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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022177975
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】画像形成装置及び画像形成方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20221125BHJP
【FI】
B41J2/01 125
B41J2/01 305
B41J2/01 401
B41J2/01 451
【審査請求】未請求
【請求項の数】30
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021084427
(22)【出願日】2021-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117651
【弁理士】
【氏名又は名称】高垣 泰志
(72)【発明者】
【氏名】冠城 光男
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056EA05
2C056EA06
2C056EB13
2C056EB14
2C056EB29
2C056EB30
2C056EC12
2C056EC29
2C056EC31
2C056HA29
2C056HA41
2C056HA46
(57)【要約】
【課題】タック紙などの多層構造を有する記録媒体が用いられる場合において記録媒体の表面温度を適正温度に昇温させることを可能にし、適切なインク径を実現する。
【解決手段】画像形成装置1は、所定の搬送路に沿って記録媒体9を搬送し、記録媒体9が所定の描画位置を通過する際にインクジェットヘッド51から記録媒体9の表面にインクを吐出することにより画像形成を行う。画像形成装置1は、搬送路において描画位置の上流側に設けられ、記録媒体9を加熱する第1加熱部31と、第1加熱部31を制御するコントローラ7とを備える。第1加熱部31は、記録媒体9の表面側を加熱する表面加熱部32と、記録媒体9の裏面側を加熱する裏面加熱部33とを有している。コントローラ7は、記録媒体9が多層構造を有する媒体である場合に表面加熱部32と裏面加熱部33とを個別に温度制御する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の搬送路に沿って記録媒体を搬送し、前記記録媒体が所定の描画位置を通過する際に前記記録媒体の表面にインクを吐出することによって画像を形成する画像形成装置であって、
前記搬送路において前記描画位置の上流側に設けられ、前記記録媒体を加熱する第1加熱手段と、
前記第1加熱手段を制御する制御手段と、
を備え、
前記第1加熱手段は、前記記録媒体の表面側を加熱する表面加熱手段と、前記記録媒体の裏面側を加熱する裏面加熱手段とを有し、
前記制御手段は、前記記録媒体が多層構造を有する媒体である場合に前記表面加熱手段と前記裏面加熱手段とを個別に温度制御することを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記裏面加熱手段を所定の目標温度に昇温させ、前記表面加熱手段を前記目標温度よりも高い温度に昇温させることを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記記録媒体が前記描画位置に到達する際に前記記録媒体の表面温度と前記記録媒体の裏面温度とを所定の目標温度に一致させる制御を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記第1加熱手段と前記描画位置との間に設けられ、前記記録媒体の裏面側を加熱する第2加熱手段を更に備え、
前記制御手段は、更に前記第2加熱手段を制御することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記第2加熱手段を所定の目標温度に昇温させることを特徴とする請求項4に記載の画像形成装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記第2加熱手段を制御することにより、前記記録媒体の表面温度を所定の目標温度に保持した状態で前記記録媒体を前記描画位置に到達させることを特徴とする請求項4又は5に記載の画像形成装置。
【請求項7】
前記搬送路において前記描画位置の下流側に設けられ、前記記録媒体の表面に吐出されたインクを定着させる定着手段と、
前記描画位置と前記定着手段との間に設けられ、前記記録媒体の裏面側を加熱する第3加熱手段と、
を更に備え、
前記制御手段は、更に前記第3加熱手段を制御することを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の画像形成装置。
【請求項8】
前記制御手段は、前記第3加熱手段を所定の目標温度に昇温させることを特徴とする請求項7に記載の画像形成装置。
【請求項9】
前記制御手段は、印刷対象となる画像データに基づいて前記記録媒体に対する描画率を算出し、前記描画率に基づいて前記第3加熱手段の温度設定を行うことを特徴とする請求項7に記載の画像形成装置。
【請求項10】
前記制御手段は、前記第3加熱手段を制御することにより、前記記録媒体の表面温度を所定の目標温度に保持した状態で前記記録媒体を前記定着手段に到達させることを特徴とする請求項7乃至9のいずれかに記載の画像形成装置。
【請求項11】
前記制御手段は、前記記録媒体の特性に応じて前記表面加熱手段を昇温させる温度を設定することを特徴とする請求項1乃至10のいずれかに記載の画像形成装置。
【請求項12】
前記制御手段は、前記記録媒体の特性に応じて前記記録媒体の搬送速度を設定することを特徴とする請求項1乃至11のいずれかに記載の画像形成装置。
【請求項13】
前記記録媒体の特性は、多層構造を形成する各層の材質と厚みとを含むことを特徴とする請求項11又は12に記載の画像形成装置。
【請求項14】
前記搬送路に沿って搬送される前記記録媒体の表面温度及び裏面温度を測定する温度測定手段、
を更に備え、
前記制御手段は、前記温度測定手段によって測定される前記記録媒体の表面温度及び裏面温度に基づいて前記表面加熱手段の温度を調整することを特徴とする請求項1乃至13のいずれかに記載の画像形成装置。
【請求項15】
前記搬送路に沿って搬送される前記記録媒体の表面温度及び裏面温度を測定する温度測定手段、
を更に備え、
前記制御手段は、前記温度測定手段によって測定される前記記録媒体の表面温度及び裏面温度に基づいて前記記録媒体の搬送速度を調整することを特徴とする請求項1乃至13のいずれかに記載の画像形成装置。
【請求項16】
前記記録媒体の種類ごとに、前記記録媒体の特性情報と、前記記録媒体に対する理想的な温度プロファイルを実現するための制御情報とを対応付けた媒体情報を記憶する記憶手段、
を更に備え、
前記制御手段は、前記記録媒体として前記記憶手段に前記媒体情報が既に記憶されている媒体が指定された場合、前記記憶手段から前記媒体情報を読み出し、前記制御情報に基づいて前記表面加熱手段と前記裏面加熱手段とのそれぞれを個別に温度制御することを特徴とする請求項1乃至13のいずれかに記載の画像形成装置。
【請求項17】
前記搬送路に沿って搬送される前記記録媒体の表面温度及び裏面温度を複数箇所で測定する温度測定手段、
を更に備え、
前記制御手段は、前記温度測定手段によって前記搬送路の複数箇所で測定される前記記録媒体の表面温度及び裏面温度に基づいて前記記録媒体の温度プロファイルを作成し、前記記憶手段に記憶させることを特徴とする請求項16に記載の画像形成装置。
【請求項18】
前記制御手段は、前記記録媒体として前記記憶手段に前記媒体情報が記憶されていない新規な媒体が指定された場合、前記記憶手段に既に記憶されている前記媒体情報と前記温度プロファイルとに基づいて前記新規な媒体に対応する理想的な温度プロファイルを決定し、当該温度プロファイルに基づいて前記表面加熱手段を昇温させる温度を設定することを特徴とする請求項17に記載の画像形成装置。
【請求項19】
前記制御手段は、前記新規な媒体に対応する理想的な温度プロファイルを決定する際に機械学習を実施することを特徴とする請求項18に記載の画像形成装置。
【請求項20】
所定の搬送路に沿って記録媒体を搬送し、前記記録媒体が所定の描画位置を通過する際に前記記録媒体の表面にインクを吐出することによって画像を形成する画像形成方法であって、
前記描画位置の上流側において前記記録媒体を加熱する第1加熱工程、
を有し、
前記第1加熱工程は、前記記録媒体が多層構造を有する媒体である場合に、前記記録媒体の表面側と裏面側とをそれぞれ異なる温度に加熱することを特徴とする画像形成方法。
【請求項21】
前記第1加熱工程は、前記記録媒体の裏面側を所定の目標温度に昇温させ、前記記録媒体の表面側を前記目標温度よりも高い温度に昇温させることを特徴とする請求項20に記載の画像形成方法。
