(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022177890
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】他励式電力変換器制御装置、およびその制御方法
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20221125BHJP
【FI】
H02M7/48 E
H02M7/48 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021084318
(22)【出願日】2021-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡本 潤
(72)【発明者】
【氏名】川村 直輝
(72)【発明者】
【氏名】生田目 覚
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770BA12
5H770DA10
5H770DA11
5H770DA24
5H770DA30
5H770DA50
5H770HA02W
5H770HA03W
5H770HA03Y
5H770KA03Z
5H770LB03
5H770LB07
(57)【要約】
【課題】異常時の連続転流失敗を防止し、高速に直流電力を立ち上げる小型で低コストの他励式電力変換器制御装置、およびその制御方法を提供する。
【解決手段】電力変換器と、電力変換器を制御するゲートパルス発生装置と、ゲートパルス発生装置を制御する変換器制御装置と、変換器制御装置を保護する変換器保護装置とで構成され、変換器制御装置は定余裕角制御をする定余裕角制御回路を備え、定余裕角制御回路103は、高調波を検出する高調波検出回路201と、交流電圧を検出する交流電圧検出回路202と、交流電圧検出回路と直流電流の各信号で制御進み角の制限をする制御進み角リミッタ回路203と、制御進み角リミッタ回路の出力信号を制御遅れ角に変換するβ→α変換回路204と、単発転流失敗検出で固定値を出力する補填制御回路220と、β→α変換回路の出力信号を高調波検出回路と補填制御回路の各信号で補正する補正回路205とを備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電力変換半導体素子を備え、交流電力系統及び直流電力系統間にて電力を変換する電力変換装置を制御する電力変換器制御装置において、
複数の半導体素子で構成される電力変換器と、
前記電力変換器の複数の半導体素子を制御するゲートパルス発生装置と、
前記ゲートパルス発生装置のパルス発生を制御する制御角の信号を出力する変換器制御装置と、
変換器制御装置を保護する信号を出力する変換器保護装置と、
を備えて構成され、
前記変換器制御装置は、
直流電力系統の直流電流の検出信号と、交流電力系統の交流電圧の検出信号と、前記変換器保護装置の出力信号とを参照して定余裕角制御をする定余裕角制御回路を備えて構成され、
前記定余裕角制御回路は、
前記交流電圧の検出信号の高調波を検出する高調波検出回路と、
前記交流電圧の検出信号から交流電圧を直流電圧の信号に変換して検出する交流電圧検出回路と、
前記交流電圧検出回路の検出信号と、前記直流電流の検出信号とを参照して制御進み角のリミットをする制御進み角リミッタ回路と、
前記制御進み角リミッタ回路の出力の制御進み角の信号を制御遅れ角に変換するβ→α変換回路と、
前記変換器保護装置が出力する単発転流失敗検出信号が検出された場合に、予め設定した制御角の補正に関連する固定値を出力する補填スイッチを具備する補填制御回路と、
前記β→α変換回路の出力信号を、前記高調波検出回路の出力信号と前記補填制御回路の出力信号とで補正する補正回路と、
を備えて構成される、
ことを特徴とする他励式電力変換器制御装置。
【請求項2】
複数の電力変換半導体素子を備え、交流電力系統及び直流電力系統間にて電力を変換する電力変換装置を制御する電力変換器制御装置において、
複数の半導体素子で構成される電力変換器と、
前記電力変換器の複数の半導体素子を制御するゲートパルス発生装置と、
前記ゲートパルス発生装置のパルス発生を制御する制御角の信号を出力する変換器制御装置と、
直流電力系統の電流を検出する直流電流検出器と、
直流電力系統の電圧を検出する直流電圧検出器と、
交流電力系統の交流電圧を検出する交流電圧検出器と、
変換器制御装置を保護する信号を出力する変換器保護装置と、
を備えて構成され、
前記変換器制御装置は、
前記直流電流検出器の検出信号に基づき直流電力系統の直流電流を定電流制御する定電流制御回路と、
前記直流電圧検出器の検出信号に基づき直流電力系統の直流電圧を定電圧制御する定電圧制御回路と、
前記直流電流検出器の信号と、前記交流電圧検出器の信号と、前記変換器保護装置の信号とを参照して定余裕角制御をする定余裕角制御回路と、
前記定電流制御回路の出力する制御角と、前記定電圧制御回路の出力する制御角と、前記定余裕角制御回路の出力する制御角との最小値の制御角を選択する最小値選択回路と、
を備えて構成され、
前記最小値選択回路の選択する制御角を基に前記ゲートパルス発生装置を制御し、
前記定余裕角制御回路は、
前記交流電圧検出器の信号の高調波を検出する高調波検出回路と、
前記交流電圧検出器の信号から交流電圧を直流電圧の信号に変換して検出する交流電圧検出回路と、
前記交流電圧検出回路の信号と、前記直流電流検出器の信号とを参照して制御進み角のリミットをする制御進み角リミッタ回路と、
前記制御進み角リミッタ回路の出力の制御進み角の信号を、制御遅れ角に変換するβ→α変換回路と、
前記変換器保護装置が出力する単発転流失敗検出信号が検出された場合に、予め設定した制御角の補正に関連する固定値を出力する補填スイッチを具備する補填制御回路と、
前記β→α変換回路の出力信号を、前記高調波検出回路の出力信号と前記補填制御回路の出力信号とで補正する補正回路と、
を備えて構成される、
ことを特徴とする他励式電力変換器制御装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、
前記半導体素子はサイリスタである、
