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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022177903
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】点検システム
(51)【国際特許分類】
   H02G 1/02 20060101AFI20221125BHJP
   B64C 27/08 20060101ALI20221125BHJP
   B64C 39/02 20060101ALI20221125BHJP
   B64D 47/08 20060101ALI20221125BHJP
【FI】
H02G1/02
B64C27/08
B64C39/02
B64D47/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021084342
(22)【出願日】2021-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128277
【弁理士】
【氏名又は名称】專徳院 博
(72)【発明者】
【氏名】重松 孝一
【テーマコード(参考)】
5G352
【Fターム(参考)】
5G352AA01
5G352AM05
(57)【要約】
【課題】安全にまた効率的に架空送電線、架空送電線の付属品・架線金具・支持物の状態を点検可能な点検システムを提供する。
【解決手段】架空送電線、架空送電線の付属品・架線金具・支持物を点検対象物とする点検システムであって、無人航空機11と、前記無人航空機11に搭載され点検対象物の振動を非接触で測定する振動測定装置21と、前記無人航空機11の飛行、前記振動測定装置21の動作を制御する制御手段を含むコントローラ41と、前記振動測定装置21が取得する振動データから前記点検対象物の状態を判定する状態判定装置61と、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無人航空機と、
前記無人航空機に搭載され点検対象物の振動を非接触で測定する振動測定装置と、
前記無人航空機の飛行、前記振動測定装置の動作を制御する制御手段と、
前記振動測定装置が取得する振動データから前記点検対象物の状態を判定する状態判定装置と、
を備え、
前記点検対象物が、架空送電線、架空送電線の付属品・架線金具・支持物であることを特徴とする点検システム。
【請求項2】
前記振動測定装置は、1つの振動測定手段と1つのカメラとを1セットとした測定手段を少なくとも2セット有し、
前記振動測定手段は、同じセットのカメラが撮影する点検対象物の振動を測定し、
少なくとも2つの点検対象物を同時に又は一緒に点検可能なことを特徴とする請求項1に記載の点検システム。
【請求項3】
前記測定手段は、セット毎に前記カメラが前記点検対象物を捉えると前記振動測定手段も前記点検対象物を捉えるように、前記カメラの撮影方向と前記振動測定手段の測定方向とが同じ方向を向いた状態で同一の可動機構に取付けられ、
前記可動機構は、任意の方向に可変可能に構成され、
前記測定手段は、セット毎に独立して可動可能なことを特徴とする請求項2に記載の点検システム。
【請求項4】
前記無人航空機の飛行が、遠隔操作飛行と自律飛行とを選択可能に構成されてなることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の点検システム。
【請求項5】
さらに、前記無人航空機に搭載され前記点検対象物を強制的に振動させる振動発生手段を備えることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の点検システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架空送電線、架空送電線の付属品・架線金具・支持物の状態を点検する点検システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特別高圧送電線などは、常に風の影響を受けており、微振動による金属疲労で送電線を構成している素線が破断する恐れがある。このため鋼心アルミより線等では振動防止装置を取付け、振動を抑制している。振動防止装置以外にも送電線には、電線相互間の間隔を保持するスペーサ、着雪の発達を防ぐねじり防止ダンパなどの電線付属品が取付けられている。また電線と鉄塔との間には絶縁するための碍子、さらに雷撃等による碍子の破損を防ぐアークホーンが取付けられている。
【0003】
