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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022178199
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】自動二輪車用タイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 9/06 20060101AFI20221125BHJP
   B60C 15/00 20060101ALI20221125BHJP
   B60C 9/18 20060101ALI20221125BHJP
   B60C 11/00 20060101ALI20221125BHJP
【FI】
B60C9/06 B
B60C15/00 H
B60C9/18 J
B60C11/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021084805
(22)【出願日】2021-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【弁理士】
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】上田 剛幹
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131BA04
3D131BA05
3D131BA20
3D131BB06
3D131BC15
3D131BC19
3D131DA03
3D131DA09
3D131DA52
3D131EA04U
3D131HA57
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ウェット性能と旋回性能とを向上させた自動二輪車用タイヤを提供する。
【解決手段】バイアス構造のカーカス6と、ジョイントレスバンドプライ8Aであるバンド層8と、バンド層8のタイヤ半径方向外側に配されたトレッドゴムとを含む自動二輪車用タイヤである。カーカス6は、外側カーカスプライ12Aを含んでいる。クラウン領域Crでのトレッドゴムの0℃tanδiは、ショルダー領域Shでのトレッドゴムの0℃tanδoよりも大きい。クラウン領域Crでの外側カーカスプライ12Aのカーカスコード10の角度θcは、ショルダー領域Shでの外側カーカスプライ12Aのカーカスコード10の角度θsよりも小さい。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動二輪車用タイヤであって、
トレッド部と、
一対のサイドウォール部と、
一対のビード部と、
前記一対のビード部の間を延びるバイアス構造のカーカスと、
前記カーカスのタイヤ半径方向外側かつ前記トレッド部の内部に配されたバンド層と、
前記バンド層のタイヤ半径方向外側に配されたトレッドゴムとを含み、
前記トレッド部は、タイヤ赤道を含むクラウン領域と、両側のトレッド端を含む一対のショルダー領域とを含み、
前記カーカスは、複数のカーカスコードを含む複数のカーカスプライを含み、
前記カーカスプライは、最もタイヤ半径方向外側に配された外側カーカスプライを含み、
前記バンド層は、タイヤ周方向に対して5°以下の角度で螺旋状に配置されたバンドコードを含むジョイントレスバンドプライであり、
前記クラウン領域での前記トレッドゴムの0℃における損失正接(0℃tanδi)は、前記各ショルダー領域での前記トレッドゴムの0℃における損失正接(0℃tanδo)よりも大きく、
前記クラウン領域での前記外側カーカスプライの前記カーカスコードのタイヤ周方向に対する角度θcは、前記各ショルダー領域での前記外側カーカスプライの前記カーカスコードのタイヤ周方向に対する角度θsよりも小さい、
自動二輪車用タイヤ。
【請求項2】
前記カーカスコードのタイヤ周方向に対する角度は、20~65度である、請求項1に記載の自動二輪車用タイヤ。
【請求項3】
前記各ショルダー領域は、前記トレッド端からタイヤ軸方向の内側へトレッド踏面上で高める20mm以上の幅を有する、請求項1又は2に記載の自動二輪車用タイヤ。
【請求項4】
前記クラウン領域での前記トレッドゴムの70℃における損失正接(70℃tanδi)は、前記ショルダー領域での前記トレッドゴムの70℃における損失正接(70℃tanδo)よりも小さい、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の自動二輪車用タイヤ。
