(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022177729
(43)【公開日】2022-12-01
(54)【発明の名称】電磁アクチュエータ
(51)【国際特許分類】
H02K 33/02 20060101AFI20221124BHJP
H01F 7/16 20060101ALI20221124BHJP
H01F 7/121 20060101ALI20221124BHJP
【FI】
H02K33/02 A
H01F7/16 Z
H01F7/121
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021084165
(22)【出願日】2021-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100120400
【弁理士】
【氏名又は名称】飛田 高介
(74)【代理人】
【識別番号】100124110
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 大介
(72)【発明者】
【氏名】原 昌之
【テーマコード(参考)】
5E048
5H633
【Fターム(参考)】
5E048AC06
5E048AD02
5H633BB07
5H633GG02
5H633GG05
5H633GG06
5H633GG09
5H633GG16
5H633HH14
5H633HH23
5H633JA02
5H633JA08
(57)【要約】
【課題】双方向に能動的にシャフトを移動させつつ、更なる小型化を図ることで車両における装置搭載スペースの確保に寄与することが可能な電磁アクチュエータを提供する。
【解決手段】本発明にかかる電磁アクチュエータの構成は、シャフトを巻回するコイルと、プランジャと、第1テーパリングと、第1転動体と、第2テーパリングと、第2転動体と、第1テーパリングにおける第1転動体の係合を解除する第1リテーナと、第2テーパリングにおける第2転動体の係合を解除する第2リテーナとを備え、コイルに対して所定範囲内の電流が流れた場合には、プランジャが移動してシャフトを送った後に第1リテーナが移動して第1テーパリングにおける第1転動体の係合を解除し、コイルに対して所定範囲よりも大きい電流が流れた場合には、第2リテーナが移動して第2テーパリングにおける第2転動体の係合を解除することを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフトの送り出しを行う電磁アクチュエータであって、
前記シャフトを巻回するコイルと、
前記コイルの内側に配置されたプランジャと、
前記プランジャの内周に配置された第1テーパリングと、
前記第1テーパリングと前記シャフトの間に配置された第1転動体と、
ハウジングに取り付けられた第2テーパリングと、
前記第2テーパリングと前記シャフトとの間に配置された第2転動体と、
前記シャフトを挿通し、前記第1テーパリングにおける前記第1転動体の係合を解除する第1リテーナと、
前記シャフトを挿通し、前記第2テーパリングにおける前記第2転動体の係合を解除する第2リテーナとを備え、
前記コイルに対して所定範囲内の電流が流れた場合には、前記プランジャが移動して前記シャフトを送った後に前記第1リテーナが移動して前記第1テーパリングにおける前記第1転動体の係合を解除し、
前記コイルに対して前記所定範囲よりも大きい電流が流れた場合には、前記第2リテーナが移動して前記第2テーパリングにおける前記第2転動体の係合を解除することを特徴とする電磁アクチュエータ。
【請求項2】
前記コイルと前記第2リテーナとの間に配置された固定鉄心を備え、
前記固定鉄心は、前記第2リテーナと対向する面に該固定鉄心を流れる磁路の断面を縮小する絞り部を備え、
前記コイルに前記所定範囲内の電流が流れた場合には、主に前記固定鉄心を磁束が流れ、
前記コイルに前記所定範囲よりも大きい電流が流れた場合には、前記固定鉄心および前記第2リテーナを磁束が流れることを特徴とする請求項1に記載の電磁アクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シャフトの送り出しを行う電磁アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