前記電線付属品等は、殆どがボルトとナットによる締付けにより固定されているため、施工不良や長期間の微振動で緩むことがある。このため周期を決めて点検が実施されている。点検は送電線を停電させ、鉄塔から送電線側に離れた位置に取付けられた振動防止装置などは電線に乗り出して点検する必要がある。停電は、周囲に与える影響が大きく、また電線に乗り出しての点検は安全面で課題がある。
【0004】
このような課題を解決すべく無人航空機を用い、電線、電線付属品等を点検、検査する方法が提案されている。例えば、ドローンにX線照射装置を搭載し、電線にX線を照射し受像情報から電線を検査する装置がある(例えば特許文献1参照)。また自律飛行する無人飛行体から碍子に向けて木片を発射し、木片が碍子に当たったときの音をマイクで収録し、収録した音を周波数解析し碍子の笠欠、亀裂を判定する点検システムもある(例えば特許文献2参照)。
【0005】
また電気設備の点検作業を精度よく行う点検システムとして、鉄塔や架空送電線などの点検対象物に複数のマークを取付け、カメラを搭載した無人航空機を飛行させ、マークにピントを合わせて撮影する点検システムがある(例えば特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-184414号公報
【特許文献2】特開2005-265710号公報
【特許文献3】特開2020-78209号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1~3以外にも無人航空機を用い、電線、電線付属品等を点検、検査する方法・システムが提案されているが、従来の電線、電線付属品等を点検するシステムは効率、使い勝手、信頼性等の点において改善すべき点がある。
【0008】
本発明の目的は、安全にまた効率的に架空送電線、架空送電線の付属品・架線金具・支持物の状態を点検可能な点検システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、無人航空機と、前記無人航空機に搭載され点検対象物の振動を非接触で測定する振動測定装置と、前記無人航空機の飛行、前記振動測定装置の動作を制御する制御手段と、前記振動測定装置が取得する振動データから前記点検対象物の状態を判定する状態判定装置と、を備え、前記点検対象物が、架空送電線、架空送電線の付属品・架線金具・支持物であることを特徴とする点検システムである。
【0010】
本発明に係る点検システムにおいて、前記振動測定装置は、1つの振動測定手段と1つのカメラとを1セットとした測定手段を少なくとも2セット有し、前記振動測定手段は、同じセットのカメラが撮影する点検対象物の振動を測定し、少なくとも2つの点検対象物を同時に又は一緒に点検可能なことを特徴とする。
【0011】
本発明に係る点検システムにおいて、前記測定手段は、セット毎に前記カメラが前記点検対象物を捉えると前記振動測定手段も前記点検対象物を捉えるように、前記カメラの撮影方向と前記振動測定手段の測定方向とが同じ方向を向いた状態で同一の可動機構に取付けられ、前記可動機構は、任意の方向に可変可能に構成され、前記測定手段は、セット毎に独立して可動可能なことを特徴とする。
【0012】
本発明に係る点検システムにおいて、前記無人航空機の飛行が、遠隔操作飛行と自律飛行とを選択可能に構成されてなることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る点検システムにおいて、さらに、前記無人航空機に搭載され前記点検対象物を強制的に振動させる振動発生手段を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば安全にまた効率的に架空送電線、架空送電線の付属品・架線金具・支持物の状態を点検可能な点検システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の第1実施形態の点検システム1の構成を説明するための図である。
図2】本発明の第1実施形態の点検システム1を構成する無人航空機11、コントローラ41及び状態判定装置61の構成を示す図である。
図3】本発明の第1実施形態の点検システム1の使用例を示す図である。
図4】本発明の第1実施形態の点検システム1の使用方法を説明するためのフロー図である。
図5】本発明の第2実施形態の点検システム2を構成する振動測定装置22及びコントローラ42の構成を示す図である。
図6】本発明の第2実施形態の点検システム2の使用例を示す図である。
図7】本発明の第2実施形態の点検システム2の使用例を示す図である。
図8】本発明の第2実施形態の点検システム2の使用例を示す図である。
