(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022178346
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】シート状成形材料、成形体及びこれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
B27N 3/04 20060101AFI20221125BHJP
【FI】
B27N3/04 D
B27N3/04 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021085089
(22)【出願日】2021-05-20
(71)【出願人】
【識別番号】506209422
【氏名又は名称】地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】木下 稔夫
(72)【発明者】
【氏名】上野 明也
(72)【発明者】
【氏名】横山 俊幸
【テーマコード(参考)】
2B260
【Fターム(参考)】
2B260AA11
2B260AA20
2B260BA01
2B260BA07
2B260BA19
2B260DA12
2B260DA17
2B260DD02
2B260EA05
2B260EB01
2B260EB02
2B260EB11
2B260EB21
(57)【要約】
【課題】厚みが薄い、漆を使用した成形体を製造可能な成形材料等の提供。
【解決手段】植物繊維を含むシート状基材に漆を含浸させて、漆含有シート状基材を得る工程と、前記漆含有シート状基材を加熱して、シート状成形材料を得る工程と、を含む、シート状成形材料の製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物繊維を含むシート状基材に漆を含浸させて、漆含有シート状基材を得る工程と、
前記漆含有シート状基材を加熱して、シート状成形材料を得る工程と、
を含む、シート状成形材料の製造方法。
【請求項2】
前記シート状基材の厚みが、0.1~2.0mmである、
請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記シート状基材の密度が、0.10~0.85g/cm3である、
請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記漆含有シート状基材に含まれる前記漆の量が、前記漆含有シート状基材の質量を基準として、30~70質量%である、
請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記漆含有シート状基材の前記加熱が、前記漆含有シート状基材に含まれる前記漆を部分的に硬化する、
請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記漆含有シート状基材の前記加熱が、90~180℃で実施される、
請求項1~5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記漆含有シート状基材の前記加熱が、30~360分間実施される、
請求項1~6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の製造方法によって製造されたシート状成形材料を圧縮成形する工程、
を含む、成形体の製造方法。
【請求項9】
前記圧縮成形が、120~180℃で実施される、
請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記圧縮成形が、2枚以上の前記シート状成形材料を積層して、実施される、
請求項8又は9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記成形体の表面に漆を塗工する工程、
を更に含む、
請求項8~10のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項12】
前記成形体を加熱して、前記漆を完全に硬化する工程、
を更に含む、
請求項8~11のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項13】
植物繊維を含むシート状基材と、
前記シート状基材に含浸されている漆と、
を含み、
前記漆が部分的に硬化している、
