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特開2022-177825高周波接地装置および高周波接地装置を備える真空弁
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022177825
(43)【公開日】2022-12-01
(54)【発明の名称】高周波接地装置および高周波接地装置を備える真空弁
(51)【国際特許分類】
   F16K 51/00 20060101AFI20221124BHJP
   F16K 3/18 20060101ALI20221124BHJP
   H01R 4/64 20060101ALI20221124BHJP
【FI】
F16K51/00 D
F16K3/18 Z
H01R4/64 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022080905
(22)【出願日】2022-05-17
(31)【優先権主張番号】10 2021 002 577.6
(32)【優先日】2021-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(71)【出願人】
【識別番号】593030945
【氏名又は名称】バット ホールディング アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】アートゥア ビュヒェル
(72)【発明者】
【氏名】アドリアン ヴァイトナウアー
【テーマコード(参考)】
3H053
3H066
【Fターム(参考)】
3H053AA32
3H053AA35
3H053BA11
3H053BA22
3H053BC01
3H053DA09
3H066AA03
3H066BA31
3H066BA38
(57)【要約】      (修正有)
【課題】真空チャンバシステムにおける望ましくないプラズマ放電を回避するための、真空チャンバシステムの真空弁用の改善された高周波接地装置に関する。
【解決手段】真空弁と共に使用する高周波接地装置(40)であって、真空弁に発生した電荷を導出するための導電材料製の第1の端部(41)と第2の端部(43)とを有する接地ストラップ(42)を有し、第1の端部で真空弁の弁閉鎖体に接続され、かつ第2の端部で真空チャンバシステムの部材に接続される。高周波接地装置は、補正インピーダンスを有し、接地ストラップは、補正インピーダンスに接続されており、これによって、接地ストラップと補正インピーダンスとを備える振動回路が形成され、補正インピーダンスは、振動回路の共振周波数をシフトさせるための第1の要素および/または振動回路の品質を低下させるための第2の要素を有する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバシステム(50)の弁開口(2)を開閉するための真空弁(1,1’)と共に使用するための高周波接地装置(40)であって、前記真空弁(1)に発生した電荷を導出するための導電材料製の接地ストラップ(42)を有し、前記接地ストラップ(42)は、第1の端部(41)と第2の端部(43)とを有し、前記真空弁(1,1’)を接地するために、前記第1の端部(41)で前記真空弁(1,1’)の弁閉鎖体(4)に接続され、かつ前記第2の端部(43)で前記真空チャンバシステム(50)の部材、特にハウジングまたは壁(12)に接続されるように構成され、
前記高周波接地装置(40)は、補正インピーダンスを有し、
- 前記接地ストラップ(42)は、前記補正インピーダンスに接続されており、これによって、前記接地ストラップ(42)と前記補正インピーダンスとを備える振動回路が形成され、
- 前記補正インピーダンスは、前記振動回路の共振周波数をシフトさせるための第1の要素および/または前記振動回路の品質を低下させるための第2の要素を有する
ことを特徴とする、高周波接地装置(40)。
【請求項2】
前記真空チャンバシステム(50)は、プロセスチャンバ(52)を有し、該プロセスチャンバ(52)内に、励起周波数による励起によって低圧プラズマが発生可能である、請求項1記載の高周波接地装置(40)。
【請求項3】
前記低圧プラズマは、短波励起によって発生可能であり、特に前記低圧プラズマの前記励起周波数は、13.56MHzである、請求項2記載の高周波接地装置(40)。
【請求項4】
前記補正インピーダンスは、前記第1の要素を有し、前記第1の要素は、前記振動回路の共振周波数を低圧プラズマの励起周波数から遠ざけるように、特に前記共振周波数が少なくとも20%前記励起周波数を下回るように構成されている、請求項2または3記載の高周波接地装置(40)。
【請求項5】
前記第1の要素は、前記振動回路が、前記低圧プラズマの前記励起周波数の半分未満、特に前記励起周波数の1/4未満である共振周波数を有するように構成されている、請求項4記載の高周波接地装置(40)。
【請求項6】
前記真空チャンバシステム(50)は、前記プロセスチャンバ(52)に前置されたロックチャンバ(51)を有し、
- 前記ロックチャンバ(51)と前記真空チャンバシステム(50)の周辺とは、第1の真空弁(1)によって互いに接続されており、
- 前記プロセスチャンバ(52)と前記ロックチャンバ(51)とは、第2の真空弁(1’)によって互いに接続されている、
請求項2から5までのいずれか1項記載の高周波接地装置(40)。
【請求項7】
前記高周波接地装置(40)は、前記第2の真空弁(1’)と共に使用するために構成されており、前記弁開口(2)は、前記プロセスチャンバ(52)と前記ロックチャンバ(51)との間の開口である、請求項6記載の高周波接地装置(40)。
【請求項8】
前記補正インピーダンスは、少なくとも第2の要素を有し、前記第2の要素は、前記振動回路の品質を低下させるために、少なくとも1Ω、特に1~100Ωである電気抵抗を有する、請求項1から7までのいずれか1項記載の高周波接地装置(40)。
