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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022178140
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】焼結原料の水分測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/27 20060101AFI20221125BHJP
   C22B 1/16 20060101ALI20221125BHJP
   G01N 21/3554 20140101ALI20221125BHJP
【FI】
G01N21/27 F
C22B1/16 P
G01N21/3554
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021084708
(22)【出願日】2021-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110003041
【氏名又は名称】特許業務法人安田岡本特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷口 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】大菅 宏児
(72)【発明者】
【氏名】宮川 一也
【テーマコード(参考)】
2G059
4K001
【Fターム(参考)】
2G059AA01
2G059BB08
2G059CC09
2G059DD12
2G059EE01
2G059EE12
2G059EE13
2G059HH01
2G059MM01
2G059MM12
4K001CA37
(57)【要約】
【課題】表面特性の異なる原料の配合条件ごとに対応する検量線を複数作成し原料特性に応じた検量線に色情報を基に切り替えて焼結原料の水分を精度よく測定することができる焼結原料の水分測定方法を提供する。
【解決手段】本発明は焼結原料1を造粒する造粒工程で近赤外線の吸光特性を用いて焼結原料1に含まれる水分を測定する方法において焼結原料1の配合範囲における近赤外線の光学特性をHSV空間へ変換しHSV空間でのS値とV値が異なる焼結原料1について近赤外線の複数波長の吸光度から水分を求める検量線を焼結原料1の配合範囲ごとに事前に作成し焼結原料1に含まれる水分を測定する際に近赤外線を含む光を照射した領域の反射光から吸光量を測定するとともに焼結原料1のS値とV値を同時に算出しS値とV値から焼結原料1の配合範囲を推定しその配合範囲に応じた検量線と反射光における近赤外線の吸光量から焼結原料1の水分値を算出する。
【選択図】図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼結原料を造粒する造粒工程で、近赤外線の吸光特性を用いて、前記焼結原料に含まれる水分を測定する方法において、
対象となる前記焼結原料の配合範囲における近赤外線の光学特性を、HSV空間へ変換し、
変換したHSV空間でのS値およびV値が異なる前記焼結原料について、前記近赤外線の複数波長の吸光度から水分を求める検量線を、前記焼結原料の配合範囲ごとに事前に作成しておき、
前記焼結原料に含まれる水分を測定するに際して、前記近赤外線を含む光を照射した領域の反射光から吸光量を測定するとともに、前記焼結原料のS値およびV値を同時に算出して、
算出した前記S値およびV値から前記焼結原料の配合範囲を推定し、
推定した前記配合範囲に応じた検量線と、前記反射光における近赤外線の吸光量とから前記焼結原料の水分値を算出する
ことを特徴とする焼結原料の水分測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、造粒される焼結原料に含まれる水分を測定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、焼結鉱製造プロセスでは、原料槽から造粒機(例えば、ドラムミキサ、パンペレタイザなど)に複数の固体原料(鉄鉱石、石灰石など)を装入し、装入された固体原料に水分(造粒水)を添加しながら転動させて混合することで、焼結原料(造粒物)を造粒する。その焼結原料(焼結鉱の原料)を焼結機で焼き固めて焼結鉱を製造している。
造粒した焼結原料にどのくらいの水分が含まれているかを知ることは、適正な焼結鉱を製造する上では非常に重要であり、焼結原料に含まれる水分を測定する技術としては、例えば、特許文献1~4に開示されているものがある。
【0003】
特許文献1は、焼結原料の水分を制御することを目的としている。具体的には、凝結原料の事前処理工程において、各種原料を混合する混合装置の後のコンベア上に赤外線水分計を設置し、この赤外線水分計で混合原料の配合や粒径の変化に基づいて検量線を変化させて混合後の原料の水分を測定し、この水分測定値に基づき擬結原料の最終的水分値を制御することとされている。
【0004】
特許文献2は、赤外線水分計を用いて焼結鉱原料の水分を測定することを目的としている。具体的には、赤外線水分計は被測定物の粒度等の形、色、化学成分等が変化すると同一水分値の対象物であっても異なる指示値を示すという特性をもつ。混合原料水分値の測定に赤外線水分計を使用する場合、混合原料の性状は原料配合変更毎に少しずつ異なるため、配合変更のたびに水分計の校正をしなければならないとされている。
【0005】
なお、焼結鉱原料の水分を測定する技術ではないものの、特許文献3は、バターの水分を測定することを目的としている技術が開示されている。具体的には、近赤外水分計により測定した水分、油分の吸光度に演算される値、該近赤外水分計と試料間の距離、試料温度及び色相により、バター中の水分含量を高精度で測定することとされている。
特許文献4は、脱水ケーキの含水率を測定することを目的としている。具体的には、性状の異なる複数種類の脱水ケーキについての前記赤外線水分計の検量線の情報を記憶しておき、測定対象物である脱水ケーキの色を色差計で測定し、該色差計が出力する色情報と前記検量線の情報とに基づいて前記赤外線水分計の検量線を設定し、該検量線が設定された上記赤外線水分計で前記測定対象物である脱水ケーキの含水率を測定することとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭60-022051号公報