シート状成形材料。
【請求項14】
前記シート状成形材料が、前記植物繊維及び前記漆のみからなる、
請求項13に記載のシート状成形材料。
【請求項15】
前記シート状成形材料の厚みが、0.1~2.0mmである、
請求項13又は14に記載のシート状成形材料。
【請求項16】
請求項13~15のいずれか一項に記載のシート状成形材料の圧縮成形物である成形体。
【請求項17】
前記シート状成形材料が、2枚以上積層されて圧縮されている、
請求項16に記載の成形体。
【請求項18】
前記成形体の厚みが、0.1mm以上である、
請求項16又は17に記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート状成形材料、成形体及びこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
漆は漆樹から滲出した樹液であり、漆を塗工した漆器は、食器、家具、工芸品等として使用されている。近年、漆器に代えて合成樹脂製の製品が多く使用されているが、これらの製品の中には、人体に有害な成分が溶出される物も含まれているとの疑いがある。
【0003】
そこで、漆の用途を拡大すること、及び人体に悪影響を与えるおそれのない製品を提供することを目的として、特許文献1は、漆及び植物繊維から得た粉末材料を圧縮成形して、成形体を形成することを開示している。具体的には、特許文献1は、「漆と植物繊維とを1:9~6:4の重量比で配合して混練し、攪拌しながら90~180℃の温度で30~120分加熱してウルシオールを部分的に熱重合させ、次いで生成物を粉砕して常温で乾燥状態にある圧縮成形可能な粉末とし、前記粉末を所定の形状の成形金型内で120~180℃の温度および15~40MPa圧力により圧縮成形して得られる漆/植物繊維の圧縮成形体。」を開示している。
【0004】
また、特許文献2は、特許文献1の粉末材料及び成形体を改良することを目的として、「漆と植物繊維とを加熱しながら3次元的に混錬することにより得られる粉末状の成形用材料」及び前記材料を圧縮成形した成形体を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3779290号明細書
【特許文献2】特許第6140607号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び2に開示されているような粉末材料を使用する場合、1~2mm程度の薄板状の圧縮成形体を製造することが困難であるという問題がある。そこで、本発明は、厚みが薄い、漆を使用した成形体を製造可能な成形材料等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等が鋭意検討した結果、植物繊維を含むシート状基材に漆を含浸させ、これを加熱することによって、目的とする成形材料が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は以下の実施形態を含む。
[1]
植物繊維を含むシート状基材に漆を含浸させて、漆含有シート状基材を得る工程と、
前記漆含有シート状基材を加熱して、シート状成形材料を得る工程と、
を含む、シート状成形材料の製造方法。
[2]
前記シート状基材の厚みが、0.1~2.0mmである、[1]に記載の製造方法。
[3]
前記シート状基材の密度が、0.10~0.85g/cm3である、[1]又は[2]に記載の製造方法。
[4]
前記漆含有シート状基材に含まれる前記漆の量が、前記漆含有シート状基材の質量を基準として、30~70質量%である、[1]~[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5]
前記漆含有シート状基材の前記加熱が、前記漆含有シート状基材に含まれる前記漆を部分的に硬化する、[1]~[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6]
前記漆含有シート状基材の前記加熱が、90~180℃で実施される、[1]~[5]のいずれかに記載の製造方法。
[7]
前記漆含有シート状基材の前記加熱が、30~360分間実施される、[1]~[6]のいずれかに記載の製造方法。
[8]
[1]~[7]のいずれかに記載の製造方法によって製造されたシート状成形材料を圧縮成形する工程、
を含む、成形体の製造方法。
[9]
