(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022177872
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】防汚層付き光学フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 1/18 20150101AFI20221125BHJP
G02B 5/00 20060101ALI20221125BHJP
G02B 1/11 20150101ALI20221125BHJP
B32B 37/00 20060101ALI20221125BHJP
B32B 7/023 20190101ALI20221125BHJP
【FI】
G02B1/18
G02B5/00 Z
G02B1/11
B32B37/00
B32B7/023
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021084280
(22)【出願日】2021-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103517
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 寛之
(74)【代理人】
【識別番号】100149607
【弁理士】
【氏名又は名称】宇田 新一
(72)【発明者】
【氏名】宮本 幸大
(72)【発明者】
【氏名】梨木 智剛
【テーマコード(参考)】
2H042
2K009
4F100
【Fターム(参考)】
2H042AA01
2H042AA07
2H042AA26
2K009AA02
2K009AA03
2K009DD02
2K009EE05
4F100AR00B
4F100AR00C
4F100AT00A
4F100BA03
4F100BA08B
4F100BA26B
4F100EA02
4F100EJ99
4F100JL06C
4F100JN00B
4F100JN06B
4F100JN18B
(57)【要約】
【課題】規格外ロスの低減に適した防汚層付き光学フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、ロールトゥロール方式でワークフィルム(WF)を搬送しながらの防汚層付き光学フィルムの製造方法であり、次の各工程を含む。WF上への光学機能層の形成後、WFの光学特性を検査して第1結果を得る(第1検査工程)。第1結果が規格内か判定する(第1判定工程)。第1検査工程後、WF上に防汚層を形成する(第2成膜工程)。その後にWFの光学特性を検査して第2結果を得る(第2検査工程)。第2結果が規格内か判定する(第2判定工程)。第1判定工程で規格外と判定した場合、第2成膜工程での防汚層設定厚さを変更すると規格内のWFが得られるか判定する(第3判定工程)。そのようなWFが得られると判定した場合、前記設定厚さを変更する(第1再設定工程)。第2判定工程で規格外と判定した場合、前記設定厚さを変更する(第2再設定工程)。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロールトゥロール方式でワークフィルムを搬送しながら、防汚層付き光学フィルムを製造する方法であって、
前記ワークフィルムの厚さ方向一方面側に光学機能層を形成する第1成膜工程と、
前記第1成膜工程より後に、前記ワークフィルムの厚さ方向一方面側の光学特性を検査して第1検査結果を得る第1検査工程と、
前記第1検査結果が第1規格内であるか第1規格外であるかを判定する第1判定工程と、
前記第1検査工程より後に、前記ワークフィルムの厚さ方向一方面側に防汚層を形成する第2成膜工程と、
前記第2成膜工程より後に、前記ワークフィルムの厚さ方向一方面側の光学特性を検査して第2検査結果を得る第2検査工程と、
前記第2検査結果が第2規格内であるか第2規格外であるかを判定する第2判定工程と、
前記第1判定工程において前記第1検査結果が前記第1規格外であると判定した場合に、前記第2成膜工程における前記防汚層の設定厚さを規定範囲内で変更することによって、前記第2成膜工程後に前記第2規格を満たすワークフィルムが得られるかどうか、を判定する第3判定工程と、
前記第3判定工程において、前記第2規格を満たすワークフィルムが得られると判定した場合に、前記第2成膜工程で形成される前記防汚層の前記設定厚さを変更する、第1再設定工程と、
前記第2判定工程において前記第2検査結果が前記第2規格外であると判定した場合に、前記第2成膜工程で形成される前記防汚層の前記設定厚さを変更する、第2再設定工程とを含む、防汚層付き光学フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記第3判定工程において、前記第2規格を満たすワークフィルムが得られないと判定した場合に、前記第1成膜工程における前記光学機能層の設定厚さを変更する、第3再設定工程を更に含む、請求項1に記載の防汚層付き光学フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記第1成膜工程では、ドライコーティング法によって前記光学機能層を形成し、前記第2成膜工程では、ドライコーティング法によって前記防汚層を形成する、請求項1または2に記載の防汚層付き光学フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記光学機能層が反射防止層である、請求項1から3のいずれか一つに記載の防汚層付き光学フィルム。
【請求項5】
前記反射防止層が、相対的に屈折率が大きな高屈折率層と、相対的に屈折率が小さな低屈折率層とを交互に含む、請求項4に記載の防汚層付き光学フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防汚層付き光学フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイなどのディスプレイにおける画像表示側の外表面には、例えば、所定の光学的機能を有する層(光学機能層)を備える透明な光学フィルムが設けられる。そのような光学フィルムとしては、例えば、反射防止フィルム、透明導電性フィルム、および電磁波遮蔽フィルムが挙げられる。また、光学フィルムの最表面には、例えば、防汚性を有する層(防汚層)が設けられる。このような防汚層付き光学フィルムは、例えば、基材フィルムと、光学機能層と、防汚層とをこの順で備える。防汚層付き光学フィルムに関する技術については、例えば下記の特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、防汚層付き光学フィルムの製造方法として、光学機能層と防汚層とを、ロールトゥロール方式での異なるパスラインで形成する方法が、記載されている。その方法は、具体的には、ロールトゥロール方式の第1パスラインにおいて、ドライコーティング法によって長尺の基材フィルム上に光学機能層を形成する工程と、ロールトゥロール方式の第2パスラインにおいて、ウエットコーティング法によって光学機能層上に防汚層を形成する工程とを含む。
