(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022177734
(43)【公開日】2022-12-01
(54)【発明の名称】抗菌消臭シート、その製造方法及びそれを備えた吸収性物品並びに抗菌消臭剤
(51)【国際特許分類】
A61F 13/15 20060101AFI20221124BHJP
A61L 15/18 20060101ALI20221124BHJP
A61L 15/20 20060101ALI20221124BHJP
A61L 15/46 20060101ALI20221124BHJP
A61L 9/014 20060101ALI20221124BHJP
B01J 20/10 20060101ALI20221124BHJP
B01J 20/28 20060101ALI20221124BHJP
D21H 21/00 20060101ALI20221124BHJP
D21H 21/36 20060101ALI20221124BHJP
A61F 13/534 20060101ALN20221124BHJP
【FI】
A61F13/15 141
A61F13/15 142
A61L15/18 200
A61L15/20 200
A61F13/15 143
A61L15/46 200
A61L9/014
B01J20/10 C
B01J20/28 Z
D21H21/00
D21H21/36
A61F13/534
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021084177
(22)【出願日】2021-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 佑佳
(72)【発明者】
【氏名】糸井 隆
【テーマコード(参考)】
3B200
4C180
4G066
4L055
【Fターム(参考)】
3B200AA01
3B200AA03
3B200BB01
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3B200BB24
3B200BB25
3B200DA16
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4C180EC01
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4L055AH01
4L055AH50
4L055AJ01
4L055BE08
4L055EA17
4L055EA32
4L055FA30
(57)【要約】
【課題】吸着剤及び抗菌剤を含有しているにもかかわらず保存状態での香料の変調が効果的に防止された抗菌消臭シートを提供すること。
【解決手段】抗菌消臭シートは、香料、抗菌剤及び吸着剤を含有する。抗菌剤は、リン酸カルシウム及び銀を含有する。吸着剤は、二酸化ケイ素、酸化亜鉛及び酸化アルミニウムからなる複合塩を含有する。吸着剤の比表面積が100m
2/g以上270m
2/g以下である。抗菌剤を0.05質量%以上3質量%以下含有することが好適である。吸着剤を2質量%以上8質量%以下含有することも好適である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
香料、抗菌剤及び吸着剤を含有する抗菌消臭シートであって、
前記抗菌剤は、リン酸カルシウム及び銀を含有しており、
前記吸着剤は、二酸化ケイ素、酸化亜鉛及び酸化アルミニウムからなる複合塩を含有しており、
前記吸着剤の比表面積が100m2/g以上270m2/g以下である、抗菌消臭シート。
【請求項2】
前記抗菌剤を0.05質量%以上3質量%以下含有し、
前記吸着剤を2質量%以上8質量%以下含有する、請求項1に記載の抗菌消臭シート。
【請求項3】
前記香料の質量に対する、前記抗菌剤及び前記吸着剤の質量の合計の割合が2.6倍以上15倍以下である、請求項1又は2に記載の抗菌消臭シート。
【請求項4】
前記香料が、0.55以下のIOB値を有する疎水性化合物と、0.8以上のIOB値を有する親水性化合物とを含有する、請求項1ないし3のいずれか一項に記載の抗菌消臭シート。
【請求項5】
前記抗菌剤が、リン酸三カルシウム及び銀を含有する、請求項1ないし4のいずれか一項に記載の抗菌消臭シート。
【請求項6】
表面シートと、裏面シートとを具備し、両シート間に、請求項1ないし5のいずれか一項に記載の抗菌消臭シートが配されている、吸収性物品。
【請求項7】
請求項1ないし5に記載の抗菌消臭シートの製造方法であって、
前記抗菌剤、前記吸着剤及び繊維材料を水に分散させてなるスラリーを湿式抄紙して紙匹を形成し、
前記紙匹に、前記香料を付与する工程を有する、抗菌消臭シートの製造方法。
【請求項8】
香料、吸着剤及び抗菌剤を含有する抗菌消臭剤であって、
前記吸着剤は、二酸化ケイ素、酸化亜鉛及び酸化アルミニウムからなる複合塩を含有しており、
前記抗菌剤は、リン酸カルシウム及び銀を含有しており、
前記吸着剤の比表面積が100m2/g以上270m2/g以下である、抗菌消臭剤。
【請求項9】
前記抗菌消臭剤を含有する、吸収性物品の吸収体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌消臭シート、その製造方法及びそれを備えた吸収性物品に関する。また本発明は、抗菌消臭剤に関する。
【背景技術】
【0002】
使い捨ておむつ、生理用ナプキン等の吸収性物品における尿等の排泄物由来の悪臭対策として、該吸収性物品を構成するシートに、悪臭をマスキングする香料や悪臭成分を吸着する吸着剤を含有させる技術が知られている。例えば本出願人は先に、香料及び抗菌剤を有し、活性炭を有しない吸収性物品用シートを提案した(特許文献1参照)。この吸収性物品用シートによれば、該シートが活性炭を有しないことによって、香料の香りが変質することが防止され、香料が本来的に有する香気に起因する効果の低減防止が図られる。
【0003】
特許文献2には、香料、疎水性消臭多孔体及び親水性消臭多孔体を含有する消臭紙が記載されている。この消臭紙によっても、香料の香りが変質することが防止され、香料が本来的に有する香気を十分に知覚することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-166937号公報
【特許文献2】特開2018-166938号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、賦香シートに抗菌剤と消臭剤とが共存する場合には、香料の香りの変質の原因は複雑であり、香りの変質を効果的に防止することは容易でなかった。