車両では、パーキングロック機構等に電磁アクチュエータが用いられている。例えば特許文献1に開示されているアクチュエータは、従動部材と、駆動機構と、ロック装置と、解除機構とを備えている。そして、従動部材が往復移動することにより、変速機の出力軸をロックするパーキングロック状態と、出力軸がロックされていないロック解除状態とを切り換えるように構成される。特許文献1によれば、装置を大型化することなく、従動部材の移動距離を長くすることができるアクチュエータを提供可能であるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
既知のとおり、車両には電磁アクチュエータの他にも多くの装置が搭載される。このため、それらの装置に限らず電磁アクチュエータにも更なる小型化が要請されている。そこで発明者は、特許文献1の電磁アクチュエータをより小型化可能な構造について検討した。
【0005】
また特許文献1の構成においては、シャフトを送り出すための駆動機構と、ロックを解除してシャフトを戻すための解除用駆動部が必要であり、それぞれに異なる印加電流が必要である。すると駆動用と解除用で電気回路を分ける必要があり、配線の取り回しが多くなるという問題がある。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑み、双方向に能動的にシャフトを移動させつつ、更なる小型化を図ると共に、駆動用と解除用の電気回路を分ける必要をなくしたことで車両における装置搭載スペースの確保に寄与することが可能な電磁アクチュエータを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明にかかる電磁アクチュエータの代表的な構成は、シャフトの送り出しを行う電磁アクチュエータであって、シャフトを巻回するコイルと、コイルの内側に配置されたプランジャと、プランジャの内周に配置された第1テーパリングと、第1テーパリングとシャフトの間に配置された第1転動体と、ハウジングに取り付けられた第2テーパリングと、第2テーパリングとシャフトとの間に配置された第2転動体と、シャフトを挿通し、第1テーパリングにおける第1転動体の係合を解除する第1リテーナと、シャフトを挿通し、第2テーパリングにおける第2転動体の係合を解除する第2リテーナとを備え、コイルに対して所定範囲内の電流が流れた場合には、プランジャが移動してシャフトを送った後に第1リテーナが移動して第1テーパリングにおける第1転動体の係合を解除し、コイルに対して所定範囲よりも大きい電流が流れた場合には、第2リテーナが移動して第2テーパリングにおける第2転動体の係合を解除することを特徴とする。
【0008】
上記コイルと第2リテーナとの間に配置された固定鉄心を備え、固定鉄心は、第2リテーナと対向する面に固定鉄心を流れる磁路の断面を縮小する絞り部を備え、コイルに所定範囲内の電流が流れた場合には、主に固定鉄心を磁束が流れ、コイルに所定範囲よりも大きい電流が流れた場合には、固定鉄心および第2リテーナを磁束が流れやすくするとよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、双方向に能動的にシャフトを移動させつつ、更なる小型化を図ると共に、駆動用と解除用の電気回路を分ける必要をなくしたことで車両における装置搭載スペースの確保に寄与することが可能な電磁アクチュエータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態の電磁アクチュエータの全体構成を説明する図である。
【
図2】本実施形態における電磁アクチュエータの動作を説明する図である。
【
図3】本実施形態における電磁アクチュエータの動作を説明する図である。
【
図4】本実施形態の電磁アクチュエータのコイルに流れる電流について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0012】
図1は、本実施形態の電磁アクチュエータ100の全体構成を説明する図である。
図1に示す本実施形態の100は、シャフト10の送り出しを行う。
図1に示すように、電磁アクチュエータ100は、筒状のハウジング102、およびハウジング102の両側に取り付けられたハウジングカバー104a・ハウジングカバー104bを有する。ハウジング102の内部にはシャフト10が挿通されていて、シャフト10にはコイル110が巻き回されている。またハウジングカバー104aの内部には、リターンスプリング106が収容されている。
【0013】