ことを特徴とする他励式電力変換器制御装置。
【請求項4】
請求項1または請求項2において、
前記制御進み角リミッタ回路は、制御進み角を算出するにあたって不平衡時の特性を考慮した直線近似式のパラメータを予め入力している、
ことを特徴とする他励式電力変換器制御装置。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の他励式電力変換器制御装置の制御方法であって、
前記制御進み角リミッタ回路を含む開ループ制御部の制御角を、高調波検出部の補正と、制御遅れ角に対し予め設定した制御角に関連する固定量を減算することによって、定余裕角制御を行う、
ことを特徴とする他励式電力変換器制御装置の制御方法。
【請求項6】
請求項5において、
前記制御進み角リミッタ回路は、制御進み角を算出するにあたって不平衡時の特性を考慮した直線近似式のパラメータを予め入力している、
ことを特徴とする他励式電力変換器制御装置の制御方法。
【請求項7】
複数の電力変換半導体素子を備え、交流電力系統及び直流電力系統間にて電力を変換する電力変換器を制御する電力変換器制御装置の制御方法において、
変換器保護装置が、前記電力変換器の転流失敗検出信号を検出し、
変換器制御装置が、前記転流失敗検出信号と、直流電力系統の直流電圧と直流電流の信号、および交流電力系統の交流電圧の信号とを参照して、ゲートパルスの生成を制御する制御角の信号をゲートパルス発生装置へ出力し、
前記ゲートパルス発生装置は、電力変換器の複数の半導体素子を制御するゲートパルスを生成して、前記電力変換器へ出力し、
前記変換器制御装置に備えられる定余裕角制御回路は、制御進み角リミッタ回路を含んでなる開ループ制御の出力信号と、交流電力系統の交流電圧の高調波を検出する高調波検出回路の出力信号と、前記転流失敗検出信号を起動条件にすることで制御遅れ角に対し予め設定した制御角の固定量を減算する補填制御回路の信号と、を参照して前記制御パルスの生成を制御する前記制御角を生成する、
ことを特徴とする他励式電力変換器制御装置の制御方法。
【請求項8】
請求項7において、
前記定余裕角制御回路に備えられる前記制御進み角リミッタ回路は、制御進み角を算出するにあたって不平衡時の特性を考慮した直線近似式のパラメータを予め入力している、
ことを特徴とする他励式電力変換器制御装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、他励式電力変換器制御装置、およびその制御方法に関する。特に、他励式直流送電のうち交流系統事故時に運転継続を行う他励式電力変換器制御装置と、交流系統異常時に、転流失敗を抑制し、運転継続を実現する余裕角制御方式に関わる。
【背景技術】
【0002】
他励式直流送電システムにおいて、電力変換器を構成する半導体素子としてサイリスタを用いている。サイリスタを用いた電力変換器は、電力系統の交流電圧を用いて転流を行うため、交流系統異常時に、転流失敗を起こしやすい。
転流失敗を抑制し、運転継続を実現するためには、余裕角を一定以上の値に保つ必要がある。従来、余裕角を制御する手法として、「閉ループ方式」と「開ループ方式」、および「高調波検出による余裕角の補正制御」を組み合わせた定余裕角制御の手法が知られている。
この余裕角を制御する手法として、例えば、特許文献1や特許文献2がある。
【0003】
特許文献1の[要約]には、「[課題]適正な余裕角を確保し、転流失敗等の変換装置として過酷な異常および系統事故等が発生するのを確実に防止すること。[解決手段]サイリスタバルブをブリッジ接続したサイリスタブリッジ3とアノードリアクトル4とから成り、交流側を変換器用変圧器2を介して交流系統11に接続して交流回路を構成し直流側を他端子5に接続して直流回路を構成した他励式変換装置1の制御装置で、直流回路の直流電流、交流回路の交流電圧、転流リアクタンス、余裕角に基づいて演算を行ない、演算結果をサイリスタバルブの制御角(制御遅れ角または制御進み角)として出力する開ループ制御方式の余裕角制御装置において、直流回路の直流電流に基づいてアノードリアクトル4のインピーダンス値を算出し、当該インピーダンス値を変換器用変圧器2のインピーダンス値に加算する手段300,301を備え、上記加算された値を、転流リアクタンスとして用いる。」と記載され、他励式変換装置の余裕角制御装置の技術が開示されている。
このように、特許文献1には、交流電圧が正弦波であることを前提として、所定の式の演算結果から余裕角にフィードフォアード制御を実施して制御角を定める開ループ制御方式の発明が示されている。
【0004】
また、特許文献2の[要約]には、「[目的]閉ループ余裕角制御により事故等の異常時に転流失敗の発生を防止しながら高速に直流電力を立ち上げる。[構成]余裕角制御回路は、各バルブごとに余裕角検出値とそれに対応した制御角値を取り込み、バルブごとの余裕角制御信号を作成する。余裕角制御信号は余裕角検出値と余裕角指令値との差をもとに制御角修正量を計算し、それを取り込んだ制御角値に加えることにより算出する。三相一括制御の場合は各バルブごとの余裕角制御信号の最小値をとって全体の制御角信号とする。各相個別制御の場合は、各相の制御信号を制御タイミングに応じて切り換える。[効果]異常時に転流失敗の発生が防止でき、かつ高速に直流電力を立ち上げることができる」と記載され、電力変換装置の技術が開示されている。
【0005】
このように、特許文献2には、交流電圧と変圧器二次電流から余裕角を直接検出し、実際の余裕角から必要最小限の余裕角を確保できるようフィードバック制御を実施する閉ループ制御方式の発明が示されている。
閉ループ制御は、交流不平衡時、検出器と余裕角指令値との差を元に制御角修正量を算出する。前記修正量を、開ループ方式によって算出された制御角に加算することで、余裕角の不足分を確保している。また、転流失敗時、余裕角γが零になることから、余裕角指令値分を制御角から減算することで余裕角を確保し、連続転流失敗を抑制する役割も担っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002-223570号公報