【請求項22】
前記第1加熱工程の後、前記記録媒体が前記描画位置に到達するまでの区間において、前記記録媒体の裏面側を加熱する第2加熱工程、
を更に有することを特徴とする請求項20又は21に記載の画像形成方法。
【請求項23】
前記第2加熱工程は、前記記録媒体の裏面側を所定の目標温度に保持することを特徴とする請求項22に記載の画像形成方法。
【請求項24】
前記描画位置を通過した前記記録媒体が下流側の定着手段に到達するまでの区間において、前記記録媒体の裏面側を加熱する第3加熱工程、
を更に有することを特徴とする請求項20乃至23のいずれかに記載の画像形成方法。
【請求項25】
前記第3加熱工程は、前記記録媒体の裏面側を所定の目標温度に保持することを特徴とする請求項24に記載の画像形成方法。
【請求項26】
前記第1加熱工程は、前記記録媒体の特性に応じて前記記録媒体の表面側の温度を設定することを特徴とする請求項20乃至25のいずれかに記載の画像形成方法。
【請求項27】
前記記録媒体の特性に応じて前記記録媒体の搬送速度を設定する工程、
を更に有することを特徴とする請求項20乃至26のいずれかに記載の画像形成方法。
【請求項28】
前記記録媒体の特性は、多層構造を形成する各層の材質と厚みとを含むことを特徴とする請求項26又は27に記載の画像形成方法。
【請求項29】
前記搬送路に沿って搬送される前記記録媒体の表面温度及び裏面温度を測定する温度測定工程、
を更に有し、
前記第1加熱工程は、前記温度測定工程によって測定される前記記録媒体の表面温度及び裏面温度に基づいて前記記録媒体の表面側を昇温させる温度を調整することを特徴とする請求項20乃至28のいずれかに記載の画像形成方法。
【請求項30】
前記搬送路に沿って搬送される前記記録媒体の表面温度及び裏面温度を測定する温度測定工程と、
前記温度測定工程によって測定される前記記録媒体の表面温度及び裏面温度に基づいて前記記録媒体の搬送速度を調整する工程と、
を更に有することを特徴とする請求項20乃至28のいずれかに記載の画像形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット方式で記録媒体に画像を形成する画像形成装置及び画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶剤系インクを吐出して記録媒体に画像形成を行うインクジェット方式の画像形成装置は、印刷用紙などの記録媒体を所定の搬送路に沿って搬送し、記録媒体が所定の描画位置を通過する際に高温状態で溶融させたインクを吐出し、記録媒体の表面に画像を形成する。記録媒体の表面に着弾したインクは、記録媒体の表面において一定の領域に広がることにより、予め定められたインク径となり、所定解像度の画像を形成する。
【0003】
記録媒体の表面に着弾したインクの広がり方は、温度によって変わる。例えば、記録媒体の温度が低い場合には、記録媒体の表面に着弾したインクが直ぐに固まるため、インク径が一定の領域に満たない状態となり、画質劣化の要因となる。また、記録媒体の温度が高すぎる場合には、記録媒体の表面に着弾したインクが一定の領域を超えて広がるため、インク径が大きくなって画像に滲みが生じ、これも画質劣化の要因となる。
【0004】
一方、従来、搬送路に沿って搬送される記録媒体が描画位置に到達する前に記録媒体を加熱するものが知られている(例えば特許文献1、2)。これら従来技術は、いずれも記録媒体が描画位置に到達する前に記録媒体を加熱することで記録媒体の表面温度が所定の温度となるように制御する。これにより、描画位置で記録媒体の表面に着弾したインクのインク径が小さくなり過ぎることや、大きくなり過ぎることを、ある程度は抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-54437号公報
【特許文献2】特開2014-139011号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ラベル印刷などで用いられるタック紙など、多層構造を有する記録媒体を使用して画像形成を行う場合、上述した従来技術の温度制御では、記録媒体が描画位置を通過するときの表面温度を所定の温度とすることが困難である。一般に、タック紙は、3層構造となっており、インクが付着する表面側に上質紙やフィルムなどが設けられ、中間層として粘着層を有し、裏面側に剥離紙などが配置されている。各層の厚みは、記録媒体の種類によって異なるが、一般的には、表面側の上質紙やフィルムなどの厚みが最も厚く、粘着層や剥離紙などはそれよりも薄い。そのような多層構造を有する記録媒体は、各層の材質や厚みが異なるため、各層の熱伝達係数が異なるものとなっている。特に、粘着層には、不純物や微小な空洞が含まれており、記録媒体の熱伝達係数にムラを生じさせている。そのため、記録媒体の表面及び裏面の双方を均等に加熱するだけでは、記録媒体の表面を所定の温度に昇温させることが困難である。したがって、従来技術では、記録媒体として、タック紙などの多層構造を有する記録媒体が用いられる場合に、適切なインク径を実現することが難しく、画質劣化を生じさせるという問題がある。
【0007】
そこで本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、タック紙などの多層構造を有する記録媒体が用いられる場合において記録媒体の表面温度を適正温度に昇温できるようにして適切なインク径を実現できるようにした画像形成装置及び画像形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1に係る発明は、所定の搬送路に沿って記録媒体を搬送し、前記記録媒体が所定の描画位置を通過する際に前記記録媒体の表面にインクを吐出することによって画像を形成する画像形成装置であって、前記搬送路において前記描画位置の上流側に設けられ、前記記録媒体を加熱する第1加熱手段と、前記第1加熱手段を制御する制御手段と、を備え、前記第1加熱手段は、前記記録媒体の表面側を加熱する表面加熱手段と、前記記録媒体の裏面側を加熱する裏面加熱手段とを有し、前記制御手段は、前記記録媒体が多層構造を有する媒体である場合に前記表面加熱手段と前記裏面加熱手段とを個別に温度制御することを特徴とする構成である。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1の画像形成装置において、前記制御手段は、前記裏面加熱手段を所定の目標温度に昇温させ、前記表面加熱手段を前記目標温度よりも高い温度に昇温させることを特徴とする構成である。
【0010】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2の画像形成装置において、前記制御手段は、前記記録媒体が前記描画位置に到達する際に前記記録媒体の表面温度と前記記録媒体の裏面温度とを所定の目標温度に一致させる制御を行うことを特徴とする構成である。
【0011】
請求項4に係る発明は、請求項1乃至3のいずれかの画像形成装置において、前記第1加熱手段と前記描画位置との間に設けられ、前記記録媒体の裏面側を加熱する第2加熱手段を更に備え、前記制御手段は、更に前記第2加熱手段を制御することを特徴とする構成である。
【0012】
請求項5に係る発明は、請求項4の画像形成装置において、前記制御手段は、前記第2加熱手段を所定の目標温度に昇温させることを特徴とする構成である。
【0013】
請求項6に係る発明は、請求項4又は5の画像形成装置において、前記制御手段は、前記第2加熱手段を制御することにより、前記記録媒体の表面温度を所定の目標温度に保持した状態で前記記録媒体を前記描画位置に到達させることを特徴とする構成である。
【0014】
請求項7に係る発明は、請求項1乃至6のいずれかの画像形成装置において、前記搬送路において前記描画位置の下流側に設けられ、前記記録媒体の表面に吐出されたインクを定着させる定着手段と、前記描画位置と前記定着手段との間に設けられ、前記記録媒体の裏面側を加熱する第3加熱手段と、を更に備え、前記制御手段は、更に前記第3加熱手段を制御することを特徴とする構成である。
【0015】
請求項8に係る発明は、請求項7の画像形成装置において、前記制御手段は、前記第3加熱手段を所定の目標温度に昇温させることを特徴とする構成である。
【0016】
請求項9に係る発明は、請求項7の画像形成装置において、前記制御手段は、印刷対象となる画像データに基づいて前記記録媒体に対する描画率を算出し、前記描画率に基づいて前記第3加熱手段の温度設定を行うことを特徴とする構成である。
【0017】
請求項10に係る発明は、請求項7乃至9のいずれかの画像形成装置において、前記制御手段は、前記第3加熱手段を制御することにより、前記記録媒体の表面温度を所定の目標温度に保持した状態で前記記録媒体を前記定着手段に到達させることを特徴とする構成である。
【0018】
