(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022178167
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】水性インキ廃液の処理方法及び処理装置
(51)【国際特許分類】
C02F 1/04 20060101AFI20221125BHJP
【FI】
C02F1/04 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021084744
(22)【出願日】2021-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】591172663
【氏名又は名称】荏原工業洗浄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100112634
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 美奈子
(72)【発明者】
【氏名】上田 瞳
(72)【発明者】
【氏名】関根 智一
(72)【発明者】
【氏名】下村 達夫
(72)【発明者】
【氏名】笠松 陽生
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 裕
【テーマコード(参考)】
4D034
【Fターム(参考)】
4D034AA11
4D034BA01
4D034CA12
4D034CA21
(57)【要約】
【解決課題】多種多様な水性インキ廃液を効率よく蒸発乾燥させて減容化させる方法を提供する。
【解決手段】水性インキを含有する廃液に、当該廃液のpHが3以上6以下になるまで酸を添加して当該廃液の粘着性を低下させ、次いで当該廃液の含水率が30wt%未満となるまで当該廃液を蒸発乾燥させることを特徴とする水性インキ廃液の処理方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性インキを含有する廃液に、当該廃液のpHが3以上6以下になるまで酸を添加して当該廃液の粘着性を低下させ、次いで当該廃液の含水率が30wt%未満となるまで当該廃液を蒸発乾燥させることを特徴とする水性インキ廃液の処理方法。
【請求項2】
前記廃液に、さらに酸化剤を添加して当該廃液のpHを3以上6以下に調整することを特徴とする請求項1に記載の水性インキ廃液の処理方法。
【請求項3】
前記廃液のpHを3以上6以下に調整した後に加温することをさらに含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の水性インキ背景の処理方法。
【請求項4】
前記水性インキが水性フレキソインキまたは水性グラビアインキであることを特徴とする請求項1~3のいずれか1に記載の水性インキ廃液の処理方法。
【請求項5】
前記酸が硫酸であることを特徴とする請求項1~4のいずれか1に記載の水性インキ廃液の処理方法。
【請求項6】
水性インキを含有する廃液に少なくとも酸を混合して反応液を調製する反応槽と、
蒸発乾燥器と、
前記反応槽で調製された反応液を前記蒸発乾燥器に送る配管と、
を設けた、請求項1~5のいずれか1に記載の水性インキ廃液の処理方法を実施するための処理装置。
【請求項7】
前記反応槽は、前記廃液と酸とを加温する加温手段を具備することを特徴とする請求項6に記載の処理装置。
【請求項8】
前記蒸発乾燥器は、ドラムドライヤー、ディスクドライヤー、汚泥乾燥機、真空乾燥器およびこれらの組み合わせから選択されることを特徴とする請求項6又は7に記載の処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性インキを含有する廃液の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フレキソ印刷機、グラビア印刷機などで使用されるインキは油性のものが多く用いられてきた。近年では、揮発性有機溶剤(VOCs)の使用を低減するために水性インキの開発が進められており、水性インキの使用量が増大している。水性フレキソインキや水性グラビアインキは、ビヒクル成分と呼ばれる樹脂の水溶液もしくは水乳化液中に着色剤成分(有機顔料又は無機顔料)を分散させ、さらに乳化剤などの安定剤成分を加えた組成を有する。分散状態を安定させるため、アンモニアもしくはアミン類が添加されてインキはアルカリ性に維持されているのが一般的である。
