(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022178294
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】混信地帯推定装置
(51)【国際特許分類】
H04B 17/318 20150101AFI20221125BHJP
H04H 60/32 20080101ALI20221125BHJP
G01R 29/06 20060101ALI20221125BHJP
【FI】
H04B17/318
H04H60/32
G01R29/06 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021085005
(22)【出願日】2021-05-20
(71)【出願人】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(72)【発明者】
【氏名】唐木 太一
(57)【要約】 (修正有)
【課題】複数の送信所から発せられた信号で、受信する地点によりD/U比の悪化を招いて混信状態にあるエリアをドローンの自律飛行によって特定する混信地帯推定装置を提供する。
【解決手段】空中を飛行するドローンに搭載される混信地帯推定装置おいて、処理フローは、D/U比計算部と、D/U比境界位置策定部と、混信地帯推定部と、からなり、D/U比を計算しながらドローンが自律飛行し、閾値を下回るD/U比の地点と送信所の地点を使って幾何学的な処理から混信地帯を特定する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空中を飛行するドローンにおいて、
前記ドローンに積載したD/U比計算部と、
前記ドローンに積載したD/U比境界位置策定部と、
前記ドローンに積載した混信地帯推定部と、
からなる混信地帯推定装置
【請求項2】
前記D/U比境界位置策定部は、
既知であるところの2つの送信アンテナAとBを直線で結び、この直線上をドローンがD/U比を計算しながら飛行し、
当該D/U比が予め設定した閾値以下である境界の2地点EとFを策定することを特徴とする請求項1に記載の混信地帯推定装置。
【請求項3】
前記混信地帯推定部は、
請求項2の境界位置において、前記送信アンテナBからみて遠い方をFとし、同様に前記送信アンテナAからみて遠い方をEとした場合に、
中心をBとしFを通る円と、中心をAとしEを通る円の重なり部分を混信地帯であると推定することを特徴とする請求項1乃至請求項2に記載の混信地帯推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同一信号を複数アンテナから放射した場合に、測定点への到達時間の差によって前記信号が希望波と不要波として受信されることになるが、飛行体に電界強度測定器を載せて飛行させ、当該希望波と不要波の比であるところのD/U比を自律飛行により測定するものである。
【背景技術】
【0002】
電波の混信障害は、目的とする放送局の電波に目的としない放送局あるいは無線局の電波が混入することにより発生する。ここで目的とする電波を希望波(Desired Signal略してD)と呼び、目的としない電波を妨害波あるいは非希望波(Undesired Signal略してU)と呼ぶ場合に、DとUの電力の比「D/U比」は混信の度合いを示す指標となり、大きいほど混信の度合いが小さく、小さいほど混信の度合いが大きい数値である。
【0003】
本発明における混信の原因であるところの非希望波は希望波と同一信号であり、
図1に示すように、送信所Aからの信号を信号処理しようとする場合に送信所Bからの信号も受信してしまうことから起こるものである。送信所が2か所の場合、当該混信は、送信時刻をTとした場合に受信点と2つの送信所との距離の違いによる受信時刻T+t1とT+t2が異なることから発生する。
【0004】
一例として地上デジタル放送のD/U比の測定原理を述べる。地上デジタル放送ではOFDMフレームの4シンボル期間毎に同じ配置で挿入されている復調基準信号(SP信号)を用いて遅延プロファイルを求め、既知であるSP信号の相関により2つの受信信号を明確に切り分け、信号電力の強い方を希望波(D)、弱い方を非希望波(U)とし、D/U比を計算する。
【0005】
以上のような混信状況を調べるにあたっては、これまでは、映像や音声が乱れる家のテレビ端子に測定器を接続してD/U比を計測したり、また、屋根にアンテナを搭載した測定車を走らせて道路上の任意の位置で電界強度を測定してD/U比を計測するしかなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記のような電界強度測定器を車に搭載して電界強度を測定する特許文献の1例が特許文献1である。この特許文献においては測定者が測定器のスイッチ類を操作することなく、所定のエリアに入った時に自動的に電界強度を測定する手段を示したものである。