【特許文献2】特開平10-164757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示された他励式変換装置の余裕角制御装置の技術は、前記したように、電力系統の交流電圧が正弦波であることを前提としている。そのため、交流である電力系統の事故時には、交流電圧が正弦波である保証はなく、的確な他励式変換装置の余裕角制御が行われるとは限らないという課題(問題)がある。
【0008】
また、特許文献2に開示された電力変換装置の技術の制御装置において、余裕角制御を実施する際、前記「閉ループ方式」と前記「開ループ方式」と「高調波検出による余裕角の補正制御」を組み合わせて実施することで、転流失敗を防止することを実現している。
しかし、この内の閉ループ制御方式は、交流系統異常時の不平衡状態における急激な余裕角の不足に対し、フィードバック制御にて余裕角を確保するため、系統異常が起きて余裕角が不足した後に、制御が応答する方式を採用している。そのため、早い応答での対応が難しいという課題(問題)がある。
また、閉ループ制御方式を実現するためには、余裕角を直接検出するための検出器や、検出値を演算部に取り込む入力変換部や、さらに検出値から余裕角を算出する演算部が必要となる。この結果、回路構成は複雑化し、作成部品点数の増加を招くという課題(問題)がある。
【0009】
本発明は、前記課題に対応するために、異常時の連続転流失敗を防止し、高速に直流電力を立ち上げる、小型で低コストの他励式電力変換器制御装置、およびその制御方法を提供することを課題(目的)とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の課題を解決するために、本発明を以下のように構成した。
すなわち、本発明の他励式電力変換器制御装置は、複数の電力変換半導体素子を備え、交流電力系統及び直流電力系統間にて電力を変換する電力変換装置を制御する電力変換器制御装置において、複数の半導体素子で構成される電力変換器と、前記電力変換器の複数の半導体素子を制御するゲートパルス発生装置と、前記ゲートパルス発生装置のパルス発生を制御する制御角の信号を出力する変換器制御装置と、変換器制御装置を保護する信号を出力する変換器保護装置と、を備えて構成され、前記変換器制御装置は、前記直流電流の検出信号と、前記交流電圧の検出信号と、前記変換器保護装置の出力信号とを参照して定余裕角制御をする定余裕角制御回路を備えて構成され、前記定余裕角制御回路は、前記交流電圧の検出信号の高調波を検出する高調波検出回路と、前記交流電圧の検出信号から交流電圧を直流電圧の信号に変換して検出する交流電圧検出回路と、前記交流電圧検出回路の検出信号と、前記直流電流の検出信号とを参照して制御進み角のリミットをする制御進み角リミッタ回路と、前記制御進み角リミッタ回路の出力の制御進み角の信号を制御遅れ角に変換するβ→α変換回路と、前記変換器保護装置が出力する単発転流失敗検出信号が検出された場合に、予め設定した制御角の補正に関連する固定値を出力する補填スイッチを具備する補填制御回路と、前記β→α変換回路の出力信号を、前記高調波検出回路の出力信号と前記補填制御回路の出力信号とで補正する補正回路と、を備えて構成される、ことを特徴とする。
【0011】
また、その他の手段は、発明を実施するための形態のなかで説明する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、異常時の連続転流失敗を防止し、高速に直流電力を立ち上げる、小型で低コストの他励式電力変換器制御装置、およびその制御方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る他励式電力変換器制御装置の構成例と、交流を直流に変換して、直流伝送を行う電力系統の構成例を示す図である。
【
図2】本発明の第1実施形態に係る他励式電力変換器制御装置における変換器制御装置の構成例を示す図である。
【
図3】本発明の第1実施形態に係る他励式電力変換器制御装置における余裕角制御回路の構成例を示す図である。
【
図4】従来の余裕角制御回路の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態(以下においては「実施形態」と表記する)を、適宜、図面を参照して説明する。なお、以下に説明する実施形態は、例であって、説明する具体的内容に発明自体が限定されるものではない。
【0015】
≪第1実施形態≫
本発明の第1実施形態に係る他励式電力変換器制御装置の構成について、
図1~
図3を参照して説明する。なお、以下においては、主として他励式電力変換器制御装置について主に説明するが、他励式電力変換器制御装置による交流系統事故時の運転継続を実現する余裕角制御方法(電力変換器制御保護システム)、すなわち他励式電力変換器制御装置による制御方法の説明を兼ねる。
【0016】
<電力変換器と電力系統の構成例の概要>
図1は、本発明の第1実施形態に係る他励式電力変換器制御装置1000の構成例と、交流を直流に変換して、直流伝送を行う電力系統の構成例を示す図である。
すなわち、複数の電力変換器(1,1B)によって、上位系統(第1の交流電力系統)10の交流電力(交流電圧)を直流電力(直流電圧)に変換し、この直流電力を架空線またはケーブルである直流送電線8で直流伝送をする。すなわち、所定の長距離区間を直流送電で行っている。
そして、この伝送された直流電力(直流電圧)を電力変換器(1C,1D)によって、再び、第2の交流電力系統20の交流電力(交流電圧)に変換する直流伝送を用いた電力系統の構成例を示す図である。
【0017】
なお、上位系統10と電力変換器(1,1B)との間には、3相交流変圧器(12,12B)が設けられ、電力変換器(1C,1D)と第2の交流電力系統20との間には、3相交流変圧器(7C,7D)が設けられている。
また、
図1は、前記の電力系統を構成する電力変換器(1,1B,1C,1D)を電力系統の変動から保護する余裕角制御方法(電力変換器制御保護システム)を説明する図でもある。
【0018】
<電力変換器と電力系統の詳細>
図1における電力変換器と電力系統について、詳しく説明する。
図1において、電力変換器1は、交流系統である上位系統10の電力線(配電線)11から3相交流変圧器12を介して3相交流である交流電力(交流電圧)を直流電力(直流電圧)に変換する。