図9】本発明の第2実施形態の点検システム2の使用方法を説明するためのフロー図である。
図10】本発明の第2実施形態の点検システム2の使用方法を説明するためのフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本発明の第1実施形態の点検システム1の構成を説明するための図である。図2は、本発明の第1実施形態の点検システム1を構成する無人航空機11、コントローラ41及び状態判定装置61の構成を示す図、図3は、本発明の第1実施形態の点検システム1の使用例を示す図である。
【0017】
本発明の第1実施形態の点検システム1は、架空送電線、架空送電線の付属品・架線金具・支持物を点検対象物とし、これらの状態を点検する、より具体的には架空送電線の付属品・架線金具の緩み、取付け不良、架空送電線又は付属品の摩耗、付属品・架線金具・支持物の破損などの異常を検出するシステムである。以降、架空送電線を単に電線と記すことがある。
【0018】
ここで架空送電線は、例えば鉄塔100に支持された特別高圧送電線(架空送電線)101である。架空送電線101の付属品としては、電線101が風で振動し損傷することを防ぐダブルトーショナルダンパなどの防振装置102、電線相互間の距離を保持するためのリング状のスペーサ、2導体スペーサ、複導体で同じ相に取付ける複導体用のスペーサ103、相間に取付ける相間スペーサ106、着雪を防止するねじり防止ダンパ104がある。これら付属品は、電線101にボルトで固定されている。架線金具としては電線101と鉄塔100との間を絶縁する碍子105、支持物としては鉄塔部材が挙げられる。
【0019】
点検システム1は、無人航空機(UAV)11と、点検対象物の振動を測定する振動測定装置21と、無人航空機11の飛行、振動測定装置21の動作を制御する制御手段を備えるコントローラ41と、振動データから点検対象物の状態を判定する状態判定装置61とを主に構成される。
【0020】
無人航空機11は、振動測定装置21を搭載し、点検対象物である架空送電線、架空送電線の付属品・架線金具・支持物の状態を点検すべく、コントローラ41に制御され又は指令に基づき点検対象物に向け飛行する。無人航空機11は、振動測定装置21を搭載し、点検対象物に向け飛行し、点検対象物の近傍でホバリング(停止飛行)することができればよく特に種類は問われない。代表的には無人航空機11は、ドローン又は無人ヘリコプターであり公知のドローン等を使用することができる。
【0021】
無人航空機11は、位置を制御するためのGPS12、データを送受信する通信手段13、飛行を制御するマイコン等からなる制御手段14を備え、コントローラ41からの飛行指令に基づき飛行する。無人航空機11の位置情報は、通信手段13を介してコントローラ41に送信される。無人航空機11の位置の制御には、GPS以外にグローナス(GLONASS)、ガリレオ(Galileo)等の衛星測位システム、みちびき等の準天頂衛星システム(QZSS)等を用いることができる。
【0022】
振動測定装置21は、点検対象物の振動を非接触で測定する装置であり、本実施形態では測定器にレーザードップラ振動計25を使用する。ここで使用するレーザードップラ振動計25は、特に限定されるものではなく、センサーヘッドからレーザー光を点検対象物に照射し反射光を受信し、波長の変化量から振動を検知する公知のレーザードップラ振動計を使用することができる。測定器は、点検対象物の振動を非接触で測定できる機器であればよく、レーザードップラ振動計以外の機器であってよい。
【0023】
レーザードップラ振動計25は、取付具26を介して無人航空機11に固定されている。取付具26は、振動吸収材を備え、無人航空機11からの振動がレーザードップラ振動計25に伝わることを防いでいる。
【0024】
振動測定装置21は、さらにレーザードップラ振動計25等を制御するマイコン等からなる制御手段27、コントローラ41と信号・データを送受信する通信手段28とを備える。制御手段27は、コントローラ41からの動作指令を受信すると、レーザードップラ振動計25を動作させ振動データを取得する。さらに制御手段27は、レーザードップラ振動計25を介して得た振動データを、通信手段28を介してコントローラ41に送信する。
【0025】
コントローラ41は、CPU、メモリ、記憶手段、入出力インターフェース、タッチパネル、ディスプレイ、ジョイスティックを備え、各手段として動作させるためのプログラムを備える、機能的には各種操作を行う遠隔操作盤及び各種制御を行う制御装置である。
【0026】
コントローラ41は、機能的には無人航空機11の飛行を制御する飛行制御手段45、レーザードップラ振動計25の動作を制御する振動測定制御手段46、データ入力手段50、データ出力手段51、データ処理手段52、通信手段53を備える。
