(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022178131
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】スピーカ
(51)【国際特許分類】
H04R 9/02 20060101AFI20221125BHJP
【FI】
H04R9/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021084694
(22)【出願日】2021-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプスアルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085453
【弁理士】
【氏名又は名称】野▲崎▼ 照夫
(72)【発明者】
【氏名】戸板 大樹
(72)【発明者】
【氏名】田地 良輔
【テーマコード(参考)】
5D012
【Fターム(参考)】
5D012BB01
5D012BB03
5D012BB04
5D012CA08
(57)【要約】 (修正有)
【課題】振動板を含む振動部の移動状態を検知してフィードバック制御することができるスピーカを提供する。
【解決手段】スピーカ1において、検知部20は、固定磁石21、可動磁石22及び磁気センサ23を有している。固定磁石21と磁気センサ23がフレーム2の前端周囲部2aに固定され、可動磁石22が、振動板3の外周端3aに固定されている。固定磁石21の固定磁束F1により磁気センサ23に作用する固定磁場H1と、可動磁石22の可動磁束F2により磁気センサ23に作用する可動磁場H2が交差している。磁気センサ23で、2方向からの磁場H1、H2の合成ベクトルである検知磁場Hdの向きθを検知することにより、可動磁石22の動作位置を検知する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレームおよび磁気回路部を有する駆動支持部と、弾性支持部材を介して前記フレームに振動自在に支持された振動板および前記磁気回路部から駆動用磁束が与えられるボイスコイルを有する振動部と、が設けられたスピーカにおいて、
前記駆動支持部に設けられた固定磁石と、前記振動部に設けられた可動磁石と、前記駆動支持部と前記振動部のいずれか一方に設けられた磁気センサとを有し、前記固定磁石から前記磁気センサに与えられる磁場の向きと、前記可動磁石から前記磁気センサに与えられる磁場の向きとが交差しており、
前記磁気センサで2方向からの前記磁場の強度変化を検知することで、前記振動部の位置を知ることができることを特徴とするスピーカ。
【請求項2】
前記磁気センサで、2方向からの前記磁場の合成ベクトルの向きが検知される請求項1記載のスピーカ。
【請求項3】
前記固定磁石と前記可動磁石および前記磁気センサは、前記振動部の振動方向に沿って延びる中心線を含む同じ断面内に位置している請求項1または2記載のスピーカ。
【請求項4】
前記固定磁石から前記磁気センサに与えられる磁場の向きと、前記磁気回路部から前記磁気センサに与えられる磁場の向きとが一致している請求項1ないし3のいずれかに記載のスピーカ。
【請求項5】
前記フレームと前記振動部との間に、前記弾性支持部材を構成するダンパー部材が設けられており、
前記磁気回路部が、前記ダンパー部材よりも後方に設けられ、前記固定磁石と前記可動磁石および前記磁気センサが前記ダンパー部材よりも前方に配置されている請求項1ないし4のいずれかに記載のスピーカ。
【請求項6】
前記弾性支持部材が、前記振動板の外周端と前記フレームとの間に接合された弾性変形可能なエッジ部材を有しており、
前記可動磁石が、前記振動板と前記エッジ部材との重なり部に固定されている請求項5記載のスピーカ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動板を含む振動部の動作を磁気センサで高精度に検知することができるスピーカに関する。
【背景技術】
【0002】
音響装置における従来のスピーカは、アンプから出力されるオーディオ信号をそのまま受け入れて音圧を再生する処理を行うだけであり、スピーカ自らがオーディオ信号に合わせた制御動作を行っていなかった。そのため、発音に歪が発生しやすく、音質のばらつきが生じやすかった。さらには、振動板の振幅が過大になったときに、振動板やダンパーなどが破損することもあった。
【0003】