【請求項9】
前記第2の要素は、前記振動回路の品質係数が0.5未満、特に0.25未満であるように構成されている、請求項8記載の高周波接地装置(40)。
【請求項10】
前記補正インピーダンスは、少なくとも前記第1の要素を有し、前記第1の要素は、前記共振周波数をシフトさせるために、1~100μHのインダクタンス、特に10~40μHのインダクタンスを有する、請求項1から9までのいずれか1項記載の高周波接地装置(40)。
【請求項11】
前記補正インピーダンスは、少なくとも前記第1の要素を有し、前記第1の要素は、コイル(45)として構成されており、前記コイル(45)は、巻枠(46)と、前記巻枠に巻き付けられた金属ワイヤ(47)とを有し、特に前記巻枠は円筒状である、請求項1から10までのいずれか1項記載の高周波接地装置(40)。
【請求項12】
前記巻枠(46)は、ポリエーテルエーテルケトンから成っているかまたは所定の割合、特に少なくとも25%の割合のポリエーテルエーテルケトンを含む、請求項11記載の高周波接地装置(40)。
【請求項13】
- 前記コイル(45)は、前記巻枠(46)の周りに前記金属ワイヤ(47)の12~25回の巻き数、特に22回の巻き数を有し、
- 前記金属ワイヤ(47)は、特にステンレス鋼から成る鋼ワイヤであり、かつ/または
- 前記金属ワイヤ(47)は、約0.6mmの直径を有する、
請求項11または12記載の高周波接地装置(40)。
【請求項14】
前記接地ストラップ(42)は、
- 金属ストラップ、特にステンレス鋼から成る鋼ストラップであり、
- 前記第1の端部(41)と前記第2の端部(42)との間に少なくとも50cmの長さを有し、特に前記鋼ストラップは、1Ω未満の電気抵抗を有する、
請求項1から13までのいずれか1項記載の高周波接地装置(40)。
【請求項15】
前記振動回路は、
- 規定可能な共振周波数および/または規定可能な品質を有し、かつ/または
- 前記補正インピーダンスと、前記接地ストラップ(42)と、前記真空弁(1,1’)の一部、特に前記弁閉鎖体(4)とによって形成され、特に前記真空弁(1,1’)もしくは前記弁閉鎖体(4)の寄生インピーダンスによって形成される、
請求項1から14までのいずれか1項記載の高周波接地装置(40)。
【請求項16】
真空チャンバシステム(50)の弁開口(2)を開閉するための真空弁(1,1’)、特に真空トランスファ弁であって、
- 開口軸線(A)を規定する前記弁開口(2)と、前記弁開口(2)を取り囲むように延びる第1のシール面(3)とを有する弁座と、
- 体積流量または質量流量を調整しかつ/または前記弁開口(2)を、前記第1のシール面(3)に対応する第2のシール面(6)によって実質的にガス密に閉鎖するための弁閉鎖体(4)、特に弁プレートと、
- 発生した電荷を接地するための接地ストラップ(42)を備えた接地装置と
を備え、
前記接地装置は、請求項1から15までのいずれか1項記載の高周波接地装置(40)として構成されていることを特徴とする、真空弁(1,1’)。
【請求項17】
正確に1つの接地ストラップ(42)と、前記補正インピーダンスの第1の要素としての正確に1つのコイル(45)とを備えた正確に1つの高周波接地装置(40)を有する、請求項16記載の真空弁(1,1’)。
【請求項18】
前記弁閉鎖体(4)に接続された駆動ユニット(7)を有し、前記駆動ユニット(7)は、前記弁閉鎖体(4)が前記弁開口(2)を少なくとも部分的に開放する開放位置(O)から、前記第1のシール面(3)と前記第2のシール面(6)とが、その相互間に位置しているシール材料に密に接触し、これによって、前記弁開口(2)がガス密に閉鎖されている閉鎖位置(S)へ、前記弁閉鎖体(4)が移動可能であり、かつ戻り移動可能であるような、前記弁閉鎖体(4)の運動を提供するように構成されている、請求項16または17記載の真空弁(1,1’)。
【請求項19】
前記駆動ユニットをプロセス容積から大気的に切り離すために前記弁閉鎖体(4)と前記弁ハウジング(9)とに結合されているベローズを有し、前記ベローズは、前記開放位置(O)で圧縮されていて、前記閉鎖位置(S)で伸長されているように構成かつ配置されている、請求項18記載の真空弁(1,1’)。
【請求項20】
内部に低圧プラズマが発生可能であるプロセスチャンバ(52)と、前記プロセスチャンバ(52)に前置されたロックチャンバ(51)とを備える真空チャンバシステム(50)において、
請求項16から19までのいずれか1項記載の少なくとも1つの真空弁(1,1’)を備えることを特徴とする、真空チャンバシステム(50)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空チャンバシステムにおける望ましくないプラズマ放電を回避するための、真空チャンバシステムの真空弁用の改善された高周波接地装置に関する。本発明は、さらに、このような高周波接地装置を備える真空弁、特にトランスファ真空弁と、このような真空弁を備える真空チャンバシステムとに関する。
【0002】
一般的に弁は、特に流体の通流量を調整可能にするために設けられている。弁によって通流を、最大の弁開放横断面を介して可能にするかまたは完全に遮断することができる。さらに特定の弁型式は、単位時間あたりの通流量を調整するという可能性を提供し、つまり、流体通流量の調整可能性を提供する。
【0003】
真空弁は、特殊な弁種類を形成している。真空弁は、体積流量または質量流量を調整するために、かつ/または弁ハウジングに形成された開口を通る流路を実質的にガス密に閉鎖するために、種々様々な実施形態が、従来技術に基づいて公知であり、特に、保護された雰囲気内で可能な限り汚染粒子の存在なしに行われねばならないIC製造、半導体製造、または基板製造の分野における真空チャンバシステムで使用される。