同様に、電力変換器1Bは、交流系統である上位系統(第1の交流電力系統)10の電力線(配電線)11から3相交流変圧器12Bを介して3相交流を直流電力(直流電圧)に変換する。
電力変換器1の直流出力側と電力変換器1Bの直流出力側は、直列に接続され、直流送電線8に直流電力(直流電圧)を供給している。
直流送電線8の線路中には、直流リアクトル91,92が設けられている。直流リアクトル91,92は、電力変換器1と電力変換器1Bの変換の際のスパイク電圧を低減し、また直流電流(直流電力)の急激な変動を抑制する。
【0019】
電力変換器1Cと電力変換器1Dは、入力側を互いに直列に接続されている。また、電力変換器1Cと電力変換器1Dは、それぞれ直流電力(直流電圧)を交流電力(交流電圧)に変換して出力する。
電力変換器1Cが変換した出力電圧(出力電力)は、3相交流変圧器12Cによって3相交流電圧(3相交流電力)に変換される。
電力変換器1Dが変換した出力電圧(出力電力)は、3相交流変圧器12Dによって3相交流電圧(3相交流電力)に変換される。
3相交流変圧器12Cと3相交流変圧器12Dのそれぞれから出力される3相交流電圧(3相交流電力)は、電力線(配電線)21を介して、第2の交流電力系統20に供給される。
【0020】
複数の電力変換器1,1B,1C,1Dは、それぞれ半導体素子としてサイリスタを用いた他励式の変換器で構成されている。電力変換器を構成する複数のサイリスタは、それぞれ異なるタイミングで点弧する。
また、各電力変換器は、半導体素子としてサイリスタを用いた他励式の変換器で、それぞれ制御装置から与えられる点弧信号に応じてサイリスタをオン・オフ(ON/OFF)し、交流電力(電圧)を直流電力(電圧)に、あるいは直流電力(電圧)を交流電力(電圧)に変換する。
すなわち、複数の電力変換器1,1B,1C,1Dは、基本的には同一の構成であり、制御装置の制御方法によって、異なる機能を発揮する。
【0021】
<他励式電力変換器制御装置1000について>
前記したように、電力変換器1,1B,1C,1Dは同じ構成であり、制御方法によって、異なる機能を発揮するので、各電力変換器を代表して、電力変換器1を用いて構成される他励式電力変換器制御装置1000について、次に説明する。
【0022】
図1において、他励式電力変換器制御装置1000は、電力変換器1、直流電圧検出器2、直流電流検出器3、交流電圧検出器4、変換器保護装置(電力変換器保護装置)5、変換器制御装置(電力変換器制御装置)6、ゲートパルス発生装置7を備えて構成されている。
【0023】
直流電圧検出器2は、直流送電線8における直流電圧(Vd)を検出する。
直流電流検出器3は、直流送電線8における直流電流(Id)を検出する。
交流電圧検出器4は、交流系統の電力線(配電線)11における交流電圧(VT)を検出する。
【0024】
変換器保護装置(電力変換器保護装置)5は、電力変換器1を構成するサイリスタをオン・オフすることによって、交流電力を直流電力に変換する際にトリガーが適切でなかった場合に発生する単発転流失敗を検出して、単発転流失敗検出信号(CFD1)を出力する。
変換器制御装置(電力変換器制御装置)6は、検出された直流電流(Id)と直流電圧(Vd)と交流電圧(VT)と単発転流失敗検出信号(CFD1)の各信号を基に、制御角αを算出して、出力する。なお、詳細は後記する。
【0025】
ゲートパルス発生装置7は、制御角αの情報を基に、電力変換器1を適正に制御する複数のサイリスタを制御するゲートパルスを生成し、出力する。
電力変換器1は、ゲートパルス発生装置7の出力するゲートパルスで制御され、交流電力(電圧)を直流電力(電圧)に変換する
【0026】
以上の
図1の構成において、本発明の第1実施形態として、特に特徴があるのは、変換器制御装置6である。
そのため、次に
図2を参照して、変換器制御装置(電力変換器制御装置)6を詳しく説明する。
【0027】
<変換器制御装置6>
図2は、本発明の第1実施形態に係る他励式電力変換器制御装置1000における変換器制御装置(電力変換器制御装置)6の構成例を示す図である。
図2において、変換器制御装置(電力変換器制御装置)6は、直流電流制御回路(ACR:Automatic Current Regulator)101、直流電圧制御回路(AVR:Automatic Voltage Regulator)102、余裕角制御回路(AγR:Automatic Gamma Regulator)103、最小値選択回路104を備えて構成される。
また、変換器制御装置6には、直流電流(Id)と直流電圧(Vd)と交流電圧(VT)の各信号と、単発転流失敗検出信号(CFD1)が入力している。
【0028】
《直流電流制御回路(ACR)101》
直流電流制御回路(ACR)101には、直流電流検出器3(
図1)の検出した直流電流(Id)の信号が入力している。
直流電流制御回路(ACR)101は、定電流制御回路としての機能を有している。そのため、直流電流制御回路(定電流制御回路、ACR)101は、直流電流検出器3の出力した直流電流(Id)の信号を元に、直流電流が設定した指令値通りの定電流になるように制御を行う。
そして、制御の結果として、直流電流制御回路(ACR)101は、制御角α
1を出力する。
【0029】
《直流電圧制御回路(AVR)102》
直流電圧制御回路(AVR)102は、定電圧制御回路としての機能を有している。そのため、直流電圧制御回路(定電圧制御回路、AVR)102は、直流電圧検出器2の出力した直流電圧(Vd)の信号を基に、直流電圧が設定した指令値通りの定電圧になるように制御を行う。
そして、制御の結果として、直流電圧制御回路(AVR)102は、制御角α2を出力する。
【0030】
《余裕角制御回路(AγR)103》
余裕角制御回路(AγR)103は、余裕角を一定に保つ定余裕角制御回路としての機能を有している。
そして、直流電圧(直流電力)を交流電圧(交流電力)に変換する電力変換器1C、1Dの逆変換器側で、電力系統に系統異常が起きたときに、その影響で電力変換器1の変換の際の余裕角が不足した場合において、余裕角制御回路(AγR)103は、余裕角を所定の値に保つように制御する。
