(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022177757
(43)【公開日】2022-12-01
(54)【発明の名称】磁場測定装置および磁場測定方法
(51)【国際特許分類】
G01R 33/24 20060101AFI20221124BHJP
G01R 33/032 20060101ALI20221124BHJP
【FI】
G01R33/24
G01R33/032
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021084224
(22)【出願日】2021-05-18
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム委託事業、「超スマート社会実現のカギを握る革新的半導体技術を基盤としたエネルギーイノベーションの創出に関する国立大学法人京都大学による研究開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000107804
【氏名又は名称】スミダコーポレーション株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114971
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修
(72)【発明者】
【氏名】浜田 真吾
(72)【発明者】
【氏名】大塚 努
(72)【発明者】
【氏名】芳井 義治
(72)【発明者】
【氏名】水落 憲和
(72)【発明者】
【氏名】竹村 祐輝
【テーマコード(参考)】
2G017
【Fターム(参考)】
2G017AA02
2G017AC09
2G017AD15
2G017BA03
2G017BA05
(57)【要約】
【課題】 磁場測定のために、フラックストランスフォーマーで被測定磁場に対応する磁場を磁気共鳴部材に対して効率良く印加し、また、磁気共鳴部材、高周波発生器および磁石とフラックストランスフォーマーの磁束の向きとを相対的に配置しやすく、レーザー光の照射空間が確保されやすくする。
【解決手段】 高周波磁場発生器2は、マイクロ波で電子スピン量子操作の可能な磁気共鳴部材1にマイクロ波を印加する。磁石3は、磁気共鳴部材1に静磁場を印加する。照射装置12は、磁気共鳴部材1に特定波長の光を照射する。フラックストランスフォーマー4は、1次側コイル4aで被測定磁場を感受し、感受した被測定磁場に対応する印加磁場を2次側コイル4bで磁気共鳴部材1に印加する。そして、磁気共鳴部材1は、フラックストランスフォーマー4の2次側コイル4bの中空部にあり、かつ磁石3の中空部にある位置に配置されている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ波で電子スピン量子操作の可能な磁気共鳴部材と、
前記磁気共鳴部材に前記マイクロ波を印加する高周波磁場発生器と、
前記磁気共鳴部材に静磁場を印加する磁石と、
前記磁気共鳴部材に特定波長の光を照射する照射装置と、
1次側コイルで被測定磁場を感受し、感受した前記被測定磁場に対応する印加磁場を2次側コイルで前記磁気共鳴部材に印加するフラックストランスフォーマーとを備え、
前記磁気共鳴部材は、前記フラックストランスフォーマーの前記2次側コイルの中空部にあり、かつ前記磁石の中空部にある位置に配置されていること、
を特徴とする磁場測定装置。
【請求項2】
前記磁石は、リング型磁石であり、
前記2次側コイルは、リング状に巻回されており、
前記磁石の中心軸および前記2次側コイルの中心軸は互いに一致し、
前記磁気共鳴部材は、前記中心軸上に配置されること、
を特徴とする請求項1記載の磁場測定装置。
【請求項3】
前記磁気共鳴部材は、前記中心軸の方向において、前記リング型磁石の幅の中心に配置されていることを特徴とする請求項2記載の磁場測定装置。
【請求項4】
前記照射装置は、前記光を前記中心軸に沿って前記磁気共鳴部材に照射することを特徴とする請求項2または請求項3記載の磁場測定装置。
【請求項5】