【0003】
水性インキは、印刷機や付属機器の色替え時などに装置の水洗が可能であるという利点を持つ。しかし、水洗時に発生する洗浄廃液は1g/L~500g/L程度の固形成分が分散している着色懸濁液であるため、そのまま放流することはできない。また、この着色懸濁液中の固形成分は濾過比抵抗が非常に大きく、ろ過装置による固液分離は困難である。
【0004】
このため、水性インキを含有する洗浄廃液は、全量を産業廃棄物とするか、もしくは凝集剤を添加して樹脂及び着色剤成分などの固形成分を凝集沈殿させ、フィルタプレス等で加圧濾過することにより処理が行われることが一般的である。
【0005】
しかし、凝集剤を用いる方法では、樹脂の性状や共存する極性溶剤成分、安定剤成分などによって凝集効果が大きく異なり、また固形成分が50g/L以上の高濃度液では凝集が不完全となって清澄なろ液が得られないという問題があった。さらに、濾集した固形成分は粘度が高く、結合水を多く含むため、取扱いが難しいうえに、廃棄物量が増大するという問題がある。
【0006】
凝集沈殿ろ過法として、酸又は金属塩のいずれか一方、もしくは両方を添加して加熱することにより樹脂成分を析出凝集させ、濾別する方法が提案されている(特許文献1)。この方法は、ビヒクル成分が、カルボキシル基を親水基とするアルカリ可溶型の樹脂であれば有効である場合もあるが、現在一般的に使用されている界面活性剤や乳化剤で安定化されたエマルジョン型樹脂やコロイダルディスパージョン型樹脂に対しては有効でないことが多い。
【0007】
凝集沈殿ろ過法を改良して、酸の代わりに、強カチオン性ジシアンジアミド縮合物などの処理剤を添加して樹脂分を析出させ、さらに高分子凝集剤により凝集させる方法が提案されている(特許文献2)。しかし、凝集剤を添加する点において、廃棄物量が増大する問題は解決されていない。
【0008】
より一般的な有機性排水の処理方法としては、フェントン法や電解フェントン法(たとえば特許文献3)、促進酸化法(AOP法)(たとえば特許文献4)などが知られている。しかし、フェントン法や電解フェントン法は、OHラジカルを発生させるために、鉄塩の添加を必要とし、中和時に水酸化鉄が大量に発生して廃棄物量が増加する問題がある。また、処理対象が水性インキを含有する廃液の場合には有機物質の濃度が高いために完全分解には大量の酸化剤又は電力を必要とするという問題がある。促進酸化法は、オゾン、過酸化水素、UV照射を組み合わせてOHラジカルを発生させる方法であり、フェントン法と同様に、水性インキを含有する廃液の場合には有機物質の分解に大量の酸化剤を必要とし、また水性インキを含有する廃液は不透明であるためUV照射が有効ではない。
【0009】
発明者らは、酸と酸化剤を添加した後に加温してインキの固形性分を凝集させた後、アルカリもしくは重炭酸塩を添加してpHを中性に調整してから凝集物をろ過する方法を提案している(特許文献5)。本方法は上述してきた問題を解決でき、清澄なろ過水を得ることができるが、ろ過水中にアンモニアや界面活性剤などの水溶性成分はそのまま残留するため、全窒素やBODなどの水質管理指標値が高く、廃水の河川放流等を行っている工場では、そのまま放流できないという問題があった。
【0010】
ろ過水を発生させない処理方法として、水性インキを含む廃液の全量をドラムドライヤーなどで蒸発乾燥させる処理が一部で試みられている。しかし上述したように、水性インキはアンモニアもしくはアミン類を含むため、蒸発乾燥させようとすると揮発したアンモニアもしくはアミンが強烈な臭気を発し、作業環境上および周辺環境影響上許容できない状態となる問題があった。また、水性インキを含む廃液は、蒸発乾燥によってビヒクル成分などの固形分濃度が高くなるほど粘着性が強くなり、送水配管やポンプなどの内壁表面に付着して、閉塞を生じさせる問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭48-57470号公報
【特許文献2】特開2007-14934号公報
【特許文献3】特開2017-60942号公報
【特許文献4】特開2017-202465号公報
