(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022177992
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】ひずみ計測システム
(51)【国際特許分類】
G01B 7/16 20060101AFI20221125BHJP
E21D 11/40 20060101ALI20221125BHJP
E21D 9/00 20060101ALI20221125BHJP
G01C 15/00 20060101ALI20221125BHJP
G01S 11/06 20060101ALI20221125BHJP
【FI】
G01B7/16 R
E21D11/40 A
E21D9/00 C
G01C15/00 104D
G01S11/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021084466
(22)【出願日】2021-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100097113
【弁理士】
【氏名又は名称】堀 城之
(74)【代理人】
【識別番号】100162363
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 幸彦
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 大輔
(72)【発明者】
【氏名】中岡 健一
【テーマコード(参考)】
2D155
2F063
【Fターム(参考)】
2D155BA06
2D155LA13
2F063AA25
2F063BA15
2F063BA16
2F063BC02
2F063DA02
2F063DA05
2F063DC08
2F063EC22
2F063EC25
2F063KA01
2F063LA27
2F063NA01
(57)【要約】
【課題】鋼製支保工の建込み直後からひずみの計測を開始することができ、リアルタイムに地山挙動予測を行うことができるひずみ計測システムを提供する。
【解決手段】トンネルに設置された鋼製支保工のひずみを計測するひずみ計測システムであって、鋼製支保工に取り付けられ、計測したひずみ計測値を含む計測データを無線送信するひずみ計測装置10と、切羽前で作業するトンネル工事用作業車であるドリルジャンボに設置され、ひずみ計測装置10から受信した計測データによって鋼製支保工のひずみを監視する監視装置20とを備える。監視装置20は、計測データを受信すると、過去分の計測データと比較し、ひずみ計測値の変化量が予め設定された危険閾値を超えた場合、警告を報知するひずみ監視部43を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネルに設置された鋼製支保工のひずみを計測するひずみ計測システムであって、
前記鋼製支保工に取り付けられ、計測したひずみ計測値を含む計測データを無線送信するひずみ計測装置と、
切羽前で作業するトンネル工事用作業車に設置され、前記ひずみ計測装置から受信した前記計測データによって前記鋼製支保工のひずみを監視する監視装置と、を具備することを特徴とするひずみ計測システム。
【請求項2】
前記監視装置は、前記計測データを受信すると、過去分の前記計測データと比較し、前記ひずみ計測値の変化量が予め設定された危険閾値を超えた場合、警告を報知するひずみ監視部を具備することを特徴とする請求項1記載のひずみ計測システム。
【請求項3】
前記監視装置は、前記計測データの受信時の電波強度に基づいて計測時の切羽までの計測距離を推定する計測距離推定部と、
前記ひずみ計測値と前記計測距離とを計測数とした逆解析手法によって、地山弾性係数と、初期応力とを地山特性として推定する未知数推定部と、
前記地山特性を用いた順解析によって内空変位やせん断応力分布を算出し、管理値と比較することで支保工適合性を確認する適合性判定部と、を具備することを特徴とする請求項1又は2に記載のひずみ計測システム。
【請求項4】