【請求項5】
前記トレッドゴムのガラス転移点は、-20~5℃である、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の自動二輪車用タイヤ。
【請求項6】
前記クラウン領域での前記トレッドゴムのガラス転移点は、前記ショルダー領域での前記トレッドゴムのガラス転移点よりも小さい、請求項1ないし5のいずれか1項に記載の自動二輪車用タイヤ。
【請求項7】
前記クラウン領域での前記トレッドゴムの0℃における複素弾性率(0℃E*i)は、前記ショルダー領域での前記トレッドゴムの0℃における複素弾性率(0℃E*o)よりも小さい、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の自動二輪車用タイヤ。
【請求項8】
前記複素弾性率(0℃E*i)と前記複素弾性率(0℃E*o)との比(0℃E*i/0℃E*o)は、0.95以下である、請求項7に記載の自動二輪車用タイヤ。
【請求項9】
前記角度θcと前記角度θsとの比(θc/θs)は、0.35~0.90である、請求項1ないし8のいずれか1項に記載の自動二輪車用タイヤ。
【請求項10】
前記トレッドゴムは、シリカを含んでいる、請求項1ないし9のいずれか1項に記載の自動二輪車用タイヤ。
【請求項11】
前記外側カーカスプライは、一対のビード部間を延びる主部のみで形成される、請求項1ないし10のいずれか1項に記載の自動二輪車用タイヤ。
【請求項12】
前記カーカスプライは、前記外側カーカスプライのタイヤ半径方向の内側に配される内側カーカスプライを含み、
前記内側カーカスプライは、一対のビード部のそれぞれに埋設されるビードコア間を延びる本体部と、前記各ビードコアの回りをタイヤ軸方向の内側から外側に折り返された一対の折返し部とを含む、請求項1ないし11のいずれか1項に記載の自動二輪車用タイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動二輪車用タイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、トレッド部のトレッドゴムを、センター部のトレッドゴムとショルダー部のトレッドゴムに区分した二輪車用タイヤが記載されている。前記二輪車用タイヤでは、前記センター部のトレッドゴムの0℃における損失正接(tanδ1)と前記ショルダー部のトレッドゴムの0℃における損失正接(tanδ2)との比(tanδ1/tanδ2)を1.0よりも大きくしている。これにより、前記二輪車用タイヤは、高いウェットグリップ性を有するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2017/204236号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、自動二輪車用タイヤにおいては、ウェット性能と旋回性能との両立が望まれたところ、前記二輪車用タイヤにあっては、旋回性能において改善の余地があった。
【0005】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出なされたもので、ウェット性能と旋回性能とを向上させた自動二輪車用タイヤを提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のうち請求項1記載の発明は、自動二輪車用タイヤであって、トレッド部と、一対のサイドウォール部と、一対のビード部と、前記一対のビード部の間を延びるバイアス構造のカーカスと、前記カーカスのタイヤ半径方向外側かつ前記トレッド部の内部に配されたバンド層と、前記バンド層のタイヤ半径方向外側に配されたトレッドゴムとを含み、前記トレッド部は、タイヤ赤道を含むクラウン領域と、両側のトレッド端を含む一対のショルダー領域とを含み、前記カーカスは、複数のカーカスコードを含む複数のカーカスプライを含み、前記カーカスプライは、最もタイヤ半径方向外側に配された外側カーカスプライを含み、前記バンド層は、タイヤ周方向に対して5°以下の角度で螺旋状に配置されたバンドコードを含むジョイントレスバンドプライであり、前記クラウン領域での前記トレッドゴムの0℃における損失正接(0℃tanδi)は、前記各ショルダー領域での前記トレッドゴムの0℃における損失正接(0℃tanδo)よりも大きく、前記クラウン領域での前記外側カーカスプライの前記カーカスコードのタイヤ周方向に対する角度θcは、前記各ショルダー領域での前記外側カーカスプライの前記カーカスコードのタイヤ周方向に対する角度θsよりも小さい、自動二輪車用タイヤである。