【0027】
飛行制御手段45は、無人航空機11の飛行する方向を制御する信号を発し、無人航空機11はこの信号に基づき飛行する。このような飛行制御手段45は、ジョイスティックのように手動で飛行方向を遠隔操作する手動制御であっても、予め飛行ルートを設定し、設定された飛行ルートに則り無人航空機11を自律飛行させる自動制御であってもよい。
【0028】
飛行制御手段45は、遠隔操作飛行と自律飛行とが選択可能に構成されているものが好ましい。このような飛行制御手段45は、飛行選択ボタンを設け、手動飛行が選択されるとジョイスティックで遠隔操作飛行を可能とし、自動飛行が選択されると、点検対象物の位置情報を指示し、これに基づき無人航空機11を自律飛行させる。無人航空機11の自律飛行は、公知の方法を用いることができる。
【0029】
振動測定制御手段46は、レーザードップラ振動計25の動作を制御する。具体的には振動測定制御手段46は、点検対象物に対してレーザードップラ振動計25を動作させる信号を送るスイッチを備え、該スイッチがオンとなることで信号が発せられ、振動測定装置21が当該信号を受信すると制御手段27がレーザードップラ振動計25を動作させ、点検対象物に対してレーザー光を照射し、反射光を受信する。
【0030】
レーザードップラ振動計25を動作させる信号を送るスイッチは、手動、自動のいずれでもよい。無人航空機11を点検者(オペレータ)200が手動で操作するような場合は、オペレータ200が点検対象物を視認した上でレーザードップラ振動計25を手動で動作させればよい。一方、無人航空機11を自律飛行させるときは、予めレーザードップラ振動計25を動作させる位置を設定しておき、無人航空機11がその位置に達したときに自動でレーザードップラ振動計25を動作させてもよい。
【0031】
データ入力手段50は、点検対象物の名称、点検対象物が取付けられている送電線路の名称等のデータを入力する手段であり、ここではタッチパネルである。データ入力手段50は、タッチパネルに限定されるものではなく他の手段であってもよい。データ出力手段51は、ディスプレイであり、データ入力手段50を介して入力されるデータ、無人航空機11の位置情報等を表示する。
【0032】
データ処理手段52は、各種データの入出力、データ送受信を制御する。具体的にはデータ処理手段52は、レーザードップラ振動計25から振動データを受信すると、当該データを点検対象物の識別番号と紐付けし、さらに点検日時を付加し状態判定装置61に送信する。またデータ処理手段52は、状態判定装置61から点検対象物の状態判定データを受信するとディスプレイ51に表示する。
【0033】
通信手段53は、コントローラ41と、無人航空機11、振動測定装置21、状態判定処置61とを、データ・信号を送受信可能に接続する。
【0034】
状態判定装置61は、CPU、メモリ、記憶手段、入出力インターフェース、入出力手段を備えるコンピュータであり、コントローラ41とデータを送受信可能に接続する。状態判定装置61は、点検対象物の状態を判定するためのプログラム、点検対象物の過去の振動データ等、状態判定に使用するデータを格納したデータベースを備え、データ入出力手段62、データ送受信手段63、データ記憶手段64、状態判定手段65として機能する。
【0035】
データ入出力手段62は、データベースの作成等に使用され、データ送受信手段63は、状態判定装置61とコントローラ41とを、データを送受信可能に接続する。データ記憶手段64は、点検対象物のデータベースを備える。このデータベースは、点検対象物の名称、点検対象物が取付けられている送電線路の名称、径間番号、送電線の相、位置を特定する座標と、点検対象物の識別番号とが紐付けされた点検対象物一覧表、点検対象物の識別番号と、点検対象物の過去の振動データ、点検日時、良否判定結果とが紐付けされた結果一覧表を備える。
【0036】
状態判定手段65は、コントローラ41から識別番号と紐付けられた点検対象物の振動データを受信すると、データベースから該当する点検対象物の過去の振動データを読み出し、これら振動データを比較し点検対象物の異常の有無を判定する。また状態判定手段65は、今回取得した点検対象物の振動データ、判定結果、点検日時を識別番号と紐付けしデータベースに記録する。新たに取得した振動データを過去の振動データと比較し状態を判定する方法は、点検対象物の緩みなどの進行状態を把握することもできる。
【0037】
