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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022178366
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】有機発光素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 51/50 20060101AFI20221125BHJP
【FI】
H05B33/14 B
H05B33/22 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021085129
(22)【出願日】2021-05-20
(71)【出願人】
【識別番号】516003621
【氏名又は名称】株式会社Kyulux
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】吉崎 誠
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 礼隆
【テーマコード(参考)】
3K107
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107CC04
3K107CC21
3K107DD53
3K107DD66
3K107DD71
3K107DD78
3K107FF15
3K107FF19
3K107FF20
(57)【要約】
【課題】発光寿命が長くて発光効率が高い有機発光素子を提供すること。
【解決手段】第1有機化合物(1)と遅延蛍光材料である第2有機化合物(2)と第3有機化合物(3)を含む発光層と、その発光層に隣接する第1有機化合物(1)を含む隣接層を有し、下記式を満たす有機発光素子。ES1は最低励起一重項エネルギーを表す。
S1(1)>ES1(2)>ES1(3)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記条件(a)を満たす第1有機化合物と第2有機化合物と第3有機化合物を含む発光層と、前記発光層に隣接する隣接層を有する有機発光素子であって、
前記第2有機化合物は遅延蛍光材料であり、
前記隣接層が前記第1有機化合物を含む、有機発光素子。
条件(a) ES1(1)>ES1(2)>ES1(3)
(上式において、
S1(1)は前記第1有機化合物の最低励起一重項エネルギーを表す。
S1(2)は前記第2有機化合物の最低励起一重項エネルギーを表す。
S1(3)は前記第3有機化合物の最低励起一重項エネルギーを表す。)
【請求項2】
前記隣接層が前記第1有機化合物のみで構成されている、請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項3】
陽極と陰極の間に前記発光層を有し、前記隣接層が前記発光層の陽極側に隣接している、請求項1または2に記載の有機発光素子。
【請求項4】
前記隣接層の厚みが10nm未満である、請求項1~3のいずれか1項に記載の有機発光素子。
【請求項5】
前記隣接層の厚みが前記発光層の厚みの6分の1未満である、請求項1~4のいずれか1項に記載の有機発光素子。
【請求項6】
前記第2有機化合物は、最低励起一重項状態と77Kの最低励起三重項状態とのエネルギーの差ΔEstが0.3eV以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の有機発光素子。
【請求項7】
前記第3有機化合物は、最低励起一重項状態と77Kの最低励起三重項状態とのエネルギーの差ΔEstが0.3eV以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載の有機発光素子。
【請求項8】
前記第1有機化合物と前記第2有機化合物と前記第3有機化合物が下記条件(b)を満たす、請求項1~7のいずれか1項に記載の有機発光素子。
条件(b) ET1(1)>ET1(2)>ET1(3)
(上式において、
T1(1)は前記第1有機化合物の77Kの最低励起三重項エネルギーを表す。
T1(2)は前記第2有機化合物の77Kの最低励起三重項エネルギーを表す。
T1(3)は前記第3有機化合物の77Kの最低励起三重項エネルギーを表す。)
【請求項9】
前記発光層が、炭素原子、水素原子、重水素原子、窒素原子、ホウ素原子、酸素原子および硫黄原子からなる群より選択される原子からなる化合物のみで構成される、請求項1~8のいずれか1項に記載の有機発光素子。
【請求項10】
前記第1有機化合物が、炭素原子、水素原子、重水素原子、窒素原子および酸素原子からなる群より選択される原子からなる化合物である、請求項1~9のいずれか1項に記載の有機発光素子。
【請求項11】
前記第2有機化合物が、炭素原子、水素原子、重水素原子、窒素原子、酸素原子および硫黄原子からなる群より選択される原子からなる化合物である、請求項1~10のいずれか1項に記載の有機発光素子。
【請求項12】
前記第3有機化合物が、炭素原子、水素原子、重水素原子、窒素原子、ホウ素原子、酸素原子および硫黄原子からなる群より選択される原子からなる化合物である、請求項1~11のいずれか1項に記載の有機発光素子。
【請求項13】
前記第2有機化合物がシアノベンゼン構造を含む、請求項1~12のいずれか1項に記載の有機発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遅延蛍光材料を用いた有機発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)などの有機発光素子の発光効率を高める研究が盛んに行われている。特に、有機エレクトロルミネッセンス素子を構成する電子輸送材料、ホール輸送材料、ホスト材料、発光材料などを新たに開発して組み合わせることにより、発光効率を高める研究が種々なされてきている。その中には、遅延蛍光材料を利用した有機発光素子に関する研究も見受けられる。
【0003】
遅延蛍光材料は、励起状態において、励起三重項状態から励起一重項状態への逆項間交差を生じた後、その励起一重項状態から基底状態へ戻る際に蛍光を放射する化合物である。こうした経路による蛍光は、基底状態から直接生じた励起一重項状態からの蛍光(通常の蛍光)よりも遅れて観測されるため、遅延蛍光と称されている。ここで、例えば、発光性化合物をキャリアの注入により励起した場合、励起一重項状態と励起三重項状態の発生確率は統計的に25%:75%であるため、直接生じた励起一重項状態からの蛍光のみでは、発光効率の向上に限界がある。一方、遅延蛍光材料では、励起一重項状態のみならず、励起三重項状態も上記の逆項間交差を介した経路により蛍光発光に利用することができるため、通常の遅延蛍光材料に比べて高い発光効率が得られることになる。
【0004】
こうした遅延蛍光材料として、カルバゾリル基等のヘテロアリール基またはジフェニルアミノ基と少なくとも2つのシアノ基を有するベンゼン誘導体が提案され、そのベンゼン誘導体を発光層に用いた有機EL素子で高い発光効率が得られたことが確認されている(特許文献1参照)。
また、非特許文献1では、カルバゾリルジシアノベンゼン誘導体(4CzTPN)が熱活性型遅延蛍光材料であること、また、このカルバゾリルジシアノベンゼン誘導体を用いた有機エレクトロルミネッセンス素子で、高い内部EL量子効率を達成したことが報告されている。
【0005】
一方、遅延蛍光材料を発光材料として用いるのではなく、アシストドーパントとして発光層に用いることも提案されている(特許文献2参照)。ここでは、ホスト材料と蛍光発光材料の他に、ホスト材料と蛍光発光材料の中間の最低励起一重項エネルギーを有する遅延蛍光材料を発光層に添加することにより、発光効率を改善することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014-43541号公報
【特許文献2】特開2015-179809号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】H. Uoyama, et al., Nature 492, 234 (2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、特許文献1、特許文献2および非特許文献1には、遅延蛍光材料を用いた有機エレクトロルミネッセンス素子において、高い発光効率が得られたことが報告されている。一方、実用性が高い有機エレクトロルミネッセンス素子を提供するためには、一段と発光効率を高くし、素子寿命を長くすることが必要とされている。しかし、発光効率や素子寿命をさらに改善することは容易ではなく、その方向性も明らかにされていない。
【0009】