【特許文献2】特開昭62-000839号公報
【特許文献3】特開平07-270309号公報
【特許文献4】特開平06-229918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、粉体中に含まれる水分を迅速に測定する技術として、近赤外吸光度を用いた水分計が挙げられる。近赤外線域の中には1.2μm、1.45μm、1.94μmの3波長が含まれており、これらの波長の光は水に吸収される性質がある。つまり、近赤外線には、水に吸収される吸収帯が存在する。この特性を利用したものが近赤外吸光度式水分計である。
近赤外吸光度式水分計は、以下の測定原理となっている。
【0008】
対象物(本発明では、焼結原料)に近赤外線を含む光を照射すると、対象物の表面に存在する水に吸収された後、対象物の表面で反射し、測定器の検知部に反射光が到達することで、反射光強度が測定される。このように、上記した3波長の光が水に吸収されることによって、近赤外線の反射光における減衰度(吸光度)を計測することで、対象物に含まれる水分値を換算することができる。
【0009】
しかしながら、吸収波長の反射光強度を計測するのみでは、試料(対象物)の性状や、試料と光源との位置関係などの影響を受けるため、正確な吸光度を求めることができない。そこで、リファレンスとして、水に吸収されにくい参照波長の反射光強度を計測し、参照波長と吸収波長の反射光強度から、吸光度を計測する。また、吸光度は、対象物の表面に存在する水分に影響される指標であるが、その表面水分は対象物全体の水分に比例するので、吸光度から水分値を換算することができる。
【0010】
このような近赤外吸光度式水分計を、対象となる焼結原料のような複数種類の原料を混合した混合物に適用させると、原料条件の変化によって水分測定の精度が大きく低下してしまう虞がある。
この水分測定の精度低下の原因としては、近赤外吸光度式水分計の測定原理に基づくと、対象物である焼結原料の原料配合条件によって、近赤外線の波長毎の反射特性が異なってしまい、反射光強度と表面の水分値との関係にずれが生じてしまうことにある。したがって、焼結原料の原料配合の特性が異なる場合、各焼結原料に対して単一の検量線(水分換算式)を適用させると、水分測定の精度が低下すると考えられる。
【0011】
特許文献1は、焼結原料の水分を制御する際、一つの検量線を用い、黒褐色系鉱石、赤褐色系鉱石、ライスボール、石灰、コークスの配合割合で連続的に検量線の補正を行っている。この場合では、一部の色情報によって鉱石が分類されているが、色情報に基づいた検量線の切り替えは行われていない。開示されている検量線に対しても、色情報を用いて対応可能とされる異なる検量線に切り変えることができれば、より広範囲に適用でき、精度が上がると推定されるが、同文献の技術ではできない。また、水分により色が変化するため、色情報による検量線の分類方法が明確ではなく、加えて原料配合情報を必要とする。
【0012】
特許文献2は、焼結鉱原料の水分を測定する際、水分偏差によって自動的に値の補正をかけているが、色情報を用いた補正を行うものとはなっていない。特許文献3は、バターの水分を測定する際、複数の検量線を用いないため、性状が異なる複数種類の原料について、同一の水分測定方法を適用させることが難しい。特許文献4は、脱水ケーキの含水率を測定する技術であるが、本発明と目的が異なる技術であり適用させることができない。
【0013】
そこで、本発明は、上記問題点に鑑み、表面特性の異なる原料の配合条件ごとに対応する検量線を、複数作成しておき、原料特性に応じた検量線に、色情報を基にして切り替えて、焼結原料の水分を精度よく測定することができる焼結原料の水分測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を達成するため、本発明においては以下の技術的手段を講じた。
本発明にかかる焼結原料の水分測定方法は、焼結原料を造粒する造粒工程で、近赤外線の吸光特性を用いて、前記焼結原料に含まれる水分を測定する方法において、対象となる前記焼結原料の配合範囲における近赤外線の光学特性を、HSV空間へ変換し、変換したHSV空間でのS値およびV値が異なる前記焼結原料について、前記近赤外線の複数波長の吸光度から水分を求める検量線を、前記焼結原料の配合範囲ごとに事前に作成しておき、前記焼結原料に含まれる水分を測定するに際して、前記近赤外線を含む光を照射した領域の反射光から吸光量を測定するとともに、前記焼結原料のS値およびV値を同時に算出して、算出した前記S値およびV値から前記焼結原料の配合範囲を推定し、推定した前記配合範囲に応じた検量線と、前記反射光における近赤外線の吸光量とから前記焼結原料の水分値を算出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、表面特性の異なる原料の配合条件ごとに対応する検量線を、複数作成しておき、原料特性に応じた検量線に、色情報を基にして切り替えて、焼結原料の水分を精度よく測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】焼結原料の断面画像の一例である。
図2】鉱石銘柄ごとの造粒水分と、通気性の関係を示した図である。
図3】焼結鉱製造プロセスであって、焼結原料に対して造粒水分を調整する工程の概略を模式的に示した図である。
図4】吸光度の測定方法の概略を模式的に示した図である。
図5】複数の原料配合での吸光度(吸光式水分(%))と、実測水分(%)の対応関係を示した図であり、異なる原料配合に対応する検量線を適用すると、水分測定精度が低下する例を示した図である(本実施例と比較例)。
図6】複数の原料配合での吸光度(吸光式水分(%))と、実測水分(%)の対応関係を示した図であり、単一の原料配合から検量線を作成しそれを適用させると、水分測定精度が低下する例を示した図である(本実施例と比較例)。
図7】本発明の技術を実機に適用させたときの装置構成の一例を模式的に示した図である。
図8】配合ごとの実測水分(%)と、色情報(H値(-)、S値(-)、V値(-))の関係を示した図である。
図9】彩度(S値(-))と明度(V値(-))の関係を示した図である。
図10】複数の原料配合での吸光度(吸光式水分(%))と、実測水分(%)の対応関係を示した図であり、色情報(彩度S、明度V)で検量線を適切に切り替えることで、焼結原料に含まれる水分の測定精度を向上させることができる例を示した図である(比較例と本実施例)。
