(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022177791
(43)【公開日】2022-12-01
(54)【発明の名称】非接触式の眼球物性測定装置
(51)【国際特許分類】
A61B 3/16 20060101AFI20221124BHJP
【FI】
A61B3/16 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022028719
(22)【出願日】2022-02-25
(62)【分割の表示】P 2021546830の分割
【原出願日】2021-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】521353643
【氏名又は名称】合同会社クオビス
(74)【代理人】
【識別番号】100167818
【弁理士】
【氏名又は名称】蓑和田 登
(72)【発明者】
【氏名】加藤 千比呂
【テーマコード(参考)】
4C316
【Fターム(参考)】
4C316AA03
4C316AA20
4C316AB19
4C316FA12
4C316FZ01
(57)【要約】 (修正有)
【解決手段】本発明に係る非接触式の眼球物性測定装置1は、被検眼である眼球表面に表面波を発生するために、照射波を用いて眼球上の少なくとも一以上の励振点を励振する励振部102と、励振部102において発生させた表面波を励振点とは異なる眼球上の少なくとも一以上の検出点で検出する検出部103と、検出部103より検出した表面波を解析する表面波処理部208と、表面波処理部208における解析結果に基づいて眼球の物性を計算する眼球物性計算部209と、を備える。
【効果】眼球自体や角膜自体を振動変位させずに励振部102で意図的に発生させた眼球上の表面波で眼圧など測定ができ、被験者が眼圧、眼球組織のヤング率、ずり弾性率、粘性率などの測定中において不快感を感じることがない。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非接触式の眼球物性測定装置であって、
被検眼である眼球表面に表面波を発生するために、照射波を用いて眼球上の少なくとも一以上の励振点を励振する励振手段と、
前記励振手段において発生させた表面波を、前記励振点とは異なる眼球上の少なくとも一以上の検出点で検出する検出手段と、
前記検出手段より検出した表面波を解析する表面波処理手段と、
前記表面波処理手段における解析結果に基づいて、眼球の物性を計算する眼球物性計算手段と、を備える、ことを特徴とする眼球物性測定装置。
【請求項2】
非接触式の眼球物性測定方法であって、
被検眼である眼球表面に表面波を発生するために、照射波を用いて眼球上の少なくとも一以上の励振点を励振する励振ステップと、
前記励振ステップにおいて発生させた表面波を、前記励振点とは異なる眼球上の少なくとも一以上の検出点で検出する検出ステップと、
前記検出ステップより検出した表面波を解析する表面波処理ステップと、
前記表面波処理ステップにおける解析結果に基づいて、眼球の物性を計算する眼球物性計算ステップと、を含む、ことを特徴とする眼球物性測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非接触で眼球の物性を計測する眼球物性測定装置に関し、特に、当該物性として眼球の眼圧、眼球表層組織の材料力学特性などを測定できる眼球物性測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、眼圧の非接触式測定装置として、眼球に空気流を吹付け、角膜を非接触で変形させるとともに、空気流の吹付(エアパフ、Air Puff)噴出圧をプロットして、角膜が扁平になった時点の空気噴出圧から、標準眼圧測定として用いられる接触式圧平眼圧計を用いて測定した比較測定値との相関を計算することで眼圧値を得る非接触式眼圧計が良く知られている。
【0003】
例えば、被検眼の角膜の力学特性計測及び眼圧測定としてエアパフにより角膜を内向きに押圧して変形させることにより角膜は一時的な扁平形状を形成し、この扁平点を検出第1の圧平点と呼ばれる。さらに陥凹して角膜が最大変形に到達したのち、元の形状に戻る過程において再度扁平面を通過し、これを第2圧平点と呼ばれる。
【0004】
特許文献1では、この角膜形状変化過程において空気噴出圧を経時的にプロットし、圧平点における空気噴出圧を測定して第1圧平点と第2圧平点における空気噴出圧から眼圧を求めることにより、角膜の剛性による測定値への影響を減じた眼圧測定が提案されている。
【0005】
更に、特許文献2では、シャインプルーフ配列による照明と撮像カメラより角膜の扁平過程を角膜断層像として撮影し、角膜の圧平半径や自由振動を計測することにより、角膜の剛性による測定値への影響を減じた眼圧測定及び、角膜の力学的材料特性を分析するシステムが提案されている。
【0006】
また、非接触式眼圧計の手法として、超音波を角膜に照射し、その音圧により角膜を変形あるいは振動させて眼圧を測定する超音波式(音響放射圧式)の非接触式眼圧計としていくつかの手法が提案されている。例えば、特許文献3は超音波照射により発生した音響放射圧により角膜を変形させ、その変形量を検出して眼圧を測定するシステムが提案されている。特許文献4ではパラメトリック・スピーカーによる強力な超音波を眼球に照射して眼球に振動を与え、照射した超音波の振動数を変調させることで眼球の固有振動を検出し、眼圧を測定するシステムが提案されている。特許文献5には眼球に照射した超音波の眼球表面からの反射波を検出し、照射波に対する反射波の位相シフト量により眼圧を求めるシステムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許公報第7,909,765号
【特許文献2】特許第5314090号公報
【特許文献3】特開2020-5679号公報
【特許文献4】特許第6289040号公報
【特許文献5】特許第5505684号公報
【特許文献6】特開昭61-8592号公報
【特許文献7】特開平3-60629号公報
【特許文献8】特表平8-507463号公報
【特許文献9】特開2000-60801号公報
【特許文献10】特公平6-59272号公報
【特許文献11】特開2011-50445号公報
【特許文献12】特開2012-5835号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Direct Experimental Observation of the Crossover from Capillary to Elastic Surface Wave on Soft Gels、 October 1998 Physical Review Letters、 Volume81 Number15、 Francisco Monroy and Dominique Langevin
【非特許文献2】Surface-wave modes on soft gels、 The Journal of the Acoustical Society of America、 December 1998、 Y.Onodera and P.K Choi
【非特許文献3】表面波で柔らかい物質を調べる 日本音響学会誌56巻6号(2000)pp.445-450、 崔 博坤
【非特許文献4】Optical coherence elastgraphy assesment of corneal viscoelasticity with a modified Rayleigh-Lamb wave model、 Jounal of the Mechanical Behavior of Biomedical Materials、 66(2017)87-94、 Zhaolong Hanら
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2のようなエアパフにより角膜を変形させて測定するシステムにおいては、エアパフ出射時の音や空気の吹付による被検者への不快感が避けられない。また、エアパフによって涙液などの眼表面にある付着物が飛散し、周囲への感染源となる危険性を持っている。