このような状況下において、本発明者らは、遅延蛍光材料を用いた有機発光素子の発光効率や素子寿命を改善することを目的として鋭意検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために鋭意検討を進めた結果、本発明者らは、発光層とその隣接層に、特定の条件を満たす材料を用いることにより、発光効率が高くて素子寿命が長い有機発光素子を実現できることを見出した。本発明は、このような知見に基づいて提案されたものであり、具体的に、以下の構成を有する。
【0011】
[1] 下記条件(a)を満たす第1有機化合物と第2有機化合物と第3有機化合物を含む発光層と、前記発光層に隣接する隣接層を有する有機発光素子であって、
前記第2有機化合物は遅延蛍光材料であり、
前記隣接層が前記第1有機化合物を含む、有機発光素子。
条件(a) ES1(1)>ES1(2)>ES1(3)
(上式において、
S1(1)は前記第1有機化合物の最低励起一重項エネルギーを表す。
S1(2)は前記第2有機化合物の最低励起一重項エネルギーを表す。
S1(3)は前記第3有機化合物の最低励起一重項エネルギーを表す。)
[2] 前記隣接層が前記第1有機化合物のみで構成されている、[1]に記載の有機発光素子。
[3] 陽極と陰極の間に前記発光層を有し、前記隣接層が前記発光層の陽極側に隣接している、[1]または[2]に記載の有機発光素子。
[4] 前記隣接層の厚みが10nm未満である、[1]~[3]のいずれか1つに記載の有機発光素子。
[5] 前記隣接層の厚みが前記発光層の厚みの6分の1未満である、[1]~[4]のいずれか1つに記載の有機発光素子。
[6] 前記第2有機化合物は、最低励起一重項状態と77Kの最低励起三重項状態とのエネルギーの差ΔEstが0.3eV以下である、[1]~[5]のいずれか1つに記載の有機発光素子。
[7] 前記第3有機化合物は、最低励起一重項状態と77Kの最低励起三重項状態とのエネルギーの差ΔEstが0.3eV以下である、[1]~[6]のいずれか1つに記載の有機発光素子。
[8] 前記第1有機化合物と前記第2有機化合物と前記第3有機化合物が下記条件(b)を満たす、[1]~[7]のいずれか1つに記載の有機発光素子。
条件(b) ET1(1)>ET1(2)>ET1(3)
(上式において、
T1(1)は前記第1有機化合物の77Kの最低励起三重項エネルギーを表す。
T1(2)は前記第2有機化合物の77Kの最低励起三重項エネルギーを表す。
T1(3)は前記第3有機化合物の77Kの最低励起三重項エネルギーを表す。)
[9] 前記発光層が、炭素原子、水素原子、重水素原子、窒素原子、ホウ素原子、酸素原子および硫黄原子からなる群より選択される原子からなる化合物のみで構成される、[1]~[8]のいずれか1つに記載の有機発光素子。
[10] 前記第1有機化合物が、炭素原子、水素原子、重水素原子、窒素原子および酸素原子からなる群より選択される原子からなる化合物である、[1]~[9]のいずれか1つに記載の有機発光素子。
[11] 前記第2有機化合物が、炭素原子、水素原子、重水素原子、窒素原子、酸素原子および硫黄原子からなる群より選択される原子からなる化合物である、[1]~[10]のいずれか1つに記載の有機発光素子。
[12] 前記第3有機化合物が、炭素原子、水素原子、重水素原子、窒素原子、ホウ素原子、酸素原子および硫黄原子からなる群より選択される原子からなる化合物である、[1]~[11]のいずれか1つに記載の有機発光素子。
[13] 前記第2有機化合物がシアノベンゼン構造を含む、[1]~[12]のいずれか1つに記載の有機発光素子。
[14] 第1有機化合物と遅延蛍光材料である第2有機化合物と第3有機化合物を含む発光層を形成し、その発光層に隣接するように前記第1有機化合物を含む隣接層を形成する工程を含むか、あるいは、
第1有機化合物を含む隣接層を形成し、その隣接層に隣接するように、前記第1有機化合物と遅延蛍光材料である第2有機化合物と第3有機化合物を含む発光層を形成する工程を含み、
前記第1有機化合物と前記第2有機化合物と前記第3有機化合物が、下記条件(a)を満たす、有機発光素子の製造方法。
条件(a) ES1(1)>ES1(2)>ES1(3)
(上式において、
S1(1)は前記第1有機化合物の最低励起一重項エネルギーを表す。
S1(2)は前記第2有機化合物の最低励起一重項エネルギーを表す。
S1(3)は前記第3有機化合物の最低励起一重項エネルギーを表す。)
【発明の効果】
【0012】
本発明の有機発光素子は、素子寿命が長くて発光効率が高い。また、本発明の製造方法を用いれば、素子寿命が長くて発光効率が高い有機発光素子を簡便に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】有機エレクトロルミネッセンス素子の層構成例を示す概略断面図である。
図2】有機発光素子の製造方法を実施するための工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様や具体例に限定されるものではない。なお、本願において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。また、本願において「からなる」とは、「からなる」の前に記載されるもののみからなり、それ以外のものを含まないことを意味する。また、本発明に用いられる化合物の分子内に存在する水素原子の一部または全部は重水素原子(H、デューテリウムD)に置換することができる。本明細書の化学構造式では、水素原子はHと表示しているか、その表示を省略している。例えばベンゼン環の環骨格構成炭素原子に結合する原子の表示が省略されているとき、表示が省略されている箇所ではHが環骨格構成炭素原子に結合しているものとする。本明細書にて「置換基」という用語は、水素原子および重水素原子以外の原子または原子団を意味する。一方、「置換もしくは無置換の」という用語は、水素原子が重水素原子または置換基で置換されていてもよいことを意味する。
【0015】
(有機発光素子の特徴)
本発明の有機発光素子は、第1有機化合物、第2有機化合物および第3有機化合物を含む発光層と、その発光層に隣接する隣接層を有する。隣接層は、発光層に含まれているのと同じ第1有機化合物を含む。
第2有機化合物は遅延蛍光材料であり、第1有機化合物、第2有機化合物および第3有機化合物は下記条件(a)を満たす。
条件(a) ES1(1)>ES1(2)>ES1(3)
本願において、ES1(1)は前記第1有機化合物の最低励起一重項エネルギーを表し、ES1(2)は前記第2有機化合物の最低励起一重項エネルギーを表し、ES1(3)は前記第3有機化合物の最低励起一重項エネルギーを表す。本願では単位としてeVを採用する。
【0016】
第1有機化合物と第2化合物の最低励起一重項エネルギーの差ES1(1)-ES1(2)は、0.3eV以上の範囲内にしたり、0.5eV以上の範囲内にしたり、0.7eV以上の範囲内にしたりすることができ、また、1.6eV以下の範囲内にしたり、1.3eV以下の範囲内にしたり、0.9eV以下の範囲内にしたりすることができる。
第2有機化合物と第3化合物の最低励起一重項エネルギーの差ES1(2)-ES1(3)は、0.03eV以上の範囲内にしたり、0.06eV以上の範囲内にしたりすることができ、また、0.6eV以下の範囲内にしたり、0.3eV以下の範囲内にしたり、0.1eV以下の範囲内にしたりすることができる。
【0017】
本発明の好ましい一態様では、第1有機化合物、第2有機化合物および第3有機化合物は下記条件(b)も満たす。
条件(b) ET1(1)>ET1(2)>ET1(3)
T1(1)は前記第1有機化合物の77K(ケルビン)の最低励起三重項エネルギーを表し、ET1(2)は前記第2有機化合物の77Kの最低励起三重項エネルギーを表し、ET1(3)は前記第3有機化合物の77Kの最低励起三重項エネルギーを表し、ET1(Q)は前記第3有機化合物の77Kの最低励起三重項エネルギーを表す。本願では単位としてeVを採用する。
【0018】
第1有機化合物と第2有機化合物の最低励起一重項エネルギーの差ES1(1)-ES1(2)は、0.3eV以上の範囲内にしたり、0.5eV以上の範囲内にしたり、0.7eV以上の範囲内にしたりすることができ、また、1.6eV以下の範囲内にしたり、1.3eV以下の範囲内にしたり、0.9eV以下の範囲内にしたりすることができる。
第2有機化合物と第3有機化合物の最低励起一重項エネルギーの差ES1(2)-ES1(3)は、0.03eV以上の範囲内にしたり、0.06eV以上の範囲内にしたりすることができ、また、0.6eV以下の範囲内にしたり、0.3eV以下の範囲内にしたり、0.1eV以下の範囲内にしたりすることができる。
【0019】
本発明の有機発光素子の発光層に含まれる第1有機化合物、第2有機化合物および第3有機化合物の含有量は、下記条件(c)の関係を満たすことが好ましい。
