(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022178087
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】CMOS回路
(51)【国際特許分類】
H01L 21/8238 20060101AFI20221125BHJP
H03K 19/003 20060101ALI20221125BHJP
【FI】
H01L27/092 L
H01L27/092 K
H03K19/003 130
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021084623
(22)【出願日】2021-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100181124
【弁理士】
【氏名又は名称】沖田 壮男
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(72)【発明者】
【氏名】竹内 浩造
【テーマコード(参考)】
5F048
5J032
【Fターム(参考)】
5F048AA03
5F048AA06
5F048AB03
5F048AB04
5F048AC03
5F048BA01
5F048BE03
5F048BE09
5J032AC15
(57)【要約】
【課題】シングルイベントに対する耐性が高いCMOS回路を提供すること。
【解決手段】第一導電型の基板に形成され、少なくとも、第一導電型と異なる第二導電型の第1ウェルを有する第一導電型の第1トランジスタと、第一導電型の第2ウェルを有する第二導電型の第2トランジスタとが組み合わされる論理演算回路と、ゲート端子に第2ウェルが接続される第一導電型の第3トランジスタと、ゲート端子に第1ウェルが接続される第二導電型の第4トランジスタと、を備えるCMOS回路。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一導電型の基板に形成され、少なくとも、前記第一導電型と異なる第二導電型の第1ウェルを有する前記第一導電型の第1トランジスタと、前記第一導電型の第2ウェルを有する前記第二導電型の第2トランジスタとが組み合わされる論理演算回路と、
ゲート端子に前記第2ウェルが接続される前記第一導電型の第3トランジスタと、
ゲート端子に前記第1ウェルが接続される前記第二導電型の第4トランジスタと、
を備えるCMOS回路。
【請求項2】
前記第3トランジスタのゲート端子には、前記第2トランジスタの前記第2ウェルが接続され、
前記第4トランジスタのゲート端子には、前記第1トランジスタの前記第1ウェルが接続される、
請求項1に記載のCMOS回路。
【請求項3】
前記第3トランジスタは、ソース端子が電源の電位に固定され、ドレイン端子が前記第1トランジスタのソース端子に接続され、
前記第4トランジスタは、ソース端子がグラウンドの電位に固定され、ドレイン端子が前記第2トランジスタのソース端子に接続される、
請求項2に記載のCMOS回路。
【請求項4】
前記第3トランジスタは、ソース端子がグラウンドの電位に固定され、ドレイン端子が前記第2トランジスタのソース端子に接続され、
前記第4トランジスタは、ソース端子が電源の電位に固定され、ドレイン端子が前記第1トランジスタのソース端子に接続される、
請求項2に記載のCMOS回路。
【請求項5】
前記第1トランジスタは、ソース端子が電源の電位に固定され、
前記第3トランジスタは、ソース端子が前記第1トランジスタのドレイン端子に接続され、
前記第2トランジスタは、ソース端子がグラウンドの電位に固定され、
前記第4トランジスタは、ソース端子が前記第2トランジスタのドレイン端子に接続され、
前記第3トランジスタのドレイン端子と前記第4トランジスタのドレイン端子とが、論理演算回路の出力端子に接続される、
請求項2に記載のCMOS回路。
【請求項6】
前記論理演算回路は、複数の前記第1トランジスタと、複数の前記第2トランジスタとが組み合わされる論理演算回路であり、
前記第3トランジスタと前記第4トランジスタとを、一つずつ備える、
請求項1から請求項5のうちいずれか1項に記載のCMOS回路。
【請求項7】
前記第一導電型のトランジスタは、PチャンネルMOSトランジスタであり、
前記第二導電型のトランジスタは、NチャンネルMOSトランジスタである、
請求項1から請求項6のうちいずれか1項に記載のCMOS回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CMOS回路に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor:相補型金属酸化膜半導体)型のLSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)などの半導体集積回路が、様々な機器や装置に使用されている。CMOS型半導体集積回路では、半導体基板(例えば、シリコン基板)上に形成されたトランジスタなどの回路素子を複数繋げて回路を形成することにより、必要な動作をする機能が実現される。
【0003】
例えば、地球を周回する人工衛星など、宇宙空間において使用されるCMOS型半導体集積回路は、例えば、高エネルギーの荷電粒子などの放射線が入射してしまう環境で使用される。また、地上で使用されるCMOS型半導体集積回路も、例えば、中性子などの放射線の影響を受けることが知られている。CMOS型半導体集積回路に入射した放射線は、半導体基板上に形成された回路素子が誤動作してしまう要因となることが知られている。より具体的には、CMOS型半導体集積回路に高エネルギーの荷電粒子が入射すると、例えば、電位の変動(いわゆる、シングルイベントトランジェント:Single Event Transient:SET)や、電位の変動の影響を受けた信号の伝搬による誤ったデータの記憶(いわゆる、シングイベントアップセット:Single Event Upset:SEU)などが発生することが知られている。
【0004】
