(珪酸ナトリウム水溶液)で固めたもので、貫通孔41aの下端に挿入することで貫通孔41aの下端を塞いでいる。このほか、底材42を外周材41の外径とほぼ同じ大きさとし、その底材42を外周材41の下端面に接着(接合)することで、貫通孔41aの下端を塞ぐこともできる。また、成形炭より難燃焼性の材料としては、鉄板、ステンレス板、真鍮板、鉄粉又はステンレス粉を無機バインダーで固めたもの等が挙げられる。
【0016】
燃焼材43は粉炭を主体としてなり貫通孔41a内に挿入されている。燃焼材43は主体である粉炭のほかに鉄粉等の金属粉を含み得る。主体である粉炭の含有率は80質量%以上であることが好ましい。本実施形態において燃焼材43は、ランスパイプの先端部分を挿入可能な空間が貫通孔41aの上端開口近傍に残るように貫通孔41a内に挿入されており、その空間内には、綿糸、導火線、油引き紙、油引き布等からなる導火材44が挿入されている。
【0017】
次に、本実施形態の着火器1によるランスパイプの着火方法について説明する。なお、この着火器1によるランスパイプの着火方法は、特許文献2に開示した着火器によるランスパイプの着火方法と同様である。そこで、詳しくは特許文献2を参照することとし、以下ではその概要のみを説明する。
1回目の着火の際には、導火材44に着火して、これを火種とする。続いて、ランスパイプの先端部を貫通孔41aの上端開口に近付ける。そうすると、ランスパイプの先端部から供給される酸素と火種との酸化反応が生じる。引き続きランスパイプの先端部から酸素を供給しながらランスパイプの先端部を貫通孔41a内に挿入すると、粉炭を主体とする燃焼材43とランスパイプの先端部との間で激しい燃焼が起こり、ランスパイプの先端部が溶融して着火に至る。そして、2回目以降の着火の際には、外周材41の底部に沈殿しているスラグを再溶融化し、その溶融熱によりランスパイプに着火する。
【0018】
このように着火作業の回数を重ねても本実施形態の着火器1によれば、着火材40(燃焼材)を挿入する筒体30の外周面と筒体30を装着する筒体装着穴12の内周面との間に隙間Wが存在し、しかも筒体装着穴12の底面には木材より難燃焼性の材料であるモルタルからなるベース材20が設置されているから、着火作業時に着火材40(燃焼材)の燃焼による熱が基体10に伝わりにくくなる。そのため、着火作業の回数を重ねても基体10が損傷にくくなる。更に、基体10は木材からなるから、熱伝導を抑えることができ安全性にも優れている。なお、本実施形態において、隙間Wの幅は2.5mm程度としたが、これに限定されるものではなく、例えば2mm以上5mm以下とすることができる。すなわち、熱が基体10に伝わりにくくする観点からは隙間Wの幅は大きい方がよいが、隙間Wの幅は大きくなると、筒体30の安定性が損なわれる、着火器1が大型になるなどの問題が生じ得るから、隙間Wの幅は大きすぎない方がよい。
【0019】
また、本実施形態では、筒体30の上端が傾斜面11(基体10の表面)から突出しているから、着火作業時に着火材40(燃焼材)の燃焼による熱が基体10により伝わりにくくなる。なお、本実施形態において筒体30の上端の突出長さは10mm程度としたが、これに限定されるものではなく、例えば5mm以上15mm以下とすることができる。すなわち、着火作業時に着火材40(燃焼材)の燃焼による熱が基体10に伝わりにくくする観点からは筒体30の上端の突出長さは長い方がよいが、筒体30の上端の突出長さが長くなると着火作業時に高温となる筒体30が大きく露出することになるから、安全性や持運び性などを考慮すると筒体30の上端の突出長さは長すぎない方がよい。
【0020】
更に、本実施形態では基体10に、筒体装着穴12の下部に連続する切欠き13が設けられているから、着火作業時に着火材40(燃焼材)の燃焼による熱が基体10により伝わりにくくなる。すなわち、切欠き13は筒体装着穴12の下部において隙間W(空間)を拡大しているから、筒体装着穴12の下部において熱が基体10により伝わりにくくなる。
【0021】
なお、本実施形態においてベース材20はモルタルとしたが、これには限定されず、木材より難燃焼性の材料であればよい。ベース材20として適用可能な、木材より難燃焼性の材料としては、モルタルのほかに鉄板、ステンレス板、真鍮板、セラミックス板等の板材が挙げられ、このような板材に筒体30の下端部を保持するための保持部を設け、その保持部で筒体30の下端部を保持するようにしてもよい。ただし、筒体30を確実かつ簡単に保持固定する点からは、本実施形態のようにモルタルで筒体30の下端部を固定することが好ましい。また、モルタルは耐熱性及び断熱性に優れることから、筒体装着穴12の底面に熱が伝わりにくくする点からも好ましい。
【0022】
また、本実施形態において筒体30の材料を真鍮としたが、これには限定されず、木材より難燃焼性の材料であればよい。筒体30として適用可能な、木材より難燃焼性の材料としては、真鍮のほかに鉄、ステンレス等の金属、あるいはセラミックスが挙げられる。ただし、筒体30の周囲にある隙間W(空間)からの放熱性を考慮すると、本実施形態のように真鍮等の金属製とすることが好ましい。また、金属は筒体への加工が容易であり安価であることから、経済性の点からも好ましい。
【0023】
更に本実施形態では、燃焼材43を着火材40の一部として筒体30内に挿入したが、燃焼材43を直接、筒体30内に挿入してもよい。また、燃焼材43も粉炭を主体とするものに限定されず、特許文献1に開示されているような金属粉をバインダーで固形化したものなど、各種燃焼材を用いることができる。なお、燃焼材を直接、筒体30内に挿入する場合、燃焼材を着火作業のたびに筒体30内に挿入するようにしてもよい。
【実施例0024】
本発明の実施例として、図1に示す着火器1を用いて着火作業を繰り返し実施した。また、比較例として特許文献2に開示されている着火器を用いて着火作業を繰り返し実施した。なお、実施例、比較例共に基体の材質は木材とした。
【0025】
実施例では25個の着火材を用い、それぞれの着火材で着火作業を9回繰り返した。具体的には、1個目の着火材で着火作業を9回繰り返し、その後、1個目の着火材を基体から取り出し、その基体に2個目の着火材を挿入して着火作業を9回繰り返した。これを25個目の着火材まで繰り返した。
【0026】
一方、比較例では5個の着火材を用い、それぞれの着火材で着火作業を9回繰り返した。具体的には、1個目の着火材で着火作業を9回繰り返し、その後、1個目の着火材を基体から取り出し、その基体に2個目の着火材を挿入して着火作業を9回繰り返した。これを5個目の着火材まで繰り返した。
【0027】
図3に、試験後の着火器の外観を示している(左側が実施例、右側が比較例)。図3に示すように、実施例の着火器では25個の着火材を用い、それぞれの着火材で着火作業を9回繰り返した試験後においても基体10に損傷や燃焼は見られなかった。一方、比較例の着火器では、試験後において基体10に炭化が見られ、5個目の着火材を用いた着火作業の直後にはわずかではあるが、基体10から炎が上がる現象が見られた。
【符号の説明】
【0028】
1 着火器
10 基体
11 傾斜面
12 筒体挿入穴
13 切欠き
20 ベース材
30 筒体
40 着火材
41 外周材
41a 貫通孔
42 底材
43 燃焼材
44 導火材
図1
図2
図3