【0005】
用途に応じた適切な光学特性を有する防汚層付き光学フィルムを製造するためには、第1パスラインにおいて、光学機能層形成ステップを経たワークフィルム(光学機能層あり,防汚層なし)の光学特性が所定の規格内であるかどうかを、モニタリングする必要がある(第1のモニタリングポイント(MP)での第1検査)。第1検査において規格外の光学特性が検知された場合、その結果が光学機能層形成ステップにフィードバックされる。これにより、光学特性が所定の規格内に収まるように、光学機能層形成ステップで形成される膜の厚さが所定の範囲内で変更される。第1パスラインを流れるワークフィルムにおいて、前記の変更後の膜厚を有する光学機能層が第1のMPに到達するまでに第1のMPを通過した領域には、例えば第1のMP直後の位置にて、マーキングされる(第1マーキング)。
【0006】
一方、第2パスラインでは、防汚層形成ステップを経たワークフィルム(光学機能層あり,防汚層あり)の光学特性が所定の規格内であるかどうかを、モニタリングする必要がある(第2のMPでの第2検査)。第2パスラインでは、ワークフィルムにおける光学機能層が規格内であることを前提に厚さが設定された防汚層が形成される。そのため、ワークフィルムにおいて、第1検査で規格外の光学特性が検知されて第1マーキングが付された領域では、第2検査でも規格外の光学特性が検知される。そのような第1マーキング領域以外の領域(第1検査で規格内とされた領域)に対する第2検査において、規格外の光学特性が検知された場合、その結果が防汚層形成ステップにフィードバックされる。これにより、光学特性が所定の規格内に収まるように、防汚層形成ステップで形成される膜の厚さが所定の範囲内で変更される。第2パスラインを流れるワークフィルムにおいて、前記の変更後の膜厚を有する防汚層が第2のMPに到達するまでに第2のMPを通過した領域には、例えば第2のMP直後の位置にて、マーキングされる(第2マーキング)。
【0007】
こうして得られた長尺の防汚層付き光学フィルムにおいて、第1マーキングおよび第2マーキングのいずれか一方でも付された領域は、光学特性が規格外のロス領域であり、用途に応じた適切な光学特性を有しない。
【0008】
本発明は、製造される防汚層付き光学フィルムにおける規格外ロスを低減するのに適した防汚層付き光学フィルムの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明[1]は、ロールトゥロール方式でワークフィルムを搬送しながら、防汚層付き光学フィルムを製造する方法であって、前記ワークフィルムの厚さ方向一方面側に光学機能層を形成する第1成膜工程と、前記第1成膜工程より後に、前記ワークフィルムの厚さ方向一方面側の光学特性を検査して第1検査結果を得る第1検査工程と、前記第1検査結果が第1規格内であるか第1規格外であるかを判定する第1判定工程と、前記第1検査工程より後に、前記ワークフィルムの厚さ方向一方面側に防汚層を形成する第2成膜工程と、前記第2成膜工程より後に、前記ワークフィルムの厚さ方向一方面側の光学特性を検査して第2検査結果を得る第2検査工程と、前記第2検査結果が第2規格内であるか第2規格外であるかを判定する第2判定工程と、前記第1判定工程において前記第1検査結果が前記第1規格外であると判定した場合に、前記第2成膜工程における前記防汚層の設定厚さを規定範囲内で変更することによって、前記第2成膜工程後に前記第2規格を満たすワークフィルムが得られるかどうか、を判定する第3判定工程と、前記第3判定工程において、前記第2規格を満たすワークフィルムが得られると判定した場合に、前記第2成膜工程で形成される前記防汚層の前記設定厚さを変更する、第1再設定工程と、前記第2判定工程において前記第2検査結果が前記第2規格外であると判定した場合に、前記第2成膜工程で形成される前記防汚層の前記設定厚さを変更する、第2再設定工程とを含む、防汚層付き光学フィルムの製造方法を含む。
【0010】
本製造方法では、ロールトゥロール方式での一つのパスラインにおいて、光学機能層と防汚層とがこの順で形成される。そして、本製造方法では、光学機能層と防汚層とが共に形成されたワークフィルムの光学特性が第2規格内となるように、第2成膜工程で形成される防汚層の設定厚さが、フィードバック制御とフィードフォワード制御とで二重に制御される。そのフィードバック制御では、光学機能層に加えて防汚層が形成されているワークフィルムの光学特性が検査される上記第2検査工程後の上記第2判定工程と、上記第2再設定工程とを経て、上記第2成膜工程で形成される防汚層の設定厚さが変更される。前記フィードフォワード制御では、光学機能層が形成されているワークフィルム(防汚層は形成されていない)の光学特性が検査される上記第1検査工程後の上記第1判定工程と、上記第3判定工程と、上記第1再設定工程とを経て、上記第2成膜工程で形成される防汚層の設定厚さが変更される。このようなフィードフォワード制御によると、第1判定工程ではワークフィルムにおいて第1規格外であると判定された領域であっても、第2成膜工程で形成される防汚層の設定厚さの変更により、第2規格内の光学特性を有するワークフィルムを第2成膜工程で得ることが可能である。すなわち、本製造方法では、ワークフィルムにおいて、第1判定工程で光学特性が第1規格外であると判定された領域であっても、前記フィードフォワード制御により、防汚層形成後の光学特性を第2規格内に収めることができる場合がある。このようなフィードフォワード制御が上述のフィードバック制御に加えて実施される防汚層付き光学フィルムの製造方法は、製造される防汚層付き光学フィルムにおける規格外ロスを低減するのに適する。
【0011】
本発明[2]は、前記第3判定工程において、前記第2規格を満たすワークフィルムが得られないと判定した場合に、前記第1成膜工程における前記光学機能層の設定厚さを変更する、第3再設定工程を更に含む、上記[1]に記載の防汚層付き光学フィルムの製造方法を含む。
【0012】
本製造方法において、光学機能層の厚さに関するこのようなフィードバック制御が実施される構成は、上述の規格外ロスを低減するのに好ましい。
【0013】
本発明[3]は、前記第1成膜工程では、ドライコーティング法によって前記光学機能層を形成し、前記第2成膜工程では、ドライコーティング法によって前記防汚層を形成する、上記[1]または[2]に記載の防汚層付き光学フィルムの製造方法を含む。
【0014】
このような構成は、光学機能層と防汚層とを厚さ精度よく形成するのに好ましく、従って、光学機能層および防汚層の各膜厚を精度よく制御するのに好ましい。
【0015】
本発明[4]は、前記光学機能層が反射防止層である、上記[1]から[3]のいずれか一つに記載の防汚層付き光学フィルムを含む。
【0016】
