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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022017812
(43)【公開日】2022-01-26
(54)【発明の名称】動作区間特定装置、及び異常検知装置
(51)【国際特許分類】
   G01H 1/00 20060101AFI20220119BHJP
   G01M 99/00 20110101ALI20220119BHJP
【FI】
G01H1/00 Z
G01M99/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020120588
(22)【出願日】2020-07-14
(71)【出願人】
【識別番号】000004651
【氏名又は名称】日本信号株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000752
【氏名又は名称】特許業務法人朝日特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荒井 飛翼
(72)【発明者】
【氏名】山崎 茂
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 順一
【テーマコード(参考)】
2G024
2G064
【Fターム(参考)】
2G024AD08
2G024BA27
2G024CA13
2G024EA11
2G024FA01
2G064AA01
2G064AB02
2G064AB22
2G064BA02
2G064BA28
2G064CC13
2G064CC60
(57)【要約】
【課題】転轍機本体の観察結果のみから、転轍機の動作区間を特定する。
【解決手段】第1取得部111は、インタフェース13を介して標本データを取得する。切出部112は、標本DB121に記憶された標本データに含まれる状態データ群に基づいて、その標本データに含まれる振動データを動作区間ごとに切出す。解析部113は、切出された振動データを解析して、タイミング情報を生成する。第2取得部114は、インタフェース13を介して、状態データ群とともに計測されない振動データを取得する。特定部115は、第2取得部114が取得した振動データから読み取られる振動のピークを、タイミングDB122に記憶されたタイミング情報と照合・比較し、取得した振動データにおける複数の動作区間を特定する。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
転轍機で生じる振動のピークのタイミングから前記転轍機の動作区間を特定する動作区間特定装置。
【請求項2】
前記転轍機の複数箇所で生じるそれぞれの振動のピークのタイミングから前記動作区間を特定する請求項1に記載の動作区間特定装置。
【請求項3】
前記転轍機の1の箇所で生じる振動を、該転轍機の他の箇所で生じる振動に基づいて修正して、修正された前記振動のピークのタイミングから前記動作区間を特定する請求項2に記載の動作区間特定装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の動作区間特定装置が特定した動作区間ごとに前記転轍機の異常を検知する異常検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転轍機の動作区間を特定する動作区間特定装置、及び転轍機の異常を検知する異常検知装置の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
転轍機の故障や故障の予兆を検知する検知技術がある。この検知技術は、例えば、転轍機にセンサを取り付けて、電流、電圧等のデータを取得し、これらに基づいた解析により、その転轍機の故障や、その予兆を検知する。また、ジョーピン等、転轍機の部材にかかる負荷を直接、計測して、それら部材が故障する時期を予測する技術もある。
【0003】
