(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022178233
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】多孔質炭素系材料および多孔質炭素系材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/524 20060101AFI20221125BHJP
C04B 38/00 20060101ALI20221125BHJP
【FI】
C04B35/524
C04B38/00 303Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021084867
(22)【出願日】2021-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】辛 明柱
(72)【発明者】
【氏名】柴田 賢一
【テーマコード(参考)】
4G019
【Fターム(参考)】
4G019FA13
(57)【要約】
【課題】広い粒度分布の原料粉を使用した場合でも、微粉末の発生を防止できる多孔質炭素系材料および該多孔質炭素系材料の製造方法を提供する。
【解決手段】炭素系粒子と、炭素系粒子を互いに結合する炭素質バインダとが2次粒子を構成する多孔質炭素系材料は、2次粒子が、独立することなく互いに結合している。また、該多孔質炭素系材料の製造方法は、炭素系粒子と、軟化点が70~200℃のピッチとを混錬し、原料粉を得る原料工程と、前記原料粉を成形型に入れ、前記軟化点よりも高い温度に加熱し所定の形状の成形体を得る成形工程と、前記成形体を焼成する焼成工程と、を含む。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素系粒子と、前記炭素系粒子を互いに結合する炭素質バインダとが2次粒子を構成する多孔質炭素系材料であって、
前記2次粒子は、独立することなく互いに結合している、多孔質炭素系材料。
【請求項2】
前記多孔質炭素系材料は、最大気孔径が50~1000μmである、請求項1に記載の多孔質炭素系材料。
【請求項3】
前記多孔質炭素系材料は、かさ密度が1.0~1.5g/cm3である、請求項1または2に記載の多孔質炭素系材料。
【請求項4】
前記多孔質炭素系材料は、曲げ強度が2~30MPaである、請求項1から3のいずれか1項に記載の多孔質炭素系材料。
【請求項5】
炭素系粒子と、軟化点が70~200℃のピッチとを混錬し、原料粉を得る原料工程と、
前記原料粉を成形型に入れ、前記軟化点よりも高い温度に加熱し所定の形状の成形体を得る成形工程と、
前記成形体を焼成する焼成工程と、
を含む多孔質炭素系材料の製造方法。
【請求項6】
前記焼成工程の後にさらに黒鉛化工程を有する、請求項5に基材の多孔質炭素系材料の製造方法。
【請求項7】
前記成形工程では、10分以上加熱する、請求項5または6に記載の多孔質炭素系材料の製造方法。
【請求項8】
前記焼成工程では、前記成形体を前記原料粉の平均粒子径よりも平均粒子径の大きいパッキング材に埋め焼成する、請求項5から7のいずれか1項に記載の多孔質炭素系材料の製造方法。
【請求項9】
前記原料粉の平均粒子径は50~1500μmである、請求項5から8のいずれか1項に記載の多孔質炭素系材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質炭素系材料および多孔質炭素系材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素系材料は、各種薬品に対する耐食性、耐熱性を有しているため、半導体製造装置、各種電極材料、冶金分野、放電加工用電極、高温炉などの分野で広く利用されている。
【0003】
このような炭素系材料には、微粒子の原材料を用い、高い成形圧で等方的に成形して得られる緻密で高強度の等方性黒鉛材料が広く用いられている。一方、フィルタ、触媒担体などの分野では、多孔質の炭素系材料が必要とされ、低密度で強度を高くする様々な工夫が行われている。
【0004】