したがって本発明の課題は、香り立ちが良好であり、排泄物に起因する不快な臭いを低減し、抗菌性能に優れる抗菌消臭シートを提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、香料、抗菌剤及び吸着剤を含有する抗菌消臭シートであって、
前記抗菌剤は、リン酸カルシウム及び銀を含有しており、
前記吸着剤は、二酸化ケイ素、酸化亜鉛及び酸化アルミニウムからなる複合塩を含有しており、
前記吸着剤の比表面積が100m2/g以上270m2/g以下である、抗菌消臭シートを提供することによって前記の課題を解決したものである。
【0007】
また本発明は、前記の抗菌消臭シートの好適な製造方法として、
前記抗菌剤、前記吸着剤及び繊維材料を水に分散させてなるスラリーを湿式抄紙して紙匹を形成し、
前記紙匹に、前記香料を付与する工程を有する、抗菌消臭シートの製造方法を提供するものである。
【0008】
更に本発明は、香料、吸着剤及び抗菌剤を含有する抗菌消臭剤であって、
前記吸着剤は、二酸化ケイ素、酸化亜鉛及び酸化アルミニウムからなる複合塩を含有しており、
前記抗菌剤は、リン酸カルシウム及び銀を含有しており、
前記吸着剤の比表面積が100m2/g以上270m2/g以下である、抗菌消臭剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、吸着剤及び抗菌剤を含有しているにもかかわらず保存状態での香料の変調が効果的に防止された抗菌消臭シートが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の抗菌消臭シートを備えた吸収性物品の一実施形態における横方向に沿った厚み方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明の抗菌消臭シートは、シート基材に香料が付与されてなる賦香シートである。本発明の抗菌消臭シートには、香料に加えて吸着剤及び抗菌剤が含まれている。
【0012】
シート基材としては、香料、吸着剤及び抗菌剤を保持し得るものであればその種類に特に制限はない。例えばシート基材として織布、不織布、編布、紙等の液透過性を有する繊維シートを用いることができる。あるいはシート基材として液不透過性のシートである樹脂製フィルムを用いることができる。更に、繊維シートと樹脂製フィルムとを積層した複合シートを用いることもできる。本発明の抗菌消臭シートを例えば吸収性物品の構成部材として用いる場合には、各種の繊維シートをシート基材として用いることが好ましい。
シート基材は、単層構造でもよく、2層以上が積層された積層構造を有していてもよい。シート基材は、典型的には、不織布又は公知の湿式抄紙法によって製造された紙である。
【0013】
シート基材が繊維シートである場合、該繊維シートの構成繊維として典型的なものは、セルロース系繊維である。特に、シート基材が紙の場合、その主たる構成繊維、すなわち含有量がシート基材の全質量に対して50質量%を超える構成繊維は通常、セルロース系繊維である。
セルロース系繊維としては、衛生品をはじめとする各種用途に用いられているものを特に制限なく用いることができ、例えば、天然セルロース繊維、マーセル化セルロース繊維、溶解セルロース繊維及びセルロース繊維誘導体が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
天然セルロース繊維としては、例えば、針葉樹パルプ、広葉樹パルプ等の木材パルプ;コットンリンター、コットンリント等の綿パルプ;麦わらパルプ、バガスパルプ、麻パルプ等の非木材パルプ;古紙パルプ等が挙げられる。
マーセル化セルロース繊維は、濃アルカリ処理によってアルカリ変性(いわゆるマーセル化)されているセルロース繊維である。
溶解セルロース繊維としては、例えば、リヨセル(登録商標)、テンセル(登録商標)、ベンベルグ(登録商標)、ビスコースレーヨン、ベンリーゼ(登録商標)等が挙げられる。
セルロース繊維誘導体としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、TEMPO触媒酸化セルロース、メチルセルロース、エチルセルロース等が挙げられる。
【0014】
繊維シートの構成繊維としては、セルロース系繊維以外の他の繊維を用いることもできる。他の繊維としては、例えば、ポリビニルアルコール繊維、ポリアクリロニトリル繊維等の親水性合成繊維;ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエステル繊維等の疎水性合成繊維が挙げられる。疎水性合成繊維は、必要に応じ、界面活性剤等の親水化剤によって親水化処理されていてもよい。
他の繊維として、加熱によって溶融し相互に接着し得る熱融着性繊維を用いることもできる。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系繊維、ポリエステル系繊維、ポリエチレン-ポリプロピレン複合繊維、繊維状ポリビニルアルコール等が挙げられる。該複合繊維の形態は特に制限されず、例えば芯鞘型やサイド・バイ・サイド型等を適宜選択し得る。
【0015】
シート基材には、前述した繊維成分に加えて、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、他の成分が含まれていてもよい。他の成分としては例えば紙力補強剤が挙げられる。紙力補強剤としては、例えばポリアミン・エピクロルヒドリン樹脂、ジアルデヒドデンプン、カイメン、カルボキシメチルセルロースなどを用いることができる。これらの紙力補強剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0016】
シート基材の坪量は特に制限されず、本発明の抗菌消臭シートの具体的な用途等に応じて適宜設定すればよい。例えば、本発明の抗菌消臭シートを吸収性物品の表面シートと裏面シートとの間に配する場合には、シート基材の坪量は、好ましくは10g/m2以上、更に好ましくは15g/m2以上、そして、好ましくは50g/m2以下、更に好ましくは40g/m2以下である。
【0017】
シート基材には香料が含有されている。香料を使用する主たる目的の1つは、排泄物に起因する不快な臭いの低減である、具体的には、メルカプタンや硫化水素に起因する腐敗臭やジアセチルに起因するおりもの特有の臭気を、香料の香気によってマスキング及び/又はハーモナージュする点にある。