このような構成は、防汚層付き反射防止フィルムを、規格外ロスを低減しつつ製造するのに適する。
【0017】
本発明[5]は、前記反射防止層が、相対的に屈折率が大きな高屈折率層と、相対的に屈折率が小さな低屈折率層とを交互に含む、上記[4]に記載の防汚層付き光学フィルムを含む。
【0018】
このような構成は、良好な反射防止特性を有する防汚層付き反射防止フィルムを、規格外ロスを低減しつつ製造するのに適する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の防汚層付き光学フィルムの製造方法の一実施形態のフローチャートである。
【
図2】本発明の防汚層付き光学フィルムの製造方法の一実施形態を実施するための装置の概略構成図である。
【
図3】本発明の光学フィルムの製造方法の一実施形態によって製造される光学フィルムの一例の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の防汚層付き光学フィルムの製造方法の一実施形態は、ロールトゥロール方式でワークフィルムを搬送しながら防汚層付き光学フィルムを製造する方法である。本製造方法は、
図1に示すように、第1成膜工程S1、第1検査工程S2、第1判定工程S3、第2成膜工程S4、第2検査工程S5、第2判定工程S6、第3判定工程S7、第1再設定工程S8、第2再設定工程S9、および第3再設定工程S10を含む。
【0021】
図2に示す装置Xは、本発明の防汚層付き光学フィルム製造方法を実施するための光学フィルム製造装置の一例であり、工程S1~S10を一つのパスラインで実施する構成を有する。装置Xの構成は、後述のとおりである。
【0022】
図3は、装置Xによって製造される光学フィルムFの断面模式図である。光学フィルムFは、本発明の防汚層付き光学フィルム製造方法によって製造される防汚層付き光学フィルムの一例である。
【0023】
光学フィルムFは、透明基材Sと、密着層10と、光学機能層20と、防汚層30とを、厚さ方向Hに順に備える透明な複合フィルムであり、本実施形態では反射防止フィルムである。また、光学フィルムFは、厚さ方向Hと直交する方向(面方向)に広がるシート形状を有する。
【0024】
透明基材Sは、例えば、可撓性を有する透明な樹脂製の基材フィルムである。当該樹脂フィルムの材料としては、好ましくは、透明性と強度とを兼ね備える熱可塑性樹脂が用いられる。そのような熱可塑性樹脂としては、例えば、セルロース樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、ノルボルネン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスチレン樹脂、およびポリビニルアルコール樹脂が挙げられる。これら熱可塑性樹脂は、単独で用いられてもよいし、二種類以上が併用されてもよい。
【0025】
樹脂フィルムには、1種類または2種類以上の添加剤が含有されていてもよい。添加剤としては、例えば、紫外線吸収剤、酸化防止剤、滑剤、可塑剤、離型剤、着色防止剤、難燃剤、帯電防止剤、顔料、および着色剤が挙げられる。
【0026】
透明基材Sは、その密着層10側表面に、上述の樹脂フィルムより高硬度のハードコート層を有してもよい。ハードコート層は、例えば、硬化性樹脂を含有する溶液を上述の樹脂フィルム上に塗布して塗膜を形成した後、当該塗膜を乾燥および硬化させることにより、形成できる。また、ハードコート層は、微粒子を含有して防眩性を有する防眩性ハードコート層であってもよい。この場合、ハードコート層形成用の上記溶液に、微粒子を配合する。当該微粒子としては、例えば、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化カルシウム、酸化錫、酸化インジウム、酸化カドミウム、および酸化アンチモンが挙げられる。
【0027】
透明基材Sの厚さは、強度の観点から、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上、さらに好ましくは20μm以上である。透明基材Sの厚さは、取扱い性の観点から、好ましくは300μm以下、より好ましくは200μm以下である。透明基材Sが上述のハードコート層を有する場合、当該ハードコート層の厚さは、同層の硬度確保の観点からは、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは1μm以上である。ハードコート層の厚さは、例えば10μm以下である。
【0028】
透明基材Sの可視光透過率は、透明性の観点から、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上である。透明基材Sの可視光透過率は、例えば100%以下である。
【0029】
透明基材Sにおける密着層10側表面は、表面改質処理されていてもよい。表面改質処理としては、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、オゾン処理、プライマー処理、グロー処理、およびカップリング剤処理が挙げられる。
【0030】
密着層10は、透明基材Sと光学機能層20との間の密着力を確保するための層である。密着層10の材料としては、例えば、シリコン、ニッケル、クロム、アルミニウム、錫、金、銀、白金、亜鉛、チタン、タングステン、ジルコニウム、パラジウム等の金属、これら金属の2種類以上の合金、並びに、これら金属の酸化物が挙げられる。有機層(具体的には透明基材S)および酸化物層(具体的には、後述の第1高屈折率層21)の両方に対する密着性と、密着層10の透明性との両立の観点からは、密着層10の材料としては、好ましくは酸化シリコン(SiOx)が用いられ、より好ましくは、化学量論組成よりも酸素量の少ないSiOxが用いられ、さらに好ましくは、xが1.2以上1.9以下のSiOxが用いられる。
【0031】
密着層10の厚さは、透明基材Sと光学機能層20との間の密着力の確保と、密着層10の透明性との両立の観点から、例えば1nm以上であり、また、例えば10nm以下である。
【0032】
光学機能層20は、本実施形態では、外光の反射強度を抑制するための反射防止層である。光学機能層20は、相対的に屈折率が大きな高屈折率層と、相対的に屈折率が小さな低屈折率層とを、厚さ方向Hに交互に有する。反射防止層では、同層に含まれる複数の薄層(高屈折率層,低屈折率層)における複数の界面での反射光間の干渉作用により、正味の反射光強度を減衰させる。また、反射防止層では、各薄層の光学膜厚(屈折率と厚さとの積)の調整により、反射光強度を減衰させる干渉作用を発現させることができる。このような反射防止層としての光学機能層20は、本実施形態において具体的には、第1高屈折率層21と、第1低屈折率層22と、第2高屈折率層23と、第2低屈折率層24とを、厚さ方向H一方側に向かって順に有する。
【0033】
