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特開2022-178008表面層形成用組成物、該組成物から形成された表面層及び油性インク筆記用面材、該面材を備える物品
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  • 特開-表面層形成用組成物、該組成物から形成された表面層及び油性インク筆記用面材、該面材を備える物品 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022178008
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】表面層形成用組成物、該組成物から形成された表面層及び油性インク筆記用面材、該面材を備える物品
(51)【国際特許分類】
   C09D 4/02 20060101AFI20221125BHJP
   B43L 1/00 20060101ALI20221125BHJP
【FI】
C09D4/02
B43L1/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021084488
(22)【出願日】2021-05-19
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)展示会での発表(「販促EXPO2021」への出展) 展示日 令和3年1月27日 (2)プレスリリースの公開 公開日 令和3年3月1日 (3)電気通信回線を通じた発表 掲載日 令和3年3月1日 掲載ウェブサイト #tagシリーズ|WEMO(https://www.wemo.tokyo/tag)のうちの発明が掲載されたページ (4)販売による公開 販売開始日 令和3年3月1日 販売を開始したウェブサイト WEMO公式HP(https://www.wemo.tokyo/tag) Amazon(https://www.amazon.co.jp/stores/page/4E38CCA8-8389-4E09-A140-8E936EA07E9E?ingress=0&visitId=c021274f-6bc3-433e-abc3-3bdaacf9b847)
(71)【出願人】
【識別番号】591161623
【氏名又は名称】株式会社コバヤシ
(71)【出願人】
【識別番号】592091220
【氏名又は名称】株式会社コスモテック
(74)【代理人】
【識別番号】100147865
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 美和子
(72)【発明者】
【氏名】坂上哲也
(72)【発明者】
【氏名】鬼塚暁隆
(72)【発明者】
【氏名】星野一樹
(72)【発明者】
【氏名】下山卓紀
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038FA121
4J038FA141
4J038FA151
4J038FA251
4J038FA261
4J038FA281
4J038JA30
4J038KA04
4J038MA09
4J038PA06
4J038PA17
4J038PB11
4J038PB13
(57)【要約】
【課題】筆記された油性インクの筆跡を容易に消去可能であり、前記筆跡を消去することができる表面層形成用組成物を提供すること。
【解決手段】本発明における表面層形成用組成物は、紫外線照射することにより架橋構造を形成しうる多官能アクリレートと、光重合開始剤を少なくとも含む。組成の一例は、前記多官能アクリレートが、ペンタエリスリトール骨格を有する多官能アクリレート、又は、ウレタン結合を有する多官能アクリレートから選択される1又は複数の多官能アクリレートであり、前記光重合開始剤が1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンである表面層形成用組成物である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外線照射することにより架橋構造を形成しうる多官能アクリレートと、
光重合開始剤を少なくとも含み、
油性インクで筆記可能であり、且つ、筆記した筆跡を消去可能である表面層を形成する表面層形成用組成物。
【請求項2】
前記多官能アクリレートは、
ペンタエリスリトール骨格を有する多官能アクリレート、又は、
ウレタン結合を有する多官能アクリレートから選択される1又は複数の前記多官能アクリレートを含む、請求項1に記載の表面層形成用組成物。
【請求項3】
前記筆跡はプラスチック字消しによって消去されうる、請求項1又は2に記載の表面層形成用組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載された表面層形成用組成物によって形成された表面層。