前記磁気共鳴部材は、前記マイクロ波で電子スピン量子操作の可能な複数のカラーセンターを備え、
前記磁石は、前記磁気共鳴部材に対して略均一な静磁場を印加すること、
を特徴とする請求項1から請求項4のうちのいずれか1項記載の磁場測定装置。
【請求項6】
(a)フラックストランスフォーマーの1次側コイルで被測定磁場を感受し、(b)前記フラックストランスフォーマーの2次側コイルで、感受した前記被測定磁場に対応する印加磁場を、マイクロ波で電子スピン量子操作の可能な磁気共鳴部材に印加し、
前記磁気共鳴部材に前記マイクロ波を印加し、
前記磁気共鳴部材に静磁場を印加し、
前記磁気共鳴部材に特定波長の光を照射し、
前記磁気共鳴部材は、前記フラックストランスフォーマーの前記2次側コイルの中空部にあり、かつ前記磁石の中空部にある位置に配置されていること、
を特徴とする磁場測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁場測定装置および磁場測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ある磁場測定装置は、窒素と格子欠陥(NVセンター:Nitrogen Vacancy Center)を有するダイヤモンド構造などといったセンシング部材の電子スピン共鳴を利用した光検出磁気共鳴(ODMR:Optically Detected Magnetic Resonance)で磁気計測を行っている(例えば特許文献1参照)。ODMRでは、このようなNVセンターを有するダイヤモンドといった磁気共鳴部材に対して、被測定磁場とは別に静磁場が印加されるとともに、所定のシーケンスでレーザー光(励起光および測定光)並びにマイクロ波が印加され、その磁気共鳴部材から出射する蛍光の光量が検出されその光量に基づいて被測定磁場の磁束密度が導出される。
【0003】
例えば、ラムゼイパルスシーケンスでは、(a)励起光をNVセンターに照射し、(b)マイクロ波の第1のπ/2パルスをNVセンターに印加し、(c)第1のπ/2パルスから所定の時間間隔ttでマイクロ波の第2のπ/2パルスをNVセンターに印加し、(d)測定光をNVセンターに照射してNVセンターの発光量を測定し、(e)測定した発光量に基づいて磁束密度を導出する。また、スピンエコーパルスシーケンスでは、(a)励起光をNVセンターに照射し、(b)マイクロ波の第1のπ/2パルスを被測定磁場の位相0度でNVセンターに印加し、(c)マイクロ波のπパルスを被測定磁場の位相180度でNVセンターに印加し、(d)マイクロ波の第2のπ/2パルスを被測定磁場の位相360度でNVセンターに印加し、(e)測定光をNVセンターに照射してNVセンターの発光量を測定し、(f)測定した発光量に基づいて磁束密度を導出する。
【0004】
また、ある磁気センサーは、超伝導量子干渉計 (SQUID:Superconducting Quantum Interference Device)と、被測定磁場をピックアップコイルで検出しインプットコイルでSQUIDへ印加する磁束トランス(フラックストランスフォーマー)とを備えている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-8298号公報
【特許文献2】特開平8-75834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の磁場測定装置は、磁気共鳴部材に対して、被測定磁場の他に、レーザー光、マイクロ波、および静磁場を印加しているため、磁気共鳴部材の周辺に、レーザー光、マイクロ波、および静磁場をそれぞれ印加する手段が実装されている。したがって、レーザー光、マイクロ波、および静磁場を磁気共鳴部材に対して印加する場合において、フラックストランスフォーマーを使用するにはレーザー光、マイクロ波、および静磁場の印加を妨げずにフラックストランスフォーマーの2次側コイルを配置する必要があり、幾何学的な構成上、フラックストランスフォーマーで被測定磁場に対応する磁場を磁気共鳴部材に対して効率良く印加することは困難である。
