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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022177873
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】抗菌、抗カビ、抗ウイルス剤水溶液
(51)【国際特許分類】
   A01N 59/16 20060101AFI20221125BHJP
   A01N 37/44 20060101ALI20221125BHJP
   A01N 61/00 20060101ALI20221125BHJP
   A01N 43/50 20060101ALI20221125BHJP
   A01N 59/00 20060101ALI20221125BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20221125BHJP
   C02F 1/50 20060101ALI20221125BHJP
   C02F 1/72 20060101ALI20221125BHJP
【FI】
A01N59/16 A
A01N37/44
A01N61/00 C
A01N43/50 C
A01N59/00 A
A01P1/00
C02F1/50 531T
C02F1/50 532D
C02F1/50 532C
C02F1/50 531Q
C02F1/50 540B
C02F1/72 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021084281
(22)【出願日】2021-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】519456516
【氏名又は名称】小林 一
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小 林 一
【テーマコード(参考)】
4D050
4H011
【Fターム(参考)】
4D050AB06
4D050BB09
4H011AA01
4H011AA03
4H011AA04
4H011BA06
4H011BB06
4H011BB09
4H011BB18
4H011BB20
4H011DA13
(57)【要約】
【課題】本願発明は、抗菌、抗カビ、抗ウイルス剤水溶液に係り、より詳細には、略無色、透明、無毒、無害、無臭、安定で強力な抗菌、抗カビ、抗ウイルス溶液を有し、スプレー噴霧器で使用するのに適した抗菌、抗カビ、抗ウイルス剤水溶液を提供することを目的とする。
【解決手段】本願発明の抗菌、抗カビ、抗ウイルス剤水溶液は、アスパラギン銀と、フルボ酸と、を含み、銀イオンの含有量が0.1~100mg/Lであり、銀イオンのモル濃度とアミノ酸のモル濃度との比が、1:1~1:10の範囲内であり、銀イオンのモル濃度とフルボ酸のカルボキシル基のモル当量との比が、1:0.1~1:3の範囲内であり、pHが6.0以上である、ことを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ酸銀と、フルボ酸と、を含み、pHが6.0以上であることを特徴とする抗菌、抗カビ、抗ウイルス剤水溶液。
【請求項2】
前記アミノ酸銀がアスパラギン銀であることを特徴とする請求項1に記載の抗菌、抗カビ、抗ウイルス剤水溶液。
【請求項3】
前記抗菌、抗カビ、抗ウイルス剤水溶液の銀イオンの含有量が0.1乃至100mg/Lであることを特徴とする請求項1又は2に記載の抗菌、抗カビ、抗ウイルス剤水溶液。
【請求項4】
前記銀-アミノ酸組成物中の銀イオンのモル濃度と前記アミノ酸のモル濃度の比が1:1乃至1:10の範囲内であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の抗菌、抗カビ、抗ウイルス剤水溶液。
【請求項5】