そして、その場合の制御においては、余裕角制御回路(AγR)103は、制御角α3を出力する。
なお、余裕角制御回路(AγR)103は、余裕角を所定の値に保つように制御する回路であるので、適宜、「定余裕角制御回路」とも表記する。
【0031】
《最小値選択回路104》
最小値選択回路104には、直流電流制御回路(ACR)101が出力した制御角α
1と、直流電圧制御回路(AVR)102が出力した制御角α
2と、余裕角制御回路(AγR)103が出力した制御角α
3と、が入力している。
最小値選択回路104は、前記の制御角α
1、制御角α
2、制御角α
3の中から最も小さい制御角の値を選択する。そして、最小値選択回路104は、この最も小さい制御角の値を選択し、制御角αとして、ゲートパルス発生装置7(
図1)に信号を出力する。
【0032】
<ゲートパルス発生装置7>
なお、ゲートパルス発生装置7(
図1)について、再記すれば、変換器制御装置6(
図1)の出力する制御角αの情報を基に、ゲートパルス発生装置7は、電力変換器1(
図1)を適正に制御する位相を算出し、複数のサイリスタを制御するゲートパルス(GP:
図1)を生成して、電力変換器1へ出力する。
前記の複数のサイリスタを制御するゲートパルスGPは、電力変換器1のサイリスタバルブを点弧する。
【0033】
以上は、電力変換器1の制御を対象とした他励式電力変換器制御装置1000の構成例と機能の例である。
電力変換器1C、電力変換器1Dは、直流電圧(直流電力)を交流電圧(交流電力)に変換する機能を有する構成であるので、別の制御回路の構成となる。
【0034】
電力変換器1と電力変換器1Bは、交流電力(電圧、電流)を直流電力(電圧、電流)に変換する。
また、電力変換器1C、電力変換器1Dは、直流電力(電圧、電流)を交流電力(電圧、電流)に変換する。
そのため、電力変換器を制御する制御回路は、
図1で示した他励式電力変換器制御装置1000の制御回路は、電力変換器ごとに異なる。
【0035】
なお、一般的に、平常時には、順変換器側(交流→直流)は、出力が主として直流電流に着目されるため、制御回路としては、定電流制御(制御角α1)が選択されるように変換器制御装置6の指令値を設定する。
【0036】
また、逆変換器側(直流→交流)は、出力が主として交流電圧に着目されるため、制御回路としては、交流電圧としての定電圧制御(制御角α2)が選択されるように変換器制御装置(6)の指令値を設定する。
【0037】
また、系統異常が起きて、逆変換器側で余裕角が不足した際、余裕角制御回路103(制御角α3)が選択される。
【0038】
前記したように、決定された制御角α(α1,α2,α3)を基に算出された位相によって、ゲートパルス発生装置7で電力変換器を駆動するゲートパルスGPが生成される。
このゲートパルスGPで、サイリスタで構成された電力変換器1のサイリスタバルブが点弧される。
【0039】
<余裕角制御回路103の構成例>
図3は、本発明の第1実施形態に係る他励式電力変換器の制御装置における余裕角制御回路(定余裕角制御回路)103の構成例を示す図である。
図3において、余裕角制御回路103は、高調波検出回路201、交流電圧検出回路202、制御進み角リミッタ回路203、β→α変換回路204、補正回路205、補填スイッチ206を備えて構成されている。
【0040】
なお、補填スイッチ206と固定値207と単発転流失敗検出信号CFD1とを含んで補填制御回路220を構成している。
また、余裕角制御回路103は、直流電流Idの信号、交流電圧VTの信号、単発転流失敗検出信号CFD1のそれぞれの信号を入力している。また、補正後の制御角α3を信号として出力している。
【0041】
《高調波検出回路201》
余裕角制御回路103(
図3)において、高調波検出回路201は、交流電圧検出器4の検出した交流電圧VTを入力し、交流電圧VTの高調波を検出する。そして、高調波による影響を低減するための余裕角を算出する。この算出した余裕角を補正回路205に減算するように入力する(-)。この方法は、高調波による余裕角の不足分を確保するための補正をすることに相当する。
【0042】
なお、交流電圧検出器4(
図1)は、上位系統10に接続された電力線(配電線)11の交流電圧VTを検出している。電力線(配電線)11は、上位系統10から交流電力(交流電圧)を供給されているため、通常運転時には、検出される高調波の量は非常に微小である。
そのため、高調波検出回路201(
図3)が高調波を実質的に検出するのは、電力線(配電線)11(
図1)に関連する事故中、および事故復旧時における高調波を検出するものである。すなわち、高調波検出回路201は、復電時における転流失敗を防止するために設けられている。
なお、交流電圧検出器4(
図1)の検出した交流電圧VTは、高調波検出回路201(
図3)が高調波を検出する必要があるため、交流信号である。
【0043】
《交流電圧検出回路202》
交流電圧検出器4(
図1)の検出した交流電圧VTの信号を入力した交流電圧検出回路202(
図3)は、交流信号である交流電圧VTを検出して、この交流電圧(例えば振幅値や実効値)を直流電圧の信号に変換する。
なお、「交流電圧検出器4」の検出信号と「交流電圧検出回路202」の出力信号の相違を、再度、明確に記載すれば、交流電圧検出器4の検出した交流電圧VTの信号は、交流信号であり、交流電圧検出回路202の出力信号は、交流電圧VTを直流電圧に変換した直流電圧の信号である。
この交流電圧VTを直流電圧に変換した交流電圧検出回路202の直流電圧の出力信号と、直流電流Idの信号とを制御進み角リミッタ回路203に入力する。
【0044】
《制御進み角リミッタ回路203》
制御進み角リミッタ回路203は、制御進み角を算出するにあたって、直線近似を用いる手法をとっているが、この制御進み角リミッタ回路203に不平衡時の特性を考慮した直線近似式のパラメータを予め入力している。
これらの手法をとった制御進み角リミッタ回路203は、直流電流Idと、交流電圧VTが直流電圧に変換された信号と、に応じた暫定の制御進み角を出力する。
【0045】
《β→α変換回路204》