【0007】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、フラックストランスフォーマーで被測定磁場に対応する磁場を磁気共鳴部材に対して効率良く印加し、また、磁気共鳴部材、高周波発生器および磁石とフラックストランスフォーマーの磁束の向きとを相対的に配置しやすく、レーザー光を照射する空間が確保されやすい磁場測定装置および磁場測定方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る磁場測定装置は、マイクロ波で電子スピン量子操作の可能な磁気共鳴部材と、磁気共鳴部材にマイクロ波を印加する高周波磁場発生器と、磁気共鳴部材に静磁場を印加する磁石と、磁気共鳴部材に特定波長の光を照射する照射装置と、1次側コイルで被測定磁場を感受し、感受した被測定磁場に対応する印加磁場を2次側コイルで磁気共鳴部材に印加するフラックストランスフォーマーとを備える。そして、磁気共鳴部材は、フラックストランスフォーマーの2次側コイルの中空部にあり、かつ磁石の中空部にある位置に配置されている。
【0009】
本発明に係る磁場測定方法は、(a)フラックストランスフォーマーの1次側コイルで被測定磁場を感受し、(b)フラックストランスフォーマーの2次側コイルで、感受した被測定磁場に対応する印加磁場を、マイクロ波で電子スピン量子操作の可能な磁気共鳴部材に印加し、磁気共鳴部材にマイクロ波を印加し、磁気共鳴部材に静磁場を印加し、磁気共鳴部材に特定波長の光を照射する。そして、磁気共鳴部材は、フラックストランスフォーマーの2次側コイルの中空部にあり、かつ磁石の中空部にある位置に配置されている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、フラックストランスフォーマーで被測定磁場に対応する磁場を磁気共鳴部材に対して効率良く印加し、また、磁気共鳴部材、高周波発生器および磁石とフラックストランスフォーマーの磁束の向きとを相対的に配置しやすく、レーザー光を照射する空間が確保されやすい磁場測定装置および磁場測定方法が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態に係る磁場測定装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す磁気センサー部10における光学系の構成例を示す断面図である。
【
図3】
図3は、トランスフォーマー4の1次側コイル4aを示す断面図である。
【
図4】
図4は、
図1に示す磁場測定装置における磁気センサー部10の構成例を示す斜視図である。
【
図5】
図5は、
図4に示す磁気センサー部10における磁気共鳴部材1、高周波磁場発生器2、2次側コイル4bなどの配置を示す(Y-Z面の)断面図である。
【
図6】
図6は、
図4に示す磁気センサー部10における磁気共鳴部材1、高周波磁場発生器2、2次側コイル4bなどの配置を示す(X-Z面の)断面図である。
【
図7】
図7は、
図4における磁石3による磁気共鳴部材1における磁束密度特性の例を説明する図である(1/2)。
【
図8】
図8は、
図4における磁石3による磁気共鳴部材1における磁束密度特性の例を説明する図である(2/2)。
【
図9】
図9は、磁場測定装置の動作を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0013】
図1は、本発明の実施の形態に係る磁場測定装置の構成を示すブロック図である。
図1に示す磁場測定装置は、磁気センサー部10と、高周波電源11と、照射装置12と、受光装置13と、演算処理装置14とを備える。
【0014】
磁気センサー部10は、所定の位置(例えば、検査対象物体の表面上または表面上方)において、被測定磁場(例えば磁場の強度、向きなど)を検出する。なお、被測定磁場は、単一周波数の交流磁場でもよいし、複数の周波数成分を有する所定周期の交流磁場でもよい。
【0015】
この実施の形態では、磁気センサー部10は、磁気共鳴部材1、高周波磁場発生器2、磁石3、およびフラックストランスフォーマー4を備える。
【0016】