請求項11に係る発明は、請求項1乃至10のいずれかの画像形成装置において、前記制御手段は、前記記録媒体の特性に応じて前記表面加熱手段を昇温させる温度を設定することを特徴とする構成である。
【0019】
請求項12に係る発明は、請求項1乃至11のいずれかの画像形成装置において、前記制御手段は、前記記録媒体の特性に応じて前記記録媒体の搬送速度を設定することを特徴とする構成である。
【0020】
請求項13に係る発明は、請求項11又は12の画像形成装置において、前記記録媒体の特性は、多層構造を形成する各層の材質と厚みとを含むことを特徴とする構成である。
【0021】
請求項14に係る発明は、請求項1乃至13のいずれかの画像形成装置において、前記搬送路に沿って搬送される前記記録媒体の表面温度及び裏面温度を測定する温度測定手段、を更に備え、前記制御手段は、前記温度測定手段によって測定される前記記録媒体の表面温度及び裏面温度に基づいて前記表面加熱手段の温度を調整することを特徴とする構成である。
【0022】
請求項15に係る発明は、請求項1乃至13のいずれかの画像形成装置において、前記搬送路に沿って搬送される前記記録媒体の表面温度及び裏面温度を測定する温度測定手段、を更に備え、前記制御手段は、前記温度測定手段によって測定される前記記録媒体の表面温度及び裏面温度に基づいて前記記録媒体の搬送速度を調整することを特徴とする構成である。
【0023】
請求項16に係る発明は、請求項1乃至13のいずれかの画像形成装置において、前記記録媒体の種類ごとに、前記記録媒体の特性情報と、前記記録媒体に対する理想的な温度プロファイルを実現するための制御情報とを対応付けた媒体情報を記憶する記憶手段、を更に備え、前記制御手段は、前記記録媒体として前記記憶手段に前記媒体情報が既に記憶されている媒体が指定された場合、前記記憶手段から前記媒体情報を読み出し、前記制御情報に基づいて前記表面加熱手段と前記裏面加熱手段とのそれぞれを個別に温度制御することを特徴とする構成である。
【0024】
請求項17に係る発明は、請求項16の画像形成装置において、前記搬送路に沿って搬送される前記記録媒体の表面温度及び裏面温度を複数箇所で測定する温度測定手段、を更に備え、前記制御手段は、前記温度測定手段によって前記搬送路の複数箇所で測定される前記記録媒体の表面温度及び裏面温度に基づいて前記記録媒体の温度プロファイルを作成し、前記記憶手段に記憶させることを特徴とする構成である。
【0025】
請求項18に係る発明は、請求項17の画像形成装置において、前記制御手段は、前記記録媒体として前記記憶手段に前記媒体情報が記憶されていない新規な媒体が指定された場合、前記記憶手段に既に記憶されている前記媒体情報と前記温度プロファイルとに基づいて前記新規な媒体に対応する理想的な温度プロファイルを決定し、当該温度プロファイルに基づいて前記表面加熱手段を昇温させる温度を設定することを特徴とする構成である。
【0026】
請求項19に係る発明は、請求項18の画像形成装置において、前記制御手段は、前記新規な媒体に対応する理想的な温度プロファイルを決定する際に機械学習を実施することを特徴とする構成である。
【0027】
請求項20に係る発明は、所定の搬送路に沿って記録媒体を搬送し、前記記録媒体が所定の描画位置を通過する際に前記記録媒体の表面にインクを吐出することによって画像を形成する画像形成方法であって、前記描画位置の上流側において前記記録媒体を加熱する第1加熱工程、を有し、前記第1加熱工程は、前記記録媒体が多層構造を有する媒体である場合に、前記記録媒体の表面側と裏面側とをそれぞれ異なる温度に加熱することを特徴とする構成である。
【0028】
請求項21に係る発明は、請求項20の画像形成方法において、前記第1加熱工程は、前記記録媒体の裏面側を所定の目標温度に昇温させ、前記記録媒体の表面側を前記目標温度よりも高い温度に昇温させることを特徴とする構成である。
【0029】
請求項22に係る発明は、請求項20又は21の画像形成方法において、前記第1加熱工程の後、前記記録媒体が前記描画位置に到達するまでの区間において、前記記録媒体の裏面側を加熱する第2加熱工程、を更に有することを特徴とする構成である。
【0030】
請求項23に係る発明は、請求項22の画像形成方法において、前記第2加熱工程は、前記記録媒体の裏面側を所定の目標温度に保持することを特徴とする構成である。
【0031】
請求項24に係る発明は、請求項20乃至23のいずれかの画像形成方法において、前記描画位置を通過した前記記録媒体が下流側の定着手段に到達するまでの区間において、前記記録媒体の裏面側を加熱する第3加熱工程、を更に有することを特徴とする構成である。
【0032】
請求項25に係る発明は、請求項24の画像形成方法において、前記第3加熱工程は、前記記録媒体の裏面側を所定の目標温度に保持することを特徴とする構成である。
【0033】
請求項26に係る発明は、請求項20乃至25のいずれかの画像形成方法において、前記第1加熱工程は、前記記録媒体の特性に応じて前記記録媒体の表面側の温度を設定することを特徴とする構成である。
【0034】
請求項27に係る発明は、請求項20乃至26のいずれかの画像形成方法において、前記記録媒体の特性に応じて前記記録媒体の搬送速度を設定する工程、を更に有することを特徴とする構成である。
【0035】
請求項28に係る発明は、請求項26又は27の画像形成方法において、前記記録媒体の特性は、多層構造を形成する各層の材質と厚みとを含むことを特徴とする構成である。
【0036】
請求項29に係る発明は、請求項20乃至28のいずれかの画像形成方法において、前記搬送路に沿って搬送される前記記録媒体の表面温度及び裏面温度を測定する温度測定工程、を更に有し、前記第1加熱工程は、前記温度測定工程によって測定される前記記録媒体の表面温度及び裏面温度に基づいて前記記録媒体の表面側を昇温させる温度を調整することを特徴とする構成である。
【0037】
請求項30に係る発明は、請求項20乃至28のいずれかの画像形成方法において、前記搬送路に沿って搬送される前記記録媒体の表面温度及び裏面温度を測定する温度測定工程と、前記温度測定工程によって測定される前記記録媒体の表面温度及び裏面温度に基づいて前記記録媒体の搬送速度を調整する工程と、を更に有することを特徴とする構成である。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、タック紙などの多層構造を有する記録媒体が用いられる場合において、記録媒体の表面温度を適切な温度に昇温させることが可能であり、適切なインク径で画像形成を行うことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】画像形成装置の一構成例を示す図である。
図2】単層構造の記録媒体の断面構造とその理想的な温度プロファイルの例を示す図である。
図3】多層構造を有する記録媒体の断面構造とその理想的な温度プロファイルの例を示す図である。
図4】コントローラの一構成例を示すブロック図である。
図5】コントローラによる処理手順の一例を示すフローチャートである。
図6】ユーザーが記録媒体を指定する際の画面遷移を示す図である。
図7】ユーザーによって新規な記録媒体が指定された場合のコントローラによる処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明に関する好ましい実施形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。尚、以下に説明する実施形態において互いに共通する要素には同一符号を付しており、それらについての重複する説明は省略する。
【0041】
図1は、本発明の一実施形態における画像形成装置1の構成例を示す図である。この画像形成装置1は、記録媒体9を所定の搬送路に沿って搬送し、搬送路内の所定の描画位置において溶剤系のインクを記録媒体9の表面に吐出することによって記録媒体9に画像を形成する装置である。本実施形態では一例として、画像形成装置1がロールトゥロール方式で長尺ウェブ状の記録媒体9を搬送し、その長尺ウェブ状の記録媒体9の表面にインクを吐出して画像を形成する装置を取り上げて説明する。
【0042】
画像形成装置1は、給紙部2と、プレヒート部3と、ならし部4と、画像形成部5と、回収部6と、コントローラ7とを備えている。この画像形成装置1は、給紙部2から回収部6に向けて矢印Fで示す方向に記録媒体9を搬送する。そして給紙部2と回収部6との間に形成される搬送路には、記録媒体9の搬送方向上流側から順に、プレヒート部3、ならし部4及び画像形成部5が配置されている。
【0043】
給紙部2は、記録媒体9を搬送路に向けて供給するためのものである。この給紙部2は、ウェブ状の記録媒体9が巻き付けられた給紙ローラー21と、ローラー22と、給紙ローラー21を駆動するモーター23とを備えている。例えば、モーター23は、給紙ローラー21の軸芯を回転駆動することにより、ローラー22を介してウェブ状の記録媒体9を搬送路に向けて送り出す。尚、給紙部2は、記録媒体9の表面(インクによる画像を形成する面)を上側に向けて給紙する。
