(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022178340
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】部材
(51)【国際特許分類】
A01N 25/34 20060101AFI20221125BHJP
A01N 59/16 20060101ALI20221125BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20221125BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20221125BHJP
C09D 5/14 20060101ALI20221125BHJP
C09D 7/62 20180101ALI20221125BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20221125BHJP
E03D 9/08 20060101ALI20221125BHJP
A47K 13/00 20060101ALI20221125BHJP
【FI】
A01N25/34 Z
A01N59/16 A
A01P1/00
C09D201/00
C09D5/14
C09D7/62
B32B27/18 F
E03D9/08 A
A47K13/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021085080
(22)【出願日】2021-05-20
(71)【出願人】
【識別番号】504163612
【氏名又は名称】株式会社LIXIL
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井戸田 靖弘
(72)【発明者】
【氏名】叶野 貴大
(72)【発明者】
【氏名】奥村 承士
(72)【発明者】
【氏名】夏目 素美
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 浩司
【テーマコード(参考)】
2D037
2D038
4F100
4H011
4J038
【Fターム(参考)】
2D037AA13
2D038JC03
2D038ZA00
4F100AB24A
4F100AC04A
4F100AK01A
4F100AK03
4F100AK51A
4F100AK74B
4F100AT00B
4F100BA02
4F100CA02A
4F100CC00A
4F100DE01A
4F100EH46
4F100EJ65
4F100EJ86
4F100GB90
4F100JC00
4F100JK06
4F100JK12
4F100YY00A
4H011AA02
4H011BB18
4H011DA11
4H011DC10
4J038DG001
4J038DG261
4J038HA066
4J038HA466
4J038KA15
4J038KA20
4J038MA14
4J038NA05
4J038PA06
4J038PA19
4J038PB02
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】少なくとも抗菌性を持続可能な部材を提供する。
【解決手段】銀イオンを担持したゼオライト粒子9を含有する塗膜7が備えられた部材1である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀イオンを担持したゼオライト粒子を含有する塗膜が備えられた部材。
【請求項2】
前記ゼオライト粒子の平均粒子径が0.1μm以上20μm以下である、請求項1に記載の部材。
【請求項3】
前記ゼオライト粒子は、前記塗膜の樹脂固形分100質量部に対して、1質量部以上30質量部以下含まれる、請求項1及び請求項2のいずれか一項に記載の部材。
【請求項4】
前記塗膜の厚みが1μm以上50μm以下である、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の部材。
【請求項5】
水まわりに用いられる、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の部材。