図11】原料配合ごとに検量線を作成する手順を示したフローチャート図である。
図12】色情報(RGB)を用いて、原料の配合割合を区別する方法を示したフローチャート図である。
図13】近赤外吸光式水分計を用いて、焼結原料の水分値を測定する方法を示したフローチャート図である(比較例と本実施例)。
図14】近赤外吸光式水分計の概略を模式的に示した図である。
図15】試料画像を撮影する装置の概略を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明にかかる焼結原料の水分測定方法の実施形態を、図を参照して説明する。
なお、以下に説明する実施形態は、本発明を具体化した一例であって、その具体例をもって本発明の構成を限定するものではない。
本発明にかかる焼結原料1の水分測定方法は、焼結鉱を製造するに際して、焼結鉱の元となる焼結原料1を複数の固体原料2から造粒する造粒工程で、近赤外線の吸光特性を用いて、焼結原料1に含まれる水分を測定するに際し、焼結原料1の配合条件ごとに対応する検量線を、焼結原料1から得られる吸光度を基に予め作成しておき、焼結原料1に含まれる水分を測定するに際して、前記近赤外線を含む光を照射した領域の反射光から吸光量を測定すると同時に、前記焼結原料1のS値およびV値を算出して、原料特性に応じた検量線に切り替えることで、焼結原料1の水分測定を高精度に維持することができる技術である。
【0018】
本発明で用いる「原料1の色情報(HSV色空間での色相/彩度/明度)」は、近赤外線領域の吸光特性と同じ光学情報であるため、焼結原料1の配合条件が異なる場合であっても、色情報が近しければ、近赤外線領域の吸光特性も近しいことが期待できるので、同一の検量線の適用性が高いと推定される。加えて、連続的に閾値を設定することができるため、任意の区間に適正な検量線を設定して切り替えることができる。
【0019】
まず、焼結鉱の製造工程について述べる。
焼結鉱を製造するため、鉄鉱石、石灰類、珪石、焼結返鉱、粉コークス、ダストなどの複数の原料2(固体原料)を原料槽3から造粒機4に投入する。造粒機4内において原料2に造粒水を加水して転動させて混合することで、原料2を造粒物化して焼結原料1を製造する(図3を参照)。なお、造粒機4は、例えば、ドラムミキサやパンペレタイザなどが用いられる。
【0020】
また、造粒とは、原料2に水分を添加して転動作用を与えることで、核1aとなる1mm以上の粒子に1mm以下の微粉を付着させ、被覆層1bを有する造粒物1(焼結原料)
とし、粒径を大きくする工程である。
図1に、造粒物1の一例として、断面の画像を示す。
図1に示すように、造粒物1(焼結原料)は、核粒子1aと、核粒子1aの外周囲に形成される被覆層1bと、を有している。その造粒物1の断面状態を顕微鏡で観察すると、粗粒原料である1mm以上の核粒子1aの周囲(特に凹部)に、水の表面張力によって数μm~1mm程度の原料が付着して被覆層1bとなり、1個の造粒物1を構成している(鉄鉱便覧を参照)。
【0021】
また、焼結鉱製造プロセスは、造粒した焼結原料1を焼結機5に入れ充填層を形成し、表面を着火して下方からガスを吸引することで、焼結原料1を焼き固めて焼結鉱を製造するプロセスである(図3を参照)。
焼結鉱の生産速度は、充填層の通気性に律速されるため、その生産性を向上させるには、充填層の空隙率を増大させ且つ、吸引ガスが原料層中を流れやすくする必要がある。なお、充填層の通気性の指標としては、ガス吸引時の風量と圧力損失を規格化した指標が用いられる。
【0022】
充填層内の空隙率を向上させるにあたっては、可能な限り充填層中の粉率を抑え且つ、造粒物1の粒径を揃えることが有効である。ただし、造粒物1として取り込まれていない粉や、細かい造粒物1が充填層中の空隙を埋めてしまうことで、充填層の通気性を悪化させてしまい、焼結鉱の生産性を低下させることに繋がる。
ところで、造粒物1の水分値(造粒水分)には、適正な値が存在する。
【0023】
造粒物1の造粒水分が低いと、前述したように充填層中の粉率が増加して空隙を埋めてしまい、充填層の通気性が悪化する。
一方、造粒物1の造粒水分が高い場合も、過剰に粗大化したP型造粒物(骨材となる核粒子が存在せず、粉が凝集した塊)が増加してしまい、造粒物1の強度が低下する。そのため、充填層に造粒物1を装入する過程での粉化や、充填層中での造粒物1の変形によって、充填層の空隙を埋めてしまい、充填層の通気性が悪化する。
【0024】
また焼成中に、充填層の上層部で蒸発した水蒸気が、下層部で凝集して充填層の空隙を埋めることでも、焼成中における充填層の通気性が悪化してしまう。更には、必要な焼成熱量の増大を招いてしまい、造粒物1の焼成コストが悪化する。
なお、造粒物1に対する適正な造粒水分は、使用する原料2の種類や配合によって適宜変更なものであることは、当業者間において既に知られたことである。
【0025】
図2に、鉱石銘柄ごとの造粒水分と、充填層の通気性の関係を示す(参考文献:ISIJ International,Vol.49(2009),No.5,p.618-624)。充填層の通気性が最大化する、造粒物1に対する適正な造粒水分は、鉱石銘柄によって異なっていることが分かる。
図3に、焼結鉱製造プロセスであって、造粒機4において造粒物1(焼結原料)に対して造粒水分を調整する工程の概略を模式的に示す。
【0026】
図3の(1)~(3)に示すように、造粒機4の出口側に搬送された造粒物1の水分を測定し、実測水分を得る。目標水分と実測水分とにずれ(差)が生じた場合、造粒機4で造粒物1に対する加水量を制御する。
例えば、目標水分に対して実測水分が低ければ、造粒物1に対する加水量を増加させる操作を行う。一方で、目標水分に対して実測水分が高ければ、造粒物1に対する加水量を減少させる操作を行う。
【0027】
加熱乾燥法を用いて造粒物1の水分を測定する場合、連続的に測定することができず、また原料2が乾燥するまでのタイムラグ(一般的には20分程度)が生じることとなる。
一方で、近赤外吸光式水分計6を用いる場合、リアルタイムに造粒物1の水分を測定し、水分値を得ることができるため、造粒物1(焼結原料)に対する迅速な水分調整を行うことが可能となる。
【0028】
さて、近赤外吸光式水分計6の測定原理については、以下の通りである。