【0010】
さらに、上述した超音波加振式の場合は、角膜の変形や振動を検出しているため、眼球振動を励振するために必要な超音波出力は大きい。そのため加振用の超音波発振装置として、特許文献3の実施例ではランジュバン型の強力な振動子を用いて超音波の音圧を高めている。特許文献4では非常に多数の超音波振動子アレイを用いたパラメトリック・スピーカーを使って強力な超音波パワーを得る必要があり、特許文献5では音響レンズにより超音波を効率的に照射する必要がある。強力な超音波パワーを得るために加振用の超音波発振装置は大型となり、被検眼の前方かつ近傍に比較的大きな配置スペースが必要となり、特許文献3、4、5のいずれの例においても計測時の被検眼に対するアライメント検出機構や眼球画像を撮影するための撮影装置との両立など装置の実現化に対して多くの制約を与えている。
【0011】
またこれらの超音波加振式の非接触眼圧計は、眼球への加振用超音波照射の焦点位置と、眼球振動あるいは角膜変形量の検出位置が眼球上で略一致している。これはいずれも眼球の変形あるいは振動により生じた変位や振幅の大きさ、あるいは加振超音波の反射波が、眼球振動により位相変位した変位量を測定しているため、加振用超音波照射位置と振動や変位の検出位置が同じ位置の場合に検出感度が最大となり検出精度が最適化されるためである。
【0012】
このため加振用の超音波照射の焦点位置と検出装置の検出位置を略一致させるために、加振用超音波の照射軸と検出の検出軸が同軸となるように配置することが望ましい。あるいは同軸とできない場合は、眼球表面に対して斜めに加振用超音波を入射させるため加振効率が悪くなる。そのため加振用超音波をさらに強い出力とすることで測定感度の低下を補うことが必要となる。
【0013】
また、前記超音波照射の焦点位置と前記検出位置が略一致していることにより被検眼に対する装置のアライメントずれや、被検眼の固視ずれは、前記加振用超音波照射位置と検出位置の不一致につながり測定値がばらつきやすい。前記加振用超音波が眼球上の適切な位置に照射されないことにより、眼球振動の振幅や眼球変形の変位が小さく不安定になり、さらに検出用の信号も低下し不安定となるため測定値がばらつくなど、測定が不安定となり信頼性の高い測定値が得られなくなる。
【0014】
さらに特許文献3及び特許文献4では変位の大きさや共振点の振幅の大きさより眼圧を検出しているので、振動や変位の検出装置も適切な位置にアライメントされなければ検出感度が下がり検出信号が安定して得られないことから正確な振幅や変位量が得られない。これは振幅や変位量を測定している場合には致命的な要因となり、測定結果の信頼性を低下させる。
【0015】
本発明は前記課題に鑑みてなされたもので、従来のような眼球や角膜そのものの振動や変位、あるいは振動による位相の変化に基づくものではなく、非接触で眼球表面上の所定位置において発生せしめる表面波を用いて、眼圧及び眼球表層組織の材料力学特性の物性(眼組織のヤング率やずり弾性率、粘性率など)を測定できる非接触式の眼球物性測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために本発明は、非接触式の眼球物性測定装置であって、被検眼である眼球表面に表面波を発生するために、照射波を用いて眼球上の少なくとも一以上の励振点を励振する励振手段と、前記励振手段において発生させた表面波を、前記励振点とは異なる眼球上の少なくとも一以上の検出点で検出する検出手段と、前記検出手段より検出した表面波を解析する表面波処理手段と、前記表面波処理手段における解析結果に基づいて、眼球の物性を計算する眼球物性計算手段と、を備えることを特徴とする。
【0017】
上記目的を達成するために本発明は、非接触式の眼球物性測定方法であって、被検眼である眼球表面に表面波を発生するために、照射波を用いて眼球上の少なくとも一以上の励振点を励振する励振ステップと、前記励振ステップにおいて発生させた表面波を、前記励振点とは異なる眼球上の少なくとも一以上の検出点で検出する検出ステップと、前記検出ステップより検出した表面波を解析する表面波処理ステップと、前記表面波処理ステップにおける解析結果に基づいて、眼球の物性を計算する眼球物性計算ステップと、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る非接触式の眼球物性測定装置は、被検眼である眼球表面に表面波を発生するために、照射波を用いて眼球上の少なくとも一以上の励振点を励振する励振部と、励振部において発生させた表面波を励振点とは異なる眼球上の少なくとも一以上の検出点で検出する検出部と、検出部より検出した表面波を解析する表面波処理部と、表面波処理部における解析結果に基づいて眼球の物性を計算する眼球物性計算部と、を備える。この構成により、本発明では、眼球自体や角膜自体を振動変位させずに励振部で意図的に発生させた眼球上の表面波で眼圧など測定ができ、被験者が眼圧などの測定中に不快感を生じることがなく、さらに波形の振幅に影響されず安定した測定が可能である。また励振点と検出点が分かれていることにより観察光学系やアライメント光学系が簡単に配置できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本実施の形態に係る眼球物性測定装置に備わり、被検眼角膜に対する表面波の励振部と検出部の基本的な構成を示す図である。
【
図2】同上眼球物性測定装置の機能ブロック図である。
【
図3】同上眼球物性測定装置に備わる変調部を用いて表面波の励振用超音波を振幅変調した波形の一例を示す図である。
【
図4】同上眼球物性測定装置に備わる表面波の励振用超音波トランスデューサーを複数個からなるトランスデューサーとし、パラメトリック・スピーカー方式による低周波音圧の発生を説明する図である。
【
図5】同上眼球物性測定装置に備わる励振部において、パルス光の光音響効果による被検眼表面上の表面波発生させる場合の説明図である。
【
図6】同上変調部を用いたパルス光による表面波発生のための、変調パルス光の発生パターンの一例を示す図である。
【
図7】同上変調部においてレーザーパルス光の外部変調法を用いる場合の一例を示す図である。
【
図8】同上変調部においてレーザーダイオードの直接変調法を用いる場合の一例を示す図である。
【
図9】同上眼球物性測定装置に備わる検出部において超音波反射法による表面波検出の一例を示す図である。
【
図10】同上検出部において光学的三角法による表面波検出の一例を示す図である。
【
図11】同上検出部において光学的複数波長同軸光線の共焦点方式による表面波検出の一例を示す図である。
【
図12】同上検出部において光ヘテロダイン方式フーリエドメイン光干渉計の位相検出による表面波検出の一例を示す図である。
【
図13】同上検出部において光ヘテロダイン方式レーザードップラー計測による表面波検出の一例を示す図である。
【
図14】同上眼球物性測定装置に備わる表面波の励振部及び検出部の配置例を示す図である。
【
図15】同上眼球物性測定装置に付帯させる角膜曲率測定機能の一例を示す図である。
【
図16】同上眼球物性測定装置において、被検眼の角膜曲率測定のための点状視標の結像の様子と測定する曲率ラインの関係の一例を示す図である。
【
図17】同上眼球物性測定装置における光切断法による被検眼角膜厚及び角膜曲率測定の一例を示す図である。
【
図18】同上眼球物性測定装置における光切断法による角膜曲率及び角膜厚み測定システムと表面波による眼圧測定システムの配置の一例を示す図である。
【
図19】同上眼球物性測定装置の動作手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(実施の形態)
ここでは下記の順序に従って本発明の実施形態について説明する。
(1) 計測方法の基本的な構成
(2)眼表面に発生させる表面波
(3)表面波を発生するための励振手段の構成