【0044】
プレヒート部3は、給紙部2から供給される記録媒体9を加熱するためのものである。このプレヒート部3は、第1加熱部31を有している。第1加熱部31は、記録媒体9の表面と裏面の両面を同時に加熱できるようになっている。具体的には、第1加熱部31は、記録媒体9の搬送路を挟んで互いに対向するように配置される表面加熱部32と裏面加熱部33とを備えている。表面加熱部32は、記録媒体9の表面側を加熱するものである。また、裏面加熱部33は、記録媒体9の裏面側を加熱するものである。例えば、表面加熱部32及び裏面加熱部33は、面状のヒーターとして構成され、熱伝導率の高い金属製プレート部材の内側に複数の棒状ヒーター34が内蔵されている。そして複数の棒状ヒーター34が駆動されることにより、金属製プレート部材の搬送路に臨む面が均等に昇温されるようになっている。表面加熱部32と裏面加熱部33との間には、記録媒体9を通紙可能な所定間隔の隙間が形成され、その隙間によって搬送路が形成される。このプレヒート部3は、記録媒体9の搬送方向に沿って所定長さの区間に設けられている。そのため、プレヒート部3は、記録媒体9が所定長さの区間を搬送される間、記録媒体9の表面及び裏面を継続的に加熱することができる。
【0045】
ならし部4は、プレヒート部3で加熱された記録媒体9の温度を均一にならすためのものであり、記録媒体9の搬送方向においてプレヒート部3の下流側に設けられる。ならし部4は、プレヒート部3から送り出される記録媒体9の温度を測定する温度センサー41,42と、記録媒体9の裏面側を加熱する第2加熱部43と、画像形成部5に突入する直前の記録媒体9の温度を測定する温度センサー44,45とを備えている。また、ならし部4は、記録媒体9の搬送方向に沿って所定長さの区間に設けられている。
【0046】
温度センサー41は、プレヒート部3を通過した直後の記録媒体9の表面温度を測定する。また、温度センサー42は、プレヒート部3を通過した直後の記録媒体9の裏面温度を測定する。これら温度センサー41,42は、例えば記録媒体9の幅方向(搬送方向に直交する方向)の複数箇所に設置されている。尚、温度センサー41,42は、記録媒体9の表面又は裏面に接触して温度を測定する接触式センサーであっても良いし、赤外線センサーなどのような非接触式センサーであっても良い。
【0047】
第2加熱部43は、記録媒体9の搬送路の下側に配置され、記録媒体9の裏面側を加熱する。第2加熱部43は、記録媒体9の裏面側を加熱する複数のヒーター43a,43b,43cを備えている。これらヒーター43a,43b,43cは、例えば第1加熱部31の裏面加熱部33と同様に、面状のヒーターとして構成され、熱伝導率の高い金属製プレート部材の内側に複数の棒状ヒーターが内蔵されており、金属製プレート部材の上面を均等に昇温させることができる。搬送路に沿って搬送される記録媒体9は、ならし部4を搬送されるとき、それらヒーター43a,43b,43cによって構成される第2加熱部43の上面に近接した位置を搬送される。尚、本実施形態では、第2加熱部43が搬送路に沿って配置された複数のヒーター43a,43b,43cによって構成される場合を例示しているが、これに限られるものではなく、1つのヒーターによって構成されるものであっても構わない。この場合、1つのヒーターは、記録媒体9の搬送方向においてならし部4の始点から終点までをカバーできる範囲に配置される。
【0048】
温度センサー44は、ならし部4を通過し、画像形成部5に突入する直前の記録媒体9の表面温度を測定する。また、温度センサー45は、ならし部4を通過し、画像形成部5に突入する直前の記録媒体9の裏面温度を測定する。これら温度センサー44,45も、上述した温度センサー41,42と同様に、例えば記録媒体9の幅方向(搬送方向に直交する方向)の複数箇所に設置されている。また、温度センサー44,45は、接触式センサーであっても良いし、非接触式センサーであっても良い。
【0049】
画像形成部5は、ならし部4の下流側において、記録媒体9の表面にインクによる画像を形成する処理部である。この画像形成部5は、記録媒体9の搬送方向上流側に配置されるインクジェットヘッド51と、記録媒体9の裏面側を加熱する第3加熱部52と、記録媒体9の搬送方向下流側に配置される定着部53とを備えている。また、画像形成部5は、記録媒体9の搬送方向に沿って所定長さの区間に設けられている。
【0050】
インクジェットヘッド51は、記録媒体9の搬送路において規定される描画位置の上方位置に設けられる。インクジェットヘッド51は、描画位置を通過する記録媒体9の表面にインクを吐出することによって印刷対象となる画像データに対応した画像を形成する。例えば、本実施形態では、ならし部4によるならし区間が終了した直後の位置に描画位置が設けられている。また、本実施形態では、溶剤系のインクを用いるため、インクジェットヘッド51は、高温でインクを溶融させた状態に保持し、溶融させたインク液滴を吐出する。インクジェットヘッド51は、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の4色のインクを充填しており、各色のインクを個別に吐出するできる多数のノズルを有している。それら多数のノズルは、記録媒体9の幅方向(主走査方向)に沿って所定間隔で配置される。そのため、インクジェットヘッド51は、記録媒体9に対してカラー画像を形成することができる。
【0051】
第3加熱部52は、記録媒体9の裏面側を加熱する複数のヒーター52a,52b,52cを備えている。これらヒーター52a,52b,52cは、例えば第2加熱部43と同様に、面状のヒーターとして構成され、熱伝導率の高い金属製プレート部材の内側に複数の棒状ヒーターが内蔵されている。搬送路に沿って搬送される記録媒体9は、画像形成部5を搬送されるとき、それらヒーター52a,52b,52cによって構成される第3加熱部52の上面に近接した位置を搬送される。尚、本実施形態では、第3加熱部52も、第2加熱部43と同様に複数のヒーター52a,52b,52cによって構成される場合を例示しているが、これに限られるものではなく、1つのヒーターによって構成されるものであっても構わない。この場合、1つのヒーターは、記録媒体9の搬送方向において画像形成部5の始点から終点までをカバーできる範囲に配置される。
【0052】
定着部53は、インクジェットヘッド51の下流側であって、画像形成部5の終点位置に配置される。定着部53は、記録媒体9の表面に吐出されたインクを記録媒体9の表面に定着させるものである。例えば、本実施形態で用いられるインクは、紫外線を照射することによって硬化する特性を有するUVインクである。そのため、定着部53は、搬送路の上方位置に設けられ、インクが吐出された記録媒体9の表面に紫外線を照射することによってインクを硬化させ、記録媒体9の表面に定着させる。
【0053】
回収部6は、インクによって表面に画像が形成された記録媒体9を回収するためのものであり、ローラー61と、巻取ローラー62と、モーター63とを備えている。画像形成部5から送り出される記録媒体9は、ローラー61を介して巻取ローラー62が位置する方向に進行し、巻取ローラー62に順次巻き付けられていく。例えば、モーター63は、巻取ローラー62の軸芯を回転駆動することにより、巻取ローラー62に記録媒体9を巻き付けていくことができる。
【0054】
給紙部2のローラー22と回収部6のローラー61は、搬送路に沿ってプレヒート部3、ならし部4及び画像形成部5を順次搬送される記録媒体9に一定のテンションを付与する。そのため、記録媒体9は、プレヒート部3、ならし部4及び画像形成部5のそれぞれを通過する際、第1加熱部31、第2加熱部43及び第3加熱部52のそれぞれに対して一定の位置関係を保持するようになっている。
【0055】
コントローラ7は、上述した各部の動作を制御する制御手段である。例えば、コントローラ7は、モーター23,63を制御することにより、記録媒体9の搬送速度を制御する。また、コントローラ7は、第1加熱部31、第2加熱部43及び第3加熱部52のそれぞれを制御することにより、搬送路に沿って搬送される記録媒体9の温度を制御する。また、コントローラ7は、温度センサー41,42,44,45によって測定される記録媒体9の温度に基づき、記録媒体9の実際の温度プロファイルが理想的な温度プロファイルとなっているか否かを判定し、記録媒体9の実際の温度プロファイルが理想的な温度プロファイルとなるように第1加熱部31、第2加熱部43及び第3加熱部52のそれぞれを制御することができると共に、記録媒体9の搬送速度を調整することもできる。コントローラ7は、第1加熱部31を制御するとき、表面加熱部32及び裏面加熱部33に対して同じ温度制御を適用するが可能であると共に、表面加熱部32及び裏面加熱部33に対して個別の温度制御を適用することも可能である。
【0056】