近赤外線域の中には1.2μm、1.45μm、1.94μmの3波長が含まれており、これらの波長の光は水に吸収される性質がある。つまり、近赤外線には、水に吸収される吸収帯が存在する。この特性を利用したものが近赤外吸光度式水分計6である。
近赤外吸光度式水分計6(アクティブセンサ)は、以下の測定原理となっている。
【0029】
対象物である焼結原料1に近赤外線を含む光を照射すると、焼結原料1の表面に存在する水に吸収された後、焼結原料1の表面で反射し、反射光が測定器の検知部に到達することで、反射光強度が測定される。このように、上記した3波長の光が水に吸収されることによって、近赤外線の反射光における減衰度(吸光度)を計測することで、焼結原料1に含まれる水分値を換算することができる。
【0030】
吸光度は、焼結原料1に近赤外線を含む光を照射して、その反射光強度から求める。しかしながら、吸収波長の反射光強度を計測するのみでは、焼結原料1の性状や、焼結原料1と光源8との位置関係などの影響を受けるため、正確な吸光度を求めることができない。
そこで、図4に示すように、水に吸収されにくい参照波長の反射光強度を計測し、参照波長と吸収波長の反射光強度から、吸光度を計測する。表面物性の差を定性的に補正する。なお、異なる原料2や原料2の配合割合が異なる場合では、同じ水分でも吸光度が異なり、同じ検量線を適用させることができない。
【0031】
また、吸光度は、焼結原料1の表面に存在する水分に影響される指標であるが、その表面水分は焼結原料1全体の水分に比例するので、吸光度から水分値を換算することができる。
ここで、焼結原料1に含まれる水分に関する検量線の作成に関して述べる。
得られた吸光度(近赤外線の反射光における減衰度)は、物質の表面状態、粒子の大きさ、色等の焼結原料1の性状の影響を含むため、対象とする焼結原料1に対して予め加熱乾燥法から計測した水分値と、近赤外吸光式水分計6から得られる吸光度を対応させた検量線(水分の換算式)を作成する必要がある。なお、水分値の換算精度を向上させるため、複数の吸収波長から得た吸光度から検量線を作成してもよい。
【0032】
次いで、焼結原料1の造粒工程に近赤外吸光式水分計6を適用する際の課題と対策について述べる。
単一の原料配合を基に作成した検量線を、それと同じ原料配合の焼結原料1の水分測定に適用させた場合、近赤外吸光式水分計6を用いた水分測定の精度は良い。つまり、作成した検量線を適切に用いると、焼結原料1の水分測定の精度は良くなる。
【0033】
しかしながら、焼結原料1の造粒工程において、造粒機4入側から内部へ装入される原料2については、配合割合などが状況によって変化するため、検量線を予め作成したときとは異なった原料配合の場合では、検量線が適さず、測定される焼結原料1の水分値が大幅に異なったものとなってしまう。
また、複数の原料配合を基に求めた吸光度と、実測水分の対応関係から検量線を作成すると、単一の原料配合を基に作成した検量線をそれと同じ原料配合の焼結原料1の水分測定に適用させた場合より、さらに水分測定の精度が劣ってしまう。
【0034】
本発明では、カメラ7で焼結原料1を撮像し、その画像から得た色情報より焼結原料1の性状を判断して、予め複数作成しておいた検量線から適切な検量線に切り替えることで、近赤外吸光式水分計6の水分の測定精度を向上させることとしている。
まず本発明では、対象となる焼結原料1の配合範囲における近赤外線の光学特性を、HSV空間へ変換する。すなわち、光学特性をS値(彩度)およびV値(明度)で求める。
【0035】
HSVとは、色を「色相(Hue)」「彩度(Saturation)」「明度(Value)」の3要素で表現する方式である。ただし、明度をBrightnessとして、HSBと呼ばれることもある。
ところで、焼結原料1の造粒工程で使用される原料2の粒子径については、数μm~十数mmである。
ただし、粒子径(mm)については、粉体工学便覧(粉体工学会編,日刊工業新聞社,初版(昭和61年2月28日),P.1)によれば、「粉体は、色々な大きさを持つ多くの粒子からなるが、この構成粒子群の平均的な大きさの概念を粒度と呼び、個々の粒子の大きさの代表寸法を粒子径と呼ぶ。実際の粒子は複雑な形状を有するために、球や直方体などの単純なものに還元した代表寸法が用いられる。」と記されている。このことから、粒径は粒子径とも表し、粒子の大きさを指す代表寸法である。
【0036】
また、粒子径測定方法の一つに「篩い分け法」がある。すなわち、見開きの分かった大小2種の篩いによって粉体を分けると、細かい方の篩い網の上に残った粒子群は二つの目開きの間の大きさを有する。ここで、篩い目の上に残ったものを篩目寸法を超える粒径とし、通過したものを篩目寸法以下の粒径と定義する。
数μm~十数mmの粒子径を有する原料2は、カメラ7で使用される360nm~830nm程度の可視光域や、近赤外吸光式水分計6で使用される0.7μm~2.5μm程度の近赤外線領域の波長より大きい。そのため、光の散乱や回折からなる構造色は発露しにくく、色の発露の主要因は、物性に基づいた吸収・反射・屈折・透過挙動となる。
【0037】
特に、色相については、カメラ7で焼結原料1を撮像する際の周囲の明るさや、原料2の粒子径の影響を受けにくく、結晶構造に基づいた指標となる(参考文献:色材,vol,55(1982),No.10,p,758-765)、(参考文献:粉体工学会誌,vol,42(2005),NO.6,p,426-430)。
そのため、RGBより、色相を分離することができるHSVの方が、より物性に基づいた色情報となる。
【0038】
このことから、焼結原料1において、化学組成や結晶構造が近い物質は色情報も近いと考えられ、可視光領域での色情報が近い物質は、近赤外線領域での光学特性も同様に近く、たとえ色情報から原料2の配合割合を判断して、適合から少し外れた検量線に切り替えたとしても、適合した検量線の吸光度と同程度の吸光度になる確率が高いと推定される。
HSV(-)について、画像のRGB値を、より物性と関連付けやすい色相(H)、彩度(V)、明度(S)に変換を行う。
【0039】
通常のカラー画像は、赤(Red)、緑(Green)、青(Blue)の3要素について0~255の値で示されるが、これをHSVに変換するためには、以下の式を用いればよい。
ただし、R,G,Bの内最大のものをMAXとし、最小のものをMINとすると、以下のようになる。
【0040】
【数1】
【0041】
なお、例外処理として、R=G=Bの時は、焼結原料1の平均的な色合いであることから、H=20と定義する。