【請求項6】
便座、便蓋、トイレ室内に設置される洗浄ボタン、前記トイレ室内に設置される洗浄レバー、前記トイレ室内に設置される手すり、前記トイレ室内に設置されるトイレ用リモコン、前記トイレ室内に設置される紙巻き器、及び水栓レバーからなる群より選択される、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、部材に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1-9に記載されているように、銀等の無機系抗菌剤が添加された塗料を用いた部材は公知技術として多数存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2014-522415号公報
【特許文献2】国際公開第2017/150063号
【特許文献3】特開2018-83179号公報
【特許文献4】特開2008-74778号公報
【特許文献5】特開2015-80887号公報
【特許文献6】特開2007-223925号公報
【特許文献7】特開2008-1557号公報
【特許文献8】実用新案登録第3207443号公報
【特許文献9】実用新案登録第3152333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1-9の技術では、無機成分が一度溶出してしまうと、抗菌性能等が持続しないという課題あった。
【0005】
本開示は、このような事情に鑑み、少なくとも抗菌性を持続可能な部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
銀イオンを担持したゼオライト粒子を含む塗膜を備えた部材。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る部材の断面の概念図である。
【
図2】
図2は、一実施形態に係る部材の断面の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書において、「抗菌性」の用語は、菌を不活化すること(菌の感染力を低下させることも含む)、及び菌の増殖を抑制することの両方の意味を含む用語として使用する。「抗ウイルス性」の用語は、ウイルスを不活化すること(生物の細胞に侵入して増殖する機能を失わせること)の意味を含む用語として使用する。
【0009】
1.部材
部材には、銀イオンを担持したゼオライト粒子を含有する塗膜が備えられている。部材の形状は、特に限定されない。
(1)ゼオライト粒子
本開示のゼオライト粒子は、銀イオンを担持している。ゼオライト粒子は、ゼオライト中のイオン交換可能なイオンの少なくとも一部が銀イオンで置換されている。ゼオライト粒子は、少なくとも抗菌性を有する。ゼオライト粒子は、少なくとも抗菌性を持続性可能である。本開示のゼオライト粒子を構成するゼオライトとしては、天然ゼオライト及び合成ゼオライトのいずれも用いることができる。ゼオライトは、一般に三次元骨格構造を有するアルミノシリケートであり、一般式としてxM2/nO・Al2O3・ySiO2・zH2Oで表示される。Mはイオン交換可能なn価のイオンを表し、通常は1又は2価の金属のイオンである。xは金属酸化物のモル数、yはシリカのモル数、zは結晶水のモル数を表示している。ゼオライトの具体例としては、例えば、A型ゼオライト、X型ゼオライト、Y型ゼオライト、T型ゼオライト、高シリカゼオライト、ソーダライト、モルデナイト、アナルサイム、クリノプチロライト、チャバサイト、エリオナイト等を挙げることができる。但し、これらに限定されるものではない。
【0010】
ゼオライトのイオン交換容量は、典型的にはA型ゼオライトが7meq/g、X型ゼオライトが6.4meq/g、Y型ゼオライトが5meq/g、T型ゼオライトが3.4meq/g、ソーダライトが11.5meq/g、モルデナイトが2.6meq/g、アナルサイムが5meq/g、クリノプチロライトが2.6meq/g、チャバサイトが5meq/g、エリオナイト3.8meq/gである。いずれのゼオライトも、銀イオンによりイオン交換するのに充分な容量を有している。
【0011】