前記圧縮成形が、120~180℃で実施される、[8]に記載の製造方法。
[10]
前記圧縮成形が、2枚以上の前記シート状成形材料を積層して、実施される、[8]又は[9]に記載の製造方法。
[11]
前記成形体の表面に漆を塗工する工程、
を更に含む、[8]~[10]のいずれかに記載の製造方法。
[12]
前記成形体を加熱して、前記漆を完全に硬化する工程、
を更に含む、[8]~[11]のいずれかに記載の製造方法。
[13]
植物繊維を含むシート状基材と、
前記シート状基材に含浸されている漆と、
を含み、
前記漆が部分的に硬化している、
シート状成形材料。
[14]
前記シート状成形材料が、前記植物繊維及び前記漆のみからなる、[13]に記載のシート状成形材料。
[15]
前記シート状成形材料の厚みが、0.1~2.0mmである、[13]又は[14]に記載のシート状成形材料。
[16]
[13]~[15]のいずれかに記載のシート状成形材料の圧縮成形物である成形体。
[17]
前記シート状成形材料が、2枚以上積層されて圧縮されている、[16]に記載の成形体。
[18]
前記成形体の厚みが、0.1mm以上である、[16]又は[17]に記載の成形体。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、厚みが薄い、漆を使用した成形体を製造可能な成形材料等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、漆含浸量を変化させた実施例1~5及び比較対照の成形体(ろ紙厚み:0.8mm)の最大応力を示す。
【
図2】
図2は、漆含浸量を変化させた実施例1~5及び比較対照の成形体(ろ紙厚み:0.8mm)の弾性率を示す。
【
図3】
図3は、漆含浸後の熱処理時間を変化させた実施例6及び7並びに比較対照の成形体(ろ紙厚み:0.34mm)の最大応力を示す。
【
図4】
図4は、漆含浸後の熱処理時間を変化させた実施例6及び7並びに比較対照の成形体(ろ紙厚み:0.34mm)の弾性率を示す。
【
図5】
図5は、漆含浸後の熱処理時間を変化させた実施例8~10及び比較対照の成形体(ろ紙厚み:0.8mm)の最大応力を示す。
【
図6】
図6は、漆含浸後の熱処理時間を変化させた実施例8~10及び比較対照の成形体(ろ紙厚み:0.8mm)の弾性率を示す。
【
図7】
図7は、漆含浸後の熱処理時間を変化させた実施例11及び12並びに比較対照の成形体(ろ紙厚み:1.2mm)の最大応力を示す。
【
図8】
図8は、漆含浸後の熱処理時間を変化させた実施例11及び12並びに比較対照の成形体(ろ紙厚み:1.2mm)の弾性率を示す。
【
図9】
図9は、漆含浸量を変化させた実施例1A~5Aの積層成形体(ろ紙厚み:0.8mm)の最大応力を示す。
【
図10】
図10は、漆含浸量を変化させた実施例1A~5Aの積層成形体(ろ紙厚み:0.8mm)の弾性率を示す。
【
図11】
図11は、漆含浸後の熱処理時間を変化させた実施例8A及び9Aの積層成形体(ろ紙厚み:0.8mm)の最大応力を示す。
【
図12】
図12は、漆含浸後の熱処理時間を変化させた実施例8A及び9Aの積層成形体(ろ紙厚み:0.8mm)の弾性率を示す。
【
図13】
図13は、漆含浸後の熱処理時間を変化させた実施例11A及び12Aの積層成形体(ろ紙厚み:1.2mm)の最大応力を示す。
【
図14】
図14は、漆含浸後の熱処理時間を変化させた実施例11A及び12Aの積層成形体(ろ紙厚み:1.2mm)の弾性率を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0012】
<シート状成形材料の製造方法>
本発明の一実施形態は、植物繊維を含むシート状基材に漆を含浸させて、漆含有シート状基材を得る工程(以下「含浸工程」という。)と、前記漆含有シート状基材を加熱して、シート状成形材料を得る工程(以下「加熱工程」という。)とを含む、シート状成形材料の製造方法に関する。
【0013】
本実施形態に係る製造方法では、シート状基材に漆を含浸させ、これを加熱(熱重合による硬化)することによって、厚みが薄い成形体を製造可能な成形材料を得ることができる。また、前記成形材料を使用することによって、成形体の耐久性を向上させることも可能である。
【0014】
厚みが薄く、かつ耐久性に優れた成形体を製造可能な理由としては、下記のものが想定されるが、本発明は下記想定理由によって何ら限定されるものではない。