前記の暫定の制御進み角の信号を、制御進み角を制御遅れ角に変換するβ→α変換回路204に入力する。β→α変換回路204は、補正前制御角を算出する。
この補正前制御角を補正回路205に加える(+)。
【0046】
《補填制御回路220》
補填制御回路220は、補填スイッチ206と固定値C0と単発転流失敗検出信号CFD1とを含んで構成されている。
補填スイッチ206の一端に固定値C0を入力する。補填スイッチ206の他端を補正回路205に減算するように入力する(-)。
なお、固定値C0とは、あらかじめ設定した所定の制御進め角(β)である。
また、補填スイッチ206のオン・オフ(ON/OFF)をする開閉制御信号として、単発転流失敗検出信号CFD1の信号を用いている。
【0047】
補填スイッチ206を設けたのは、単発転流失敗の検出をトリガーとして、予め設定した制御進め角(β)の固定値C0を前記の補正前制御角から減算することで、余裕角制御における最終的な制御角を演算するためである。
この予め設定した制御進め角の固定値分を制御遅れ角から減算する補填制御回路220は、転流失敗による余裕角不足分を強制的に補填することで、連続した転流失敗を防止する役割を担っている。
転流失敗の検出は、変換器を保護する変換器保護装置(電力変換器保護装置)5(
図1)からの転流失敗検出信号入力により、制御遅れ角から固定値を減算する際のトリガーとして使用する。
【0048】
なお、前記したように、補填スイッチ206に固定値C0と単発転流失敗検出信号CFD1とを入力した回路は、補填制御回路220を構成している。この補填制御回路220は、本発明の第1実施形態に係る余裕角制御回路(定余裕角制御回路)103は、従来において類似の回路がない大きな特徴である。
【0049】
《補正回路205》
β→α変換器204からの補正前制御角の信号(+)と、高調波検出回路201の高調波による影響を避けるための余裕角の信号(-)と、補填制御回路220からの転流失敗による余裕角不足分を強制的に補填する信号(-)と、を補正回路205で合成することによって、補正後の制御角(補正後制御角α3)が余裕角制御回路(定余裕角制御回路)103から制御角(補正後制御角)α3として出力される。
【0050】
<余裕角制御回路103の機能、動作の概要について>
図3に示した本発明の第1実施形態に係る余裕角制御回路(定余裕角制御回路)103の機能、動作の概要について説明する。
余裕角制御回路(定余裕角制御回路)103は、単発の転流失敗検出時のβ進め制御を実施する機構とした余裕角制御方式(定余裕角制御方式)である。
図3において、交流電圧検出回路202と制御進み角リミッタ回路203とβ→α変換回路204、そして交流電圧(VT)と直流電流(Id)との信号によって、他励式電力変換器制御装置としての開ループ制御(βリミッタ)を行っている。
開ループ制御は、フィードフォアード制御に相当するので、高速に直流電力を立ち上げる余裕角制御となっている。
【0051】
また、制御進み角リミッタ回路203においては、不平衡時を考慮した直線近似式を用いている。そして、制御進み角リミッタ回路203、β→α変換回路204、補正回路205を備えた余裕角制御回路103において、開ループ制御によるフィードフォアード制御を実施することで、系統異常を感知したのちに制御が応答する。この開ループ制御は、急激な余裕角の不足に対して高速な応答で余裕角を確保する
【0052】
また、補填制御回路220を、例えば後記する
図4における余裕角検出回路230で構成される閉ループ制御の代りに用いている。
図3における補填制御回路220は、補填スイッチ206と予め設定した制御進め角βの固定値C0と単発転流失敗検出信号CFD1とを含んで構成されている。
補填制御回路220は、単発の転流失敗を検出する単発転流失敗検出信号CFD1の入力により、予め設定した制御進め角β(固定値C0)を、前記の開ループ制御(βリミッタ)から算出した値に、高調波検出回路201の高調波検出による補正とともに、補正回路205において、開ループ制御のβ→α変換回路204で算出した補正前制御角から減算することで定余裕角制御が実施される。
【0053】
さらに、余裕角制御回路103において、補填制御回路220におけるβ進め戻り時定数の調整と、β→α変換回路204における開ループ内の戻り時定数の見直しと、βリミッタの特性の見直しを実施することで、異常時の連続転流失敗を防止し、高速に直流電力を立ち上げることを可能とする。
なお、前記の「βリミッタの特性の見直し」の概要は、次のとおりである。
<1>通常運転範囲では、見直し以前のβリミッタ特性と同じである。
<2>交流電圧VTが通常よりも低下し半分程度の領域においては、βリミッタ特性における位相角βが大きく進むように変更して、不平衡時の余裕角を確保する。
<3>さらに交流電圧VTが大きく低下する範囲は、見直し前の特性との差を広げすぎないようにする。つまり至近端事故時の電力回復時間への影響が軽微である程度のβリミッタ特性の補正に留める。
【0054】
<従来の余裕角制御回路103Bの構成例>
前記のように、
図3として本発明の第1実施形態に係る余裕角制御回路(定余裕角制御回路)103の構成例を説明したが、この第1実施形態に係る余裕角制御回路103が優れた特徴を有することを説明するために、従来の余裕角制御回路103Bの構成例を
図4に示して比較説明する。
【0055】
図4は、従来の余裕角制御回路103Bの構成例を示す図である。
図4において、余裕角制御回路103Bにおける、高調波検出回路201、交流電圧検出回路202、制御進み角リミッタ回路203、β→α変換回路204、補正回路205Bの構成は、
図3に示した本発明の第1実施形態の余裕角制御回路103と同じである。
事実上、重複する説明は省略する。
ただし、制御進み角リミッタ回路203のβリミッタの特性は、
図3で説明した本発明の制御進み角リミッタ回路203の見直し前の従来のβリミッタの特性である。
【0056】
図4の回路の概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
従来技術である