前記計測距離推定部は、前記計測データの受信時の前記電波強度に基づいて推定した前記ひずみ計測装置と前記監視装置との直線距離と、前記ひずみ計測装置が取り付けられた前記鋼製支保工が設置されているトンネル面と前記監視装置との直線距離と、切羽と前記監視装置との距離とに基づいて前記計測距離を算出することを特徴とする請求項3に記載のひずみ計測システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル内に設置された鋼製支保工のひずみを計測するひずみ計測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
山岳トンネル工事において、土被りが小さく地山強度比が小さい場合や膨張性を有する地山の場合は、鋼製支保工に大きな土圧が生じる可能性があるため、鋼製支保工の安定性と妥当性(寸法やピッチ等)確認を目的とした鋼製支保工のひずみ計測(応力測定)が実施されることがある。
【0003】
例えば、トンネル等の構造物の内空変位を計測し、構造物の変状を監視する技術が検討されている(例えば、特許文献1参照。)。この文献に開示された技術においては、構造物の内側に内空変位センサである梁の一端を固定し、梁の表面にひずみ計測が可能な装置を設置し、計測されたひずみから、構造物の鉛直方向および水平方向の変位を算出する。そして、内空変位センサに取り付けられたひずみ検出用デバイスの信号をひずみ計測装置が取得する。
【0004】
また、地震時のトンネルの覆工挙動をリアルタイムに把握するための計測システムも検討されている(例えば、特許文献2参照。)。この文献に開示されたトンネル覆工挙動の計測システムでは、トンネルの覆工表面にひずみゲージを有するセンサと、このセンサに接続される無線送信装置とを配置する。そして、無線送信装置からのトンネルの覆工表面の変状情報をトンネルの外で無線受信装置により受信し、トンネル覆工変状情報解析装置で覆工表面の変状情報を解析する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-047629号公報
【特許文献2】特開2009-300323号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来技術では、鋼製支保工のひずみ計測を行なう場合、鋼製支保工に設置されたひずみゲージを有線でデータロガーに接続している。従って、ひずみ計測を開始するためには、掘削を一時的に止め、掘削の影響が及ばない後方までケーブルを配線する必要があるため、鋼製支保工の建込み直後からひずみ計測を開始することができない。そして、ケーブルの配線は、側壁にはわすため、ケーブルの防護も必要になり、手間と費用を要していた。
【0007】
また、計測されたひずみデータは、ケーブル末端のデータロガーに集約される。従って、多大なひずみが発生した場合、データロガーと切羽まで距離があるため、切羽への緊急退避指示が遅れてしまう虞があった。
【0008】
さらに、従来技術では、ひずみの計測地点と日々掘削が進む切羽までの距離は計測されていない。そのため、リアルタイムに地山挙動予測ができなかった。
【0009】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、上述の課題を解消し、鋼製支保工の建込み直後からひずみの計測を開始することができ、リアルタイムに地山挙動予測を行うことができるひずみ計測システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のひずみ計測システムは、トンネルに設置された鋼製支保工のひずみを計測するひずみ計測システムであって、前記鋼製支保工に取り付けられ、計測したひずみ計測値を含む計測データを無線送信するひずみ計測装置と、切羽前で作業するトンネル工事用作業車に設置され、前記ひずみ計測装置から受信した前記計測データによって前記鋼製支保工のひずみを監視する監視装置とを具備することを特徴とする。
さらに、本発明のひずみ計測システムにおいて、前記監視装置は、前記計測データを受信すると、過去分の前記計測データと比較し、前記ひずみ計測値の変化量が予め設定された危険閾値を超えた場合、警告を報知するひずみ監視部を具備する。