吸光度(-)については、焼結原料1に入射した光が、表面で反射されずに吸収される割合を示す。
特定波長の赤外線は、水分子と干渉しエネルギーが吸収されるため、水分が高いほど反射率が低くなる。
【0042】
近赤外吸光式水分計6では、白色状の校正板の反射光強度を基準として、参照波長となる水と干渉しにくい波長の反射光強度に対する水と干渉しやすい波長の反射光強度から、吸光度を計測している。
本実施形態で示したデータのうち吸光度については、近赤外吸光式水分計6で測定した吸光度を使用している。
【0043】
本発明では、変換したHSV空間でのH値、S値、V値が異なる焼結原料1について、近赤外線の複数波長の吸光度から水分を求める検量線を、焼結原料1の配合範囲(配合(1)~配合(4))ごとに事前に作成しておく。
検量線は、対象物である焼結原料1の水分を変化させた際に得られる吸光度の変化から作成する。
【0044】
ここで、近赤外吸光式水分計6における吸光度の測定方法について述べる。
本実施例では、図14に示す装置で実施した。なお、近赤外吸光式水分計6(アクティブセンサ)については、(株式会社ケツト科学研究所製、型式:KB-30)を使用した。
図14に示すように、近赤外吸光式水分計6での吸光度の測定に際しては、内径φ320mmの試料皿9(底内径φ295mm)に水分調整を行った試料(焼結原料1)を充填し、ターンテーブル10に固定した。
【0045】
近赤外吸光式水分計6は、試料1の表面との距離(Z)が260mm±10mmであり、測定面が回転軸から235mmの位置となるよう調整を行った。
また、環境光が測定時に干渉しないように、周囲を暗幕11で覆った状態で測定を行った。
また、近赤外吸光式水分計6による検量線の作成方法について述べる。
【0046】
近赤外吸光式水分計6は、吸光度を換算することで、試料(焼結原料1)の水分を算出しているが、試料1の原料2や配合によって吸光度と、試料1の水分の関係は異なってくる。そのため、水分を測定したい試料1に対して、事前に吸光度と実測水分の相関をとり、吸光度から試料1の水分に換算する式となる検量線を作成する必要がある。
検量線の形式は、以下に示すようにした。
【0047】
・水分(%)=a×波長1吸光度+b×波長2吸光度+c
検量線は、原料や配合ごとに作成した。
ここで、上式の係数a,bは、それぞれの波長の吸光度に対する係数で、また係数cは定数である。それらの値は、重回帰分析で、赤外線水分計で実測した水分との差の二乗の総和が最小となるように決定した。
【0048】
表1~表3に、原料2の配合割合(配合(1)~配合(4))と、その原料2ごとの性状をまとめたものを示す。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
【表3】
【0052】
表4に、配合(1)~配合(4)の吸光度と、実測水分値との関係をまとめたものを示す。
なお、表に関し、本実施例と比較例は、同一データである。また、造粒物1の水分については、通常の変動範囲である、6%~8%の範囲を測定した。
【0053】
【表4】
【0054】
表4より、「赤外吸光式水分計6の水分値=係数1(a)×波長1吸光度+係数2(b)×波長2吸光度+係数3(c)」の換算式を用い、実際の水分値との誤差の二乗の総和が最小となるように、最小二乗法でパラメーターフィッティングを行い、以下に示す検量
線を作成した。
色情報に基づき、原料配合(焼結原料1の配合範囲)ごとに、焼結原料1に対する検量線を切り替える場合に作成した検量線(本実施例:配合(1)~配合(4))を以下に示す。すなわち、原料配合の組み合わせを示す、配合(1)~配合(4)ごとに区別して実測水分と吸光度との相関を取って、検量線「A」を作成した。
「A」
・配合(1):換算水分=41.08×波長1吸光度-83.59×波長2吸光度+1.767(%)
・配合(2):換算水分=61.85×波長1吸光度-118.32×波長2吸光度-2.631(%)
・配合(3):換算水分=55.43×波長1吸光度-76.21×波長2吸光度-4.415(%)
・配合(4):換算水分=69.93×波長1吸光度-235.98×波長2吸光度+6.121(%)
一方で、色情報によって、焼結原料1に対する検量線を切り替えない場合に作成した検量線(比較例)を以下に示す。すなわち、配合(1)~配合(4)を区別せずに、実測水分と吸光度との相関を取って、検量線を作成した。
【0055】
・(比較例):換算水分=20.21×波長1吸光度-34.64×波長2吸光度+3.388(%)
ここで、赤外線水分計での実測水分の測定方法について述べる。
本実施例では、赤外線水分計について、(株式会社ケツト科学研究所製、型式:FD-720)を使用した。
赤外線水分計の水分測定の原理については、加熱乾燥法であって、赤外線により試料(焼結原料1)を加熱することで、試料1を乾燥させ、試料1の乾燥前と乾燥後の重量の差から、焼結原料1の水分を測定する。
【0056】
試料皿から20g採取した試料(焼結原料1)を20分乾燥させて、重量変化より焼結原料1の水分測定を行った。
なお、水分については、以下に示す式で算出した。
【0057】
【数2】
【0058】
次いで、配合原料2の調製方法について、述べる。
・「手順1」原料配合:乾燥重量で20kgとなるように、銘柄ごとの重量割合(wt%)に従い、原料2を秤量する。
・「手順2」原料の混合:「手順1」で銘柄ごとに秤量した原料2を、 ポットミキサ-内に装入し、32rpmで転動させて90秒混合する。本実施形態では、ポットミキサ-について、(トンボ工業株式会社製、型式:NGM-2.5BM4)を使用した。
【0059】
・「手順3」原料の造粒水分調整:「手順2」で原料2を混合後、加水を行い、ポットミキサ-を32rpmで転動させて180秒運転する。また順次、加水と造粒水分調整を繰り返し行うことで、造粒水分が異なる試料(焼結原料1)を準備する。
なお、加水量については、以下に示す式で算出した。
【0060】
【数3】
【0061】
図5に、複数の原料配合(焼結原料1の配合範囲)での吸光度(吸光式水分(%))と、実測水分(%)の対応関係を示す。
図5に示すように、単一の原料配合から作成した検量線(一つの原料配合で一つの検量線)を、同じ原料配合の焼結原料1に適用させると、近赤外吸光式水分計6での水分測定の精度は良いが、検量線を作成したときとは異なった原料配合(配合範囲が異なった割合
の原料配合)の焼結原料1に適用させると、水分測定の精度が大幅に低下することがわかる。