第1高屈折率層21および第2高屈折率層23は、それぞれ、波長550nmにおける屈折率が好ましくは1.9以上の高屈折率層材料からなる。高屈折率と可視光の低吸収性との両立の観点から、高屈折率材料としては、例えば、酸化ニオブ(Nb2O5)、酸化チタン、酸化ジルコニウム、スズドープ酸化インジウム(ITO)、およびアンチモンドープ酸化スズ(ATO)が挙げられ、好ましくは酸化ニオブが用いられる。第1高屈折率層21の厚さは、好ましくは3nm以上、より好ましくは8nm以上であり、また、好ましくは50nm以下、より好ましくは30nm以下である。第2高屈折率層23の厚さは、好ましくは10nm以上、より好ましくは20nm以上であり、また、好ましくは200nm以下、より好ましくは150nm以下である。
【0034】
第1低屈折率層22および第2低屈折率層24は、それぞれ、波長550nmにおける屈折率が好ましくは1.6以下の低屈折率層材料からなる。低屈折率と可視光の低吸収性との両立の観点から、低屈折率材料としては、例えば、二酸化ケイ素(SiO2)およびフッ化マグネシウムが挙げられ、好ましくは二酸化ケイ素が用いられる。第2低屈折率層24の材料としては、第2低屈折率層24と防汚層30との密着性確保の観点からも、好ましくは二酸化ケイ素が用いられる。第1低屈折率層22の厚さは、好ましくは8nm以上、より好ましくは10nm以上であり、また、好ましくは50nm以下、より好ましくは40nm以下である。第2低屈折率層24の厚さは、好ましくは30nm以上、より好ましくは50nm以上であり、また、好ましくは150nm以下、より好ましくは120nm以下である。
【0035】
防汚層30は、光学フィルムFにおける防汚機能を有する層であり、光学機能層20の厚さ方向H一方面上に配置されている。防汚層30の防汚機能には、光学フィルムFの露出面(透明基材Sとは反対側における表面)に対する手脂などの汚染物質の付着の抑制機能、および、付着した汚染物質を除去しやすくする機能が含まれる。
【0036】
防汚層30の材料としては、例えば、フッ素基含有の有機化合物が挙げられる。フッ素基含有の有機化合物としては、好ましくは、パーフルオロポリエーテル基を有するアルコキシシラン化合物が用いられる。パーフルオロポリエーテル基を有するアルコキシシラン化合物としては、例えば、下記の一般式(1)で表される化合物が挙げられる。
【0037】
R1-R2-X-(CH2)m-Si(OR3)3 (1)
【0038】
一般式(1)において、R1は、アルキル基における一つ以上の水素原子がフッ素原子に置換された、直鎖状または分岐状のフッ化アルキル基(炭素数は例えば1以上20以下)を表し、好ましくは、アルキル基の水素原子のすべてがフッ素原子に置換されたパーフルオロアルキル基を表す。
【0039】
R2は、パーフルオロポリエーテル(PFPE)基の繰り返し構造を少なくとも一つ含む構造を表し、好ましくは、PFPE基の繰り返し構造を二つ含む構造を表す。PFPE基の繰り返し構造としては、例えば、直鎖状PFPE基の繰り返し構造、および、分岐状PFPE基の繰り返し構造が挙げられる。直鎖状PFPE基の繰り返し構造としては、例えば、-(OCnF2n)p-で表される構造(nは、1以上20以下の整数を表し、pは、1以上50以下の整数を表す。以下同じ)が挙げられる。分岐状PFPE基の繰り返し構造としては、例えば、-(OC(CF3)2)p-で表される構造、および、-(OCF2CF(CF3)CF2)p-で表される構造が挙げられる。PFPE基の繰り返し構造としては、好ましくは、直鎖状PFPE基の繰り返し構造が挙げられ、より好ましくは、-(OCF2)p-および-(OC2F4)p-が挙げられる。
【0040】
R3は、炭素数1以上4以下アルキル基を表し、好ましくはメチル基を表す。
【0041】
Xは、エーテル基、カルボニル基、アミノ基、またはアミド基を表し、好ましくはエーテル基を表す。
【0042】
mは、1以上の整数を表す。また、mは、好ましくは20以下、より好ましくは10以下、更に好ましくは5以下の整数を表す。
【0043】
このようなパーフルオロポリエーテル基を有するアルコキシシラン化合物のうち、好ましくは、下記の一般式(2)に示される化合物が用いられる。
【0044】
CF3-(OCF2)q-(OC2F4)r-O-(CH2)3-Si(OCH3)3 (2)
【0045】
一般式(2)において、qは、1以上50以下の整数を表し、rは、1以上50以下の整数を表す。
【0046】
また、パーフルオロポリエーテル基を有するアルコキシシラン化合物は、単独で用いられてもよいし、二種類以上が併用されてもよい。
【0047】
防汚層30の厚さは、好ましくは1nm以上、より好ましくは2nm以上、さらに好ましくは3nm以上である。防汚層30の厚さは、好ましくは100nm以下、より好ましくは50nm以下、さらに好ましくは30nm以下である。
【0048】
防汚層30の表面31(露出表面)の純水接触角は、好ましくは100度以上、より好ましくは102度以上、さらに好ましくは105度以上である。純水接触角は、例えば、120度以下である。純水接触角は、防汚層30の表面に直径2mm以下の水滴を形成して、防汚層30表面に対する当該水滴の接触角を測定することにより、求められる。
【0049】
図2に示す装置Xは、ロールトゥロール方式でワークフィルムWを搬送しながら本発明の光学フィルムの製造方法を実施する装置であって、繰出し室R1と、巻取り室R2と、複数の工程室と、制御部(図示略)とを備える。制御部は、動作制御部と演算処理部とを含む。
【0050】
繰出し室R1は、ワークフィルムWを繰り出すための繰出しローラー101を備える。繰出しローラー101には、ロール状の長尺の透明基材Sが、ワークフィルムWとして設置される。また、繰出し室R1内には、必要に応じて、ワークフィルムWをガイドするための所定数のガイドローラーGが設けられる。
【0051】
巻取り室R2は、ワークフィルムWを巻き取るための巻取りローラー102を備える。また、巻取り室R2内には、必要に応じて、ワークフィルムWをガイドするための所定数のガイドローラーGが設けられる。
【0052】
複数の工程室は、繰出し室R1と巻取り室R2との間で順次に連なり、第1成膜室C1と、接続室C2と、プラズマ処理室C3と、第2成膜室C4と、検査室C5とを含む。
【0053】
第1成膜室C1は、ワークフィルムWの搬送方向D(
図2において矢印で表す)において繰出し室R1の次に配置され、上流側に配置された第1分室C1aと、下流側に配置された第2分室C1bとを備える。また、第1成膜室C1は、図示しない真空ポンプと接続されており、室内を所定の真空度に調節可能に構成されている。第1成膜室C1において、後述の第1成膜工程S1が実施される。
【0054】