従来から、シングルイベントトランジェントやシングイベントアップセットなどのシングルイベントに対する対策をするための種々の技術が開示されている(特許文献1、非特許文献1参照)。例えば、特許文献1には、回路素子を二重化構造(縦積みの構造)にすることにより、高エネルギーの荷電粒子によって発生したシングルイベントによる誤動作を後段に伝搬させないようにすることが開示されている。例えば、非特許文献1には、シングルイベントのエラー(ソフトエラー)に対する耐性(ロバスト性)を高めた組み込み型の回路素子の設計(構造)に関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】S.Mitra、N.Seifert、M.Zhang、Q.Shi、K.S.Kim、“Robust system design with built-in soft-error resilience”、IEEE Computer Society、vol.38、no.2、pp.43-52、Feb.2005、doi:10.1109/MC.2005.70.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示された技術は、SOI(Silicon on Insulator)構造の半導体基板に回路素子を形成する場合にのみ有効な技術である。SOI構造の半導体基板は、基板の内部に絶縁体の層を設けている構造となっているため、例えば、シリコンの単結晶の基板(いわゆる、バルク基板)に比べて高価なものである。さらに、近年では、CMOS型半導体集積回路の製造プロセスの微細化が進んできている。このため、従来の技術を適用した回路素子は、製造プロセスの微細化に伴って、シングルイベントへの対策効果を期待することができなくなってきている。これは、従来の技術では、回路素子を構成するそれぞれの構成要素の間に空間的な距離を設けることによってシングルイベントへの対策を行っているが、製造プロセスが微細化すると半導体基板上に形成される回路素子が小さくなり、それぞれの構成要素の間に必要な距離を確保することができなくなってしまい、従来の技術によるシングルイベントへの対策効果が無効化されてしまうからである。
【0008】
本発明は、上記の課題認識に基づいてなされたものであり、シングルイベントに対する耐性が高いCMOS回路を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の一態様に係るCMOS回路は、第一導電型の基板に形成され、少なくとも、前記第一導電型と異なる第二導電型の第1ウェルを有する前記第一導電型の第1トランジスタと、前記第一導電型の第2ウェルを有する前記第二導電型の第2トランジスタとが組み合わされる論理演算回路と、ゲート端子に前記第2ウェルが接続される前記第一導電型の第3トランジスタと、ゲート端子に前記第1ウェルが接続される前記第二導電型の第4トランジスタと、を備えるCMOS回路である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、CMOS回路におけるシングルイベントへの耐性を高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1実施形態に係るCMOS回路の構成の一例を示す図である。
【
図2】第1実施形態に係るCMOS回路における通常の動作の一例を示すタイミングチャートである。
【
図3】第1実施形態に係るCMOS回路に高エネルギーの荷電粒子が入射する様子の一例を模式的に示す図である。
【
図4】第1実施形態に係るCMOS回路に入射した高エネルギーの荷電粒子によりシングルイベントが発生した場合の動作の一例を示すタイミングチャートである。
【
図5】第1実施形態に係るCMOS回路に高エネルギーの荷電粒子が入射する様子の別の一例を模式的に示す図である。
【
図6】第1実施形態に係るCMOS回路に入射した高エネルギーの荷電粒子によりシングルイベントが発生した場合の動作の別の一例を示すタイミングチャートである。
【
図7】第1実施形態に係るCMOS回路の構成の別の一例を示す図である。
【
図8】第1実施形態に係るCMOS回路の構成の別の一例を示す図である。
【
図9】第1実施形態に係るCMOS回路の構成の別の一例を示す図である。
【
図10】第2実施形態に係るCMOS回路の構成の一例を示す図である。
【
図11】第3実施形態に係るCMOS回路の構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照し、本発明のCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor:相補型金属酸化膜半導体)回路の実施形態について説明する。実施形態のCMOS回路は、例えば、論理否定回路(NOT回路あるいはインバータ回路)、論理和回路(OR回路)、論理積回路(AND回路)、否定論理和回路(NOR回路)、否定論理積回路(NAND回路)、排他的論理和回路(EXOR回路)、否定排他的論理和回路(EXNOR回路)など、論理演算を行う単独の論理演算回路である。実施形態のCMOS回路は、単独の論理演算回路を複数組み合わせることによって、例えば、バッファ回路や伝送ゲート回路などのデータ(信号レベル)を伝送する構成や、ラッチ回路やフリップフロップ回路などのデータ(信号レベル)を保持する構成にすることもできる。さらに、実施形態のCMOS回路は、単独の論理演算回路や、フリップフロップ回路、伝送ゲート回路などを複数組み合わせることによって、例えば、SRAM(Static Random Access Memory)など、データ(信号レベル)を記憶する(メモリする)構成にすることもできる。
【0013】
<第1実施形態>
以下の説明においては、説明を容易にするため、最も簡単な構成の論理演算回路である論理否定回路(以下、「インバータ回路」という)を、第1実施形態のCMOS回路の一例として説明する。
【0014】
[インバータ回路の構成]
図1は、第1実施形態に係るCMOS回路(インバータ回路)の構成の一例を示す図である。インバータ回路1は、PチャンネルMOSトランジスタP1と、NチャンネルMOSトランジスタN1と、PチャンネルMOSトランジスタP2と、NチャンネルMOSトランジスタN2と、を備える。
図1に示したインバータ回路1は、P型の単結晶の半導体基板(バルク基板)にそれぞれのトランジスタを形成した場合の一例である。
【0015】
インバータ回路1において、PチャンネルMOSトランジスタP1とNチャンネルMOSトランジスタN1との構成は、一般的な論理演算回路における基本的な論理否定回路(インバータ回路)の構成である。以下の説明においては、PチャンネルMOSトランジスタP1とNチャンネルMOSトランジスタN1とによる基本的な構成のインバータ回路を、「NOT基本回路Bc1」といって、第1実施形態のインバータ回路1と区別する。
【0016】
PチャンネルMOSトランジスタP1は、ゲート端子がインバータ回路1の入力端子INに、ソース端子がPチャンネルMOSトランジスタP2のドレイン端子に、ドレイン端子がNチャンネルMOSトランジスタN1のドレイン端子に、それぞれ接続されている。NチャンネルMOSトランジスタN1は、ゲート端子がインバータ回路1の入力端子INに、ソース端子がNチャンネルMOSトランジスタN2のドレイン端子に、ドレイン端子がPチャンネルMOSトランジスタP1のドレイン端子に、それぞれ接続されている。PチャンネルMOSトランジスタP1のドレイン端子とNチャンネルMOSトランジスタN1のドレイン端子とが接続されたノードは、インバータ回路1の出力端子OUTとなっている。
【0017】
インバータ回路1において、PチャンネルMOSトランジスタP2は、PチャンネルMOSトランジスタP1のソース端子側に配置され、ソース端子が電源VDD(電源に固定の電位)に、ドレイン端子がPチャンネルMOSトランジスタP1のソース端子に、それぞれ接続されている。PチャンネルMOSトランジスタP2のゲート端子は、NチャンネルMOSトランジスタN1のPウェルPw(