特許文献1は、電気転轍機の動作音を検出し、その動作音のうち誘導電動機の回転音の特定次高調波成分を狭帯域通過フィルタにより抽出し、その周波数を直流電圧に変換して積分した積分値を用いて電気転轍機の劣化度合を検出する検出装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9-39792号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、転轍機の異常は、誘導電動機(以下、モータともいう)のみに由来するものとは限らず、転換ローラやカム、動作かん、ジョーピン等の各部材に由来するものもある。また、転轍機の動作は、上述した各部材の接触状態や配置等により、負荷がかかる部位やそれらの役割等が異なる複数の区間に分かれる。そのため、転轍機に異常が発生したときに検知される音や振動は、その動作区間ごとに異なることが多い。しかし、誘導電動機の動作音からだけでは、これら動作区間の違いが区別されなかった。
【0006】
また、ジョーピン等、転轍機を構成する部材にひずみゲージ等のセンサを取り付けることは、一般的に困難なことが多い。そして、転轍機本体からレール付近に伸びる動作かん等の部材にセンサを取り付けると、そのセンサが振動等により外れるリスクがある。さらに、センサによる検知結果をパーソナルコンピュータ等へ集計するためには、そのセンサとそのパーソナルコンピュータとを配線等により通信可能に接続する必要がある。しかし、転轍機本体の部材ではなく、転轍機本体から伸びる動作かん等の部材をセンサの検知対象とする場合、上述した配線はレール付近に配置しなければならず、振動等による断線のリスクがある。
【0007】
本発明の目的の一つは、レールから離れた転轍機本体の観察結果のみから、転轍機の動作区間を特定することである。本発明の他の目的は、レールから離れた転轍機本体の観察結果のみから、転轍機の異常を検知することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するため、本発明は、転轍機で生じる振動のピークのタイミングから前記転轍機の動作区間を特定する動作区間特定装置を、第1の態様として提供する。
【0009】
第1の態様の動作区間特定装置によれば、レールから離れた転轍機本体の観察結果のみから、転轍機の動作区間を特定することができる。
【0010】
第1の態様の動作区間特定装置において、前記転轍機の複数箇所で生じるそれぞれの振動のピークのタイミングから前記動作区間を特定する、という構成が第2の態様として採用されてもよい。
【0011】
第2の態様の動作区間特定装置によれば、振動等の内容と、その振動等が発生した箇所との組合せの特徴により、動作区間を特定する精度が向上する。
【0012】
第2の態様の動作区間特定装置において、前記転轍機の1の箇所で生じる振動を、該転轍機の他の箇所で生じる振動に基づいて修正して、修正された前記振動のピークのタイミングから前記動作区間を特定する、という構成が第3の態様として採用されてもよい。
【0013】
第3の態様の動作区間特定装置によれば、1の箇所のみで生じる振動に基づいて動作区間を特定する場合に比べて、特定の精度が向上する。
【0014】
また、上述した課題を解決するため、本発明は、請求項1から3のいずれか1項に記載の動作区間特定装置が特定した動作区間ごとに前記転轍機の異常を検知する異常検知装置を、第4の態様として提供する。
【0015】
第4の態様の異常検知装置によれば、レールから離れた転轍機本体の観察結果のみから、転轍機の異常を検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態に係る異常検知装置1の構成の例を示す図。
図2】異常検知装置1に監視される転轍機2の例を示す図。
図3】標本DB121の例を示す図。
図4】状態データ群の例を示す図。
図5】振動データ群の例を示す図。
図6】タイミングDB122の例を示す図。
図7】異常検知装置1の機能的構成の例を示す図。
図8】プロセッサ11が行う解析動作の流れの例を示すフロー図。
図9】プロセッサ11が行う異常検知動作の流れの例を示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<実施形態>
<異常検知装置の構成>
図1は、本発明の実施形態に係る異常検知装置1の構成の例を示す図である。また、図2は、異常検知装置1に監視される転轍機2の例を示す図である。本実施形態の説明において転轍機2は、図2で図示しない基本レールの外側に設置された本体側の機構と、それらの基本レールの直下、及びそれらに挟まれた内側で、図示しないトングレールを移動させるレール側の機構とに分類される。つまり、図2で図示される範囲は、転轍機2の本体側である。異常検知装置1は、転轍機2で生じる振動を計測して、それら振動のピークのタイミングから、転轍機2の動作区間ごとに異常を検知する装置である。図1に示す異常検知装置1は、プロセッサ11、メモリ12、及びインタフェース13を有する。これらの構成は、例えばバスで、互いに通信可能に接続されている。