上記の問題を解決するために、特許文献1には、磁気センサによって振動板の動きを検知してフィードバック制御を行うスピーカシステムが記載されている。
【0004】
このスピーカシステムは、磁気回路部を構成するプレートを有し、このプレートにおけるボイスコイルとの対向部に磁気センサであるホール素子が支持されている。磁気回路部のギャップ内の有効磁束密度がホール素子により検出され、その検出信号が増幅されてパワーアンプにフィードバックされる。パワーアンプからボイスコイルに駆動電流が与えられボイスコイルとともにボビンが振動すると、ギャップ内の有効磁束密度が、ボイスコイルに流れる電流およびボイスコイルに生じる逆起電力によって変化する。この有効磁束密度の変化をホール素子で検知しパワーアンプにフィードバックすることで、ボイスコイルに与えられる駆動電流の歪分が補正される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されたスピーカシステムのフィードバック制御には、検知素子として光学検知素子やコイルなどよりも小型の素子であるホール素子が使用されているため、スピーカの寸法が過大になるのを防止でき、消費電力が増大するのも防止することができる。しかしながら、磁気回路部のギャップの有効磁束密度の変化をホール素子で検出する方式は、ボイスコイルやボビンの動きを直接に検知できないため、音の歪や音質のばらつきなどを高精度に補正することが難しい。
【0007】
また、特許文献1のスピーカシステムは、プレートにおけるボイスコイルとの対面部にホール素子を埋め込む構造であるため、ホール素子の取付け構造が複雑であり、組み立て作業も非効率的である。
【0008】
本発明は、上記従来の課題を解決するものであり、2つの磁石と磁気センサを用いて振動部の振動を高精度に検知することができ、また振動部に検知用の可動磁石を安定した姿勢で取り付けることも可能なスピーカを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、フレームおよび磁気回路部を有する駆動支持部と、弾性支持部材を介して前記フレームに振動自在に支持された振動板および前記磁気回路部から駆動用磁束が与えられるボイスコイルを有する振動部と、が設けられたスピーカにおいて、
前記駆動支持部に設けられた固定磁石と、前記振動部に設けられた可動磁石と、前記駆動支持部と前記振動部のいずれか一方に設けられた磁気センサとを有し、前記固定磁石から前記磁気センサに与えられる磁場の向きと、前記可動磁石から前記磁気センサに与えられる磁場の向きとが交差しており、
前記磁気センサで2方向からの前記磁場の強度変化を検知することで、前記振動部の位置を知ることができることを特徴とするスピーカ。
【0010】
本発明のスピーカは、例えば、前記磁気センサで、2方向からの前記磁場の合成ベクトルの向きが検知されるものである。
【0011】
本発明のスピーカは、前記固定磁石と前記可動磁石および前記磁気センサは、前記振動部の振動方向に沿って延びる中心線を含む同じ断面内に位置していることが好ましい。
【0012】
本発明のスピーカは、前記固定磁石から前記磁気センサに与えられる磁場の向きと、前記磁気回路部から前記磁気センサに与えられる磁場の向きとが一致していることが好ましい。
【0013】
本発明のスピーカは、前記フレームと前記振動部との間に、前記弾性支持部材を構成するダンパー部材が設けられており、
前記磁気回路部が、前記ダンパー部材よりも後方に設けられ、前記固定磁石と前記可動磁石および前記磁気センサが前記ダンパー部材よりも前方に配置されていることが好ましい。
【0014】
本発明のスピーカは、前記弾性支持部材が、前記振動板の外周端と前記フレームとの間に接合された弾性変形可能なエッジ部材を有しており、
前記可動磁石が、前記振動板と前記エッジ部材との重なり部に固定されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明のスピーカは、振動部と駆動支持部のそれぞれに磁石が設けられ、2つの磁石から磁気センサに異なる向きの磁場が作用し、磁気センサから、2方向からの磁場に基づく検知出力が得られる。例えば、2つの磁石からの磁場の合成ベクトルの向きが求められ、あるいは、2つの磁石からの磁場の強度の相対値が求められることにより、周囲のノイズに影響を受けることなく、振動部の動きを知ることができる。そのため、振動部の動作を補正する高精度なフィードバック制御が可能になる。
【0016】