条件(c) Conc(1)>Conc(2)>Conc(3)
Conc(1)は発光層における第1有機化合物の濃度を表し、Conc(2)は発光層における第2有機化合物の濃度を表し、Conc(3)は発光層における第3有機化合物の濃度を表す。本願では単位として重量%を採用する。
【0020】
本発明の有機発光素子は、Conc(1)が30重量%以上であることが好ましく、50重量%以上の範囲内にしたり、65重量%以上の範囲内にしたりすることができ、また、99重量%以下の範囲内にしたり、85重量%以下の範囲内にしたり、75重量%以下の範囲内にしたりすることができる。
本発明の有機発光素子は、Conc(2)が10重量%以上であることが好ましく、20重量%以上の範囲内にしたり、30重量%以上の範囲内にしたりすることができ、また、45重量%以下の範囲内にしたり、40重量%以下の範囲内にしたり、35重量%以下の範囲内にしたりすることができる。
【0021】
本発明の有機発光素子は、Conc(3)は5重量%以下であることが好ましく、3重量%以下であることがより好ましい。Conc(3)は1重量%以下の範囲内にしたり、0.5重量%以下の範囲内にしたりすることができ、また、0.01重量%以上の範囲内にしたり、0.1重量%以上の範囲内にしたり、0.3重量%以上の範囲内にしたりすることができる。さらに下記条件(d)を満たすことが好ましい。
条件(d) Conc(2)/Conc(3)>5
Conc(2)/Conc(3)は10以上の範囲内にしたり、30以上の範囲内にしたり、50以上の範囲内にしたりすることができ、また、500以下の範囲内にしたり、300以下の範囲内にしたり、100以下の範囲内にしたりすることができる。
【0022】
本発明の有機発光素子は、発光層に隣接する隣接層に第1有機化合物を含む。ここでいう隣接とは、発光層と隣接層が積層状態にあることを意味し、発光層の表面と隣接層の表面が直接接している状態を意味する。隣接層は発光層に積層したものであってもよいし、隣接層に発光層を積層したものであってもよい。
本発明の好ましい態様では、有機発光素子が陽極と陰極の間に発光層を含む有機層を有する構造をしており、第1有機化合物を含む隣接層が発光層の陽極側に接するように形成されている。このとき、発光層の陰極側に接する層は第1有機化合物を含まない。
隣接層は第1有機化合物のみで構成されていることが好ましいが、第1有機化合物を主として含み、第1有機化合物の最低励起一重項エネルギー(ES1)と最低励起三重項エネルギー(ET1)に近い最低励起一重項エネルギーと最低励起三重項エネルギーを有する化合物を併せて含む層であってもよい。ここでいうエネルギーが近いとは、エネルギー差が0.1eV未満であることを意味し、0.05eV未満であることが好ましく、0.03eV未満であることがより好ましく、0.01eV未満であることがさらに好ましい。隣接層における第1有機化合物の濃度は90重量%以上であることが好ましく、99重量%以上であることがより好ましく、例えば99.9重量%以上や、99.99重量%以上であってもよい。
【0023】
隣接層の厚みは、1nm以上であることが好ましく、3nm以上であることがより好ましく、例えば5nm以上にすることができる。隣接層の厚みは、20nm未満であることが好ましく、10nm未満であることがより好ましく、例えば7nm未満にすることができる。
隣接層の厚みは、発光層の厚みよりも小さいことが好ましい。隣接層の厚みは、発光層の厚みの2分の1以下であることが好ましく、4分の1以下であることがより好ましく、例えば6分の1以下にすることができる。また、20分の1以上であることが好ましく、例えば10分の1以上にすることができる。
【0024】
(第1有機化合物)
第1有機化合物は、第2有機化合物および第3有機化合物よりも最低励起一重項エネルギーが大きい有機化合物である。第1有機化合物は、キャリアの輸送を担うホスト材料としての機能や第2有機化合物や第3有機化合物のエネルギーを該化合物中に閉じ込める機能を有する。これにより、分子内でホールと電子とが再結合することによって生じたエネルギーを効率よく発光に変換することができる。
第1有機化合物のHOMO(Highest Occupied Molecular Orbital)レベルは、隣接層が発光層とは反対側で隣接する有機層に含まれる電荷移動材料のHOMOレベルよりも深い(エネルギーが低い)ことが好ましい。例えば、第1有機化合物のHOMOレベルは、隣接する有機層に含まれる電荷移動材料のHOMOレベルよりも0.1eV以上深いことが好ましく、例えば0.2eV以上深くしたり、0.25eV以上深くしたりすることができる。上限は例えば0.5eV未満にしたり、0.3eV未満にしたりすることができる。第1有機化合物のHOMOレベルは、第2有機化合物のHOMOレベルに近いことが好ましい。差は0.3eV未満であることが好ましく、0.2eV未満であることがより好ましく、例えば0.1eV未満にしたり、0.05eV未満にしたりすることができる。本発明の好ましい態様では、第1有機化合物のHOMOレベルは、第2有機化合物のHOMOレベルよりも深い。
【0025】
第1有機化合物としては、正孔輸送能、電子輸送能を有し、かつ発光の長波長化を防ぎ、なおかつ高いガラス転移温度を有する有機化合物であることが好ましい。また、本発明の好ましい態様では、第1有機化合物は遅延蛍光を放射しない化合物の中から選択する。
第1有機化合物は、炭素原子、水素原子、重水素原子、窒素原子、酸素原子および硫黄原子からなる群より選択される原子だけで構成される化合物であることが好ましい。例えば、第1有機化合物は、炭素原子、水素原子、重水素原子、窒素原子および酸素原子からなる群より選択される原子だけで構成される化合物であってもよい。例えば、第1有機化合物は、炭素原子、水素原子、窒素原子および酸素原子のみからなる化合物であってもよい。また、第1有機化合物は、炭素原子、水素原子、重水素原子、窒素原子および硫黄原子からなる群より選択される原子だけで構成される化合物であってもよい。また、第1有機化合物は、炭素原子、水素原子、重水素原子および窒素原子からなる群より選択される原子だけで構成される化合物であってもよい。第1有機化合物はシアノ基を有さない化合物であってもよい。第1有機化合物はカルバゾール環を1つだけ有する化合物であってもよい。第1有機化合物はメタフェニレン基を1つだけ含む化合物であってもよい。第1有機化合物はジベンゾフラン構造またはジベンゾチオフェン構造を含む化合物であってもよい。第1有機化合物は3,3’-ジ(9H-カルバゾール-9-イル)ビフェニル(mCBP)以外の化合物であってもよい。
以下に、第1有機化合物として用いることができる好ましい化合物を挙げる。
【0026】
【化1】
【0027】
(第2有機化合物)
本発明の有機発光素子に用いる第2有機化合物は遅延蛍光材料である。本発明における「遅延蛍光材料」とは、励起状態において、励起三重項状態から励起一重項状態への逆項間交差を生じ、その励起一重項状態から基底状態へ戻る際に蛍光(遅延蛍光)を放射する有機化合物である。本発明では、蛍光寿命測定システム(浜松ホトニクス社製ストリークカメラシステム等)により発光寿命を測定したとき、発光寿命が100ns(ナノ秒)以上の蛍光が観測されるものを遅延蛍光材料と言う。
第2有機化合物は、最低励起一重項エネルギーと77Kの最低励起三重項エネルギーの差ΔEST(2)が0.3eV以下であることが好ましく、0.25eV以下であることがより好ましく、0.2eV以下であることがより好ましく、0.15eV以下であることがより好ましく、0.1eV以下であることがさらに好ましく、0.07eV以下であることがさらにより好ましく、0.05eV以下であることがさらにまた好ましく、0.03eV以下であることがさらになお好ましく、0.01eV以下であることが特に好ましい。
ΔEST(2)が小さければ、熱エネルギーの吸収によって励起一重項状態から励起三重項状態に逆項間交差しやすいため、第2有機化合物は熱活性化型の遅延蛍光材料として機能する。熱活性化型の遅延蛍光材料は、デバイスが発する熱を吸収して励起三重項状態から励起一重項へ比較的容易に逆項間交差し、その励起三重項エネルギーを効率よく発光に寄与させることができる。
【0028】
本願における、化合物の最低励起一重項エネルギー(ES1)と最低励起三重項エネルギー(ET1)は、下記の手順により求めた値である。ΔESTはES1-ET1を計算することにより求めた値である。
(1)最低励起一重項エネルギー(ES1
測定対象化合物の薄膜もしくはトルエン溶液(濃度10-5mol/L)を調製して試料とする。常温(300K)でこの試料の蛍光スペクトルを測定する。蛍光スペクトルは、縦軸を発光、横軸を波長とする。この発光スペクトルの短波側の立ち上がりに対して接線を引き、その接線と横軸との交点の波長値 λedge[nm]を求める。この波長値を次に示す換算式でエネルギー値に換算した値をES1とする。