第1分室C1aは、第1成膜ローラー103と、スパッタ室201~205とを備える。第1成膜ローラー103は、繰出し室R1から繰り出されたワークフィルムWを第1分室C1a内で搬送するためのメインガイドローラーである。スパッタ室201~205は、それぞれ、第1分室C1a内で区画された空間である。スパッタ室201~205は、第1成膜ローラー103の周方向に沿って配置され、それぞれ、第1成膜ローラー103に向かって開口している。スパッタ室201~205のそれぞれには、カソード(カソード211~215)が設けられている。各カソードには、第1成膜ローラー103に対面するように、成膜材料供給材としてのターゲット(図示略)が配置されている。スパッタ室201~205のそれぞれには、ターゲットに電圧を印加してグロー放電を発生させるための電源(図示略)が設けられている。電源としては、例えば、DC電源、AC電源、MF電源およびRF電源が挙げられる。第1分室C1a内には、必要に応じて、ワークフィルムWをガイドするための所定数のガイドローラーGが設けられる。また、第1分室C1aには、室内に不活性ガスを導入するための流量調節バルブ付ライン(図示略)と、室内に反応性ガスを導入するための流量調節バルブ付ライン(図示略)とが、接続されている。
【0055】
第2分室C1bは、第2成膜ローラー104と、スパッタ室206~210とを備える。第2成膜ローラー104は、ワークフィルムWを第2分室C1b内で搬送するためのメインガイドローラーである。スパッタ室206~210は、それぞれ、第2分室C2b内で区画された空間である。スパッタ室206~210は、第2成膜ローラー104の周方向に沿って配置され、それぞれ、第2成膜ローラー104に向かって開口している。スパッタ室206~210のそれぞれには、カソード(カソード216~220)が設けられている。各カソードには、第2成膜ローラー104に対面するように、成膜材料供給材としてのターゲット(図示略)が配置されている。スパッタ室206~210のそれぞれには、ターゲットに電圧を印加してグロー放電を発生させるための電源(図示略)が設けられている。電源としては、例えば、DC電源、AC電源、MF電源およびRF電源が挙げられる。第2分室C1b内には、必要に応じて、ワークフィルムWをガイドするための所定数のガイドローラーGが設けられる。また、第2分室C1bには、室内に不活性ガスを導入するための流量調節バルブ付ライン(図示略)と、室内に反応性ガスを導入するための流量調節バルブ付ライン(図示略)とが、接続されている。
【0056】
第2分室C1bは、同室内での搬送方向D下流端に、第1光学検査部301を備える。第1光学検査部301は、第2成膜ローラー104を経たワークフィルムWの光学特性をモニタリングする。
【0057】
第1光学検査部301は、例えば、少なくとも一つの光学検査ユニットを備える。光学検査ユニットは、例えば、ワークフィルムWに対する光照射手段としての光源と、ワークフィルムWを透過する光を検出して電気信号に変換する第1光検出部と、ワークフィルムWにて反射する光を検出して電気信号に変換する第2光検出部とを備える。光源は、照射光の波長を所定範囲内で変化させることができる。第1および第2光検出部は、それぞれ、変換した電気信号を装置Xの制御部に出力する。このような第1光学検査部301は、制御部の動作制御部によって制御される。また、制御部の演算処理部では、例えば、第1および第2光検出部からの電気信号に基づき、特定波長におけるワークフィルムWの透過率および反射率が導出され、また、反射率のピーク波長が導出される。これら導出結果に基づき、演算処理部では、所定の光学特性が同定される。このような第1光学検査部301において、後述の第1検査工程S2が実施される。
【0058】
第1光学検査部301においては、ワークフィルムWの幅方向における複数箇所にてワークフィルムWの光学特性を測定できるように構成されている。具体的には、第1光学検査部301では、ワークフィルムWの幅方向における複数箇所に光学検査ユニットが設けられる。或いは、第1光学検査部301は、光学検査ユニットを備えてワークフィルムWの幅方向に移動可能な可動ヘッドを備える。
【0059】
接続室C2は、ワークフィルムWの搬送方向Dにおいて、第1成膜室C1の次に配置され、且つプラズマ処理室C3の前に配置されている。接続室C2は、図示しない真空ポンプと接続されており、室内圧力を調節可能に構成されている。装置Xの稼働時には、接続室C2内の圧力は、第1成膜室C1内の圧力と、プラズマ処理室C3内の圧力との間の所定の圧力に維持される。これにより、第1成膜室C1とプラズマ処理室C3との間の差圧が確保される。また、接続室C2内には、必要に応じて、ワークフィルムWをガイドするための所定数のガイドローラー(図示略)が設けられてもよい。
【0060】
プラズマ処理室C3は、搬送方向Dにおいて接続室C2の次に配置されている。プラズマ処理室C3では、ワークフィルムWの表面がプラズマ処理される。
【0061】
第2成膜室C4は、搬送方向Dにおいて、第1成膜室C1より下流に配置され、プラズマ処理室C3の次に配置されている。第2成膜室C4は、本実施形態では真空蒸着室である。第2成膜室C4は、本実施形態では、室内に配置された材料保持部302と、少なくとも一つの排気口303と、排気ポンプ304(室内減圧手段)と、開度を制御可能な蒸着量調整用バルブ(図示略)とを備える。また、第2成膜室C4内には、必要に応じて、ワークフィルムWをガイドするための所定数のガイドローラーGが設けられる。このような第2成膜室C4において、後述の第2成膜工程S4が実施される。
【0062】
材料保持部302には、第2成膜室C4内を搬送されるワークフィルムWに対面するように、成膜材料供給材(図示略)が配置されている。材料保持部302には、成膜材料供給材を加熱する手段として、抵抗加熱手段が内蔵されていてもよいし、高周波誘導加熱手段が内蔵されていてもよいし、電子ビーム加熱手段が設けられていてもよい。
【0063】
排気口303は、第2成膜室C4の壁部に設けられている。排気ポンプ304は、第2成膜室C4内を減圧するためのユニットであり、排気口303に連結されている。排気ポンプ304としては、例えば、油回転ポンプ、ドライポンプ、ルーツポンプ、拡散ポンプ、クライオポンプ、および、これらの組み合わせが挙げられる。
【0064】
検査室C5は、搬送方向Dにおいて第2成膜室C4の次に配置されている。また、検査室C5は、搬送方向Dにおいて巻取り室R2の上流側一つ前に配置されている。すなわち、検査室C5は、搬送方向Dにおける第2成膜室C4と巻取り室R2との間に配置されている。また、検査室C5は、第2成膜室C4を経たワークフィルムWの光学特性をモニタリングするための第2光学検査部305を備える。
【0065】
第2光学検査部305は、例えば、少なくとも一つの光学検査ユニットを備える。第2光学検査部305における光学検査ユニットの構成は、第1光学検査部301における光学検査ユニットの上述の構成と同じである。また、第2光学検査部305においては、第1光学検査部301におけるのと同様に、ワークフィルムWの幅方向における複数箇所にてワークフィルムWの光学特性を測定できるように構成されている。このような第2光学検査部305は、制御部の動作制御部によって制御される。また、制御部の演算処理部では、例えば、第2光学検査部305における第1および第2光検出部からの電気信号に基づき、特定波長におけるワークフィルムWの透過率および反射率が導出され、また、反射率のピーク波長が導出される。このような第2光学検査部305において、後述の第2検査工程S5が実施される。