特に、2つの磁石の一方から磁気センサに作用する磁場の向きと、磁気回路部から磁気センサに作用する磁場の向きとを一致させることにより、磁気回路部からの漏れ磁束が検知出力のノイズとして影響するのを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の第1実施形態のスピーカを、X-Z平面と平行で且つ中心軸Oを含む切断面で断面した半断面斜視図、
【
図2】前記第1実施形態のスピーカの一部を拡大して示す部分拡大断面図、
【
図3】本発明の第2実施形態のスピーカを、X-Z平面と平行で且つ中心軸Oを含む切断面で断面した半断面図、
【
図4】前記第2実施形態のスピーカの一部を拡大して示す部分拡大断面図、
【
図5】(A)(B)は、可動磁石が振動板に位置決められて固定されている構造を示す部分拡大斜視図、
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1と
図2に示される本発明の第1実施形態のスピーカ1はZ1―Z2方向が前後方向であり、Z1方向が前方でZ2方向が後方である。スピーカ1は、Z1方向が発音方向として使用されることもあるし、Z2方向が発音方向として使用されることもある。
【0019】
図1と
図2には、前後方向(Z1-Z2方向)に延びる中心軸Oが示されている。スピーカ1の主要部は、中心軸Oを中心とするほぼ回転対称な構造である。
図1には、中心軸Oと直交する平面において互いに直交するX軸とY軸が示されている。X軸は、固定磁石21で形成される固定磁束F1に基づいて磁気センサ23に作用する固定磁場H1の向きに一致している。Y軸は、可動磁石22で形成される可動磁束F2に基づいて磁気センサ23に作用する可動磁場H2の向きに一致している。なお、磁気回路部10の駆動用磁束Fdからの漏れ磁束により磁気センサ23に作用する駆動磁場の向きもX軸の向きに一致している。
【0020】
図1と
図2に示されるスピーカ1はフレーム2を有している。フレーム2は、非磁性材料または磁性材料で形成されており、前方(Z1方向)に向けて直径が徐々に広がるテーパ形状である。フレーム2の後方(Z2方向)に磁気回路部10が接着やねじ止めなどの手段で固定されている。フレーム2と磁気回路部10とで「駆動支持部」が構成されている。
【0021】
磁気回路部10は、中心軸Oを中心とするリング状の駆動用磁石11と、駆動用磁石11の前方に接合されたリング状の対向ヨーク12と、駆動用磁石11の後方に接合された後方ヨーク13を有している。後方ヨーク13にはセンターヨーク14が一体に形成されている。センターヨーク14は、駆動用磁石11と対向ヨーク12の内側に位置し、後方ヨーク13から前方(Z1方向)に隆起して形成されている。なお、センターヨーク14が後方ヨーク13と別体に形成され、後方ヨーク13とセンターヨーク14とが接合されていてもよい。対向ヨーク12と後方ヨーク13およびセンターヨーク14は磁性材料、すなわち磁性金属材料で形成されている。
【0022】
センターヨーク14は円柱状であり、その外周面と、対向ヨーク12の内周面との間に、中心軸Oを中心とする円周に沿って磁気ギャップGが形成されている。
図1に示されるように、磁気回路部10では、駆動用磁石11から発せられた駆動用磁束Fdが、対向ヨーク12から磁気ギャップGを横断してセンターヨーク14と後方ヨーク13を周回する。
【0023】
フレーム2の前方部分の内側に振動板3が設けられている。振動板3は円錐状のいわゆるコーン形状である。フレーム2の前端周囲部2aと振動板3の外周端3aは、弾性変形可能なエッジ部材4を介して接合されている。エッジ部材4と前端周囲部2aおよびエッジ部材4と外周端3aとは接着剤で固定されている。フレーム2の中腹部の内面に内周固定部2bが形成されており、断面がコルゲート形状の弾性変形可能なダンパー部材5の外周部5aが内周固定部2bに接着剤により固定されている。エッジ部材4が第1弾性支持部材であり、ダンパー部材5が第2弾性支持部材である。
【0024】
フレーム2の内部にボビン6が設けられている。ボビン6は、中心軸Oを中心とする円筒形状である。振動板3の内周端3bはボビン6の外周面に接着剤で固定されており、ダンパー部材5の内周部5bも接着剤によってボビン6の外周面に固定されている。振動板3の中心部には前方に向けて隆起するドーム形状のキャップ8が設けられている。キャップ8は、ボビン6の前方の開口部を覆っており、キャップ8の周縁部8aが振動板3の前面に接着剤を介して固定されている。
【0025】