また、コントローラ7は、インクジェットヘッド51を制御することにより、ヘッドに充填されているインクを所定の温度に保持すると共に、印刷対象となる画像データに基づいてインクを吐出させる。更に、コントローラ7は、定着部53を制御することにより、記録媒体9に対して紫外線を照射し、インクによって形成された画像を記録媒体9に定着させる。
【0057】
上記のように構成される画像形成装置1は、記録媒体9として、普通紙などの単層構造の媒体を用いることが可能であると共に、タック紙などのように多層構造を有する媒体も用いることが可能である。インクジェットヘッド51から吐出されるインクは、例えば80℃程度の高温状態となっている。溶融状態のインクは、温度が高いほど流動性が高く、温度が低くなると流動性が低くなる。そのため、コントローラ7は、記録媒体9の表面温度を適正に管理することによって、記録媒体9の表面に着弾したインクのインク径を制御する。例えば、適切なインク径を実現するために記録媒体9の表面温度を40~45℃の範囲内に保持する必要があるとすると、記録媒体9の目標温度は42~43℃となる。この場合、コントローラ7は、給紙部2から給紙された記録媒体9がインクジェットヘッド51による描画位置に到達するまでに記録媒体9の表面温度が目標温度となるように制御する。
【0058】
図2(a)は、単層構造の記録媒体9の断面構造を示している。図2(a)に示すように、単層構造の記録媒体9は、その内部が1つの材質によって形成されているため、記録媒体9の熱伝達係数が均一である。そのため、コントローラ7は、第1加熱部31の表面加熱部32及び裏面加熱部33を均等に制御する。すなわち、コントローラ7は、記録媒体9がプレヒート部3を通過するとき、記録媒体9の表面及び裏面を均等に加熱することにより、記録媒体9の表面、内部及び裏面を含む全体の温度が均等に所定の目標温度(例えば43℃)となるように制御する。
【0059】
図2(b)は、単層構造の記録媒体9の理想的な温度プロファイルの一例を示している。図2(b)に示す温度プロファイルは、プレヒート部3において記録媒体9の表面温度T10を所定の目標温度に昇温させ、ならし部4においてその表面温度を保持するプロファイルとなっている。この温度プロファイルを実現するため、コントローラ7は、プレヒート部3の第1加熱部31で記録媒体9を加熱するとき、表面加熱部32と裏面加熱部33とを均等な温度に加熱制御する。このとき、コントローラ7は、表面加熱部32と裏面加熱部33との双方を記録媒体9の目標温度よりも高い温度に昇温させることにより、記録媒体9がプレヒート部3によるプレヒート区間を通過している間に記録媒体9の表面温度を常温(例えば25℃)から所定の目標温度(例えば43℃)へ昇温させる。そしてコントローラ7は、ならし部4に設けられている第2加熱部43の温度を記録媒体9の目標温度(例えば43℃)に設定し、ならし部4においても記録媒体9の加熱を継続する。これにより、ならし部4においては、記録媒体9の表面温度T10が目標温度に保持される。したがって、記録媒体9がインクジェットヘッド51による描画位置へ到達する際には、記録媒体9の表面温度を所定の目標温度に保持することが可能であり、記録媒体9の表面に着弾したインクが広がる領域を一定の領域とし、適切なインク径を実現することができる。
【0060】
次に、図3(a)は、タック紙などの多層構造を有する記録媒体9の断面構造を示している。尚、図3(a)では、3層構造の記録媒体9を示している。図3(a)に示すように、3層構造の記録媒体9は、表面側に配置される上質紙やフィルムなどで構成される第1層9aと、中間層として配置される粘着剤などで構成される第2層9bと、裏面側に配置される剥離紙などで構成される第3層9cとを有している。この記録媒体9では、各層の材質や厚みが異なる。特に厚みに関しては、第1層9aが最も厚く、第2層9b及び第3層9cは第1層9aよりも薄く形成されている。このような記録媒体9は各層の熱伝達係数が異なる。そのため、記録媒体9の表面側及び裏面側を均等に加熱したとしても、記録媒体9の表面温度及び裏面温度を均等に昇温させることができない。タック紙などの多層構造を有する記録媒体9の表面にインクを吐出する場合には、記録媒体9の表面だけでなく、裏面側や記録媒体の内部も所定の目標温度となるように管理することが好ましく、表面側だけが目標温度に到達していても裏面温度や内部温度が目標温度に到達していなければ、表面温度が直ぐに低下してしまい、インクを一定の領域に広げることができなくなる。そこで、本実施形態のコントローラ7は、多層構造を有する記録媒体9が使用されるとき、第1加熱部31の表面加熱部32及び裏面加熱部33を個別に制御するように構成される。具体的には、第1層9aの熱容量が第2層9b及び第3層9cよりも大きいため、コントローラ7は、記録媒体9がプレヒート部3を通過するとき、記録媒体9の表面側に強い熱量を与え、裏面側に表面側よりも弱い熱量を与えるように制御する。そして、コントローラ7は、ならし部4において記録媒体9の表面、内部及び裏面のそれぞれが所定の目標温度となるように制御する。
【0061】
図3(b)は、多層構造の記録媒体9の理想的な温度プロファイルの一例を示している。図3(b)に示す温度プロファイルでは、第1層9aの表面温度T20と、第1層9aと第2層9bとの境界部分の温度T21と、第2層9bと第3層9cとの境界部分の温度T223と、第3層9cの裏面温度T23とを示している。この温度プロファイルでは、プレヒート部3によるプレヒート区間において記録媒体9の表面温度T20を所定の目標温度(例えば43℃)よりも高い温度まで昇温させると共に、裏面温度T23を所定の目標温度よりも低い温度に昇温させ、その後、ならし部4によるならし区間において記録媒体9の表面温度T20及び裏面温度T23を所定の目標温度に一致させるプロファイルとなっている。
【0062】
この温度プロファイルを実現するため、コントローラ7は、プレヒート部3の第1加熱部31で記録媒体9を加熱するとき、表面加熱部32の設定温度と裏面加熱部33の設定温度とを異なる温度に設定し、表面加熱部32と裏面加熱部33とを個別に制御する。具体的には、コントローラ7は、裏面加熱部33を所定の目標温度(例えば43℃)に昇温させ、表面加熱部32をその目標温度よりも高い温度(例えば70℃程度)に昇温させる制御を行う。すなわち、コントローラ7は、表面加熱部32の温度を所定の目標温度よりも高い温度に設定し、裏面加熱部33の温度を所定の目標温度に設定して記録媒体9の表裏両面を同時加熱する。これにより、プレヒート区間では、記録媒体9の表面側が表面加熱部32によって加熱され、表面温度T20が所定の目標温度よりも高い温度に加熱される。一方、記録媒体9の裏面側は、裏面加熱部33によって加熱されるため、表面側よりも温度上昇率が低い。また、記録媒体9は0.5秒程度でプレヒート区間を通過するため、裏面加熱部33は、記録媒体9の裏面温度T23を所定の目標温度まで上昇させることができず、所定の目標温度よりも低い温度に記録媒体9を加熱する。したがって、プレヒート区間を通過した直後の記録媒体9は、図3(b)に示すように、表面温度T20が目標温度よりも高い温度まで昇温しており、裏面温度T23が目標温度よりも低い温度まで昇温している状態となる。このとき、記録媒体9の内部の境界温度T21,T22は、表面温度T20と裏面温度T23の間の温度となる。また、第1層9aと第2層9bとの間の境界温度T21は、第2層9bと第3層9cとの間の境界温度T22よりも高くなる。
【0063】
コントローラ7は、プレヒート区間において上記のような加熱を行い、その後、ならし部において記録媒体9の表面温度T20と裏面温度T23とが互いに目標温度(例えば43℃)で一致するように記録媒体9の裏面側だけを加熱する。このとき、コントローラ7は、第2加熱部43の複数のヒーター43a,43b,43cの温度を所定の目標温度(例えば43℃)に設定し、記録媒体9の裏面側だけを加熱する。
【0064】
ならし区間では記録媒体9の表面側が加熱されず、熱の放出が進行するため、プレヒート部3によって目標温度よりも高温に加熱された表面側の温度が次第に低下する。そのため、記録媒体9がならし区間に入ると、図3(b)に示すように、記録媒体9の表面温度T20が次第に低下する。そして、ならし区間が終了するときには、記録媒体9の表面温度T20が目標温度に一致するようになる。
【0065】
一方、記録媒体9の裏面側は、第2加熱部43によって継続的に加熱される。そのため、記録媒体9がならし区間に入った後においても、記録媒体9の裏面温度T23が継続して上昇する。そして、ならし区間が終了するときには、記録媒体9の裏面温度T23が目標温度に達するようになる。
【0066】