【0004】
このような真空チャンバシステムは、特に、提供すべきまたは製造すべき半導体素子または基板を収容するために設けられた排気可能な少なくとも1つの真空チャンバを含んでおり、この真空チャンバは、少なくとも1つの真空チャンバ開口を有しており、この真空チャンバ開口を通して、半導体素子またはその他の基板を、真空チャンバに対して出し入れすることができる。真空チャンバシステムは、さらに真空チャンバを排気するための少なくとも1つの真空ポンプを含んでいる。例えば、半導体ウエハまたは液晶基板のための製造設備では、高感度の半導体素子または液晶素子が順番に複数のプロセス真空チャンバを通過し、これらのプロセス真空チャンバ内で、プロセス真空チャンバの内部にある部材は、それぞれ1つの加工装置によって加工される。プロセス真空チャンバの内部における加工プロセス中においても、チャンバからチャンバへの搬送中においても、高感度の半導体素子または基板は常に、保護された雰囲気内に、特に真空環境内にあることが必要である。
【0005】
そのために、ガス供給部またはガス排出部を開閉するための周辺弁と、部材を導入・排出するための、真空チャンバのトランスファ開口を開閉するための他のトランスファ弁とが使用される。
【0006】
半導体部材によって通過される真空弁は、記載した使用分野およびこれに関連した寸法設定に基づいて、真空トランスファ弁と呼ばれ、多くの場合に方形のその開口横断面に基づいて、方形弁とも呼ばれ、かつ真空弁の通常の機能形式に基づいて、スライド弁、方形スライダ、またはトランスファスライド弁とも呼ばれる。
【0007】
周辺弁は、特に、真空チャンバと1つの真空ポンプまたは他の真空チャンバとの間におけるガス流を制御また調整するために使用される。周辺弁は、例えば管系の内部で、プロセス真空チャンバまたはトランスファチャンバと真空ポンプ、大気、または別のプロセス真空チャンバとの間に位置している。ポンプ弁とも呼ばれる、このような弁の開口横断面は、通常、真空トランスファ弁の開口横断面よりも小さい。周辺弁は、使用分野に関連して、開口を完全に開閉するためのみならず、完全な開放位置とガス密の閉鎖位置との間における開口横断面の連続的な調整によって通流量の制御または調整のためにも使用することができるので、周辺弁は、調整弁とも呼ばれる。ガス流を制御または調整するための可能な1つの周辺弁は、シャトル弁である。
【0008】
例えば米国特許第6089537号明細書(Olmsted)に基づいて公知の典型的なシャトル弁では、第1のステップで、通常は丸い弁プレートが、通常は同様に丸い開口の上へ、開口を開放する位置から、開口を覆う中間位置に回旋によって旋回させられる。例えば米国特許第6416037号明細書(Geiser)または米国特許第6056266号明細書(Blecha)に記載されたスライド弁では、弁プレートおよび開口は、多くの場合方形に形成されていて、この第1のステップで、開口を開放する位置から、開口を覆う中間位置に直線的に移動させられる。この中間位置で、シャトル弁またはスライド弁の弁プレートは、開口を取り囲む弁座に対して間隔を置いて対向位置にある。第2のステップで、弁プレートと弁座との間における間隔は小さくなり、これによって、弁プレートと弁座とは均等に互いに押し合わされ、開口は実質的にガス密に閉鎖される。この第2の運動は、好ましくは実質的に弁座に対して垂直な方向で行われる。
【0009】
シールは、例えば、弁プレートの閉鎖側に配置されて開口を取り囲むように延びる弁座に押し付けられるシールリングを介して行うことができる、またはシールリングを介して、弁プレートの閉鎖側が押し付けられる弁座において行うことができる。2つのステップで行う閉鎖過程によって、シールリングは弁プレートと弁座との間で、シールリングを破壊するような剪断力にほとんどさらされない。それというのは、第2のステップにおける弁プレートの運動は、実質的に弁座に向かって直線的にかつ弁座に対して垂直に行われるからである。
【0010】
異なるシール装置が、従来技術、例えば米国特許第6629682号明細書(Duelli)に基づいて公知である。真空弁におけるシールリングおよびパッキンのための適宜な材料は、例えば、FKMとも呼ばれるフルオロラバー、特に商品名「Viton」で公知のフルオロエラストマ、およびパーフルオロゴム、略してFFKMである。
【0011】
従来技術に基づいて、開口の上に平行移動する、シャトル弁における弁プレートの回転運動およびスライド弁における弁プレートの並進運動と、開口に対して垂直で実質的に並進的な運動とのこの組合せを得るための異なる駆動システムが、例えばシャトル弁のための米国特許第6089537号明細書(Olmsted)およびスライド弁のための米国特許第6416037号明細書(Geiser)に基づいて公知である。
【0012】
記載された多段階式の運動、つまり、閉鎖部材が最初に、パッキンと弁座との接触なしに開口の上に横方向にシフトさせられ、次いで閉鎖部材が、実質的に垂直に弁座に押圧される、多段階式の運動は、パッキンがほぼ完全に垂直に押圧され、パッキンに対する横方向荷重または長手方向荷重が生じない(粒子回避)という利点のみならず、弁開口を通る媒体(例えばプロセスガス)の通流量調整の可能性をも提供する。
【0013】
このような真空弁は、特に、低圧プラズマの技術的な使用のために構成されている真空チャンバのために必要になる。低圧プラズマは、圧力が大気圧よりも著しく低いプラズマである。典型的な技術的な低圧プラズマは、数パスカルの圧力範囲で作動させられ、つまり、通常の空気圧よりも係数10,000程度低い圧力で作動させられる。低圧プラズマは、例えばプラズマエッチングまたはスパッタリングによる、マイクロエレクトロニック素子の製造時に、または表面の精密加工時に重要な手段である。例えばPTFEのプラズマエッチング時には、水素プラズマによって表面から材料が切除される。この処理は、水素ガスの電気的な励起が生じる真空チャンバ内における特定の圧力下で行われる。