すなわち、特許文献1に開示されている粉末材料では、粉末化の際に植物繊維が短く切断されるために植物繊維同士の絡み合いが少なくなり、耐久性が低下するのに対し、本実施形態で使用するシート状基材を構成するような植物繊維は、繊維長が比較的長く、繊維同士が絡み合うために、厚みを薄くしても耐久性を維持できると想定される。
【0015】
[含浸工程]
含浸工程は、植物繊維を含むシート状基材に漆を含浸させて、漆含有シート状基材を得る工程である。漆の含浸方法は特に限定されず、例えば、シート状基材に漆を塗布する方法、及びシート状基材を漆に浸漬する方法を挙げることができる。
【0016】
シート状基材の厚みは、好ましくは0.1~2.0mmであり、より好ましくは0.2~1.7mmであり、更に好ましくは0.3~1.4mmである。シート状基材の厚みを前記の範囲内とすることにより、シート状基材に漆を均一に含浸させることができる。
【0017】
シート状基材の密度は、好ましくは0.10~0.85g/cm3であり、より好ましくは0.25~0.70g/cm3であり、更に好ましくは0.40~0.55g/cm3である。シート状基材の密度を前記の範囲内とすることにより、シート状基材に漆を均一かつ十分に含浸させることができる。
【0018】
シート状基材を構成する植物繊維は特に限定されないが、例えば、スギ、ヒノキ、ツガ、キリ、マツ、スプルース、タケ、アシ、綿等に由来する植物繊維を挙げることができる。植物繊維は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。特に限定するものではないが、シート状基材は植物繊維のみから構成されていることが好ましく、セルロースのみから構成されていることがより好ましい。
【0019】
漆の種類は特に限定されず、例えば、日本産漆樹、中国産漆樹、台湾産漆樹、ベトナム産漆樹、タイ産漆樹、及びミャンマー産漆樹から得られる漆を挙げることができる。漆の主成分は漆樹によって異なるが、例えば、ウルシオール、ラッコール、及びチチオールが挙げられる。いずれの成分が主成分の漆であっても、本実施形態に係る製造方法で使用することができる。漆は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0020】
漆含有シート状基材に含まれる漆の量は、漆含有シート状基材の質量を基準として、好ましくは30~70質量%であり、より好ましくは48~68質量%であり、更に好ましくは58~68質量%である。漆の量を30質量%以上とすることにより、シート状基材に漆を均一に含浸させることができる。漆の量を70質量%以下とすることにより、シート状基材からの漆の溶出を抑制できる。
【0021】
[加熱工程]
加熱工程は、漆含有シート状基材を加熱して、シート状成形材料を得る工程である。漆含有シート状基材を加熱することによって、漆に含まれるラッカーゼを失活させると共に、加熱による漆の硬化(熱重合)を進行させることができる。ラッカーゼは、漆の酸化重合を引き起こすが、酸化重合の程度は、保管の時間、温度及び湿度、並びに漆の組成等の影響を大きく受けるため、ラッカーゼが活性を有していると、品質を安定的に保つことは困難である。ラッカーゼを失活させ、代わりに熱重合を利用することにより、品質を安定化することができる。
【0022】
加熱方法は特に限定されず、例えば、漆含有シート状基材を熱風乾燥機で加熱することが挙げられる。シート状成形材料が常温では指触乾燥しているが、下記の形成工程の条件では軟化する程度に、漆含有シート状基材を加熱することが好ましい。
【0023】
加熱工程では、漆含有シート状基材に含まれる漆を部分的に硬化することが好ましい。漆が部分的に硬化している(言い換えると、漆が部分的に未硬化である)ことにより、続く成形工程において圧縮する際に漆含有シート状基材が適度に軟化するため、成形が実施しやすくなる。また、漆が部分的に硬化していることにより、形成工程での硬化時間を短縮することができる。さらに、漆が部分的に未硬化であることにより、下記の成形工程で2枚以上のシート状成形材料を積層して圧縮成形すると、シート状成形材料同士が接着して一体化した成形体を得ることができる。漆が部分的に硬化していることを確認する方法としては、例えば、未硬化の漆をアセトンで溶出する方法、又は赤外分光法によって漆の主成分の二重結合に由来するピークを観察する方法が挙げられる。
【0024】