【0066】
装置Xは、本実施形態では、第2成膜室C4とプラズマ処理室C3との間に、当該両室の差圧を調整する気密搬送機構310を備える。気密搬送機構310は、プラズマ処理室C3と第2成膜室C4との間の気密性を維持しつつワークフィルムWをプラズマ処理室C3から第2成膜室C4へと搬送するよう構成されている。このような気密搬送機構310としては、例えば、特開2000-225331号公報、特開平3-31474号公報、特開昭63-72972号公報、および特開昭62-70575号公報に記載の各気密搬送機構が用いられる(後記の気密搬送機構320についても同様である)。
【0067】
装置Xは、本実施形態では、第2成膜室C4と検査室C5との間に、当該両室の差圧を調整する気密搬送機構320を備える。気密搬送機構320は、第2成膜室C4と検査室C5との間の気密性を維持しつつワークフィルムを第2成膜室C4から検査室C5へと搬送するよう構成されている。
【0068】
本発明の光学フィルムの製造方法の一実施形態は、例えば、以上のような構成の装置Xによって実施できる。装置Xでは、繰出し室R1から巻取り室R2まで、ロールトゥロール方式でワークフィルムWを搬送しながら、各工程が実施される。具体的には、次のとおりである。
【0069】
繰出し室R1からは、ワークフィルムWとして透明基材Sが繰り出される。ワークフィルムWは、繰出し室R1から繰り出された後、順次に連なる複数の工程室にわたって搬送され、巻取り室R2にて巻き取られる。その搬送速度は、例えば0.4m/分以上であり、また、例えば10m/分以下である。
【0070】
本実施形態では、繰出し室R1から繰り出されたワークフィルムWの厚さ方向一方面側に、第1成膜室C1のスパッタ室201において、まず、密着層10が形成される。密着層10は、ドライコーティング法としてのスパッタリング法によって形成される。
【0071】
スパッタリング法では、スパッタ室内に真空条件下でガスを導入しつつ、カソード上に配置されたターゲットにマイナスの電圧を印加する。これにより、グロー放電を発生させてガス原子をイオン化し、当該ガスイオンを高速でターゲット表面に衝突させ、ターゲット表面からターゲット材料を弾き出し、弾き出たターゲット材料を所定面上(本実施形態ではワークフィルムW上)に堆積させる。金属酸化物層を形成するには、成膜速度の観点から、反応性スパッタリングが好ましい。反応性スパッタリングでは、上述のガスとして、アルゴンなどの不活性ガスと酸素(反応性ガス)との混合ガスを用い、ターゲットとして金属ターゲットを用いる。
【0072】
密着層10としては、例えばITO層が形成される。その場合、例えば、カソード211上に配置されるターゲットとしてITOターゲットを用い、スパッタ室201にアルゴンおよび酸素を導入しながら反応性スパッタリングを実施する。アルゴンと酸素との流量比(sccm)の調整により、ITOに含まれる酸素の割合を調整できる。また、本工程実施中のスパッタ室201内の圧力は、例えば0.1Pa以上であり、また、例えば1.0Pa以下、好ましくは0.7Pa以下である(後記の他のスパッタ室202~210内の圧力についても同様である)。
【0073】
次に、第1成膜室C1において、ワークフィルムWの厚さ方向一方面側に光学機能層20が形成される(第1成膜工程S1)。本工程は、第1成膜室C1におけるスパッタ室202~210にて実施される。本工程では、ワークフィルムWにおいて上述の密着層形成工程を経た箇所の上(即ち、密着層10上)に、ドライコーティング法としてのスパッタリング法によって光学機能層20が形成される。本実施形態では、第1成膜工程S1は、以下の第1高屈折率層形成工程、第1低屈折率層形成工程、第2高屈折率層形成工程、および第2低屈折率層形成工程を、この順で含む。
【0074】
第1高屈折率層形成工程は、スパッタ室202にて実施される。本工程では、ワークフィルムWにおける密着層10上に第1高屈折率層21が形成される。本工程では、第1高屈折率層21として、例えばNb2O5層が形成される。その場合、例えば、カソード212上に配置されるターゲットとしてNbターゲットを用い、スパッタ室202にアルゴンおよび酸素を導入しながら反応性スパッタリングを実施する。本工程で形成される第1高屈折率層21の光学膜厚(屈折率と厚さの積)は、例えば20nm以上であり、また、例えば55nm以下である。光学膜厚は、例えば、反応性スパッタリングにおける導入酸素の流量調整により、調整できる(第1低屈折率層22、第2高屈折率層23および第2低屈折率層24の各光学膜厚についても同様である)。
【0075】
第1低屈折率層形成工程は、スパッタ室203にて実施される。本工程では、ワークフィルムWにおける第1高屈折率層21上に第1低屈折率層22が形成される。本工程では、第1低屈折率層22として、例えばSiO2層が形成される。その場合、例えば、カソード213上に配置されるターゲットとしてSiターゲットを用い、スパッタ室203にアルゴンおよび酸素を導入しながら反応性スパッタリングを実施する。本工程で形成される第1低屈折率層22の光学膜厚は、例えば15nm以上であり、また、例えば70nm以下である。
【0076】
第2高屈折率層形成工程は、スパッタ室204~207にて実施される。本工程では、ワークフィルムWにおける第1低屈折率層22上に第2高屈折率層23が形成される。本工程では、第2高屈折率層23として、例えばNb2O5層が形成される。その場合、例えば、カソード214~217上に配置される各ターゲットとしてNbターゲットを用い、スパッタ室204~207にアルゴンおよび酸素を導入しながら反応性スパッタリングを実施する。スパッタ室204~207のそれぞれにおいてNb2O5薄膜が積層形成されて、第2高屈折率層23が形成される。本工程で形成される第2高屈折率層23の光学膜厚は、例えば60nm以上であり、また、例えば330nm以下である。
【0077】
第2低屈折率層形成工程は、スパッタ室208~210にて実施される。本工程では、ワークフィルムWにおける第2高屈折率層23上に第2低屈折率層24が形成される。本工程では、第2低屈折率層24として、例えばSiO2層が形成される。その場合、例えば、カソード218~220上に配置される各ターゲットとしてNbターゲットを用い、スパッタ室208~210にアルゴンおよび酸素を導入しながら反応性スパッタリングを実施する。スパッタ室208~210のそれぞれにおいてSiO2薄膜が積層形成されて、第2低屈折率層24が形成される。本工程で形成される第2低屈折率層24の光学膜厚は、例えば100nm以上であり、また、例えば160nm以下である。