【0014】
低圧プラズマに関連した真空弁の使用時には、弁が、それ自体帯電することなしに、プロセスチャンバの内部における電磁場を良好に遮蔽することが必要である。そのために、例えば接地ストラップによって、弁の個々の部材間における電位差、または弁と真空チャンバシステムの他の部材との間における電位差を解消することができる。このような接地ストラップの使用によって、プラズマの励起周波数の帯域における共振周波数を備えた寄生振動回路が発生し、これによって、望ましくないプラズマ放電(「寄生放電」)が発生してしまうことは極めて不都合である。この寄生放電の問題は、電気的な励起時における出力の増大と共に大きくなる。
【0015】
ゆえに、本発明の根底にある課題は、上述した欠点を減じるかまたは回避する改善された真空弁および改善された接地システムを提供することである。
【0016】
本発明の別の課題は、低圧プラズマが使用される用途に適したこのような真空弁およびこのような接地システムを提供することである。
【0017】
本発明のさらに別の課題は、このような真空弁およびこのような接地システムを有する改善された真空チャンバシステムを提供することでもある。
【0018】
これらの課題は、独立請求項の特徴部に記載の特徴を実現することによって解決される。本発明を代替的にまたは有利に発展させる特徴は、従属請求項から読み取ることができる。
【0019】
本発明の第1の態様は、真空チャンバシステムの弁開口を開閉するための真空弁と共に使用するための高周波接地装置に関する。高周波接地装置は、真空弁に発生した電荷を導出するための導電材料製の接地ストラップを有し、接地ストラップは、第1の端部と第2の端部とを有し、真空弁を接地するために、第1の端部で真空弁の弁閉鎖体に接続され、かつ第2の端部で真空チャンバシステムの部材、特にハウジングまたは壁に接続されるように構成されている。
【0020】
本発明によれば、高周波接地装置は、補正インピーダンスを有し、接地ストラップは、補正インピーダンスに接続されており、これによって、少なくとも接地ストラップと補正インピーダンスとを備える振動回路(Schwingkreis)が形成される。補正インピーダンスは、振動回路の共振周波数をシフトさせるための第1の要素および/または振動回路の品質を低下させるための第2の要素を有する。
【0021】
振動回路は、特に規定可能な共振周波数および/または規定可能な品質を有してよい。振動回路は、特に補正インピーダンスと、接地ストラップと、弁の一部、特に真空弁もしくは弁閉鎖体の寄生インピーダンスによって形成される。
【0022】
真空チャンバシステムは、プロセスチャンバを有し、プロセスチャンバ内に、励起周波数による励起によって低圧プラズマが発生可能であってよい。低圧プラズマは、特に短波励起によって発生可能であり、低圧プラズマの励起周波数は、例えば13.56MHzであってよい。
【0023】
この場合、補正インピーダンスは、第1の要素を有し、第1の要素は、振動回路の共振周波数を低圧プラズマの励起周波数から遠ざけるように、特に共振周波数が少なくとも20%励起周波数を下回るように構成されている。
【0024】
1つの実施形態では、第1の要素は、振動回路が、低圧プラズマの励起周波数の半分未満、特に励起周波数の1/4未満である共振周波数を有するように構成されていてよい。
【0025】
真空チャンバシステムは、プロセスチャンバに前置されたロックチャンバを有し、ロックチャンバと真空チャンバシステムの周辺とは、第1の真空弁によって互いに接続されており、プロセスチャンバとロックチャンバとは、第2の真空弁によって互いに接続されていてもよい。
【0026】
1つの実施形態では、高周波接地装置は、第2の真空弁と共に使用するために構成されており、弁開口は、プロセスチャンバとロックチャンバとの間の開口であってよい。
【0027】
高周波接地装置の1つの実施形態によれば、補正インピーダンスは、少なくとも第2の要素を有し、この第2の要素は、振動回路の品質を低下させるために、少なくとも1Ω(オーム)、例えば1~100Ωである電気抵抗を有する。好ましくは、第2の要素の電気抵抗は、接地ストラップの電気抵抗よりも著しく高く、例えば2倍よりも高い。
【0028】
1つの実施形態では、第2の要素は、振動回路の品質係数Qが0.5未満、特に0.25未満であるように構成されている。そのために、それぞれの振動回路のための電気抵抗は、適正に、つまり、特に十分に大きく選択すべきである。
【0029】
高周波接地装置の1つの別の実施形態によれば、補正インピーダンスは、少なくとも第1の要素を有し、この第1の要素は、共振周波数をシフトさせるために、1~100μH(マイクロヘンリー)のインダクタンス、例えば10~40μHのインダクタンスを有する。共振周波数のシフトは、特に低下であってよい。
【0030】
高周波接地装置の1つの別の実施形態によれば、補正インピーダンスは、第1の要素としてコイルを有し、コイルは、巻枠(Koerper)と、巻枠に巻き付けられた金属ワイヤとを有し、巻枠は、例えば円筒状である。
【0031】
1つの実施形態では、コイルの巻枠は、完全にまたは部分的にポリエーテルエーテルケトン(PEEK)から成っている。特に、PEEKの割合は少なくとも25%である。PEEKは、高真空における使用のためのコイル巻枠材料として特に適していることが判っている。
【0032】
1つの実施形態では、コイルは、巻枠の周りに金属ワイヤの12~25回の巻き数、例えば22回の巻き数を有する。1つの実施形態では、金属ワイヤは、約0.6mmの直径を有する。
【0033】
1つの実施形態では、金属ワイヤは、特にステンレス鋼から成る鋼ワイヤである。このような鋼ワイヤは、高真空における使用のために特に適していることが判っている。