【特許文献5】特開2020―000969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ろ過水を発生させず廃棄固形物の量を最小化できる水性インキ廃液処理方法として蒸発乾燥させる方法があるが、蒸発処理時に揮発したアンモニアもしくはアミンが強烈な臭気を発する問題があった。また、水性インキ廃液はビヒクル成分など粘着性物質を含むため、送水配管やポンプの内壁表面に付着して、配管やポンプが閉塞する問題もあった。
【0013】
本発明は、水性インキ廃液を蒸発乾燥させる方法における臭気及び配管やポンプの内壁表面への付着による閉塞の問題を解決し、効率的な水性インキ廃液の処理方法及び処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために本発明者らは鋭意研究した結果、水性インキ廃液に酸を加えて、水性インキ廃液のpHを4以上6以下に調整することによって、水性インキ廃液の粘着性を低下させることができると共に、水性インキ廃液の水分を蒸発させる際に水性インキ廃液に含まれているアンモニアおよびアミン成分を不揮発性の塩として蒸発処理時の臭気が抑制できることを知見し、また、少量の酸化剤をさらに加えることにより、水性インキ廃液の粘着性をさらに低下させることができ、送水配管やポンプの閉塞を防ぐことができることを知見し、本発明を完成させるに至った。
【0015】
本発明の態様は以下のとおりである。
[1]水性インキを含有する廃液に、当該廃液のpHが3以上6以下になるまで酸を添加して当該廃液の粘着性を低下させ、次いで当該廃液の含水率が30wt%未満となるまで当該廃液を蒸発乾燥させることを特徴とする水性インキ廃液の処理方法。
[2]前記廃液に、さらに酸化剤を添加して当該廃液のpHを3以上6以下に調整することを特徴とする上記[1]に記載の水性インキ廃液の処理方法。
[3]前記廃液のpHを3以上6以下に調整した後に加温することをさらに含むことを特徴とする上記[1]又は[2]に記載の水性インキ背景の処理方法。
[4]前記水性インキが水性フレキソインキまたは水性グラビアインキであることを特徴とする上記[1]~[3]のいずれか1に記載の水性インキ廃液の処理方法。
[5]前記酸が硫酸であることを特徴とする上記[1]~[4]のいずれか1に記載の水性インキ廃液の処理方法。。
[6]水性インキを含有する廃液に少なくとも酸を混合して反応液を調製する反応槽と、
蒸発乾燥器と、
前記反応槽で調製された反応液を前記蒸発乾燥器に送る配管と、
を設けた、上記[1]~[5]のいずれか1に記載の水性インキ廃液の処理方法を実施するための処理装置。
[7]前記反応槽は、前記廃液と酸とを加温する加温手段を具備することを特徴とする上記[6]に記載の処理装置。
[8]前記蒸発乾燥器は、ドラムドライヤー、ディスクドライヤー、汚泥乾燥機、真空乾燥器およびこれらの組み合わせから選択されることを特徴とする上記[6]又は[7]に記載の処理装置。
【0016】
すなわち本発明においては、水性インキ廃液に酸を加えることによりアンモニアやアミン類を塩にして揮発性を失わせ、さらに必要に応じて酸化剤を添加することにより、界面活性剤や乳化剤のポリエーテル鎖などの親水性構造を部分分解し、樹脂や顔料成分に対する安定剤としての機能を破壊して固形成分を凝集させ、水性インキ廃液の粘性や付着性を低下させることができる。この状態で水性インキ廃液を蒸発乾燥することにより、臭気や管壁への付着による配管の閉塞などの問題を回避して、容易に水性インキ廃液を処理することができる。
【0017】
添加する酸としては、アンモニアやアミン類と不揮発性の塩を形成するために乾燥固化しても安定な強酸であることが望ましく、例えば硫酸、リン酸、シュウ酸、メタンスルホン酸などが好ましく用いられる。なかでも硫酸は硫酸アンモニウムの安定した塩を形成することができ、価格も安価であり好ましい。塩酸は揮発性が有り、また金属を腐食する性質を持つため避けるべきである。
【0018】
酸の添加量は、水性インキ廃液のpHが3以上6以下、好ましくは4以上6以下となる量とする。水性インキ廃液のpHが低いほどビヒクル成分などの凝集固化は進行するが、水性インキ廃液に含まれるアンモニア、アミン類の加熱蒸発時の揮発性と、蒸発乾燥器の接液部に与える腐食影響とを考慮すると、上記範囲が好ましい。
【0019】