ボビン6の後方(Z2方向)に向く後端部では、その外周面にボイスコイル7が設けられている。ボイスコイル7を構成する被覆導線は、ボビン6の外周面において所定のターン数で巻かれている。ボイスコイル7は、磁気回路部10の磁気ギャップG内に位置している。磁気回路部10とボイスコイル7とで、「磁気駆動部」が構成されている。
【0026】
振動板3とボビン6は、弾性支持部材であるエッジ部材4およびダンパー部材5の弾性変形により、フレーム2に対して(「駆動支持部」に対して)前後方向(Z1-Z2方向)に振動自在に支持されている。振動板3とキャップ8およびボビン6とボイスコイル7が、フレーム2を含む「駆動支持部」に対して前後方向に振動する「振動部」を構成している。また、エッジ部材4およびダンパー部材5のうちの振動板3と共に前後に振動する部分も、「振動部」の一部を構成している。
【0027】
スピーカ1には、振動部の振動を検知する検知部(振動検知部)20が設けられている。検知部20は、「駆動支持部」を構成するフレーム2の前端周囲部2aに固定された固定磁石21と、「振動部」を構成する振動板3の外周端3aに固定された可動磁石22と、フレーム2の前端周囲部2aに固定された磁気センサ23とを有している。
【0028】
図2に拡大して示されているように、検知部20には非磁性材料で形成された支持基台24が設けられている。支持基台24は小片状のプリント配線基板である。支持基台24の一方の実装面に固定磁石21が固定され、他方の実装面に磁気センサ23が固定されている。
図1と
図2に示される実施形態では、支持基台24の前方(Z1方向)に向く実装面に固定磁石21が固定され、後方(Z2方向)に向く実装面に磁気センサ23が固定されている。支持基台24は、フレーム2の前方にフランジ状に形成された前端周囲部2aの後方(Z2方向)に向く面に接着剤により固定されている。支持基台24の前後に向く実装面は、中心軸Oと垂直な平面(X-Y平面)と平行に配置されており、固定磁石21と磁気センサ23も、X-Y平面と平行な面に沿って配置されている。
【0029】
図2に示されるように、振動板3の外周端3aはフランジ状であり、その前方(Z1方向)の向く表面3a1は、中心軸Oに垂直な平面(X-Y平面)とほぼ平行に位置している。エッジ部材4の内周部4aもX-Y平面とほぼ平行に位置しており、振動板3の外周端3aがエッジ部材4の内周部4aに重ねられて接合されている。可動磁石22は振動板3の外周端3aの前方に向く面に接着されて固定されている。そのため、可動磁石22は、X-Y平面と平行な面に沿って配置されている。
【0030】
図1と
図2には、スピーカ1を、中心軸Oを含み且つX-Z平面と平行な切断面で切断した断面が示されている。固定磁石21の中心と可動磁石22の中心および磁気センサ23の中心は、中心軸Oを含む同じ断面内に位置している。前記断面内において、固定磁石21の中心と磁気センサ23の中心との直線距離よりも、可動磁石22の中心と磁気センサ23の中心との直線距離が、十分に長くなっている。
【0031】
図1と
図2に示されるように、固定磁石21の着磁方向は、中心軸Oを中心とする半径方向すなわちX方向と平行であり、固定磁石21により、
図1と
図2において矢印で示す固定磁束F1が形成される。可動磁石22の着磁方向は、中心軸Oを中心とする円弧の接線方向すなわちY方向と平行であり、可動磁石22により、
図1と
図2において矢印で示す可動磁束F2が形成される。
【0032】
磁気センサ23は、中心軸Oに垂直で且つ磁気センサ23の中心を通る平面(X-Y平面と平行な平面)において、ベクトル量である磁場の向きの変化を検知することができる。固定磁石21で生成される固定磁束F1は磁気センサ23に対して半径方向(X方向)に作用する。
図1には、固定磁束F1に基づいて磁気センサ23にX方向へ作用するベクトル量である固定磁場がH1で示されている。可動磁石22で生成される可動磁束F2は、磁気センサ23にY方向に作用する。
図1には、可動磁束F2に基づいて磁気センサ23にY方向へ作用するベクトル量である可動磁場がH2で示されている。磁気センサ23からは、固定磁場H1と可動磁場H2との合成ベクトルである検知磁場Hdの向きの変化に応じた検知出力が得られる。磁気センサ23と固定磁石21との相対位置は変化しないため、磁気センサ23に作用する固定磁場H1の強さは実質的に変化しない。これに対し、振動部の前後方向(Z1-Z2方向)の振動に伴って可動磁石22と磁気センサ23の距離が変化するため、磁気センサ23で検知される可動磁場H2の強さは変化する。そのため、合成ベクトルである検知磁場Hdの向き(中心軸Oと直交する平面内での角度)θは、振動部の振動に応じて変化する。