前記抗菌、抗カビ、抗ウイルス剤水溶液中の銀イオンのモル濃度と前記フルボ酸のカルボキシル基のモル当量と、の比が、1:0.1乃至1:3の範囲内であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の抗菌、抗カビ、抗ウイルス剤水溶液。
【請求項6】
前記銀イオン1当量に対し、過酸化水素を0.1乃至100当量を更に含むことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の抗菌、抗カビ、抗ウイルス剤水溶液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、抗菌、抗カビ、抗ウイルス剤水溶液に係り、より詳細には、強力な抗菌、抗カビ、抗ウイルス作用を有し無毒、無害、無臭、安定、略無色透明でスプレー噴霧器で使用するのに適した抗菌、抗カビ、抗ウイルス剤水溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、公共施設、商業施設、娯楽・飲食施設、交通機関等の人々が密集する場所における、細菌やウイルス等のヒトからヒトへの伝染を介する疾患の蔓延が問題になっている。例えば、人々の中に混ざっている細菌、カビ、ウイルス等に感染したヒトが、咳やくしゃみ等によって、又は、汚染された手で備品を触ったりして、他のヒトに細菌やウイルス等を伝染させてしまうことがある。このため、人々が密集する場所においては、人から人への伝染を防ぐために、設備や備品を消毒することが求められている。
【0003】
従来から、公共施設等の設備の消毒は、設備を使用していないときに設備全体を消毒することが行われてきた。
人がいるときの消毒は、人々が触れる備品をアルコールや消毒薬による拭き取りによって消毒するのが一般的であるが、アルコールや消毒薬は、細菌、カビ、ウイルスの種類によって効果が異なることや労力が大変であることなどの問題点があり、あまり実施されなかった。このため、ヒトがいる場所で容易に用いることができ、全ての細菌やカビやウイルスに対して効果がある消毒方法が求められていた。
【0004】
ヒトが居るとき任意の場所で容易に用いることができる殺菌方法として、噴射式スプレーによって抗菌剤を散布する方法がある(例えば特許文献1、2を参照)。しかし、特許文献1、2に記載された方法で用いる抗菌剤は、細菌に対する抗菌力が不充分なものであり、また抗カビ活性及び抗ウイルス活性を有するか否かは記載されていない。また、噴射式スプレーによって散布する薬剤は、散布された場所にいるヒトも薬剤を吸入するために、略無色、透明、無害な水溶液であることが求められる。
【0005】
略無色、透明、無害な抗菌剤の一つとして、銀(1)イオン(以下「銀(1)」を、単に「銀」と略記する)を活性成分とする抗菌材が従来から公知である。銀イオンを活性成分とする抗菌材の第1の特徴は、カビ、細菌、ウイルス等の広範囲の微生物に対して、強い抗微生物活性を有することである。例えば大腸菌に対して最小素子濃度が5~10ppbという強い抗微生物活性を有する。
また、第2の特徴は、安全性が高いことである。銀(金属)や銀イオンによる毒性やアレルギーの報告を見出すことができなかった。
【0006】
また、銀ナノコロイドも抗微生物活性を有するが、その強度は銀イオンよりはるかに弱いものであり、金属銀の食器も食品の腐敗を遅らせると考えられている。しかし、銀イオン、銀コロイド、及び金属銀の抗微生物活性の機構及びその相違点は明確ではない。
【0007】
一方、銀イオンの弱点は、その抗微生物活性が不安定な点にある。銀イオンは多くの陰イオンと結合して不溶性の塩を形成して抗微生物活性を失う。特に、環境中に多く存在するハロゲンイオンと反応して不溶性のハロゲン化銀になって抗微生物活性を失い、更に光還元されて金属銀の微粒子となる。また、銀を含む化合物は、光や熱によって分解され、抗微生物活性を失うか低下させるものが多い。
【0008】
また、銀イオンの第2の問題点として、抗微生物スペクトルが広く作用が強いために、大量に散布すると有用微生物まで殺してしまい、生態系の自己浄化作用が失活して全体の状態が消毒以前より悪化することがあるということである。このため、銀系抗微生物剤はその使用に注意が必要である。しかし、局所的に少量散布する場合には、自己浄化作用の失活という問題は起こりにくい。