振動データに基づく点検対象物の異常の有無の判定は、過去のデータとの比較以外に、予め点検対象物の正常状態の振動データを取得し、これと新たに測定し取得した振動データとを比較することで行ってよい。振動データの比較においては、周波数の数(大きさ)、波形、振幅の大きさ等を用いることができる。
【0038】
点検システム1の使用方法を示す。図4は、本発明の第1実施形態の点検システム1の使用方法を説明するためのフロー図である。以下に示す点検システム1の使用方法は、代表例であり、点検システム1の使用方法がこれに限定されるものではない。ここで使用するコントローラ41は、無人航空機11の遠隔操作飛行と自律飛行とを選択するボタンを有し、遠隔操作飛行と自律飛行とが選択可能に構成されている。
【0039】
点検者(オペレータ)200は、コントローラ41を起動し、状態判定装置61に点検対象物一覧を要求する(ステップS1)。状態判定装置61は、データベースから点検対象物一覧を読み出しコントローラ41に送信する(ステップS2)。オペレータ200がコントローラ41のディスプレイ51に表示される点検対象物一覧から点検対象物を選択すると、点検対象物の位置データ等が表示される(ステップS3)。
【0040】
オペレータ200は、ディスプレイ51に表示される飛行選択ボタンから無人航空機11の飛行方法を選択する(ステップS4)。手動飛行を選択した場合は、オペレータ200がジョイスティックを操作し、点検対象物に向け振動測定装置21を搭載した無人航空機11を飛行させ無人航空機11を点検対象物の近傍に位置せしめ(ステップS5)、その後コントローラ41から振動測定装置21に動作信号を送信する(ステップS6)。振動測定装置21は動作信号を受信すると、レーザードップラ振動計25を動作させ、点検対象物の振動データを取得しコントローラ41に送信する(ステップS7)。
【0041】
一方、ステップS4において自動飛行が選択されると、無人航空機11は点検対象物の位置情報に基づき点検対象物に向かって自律飛行する。コントローラ41は、無人航空機11の位置情報から無人航空機11が所定の位置に達したことを確認すると、無人航空機11をその位置でホバリングさせ、振動測定装置21に動作信号を自動送信する(ステップS6)。振動測定装置21は動作信号を受信すると、レーザードップラ振動計25を動作させ、点検対象物の振動データを取得しコントローラ41に送信する(ステップS7)。
【0042】
コントローラ41は、点検対象物の振動データを受信すると、当該振動データを点検対象物の識別番号と紐付けし、さらにこれに点検日時を付加し状態判定装置61に自動送信する(ステップS8)。状態判定装置61は、点検対象物の振動データを受信するとデータベースから該当する点検対象物の過去の振動データを読み出し、これと比較して点検対象物の異常の有無を判定する(ステップS9)。状態判定装置61は、この結果をデータベース64に記録し、また当該結果をコントローラ41に送信する(ステップS10)。コントローラ41は、判定結果をディスプレイ51に表示し(ステップS11)、オペレータ200は、点検対象物の異常の有無をその場で知ることができる。
【0043】
本発明の第1実施形態の点検システム1において、点検対象物の振動データの取得は、1回に限定されるものではなく、1回の飛行で複数回取得してもよい。同一の点検対象物に対して振動データが複数回取得された場合には、状態判定装置61は、複数回の振動データ毎に状態結果を判定しコントローラ41に送信するのがよい。無人航空機11を振動データを取得可能な状態で待機させ、点検結果を確認し、判定結果がばらついているときは、再度、振動データを取得するようにしてもよい。この点は、後述の本発明の第2実施形態の点検システム2においても同じである。
【0044】
以上のように本発明の第1実施形態の点検システム1は、無人航空機11に振動測定装置21を搭載し、これを点検対象物近傍まで飛行させ、点検対象物の近傍から点検対象物の振動データを取得し、この振動データを用いて点検対象物の異常の有無を判定するので安全にまた効率的に点検対象物の異常を検出することができる。
【0045】
第1実施形態の点検システム1において、無人航空機11は、遠隔操作飛行(手動飛行)又は自律飛行が可能なため点検対象物の位置等に応じた点検が可能となり使い勝手がよい。例えば点検者から点検対象物を直接視認できるような場合には、無人航空機11を手動飛行させることで確実に対象物の振動データを取得することができる。一方、点検者から点検対象物を直接視認できない場合には、無人航空機11を自律飛行させ振動データを取得することができる。コントローラ41を無人航空機11の遠隔操作飛行と自律飛行とを選択可能に構成すればさらに使い勝手がよくなる。
【0046】