さらに、本発明のひずみ計測システムにおいて、前記監視装置は、前記計測データの受信時の電波強度に基づいて計測時の切羽までの計測距離を推定する計測距離推定部と、前記ひずみ計測値と前記計測距離とを計測数とした逆解析手法によって、地山弾性係数と、初期応力とを地山特性として推定する未知数推定部と、前記地山特性を用いた順解析によって内空変位やせん断応力分布を算出し、管理値と比較することで支保工適合性を確認する適合性判定部とを具備する。
さらに、本発明のひずみ計測システムにおいて、前記計測距離推定部は、前記計測データの受信時の前記電波強度に基づいて推定した前記ひずみ計測装置と前記監視装置との直線距離と、前記ひずみ計測装置が取り付けられた前記鋼製支保工が設置されているトンネル面と前記監視装置との直線距離と、切羽と前記監視装置との距離とに基づいて前記計測距離を算出する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ひずみ計測装置の取り付けにケーブルの配線、防護作業が不要であるため、ひずみ計測装置の取り付けに伴い掘削を止めることなく、鋼製支保工1の建込み直後からひずみの計測及び監視を切羽付近で開始することができ、リアルタイムに地山挙動予測を行うことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係るひずみ計測システムの実施形態の構成を示すシステム構成図である。
【
図2】
図1に示すひずみ計測システムの構成を示すブロック図である。
【
図3】
図2に示す未知数推定部による未知数推定動作の解析モデルを示す図である。
【
図4】
図2に示す計測距離推定部による計測距離推定動作を説明するための説明図である。
【
図5】
図2に示す未知数推定部及び適合性判定部による未知数推定動作及び適合性判定動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明を実施するための形態(以下、単に「実施形態」という)を、図面を参照して具体的に説明する。
本実施形態のひずみ計測システムは、
図1を参照すると、鋼製支保工1に取り付けられたひずみ計測装置10と、ドリルジャンボ2に設置された監視装置20とを備えている。
【0014】
鋼製支保工1は、トンネルを構築するNATM工法(New Austrian Tunneling Method)で用いられるアーチ状の鋼材である。NATM工法では、トンネルを掘削する毎に、鋼製支保工1を切羽近傍のトンネル坑壁に建て込み、鋼製支保工1は、予め設定された間隔L毎に設置される。
【0015】
ひずみ計測装置10は、建て込み前の鋼製支保工1に取り付けられ、鋼製支保工1の建込によってトンネル内に設置される。なお、本実施形態では、鋼製支保工1の天井面、両側面の3か所にひずみ計測装置10を取り付けたが、ひずみ計測装置10の取り付け箇所及び個数には、特に制限はない。
【0016】
ドリルジャンボ2は、切羽前で作業するトンネル工事用作業車である。なお、監視装置20は、ドリルジャンボ2の代わりにエレクター等の他のトンネル工事用作業車に設置しても良い。
【0017】
ひずみ計測装置10は、
図2を参照すると、ひずみゲージ11、ブリッジ12と、アンプ13と、ひずみ計測部14と、測定結果記憶部15と、通信制御ユニット16と、無線ユニット17と、バッテリ18とを備えている。
【0018】
ひずみゲージ11は、鋼製支保工1の表面に取り付けられ、鋼製支保工1に印加された応力(ひずみ)に応じて物性値(本実施形態では抵抗値)が変化するセンサである。本実施形態では、2個のひずみゲージ11を有しているが、ひずみゲージ11の個数には、特に制限はない。
【0019】
ブリッジ12は、ひずみゲージ11を1つの抵抗として用いて、ひずみの変化に応じた抵抗値を計測し、ひずみ計測信号として出力する回路(例えば、ホイートストンブリッジ)である。そして、ブリッジ12から出力されるひずみ計測信号は、アンプ13によって強度を増幅され、ひずみ計測部14に入力される。
【0020】