【請求項5】
請求項4に記載の前記表面層を少なくとも備える、油性インク筆記用面材。
【請求項6】
請求項5に記載の前記油性インク筆記用面材を少なくとも備える、物品。














【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面層形成用組成物等に関する。より詳しくは、油性インクで筆記可能であり、かつ、その筆跡を消去可能な表面層を得ることができる表面層形成用組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一般的な筆記用具による筆記可能性と消去可能性を両立する表面層を形成することを目的とした表面加工技術がある。
例えば、下記特許文献1では、透明プラスチックフィルム上に、無機化合物を含む低屈折率層を有する低反射部材が提案されている。前記低反射部材の表面は、油性マジックで筆記可能であり、且つインクを十分に密着させることができる。一方、水の滴下という簡易な作業により、前記油性マジックの筆跡を消去することが可能である。
【0003】
また、下記特許文献2では、基材フィルムと、該基材フィルム上に設けられ、シリコーン粒子からなるマット剤と剥離剤とを含む情報記録層を有する、筆記及び消去可能な筆記シートが提案されている。前記筆記シートの表面は、色鉛筆、水性サインペン又は油性インクペンに代表される一般的な筆記用具で筆記可能であり、該筆記用具で筆記した筆跡は、イソプロピルアルコールとノルマルプロピルアルコールとの混合液(1:1質量比)からなる消去剤を含んだティッシュペーパーにより消去することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-152836号
【特許文献2】特開2005-28602号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明では、油性インクで筆記可能であり、かつ、筆記された油性インクの筆跡を容易に消去可能であり、例えば、前記筆跡はプラスチック字消しで擦ることにより消去可能である表面層形成用組成物を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、紫外線照射することにより架橋構造を形成しうる多官能アクリレートと、光重合開始剤を少なくとも含み、油性インクで筆記可能であり、且つ、筆記した筆跡を消去可能である表面層を形成する表面層形成用組成物を提供する。より具体的には、前記多官能アクリレートは、ペンタエリスリトール骨格を有する多官能アクリレート、又は、ウレタン結合を有する多官能アクリレートから選択される1又は複数の前記多官能アクリレートを含む、請求項1に記載の表面層形成用組成物である。例えば、前記筆跡はプラスチック字消しによって消去されうる。また、本発明では、上記した表面層形成用組成物によって形成された表面層、該表面層を少なくとも備える油性インク筆記用面材、並びに、該面材を少なくとも備える物品を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る表面層形成用組成物によれば、本発明では筆記された油性インクの筆跡を容易に消去可能であり、例えば、前記筆跡をプラスチック字消しで擦ることにより消去できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明に係る表面層を備える面材の基本的な層構造を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、表面層形成用組成物を提供する。より詳しくは、油性インクによって筆記可能であり、且つ、その筆跡を容易に消去可能であり、例えば、前記筆跡をプラスチック字消しで擦ることにより消去可能である表面層を形成するための表面層形成用組成物を提供する。なお、以下に実施形態を示して説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0010】
ここで、前記した「油性インク」の種類は、狭く限定されず、例えば、油性マジックや油性ボールペンにおいて一般に採用されている油性のインクを広く適用することができる。本発明の対象となる「油性マジック」は、狭く限定されないが、例えば、筒状容器の中に油性インクを含ませた吸収体を入れ、これらに繊維製又はプラスチック製ペン先を取り付けたマーキングペンである。
【0011】
上記油性マジックの「油性インク」については、狭く限定されないが、少なくとも、有機溶媒と、樹脂及び染料を含む組成を備えるインクである。油性マジック用の油性インクのより詳しい代表的組成例を挙げると、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ベンジルアルコール、メチルエチルケトン等を合計65~91質量%含む溶媒と、1~10質量%の樹脂と、1~20質量%の染料から構成される油性インクである。