特許文献1は、多孔質の炭素系材料は、強度が弱い等の理由から微粉が発生しやすく、水、空気等の環境を汚染する問題を解決するための多孔質炭素成形体の製造方法を開示している。本製造方法においては、気孔率が20%以上であり、且つ全気孔容積に占める開気孔容積の割合が50%以上であって、曲げ強度が10kg/cm2以上である多孔質炭素成形体を製造するに際し、1トン/cm2の成形圧力で成形した成形体を1000℃まで焼成した時の曲げ強度が100kg/cm2以上となる炭素質粉末を用いて、成形し、焼成または黒鉛化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の発明は、微粉が発生する課題に対して、ある一定の特性を持つ炭素質粉末を用いて成形、焼成または黒鉛化することにより高強度の炭素質炭素成形体が得られ、課題を解決するという内容の発明であるが、そもそも多孔体を製造するための原材料には、粗い粒子、細かい粒子が幅広く分布し、多孔質の炭素系材料を製造すると細かい粒子は素材に取り込まれることなく遊離しやすくなり、微粉末の発生源となる。
【0007】
本発明では上述した課題を鑑み、広い粒度分布の原料粉を使用した場合でも、微粉末の発生を防止できる多孔質炭素系材料および該多孔質炭素系材料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の多孔質炭素系材料は、
炭素系粒子と、前記炭素系粒子を互いに結合する炭素質バインダとが2次粒子を構成する多孔質炭素系材料であって、
前記2次粒子は、独立することなく互いに結合している。
【0009】
本発明の多孔質炭素系材料では、2次粒子が独立することなく互いに結合しあっているので、内部から脱落した粒子が材料の外部に出てくることを抑制することができる。
【0010】
また、本発明の多孔質炭素系材料は、以下の態様であることが好ましい。
【0011】
前記多孔質炭素系材料は、最大気孔径が50~1000μmである。
【0012】
最大気孔径が50μm以上であると、多孔質炭素系材料として様々な用途で好適に利用できる。最大気孔径が1000μm以下であると、十分な比表面積が得られ、気孔内部の表面を十分に利用できる。
【0013】
前記多孔質炭素系材料は、かさ密度が1.0~1.5g/cm3である。
【0014】
かさ密度が1.0g/cm3以上であると、多孔質材料として形状を維持するだけの十分な強度が得られる。かさ密度が1.5g/cm3以下であると、充分な気孔の体積が得られるので、多孔質材料として十分な機能を発揮することができる。
【0015】
前記多孔質炭素系材料は、曲げ強度が2~30MPaである。
曲げ強度が2MPa以上であると、十分な強度を備えているので、構造物、各種部品などとして好適に利用である。曲げ強度が30MPa以下であると、容易に加工できるので、容易に目的の形状を得ることができる。
【0016】
続いて、本発明の多孔質炭素系材料の製造方法は、
炭素系粒子と、軟化点が70~200℃のピッチとを混錬し、原料粉を得る原料工程と、
前記原料粉を成形型に入れ、前記軟化点よりも高い温度に加熱し所定の形状の成形体を得る成形工程と、
前記成形体を焼成する焼成工程と、
を含む。
【0017】
本発明の多孔質炭素系材料の製造方法によれば、炭素系粒子と、軟化点が70℃以上のピッチを混錬して原料粉を得ているので、室温では付着しあうことはなく、室温で所定の粒子径となるように粒度調整をすることができる。また、軟化点が200℃以下のピッチを混錬しているので、混錬するためにピッチを溶融させるときにも高温に曝す必要がなく、ピッチを溶融する段階で縮合反応が進行しにくく、軟化点の上昇を防止することができる。
【0018】
また、多孔質炭素系材料を得るために、主に熱による融着作用が中心でほとんど加圧されていないので、広い粒度分布の2次粒子であっても互いに結合した多孔体が得られるうえに、連続気孔ができやすく、後の焼成工程で原料粉に含まれる揮発分を内部に蓄積することなく除去することができる。
【0019】
また、本発明の多孔質炭素系材料の製造方法は以下の態様であることが好ましい。
【0020】
前記多孔質炭素系材料の製造方法は、焼成工程の後にさらに黒鉛化工程を有する。
【0021】
黒鉛化工程を設けることにより、化学的に安定で反応性が低い多孔質炭素系材料が得られ、黒鉛質が望まれる用途で好適に利用することができる。
【0022】