【0009】
アミノ酸による銀イオンの安定化は公知であり(例えば特許文献3~5を参照)銀イオンと銀のアミノ酸錯体と過酸化水素を含むpH6以上の抗菌、抗カビ、抗ウイルス剤水溶液が報告されている(例えば特許文献4、5を参照)。しかし、特許文献4には安定性は記載されてなく、特許文献5の抗菌、抗カビ、抗ウイルス剤水溶液は、紫外線を照射すると、1週間で僅かに着色することが報告され、スプレー噴霧器で使用するのには安定性が不充分であった。
【0010】
発明者は、アミノ酸銀にフルボ酸を添加することによって、アミノ酸銀の安定性が著しく増加することを見出した。
フルボ酸は、腐植土からの抽出物として得られるフミン物質の1種であって、化学大辞典(共立出版社、1964年)によれば、「土壌又は石炭質から稀アルカリでフミン酸を抽出し無機酸で沈殿させるとき、酸性上澄み液に黄色ないし橙黄色を与える物質で、水、エタノールに可溶の無定形物質」であり、腐植土からの抽出物として得られるフミン物質の1種であり、土壌の相違によって化学構造や分子量が異なる有機物の混在する安全無害な物質群からなる。そして、天然界において、キレート作用によって多くの金属イオンを担持して水に溶解させ(例えば非特許文献1を参照)、金属元素イオンを山地から河川を経由して海に運搬する役割を果たしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2002-308712号公報
【特許文献2】特開2004-269390号公報
【特許文献3】特開S61-15986号公報
【特許文献4】特開2000-16905号公報
【特許文献5】特開2011-195582号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】「ゲル濾過法によるフルボ酸の分画とそのキレート能について」、山田秀和、米林甲陽、服部共生、森田修二、昭和47年度日本土壌肥料学会大阪大会要旨集(1975年7月26日受理)。https://core.ac.uk./download/pdf/235429797.pdf(2021年4月24日検索)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本願発明は、抗菌、抗カビ、抗ウイルス剤水溶液に係り、より詳細には、略無色透明、無毒、無害、無臭、安定で強力な抗菌、抗カビ、抗ウイルス溶液を有し、スプレー噴霧器で使用するのに適した抗菌、抗カビ、抗ウイルス剤水溶液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願発明は、かかる課題を解決するためになされたものであって、本願発明の抗菌、抗カビ、抗ウイルス剤水溶液は、アミノ酸銀と、フルボ酸と、を含み、pHが6.0以上であることを特徴とする。
【0015】
また、前記アミノ酸銀は、アスパラギン銀であることが好ましい。
また、前記抗菌、抗カビ、抗ウイルス剤水溶液中の銀イオンの含有量は、0.1~100mg/Lであることを特徴とする。
また、前記抗菌、抗カビ、抗ウイルス剤水溶液中の銀イオンのモル濃度とアミノ酸のモル濃度との比が、1:1~1:10の範囲内であることを特徴とする。
【0016】
また、前記抗菌、抗カビ、抗ウイルス剤水溶液中の、銀イオンのモル濃度とフルボ酸のカルボキシル基のモル当量との比が、1:0.1~1:3の範囲内であることを特徴とする。
また、前記抗菌、抗カビ、抗ウイルス剤は、銀イオン1モルに対し過酸化水素0.1~100モルを更に含むことができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の抗菌、抗カビ、抗ウイルス剤は、優れた抗菌、抗カビ、抗ウイルス(ウイルス不活性化)効果を示すと共に、抗微性物活性を、紫外線を含む光照射下等においても長期間維持することができるという光安定性及び長期間保存安定性を有する。
【0018】