本発明で用いられる香料としては、大気圧下で香気成分を大気中に揮散して斯かる目的を達成し得るものであればよく、常温常圧の環境下でその香気を知覚し得る通常の香料を特に制限なく用いることができ、使い捨ておむつなどの吸収性物品において従来用いられてきたものを用いることができる。
香料としては例えば、沸点が約250℃以下の高揮発性香料成分、又は沸点が約250~約300℃の中揮発性香料成分が好ましく用いられる。
【0018】
前記高揮発性香料成分としては、例えばアニソール、ベンズアルデヒド、酢酸ベンジル、ベンジルアルコール、ギ酸ベンジル、酢酸イソボルニル、シトロネラール、シトロネロール、酢酸シトロネリル、パラシメン、デカナール、ジヒドロリナロール、ジヒドロミルセノール、ジメチルフェニルカルビノール、ユーカリプトール、1-カルボン、ゲラニアール、ゲラニオール、酢酸ゲラニル、ゲラニルニトリル、酢酸ネリル、酢酸ノニル、リナロール、エチルリナロール、酢酸リナリル、フェニルエチルアルコール、α-ピネン、β-ピネン、γ-ピネン、α-ヨノン、β-ヨノン、γ-ヨノン、α-テルピネオール、β-テルピネオール、酢酸テルピニル、テンタローム等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。中でもシトロネロール、リナロール、ゲラニオールが好ましく用いられている。
【0019】
前記中揮発性香料成分としては、例えばアミルシンナムアルデヒド、ジヒドロジャスモン酸メチル、サリチル酸イソアミル、β-カリオフィレン、セドレン、セドリルメチルエーテル、桂皮アルコール、クマリン、ジメチルベンジルカルビニルアセテート、イソオイゲノール、γ-メチルヨノン、ヘリオトロピン、サリチル酸ヘキシル、サリチル酸シス-3-ヘキセニル、フェニルヘキサノール、ペンタライド等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0020】
本発明で用いられる香料としては、前述の高揮発性及び中揮発性香料成分以外に、あるいはこれら香料成分に加えて更に、バラ香調、ラベンダー香調、ジャスミン香調、イランイラン香調を有する香料を含有した香料組成物を用いることもできる。斯かる香料組成物としては、例えば、ネロール、ラバンジュロール、ジャスマール、シクロピデン等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
本発明で用いられる香料には、前述した香料素材単体、及び天然精油や調合ベースのように、「複数の香料によって構成される香料素材が組み合わされたもの(香料組成物)で、溶剤によって希釈・調整されたもの」が含まれる。例えば、香料として、バラ、ラベンダー、ジャスミン、イランイラン様香気を有する香料を含有する香料組成物を用いることができる。
【0021】
特に、本発明で用いられる香料は、IOB値が0.55以下の疎水性化合物と、IOB値が0.8以上の親水性化合物とを含有していることが好ましい。IOB値とは、物質の無機性値と有機性値との比率である無機性値/有機性値の値(以下「IOB(Inorganic Organic Balance)値」という。)である。このようなIOB値を有する化合物を含む香料を用いることで、該香料を、後述する抗菌剤及び吸着剤と組み合わせて用いることで、該香料の香りの変質を効果的に抑制することができる。
【0022】
一般に、物質の性状は、分子間の各種分子間力に大きく支配され、この分子間力は主に分子質量によるVan Der Waals力と、分子の極性による電気的親和力からなっている。物質の性質の変化に対して大きな影響を与えるVan Der Waals力と、電気的親和力のそれぞれを個別に把握することができれば、その組み合わせから未知の物質、あるいはそれらの混合物についてもその性状を予測することができる。この考え方は、「有機概念図論」として良く知られている理論である。有機概念図論は、例えば藤田穆著の「有機分析」(カニヤ書店、昭和5年)、藤田穆著の「有機定性分析:系統的.純粋物編」(共立出版、1953年)、藤田穆著の「改編 化学実験学-有機化学編」(河出書房、1971年)、藤田穆・赤塚政実著の「系統的有機定性分析(混合物編)」(風間書房、1974年)、及び甲田善生・佐藤四郎・本間善夫著の「新版 有機概念図 基礎と応用」(三共出版、2008年)等に詳述されている。有機概念図論では、物質の物理化学的物性について、主にVan Der Waals力による物性の程度を「有機性」と呼び、また主に電気的親和力による物性の程度を「無機性」と呼び、物質の物性を「有機性」と「無機性」の組み合わせでとらえている。そして、炭素(C)1個を有機性20と定義し、それに対して各種極性基の無機性及び有機性の値を、以下の表1に記載のとおり定め、無機性値の和と有機性値の和を求め、両者の比をIOB値と定義している。本発明においては、これらの有機性値及び無機性値に基づき、香料のIOB値を決定する。
【0023】
【0024】
具体的には、香料を構成する各香気成分の無機性値及び有機性値を決定し、IOB値を算出する。例えば、香料の一成分として、以下の表2に示すシトロネロールを含有する場合、炭素(C)×10=200の有機性値と、-OH×100=100の無機性値と、二重結合×1=2の無機性値と、イソ分枝×2=-20の有機性値とを有することから、無機性値の合計は100+2=102となり、有機性値の合計は200-20=180となる。したがってIOB値(無機性値/有機性値)は102/180=0.57となる。
【0025】
【0026】
IOB値が0.55以下の疎水性化合物としては、1,3,4,6,7,8-ヘキサハイドロ-4,6,6,7,8,8-ヘキサメチル-シクロペンタ-γ-2-ベンゾピラン、ベンジルベンゾエート、p-tert-ブチルシクロヘキシルアセテート、リモネン、2-シクロヘキシルプロピオン酸エチル、2-メチル-4-(2,2,3-トリメチル-3-シクロペンテン-1-イル)-2-ブテン-1-オール、1-(2-tert-ブチルシクロヘキシオキシ)-2-ブタノール、ノピルアセテート等が挙げられる。
IOB値が0.8以上の親水性化合物としては、アニスアルコール、リナロールオキサイド、α-メチル-3,4-メチレン-ジオキシヒドロシンナミアックアルデヒド等が挙げられる。
【0027】
本発明に用いられる香料において、親水性化合物に対する疎水性化合物のモル比D1、すなわち疎水性化合物のモル濃度/親水性化合物のモル濃度は、好ましくは0.3以上、より好ましくは0.5以上であり、また好ましくは3以下、より好ましくは2以下であり、また好ましくは0.3以上3以下、より好ましくは0.5以上2以下である。モル比とは、モル濃度の比を意味する。モル濃度とは、1kgの香料の構成成分中に含有される当該成分の質量から算出する値(mol/kg)を意味する。香料は、疎水性化合物、親水性化合物、及びこれら以外の化合物である中間化合物の香気成分と、溶媒等の香気成分以外の成分とから構成されている。