【0062】
具体的には、図5の左図に示すように、配合(3)の検量線を配合(3)の焼結原料1の水分測定に適用させると、水分測定が高精度となっていることがわかる。また、図5の中央図に示すように、配合(4)の検量線を配合(4)の焼結原料1の水分測定に適用させると、水分測定が高精度となっていることがわかる。
一方で、図5の右図に示すように、配合(4)の検量線を配合(3)の焼結原料1(配合範囲が異なった割合の原料配合)の水分測定に適用させると、水分測定の精度が低下することがわかる。
【0063】
図6に、複数の原料配合での吸光度(吸光式水分(%))と、実測水分(%)の対応関係を示す。
図6に示すように、複数の原料配合を基に求めた吸光度と、実測水分の対応関係から検量線(複数の原料配合のデータをまとめた検量線)を作成すると、単一の原料配合を基に作成した検量線を、それと同じ原料配合の焼結原料1に適用させた場合より、水分測定の精度が劣ってしまうがわかる。
【0064】
具体的には、図6の左図に示すように、配合(1)~配合(4)の原料配合(焼結原料1の配合範囲)に応じた検量線をそれぞれ同じ原料配合の焼結原料1の水分測定に適用させると、水分測定が高精度となっていることがわかる。
一方で、図6の右図に示すように、複数の原料配合全体のデータを基に作成した検量線を焼結原料1の水分測定に適用させると、水分測定の精度が低下することがわかる。
【0065】
そこで、本発明では、造粒機4の排出側にカメラ7を設置し、そのカメラ7で焼結原料1を撮像し、それから得た色情報を基に焼結原料1の原料配合を推定し、複数作成した検量線から適切な検量線に切り替えることで、近赤外吸光式水分計6の水分の測定精度を向上させることとした。
本発明では、焼結原料1に含まれる水分を測定するに際して、近赤外線を含む光を照射した領域の反射光から吸光量を測定するとともに、焼結原料1のS値およびV値を同時に算出する。
【0066】
図7に、本発明の技術を、実機に適用させたときの装置構成の一例を模式的に示す。
図7に示すように、実機においては、焼結原料1は、造粒機4からベルトコンベア12上に排出され、ベルトコンベア12により下流側へ搬送される。そのベルトコンベア12の上方に、近赤外吸光式水分計6(アクティブセンサ)と、焼結原料1を撮像するカメラ7と光源8とを設置し、周囲の光が入らないように暗幕11で覆う。なお、図7に示す装置構成については、必ずしも図示する装置構成の条件に限定されない。
【0067】
焼結原料1の色情報を取得するにあたっては、設置したカメラ7で、近赤外吸光式水分計6の測定部近傍において搬送される焼結原料1を撮像する。可能な限り同一の試料(焼結原料1)を撮像することが望ましい。
また、太陽光には近赤外線も含まれるため、近赤外吸光式水分計6やカメラ7の測定ついては、暗幕11などで周囲の光を遮光した状態で実施することが望ましいが、その状態でも光源8が、LEDの高演色光源であれば、焼結原料1の水分測定に影響を及ぼす近赤外線領域の光を含まないため、水分測定部付近で焼結原料1の光学特性を測定することができる。
【0068】
本実施形態では、カメラ7の光源8として、晴れた日の平均的な昼光色を模擬したD65の高演色光源を使用した。
ここで、試料(焼結原料1)の画像を撮影する方法について、述べる。
焼結原料1(造粒物)の色情報の取得について、本実施例では、図15に示す装置構成で焼結原料1の撮影を行った。カメラ7については、デジタルカメラ(Olympus製 Tough TG-6)を使用した。
【0069】
色の再現性を確保するために、暗幕11で周囲の光を遮光した上で、光源8として65000Kの光を模擬したD65の高演色蛍光灯を用いた。光源8については、(株式会社エコリカ製、型番:ECL-LD4EGD-L3A)を使用した。
また、カメラ7の露光を固定(ISO=100,f=2.0,シャッタースピード=1/30秒)して、RAW画像形式(ORFフォーマット)で記録した。現像ソフト(Olympus製 Workspace)で、色温度を6500KとしてsRGBで現像を行った。
【0070】
本発明では、算出したS値およびV値から焼結原料1の配合範囲を推定し、推定した焼結原料1の配合範囲に応じた検量線と、反射光における近赤外線の吸光度とから焼結原料1の水分値を算出する。
以下に、カメラ7の色情報から、検量線を切り替えるクラスタリング方法の一例を述べる。
【0071】
ただし、以下に示すクラスタリング方法については、ロジスティック回帰や決定木など種々の手法があり、例示したものに限定するものではない。
表5に、配合(1)~配合(4)のそれぞれにおいて、焼結原料1の水分が6%~8%の色情報をまとめたものを示す。
【0072】
【表5】
【0073】
カメラ7の色情報から、適正な検量線を見極めて切り替える方法について、述べる。
図8に、原料配合(配合(1)~配合(4))別の実測水分(%)と、カメラ7からの色情報(H値(-)、S値(-)、V値(-))の関係を示す。
なお、図8に関し、配合(1)について〇印で且つ実線で示し、配合(2)について△印で且つ破線で示し、配合(3)について×印で且つ一点破線で示し、配合(4)について□印で且つ二点破線で示している。
【0074】
ここでは、カメラ7からの色情報から検量線を切り替える例として、焼結原料1において、通常使用する水分が6%~8%の範囲での原料配合の色情報と水分(目標値)の関係を示す。
ところで、実際には、カメラ7からの色情報から検量線を切り替える際、水分の情報は
判明していない。また、表5に示した範囲の原料配合(焼結原料1の配合範囲)では、同一水分の色相Hにおいては、原料配合による明瞭な差がなかった。
【0075】
つまり、検量線を切り替えるには、水分を使用せず、色情報のみから原料配合を判別する必要がある。図8に示すように、この場合、同水準の水分では色相Hに優位な差がない。そのため、彩度Sと明度Vとの相関関係を整理する。
すなわち、色情報で配合を区別するクラスタリング手法の一例として、彩度Sと明度Vの色情報を利用して、原料配合(配合(1)~配合(4))を識別して、焼結原料1の水分測定に適切な検量線に切り替える。
【0076】
図9に、配合(1)~配合(4)ごとの彩度S(-)と明度V(-)の関係を示す。
なお、図9に関し、配合(1)について〇印で且つ実線で示し、配合(2)について△印で且つ破線で示し、配合(3)について×印で且つ一点破線で示し、配合(4)について□印で且つ二点破線で示している。