第1実施形態の点検システム1は、架空送電線に電流が流れることで送電線自身、これに取付けられた付属品等が振動すること、さらに付属品等に緩み、破損などがあると正常時と振動状態が変化することを利用し、付属品等の異常を検出するものであるが、第2実施形態の点検システム2のように振動発生手段を用いて点検対象物を強制的に振動させ振動データを取得してもよい。
【0047】
また第1実施形態の点検システム1において、第2実施形態の点検システム2のように無人航空機11にカメラを搭載し、カメラからの映像データをコントローラ41で確認できるようにしてもよい。これにより無人航空機11を遠隔操作飛行(手動飛行)させる場合の操作が容易になり、また点検対象物の視認も確実に行える。
【0048】
図5は、本発明の第2実施形態の点検システム2を構成する振動測定装置22及びコントローラ42の構成を示す図である。図6図7図8は、本発明の第2実施形態の点検システム2の使用例を示す図である。図1図4に示す本発明の第1実施形態の点検システム1と同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
【0049】
本発明の第2実施形態の点検システム2の基本構成は、第1実施形態の点検システム1と同一であり、点検システム2が点検する点検対象物、振動データを用いて異常を検出する点も点検システム1と同じである。一方、無人航空機11に搭載する振動測定装置22、コントローラ42が第1実施形態の振動測定装置21及びコントローラ41と異なる。
【0050】
振動測定装置22は、同じ構成からなる独立して動作する3個の振動測定装置22a、22b、22cで構成され、振動測定装置22aは、無人航空機11の上面に、振動測定装置22b、22cは、無人航空機11の底面に横並びで配置されている。第2実施形態の点検システム2は、3個の振動測定装置22のうち2個を用いて2つの点検対象物の振動データを同時又は一緒に取得する。
【0051】
各振動測定装置22は、第1実施形態の振動測定装置21と同様に、レーザードップラ振動計25(25a、25b、25c)、制御手段27(27a、27b、27c)及び通信手段28(28a、28b、28c)を備える。さらに各振動測定装置22は、点検対象物を強制的に振動させる振動発生手段30(30a、30b、30c)、点検対象物を撮影するカメラ35(35a、35b、35c)を備える。
【0052】
振動発生手段30(30a、30b、30c)は、点検対象物を強制的に振動させることができる装置であればよく、ここでは音発生器31と音発生器31(31a、31b、31c)から出力される音を点検対象物に照射するスピーカ32(32a、32b、32c)を備える。本実施形態では、振動発生手段30は音発生手段30ともいえる。スピーカ32は、音の広がりが狭い指向性の高いスピーカが好ましい。
【0053】
各振動測定装置22のレーザードップラ振動計25、スピーカ32及びカメラ35は、3次元のいずれの方向にも可動する可動機構36(36a、36b、36c)に取付けられ、可動機構36は、振動吸収材を備える取付具26(26a、26b、26c)を介して無人航空機11に取付けられている。可動機構36は、例えばステッピングモーター、電動アクチュエータと連結機構とで構成される。
【0054】
各振動測定装置22a、22b、22cにおいて、可動機構36は、レーザードップラ振動計25、スピーカ32及びカメラ35にそれぞれに設けてもよいが、各振動測定装置22の小型化、可動機構の制御性の点からレーザードップラ振動計25、スピーカ32及びカメラ35は1つの可動機構に固定するのがよい。1つの可動機構に固定すればレーザードップラ振動計25、スピーカ32及びカメラ35を一体的に動かすことができるので制御が簡単になる。このときレーザードップラ振動計25が照射するレーザー光の照射方向、スピーカ32の音を発する方向、カメラ35の撮影方向が同一となるように可動機構35に固定するのがよい。これによりレーザードップラ振動計25、スピーカ32及びカメラ35の制御がより簡単となり、また操作性もよくなる。
【0055】
第1実施形態の振動測定装置21において、制御手段27は、レーザードップラ振動計25の動作を制御するが、第2実施形態の振動測定装置22a、22b、22cの制御手段27a、27b、27cは、コントローラ42からの指令を受け、レーザードップラ振動計25の他、振動発生手段30、カメラ35及び可動機構36の動作を制御する。
【0056】