香料に複数種類の疎水性化合物、又は複数種類の親水性化合物が含まれている場合、親水性化合物に対する疎水性化合物のモル比D1は、疎水性化合物の合計モル濃度/親水性化合物の合計モル濃度である。
【0028】
香料Pが、IOBが0.55以下の香料成分である疎水性化合物A及びBの2種、IOBが0.8以上の香料成分である親水性化合物Cの1種を含有する場合を例に、親水性化合物に対する疎水性化合物のモル比D1の計算方法を説明する。香料Pは、疎水性化合物を2種含んでいるため、親水性化合物に対する疎水性化合物のモル比D1は、疎水性化合物A及びBの合計モル濃度/親水性化合物Cのモル濃度である。
親水性化合物に対する疎水性化合物のモル比D1は、香料中の疎水性化合物の合計モル数/香料中の親水性化合物の合計モル数であってもよい。例えば、香料Pの質量をW、香料Pの質量Wに対する疎水性化合物Aの配合率をXA%、香料Pの質量Wに対する疎水性化合物Bの配合率をXB%、疎水性化合物の分子量MA、疎水性化合物Bの分子量をMBとすると、疎水性化合物の合計モル数は以下の式によって求められる。
疎水性化合物の合計モル数(mol)=(W×XA/100)/MA+(W×XB/100)/MB
また、香料Pの質量Wに対する親水性化合物Cの配合率をXC%、親水性化合物の分子量MCとすると、親水性化合物のモル数は、以下の式によって求められる。
親水性化合物のモル数(mol)=(W×XC/100)/MC
そして、香料親水性化合物に対する疎水性化合物のモル比D1(疎水性化合物のモル濃度/親水性化合物のモル濃度)は、香料中の疎水性化合物の合計モル数/香料中の親水性化合物のモル数で表される。
【0029】
親水性化合物に対する疎水性化合物のモル比D1の計算方法についてより具体的に説明する。香料が、疎水性化合物として、0.033モルの1-(2-tert-ブチルシクロヘキシオキシ)-2-ブタノール及び0.012モルのノピルアセテートと、親水性化合物として、0.015モルのリナロールオキサイド及び0.013モルのα-メチル-3,4-メチレン-ジオキシヒドロシンナミアックアルデヒドとを含有する場合、親水性化合物に対する疎水性化合物のモル比D1は、(0.033+0.012)/(0.015+0.013)=1.61となる。
【0030】
本発明で用いられる香料の香気成分、すなわち親水性化合物、疎水性化合物、及び後述する中間化合物の香気成分は、ガスクロマトグラフィー(GC)やガスクロマトグラフィー-質量分析装置(GC-MS)等の香気成分の定性及び定量方法として、従来用いられている手法によって特定することができる。
香料の構成成分の定性及び配合量の測定は、抗菌消臭シート1枚の中央部から5cm×5cmの裁断片を採取し、該裁断片を100mLバイアル瓶に入れ、室温(25℃)下、エタノール100mLに48時間浸漬後、10分間超音波して香料成分を抽出したのち、抽出した成分をGC-MS分析することによって行う。この方法を3回繰り返し、その平均値を香料の配合量とする。
【0031】
本発明で用いられる香料は、香気成分として、前記疎水性化合物及び親水性化合物以外の化合物である中間化合物を含有することができる。中間化合物として、例えば、リナロール、ゲラニオール、シトロネロール、酢酸ベンジル、フェニルヘキサノール、ベーターフェニルエチルアルコール、2-メチル-4-(2,2,3-トリメチル-3-シクロペンテン-1-イル)-2-ブテン-1-オール、シンナミルアルコール、クマリン等が挙げられる。
なお、本発明で用いられる香料は、中間化合物を含有していなくてもよい。
【0032】
本発明の抗菌消臭シートにおいて、香料の含有量は特に制限されず、香料の種類や、抗菌消臭シートの具体的な用途に応じて適宜設定することができる。例えば、本発明の抗菌消臭シートを吸収性物品の表面シートと裏面シートとの間に配する場合には、該抗菌消臭シートにおける香料の含有量は、好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上、そして、好ましくは3.0質量%以下、更に好ましくは1.0質量%以下である。抗菌消臭シートにおける香料の含有量を前記の下限以上とすることで、所望の香りを得ることができ、また、前記の上限以下とすることで、抗菌消臭シートを例えば吸収性物品に適用した場合に、その吸収性物品が収容されたパッケージ内に香りを収めることができ、他のパッケージへの臭い移りを低減できる。
【0033】
本発明の抗菌消臭シートは、香料に加えて更に抗菌剤を有する。本発明で用いられる抗菌剤は、典型的には、臭気の発生源に作用して臭気の発生を抑制することで消臭効果を発現し得る抗菌性物質である。すなわち、本発明においては、抗菌剤が臭気の発生源に作用するという抗菌性能を有することによって、排泄物に起因する不快な臭いを低減することができる。また、抗菌剤の中には、それ自体が臭気に直接作用して、すなわち臭気を中和、分解等して、消臭効果を発現し得るものが存在するところ、本発明ではこのような臭気に直接作用する抗菌剤を使用することもできる。本発明で用いられる抗菌剤としては、上述した香料の香りを実質的に変質させないことを条件として、例えば生理用ナプキンなどの吸収性物品において抗菌用途に用いられるものが挙げられる。具体的には、金属、抗菌性金属担持物及び有機系抗菌剤等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0034】
特に、後述する吸着剤の種類との関係において、抗菌剤としてリン酸カルシウム及び銀を含む粒子を用いることが好ましい。この抗菌剤を用いることで、該抗菌剤を後述する吸着剤と併用した場合であっても、香料の香りの変質を効果的に抑制することができる。
前記の抗菌剤の粒子においては、リン酸カルシウムは例えば担体として用いることができる。リン酸カルシウムを担体として用いる場合、銀は担体であるリン酸カルシウムに担持されていることが抗菌効果の発現の点から好ましい。つまり、リン酸カルシウム及び銀を含む粒子は、銀担持リン酸カルシウム粒子であることが好ましい。リン酸カルシウムを担体とした抗菌剤は、人体との親和性(生体親和性)が良好であり、高い抗菌持続性、優れた安全性を有し、特に銀イオンの溶出(脱離)が少なく、抗菌効果の持続性がより高い。