したがって、ならし区間が終了するときには、記録媒体9の表面温度T20及び裏面温度T23の双方が目標温度に一致する。このとき、記録媒体9の内部の境界温度T21,T22も目標温度に一致し、記録媒体9の内部において温度ムラが生じていない状態に均等化される。つまり、多層構造を有する記録媒体9を用いて画像形成が行われるとき、コントローラ7は、図3(b)に示すような温度プロファイルとなるように第1加熱部31及び第2加熱部43のそれぞれを制御し、記録媒体9が描画位置に到達する際に、記録媒体9の表面温度T20と裏面温度T23との双方を所定の目標温度(例えば43℃)に一致させるのである。これにより、多層構造を有する記録媒体9が使用される場合であっても、記録媒体9が描画位置に到達するときには、記録媒体9の表面温度T20を所定の目標温度に昇温させることが可能であり、適切なインク径を実現することができるようになる。
【0067】
また、多層構造を有する記録媒体9の搬送中、コントローラ7は、温度センサー41,42,44,45によって測定される記録媒体9の表面温度T20及び裏面温度T23を取得する。そしてコントローラ7は、実際に測定された表面温度T20と裏面温度T23とに基づき、記録媒体9がプレヒート区間に入ってから描画位置に到達するまでの実際の温度プロファイルを作成し、実際の温度プロファイルが理想的な温度プロファイルに一致しているか否かを判定する。その結果、実際の温度プロファイルが理想的な温度プロファイルに一致していない場合、コントローラ7は、表面加熱部32の設定温度及び記録媒体9の搬送速度のいずれか一方若しくは双方を調整することにより、実際の温度プロファイルが理想的な温度プロファイルとなるように制御する。
【0068】
また、コントローラ7は、描画位置でインクによる画像形成が行われた後の記録媒体9が定着部53を通過するまでの間に、記録媒体9の表面温度T20が急激に変化することがないように、第3加熱部52を制御する。例えば、コントローラ7は、第3加熱部52の複数のヒーター52a,52b,52cの温度を所定の目標温度(例えば43℃)に設定し、記録媒体9の裏面側だけを加熱する。これにより、記録媒体9の保温状態が維持されるため、記録媒体9が定着部53に到達する前に記録媒体9の表面温度T20が急激に低下してしまうことを抑制することが可能であると共に、記録媒体9が定着部53を通過し終えるまで記録媒体9の表面温度T20を一定の状態に保持するこが可能である。
【0069】
ところで、描画位置において記録媒体9の表面に吐出されるインクは、80℃程度の高温状態である。そのため、記録媒体9の表面に多量のインクが吐出されると、記録媒体9の表面温度T20が一時的に上昇し、インク径が大きくなってしまう現象が起こり得る。これを防止するため、コントローラ7は、印刷対象となる画像データに基づいて記録媒体9に対する描画率(紙面全体に対する描画領域の割合)を算出し、その描画率に基づいて第3加熱部52の設定温度を調整するようにしても良い。例えば、描画率が所定値よりも大きい場合、コントローラ7は、第3加熱部52における各ヒーター52a,52b,52cの設定温度を所定の目標温度(例えば43℃)よりも低い温度に設定し、記録媒体9の表面からの放熱を促すことによって表面温度T20が一時的に目標温度よりも高温状態になることを防止するのである。このとき、コントローラ7は、複数のヒーター52a,52b,52cの設定温度を均等に下げるようにしても良いし、またインクジェットヘッド51の直下の位置にあるヒーター52aの設定温度だけを低い温度に設定するようにしても良い。また、コントローラ7は、各ヒーター52a,52b,52cの設定温度を低下させるだけでなく、各ヒーター52a,52b,52cの電源をオフにして加熱処理を停止させるようにしても良い。
【0070】
次に、上記制御を行うコントローラ7の詳細について説明する。図4は、コントローラ7の一構成例を示すブロック図である。コントローラ7は、プロセッサー10と、記憶部11と、操作パネル12とを備えている。プロセッサー10は、コンピュータ読み取り可能な所定のプログラムを実行することによって上述した制御のための各種の演算処理を行うハードウェアプロセッサーである。記憶部11は、例えばハードディスクドライブ(HDD)やソリッドステートドライブ(SSD)などによって構成される不揮発性の記憶デバイスである。操作パネル12は、ユーザーが画像形成装置1を操作する際のユーザーインタフェースとなるものである。
【0071】
記憶部11には、画像形成装置1に予め登録されている記録媒体9に関する媒体情報13が記憶される。この媒体情報13には、記録媒体9の特性を示す特性情報14、記録媒体9の理想的な温度プロファイルを示すプロファイル情報15、及び、理想的な温度プロファイルを実現するための制御情報16が含まれている。特性情報14には、例えば多層構造を形成する各層の材質や厚みなどの情報が記録されている。プロファイル情報15には、例えば図3(b)に示したような温度プロファイルが記録されている。制御情報16には、第1加熱部31の表面加熱部32及び裏面加熱部33の設定温度や、第2加熱部43の設定温度、第3加熱部52の設定温度、記録媒体9の搬送速度などの情報が記録されている。
【0072】
また、記憶部11は、記録媒体9の搬送中に、温度センサー41,42,44,45によって測定された温度に基づいて作成される実際の温度プロファイル17が記憶される。
【0073】
操作パネル12は、ユーザーが操作可能な画面を表示する表示部12aと、ユーザーによる操作を受け付ける操作部12bとを備えている。ユーザーは、この操作パネル12に対して記録媒体9の選択操作や指定操作を行うことができる。
【0074】
プロセッサー10は、所定のプログラムを実行することにより、操作受付部71、特性解析部72、印刷制御部74、温度検出部77、及び、調整部79として機能する。
【0075】
操作受付部71は、ユーザーによる記録媒体9の選択操作や指定操作を受け付ける。例えば、操作受付部71は、記憶部11から媒体情報13を読み出し、操作パネル12の表示部12aに、画像形成装置1に予め登録されている記録媒体9の一覧画面を表示する。ユーザーは、その一覧画面の中から、画像形成に使用する記録媒体9を選択することができる。
【0076】
特性解析部72は、ユーザーによって指定された記録媒体9の特性を解析し、その特性に基づいて記録媒体9の搬送速度や目標温度を設定すると共に、その記録媒体9に対応する理想的な温度プロファイルを決定する。そして特性解析部72は、第1加熱部31、第2加熱部43及び第3加熱部52のそれぞれを昇温させる温度を設定する。例えば、ユーザーによって画像形成装置1に予め登録されている記録媒体9が選択された場合、特性解析部72は、ユーザーによって選択された記録媒体9の媒体情報13を読み出し、その媒体情報13に含まれる制御情報16に基づいて、記録媒体9の搬送速度や目標温度を決定すると共に、第1加熱部31、第2加熱部43及び第3加熱部52のそれぞれに対する設定温度を決定する。
【0077】
特性解析部72は、推論部73を備えている。この推論部73は、ユーザーによって新規な記録媒体9が指定された場合に、その新規な記録媒体9に対応する理想的な温度プロファイルを推論する処理部である。尚、推論部73による処理の詳細は後述する。
【0078】
印刷制御部74は、ユーザーによるジョブの実行開始指示に基づいて記録媒体9に対する印刷制御を行うものである。印刷制御部74は、給紙部2、プレヒート部3、ならし部4、画像形成部5及び回収部6のそれぞれの動作を制御することにより、印刷対象となる画像データに基づく画像を記録媒体9の表面に形成する。この印刷制御部74は、加熱制御部75と、速度制御部76とを備えている。加熱制御部75は、第1加熱部31、第2加熱部43及び第3加熱部52のそれぞれを駆動し、特性解析部72において決定された温度に昇温させることによって、記録媒体9に対する加熱処理を制御する。速度制御部76は、記録媒体9の搬送速度を制御するものである。
【0079】
温度検出部77は、記録媒体9の搬送中に、温度センサー41,42,44,45によって測定される温度を取得し、記録媒体9の表面温度と裏面温度とを検出する。温度検出部77は、プロファイル作成部78を備えている。プロファイル作成部78は、温度センサー41,42,44,45によって測定された記録媒体9の表面温度及び裏面温度に基づき、実際の温度プロファイルを作成する。プロファイル作成部78は、実際の温度プロファイルを作成すると、その温度プロファイルを記憶部11に保存する。また、プロファイル作成部78は、実際の温度プロファイルを作成すると、実際の温度プロファイルを理想的な温度プロファイルと比較する。その結果、実際の温度プロファイルが理想的な温度プロファイルに一致していない場合、プロファイル作成部78は、調整部79を機能させる。
【0080】
調整部79は、実際の温度プロファイルが理想的な温度プロファイルに一致していない場合に、制御情報16を書き換えることによって実際の温度プロファイルが理想的な温度プロファイルとなるように調整する。例えば、調整部79は、制御情報16に含まれる表面加熱部32の設定温度及び記録媒体9の搬送速度のいずれか一方若しくは双方を調整することにより、実際の温度プロファイルが理想的な温度プロファイルとなるように制御する。
【0081】