加熱温度は、好ましくは90~180℃であり、より好ましくは100~160℃であり、更に好ましくは110~140℃である。加熱温度を90℃以上とすることにより、ラッカーゼを十分に失活させることができ、また、熱重合を十分に進行させることができる。加熱温度を180℃以下とすることにより、過剰な熱重合を抑制でき、また、発熱による発火を回避できる。
【0025】
加熱時間は、例えば、シート状基材の厚み、及び含浸漆の量に応じて適宜調節すればよい。例えば、加熱時間を、30~360分、60~360分、又は120~360分としてもよい。
【0026】
<成形体の製造方法>
本発明の一実施形態は、前記<シート状成形材料の製造方法>によって製造されたシート状成形材料を圧縮成形する工程(以下「成形工程」という。)を含む、成形体の製造方法に関する。
【0027】
圧縮成形の方法は特に限定されず、例えば、所望の形状の金型にシート状成形材料を設置して圧縮する方法を挙げることができる。金型としては、例えば、メタルシートの金型、及びエンボスの金型を挙げることができる。
【0028】
本実施形態に係る製造方法では、シート状成形材料を使用することによって、厚みが薄い成形体を製造することができる。また、シート状成形材料を使用することによって、成形体の耐久性を向上させることも可能である。
【0029】
圧縮成形温度は、好ましくは120~180℃であり、より好ましくは140~160℃である。圧縮成形温度を120℃以上とすることにより、硬化不良を回避することができ、また、成形時間を短縮することができる。圧縮成形温度を180℃以下とすることにより、目的の形状に成形する前に完全に硬化してしまうという事態を回避することができ、また、ガスの発生によって成形体の一部が膨張するという事態を回避することができる。
【0030】
圧縮成形圧力は、例えば、成形体の厚み、形状に応じて適宜調節すればよい。例えば、圧縮成形圧力を、1~20MPa、2~14MPa、又は4~8MPaとしてもよい。
【0031】
成形工程では、1枚のシート状成形材料を圧縮成形してもよいし、2枚以上のシート状成形材料を積層して圧縮成形してもよい。本実施形態に係るシート状成形材料とは異なる材料を、シート状形成材料と積層して(異なる材料を、シート状形成材料で挟む態様も含む。)、圧縮成形してもよい。
【0032】
本実施形態に係る成形体の製造方法では、成形工程で得られた成形体の表面に漆を塗工する工程(以下「塗工工程」という。)を更に含んでいてもよい。成形体の製造に使用されるシート状成形材料は漆を含んでいるため、成形体は漆と馴染みやすい性質を有する。そのため、塗工工程では、漆を塗工する前に一般的に実施される下地処理を省略することができる。
【0033】
本実施形態に係る成形体の製造方法では、成形工程又は塗工工程の後に、成形体を加熱する工程(以下「最終加熱工程」という。)を更に含んでいてもよい。最終加熱工程により、成形体に含まれる漆(成形体表面に塗工された漆も含む。)を完全に硬化することが好ましい。これにより、例えば、成形体表面と、前記表面に塗工された漆との密着性を向上させることができ、また、成形体を使用する際に漆かぶれが生じる可能性を低減することができる。
【0034】
<シート状成形材料>
本発明の一実施形態は、植物繊維を含むシート状基材と、前記シート状基材に含浸されている漆と、を含み、前記漆が部分的に硬化している、シート状成形材料に関する。シート状基材及び漆の詳細については、前記<シート状成形材料の製造方法>において説明したとおりである。
【0035】
本実施形態に係るシート状成形材料は、漆が部分的に未硬化であって圧縮成形の際に適度に軟化するため、成形が実施しやすい。また、漆が部分的に硬化していることにより、圧縮成形の際の硬化時間を短縮することができる。
【0036】
本実施形態に係るシート状成形材料は、植物繊維及び漆のみから構成されていることが好ましい。植物繊維は、セルロースのみであることが好ましい。
【0037】
本実施形態に係るシート状成形材料の厚みは特に限定されないが、例えば、0.1~2.0mm、0.2~1.8mm、又は0.3~1.7mmとしてもよい。本実施形態に係るシート状成形材料の厚みを薄くすることにより、成形体の厚みも薄くすることができる。
【0038】