あるいは、前記の抗菌剤の粒子は、リン酸カルシウムと銀との混合物であってもよい。この場合、前記の抗菌剤の粒子は、リン酸カルシウム及び銀からなる混合物であってもよく、あるいはこれらに加えて他の成分を含む混合物であってもよい。他の成分としては、例えばリン酸カルシウム以外のリン酸塩やシリカが挙げられる。該リン酸塩としては、例えばリン酸亜鉛及びリン酸アルミニウム等が挙げられる。
前記の抗菌剤の粒子が上述したいずれの態様であっても、該抗菌剤に含まれる銀は、銀イオンの状態で存在していてもよく、金属銀の状態で存在していてもよく、あるいは銀化合物の状態で存在していてもよい。銀が銀化合物の状態で存在している場合、該銀化合物としては、例えば酸化銀が挙げられる。
【0035】
リン酸カルシウムとしては、リン酸三カルシウム〔Ca3(PO4)2〕、リン酸一水素カルシウム二水和物〔CaHPO4・2H2O〕、リン酸二水素カルシウム一水和物〔Ca(H2PO4)2・H2O〕、リン酸八カルシウム〔Ca8H2(PO4)6・5H2O〕、リン酸四カルシウム〔Ca4(PO4)2O〕、ハイドロキシアパタイト〔Ca10(PO4)6(OH)2〕、ピロリン酸水素カルシウム〔CaH2P2O7〕、水酸アパタイト〔Ca10(PO4)6(OH)2〕、ピロリン酸カルシウム〔Ca2P2O7〕、Ca10(PO4)6X2(X=F,Cl)のハロゲン化アパタイト、非化学量論アパタイトCa10-Z(HPO4)y(PO4)6-yX2-y・zH2O(X=OH、F,Cl;y、zは不定比量)、ウィットロカイト〔Ca9(PO4)6PO3OH〕、及びアモルファスリン酸カルシウム等が挙げられる。これらの化合物のうち、親水性が高く、後述する湿式抄紙法によって抗菌消臭シートを首尾よく製造できる観点から、リン酸三カルシウムを用いることが好ましい。
【0036】
本発明においては、上述した抗菌剤に加えて他の抗菌剤を抗菌消臭シートに含有させることもできる。そのような抗菌剤としては、例えばリン酸の金属塩、シリカ、酸化亜鉛などが挙げられる。
リン酸の金属塩としては、例えば亜鉛塩、アルミニウム塩、ジルコニウム塩、カルシウム塩などが挙げられる。
【0037】
抗菌剤の粒子は、その比表面積が適切に調整されていることが、香料の香りの変質を防止しつつ、臭気を吸着する観点から好ましい。香料から揮散される香気成分が抗菌剤に吸着されず、該香料の香りが十分に維持されるようにする観点からは、抗菌剤の粒子はその比表面積が、好ましくは20m2/g以下、更に好ましくは15m2/g以下である。
一方で、抗菌剤の粒子の比表面積が一定以上であると、抗菌剤自体が臭気を吸着して消臭することが期待でき、抗菌剤の粒子の比表面積による物理消臭能と、該抗菌剤に含まれている銀による化学消臭能とを兼ね備えた抗菌剤となり得る。この点を考慮すると、抗菌剤の粒子の比表面積は、好ましくは5m2/g以上、更に好ましくは10m2/g以上である。抗菌剤の比表面積は以下の方法によって測定される。
【0038】
<抗菌剤の比表面積の測定方法>
BET表面積測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製、BELSORP-MR6)を用い、BET1点法によって測定する。吸着ガスとしては、窒素30体積%、ヘリウム70体積%のガスを用いる。試料の前処理として、120℃で10分間、吸着ガスの流通を行った後、試料が入ったセルを液体窒素で冷却し、吸着完了後室温まで昇温し、脱離した窒素量から試料の表面積を求め、その表面積の値を試料の質量で除することで、比表面積を算出する。
【0039】
比表面積との関係で、抗菌剤の粒子は、その平均粒径が、好ましくは0.3μm以上であり、更に好ましくは1.0μm以上であり、一層好ましくは2.0μm以上であり、そして、好ましくは25μm以下であり、更に好ましくは10μm以下であり、一層好ましくは5μm以下である。抗菌剤の粒子の平均粒径を前記の下限以上とすることで、抗菌剤の粒子の微粉が飛散せず、製造時の生産性を良好にすることができる。また、抗菌剤の粒子の平均粒径を前記の上限以下とすることで、特に、抗菌消臭シートを後述するように湿式抄紙法によって製造する場合に、製造された抗菌消臭シートの地合いを良好にでき、該シートが抗菌剤の粒子を良好に担持することができる。抗菌剤の粒子の平均粒径は以下の方法によって測定される。
【0040】
<粒子の平均粒径の測定方法>
レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(例えば、株式会社堀場製作所製、LA-960)を使用し、常法に従って測定する。測定条件は以下のとおりである
・測定セル:フローセル
・粒子径基準:体積
・分散媒:粒子の分散性がよい適当な溶媒、例えばエタノール/蒸留水=90/10質量%
・分散方法:攪拌、内蔵超音波3分
・透過率:70~90%
・試料濃度:0.1%
【0041】
本発明の抗菌消臭シートにおいて、抗菌剤の含有量は特に制限されず、抗菌剤の種類、抗菌消臭シートの具体的な用途に応じて適宜設定することができる。例えば、本発明の抗菌消臭シートを吸収性物品の表面シートと裏面シートとの間に配する場合には、抗菌消臭シートにおける抗菌剤の含有量は、好ましくは0.05質量%以上、更に好ましくは0.08質量%以上、一層好ましくは0.10質量%以上、そして、好ましくは3質量%以下、更に好ましくは2質量%以下、一層好ましくは1質量%以下である。特に、抗菌消臭シートにおける抗菌剤の含有量は、好ましくは0.05質量%以上3質量%以下であり、更に好ましくは0.08質量%以上2質量%以下であり、一層好ましくは0.10質量%以上1質量%以下である。抗菌剤の含有量を前記の下限以上とすることで所望の抗菌効果を得ることができ、前記の上限以下とすることで、香り変質及び低下を防止することができる。
【0042】
本発明の抗菌消臭シートは、香料及び抗菌剤に加えて更に吸着剤を有する。本発明で用いられる吸着剤は、排泄物の臭気、例えば硫化水素や有機酸を吸着して消臭する目的で用いられる。硫化水素は、ヒトの排泄物の腐敗臭の主成分である。
【0043】
吸着剤は無機物であることが好ましい。この理由は、本発明の抗菌消臭シートを使用した後にこれを廃棄するときの環境負荷が有機物よりも軽いことによるものである。特に、上述した抗菌剤と併用した場合に、香料の香りの変質が起こりづらくなる観点から、吸着剤として、無機物である二酸化ケイ素、酸化亜鉛及び酸化アルミニウムからなる複合塩を用いることが好ましい。
この吸着剤を用いることで、排泄物の臭気を効果的に吸着し得るという利点もある。
【0044】