【0012】
また、本発明に適用できる「プラスチック(合成樹脂製の)字消し(以下、「字消し」)は、主に鉛筆やシャープペンシルで描画されたものを消すために一般的に用いられる、市販の合成樹脂製の字消し(いわゆる、消しゴム)である。一例を挙げるならば、ポリ塩化ビニルを主成分とするプラスチック字消しである。
【0013】
本発明に係る表面層形成用組成物は、油性インクでの筆記が必要になる様々な面材の表面層を形成するために使用される。例えば、黒板やホワイトボードに代表される筆記ボード、メモパッド、画板、カード類、家電製品のケース、さらには、建築物の壁面材などにも広く採用され得る。
【0014】
また、本発明に係る表面層形成用組成物が形成する表面層は、平面形状に限定されることなく、様々な形態をなす物品の表面にも用いることができる。例えば、文房具、ファイル類、収納用品等を含む事務用品や、机や収納キャビネットなどの家具類、各種電子機器を含む事務機器に広く採用され得る。本発明に係る物品の好適な利用例として例えば、リストバンドやスマートフォンケースが挙げられる。前記リストバンド及びスマートフォンケースは、ノートやメモ用紙を持ち合わせる余裕のない状況において、一時的に情報を記録したい場合などに有用である。また、本発明に係る物品の好適な別の利用例として例えば、タグ及び名札が挙げられる。前記タグ及び名札は、物を仕分けて収納する際の目印として利用することができ、油性インクで書き換えることが可能なため、繰り返しの使用を可能にする。
【0015】
前記表面層形成用組成物において表面層を基材に対して形成する方法は、特に限定されないが、例えば、基材に対して、表面層形成用組成物を直接塗布したり、スプレーを施したりすることができる。あるいは、予め前記表面層形成用組成物でシートを作成しておき、該シートを基材に接着剤等で貼り付ける手法を採用してもよい。
【0016】
ここで、前記表面層形成用組成物は、紫外線照射により(A)UV硬化性樹脂を形成し得る組成物を指し、(B)多官能アクリレートと、(C)光重合開始剤を含む。必要に応じて、(D)組成物の表面張力等の物性を調整する添加剤を含む。
【0017】
(A)UV硬化性樹脂について。
UV硬化性樹脂は、光(紫外線)の照射により発生するラジカルやカチオンを開始種として、ビニル基、アクリロイル基またはエポキシ基等の重合性を有するモノマーやオリゴマー間の反応により架橋構造が形成される樹脂のことである。本発明では、用いるモノマーやオリゴマーの種類の豊富さや、コストの観点から、特にラジカルを開始種とした、多官能アクリレートを含むUV硬化性樹脂に関する。
【0018】
(B)多官能アクリレートについて。
本発明で用いる(B)多官能アクリレートは、前記表面層形成用組成物の主成分であって各種の(b1)多官能アクリレートモノマーや、(b2)多官能アクリレートオリゴマーが挙げられるが、これらに限定されない。
【0019】
(b1)多官能アクリレートモノマーについて。
多官能アクリレートモノマーは、分子中に2個以上のアクリロイル基を有する化合物の総称であり、公知の種々の多官能アクリレートモノマーから選択することができる。
【0020】
本発明で採用し得る好適な多官能アクリレートモノマーは、例えば、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、トリペンタエリスリトールアクリレート、ジグリセリンEO変性アクリレート(ここで、EOはエチレンオキサイドを意味する)、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパンPO変性トリアクリレート(ここで、POはプロピレンオキサイドを意味する)、トリメチロールプロパンEO変性トリアクリレート、アルコキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、イソシアヌル酸EO変性ジアクリレート、イソシアヌル酸EO変性トリアクリレート、フェノールEO変性アクリレート、2-エチルヘキシルEO変性アクリレート、N-アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタルイミド、ビスフェノールF EO変性ジアクリレート、ビスフェノールA EO変性ジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、トリス[2-ヒドロキシエチル]イソシアヌレートトリアクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、プロポキシ化グリセリルトリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート等を挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0021】