【0007】
本発明に係る自動二輪車用タイヤは、前記カーカスコードのタイヤ周方向に対する角度が、20~65度である、のが望ましい。
【0008】
本発明に係る自動二輪車用タイヤは、前記各ショルダー領域が、前記トレッド端からタイヤ軸方向の内側へトレッド踏面上を20mm以上の幅を有する、のが望ましい。
【0009】
本発明に係る自動二輪車用タイヤは、前記クラウン領域での前記トレッドゴムの70℃における損失正接(70℃tanδi)が、前記ショルダー領域での前記トレッドゴムの70℃における損失正接(70℃tanδo)よりも小さい、のが望ましい。
【0010】
本発明に係る自動二輪車用タイヤは、前記トレッドゴムのガラス転移点が、-20~5℃である、のが望ましい。
【0011】
本発明に係る自動二輪車用タイヤは、前記クラウン領域での前記トレッドゴムのガラス転移点が、前記ショルダー領域での前記トレッドゴムのガラス転移点よりも小さい、のが望ましい。
【0012】
本発明に係る自動二輪車用タイヤは、前記クラウン領域での前記トレッドゴムの0℃における複素弾性率(0℃E*i)が、前記ショルダー領域での前記トレッドゴムの0℃における複素弾性率(0℃E*o)よりも小さい、のが望ましい。
【0013】
本発明に係る自動二輪車用タイヤは、前記複素弾性率(0℃E*i)と前記複素弾性率(0℃E*o)との比(0℃E*i/0℃E*o)が、0.95以下である、のが望ましい。
【0014】
本発明に係る自動二輪車用タイヤは、前記角度θcと前記角度θsとの比(θc/θs)が、0.35~0.90である、のが望ましい。
【0015】
本発明に係る自動二輪車用タイヤは、前記トレッドゴムが、シリカを含んでいる、のが望ましい。
【0016】
本発明に係る自動二輪車用タイヤは、前記外側カーカスプライが、一対のビード部間を延びる主部のみで形成される、のが望ましい。
【0017】
本発明に係る自動二輪車用タイヤは、前記カーカスプライが、前記外側カーカスプライのタイヤ半径方向の内側に配される内側カーカスプライを含み、前記内側カーカスプライは、一対のビード部のそれぞれに埋設されるビードコア間を延びる本体部と、前記各ビードコアの回りをタイヤ軸方向の内側から外側に折り返された一対の折返し部とを含む、のが望ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の自動二輪車用タイヤは、上記の構成を採用したことによって、優れたウェット性能と旋回性能とを発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の自動二輪車用タイヤの一実施形態を示す断面図である。
図2図1のトレッド部の内部の展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図1は、本実施形態の自動二輪車用タイヤ1(以下、単に「タイヤ」ということがある。)の正規状態のタイヤ回転軸(図示省略)を含むタイヤ子午線断面図である。本実施形態のタイヤ1は、例えば、乾燥アスファルト路面などのオンロード走行に好適に用いられる。但し、本発明のタイヤ1は、このような態様に限定されるものではない。
【0021】
前記「正規状態」とは、タイヤ1が正規リム(図示せず)にリム組みされかつ正規内圧が充填された無負荷の状態である。特に断りがない場合、タイヤの各部の寸法等は、正規状態で測定された値である。
【0022】
「正規リム」とは、タイヤ1が基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えばJATMAであれば標準リム、TRAであれば "Design Rim" 、ETRTOであれば "Measuring Rim"である。
【0023】
「正規内圧」とは、タイヤ1が基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば最高空気圧、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE"である。
【0024】