前記成形工程では、10分以上加熱する。
【0023】
成形工程で10分以上加熱することにより、ピッチの融着を促進し、確実に2次粒子を互いに結合することができる。また成形工程では、型を伝播して熱源から直接原料粉を加熱することができるので、ピッチの縮合による高分子量化よりも早く融着でき、強固に結合することができる。
【0024】
前記焼成工程では、前記成形体を前記原料粉の平均粒子径よりも平均粒子径の大きいパッキング材に埋め焼成する。
【0025】
焼成工程では、ピッチが溶け変形しやすくなり、ピッチからの揮発分が発生する原因となるが、成形体をパッキング材に埋めることにより変形が抑制され、さらにパッキング材の平均粒子径が原料粉より粗い(大きい)ことによって、発生した揮発分が速やかに排出でき、素材内で揮発分が炭素化することによる高密度化、気孔の封止が防止でき、クラックや発泡を防止することができる。
【0026】
前記原料粉の平均粒子径は50~1500μmである。
【0027】
原料粉の平均粒子径を50~1500μmとすることにより、比表面積が大きく、強度の高い多孔質炭素系材料を得ることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明の多孔質炭素系材料によれば、2次粒子が独立することなく互いに結合しているため、材料の内部から2次粒子が脱落しにくく、材料の外部に出てくることが抑制される。
【0029】
また、本発明の多孔質炭素系材料の製造方法によれば、炭素系粒子と、軟化点が70℃以上のピッチを混錬して原料粉を得ているので、室温では付着しあうことはなく、室温で所定の粒子径となるように粒度調整をすることができる。さらに、軟化点が200℃以下のピッチを混錬しているので、混錬するためにピッチを溶融させるときにも高温に曝す必要がなく、ピッチを溶融する段階で縮合反応が進行しにくく軟化点の上昇を防止することができる。
【0030】
また、製造過程において、主に熱による融着作用が用いられ、材料がほとんど加圧されていないので、広い粒度分布の2次粒子であっても互いに結合した多孔体が得られるうえに、連続気孔ができやすく、後の焼成工程で原料粉に含まれる揮発分を内部に蓄積することなく除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態の多孔質炭素系材料の製造工程のフロー図を示し、(a)は実施の形態1、(b)は実施の形態2を示す。
【
図2】
図2は、本発明の実施の形態1の多孔質炭素系材料の製造工程の模式図を示し、(a)は原料である炭素系粒子とピッチ、(b)は原料工程により得られる原料粉、(c)は成形工程における成形前の充填された原料粉、(d)は成形工程における成形後の原料粉が結合して得られる一体化された成形体の一部、(e)は焼成工程により得られる多孔質炭素系材料(焼成体)の一部をそれぞれ示す。
【
図3】
図3は、従来の多孔質炭素系材料の製造工程のフロー図を示し、(a)は原料である炭素系粒子とピッチ、(b)は原料工程により得られる原料粉、(c)は成形工程における成形前の充填された原料粉、(d)は成形工程における成形後の原料粉が結合して得られる成形体の一部、(e)は焼成工程により得られる多孔質炭素系材料(焼成体)の一部をそれぞれ示す。
【
図4】
図4は、従来の等方性黒鉛材料の製造工程のフロー図を示し、(a)は原料である炭素系粒子とピッチ、(b)は原料の混錬物、(c)は混錬物を粉砕して得られる原料粉、(d)は成形工程における成形前の充填された原料粉、(e)は、成形工程における成形後の原料粉が結合して得られる成形体の一部、(f)は焼成および黒鉛化工程により得られる等方性黒鉛材料の一部をそれぞれ示す。
【
図5】
図5は、実施例および比較例1、2の気孔分布のグラフを示す。
【
図6】
図6は、実施例の多孔質炭素系材料を樹脂埋めした偏光顕微鏡写真(図面代用写真)を示す。
【
図7】
図7は、比較例1の多孔質炭素系材料を樹脂埋めした偏光顕微鏡写真(図面代用写真)を示す。
【
図8】
図8は、比較例2の等方性黒鉛材料を樹脂埋めした偏光顕微鏡写真(図面代用写真)を示す。
【
図9】