磁気共鳴部材1は、結晶構造を有し、結晶格子における欠陥および不純物の配列方向に応じた周波数のマイクロ波で(ラビ振動に基づく)電子スピン量子操作の可能な部材である。
【0017】
この実施の形態では、磁気共鳴部材1は、複数(つまり、アンサンブル)の特定カラーセンターを有する光検出磁気共鳴部材である。この特定カラーセンターは、ゼーマン分裂可能なエネルギー準位を有し、かつ、ゼーマン分裂時のエネルギー準位のシフト幅が互いに異なる複数の向きを取り得る。
【0018】
ここでは、磁気共鳴部材1は、単一種別の特定カラーセンターとして複数のNV(Nitrogen Vacancy)センターを含むダイヤモンドなどの部材である。NVセンターの場合、基底状態がms=0,+1,-1の三重項状態であり、ms=+1の準位およびms=-1の準位がゼーマン分裂する。なお、磁気共鳴部材1に含まれるカラーセンターは、NVセンター以外のカラーセンターでもよい。
【0019】
高周波磁場発生器2は、上述のマイクロ波を磁気共鳴部材1に印加する。ここでは、高周波磁場発生器2は、板状コイルであって、マイクロ波を放出する略円形状のコイル部2aと、コイル部2aの両端から延び基板31に固定される端子部2bとを備える。高周波電源11は、そのマイクロ波の電流を生成して高周波磁場発生器2に導通させる。
【0020】
高周波磁場発生器2のコイル部2aは、その両端面部分において、磁気共鳴部材1を挟むように所定の間隔で互いに平行な2つの電流を導通させ、上述のマイクロ波を放出する。ここでは、高周波磁場発生器2は板状コイルであるが、表皮効果により、コイル部2aの端面部分をマイクロ波の電流が流れるため、2つの電流が形成される。
【0021】
図2は、
図1に示す磁気センサー部10における光学系の構成例を示す断面図である。例えば
図2に示すように、高周波磁場発生器2における略円形状かつ板状のコイル部の側面に開口部2cが形成されており、照射装置12からの励起光および測定光は、この開口部2cを通過して磁気共鳴部材1(磁気共鳴部材1の全域あるいは一部の領域)に照射される。また、開口部2cの大きさは、磁気共鳴部材1における照射領域の大きさ、及び表皮効果の下で電流が流れる領域の大きさにより決定される。この実施の形態では、磁気共鳴部材1における照射領域は長方形または円形とされ、高周波磁場発生器2の板状コイルは略円形であるため、開口部2cは円弧状の長方形となり、また、磁気共鳴部材1への開口部2cの投影領域の面積が照射領域の面積より大きくなり、その投影領域にその照射領域が含まれるように、開口部2cが設計される。
【0022】
また、磁石3は、磁気共鳴部材1に静磁場(直流磁場)を印加し、磁気共鳴部材1内の複数の特定カラーセンター(ここでは、複数のNVセンター)のエネルギー準位をゼーマン分裂させる。ここでは、磁石3は、リング型の永久磁石であり、例えば、フェライト磁石、アルニコ磁石、サマコバ磁石などである。
【0023】
NVセンターの場合、ダイヤモンド結晶において、欠陥(空孔)(V)および不純物としての窒素(N)によってカラーセンターが形成されており、ダイヤモンド結晶内の欠陥(空孔)(V)に対して、隣接する窒素(N)の取り得る位置(つまり空孔と窒素との対の配列方向)は4種類あり、それらの配列方向のそれぞれに対応するゼーマン分裂後のサブ準位(つまり、基底からのエネルギー準位)が互いに異なる。したがって、マイクロ波の周波数に対する静磁場によるゼーマン分裂後の蛍光強度の特性において、それぞれの向きi(i=1,2,3,4)に対応して、互いに異なる4つのディップ周波数対(fi+,fi-)が現れる。ここでは、この4つのディップ周波数対のうちのいずれかのディップ周波数に対応して、上述のマイクロ波の周波数(波長)が設定される。
【0024】
また、フラックストランスフォーマー4は、1次側コイル4aと、1次側コイル4aにケーブル(同軸ケーブル、リッツ線など)などで電気的に接続された2次側コイル4bとを備える。
図3に示すように、1次側コイル4aが0.5~数十ターンの巻線により構成されている。また、1次側コイル4aで所定の測定位置の被測定磁場を感受し、その測定位置で感受した被測定磁場に対応する印加磁場(フラックストランスフォーマー4によって測定位置から伝達された磁場)を、2次側コイル4bで磁気共鳴部材1に印加する。つまり、1次側コイル4aは、感受した被測定磁場に対応する電気信号を誘起し、2次側コイル4bは、その電気信号に対応する印加磁場を誘起する。