ゼオライト中のイオン交換可能なイオンとしては、例えば、ナトリウムイオン、カルシウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、鉄イオン等が挙げられる。本開示では、ゼオライト中のイオン交換可能なイオンの少なくとも一部を、銀イオンで置換(イオン交換)することによって、ゼオライトに抗菌性及び抗ウイルス性の少なくとも一つの特性を付与している。ゼオライト中のイオン交換可能なイオンの全部を銀イオンで置換(イオン交換)してもよい。ゼオライト粒子中の銀イオン濃度は、少なくとも0.02質量%以上であればよい。銀イオン濃度は、抗菌性及び抗ウイルス性の少なくとも一つの特性を十分に発揮させる観点から0.1質量%以上15質量%以下であることが好ましい。本明細書において、ゼオライト粒子中のイオン濃度に関して使用される単位「%」は、110℃乾燥基準の質量%である。
【0012】
ゼオライト粒子の平均粒子径は、特に限定されない。ゼオライト粒子の平均粒子径は、塗膜中でのゼオライト粒子の凝集を抑制して、少なくとも抗菌性を十分に発揮させる観点から、0.1μm以上が好ましく、1.0μm以上がより好ましく、1.5μm以上が更に好ましい。他方、塗膜の表面の荒れを抑制して、塗膜の意匠性を高める観点から、20μm以下が好ましく、9.0μm以下がより好ましく、3.5μm以下が更に好ましい。これらの観点からゼオライト粒子の平均粒子径は、0.1μm以上20μm以下が好ましく、1.0μm以上9.0μm以下がより好ましく、1.5μm以上3.5μm以下が更に好ましい。平均粒径は動的光散乱法に従って測定することができる。平均粒子径を、好ましくは0.1μm以上20μm以下とし、より好ましくは1.0μm以上9.0μm以下とし、更にこのましくは1.5μm以上3.5μm以下とすることで、ゼオライト粒子が塗膜の光線透過率に与える影響が少なくできるため、塗膜の透明性を担保でき、クリアーな塗膜とすることができる。
【0013】
塗膜が銀イオンを担持したゼオライト粒子を含有していることは、塗膜の断面をEPMA分析することで確認できる。塗膜を削り出し、灰化することでも、無機成分(Ag、Al、Si)を定性分析できる。
【0014】
(2)塗膜
塗膜を形成するための塗料組成物は、特に限定されない。熱硬化型樹脂を含有する塗料組成物を用いることができる。熱硬化型樹脂としては、例えば、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、シリコン樹脂、アクリルシリコン樹脂、アクリルウレタン樹脂等を挙げることができる。これらの中でも透明性が高く塗布が容易であることから、ウレタン樹脂を含有する塗料組成物が好適に使用される。
【0015】
ウレタン樹脂を含有する塗料組成物としては、アクリルポリオール、アルキッドポリオール、ポリエステルポリオール等の主剤と、硬化剤としてイソシアネート化合物を混合した2液ウレタン塗料が例示される。2液ウレタン塗料としては、例えばアクリルウレタン塗料が好適に使用される。
【0016】
ゼオライト粒子の含有量は、特に限定されない。ゼオライト粒子は、少なくとも抗菌性を持続的に十分発揮させる観点から、塗膜の樹脂固形分100質量部に対して、1質量部以上含まれることが好ましく、3質量部以上含まれることがより好ましく、5質量部以上含まれることが更に好ましい。他方、製造コストの観点から、30質量部以下含まれることが好ましく、20質量部以下含まれることがより好ましく、15質量部以下含まれることが更に好ましい。これらの観点からゼオライト粒子は、1質量部以上30質量部以下含まれることが好ましく、3質量部以上20質量部以下含まれることがより好ましく、5質量部以上15質量部以下含まれることが更に好ましい。
【0017】
塗膜の厚みは、特に限定されない。塗膜の厚みは、少なくとも抗菌性を持続的に十分発揮させる観点から、1μm以上が好ましく、2μm以上がより好ましく、5μm以上が更に好ましい。他方、塗膜の硬度を十分に確保し、かつ基材への十分な密着性を確保し、厚みむらを抑制する観点から、50μm以下が好ましく、40μm以下がより好ましく、30μm以下が更に好ましい。これらの観点から塗膜の厚みは、1μm以上50μm以下が好ましく、2μm以上40μm以下がより好ましく、5μm以上30μm以下が更に好ましい。