(4)表面波を検出するための検出手段の構成
(5)励振手段と検出手段の配置形態
(6)取得データの処理
(7)角膜前面曲率測定機能の実施形態例
(8)光切断法による角膜曲率及び角膜厚み測定の実施形態例
【0021】
(1)計測方法の基本的な構成
本発明は被検眼の眼球表面波を利用して、その位相速度を求めることにより被検眼眼圧や被検眼組織の材料特性を求めるため、励振点と検出点の位置がそれぞれ一か所である場合に、検出点は励振点と異なる位置を測定しなければ表面波の伝搬は測定できない。ただし励振点あるいは検出点を複数とする場合はその限りではない。
【0022】
図1は、本実施の形態に係る非接触式の眼球物性計測装置において、励振点104と検出点105がそれぞれ一か所の最も単純な構成の場合を示し、眼球表面101に対して励振点104と検出点105のそれぞれの法線に励振照射軸107と検出軸108がそれぞれ略同軸となるように励振部102と検出部103を配置する。励振照射軸107と検出軸108の延長線上の交点は角膜曲率中心と略一致する。このように配置された励振部102により眼球表面に照射された超音波あるいはパルス光(コヒーレント光あるいは非コヒーレント光の光源による連続パルス光を用いることが好ましい)は眼球表面に対して垂直方向に振幅を有する表面波106を励振する。表面波106は眼表面を、水面に石を投げた時に水面に発生する細波のように、励振点を中心に眼球表面を励振手段により決まる周波数と位相速度で眼表面を伝搬していくので、その波を所定の位置で検出することにより表面波の周波数と位相速度を求めることができる。
【0023】
ここで、表面波に関して説明する。軟組織を伝搬する波は組織中を伝搬する実体波と、組織の表面に沿って伝搬する表面波及びガイド波がある。ここでは表面波あるいはガイド波を組織表面に現れる波の伝搬として総称して表面波とする。
【0024】
実体波には縦波の弾性波と横波のずり弾性波があり、生体組織中においても縦波弾性波としての超音波による画像診断装置や、横波のずり弾性波の計測よる組織の硬さ診断として超音波エラストグラフィーなどに応用されている。
【0025】
表面波にはずり弾性による復元力が作用する表面弾性波としてレイリー波と、表面張力の復元力による表面張力波、そしてずり弾性と表面張力が混在した働きで伝搬する漏洩表面張力波がある。これらの表面波に関してはゲル状物質の硬さ測定などの計測例が知られている。
【0026】
さらに板状媒体を伝搬する波としてはラム波が知られており、ラム波は半無限媒体を伝搬するレイリー波とは異なり、板の両境界面の外側が空気や真空状態のような力学的にフリーであることによる境界条件を満たすように板状媒体中を伝搬する。
【0027】
しかしながら角膜、結膜、強膜などの眼球組織は層状の構造をなしており、例えば角膜は外側表面が空気に接しており、内側の境界面は前房水に接した薄い層構造となっている。それぞれの境界面の境界条件は異なり、境界面の一つが液状物質と接している場合を考慮する必要がある。そのような場合には境界で接している別の物質との境界条件を考慮したガイド波としてレイリー-ラムのモデルが知られている。
【0028】
レイリー波やレイリー-ラム波からはその位相速度Crと、密度ρより媒体のずり弾性率Gや粘性率ηを求めることができる。また、表面張力波からはその位相速度Ccと密度をρ、角周波数ωより媒体の表面張力γを求めることができる。さらに、漏洩表面張力波からはその位相速度Clとずり弾性率G、密度ρ、角周波数ωより表面張力γを求めることができる。
【0029】
以上より組織表面のレイリー-ラム波の位相速度を計測して、ずり弾性率Gや粘性率ηを求めることが可能であり、表面張力波あるいは漏洩表面張力波の位相速度を計測して表面張力γを求め、ラプラスの法則により表面曲率半径と表面張力から内圧すなわち眼球であれば眼圧を求めることが可能となる。
【0030】
ここで、眼球表面を伝搬する表面波は眼球や角膜そのものの振動ではなく、その組織の表面近傍にだけ限局して伝わる波であり、この表面波を発生させるためのパワーは角膜や眼球そのものを振動させるパワーに比べると、より小さなパワーで表面波の発生が可能である。さらに検出しているのは表面波の伝搬速度や位相あるいは周波数スペクトルであるので、表面波の振幅変化による影響が少なく、臨床上の様々な外的影響に対して安定した測定が可能である。
【0031】
次に、本実施の形態に係る非接触式の眼球物性測定装置1の機能構成に関して
図2を参照しながら説明する。
図2は眼球物性測定装置1の一例であり、眼球表面を励振する励振ユニット201により眼球表面を励振して表面波を発生させ、検出ユニット202により表面波を検出する。励振ユニット201は駆動回路203により駆動され、駆動回路203は制御ユニット211の送信制御部210により制御される。励振ユニット201は超音波やパルス光を、その発振周波数より低くなる変調周波数により振幅変調するための変調部201aを備える。検出ユニット202は検出用の送信部と受信部が一体となっており、検出用送信回路204より駆動された送信部は眼表面に検出用の送信信号を送り、眼表面より反射して戻ってくる信号を受信部が受信して検出用受信回路205に検出信号を送る。検出用受信回路205では例えば増幅された受信波がA/Dコンバータ207でデジタル信号に変換され制御ユニット211側に送られる。制御ユニット211内の表面波処理部208で受信波を処理して受信波の中で表面波による成分を特定して表面波の位相や遅延時間を計測する。眼球物性計算部209では表面波の位相や遅延時間より位相速度を算出して眼圧あるいは眼組織の材料特性を計算する。
【0032】
表面波を励振させる励振ユニット201としては、超音波による励振方法とパルス光による励振方法がある。超音波による方法は眼表面の所定の位置に照射された超音波の音圧により眼表面を振動させ表面波を発生させる。光学的エネルギーによる方法は短いパルス光を眼表面に照射し、照射したパルス光の焦点位置にある組織が光エネルギーを吸収することにより温度上昇して瞬間的に熱膨張することにより組織内に超音波を発生させる。発生した超音波は組織表面に伝搬して表面波を励振させる。
【0033】
なお、後述するように、表面波を検出する手段としては超音波反射法による検出法、光学的三角法による微小変位検出法、複数波長同軸共焦点法、光ヘテロダイン法がある。超音波反射法は発生させた表面波の周波数より数倍以上高い周波数の超音波を用いて表面波の検出点に送受信し、戻ってきた反射波を復調検波することで眼表面の表面波を検出する。光学的三角法は光ビームを検出点に照射し、検出点より反射した光を複数の受光素子あるいは一次元や2次元の撮像素子により検出して、表面振動による反射角度の周期的変化から生じる受光素子の出力変化や撮像素子の輝点位置変化より表面波を検出する。複数波長光ビームの差分検出法は波長の異なる複数の光ビームを同軸で眼表面に照射し、それぞれの波長の光ビームはその焦点位置が少しずつずれるように光学設計され、焦点位置領域に角膜表面が入るようにアライメントすると、眼表面の振動によりそれぞれの波長の反射光強度が振れることにより、それぞれの波長の反射光強度を差分増幅して表面波を検出する。光ヘテロダイン法による方法はフーリエドメイン光干渉計によって検出した眼表面の微小変動による位相変化を計測する方法や、レーザードップラー振動計による眼表面の微小振動検出により表面波を検出する方法がある。
【0034】
表面波の位相速度検出には、検出した表面波信号を励振ユニット駆動回路203の駆動信号との位相差を測定し、その位相差と励振点から検出点までの距離より位相速度を計算することができる。複数の検出点を持つ場合は各検出点の表面波の位相を検出して、その位相差と検出点間の距離より位相速度が計算できる。
【0035】
レイリー波あるいはレイリー-ラム波の位相速度が求められれば後述の式より組織のずり弾性率、ヤング率、粘性率が計算できる。
【0036】
角膜表面の表面張力波あるいは漏洩表面張力波の位相速度が求められれば後述する式より角膜表面の張力が求められ、眼表面の平均曲率と表面張力からラプラスの法則により内圧つまり眼圧を計算することができる。