pHを調整した水性インキ廃液を、含水率30wt%未満、好ましくは5wt%以上30wt%未満となるまで蒸発乾燥させる。蒸発乾燥方法は、水性インキ廃液の水分を効率よく蒸発させて乾燥させることができる方法であれば制限なく適宜の方法を用いることができる。例えばドラムドライヤー、ディスクドライヤー、汚泥乾燥機、真空乾燥器およびそれらの組み合わせを好ましく用いることができる。
【0020】
本発明の処理方法において、水性インキ廃液を蒸発乾燥させる前に、さらに酸化剤を添加してもよい。ただし、酸化剤の添加によって水性インキ廃液のpHが大きく変動することのないような酸化剤の種類及び添加量とする。添加する酸化剤として、OHラジカルを発生させないような、酸化還元電位が比較的低い酸化剤を用いることが好ましい。また、酸化剤の浪費削減及び廃棄物削減の観点から、弱い酸化力を有し、揮発性を有する酸化剤が好ましい。好適には、オゾン、過酸化水素、過硫酸、過硫酸塩、モノ過硫酸カリウム複塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の酸化剤を用いることができる。これらの酸化剤は薬剤として供給してもよく、あるいは電解酸化反応を利用してその場で生成又は再生することにより供給してもよい。これらの酸化剤のうち、オゾン、過酸化水素は反応後に塩として残留しないので、廃棄物量を低減する観点から好ましく用いられる。これらの酸化還元電位が比較的低い酸化剤は、水性インキ廃液中の樹脂成分や有機顔料成分の表面及び界面に存在する乳化剤や界面活性剤の親水性構造を部分分解することに消費され、水性インキ廃液中の樹脂成分、有機顔料、乳化剤及び界面活性剤の疎水性の骨格部分を酸化するほどの酸化力を有していない。表面の親水性基を攻撃して、部分分解することにより、水性インキ廃液の粘性を大幅に低下させ、配管やポンプの内壁表面への付着による閉塞を防ぐことができる。塩素系の酸化剤は、蒸発乾燥させる過程で乾燥機の接液部金属を腐食する恐れがあるため避けるべきである。
【0021】
本発明の処理方法において、水性インキ廃液に酸を添加してpHを3以上6以下に調整した後に加温することが好ましい。pH調整の前に加温すると、アンモニアやアミン成分に由来する臭気が発生するので好ましくない。加温は、40℃以上50℃以下とすることが好ましい。温度が低すぎると反応性が悪くなり、温度が高すぎると加温に必要な装置構成及び加温時間が長期化するので好ましくない。加温熱源としては、投げ込みヒータなどを用いてもよく、エネルギー効率の観点からは印刷機の乾燥工程排熱などを利用することも好ましい。
【0022】
本発明において処理対象となる水性インキとしては、例えば水性フレキソインキや水性グラビアインキを好適に挙げることができるが、これらに限定されるものではなく、水を含む極性溶剤成分、ビヒクル成分、着色剤成分、および安定化剤成分から構成されるインキであれば適用可能である。ビヒクル成分である水性インキ用樹脂としては、例えば天然樹脂、アクリル系樹脂、スチレン-アクリル系樹脂、スチレン-マレイン酸-アクリル系樹脂、およびスチレン-マレイン酸系樹脂などが挙げられる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の処理方法においては、含水率を30wt%未満となるまで水性インキ廃液を蒸発乾燥させることにより、ほぼ水分を含まない粉末状固形物が得られるため、ろ過が不要となり、ろ過水が発生しないため、廃水の河川放流に際しての水質基準を考慮する必要がなく、通常の産業廃棄物処理を行うことができる。また、従来方法では放流前に必要であった中和のためのアルカリ剤添加を行う必要がないため、薬剤消費量を削減することができる。
【0024】
また、水分をほぼ蒸発させた粉末状固形物が得られるため、産業廃棄物処理に供する廃棄物を著しく減容することができる。
【0025】
また、本発明の処理方法によれば、従来の方法で問題となるアンモニアやアミン成分に由来する臭気の発生を抑制することができる。
【0026】
さらに、本発明の処理方法によれば、水性インキ廃液の粘着性が低下し、送水配管やポンプの内壁表面に付着しにくくなり、閉塞問題も生じにくい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】
図1は、本発明の水性インキ廃液の処理方法を実施するための装置の一実施形態を示す概略図である。
【
図2】