ひずみ計測部14は、プログラム制御で動作する情報処理部である。ひずみ計測部14は、ブリッジ12からアンプ13経由で入力されるひずみ計測信号の信号強度をひずみ計測値として計測する。なお、本実施形態において、ひずみ計測部14は、ひずみ計測装置10の起動から24時間後までは1分間隔、24時間以降は10分間隔でひずみ計測値を計測する。
【0021】
通信制御ユニット16は、監視装置20との間の無線通信を制御する制御部であり、ひずみ計測部14から出力される計測データを無線信号に変換する。そして、無線ユニット17は、アンテナを介して、予め設定された強度の無線信号を送信する。本実施形態では、920MHz帯の周波数を用いることにより、約20m程度の通信距離を確保する。
【0022】
ひずみ計測部14は、通信制御ユニット16が監視装置20と無線通信が可能な状態か否かを判断し、監視装置20と無線通信が可能である場合、通信制御ユニット16及び無線ユニット17を介して、計測したひずみ計測値と、固有の機器IDとからなる計測データを監視装置20に送信する。
【0023】
監視装置20と無線通信が不能である場合、ひずみ計測部14は、計測したひずみ計測値を、計測されたタイミングを示すタイミングデータ(時刻、測定順や間隔等)と共にフラッシュメモリ等で構成された測定結果記憶部15に記憶させる。そして、ひずみ計測部14は、監視装置20と無線通信が可能になると、測定結果記憶部15に記憶させたひずみ計測値及びタイミングデータと、固有の機器IDとからなる計測データを監視装置20に送信する。
【0024】
バッテリ18は、ひずみ計測装置10の各部に電源を供給する電源供給部であり、本実施形態では、ひずみ計測装置10の計測及び送信動作の持続時間を1ヵ月以上確保できる容量を備えている。
【0025】
監視装置20は、無線ユニット21と、通信制御ユニット22と、解析装置30とを備えている。ひずみ計測装置10から送信された無線信号は、アンテナを介して監視装置20の無線ユニット21で受信され、通信制御ユニット22は、無線ユニット21によって受信された無線信号を計測データに復調する。そして、通信制御ユニット22は、復調した計測データを無線ユニット21がひずみ計測装置10からの無線信号を受信した際の受信強度と共に解析装置30に出力する。
【0026】
なお、監視装置20は、坑内を行き来するドリルジャンボ2に設置されている。従って、ドリルジャンボ2が坑内を行き来する際に、監視装置20は坑内に設置されたひずみ計測装置10から網羅的に計測データを受信できる。
【0027】
解析装置30は、パーソナルコンピュータ等の情報処理装置であり、キーボート等の入力部31と、液晶ディスプレイ等の表示部32と、スピーカ等の出力部33と、フラッシュメモリ等の記憶部34と、制御部40とを備えている。
【0028】
制御部40は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等を備えたマイクロコンピュータ等の情報処理部である。ROMには解析装置30がジョブを実行するための制御プログラムが記憶されている。制御部40は、ROMに記憶されている制御プログラムを読み出し、制御プログラムをRAMに展開させることで、解析装置30の制御を行い、計測装置登録受付部41、計測距離推定部42、ひずみ監視部43、未知数推定部44、適合性判定部45として機能する。
【0029】
計測装置登録受付部41は、建て込んだ鋼製支保工1に取り付けられたひずみ計測装置10の機器IDを受け付け、受け付けた機器IDを鋼製支保工1の支保工ID及び取り付け位置(天井面、右側面、左側面)と対応付けした計測装置情報341として記憶させる。
【0030】
計測距離推定部42は、計測データが入力されると、機器IDに基づいて計測装置情報341を参照することで、その計測データを送信したひずみ計測装置10の取付け位置(天井面、右側面、左側面)を特定し、特定した取付け位置(天井面、右側面、左側面)と電波強度とに基づいて計測時の切羽までの計測距離dを推定する。
【0031】
ひずみ監視部43は、計測データが入力されると、計測距離推定部42によって特定された取付け位置における過去分の計測データと比較し、ひずみ計測値の変化量が予め設定された危険閾値を超えた場合、表示部32や出力部33から作業員に退避を促す警告を報知する。これにより、リアルタイムにひずみを監視し、ひずみ増大時に警告を報知することができる。