【0025】
図4は、
図1に示す磁場測定装置における磁気センサー部10の構成例を示す斜視図である。
図5は、
図4に示す磁気センサー部10における磁気共鳴部材1、高周波磁場発生器2、2次側コイル4bなどの配置を示す(Y-Z面の)断面図である。
図6は、
図4に示す磁気センサー部10における磁気共鳴部材1、高周波磁場発生器2、2次側コイル4bなどの配置を示す(X-Z面の)断面図である。
【0026】
例えば
図4~
図6に示すように、上述の磁気共鳴部材1は、当該フラックストランスフォーマー4の2次側コイル4bの中空部にあり、かつ磁石3の中空部にある位置に配置されている。
【0027】
この実施の形態では、2次側コイル4bは、磁石3の中空部に配置されている。具体的には、磁石3は、リング型磁石であり、2次側コイル4bは、リング状に均等に巻回されており、磁石3の中心軸および2次側コイル4bの中心軸に対して垂直するそれぞれの横断面において、中心点から半径=(横断面の半径×a%)の中心エリア内に配置されている。特に、磁気共鳴部材1が中心点に配置されることが好ましい。ここでは、aは30以下であり、より好ましいのは20以下であり、さらにより好ましいのは10以下であり、さらにより好ましいのは5以下である。
【0028】
したがって、この実施の形態では、上述の印加磁場の印加方向は、上述の静磁場の印加方向と同一となり、上述の静磁場の印加によって、上述のディップ周波数での蛍光強度変化が増強され、感度が高くなる。
【0029】
また、この実施の形態では、2次側コイル4bは、1次側コイル4aに対して所定の巻数比で、円筒状で非磁性のボビン4b1に巻回されている。ボビン4b1には中空部4b2(つまり、2次側コイル4bの中空部)および巻線引出用のスリット4b3が形成されている。
【0030】
さらに、この実施の形態では、磁気共鳴部材1は、上述のマイクロ波で電子スピン量子操作の可能な複数のカラーセンター(ここでは、NVセンター)を備え、磁石3は、磁気共鳴部材1の所定領域(励起光および測定光の照射領域)に対して略均一な静磁場を印加する。例えば、その所定領域における静磁場の強度についての最大値と最低値との差分や比率が所定値以下となるように静磁場が印加される。
【0031】
さらに、磁石3の中心軸の方向において、磁気共鳴部材1は、リング型の磁石3の幅の中心区域に配置されている。ここでの「中心区域」とは、リング型の磁石3の中心軸の中心点から、
図6に示すZ方向(軸方向)を沿って±(中心軸長さ1/2×b%)の空間を指す。ここでは、bは30以下であり、より好ましいのは20以下であり、さらにより好ましいのは10以下であり、さらにより好ましいのは5以下である。また、この実施の形態においては、リング型の磁石3の幅の中心に配置されている(つまり、磁気共鳴部材1は、磁石3の両端面から略等距離の位置に配置されている)。さらに、トランスフォーマー4の2次側コイル4bの中心軸の方向において、磁気共鳴部材1は、2次側コイル4bの幅の中心区域に配置されている。ここでの「中心区域」とは、2次側コイル4bの中心軸の中心点から、
図6に示すZ方向(軸方向)を沿って±(中心軸長さ1/2×c%)の空間を指す。ここでは、cは30以下であり、より好ましいのは20以下であり、さらにより好ましいのは10以下であり、さらにより好ましいのは5以下である。また、本実施例においては、2次側コイル4bの幅の中心に配置されている(つまり、磁気共鳴部材1は、2次側コイル4bの両端面から略等距離の位置に配置されている )。さらに、磁石3の中空部の中心軸に対して垂直な面において、当該中空部の断面積は、磁気共鳴部材1における励起光および測定光の照射領域の面積の100倍以上、特に当該中空部の断面において、径方向において、測定光の照射領域の径の10倍以上の径長とすることが好ましい。この実施の形態においては、測定光の照射領域が50μm×100μmで、中空部の断面積が500μm×1000μm以上となる。このようにすることで、励起光および測定光の照射領域に対して均一な静磁場(方向および強度が略一定な静磁場)が印加される。