図1に示されるように、本実施形態のタイヤ1は、タイヤ子午線断面において、トレッド部2のトレッド踏面2aがタイヤ半径方向外側に凸の円弧状に湾曲している。タイヤ1は、例えば、トレッド部2と、一対のサイドウォール部3と、一対のビード部4とを含んでいる。
【0025】
トレッド部2は、本実施形態では、タイヤ赤道Cを含むクラウン領域Crと、両側のトレッド端Teを含む一対のショルダー領域Shとを含んでいる。クラウン領域Crは、例えば、タイヤ赤道Cを中心としてタイヤ軸方向の両側へ延びている。ショルダー領域Shは、例えば、トレッド端Teからタイヤ軸方向の内側へトレッド踏面2a上で20mm以上の幅Wsを有している。幅Wsは、例えば、トレッド展開半幅TWe(図2に示す)の50%以下が望ましい。ショルダー領域Shは、本実施形態では、クラウン領域Crと隣接している。トレッド展開半幅TWeは、トレッド部2を展開したときのタイヤ赤道Cからトレッド端Teまでの距離である。
【0026】
一対のサイドウォール部3は、トレッド部2のタイヤ軸方向の両端に連なってタイヤ半径方向の内側に延びている。本実施形態のサイドウォール部3には、サイドウォールゴム3Gが配されている。一対のビード部4のそれぞれは、例えば、各サイドウォール部3に連なって、タイヤ半径方向の内側に延びている。各ビード部4には、ビードコア5が埋設されている。
【0027】
本実施形態のタイヤ1は、一対のビード部4の間を延びるトロイド状のカーカス6と、カーカス6のタイヤ半径方向外側かつトレッド部2の内部に配されたバンド層8と、バンド層8のタイヤ半径方向外側に配されたトレッドゴム9とを含んでいる。
【0028】
図2は、トレッド部2の内部の展開図である。図2に示されるように、本実施形態のカーカス6は、バイアス構造である。バイアス構造とは、複数のカーカスコード10がタイヤ周方向に対して傾斜している構造である。カーカス6は、本実施形態では、カーカスコード10を含む複数のカーカスプライ12で形成されている。
【0029】
本実施形態のカーカスプライ12は、最もタイヤ半径方向外側に配された外側カーカスプライ12Aを含んでいる。クラウン領域Crでの外側カーカスプライ12Aのカーカスコードの角度θcが、ショルダー領域Shでの外側カーカスプライ12Aのカーカスコードの角度θsよりも小さくされている。これにより、旋回走行時に接地するショルダー領域Shでは、大きなコーナリングフォースが生じるので、旋回性能が向上する。
【0030】
角度θcと角度θsとの比(θc/θs)は、0.35~0.90であるのが望ましい。これにより、コーナリングフォースの過度の急増が抑制されて、自動二輪車(以下、「車両」という場合がある)の倒し込みの手応えの軽快性が維持されるので、優れた旋回性能が発揮される。このような作用を効果的に発揮させるために、比(θc/θs)は、0.5以上がさらに望ましく、0.75以下がさらに望ましい。この場合、角度θcは、タイヤ赤道C上での角度であり、角度θsは、トレッド端Teからトレッド踏面2a上をタイヤ軸方向の内側へ20mm隔てた位置での角度である。
【0031】
本実施形態のバンド層8は、タイヤ周方向に対して5°以下の角度αで螺旋状に配置されたバンドコード11を含むジョイントレスバンドプライ8Aである。このようなバンド層8は、タイヤ外径の成長を抑制し、直進走行時の高速安定性能を高める。
【0032】
特に限定されるものではないが、バンド層8のタイヤ軸方向の幅Wa(図1に示す)は、トレッド端Te、Te間のタイヤ軸方向の長さTWの60%~95%であるのが望ましい。
【0033】
図1に示されるように、トレッドゴム9は、例えば、一対のトレッド端Te、Te間を跨るように配されている。トレッドゴム9は、本実施形態では、トレッド踏面2aを形成している。本明細書では、クラウン領域Crでのトレッドゴム9はクラウンゴム部13とされ、ショルダー領域Shでのトレッドゴム9はショルダーゴム部14とされる。ショルダーゴム部14は、本実施形態では、サイドウォールゴム3Gと隣接している。
【0034】
一般に、バイアス構造のタイヤ1は、所謂ラジアル構造のタイヤに比して旋回性能に優れているが、ウェット路面では、その効果が発揮され難い。また、ウェット路面の状態では、乾燥路面の状態よりも気温が低くなる。本実施形態では、クラウンゴム部13の0℃における損失正接(0℃tanδi)は、ショルダーゴム部14の0℃における損失正接(0℃tanδo)よりも大きくされている。これにより、直進走行時等、接地する機会が多いクラウン領域Crにおいて、ウェット性能(特にウェットブレーキ性能)が高められる。とりわけ、悪路走行にも優れる特性を有するバイアス構造のタイヤ1においては、ウェット性能を高めるメリットが大きい。また、角度θsが角度θcよりも大きいので、タイヤ1の柔軟性が向上し接地面が大きくなるため、コーナリングフォースが増加して、とりわけ、バイアス構造のタイヤ1において、旋回性能が高められる。