【0033】
磁気センサ23は、少なくとも1つの磁気抵抗効果素子を有している。磁気抵抗効果素子は、固定磁性層とフリー磁性層を有するGMR素子またはTMR素子である。固定磁性層の磁化の向きが固定され、フリー磁性層の磁場の向きが検知磁場Hdの向きの変化に追従し、固定磁性層の固定磁場とフリー磁性層の磁化との相対角度の変化に応じて電気抵抗値が変化する。この電気抵抗値の変化に応じて、検知磁場Hdのベクトルの角度θの変化を検知することができる。または、磁気センサ23として、ホール素子などの指向性を有する2個の検知素子を、中心軸Oに垂直な平面内でその検知方向を交差させ、好ましくは直交させて配置することによっても、検知磁場Hdの向きθの変化を検知することが可能である。この場合、一方のホール素子などで固定磁場H1の強さを検知し、他方のホール素子などで可動磁場H2の強さを検知し、2つの検知素子の検知強度の差または比などを求めることで、検知磁場Hdのベクトルの向きの変化に応じた検知出力を得ることができる。
【0034】
次に、スピーカ1の発音動作を説明する。
発音動作では、オーディオアンプから出力されたオーディオ信号に基づいてボイスコイル7に駆動電流が与えられる。磁気回路部10から発せられる駆動用磁束Fdがボイスコイル7を横断するため、駆動用磁束Fdと駆動電流とで励起される電磁力により、振動板3およびボイスコイル7を含む振動部が前後方向に振動して、駆動電流の周波数に応じた音圧が発生し、前方(Z1方向)または後方(Z2方向)に向けて音が発せられる。
【0035】
スピーカ1に併設された制御部では、磁気センサ23からの検知出力に基づいてフィードバック制御が行われる。磁気センサ23から検知磁場Hdのベクトルの平面内での角度θの変化に基づく検知出力を得ることにより、制御部では、振動板3を含む振動部の前後方向の位置およびその変化を知ることができる。例えば、制御部では、オーディオ信号の印加により想定される振動部の前後方向の理想的な位置およびその変化と、磁気センサ23の検知出力から判定される振動部の実際の位置およびその変化とのずれ量が演算され、ずれ量がしきい値を超えたら、ずれ量を補正する補正信号(オフセット信号)が生成される。ボイスコイル7に与えられる駆動信号(ボイス電流)に前記補正信号が重畳され、このフィードバック制御により、スピーカ1による発音の歪みや音ずれなどが補正され、さらには、振動板3が前後方向に過振動するのが防止される。
【0036】
磁気センサ23は、固定磁石21で生成される固定磁束F1の磁場強度と、可動磁石22で生成される可動磁束F2の磁場強度の双方を検知して、2方向からの磁場の強度の相対値により振動部の動作を検知している。そのため、外部ノイズの影響を受けにくく高精度の検知が可能である。例えば、駆動支持部に固定された磁気センサで、可動磁石22からの可動磁束F2の磁場強度の変化のみを検知する比較例では、外部ノイズが重畳すると前記磁場強度の変化を正確に検知できなくなり、検知精度が低下することになる。本発明の実施形態は、GMR素子により2方向からの磁場の合成ベクトル量である検知磁場Hdの角度変化を検知し、または2方向に指向性を持つホール素子などで、2方向からの磁場の強度の差や比を相対的に検知しているため、外部ノイズの影響を受けにくく、常に高精度で高感度のフィードバック制御を行なうことができる。
【0037】
図1に示される中心軸Oを含む断面内において、磁気回路部10で生成される駆動用磁束Fdの洩れ磁束は、磁気センサ23に対して、中心軸Oを中心とする半径方向すなわちX方向に作用している。駆動用磁束Fdの洩れ磁束によって磁気センサ23に作用する磁場は、固定磁石21の固定磁束F1により磁気センサ23に作用する磁場と同じ向きであり、しかも、駆動用磁束Fdの洩れ磁束によって磁気センサ23に作用する磁場の強度は、理論上は変動せずに一定である。よって、磁気センサ23で検知される固定磁場H1は、固定磁石21によるX方向の磁場に、磁気回路部10の駆動用磁束Fdの洩れ磁束の磁場が加算されたものとなる。そのため、固定磁場H1の強度が、駆動用磁束Fdの影響を受けて変動することがなく、ほぼ固定値となる固定磁場H1と、可動磁石22の移動により変化する可動磁場H2との合成ベクトルの向きθを検知することで、駆動用磁束Fdがノイズとして影響することがなく、可動磁石22の位置を常に正確に検知できるようになる。
【0038】