本発明の抗菌、抗カビ、抗ウイルス剤は、透明、略無色、無毒、無害であって、スプレー噴霧器によって散布しても抗微性物活性を示すことができ、噴射された噴霧をヒトが吸収しても無害であるという特徴を有する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本願発明を詳細に説明する。この記載は本願発明を説明するためのものであって、この記載によって本発明の技術範囲を限定するものではない。本発明は、本発明の技術的範囲から逸脱しない範囲内で、多様に変更して実施することが可能である。
本願発明はアミノ酸銀と、フルボ酸とを含み、噴射式スプレー装置で噴霧可能な抗菌、抗カビ、抗ウイルス剤水溶液を提供することを課題とする。噴射式スプレー装置で噴霧して使用するためには、強力な抗菌、抗カビ、抗ウイルス溶液を有し、略無色、透明、無毒、無害、無臭、安定で紫外線に対する安定性が優れていることが要求される。
【0020】
(アミノ酸銀)
銀イオンを陽イオンとして含むイオン結合化合物は、銀イオンと結合する陰イオンによって、水に対する溶解性や光に対する安定性が大きく異なる。本願発明は、銀イオンの抗微生物活性を利用するものであるから、本願発明で用いる銀化合物は、水に溶解し電解して銀イオンを生成し、且つ安定な銀化合物であることが望ましい。そのような性質を有する銀化合物として、硝酸銀、及び酢酸銀、及びクエン酸銀等のカルボン酸銀を挙げることができる。
【0021】
銀化合物の中で、カルボン酸銀の一種であるアミノ酸銀塩が、安定性が優れていることが報告されている(例えば特許文献3、4を参照)。
【0022】
発明者は、特許文献4に記載された方法を用いて、種々のアミノ酸銀を調製し、アミノ酸銀の水に対する溶解性及び光に対する安定性を調査した。なお、本願発明は、噴霧スプレーを用いて環境中に噴霧することを目的とするものであるから、使用するアミノ酸は、安全性を考慮して天然の蛋白質を構成するL-アミノ酸に限定した。
【0023】
試験したアミノ酸銀の中から、極性の側鎖を有する中性アミノ酸であるL-グルタミンとL-アスパラギン、及び塩基性アミノ酸のヒスチジンの塩が優れた抗微生物活性及び光安定性を有することを見出した。しかし、これらのアミノ酸銀は、いずれも、スプレー噴霧器で使用するには光安定性が不十分であった。
【0024】
そこで、スプレー噴霧器で使用するのに十分な安定性を有する銀塩を得ることを目的として、アミノ酸銀に、キレート作用を有し金属イオンを安定化させる作用を有するフルボ酸を添加したところ、L-グルタミン銀、L-アスパラギン銀、及びヒスチジン銀が紫外線に対して予想以上に優れた安定性を示すことを見出した。しかし、L-グルタミンは、妊婦及び授乳期の女性に対する安全性が確認されていないことが判明したので、以後の検討対象から除外した。
【0025】
本願発明の抗菌、抗カビ、抗ウイルス剤水溶液は、銀イオンの含有量が0.1~100mg/Lであることが好ましい。銀イオン含有量が0.1mg/L未満では抗微生物効果が弱すぎると共に、環境中の少量の阻害物質や微量な紫外線等によって銀イオンが容易に失活する可能性があり、また、100mg/Lを超過して添加しても抗微生物効果は添加量に比例して増加せず、またスプレーで噴霧した場合に環境を汚染するという問題も発生する可能性があり好ましくない。
【0026】
また本願発明は、銀-アミノ酸組成物中の銀イオンのモル濃度とアミノ酸のモル濃度との比が1:1~1:10の範囲内であることが好ましい。銀イオンのモル濃度と前記アミノ酸のモル濃度との比が1:1未満では、アミノ酸が不足して銀イオンが不安定になり、モル濃度の比が1:10以上になるように加えても、それ以上に銀イオンの安定性が増加しないので好ましくない。
【0027】
(フルボ酸)
発明者は、フルボ酸を用いて銀イオンを安定化させることを試みた。
フルボ酸は、土壌又は石炭質から希アルカリでフミン酸を抽出し、無機酸で抽出するとき、酸性上澄み液に黄色ないし橙黄色を与える物質で、水、エタノールに可溶の黄褐色無定型の酸性物質で、原料及び採取条件により組成、分子量が広範囲に変化し一定しないものであって、単一の化学構造式を有するものではなく、原料及び採取条件により組成、分子量が広範囲に変化し一定しないものである(化学大辞典,共立出版社、1964年)。