【0018】
塗膜は、シリカ、顔料、染料、レベリング剤、金属粉、ガラス粉、抗菌剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定化剤等を含有していてもよい。
【0019】
(3)基材
本開示の部材が備える基材は、特に限定されない。基材としては、例えば、樹脂基材、金属基材、ガラス基材等が用いられる。樹脂基材を構成する樹脂は特に限定されない。樹脂基材を構成する樹脂としては、例えば、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル-エチレンプロピレン系ゴム-スチレン共重合体(AES樹脂)、スチレン-アクリロニトリル共重合体(SAN樹脂)、アクリロニトリル-塩化ポリエチレン-スチレン共重合体(ACS樹脂)、等のスチレン系樹脂、ポリプロピレン(PP樹脂)、低密度ポリエチレン(LDPE樹脂)、高密度ポリエチレン(HDPE)等のオレフィン系樹脂、ポリオキシメチレンホモポリマー等のポリアセタール(POM)樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等の塩化ビニル系樹脂、エチレン塩化ビニル酢酸ビニル共重合体、エチレン塩化ビニル共重合体等の塩化ビニル系共重合樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA樹脂)等のアクリル系樹脂、ポリカーボネート(PC)、変性ポリカーボネート等のポリカーボネート系樹脂、ハイインパクトポリスチレン、ミディアムインパクトポリスチレンのようなゴム補強スチレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PETP樹脂、PET樹脂)、ポリブチレンテレフタレート(PBTP樹脂、PBT樹脂)等のポリエステル系樹脂、ポリアミド66、ポリアミド6、ポリアミド46等のポリアミド系樹脂、ポリオキシメチレンコポリマー、その他のエンジニアリング樹脂、スーパーエンジニアリング樹(例えば、ポリエーテルスルホン(PES樹脂)、ポリエーテルイミド(PEI樹脂)、熱可塑性ポリイミド(TPI樹脂)、ポリエーテルケトン(PEK樹脂)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK樹脂)、ポリフェニレンサルファイド(PSU樹脂))、セルロースアセテート(CA樹脂)、セルロースアセテートブチレート(CAB樹脂)、エチルセルロース(EC樹脂)等のセルロース誘導体、不飽和ポリエステル系、アクリル系、ビニルエステル系、ウレタン系、エポキシ系等の熱硬化性樹脂が挙げられる。樹脂単体に限らず、これら樹脂には、有機顔料、無機顔料、難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、帯電防止剤等の添加剤、有機骨材、無機骨材、ガラス繊維等のフィラーを添加しても良い。金属基材を構成する金属は特に限定されない。金属基材を構成する金属としては、例えば、ステンレス、アルミニウム、鉄、銅、真鍮等が挙げられる。ガラス基材を構成するガラスとしては、各種無機ガラスが挙げられる。
【0020】
基材と塗膜との間にプライマー層が配されていてもよい。この場合には、基材、プライマー層、塗膜の順で積層される。プライマー層の種類は、特に限定されない。アクリルウレタン塗料の塗膜の場合には、塗膜と基材の密着性を良好にする観点から、例えば、ポリオレフィン樹脂系のプライマーを用いて形成されたプライマー層が好適である。プライマー層の膜厚は特に限定されない。プライマー層の膜厚は、塗膜と基材の密着性を良好にする観点から0.1μm以上5μm以下が好ましい。部材の構成例を
図1に示す。
図1の符号「1」は部材を示す。符号「3」は基材を示す。符号「5」はプライマー層を示す。符号「7」は塗膜を示す。符号「9」は銀イオンを担持したゼオライト粒子を示す。基材と塗膜との間にプライマー層がなく、基材と塗膜とが直接積層されていてもよい。この場合には、
図2に示すように、基材、塗膜の順で積層される。