【0034】
高周波接地装置の1つの別の実施形態では、接地ストラップは、金属ストラップ、特にステンレス鋼から成る鋼ストラップであり、第1の端部と第2の端部との間に少なくとも50cmの長さを有する。このような鋼ストラップは、特に1Ω未満の電気抵抗を有してよい。
【0035】
本発明の第2の態様は、真空チャンバシステムの弁開口を開閉するための真空弁、例えば真空トランスファ弁として構成されている真空弁に関する。真空弁は、開口軸線を規定する弁開口と、弁開口を取り囲むように延びる第1のシール面とを有する弁座と、体積流量または質量流量を調整しかつ/または弁開口を、第1のシール面に対応する第2のシール面によって実質的にガス密に閉鎖するための弁閉鎖体(弁プレート)と、発生した電荷を導出するための接地ストラップを備えた接地装置とを備える。
【0036】
本発明のこの態様によれば、接地装置は、本発明の第1の態様に係る高周波接地装置として構成されている。つまり、高周波接地装置は、真空弁に発生した電荷を導出するための導電材料製の接地ストラップを有し、接地ストラップは、第1の端部と第2の端部とを有し、真空弁を接地するために、第1の端部で弁閉鎖体に接続され、かつ第2の端部で真空チャンバシステムの部材に接続されるように構成されている。さらに、高周波接地装置は、補正インピーダンスを有し、接地ストラップは、補正インピーダンスに接続されており、これによって、少なくとも接地ストラップと補正インピーダンスとを備える振動回路が形成される。補正インピーダンスは、振動回路の共振周波数をシフトさせるための第1の要素および/または振動回路の品質を低下させるための第2の要素を有する。
【0037】
1つの実施形態では真空弁は、正確に1つの接地ストラップと、補正インピーダンスの第1の要素としての正確に(genau)1つのコイルとを備えた正確に(genau)1つのこのような高周波接地装置を有する。
【0038】
1つの別の実施形態では、真空弁は、弁閉鎖体に接続された駆動ユニットを有し、この駆動ユニットは、弁閉鎖体が弁開口を少なくとも部分的に開放する開放位置から、第1のシール面と第2のシール面とが、その相互間に位置しているシール材料に密に接触し、これによって、弁開口がガス密に閉鎖されている閉鎖位置へ、弁閉鎖体が移動可能であり、かつ戻り移動可能であるような、弁閉鎖体の運動を提供するように構成されている。
【0039】
1つの実施形態では、真空弁は、駆動ユニットをプロセス容積から大気的に切り離すために弁閉鎖体と弁ハウジングとに結合されているベローズを有し、ベローズは、開放位置で圧縮されていて、閉鎖位置で伸長されているように構成かつ配置されている。
【0040】
本発明の第3の態様は、内部に低圧プラズマが発生可能であるプロセスチャンバと、プロセスチャンバに前置されたロックチャンバとを備える真空チャンバシステムに関する。本発明のこの態様によれば、真空チャンバシステムは、本発明の第1の態様に係る高周波接地装置を備える、本発明の第2の態様に係る少なくとも1つの真空弁を有する。
【0041】
1つの実施形態では、プロセスチャンバ内に、励起周波数による励起によって低圧プラズマが発生可能である。低圧プラズマは、特に短波励起によって発生可能であり、低圧プラズマの励起周波数は、例えば13.56MHzであってよい。
【0042】
1つの実施形態では、ロックチャンバと真空チャンバシステムの周辺とは、第1の真空弁によって互いに接続されており、プロセスチャンバとロックチャンバとは、第2の真空弁によって互いに接続されている。特に第2の真空弁は、本発明の第2の態様に係る真空弁として構成されていてよい。
【0043】
次に、本発明に係る高周波接地装置、本発明に係る真空弁、および本発明に係る真空チャンバシステムについて、図面に概略的に示す実施例を参照しながら、純粋に例として詳説する。記載の実施形態は、必ずしも寸法通りに示されているものではなく、また限定的に理解されるべきものではない。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】真空弁と高周波接地装置とを備えた本発明に係る真空チャンバシステムの実施形態の一例を示す図である。
図2図1の真空チャンバシステムを示す横断面図である。
図3図3a~図3cは、高周波接地装置を備えた本発明に係る真空弁の実施形態の一例を示す図である。
図4】例としての高周波接地装置によって形成された振動回路を示す図である。
図5】本発明に係る高周波接地装置の実施形態の一例を示す図である。
図6図6aおよび図6bは、本発明に係る真空弁の実施形態の一例における、図5の高周波接地装置を示す図である。
図7図7aおよび図7bは、真空弁と高周波接地装置とを備えた本発明に係る真空チャンバシステムの別の実施形態の一例を示す図である。
【0045】
図1には、低圧プラズマの技術的な使用のための真空チャンバシステム50の実施形態の一例が示してある。真空チャンバシステム50は、本発明に係る高周波接地装置40を備えた真空弁1を有している。真空弁1は、それ自体帯電することなしに、プロセスチャンバの内部における電磁場を良好に遮蔽することが望ましい。そのために、ここでは接地ストラップ42によって、真空弁1(もしくは真空弁1の閉鎖体、いわゆる弁プレート)と真空チャンバシステム50の外壁との間における電位差が解消される。特に高周波接地装置40によって、シース電流をも導出することができる。
【0046】
本発明によれば、接地装置が、問題のある帯域にある共振周波数を有する並列共振回路を形成してしまうことを阻止する補正インピーダンスが設けられている。補正インピーダンスは、例えば、振動回路の周波数を変調させるコイル45を有することができる。代替的にまたは付加的に、補正インピーダンスは、インピーダンスが常に制限された状態にまで寄生振動回路の品質を低下させる電気抵抗を有することができる。補正インピーダンスの正確な構成は、真空弁1の仕様と、防護すべき(freizuhaltend.)周波数、つまり、特に真空チャンバシステム50内におけるプロセス周波数とに関連している。