上記の多官能アクリレートモノマーのほか、多官能ポリエステルアクリレートの市販品として東亞合成株式会社から販売されている、「M-7100」、「M-7300」、「M-8030」、「M-8060」、「M-8100」、「M-8530」、「M-8560」、「M-9050」が挙げられる。また、デンドリマー型の多分岐アクリレートの市販品として、大阪有機化学工業株式会社から販売されている、「ビスコート#1000LT」、「SIRIUS-501」が挙げられる。
【0022】
上記の多官能アクリレートモノマーの中でも、特にペンタエリスリトール骨格を有する多官能アクリレートモノマーは本発明で用いられる多官能アクリレートとして特に好適である。前記ペンタエリスリトール骨格を有する多官能アクリレートは、硬化スピードの上昇、架橋密度の向上による耐擦傷性、ハードコードなどの機械的強度に優れる。このため、ペンタエリスリトール骨格を有するUV硬化性樹脂構造を備える組成物で形成された表面層は、繰り返しの筆記と消去による衝撃にも耐え得る耐擦傷性と力学的強度を実現する。
【0023】
(b2)多官能アクリレートオリゴマーについて。
多官能アクリレートオリゴマーは、多官能アクリレートモノマーに比べて分子量が高く、複数の繰り返し単位に2個以上のアクリル基を有する化合物の総称であり、公知の種々の多官能アクリレートオリゴマーから選択することができる。
前記多官能アクリレートオリゴマーは、繰り返し単位の種類によって、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレートに大別される。上記の多官能アクリレートオリゴマーの中でも、特にウレタンアクリレートは、本発明で用いられる多官能アクリレートとして特に好適である。ウレタンアクリレートは、ポリオールとジイソシアネート並びに水酸基を有するアクリレートから合成され、公知の種々の前記ポリオール等の組み合わせによって、容易に分子設計することができる。前記ウレタンアクリレートは、強靭性、硬度、耐薬品性、密着性に優れる。このため、前記ウレタン結合を含むUV硬化性樹脂構造を備える組成物で形成された表面層は、油性インクの溶剤や染料が適度に浸透し難いなどの性質を備えることで、該油性インクが筆記の際にははじかずに表面に定着しやすい機能と、字消しによる消去が容易である機能を達成している。更には、繰り返しの筆記と消去に耐え得る硬度及び強靭性と、表面層形成用組成物として基材に対して適切な密着性を有する。
【0024】
本発明で採択し得るウレタンアクリレートとしては、特に限定されないが、市販されているものを適宜使用することができる。例えば、東亞合成株式会社から販売されている「M-1100」(2官能)、「M-1200」(2官能)や、根上工業株式会社から販売されている「UN-3320HA」(6官能)、「UN-3320HC」(6官能)、「UN-906S」(6官能)、「UN-901T」(9官能)、「UN-952」(10官能)、「UN-904」(10官能)、「UN-905」(15官能)、「UN-3320HS」(15官能)や、三菱ケミカル株式会社から販売されている「UV-1700B」(10官能)、「UV-6300B」(7官能)、「UV-7550B」(3官能)、「UV-7600B」(6官能)、「UV-7605B」(6官能)、「UV-7610B」(9官能)、「UV-7620EA」(9官能)、「UV-7630B」(6官能)、「UV-7640B」(6~7官能)、「UV-7650」(4~5官能)が挙げられる。
【0025】
(C)光重合開始剤について。
光重合開始剤は主に波長250~400nmの紫外線領域の光エネルギーを吸収してラジカルを生じ、前記(B)多官能アクリレートの二重結合を攻撃して重合が開始されるものである。前記光重合開始剤の種類と配合量については、光重合性アクリルポリマーの光重合において慣用されるものを広く用いることができる。
【0026】
本発明で採用し得る光重合開始剤としては、例えば、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパノン、1-ヒドロキシシクロヘキシル-フェニルケトン、2-ヒドロキシ-1-(4-(4-(2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオニル)ベンジル)フェニル)-2-メチルプロパン-1-オン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシル)-フェニル]-2-ヒドロキシ-メチルプロパノン、2-ベンジル-2-(ジメチルアミノ)-4’-モルフォリノブチロフェノン、2-ジメチルアミノ-2-(4-メチル-ベンジル)-1-(4-モルフォリン-4-イル-フェニル)-ブタン-1-オン