【0037】
(2)眼表面に発生させる表面波
生体組織などの表面に発生する表面波は弾性波として、ずり弾性や粘性が伝搬過程における復元力として作用するレイリー波やレイリー-ラム波と、表面張力が復元力として作用する表面張力波、さらにずり弾性や粘性と表面張力が混在した復元力として作用する漏洩表面張力波などがある。例えば角膜表面に発生させたレイリー-ラム波の場合は非対称モードの0次が観測できる。0次の位相速度は比較的遅く1~5m/sec程度で周波数分散があるので、周波数により位相速度が異なる。周波数が200Hzから5KHz程度までが検出可能で、この周波数レンジから外れると減衰が大きくなり検出は難しくなる。この測定可能周波数は眼組織のヤング率や組織層の厚みにより変わってくるため、複数の周波数で測定することが必要である。
【0038】
表面張力波や漏洩表面張力波の場合に、表面張力が復元力として支配的となるためには波長が短く生体表面に波が限局する比較的に高い周波数となり、レイリー波やレイリー-ラム波と比較して高い周波数で検出できる。表面張力波の周波数は、角膜の場合に角膜の厚みに比べて波長が短く、レイリー-ラム波の影響が少ない20KHz以上の周波数(例えば20~50KHz)で検出が可能となる。
【0039】
(3)表面波を発生するための励振手段の構成
表面波の励振手段としては超音波による励振手段と光学的エネルギーによる励振手段が考えられる。
空中超音波の場合は周波数が20KHzから1MHz程度まで可能であるが、励振用として有効なパワーを得るためには20KHzから100KHz程度までが適切である。100KHz以上の空中超音波用トランスデューサーでは放射音圧が低いだけでなく、空中の伝搬による減衰も大きくなる。超音波が空中を伝搬する場合の減衰係数は超音波の周波数をfとすると1×10-11×f2(m-1)であり周波数の2乗に比例し、100KHzで減衰係数は0.1(m-1)となり、指数関数的に減衰は大きくなる。
【0040】
一般的に超音波センサーとして使われる空中超音波トランスデューサーは一つのトランスデューサーでは音圧が十分でない場合がある。そのような場合は複数の超音波トランスデューサーを駆動して十分な超音波出力を得ることもできる。さらに複数の超音波トランスデューサーそれぞれの駆動信号を位相コントロールすることにより、超音波の位相をコントロールし、眼表面上の焦点位置を任意の位置にコントロールするフェイズドアレイトランスデューサーを構成して焦点位置をコントロールとすることもできる。複数の超音波トランスデューサーを使う場合でも超音波の音圧は角膜振動による振動検出に比べて高くないので、超音波トランスデューサーアレイを構成する際のトランスデューサーの個数は多くなく限定的である。
【0041】
またレイリー波やレイリー-ラム波を眼表面に励振させるには、超音波より低い可聴域の周波数で眼表面を局所的に励振しなければならない。このために高い周波数の超音波を低い周波数で振幅変調させることにより焦点位置近傍に振幅変調周波数と同じ低い周波数の音圧波を発生させることが可能となる。
図3は、変調部201aを用いて超音波トランスデューサーの発振周波数に低い周波数の変調信号を重畳して振幅変調させ振幅変調超音波を発生させる内容を示している。さらに複数の超音波トランスデューサーを使ってファイズドアレイコントロールと周波数の振幅変調を行うことにより、鋭い指向性を持たせながら焦点位置近傍にのみ低周波の音波を発生させ、選択的に眼表面の所定の位置を振幅変調周波数で励振できる。これはパラメトリック・スピーカーとしてよく知られている原理である。
図4はパラメトリック・スピーカー構成による超音波ビームの焦点近傍における低周波音圧の発生を示している。例えば励振ユニット201にある複数の超音波トランスデューサーにより成るトランスデューサーアレイ401から変調された変調超音波Mwを送信し、焦点位置Fにて超音波が集束して低周波数である変調周波数成分の音波Mcが局所的に発生することを示している。また、それぞれトランスデューサーアレイ401内の個々のトランスデューサーの駆動信号位相を変化させて焦点位置を前後にコントロールする焦点位置コントロールも可能である。
【0042】
励振手段が光エネルギーの場合は短いパルス光による励振が可能である。
図5はパルス光による表面波の励振を示している。光源501よりパルス光を連続パルスとして眼表面に照射し、照射されたパルス光エネルギーが焦点位置にあるヒートポイントHp近傍の分子に吸収され、瞬間的に組織が熱的膨張と収縮をすることにより眼表面直下の眼内組織中に超音波を発生させる。その超音波は表面に達して表面波を励振させる。光により生体内に超音波を発生させる方法は光音響効果として知られており、この原理を用いた光音響イメージングによる画像診断装置が知られている。
【0043】
光音響効果として使われるパルス光は非常に短くナノ秒オーダーの短パルス光を用いる。パルス光による光音響効果として生体内に発生する超音波の周波数は1MHzから10MHz程度である。そのため単純な連続パルスで発生した超音波ではKHzオーダーの低い周波数の表面波を励振することはできない。この問題を解決するためには、パルス光は100KHz以上の連続パルスを用い、その連続パルス光を発生させる表面波の周波数と同じ低い振動数により強度変調させることにより低い周波数の音圧変化を重畳させ表面波を励振する。
図6には基本パルス周波数の連続パルス光を変調周波数信号により変調して変調パルス光とすることが示されている。すなわち、変調手段によって光パルスのパワー強度を振幅変調した振幅変調連続パルス光を連続的に照射、又はこの振幅変調連続パルス光の10周期以上のバースト波を照射することが必要となる。
【0044】
光強度変調法として、
図7には励振ユニット201に備わるCWレーザー201bをコントローラ201cからの電気調整信号を受けた変調器201aが直接ON/OFFさせる外部直接変調法が示されている。
図8には励振ユニット201において半導体光源LD(半導体レーザー、SLD、発光ダイオードなど)201dの駆動電流を電流制御部201eにより変調させる直接変調法が示されている。
【0045】
パルス光の光源としては発光ダイオード、半導体レーザー、ファイバーレーザー、スーパールミネッセンスダイオードなどがある。光源の波長は眼表面組織の光吸収率が高い波長が好ましい。しかし角膜は透明の組織であり380nmから1400nmまでの領域の光吸収率が低く、それ以外の波長で吸収率は高くなるので紫外線や近赤外線が候補となるが、生体安全性を考慮すると紫外線領域は生体への侵襲が大きく光のパワーが上げられないため、波長は1400nm付近の近赤外線領域から3000nm付近の赤外線領域までが望ましい。角膜以外の不透明な組織であれば400nm以上可視光領域から近赤外領域まで光の吸収率は高く、特に血中のヘモグロビンは600nm以下の波長で光の吸収率が急激に上昇するため眼表面の毛細血管をヒートポイントとして400nmから600nmのパルス光を使うと効率の良く励振できる。結膜など角膜以外の表面組織を励振点とする場合は結膜の毛細血管をヒートポイントHpとしてパルス光を照射し、結膜表面に表面波を励振して角膜まで伝搬した表面波を角膜上で検出することで効率の良い計測が可能となる。
【0046】
表面波発生のための励振方法について主に連続波による励振について示したが、バースト波による励振でも可能である。しかしバースト波の場合に励振手段の出力が安定し、さらに表面波の振幅が安定するには、ある一定波数の連続した波を出力する必要がある。例えば超音波による励振の場合は超音波トランスデューサーの音圧がピークになるまでに一定の時間が必要であり、パルス光による励振の場合も表面波の立ち上がりに時間が必要となるためである。このためバースト波あるいはバーストパルスによる表面波励振の場合は少なくとも検出できる表面波が10波以上(10周期以上)となる程度の送信時間に合わせて超音波や変調超音波あるいは変調パルス光を送信する。バースト波の送信時間は超音波トランスデューサーやパルス光光源などの特性に左右されるので、その特性に合わせて決められる。