図2は、本発明の水性インキ廃液の処理方法を実施するための装置の別の実施形態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、添付図面を参照しながら、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0029】
本発明の処理方法を実施するための処理装置の一実施形態を
図1に示す。
図1に示す処理装置1は、水性インキ廃液と酸(及び必要に応じて酸化剤)を混合して反応液を調製する反応槽10と、蒸発乾燥器70と、反応槽10で調製された反応液を蒸発乾燥器70に送る配管60と、を具備する。
【0030】
図1に示す反応槽10には、水性インキ廃液の供給手段12と、酸の供給手段20と、酸化剤の供給手段30と、撹拌機40と、pH調整手段50が設けられている。
【0031】
pH調整手段50は、反応液のpHを測定するpH測定器と、測定したpH値に基づいて酸の供給手段20及び必要に応じて酸化剤の供給手段30を制御する制御手段とを具備する。pH調整手段50は、pH測定器とこのpH測定器により測定されるpH値が所定の値になるまで酸及び必要により酸化剤を添加すると共に所定の値になった場合には添加を停止する、公知の弁開閉装置とを組み合わせることにより構成することができる。
【0032】
酸の供給手段20と、酸化剤の供給手段30としては、酸および酸化剤の薬液タンクおよび薬注ポンプを配備することが一般的である。あるいは、小型の隔膜電解槽を設置して陽極区画で製造される酸化液を酸および酸化剤として供給することもできる。
【0033】
反応槽10から蒸発乾燥器70へ反応液を供給する配管60には、ポンプ及び流量調整弁80が設けられている。反応槽10から排出される反応液には、水性インキ廃液中のアンモニアやアミンと酸との反応により形成された塩が含まれるため、遠心ポンプ、スネークポンプなどのスラリー移送が可能な形式のポンプが好ましく用いられる。反応槽10から蒸発乾燥機70への反応液の供給量は、蒸発乾燥器の処理能力に応じて一定に定めてもよく、あるいは蒸発乾燥器内の反応液(水性インキ廃液)の乾燥状態(含水率)を測定してフィードバック制御により流量調整弁80を自動制御してもよい。
【0034】
蒸発乾燥器70は、反応槽10からの反応液を蒸発乾燥させて、水蒸気と粉末状固形廃棄物とに分離する装置であり、蒸発乾燥方法として、蒸気等で加温した回転ドラムや回転ディスク表面に反応液を供給することで反応液の薄膜を形成させ乾燥させる方法や、ベルトコンベア上にて反応液を熱風で加温する方法、真空吸引して水分を気化させる方法をそれぞれ単独で、またはこれらを組み合わせた処理方法を実施できる装置により構成することが有効である。具体的には、ドラムドライヤー、ダブルドラムドライヤ―、ディスクドライヤー、スラリー乾燥器、真空乾燥器などが好ましく用いられる。
【0035】
図2に示す処理装置1Aは、反応槽10にヒータ90を取り付けた点を除いて
図1に示す処理装置1と同じ構成である。詳細な説明は割愛する。
【0036】
次に、
図1に示す処理装置を用いた本発明の水性インキ廃液の処理方法の一例を説明する。
【0037】
印刷機や付属機器の色替えや洗浄に伴う廃液や洗浄廃水を受け入れ可能な場所に本発明の処理装置を設置し、反応槽10に水性インキ廃液を受け入れる。受け入れる水性インキ廃液の固形分濃度は特に限定されないが、酸添加時の流動性を確保するために固形分濃度は300g/L以下であることが好ましく、固形分濃度300g/Lを超える高濃度の水性インキ廃液を受け入れた場合は、水道水等で希釈することが好ましい。本方法の処理方法により得られる水蒸気を一部凝縮させて、希釈水として反応槽10に添加してもよい。
【0038】
反応槽10内において、攪拌機40を用いて水性インキ廃液を撹拌しながら、酸供給手段20から酸を添加し、所定時間反応させる。酸の供給量は、反応槽10内の水性インキ廃液のpHが3以上6以下となる量とする。反応時間は処理対象の水性インキ廃液の性状に応じて適宜設定することができる。一般的な水性インキ廃液の場合には10分間以上とすることが望ましいが、処理効率の観点からは短時間が好ましく、通常は10分間程度でよい。また、必要に応じて、酸化剤供給手段30から酸化剤を酸と同時に添加してもよい。酸化剤の添加量は水性インキ廃液の性状によって適宜調整すべきであるが、通常は、酸化剤は過酸化水素として1.5g/L程度でよい。
【0039】