図9より最小二乗法で作成した、配合ごとのフィッティング式「B」を示す。
「B」
・配合(1)Sのフィッティング式:S=-0.2117×V2+77.999×V-7079.50
・配合(2)Sのフィッティング式:S=-0.0536×V2+20.71×V-1890.00
・配合(3)Sのフィッティング式:S=-0.0116×V2+5.0716×V-440.09
・配合(4)Sのフィッティング式:S=-0.0158×V2+7.1643×V-667.56
検量線の切り替え、すなわち適切な検量線の判別方法は、カメラ7の色情報から取得したV値(明度)を、それぞれ配合(1)~(4)のSのフィッティング式「B」に代入して、原料配合(配合(1)~配合(4))ごとに得られた推定のS値と実際のS値との差の二乗が最も小さくなる、原料配合の検量線を選び出して、適切に切り替える。
【0077】
上記の例として、データNo.1(配合(1)の目標水分:6%,S=91.5,V=175.7)の場合を示す。
・「手順1」:V=175.7をそれぞれのフィッティング式「B」に代入して推定のS値を得る。
配合(1)の推定S値=-0.2117×(175.7)2+77.999×175.7-7079.50=89.7と得られた。
【0078】
同様に、配合(2)の推定S値=94.1となり、配合(3)の推定S値=92.9となり、配合(4)の推定S値=103.5と得られた。
・「手順2」:推定したS値と実際のS値(=91.5)との誤差の二乗を算出する。
配合(1)の誤差の二乗=(89.7-91.5)2=3.4となり、配合(2)=6.7となり、配合(3)=1.9となり、配合(4)=142.8と得られた。
【0079】
上述の「手順1~2」によって、色情報から原料配合の組み合わせ(配合(1)~配合(4))を推定した結果、29件(データNo.1~29)中19件正しい原料配合の組み合わせを示した(正答率73%)。
表6に、実際の原料配合の組み合わせ(配合(1)~配合(4))と、色情報により判断した原料配合の組み合わせ(配合(1)~配合(4))の対応をまとめたものを示す。
【0080】
【表6】
【0081】
図10、表7、表8に、色情報から原料配合(配合(1)~配合(4))を推定し、原料配合(配合(1)~配合(4))ごとに作成した検量線に切り替えた場合の焼結原料1の水分値(本実施例)と、配合(1)~配合(4)の異なる原料配合のデータから検量線を作成した場合の焼結原料1の水分値(比較例)を示す。
表7は、色情報から検量線を切り替えずに、焼結原料1の水分測定を行った場合のデータをまとめたものである(比較例)。
【0082】
【表7】
【0083】
ただし、適用する検量線については、データNo.1~No.29の吸光度(波長1・波長2)と実測水分をフィッティングさせた「換算水分=20.21×波長1吸光度-34.64×波長2吸光度+3.388(-)」を用いた。
表8は、色情報から検量線を切り替えて、焼結原料1の水分測定を行った場合のデータをまとめたものである(本実施例)。
【0084】
【表8】
【0085】
ただし、個別に原料配合(配合(1)~配合(4))に適用する検量線については、それぞれの吸光度と実測水分をフィッティングした。
「A」
・配合(1):換算水分=41.08×波長1吸光度-83.95×波長2吸光度+1.767(%)
・配合(2):換算水分=61.85×波長1吸光度-118.32×波長2吸光度-2.631(%)
・配合(3):換算水分=55.43×波長1吸光度-76.21×波長2吸光度-4.415(%)
・配合(4):換算水分=69.93×波長1吸光度-235.98×波長2吸光度+6.121(%)
図10の左図に示すように、比較例では、相関関係が低く(R2=0.27)、傾きが1から外れており、実測水分(%)の変化を、近赤外吸光式水分計6ではあまり検知できていないことがわかる。
【0086】
対して、図10の右図に示すように、本実施例では、実測水分(%)と、吸光式水分(%)との相関関係が高く(R2=0.743)、傾きも1に近い。また、吸光式水分(%)と実測水分(%)の差異の二乗の平均は、比較例では0.34だが、本実施例では0.16と改善していることがわかる。
以上述べたように、色情報(彩度S、明度V)によって、配合(1)~配合(4)を推定し、推定した原料配合に対応する検量線を切り替えることで、近赤外線式水分計6の水分測定精度が改善したと判断することができる。
【0087】
なお、色情報(彩度S、明度V)から間違った原料配合の組み合わせを推定して検量線を適用しても、対象となっている焼結原料1は表面状態が近い(類似した)原料であるので、焼結原料1の水分測定精度への影響が小さかったものと判断した。
図10に示すように、色情報で配合(1)~配合(4)を推定し検量線を適切に切り替えることで、焼結原料1に含まれる水分の測定精度を向上させることができる。
【0088】
図11に、原料配合ごとに検量線を作成する手順を示したフローチャート図を示す。
図11に示すように、(1)~(4)の手順で原料配合ごとに検量線を作成する。
(1):検量線を求めたい原料配合に対して、水分の異なる試料(焼結原料1)を用意する。詳しくは、前述の配合原料2の調製方法において述べている。また、水分については、前述の赤外線水分計での実測水分の測定方法で述べている。
【0089】
(2):近赤外吸光式水分計6を用いて、水分ごとの吸光度を取得する。詳しくは、前述の近赤外吸光式水分計6における吸光度の測定方法において述べている(図14を参照)。
(3):吸光度と実測水分値の相関を取り、吸光度から水分値を換算する検量線を作成する。詳しくは、前述の近赤外吸光式水分計6の検量線の作成方法において述べている。
【0090】
(4):上記(1)~(3)を繰り返して、原料配合ごとの検量線を作成し、検量線を区別する。(配合(1)~配合(4))ごとに検量線「A」を作成する(前述の検量線「A」を作成する箇所を参照)。
図12に、色情報(RGB)を用いて、原料2の配合割合を区別する方法を示したフローチャート図を示す。
【0091】
図12に示すように、(1)~(3)の手順で、色情報(RGB)を用いて、原料2の配合割合を区別する。
(1):必要な水分範囲内で原料配合ごとに、水分の異なる試料を用意する。
(2):カメラ7を用いて、原料配合ごとに水分の異なる 色情報(RGB)を取得する。詳しくは、前述のカメラ7の色情報から、適正な検量線を見極めて切り替える方法において述べている。
【0092】