【0047】
(4)表面波を検出するための検出手段の構成
表面波検出用の検出手段としては超音波反射法、光学三角法、光学複数波長同軸共焦点方式、光ヘテロダイン方式などがある。
【0048】
検出手段を超音波反射法とする場合は連続超音波あるいは100波以上のバースト超音波により検出する。送信超音波トランスデューサーより送信された超音波は眼表面に達したのちに反射・散乱して戻ってくる。超音波は眼表面で反射する際に表面波振動により変調されて表面波振動の成分を重畳させて受信超音波トランスデューサーに戻ってくる。この反射波を復調・検波することにより、眼表面の表面波振動で変調された振動周波数成分を復調することができる。この復調波の周波数と位相を計測することで表面波の位相と周波数が算出できる。
【0049】
図9は超音波による表面波検出実施例の一つである。この実施例では送信用超音波振動子901と受信用超音波振動子902がそれぞれ別に備えられている。超音波振動子を送信用と受信用で別にすることで連続超音波を検出に使うことが可能であり、常に表面波を検出できるメリットがある。制御CPU903により電圧可変発振器905の発振周波数をコントロールするデジタル値がD/Aコンバータ904に出力されそのデジタル値に対応したコントロール電圧がD/Aコンバータ904より電圧可変発振器905に出力される。電圧可変発振器はその電圧に対応した周波数で発振する。発振された信号は送信増幅アンプ906で増幅され送信超音波トランスデューサー901を駆動し検出用の超音波を眼表面に送信する。眼表面より反射して戻ってきた超音波は眼表面の表面波振動により表面波の周波数で変調されている。受信超音波トランスデューサー902は戻ってきた超音波を受信し受信増幅アンプ907で増幅された受信信号は乗算器908に入力される。電圧可変発振器905より出力された送信信号は参照信号として受信信号の復調にも使うため、送信周波数帯域だけを通過させる参照信号帯域通過フィルタ909でフィルタリングされた参照信号を発生させ乗算器908で受信信号と乗算して受信信号を復調することにより受信信号に含まれる表面波成分が復調される。復調信号帯域通過フィルタ910により表面波以外の周波数成分を除去し、A/Dコンバータ911によりデジタル値に変換して制御・演算CPU903に入力され計算処理が行われる。この際、制御・演算CPU903は
図2に示す制御ユニット211内に配置され、ここで表面張力などの表面波の物性値や、それら物性値に基づいて眼球の眼圧などが演算される。
【0050】
検出用の超音波送信をバースト波にすれば超音波トランスデューサーを送信と受信で兼用が可能で一つのトランスデューサーで表面波振動を検出できる。また戻ってきた受信信号を復調・検波せずにそのままA/Dコンバータによりデジタル変換して演算CPUに入力し、フーリエ変換によって表面波成分の周波数スペクトルと位相変化を計算することも可能である。
【0051】
ここで、検出用の超音波の周波数は励振手段で励振される表面波の周波数の少なくとも10倍程度とすることが望ましい。これは復調・検波やフーリエ変換処理をするうえで、超音波の基本周波数と表面波の周波数成分を完全に分離し正確に表面波を検出するために必要である。そのため検出用バースト波を100波以上とするのは、表面波の位相検出精度を上げるために少なくとも10波以上の表面波成分を検出して解析するため、検出用超音波は表面波周波数の約10倍程度として100波となるためである。
【0052】
次に、表面波検出用の検出手段を光学的三角法により検出する場合に関して
図10を参照しながら説明する。この場合には検出点に検出用の光ビームを照射して検出点より反射・散乱して戻ってくる光を複数の受光素子あるいは光学位置センサー、光学ラインセンサーなどにより検出する。検出点表面が表面波振動により振動すると検出点より戻ってくる光の角度や強度分布も変化し受光側結像面の結像位置も変化するので、複数の受光素子場合はそれぞれの受光素子の出力変化を差分増幅して振動を検出可能であり、光学位置センサーや光学ラインセンサーの場合は結像位置の変化そのものを検出できるため、その位置変化を表面波振動として検出できる。
図10は光学的三角法による検出手段の例である。表面波検出光源1001より照射された光は対物レンズ1002を介して眼表面に達し検出点で反射した光は結像レンズ1003を介して受光素子A1004、受光素子B1005に入射する。検出点が表面波で振動すると検出点で反射する光の光軸角度が振動に合わせて変化するため受光素子A1004と受光素子B1005それぞれに入射する光量が相対的に変化する。受光素子A1004及び受光素子B1005より出力される電気信号を差動増幅器1006により差動増幅することにより検出点の表面波振動を検出する。
【0053】
次に、検出手段を光学的複数波長同軸光線の共焦点方式により検出する場合に関して
図11を参照しながら説明する。この場合は、測定光線を複数波長や白色光の光源により光線を照射して波長に応じて焦点位置が少しずつずれるような色収差焦点を持つ光学系にする。眼表面の検出点に表面波による微小振動が発生すると焦点位置が少しずつ異なる各波長の反射光量も振動に合わせて変化し、焦点位置が近い波長の反射光は強く、焦点位置が離れた波長の反射光は弱くなる。さらに共焦点光学系により各波長の焦点位置近傍でより鋭敏な反射ピークが得られるので反射して戻ってきた光線を複数の波長に分光して受光素子により検出すると各波長の受光素子に入射する光量は微小振動でも大きく変化する。各波長の受光素子からの電気信号を差分増幅することにより表面波による検出点の振動を検出することができる。
図11は複数波長同軸共焦点方式の実施例を示している。光源1101より照射された光線はファイバーコリメータ1102、ファイバーカプラ1103、ファイバーコリメータ1104を介して色収差焦点レンズ1105により各波長の焦点を少しずつずらして眼表面の検出点に照射される。この例では波長A、波長B、波長Cの焦点が検出点に対して少しずつずれていることにより各波長の検出ピークがずれて眼表面の検出点位置がずれると各波長の反射光量が変化することが示されている。検出点で反射した光線は色収差レンズ1105、ファイバーコリメータ1104、ファイバーコリメータ1106を介して分光検出ユニット1107に入射される。分光検出ユニットに入射された光線はホットミラー1107a、ホットミラー1107bにより波長A、波長B、波長Cに分光され、それぞれの波長に対応して共焦点となる結像レンズA、結像レンズB、結像レンズCを介して光検出器1107c、光検出器1107d、光検出器1107eに入射される。それぞれの光検出器より出力される電気信号を差分増幅することにより表面波の振動を検出する。
【0054】
次に、検出手段を光ヘテロダイン方式によるフーリエドメイン光干渉計の位相検出とする場合に関して
図12を参照しながら説明する。この場合は、スーパールミネッセンスダイオードや波長掃引レーザー光源などの低コヒーレンス光源より出射された光線が光干渉計内で測定対象に照射する光線と参照光とする光線に分けられる。測定対象に照射する光線は干渉計より眼表面に照射され、眼表面で反射して再度光干渉計に入射する。光干渉計に入射した光線は干渉計内の参照光と干渉して干渉スペクトル分布を持つスペクトル分布波形やうなり(ビート)周波数持つビート信号として検出する。これらのスペクトル分布波形やビート信号をフーリエ変換することにより、眼表面より反射して戻ってきた光線の干渉ピークと位相を計算する。表面波による微小変動は位相の変化として検出され表面波を検出することができる。
【0055】