図2においても符号は
図1と共通である。
【0021】
(4)部材の用途
本開示の部材の用途は、特に限定されない。部材は、水まわりに用いられることが好ましい。水まわりとは、建物の中のトイレ、洗面所、台所、浴室等の水を使う場所のことを意味する。部材が水まわりに用いられることで、少なくとも抗菌性が効果的に持続される。部材は、水まわり部材として好適に用いられる。水まわり部材は、水まわり周辺に設置される部材である。代表的な水まわりを
図3、
図4、及び
図5に示す。
図3は、トイレ10及びトイレ室内12を示す。
図4は、洗面化粧台20を示す。
図5は、キッチン30を示す。水まわり部材としては、例えば、トイレ10に備えられる便座11、便蓋13、トイレ室内12に設置される洗浄ボタン15、トイレ室内12に設置される洗浄レバー17、トイレ室内12に設置される手すり19、トイレ室内12に設置されるトイレ用リモコン21、トイレ室内12に設置される紙巻き器23、洗面化粧台20に設けられる水栓レバー25、キッチン30に設けられる水栓レバー25からなる群より選択される部材が挙げられる。部材の形状は、図面に示す形状に限定されない。
【0022】
2.部材の製造方法
部材の好適な製造方法の一例を示す。
(1)基材の脱脂工程
脱脂工程は、基材と塗膜の密着確保のため、基材の汚れ(油や埃等)を除去する工程である。例えば、脱脂には、アルコール(IPA(イソプロピルアルコール)、エタノール等)が用いられる。具体的には、アルコール等を染み込ませた布で、基材の表面を拭く。
【0023】
(2)プライマー塗布工程(プライマー層の形成工程)
プライマー塗布工程は、基材と塗膜をより密着させるために行う工程である。具体的には、スプレーガン等により、基材にプライマーを塗布する。
【0024】
(3)第1セッティング工程
第1セッティング工程は、プライマーの溶剤を蒸発させ、突沸を防ぐために行う工程である。塗布後の基材を所定時間、静置する。
【0025】
(4)塗料の調合(クリヤー調合)
銀イオンを担持したゼオライト粒子に溶剤(例えばシンナー)を入れて混合する。次に塗料の主剤を入れて混合する。次に塗料の硬化剤を入れて混合する。このようにして、塗料が調合される。
【0026】
(5)塗料の塗布工程(塗膜の形成工程)
塗料を基材に対して塗布する。乾燥後の塗膜の膜厚が目標値になるように、塗布後の湿潤質量(WET質量)を調整する。
【0027】
(6)第2セッティング工程
第2セッティング工程は、塗料中の溶剤を蒸発させ、突沸を防ぐために行う工程である。塗布後の基材を所定時間、静置する。
【0028】
(7)焼付工程
焼付工程は、塗料中の主剤と硬化剤を反応させるために行う工程である。この工程によって、アクリルウレタン塗料では、ウレタン結合が形成される。所定温度の乾燥炉にて所定時間の焼き付けを行う。
【0029】
3.塗膜が備えられた部材の効果
本開示の塗膜が備えられた部材は、少なくとも抗菌性を有する。この部材の少なくとも抗菌性は、持続性を有する。例えば、水に触れるように使用されても、この部材の少なくとも抗菌性が持続する。
【0030】
本開示の塗膜が備えられた部材は、抗ウイルス性を有する場合がある。この場合には、抗ウイルス性は、持続性を有する。
【実施例0031】
1.実験例の評価サンプルの作製
表1に示すno.1からno.25及び表2に示すno.26からno.49の各種評価サンプル(以下、塗装品ともいう)を準備した。評価サンプルは、ABS樹脂の基材を用いて以下の手順で作製した。
【0032】
(1)基材の脱脂工程
脱脂には、アルコール(IPA(イソプロピルアルコール))を用いた。具体的には、アルコールを染み込ませた布で、基材の表面を拭いた。
【0033】
(2)プライマー塗布工程(プライマー層の形成工程)
基材の表面にプライマーをスプレー塗布した。プライマーとして、大橋化学工業社製の商品名オーフレックスプライマーSL(ポリオレフィン樹脂系プライマー)を用いた。プライマー層の膜厚は0.3μmとした。
【0034】
(3)第1セッティング工程
プライマー塗布後の基材を、平衡のとれた机の上で常温にて10分間静置した。
【0035】
(4)塗料の調合(クリヤー調合)