図2に示されるように、フレーム2の前端周囲部2aの後方(Z2方向)に向く面と、振動板3の外周端3aの前方に向く面はほぼ平行であり、共に、中心軸Oに垂直な平面と平行である。そのため、固定磁石21と可動磁石22および磁気センサ23は、ほぼ平行に配置されている。
図1に示されるように、磁気センサ23で検知される固定磁場H1の向きと可動磁場H2の向きは、中心軸Oと垂直な平面内に位置し、固定磁石21の着磁方向および可動磁石22の着磁方向も、中心軸Oと垂直な平面に沿う向きである。そのため、磁気センサ23で、固定磁場H1と可動磁場H2の強度を効果的に検知することができる。
【0039】
図1と
図2に示されるスピーカ1では、弾性支持部材であるダンパー部材5よりも後方に磁気回路部10が配置され、ダンパー部材5よりも前方に、固定磁石21と可動磁石22および磁気センサ23とから成る検知部20が設けられている。検知部20を構成する部材が、磁気回路部10やボイスコイル7と干渉しない位置に設けられているため、検知部20を構成する磁石および磁気センサの組み付け作業が容易である。特に、固定磁石21と磁気センサ23が、フレーム2の外側に広がる前端周囲部2aに固定されているため、スピーカ1の全体構造が組み立てられた後に、固定磁石21と磁気センサ23を組み付けることができる。また、磁気センサ23から延び出る配線材25を、フレーム2の外側へ直接引き出すことができるので、配線処理作業も容易である。
【0040】
可動磁石22は、振動板3の外周端3aとエッジ部材4の内周部4aとの重なり部において、振動板3の前方に向く面に固定されている。そのため、スピーカ1の全体構造が組み立てられた後に、可動磁石22を取り付けることも可能である。また、振動板3とエッジ部材4との重なり部は剛性が高いため、可動磁石22を安定して固定することが可能である。
【0041】
図5(A)(B)に、振動板3の外周端3aでの可動磁石22の取付け構造が実施形態別に拡大して示されている。
図5(A)に示される実施形態では、振動板3の外周端3aに、位置決めとなる切欠き部3cが設けられている。可動磁石22は、Y方向に離れて形成された切欠き部3cの間に位置決めして固定できるようになっている。
図5(B)に示される実施形態では、振動板3の外周端3aに、位置決め部として、可動磁石22を挟むようにまたは囲むように隆起部3dが形成されている。振動板3の外周端3aに位置決め部を設けることにより、特別な治具を用いることなく可動磁石22を外周端3aに位置決めして固定することができる。
【0042】
図3と
図4に示される第2実施形態のスピーカ101は、フレーム2の前端周囲部2aの前方に追加パーツ31が固定されている。追加パーツ31は、スピーカ101を自動車の車体などに取り付ける際の密閉性を確保するガスケットである。または、振動板3の前方を覆うカバーグリルの外周部分である。追加パーツ31は、「駆動支持部」の一部を構成している。固定磁石21と磁気センサ23とが実装された支持基台24は、追加パーツ31の前方に向く面に固定されている。この実施形態では、スピーカ101の基本構造の組み立てが完了した後に、振動板3に可動磁石22を接着し、固定磁石21と磁気センサ23とを有する追加パーツ31を取り付けるだけで、検知部20を有するスピーカの組み立てを完了することができる。
【0043】
前記スピーカ1およびスピーカ101では、磁気センサ23が、「駆動支持部」を構成するフレーム2または追加パーツ31に固定されている。ただし、本発明では、磁気センサ23が、可動磁石22と前後に重ねられるようにして「振動部」に固定されていてもよい。この構成では、磁気センサ23で検知される可動磁場H2の強度は一定であるが、振動部の前後の動作により、磁気センサ23と固定磁石21と相対位置、および磁気センサ23と磁気回路部10との相対位置が変化し、磁気センサ23で検知される固定磁場H1の強度が変化する。合成ベクトルである検知磁場Hdの向きθの変化を検知することで、振動部の動作を知ることができる。
【0044】
また、可動磁石22は振動板3に固定するのが最も好ましいが、「振動部」を構成するエッジ部材4の可動部分(振動部分)またはダンパー部材5の可動部分(振動部分)に固定してもよい。
【符号の説明】
【0045】
1,101 スピーカ
2 フレーム
3 振動板
6 ボビン
7 ボイスコイル
10 磁気回路部
11 駆動用磁石
12 対向ヨーク
13 後方ヨーク
14 センターヨーク
20 検知部
21 固定磁石
22 可動磁石
23 磁気センサ
F1 固定磁束
F2 可動磁束
H1 固定磁場
H2 可動磁場
Hd 検知磁場
O 中心軸