【0028】
フルボ酸は、金属イオンを安定化させるが、フルボ酸と金属イオンとの結合形式はフルボ酸のカルボキシル基を配位基とするキレート反応であると推定された(非特許文献1を参照)。天然界において、フルボ酸はキレート反応によって金属イオンを安定化させ、山から海へと移動させる役割をしていると言われている。
【0029】
本願発明において使用するフルボ酸の製造方法は特に限定されないが、例えば非特許文献1に記載された方法で製造した精製フルボ酸を使用することができる。
非特許文献1に記載された方法では、フルボ酸は水溶液として得られるので、フルボ酸の含有量は、フルボ酸のカルボキシル基当量から測定することが好ましく、[モル数/単位量]で表わすことができる。フルボ酸のカルボキシル基当量は、例えば中和滴定法によって[カルボキシル基のモル当量]として求めることができる。
【0030】
本願発明は、抗菌、抗カビ、抗ウイルス剤水溶液中の銀イオンのモル濃度と、前記フルボ酸のカルボキシル基のモル当量と、の比が、1:0.1~3の範囲であることが好ましい。銀イオンのモル濃度とフルボ酸のカルボキシル基当量との比が、1:0.1未満では、フルボ酸の量が不足して銀イオンが不安定になり抗微生物活性が低下する。また、銀イオンのモル濃度とフルボ酸のカルボキシル基のモル当量との比が1:5を超えて加えても銀イオンの安定性を更に増加させることはできない。
【0031】
(過酸化水素)
フルボ酸は弱い還元性を有し、銀イオンは還元されると金属銀となって抗微生物活性が弱くなる又はなくなるので、本願発明は反応系全体を酸化性の雰囲気に保つために過酸化水素(H)又は過酸化水素を発生させる化合物を添加することができる。過酸化水素を発生する化合物が、過炭酸ナトリウム(2NaCO・3H)であり得る。
過酸化水素は、前記抗菌、抗カビ、抗ウイルス剤水溶液中の銀イオン1モルに対し、過酸化水素に換算して0.1~100モル含むことができる。
【0032】
(銀-アミノ酸組成物水溶液)
フルボ酸は酸性物質であるが、アミノ酸銀化合物の水溶液は、pH6以上で安定であるが、pHが6以下では、アミノ酸銀の光安定性が低下することが見いだされた。また、フルボ酸はpH緩衝性のある酸性物質であり、本願発明の銀-アミノ酸組成物水溶液はpHが高くなりにくいが、pH9以上になるとアミノ酸銀の光安定性が低下することがある。
本願発明に用いる、銀イオン、アミノ酸、及び水からなる銀-アミノ酸組成物水溶液は、銀イオン、アミノ酸、及び水からなる銀-アミノ酸組成物水溶液と、フルボ酸と、を含むpHが6.0以上の水溶液であることが好ましい。
【0033】
本願発明の抗菌、抗カビ、抗ウイルス剤水溶液は、例えばpHを調整するためのpH調整剤や、銀イオンの対イオンのような本願発明の効果に影響を与えない添加物を含むことができる。
【0034】
また、本発明の抗菌、抗カビ、抗ウイルス剤水溶液は、更に親水性溶媒、界面活性剤、有機溶剤、増粘剤、酸化防止剤、光安定剤、香料、消泡剤等を含むことができる。
更に、本願発明の抗菌、抗カビ、抗ウイルス剤水溶液は、繊維製品やスポンジ等に含浸させて拭き取りによる消毒に用いることもできる。
【0035】
[実施例]
(製造例1)フルボ酸水溶液の製造
本願発明は、広葉樹林の表層土を取り除いて得た腐葉土を使用した。
細粉化した2.0Kg(乾燥重量)の腐食土を、0.1M水酸化ナトリウム水溶液と0.1Mリン酸1水素2ナトリウム水溶液の等量混合液20Lに加えて50℃で24時間緩やかに撹拌したのち、ろ過した。ろ液に3M硫酸を加えてpH1とし、室温に24時間放置したのち、遠心分離してフミン酸画分を除去し、粗フルボ酸溶液を得た。
【0036】
粗フルボ酸溶液を2.0Kgの活性炭を充填したカラムに通じてフルボ酸を吸着させ、活性炭カラムを水洗したのちに0.1M水酸化ナトリウム水溶液を用いて5~10mL/minの速さで抽出し、抽出液をアンバーライトIRA400のカラム及びアンバーライトIR120のカラムを通過させて無機イオンを除去し、精製フルボ酸水溶液0.83Lを得た。得られた精製フルボ酸水溶液のカルボキシル基当量は、中和滴定法によって、41.3ミリカルボキシル基当量/Lであった。また、生成フルボ酸はほとんど無色であった。