【0032】
図7および
図8は、
図4における磁石3(リング型磁石)による磁気共鳴部材1における磁束密度特性の例を説明する図である。
図7および
図8に示す磁束密度特性は、磁気共鳴部材1の寸法が2mm×2mm×1mmであり、磁石3が残留磁束密度385mT、比透磁率1.15、内径30mmのフェライト磁石である場合において、磁石3の外径および高さを変化させた際の、指標#1(上述の領域内での磁束密度強度の最大値と平均値との比率)と指標#2(上述の領域内での磁束密度強度の最小値と平均値との比率)とを示すものであり、シミュレーションにより得られたものである。
図7および
図8に示すように、磁石3の外径および高さ(厚み)を適宜設定することで、磁気共鳴部材1における磁束密度のばらつきを、略0.5%程度以下とすることができる。
【0033】
また、磁気共鳴部材1において、上述の欠陥および不純物の配列方向が、上述の静磁場の向き(および印加磁場の向き)に略一致するように、磁気共鳴部材1の結晶が形成され、磁気共鳴部材1の向きが設定される。例えば、上述の欠陥および不純物の配列方向と上述の静磁場の向き(および印加磁場の向き)とのなす角度(絶対値)は8度以下であることが好ましく、0度であることが最も好ましい。
【0034】
この実施の形態では、例えば
図4~
図6に示すように、L字状の回路基板31の一方の先端部分に、高周波磁場発生器2が固定されており、回路基板31の他方の先端部分に、ケーブルで高周波電源11に電気的に接続されるコネクター32が固定されており、回路基板上31の配線パターン、インピーダンスマッチング用などの電気素子(抵抗、キャパシターなど)、ビアホールなどを介して、コネクター32が、高周波磁場発生器2の両端(端子部2b)に電気的に接続されている。また、装置全体の小型化の観点から、絶縁性能高いSiC基板などの半導体基板を回路基板31に使用してもよい。 そして、高周波磁場発生器2の中空部の略中心に磁気共鳴部材1が配置される。これにより、強度および向きの略均一なマイクロ波が磁気共鳴部材1に印加される。
【0035】
さらに、この実施の形態では、磁気共鳴部材1から、上述の印加磁場に対応する物理的事象(ここでは蛍光)を検出する検出装置として、照射装置12および受光装置13が設けられている。
【0036】
照射装置12は、
図6におけるZ方向に沿って、2次側コイル4bの中空部を通して、光検出磁気共鳴部材としての磁気共鳴部材1に光(所定波長の励起光と所定波長の測定光)を照射する。また、受光装置13は、測定光の照射時において、2次側コイル4bの中空部を通して、磁気共鳴部材1から発せられる蛍光を検出する。この実施の形態では、照射装置12は、上述の光を上述の中心軸に沿って磁気共鳴部材1に照射する。これにより、2次側コイル4bの中空部が実際の密閉する空間となり、照射装置12からのレーザー光(測定光)の光路、および磁気共鳴部材1からの蛍光の光路が通る空間が確保でき、測定光および蛍光が外部空間へ漏れることがなくなる 。
【0037】
また、例えば
図5および
図6に示すように、磁気共鳴部材1は、略四角柱状のプリズム41の上に固定されており、高周波磁場発生器2の中空部の略中心に磁気共鳴部材1が配置されるように、プリズム41が治具42でボビン4b1に対して固定されている。プリズム41は、
図5に示すように、X軸方向に沿っており、かつY-Z面において(例えば45度で)傾斜した反射面を備え、磁気共鳴部材1から出射する蛍光の一部をこの反射面で反射し、励起光および測定光とは反対側に出射させる。
【0038】
この蛍光は、例えば
図2に示すように、複合放物面型集光器(CPC)43などによって受光装置13へ向けて集光される。なお、この蛍光を集光する光学系は、他のレンズ構成を有していてもよい。また、この実施の形態では、複合放物面型集光器(CPC)43に面する、高周波磁場発生器2におけるコイル部の側面にも開口部が形成されており、この開口部を介して出射した蛍光の一部も、複合放物面型集光器(CPC)43などによって受光装置13へ向けて集光される。