銀イオンを担持したゼオライト粒子(以下、「銀担持ゼオライト粒子」とも記載する)に溶剤(シンナー)を入れて混合した。銀担持ゼオライト粒子として、株式会社シナネンゼオミックのAJ10Nを用いた。銀担持ゼオライト粒子の平均粒子径は、2.5μmであった。平均粒子径は、次のようにして求めた。銀担持ゼオライト粒子の1質量%水溶液を調製した。この水溶液を大塚電子製「多検体ナノ粒子径測定システム nanoSAQLA」にてキュムラント平均粒子径を求めた。
【0036】
銀担持ゼオライト粒子と溶剤の混合物に、2液ウレタン塗料の主剤(大橋化学工業社製のポリナールNo.800(HN-B)31 エメラルドBKGクリヤーNo.2934)を入れて混合した。更に、イソシアネート系硬化剤(大橋化学工業株式会社製硬化剤IP-60)を添加して混合した。主剤5に対し硬化剤1の比率(質量基準)とした。銀担持ゼオライト粒子の含有量は、塗膜の樹脂固形分100質量部に対して、表に記載の量(質量部)となるようにした。このようにして、塗料を調合した。
【0037】
(5)塗料の塗布工程(塗膜の形成工程)
塗料を基材に対してスプレーガンで塗布した。乾燥後の塗膜の膜厚が所定値になるように、塗布後の湿潤質量(WET質量)を調整した。
【0038】
(6)第2セッティング工程
塗布後の基材を、平衡のとれた机の上で常温にて10分間静置した。
【0039】
(7)焼付工程
70℃の乾燥炉にて30分間の焼き付けを行った。
【0040】
2.比較例の評価サンプルの作製
銀担持ゼオライト粒子の代わりに表3に示す各種添加剤を用いた以外は、実験例の評価サンプルと同様にして比較例の評価サンプルを作製した。比較例の評価サンプルの仕様を以下に示す。
・基材:ABS樹脂
・無機系添加剤
ノバロンIV1000(ノバロンは登録商標):銀系添加剤 東亞合成株式会社製
イオンピュアKN(イオンピュアは登録商標):銀担持ガラス 石塚硝子株式会社製
カルテック(商品名):水酸化カルシウム 鈴木工業株式会社製
酸化亜鉛試薬:林純薬工業株式会社製
・塗膜厚み:10μm
・含有量:塗膜の樹脂固形分100質量部に対して10質量部
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】
3.評価方法
評価サンプルに対して表に記載の耐久試験を行い、各種の評価をした。
(1)耐久試験の詳細
表中の耐久試験の詳細を説明する。
・初期(耐久試験前)
初期の状態の塗装品を評価した。塗装後の塗装品をそのまま評価した。
・耐水16h
SIAA(抗菌製品技術協議会)で決められている持続性試験区分の耐水区分1に準拠した。塗装品を常温の水に16h浸漬させた後の塗装品について評価した。
・耐酸48h
塗装品を塩酸10%の水溶液に48h浸漬し、水で洗浄した後の塗装品について評価した。
・耐摩耗布15000回
塗装品の塗膜の表面に対し、接触子として台布巾を用いて、試験片245Paの圧力(5cm×5cmの面積当たりに1kgfの荷重)をかけて、摺動摩耗試験機により15000回の摩擦を加えた。この後に、上述の抗菌・抗ウイルス試験を行い、摩耗後の塗装品について評価した。
・耐温水60℃16h
塗装品を60℃の温水に16h浸漬させた後の塗装品について評価した。
【0045】
(2)抗菌性の評価
抗菌性の評価は、JIS Z 2801:2012記載の評価方法に準拠し、大腸菌を使用し、菌液への接触時間を2時間に変更して試験を実施した。試験後の抗菌活性値を測定した。抗菌活性値が2.0以上であれば、抗菌性は良好である。比較例の抗菌性の評価は、JIS Z 2801:2012記載の評価方法に準拠し、大腸菌を使用し、菌液への接触時間を4時間に変更して試験を実施した。
【0046】
(3)抗ウイルス性の評価
抗ウイルス活性値は、ISO 21702:2019のプラーク測定法によって測定した。試験ウイルスとしてはAインフルエンザウイルス(H3N2)(A/Hong Kong/8/68;TC adapted ATCCVR-1679)を用い24時間後のウイルス感染価を測定した。ブランクフィルムとのウイルス感染価の差を抗ウイルス活性値とした。抗ウイルス活性値は2.0以上であれば、抗ウイルス性は良好である。試験概要を以下に示す。
<試験概要>