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン等のアルキルフェノン系光重合開始剤や、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン等のアセトフェノン系光重合開始剤や、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルフォスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルフォスフィンオキシド、エチル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィネート、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド等のアシルフォスフィンオキシド系光重合開始剤や、ベンゾフェノン、4-メチルベンゾフェノン、4-フェニルベンゾフェノン、o-メチルベンゾイルベンゾエート、4-(4メチルフェニルチオ)ベンゾフェノン、2-4-6トリメチルベンゾフェノン、2,4-ジメチルチオキサンゾン、2-イソプロピルチオキサンゾン、メチルベンゾイルフォルメート4,4ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン等のベンゾフェノン系光重合開始剤を用いることができる。
【0027】
(D)組成物の表面張力等の物性を調整する添加剤について。
本発明において、硬化性アクリル樹脂を形成する材料以外に、必要に応じて、組成物の表面張力等の物性を調整する添加剤を含んでいてもよい。本発明で採用し得る添加剤としては、特に限定されないが、市販されているものを適宜使用することができる。例えば、ビックケミー・ジャパン株式会社から販売されている、「BYK-UV」シリーズが挙げられる。その中でも、「BYK-UV3500」(アクリル基を有するポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン)については、本発明で用いられる添加剤として特に好適である。前記BYK-UV3500を添加することによって、表面張力が低下し、均一で滑らかな表面層を得ることが期待される。
【0028】
(b1)多官能アクリレートモノマーと(b2)多官能アクリレートオリゴマーの混合について。
(b1)多官能アクリレートモノマーは、上述のように、塗膜の耐溶剤性や耐擦傷性といった機械的な強度を高める役割を担うと共に、反応性希釈材として機能する。その一方で、多官能アクリレートモノマーの添加量が多すぎると、重合収縮率が大きくなるため、柔軟性や基材への密着性が悪化する恐れがある。
これに対し、(b2)多官能アクリレートオリゴマー、特に本発明で好適に用いられるウレタンアクリレートは、ポリウレタン特有の耐衝撃性や柔軟性を有する一方、粘性が高いため反応性希釈材が必要になる。
以上、(b1)多官能アクリレートモノマーと、(b2)多官能アクリレートオリゴマーの特徴を鑑みると、これらを混合することによって、各々の改善点を相補し、繰り返しの筆記と消去に耐え得る機械的強度を持ちながら、長期間にわたる塗膜の基材への安定性を維持することが可能となる。
【0029】
ここで、本発明に係る表面層を備える面材の基本的な層構造について、添付した図面に基づいて説明する。図1は、前記層構造の一例を示す断面図である。
【0030】
まず、符号1で示す面材は、基材層11と、該基材層11の上に積層された表面層12を少なくとも備えている。なお、表面層12をシート状に形成した後に、該シートを基材層11上に積層する構成では、基材層11と表面層12の間に接着剤層(図示せず。)が介在する。表面層12は、基材層11に対して塗布やスプレーの方法によって直接形成してもよい。なお、層構造の全体の層の数は特に限定されない。即ち、基材層11と表面層12の間に目的に応じた必要な層を介在させてもよい。
【0031】
以下に、本発明を実験例に基づいて説明するが、本発明は、これらの実験例に何ら限定されるものではない。以下に掲げた表1に示される組成を有する表面層形成用組成物の各実験例を、下記手法によりそれぞれ調製した。
【0032】
(実験例1)
多官能アクリレート成分であるペンタエリスリトール(トリ/テトラ)アクリレート(PETRA,ダイセルオルネクス社製)に、溶剤であるメチルエチルケトン(三洋化成品社製)を、固形分が40質量%になるように添加し、配合液とした。前記配合液に光重合開始剤(IRGACURE 184、IGM社製)を、前記ペンタエリスリトール(トリ/テトラ)アクリレート100質量部に対し、5質量部となる量で添加し、表面層形成用組成物を得た。そして、前記表面層形成用組成物をPETフィルム(ルミラーS10,東レ社製,厚み100μm)に、No.12バーコーダーで塗布した後、オーブンを90℃に設定し90秒予備乾燥した。そして、メタルハライドランプ(アイグラフィックス社製)にて、積算照射量500mJ/cm2として、紫外線硬化させることにより、評価に用いる表面層を得た。