図12はフーリエドメイン干渉計のスペクトルドメイン方式による実施例を示している。スーパールミネッセンスダイオード(SLD)光源より出射される光線は低コヒーレントで波長帯域の広い光線である。この光線は光ファイバーを介してファイバーカプラ1202に入射され二つの光路に分岐される。一つはファイバーコリメータ1203、アクロマティックレンズ1204を介して参照ミラー1205に投射され反射して再度アクロマティックレンズ1204、ファイバーコリメータ1203を介してファイバーカプラ1202に戻ってくる。もう一つの分岐光はファイバーカプラ―よりファイバーコリメータ1206、絞り1207を介して光線を振ってスキャンするためのガルバノミラー1108により光線を振り又は所定の角度に設定し、対物レンズ1209を介して眼表面に投射される。眼表面より反射して戻ってきた光線は再度対物レンズ1209、ガルバノミラー1208、絞り1207、ファイバーコリメータ1206を介してファイバーカプラ1202に戻ってくる。ファイバーカプラでは前記参照光と眼表面より戻ってきた反射光が重畳され干渉光となる、干渉光はファイバーコネクタ1210、リレーレンズ1211、回折格子1212、アクロマティックレンズ1213を介してCCD1214に投影される。CCD1214は回折格子1212により分光されたスペクトル分布データを出力する。このスペクトルデータを演算回路によりフーリエ変換して干渉ピークと位相を算出して表面波による微小振動を検出する。
【0056】
次に、検出手段を光ヘテロダインによるレーザードップラー干渉計により検出する場合に関して
図13を参照しながら説明する。この場合は、レーザー光源より出射された光線を二つに分岐して一方の光線を眼表面に照射し、もう一方の光線は音響光学変調器により一定のキャリア周波数fmで変調させる。眼表面で反射した光線は眼表面の表面波振動により周波数fdのドップラーシフトした光線が再度干渉計に戻り、音響光学変調器により変調された光と干渉してfm±fdのビート周波数を発生する。このビート周波数のうちfmは一定の周波数であるので表面波振動によりドップラーシフト周波数fdのみが変化する。この周波数変化をFM復調すれば表面波振動を検出できる。
【0057】
図13はレーザードプップラー干渉計の実施例を示している。光周波数foのレーザー光源1301より出射された光線は偏光ビームスプリッター1302によりS偏光とP偏光の二つの光線に分岐される。S偏光の光線は偏光ビームスプリッター1302で反射し、ミラー1304を介して音響光学変調器(AOM)1305に入射する。音響光学変調器により周波数がfo+fmに変調されミラー1307を介して偏光ビームスプリッター1303及び偏光ビームスプリッター1308で反射して1/4波長板1309を介して参照ミラー1310で反射して戻ってくる。再度1/4波長板1309を通過してP偏光となり偏光ビームスプリッター1308に入射する。一方偏光ビームスプリッター1302を透過したP偏光の光線はさらに偏光ビームスプリッター1303、1308を透過しミラー1311で反射して1/4波長板1312を介して眼表面に照射される。照射された光線は眼表面で反射し表面波振動によりドップラーシフト周波数fdによりfo+fdの周波数で戻ってくる。1/4波長板1312によりS偏光となり偏光ビームスプリッター1308で反射する。光検出器1313には参照ミラー1310からの光線と眼表面からの光線が干渉して入射する。光検出器1313からは周波数fm+fdの信号が出力され振動によって変化するドップラーシフト周波数fdの変調成分をFM復調することにより位相変調と周波数変調成分が得られて表面波による表面振動を検出することができる。
【0058】
(5)励振手段と検出手段の配置形態
励振手段の照射軸は励振点の角膜曲面に対する法線に一致しているとき効率よく励振できる。また検出手段の検出軸も同様に角膜曲面に対する法線と一致しているときに検出感度が高い。
図14は励振部102と検出部103の配置構成を示しており、励振部102より照射される励振エネルギーの照射軸と検出部103による検出軸の交点が角膜曲率中心と略一致するようにアライメントされている。この照射軸と検出軸の交点が角膜曲率中心に一致するとき照射軸と検出軸も励振点及び検出点上の法線に一致する。測定時のアライメントする際には励振部102と検出部103をこの配置となるようにコントロールされる。
【0059】
(6)取得データの処理
本実施の形態に係る眼球物性測定装置1の検出部103により取得したデータは検出部103からそれぞれ位相、周波数、振幅などのパラメータとして表面波処理部208に出力される。表面波処理部208はこれらのデータより表面波の検出点における位相や遅延時間を計算する。次に、眼球物性計算部209は、位相や遅延時間は検出点が一か所の場合は励振部102の励振信号を基準として位相の変化を求める。検出点が複数ある場合はそれぞれの検出点より得られる振動波形より位相差を求める。この位相差と周波数及び励振点から検出点までの距離より位相速度を算出する。
【0060】
また、眼球物性計算部209は、下記の数式に基づいて、眼球の物性(表面張力、ずれ弾性率、ヤング率や粘性率)を求める。具体的には、下記の式(1)及び式(2)はヤング率Eとずり弾性率μの関係を示している。従って、表面波の位相速度によりずり弾性率を求めればヤング率も求めることができる
ここで、μ:ずり弾性率、E:ヤング率、ν:ポアソン比
【0061】
波の位相速度から眼圧、ずり弾性率などの眼球の物性を求めるための式は、それぞれの表面波の種類(レイリー波、レイリー-ラム波、表面張力波、漏洩表面張力波)に応じて以下に記された式が知られている。例えば、被特許文献2などより組織のポアソン比が0.49の場合、レイリー波の位相速度Crは式(3)により表される。眼表面組織の密度ρは既知であるので本測定法によりCrを測定すれば、ずり弾性率μを求められる。
ここで、Cr:レイリー波の位相速度、μ:ずり弾性率、ρ:密度、ν:ポアソン比
【0062】
非特許文献4などより、角膜に対するレイリー-ラム波の式として以下の式(4)(5)(6)(7)が知られている。角膜の厚みd、角膜の密度ρ、水の密度ρF、表面波の角周波数ωなどは既知であるので本測定法により測定したレイリーラム波の位相速度より、ずり弾性率μ、粘性率ηが計算できる。
ここで、Cp:レイリーラム波の位相速度、ρ:角膜の密度、ρF:水の密度 d:角膜厚×1/2、k:表面波の波数、ω:表面波の角周波数、μ:ずり弾性率、η:粘性率、cF:水の音速
【0063】
非特許文献1などより、式(8)は表面張力波の位相速度Ccと表面張力γの関係を示している。眼表面組織の密度ρ、表面波の角周波数は既知であるので、本測定法により測定し表面張力波の位相速度より表面張力が計測できる。式(10)はラプラスの法則式で表面張力と表面曲率を測定すれば内圧Pi―外圧Poが求まる。ここでは表面曲率は角膜の曲率であり、外圧は大気圧となるので本測定法より算出した表面張力より内圧つまり眼圧が測定できる。
ここで、cc:表面張力波の位相速度、γ:表面張力、ρ:密度、ω:表面波の角周波数
【0064】
非特許文献2、非特許文献3などより、式(9)は漏洩表面張力波の位相速度Clcと表面張力γ及びずり弾性率μの関係を示している。表面張力γは密度ρ、ずり弾性率μ及び漏洩表面張力波の位相速度Clcより求めることができ、ラプラスの法則式(10)より眼圧を求める。
ここで、Clc:漏洩表面張力波の位相速度、γ:表面張力、ρ:密度、μ:ずり弾性率
ここで、Pi:内圧(眼内圧)、Po:外圧(大気圧)γ:表面張力、R:表面曲率(角膜曲率)
【0065】
なお、ソフトな粘弾性物質における表面波の関係式はこれらの式以外にも発表されており、上記式(1)~(10)以外の式も採用可能であり、採用する式により計算精度は異なる。実際には生体の不均一性や励振点や検出点のサイズなど、それぞれの固有の条件により影響を受けるため、これらの式を基本にしながらも臨床データによる近似式を求めることが必要である。例えば眼圧測定の場合は、臨床上の眼圧測定において比較的精度が高い精密測定とされているのは接触式の圧平眼圧計であり、この種の眼圧計は一定の面積を圧平した際の圧力により眼圧を求めている。これらの圧平眼圧計による眼圧測定と表面張力波の位相速度との関係を近似的に算出して前記理論式を補正することもできる。