【0018】
プロセッサ11は、メモリ12に記憶されているプログラムを読出して実行することにより異常検知装置1の各部を制御する。プロセッサ11は、例えばCPU(Central Processing Unit)である。
【0019】
インタフェース13は、有線又は無線により振動センサと通信可能に接続するインタフェースである。プロセッサ11は、このインタフェース13を介して、振動センサから計測値を取得する。振動センサは、転轍機2で生じる振動を計測するセンサである。図1及び図2に示す例で、インタフェース13は、3つの振動センサM1、M2、M3と接続している。
【0020】
なお、インタフェース13は、LAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)、インターネット、又はこれらの組合せである通信回線(図示せず)を介して、振動センサを異常検知装置1に通信可能に接続してもよい。この場合、上述した通信回線は、公衆交換通信網(PSTN:Public Switched Telephone Networks)やサービス統合デジタル網(ISDN:Integrated Services Digital Network)等を含むものでもよい。
【0021】
また、インタフェース13は、直接、振動センサM1、M2、M3と接続していなくてもよく、これら振動センサが計測したデータを一時的に蓄積するコンピュータと接続していてもよい。この場合、このコンピュータは、各所に設置された振動センサの識別情報ごとに、その振動センサで計測された振動のデータを、記憶装置に蓄積する。そして、このコンピュータは、異常検知装置1の要求に応じて、蓄積したそれらのデータを、振動センサの識別情報とともに、FTP(File Transfer Protocol)やHTTP(Hypertext Transfer Protocol)等の通信プロトコルによって提供すればよい。この場合、異常検知装置1のプロセッサ11は、インタフェース13を介して、上述したコンピュータから振動センサの識別情報ごとに、その振動センサで計測されたデータを取得する。
【0022】
図2に示す転轍機2は、モータ201、カバー202、動作かん203、スイッチアジャスタ204、鎖錠かん205、及び接続かん206を有する。図2に示す転轍機2は、駆動源であるモータ201からの駆動力を、摩擦クラッチ、減速歯車、及び転換ローラ付き転換歯車(それぞれ図示略)の順に伝導し、転換ローラにより動作かん203を移動させる。
【0023】
動作かん203は、これに接続された図示しないカムが転換ローラによって移動することで、図示しない基本レールと直交する方向に直線運動する。転轍機2は、動作かん203に接続されたスイッチアジャスタ204は、動作かんから伝達されるストロークをポイントストロークに変え、図示しないトングレールを転換して、基本レールと密着させる。接続かん206は、転換されたトングレールの先端と鎖錠かん205とを接続する。トングレールの先端が正常な位置にあると、動作かん203、及び鎖錠かん205は、図示しないカムバーで鎖錠される。
【0024】
図2に示す振動センサM1は、転轍機2のモータ201のケーシングに取り付けられ、モータ201から発生する振動を計測する。また、振動センサM2は、転轍機2のカバー202に取り付けられ、カバー202で覆われた転轍機2の内部で発生する振動を計測する。転轍機2の内部に存在する構成とは、上述した図示しない摩擦クラッチ、減速歯車、及び転換ローラ付き転換歯車等である。振動センサM3は、スイッチアジャスタ204に取り付けられており、主に転轍機2の可動部において発生する振動を計測する。
【0025】
つまり、振動センサM1、M2、M3は、転轍機2の複数箇所で生じるそれぞれの振動を計測するセンサである。振動センサM1、M2、M3が取り付けられる複数の箇所は、図2に示す通り、転轍機2のレール側ではなく、本体側にある。つまり、振動センサは、振動を計測する特性上、レール側に取り付ける必要がないため、例えば、異常検知装置1に振動データを伝達する通信線を、レール付近に配線する必要がない。なお、これらの振動センサM1、M2、M3は、空気中又は転轍機2の部材を媒体として伝達される音(超音波を含む)を振動として収集するマイクロホンでもよい。