【0033】
(実験例2)
多官能アクリレート成分としてジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA,ダイセルオルネクス社製)を用いた点、前記光重合開始剤(IRGACURE 184,IGM社製)を、前記ジペンタエリスリトールアクリレート100質量部に対し、3質量部となる量で添加した以外は、実験例1と同様の手法にて、表面層形成用組成物及び表面層を得た。
【0034】
(実験例3)
多官能アクリレート成分として10官能ウレタンアクリレート(UV-1700B,三菱ケミカル社製)を用いた点、前記光重合開始剤(IRGACURE 184,IGM社製)を、前記10官能ウレタンアクリレート100質量部に対し、3質量部となる量で添加した以外は、実験例1と同様の手法にて、表面層形成用組成物及び表面層を得た。
【0035】
(実験例4)
多官能アクリレート成分として6官能ウレタンアクリレート1(UV-7600B,三菱ケミカル社製)を用いた点、前記光重合開始剤(IRGACURE,IGM社製)を、前記6官能ウレタンアクリレート100質量部に対し、3質量部となる量で添加した以外は、実験例1と同様の手法にて、表面層形成用組成物及び表面層を得た。
【0036】
(実験例5)
多官能アクリレート成分として6官能ウレタンアクリレート1(UV-7600B,三菱ケミカル社製)を用いた点、前記光重合開始剤(IRGACURE 184,IGM社製)を、前記6官能ウレタンアクリレート100質量部に対し、3質量部となる量で添加した点、さらに、添加剤としてアクリル基を有するポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン(BYK-UV3500,ビックケミー・ジャパン社製)を前記6官能ウレタンアクリレート100質量部に対し、1質量部となる量で添加した点以外は、実験例1と同様の手法にて、表面層形成用組成物及び表面層を得た。
【0037】
(実験例6)
多官能アクリレート成分として6官能ウレタンアクリレート2(UN-3320HA,根上工業社製)を用いた点、前記光重合開始剤(IRGACURE 184,IGM社製)を、前記6官能ウレタンアクリレート100質量部に対し、3質量部となる量で添加した以外は、実験例1と同様の手法にて、表面層形成用組成物及び表面層を得た。
【0038】
(実験例7)
多官能アクリレート成分として6官能ウレタンアクリレート2(UN-3320HA,根上工業社製)及びシリコン含有6官能ウレタンアクリレート(UN-906S,根上工業社製)を混合した点、前記光重合開始剤(IRGACURE 184,IGM社製)を、前記6官能ウレタンアクリレート及び前記シリコン含有6官能ウレタンアクリレートの混合物100質量部に対し、3質量部となる量で添加した以外は、実験例1と同様の手法にて、表面層形成用組成物及び表面層を得た。なお、前記6官能ウレタンアクリレート及び前記シリコン含有6官能ウレタンアクリレートの混合物100質量部のうち99質量部は、前記6官能ウレタンアクリレートが、前記混合物100質量部のうち1質量部は前記シリコン含有6官能ウレタンアクリレートが占めるものとする。
【0039】
(実験例8)
多官能アクリレート成分として実験例1と同様のペンタエリスリトール(トリ/テトラ)アクリレート1(PETRA,ダイセルオルネクス社製)、及び、実験例6と同様の6官能ウレタンアクリレート2を混合した点、前記光重合開始剤(IRGACURE 184,IGM社製)を、前記ペンタエリスリトール(トリ/テトラ)アクリレート及び前記6官能ウレタンアクリレートの混合物100質量部に対し、3質量部となる量で添加した以外は、実験例1と同様の手法にて、表面層形成用組成物及び表面層を得た。なお、前記ペンタエリスリトール(トリ/テトラ)アクリレート及び前記6官能ウレタンアクリレートの混合物100質量部のうち25質量部は前記ペンタエリスリトール(トリ/テトラ)アクリレートが、前記混合物100質量部のうち75質量部は前記6官能ウレタンアクリレートが占めるものとする。
【0040】
(実験例9)
前記ペンタエリスリトール(トリ/テトラ)アクリレート1及び前記6官能ウレタンアクリレート2の混合物100質量部のうち、前記ペンタエリスリトール(トリ/テトラ)アクリレート2と前記6官能ウレタンアクリレート2それぞれが50質量部占めるものとした点以外は、実験例8と同様の手法にて、表面層形成用組成物及び表面層を得た。
【0041】
(実験例10)
前記ペンタエリスリトール(トリ/テトラ)アクリレート1及び前記6官能ウレタンアクリレート2の混合物100質量部のうち75質量部は前記ペンタエリスリトール(トリ/テトラ)アクリレート1が、該混合物100質量部のうち25質量部は前記6官能ウレタンアクリレート2が占めるものとした点以外は、実験例8と同様の手法にて、表面層形成用組成物及び表面層を得た。