【0039】
なお、上述の物理的事象は、ここでは光学的に検出されるが、電気特性の変化(磁気共鳴部材1の抵抗値の変化など)であってもよく、電気的に検出されてもよい。
【0040】
図1に戻り、演算処理装置14は、例えばコンピュータを備え、プログラムをコンピュータで実行して、各種処理部として動作する。この実施の形態では、演算処理装置14は、検出された光学的あるいは電気的な信号データを図示せぬ記憶装置(メモリーなど)に保存し、測定制御部21および演算部22として制御および演算動作を行う。
【0041】
測定制御部21は、高周波電源11を制御し、上述の検出装置(ここでは、照射装置12および受光装置13)により検出された、上述の物理的事象(ここでは蛍光強度)の検出値を特定する。
【0042】
この実施の形態では、測定制御部21は、例えばODMRに基づき、所定の測定シーケンスに従って高周波電源11および照射装置12を制御し、受光装置13により検出された蛍光の検出光量を特定する。例えば、照射装置12は、レーザーダイオードなどを光源として備え、受光装置13は、フォトダイオードなどを受光素子として備え、測定制御部21は、受光素子の出力信号に対して増幅などを行って得られる受光装置13の出力信号に基づいて、上述の検出光量を特定する。
【0043】
演算部22は、測定制御部21によって得られ、記憶装置に保存されていた検出値に基づいて上述の測定位置での被測定磁場(強度、波形など)を演算する。
【0044】
なお、上述の測定シーケンスは、被測定磁場の周波数などに従って設定される。例えば、被測定磁場が比較的高周波数の交流磁場である場合には、この測定シーケンスには、スピンエコーパルスシーケンス(ハーンエコーシーケンスなど)が適用される。ただし、測定シーケンスは、これに限定されるものではない。また、例えば、被測定磁場が比較的低周波数の交流磁場である場合、被測定磁場の1周期において、複数回、ラムゼイパルスシーケンス(つまり、直流磁場の測定シーケンス)で、磁場測定を行い、それらの磁場測定の結果に基づいて、被測定磁場(強度、波形など)を特定するようにしてもよい。
【0045】
なお、磁気センサー部10における磁気共鳴部材1の周辺には磁気シールドが設けられ、外部からの磁場が磁気共鳴部材1に直接印加されないようになっている。
【0046】
次に、当該実施の形態に係る磁場測定装置の動作について説明する。
【0047】
例えば
図9に示すように、被測定物体101に対して、磁気センサー部10におけるフラックストランスフォーマー4の1次側コイル4aが所望の測定位置に所望の向きで配置される。これにより、被測定磁場が1次側コイル4aにより感受され、2次側コイル4bにより印加磁場が誘起され、磁気共鳴部材1に印加される。また、磁気センサー部10における磁石3によって、磁気共鳴部材1に略均一な静磁場が印加される。
【0048】
そして、測定制御部21は、高周波電源11および照射装置12を制御して、所定の測定シーケンスに従って、マイクロ波およびレーザー光(励起光および測定光)を所定タイミングかつ所定時間長で磁気共鳴部材1に印加し、磁気共鳴部材1の物理的事象の検出値(ここでは、受光装置13で得られる蛍光強度)を磁気センサー部10から取得し、演算部22は、その検出値に基づいて、その測定シーケンスに対応する計算を行って、その測定位置の磁場(強度、向きなど)を特定する。
【0049】
これにより、磁気センサー部10(つまり、磁気共鳴部材1)によって測定位置の磁場が測定される。なお、所定の走査経路パターンに沿って磁気センサー部10を走査し、走査経路上の複数の測定位置について上述の磁場測定を行うようにしてもよい。
【0050】
以上のように、上記実施の形態によれば、高周波磁場発生器2は、マイクロ波で電子スピン量子操作の可能な磁気共鳴部材1にマイクロ波を印加する。磁石3は、磁気共鳴部材1に静磁場を印加する。照射装置12は、磁気共鳴部材1に特定波長の光を照射する。フラックストランスフォーマー4は、1次側コイル4aで被測定磁場を感受し、感受した被測定磁場に対応する印加磁場を2次側コイル4bで磁気共鳴部材1に印加する。そして、磁気共鳴部材1は、フラックストランスフォーマー4の2次側コイル4bの中空部にあり、かつ磁石3の中空部にある位置に配置されている。