(3):RGBをHSVに変換する。
(4):HSVの値を用いて、原料配合をクラスタリングして、原料配合の判別式を得る。例えば、前述のように、配合(1)~配合(4)それぞれのS(彩度)のフィッティング式「B」を得た(前述のフィッティング式「B」を作成する箇所を参照)。
図13に、近赤外吸光式水分計6を用いて焼結原料1の水分値を測定する方法を示したフローチャート図を示す。
【0093】
図13の左図に示すように、(1)~(3)の手順で、近赤外吸光式水分計6を用いて焼結原料1の水分値を測定する(比較例)。
(1):図11の手順で、事前に原料配合を区別せずに検量線を作成する。
(2):近赤外吸光式水分計6を用いて対象物の吸光度を測定する。
(3):原料配合を区別しない検量線を用いて、吸光度を水分値に換算する。
【0094】
図13の右図に示すように、(1)~(5)の手順で、近赤外吸光式水分計6を用いて焼結原料1の水分値を測定する(本実施例)。
(1-1):図11の手順で、事前に区別する。原料配合ごとに検量線を作成する。詳しくは、赤外線水分計で焼結原料1の実測水分を測定し、近赤外吸光式水分計6を用いて水分ごとの吸光度を取得し、吸光度と実測水分値の相関を取り、吸光度から水分値を換算する検量線を、原料配合(配合(1)~配合(4))ごとに作成し、検量線「A」を区別する。
【0095】
(1-2):図12の手順で、事前にHSVの色情報を用いて、区別する原料配合のクラスタリングを行い、原料配合の判別式を得る。詳しくは、得られた明度Vをそれぞれのフィッティング式に代入し、得られた推定の彩度Sと実際の彩度Sの差の二乗が最も小さい配合を選択する手順でクラスタリングを行い、適用する検量線を判別する式「B」を求める。例えば、前述のように、配合(1)~配合(4)それぞれのS(彩度)のフィッティング式を得た。
【0096】
(2-2):カメラ7を用いて対象物(焼結原料1)の色情報(RGB)を測定する。
(3-2):RGBをHSVに変換する。
(4-2):(1-2)で得た判別式を用い、HSVから原料配合を推定する。詳しくは、カメラ7の色情報から取得した彩度Sと明度Vに基づいて、配合(1)~配合(4)それぞれのS(彩度)のフィッティング式「B」を用いて、原料配合を推定する。
【0097】
(5-2):近赤外吸光式水分計6に対して、検量線の切り替え信号を出し、推定した原料配合の検量線に切り替える。配合(1)~配合(4)の検量線「A」のうち、推定した原料配合(焼結原料1の配合範囲)を基に、適切な検量線に切り替える。
(2-1):近赤外吸光式水分計6を用いて対象物の吸光度を測定する(図14を参照)。
【0098】
(3):原料配合を区別した検量線を用いて、吸光度を水分値に換算する。切り替えた検量線と、測定した吸光度を用いて、焼結原料1の水分値に換算する。
本発明は、複数の原料2を混合して焼結原料1を造粒する造粒工程で、近赤外線の吸光
特性を用いて、焼結原料1に含まれる水分を測定する方法である。
対象となる焼結原料1の配合範囲における近赤外線の光学特性を、カメラ7を用いて焼結原料1の色情報(RGB)を測定し、RGBからHSV空間へ変換する。すなわち、光学特性をS値(彩度)およびV値(明度)で求める(数1を参照)。
【0099】
変換したHSV空間でのH値、S値、V値が異なる焼結原料1について、近赤外線の複数波長の吸光度から、焼結原料1の水分を求める検量線「A」を、焼結原料1の配合範囲(配合(1)~配合(4))ごとに事前に作成しておく(図5図6、表4などを参照)。
焼結原料1に含まれる水分を測定するに際して、カメラ7を用いて焼結原料1の表面を撮像し、近赤外線を含む光を照射した領域の反射光から吸光量を測定するとともに、焼結原料1のS値およびV値を同時に算出する(図7などを参照)。
【0100】
算出したS値およびV値から焼結原料1の配合範囲を推定する。例えば、明度Vを、配合(1)~配合(4)それぞれのS(彩度)のフィッティング式「B」代入する。彩度Sが求まる。図9を参照して、S値とV値から、配合(1)~配合(4)から適切なものを選び、焼結原料1の配合範囲を推定する。
配合(1)~配合(4)の検量線「A」のうち、推定した焼結原料1の配合範囲に対応する検量線を選び出す。その焼結原料1の配合範囲に応じた検量線と、反射光における近赤外線の吸光量とから焼結原料1の水分値を算出する(図8図10、表5~表8などを参照)。
【0101】
図10に示すように、焼結原料1の水分を精度良く測定することを可能にするとともに、焼結原料1への加水量を制御することで、造粒水分の精度を改善することができる。
また、造粒水分の精度を改善することで、造粒機4における散水量の制御を高精度化させることができるとともに、未造粒粉の発生を抑制することで焼結生産性を向上させることができる。
【0102】
すなわち、本発明は、焼結原料1の特性(配合(1)~配合(4))に応じて検量線「A」を適切に切り替えることで、焼結原料1の水分測定を高精度に維持することができる。
特に「焼結原料1の色情報(HSV色空間での色相H・彩度S・明度V)」は、近赤外線領域の吸光特性と同じ光学情報であるため、焼結原料1が異なる原料条件でも、色情報が近しければ、近赤外線領域の吸光特性も近しいことが期待でき、同一の検量線を適用させることができる。
【0103】
加えて、連続的に閾値を設定することができるため、任意の区間に適正な検量線を設定して切り替えることができる。
以上、本発明の焼結原料1の水分測定方法によれば、表面特性の異なる原料の配合条件(配合(1)~配合(4))ごとに対応する検量線を、複数作成しておき、原料特性に応じた検量線に、色情報を基にして切り替えて、焼結原料1の水分を精度よく測定することができる。
【0104】
なお、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。
特に、今回開示された実施形態において、明示されていない事項、例えば、運転条件や操業条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な値を採用している。
【符号の説明】
【0105】
1 焼結原料(造粒物)
2 原料(固体原料)
3 原料槽
4 造粒機
5 焼結機
6 近赤外吸光式水分計
7 カメラ
8 光源
9 試料皿
10 ターンテーブル
11 暗幕
12 ベルトコンベア
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15