【0035】
損失正接(0℃tanδi)が損失正接(0℃tanδo)よりも過度に大きい場合、走行時のクラウン領域Crの変形が大きくなり、高速走行時の安定性能が低下するおそれがある。また、ショルダーゴム部14の剛性が過度に小さくなり、旋回性能が悪化するおそれがある。このため、損失正接(0℃tanδi)は、損失正接(0℃tanδo)よりも0.2以上で大きいのが望ましく、0.4以上で大きいのがより望ましく、1.0以下で大きいのが望ましく、0.7以下で大きいのがより望ましい。
【0036】
一般に、自動二輪車は、旋回中にロールされる。そして、気温が高く、路面が乾燥している好条件では、ロールを大きくできるので、ショルダー領域Shの接地の機会が増加する。このため、クラウンゴム部13の70℃における損失正接(70℃tanδi)は、ショルダーゴム部14の70℃における損失正接(70℃tanδo)よりも小さくされている。これにより、乾燥アスファルト路面の走行時、クラウン領域Crの発熱が抑制されて、高速走行時の安定性能が高く維持されるとともに、旋回走行時の接地性が高められて旋回性能が向上する。上述の作用を効果的に発揮させるために、損失正接(70℃tanδi)は、損失正接(70℃tanδo)よりも0.02以上小さいのが望ましく、0.04以上小さいのがより望ましく、0.1以下で小さいのが望ましく、0.07以下で小さいのがより望ましい。なお、このようなクラウンゴム部13及びショルダーゴム部14を製造するためには、クラウンゴム部13は、ショルダーゴム部14よりもカーボンを少なく添加される。
【0037】
本明細書では、損失正接及び複素弾性率は、タイヤ1のトレッドゴム9から採取された試験片を、GABO社製「イプレクサー(登録商標)」などの粘弾性スペクトロメーターにて下記条件で測定した値である。前記試験片は、タイヤ周方向を長辺とする長さ20mm×幅4mm×厚さ1mmの形状を有する。
周波数:5Hz
初期伸張歪:10%
動歪の振幅:±2.5%
【0038】
トレッドゴム9のガラス転移点Tgは、-20~5℃であるのが望ましい。トレッドゴム9のガラス転移点Tgが-20℃以上であるので、ウェットブレーキ性能を向上させることができる。トレッドゴム9のガラス転移点Tgが5℃以下であるので、走行時の過度の変形が抑制されて、旋回性能や高速走行時の安定性能が向上する。ガラス転移点は、JIS-K7121に従い、ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン(株)製の示差走査熱量計(Q200)を用いて、昇温速度10℃/分で昇温しながら測定した値である。なお、このようなクラウンゴム部13及びショルダーゴム部14を製造するためには、芳香族系石油樹脂が添加される。
【0039】
クラウンゴム部13のガラス転移点Tg1は、ショルダーゴム部14のガラス転移点Tg2よりも小さいのが望ましい。クラウンゴム部13のガラス転移点Tg1がショルダーゴム部14のガラス転移点Tg2よりも小さいので、クラウン領域Crでのウェットブレーキ性能が維持される。また、ショルダー領域Shにおいて、ショルダーゴム部14の変形による接地性の向上により、旋回性能が高められる。なお、このようなクラウンゴム部13及びショルダーゴム部14を製造するためには、クラウンゴム部13は、ショルダーゴム部14よりも芳香族系石油樹脂を少なく添加される。
【0040】
上述のような作用を効果的に発揮させるために、クラウンゴム部13とショルダーゴム部14とのガラス転移点の差(Tg2-Tg1)は、3℃以上が望ましく、5℃以上がより望ましく、10℃以下が望ましく、8℃以下がより望ましい。
【0041】
クラウンゴム部13の0℃における複素弾性率(0℃E*i)は、ショルダーゴム部14の0℃における複素弾性率(0℃E*o)よりも小さくされている。これにより、ウェット性能と旋回性能とを高いレベルで両立することができる。複素弾性率(0℃E*i)は、例えば、5MPa以上で小さいのが望ましく、10MPa以上で小さいのがさらに望ましく、20MPa以下で小さいのが望ましく、15MPa以下で小さいのがさらに望ましい。なお、このようなクラウンゴム部13及びショルダーゴム部14を製造するためには、クラウンゴム部13は、ショルダーゴム部14よりもオイルを多く添加される。