本実施形態に係るシート状成形材料に含まれる漆の量は、シート状成形材料の質量を基準として、好ましくは20~65質量%であり、より好ましくは40~60質量%であり、更に好ましくは50~60質量%である。漆の量を20質量%以上とすることにより、漆が均一に含浸されたシート状成形材料とすることができる。漆の量を65質量%以下とすることにより、シート状成形材料からの漆の溶出を抑制でき、また、シート状成形材料の表面のベタツキを抑制することができる。
【0039】
<成形体>
本発明の一実施形態は、前記<シート状成形材料>の圧縮成形物である成形体に関する。本実施形態に係る成形体は、厚みを薄くしながら耐久性を維持することができる。
【0040】
本実施形態に係る成形体は、1枚のシート状成形材料の圧縮成形物でもよいし、積層した2枚以上のシート状成形材料の圧縮成形物でもよい。本実施形態に係る成形体は、積層したシート状形成材料と、前記シート状成形材料とは異なる材料との圧縮成形物でもよい。
【0041】
本実施形態に係る成形体の厚みは特に限定されないが、例えば、0.1mm以上、0.1~10mm、又は0.1~1.5mmとしてもよい。成形体の厚みは、例えば、シート状成形材料の厚みを薄くすることによって、薄くすることができる。成形体の厚みは、例えば、シート状成形材料の厚みを厚くすることによって、又はシート状成形材料を積層することによって、厚くすることができる。
【実施例0042】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれに限定されるものではない。
【0043】
<実施例1>
コットン・リンター(綿花を採取した後の種子に残る繊維原料)のみからなる厚み0.8mmの純セルロースろ紙(グローバルライフサイエンステクノロジーズジャパン株式会社製GB003)に、中国産漆(主成分:ウルシオール)を、表1に示す含有割合(漆含有シート状基材の質量を基準とする。)となるように含浸させ、漆含有シート状基材を得た。漆含有シート状基材を120℃で4時間加熱して、シート状成形材料を得た。
【0044】
得られたシート状成形材料を、ホットプレス機を使用して、150℃及び6MPaの条件で1時間、圧縮成形した。圧縮成形後、150℃で24時間加熱して、成形体を得た。
【0045】
<実施例2~5>
漆の含浸割合を、表1に示すとおりに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、成形体を得た。
【0046】
【0047】
成形体の製造において、実施例1及び2の成形体では多少のそりが発生したが、大きな問題は生じなかった。実施例5では、成形体の表面から漆の浸み出しが見られたが、大きな問題は生じなかった。実施例3及び4では、何ら異常は見られなかった。
【0048】
<実施例6>
コットン・リンターのみからなる厚み0.34mmの純セルロースろ紙(グローバルライフサイエンステクノロジーズジャパン株式会社製3MM Chr)に、中国産漆(主成分:ウルシオール)を、表2に示す含有割合(漆含有シート状基材の質量を基準とする。)となるように含浸させ、漆含有シート状基材を得た。漆含有シート状基材を120℃で2時間加熱して、シート状成形材料を得た。
【0049】
得られたシート状成形材料を、ホットプレス機を使用して、150℃及び6MPaの条件で1時間、圧縮成形した。圧縮成形後、150℃で24時間加熱して、成形体を得た。
【0050】
<実施例7>
漆含浸後の熱処理時間を4時間に変更したこと以外は、実施例6と同様にして、成形体を得た。
【0051】
<実施例8>
コットン・リンターのみからなる厚み0.8mmの純セルロースろ紙(グローバルライフサイエンステクノロジーズジャパン株式会社製GB003)に、中国産漆(主成分:ウルシオール)を、表2に示す含有割合(漆含有シート状基材の質量を基準とする。)となるように含浸させ、漆含有シート状基材を得た。漆含有シート状基材を120℃で2時間加熱して、シート状成形材料を得た。
【0052】
得られたシート状成形材料を、ホットプレス機を使用して、150℃及び6MPaの条件で1時間、圧縮成形した。圧縮成形後、150℃で24時間加熱して、成形体を得た。
【0053】
<実施例9及び10>
漆含浸後の熱処理時間をそれぞれ、4時間及び6時間に変更したこと以外は、実施例8と同様にして、成形体を得た。
【0054】
<実施例11>