二酸化ケイ素、酸化亜鉛及び酸化アルミニウムからなる複合塩(以下「複合塩吸着剤」ともいう。)は、二酸化ケイ素、酸化亜鉛及び酸化アルミニウムを含み、必要に応じて他の成分も含んでいる。複合塩吸着剤は、二酸化ケイ素(SiO2)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化アルミニウム(Al2O3)の複合体であるアルミノ珪酸亜鉛であることが、吸着性能が高い点から好ましい。また、アルミノ珪酸亜鉛は、毒性の高い重金属を含まないことから、人体に対する悪影響が少なく、低毒性で安全性に優れている。これらの観点から、複合塩吸着剤は、酸化亜鉛担持アルミノ珪酸塩であることが好ましい。
前記のアルミノ珪酸亜鉛における二酸化ケイ素(SiO2)、酸化亜鉛(ZnO)及び酸化アルミニウム(Al2O3)のの組成比は、好ましくは、SiO2:5~80モル%、ZnO:5~65モル%、Al2O3:1~60モル%であり、より好ましくは、SiO2:25~75モル%、ZnO:15~60モル%、Al2O3:1~45モル%である。
前記のアルミノ珪酸亜鉛は、例えば、下記式で表すことができる。
aSiO2・bZnO・cAl2O3・dH2O
式中、aは1以上、bは1以上、cは1以上、dは0以上の数を表す。
複合塩吸着剤は多孔質の粒子であることが好ましい。複合塩吸着剤が多孔質の粒子の形態を有することで、粒子表面で臭気を吸着することが期待され、排泄物に起因する不快な臭いをより一層効果的に低減し得る。粒子の形状は特に制限されず、例えば、球状、俵状、不定形状などであり得る。
【0045】
複合塩吸着剤は、その比表面積を適切な範囲に調整することで、臭気に対する十分な吸着能を発揮しつつ、香料の香りの変質を効果的に抑制することができる。この観点から、複合塩吸着剤の比表面積は、好ましくは100m2/g以上であり、更に好ましくは105m2/g以上であり、一層好ましくは110m2/g以上である。
一方で、複合塩吸着剤の比表面積を過度に大きくしないことで、意図しない香料の過度の吸着を抑制でき、それによって香料の香りの変質を効果的に防止できる。この観点から、複合塩吸着剤の比表面積は、好ましくは270m2/g以下であり、更に好ましくは260m2/g以下であり、一層好ましくは250m2/g以下である。
以上を勘案すると、複合塩吸着剤の比表面積は、100m2/g以上270m2/g以下であることが好ましく、105m2/g以上260m2/g以下であることが更に好ましく、110m2/g以上250m2/g以下であることが一層好ましい。
複合塩吸着剤の比表面積の測定方法は、上述した抗菌剤の粒子の比表面積の測定方法と同様である。
【0046】
比表面積との関係で、複合塩吸着剤をはじめとする吸着剤の粒子の平均粒径は、好ましくは1μm以上であり、更に好ましくは5μm以上であり、また好ましくは20μm以下であり、更に好ましくは10μm以下であり、また好ましくは1μm以上20μm以下である、更に好ましくは5μm以上10μm以下である。吸着剤の粒子の平均粒径がこのような範囲であると、臭気の吸着効果が向上し且つ本発明の抗菌消臭シートを後述するように湿式抄紙法によって製造する場合に、製造されたシートの地合いの悪化を抑制することができる。吸着剤の粒子の平均粒径の測定方法は、上述した抗菌剤の粒子の平均粒径の測定方法と同様である。
【0047】
本発明の抗菌消臭シートにおいて、吸着剤の含有量は特に制限されず、抗菌剤の種類、抗菌消臭シートの具体的な用途に応じて適宜設定することができる。例えば、本発明の抗菌消臭シートを吸収性物品の表面シートと裏面シートとの間に配する場合には、抗菌消臭シートにおける吸着剤の含有量は、好ましくは2質量%以上、更に好ましくは3質量%以上、そして、好ましくは8質量%以下、更に好ましくは7質量%以下、一層好ましくは6質量%以下である。特に、抗菌消臭シートにおける吸着剤の含有量は、好ましくは2質量%以上8質量%以下であり、更に好ましくは3質量%以上7質量%以下であり、一層好ましくは3質量%以上6質量%以下である。吸着剤の含有量を前記の下限以上とすることで臭気物質に対する所望の吸着効果を得ることができ、前記の上限以下とすることで、香り変質及び低下を防止することができる。
【0048】
以上のとおり、本発明の抗菌消臭シートは、香料、抗菌剤及び吸着剤を含有するものであるところ、香料の香り立ちを高いレベルに維持しつつ、香料の香りの変質を効果的に抑制する観点から、抗菌消臭シートにおける香料の質量に対する、吸着剤及び抗菌剤の質量の合計の割合を2.6倍以上に設定することが好ましく、3.3倍以上に設定することが更に好ましく、4.0倍以上に設定することが一層好ましい。同様の観点から、抗菌消臭シートにおける香料の質量に対する、吸着剤及び抗菌剤の質量の合計の割合を15倍以下に設定することが好ましく、10倍以下に設定することが更に好ましく、8倍以下に設定することが一層好ましい。以上のことを勘案すると、抗菌消臭シートにおける香料の質量に対する、吸着剤及び抗菌剤の質量の合計の割合を2.6倍以上15倍以下に設定することが好ましく、3.3倍以上10倍以下に設定することが更に好ましく、4.0倍以上8倍以下に設定することが一層好ましい。
【0049】
次に、本発明の抗菌消臭シートに好適な製造方法について、繊維シートからなるシート基材を備えた抗菌消臭シートの製造方法に基づき説明する。本製造方法では湿式抄紙法を採用することが、香料、抗菌剤及び吸着剤の歩留りの向上の点から好ましい。
【0050】
具体的には例えば、以下の工程(i)及び(ii)を有する製造方法によって抗菌消臭シートを製造することができる。
(i)セルロース系繊維等の抗菌剤、吸着剤及び繊維材料を水に分散させてなるスラリーを湿式抄紙して、該抗菌剤及び該吸着剤を含む紙匹を形成する工程。
(ii)湿潤した状態又は乾燥させた状態の紙匹に、香料を付与する工程。
【0051】
前記(i)の工程は、公知の湿式抄紙機を用いて常法に従って、例えば特開2009-155743号公報に記載されている抄造成形体の製造方法を実施することができる。
前記(ii)の工程においては、香料の付与対象を、湿潤した状態の紙匹とするか又は乾燥させた状態の紙匹とするかは、使用する香料の種類等に応じて適宜選択すればよい。(i)の工程に香料を含めない理由は、香料は一般的に疎水性物質を含むことに起因して水への分散が容易でなく、歩留りが低下しやすいからである。
香料の付与には例えば塗布を用いることができる。香料の塗布に際しては、香料の原液をそのまま塗布してもよく、あるいは必要に応じ、水や各種有機溶媒などの適当な溶媒に香料を溶解させ、その香料含有液を塗布してもよい。
香料の塗布方法は特に制限されず、例えば、スプレーによる噴霧法、刷毛塗り法、浸漬法の他、バーコーター、グラビアコーター、各種ロールコーター等を用いた塗布法が挙げられる。