図1では、NチャンネルMOSトランジスタN1のボディ)に接続されている。NチャンネルMOSトランジスタN2は、NチャンネルMOSトランジスタN1のソース端子側に配置され、ソース端子がグラウンドGND(グラウンドに固定の電位)に、ドレイン端子がNチャンネルMOSトランジスタN1のソース端子に、それぞれ接続されている。NチャンネルMOSトランジスタN2のゲート端子は、PチャンネルMOSトランジスタP1のNウェルNw(
図1では、PチャンネルMOSトランジスタP1のボディ)に接続されている。PチャンネルMOSトランジスタP2およびNチャンネルMOSトランジスタN2のゲート端子と、対応するウェルとは、例えば、ウェルコンタクトなどによって接続されてもよい。
【0018】
インバータ回路1において、PチャンネルMOSトランジスタP2とNチャンネルMOSトランジスタN2との構成は、NOT基本回路Bc1の電源回路であるといってもよい。以下の説明においては、PチャンネルMOSトランジスタP2とNチャンネルMOSトランジスタN2との構成を、「電源回路」ともいう。
【0019】
P型の単結晶の半導体基板は、特許請求の範囲における「第一導電型の基板」の一例である。PチャンネルMOSトランジスタP1は、特許請求の範囲における「第1トランジスタ」の一例であり、NチャンネルMOSトランジスタN1は、特許請求の範囲における「第2トランジスタ」の一例である。NウェルNwは、特許請求の範囲における「第1ウェル」の一例であり、PウェルPwは、特許請求の範囲における「第2ウェル」の一例である。P型やPチャンネルは、特許請求の範囲における「第一導電型」の一例であり、N型やNチャンネルは、特許請求の範囲における「第二導電型」の一例である。NOT基本回路Bc1は、特許請求の範囲における「論理演算回路」の一例である。PチャンネルMOSトランジスタP2は、特許請求の範囲における「第3トランジスタ」の一例であり、NチャンネルMOSトランジスタN2は、特許請求の範囲における「第4トランジスタ」の一例である。
【0020】
[インバータ回路の動作]
以下、インバータ回路1の動作タイミングについて説明する。まず、インバータ回路1における通常の動作について説明する。
図2は、第1実施形態に係るCMOS回路(インバータ回路1)における通常の動作の一例を示すタイミングチャートである。
図2は、インバータ回路1に放射線の高エネルギーの荷電粒子が入射していない通常の状態のタイミングチャートである。以下の説明においては、インバータ回路1におけるそれぞれの信号の“High”レベルを電源VDDのレベル(以下、「VDDレベル」という)とし、“Low”レベルをグラウンドGNDのレベル(以下、「GNDレベル」という)とする。
【0021】
図2には、所定の時間間隔でVDDレベルとGNDレベルとの間で信号レベルを変化させた入力信号がインバータ回路1の入力端子INに入力された場合において、入力端子IN、出力端子OUT、NウェルNw、およびPウェルPwのそれぞれの信号が変化するタイミングとその信号レベルとを示している。
【0022】
インバータ回路1の通常の動作では、NウェルNwはVDDレベルであり、PウェルPwはGNDレベルである。つまり、インバータ回路1が備えるPチャンネルMOSトランジスタP2とNチャンネルMOSトランジスタN2とで構成される電源回路は、常にオン状態である。このため、インバータ回路1の通常の動作では、入力端子INに入力された入力信号が、NOT基本回路Bc1における所定の遅延時間だけ遅延したタイミングで反転されて、出力端子OUTに出力される。
【0023】
このように、インバータ回路1の通常の動作では、NOT基本回路Bc1により出力された信号が、出力信号として出力端子OUTに出力される。つまり、インバータ回路1における通常の動作では、一般的な論理否定回路と同様に、インバータ回路1の入力端子INに入力された入力信号が反転されて、出力端子OUTに出力される。
【0024】
次に、インバータ回路1に放射線の高エネルギーの荷電粒子が入射した場合の動作について説明する。
図3は、第1実施形態に係るCMOS回路(インバータ回路1)に高エネルギーの荷電粒子が入射する様子の一例を模式的に示す図である。
図3には、放射線Rの高エネルギーの荷電粒子Eが、インバータ回路1を構成するNOT基本回路Bc1のNチャンネルMOSトランジスタN1に入射した場合を示している。入射した荷電粒子Eにより、インバータ回路1においても、入射した荷電粒子Eの電荷に応じたシングルイベントトランジェントが発生する。入射した荷電粒子Eは、オン状態のトランジスタよりも、オフ状態のトランジスタに対してより大きな影響を与えることが知られている。
【0025】
図4は、第1実施形態に係るCMOS回路(インバータ回路1)に入射した高エネルギーの荷電粒子によりシングルイベントが発生した場合の動作の一例を示すタイミングチャートである。
図4は、インバータ回路1の入力端子INにGNDレベルの入力信号が入力されているときに荷電粒子Eが入射した場合のタイミングチャートである。
【0026】
インバータ回路1の入力端子INにGNDレベルの入力信号が入力されているタイミングt1のときにNOT基本回路Bc1のNチャンネルMOSトランジスタN1に荷電粒子Eが入射すると、入射した荷電粒子Eの電荷に応じて、オフ状態であるNチャンネルMOSトランジスタN1の電位が過渡的に変動する。これにより、NOT基本回路Bc1の出力ノード、つまり、出力端子OUTに、
図4において破線で示したようなGNDレベルの瞬時的なパルスが表れる。これが、シングルイベントトランジェントである。
【0027】
図4の右側には、シングルイベントトランジェントが発生した期間を拡大して、より詳細なタイミングとその信号レベルとを示している。シングルイベントトランジェントの発生に伴って、例えば、NウェルNwの電位レベルが下がり、PウェルPwの電位レベルが上がる。
図4の右側には、NウェルNwの電位レベルがGNDレベルまで下がり、PウェルPwの電位レベルがVDDレベルとGNDレベルとの間のレベルまで上がった場合の一例を示している。
図4の右側に示したそれぞれのウェルにおける電位レベルの変動量の違いは、CMOS回路を形成する半導体基板がP型の単結晶の半導体基板であるため、PウェルPwよりもNウェルNwの方がより大きく電位レベルが変動すると考えたことによる一例であり、それぞれのウェルにおける電位レベルの変動量は、例えば、荷電粒子Eの電荷に応じて変わるものと考えられる。
【0028】
すると、NウェルNwの電位レベルが下がったことにより、NチャンネルMOSトランジスタN2がオフ状態になり、PウェルPwの電位レベルが上がったことにより、PチャンネルMOSトランジスタP2がオフ状態になる。つまり、電源回路は、オフ状態になる。