実際の装置構成においては表面波測定によるデータと臨床データとの相関関係による補正式をアレンジして装置の演算部に組み込むことが必要となる。更に臨床データの蓄積により人工知能(AI)、機械学習などによる手法を用いて計算式を用いずに眼圧や眼組織の材料力学特性を算出することも可能である。
【0066】
(7)角膜前面曲率機能の実施形態例
表面波の位相速度から算出された表面張力より被検眼眼圧を計算する際に、被検眼角膜の曲率が必要となる。眼圧測定に際してはあらかじめ一体化された又は別体の測定装置において被検眼角膜曲率値を測定して、その測定値を入力することで被検眼眼圧値の計算は可能である。しかし角膜曲率の測定断面が励振点と検出点を含んだ角膜断面に沿って測定することで精度の向上が図られるため、眼球物性測定装置1に角膜曲率の測定機能が付帯して表面波の測定と同時に角膜曲率も測定することが望ましい。この際の測定方法としては以下の
図15、
図16に示す方法を適用できる。
【0067】
被検眼角膜曲率の測定は特許文献6、及び特許文献7に示されているように、被検眼角膜表面に複数の点状視標を投影し被検眼角膜に投影された複数の点状視標を撮影するための結像光学系により点状視標を撮影して、複数の点状指標が撮像素子の受像面上に結像した座標により角膜曲率を計算する方法が良く知られている。
【0068】
被検眼角膜に投影する複数の点状視標と結像光学系により二次元撮像素子に結像する場合、被検眼角膜に投影する複数の点状視標のうち一つは点状視標撮影のための結像光学系の光軸と同軸で被検眼角膜に投影され、これを第一視標とする。その他の複数の点状視標を撮像光学系の光軸の周りに同心円上配置して被検眼角膜に投影され、これらを第二指標とする。第一視標を撮像光学系の二次元撮像素子の光軸位置に結像するように結像光学系をアライメントして撮影すると、第一視標と第二視標の二次元撮像素子上に結像した座標の位置関係より被検眼の角膜曲率を計算することができる。第二視標が3個以上あれば第一視標を楕円中心として第二視標の結像位置を楕円近似計算することにより、計算された楕円形状より被検眼角膜の乱視成分も含めた曲率の測定が可能である。
【0069】
第二視標が2個の場合は被検眼角膜の乱視成分は測定できないが、励振軸及び検出軸を含んだ同一断面内の被検眼角膜上に2個の第二視標を一致させることにより、前記断面内の角膜曲率が測定できる。眼圧測定において必要な被検眼角膜曲率は励振軸と検出軸を含めた断面における曲率だけで計算可能であるので、第二視標が2個でも良い。
【0070】
図15は第二視標が4つの場合の実施例を示している。
撮像光軸と同軸の測定光源1502及び撮像光軸周囲のコリメート光源1507a~1507dは点状視標を角膜表面に投影するための光源である。光源1502より発した光はリレーレンズ1503を介してハーフミラー1504で反射されダイクロイックミラー1505、対物レンズ1506を介して被検眼1501の被検眼角膜1501aに投影される。また光軸周囲の同心円上に配置されたコリメート測定光源1507a~1507dより発せられた並行光束の光が被検眼角膜1501aに投影される。被検眼角膜1501aより反射された各光源の反射像は対物レンズ1506、ダイクロイックミラー1505、ハーフミラー1504、リレーレンズ1515、ダイクロイックミラー1520、絞り1516ダイクロイックミラー1513を介して二次元撮像素子1514に点状視標として結像される。
【0071】
図16は光源1502及び1507a~1507dの角膜反射像が点状視標として二次元撮像素子結像面1601上に結像された様子を示しており、反射像1602、1603a~1603dはそれぞれ
図15の光源1502、1507a~1507dに対応している。光源1502は撮像光学系の光軸と常に同軸で出射されるので光源1503a~1503dが光軸中心に対称に配置されていれば、1602は近似楕円1604の幾何学的中心と考えられるので反射像1602及び反射像1603a~1603dのうち3点以上の指標の座標が求められれば近似楕円1604は決定できる。励振ユニットの照射軸及び検出ユニットの検出軸で形成される断面に対応する二次元撮像素子受光面上の線を検出ライン1605とすると、検出ライン1605と楕円1604が交わる2点1606a及び1606bの座標間距離より検出ライン上の曲率を計算することができる。以上の計算処理は処理部1519にて処理される。
【0072】
また結像光学系周囲の光源のうち光源1507a及び光源1507cの光線照射光軸が励振ユニット1523の照射軸及び検出ユニット1524の検出軸とで形成される断面と同一平面内となるように配置されていれば、光源1502、光源1507a及び光源1507cにより二次元撮像素子結像されるそれぞれの反射像1602、1603a及び1603cの位置座標により、近似楕円を計算することなく励振ユニットの照射軸と検出ユニットの検出軸により形成される断面と同一面の角膜曲率を求めることができる。
【0073】
図15の実施例には角膜曲率を測定する測定光学系の他に前眼部観察のための光学系として、前眼部照明のための照明用光源1518、1519で照明された前眼部からの反射及び散乱光はダイクロイックミラー1505で反射され、リレーレンズ1508、ミラー1509、リレーレンズ1510、ミラー1511、絞り1512を介し、ダイクロイックミラー1513で反射して二次元撮像素子1514で結像する前眼部観察光学系が設けられている。さらに測定中に被検眼1501を固視させるための固視用光源1522、リレーレンズ1521、ダイクロイックミラー1520よりなる固視灯光学系が設けられている。
【0074】
(8)光切断法による角膜曲率及び角膜厚み測定の実施形態例
特許文献8、特許文献9などにより従来のエアパフ型眼圧計において測定された被検眼眼圧値を被検眼の角膜の厚みにより補正する手段が知られている。被検眼角膜表面に発生させた表面波の位相速度から算出された表面張力より被検眼眼圧を計算する際にも、より精度よく眼圧値を算出するには角膜厚みの影響も考慮して補正することが望ましい。ここでも、あらかじめ一体化された又は別体の測定装置において被検眼角膜厚みを測定して、その測定値を入力することで被検眼眼圧値の補正計算は可能である。しかし角膜厚の測定断面が励振点と検出点を含んだ角膜断面に沿って測定することで精度の向上が図られるため、眼球物性測定装置1に角膜曲率の測定機能が付帯して表面波の測定と同時に角膜厚及び角膜曲率も測定することが望ましい。この際の測定方法としては以下の
図17、
図18に示す方法を適用できる。
【0075】
光切断法による角膜断面形状測定の方法は特許文献10、特許文献11、特許文献12などよりよく知られている。光切断法を採用すると角膜厚のみならず角膜の曲率も同時に測定できる。
【0076】
本実施例は被検眼に発生させた表面波測定による眼圧計に光切断法による角膜形状測定により被検眼角膜の厚みと曲率を測定する実施形態例である。被検眼の角膜曲率及び角膜厚みを測定する際には、角膜曲率の測定断面が励振点と検出点を含んだ角膜断面に沿って測定することで精度の向上が図られるため、本実施形態例においてもその点を考慮した構成となっている。光切断法は被検眼角膜に対してスリット光を投影するスリット投影光学系と、スリット光が入射して形成される被検眼角膜のスリット投影断面より反射・散乱する光をスリット投影断面に対して斜めから撮影する断面撮影光学系よりなる。この際にスリット投影光学系、断面撮影光学系及び画像を記録する二次元撮像素子はシャインプルーフの原理に基づいて構成される。撮影された被検眼角膜の断面像をシャインプルーフ光学系による位置に対する倍率変化を補正し、さらに角膜の屈折による角膜後面の屈折歪みの補正をスネル法則に基づいて補正したのち、角膜前面を呼び後面の輪郭を計算することにより角膜の曲率及び角膜厚が計算される。
【0077】