【0037】
(製造例2)L-アスパラギン銀塩
アセトン500mL中に硝酸銀1.57g(銀イオン1.00g)を水10mLに溶解した溶液と、L-アスパラギン3.67gと水酸化ナトリウム1.11gとを水10mLに溶解した溶液と、を順次に、暗所で攪拌しながらをゆっくりと滴下し、得られた懸濁液をろ過してアスパラギン銀塩組成物を得た。得られたL-アスパラギン銀塩組成物は、冷暗所で有機溶媒を減圧除去したのみで次の反応に用いた。
【0038】
(実施例1A)
製造例1で製造した精製フルボ酸水溶液331mLに、製造例2で製造したアスパラギン銀塩組成物を水100mLに溶解した溶液を、暗所で攪拌しながらゆっくりとを加え、次いで2モル濃度の水酸化ナトリウム水溶液を攪拌しながらゆっくりとを加えてpH7.0とし、更に水を加えて1.00Lとして、銀イオン1.00gと、銀イオン1モルに対して3モルのアスパラギンと、1.5カルボキシル基のモル当量のフルボ酸と、を含む抗菌、抗カビ、抗ウイルス剤水溶液を製造した。
【0039】
(実施例1B、1C)
製造例2と同様に,グルタミン及びヒスチジンを用いてグルタミン銀塩組成物及びヒスチジン銀塩組成物を製造し、実施例1Aと同様に、但し,アスパラギン銀塩組成物の代わりにグルタミン銀塩組成物(実施例1B)及びヒスチジン銀塩組成物(実施例1C)を含む抗菌、抗カビ、抗ウイルス剤水溶液を製造した。
【0040】
(比較例1A、1B、1C)
実施例1と同様に、但しフルボ酸を含まないアスパラギン銀塩組成物(比較例1A)、グルタミン銀塩組成物(比較例1B)、及びヒスチジン銀塩組成物(比較例1C)を製造した。
(比較例2A、2B、2C)
実施例1と同様に、但し抗菌、抗カビ、抗ウイルス剤水溶液の液性をpH5.0とし、アスパラギン銀塩組成物(比較例2A)、グルタミン銀塩組成物(比較例2B)、及びヒスチジン銀塩組成物(比較例2C)を製造した。
【0041】
[試験結果]
(抗菌性試験)
ニュートリエントブロス液体培地に、大腸菌または黄色ブドウ球菌のコロニーを接種し、31±1℃で18時間振盪による前培養を行なった培養液を、新鮮なニュートリエントブロス培地で100倍に希釈し、該希釈液100μLを96穴のマイクロプレートに入れた。
【0042】
これに、各試験サンプルを、第1穴の銀イオン濃度が10mg/Lになるように希釈し、以下順次に、10段階の2倍希釈で得た試験液各50μLを加えた。マイクロプレートを31±1℃の環境下に48時間置き培養した。該培養液を寒天含有培地に接種して菌が増殖するか否かで、菌の増殖の有無を判断し、最小阻止濃度を測定した。なお、最終段の濃度0は、精製水を加えたことを意味する。
表1に大腸菌の結果を、表2に黄色ブドウ球菌の結果を示す。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【0045】
(殺菌試験)
試験液の噴霧による殺菌試験を、JIS Z 2911:2010「カビ抵抗性試験方法」塗料の試験を応用して行った。
試験菌:B. subtilis Natto(納豆菌)
試験方法:水500mLに市販の納豆50gを加え、ゆっくりと10分間撹拌して納豆菌懸濁液を調製する。
試験片(50mm×50mm、1サンプル各6個)に対して、納豆菌懸濁液を10.0mL/mの割合で噴霧し、26±2℃で2時間風乾したのち、実施例1A、比較例1Aで製造した試験液、及び水を10.0mL/mの割合で吹き付け、26±2℃,湿度95%~99%に保った恒温器の中に置き、24時間培養し、寒天培地を用いて各サンプルの納豆菌の発育状態の判定した。
試験結果
実施例1A、比較例1A:試験片に納豆菌の発育が認められない。
無処置(水を噴霧):試験片に納豆菌が生存する。
【0046】
(抗カビ性試験)
抗カビ性試験を、JIS Z 2911:2010「カビ抵抗性試験方法」塗料の試験 に準じて行った。
試験菌:Trichophyton rubrum 2659(白癬菌)