図4の回路構成は、閉ループ制御により事故等の系統異常時に転流失敗の発生を防止しながら電力を立ち上げる制御である。閉ループ制御は、交流電圧と変圧器2次電流より、逆電圧期間を求めて余裕角を検出し、余裕角指令値との差を元に制御角補正量を計算し、制御角に補正を加えることで定余裕角制御を実施する。
【0057】
図4の構成が
図3と異なるのは、γ検出回路209B、余裕角指令値回路208B、およびγ検出回路209Bに入力する変圧器(Y)二次電流、変圧器(D)二次電流の信号を備えて構成される余裕角検出回路230である。
図4に示した余裕角検出回路230では、交流電圧と変換用変圧器二次電流の取り込みにより、直接余裕角を検出し、余裕角指令値との差を基に、制御角修正量を算出する。そして、前記修正量を前記制御角から減算することで、余裕角制御における最終的な制御角を算出している。
【0058】
<本発明の余裕角制御回路103と従来の余裕角制御回路103Bの比較>
前記したように、
図3の本発明の余裕角制御回路103と、
図4の従来の余裕角制御回路103Bとの相違は、
図3における補填制御回路220と、
図4における余裕角検出回路230との相違である。
従来の回路の余裕角制御回路103Bの特徴である
図4における余裕角検出回路230においては、γ検出回路209B、余裕角指令値回路208B、およびγ検出回路209Bに入力する変圧器(Y)二次電流、変圧器(D)二次電流の信号を備えている。
なお、三相交流における変圧器の二次側の電流変化、異常を検出するためには、変圧器(Y)二次電流、変圧器(D)二次電流の信号の2箇所を測定する必要がある。
【0059】
それに対して、本発明に係る余裕角制御回路103は、補填制御回路220を用いている。そのため、本発明の余裕角制御回路103においては、従来の余裕角制御回路103Bにおける余裕角検出回路230に備えた変圧器(Y)二次電流と、変圧器(D)二次電流の入力、およびγ検出209Bの回路が不要となる。
そのため変圧器(Y)二次電流と変圧器(D)二次電流に関わる入力変換部の部品点数の削減できるという効果がある。
また、余裕角制御方式における余裕角を算出するための演算部(γ検出209B)を削減することが可能となる。
また、入力変換部の回路の簡素化が可能となる効果がある。
【0060】
なお、
図3に示した本発明に係る余裕角制御回路103においては、単発転流検出信号を含む補填制御回路220が必要であるが、
図4に示した従来の余裕角検出回路230に備えた変圧器(Y)二次電流と、変圧器(D)二次電流の入力、およびγ検出209Bの回路に比較すると十分に軽微な装備である。
【0061】
また、
図4の従来技術例においては、余裕角の不足を検出した後、フィードバック制御を実施している閉ループ制御を採用している。
このフィードバック制御を実施している従来技術例と比べ、
図3に示した本発明の開ループ制御は、高速な応答で余裕角を確保することが可能となる。
【0062】
<第1実施形態の総括>
本発明の第1実施形態に係る他励式電力変換器制御装置は、閉ループ制御の代わりに単発転流失敗によるβ進め制御を、制御進み角リミッタを含む開ループ制御と、組み合わせて構成した余裕角制御方式(定余裕角制御方式)を採用している。
本発明の第1実施形態に係る他励式電力変換器制御装置は、単発転流失敗検出時のβ進め制御と開ループ制御と高調波検出に特徴がある。
β進め制御は単発転流失敗検出信号を入力し、予め設定した制御進め角を制御角から減算することで定余裕角制御を実施する。
【0063】
以上の構成による本発明においては、開ループ余裕角制御に不平衡時を考慮した直線近似式を制御進み角のリミッタとして用いて、フィードフォアード制御により制御角を算出する。
また単発の転流失敗の検出をトリガーとして固定量を制御遅れ角から減算する機構を取り付けることで、連続した転流失敗を防止し、直流送電の運転継続を実現する。
このように、開ループ制御によるフィードフォアード制御を実施することで、系統異常を感知したのちに制御が応答する。
このため、従来技術の余裕角の不足を検出した後、フィードバック制御を実施している閉ループ制御と比べ、本発明の開ループ制御は、急激な余裕角の不足に対して従来よりも早い応答で余裕角を確保することが可能となる。
【0064】
なお、以上の構成による本発明の他励式電力変換器の利点は、変圧器二次電流の入力が不要となり、変圧器二次電流を検出するための検出器、検出器から制御装置までの配線、検出値を制御装置に取り込むための入力変換部の部品点数の削減、回路の簡素化が可能となることである。
また、余裕角制御方式における余裕角を算出するための演算部を削減することが可能となる。
なお、
図3における補填制御回路220における補填スイッチ206は、従来の変換器保護装置に備わっている保護リレーの接点を用いることでも代用できるので、部品点数の増加の要因とはならない。
【0065】
<第1実施形態の効果>
本発明の第1実施形態の他励式電力変換器によれば、異常時の連続転流失敗を防止し、高速に直流電力を立ち上げる小型で低コストの他励式電力変換器制御装置、およびその制御方法を提供できる。
【0066】
具体的に詳しく記載すれば、以下のような効果がある。
本発明の他励式電力変換器によれば、変圧器二次電流の入力が不要となり、変圧器二次電流を検出するための検出器、検出器から制御装置までの配線、検出値を制御装置に取り込むための入力変換部や、余裕角を算出するための演算部における部品点数の削減、回路の簡素化、小型化が可能となる。
そのため、小型で低コストの他励式電力変換器を提供できる。
また、不平衡時の急激な余裕角の変化に対して、早い応答で余裕角の確保を実施し、転流失敗を防止(抑制)し、運転継続の実現、あるいは高速な直流電力の立ち上げを可能とする効果がある。
【0067】
≪その他の実施形態≫
なお、本発明は、以上に説明した実施形態に限定されるものでなく、さらに様々な変形例が含まれる。例えば、前記の実施形態は、本発明を分かりやすく説明するために、詳細に説明したものであり、必ずしも説明したすべての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成の一部で置き換えることが可能であり、さらに、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成の一部または全部を追加・削除・置換をすることも可能である。