図9は、実施の形態1において成形工程と焼成工程とを同時に実施する変形例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の多孔質炭素系材料および多孔質炭素系材料の製造方法を説明するため、本発明の実施の形態1および2と、従来の多孔質炭素系材料および従来の等方性黒鉛材料とを、製造方法、材料の組織などを比較しながら説明する。
【0033】
図1(a)は、本発明の実施の形態1である炭素質の多孔質炭素系材料の製造工程を示し、
図1(b)は、本発明の実施の形態2である黒鉛質の多孔質炭素系材料の製造工程を示す。
【0034】
図1(a)に示すように、実施の形態1の炭素質の多孔質炭素系材料は、炭素系粒子と、軟化点が70~200℃のピッチとを混錬し、原料粉を得る原料工程と、原料粉を成形型に入れ、軟化点よりも高い温度に加熱し所定の形状の成形体を得る成形工程と、成形体を焼成する焼成工程と、を経て製造される。
【0035】
図1(b)に示すように、実施の形態2の黒鉛質の多孔質炭素系材料は、実施の形態1の炭素質の多孔質炭素系材料をさらに黒鉛化する黒鉛化工程を経て製造される。
【0036】
(原料工程)
本実施の形態の混錬工程では、
図2(a)に示すように、炭素系粒子と、軟化点が70~200℃のピッチとを混錬し、
図2(b)に示す原料粉を得る。なお、原料粉は炭素系粒子がバインダにより互いに結合した粒子の集合体であり、焼成工程あるいは黒鉛化工程を経て得られる2次粒子に対応する。炭素系粒子は特に限定されないが、例えばピッチコークス、黒鉛、ガラス状カーボンなど粉砕した炭素系粒子を利用することができる。中でもピッチコークスは、ピッチとの馴染みがよく強固な結合が得られ、本発明の炭素系粒子として好適に利用することができる。
【0037】
原料工程で得られた原料粉は、そのまま成形に用いてもよいが、多孔質炭素系材料として適切な粒度範囲があれば、原料工程の中で粒度調整を行ってもよい。粒度調整の方法は、分級、粉砕などの手法を利用できる。なお、粉砕により粒度調整を行う場合には、炭素系粒子を原料粉の粒子径よりも十分小さくすることにより、粉砕後にバインダの付着のない露出面の発生を防止することができる。
【0038】
望ましい炭素系粒子の平均粒子径は50~500μmである。炭素系粒子の平均粒子径が50μm以上であると、原料工程で必要となるピッチの量が少なくでき、後の焼成工程で2次粒子の変形による気孔の消滅や、発生するガスによる発泡を防止することができる。炭素系粒子の平均粒子径は、70μm以上が好ましく、100μm以上がより好ましい。
また、炭素系粒子の平均粒子径が500μm以下であると、バインダで覆われない露出面の発生を防止することができる。炭素系粒子の平均粒子径は、400μm以下が好ましい。
なお、炭素系粒子の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布計で測定することができる。
【0039】
本実施の形態で用いるピッチは、軟化点が70~200℃である。炭素系粒子と、軟化点が70℃以上のピッチを混錬して原料粉を得ることにより、原料粉が室温では付着しあうことを抑制し、室温で所定の粒子径となるように、原料粉の粒度調整をすることができる。軟化点は、90℃以上が好ましく、100℃以上がより好ましい。
また、炭素系粒子と、軟化点が200℃以下のピッチを混錬して原料粉を得ることにより、混錬するために原料粉を高温に曝す必要がなく、混錬時ピッチを溶融する段階で縮合反応が進行することを抑制し、軟化点の上昇を防止することができる。軟化点は、180℃以下が好ましく、160℃以下がより好ましい。
【0040】
本実施の形態では、混錬の温度は、150~300℃でかつピッチの軟化点より高い温度で行うことが好ましい。混錬の温度を150℃以上でかつピッチの軟化点より高い温度とすることによりピッチを十分に溶融させ、炭素系粒子同士を結合させることができる。混錬の温度は、180℃以上がより好ましい。
混錬の温度を300℃以下とすることにより、ピッチの重縮合を防止し、原料粉の成形性を確保することができる。混錬の温度は、280℃以下がより好ましい。
【0041】
また、多孔質炭素系材料を得るために、主に熱による融着作用が中心となっており、ほとんど加圧されていないので、広い粒度分布の2次粒子であっても互いに結合した多孔体が得られるうえに、連続気孔ができやすく、後の焼成工程で原料粉に含まれる揮発分を内部に蓄積することなく除去することができる。