【0052】
このようにして製造された抗菌消臭シートは、高い香気を有しつつ、高い抗菌性及び臭気に対する高い吸着性を有するという特徴を活かして種々の分野に用いることができる。特に本発明の抗菌消臭シートは、ヒトの排泄物から生じる臭気の吸着や、該排泄物の腐敗の抑制に有効であることから、使い捨ておむつ、生理用ナプキン、パンティライナ及びおりものシートなどの各種吸収性物品の構成部材として好適に用いられる。
【0053】
吸収性物品は一般に、着用状態において着用者の肌に近い側に位置する表面シートと、着用者の肌から遠い側に位置する裏面シートとを備える。本発明の抗菌消臭シートを、かかる構造を有する吸収性物品の構成部材として用いる場合には、表面シートと裏面シートとの間に抗菌消臭シートを配置することが、効果的な抗菌・消臭効果の発現、及び香気の効果的な発散の観点から好ましい。
【0054】
図1には、本発明の抗菌消臭シートが組み込まれた吸収性物品の一実施形態が示されている。同図に示す吸収性物品1は、表面シート2と、該表面シート2よりも着用者の肌から遠い側に位置する裏面シート3とを具備している。両シート2,3間には、抗菌消臭シート4が折り畳まれた状態で配されている。図示していないが、吸収性物品1は一方向(以下「縦方向」ともいう。)に長い形状をしている。縦方向は、
図1における紙面と直交する方向である。
表面シート2及び裏面シート3は、それぞれ、折り畳まれた状態の抗菌消臭シート4よりも大きな寸法を有し、抗菌消臭シート4の周縁から外方に延出し、それらの延出部において、接着剤、ヒートシール、超音波シール等の公知の接合手段によって互いに接合されて周縁シール部5を形成している。
折り畳まれた状態の抗菌消臭シート4は、吸収性物品1の縦方向の概ね全域に延在しており、平面視して縦方向に長い矩形形状を有している。
表面シート2及び裏面シート3と抗菌消臭シート4との間は接着剤によって接合されていてもよい。
吸収性物品1の具体的な種類によっては、該吸収性物品1の非肌対向面(裏面シート3の非肌対向面)に、該吸収性物品1をショーツ等の着衣(図示せず)に固定する粘着部(図示せず)が設けられていてもよい。この粘着部は、不使用時には剥離シート(図示せず)によって被覆されている。
【0055】
抗菌消臭シート4は、
図1に示すとおり、折り畳まれた状態で表面シート2と裏面シート3との間に配されており、2層以上の積層構造を有している。具体的には、抗菌消臭シート4の本来的な横方向Y(つまり縦方向と直交する方向)の長さ、すなわち幅(折り畳まれていない状態での幅)は、吸収性物品1の幅の好ましくは2倍以上3倍以下である。吸収性物品1の幅に比して幅広の抗菌消臭シート4は、
図1に示すとおり、その縦方向(すなわち
図1における紙面と直交する方向)に沿う両側部が非肌対向面側に折り曲げられ且つその折り曲げられた両側部の縦方向に沿う縁部どうしが吸収性物品1の横方向Yの中央部において重なるように折り畳まれた状態で、表面シート2と裏面シート3との間に配されている。したがって折り畳まれた状態の抗菌消臭シート4は、横方向Yの中央部が3層構造をなし、それ以外の部分が2層構造をなしている。
【0056】
吸収性物品1において、抗菌消臭シート4は、経血等の体液を吸収保持する吸収体(吸収性シート)として機能し得る。この種の吸収性物品における吸収体としては、木材パルプ等の繊維材料を積繊してなる積繊体が一般的であるが、抗菌消臭シート4からなる吸収性シートは、かかる積繊体に比して、厚みが薄く低剛性という利点を有する。
【0057】
表面シート2及び裏面シート3としては、吸収性物品において通常用いられているものを特に制限なく用いることができる。表面シート2としては、例えば、液透過性を有する親水性の不織布や穿孔フィルムなどを用いることができ、これらの不織布やフィルムは一般に熱可塑性樹脂、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂等から構成されている。裏面シート3としては、例えば、液難透過性のフィルムや不織布などを用いることができ、液難透過性のフィルムは透湿性を有していてもよい。
【0058】
図1に示すとおり、表面シート2と抗菌消臭シート4との間に、液透過性のセカンドシート6を配することができる。セカンドシート6は、本技術分野においてサブレイヤーシートなどとも呼ばれる吸収性物品の構成部材である。
セカンドシート6は、表面シート2から抗菌消臭シート4への液の透過性の向上、抗菌消臭シート4に吸収された液の表面シート2への液戻りの低減などの役割を担う。セカンドシート6は、例えば、抗菌消臭シート4の肌対向面の略全域を被覆するように配置される。
セカンドシート6としては、親水性不織布や親水性の繊維集合体を用いることができ、不織布としては、エアスルー不織布、ポイントボンド不織布、レジンボンド不織布、スパンレース不織布、エアレイド不織布等が挙げられる。
【0059】
図1に示すとおり、表面シート2の肌対向面には凹部7が形成されていてもよい。表面シート2とセカンドシート6とは、凹部7において互いに接合されている。吸収性物品1の平面視において、凹部7は、例えば連続した直線状又は曲線状に形成されていてもよく、あるいは散点状に形成されていてもよい。
凹部7は、表面シート2の肌対向面側からエンボス加工を施すことによって形成することができる。エンボス加工としては、表面シート2及びセカンドシート6の構成繊維を溶融し加圧し得るものであればよい。その例としては、熱エンボス加工や超音波エンボス加工が挙げられる。このようなエンボス加工によって凹部7において表面シート2とセカンドシート6とを融着によって一体化することができる。
【0060】
以上の説明は、香料、抗菌剤及び吸着剤を含む抗菌消臭シートに関するものであったところ、本発明によれば、香料、抗菌剤及び吸着剤を含む抗菌消臭剤も提供される。香料、抗菌剤及び吸着剤の詳細については上述したとおりである。
本発明の抗菌消臭剤は、一般に粉末状のものであり、抗菌剤の粒子及び吸着剤の粒子並びに香料を含むものである。本発明の抗菌消臭剤は、粉末状のままで、抗菌消臭の対象物に付与することができる。あるいは本発明の抗菌消臭剤を、他の素材と混合して所定の形状に成形して用いることもできる。例えば、本発明の抗菌消臭剤を、フラッフパルプ等の親水性繊維と混合して積繊体に成形することで、各種の吸収性物品の吸収体となすことができる。
【0061】