図4の右側では、タイミングt1からタイミングt2までの間、電源回路がオフ状態である。これにより、NチャンネルMOSトランジスタN2は、入射した荷電粒子Eの電荷によって変動するPウェルPwおよびNウェルNwの電位レベルの影響を受けることなく、NOT基本回路Bc1は、シングルイベントトランジェントを含む信号を出力ノード(出力端子OUT)に出力してしまうことがなくなる。言い換えれば、インバータ回路1では、電源回路がオフ状態になることによって、入射した荷電粒子Eの電荷によるウェルの電位レベルの変動の影響を排除する、あるいは、NOT基本回路Bc1によって出力ノードに出力される信号に含まれるシングルイベントトランジェントを低減させる。
図4には、シングルイベントトランジェントが低減されて出力端子OUTに出力されている場合の一例を実線で示している。
【0029】
図5は、第1実施形態に係るCMOS回路(インバータ回路1)に高エネルギーの荷電粒子が入射する様子の別の一例を模式的に示す図である。
図5には、放射線Rの高エネルギーの荷電粒子Eが、インバータ回路1を構成するNOT基本回路Bc1のPチャンネルMOSトランジスタP1に入射した場合を示している。
【0030】
図6は、第1実施形態に係るCMOS回路(インバータ回路1)に入射した高エネルギーの荷電粒子によりシングルイベントが発生した場合の動作の別の一例を示すタイミングチャートである。
図6は、インバータ回路1の入力端子INにVDDレベルの入力信号が入力されているときに荷電粒子Eが入射した場合のタイミングチャートである。
【0031】
インバータ回路1の入力端子INにVDDレベルの入力信号が入力されているタイミングt3のときにNOT基本回路Bc1のPチャンネルMOSトランジスタP1に荷電粒子Eが入射した場合には、オフ状態であるPチャンネルMOSトランジスタP1の電位が変動して、
図6において破線で示したようなVDDレベルの瞬時的なパルスがシングルイベントトランジェントとして表れる。
【0032】
図6の右側にも、シングルイベントトランジェントが発生した期間を拡大して、より詳細なタイミングとその信号レベルとを示している。シングルイベントトランジェントの発生に伴って、
図4に示したインバータ回路1の入力端子INにGNDレベルの入力信号が入力されているときにNチャンネルMOSトランジスタN1に荷電粒子Eが入射した場合と同様に、電源回路は、オフ状態になる。
図6の右側では、タイミングt3からタイミングt4までの間、電源回路がオフ状態である。これにより、PチャンネルMOSトランジスタP1は、入射した荷電粒子Eの電荷によって変動するPウェルPwおよびNウェルNwの電位レベルの影響を受けることなく、NOT基本回路Bc1は、シングルイベントトランジェントを含む信号を出力ノード(出力端子OUT)に出力してしまうことがなくなる。
図6には、シングルイベントトランジェントが低減されて出力端子OUTに出力されている場合の一例を実線で示している。
【0033】
このように、インバータ回路1では、入射した荷電粒子EによってNOT基本回路Bc1の電源回路として接続されているPチャンネルMOSトランジスタP2およびNチャンネルMOSトランジスタN2のそれぞれが、ウェルの電位レベルが変動したことによってオフ状態になる。これにより、インバータ回路1では、NOT基本回路Bc1が備えるオフ状態のいずれかのトランジスタで発生したシングルイベントトランジェントを含む信号を出力ノード(出力端子OUT)に出力しないようにする。言い換えれば、インバータ回路1では、入射した荷電粒子Eによってオフ状態にされる電源回路によって、出力端子OUTに出力されるシングルイベントトランジェントを排除または低減させる。これにより、インバータ回路1では、インバータ回路1の内部で発生したシングルイベントトランジェントを、例えば、インバータ回路1の後段に接続されている他のCMOS回路に伝搬させることがなくなる。このことにより、インバータ回路1を備えるCMOS型半導体集積回路では、発生したシングルイベントトランジェントを含む信号の伝搬によって誤ったデータが記憶されてしまうシングイベントアップセットを防止することができる。つまり、CMOS回路に荷電粒子Eが入射したことによって発生するシングルイベントに対する耐性を高くすることができる。
【0034】
[他のCMOS回路の構成]
以上の説明では、第1実施形態のCMOS回路の一例として、インバータ回路1について説明した。しかし、第1実施形態のCMOS回路は、インバータ回路1と異なる他の構成も考えられる。以下、第1実施形態のCMOS回路におけるインバータ回路1以外の他のCMOS回路の構成の一例について説明する。
図7~
図9は、第1実施形態に係るCMOS回路の構成の別の一例を示す図である。
【0035】
図7は、二つのNOT回路を直列に接続したバッファ回路の一例である。バッファ回路2は、PチャンネルMOSトランジスタP1-1と、PチャンネルMOSトランジスタP1-2と、NチャンネルMOSトランジスタN1-1と、NチャンネルMOSトランジスタN1-2と、PチャンネルMOSトランジスタP2と、NチャンネルMOSトランジスタN2と、を備える。
図7に示したバッファ回路2は、P型の単結晶の半導体基板にそれぞれのトランジスタを形成した場合の一例である。
【0036】
バッファ回路2において、PチャンネルMOSトランジスタP1-1、PチャンネルMOSトランジスタP1-2、NチャンネルMOSトランジスタN1-1、およびNチャンネルMOSトランジスタN1-2の構成は、一般的な論理演算回路における基本的なバッファ回路(以下、「バッファ基本回路Bc2」という)の構成である。バッファ回路2において、PチャンネルMOSトランジスタP1-1と、NチャンネルMOSトランジスタN1-1とは、1段目の論理否定回路(インバータ回路)を構成し、PチャンネルMOSトランジスタP1-2と、NチャンネルMOSトランジスタN1-2とは、2段目の論理否定回路(インバータ回路)を構成している。バッファ回路2において、1段目のインバータ回路と2段目のインバータ回路とのそれぞれの構成は、インバータ回路1におけるNOT基本回路Bc1と同様である。
【0037】
バッファ回路2でも、PチャンネルMOSトランジスタP2は、PチャンネルMOSトランジスタP1-1およびPチャンネルMOSトランジスタP1-2のソース端子側に配置され、ソース端子が電源VDDに、ゲート端子がNチャンネルMOSトランジスタN1-1およびNチャンネルMOSトランジスタN1-2とで共通のPウェルPw(
図7では、NチャンネルMOSトランジスタN1-1のボディ)に、それぞれ接続されている。PチャンネルMOSトランジスタP2のドレイン端子は、PチャンネルMOSトランジスタP1-1およびPチャンネルMOSトランジスタP1-2のそれぞれのソース端子に接続されている。つまり、バッファ回路2では、PチャンネルMOSトランジスタP1-1およびPチャンネルMOSトランジスタP1-2で共通化された一つのPチャンネルMOSトランジスタP2を備えている。NチャンネルMOSトランジスタN2は、NチャンネルMOSトランジスタN1-1およびNチャンネルMOSトランジスタN1-2のソース端子側に配置され、ソース端子がグラウンドGNDに、ゲート端子がPチャンネルMOSトランジスタP1-1およびPチャンネルMOSトランジスタP1-2とで共通のNウェルNw(