【0078】
第1光学検査部301では、第1成膜工程S1を経たワークフィルムWの光学特性がモニタリングされる(第1検査工程S2)。本工程では、ワークフィルムWの厚さ方向一方面側(光学機能層20が形成された側)の光学特性を検査して第1検査結果を得る。検査される光学特性としては、例えば、反射色相および視感反射率が挙げられる。第1光学検査部301の光学検査ユニットと装置Xの制御部(動作制御部,演算処理部)との協働により、光学特性が検査される。
【0079】
演算処理部は、第1検査工程S2で得られる第1検査結果が第1規格内であるか第1規格外であるかを判定する(第1判定工程S3)。第1検査工程S2で検査される光学特性が反射色相である場合、第1規格は、反射色相に関して予め設定される範囲である。第1規格としての反射色相範囲は、例えば、L*a*b*表色系におけるa*値およびb*値の範囲によって規定される。a*値は、例えば0.3以上1.0以下である。b*値は、例えば-1.0以上1.0以下である。第1検査工程S2で検査される光学特性が視感反射率である場合、第1規格は、視感反射率に関して予め設定される範囲である。第1規格としての視感反射率範囲は、例えば、XYZ表色系におけるY値(%)の範囲によって規定される。Y値は、例えば0.0%以上0.15%以下である。第1規格は、反射色相範囲と視感反射率範囲との組み合わせによって規定されてもよい。
【0080】
第1判定工程S3において第1検査結果が第1規格内であると判定された場合、上述の第2成膜工程S4における防汚層30の設定厚さは変更されない。この場合、第2成膜工程S4では、ワークフィルムWにおいて第1検査結果が第1規格内であると判定された領域に対し、既に設定されている厚さで防汚層30が形成される。
【0081】
第1判定工程S3において第1検査結果が第1規格外であると判定された場合、演算処理部は、第2成膜工程S4における防汚層30の設定厚さを規定範囲内で変更することによって、第2成膜工程S4後に第2規格を満たすワークフィルムWが得られるかどうかを、判定する(第3判定工程S7)。第2規格については、後述する。
【0082】
第3判定工程S7において、第2規格を満たすワークフィルムWが得られると判定された場合、制御部は、第2成膜工程S4で形成される防汚層30の設定厚さを変更する(第1再設定工程S8)。これ以降、第2成膜工程S4では、ワークフィルムWにおいて第1検査結果が第1規格外であると判定された領域に対し、変更後の設定厚さで防汚層30が形成される(防汚層30の厚さのフィードフォワード制御)。防汚層30の厚さの調整方法としては、例えば、上述の蒸着量調整用バルブの開度の制御、および、上述の成膜材料供給材の加熱温度の調整が挙げられる。
【0083】
第3判定工程S7において、第2規格を満たすワークフィルムWが得られないと判定された場合、動作制御部は、第1成膜工程S1における光学機能層20の設定厚さを変更する(第3再設定工程S10)。これ以降、第1成膜工程S1では、変更後の設定厚さで光学機能層20が形成される(光学機能層20の厚さのフィードバック制御)。光学機能層20の設定厚さの変更には、第1高屈折率層21、第1低屈折率層22、第2高屈折率層23、および第2低屈折率層24からなる群より選択される少なくとも一つの設定厚さの変更が含まれる。これら厚さの調整方法としては、例えば、スパッタ成膜時における、酸素など反応性ガスの導入量の調整、および、カソードの印加電力の調整が挙げられる。また、装置X内のパスラインを流れるワークフィルムWにおいて、前記の変更後の厚さを有する光学機能層20が第1光学検査部301に到達するまでに第1光学検査部301を通過した領域には、例えば第1光学検査部301直後の位置にて、マーキングされる(図示略)。製造される光学フィルムFにおいて、このマーキングが付された領域は、光学特性が規格外のロス領域である。
【0084】
第1成膜室C1の次のプラズマ処理室C3では、プラズマ処理工程が実施される。プラズマ処理工程では、第1成膜室C1を経たワークフィルムWの光学機能層20表面が、プラズマ処理される。プラズマ処理実施中のプラズマ処理室C3内の圧力は、例えば10Pa以下、また、例えば0.1Pa以上である。
【0085】
プラズマ処理室C3の次の第2成膜室C4では、防汚層30が形成される(第2成膜工程S4)。本工程では、第2成膜室C4において、ドライコーティング法としての真空蒸着法によって、ワークフィルムWにおける光学機能層20上に、設定厚さに基づき防汚層30が形成される。具体的には、排気ポンプ304の稼働によって排気口303を介して第2成膜室C4内を真空に減圧した状態で、材料保持部302に配置された成膜材料供給材(図示略)を所定温度に加熱し、真空蒸着法を実施する。
【0086】
本工程で形成される防汚層30の設定厚さは、第1判定工程S3において第1検査結果が第1規格内であると判定された場合には、従前の厚さである。設定厚さは、第1再設定工程S8で変更された場合には、同工程S8での変更後の厚さである。設定厚さは、後述の第2再設定工程S9で変更された場合には、同工程S9での変更後の厚さである。
【0087】
本工程実施中の第2成膜室C4内の圧力は、例えば0.1Pa以下、好ましくは0.05Pa以下であり、また、例えば1×10-5Pa以上である。また、本工程での上記加熱の温度は、例えば200℃以上であり、また、例えば400℃以下である。
【0088】
次の検査室C5における第2光学検査部305では、第2成膜工程S2を経たワークフィルムWの光学特性がモニタリングされる(第2検査工程S5)。本工程では、ワークフィルムWの厚さ方向一方面側(防汚層30が形成された側)の光学特性を検査して第2検査結果を得る。検査される光学特性としては、例えば、反射色相および視感反射率が挙げられる。第2光学検査部305の光学検査ユニットと装置Xの制御部(動作制御部,演算処理部)との協働により、光学特性が検査される。
【0089】
演算処理部は、第2検査工程S5で得られる第2検査結果が第2規格内であるか第2規格外であるかを判定する(第2判定工程S6)。第2検査工程S5で検査される光学特性が反射色相である場合、第2規格は、反射色相に関して予め設定される範囲である。第2規格としての反射色相範囲は、例えば、L*a*b*表色系におけるa*値およびb*値の範囲によって規定される。a*値は、例えば0.3以上1.5以下である。b*値は、例えば-5.0以上-2.0以下である。第2検査工程S5で検査される光学特性が視感反射率である場合、第2規格は、視感反射率に関して予め設定される範囲である。第1規格としての視感反射率範囲は、例えば、XYZ表色系におけるY値(%)の範囲によって規定される。Y値は、例えば0.0%以上0.17%以下である。第2規格は、反射色相範囲と視感反射率範囲との組み合わせによって規定されてもよい。
【0090】