反応槽10での水性インキ廃液と酸との反応が完了したら、流量調整弁80とポンプを作動させて、反応液を反応槽10から配管60を介して蒸発乾燥器70に送液する。蒸発乾燥機70に送られた反応液は、加熱又は真空吸引などの蒸発乾燥に供されて水分が蒸発して、含水率30wt%未満の粉末状固形物となる。蒸発した水分は水蒸気として蒸発乾燥機70から排気される。反応槽10から蒸発乾燥器70への液の移送は、ポンプを用いて揚水する態様に限定されず、反応槽10を高い位置に設置し、蒸発乾燥器70を低い位置に設置して、高低差を利用する自然流下により行うこともできる。
【0040】
反応槽10への水性インキ廃液等の供給は、連続して行ってもよく、回分式に行っても良い。回分式に行う場合は、例えば1日分の水性インキ廃液をいったん反応槽10に受入れ、所定時間かけて反応させた後に順次蒸発乾燥器70に送液することができる。連続して行う場合は、反応槽10内での滞留時間が10分以上となるように水性インキ廃液の供給速度と反応槽10の容積とを調整する。回分式の処理は制御が容易となる利点があり、連続式の処理は反応槽10の容積を小さくできる利点がある。
【実施例0041】
次に実施例および比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
【0042】
[実施例1~3]
回分式の処理試験機を用いて、水性インキ廃液の処理を行った。実施例1~3の試験条件および試験結果を表1にまとめて示す。実施例1及び2では紙袋用水性フレキソ印刷機の実廃液(固形分濃度20g/L)1Lを使用し、実施例3では紙包材用水性グラビア印刷機の実廃液(固形分濃度19g/L)1Lを使用した。
【0043】
蒸発乾燥試験は、反応液の入った2Lビーカーを撹拌しながら沸騰湯浴させることにより行い、目視により液量が初期の50vol%になった時点および0vol%(ビーカー内残留物の水分計で測定した含水率は5%未満)になった時点で、ビーカー内の空気をアンモニア検知管(ガステック製169-80-03-14)で吸引することにより、気化しているアンモニアの濃度を測定した。
【表1】
【0044】
いずれの実施例でも、20g程度の乾燥固形廃棄物が得られ、処理前の水性インキ廃液の容量と比較して廃棄物量を1/50程度に減容化することができた。
また、実施例1~3いずれの試験でも、気相アンモニア濃度は常に10ppm未満であり、アンモニア臭は感知されなかった。また、撹拌羽根へのインキ付着はほぼ認められなかった。
【0045】
[比較例1~3]
比較例1~3においては、実施例1、2で使用したのと同じフレキソインキ実廃液を使用して比較試験を行った。比較例1~3の試験条件および試験結果を表2に示す。
【表2】
【0046】
比較例1においては、酸および酸化剤を添加せず、蒸発乾燥処理を行った。水性インキ廃液のpHは8.8とアルカリ領域であり、蒸発乾燥処理中に強烈なアンモニア臭が発生し、50%蒸発時及び100%蒸発時のいずれにおいても検知管による気相中アンモニア濃度は60ppmを超えていた。また、撹拌羽根にインキが付着する現象が見られ、実装置における配管やポンプの内壁表面等への付着による閉塞が懸念された。
【0047】
比較例2においては、反応液のpHが8.0となるように酸の添加量を調整し、蒸発乾燥処理を行った。蒸発乾燥中に強いアンモニア臭が発生し、検知管による気相中アンモニア濃度は50%蒸発時で30ppmであった。撹拌羽根にインキが付着する現象はほぼ認められなかった。
【0048】
比較例3においては、pHが7.0となるように酸の添加量を調整し、蒸発乾燥処理を行った。蒸発乾燥中に弱いアンモニア臭が発生し、検知管による気相中アンモニア濃度は50%蒸発時で15ppmを示した。撹拌羽根にインキが付着する現象はほぼ認められなかった。
【0049】
以上の結果より、本発明の方法である酸添加によるpH調整の後に蒸発乾燥処理を行うことによって、臭気や付着による閉塞の問題を回避して効率的な減容化処理が達成されていることが確認できた。
本発明の水性インキ廃液処理方法は、多種多様なインキを含む水性インキ廃液を、ろ過水の発生、臭気の発生や内壁表面への付着による配管などの閉塞の問題を回避して、効率的に蒸発乾燥させて粉末状固体として減容化することができる。本発明は、包装材印刷業界等の油性インキから水性インキへの移行を促し、産業界の環境問題対応に資するものである。