【0026】
メモリ12は、プロセッサ11に読み込まれるオペレーティングシステム、各種のプログラム、データ等を記憶する記憶手段である。メモリ12は、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)を有する。なお、メモリ12は、ソリッドステートドライブ、ハードディスクドライブ等を有してもよい。また、メモリ12は、標本DB121、及びタイミングDB122を記憶する。
【0027】
図3は、標本DB121の例を示す図である。標本DB121は、正常に稼働しているときの転轍機2で計測された転轍機2の状態を示す各種のデータ(状態データという)と、その転轍機2で発生し計測された振動を示すデータ(振動データという)と、の組を標本として記憶するデータベースである。標本DB121は、型番リスト1211、標本リスト1212、及びデータ表1213を有する。
【0028】
型番リスト1211は、転轍機2の型番を識別する識別情報である型番IDを列挙したリストである。図3に示す型番リスト1211に列挙された型番IDには、それぞれ標本リスト1212が割り当てられている。
【0029】
標本リスト1212は、対応する型番IDで識別される型番の転轍機2において、計測された標本データの識別情報である標本IDを列挙したリストである。図3に示す標本リスト1212には、標本IDごとに、その標本IDで識別される標本データが計測された日時を記憶してもよい。標本リスト1212に列挙された標本IDには、それぞれデータ表1213が割り当てられている。
【0030】
データ表1213は、対応する標本IDで識別される標本データを記憶する表である。標本データは、例えば、ストロークデータ、負荷データ、電流データ等、転轍機2の振動以外の状態を計測した状態データ群と、転轍機2で発生した振動を計測した振動データ群とを有する。図3に示す振動データ群は、第1振動データ、第2振動データ、及び第3振動データであり、これらは、それぞれ振動センサM1、M2、及びM3で計測されたデータである。
【0031】
図4は、状態データ群の例を示す図である。図4に示す状態データ群は、転轍機2における状態の経時変化を計測したデータであり、横軸に経過時間を、縦軸にそれぞれの状態を示す量を示すグラフにより表される。
【0032】
図4(a)に示す曲線は、ストロークデータの経時変化を示している。この図において縦軸は、例えば、動作かん203のストロークの量を示している。図4(a)において、プロットの位置が上であるほど、動作かん203は、定位から離れ、反位に近づく。
【0033】
図4(b)に示す曲線は、負荷データの経時変化を示している。この図において、縦軸は、ジョーピンにかかる負荷の量を示している。図4(b)において、プロットの位置が上であるほど、ジョーピンは、反位側に向かう負荷を受けている。
【0034】
図4(c)に示す曲線は、電流データの経時変化を示している。この図において、縦軸は、転轍機2のモータ201の動作電流の大きさを示している。
【0035】
図4に示した状態データ群の曲線には、変曲点や臨界点等、特徴のあるタイミングを示す点(特徴点という)がある。例えば、点P0は、図4(c)に示す電流データにおいて、動作電流が急上昇し始めた点である。これは、点P0からモータ201が起動し、転換ローラが動き始めたことを意味する。そして、点P1bは、図4(b)に示す負荷データが反位側に上昇し始めた点である。これは、点P1bから動作かん203に負荷がかかり、ジョーピンが反位側に押し付けられ始めたことを意味する。このように、状態データ群の曲線からは、転轍機2における動作が変化するタイミングが読取られる。
【0036】
図4に示す例で、転轍機2がトングレールを定位から反位に移動させる動作は、状態データ群の曲線上の特徴点により、6つの動作区間に分けられる。6つの動作区間は、すなわち、区間pr1、pr2、pr3、pr4、pr5、pr6である。
【0037】
区間pr1は、始期を時点t0、終期を時点t1とする区間である。この区間pr1は、転換ローラが駆動し始め、動作かんのカム面に入る前の区間であり、動作かんには負荷トルクは生じていない区間である。この区間pr1は、「機内無負荷区間」とも呼ばれる。
【0038】