ハウジング102内において、コイル110の内側にはプランジャ120(可動鉄心とも称される)が配置されている。プランジャ120の内周には、シャフト送り側向かって径が広がるテーパ形状の第1テーパリング132が配置されている。第1テーパリング132とシャフト10の間には、第1テーパリング132と係合する第1転動体134が配置されている。第1転動体134はシャフト10の軸と直行する方向に配置されたローラないし玉である。これらの第1テーパリング132および第1転動体134の係合による楔作用によって、送り側にシャフト10を送り出す送り機構が構成される。
【0014】
またハウジング102に取り付けられたハウジングカバー104bには、シャフト送り側向かって径が広がるテーパ形状の第2テーパリング142が取り付けられている。第2テーパリング142とシャフト10の間には、第2テーパリング142を係合する第2転動体144が配置されている。第2転動体144はシャフト10の軸と直行する方向に配置されたローラないし玉である。これらの第2テーパリング142および第2転動体144の係合による楔作用によって、送り側に送り出されたシャフト10の戻りを防止する戻り防止機構が構成される。
【0015】
シャフト10には、第1転動体134を保持する第1リテーナ150が挿通されている。この第1リテーナ150によって、第1テーパリング132における第1転動体134の係合が解除される。またシャフト10には、第2転動体144を保持する第2リテーナ160が挿通されている。この第2リテーナ160によって、第2テーパリング142における第2転動体144の係合が解除される。これにより、上述した戻り防止機構を解除する解除機構が構成される。
【0016】
上述した第1リテーナ150とハウジングカバー104aとの間には、第1固定鉄心170が配置されている。またコイル110と第2リテーナ160との間には、第2固定鉄心180が配置されている。第1固定鉄心170および第2固定鉄心180はともに円筒状の磁性体である。
【0017】
図2および
図3は、本実施形態における電磁アクチュエータ100の動作を説明する図である。
図2(a)は、コイル110が非励磁状態の電磁アクチュエータ100を例示している。コイル110に電流が流れていない非励磁状態では、
図2(a)に示すようにシャフト10はリターンスプリング106(
図1参照)の付勢力によってシャフト送り方向と反対側に付勢されている。第1リテーナ150は、シャフト10に挿通されて第1固定鉄心170内に配置されたスプリング108によってシャフト送り方向と反対側に付勢されている。
【0018】
図2(a)に示す位置がシャフト10および第1リテーナ150の初期位置となる。このとき、第1転動体134は第1テーパリング132に係合していて、第2転動体144は第2テーパリング142に係合している。
【0019】
シャフト10を送り出す際には、コイル110に対して所定範囲I1内の電流を流す。これにより、
図2(b)に示すように、コイル110において第1の磁路M1が形成される(第1の磁路M1については後述する)。そしてプランジャ120が第1固定鉄心170に吸着され、プランジャ120がシャフト送り方向に向かって移動する。すると、プランジャ120によって押されることで第1リテーナ150が移動し、シャフト10が送り方向に送り出される。
【0020】
プランジャ120が移動してシャフト10を送りだすと、
図3(a)に示すように第1リテーナ150が移動する。この第1リテーナ150の移動と、第1リテーナ150に挿通されたスプリング152による付勢力によって、第1テーパリング132と第1転動体134との係合が解除される(送り出し機構)。これにより、シャフト10は1ステップ送り出される。このとき、第2転動体144は第2テーパリング142に係合しているため、送り側に送り出されたシャフト10の戻りを防止する戻り防止機構が機能する。
【0021】
図4は、本実施形態の電磁アクチュエータ100のコイル110に流れる電流について説明する図であり、時間に対する電流の波形を示している。上述したようにシャフト10を送り出す際には、コイル110に対して所定範囲I1の電流を流す。これにより、電磁アクチュエータ100は、
図2(a)-
図3(a)において説明したように動作し、シャフト10が送り出される。
【0022】
コイルに対して所定範囲I1の電流を流した際に形成される第1の磁場M1は、
図2(b)に示すように第1リテーナ150、第1固定鉄心170、ハウジング102(
図1参照)、第2固定鉄心180、プランジャ120を通過する。すなわち第1の磁場M1は、第2リテーナ160を通過しない。したがって、第1の磁場M1が形成された際には、かかる磁場は第2リテーナ160には影響を及ぼさない。