図5は、コントローラ7による処理手順の一例を示すフローチャートである。まず、コントローラ7は、ユーザーによる記録媒体9の指定操作を受け付ける(ステップS10)。ユーザーによって記録媒体9が指定されると、コントローラ7は、多層構造を有する記録媒体9が指定されたか否かを判断する(ステップS11)。多層構造を有する記録媒体9が指定されると(ステップS11でYES)、コントローラ7は、記憶部11から媒体情報13を読み出し、媒体情報13に含まれる特性情報14に基づいて記録媒体9の特性を解析する(ステップS12)。そしてコントローラ7は、媒体情報13に含まれる制御情報16に基づき、記録媒体9の搬送速度を設定すると共に(ステップS13)、記録媒体9の目標温度を設定する(ステップS14)。続いて、コントローラ7は、媒体情報13に含まれるプロファイル情報15に基づき理想的な温度プロファイルを決定する(ステップS15)。これにより、図3(b)に示したような温度プロファイルが理想的な温度プロファイルとして決定される。
【0082】
続いてコントローラ7は、制御情報16に基づき、第1加熱部31の裏面加熱部33を昇温させる温度を、記録媒体9の目標温度に設定する(ステップS16)。つまり、コントローラ7は、裏面加熱部33の目標温度を、記録媒体9の目標温度に一致させるのである。また、コントローラ7は、制御情報16に基づき、第1加熱部31の表面加熱部32を昇温させる温度を、記録媒体9の目標温度よりも高い温度に設定する(ステップS17)。表面加熱部32を記録媒体9の目標温度よりもどの程度高くするかは、記録媒体9の特性によって異なる。ただし、制御情報16には理想的な温度プロファイルを実現するために設定すべき表面加熱部32の温度が予め記録されているため、コントローラ7は、制御情報16に記録されている温度に設定する。
【0083】
次に、コントローラ7は、第2加熱部43を構成する複数のヒーター43a,43b,43cのそれぞれを昇温させる温度を、記録媒体9の目標温度に設定する(ステップS18)。更にコントローラ7は、第3加熱部52を構成する複数のヒーター52a,52b,52cのそれぞれを昇温させる温度を、記録媒体9の目標温度に設定する(ステップS19)。ただし、上述したように、コントローラ7は、画像データに基づく描画率に基づいて、複数のヒーター52a,52b,52cのそれぞれを昇温させる温度を、記録媒体9の目標温度よりも低い温度に設定するようにしても構わない。
【0084】
上記のようにして第1加熱部31、第2加熱部43及び第3加熱部52に対する温度設定が終了すると、コントローラ7は、印刷動作を開始する前に、第1加熱部31、第2加熱部43及び第3加熱部52のそれぞれを駆動し、ウォームアップを行う。そのウォームアップが完了すると、コントローラ7は、記録媒体9を搬送して記録媒体9に対する印刷を開始する。
【0085】
印刷動作が開始されると、コントローラ7は、温度センサー41,42,44,45からの出力に基づいて記録媒体9の表面温度と裏面温度とを測定し(ステップS22)、実際の温度プロファイルを作成する(ステップS23)。そしてコントローラ7は、実際の温度プロファイルと理想的な温度プロファイルとを比較し、調整が必要であるか否かを判断する(ステップS24)。調整が必要である場合(ステップS24でYES)、コントローラ7は、表面加熱部32の設定温度及び記録媒体9の搬送速度のいずれか一方若しくは双方を調整することにより、実際の温度プロファイルが理想的な温度プロファイルとなるように調整する(ステップS25)。尚、調整が必要でない場合(ステップS24でNO)、ステップS25はスキップする。
【0086】
その後、コントローラ7は、印刷が終了したか否かを判断する(ステップS26)。印刷が終了していない場合、コントローラ7は、上述したステップS22~S25の処理を繰り返す。そして印刷が終了すると、コントローラ7による処理が終了する。
【0087】
一方、ユーザーによって指定された記録媒体9が多層構造でない場合(ステップS11でNO)、コントローラ7は、単層構造の記録媒体9であると判定する。この場合、コントローラ7は、記憶部11から媒体情報13を読み出し、媒体情報13に含まれる特性情報14に基づいて記録媒体9の特性を解析する(ステップS31)。そしてコントローラ7は、媒体情報13に含まれる制御情報16に基づき、記録媒体9の搬送速度を設定すると共に(ステップS32)、記録媒体9の目標温度を設定する(ステップS33)。続いて、コントローラ7は、媒体情報13に含まれるプロファイル情報15に基づき理想的な温度プロファイルを決定する(ステップS34)。これにより、図2(b)に示したような温度プロファイルが理想的な温度プロファイルとして決定される。
【0088】
そしてコントローラ7は、制御情報16に基づき、第1加熱部31の表面加熱部32と裏面加熱部33とを均一な温度に設定する(ステップS35)。このとき、表面加熱部32と裏面加熱部33に設定される温度は、記録媒体9の目標温度よりも高い温度である。表面加熱部32と裏面加熱部33の温度を記録媒体9の目標温度よりもどの程度高くするかは、記録媒体9の特性によって異なる。ただし、制御情報16には理想的な温度プロファイルを実現するために設定すべき表面加熱部32と裏面加熱部33の温度が予め記録されているため、コントローラ7は、制御情報16に記録されている温度に設定する。
【0089】
次に、コントローラ7は、第2加熱部43を構成する複数のヒーター43a,43b,43cのそれぞれを昇温させる温度を、記録媒体9の目標温度に設定する(ステップS18)。更にコントローラ7は、第3加熱部52を構成する複数のヒーター52a,52b,52cのそれぞれを昇温させる温度を、記録媒体9の目標温度に設定する(ステップS19)。ただし、上述したように、コントローラ7は、画像データに基づく描画率に基づいて、複数のヒーター52a,52b,52cのそれぞれを昇温させる温度を、記録媒体9の目標温度よりも低い温度に設定するようにしても構わない。
【0090】
その後、コントローラ7は、上記と同様にステップS21~S26の処理を行い、単層構造の記録媒体9に対して画像形成を行う。ただし、単層構造の記録媒体9に対して印刷を行っているときに、ステップS24で調整が必要と判断した場合、コントローラ7は、表面加熱部32だけではなく、表面加熱部32と裏面加熱部33との双方の設定温度を調整する。
【0091】
コントローラ7において上記のような処理が実行されることにより、記録媒体9に吐出されるインクのインク径を一定の状態に制御することが可能であり、画質劣化を抑制することができるようになる。特に、記録媒体9として多層構造を有する記録媒体9が指定された場合であっても、多層構造を有する記録媒体9の特性に応じた理想的な温度プロファイルが実現されるようになるため、タック紙などの表面に高品質な画像を形成することが可能である。
【0092】
また、コントローラ7は、多層構造を有する記録媒体9を理想的な温度プロファイルとするために、第1加熱部31の表面加熱部32と裏面加熱部33とを個別に制御し、表面加熱部32を裏面加熱部33よりも高温状態に昇温させるという比較的簡単な制御を採用している。そのため、複雑な制御を行う必要がないことから、プロセッサー10の負荷を上げることなく、インク径を一定の状態に管理できるという利点がある。
【0093】
次に、ユーザーによって新規な記録媒体9が指定された場合の処理について説明する。図6は、ユーザーが記録媒体9を指定する際の画面遷移を示す図である。ユーザーが記録媒体9を指定するとき、操作パネル12の表示部12aには、最初に記録媒体指定画面G1が表示される。記録媒体指定画面G1には、記録媒体9の構造として、単層構造を指定するボタン81と、多層構造を指定するボタン82とが表示される。例えば、ユーザーが多層構造を指定するボタン82を操作すると、表示部12aに表示される画面は、記録媒体選択画面G2へと遷移する。記録媒体選択画面G2には、一覧表示部83と、新規登録を行うためのボタン84とが表示される。一覧表示部83には、画像形成装置1に既に登録されている多層構造の記録媒体9が一覧表示される。そのため、ユーザーは、一覧表示部83に表示されている複数の記録媒体9の中から画像形成に使用する記録媒体9を選択することができる。一方、画像形成に使用する記録媒体9が一覧表示部83に含まれていない場合、ユーザーは、新規登録のボタン84を操作する。
【0094】
ユーザーが新規登録のボタン84を操作すると、表示部12aに表示される画面は、新規登録画面G3へと遷移する。この新規登録画面G3では、第1層の特性を表示する表示欄85aと、第2層の特性を表示する表示欄85bと、第3層の特性を表示する表示欄85cとが表示されると共に、各表示欄85a,85b,58cに隣接する位置に複数の設定ボタン86a,86b,86cが表示される。例えば、ユーザーは、各表示欄85a,85b,85cに新規な記録媒体9を構成する各層の材質や厚みを入力し、設定ボタン86a,86b,86cを操作することにより、新規な記録媒体9の特性情報14を設定することができる。ユーザーによって特性情報14が入力されると、コントローラ7は、新規な記録媒体9に対応する媒体情報13を生成し、記憶部11に保存する。