区間pr2は、始期を時点t1、終期を時点t2とする区間である。この区間pr2は、動作かんを押し付けてロックピースを解錠する状態の区間である。この区間pr2は、「解錠区間」とも呼ばれる。
【0039】
区間pr3は、始期を時点t2、終期を時点t3とする区間である。この区間pr3は、動作かん203のストロークは開始しているが、スイッチアジャスタ204の遊びによりジョーピンが無負荷となる状態の区間である。この区間pr3は、「分岐器無負荷区間」とも呼ばれる。
【0040】
区間pr4は、始期を時点t3、終期を時点t4とする区間である。この区間pr4は、実際にトングレールが移動している区間である。この区間pr4は、「トングレール動作区間」とも呼ばれる。
【0041】
区間pr5は、始期を時点t4、終期を時点t5とする区間である。この区間pr5は、トングレール及び動作かん203の動作が完了し、転轍機2の内部でロックピースが鎖錠される区間である。このpr5は、「鎖錠区間」とも呼ばれる。
【0042】
区間pr6は、始期を時点t5、終期を時点t6とする区間である。この区間pr6は、鎖錠が完了し、モータ201の駆動が停止する区間である。このpr6は、「停止区間」とも呼ばれる。
【0043】
図5は、振動データ群の例を示す図である。図5に示す振動データ群は、転轍機2で生じる振動の経時変化を、それぞれ異なる3つの箇所で計測したデータであり、横軸に経過時間を、縦軸にそれぞれの振動量を示すグラフにより表される。
【0044】
図5(a)に示す曲線は、振動センサM1で計測された第1振動データの経時変化を示している。この図において、縦軸は、振動センサM1が計測対象としているモータ201から発生した振動の量を示している。
【0045】
図5(b)に示す曲線は、振動センサM2で計測された第2振動データの経時変化を示している。この図において、縦軸は、振動センサM2が計測対象としている転轍機2の内部から発生した振動の量を示している。
【0046】
図5(c)に示す曲線は、振動センサM3で計測された第3振動データの経時変化を示している。この図において、縦軸は、振動センサM3が計測対象としている動作かん203から発生した振動の量を示している。
【0047】
標本データにおいて、状態データ群とともに計測された振動データ群は、状態データ群により分離される動作区間ごとに切出される。また、図5に示す通り、振動データ群は、1以上のピークPを有する。そして、これらピークPのタイミングは、それぞれの振動データを解析することにより特定可能である。
【0048】
図6は、タイミングDB122の例を示す図である。タイミングDB122は、標本DB121に記憶された標本データを解析することにより得られるタイミング情報を記憶するデータベースである。
【0049】
タイミングDB122は、型番リスト1221、区間リスト1222、及びタイミング情報表1223を有する。図6に示す型番リスト1221は、転轍機2の型番を識別する識別情報である型番IDを列挙したリストであり、型番リスト1211と共通の情報が記憶される。この型番リスト1221に列挙された型番IDには、それぞれ区間リスト1222が割り当てられている。
【0050】
区間リスト1222は、対応する型番IDで識別される型番の転轍機2の一連の動作を、複数に分離した動作区間の識別情報である区間IDを列挙したリストである。この区間リスト1222に列挙された区間IDには、それぞれタイミング情報表1223が割り当てられている。
【0051】
タイミング情報表1223は、対応する型番IDで識別される型番の転轍機2において、対応する区間IDで識別される動作区間の動作が行われているときに発生する振動のピークのタイミングに関する情報であるタイミング情報を記憶する。このタイミング情報は、振動が計測される位置を識別する識別情報である位置IDごとに記憶される。
【0052】
タイミング情報は、標本DB121に記憶された標本データを解析して得られた情報である。このタイミング情報は、ピークPのタイミングやその振幅値に関して、異常と判断すべき閾値や、振動が正常である場合に動作区間が開始又は終了するタイミング(つまり、始期又は終期)と判断すべき条件等が含まれる。
【0053】
プロセッサ11は、ピークPのタイミングを、このタイミング情報と照合することにより、動作区間の始期及び終期を特定し、又は、その動作区間において振動データ群が計測された転轍機2に異常が生じていないか否かを判断する。
【0054】