図7では、PチャンネルMOSトランジスタP1-1のボディ)に、それぞれ接続されている。NチャンネルMOSトランジスタN2のドレイン端子は、NチャンネルMOSトランジスタN1-1およびNチャンネルMOSトランジスタN1-2のそれぞれのソース端子に接続されている。つまり、バッファ回路2では、NチャンネルMOSトランジスタN1-1およびNチャンネルMOSトランジスタN1-2で共通化された一つのNチャンネルMOSトランジスタN2を備えている。PチャンネルMOSトランジスタP2およびNチャンネルMOSトランジスタN2のゲート端子と、対応するMOSトランジスタで共通のウェルとの接続は、例えば、ウェルコンタクトなどによって行われてもよい。
【0038】
PチャンネルMOSトランジスタP1-1およびPチャンネルMOSトランジスタP1-2は、特許請求の範囲における「複数の第1トランジスタ」の一例であり、NチャンネルMOSトランジスタN1-1およびNチャンネルMOSトランジスタN1-2は、特許請求の範囲における「複数の第2トランジスタ」の一例である。バッファ基本回路Bc2は、特許請求の範囲における「論理演算回路」の一例である。
【0039】
バッファ回路2においても、通常の動作では、一般的なバッファ回路と同様に、バッファ回路2の入力端子INに入力された入力信号に応じた出力信号が出力端子OUTに伝送(出力)される。つまり、バッファ回路2では、バッファ回路2の入力端子INに入力された入力信号が1段目のインバータ回路で反転されて内部ノードIoに出力され、内部ノードIoの信号が2段目のインバータ回路でさらに反転されて、入力端子INに入力された入力信号と同じ論理レベルの出力信号が出力端子OUTに伝送(出力)される。バッファ回路2においても、インバータ回路1と同様に、入射した高エネルギーの荷電粒子Eに応じて、PチャンネルMOSトランジスタP2とNチャンネルMOSトランジスタN2とで構成される電源回路がオフ状態になり、バッファ基本回路Bc2が備えるオフ状態のいずれかのトランジスタで発生したシングルイベントトランジェントを含む信号が出力端子OUTに伝送(出力)されるのを排除または低減させる。
【0040】
しかも、バッファ回路2では、PチャンネルMOSトランジスタP2およびNチャンネルMOSトランジスタN2を一つずつ備える。つまり、バッファ回路2では、1段目のインバータ回路と2段目のインバータ回路とのそれぞれで、共通化された一つの電源回路を備える。これにより、バッファ回路2では、1段目のインバータ回路と2段目のインバータ回路とのそれぞれに、対応するPチャンネルMOSトランジスタP2およびNチャンネルMOSトランジスタN2を備えるよりも、回路規模を少なくすることができる。
【0041】
図8は、2入力の否定論理積回路(NAND回路)の一例である。NAND回路3は、PチャンネルMOSトランジスタP1Aと、PチャンネルMOSトランジスタP1Bと、NチャンネルMOSトランジスタN1Aと、NチャンネルMOSトランジスタN1Bと、PチャンネルMOSトランジスタP2と、NチャンネルMOSトランジスタN2と、を備える。
図8に示したNAND回路3は、P型の単結晶の半導体基板にそれぞれのトランジスタを形成した場合の一例である。
【0042】
NAND回路3において、PチャンネルMOSトランジスタP1A、PチャンネルMOSトランジスタP1B、NチャンネルMOSトランジスタN1A、およびNチャンネルMOSトランジスタN1Bの構成は、一般的な論理演算回路における基本的な否定論理積回路(NAND回路:以下、「NAND基本回路Bc3」という)の構成である。
【0043】
NAND回路3でも、PチャンネルMOSトランジスタP2は、PチャンネルMOSトランジスタP1AおよびPチャンネルMOSトランジスタP1Bのソース端子側に配置され、ソース端子が電源VDDに、ゲート端子がNチャンネルMOSトランジスタN1AおよびNチャンネルMOSトランジスタN1Bとで共通のPウェルPw(
図8では、NチャンネルMOSトランジスタN1Aのボディ)に、それぞれ接続されている。PチャンネルMOSトランジスタP2のドレイン端子は、PチャンネルMOSトランジスタP1AおよびPチャンネルMOSトランジスタP1Bのそれぞれのソース端子に接続されている。NチャンネルMOSトランジスタN2は、NチャンネルMOSトランジスタN1Bのソース端子側に配置され、ソース端子がグラウンドGNDに、ゲート端子がPチャンネルMOSトランジスタP1AおよびPチャンネルMOSトランジスタP1Bとで共通のNウェルNw(
図8では、PチャンネルMOSトランジスタP1Aのボディ)に、それぞれ接続されている。NチャンネルMOSトランジスタN2のドレイン端子は、NチャンネルMOSトランジスタN1Bのソース端子に接続されている。つまり、NAND回路3でも、PチャンネルMOSトランジスタP1AおよびPチャンネルMOSトランジスタP1Bで共通化された一つのPチャンネルMOSトランジスタP2を備え、NチャンネルMOSトランジスタN1AおよびNチャンネルMOSトランジスタN1Bで共通化された一つのNチャンネルMOSトランジスタN2を備えている。
【0044】
PチャンネルMOSトランジスタP1AおよびPチャンネルMOSトランジスタP1Bは、特許請求の範囲における「複数の第1トランジスタ」の一例であり、NチャンネルMOSトランジスタN1AおよびNチャンネルMOSトランジスタN1Bは、特許請求の範囲における「複数の第2トランジスタ」の一例である。NAND基本回路Bc3は、特許請求の範囲における「論理演算回路」の一例である。
【0045】
NAND回路3においても、通常の動作では、一般的な否定論理積回路と同様に、NAND回路3の入力端子INAおよび入力端子INBに入力された入力信号の論理レベルに応じた論理レベルの出力信号が出力端子OUTに出力される。NAND回路3においても、インバータ回路1と同様に、入射した高エネルギーの荷電粒子Eに応じて、PチャンネルMOSトランジスタP2とNチャンネルMOSトランジスタN2とで構成される電源回路がオフ状態になり、NAND基本回路Bc3が備えるオフ状態のいずれかのトランジスタで発生したシングルイベントトランジェントを含む信号が出力端子OUTに出力されるのを排除または低減させる。しかも、NAND回路3でも、PチャンネルMOSトランジスタP2およびNチャンネルMOSトランジスタN2を一つずつ備えることにより、回路規模を少なくすることができる。
【0046】
図9は、2入力の否定論理和回路(NOR回路)の一例である。NOR回路4は、PチャンネルMOSトランジスタP1Aと、PチャンネルMOSトランジスタP1Bと、NチャンネルMOSトランジスタN1Aと、NチャンネルMOSトランジスタN1Bと、PチャンネルMOSトランジスタP2と、NチャンネルMOSトランジスタN2と、を備える。
図9に示したNOR回路4は、P型の単結晶の半導体基板にそれぞれのトランジスタを形成した場合の一例である。
【0047】