【0047】
図2には、この真空チャンバシステム50が横断面図で示してある。真空チャンバシステム50は、プロセスチャンバ52を有していて、このプロセスチャンバ52内で、低圧プラズマが発生可能であり、様々な技術的な使用のために使用可能である。このプロセスチャンバ52には、ロックチャンバ51が前置されている。図示の実施形態では、ロックチャンバ51と外側の大気との間に第1の真空弁1が設けられており、この第1の真空弁1は、弁開口2を必要に応じて弁閉鎖体4(弁プレート)によって開閉する。第2の真空弁1’は、ロックチャンバ51とプロセスチャンバ52との間に設けられている。この構造は、比較的長い時間の間プロセスチャンバ52内部の圧力を不変に低く保つことを可能にする。これらの弁1,1’のうちの一方または両方が、本発明に係る高周波接地装置40を備えて構成されていてよい。
【0048】
ここに示した実施形態では、第1の真空弁1だけが、本発明に係る高周波接地装置を備えて構成されている。弁閉鎖体4は、移動アーム5に配置されていて、この移動アーム5は、駆動ユニット7に機械的に連結されている。高周波接地装置の接地ストラップ42は、真空弁1を接地するために、弁閉鎖体4を真空チャンバシステム50のハウジングに接続している。そこで接地ストラップ42は、接地装置の、ここではコイル45として構成された補正インピーダンスに接続されている。補正インピーダンスは、本発明によれば、高周波接地装置によって形成された寄生振動回路の共振周波数と、低圧プラズマの励起周波数とを十分に類別するために働く抵抗およびリアクタンスを有するように構成されている。
【0049】
接地ストラップ42の共振周波数が、コイル45(または他の補正インピーダンス)なしに例えば約15MHzである場合、このことは、13.56MHzのプラズマの短波励起の場合に望ましくないプラズマ放電を引き起こすことがある。コイル45のような補正インピーダンスを付加することによって、こうして、共振周波数を危険のない帯域、特に励起周波数の半分未満である周波数にシフトさせることができる。
【0050】
図3a~図3cには、本発明に係る真空弁1の1つの実施形態が示してあり、この真空弁1は、真空トランスファ弁として形成されていて、異なる閉鎖位置(O、Z、S)で示してある。図示の真空弁1は、方形のプレート状の弁閉鎖体4(弁プレート)を有していて、この弁閉鎖体4は、開口2をガス密に閉鎖するためのシール面6(第2のシール面)を有している。開口2は、弁閉鎖体4に対応する横断面を有していて、壁12に形成されている。壁12は、例えば図1および図2に示した真空チャンバシステムの壁であってよい。開口2は弁座によって取り囲まれており、この弁座はそれ自体同様に、弁閉鎖体4のシール面6に対応するシール面3(第1のシール面)を提供する。弁閉鎖体4のシール面6は、弁閉鎖体4において環状に延びていて、シール材料(パッキン)を有している。閉鎖位置S(図3c)において、パッキンはシール面6とシール面3との間で圧縮される。
【0051】
開口2は、壁12の左にある第1のガス領域Lを、壁12の右にある第2のガス領域Rに接続している。壁12は、例えば真空チャンバシステムもしくはロックチャンバのチャンバ壁(図2参照)によって形成される。真空弁1は、チャンバ壁12と弁閉鎖体4との協働によって形成される。第1のガス領域は、特に大気圧を有していてよく、これに対して、真空チャンバシステムの内部もしくはロックチャンバ内における第2のガス領域は、真空弁の閉鎖時に、大気圧より低い圧力、特に真空を有していてよい。
【0052】
図から分かるように、弁座は第1のシール面3と一緒に、代替的に、弁1に構造的に不動に結合された弁構成要素として形成されていてよく、例えばチャンバ開口のところに、例えばねじ結合されて配置されてよい。
【0053】
弁閉鎖体4は、ここに示したように、ここでは例えばロッド状である移動アーム5に配置されていてよく、幾何学的な移動軸線Vに沿って延在している。移動アーム5は、駆動ユニット7に機械的に連結されていて、この駆動ユニット7によって閉鎖部材4は、壁12の左にある第1のガス領域Lで、駆動ユニット7を用いた移動アーム5の移動によって、開放位置O(図3a)から中間位置Z(図3b)を介して閉鎖位置S(図3c)に移動可能である。
【0054】
開放位置Oで弁閉鎖体4は、開口2の投影範囲外にあり、図3aに示すように開口2を完全に開放している。
【0055】
移動軸線Vに対して平行または同軸でかつ壁12に対して平行な平面での、軸線方向における弁閉鎖体4の直線移動によって、弁閉鎖体4を、駆動ユニット7によって開放位置Oから中間位置Zに移動させることができる。
【0056】
この中間位置Z(図3b)で弁閉鎖体4のシール面6は、弁座の、開口2を取り囲むシール面3に対して、間隔を置いた対向位置にある。
【0057】
開口2によって規定された開口軸線A(ここでは移動軸線Vに対して横方向)、つまり、例えば壁12および弁座に対して垂直の方向における移動によって、弁閉鎖体4を、中間位置Zから閉鎖位置S(図3c)に移動させることができる。
【0058】
閉鎖位置Sで弁プレート4は、開口2をガス密に閉鎖し、第1のガス領域Lと、例えば真空チャンバシステムのロックチャンバの内部における第2のガス領域Rとをガス密に切り離す。真空弁の開閉は、駆動ユニット7によって、ここでは例えば弁閉鎖体4の互いに垂直な2つの方向V,AにおけるL字形の運動によって行われる。ゆえに図示の弁は、L型弁とも呼ばれる。
【0059】