・試験ウイルス:Aインフルエンザウイルス(H3N2)(A/Hong Kong/8/68;TC adapted ATCCVR-1679)
・宿主細胞:MDCK細胞(イヌ腎臓由来細胞)
・洗い出し液:SCDLP培地
・放置条件:放置温度 25℃
放置時間 24時間
・サンプルサイズ:5cm×5cm
・密着フィルム:ポリエチレン(4cm×4cm)
・試験ウイルス懸濁液接種量:0.4mL
・試験片の洗浄化:試験片の全面を純度99%以上のエタノールを吸収させた局法ガーゼで軽く拭いた後、十分に乾燥させた。
【0047】
(4)外観の評価
塗膜の表面を目視した。外観は、以下の基準で評価した。
A:塗膜の外観に異常がなかった。
B:塗膜の端部にタレが若干観察された。
【0048】
(5)塗膜の基材への密着性(碁盤目試験)
JIS K 5600-5-6に準拠し、上記塗膜を2mm×2mmの碁盤目(10×10=100マス)にクロスカットし、この上に付着テープを張り付けて、引き剥し、100マス中、剥離せず密着しているマス目の個数を、目視で数え、以下の基準で評価した。100/100は、塗膜のはく離面積が0%である場合を示し、例えば、90/100は、塗膜のはく離面積が10%である場合を示し、50/100は、塗膜のはく離面積が50%である場合を示す。
【0049】
(6)鉛筆硬度
JIS K5600-5-4:1999に準拠し、200g荷重の条件で、三菱鉛筆株式会社の鉛筆「ユニ(登録商標)」を用い、塗膜の面について鉛筆硬度を測定した。
【0050】
4.結果
実験例の評価サンプルの評価結果を表1―2に併記する。銀担持ゼオライト粒子を用いた全ての実験例(no.1-no.49)では、初期(no.1)のみならず、いずれの耐久試験後であって、抗菌活性値が2.0以上と良好であった。この結果から、銀担持ゼオライト粒子を用いると、抗菌性能が持続することが確認された。銀担持ゼオライト粒子を用いた全ての実験例(no.1-no.49)では、外観がA,Bのいずれかの評価で良好であり、鉛筆硬度もF以上で十分であった。
【0051】
実験例no.1(初期)と実験例no.2(耐水16h)の抗ウイルス活性値を比較すると、耐水16h後も抗ウイルス活性値が持続していることが分かった。
【0052】
実験例の中でも、塗膜の膜厚が20μm未満では、外観の評価がAと非常に良好であった。実験例の中でも、塗膜の膜厚が20μm未満では、碁盤目試験の結果が100/100であり、塗膜の基材への密着性が非常に良かった。
【0053】
比較例の評価サンプルの抗菌性について説明する。比較例の評価サンプルの評価結果を表3に併記する。銀系添加剤(ノバロンIV1000)を用いた評価サンプルについては、塗装後の塗膜をそのまま評価した初期においても、抗菌活性値が低く、抗ウイルス活性値も低かった。この評価サンプルは、耐水16h後も、抗菌活性値が低く、抗ウイルス活性値も低かった。
【0054】
銀担持ガラス(イオンピュアKN)を用いた評価サンプルについては、塗装後の塗膜をそのまま評価した初期においては、抗菌活性値が高く、抗ウイルス活性値も高かった。この評価サンプルは、耐水16h後に抗菌活性値が低下し、抗ウイルス活性値も低下した。
【0055】
水酸化カルシウム(カルテック)を用いた評価サンプルについては、塗装後の塗膜をそのまま評価した初期においては、抗菌活性値が高く、抗ウイルス活性値は中程度であった。この評価サンプルは、耐水16h後に抗菌活性値が低下し、抗ウイルス活性値も低下した。
【0056】
酸化亜鉛試薬を用いた評価サンプルについては、塗装後の塗膜をそのまま評価した初期において、抗菌活性値が低かった。
【0057】
以上の結果から、銀担持ゼオライト粒子を含む塗膜を有する評価サンプルは、耐久試験後であっても少なくとも抗菌性を持続可能であった。銀担持ゼオライト粒子を含む塗膜を有する物品は、水と触れても継続的な少なくとも抗菌性が要求される用途、例えば水まわり部材に好適であることが確認された。
1…部材、3…基材、5…プライマー層、7…塗膜、9…銀イオンを担持したゼオライト粒子、10…トイレ、11…便座、12…トイレ室内、13…便蓋、15…洗浄ボタン、17…洗浄レバー、20…洗面化粧台、21…トイレ用リモコン、23…紙巻き器、25…水栓レバー、30…キッチン