【0008】
このように、混信地帯を探るべく、D/U比を測定するために電界強度を測定する手段は様々な方法が考案されているが、いずれも人の手を介するものであり、また、車が走行できるところでなければならないなど、任意の位置での測定はできないといった制約があった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
空中を飛行するドローンにおいて、
前記ドローンに積載したD/U比計算部と、
前記ドローンに積載したD/U比境界位置策定部と、
前記ドローンに積載した混信地帯推定部と、
からなる混信地帯推定装置とする。
【0010】
前記D/U比境界位置策定部は、
既知であるところの2つの送信アンテナAとBを直線で結び、この直線上をドローンがD/U比を計算しながら飛行し、
当該D/U比が予め設定した閾値以下である境界の2地点EとFを策定することを特徴とする混信地帯推定装置とする。
【0011】
前記混信地帯推定部は、
前記境界位置において、前記送信アンテナBからみて遠い方をFとし、同様に前記送信アンテナAからみて遠い方をEとした場合に、
中心をBとしFを通る円と、中心をAとしEを通る円の重なり部分を混信地帯であると推定することを特徴とする混信地帯推定装置とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の請求項1によれば、D/U比境界位置を策定するようドローンが自律飛行するため、混信地帯を特定するための準備が容易であり、測定時間を短縮できる。ドローンのホバリング機能により安定した高度で測定が出来るため、高度に依存した測定誤差が無く、効率的に混信地帯を特定できる。
【0013】
本発明の請求項2によれば、混信地帯と非混信地帯の境界であるところのD/U比境界位置を自律飛行するドローンに搭載したD/U比境界位置策定部により特定することが可能になる。
【0014】
本発明の請求項3によれば、複数のアンテナから電波を送信したことによって生じる混信の発生エリアを自律飛行するドローンに搭載した混信地帯推定部により推定することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【実施例0017】
以下に記すD/U比測定手段でなくとも、いかなる方法でD/U比測定を実現してもよく、本発明はD/U比を測定しながらドローンが自律飛行するための飛行ルート決定方法に関する部分である。送信所から送信される電波にはデジタル波とアナログ波があるが、まずデジタル信号の場合について説明する。
【0018】
図1は測定点105に送信所Aの101と送信所Bの103からそれぞれ電波が到来することによって発生する混信を示したものである。本発明においては受信波電力が高い信号を希望波、低い信号を非希望波と定義する。また、101と103から送信された信号は同一のものであり、例えばテレビジョン信号であれば同一放送信号である。さらに、簡単化のために送信所は2か所として説明する。
【0019】
105から101までと105から103までの距離が異なることから、信号の到来にかかる遅延時間も異なり、時刻Tに送信された信号は、101からはT+t1、105からはT+t2に到来するため、測定点において混信が発生する。
【0020】
図2はドローンに搭載された混信地帯推定装置の処理フローである。
混信地帯推定装置においてはまず201希望波・非希望波分離部にて到来した電波を希望波と非希望波に分離する。2か所の送信所から電波が送信された場合の到来信号列の様子を
図4に示す。なお、本発明においては受信電力が高い方を希望波、小さい方を非希望波とし、両者は同一の送信データ列であると定義する。
【0021】
受信信号は401と403が混然一体となったものである。まず、受信信号から、フレーム間隔で送信される基準信号を探す。これは、既知であるところの基準信号列と受信データの相関を取りながらスイープし、相関値が最大となる部分を401の基準信号であるとする。
【0022】
F(k)=Σ(a(i)×f(i+k))という数式はこの計算を現したもので、a(i)は既知である基準信号列、f(i+k)は受信信号列であり、iは0から基準信号の長さまでを示し、kは受信信号列の遅れを示す。Σは基準信号の幅に相当する区間のiに関する積和である。401における基準信号が解析開始点からmだけ遅れて到来したとすると、F(m)=Σ(a(i)×f(i+m))が最大値となる。
【0023】
このような計算をkの値を増加させながら行うと、
図5のような曲線を得ることが出来る。これは基準信号について、受信信号との相関をとった場合、遅延mとnの時に大きな値であったことを示している。このことにより、受信信号列においては解析開始点からmサンプル後とnサンプル後から基準信号が始まっていることがわかるため、401と403では(n-m)サンプルのずれがあることがわかるのである。なお、ここでいう1サンプルは個々の信号幅を示している。
【0024】