換算式:ES1[eV]=1239.85/λedge
後述の実施例における発光スペクトルの測定は、励起光源にLED光源(Thorlabs社製、M300L4)を用いて検出器(浜松ホトニクス社製、PMA-12マルチチャンネル分光器 C10027-01)により行った。
(2)最低励起三重項エネルギー(ET1
最低励起一重項エネルギー(ES1)の測定で用いたのと同じ試料を、液体窒素によって77[K]に冷却し、励起光(300nm)をりん光測定用試料に照射し、検出器を用いてりん光を測定する。励起光照射後から100ミリ秒以降の発光をりん光スペクトルとする。このりん光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対して接線を引き、その接線と横軸との交点の波長値λedge[nm]を求める。この波長値を次に示す換算式でエネルギー値に換算した値をET1とする。
換算式:ET1[eV]=1239.85/λedge
りん光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対する接線は以下のように引く。りん光スペクトルの短波長側から、スペクトルの極大値のうち、最も短波長側の極大値までスペクトル曲線上を移動する際に、長波長側に向けて曲線上の各点における接線を考える。この接線は、曲線が立ち上がるにつれ(つまり縦軸が増加するにつれ)、傾きが増加する。この傾きの値が極大値をとる点において引いた接線を、当該りん光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対する接線とする。
なお、スペクトルの最大ピーク強度の10%以下のピーク強度をもつ極大点は、上述の最も短波長側の極大値には含めず、最も短波長側の極大値に最も近い、傾きの値が極大値をとる点において引いた接線を当該りん光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対する接線とする。
【0029】
第2有機化合物は、第1有機化合物よりも最低励起一重項エネルギーが小さくて、第3有機化合物よりも最低励起一重項エネルギーが大きい遅延蛍光材料である。第2有機化合物は、何らかの条件下で遅延蛍光を放射しうる化合物であればよい。本発明の有機発光素子では、第2有機化合物に由来する遅延蛍光を放射することは必須とされず、第3有機化合物からの発光が主たる発光となる。本発明の有機発光素子において、第2有機化合物は、励起一重項状態の第1有機化合物からエネルギーを受け取って励起一重項状態に遷移する。また、第2有機化合物は、励起三重項状態の第1有機化合物からエネルギーを受け取って励起三重項状態に遷移してもよい。第2有機化合物はΔESTが小さいことから、励起三重項状態の第2有機化合物は励起一重項状態の第2有機化合物へ逆項間交差しやすい。これらの経路により生じた励起一重項状態の第2有機化合物は第3有機化合物へエネルギーを与えて第3有機化合物を励起一重項状態に遷移させる。
【0030】
本発明の好ましい態様では、第1有機化合物の発光波長領域と第2有機化合物の吸収波長領域との間に重なりがあるように、各化合物を選択して組み合わせる。特に、第1有機化合物の発光スペクトルの短波長側のエッジと、第2有機化合物の吸収スペクトルの長波側のエッジが重なっている(交差している)ことが好ましい。
【0031】
第2有機化合物は、炭素原子、水素原子、重水素原子、窒素原子、酸素原子および硫黄原子からなる群より選択される原子だけで構成される化合物であることが好ましい。例えば、第2有機化合物は、炭素原子、水素原子、重水素原子、窒素原子および酸素原子からなる群より選択される原子だけで構成される化合物であってもよい。例えば、第2有機化合物は、炭素原子、水素原子、窒素原子および酸素原子のみからなる化合物であってもよい。また、第2有機化合物は、炭素原子、水素原子、重水素原子、窒素原子および硫黄原子からなる群より選択される原子だけで構成される化合物であってもよい。また、第2有機化合物は、炭素原子、水素原子、重水素原子および窒素原子からなる群より選択される原子だけで構成される化合物であってもよい。第2有機化合物はシアノ基を1つ有する化合物であってもよい。第2有機化合物はシアノ基を2つ有する化合物であってもよい。また、第2有機化合物はシアノ基を有さない化合物であってもよい。第2有機化合物はカルバゾール環を有する化合物であってもよい。第2有機化合物は置換カルバゾリル基と無置換のカルバゾリル基を有する化合物であってもよい。第2有機化合物はジベンゾフラン構造またはジベンゾチオフェン構造を含む化合物であってもよい。第2有機化合物はトリアジン環を有する化合物であってもよい。
以下に、第2有機化合物として用いることができる好ましい化合物を挙げる。以下の例示化合物の構造式において、t-Buはターシャリーブチル基を表す。
【化2】
【0032】
第2有機化合物には、上記以外にも公知の遅延蛍光材料を適宜組み合わせて用いることができる。また、知られていない遅延蛍光材料であっても、用いることが可能である。
好ましい遅延蛍光材料として、WO2013/154064号公報の段落0008~0048および0095~0133、WO2013/011954号公報の段落0007~0047および0073~0085、WO2013/011955号公報の段落0007~0033および0059~0066、WO2013/081088号公報の段落0008~0071および0118~0133、特開2013-256490号公報の段落0009~0046および0093~0134、特開2013-116975号公報の段落0008~0020および0038~0040、WO2013/133359号公報の段落0007~0032および0079~0084、WO2013/161437号公報の段落0008~0054および0101~0121、特開2014-9352号公報の段落0007~0041および0060~0069、特開2014-9224号公報の段落0008~0048および0067~0076、特開2017-119663号公報の段落0013~0025、特開2017-119664号公報の段落0013~0026、特開2017-222623号公報の段落0012~0025、特開2017-226838号公報の段落0010~0050、特開2018-100411号公報の段落0012~0043、WO2018/047853号公報の段落0016~0044に記載される一般式に包含される化合物、特に例示化合物であって、遅延蛍光を放射するものを挙げることができる。また、特開2013-253121号公報、WO2013/133359号公報、WO2014/034535号公報、WO2014/115743号公報、WO2014/122895号公報、WO2014/126200号公報、WO2014/136758号公報、WO2014/133121号公報、WO2014/136860号公報、WO2014/196585号公報、WO2014/189122号公報、WO2014/168101号公報、WO2015/008580号公報、WO2014/203840号公報、WO2015/002213号公報、WO2015/016200号公報、WO2015/019725号公報、WO2015/072470号公報、WO2015/108049号公報、WO2015/080182号公報、WO2015/072537号公報、WO2015/080183号公報、特開2015-129240号公報、WO2015/129714号公報、WO2015/129715号公報、WO2015/133501号公報、WO2015/136880号公報、WO2015/137244号公報、WO2015/137202号公報、WO2015/137136号公報、WO2015/146541号公報、WO2015/159541号公報に記載される発光材料であって、遅延蛍光を放射するものを好ましく採用することができる。なお、この段落に記載される上記の公報は、本明細書の一部としてここに引用している。
【0033】
下記一般式(1)で表され、遅延蛍光を放射する化合物を、本発明の遅延蛍光材料として好ましく用いることができる。本発明の好ましい実施態様では、第2有機化合物として、一般式(1)で表される化合物を採用することができる。
【化3】
【0034】
一般式(1)において、X~XはNまたはC-Rを表す。Rは水素原子、重水素原子または置換基を表す。X~Xのうちの2つ以上がC-Rを表すとき、それらのC-Rは互いに同一であっても異なっていてもよい。ただし、X~Xのうちの少なくとも1つはC-D(ここでいうDはドナー性基を表す)である。X~XのすべてがC-Rであるとき、Zはアクセプター性基を表し、X~Xの少なくとも1つがNであるとき、Zは水素原子、重水素原子または置換基を表す。