【0042】
本実施の形態では、ピッチを溶融させながら一様に混合した段階で混錬を終了することが好ましく、具体的には混錬の時間は30分以下であることが好ましい。混錬の時間が30分以下であると、ピッチの重縮合を抑制し、原料粉の付着性の低下を防止することができる。混錬の時間は、20分以下がより好ましく、10分以下がさらに好ましい。
【0043】
(粒度調整)
原料工程で得られた原料粉(
図2(b))は、必要に応じて粒度調整を行うことが好ましい。粒度調整を行うことにより所定の気孔率、粒度分布の多孔質炭素系材料を得ることができる。粒度調整の方法は、分級、粉砕などの手法を利用できる。粉砕で粒度調整する場合、炭素系粒子をピッチで固めた原料粉を粉砕するので、炭素系粒子がピッチで絡められた付着力のある2次粒子が多く得られる一方、中には炭素系粒子を破壊したり、バインダであるピッチが剥がれた原料粉など、付着力のない原料粒子も同時に得られる。本発明の多孔質炭素系材料の製造方法では、主に熱による融着作用で成形しているので、このような付着力のない原料粉であっても独立することなく互いに結合することができる。
【0044】
本実施の形態で用いる原料粉の平均粒子径は、50~1500μmであることが好ましい。原料粉の平均粒子径が50μm以上であると、十分な大きさの気孔が得られ、様々な用途で利用しやすい多孔質炭素系材料を得ることができる。原料粉の平均粒子径は、80μm以上がより好ましく、100μm以上がさらに好ましい。
原料粉の平均粒子径が1500μm以下であると、成形型に入れ成形したとき、表面にできる凹凸の大きさを小さくすることができ、表面の平滑な多孔質炭素系材料を得ることができる。原料粉の平均粒子径は、1200μm以下がより好ましく、1000μm以下がさらに好ましい。
【0045】
(成形工程)
本実施の形態の成形工程では、得られた原料粉(
図2(b))を成形型に入れ(
図2(c))、ピッチの軟化点よりも高い温度に加熱し、
図2(d)に示す所定の形状の成形体を得る。
図2(d)に示すように、本実施の形態では、ピッチの軟化点よりも高い温度に加熱した状態で保持しているので、小さな原料粉や、バインダの剥がれた原料粉であっても遊離することなく互いに結合しあい、一体化している。
【0046】
本実施の形態では、原料粉に熱を加えているので、付着力のない原料粉であっても2次粒子に取り込まれ一体化することができ、独立し遊離した炭素系粒子の発生を抑制することができる。
【0047】
本実施の形態の成形工程において、望ましい加熱時間は10分以上である。成形工程では熱の作用で成形しているので、加熱時間を長くすることにより原料粉をより軟化させ、強固に融着させることができる。加熱時間は、20分以上がより好ましく、40分以上がさらに好ましい。
【0048】
本実施の形態の成形工程は、成形工程として別に準備することは必須ではなく、後の焼成工程の初期段階を成形工程とすることができる。
図9に示すように例えば、強固な容器に原料粉を入れ、蓋をしたのちパッキング材に埋めて焼成してもよい。
図9(a)では、可燃性の容器に原料粉を充填され、
図9(b)では、パッキング材の充填された焼成容器に上記の容器が埋められ、
図9(c)では、温度を上昇させ、原料粉が溶融し成形されるとともに焼成され焼成体が得られている。容器は、発生する生成ガスが蓄積しないよう通気性を有していることが好ましいが、加熱されることにより通気性になる素材であってもよい。焼成の初期段階で原料粉が互いに融着し、所定の形状に成形される。さらに温度を上げると、発生する生成ガスが通気性の容器を通り抜け、外部に排出されるとともに温度の上昇とともに成形体は熱収縮していく。また、容器は可燃性であることが好ましい。容器が可燃性であると焼成の過程で容器が炭化し原型をとどめなくなる。パッキング材に埋まっているので成形体の収縮に伴ってパッキング材が追随し、変形を防止することができる。通気性を有し、可燃性の容器としては、通気性を確保するために多数の穴を穿孔した厚紙などが利用できる。
【0049】
また、本実施の形態の成形工程では、熱だけでなく、圧力を併用して成形してもよい。圧力を加えることによって、成形型の形状を転写し、寸法精度の高い多孔質炭素系材料を得ることができる。