【0042】
上述のような作用を発揮するために、複素弾性率(0℃E*i)と複素弾性率(0℃E*o)との比(0℃E*i/0℃E*o)は、0.95以下であるのが望ましい。なお、比(0℃E*i/0℃E*o)が過度に小さいと、ウェット性能が悪化するおそれがある。このため、比(0℃E*i/0℃E*o)は、0.75以上が望ましく、0.80以上がより望ましく、0.90以下がより望ましい。
【0043】
トレッドゴム9は、本実施形態では、シリカを含んでいる。シリカは、シラノール基によるトレッドゴム9とウェット路面との凝着力を増加させるので、ウェットブレーキ性能を高める。シリカの含有量は、80質量%以上が望ましい。
【0044】
クラウンゴム部13のシリカの質量%は、ショルダーゴム部14のシリカの質量%よりも大きいのが望ましい。クラウンゴム部13のシリカは、ショルダーゴム部14のシリカの3質量%以上が望ましく、5質量%以上がより望ましく、10質量%以下が望ましく、8質量%以下がより望ましい。
【0045】
図2に示されるように、カーカスプライ12は、例えば、外側カーカスプライ12Aのタイヤ半径方向内側に配された内側カーカスプライ12Bをさらに含んでいる。外側カーカスプライ12Aのカーカスコード10と内側カーカスプライ12Bのカーカスコード10とは、タイヤ半径方向の内外で交差している。各カーカスプライ12A、12Bのカーカスコード10は、例えば、タイヤ赤道Cから両側のトレッド端Te側に向かって、角度θが漸増している。
【0046】
カーカスコード10のタイヤ周方向に対する角度θは、20~65度であるのが望ましい。これにより、大きなキャンバースラストを発生させることができるので、旋回性能を高めることができる。角度θは、30度以上がより望ましく、55度以下がより望ましい。カーカスコード10は、本実施形態では、有機繊維コードで構成されている。
【0047】
図1に示されるように、外側カーカスプライ12Aは、本実施形態では、一対のビード部4間を延びる主部15のみで形成される。このような外側カーカスプライ12Aは、タイヤ1の横バネが過度に高くなることを抑制するので、旋回性能や乗心地性能を向上する。
【0048】
内側カーカスプライ12Bは、例えば、ビードコア5、5間を延びる本体部16aと、ビードコア5の回りをタイヤ軸方向の内側から外側に折り返された一対の折返し部16bとを含んでいる。このような内側カーカスプライ12Bは、高速走行時の安定性能に優れる。
【0049】
以上、本発明の好ましい実施形態が詳細に説明されたが、本発明は、上記の具体的な実施形態に限定されることなく、種々の態様に変更して実施され得る。
【実施例0050】
図1の基本構造を有する自動二輪車用タイヤが試作された。そして、各試供タイヤの旋回性能及びウェット性能がテストされた。各試供タイヤの共通仕様やテスト方法は、以下の通りである。
【0051】
<旋回性能>
テストライダーが、試供タイヤが装着されたテスト車両を乾燥アスファルト路面のテストコース上で走行した。走行後、テストライダーが、旋回走行のしやすさや安定性を官能により評価した。評価は、10点を満点とする10点法でなされている。結果は、数値が大きい程優れていることを示す。
前輪用タイヤ(サイズ、リム、内圧):110/70-13M/C、13×3.00MT、200kPa
後輪用タイヤ(サイズ、リム、内圧):130/70-13M/C、13×3.50MT、220kPa
テスト車両:排気量250ccの自動二輪車
【0052】
<ウェット性能>
テストライダーが上記車両を用いて、ウェットアスファルト路面を走行したときの、減速時の移動距離が測定された。評価は、比較例1の移動距離の逆数を100とする指数で示される。結果は、数値が大きい程優れていることを示す。
移動距離:時速40kmからブレーキを作動させて時速10kmまで減速したときの距離
テストの結果が表1に示される。
【0053】
【表1】
【0054】
テストの結果、実施例のタイヤは、優れたウェット性能と旋回性能とを有していることが理解される。
【符号の説明】
【0055】
1 自動二輪車用タイヤ
6 カーカス
8 バンド層
8A ジョイントレスバンドプライ
9 トレッドゴム
10 カーカスコード
12A 外側カーカスプライ
Cr クラウン領域
Sh ショルダー領域
図1
図2