一般式(1)で表される化合物の中で特に好ましい化合物は、下記一般式(2)で表される化合物である。
【化4】
【0035】
一般式(2)において、X~XはNまたはC-Rを表す。Rは水素原子、重水素原子または置換基を表す。X~Xのうちの2つ以上がC-Rを表すとき、それらのC-Rは互いに同一であっても異なっていてもよい。ただし、X~Xのうちの少なくとも1つはC-D(ここでいうDはドナー性基を表す)である。
【0036】
一般式(1)のZが表す置換基の説明と好ましい範囲については、後述の一般式(7)の置換基の説明と好ましい範囲を参照することができる。一般式(1)のZが表すアクセプター性基は、Zが結合している環に対して電子を供与する性質を有する基であり、例えばハメットのσp値が正の基の中から選択することができる。一般式(1)および一般式(2)のDが表すドナー性基は、Dが結合している環に対して電子を吸引する性質を有する基であり、例えばハメットのσp値が負の基の中から選択することができる。以下において、アクセプター性基をAと称することがある。
ここで、「ハメットのσp値」は、L.P.ハメットにより提唱されたものであり、パラ置換ベンゼン誘導体の反応速度または平衡に及ぼす置換基の影響を定量化したものである。具体的には、パラ置換ベンゼン誘導体における置換基と反応速度定数または平衡定数の間に成立する下記式:
log(k/k0) = ρσp
または
log(K/K0) = ρσp
における置換基に特有な定数(σp)である。上式において、kは置換基を持たないベンゼン誘導体の速度定数、k0は置換基で置換されたベンゼン誘導体の速度定数、Kは置換基を持たないベンゼン誘導体の平衡定数、K0は置換基で置換されたベンゼン誘導体の平衡定数、ρは反応の種類と条件によって決まる反応定数を表す。本発明における「ハメットのσp値」に関する説明と各置換基の数値については、Hansch,C.et.al.,Chem.Rev.,91,165-195(1991)のσp値に関する記載を参照することができる。
【0037】
一般式(1)および一般式(2)において、X~XはNまたはC-Rを表すが、少なくとも1つはC-Dである。X~XのうちNの数は、0~4つであり、例えば、XとXとX、XとX、XとX、XとX、XとX、XとX、Xだけ、Xだけ、XだけがNである場合を例示することができる。X~XのうちC-Dの数は1~5つであり、2~5つであることが好ましい。例えば、XとXとXとXとX、XとXとXとX、XとXとXとX、XとXとXとX、XとXとX、XとXとX、XとXとX、XとXとX、XとX、XとX、XとX、XとX、XとX、Xだけ、Xだけ、XだけがC-Dである場合を例示することができる。X~Xのうちの少なくとも1つはC-Aであってもよい。ここでいうAはアクセプター性基を表す。X~XのうちC-Aの数は0~2であることが好ましく、0または1であることがより好ましい。C-AのAとして好ましくはシアノ基および不飽和の窒素原子を有する複素環式芳香族基を挙げることができる。また、X~Xは各々独立にC-DまたはC-Aであってもよい。
~Xのうちの隣り合う2つがC-Rを表すとき、2つのRは互いに結合して環状構造を形成していてもよい。互いに結合して形成する環状構造は芳香環であっても脂肪環であってもよく、またヘテロ原子を含むものであってもよく、さらに環状構造は2環以上の縮合環であってもよい。ここでいうヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子および硫黄原子からなる群より選択されるものであることが好ましい。形成される環状構造の例として、ベンゼン環、ナフタレン環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、ピロール環、イミダゾール環、ピラゾール環、イミダゾリン環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、シクロヘキサジエン環、シクロヘキセン環、シクロペンタエン環、シクロヘプタトリエン環、シクロヘプタジエン環、シクロヘプタエン環、フラン環、チオフェン環、ナフチリジン環、キノキサリン環、キノリン環などを挙げることができる。例えばフェナントレン環やトリフェニレン環のように多数の環が縮合した環を形成してもよい。
【0038】
一般式(1)および一般式(2)におけるドナー性基Dは、例えば下記の一般式(3)で表される基であることが好ましい。
【化5】
【0039】
一般式(3)において、R11とR12は、各々独立に置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のアリール基、または置換もしくは無置換のヘテロアリール基を表す。R11とR12は互いに結合して環状構造を形成してもよい。Lは単結合、置換もしくは無置換のアリーレン基、または置換もしくは無置換のヘテロアリーレン基を表す。Lのアリーレン基またはヘテロアリーレン基に導入しうる置換基は、一般式(1)や一般式(2)で表される基であってもよいし、後述する一般式(3)~(6)で表される基であってもよい。これらの(1)~(6)で表される基はLに導入可能な置換基の最大数まで導入されていてもよい。また、一般式(1)~(6)で表される基が複数個導入されている場合は、それらの置換基は互いに同一であっても異なっていてもよい。*は、一般式(1)または一般式(2)における環の環骨格を構成する炭素原子(C)への結合位置を表す。
ここでいう「アルキル基」は、直鎖状、分枝状、環状のいずれであってもよい。また、直鎖部分と環状部分と分枝部分のうちの2種以上が混在していてもよい。アルキル基の炭素数は、例えば1以上、2以上、4以上とすることができる。また、炭素数は30以下、20以下、10以下、6以下、4以下とすることができる。アルキル基の具体例として、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、2-エチルヘキシル基、n-ヘプチル基、イソヘプチル基、n-オクチル基、イソオクチル基、n-ノニル基、イソノニル基、n-デカニル基、イソデカニル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基を挙げることができる。置換基たるアルキル基は、さらにアリール基で置換されていてもよい。
「アルケニル基」は、直鎖状、分枝状、環状のいずれであってもよい。また、直鎖部分と環状部分と分枝部分のうちの2種以上が混在していてもよい。アルケニル基の炭素数は、例えば2以上、4以上とすることができる。また、炭素数は30以下、20以下、10以下、6以下、4以下とすることができる。アルケニル基の具体例として、エテニル基、n-プロペニル基、イソプロペニル基、n-ブテニル基、イソブテニル基、n-ペンテニル基、イソペンテニル基、n-ヘキセニル基、イソヘキセニル基、2-エチルヘキセニル基を挙げることができる。置換基たるアルケニル基は、さらに置換基で置換されていてもよい。
「アリール基」および「ヘテロアリール基」は、単環であってもよいし、2つ以上の環が縮合した縮合環であってもよい。縮合環である場合、縮合している環の数は2~6であることが好ましく、例えば2~4の中から選択することができる。環の具体例として、ベンゼン環、ピリジン環、ピリミジン環、トリアジン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、トリフェニレン環、キノリン環、ピラジン環、キノキサリン環、ナフチリジン環を挙げることができる。アリール基またはヘテロアリール基の具体例として、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、1-アントラセニル基、2-アントラセニル基、9-アントラセニル基、2-ピリジル基、3-ピリジル基、4-ピリジル基を挙げることができる。「アリーレン基」および「ヘテロアリール基」は、アリール基およびヘテロアリール基の説明における価数を1から2へ読み替えたものとすることができる。
置換基は、水素原子または重水素原子に置換しうる1価の基を意味しており、縮合するものを含む概念ではない。置換基の説明と好ましい範囲については、後述の一般式(7)の置換基の説明と好ましい範囲を参照することができる。
【0040】
一般式(3)で表される化合物は、下記一般式(4)~(6)のいずれかで表される化合物であることが好ましい。
【化6】
【0041】