真空弁の、図3a~図3cに純粋に例として示した実施形態の代わりに、本発明に係る真空弁は、他の形式で、例えば独国特許出願公開第102021000787.5号明細書に詳しく記載されているシャトル弁または単一弁として構成されていてもよい。特に真空弁はさらに、一方で弁閉鎖体にかつ他方で弁ハウジングに結合されているベローズを有していてよい。これによって、駆動ユニットおよび弁アームをプロセス容積から大気的に切り離すことができる。ベローズは、開放された弁状態で圧縮されていて、弁閉鎖時には伸長させられている。
【0060】
本発明によれば、真空弁1は、接地ストラップ42および補正インピーダンスを備えた高周波接地装置を有しており、補正インピーダンスは、ここではコイル45として構成されている。接地ストラップ42の第1の端部は、弁閉鎖体4に固定されていて、開放過程または閉鎖過程時に弁閉鎖体4と一緒に運動させられる。接地ストラップ42の第2の端部は、コイル45と一緒に壁12(または真空チャンバシステムのハウジングの他の箇所)に固定されており、これによって、弁プレート4と弁ハウジングとの電位均等化が行われる(接地)。弁プレート4の移動可能性に相応して、弁閉鎖体4とコイル45との間の間隔は変化するので、接地ストラップの長さは相応に選択されねばならない。
【0061】
図3a~図3cに示した真空弁1では、閉鎖位置Sにおいて弁閉鎖体4と壁12との間に存在している僅かな間隔によって、コンデンサXが形成されており、帯電しないパッキン6は誘電体として作用する。真空弁の機能に影響を及ぼすことなしに、このコンデンサXの容量Cをほんの少しだけ変化させることができる。
【0062】
図4には、高周波接地システムの構成要素が、接地のために真空弁と真空チャンバのハウジングとの間における接続部を形成している場合に、高周波接地システムの構成要素によって形成される振動回路の構成が概略的に示してある。図4において、Xは容量Cを備えたコンデンサを表し、XはインダクタンスLを備えたコイル(または類似の要素)を表し、かつRは電気抵抗を表している。
【0063】
この振動回路の共振周波数は、LおよびCに依存しているので、LまたはCの変化によって影響を受けることになり、これに対して、振動回路の品質Qは、LおよびCならびに抵抗Rに依存している。Cには、十分な値で影響を及ぼすことができないので、振動回路は、本発明によれば、適切に設計された補正インピーダンスによって特定の周波数に合わせられる。インダクタンスLおよび抵抗Rは、例えばコイル45または他の要素の適宜な構造上の構成によって、適切に調整することができる。
【0064】
当業者に公知であるように、補正インピーダンスは、コイル45の代わりに、他の形態で形成されてもよい。ここでは特に、電気的な部材から成る回路、例えば1つの共通の部材内におけるチョークコイルおよび抵抗を有する回路が可能である。
【0065】
図5には、高周波接地システム40が、真空弁から切り離されて、詳細に示してある。このような高周波接地システム40は、好ましくは使用される材料および構成要素に関して、高真空における使用のために適している。特に、使用される材料のいずれも真空内でガス放出しないことが望ましい。
【0066】
図示の接地システム40は、ステンレス性の特殊鋼から成る接地ストラップ42と、コイル45の形態の補正インピーダンスとを有している。接地ストラップ42は、例えば約0.5m~1mの長さを有していてよい。
【0067】
特殊鋼から成るこのような接地ストラップ42の電気抵抗は、比較的小さく、例えば明らかに1Ω(オーム)未満である。接地ストラップ42はその第1の端部41で、端子によって、真空弁に、特に弁プレートに取り付けられるべき第1の接続部材44に導電接続されている。接地ストラップはその第2の端部43で、コイル45に導電接続されている。コイル45は、例えば接地ストラップ42と同じ材料から成る巻枠46を有していて、この巻枠46には、絶縁された金属ワイヤ47が巻き付けられている。ワイヤの端部48は、接地ストラップ42の第2の端部43に接続されている。
【0068】
補正インピーダンスとしてのコイル45は、振動回路が、真空チャンバシステム内に発生させられた低圧プラズマの励起周波数とは明らかに異なる共振周波数、特に励起周波数よりも明らかに低い共振周波数を有するように構成されている。たいていの用途では、励起周波数を、高い方の周波数帯域へのシフトに対して低い方の周波数帯域にシフトさせることが好適である。なぜならば、こうして、高調波を回避することができるからである。例えば、補正インピーダンスによって発生させられた共振周波数を、励起周波数の半分未満にすることができる。低圧プラズマのための典型的な励起周波数は、13.56MHzである。この場合にコイル45によって低下させられた共振周波数は、10MHz未満、好ましくは5MHz未満であることが望ましい。これによって、寄生放電のリスクを減じるかもしくは排除することができる。
【0069】
そのために、この場合には、コイル45は、コイル45のインダクタンスが1μH~100μH(マイクロヘンリー)であるように構成されていることが望ましく、これによって、それぞれの真空弁の共振周波数を所望の箇所に適切にシフトさせることができる。コイル45のインダクタンスおよび寄生抵抗には、例えばワイヤ47の選択と、例えばワイヤ47によって取り囲まれた巻枠46(コア)の選択とによって影響を及ぼすことができる。このとき、一方では、インダクタンスLが、共振周波数を十分に低下させるために可能な限り大きく選択されることが望ましく、他方では、構造上のコストが過度に大きくならないことが望ましい。
【0070】
例えば絶縁されたワイヤ47は、ステンレス性の特殊鋼から成っていて、約0.6mmの直径を有している。ワイヤの端部48は、接地ストラップ42の第2の端部43に接続されている。円筒状のコイル巻枠46は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)から製造されていて、固定プレート49に配置されており、この固定プレート49は、真空チャンバシステムのハウジングに接地して接続可能である。所望の共振周波数を得るために必要なインダクタンスに応じて、コイル45は、鋼ワイヤ47の異なる数の巻き数、例えば12~25回の巻き数をPEEK巻枠46の周りに有していてよい。