なお、異常と判断すべき閾値は、例えば、ホテリング理論等により求められてもよい。また、タイミング情報は、標本データに基づいて機械学習により生成されてもよい。
【0055】
<異常検知装置の機能的構成>
図7は、異常検知装置1の機能的構成の例を示す図である。図7に示す異常検知装置1のプロセッサ11は、メモリ12に記憶されたプログラムを実行することにより、第1取得部111、切出部112、解析部113、第2取得部114、特定部115、検知部116、及び通知部117として機能する。
【0056】
第1取得部111は、インタフェース13を介して標本データを取得する。この標本データは、上述した通り、正常に稼働しているときの転轍機2で計測された転轍機2の状態を示す状態データと、これに伴って計測された振動データと、の組である。
【0057】
切出部112は、標本DB121に記憶された標本データに含まれる状態データ群に基づいて、その標本データに含まれる振動データを動作区間ごとに切出す。例えば、切出部112は、上述した状態データ群から読み取られる特徴点に基づいて、転轍機2の一連の動作を複数の動作区間に分け、一連の振動データをそれぞれの動作区間ごとに分離する。
【0058】
解析部113は、切出部112により切出された振動データを解析して、上述したタイミング情報を生成する。生成されたタイミング情報は、タイミングDB122に記憶される。
【0059】
第2取得部114は、インタフェース13を介して、状態データ群とともに計測されない振動データを取得する。第2取得部114が取得する振動データは、状態データ群を伴っていないため、標本にならない。
【0060】
特定部115は、第2取得部114が取得した振動データから読み取られる振動のピークを、タイミングDB122に記憶されたタイミング情報と照合・比較し、取得した振動データにおける複数の動作区間を特定する。特定部115は、第2取得部114で取得された振動データを、特定した動作区間ごとに分離する。
【0061】
なお、プロセッサ11がこの特定部115として機能するため、このプロセッサ11を有する異常検知装置1は、転轍機で生じる振動のピークのタイミングからこの転轍機の動作区間を特定する動作区間特定装置の例である。
【0062】
検知部116は、動作区間ごとに分離された振動データに、タイミング情報で記述された条件を当てはめて、転轍機2に異常が生じていないか否かを、動作区間ごとに検知する。
【0063】
通知部117は、検知部116により異常が検知された場合に、インタフェース13を介して、検知された異常に関する情報をユーザに通知する。
【0064】
<異常検知装置の動作>
異常検知装置1は、標本データを解析する解析動作と、解析結果を使って振動データから異常を検知する異常検知動作と、を行う。
【0065】
<解析動作>
図8は、プロセッサ11が行う解析動作の流れの例を示すフロー図である。プロセッサ11は、インタフェース13を介して標本データを取得し(ステップS101)、取得した標本データを標本DB121に記憶する(ステップS102)。
【0066】
次に、プロセッサ11は、標本DB121に記憶された標本データに含まれる状態データ群に基づいて、転轍機2の動作を複数の動作区間に分離し、その動作区間ごとに、上述した標本データに含まれる振動データ群を切出す(ステップS103)。
【0067】
そして、プロセッサ11は、動作区間ごとに切出された振動データが示すピークのタイミングを解析して、上述したタイミング情報を生成し(ステップS104)、生成したタイミング情報をタイミングDB122に記憶する(ステップS105)。
【0068】
<異常検知動作>
図9は、プロセッサ11が行う異常検知動作の流れの例を示すフロー図である。プロセッサ11は、インタフェース13を介して振動データを取得する(ステップS111)。この振動データは、上述した状態データ群を伴わなくてよい。
【0069】
次に、プロセッサ11は、取得した振動データが示す振動のピークを抽出し、それらのピークとタイミング情報と比較する(ステップS112)。そして、プロセッサ11は、比較の結果に基づいて、上述した振動データが計測されたときの動作を構成する複数の動作区間のタイミングを特定する(ステップS113)。
【0070】
なお、例えば、図1に示す例において、異常検知装置1は、3つの振動センサM1、M2、M3からそれぞれ第1振動データ、第2振動データ、第3振動データを取得する。そして、プロセッサ11は、これら3つの振動データのそれぞれが示す振動のピークのタイミングから、転轍機2の動作区間を特定する。