NOR回路4において、PチャンネルMOSトランジスタP1A、PチャンネルMOSトランジスタP1B、NチャンネルMOSトランジスタN1A、およびNチャンネルMOSトランジスタN1Bの構成は、一般的な論理演算回路における基本的な否定論理和回路(NOR回路:以下、「NOR基本回路Bc4」という)の構成である。
【0048】
NOR回路4では、PチャンネルMOSトランジスタP2は、PチャンネルMOSトランジスタP1Bのソース端子側に配置され、ソース端子が電源VDDに、ゲート端子がNチャンネルMOSトランジスタN1AおよびNチャンネルMOSトランジスタN1Bとで共通のPウェルPw(
図9では、NチャンネルMOSトランジスタN1Aのボディ)に、それぞれ接続されている。PチャンネルMOSトランジスタP2のドレイン端子は、PチャンネルMOSトランジスタP1Bのソース端子に接続されている。NチャンネルMOSトランジスタN2は、NチャンネルMOSトランジスタN1AおよびNチャンネルMOSトランジスタN1Bのソース端子側に配置され、ソース端子がグラウンドGNDに、ゲート端子がPチャンネルMOSトランジスタP1AおよびPチャンネルMOSトランジスタP1Bとで共通のNウェルNw(
図9では、PチャンネルMOSトランジスタP1Aのボディ)に、それぞれ接続されている。NチャンネルMOSトランジスタN2のドレイン端子は、NチャンネルMOSトランジスタN1AおよびNチャンネルMOSトランジスタN1Bのそれぞれのソース端子に接続されている。つまり、NOR回路4でも、PチャンネルMOSトランジスタP1AおよびPチャンネルMOSトランジスタP1Bで共通化された一つのPチャンネルMOSトランジスタP2を備え、NチャンネルMOSトランジスタN1AおよびNチャンネルMOSトランジスタN1Bで共通化された一つのNチャンネルMOSトランジスタN2を備えている。
【0049】
PチャンネルMOSトランジスタP1AおよびPチャンネルMOSトランジスタP1Bは、特許請求の範囲における「複数の第1トランジスタ」の一例であり、NチャンネルMOSトランジスタN1AおよびNチャンネルMOSトランジスタN1Bは、特許請求の範囲における「複数の第2トランジスタ」の一例である。NOR基本回路Bc4は、特許請求の範囲における「論理演算回路」の一例である。
【0050】
NOR回路4においても、通常の動作では、一般的な否定論理和回路と同様に、NOR回路4の入力端子INAおよび入力端子INBに入力された入力信号の論理レベルに応じた論理レベルの出力信号が出力端子OUTに出力される。NOR回路4においても、インバータ回路1と同様に、入射した高エネルギーの荷電粒子Eに応じて、PチャンネルMOSトランジスタP2とNチャンネルMOSトランジスタN2とで構成される電源回路がオフ状態になり、NOR基本回路Bc4が備えるオフ状態のいずれかのトランジスタで発生したシングルイベントトランジェントを含む信号が出力端子OUTに出力されるのを排除または低減させる。しかも、NOR回路4でも、PチャンネルMOSトランジスタP2およびNチャンネルMOSトランジスタN2を一つずつ備えることにより、回路規模を少なくすることができる。
【0051】
図7~
図9に示したそれぞれのCMOS回路においてシングルイベントトランジェントを排除または低減させる際の動作は、
図3~
図6に示したインバータ回路1に高エネルギーの荷電粒子が入射した場合の動作と同様に考えることによって、容易に理解することができる。従って、
図7~
図9に示したそれぞれのCMOS回路においてシングルイベントトランジェントを排除または低減させる際の動作に関する詳細な説明は省略する。さらに、上述したように、CMOS回路は、
図7~
図9に示したそれぞれのCMOS回路の他にも種々の構成が考えられる。例えば、インバータ回路1や伝送ゲート回路(いわゆる、トランスミッションゲート)などを複数組み合わせることによってD型フリップフロップ回路を構成することも考えられる。この場合、D型フリップフロップ回路を構成するそれぞれのCMOS回路にPチャンネルMOSトランジスタP2およびNチャンネルMOSトランジスタN2を備えてもよいし、D型フリップフロップ回路の全体で共通化された一つのPチャンネルMOSトランジスタP2と一つのNチャンネルMOSトランジスタN2とを備える構成(例えば、インバータ回路1におけるNOT基本回路Bc1をD型フリップフロップ回路としたものと等価な構成)にしてもよい。さらに、上述したように、CMOS回路は、例えば、SRAMなどのように、単独の論理演算回路や、フリップフロップ回路、伝送ゲート回路などを複数組み合わせることによってデータ(信号レベル)を記憶するメモリの構成も考えられる。これらの構成は、
図1に示したインバータ回路1や、
図7~
図9に示したCMOS回路(バッファ回路2、NAND回路3、NOR回路4)の構成と等価なものになるように構成すればよい。そして、これらの動作は、
図3~
図6に示したインバータ回路1に高エネルギーの荷電粒子が入射した場合の動作と同様に考えることによって、容易に理解することができる。従って、CMOS回路において考えられる種々の構成や動作に関する詳細な説明は省略する。
【0052】
上述したように、第1実施形態のCMOS回路では、基本的な構成の論理演算回路の電源回路として、ゲート端子がNチャンネルMOSトランジスタN1のPウェルPwに接続されているPチャンネルMOSトランジスタP2と、ゲート端子がPチャンネルMOSトランジスタP1のNウェルNwに接続されているNチャンネルMOSトランジスタN2との構成を備える。この構成により、第1実施形態のCMOS回路では、入射した荷電粒子Eに応じて論理演算回路で発生したシングルイベントトランジェントを含む信号が出力端子に出力(伝送)されるのを排除または低減させる。これにより、第1実施形態のCMOS回路では、CMOS回路の内部で発生したシングルイベントトランジェントが、例えば、CMOS回路の後段に接続されている他のCMOS回路に伝搬されてしまうのを防止することができる。さらに、第1実施形態のCMOS回路では、CMOS回路の内部で発生したシングルイベントトランジェントを含む信号が伝搬して誤ったデータが記憶されてしまうシングイベントアップセットを防止することができる。つまり、第1実施形態のCMOS回路では、荷電粒子Eの入射に対する耐性を高めたCMOS回路を実現することができる。
【0053】
このことにより、第1実施形態のCMOS回路で実現された機能を備える半導体集積回路は、例えば、宇宙空間などのように高エネルギーの荷電粒子Eが入射してしまう環境で使用された場合でも、誤動作をしてしまう可能性を低減させることができる。つまり、第1実施形態のCMOS回路で機能を実現することにより、使用環境の影響による誤動作の可能性が少ない、信頼性の高い半導体集積回路を実現することができる。このため、第1実施形態のCMOS回路で実現された機能を備える半導体集積回路は、例えば、産業機器用や、車載用、医療用など、宇宙空間以外の場所でも高い信頼性が求められる環境において使用した場合でも、その効果を得ることができる。
【0054】