一般式(4)~(6)において、R51~R60、R61~R68、R71~R78は、各々独立に水素原子、重水素原子または置換基を表す。ここでいう置換基の説明と好ましい範囲については、後述の一般式(7)における置換基の説明と好ましい範囲を参照することができる。R51~R60、R61~R68、R71~R78は、各々独立に上記一般式(4)~(6)のいずれかで表される基であることも好ましい。一般式(4)~(6)における置換基の数は特に制限されない。すべてが無置換(すなわち水素原子または重水素原子)である場合も好ましい。また、一般式(4)~(6)のそれぞれにおいて置換基が2つ以上ある場合、それらの置換基は同一であっても異なっていてもよい。一般式(4)~(6)に置換基が存在している場合、その置換基は一般式(4)であればR52~R59のいずれかであることが好ましく、一般式(5)であればR62~R67のいずれかであることが好ましく、一般式(6)であればR72~R77のいずれかであることが好ましい。
【0042】
一般式(4)~(6)において、R51とR52、R52とR53、R53とR54、R54とR55、R55とR56、R56とR57、R57とR58、R58とR59、R59とR60、R61とR62、R62とR63、R63とR64、R65とR66、R66とR67、R67とR68、R71とR72、R72とR73、R73とR74、R75とR76、R76とR77、R77とR78は、互いに結合して環状構造を形成していてもよい。環状構造の説明と好ましい例については、上記の一般式(1)および一般式(2)のX~Xにおける環状構造の説明と好ましい例を参照することができる。
【0043】
一般式(6)においてXは連結鎖長が1原子である2価の酸素原子、硫黄原子、置換もしくは無置換の窒素原子、置換もしくは無置換の炭素原子、置換もしくは無置換のケイ素原子、カルボニル基、あるいは、結合鎖長が2原子である2価の置換もしくは無置換のエチレン基、置換もしくは無置換のビニレン基、置換もしくは無置換のo-アリーレン基、または置換もしくは無置換のo-ヘテロアリーレン基を表す。置換基の具体例と好ましい範囲については、上記の一般式(1)および一般式(2)における置換基の記載を参照することができる。
【0044】
一般式(4)~(6)において、L12~L14は、単結合、置換もしくは無置換のアリーレン基、または置換もしくは無置換のヘテロアリーレン基を表す。L12~L14が表すアリーレン基またはヘテロアリーレン基の説明と好ましい範囲については、Lが表すアリーレン基またはヘテロアリーレン基の説明と好ましい範囲を参照することができる。L12~L14は、単結合、置換もしくは無置換のアリーレン基であることが好ましい。ここでいうアリーレン基やヘテロアリーレン基の置換基は、一般式(1)~(6)で表される基であってもよい。一般式(1)~(6)で表される基はL11~L14に導入可能な置換基の最大数まで導入されていてもよい。また、一般式(1)~(6)で表される基が複数個導入されている場合は、それらの置換基は互いに同一であっても異なっていてもよい。*は、一般式(1)または一般式(2)における環の環骨格を構成する炭素原子(C)への結合位置を表す。
【0045】
本発明では、下記一般式(7)で表され、遅延蛍光を放射する化合物を、遅延蛍光材料として特に好ましく用いることができる。本発明の好ましい実施態様では、第2有機化合物として、一般式(7)で表される化合物を採用することができる。
【化7】
【0046】
一般式(7)において、R~Rの0~4つはシアノ基を表し、R~Rの少なくとも1つは置換アミノ基を表し、残りのR~Rは水素原子、重水素原子、またはシアノ基と置換アミノ基以外の置換基を表す。
ここでいう置換アミノ基は、置換もしくは無置換のジアリールアミノ基であることが好ましく、置換もしくは無置換のジアリールアミノ基を構成する2つのアリール基は互いに連結していてもよい。連結は、単結合でなされていてよいし(その場合はカルバゾ-ル環が形成される)、-O-、-S-、-N(R)-、-C(R)(R)-、-Si(R)(R10)-などの連結基でなされていてもよい。ここで、R~R10は水素原子、重水素原子または置換基を表し、RとR、RとR10は、それぞれ互いに連結して環状構造を形成してもよい。
置換アミノ基はR~Rのいずれであってもよく、例えばRとR、RとR、RとR、RとR、RとR、RとR、RとRとR、RとRとR、RとRとR、RとRとR、RとRとR、RとRとR、RとRとRとR、RとRとRとR、RとRとRとR、RとRとRとRとRを置換アミノ基とすること等ができる。シアノ基もR~Rのいずれであってもよく、例えばR、R、R、RとR、RとR、RとR、RとR、RとR、RとR、RとRとR、RとRとR、RとRとR、RとRとR、RとRとR、RとRとRをシアノ基とすること等ができる。
シアノ基でも置換アミノ基でもないR~Rは、水素原子、重水素原子または置換基を表す。ここでいう置換基の例として、ヒドロキシル基、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、アルキル基(例えば炭素数1~40)、アルコキシ基(例えば炭素数1~40)、アルキルチオ基(例えば炭素数1~40)、アリール基(例えば炭素数6~30)、アリールオキシ基(例えば炭素数6~30)、アリールチオ基(例えば炭素数6~30)、ヘテロアリール基(例えば環骨格構成原子数5~30)、ヘテロアリールオキシ基(例えば環骨格構成原子数5~30)、ヘテロアリールチオ基(例えば環骨格構成原子数5~30)、アシル基(例えば炭素数1~40)、アルケニル基(例えば炭素数1~40)、アルキニル基(例えば炭素数1~40)、アルコキシカルボニル基(例えば炭素数1~40)、アリールオキシカルボニル基(例えば炭素数1~40)、ヘテロアリールオキシカルボニル基(例えば炭素数1~40)、シリル基(例えば炭素数1~40のトリアルキルシリル基)、ニトロ基、ここに列挙した基がさらにここに列挙した1以上の基で置換された基からなる置換基群Aを挙げることができる。上記ジアリールアミノ基のアリール基が置換されているときの置換基の好ましい例としても、上記の置換基群Aの置換基を挙げることができ、さらにシアノ基と置換アミノ基も挙げることができる。
一般式(7)に包含される化合物群と化合物の具体例については、本明細書の一部としてここに引用するWO2013/154064号公報の段落0008~0048、WO2015/080183号公報の段落0009~0030、WO2015/129715号公報の段落0006~0019、特開2017-119663号公報の段落0013~0025、特開2017-119664号公報の段落0013~0026を参照することができる。
【0047】
また、下記一般式(8)で表され、遅延蛍光を放射する化合物も、本発明の遅延蛍光材料として特に好ましく用いることができる。本発明の好ましい実施態様では、第2有機化合物として、一般式(8)で表される化合物を採用することができる。
【化8】
【0048】
一般式(8)において、Y、YおよびYは、いずれか2つが窒素原子で残りの1つがメチン基を表すか、または、Y、YおよびYのすべてが窒素原子を表す。ZおよびZは、各々独立に水素原子、重水素原子または置換基を表す。R11~R18は、各々独立に水素原子、重水素原子または置換基を表し、R11~R18の少なくとも1つは、置換もしくは無置換のアリールアミノ基、または置換もしくは無置換のカルバゾリル基であることが好ましい。前記アリールアミノ基を構成するベンゼン環、前記カルバゾリル基を構成するベンゼン環は、それぞれR11~R18と一緒になって単結合または連結基を形成してもよい。また、一般式(8)で表される化合物は分子中にカルバゾール構造を少なくとも2つ含む。Z、Zが採りうる置換基の例としては、上記の置換基群Aの置換基を挙げることができる。また、R11~R18、上記アリールアミノ基、カルバゾリル基が採りうる置換基の具体例については、上記の置換基群Aの置換基、シアノ基、置換アリールアミノ基、置換アルキルアミノ基を挙げることができる。なお、R11とR12、R12とR13、R13とR14、R15とR16、R16とR17、R17とR18は、互いに結合して環状構造を形成していてもよい。
一般式(8)で表される化合物の中でも、特に一般式(9)で表される化合物が有用である。
【化9】
【0049】
一般式(9)において、Y、YおよびYは、いずれか2つが窒素原子で残りの1つがメチン基を表すか、または、Y、YおよびYのすべてが窒素原子を表す。Zは、水素原子、重水素原子または置換基を表す。R11~R18およびR21~R28は、各々独立に水素原子、重水素原子または置換基を表す。R11~R18の少なくとも1つ、および/または、R21~R28の少なくとも1つは、置換もしくは無置換のアリールアミノ基、または置換もしくは無置換のカルバゾリル基を表すことが好ましい。前記アリールアミノ基を構成するベンゼン環、前記カルバゾリル基を構成するベンゼン環は、それぞれR11~R18またはR21~R28と一緒になって単結合または連結基を形成してもよい。Zが採りうる置換基の例としては、上記の置換基群Aの置換基を挙げることができる。また、R11~R18、R21~R28、上記アリールアミノ基、カルバゾリル基が採りうる置換基の具体例については、上記の置換基群Aの置換基、シアノ基、置換アリールアミノ基、置換アルキルアミノ基を挙げることができる。なお、R11とR12、R12とR13、R13とR14、R15とR16、R16とR17、R17とR18、R21とR22、R22とR23、R23とR24、R25とR26、R26とR27、R27とR28は互いに結合して環状構造を形成していてもよい。