【0032】
未知数推定部44は、ひずみ計測値と計測距離dとを計測数とした逆解析手法によって、地山弾性係数E
Rと、初期応力σ
x0、σ
y0、τ
xy0とを地山特性として推定する。逆解析手法は、二次元弾性有限要素法を用いる。まず、
図3に示す解析モデルを用い、単位あたりの初期応力σ
x0、σ
y0、τ
xy0と地山弾性係数E
Rを仮設定してひずみ(以下、単位ひずみと称す)を予め計算する。
【0033】
次に、計測されたひずみが予め計算した単位ひずみの何倍にあたるかを計算することで、未知数となる初期応力σ
x0、σ
y0、τ
xy0と地山弾性係数E
Rを定める。なお、
図3に示す解析モデルでは、地山は等方等質の弾性体であり、地山の初期応力σ
x0、σ
y0、τ
xy0は解析領域に全体にわたり一定とした。実際の地山は非弾性かつ非線形に挙動するが、解析結果はこれらを含めて等価な値として出力される。
【0034】
適合性判定部45は、未知数推定部44によって推定した地山物性を用いた順解析によって内空変位やせん断応力分布を算出し、管理値と比較することで支保工適合性を確認する。
【0035】
次に、計測距離推定部42による計測距離dの推定方法について
図4を参照して詳細に説明する。
計測距離推定部42には、無線ユニット21(アンテナ)と切羽との距離A(例えば、無線ユニット21をトンネル断面の中心に置いた場合は、8m)と、無線ユニット21(アンテナ)と天井面、右側面、左側面とのそれぞれの距離C
1、C
2、C
3(例えば、トンネル径D/2)とが固定値として設定されている。
【0036】
計測距離推定部42は、機器IDに基づいて計測装置情報341を参照することで、その計測データを送信したひずみ計測装置10の取付け位置(天井面、右側面、左側面)を特定する。
【0037】
また、計測距離推定部42は、受信強度に基づいて送信元のひずみ計測装置10との直線距離r(取付け位置が天井面である場合には直線距離r1、取付け位置が右側面である場合には直線距離r2、取付け位置が左側面である場合には直線距離r3)を推定する。すなわち、計測距離推定部42は、距離の2乗に比例して減衰する無線信号の性質を用いて直線距離rを推定する。
【0038】
そして、計測距離推定部42は、特定した取付け位置に応じた距離C1、C2、C3のいずれかと、直線距離rと、距離Aとを用いて、計測時の切羽までの計測距離dを推定する。例えば、ひずみ計測装置10の取付け位置が天井面である場合、
d=√(r1
2-C1
2)+Aを演算することで計測時の切羽までの計測距離dを推定する。
【0039】
なお、無線ユニット21(アンテナ)と切羽との距離Aと、無線ユニット21(アンテナ)と天井面、右側面、左側面とのそれぞれの距離C1、C2、C3とを固定値としたが、これらをレーザー距離計等の測定装置に測定した測定値としても良い。
【0040】
なお、推定される計測距離dは、ひずみ計測装置10が取り付けられた鋼製支保工1と切羽との距離であり、同じ鋼製支保工1に取り付けられたひずみ計測装置10であれば、値になるはずである。従って、同じ鋼製支保工1aに取り付けられたひずみ計測装置10a1、10a2、10a3のそれぞれ計測距離d1が同じ値になるように調整(例えば、平均値)することで精度を向上させることができる。
【0041】
さらに、隣接した鋼製支保工1間の距離Lが既知である場合、鋼製支保工1aに取り付けられたひずみ計測装置10a1、10a2、10a3の計測距離daと、鋼製支保工1bに取り付けられたひずみ計測装置10b1、10b2、10b3の計測距離dbとの差が距離Lになるように調整(例えば、平均値)することで精度を向上させることができる。
【0042】
次に、未知数推定部44による未知数推定方法について
図5を参照して詳細に説明する。
まず、未知数推定部44は、既知数として地山のポアソン比V
R、鋼製支保工1のポアソン比V
L、鉛直応力σ
y0、鋼製支保工1の支保工弾性係数E
Lの設定を受け付ける(ステップS101)。支保工弾性係数E