【0051】
これにより、上述の励起光および測定光(並びに蛍光)の光路を妨げずに、被測定磁場に対応する磁場を、静磁場とともに磁気共鳴部材1に印加することができる。したがって、フラックストランスフォーマー4で被測定磁場に対応する磁場を磁気共鳴部材1に対して効率良く印加して磁場測定を行うことができる。また、磁気共鳴部材1、高周波発生器2および磁石3とフラックストランスフォーマー4の磁束の向きとを相対的に配置しやすくなり、さらに、レーザー光を照射する空間が確保されやすくなる。
【0052】
次に、当該実施の形態に係る磁場測定装置の製造方法について説明する。
【0053】
まず、磁気共鳴部材1、高周波磁場発生器2、磁石3及びフラックストランスフォーマー4をそれぞれ用意する。
【0054】
次に、回路基板31に高周波発生器2を取り付ける。また、小型化の観点から、SiC等の半導体基板が利用される場合、高周波発生器2がその基板に一体的に実装される。
【0055】
次に、高周波発生器2が取り付けられる回路基板31と、磁気共鳴部材1と、プリズム41と、および治具42とを互いに組み合わせる。その際、磁気共鳴部材1が高周波発生器2の中心部に配置されるように組み立てられ、同時に、磁気共鳴部材1の欠陥の配列方向の1つが、高周波発生器2の開口部2cの中心に向かうように組み立てられる。これにより、磁気共鳴部材1の少なくとも一つの外面に対して、高周波発生器2から発生された磁束が垂直になるようになる。
【0056】
さらに、高周波発生器2、回路基板31と、磁気共鳴部材1と、プリズム41と、及び治具42により構成されている組立物を、フラックストランスフォーマー4の2次側コイル4bの中空部に挿入し、固定する。この時、磁気共鳴部材1が2次側コイル4bの中心エリアおよび中心区域に配置されるようにする。また、高周波発生器2の開口部2cの中心点も、2次側コイル4bの中心エリアおよび中心区域に配置されるようにする。また、高周波発生器2から発生されている磁束と、2次側コイル4bから発生されている磁束とが垂直となるように、各部の向きや位置が調整される。
【0057】
さらに、トランスフォーマー4の2次側コイル4bの外側に磁石3を取り付ける。また、照射装置12を別途設置して固定する。
【0058】
また、フラックストランスフォーマー4と磁石3とを、中心軸が一致するように、先に組立てて、その後、それらを、高周波発生器2、回路基板31、磁気共鳴部材1、プリズム41、および治具42により構成されている組立物に対して組み付けるようにしてもよい。
【0059】
上記の製造方法により、磁気共鳴部材1、高周波発生器2および磁石3と、フラックストランスフォーマー4の磁束の向きとを段階的に調整でき、相対的に配置しやすく、組み立てた後で煩雑な調整を行う必要がなくなる。
【0060】
なお、上述の実施の形態に対する様々な変更および修正については、当業者には明らかである。そのような変更および修正は、その主題の趣旨および範囲から離れることなく、かつ、意図された利点を弱めることなく行われてもよい。つまり、そのような変更および修正が請求の範囲に含まれることを意図している。
【0061】
例えば、上記実施の形態では、2次側コイル4bが磁石3の中空部に配置されているが、磁石3が2次側コイル4bの中空部に配置されるようにしてもよい。
【0062】
また、上記実施の形態において、リング型磁石としての磁石3の厚みは、2次側コイル4b(あるいはボビン4b1)の厚みと同一としてもよい。
【0063】
さらに、上記実施の形態において、磁石3は電磁石でもよい。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、例えば、磁場測定装置および磁場測定方法に適用可能である。
【符号の説明】
【0065】
1 磁気共鳴部材
2 高周波磁場発生器
3 磁石
4 フラックストランスフォーマー
4a 1次側コイル
4b 2次側コイル
11 高周波電源
12 照射装置