本発明の抗菌消臭剤において、香料の含有量は、該抗菌消臭剤に対して5質量%以上30質量%以下に設定することが、着用者に対して強すぎない香りであり且つ香料から揮散される香気成分が吸着剤によって過度に吸着されず、該香料の香りを持続させることができるという観点から好ましい。この観点から、香料の含有量は、該抗菌消臭剤に対して10質量%以上25質量%以下に設定することが更に好ましく、15質量%以上20質量%以下に設定することが一層好ましい。
【0062】
本発明の抗菌消臭剤において、抗菌剤の含有量は、該抗菌消臭剤に対して1質量%以上30質量%以下に設定することが、該抗菌消臭剤を少量用いた場合であっても、抗菌性を担保できる観点から好ましい。この観点から、抗菌剤の含有量は、該抗菌消臭剤に対して2質量%以上25質量%以下に設定することが更に好ましく、2.5質量%以上20質量%以下に設定することが一層好ましい。
【0063】
本発明の抗菌消臭剤において、吸着剤の含有量は、該抗菌消臭剤に対して60質量%以上90質量%以下に設定することが、該抗菌消臭剤を少量用いた場合であっても、消臭性能を担保できる観点から好ましい。この観点から、吸着剤の含有量は、該抗菌消臭剤に対して70質量%以上85質量%以下に設定することが更に好ましく、75質量%以上80質量%以下に設定することが一層好ましい。
【0064】
以上、本発明をその実施形態に基づいて説明したが、本発明は、前記実施形態に制限されることなく適宜変更が可能である。
例えば、
図1に示す吸収性物品1において、表面シート2と裏面シート3との間に吸収性コア(図示せず)を配置し、該吸収性コアを被覆するように抗菌消臭シート4を配置してもよい。吸収性コアとしては、一般的な吸収性物品において通常用いられているものを特に制限なく用いることができる。典型的には、木材パルプなどの親水性繊維及び/又は吸水性ポリマー粒子を含んで構成される。
【実施例0065】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0066】
〔実施例1ないし6及び比較例1ないし5〕
上述した工程(i)及び(ii)を有する製造方法によって、抗菌消臭シートを製造した。
具体的には、抄紙機に、繊維材料と、以下の表3に示す抗菌剤及び吸着剤と、水とを含むパルプスラリーを供給し湿式抄紙することによって、抗菌剤の粒子及び吸着剤の粒子が内添された湿紙を得た。
次いで、湿紙を加熱乾燥して紙を得、更に、該紙の片面の全域に、以下の表3に示す香料を塗布した。これによって、繊維シートからなるシート基材に香料並びに抗菌剤及び吸着剤を含有させた抗菌消臭シートを製造した。
繊維材料として、セルロース系繊維の一種である木材パルプを用いた。
香料A及びBの詳細は、以下の表4及び表5に示すとおりである。抗菌剤の詳細は、以下の表6に示すとおりである。吸着剤の詳細は、以下の表7に示すとおりである。
得られた抗菌消臭シートにおけるシート基材の坪量は28g/m2であった。また、抗菌消臭シートに含まれる香料、抗菌剤及び吸着剤の含有量は表3に示すとおりであった。
【0067】
〔評価〕
実施例及び比較例で得られた抗菌消臭シートについて、以下の方法で香料の香りの変調の程度、抗菌性能及び消臭性能(酢酸及び硫化水素)を評価した。それらの結果を以下の表3に示す。
【0068】
〔香料の香りの変調の程度〕
抗菌剤及び吸着剤を含有しない以外は、実施例1と同様の方法によって製造した賦香紙(抗菌剤及び吸着剤を無添加の紙)を標準品として用意し、抗菌消臭シート及び標準品から平面視四角形形状(寸法:65mm×100mm)の測定サンプルをそれぞれ切り出した。測定サンプルを密閉容器内に温度50℃で1ヶ月間保管した。
その後、各実施例及び比較例の抗菌消臭シートについて、5名のモニターが香りの官能評価を行った。温度50℃で1ヶ月間放置された標準品の香りを基準として、以下の4段階の官能評価を行った。
4点:基準の香りと同等の香りである(最高評価)。
3点:基準の香りと比較し若干異なる。
2点:基準の香りと比較しやや異なる。
1点:基準の香りと明らかに異なる。
【0069】
〔抗菌性能〕
JIS L 1902:2015「繊維製品の抗菌性試験方法及び抗菌効果」の菌液吸収法に従い抗菌活性値を測定した。抗菌活性値は、抗菌性能の指標となるものであり、その数値が大きいほど抗菌性能が高いと評価される。
【0070】
〔消臭性能(酢酸)〕
測定対象のシートから10cm四方を切り出して測定サンプルとし、共栓付き500ml三角フラスコに入れた。測定サンプルの入ったフラスコ内に、酢酸(和光純薬製)を3%に調整した水溶液を、0.5μl注入(30ppm相当)後、速やかにフラスコの口を共栓で閉鎖して30分静置した。その後、酢酸検知管(株式会社ガステック製の81L)を用いてフラスコ内に残留する酢酸量を測定し、その測定値がゼロ、すなわち残留酢酸がない場合は、前記と同様に、フラスコ内に3%酢酸水溶液を0.5μl注入、30分静置、残留酢酸量の測定を実施した。フラスコ内に残留酢酸が検知されるまでにフラスコ内に注入した3%酢酸水溶液の総量を、当該測定対象のシートの酢酸吸着量とした。酢酸は、ヒトの排泄物の酸性臭の主成分であり、酢酸吸着量が多いほど、排泄物に起因する不快な臭いの低減効果が高いと判断され、高評価となる。
【0071】
〔消臭性能(硫化水素)〕
測定対象のシートから10cm四方を切り出して測定サンプルとし、共栓付き500ml三角フラスコに入れた。測定サンプルの入ったフラスコ内に、硫化水素の濃度が1000ppmである硫化水素/窒素混合ガス(高千穂化学工業株式会社製)を、5mLのシリンジを用いて4ppm注入後、速やかにフラスコの口を共栓で閉鎖して30分静置した。その後、硫化水素検知管(株式会社ガステック製の4LT)を用いてフラスコ内に残留する硫化水素量を測定し、その測定値がゼロ、すなわち残留硫化水素がない場合は、前記と同様に、フラスコ内に硫化水素/窒素混合ガスを4ppm注入、30分静置、残留硫化水素量の測定を実施した。フラスコ内に残留硫化水素が検知されるまでにフラスコ内に注入した硫化水素の総量を、当該測定対象のシートの硫化水素吸着量とした。硫化水素は、ヒトの排泄物の腐敗臭の主成分であり、硫化水素吸着量が多いほど、排泄物に起因する不快な臭いの低減効果が高いと判断され、高評価となる。
【0072】
【0073】
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
表3に示す結果から明らかなとおり、各実施例で得られた抗菌消臭シートは、香料の香りの変調が知覚されず、また抗菌性能及び消臭性能に優れるものであることが分かる。
これに対して比較例で得られたシートは、香料の香りの変調が知覚されるか(比較例1、2及び5)、又は変調が知覚されない場合には抗菌性能と消臭性能とを両立できないものであった(比較例3及び4)。