一般式(9)に包含される化合物群と化合物の具体例については、本明細書の一部としてここに引用するWO2013/081088号公報の段落0020~0062や、Appl.Phys.Let,98,083302(2011)に記載の化合物を参照することができる。
【0050】
また、下記一般式(10)で表され、遅延蛍光を放射する化合物も、本発明の遅延蛍光材料として特に好ましく用いることができる。
【化10】
【0051】
一般式(10)において、R91~R96は各々独立に水素原子、重水素原子、ドナー性基、もしくはアクセプター性基を表し、そのうちの少なくとも1つは、前記ドナー性基であり、少なくとも2つは、前記アクセプター性基である。少なくとも2つのアクセプター性基の置換位置は特に制限されないが、互いにメタ位の関係にある2つのアクセプター性基を含むことが好ましい。例えば、R91がドナー性基である場合、少なくともR92とR94がアクセプター性基である構造や、少なくともR92とR96がアクセプター性基である構造を好ましく例示することができる。分子内に存在するアクセプター性基は、すべて同一であっても互いに異なっていてもよいが、例えばすべて同一である構造を選択することが可能である。アクセプター性基の数は2~3であることが好ましく、例えば2を選択することができる。また、ドナー性基は2つ以上存在していてもよく、その場合のドナー性基もすべて同一であっても互いに異なっていてもよい。ドナー性基の数は1~3つであることが好ましく、例えば1つだけでも、2つでもよい。なお、ドナー性基とアクセプター性基の説明と好ましい範囲については、一般式(1)のDとZの説明と好ましい範囲を参照することができる。特に、一般式(10)においてドナー性基は一般式(3)で表されることが好ましく、アクセプター性基はシアノ基もしくは下記一般式(11)で表されることが好ましい。
【化11】
【0052】
一般式(11)において、Y~Yは、窒素原子を表すかメチン基を表すが、少なくとも一つは窒素原子であり、好ましくはすべてが窒素原子を表す。R101~R110は各々独立に水素原子、重水素原子、もしくは置換基を表すが少なくとも一つはアルキル基であることが好ましい。ここでいう置換基の説明と好ましい範囲については、前述の一般式(7)における置換基の説明と好ましい範囲を参照することができる。L15は単結合または連結基を表し、前述の一般式(3)におけるLの説明と好ましい範囲を参照することができる。本発明の好ましい一態様では、一般式(11)におけるL15は単結合である。*は、一般式(10)における環の環骨格を構成する炭素原子(C)への結合位置を表す。
【0053】
本発明の他の好ましい実施態様では、第2有機化合物として、一般式(12)で表される化合物を採用することができる。
【化12】
【0054】
一般式(12)で表される化合物の中で特に好ましい化合物は、下記一般式(13)で表される化合物や一般式(14)で表される化合物である。
【化13】
【0055】
一般式(12)~(14)において、Dはドナー性基を表し、Aはアクセプター性基を表し、Rは水素原子、重水素原子または置換基を表す。ドナー性基およびアクセプター性基の説明と好ましい範囲については、前述の一般式(1)の対応する説明と好ましい範囲を参照することができる。Rの置換基としては、アルキル基や、アルキル基およびアリール基からなる群より選択される1つの基または2つ以上を組み合わせた基で置換されていてもよいアリール基を例示することができる。
一般式(12)~(14)におけるDとして好ましいドナー性基の具体例を以下に挙げる。以下の具体例において、*は結合位置を表し、「D」はデューテリウムを表す。
【化14】
【0056】
一般式(12)~(14)におけるAとして好ましいアクセプター性基の具体例を以下に挙げる。以下の具体例において、*は結合位置を表し、「D」はデューテリウムを表す。
【化15】
【0057】
一般式(12)~(14)におけるRとして好ましい例を以下に挙げる。以下の具体例において、*は結合位置を表し、「D」はデューテリウムを表す。
【化16】
【0058】
(第3有機化合物)
第3有機化合物は、第1有機化合物および第2有機化合物よりも最低励起一重項エネルギーが小さい化合物である。本発明の有機発光素子では、第3有機化合物に由来する蛍光を放射する。第3有機化合物からの発光は通常は遅延蛍光を含む。本発明の有機発光素子からの発光の最大成分は第3有機化合物からの発光である。すなわち、本発明の有機発光素子からの発光のうち、第3有機化合物からの発光量が最大である。第3有機化合物は、励起一重項状態の第1有機化合物、励起一重項状態の第2有機化合物、励起三重項状態から逆項間交差して励起一重項状態になった第2有機化合物からエネルギーを受け取って励起一重項状態に遷移する。また本発明の好ましい態様では、第3有機化合物は、励起一重項状態の第2有機化合物と、励起三重項状態から逆項間交差して励起一重項状態になった第2有機化合物からエネルギーを受け取って励起一重項状態に遷移する。生じた第3有機化合物の励起一重項状態は、その後基底状態に戻るときに蛍光を放射する。
第3有機化合物として用いる蛍光材料としては、このように第1有機化合物、第2有機化合物からエネルギーを受け取って発光し得るものであれば特に限定されず、発光には蛍光、遅延蛍光、りん光のいずれが含まれていても構わない。好ましいのは、発光に蛍光や遅延蛍光が含まれている場合であり、より好ましいのは第3有機化合物からの発光の最大成分が蛍光である場合である。
第3有機化合物は、本発明の条件を満たすものであれば2種以上を用いてもよい。例えば、発光色が異なる2種以上の第3有機化合物を併用することにより、所望の色を発光させることが可能になる。また、1種類の第3有機化合物を用いて第3有機化合物から単色発光させてもよい。
本発明では、第3有機化合物として用いることができる化合物の最大発光波長は特に制限されない。このため、可視領域(380~780nm)に最大発光波長を有する発光材料や赤外領域(780nm~1mm)に最大発光波長を有する発光材料などを適宜選択して使用することが可能である。好ましいのは、可視領域に最大発光波長を有する蛍光材料である。例えば、380~780nmの領域内における最大発光波長が380~570nmの範囲内にある発光材料を選択して用いたり、最大発光波長が380~500nmの範囲内にある発光材料を選択して用いたり、最大発光波長が380~480nmの範囲内にある発光材料を選択して用いたり、最大発光波長が420~480nmの範囲内にある発光材料を選択して用いたりしてもよい。
本発明の好ましい態様では、第2有機化合物の発光波長領域と第3有機化合物の吸収波長領域との間に重なりがあるように、各化合物を選択して組み合わせる。特に、第2有機化合物の発光スペクトルの短波長側のエッジと、第3有機化合物の吸収スペクトルの長波側のエッジが重なっている(交差している)ことが好ましい。
【0059】
第3有機化合物は、炭素原子、水素原子、重水素原子、窒素原子、ホウ素原子、酸素原子および硫黄原子からなる群より選択される原子だけで構成される化合物であることが好ましい。例えば、第3有機化合物は、炭素原子、水素原子、重水素原子、窒素原子、ホウ素原子および酸素原子からなる群より選択される原子だけで構成される化合物であってもよい。第3有機化合物は、炭素原子、水素原子、重水素原子、窒素原子、ホウ素原子および硫黄原子からなる群より選択される原子だけで構成される化合物であってもよい。第3有機化合物は、炭素原子、水素原子、重水素原子、窒素原子およびホウ素原子からなる群より選択される原子だけで構成される化合物であってもよい。例えば、第3有機化合物は、炭素原子、水素原子、窒素原子およびホウ素原子のみからなる化合物であってもよい。第3有機化合物はシアノ基を有さない化合物であってもよい。第3有機化合物は多重共鳴効果を有する化合物であってもよく、例えばホウ素原子と窒素原子の多重共鳴効果を有する化合物であってもよい。第3有機化合物はジアリールアミノ基を有する化合物であってもよい。
以下に、第3有機化合物として用いることができる好ましい化合物を挙げる。なお、以下の例示化合物の構造式において、Etはエチル基を表す。
【0060】
【化17】

【0061】
好ましい化合物群として、化合物E1~E5およびそれらの骨格を有する誘導体を挙げることができる。誘導体としては、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、ジアリールアミノ基で置換された化合物を挙げることができる。