【0071】
つまり、このプロセッサ11を有する異常検知装置1は、転轍機の複数箇所で生じるそれぞれの振動のピークのタイミングから、この転轍機の動作区間を特定する動作区間特定装置の例である。
【0072】
そして、プロセッサ11は、動作区間ごと切出された振動データと、それらのそれぞれに対応するタイミング情報とを照合し、異常を検知したか否かを判断する(ステップS114)。異常を検知した、と判断する場合(ステップS114:YES)、プロセッサ11は、その旨をユーザに通知する(ステップS115)。一方、異常を検知しない、と判断する場合(ステップS114;NO)、プロセッサ11は、処理を終了する。
【0073】
上述した解析動作、及び異常検知動作を行うことにより、異常検知装置1は、転轍機2の本体の観察結果のみから、この転轍機2の動作区間を特定することができる。また、この異常検知装置1は、動作区間ごとに振動のピークが異常であるか否かを判断するため、動作区間を区別しない他の装置に比べて、高い精度で異常を検知することができる。
【0074】
以上の実施形態で説明された構成、形状、大きさ及び配置関係については本発明が理解・実施できる程度に概略的に示したものにすぎない。したがって、本発明は、説明された実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示される技術的思想の範囲を逸脱しない限り様々な形態に変更することができる。
【0075】
<変形例>
以上が実施形態の説明であるが、この実施形態の内容は以下のように変形し得る。また、以下の変形例は組み合わされてもよい。
【0076】
<1>
上述した実施形態において、プロセッサ11は、複数の箇所で生じるそれぞれの振動のピークのタイミングから動作区間を特定したが、振動が計測される箇所は1箇所であってもよい。また、プロセッサ11は、転轍機2の1の箇所で生じる振動を、その転轍機2の他の箇所で生じる振動に基づいて修正して、修正された振動のピークのタイミングから動作区間を特定してもよい。
【0077】
例えば、プロセッサ11は、図2に示す振動センサM3で計測された第3振動データから、振動センサM2で計測された第2振動データを減算する修正を行ってもよい。上述した通り、振動センサM2は、カバー202に取り付けられ、転轍機2の内部の可動部以外から生じる振動を計測している。また、振動センサM3は、スイッチアジャスタ204に取り付けられ、主に転轍機2の可動部から生じる振動を計測しているが、可動部以外から生じる振動も計測している。したがって、第3振動データから第2振動データを減算することにより、転轍機2の可動部以外の部材から発する振動がキャンセルされるため、修正後の振動データは、転轍機2の可動部の動きに由来する振動の割合が減算前に比べて増す。
【0078】
<2>
上述した実施形態において、異常検知装置1は、解析動作、及び異常検知動作の両方を行っていたが、それぞれ別の装置により行ってもよい。この場合、異常検知動作のみを行う異常検知装置1は、解析動作を行う他の装置から、標本データを取得すればよい。この場合、この異常検知装置1は、標本DB121を有しなくてもよい。
【0079】
<3>
上述した実施形態において、異常検知装置1は、計測した振動データを動作区間ごと切出して、そのそれぞれをタイミング情報と比較することで、転轍機2の異常を検知していたが、動作区間を特定する装置と、転轍機2の異常を検知する装置とに分かれていてもよい。すなわち、上述した異常検知装置1は、転轍機2の動作に含まれる複数の動作区間を、それぞれ特定する動作区間特定装置として機能するだけでもよい。
【符号の説明】
【0080】
1…異常検知装置、11…プロセッサ、111…第1取得部、112…切出部、113…解析部、114…第2取得部、115…特定部、116…検知部、117…通知部、12…メモリ、121…標本DB、1211…型番リスト、1212…標本リスト、1213…データ表、122…タイミングDB、1221…型番リスト、1222…区間リスト、1223…タイミング情報表、13…インタフェース、2…転轍機、201…モータ、202…カバー、203…動作かん、204…スイッチアジャスタ、205…鎖錠かん、206…接続かん、M1、M2、M3…振動センサ。
図1
図2
図3
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図9