図2の203のD/U比計算部では次のような計算をする。つまり、前記のように複数の送信所から送信された信号に関し、測定点までの距離に応じた遅延時間で到来した場合に送信所からのそれぞれの遅延時間がわかり、それぞれの基準信号の位置がわかる。
【0025】
この位置から既知である基準信号と相関の強い成分のみをフィルタリングし抽出する。そして抽出された信号の電力を計算する。例えば送信所から電力Aで送信した401の基準信号の電力がxA、403の基準信号の電力がyAであれば、401と403の電力比はx:yとなる。なお、前記フィルタリングの手段は本発明においては取り決めるものではなく、一般的なFIRフィルタで線形予測する手段等、様々な方法が考えられる。
【0026】
ここまでで求まった401と403の2つの受信電力について、前記に定義したように、大きな方を希望波の電力、小さな方を非希望波の電力であると決め、その比をD/U比とする。
【0027】
以上がデジタル信号に関する説明であったが、アナログ信号についても相関値を取るなどの考え方は同一である。つまり、デジタル信号のように基準信号がデータ信号と分離されているのではなく、例えば人間に聞こえない周波数の既知の波を信号に重畳させる方法が一般的であり、この重畳させた信号をデジタル信号で言うところの基準信号と同様に捉え、その相関を取るのである。
【0028】
なお、ここまでは定義のとおり、同一の送信データを複数の送信所から送信する例を述べたが、異なる既知の送信データであれば、希望波の周波数と非希望波の周波数でそれぞれバンドパスフィルタを通して分離して電力比計算をすることができるし、また、信号全体を減衰させて、非希望波の信号が消えるまでの減衰量を測る方法も考えられる。
【0029】
このように、D/U比の測定方法は他にも考えられ、本発明には含まない。
【0030】
以下に本発明にかかる、ドローンを自律飛行させるための手段について述べる。
【0031】
混信地帯を推定するために、前記のようなD/U比計算手段をとりながらドローンが飛行するにあたっての205D/U比境界位置策定部と207混信地帯推定部の動作を送信所が2か所存在するとして説明する。
【0032】
まず、
図3のように既知の2か所の送信所の地点間を直線で結ぶ。ドローンはD/U比を測定しながら地点301Aから地点303Bへと飛行する。
図3には併せてその際の測定結果であるところのD/U比のグラフも記載している。
【0033】
当該グラフに挿入されている閾値とは、混信の影響が急激に大きくなるD/U比であり、経験的な値が定まっている。D/U比は送信所301A、303Bの近辺であれば大きな数値となり混信の度合いが低い。また、送信所から離れ、両者の中間地点においては混信の度合いが高くなるためD/U比も小さくなる。
図3に挿入したグラフはそれを示している。
【0034】
なお、ここまで記載したようなD/U比が問題となるのは希望波と非希望波の同期が取れていない場合であり、もし完全に同期が取れていればそもそも混信は発生しない。従って完全に同期が取れている場合に送信所の丁度中間地点に発生する不連続点については本発明では考慮しないこととする。
【0035】
205D/U比境界位置策定部では、301Aと303Bの間をドローンがD/U比を計算しながら飛行し、D/U比が前記閾値を下回る区間の両端305Fと307Eを調べる。つまり、305Fから307Eにかけては混信の度合いが強く、それ以外の領域ではどちらかの送信所からの電波が強いため混信の度合いが低いということである。
【0036】
次に207混信地帯推定部について説明する。
図3において、場所が既知であるところの301A、303Bと、前記D/U比計算手段によりD/U比が閾値を下回る両端の305F、307Eが定まっていることを利用する。
【0037】
まず、301Aを中心とし、301Aから307Eの距離を半径とする円を描く。次に、303Bを中心とし、303Bから305Fの距離を半径とする円を描く。この2つの円の重なり309を希望波と非希望波のレベル差が小さい混信地帯と推定するのである。本発明においては、これら円を描いたりD/U比の数値を求めるハードウエアを規定しないが、一般的にはドローンに搭載された混信地帯推定装置上にある演算処理にて行われる。
【0038】
また、前記のようにD/U比が問題となるのは希望波と非希望波の同期が取れていない場合であり、もし完全に同期が取れていればそもそも混信は発生しない。従って完全に同期が取れている場合に送信所の丁度中間地点に発生する不連続点については本発明では考慮しないこととするが、当該中間地点を特定しそこでの解析結果を除外する必要があったとしても、送信所の地点が既知であるからマップ上の処理により簡単に中間地点の除外を実施できる。
【0039】
本発明によれば、送信所の場所が既知であれば、前記のように自律的にドローンが飛行し、複数送信所による混信の影響が強い場所を機械的に特定することが可能になり、同作業において人手が不要になり、また、効率的に実施することが可能となる。