【0071】
コイル45の代わりにまたはコイル45に加えて、インダクタンスLを増大させる他の要素、例えばばねまたは螺旋体を使用することも可能である。また、これらの要素は、必ずしも接地ストラップ42の一端に取り付けられている必要はなく、例えばストラップ42の2つの部分の間の真ん中に構成されていてもよいし、ストラップ42の一体の構成部分(例えば螺旋ストラップ)として構成されていてもよい。
【0072】
コイルの代わりにまたはコイルに加えて、またはインダクタンスLを増大させる他の要素の代わりにまたはこのような要素に加えて、補正インピーダンスは電気抵抗Rを含んでいてよい。このような抵抗は、振動回路の品質を低下させる。
【0073】
好ましくは、抵抗は、振動回路の品質係数Qが1未満に、特に0.5未満に低下するような大きさであることが望ましい。特に、端子のうちの少なくとも1つの端子は、接地ストラップ42の端部41,43に電気抵抗、例えば接続部材44を提供することができる。特に抵抗が、コイル45なしに、または同作用の補正インピーダンスの要素、つまり、共振周波数をシフトさせる要素なしに使用される場合には、電気抵抗Rが、明らかに接地ストラップ42の電気抵抗を上回っていることが望ましい。弁および接地ストラップ42の特性に応じて、かつ付加的にコイル45、またはインダクタンスLを増大させる他の要素が設けられている場合には、このインダクタンスLに関連して、0.5~1000Ωの範囲、特に1~100Ωの範囲における抵抗が有利であると言える。このようになっていると、振動回路の品質を十分に低下させ、かつ同時に接地機能を損なうことがないようにすることができる。
【0074】
図6aおよび図6bには、真空チャンバシステムの真空弁の実施形態の一例に取り付けられた、図5に示した高周波接地システムが示してある。図6aには、真空弁が開放位置Oで示してあり、この開放位置Oでは弁開口2は、弁プレート4によって覆われていない。図6bには、同じ真空弁が閉鎖位置Sで示してあり、この閉鎖位置Sでは弁プレート4は、駆動ユニット7および移動アーム5によって、弁開口2の手前に運動させられていて、弁開口2を完全に閉鎖している。接地ストラップ42の第1の端部は、ここでは弁プレート4の側部に固定されていて、弁プレート4と一緒に可動である。接地ストラップ42の第2の端部は、コイル45と一緒に真空チャンバシステムもしくは弁体の壁12に固定されており、これによって、弁プレート4を接地する。
【0075】
弁プレート4の可動性に相応して、接地ストラップの長さは十分に選択する必要がある。
【0076】
図7aおよび図7bには、真空弁と高周波接地装置とを備えた本発明に係る真空チャンバシステムの実施形態の別の一例が横断面図で示してある。真空チャンバシステム50はプロセスチャンバ52を有しており、このプロセスチャンバ52内において低圧プラズマが発生可能であり、かつ様々な技術的な使用のために使用可能である。このプロセスチャンバ52には、ロックチャンバ51が前置されている。第1の真空弁1は、ロックチャンバ51と外側の大気との間に設けられており、第1の真空弁1は、弁開口2を必要に応じて弁閉鎖体4(弁プレート)によって開閉する。第2の真空弁1’は、ロックチャンバ51とプロセスチャンバ52との間に設けられている。この構造は、比較的長い時間の間、プロセスチャンバ52の内部における圧力を不変に低く保つことを可能にする。
【0077】
両真空弁1,1’は、真空トランスファ弁として構成されている。図7aに示した第1の状態では、第1の真空弁1は閉鎖位置Sにあり、第2の真空弁1’は開放位置Oにある。図7bに示した第2の状態では、第1の真空弁1は開放位置Oにあり、第2の真空弁1’は閉鎖位置Sにある。
【0078】
図2の実施形態とは異なり、ここでは第2の真空弁1’が本発明に係る高周波接地装置を備えて構成されている。代替的に、第1の真空弁1および第2の真空弁1’が、それぞれ本発明に係る高周波接地装置を備えて構成されていてよい。
【0079】
第2の真空弁1’は、2つの弁閉鎖体4,4’を有していて、両弁閉鎖体4,4’は、駆動ユニット7に機械的に連結されている移動アーム5に配置されている。閉鎖位置Sで弁閉鎖体4’はロックチャンバ51の開口を閉鎖し、弁閉鎖体4はプロセスチャンバ52の開口を閉鎖する。
【0080】
高周波接地装置の接地ストラップ42は、真空弁1’を接地するために、プロセスチャンバ52に通じる開口を閉鎖する弁閉鎖体4を、真空チャンバシステム50の内壁に接続している。内壁において接地ストラップ42は、(接地装置の補正インピーダンスとしての)コイル45に接続されている。したがって、高周波接地装置のこの配置形態は、図6aおよび図6bに示した配置形態にほぼ相当しているので、この断面図では、弁プレート4の大部分が接地ストラップ42によって覆われる。
【0081】
コイル45(補正インピーダンス)は、抵抗とリアクタンスとを有するように構成されており、このリアクタンスは、高周波接地装置によって形成された寄生振動回路の共振周波数を低圧プラズマの励起周波数と十分に類別するために働く。
【0082】
高周波接地装置は、ここでは真空チャンバシステム50の内部に位置しているので、全ての構成要素は、高真空における確実な使用のために適していることが望ましい。
【0083】
当然であるが、示されたこれらの図は、単に可能な実施例を概略的に示しているだけである。様々な構成を互いに組み合わせること、ならびに様々な構成を従来技術の装置および方法と組み合わせることが可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【外国語明細書】