第2判定工程S6において第2検査結果が第2規格内であると判定された場合、上述の第2成膜工程S4における防汚層30の設定厚さは変更されない。この場合、第2成膜工程S4では、それまでの設定厚さで防汚層30が形成される。
【0091】
第2判定工程S6において第2検査結果が第2規格外であると判定された場合、動作制御部は、第2成膜工程S4で形成される防汚層30の設定厚さを変更する(第2再設定工程S9)。これ以後、第2成膜工程S4では、変更後の設定厚さで防汚層30が形成される(防汚層30の厚さのフィードバック制御)。また、装置X内のパスラインを流れるワークフィルムWにおいて、前記の変更後の厚さを有する防汚層30が第2光学検査部305に到達するまでに第2光学検査部305を通過した領域には、例えば第2光学検査部305直後の位置にて、マーキングされる(図示略)。製造される光学フィルムFにおいて、このマーキングが付された領域は、光学特性が規格外のロス領域である。
【0092】
検査室C5を経たワークフィルムWは、次の巻取り室R2において、巻取りローラー102によって巻き取られる。
【0093】
本製造方法では、装置X内のパスラインをワークフィルムWが搬送され続けられる間、上述の一連の工程が繰り返し実施される。これにより、長尺の光学フィルムFが製造される。
【0094】
本製造方法では、上述のように、ロールトゥロール方式での一つのパスラインにおいて、ワークフィルムWに対して光学機能層20と防汚層30とがこの順で形成される。そして、本製造方法では、光学機能層20と防汚層30とが共に形成されたワークフィルムWの光学特性が第2規格内となるように、第2成膜工程S4で形成される防汚層30の設定厚さが、フィードバック制御とフィードフォワード制御とで二重に制御される。
【0095】
防汚層30の厚さのフィードバック制御では、光学機能層20に加えて防汚層30が形成されているワークフィルムWの光学特性が検査される上記第2検査工程S5後の上記第2判定工程S6と、上記第2再設定工程S9とを経て、第2成膜工程S4で形成される防汚層30の設定厚さが変更される。
【0096】
防汚層30の厚さのフィードフォワード制御では、光学機能層20が形成されているワークフィルムW(防汚層30は形成されていない)の光学特性が検査される上記第1検査工程S2後の上記第1判定工程S3と、上記第3判定工程S7と、上記第1再設定工程S8とを経て、第2成膜工程S4で形成される防汚層30の設定厚さが変更される。
【0097】
このようなフィードフォワード制御によると、第1判定工程S3ではワークフィルムWにおいて第1規格外であると判定された領域であっても、第2成膜工程S4で形成される防汚層30の設定厚さの変更により、第2規格内の光学特性を有するワークフィルムWを第2成膜工程S4で得ることが可能である。すなわち、本製造方法では、ワークフィルムWにおいて、第1判定工程S3で光学特性が第1規格外であると判定された領域であっても、前記フィードフォワード制御により、防汚層30形成後の光学特性を第2規格内に収めることができる場合がある。このようなフィードフォワード制御が上述のフィードバック制御に加えて実施される本製造方法は、製造される光学フィルムFにおける規格外ロスを低減するのに適する。
【0098】
また、本製造方法では、第3判定工程S7にて、第2規格を満たすワークフィルムが得られないと判定された場合に、第3再設定工程S10にて、第1成膜工程S1における光学機能層20の設定厚さが変更される。光学機能層20の厚さに関するこのようなフィードバック制御が実施されることは、上述の規格外ロスを低減するのに好ましい。
【0099】
本製造方法では、上述のように、第1成膜工程S1においてドライコーティング法によって光学機能層20を形成し、第2成膜工程S4においてドライコーティング法によって防汚層を形成する。このような構成は、光学機能層20と防汚層30とを厚さ精度よく形成するのに好ましく、従って、光学機能層20および防汚層30の各膜厚を精度よく制御するのに好ましい。
【0100】
本製造方法は、上述のように、第1検査工程S2と第2成膜工程S4との間に、ワークフィルムWの厚さ方向一方面側をプラズマ処理する工程を含む。このような構成は、防汚層30の下地(本実施形態では第2低屈折率層24)に対する防汚層30の密着性を確保するのに好ましい。
【0101】
本実施形態では、形成される光学機能層20が反射防止層である。このような構成は、光学フィルムFとして、防汚層付き反射防止フィルムを、規格外ロスを低減しつつ製造するのに適する。また、反射防止層が、上述のように、相対的に屈折率が大きな高屈折率層と、相対的に屈折率が小さな低屈折率層とを交互に含む。このような構成は、良好な反射防止特性を有する防汚層付き反射防止フィルムを、規格外ロスを低減しつつ製造するのに適する。
【0102】
本発明の光学フィルムの製造方法では、上述の光学機能層形成工程において、スパッタリング法に代えて、ドライコーティング法に属する他の成膜方法によって光学機能層20を形成してもよい。当該他の成膜方法としては、例えば、真空蒸着法およびCVD法が挙げられる。光学機能層20を他の成膜方法によって形成する場合、装置Xは、光学機能層20の当該他の成膜方法を実施できる所定の成膜室を第1成膜室C1の代わりに備える。
【0103】
本発明の光学フィルムの製造方法では、上述の防汚層形成工程において、真空蒸着法に代えて、ドライコーティング法に属する他の成膜方法によって防汚層30を形成してもよい。当該他の成膜方法としては、例えば、スパッタリング法およびCVD法が挙げられる。防汚層30を他の成膜方法によって形成する場合、装置Xは、防汚層30の当該他の成膜方法を実施できる所定の成膜室を第2成膜室C4の代わりに備える。
【0104】
上述の光学フィルムFは、反射防止フィルム以外の他の光学フィルムであってもよい。当該他の光学フィルムとしては、例えば、透明導電性フィルムおよび電磁波遮蔽フィルムが挙げられる。
【0105】
光学フィルムFが透明導電性フィルムである場合、当該光学フィルムFの光学機能層20は、例えば、第1誘電体薄膜と、ITO膜などの透明電極膜と、第2誘電体膜とを厚さ方向に順に備える。このような積層構成を有する光学機能層20において、可視光透過性と導電性とが両立される。
【0106】
光学フィルムFが電磁波遮蔽フィルムである場合、当該光学フィルムFの光学機能層20は、例えば、電磁波反射能を有する金属薄膜と、金属酸化物膜とを厚さ方向に交互に備える。このような積層構成を有する光学機能層20において、特定波長の電磁波に対する遮蔽性と可視光透過性とが両立される。
【符号の説明】
【0107】
F 光学フィルム(防汚層付き光学フィルム)
S 基材
10 密着層
20 光学機能層
21 第1高屈折率層
22 第1低屈折率層
23 第2高屈折率層
24 第2低屈折率層
30 防汚層
X 装置
R1 繰出し室
R2 巻取り室
C1 第1成膜室
C1a 第1分室
C1b 第2分室
C2 接続室
C3 プラズマ処理室
C4 第2成膜室
C5 検査室
301 第1光学検査部
305 第1光学検査部