コントローラ42は、独立して動作する3台の振動測定装置22a、22b、22cを制御する必要があるためレーザードップラ振動計25を制御する振動測定制御手段46(46a、46b、46c)と、振動発生手段30を制御する振動発生制御手段47(47a、47b、47c)と、カメラ35を制御するカメラ制御手段48(48a、48b、48c)と、可動機構36を制御する可動機構制御手段49(49a、49b、49c)とを備える。このほかコントローラ42は、コントローラ41と同様に、飛行制御手段45、データ入力手段50、データ出力手段51、データ処理手段52、通信手段53を備える。
【0057】
振動発生制御手段47は、スイッチで構成され、音を発するタイミング、音を発する時間を制御する。カメラ制御手段48は、スイッチで構成され、カメラのオンオフ等を制御する。可動機構制御手段49は、例えば可動機構36を上下方向に動かすボタンと可動機構36を左右方向に動かすボタンとで構成され、あるいは3Dジョイスティックで構成される。可動機構制御手段49は、これに限定されるものではなく可動機構36を3次元の任意の方向に動かすことができれば他の構成であってもよい。
【0058】
点検システム2の使用方法を示す。図9及び図10は、本発明の第2実施形態の点検システム2の使用方法を説明するためのフロー図である。以下に示す点検システム2の使用方法は、代表例であり、点検システム2の使用方法がこれに限定されるものではない。ここで使用するコントローラ42は、無人航空機11の遠隔操作飛行(手動飛行)と自律飛行(自動飛行)とを選択するボタンを有し、手動飛行と自動飛行とが選択可能に構成されている。また振動計は、レーザードップラ振動計である。
【0059】
点検者200は、コントローラ42を起動し、状態判定装置61に点検対象物一覧を要求する(ステップS1)。状態判定装置61は、データベースから点検対象物一覧を読み出しコントローラ42に送信する(ステップS2)。オペレータ200がコントローラ42のディスプレイ51に表示される点検対象物一覧から点検対象物を選択すると、点検対象物の位置データ等が表示される(ステップS3)。ここでは点検対象物は、上下方向に隣り合う2つの点検対象物が選択される(図6図7参照)。
【0060】
点検者200は、ディスプレイ51に表示される飛行選択ボタンから無人航空機11の飛行制御方法を選択する(ステップS4)。手動飛行を選択した場合は、ジョイスティックを操作し無人航空機11を上部の点検対象物と下部の点検対象物との間に飛行させ、上部のカメラ35aが上部の点検対象物を撮影する位置に無人航空機11を移動させる(ステップS5-1)。
【0061】
点検者200は、上部のカメラ35aの撮影方向を真上(鉛直方向)に固定した状態で、さらにジョイスティックを操作し、ディスプレイ51を確認しながらカメラ35aが撮影する画像の中心に上部の点検対象物が写るように無人航空機11を移動させる(ステップS5-2)。この位置で無人航空機11をホバリングさせ、下部のカメラ35bで下部の点検対象物を撮影し、撮影する画像の中心に下部の点検対象物が写るようにカメラ35bの向きを変える(ステップS5-3)。
【0062】
この状態で、コントローラ42から振動測定装置22a、22bに、振動発生動作信号を送信する(ステップS6-1)。振動測定装置22a、22bが振動発生動作信号を受信すると、制御手段27a、27bは、上部の音発生器31a、下部の音発生器31bを指定された時間動作させ上部及び下部の点検対象物を振動させる(ステップS6-2)。音発生器31a、31bが停止した後にコントローラ42から振動測定装置22a、22bに振動測定の動作信号を送信する(ステップS6-3)。振動測定装置22a、22bが動作信号を受信すると、制御手段27a、27bはレーザードップラ振動計25a、25bを動作させ、点検対象物の振動データを取得し、コントローラ42に送信する(ステップS7)。
【0063】
一方、ステップS4において自律飛行が選択されると、無人航空機11は点検対象物の位置情報に基づき点検対象物に向かって自動飛行する。無人航空機11は、上部の点検対象物と下部の点検対象物との間に飛行し(ステップS5-1)、さらに上部のカメラ35aが上部の点検対象物を撮影する位置に移動する(ステップS5-2)。以降、ステップS5-3、ステップS6-1、ステップS6-2、ステップS6-3、ステップS7の要領で上部及び下部それぞれの点検対象物の振動データを取得しコントローラ42に送信する。
【0064】
コントローラ42は、点検対象物の振動データを受信すると、当該振動データを点検対象物の識別番号と紐付けし、さらに点検日時を付加し状態判定装置61に自動送信する(ステップS8)。状態判定装置61は、点検対象物の振動データを受信するとデータベースから該当する点検対象物の過去の振動データを読み出し、これと比較して上部及び下部それぞれの点検対象物の異常の有無を判定する(ステップS9)。状態判定装置61は、この結果をデータベース64に記録し、また当該結果をコントローラ42に送信する(ステップS10)。コントローラ42は、判定結果をディスプレイ51に表示し(ステップS11)、点検者(オペレータ)200は、点検対象物の異常の有無をその場で知ることができる。