Lは、鋼製支保工1(H鋼)と吹付けコンクリートの透過弾性係数を入力値とする。地山のポアソン比V
R、は、本来は未知数であるが、解析を簡略化するため一般的な値(例えば0.35など)を入力する。
【0043】
また、未知数推定部44は、未知数である地山弾性係数ERの入力を受け付ける(ステップS102)。この地山弾性係数ERは、繰返し初期値として用いる。
【0044】
そして、未知数推定部44は、地山と支保工の弾性係数の比Ri=EL/ERを計算する(ステップS103)。
【0045】
また、未知数推定部44は、計測値の入力としてひずみ計測値εm’、計測時の切羽までの計測距離dを受け付けると(ステップS104)、収束後のひずみεmをひずみ特性曲線から予測する(ステップS105)。
【0046】
ひずみ計測値εm’は、鋼製支保工1の設置時を起点とした値である。収束後のひずみ値εmは、掘削開始時を起点とした値である。ひずみ特性曲線は、切羽までの計測距離dと、現在のひずみと収束後のひずみの比率を表したものであり、掘削データがない場合は経験的な曲線から定める。応力ひずみ関係が線形であると仮定した場合、ひずみ特性曲線は内空変位や天端沈下量から定めることができる。
【0047】
また、地山は掘削する前から変形を始めている。切羽までの距離がマイナスの領域のひずみ特性曲線は、先行沈下計による先行変位計測や地表面沈下量、三次元解析などから定めることもできる。最後に、求めた地山物性を用いて内空変位やせん断応力分布を算出し、管理値より支保工適合性を確認する。
【0048】
次に、未知数推定部44は、逆解析手法により、以下に示す式(6)(7)を用いて、地山特性として地山弾性係数ERと、初期応力σx0、σy0、τxy0を算出し、逆解析弾性係数の比を更新(Ri+1=EL/ER)する(ステップS106)。
【0049】
トンネルの掘削に伴う変形を有限要素法で解析するため、鋼製支保工1内側に作用する掘削外力Ρを式(1)で求める必要がある。積分は地山要素の体積積分である。初期応力はいずれも未知数であるため、初期応力σ0の各成分σx0、σy0、τxy0を単位としたときの外力成分Ρi(i=1~3)を式(2)で計算する。
【0050】
【0051】
また、地山弾性係数ERと支保工弾性係数ELとがいずれも1のときの剛性マトリクスをKR、KLとしたとき、全体剛性マトリクスKは式(3)で表される。また、地山と支保工の弾性係数比をパラメータR=EL/ERとすると、式(3)は式(4)となる。
【0052】
【0053】
有限要素法は、剛性方程式であるΡ=k・uを解くことで変位uとひずみεを求める。同様に、K*と外力成分Ρiを用いて解くことにより「単位ひずみ」が求められる。鋼製支保工1のひずみが3カ所で計測されたとき、各計測点の単位ひずみとの関係は式(5)で表される。
【0054】
【0055】
未知数マトリクスCは最小二乗法により式(6)で求められる。鉛直応力σy0は土被り圧と等しいと仮定すれば、土被りhと平均的な地山の単位体積重量γから式(7)で与えられる。その後、残りの地山弾性係数ERと初期応力σx0、τxy0を定める。以上の流れを繰返すことで、未知数である地山弾性係数ERと、初期応力σx0、σy0、τxy0とが収束する。
【0056】
【0057】
次に、未知数推定部44は、(Ri+1-Ri)/Riが予め設定された許容誤差未満であるか否かを判断する(ステップS107)。
【0058】
ステップS107で(Ri+1-Ri)/Riが許容誤差以上である場合、ステップS103に戻って、ステップS107で算出した地山弾性係数ERを用いて地山と支保工の弾性係数の比Ri=EL/ERを再計算する。
【0059】
ステップS107で(Ri+1-Ri)/Riが許容誤差未満である場合、適合性判定部45は、ステップS106で算出された地山弾性係数ERと、初期応力σx0、σy0、τxy0とを用いた順解析によって内宮変位とせん断応力分布等を算出する(ステップS108)。
【0060】
そして、適合性判定部45は、算出した内空変位やせん断応力分布が管理値内であるか管理値超過であるかに基づいて支保適合性を確認する(ステップS109)。
【0061】