【0042】
(実験例11)
多官能アクリレート成分としてトリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA,ダイセルオルネクス社製)を用いた点、前記光重合開始剤(IRGACURE 184,IGM社製)を、前記トリメチロールプロパントリアクリレート100質量部に対し、3質量部となる量で添加した以外は、実験例1と同様の手法にて、表面層形成用組成物及び表面層を得た。
【0043】
(実験例12)
単官能アクリレートであるジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート(FA-512AS,昭和電工マテリアルズ社製)を用いた点、前記光重合開始剤(IRGACURE 184,IGM社製)を、前記ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート100質量部に対し、3質量部となる量で添加した以外は、実験例1と同様の手法にて、表面層形成用組成物及び表面層を得た。
【0044】
評価について。
上記の方法により調製した表面層形成用組成物から得られた表面層における、各配合組成の(1)油性マジック筆記性、(2)油性マジック筆跡の字消し消去性、(3)耐擦傷性の評価を、次の方法によって行った。その各評価の結果をそれぞれの組成と共に下記の表1に示した。
【0045】
(1)油性マジックの筆記性
各実験例の組成物を、PETフィルム(東レルミラーS10 厚み100 μm)に、No.10バーコーダーで塗布した後、オーブン150℃で10分加熱した。24時間後、油性マジックで筆記し、筆跡を目視にて判断した。なお、今回実験に用いた油性マジックは、ゼブラ社のマッキー(登録商標)である。
【0046】
筆記性の各評価は、三段階評価を行った。評価の基準を下記に示す。
◎(良好);油性インクではじかずに書けた。
〇(合格);油性インクのはじきが5%未満であった。
×(不合格);油性インクのはじきが5%以上である、又は、書けなかった。
【0047】
(2)油性マジック筆跡の字消し消去性
各実験例で得た組成物を、PET製フィルム(東レルミラーS10 厚み100 μm)に、No.10バーコーダーで塗布した後、オーブン150℃で10分加熱した。24時間後、油性マジックで筆記し、更に24時間後、プラスチック字消しで所定の条件で擦過し、筆跡を目視にて判断した。擦過条件は、距離:10cm、速さ:10往復/6秒、荷重:800gとした。
【0048】
消去性の評価は、三段階評価で行った。評価の基準を下記に示す。
◎(良好);試験条件より弱い圧力、少ない往復回数で消去できた。
〇(合格);消去できた。
×(不合格);消去できない筆跡が残った。
【0049】
(3)耐擦傷性
各実験例で得た組成物を、PET製フィルム(東レルミラーS10 厚み100 μm)に、No.10バーコーダーで塗布した後、オーブン150℃で10分加熱した。24時間後、この表面層上にスチールウール#0000(ボンスター,日本スチールウール社製)を設置し、所定の条件で擦傷し、表面の傷を確認した。擦傷条件は、距離:5cm、速さ10往復/7秒、荷重1Kgとした。
【0050】
耐擦傷性の評価は、二段階評価で行った。評価の基準を下記に示す。
○(合格);傷なし
×(不合格);傷あり
【0051】
「表1」に本発明の実験例の組成比と各実験例の評価結果を示す。
【0052】
【表1】
【0053】
(実験例についての考察)
上掲する「表1」に示される通り、実験例1~11の表面層形成用組成物はいずれも、(1)油性マジックの筆記性、(2)油性マジック筆跡の字消し消去性の評価項目の判定結果がいずれも合格以上(○又は◎記号)であった。すなわち、実験例1~11の表面層形成用組成物はいずれも、油性マジックの筆記性並びに、字消しによる消去性の両方に優れていた。さらに、実験例1~10については、スチールウールによる(3)耐擦傷性にも優れていた。
【0054】
一方、実験例12の表面層形成用組成物では、(2)油性マジック筆跡の字消し消去性及び(3)擦傷性がいずれも不合格であった。すなわち、実験例1~11の表面層形成用組成物はいずれも実験例12の表面層形成用組成物よりも、油性インクの筆記性と消去性の両立に関して優れていた。
【0055】
実験例1、2(多官能アクリレートモノマーを使用)、実験例3、4、6(多官能アクリレートオリゴマーとして、ウレタンアクリレートを使用)の結果から、多官能アクリレートが、多官能アクリレートモノマー、多官能アクリレートオリゴマーのいずれの場合でも、油性インクによる筆記性や字消しによる消去性の面において優れていることが分かった。
【0056】