【0065】
左右に並ぶ2つの点検対象物を点検するときは、図8に示すように左右の点検対象物の中間でかつ、左右の点検対象物の上方に無人航空機11を位置せしめ下右部のカメラ35bで右側の点検対象物を撮影し、撮影する画像の中心に右側の点検対象物が写るようにカメラ35bの向きを変える(ステップS5-3)。この位置で無人航空機11をホバリングさせ、下左部のカメラ35cで左側の点検対象物を撮影し、撮影する画像の中心に左側の点検対象物が写るようにカメラ35cの向きを変える(ステップS5-4)。以降、上下の配置される点検対象物と同じ要領で点検対象物の振動データの取得及び異常の判定を行う。
【0066】
本発明の第2実施形態の点検システム2は、同時に又は一緒に2つの点検対象物を点検することができるため効率的である。このとき点検対象物は、上下方向に並ぶ点検対象物のみならず左右方向に並ぶ点検対象物も点検できるため使い勝手がよい。また同時に又は一緒に2つの点検対象物を点検することで、2つの点検対象物が同じ条件で点検される。これにより風速・風向き・気温・電線潮流などの測定環境による違いが排除され点検結果の信頼性が高まる。
【0067】
また本発明の第2実施形態の点検システム2は、点検対象物を強制的に振動させる振動発生手段30を備えるので信頼性の高いデータが得られる。また本発明の第2実施形態の点検システム2において、カメラ35の撮影する方向と音を発する方向と振動測定方向とを一致させれば、カメラ35で点検対象物を捉えれば振動測定方向が自動的に点検対象物の方向を向くため使い勝手がよい。
【0068】
以上、第1及び第2実施形態の点検システム1、2を用いて、本発明の点検システムの構成及び使用方法を説明したが、本発明の点検システムは、上記実施形態に限定されるものではなく要旨を変更しない範囲で変形することができる。
【0069】
第1及び第2実施形態の点検システム1、2において、コントローラ41、42と状態判定手段61とが別体となっているが、コントローラ41、42と状態判定手段61とを一体化させてもよい。またデータベースのみをサーバに移し、コントローラ41、42と状態判定手段61とを一体化させてもよい。
【0070】
また本発明の点検システムにおいて、振動測定装置21、22にレーザーポインタを設け、レーザー光を点検対象物に照射させるようにしてもよい。これによりカメラ35による点検対象物の撮影が容易となる。振動測定装置22においては、レーザーポインタのレーザー照射光がカメラ35の撮影方向と同一となるように可動機構36に取付けるのがよい。
【0071】
また本発明の点検システムにおいて、振動測定装置21、22にカメラ35を搭載する場合、振動測定時に点検対象物を撮影し、撮影データを振動データと紐付けし、状態判定装置61のデータベースに保存してもよい。また点検対象物を含む地図データを取得し、当該地図データを点検対象物一覧表に加えてもよい。点検対象物の位置データをこの地図データと関連付けてコントローラ41、42のディスプレイ51に表示すれば、点検対象物の発見、確認が容易になる。
【0072】
以上のとおり、図面を参照しながら好適な実施形態を説明したが、当業者であれば、本明細書を見て、自明な範囲内で種々の変更及び修正を容易に想定するであろう。従って、そのような変更及び修正は、請求の範囲から定まる発明の範囲内のものと解釈される。
【符号の説明】
【0073】
1、2 離隔距離測定システム
11 無人航空機
12 GPS
11 無人航空機
12 GPS
21、22、22a、22b、22c 振動測定装置
25、25a、25b、25c レーザードップラ振動計
30、30a、30b、30c 振動発生手段
35、35a、35b、35c カメラ
36、36a、36b、36c 可動機構
41、42 コントローラ
45 飛行制御手段
46、46a、46b、46c 振動測定制御手段
47、47a、47b、47c 振動発生制御手段
48、48a、48b、48c カメラ制御手段
49、49a、49b、49c 可動機構制御手段
61 状態判定装置
100 鉄塔
101 特別高圧送電線
102 防振装置
103 複導体用のスペーサ
104 ねじり防止ダンパ
105 碍子
106 相間スペーサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10