ステップS109で算出した内空変位やせん断応力分布が管理値内である場合、支保が適合であることが確認されたことになり、処理を終了する。
【0062】
ステップS109で算出した内空変位やせん断応力分布が管理値超過である場合、支保が不適合であることがと判明されたことになり、適合性判定部45は、表示部32や出力部33から作業員に支保工の見直しを促す警告を報知する。これにより、作業者は、将来的に許容値を超える変位が発生する虞を未然に察知することができ、ロックボルトの増し打ちや鋼製支保工1のランクアップを検討することができる。
【0063】
このように、収束前のひずみ計測値εm’を入力値としたため、比較的早い段階から地山の変形挙動を捉えて逆解析に反映することができる。また、弾性であれば解析モデルに制限はないため、既知の物性を増やす等の工夫が容易である。さらに、掘削実績に伴いひずみ特性曲線を補正することで、精度向上につなげることができる。
【0064】
以上説明したように、本実施形態は、トンネルに設置された鋼製支保工1のひずみを計測するひずみ計測システムであって、鋼製支保工1に取り付けられ、計測したひずみ計測値εm’を含む計測データを無線送信するひずみ計測装置10と、切羽前で作業するトンネル工事用作業車であるドリルジャンボ2に設置され、ひずみ計測装置10から受信した計測データによって鋼製支保工1のひずみを監視する監視装置20とを備える。
この構成により、ひずみ計測装置10の取り付けにケーブルの配線、防護作業が不要であるため、ひずみ計測装置10の取り付けに伴い掘削を止めることなく、鋼製支保工1の建込み直後からひずみの計測及び監視を切羽付近で開始することができる。そして、計測データがドリルジャンボ2に設置した監視装置20にリアルタイムに収集される。送信機であるひずみ計測装置10と受信機である監視装置20のみで構成できるため、トンネル坑内に新たにネットワークを追加することなく、リアルタイムに地山挙動予測を行うことができる。
【0065】
さらに、本実施形態において、監視装置20は、計測データを受信すると、過去分の計測データと比較し、ひずみ計測値εm’の変化量が予め設定された危険閾値を超えた場合、警告を報知するひずみ監視部43を備える。
この構成により、ひずみの増大が発生した場合、速やかに切羽作業員に緊急退避指示を出すことできる。
【0066】
さらに、本実施形態において、監視装置20は、計測データの受信時の電波強度に基づいて計測時の切羽までの計測距離dを推定する計測距離推定部42と、ひずみ計測値εm’と計測距離dとを計測数とした逆解析手法によって、地山弾性係数ERと初期応力σx0、σy0、τxy0とを地山特性として推定する未知数推定部44と、推定した地山特性を用いた順解析によって内空変位やせん断応力分布を算出し、管理値と比較することで支保工適合性を確認する適合性判定部45とを備える。
この構成により、比較的早い段階から地山の変形挙動を捉えて逆解析に反映することができる。
【0067】
さらに、本実施形態において、計測距離推定部42は、計測データの受信時の電波強度に基づいて推定したひずみ計測装置と監視装置20との直線距離rと、ひずみ計測装置10が取り付けられた鋼製支保工1が設置されているトンネル面(取り付け位置)と監視装置20との直線距離Cと、切羽と監視装置20との距離Aとに基づいて計測距離dを算出する。
【0068】
以上、実施形態をもとに本発明を説明した。この実施形態は例示であり、それらの各構成要素の組み合わせ等にいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【符号の説明】
【0069】
1 鋼製支保工
2 ドリルジャンボ
10 ひずみ計測装置
11 ひずみゲージ
12 ブリッジ
13 アンプ
14 ひずみ計測部
15 測定結果記憶部
16 通信制御ユニット
17 無線ユニット
18 バッテリ
20 監視装置
21 無線ユニット
22 通信制御ユニット
30 解析装置
31 入力部
32 表示部
33 出力部
34 記憶部
40 制御部
41 計測装置登録受付部
42 計測距離推定部
43 ひずみ監視部
44 未知数推定部
45 適合性判定部
341 計測装置情報