実験例1、2は、多官能アクリレートとして、ペンタエリスリトール骨格を有する多官能アクリレートモノマーを使用した実験例である。実験例1で使用される多官能アクリレートモノマーである「PETRA」は3個のアクリロイル基と一個の水酸基を有するペンタエリスリトールトリアクリレート、及び、4つのアクリロイル基を有するペンタエリスリトールテトラアクリレートを含む多官能アクリレートモノマーである。一方、実験例2で使用される多官能アクリレートモノマーである「DPHA」は、6つのアクリロイル基を有するジペンタエリスリトールヘキサアクリレートである。両者とも高硬度であり、硬化性及び耐擦傷性に優れるが、「PETRA」は水酸基を有するペンタエリスリトールトリアクリレートを含む点で異なる。これに対し、表1に示す結果では、実験例1、2共に合格以上であるが、実験例2の方が(2)油性マジック筆跡の字消し消去性において優れていた。したがって、ペンタエリスリトールを含む多官能モノマーは、本発明で用いられる多官能アクリレートとして有用であり、より低酸価であるものが特に有用であることがわかった。
【0057】
実験例3、4、6については、多官能アクリレートとして、多官能アクリレートオリゴマーであるウレタンアクリレートを使用した実験例である。実験例3及び実験例4はそれぞれ、10官能、6官能ウレタンアクリレートである。両者とも高硬度であるが、実験例3の方が、硬度がより高い一方、実験例4は各種プラスチックへの密着性に優れることを特徴としている。
また、実験例6も、6官能ウレタンアクリレートであることから、ウレタンアクリレートは、本発明で用いられる多官能アクリレートとして有用であり、さらに、官能基数が少なくとも6以上10以下の範囲であるウレタンアクリレートは有用であることが実験によって示された。
【0058】
実験例5は、多官能アクリレートとして、6官能ウレタンアクリレートを用い、更に添加剤として、アクリル基を有するポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンを添加した実験例である。表1の結果より、本発明の表面層形成用組成物は、樹脂組成物を形成する多官能モノマー及び光開始剤のほか、必要に応じて、アクリル基を有するポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンのように、組成物の物性を調整する添加剤を使用することができると考えられる。
【0059】
また、実験例1及び実験例8~10の結果より、必要に応じてペンタエリスリトール骨格を含む多官能アクリレートモノマーとウレタンアクリレート構造を有する多官能アクリレートオリゴマーを混合することが可能であることが分かった。特に、実験例1に関して、多官能アクリレートとしてペンタエリスリトール(トリ/テトラ)アクリレートのみを使用するよりも、6官能ウレタンアクリレートと混合することによって、(2)油性マジック筆跡の字消し消去性の評価が向上したことから、必要に応じて、複数の種類の多官能アクリレートを混合することが有用であると考えられる。
【0060】
実験例11(3官能アクリレートモノマーを使用)では、本発明の目的である油性マジックの筆記性及び消去性については、いずれも合格以上(○又は◎記号)であった。このことから、アクリレートモノマーは3官能以上の多官能アクリレートモノマーが有用であることが示された。
【0061】
実験例12(単官能アクリレートモノマーを使用)では、油性マジック筆跡の字消し消去性及び耐擦傷性がいずれも不合格であったことから、本発明で使用することができるアクリレートモノマーは多官能アクリレートモノマーであることが必要であることが示された。
【0062】
実験例1、実験例2、実験例11、実験例12の結果から、多官能アクリレート成分として、ペンタエリスリトール骨格を有する多官能アクリレートモノマーを選択した場合は、少なくとも官能基数が3個以上6以下の場合に良好であることが示唆された。
【0063】
また上記のように、実験例3、実験例4、実験例6の結果から、多官能アクリレート成分として、ウレタンアクリレートを選択した場合は、少なくとも官能基数が6個以上10個以下の場合に良好であることが示唆されているが、これらはあくまでも実験結果のみから示唆されることであって、官能基数はこの範囲に限定されるものではない。特に実験例では示されていないが、ウレタンアクリレートオリゴマーについては、官能基数が15個の場合でも本発明の目的を達成し得る知見が得られている。
【0064】
また、実験例1~実験例11については、(3)耐擦傷性についての評価がいずれも合格であった。この結果から、本発明において、少なくとも6官能以上の多官能アクリレートを用いた場合、本発明の主目的である油性マジックの筆記性と消去性のみならず、繰り返しの筆記と消去に耐え得る力学的強度を有することが示唆された。
【符号の説明】
【0065】
1 面材
11 基材層
12 表面層










図1