【0050】
以下、本発明の特徴を明確にするため、従来の多孔質炭素系材料、従来の緻密な等方性炭素系材料(等方性黒鉛材料)について、特に成形工程を中心に説明する
【0051】
従来の多孔質炭素系材料においては、
図3(a)に示す炭素系粒子とピッチとを混錬し、
図3(b)に示す原料粉を得る。そして、
図3(c)及び(d)に示す成形工程、
図3(e)に示す焼成工程を行う。
図3(c)は成形前の段階、
図3(d)は成形後の段階を示す。従来の方法においては、
図3(c)及び(d)に示す成形工程は、ピッチを溶融させることなく主に圧力の作用によって行われている。このため圧力が加わった粒子の接点では強く結合するのに対し、圧力が加わらなかった粒子の接点では強く結合することができない。多孔質炭素系材料の製造においては、粗い原料粉を使用するので、型に充填した段階で大きな空隙が形成され、大きな空隙に入り込んだ原料粉に十分に圧力が加わりにくい。このため他の粒子と一体化することができず遊離した2次粒子となって、素材の強度に寄与せず、パーティクルを生成させるだけの異物となる。
【0052】
また、従来の等方性黒鉛材料においては、
図4(a)に示す炭素系粒子とピッチとを強く混錬し、
図4(b)に示すように塊状の混錬物が得られる。混錬物を微粉砕して
図4(c)に示す原料粉を得る。その後、
図4(d)及び(e)に示すように、原料粉を高い圧力で成形して成形体を得た後、
図4(f)に示す焼成工程、必要に応じて黒鉛化することによって、等方性黒鉛材料が得られる。なお、
図4(d)は成形前の段階、
図4(e)は成形後の段階を示す。
【0053】
従来の黒鉛質の等方性炭素系材料(等方性黒鉛材料)では、粉砕後の原料粉が細かいので成形時に大きな空隙ができにくく、圧力が均等に伝播しやすいので遊離した粒子を生じさせにくい。また、空隙自体が細かいので、遊離した状態の2次粒子があっても内部に封じ込められ、パーティクルの原因となりにくい。
【0054】
(焼成工程)
本発明に係る本実施の形態の焼成工程は、得られた成形体(
図2(d))を不活性雰囲気下で加熱し、
図2(e)に示す焼成体を得る。本実施の形態では、焼成体が多孔質炭素系材料となる。
【0055】
焼成の温度は例えば700~2000℃であることが好ましい。焼成を700℃以上で行うことにより成形体から揮発分を十分に除去し、多孔質炭素系材料として使用可能となる。焼成の温度は、800℃以上がより好ましく、900℃以上がさらに好ましい。
【0056】
炭素系材料は、用途に応じて適切な黒鉛化度があり、例えば電解電極などでは黒鉛化度の低い炭素質の素材が望ましく、鋳造用では黒鉛化度の高い黒鉛質の素材が好ましい。焼成を2000℃以下で行うことにより、多孔質炭素系材料に十分な硬度を与え、例えば電解電極で使用可能な多孔質炭素系材料を得ることができる。焼成の温度は、1800℃以下がより好ましく、1500℃以下がさらに好ましい。
【0057】
本発明に係る本実施の形態の製造方法では原料粉を成形工程で軟化させるため、原料工程の段階でピッチを十分に重縮合させていない。このため多くの揮発分を含んでいるが、そもそも成形後の段階で多孔質であるので、速やかに分解ガスを外部に拡散させ、成形体内部で揮発分が炭素化することによる高密度化、気孔の封止を防止でき、クラックを防止することができる。
【0058】
本発明に係る本実施の形態の焼成工程では、パッキング材の平均粒子径が原料粉より粗い(大きい)ことが好ましい。パッキング材の平均粒子径が原料粉より粗いと、成形体から発生したタール状の生成物が成形体内にとどまらず速やかに拡散し、多孔体の気孔の形成を促進することができる。
【0059】
以上の工程を経て得られる多孔質炭素系材料は、少なくとも材料の内部において、2次粒子が独立することなく互いに結合しており、遊離した粒子の存在が抑えられている。よって、材料の表面から粒子、微粒末が漏れ出てくることを抑制することができる。
【0060】
(黒鉛化工程)
実施の形態2(
図1(b)参照)は、焼成工程の後、さらに黒鉛化を行い、黒鉛質の多孔質炭素系材料が得られている。黒鉛化の温度は2000~3500℃であることが好ましい。2000℃以上の温度で黒鉛化することにより切削性が良好になり、焼き入れ鋼による切断加工や切削加工が容易にできるようになる。さらに黒鉛化を行うことにより、例えば溶融金属などに対する耐食性を高くしたり、熱伝導率、耐熱衝撃性を高くすることができ、冶金、鋳造などの用途でも好適に使用できる。黒鉛化の温度は、2200℃以上がより好ましく、2500℃以上がさらに好ましい。