【0023】
図4に示すように所定範囲I1の電流を流すのを止めると、プランジャ120および第1リテーナ150は
図3(a)-
図2(a)とは逆の動作を行い、第1リテーナ150は初期位置に戻る。このとき、シャフト10に対しては第2転動体144と第2テーパリング142による戻り防止機構が機能しているため、シャフト10の位置は戻らない。したがって、コイル110に対して所定範囲I1の電流を断続的に流すことにより(パルス電流)、電磁アクチュエータ100は
図2(a)-
図3(a)の動作を繰り返し、シャフト10が任意のステップ分送り出される。
【0024】
シャフト10を戻すときには、
図4に示す所定範囲よりも大きい電流I2をコイル110に流す。これにより、
図3(b)に示すように、第2の磁路M2が形成される。この第2の磁路M2は、第1リテーナ150、第1固定鉄心170、ハウジング102(
図1参照)、第2リテーナ160、第2固定鉄心180、プランジャ120を通過する。
【0025】
上述したように第2の磁路が第2リテーナ160を通過することにより、第2リテーナ160がシャフト送り方向に移動する。これにより、
図3(b)に示すように第2テーパリング142における第2転動体144の係合が解除され、戻り防止機構を解除する解除機構が機能する。そして、シャフト10がシャフト送り側とは逆側に向かって移動して初期位置に戻る。
【0026】
ここで、磁路M2が第2固定鉄心180だけでなく第2リテーナ160も通るのは、大きい電流I2によって生じる磁束が多いため、第2固定鉄心180だけでは磁束密度が過密になるためである。
【0027】
また特に本実施形態の電磁アクチュエータ100では、
図1に示すように第2固定鉄心180において、第2リテーナ160と対向する面に第2固定鉄心180を流れる磁路の断面を縮小する絞り部182を設けている。
【0028】
すなわち、コイル110に所定範囲内の電流I1が流れた場合には、絞り部182が磁気飽和しないため、第1の磁路M1では主に第2固定鉄心180を磁束が流れる。一方、コイルに所定範囲よりも大きい電流I2が流れた場合には、絞り部182が磁気飽和するため、第2の磁路M2では、第2固定鉄心180および第2リテーナ160を磁束が流れやすくなる。このように第2固定鉄心180の第2リテーナ160と対向する面に絞り部182を設けることにより、第2リテーナ160に確実に磁束を流すことができ、解除機構を確実に機能させることが可能となる。
【0029】
上記説明したように本実施形態の電磁アクチュエータ100によれば、コイル110に対して所定範囲内の電流I1が流れた場合には、プランジャ120が動作してシャフト10は送り出し側に向かって移動する。一方、コイル110に対して所定範囲内の電流I2が流れた場合には、第2リテーナ160が移動して戻り防止機構が解除され、シャフト10はシャフト送り側とは逆側に向かって移動して初期位置に戻る。
【0030】
このように本実施形態の電磁アクチュエータ100では、コイル110に流す電流を、所定範囲内の電流I1またはそれより大きい電流I2を選択することにより、コイル110の磁場を切り替え、双方向にシャフト10を移動させることが可能となる。このとき、従来のアクチュエータではロック機構を解除するための解除用コイル(解除用ソレノイド)やそれに付随する部品が必要であったのに対し、本実施形態では1つのコイル110および1つの電気回路によって駆動機構と解除機構を両方とも機能させることができる。したがって、電磁アクチュエータ100の更なる小型化およびコストダウンを図ることが可能となる。
【0031】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、双方向に能動的にシャフトを移動させつつ、更なる小型化を図ると共に、駆動用と解除用の電気回路を分ける必要をなくしたことで車両における装置搭載スペースの確保に寄与することが可能な電磁アクチュエータとして利用することができる。
【符号の説明】
【0033】
10…シャフト、100…電磁アクチュエータ、102…ハウジング、104a…ハウジングカバー、104b…ハウジングカバー、106…リターンスプリング、108…スプリング、110…コイル、120…プランジャ、132…第1テーパリング、134…第1転動体、142…第2テーパリング、144…第2転動体、150…第1リテーナ、152…スプリング、160…第2リテーナ、170…第1固定鉄心、180…第2固定鉄心、182…絞り部