以下に、その他の実施形態や変形例について、さらに説明する。
【0068】
《他励式電力変換器制御装置における電力変換器について》
図1から
図3を参照して、電力変換器1(
図1)を制御する他励式電力変換器制御装置1000について説明した。しかし、本発明の他励式電力変換器制御装置が制御する対象は、電力変換器1に限定されない。
図1における電力変換器1Bは、上位系統(交流電力系統)10の交流電力(交流電圧)を直流電力系統の直流電力(直流電圧)に変換する電力変換器であるので、電力変換器1と共通の直流電圧検出器2、直流電流検出器3、交流電圧検出器4、変換器保護装置5、変換器制御装置6を用いる、あるいは共用することが可能である。さらには、ゲートパルス発生装置7も概ね同一の構成、制御が可能である。
【0069】
また、電力変換器1C、電力変換器1Dは、直流電力系統の直流電力(直流電圧)を第2の交流電力系統20の交流電力(交流電圧)に変換するものであるので、電力変換器1を制御する他励式電力変換器制御装置1000の構成とは異なる。しかし、電力変換器1C、電力変換器1Dは、電力変換器1と同一の機器を用いることは可能であって、ゲートパルス発生装置のパルス制御の方式が異なる。
また、電力変換器1C、電力変換器1Dを駆動するゲートパルス発生装置を制御する変換器制御装置の構成は、電力変換器1を駆動するゲートパルス発生装置7を制御する変換器制御装置6の構成と異なるが、類似の構成や制御方法を適用することも場合によって可能である。
【0070】
《半導体素子》
図1における説明として、電力変換器(1,1B,1C,1D)は、半導体素子としてサイリスタを用いて構成されていると説明したが、サイリスタに限定されない。
半導体素子として、GTOサイリスタ(Gate Turn Off thyristor)、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、スーパージャンクションMOSFET(Super Junction Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)などを用いて電力変換器を構成してもよい。
【0071】
《電力変換器の構成》
図1に示した電力変換器1については、「電力線(配電線)11から3相交流変圧器12を介して3相交流を直流電力(直流電圧)に変換する。」と説明した。
この変換の際における電力変換器1は、3台の電力変換器で構成され、それぞれ3相交流電圧の内の一つの相を受け持って、交流を直流に変換している構成が一例である。
ただし、この構成例に限定されない。
3相交流電圧のそれぞれの相について交流を直流に変換する3台の電力変換器を一つの電力変換器として合体した構成の電力変換器であってもよい。このように3相を合体した構成の電力変換器であれば、ゲートパルス発生装置7からのゲートパルスGPの複数の信号を管理しやすい。
【0072】
また、
図1に示した電力変換器1,1B,1C,1Dについては、「複数の電力変換器1,1B,1C,1Dは、基本的には同一の構成であり、制御装置の制御方法によって、異なる機能を発揮する。」と説明した。
しかし、複数の電力変換器が基本的には同一の構成であることに限定されない。交流を直流に変換することに適した電力変換器と、直流を交流に変換することに適した電力変換器とで使い分けてもよい。また、送電側と受電側の設備の事情により、必ずしも同一の電力変換器を使用することに限定されない。
【0073】
《電力変換器の段数構成》
図1においては、交流電力(交流電圧)を直流電力(直流電圧)に変換する構成として、電力変換器1と電力変換器1Bを出力側(直流側)で2段の直列構成としている。
しかし、2段の直列構成に限定されない。3台以上の複数の電力変換器を出力側(直流側)で3段以上の直列構成としてもよい。
また
図1において、直流電力(直流電圧)を交流電力(交流電圧)に変換する構成として、電力変換器1Cと電力変換器1Dを入力側(直流側)で2段の直列構成としている。しかし、2段の直列構成に限定されない。3台以上の複数の電力変換器を入力側(直流側)で3段以上の直列構成としてもよい。
【0074】
また、2段や3台以上の複数の電力変換器に限らず、交流から直流への変換、あるいは直流から交流への変換を1台の電力変換器で構成してもよい。
また、交流電力(交流電圧)を直流電力(直流電圧)に変換する側と、直流電力(直流電圧)を交流電力(交流電圧)に変換する側とで、異なる台数の電力変換器を用いて、構成する電力変換器の段数が異なっていてもよい。
【0075】
《交流電力系統の相数》
図1においては、3相の交流電力系統の交流を直流に変換して、直流伝送をする場合について説明した。
しかし、電力系統は3相の交流電力系統に限定されない。電力系統が単相の交流電力系統の場合についても、交流を直流に変換して直流伝送をする際にも、本発明の他励式電力変換器制御装置の装置構成や制御方法を準用することは有用である。
また、3相の交流電力系統の交流を直流に変換して、直流伝送をした後に、単相の交流電力系統に変換してもよい。
また、単相の交流電力系統の交流を直流に変換して、直流伝送をした後に、3相の交流電力系統に変換してもよい。
【符号の説明】
【0076】
1,1B,1C,1D 電力変換器
2 直流電圧検出器
3 直流電流検出器
4 交流電圧検出器
5 変換器保護装置、電力変換器保護装置
6 変換器制御装置、電力変換器制御装置
7 ゲートパルス発生装置
8 直流送電線
91,92 直流リアクトル
10 上位系統、第1の交流電力系統
11,21 電力線(配電線)
12,12B,12C,12D 3相交流変圧器、変圧器
20 第2の交流電力系統
101 直流電流制御回路、ACR
102 直流電圧制御回路、定電圧制御回路、AVR
103 余裕角制御回路、定余裕角制御回路、AγR
104 最小値選択回路
201 高調波検出回路
202 交流電圧検出回路
203 制御進み角リミッタ回路
204 β→α変換回路
205 補正回路
206 補填スイッチ
207 固定値
220 補填制御回路
230 余裕角検出回路
1000 他励式電力変換器制御装置