【0095】
また、ユーザーによって特性情報が入力されると、表示部12aに表示される画面は、搬送速度設定画面G4に遷移する。この搬送速度設定画面G4には、搬送速度の表示欄87と、設定ボタン88と、自動設定ボタン89とが表示される。ユーザーは、記録媒体9の搬送速度を手動設定する場合には、表示欄87に所望の速度を入力し、設定ボタン88を操作すれば良い。また、自動設定を行う場合、ユーザーは、自動設定ボタン89を操作すれば良い。例えば、ユーザーによって自動設定ボタン89が操作された場合、コントローラ7は、画像形成装置1において最大スループットを達成することができる搬送速度を自動設定する。
【0096】
図7は、ユーザーによって新規な記録媒体9が指定された場合の処理手順を示すフローチャートである。図7に示す処理手順は、図5に示したステップS10~S15に代わる処理である。まず、コントローラ7は、ユーザーによる記録媒体9の指定操作を受け付ける(ステップS40)。ユーザーによって記録媒体9が指定されると、コントローラ7は、多層構造を有する記録媒体9が指定されたか否かを判断する(ステップS41)。ユーザーによって多層構造ではなく、単層構造であることが指定された場合(ステップS41でNO)、コントローラ7による処理は、図5のステップS31へと進む。ユーザーによって多層構造を有する記録媒体9が指定された場合(ステップS41でYES)、コントローラ7は、新規登録であるか否かを判断する(ステップS42)。新規登録ではない場合(ステップS42でNO)、コントローラ7による処理は、図5のステップS12へと進む。一方、新規登録である場合(ステップS42でYES)、コントローラ7は、表示部12aに新規登録画面G3を表示し、ユーザーによる特性情報14の入力を受け付ける(ステップS43)。続いて、コントローラ7は、表示部12aに搬送速度設定画面G4を表示し、ユーザーによる搬送速度の入力を受け付ける(ステップS44)。
【0097】
続いて、コントローラ7は、ユーザーによって指定された新規な記録媒体9に対応する理想的な温度プロファイルを決定するための処理を開始する。まず、コントローラ7は、記憶部11に記憶されている既存の媒体情報13と、温度プロファイル17とを読み出す(ステップS45)。複数の記録媒体9の媒体情報13と温度プロファイル17とが記憶されている場合、コントローラ7は、それら複数の記録媒体9のそれぞれに対応する媒体情報13と温度プロファイル17とを全て読み出す。そしてコントローラ7は、記憶部11から読み出した媒体情報13と温度プロファイル17とに基づき、新規な記録媒体9に適用すべき温度プロファイルを推論する推論処理を実行する(ステップS46)。このとき、コントローラ7は、記憶部11から読み出した媒体情報13と温度プロファイル17とを教師データとして機械学習を行うことにより、新規な記録媒体9に適用することが最も相応しい温度プロファイルを導き出す。そしてコントローラ7は、推論処理によって導き出された温度プロファイルを新規な記録媒体9に対応する理想的な温度プロファイルとして決定する(ステップS47)。理想的な温度プロファイルが決まると、コントローラ7は、既存の媒体情報13に含まれる制御情報16を参照しつつ、理想的な温度プロファイルを実現することが可能な、第1加熱部31の表面加熱部32及び裏面加熱部33の温度、第2加熱部43の温度、及び、第3加熱部52の温度を決定し、新規な記録媒体9に対応する制御情報16を生成する(48)。そしてコントローラ7は、特性情報14と、プロファイル情報15と、制御情報16とを含む媒体情報13を作成し、記憶部11に保存する(ステップS49)。したがって、これ以降において同じ記録媒体9が使用されるときには、記憶部11に保存されている媒体情報13を利用することができるようになる。
【0098】
その後、コントローラ7による処理は、図5のステップS16へと進む。つまり、コントローラ7は、ステップS49で作成した媒体情報13に基づく温度設定を行い、ウォームアップを行った後に、印刷を開始する。そして温度センサー41,42,44,45を用いて測定した記録媒体9の表面温度及び裏面温度に基づいて作成した、実際の温度プロファイルがステップS47で決定した理想的な温度プロファイルに一致していない場合、コントローラ7は、調整処理(ステップS25)を行い、その調整結果に基づいて、媒体情報13に含まれる制御情報16を修正しておくことが好ましい。
【0099】
コントローラ7において上記のような処理が実行されることにより、新規な記録媒体9が使用される場合であっても、画像形成装置1において既に登録されている媒体情報13や実測に基づく温度プロファイル17を活用することにより、新規な記録媒体9に対応する理想的な温度プロファイルを自動作成することが可能である。そのため、新規な記録媒体9を用いる場合に、ユーザー自身が理想的な温度プロファイルを作成する必要がなく、効率的に印刷を開始できるという利点がある。
【0100】
また、新規な記録媒体9を使用する場合、ユーザーは、印刷開始時にテスト印刷を行い、その所望の画質となっているか否かを検証することがある。テスト印刷による印刷物を検証した結果、所望の画質となっていない場合、ユーザーは、手動操作で、第1加熱部31の表面加熱部32の温度を設定変更したり、記録媒体9の搬送速度を設定変更したりする。また、ユーザーは、手動操作で、理想的な温度プロファイルの修正を行うこともある。ユーザーによる設定変更や理想的な温度プロファイルの修正がなされた場合、コントローラ7は、媒体情報13の制御情報16やプロファイル情報15をユーザーによって指定された値に変更する。これにより、新規な記録媒体9に対応する媒体情報13は、テスト印刷の結果を反映させた情報に更新される。その結果、テスト印刷の後に本番印刷が行われるときには、ユーザーが所望する高画質な画像を形成することができるようになる。
【0101】
以上、本発明に関する好ましい一実施形態について説明した。しかし、本発明は、上記実施形態において説明した内容のものに限られるものではなく、種々の変形例を適用することが可能である。
【0102】
例えば上記実施形態では、画像形成装置1がロールトゥロール方式でウェブ状の記録媒体9を搬送する装置を例示した。しかし、本発明における画像形成装置は、必ずしもロールトゥロール方式で記録媒体9を搬送する装置に限られない。すなわち、上記実施形態において説明した加熱制御(温度制御)は、給紙部2に積層載置されたシートを1枚ずつ取り出して搬送路に順次搬送するタイプの画像形成装置にも適用可能である。
【0103】
また、上記実施形態では、第1加熱部31を構成する表面加熱部32及び裏面加熱部33のそれぞれが面状のヒーターによって構成される場合を例示した。しかし、表面加熱部32及び裏面加熱部33のそれぞれは、必ずしも面状のヒーターに限られるものではない。例えば、表面加熱部32及び裏面加熱部33は、記録媒体9の搬送路を挟んで互いに対向するように配置されるローラー状のヒーターによって構成されるものであっても構わない。この場合、搬送路を挟んで上側に配置されるローラー状のヒーターが表面加熱部32として設けられ、下側に配置されるローラー状のヒーターが裏面加熱部33として設けられる。それらローラー状のヒーターは、ニップ部を形成し、そのニップ部に記録媒体9を挟み込んだ状態で回転することにより、記録媒体9を搬送方向の下流側へ搬送する。第1加熱部31は、そのようなローラー状のヒーターを記録媒体9の搬送方向に沿って複数組設けたものであっても構わない。尚、同様の構成を、第2加熱部43又は第3加熱部52にも適用することが可能である。
【0104】
ただし、ローラー状のヒーターは、ニップ部で記録媒体9を挟み込んでいるときにしか記録媒体9を加熱することができない。例えば、ローラー状のヒーターが複数組設けられている場合であっても、記録媒体9の表面温度を階段状にしか昇温させることができず、加熱効率が低下する。そのため、上述した温度制御を適用しようとすると、プレヒート区間が長くなってしまい、装置が大型化してしまうという課題が生じる。それ故、装置の大型化を防ぐためには、上記実施形態で説明したように、第1加熱部31を構成する表面加熱部32及び裏面加熱部33のそれぞれを面状のヒーターによって構成することが好ましい。
【符号の説明】
【0105】
1 画像形成装置
3 プレヒート部
4 ならし部
5 画像形成部
7 コントローラ(制御手段)
9 記録媒体
11 記憶部(記憶手段)
13 媒体情報
31 第1加熱部(第1加熱手段)
32 表面加熱部(表面加熱手段)
33 裏面加熱部(裏面加熱手段)
41,42 温度センサー(温度測定手段)
43 第2加熱部(第2加熱手段)
44,45 温度センサー(温度測定手段)
51 インクジェットヘッド
52 第3加熱部(第3加熱手段)
53 定着部(定着手段)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7