第1実施形態のCMOS回路では、ソース端子が電源VDDに接続されたPチャンネルMOSトランジスタP2がPチャンネルMOSトランジスタP1のソース端子側に配置され、ソース端子がグラウンドGNDに接続されたNチャンネルMOSトランジスタN2がNチャンネルMOSトランジスタN1のソース端子側に配置される構成を示した。しかし、CMOS回路におけるPチャンネルMOSトランジスタP2とNチャンネルMOSトランジスタN2との配置や接続の構成は、他の構成であってもよい。
【0055】
<第2実施形態>
以下、第2実施形態のCMOS回路について説明する。以下の説明においても、説明を容易にするため、最も簡単な構成の論理演算回路である論理否定回路(インバータ回路)を、第2実施形態のCMOS回路の一例として説明する。
【0056】
[インバータ回路の構成]
図10は、第2実施形態に係るCMOS回路(インバータ回路)の構成の一例を示す図である。インバータ回路1Aは、PチャンネルMOSトランジスタP1と、NチャンネルMOSトランジスタN1と、PチャンネルMOSトランジスタP2と、NチャンネルMOSトランジスタN2と、を備える。
図10に示したインバータ回路1Aは、P型の単結晶の半導体基板にそれぞれのトランジスタを形成した場合の一例である。
【0057】
インバータ回路1Aにおいて、PチャンネルMOSトランジスタP1とNチャンネルMOSトランジスタN1との構成は、NOT基本回路Bc1である。インバータ回路1Aにおいて、PチャンネルMOSトランジスタP2は、NチャンネルMOSトランジスタN1のソース端子側に配置され、ソース端子がグラウンドGNDに、ゲート端子がNチャンネルMOSトランジスタN1のPウェルPw(
図10では、NチャンネルMOSトランジスタN1のボディ)に、ドレイン端子がNチャンネルMOSトランジスタN1のソース端子に、それぞれ接続されている。NチャンネルMOSトランジスタN2は、PチャンネルMOSトランジスタP1のソース端子側に配置され、ソース端子が電源VDDに、ゲート端子がPチャンネルMOSトランジスタP1のNウェルNw(
図10では、PチャンネルMOSトランジスタP1のボディ)に、ドレイン端子がPチャンネルMOSトランジスタP1のソース端子に、それぞれ接続されている。PチャンネルMOSトランジスタP2およびNチャンネルMOSトランジスタN2のゲート端子と、対応するウェルとの接続は、例えば、ウェルコンタクトなどによって行われてもよい。
【0058】
インバータ回路1Aにおいても、PチャンネルMOSトランジスタP2とNチャンネルMOSトランジスタN2との構成は、NOT基本回路Bc1の電源回路であるといってもよい。
【0059】
インバータ回路1Aの通常の動作でも、NウェルNwはVDDレベルであり、PウェルPwはGNDレベルであるため、インバータ回路1Aが備える電源回路は、常にオン状態である。このため、インバータ回路1Aの通常の動作でも、入力端子INに入力された入力信号が、NOT基本回路Bc1における所定の遅延時間だけ遅延したタイミングで反転されて、出力端子OUTに出力される。
【0060】
一方、インバータ回路1Aにおいても、高エネルギーの荷電粒子Eが入射すると、インバータ回路1Aが備えるオフ状態のいずれかのトランジスタにおいて、入射した荷電粒子Eの電荷に応じたシングルイベントトランジェントが発生する。このため、インバータ回路1Aにおいても、第1実施形態において説明したのと同様の理由によって、NウェルNwの電位レベルが下がり、PウェルPwの電位レベルが上がる。これにより、インバータ回路1Aでも、対応するウェルの変動によって、PチャンネルMOSトランジスタP2とNチャンネルMOSトランジスタN2とのそれぞれ、つまり、電源回路がオフ状態になる。これにより、インバータ回路1Aにおいても、第1実施形態のインバータ回路1と同様に、オフ状態のトランジスタは、入射した高エネルギーの荷電粒子Eの電荷によって変動するPウェルPwおよびNウェルNwの電位レベルの影響を受けることなく、NOT基本回路Bc1は、シングルイベントトランジェントを含む信号が出力ノード(出力端子OUT)に出力されるのを排除または低減させる。
【0061】
上述したように、第2実施形態のCMOS回路でも、第1実施形態のCMOS回路と同様に、基本的な構成の論理演算回路の電源回路として、ゲート端子がNチャンネルMOSトランジスタN1のPウェルPwに接続されているPチャンネルMOSトランジスタP2と、ゲート端子がPチャンネルMOSトランジスタP1のNウェルNwに接続されているNチャンネルMOSトランジスタN2との構成を備える。この構成により、第2実施形態のCMOS回路でも、第1実施形態のCMOS回路と同様に、入射した荷電粒子Eに応じて論理演算回路で発生したシングルイベントトランジェントを含む信号が出力端子に出力(伝送)されるのを排除または低減させる。これにより、第2実施形態のCMOS回路でも、第1実施形態のCMOS回路と同様に、荷電粒子Eの入射に対する耐性を高めたCMOS回路を実現することができる。
【0062】
しかも、第2実施形態のCMOS回路では、基本的な構成の論理演算回路を構成するそれぞれのトランジスタに電源回路として接続されるトランジスタが、導電型の異なるトランジスタである。より具体的には、インバータ回路1Aでは、NOT基本回路Bc1を構成するPチャンネルMOSトランジスタP1に電源回路として接続されるトランジスタが、導電型の異なるNチャンネルMOSトランジスタN2であり、NOT基本回路Bc1を構成するNチャンネルMOSトランジスタN1に電源回路として接続されるトランジスタが、導電型の異なるPチャンネルMOSトランジスタP2である。このため、第2実施形態のCMOS回路では、隣接するトランジスタが同時に動作することによって起こり得る寄生バイポーラ効果に対する耐性も高くすることができる。
【0063】
<第3実施形態>
以下、第3実施形態のCMOS回路について説明する。以下の説明においても、説明を容易にするため、最も簡単な構成の論理演算回路である論理否定回路(インバータ回路)を、第3実施形態のCMOS回路の一例として説明する。
【0064】
[インバータ回路の構成]
図11は、第3実施形態に係るCMOS回路(インバータ回路)の構成の一例を示す図である。インバータ回路1Bは、PチャンネルMOSトランジスタP1と、NチャンネルMOSトランジスタN1と、PチャンネルMOSトランジスタP2と、NチャンネルMOSトランジスタN2と、を備える。
図11に示したインバータ回路1Bは、P型の単結晶の半導体基板にそれぞれのトランジスタを形成した場合の一例である。
【0065】
インバータ回路1Bにおいて、PチャンネルMOSトランジスタP1は、ゲート端子がインバータ回路1の入力端子INに、ソース端子が電源VDDに、ドレイン端子がPチャンネルMOSトランジスタP2のソース端子に、それぞれ接続されている。NチャンネルMOSトランジスタN1は、ゲート端子がインバータ回路1の入力端子INに、ソース端子がグラウンドGNDに、ドレイン端子がNチャンネルMOSトランジスタN2のソース端子に、それぞれ接続されている。
【0066】