試験方法:試験片(30mm×30mm、1サンプル各6個)に対して、実施例1A、比較例1Aで製造した試験液、及び水を10.0mL/mの割合で噴霧し、1時間風乾したのちカビの混合胞子懸濁液を10.0mL/mの割合で吹き付け、26±2℃,湿度95%~99%に保った恒温器の中に置き、4週間培養し、カビ発育状態を判定した。
試験結果
実施例1A:試験片に菌糸の発育が認められない。
比較例1A:試験片の2/3に菌糸の発育が認められた。
無処置(水を噴霧):全試験片にカビの菌糸が発育した。
【0047】
(抗ウィルス性試験)
抗ウィルス性試験(ウイルス不活性化試験)を、JIS L 1922抗菌試験を応用して行った。
試験ウィルス:Feline calicivirus F-9 ATCC VR-782 (ネコカリシウィルス)
試験方法:
エッペンチューブに、1.0×10 PFU/mLに調整したネコカリシウイルス液0.9mLをとり、実施例1Aで製造した試験液0.1mLを加えよく混合した。10分後に生理食塩水1mLを加えて銀イオンをクエンチングした。
【0048】
実施例1Aで製造した試験液の代わりに、比較例1Aで製造した試験液及び生理食塩水を用いて同様の操作を行ってそれぞれを比較例及びコントロールとした。
各サンプルに更に生理食塩水を加えて銀イオンを完全にクエンチングのち、DMEM培地(ダルベッコ改変イーグル培地)で更に1/10希釈し、その0.5mLを、CRFK細胞(ネコ腎由来株化細胞)(ATCC CCL-94)に感染させ、1時間後にメチルセルロース含有培地に置換した。2日後に、それぞれの所定時間のサンプルをクリスタルバイオレットで細胞を染色し、プラーク数をカウントして、対数減少量を求めた。下式1に従って対数減少量4以上を抗ウイルス効果(ウイルス不活性化作用)があると判定する。
対数減少量=log(ブランクのプラーク数)
-log(試験サンプルのプラーク数 式1
試験結果
実施例1Aで製造した試験液及び比較例1Aで製造した試験液は、対数減少量が4よりも大きく抗ウイルス活性(ウイルス不活性化作用)があることを示したが、食塩水で製造した試験液は、対数減少量が4未満で抗ウイルス活性(ウイルス不活性化作用)を示さなかった。
【0049】
(保存安定性試験)
保存サンプルの抗菌活性の変化を測定して保存安定性試験を行った。
実施例1A、実施例1C、比較例1A、比較例1Cをガラス試験管に入れ、試験管を栓で密封し、蛍光灯照射下(4000Lux)、25℃にて放置し、所定時間ごとに各サンプルの最小阻止濃度を測定した。結果を表3に示す。
【0050】
【表3】
【0051】
表1に示すように、実施例1Aのアスパラギン銀とフルボ酸とを含み、pHが7.0の試料は、製造直後から7日目までは大腸菌に対してMICが0.02mg/Lという強い抗菌力を維持し、30日後でMICが0.04mg/L、0.02mg/L、90日後でもMICが0.16mg/Lという抗菌力を維持し、噴射式スプレー用の抗微生物活性物質水溶液として十分な保存安定性及び光安定性を有することが示された。
【0052】
これに対して、フルボ酸を含まない比較例1Aは、製造直後はフルボ酸を含む実施例1Aと同等のMICであったが、7日目にはMICが0.64mg/L、30日目には10mg/L以上に低下し、保存安定性及び光安定性が抗微生物活性物質水溶液としては不充分であった。
【0053】
一方、比較例1Cの、フルボ酸を含まないヒスチジン銀は、製造直後はMICが0.02mg/Lと実施例1のアスパラギン銀と同じ抗菌活性を示したが、7日目にはMICが0.32mg/Lに低下し、保存安定性及び光安定性が噴射式スプレー用の抗微生物活性物質水溶液としては不充分であった。
【0054】
また、実施例1Cのフルボ酸を含むヒスチジン銀は、製造直後はMICが0.08mg/Lであり、保存安定性及び光安定性は向上したものの、抗菌活性全体は実施例1Aのアスパラギン銀と、フルボ酸とを含む抗微生物活性物質水溶液よりは劣った。
【0055】
以上、本発明に関する好ましい実施形態を説明したが、本発明は前記実施形態に限定されず、本発明の属する技術範囲を逸脱しない範囲での全ての変更が含まれる。