【0061】
本実施の形態では、最大気孔径が50~1000μmであることが好ましい。最大気孔径が50μm以上であると、多孔質炭素系材料として様々な用途で好適に利用できる。最大気孔径は、80μm以上がより好ましく、100μm以上がさらに好ましい。
最大気孔径が1000μm以下であると、十分な比表面積が得られ、気孔内部の表面を十分に利用できる。最大気孔径は、800μm以下がより好ましく、500μm以下がさらに好ましい。
なお、最大気孔径は水銀圧入法によって測定することができる。
【0062】
(実施例)
炭素系粒子として平均粒子径300μmのアモルファス系のピッチコークス100重量部、バインダとして軟化点150℃のピッチ25重量部を原材料に用い、連続式ニーダーで混錬した。なお、連続式ニーダーの温度は250℃となるように設定した。連続式ニーダーに投入されたピッチは速やかに溶融し炭素系粒子と混合され、混錬物が得られた。なお、連続式ニーダーの混錬時間は1分であり、ピッチはほとんど重縮合を進行させなかった。
【0063】
次に得られた混錬物を粗粉砕し、2mmの篩を通し、粒度調整を行った。得られた原料粉の平均粒子径は900μmであった。
【0064】
得られた原料粉を開口が600×300mm、深さ80mmの金属製の型に充填し、金属製の蓋を被せ、周囲を200℃に加熱し、120分間保持したのち、ゆっくりと蓋を押し全体の形状を整えた。このときの加圧圧力は蓋の自重のみであり、2kPaであった。
【0065】
冷却後、型から取り出し、焼成缶に詰め、平均粒子径5mmのパッキングコークスに埋め900℃で焼成した。
【0066】
(比較例1)
成形工程を100℃、面圧15MPaで型押し成形した以外は実施例と同様に多孔質炭素系材料を製造した。
【0067】
(比較例2)
炭素系粒子として平均粒子径15μmのアモルファス系ピッチコークス100重量部に対し、バインダとしてピッチ60重量部を加え、200分混錬した。なお、混錬の過程でピッチは重縮合し軟化点は200℃以上に上昇していた。なお、本比較例では、原料工程では、粉状の原料粉が得られず、塊状の固い混錬物が得られ、そのままでは成形工程の原料粉として使用できなかった。
【0068】
得られた混錬物を粉砕し、平均粒子径25μmの原料粉を得た。原料粉をゴムバッグに充填し、100MPaの成形圧でCIP成形した。得られた成形体を900℃で焼成し緻密な炭素質材料を得た。
【0069】
表1は、得られた実施例及び比較例の炭素質材料の物性値を示す。
図5は実施例及び比較例の気孔分布を示す。実施例は、比較例1および比較例2に対し、気孔率には大差はないが、大きな平均気孔径を示している。また、実施例は、比較例1に比べて高い曲げ強度を示している。
【0070】
【0071】
図6は、実施例で得られた多孔質炭素系材料の断面の偏光顕微鏡写真を示す。実施例の組織は、成形時に熱で互いに融着し角が丸まり、遊離した2次粒子の存在は見られなかった。また、水を用いて超音波洗浄しても、気孔からパーティクルが発生することはなかった。すなわち、2次粒子が独立することなく互いに結合していることが理解される。
【0072】
図7は、比較例1で得られた多孔質炭素系材料の断面の偏光顕微鏡写真を示す。比較例1で得られた多孔質炭素系材料では、パーティクルの原因となる細かな2次粒子が気孔の内部に残留していた(遊離した2次粒子)。さらに実施例と同様に水を用いて超音波洗浄したとき、気孔からパーティクルの発生が確認された。
【0073】
図8は、比較例2で得られた炭素系材料の断面の偏光顕微鏡写真を示す。比較例2で得られた緻密な炭素系材料では、そもそも大きな気孔の存在がなく、パーティクルの原因となる遊離した2次粒子の存在は確認できなかった。遊離した2次粒子が存在したとしても細かな気孔の内部に封じ込められ、外部に流出しにくくなっていると考えられる。
なお、実施例と同様に水を用いて超音波洗浄したとき、気孔からパーティクルの発生が確認された。強い洗浄力で気孔内部のパーティクルが外にただき出されたと推定される。