インバータ回路1Bにおいて、PチャンネルMOSトランジスタP2は、PチャンネルMOSトランジスタP1のドレイン端子側に配置され、ソース端子がPチャンネルMOSトランジスタP1のドレイン端子に、ドレイン端子がNチャンネルMOSトランジスタN2のドレイン端子に、それぞれ接続されている。PチャンネルMOSトランジスタP2のゲート端子は、NチャンネルMOSトランジスタN1のPウェルPw(
図11では、NチャンネルMOSトランジスタN1のボディ)に接続されている。NチャンネルMOSトランジスタN2は、NチャンネルMOSトランジスタN1のドレイン端子側に配置され、ソース端子がNチャンネルMOSトランジスタN1のドレイン端子に、ドレイン端子がPチャンネルMOSトランジスタP2のドレイン端子に、それぞれ接続されている。NチャンネルMOSトランジスタN2のゲート端子は、PチャンネルMOSトランジスタP1のNウェルNw(
図11では、PチャンネルMOSトランジスタP1のボディ)に接続されている。PチャンネルMOSトランジスタP2およびNチャンネルMOSトランジスタN2のゲート端子と、対応するウェルとの接続は、例えば、ウェルコンタクトなどによって行われてもよい。
【0067】
インバータ回路1Bでは、PチャンネルMOSトランジスタP2のドレイン端子とNチャンネルMOSトランジスタN2のドレイン端子とが接続されたノードが、インバータ回路1Bの出力端子OUTとなっている。インバータ回路1Bにおいても、PチャンネルMOSトランジスタP1とNチャンネルMOSトランジスタN1との構成は、NOT基本回路Bc1である。インバータ回路1Bにおいて、PチャンネルMOSトランジスタP2とNチャンネルMOSトランジスタN2との構成は、NOT基本回路Bc1の電源回路というよりも、NOT基本回路Bc1の伝送回路であるといえる。しかし、インバータ回路1Bにおいても、PチャンネルMOSトランジスタP2とNチャンネルMOSトランジスタN2とで構成される伝送回路も、第1実施形態のインバータ回路1や第2実施形態のインバータ回路1AにおいてPチャンネルMOSトランジスタP2とNチャンネルMOSトランジスタN2とで構成された電源回路と同様に動作する。
【0068】
つまり、インバータ回路1Bの通常の動作でも、NウェルNwはVDDレベルであり、PウェルPwはGNDレベルであるため、インバータ回路1Bが備える伝送回路は、常にオン状態である。このため、インバータ回路1Bの通常の動作でも、入力端子INに入力された入力信号が、NOT基本回路Bc1における所定の遅延時間だけ遅延したタイミングで反転されて、出力端子OUTに出力される。
【0069】
一方、インバータ回路1Bにおいても、高エネルギーの荷電粒子Eが入射すると、インバータ回路1Bが備えるオフ状態のいずれかのトランジスタにおいて、入射した荷電粒子Eの電荷に応じたシングルイベントトランジェントが発生する。このため、インバータ回路1Bにおいても、第1実施形態において説明したのと同様の理由によって、NウェルNwの電位レベルが下がり、PウェルPwの電位レベルが上がる。これにより、インバータ回路1Bでは、対応するウェルの変動によって、PチャンネルMOSトランジスタP2とNチャンネルMOSトランジスタN2とのそれぞれ、つまり、伝送回路がオフ状態になる。これにより、インバータ回路1Bにおいても、第1実施形態のインバータ回路1や第2実施形態のインバータ回路1Aと同様に、オフ状態のトランジスタは、入射した高エネルギーの荷電粒子Eの電荷によって変動するPウェルPwおよびNウェルNwの電位レベルの影響を受けることなく、NOT基本回路Bc1は、シングルイベントトランジェントを含む信号が出力ノード(出力端子OUT)に出力されるのを排除または低減させる。
【0070】
上述したように、第3実施形態のCMOS回路では、基本的な構成の論理演算回路の伝送回路として、ゲート端子がNチャンネルMOSトランジスタN1のPウェルPwに接続されているPチャンネルMOSトランジスタP2と、ゲート端子がPチャンネルMOSトランジスタP1のNウェルNwに接続されているNチャンネルMOSトランジスタN2との構成を備える。この構成により、第3実施形態のCMOS回路でも、第1実施形態のCMOS回路や第2実施形態のCMOS回路と同様に、入射した荷電粒子Eに応じて論理演算回路で発生したシングルイベントトランジェントを含む信号が出力端子に出力(伝送)されるのを排除または低減させる。これにより、第3実施形態のCMOS回路でも、第1実施形態のCMOS回路や第2実施形態のCMOS回路と同様に、荷電粒子Eの入射に対する耐性を高めたCMOS回路を実現することができる。
【0071】
上記に述べたとおり、各実施形態のCMOS回路によれば、基本的な構成の論理演算回路に、ゲート端子がNチャンネルMOSトランジスタN1のPウェルPwに接続されているPチャンネルMOSトランジスタP2と、ゲート端子がPチャンネルMOSトランジスタP1のNウェルNwに接続されているNチャンネルMOSトランジスタN2との構成を備える。これにより、各実施形態のCMOS回路では、使用環境から放射線の高エネルギーの荷電粒子が入射したことにより論理演算回路にシングルイベントトランジェントが発生した場合でも、発生したシングルイベントトランジェントを含む信号が出力ノード(出力端子OUT)に出力(伝送)されてしまうのを排除または低減させることができる。これにより、各実施形態のCMOS回路で実現された機能を備える半導体集積回路は、高エネルギーの荷電粒子が入射してしまう環境で使用された場合でも、誤動作をしてしまう可能性を低減させることができ、高い信頼性を得ることができる。
【0072】
上述したそれぞれの実施形態では、CMOS回路が備えるトランジスタをP型の単結晶の半導体基板(バルク基板)に形成した場合の一例を説明した。しかし、半導体基板には、P型の単結晶の基板の他にも、N型の単結晶の基板や、P型あるいはN型のSOI構造の基板など、種々の構造のものがある。この場合におけるCMOS回路の構成や動作などは、上述したP型の単結晶の半導体基板に形成したCMOS回路の構成や動作と等価なものになるようにすればよい。従って、CMOS回路をP型の単結晶の半導体基板と異なる半導体基板に形成する場合の構成や動作に関する詳細な説明は省略する。
【0073】
以上、本発明を実施するための形態について実施形態を用いて説明したが、本発明はこうした実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形および置換を加えることができる。
【符号の説明】
【0074】
1,1A,1B・・・インバータ回路
2・・・バッファ回路
3・・・NAND回路
4・・・NOR回路
P1,P1-1,P1-2,P1A,P1B,P2・・・PチャンネルMOSトランジスタ
N1,N1-1,N1-2,N1A,N1B,N2・・・NチャンネルMOSトランジスタ
Pw・・・Pウェル
Nw・・・Nウェル
Bc1・・・NOT基本回路
Bc2・・・バッファ基本回路
Bc3・・・NAND基本回路
Bc4・・・NOR基本回路
Io・・・内部ノード