コットン・リンターのみからなる厚み1.2mmの純セルロースろ紙(グローバルライフサイエンステクノロジーズジャパン株式会社製GB005)に、中国産漆(主成分:ウルシオール)を、表2に示す含有割合(漆含有シート状基材の質量を基準とする。)となるように含浸させ、漆含有シート状基材を得た。漆含有シート状基材を120℃で4時間加熱して、シート状成形材料を得た。
【0055】
得られたシート状成形材料を、ホットプレス機を使用して、150℃及び6MPaの条件で1時間、圧縮成形した。圧縮成形後、150℃で24時間加熱して、成形体を得た。
【0056】
<実施例12>
漆含浸後の熱処理時間を6時間に変更したこと以外は、実施例11と同様にして、成形体を得た。
【0057】
【0058】
成形体の製造において、実施例7の成形体では多少のそりが発生したが、大きな問題は生じなかった。実施例6及び8では、成形体の表面から漆の浸み出しが見られたが、大きな問題は生じなかった。実施例9~12では、何ら異常は見られなかった。
【0059】
<実施例1A>
上型と、これに対向配置された下型と、を有する立体金型(製品としてカルトンを想定。)を使用し、実施例1で得られたシート状成形材料を2枚重ねて、150℃及び6MPaの条件で1時間、圧縮成形して、2枚のシート状成形材料が一体化した積層成形体を得た。
【0060】
<実施例2A~5A、8A、9A、11A及び12A>
シート状成形材料をそれぞれ、実施例2~5、8、9、11及び12で得られたものに変更したこと以外は、実施例1Aと同様にして、積層成形体を得た。
【0061】
<物性評価>
前記実施例で得られた成形体について、各種物性を評価した。評価方法は以下のとおりである。
【0062】
[曲げ強さ(最大応力)、弾性率]
成形体を用いて試験片(幅=10±1mm、長さ=80mm以上)を作製し、JIS K 7171(2016)プラスチック-曲げ特性の求め方-を参照に、曲げ強さ(MPa)及び弾性率(GPa)を求めた。当該試験は3回行い、該3回の試験の平均値を圧縮成形体の曲げ強さ(MPa)とした。なお、当該試験において、支点間距離は25mmとし、クロスヘッドスピードは1mm/minとした。また、測定装置として島津製作所製オートグラフAG-10TDを使用した。
【0063】
実施例1~5の成形体の結果を
図1及び
図2に示す。これらの結果は、漆の含浸量が増加するにつれて、曲げ強さ及び弾性率が上昇することを示している。
【0064】
実施例6及び7の成形体の結果を
図3及び
図4に示す。実施例8~10の成形体の結果を
図5及び
図6に示す。実施例11及び12の成形体の結果を
図7及び
図8に示す。これらの結果は、漆含有シート状基材の加熱時間を適切に設定することにより、強度が更に向上することを示している。
【0065】
実施例1A~5Aの積層成形体の結果を
図9及び
図10に示す。実施例8A及び9Aの積層成形体の結果を
図11及び
図12に示す。実施例11A及び12Aの積層成形体の結果を
図13及び
図14に示す。
【0066】
<実施例13>
コットン・リンターのみからなる厚み0.8mmの純セルロースろ紙(グローバルライフサイエンステクノロジーズジャパン株式会社製GB003)に、中国産漆(主成分:ウルシオール)を、50質量%(漆含有シート状基材の質量を基準とする。)となるように含浸させ、漆含有シート状基材を得た。漆含有シート状基材を120℃で2時間加熱して、シート状成形材料を得た。得られたシート状成形材料を3枚重ねて、150℃及び6MPaの条件で1時間、圧縮成形して、3枚のシート状成形材料が一体化した積層成形体(厚み2.0mm)を得た。
【0067】
<比較例1>
特許第6140607号明細書の実施例1に準拠して、中国産生漆とスギ木粉からなる圧縮成形体(厚み2.0mm)を製造した。
【0068】
実施例13及び比較例1の成形体について、耐衝撃試験を行った。耐衝撃試験の方法は以下のとおりである。
JIS K 7111-1(2012)プラスチック-シャルピー衝撃特性の求め方-を参照にシャルピー衝撃値を測定した。当該試験は9回行い、該9回の試験の平均値をシャルピー衝撃値(kJ/m2)とした。なお、当該試験において、試験方向はエッジワイズ(ノッチなし)とし、支点間距離は62mmで、公称振り子エネルギーは1Jとした。また、測定装置として株式会社東洋精機製作所製デジタル衝撃試験機を使用した。
【0069】
その結果、比較例1の成形体のシャルピー衝撃試験値が2.56kJ/m2であったのに対し、実施例13の成形体のャルピー衝撃試験値は8.81kJ/m2であり、極めて優れた強度特性を示した。