図17は光切断方式のシャインプルーフ撮影原理による被検眼角膜の断面を撮影するための実施形態例である。被検眼1701は被検眼の垂直断面図であり1701a、1701b、1701cはそれぞれ被検眼角膜、被検眼上眼瞼、被検眼下眼瞼を示している。1702は光切断法による被検眼角膜のシャインプルーフ撮影光学系全体である。断面撮影用光源1703は被検眼にスリット光を投影するための光源であり、集光レンズ1704及びスリット1705によりスリット光が形成され、偏光フィルタ、スリット光投影レンズ、矩形開口絞り1708偏光ビームスプリッターを介して被検眼にスリット光が被検眼に対して水平に投影される。偏光フィルタ1706と偏光ビームスプリッター1709により、スリット光の角膜投影像が前眼部観察及びアライメント用の二次元撮像素子に入射しないようにされており、前眼部観察画像及び後述するアライメント用視標1713の撮影に影響を及ぼさないようになっている。
【0078】
断面撮影用レンズ1710、断面撮影用の二次元撮像素子1711により断面撮影光学系を成しており、本実施例では撮影光軸はスリット光の投影光軸に対して45度の角度で被検眼に対して下方に配置されている。スリット投影光断面、断面撮影用結像レンズ1710の主平面及び二次元撮像素子1711の受光面の延長面が1本の交線で交わるように配置されており、シャインプルーフ光学系を形成している。
【0079】
被検眼の固視及び装置のアライメントのための光学系として、固視及びアライメント用光源1712、固視及びアライメント用視標1713視標投影レンズ1714が配置されており、ハーフミラー1715、偏光ビームスプリッター1709を介して被検眼に投影される。前眼部像及び被検眼に投影されたアライメント用視標は偏光ビームスプリッター1709、ハーフミラー1715、結像レンズ1716を介して前眼部観察及びアライメント用二次元撮像素子1717に結像する。
【0080】
図18は
図17で示した被検眼断面撮影光学系と表面波励振ユニットおよび表面波検出ユニットの配置を示している。
図18は左眼を測定する場合を示しており、被検眼1801、被検者鼻1802に対して励振ユニット1803、検出ユニット1804が配置されており、被検眼角膜表面に表面波を励振せしめ、検出ユニットにて検出するとともに断面撮影光学系1805により被検眼の断面を撮影し角膜の厚み及び曲率を測定する。投影スリット光のスリット面1806は図のように形成され、励振ユニット1808の励振軸及び検出ユニット1804の検出軸とスリット面1806は同一平面となっている。
この配置により励振点から検出までに沿った位置での被検眼角膜厚み及び被検眼角膜曲率の測定が可能となる。
【0081】
次に、本実施の形態に係る眼球物性測定装置1の典型的な動作手順に関して、
図19に示すフローチャートを参照して説明する。本動作手順は励振点と検出点を角膜表面とし、角膜曲率検出装置があらかじめ眼球物性測定装置1に一体化されている場合の一例である。最初に、上述のように励振部102から照射される励振エネルギーの照射軸107と検出部103による検出軸108の交点が角膜曲率の中心と略一致するように励振部102及び検出部103のアラインメントを実施する(S1901)。アライメントには角膜曲率測定のために角膜上に投影する指標をアライメント指標として兼用することができる。そして、眼球物性測定装置1にあらかじめ一体化された角膜曲率検出装置を用いて、被検眼の角膜曲率を決定する(S1902)。
【0082】
次に、被検眼の検査対象が眼圧(主として表面張力が表面波の復元力となる場合)であるか否かを決定し(S1903)、眼圧の場合(S1903でYes)には、励振部102から眼球上の励振点104に向けて照射波を送信する。この際の照射波は、眼球上に表面波としての表面張力波又は漏洩表面張力波を発生させる必要がある。ここでは、励振手段が超音波の場合は表面張力波や漏洩表面張力波の発生周波数と同じ20KHz~50KHzで超音波を送信することができるため、そのまま変調をかけずに照射する。励振手段が光パルスの場合は高周波数の光パルスに対して変調部201aを用いて、その発振周波数より低くなる20~50KHzの変調周波数により振幅変調した後の照射波を、眼球上の励振点104に照射する(S1904)。
【0083】
次に、検出部103は検出点105において眼球上の表面波を検出する(S1905)。なお、この際の表面波の検出方法は例えば超音波反射法を用いる。そして、表面波処理部208は、検出部103で検出された表面波(この場合には表面張力波又は漏洩表面張力波)を復調して、眼球物性計算部209は、この表面波の位相速度を特定して、この位相速度から上記の(式8)又は(式9)を用いて表面張力を求め、さらに、決定された表面張力から上記の(式10)を用いて眼圧を計算する(S1906)。計算には臨床的に決定された補正式を使って補正をかけている。
【0084】
一方、被検眼の測定対象がヤング率やずり弾性率・粘性率の場合(主としてずり弾性が表面波の復元力となる場合)には(S1903でNo)、励振部102から眼球上の励振点104に向けて照射波を送信する。この際の照射波は、眼球上に表面波としてのレイリー波又はレイリー-ラム波を発生される必要がある。ここでは、高周波数の超音波や光パルスに対して変調部201aを用いて、その発振周波数より低くなる200Hz~5KHzの変調周波数により振幅変調した後の照射波を、眼球上の励振点104に照射する(S1907)。
【0085】
次に、検出部103は検出点105において眼球上の表面波を検出する(S1908)。そして、表面波処理部208は、検出部103で検出された表面波(この場合にはレイリー波又はレイリー-ラム波)を復調して、眼球物性計算部209は、この表面波の位相速度を特性して、この位相速度から上記の(式3)~(式7)を用いてずり弾性率μや粘性率ηを求め、さらに、決定されたずり弾性率μから既知の演算式を用いてヤング率を計算する(S1909)。
【0086】
以上の説明のように、本実施の形態に係る非接触式の眼球物性測定装置1は、被検眼である眼球表面に表面波を発生するために、照射波を用いて眼球上の少なくとも一以上の励振点104を励振する励振部102と、励振部102において発生させた表面波を励振点104とは異なる眼球上の少なくとも一以上の検出点105で検出する検出部103と、検出部103より検出した表面波を解析する表面波処理部208と、表面波処理部208における解析結果に基づいて眼球の物性を計算する眼球物性計算部209と、を備える。ここで、表面波処理部208は、表面波の位相変化及び遅延時間の少なくとも一方を特定し、眼球物性計算部209は、表面波の位相変化及び遅延時間の少なくとも一方に基づいて表面波の位相速度及び群速度の少なくとも一方を特定し、且つ表面波の位相速度及び群速度の少なくとも一方に基づいて眼球の物性を計算する。
【0087】
この構成により、本実施の形態に係る眼球物性測定装置1では、従来のような眼球や角膜そのものの振動や変位、あるいは振動による位相の変化に基づくものではなく、非接触で眼球表面上の所定位置において発生せしめる表面波を用いて、眼球の物性(眼圧、眼球組織の力学的材料特性など)を測定できる。すなわち、励振部102で意図的に発生させた眼球上の表面波で眼圧など測定ができるために、眼球自体や角膜自体を振動変位させる必要がなく、この結果、被験者が不快感や違和感を殆ど感じることなく眼圧、眼球組織のヤング率、ずり弾性率、粘性率などの測定ができる。
【0088】
なお、本発明は、上記実施の形態の構成に限られず、発明の趣旨を変更しない範囲で種々の変形が可能である。また、本発明の目的を達成するために、本発明は、眼球物性測定装置に含まれる特徴的な構成手段をステップとする眼球物性測定方法としたり、それらの特徴的なステップを含むプログラムとして実現することもできる。そして、そのプログラムは、ROM等に格納しておくだけでなく、USBメモリ等の記録媒体や通信ネットワークを介して流通させることもできる。
【符号の説明】
【0089】
1 眼球物性測定装置
101 眼球表面
102 励振部(励振手段)
103 検出部(検出手段)
104 励振点
105 検出点
106 表面波
107 照射軸
108 検出軸
201 励振ユニット
201a 変調部(変調手段)
202 検出ユニット
208 表面波処理部(表面波処理手段)
209 眼球物性計算部(眼球物性計算手段)
210 送信制御部
211 制御ユニット