【0062】
また、WO2015/022974号公報の段落0220~0239に記載の化合物も、本発明の第3有機化合物として特に好ましく用いることができる。
【0063】
(発光層)
本発明の有機発光素子の発光層は、条件(a)を満たす第1有機化合物と第2有機化合物と第3有機化合物を含む。発光層は、第1有機化合物と第2有機化合物と第3有機化合物以外に、電荷やエネルギーの授受を行う化合物や金属元素を含まない構成にすることができる。また発光層は、炭素原子、水素原子、重水素原子、窒素原子、ホウ素原子、酸素原子および硫黄原子からなる群より選択される原子からなる化合物だけで構成することもできる。例えば、発光層は、炭素原子、水素原子、重水素原子、窒素原子、ホウ素原子および酸素原子からなる群より選択される原子からなる化合物だけで構成することができる。例えば、発光層は、炭素原子、水素原子、重水素原子、窒素原子、ホウ素原子および硫黄原子からなる群より選択される原子からなる化合物だけで構成することができる。例えば、発光層は、炭素原子、水素原子、重水素原子、窒素原子およびホウ素原子からなる群より選択される原子からなる化合物だけで構成することができる。例えば、発光層は、炭素原子、水素原子、重水素原子、窒素原子、酸素原子および硫黄原子からなる群より選択される原子からなる化合物だけで構成することができる。例えば、発光層は、炭素原子、水素原子、重水素原子および窒素原子からなる群より選択される原子からなる化合物だけで構成することができる。発光層は、炭素原子、水素原子、窒素原子および酸素原子からなる群より選択される原子から構成される有機第1化合物と、炭素原子、水素原子、重水素原子、窒素原子、酸素原子および硫黄原子からなる群より選択される原子から構成される有機第2化合物と、炭素原子、水素原子、重水素原子、窒素原子、ホウ素原子、酸素原子および硫黄原子からなる群より選択される原子から構成される有機第3化合物を含むものであってもよい。また、発光層は、炭素原子、水素原子、窒素原子および酸素原子からなる群より選択される原子から構成される有機第1化合物と、炭素原子、水素原子、重水素原子および窒素原子からなる群より選択される原子から構成される有機第2化合物と、炭素原子、水素原子、重水素原子、窒素原子およびホウ素原子からなる群より選択される原子から構成される有機第3化合物を含むものであってもよい。
発光層は、第1有機化合物、第2有機化合物および第3有機化合物を共蒸着することにより形成してもよいし、第1有機化合物、第2有機化合物および第3有機化合物を溶解させた溶液を用いて塗布法により形成してもよい。共蒸着により発光層を形成するときには、第1有機化合物、第2有機化合物および第3有機化合物のうちの2つ以上をあらかじめ混合してるつぼ等に入れて蒸着源とし、その蒸着源を用いて共蒸着により発光層を形成してもよい。例えば、第1有機化合物および第2有機化合物をあらかじめ混合して1つの蒸着源を作成しておき、その蒸着源と第3有機化合物の蒸着源を用いて共蒸着することにより発光層を形成してもよい。
【0064】
(有機発光素子の層構成)
条件(a)を満たす第1有機化合物、第2有機化合物および第3有機化合物を含む発光層とそれに隣接する第1有機化合物を含む隣接層を形成することにより、有機フォトルミネッセンス素子(有機PL素子)や有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)などの優れた有機発光素子を提供することができる。
発光層の厚さは例えば5nm以上としたり、10nm以上としたり、20nm以上としたり、40nm以上としたりすることができ、また、80nm以下としたり、60nm以下としたりすることができる。
有機フォトルミネッセンス素子は、基材上に少なくとも発光層とそれに隣接する隣接層を形成した構造を有する。また、有機エレクトロルミネッセンス素子は、少なくとも陽極、陰極、および陽極と陰極の間に有機層を形成した構造を有する。有機層は、少なくとも発光層とそれに隣接する隣接層を含むものであり、発光層とそれに隣接する隣接層のみからなるものであってもよいし、発光層とそれに隣接する隣接層の他に1層以上の有機層を有するものであってもよい。発光層以外の有機層として、正孔輸送層、正孔注入層、電子障壁層、正孔障壁層、電子注入層、電子輸送層、励起子障壁層などを挙げることができる。正孔輸送層は正孔注入機能を有した正孔注入輸送層でもよく、電子輸送層は電子注入機能を有した電子注入輸送層でもよい。具体的な有機エレクトロルミネッセンス素子の構造例を図1に示す。図1において、1はガラス基板、2は陽極、3は正孔注入層、4は正孔輸送層、5は電子障壁層、6は隣接層、7は発光層、8は正孔障壁層、9は電子輸送層、10は電子注入層、11は陰極を表わす。
本発明の有機発光素子が多波長発光型の有機発光素子であるとき、最も短波長な発光が遅延蛍光を含むものとすることができる。また、最も短波長な発光が遅延蛍光を含まないものとすることもできる。
【0065】
(有機発光素子の製造方法)
本発明の有機発光素子はいかなる方法で製造したものであってもよい。
好ましい製造方法として、第1有機化合物を含む隣接層を形成し、その隣接層に隣接するように、第1有機化合物と遅延蛍光材料である第2有機化合物と第3有機化合物を含む発光層を形成する工程を含む製造方法を挙げることができる。例えば、陽極上に有機層を積層することにより有機エレクトロルミネッセンス素子を製造する場合は、第1有機化合物を含む隣接層を形成し、その隣接層の上に積層するように、第1有機化合物と第2有機化合物と第3有機化合物を含む発光層を形成することができる。
別の好ましい製造方法として、第1有機化合物と遅延蛍光材料である第2有機化合物と第3有機化合物を含む発光層を形成し、その発光層に隣接するように、第1有機化合物を含む隣接層を形成する工程を含む製造方法を挙げることができる。例えば、陰極上に有機層を積層することにより有機エレクトロルミネッセンス素子を製造する場合は、第1有機化合物と第2有機化合物と第3有機化合物を含む発光層を形成し、その発光層の上に積層するように、第1有機化合物を含む隣接層を形成してもよい。
【0066】
本発明の製造方法では、第1有機化合物、第2有機化合物および第3有機化合物を、上記条件(a)を満たすように選択する。
発光層と障壁層の形成手段は特に制限されない。好ましい形成手段として蒸着法を挙げることができる。また、塗布法で形成してもよい。互いに隣接する発光層と障壁層は、連続的に形成してもよいし、断続的に形成してもよい。好ましいのは連続的に形成する場合である。
本発明の製造方法は、通常の有機発光素子の製造ライン(製造設備)を利用して容易に実施することができる。すなわち、通常の製造ラインにおいて、発光層と隣接層の形成に用いる材料を上記条件(a)を満たすように変更しさえすれば、本発明の製造方法を簡便に実施することができる。このため、本発明の製造方法は、製造ラインの変更や新設を行うことなく実施することができるという利点がある。また、本発明の製造方法を実施した後に、使用する材料を変更することにより再び本発明外の有機発光素子の製造ラインに戻すこともできる。このため、経済的に短時間で実施や転用ができる点で、本発明の製造方法の実用性は高い。
【0067】
本発明の製造方法では、上記条件(a)を満たす材料を用いて、互いに隣接するように発光層と隣接層を形成しさえすれば、その他の層や構造の形成法は特に制限されない。例えば、陽極や陰極といった電極を形成する工程をさらに含んでいてもよいし、発光層や隣接層以外の層を形成する工程をさらに含んでいてもよい。本発明の製造方法を、例えば有機エレクトロルミネッセンス素子の製造に用いる場合は、陽極上に順に1層以上の有機層を形成し、その上に隣接層を形成し、その上に発光層を形成し、その上に1層以上の有機層を形成し、その上に陰極を形成する各工程を実施することができる。あるいは、陰極上に順に1層以上の有機層を形成し、その上に発光層を形成し、その上に隣接層を形成し、その上に1層以上の有機層を形成し、その上に陽極を形成する各工程を実施することができる。さらに、当業者に自明な改変や付加を行ってもよい。
【0068】
図2は、有機発光素子の製造方法を実施するための工程を示すフローチャートである。有機エレクトロルミネッセンス素子を製造する場合は、電極を準備し(S1)、電極上に有機層を形成する(S2)。次いで、形成した有機層の上に隣接層を形成し(S3)、さらにその上に発光層を形成する(S4)。形成した発光層の上にS2で形成したのとは別の有機層を形成する(S5)。最後に有機層の上に電極を形成する(S6)ことにより、有機エレクトロルミネッセンス素子を製造することができる。製造に際しては、有機層形成工程であるS2とS5の一方または両方は行わなくてもよい。また、有機フォトルミネッセンス素子を製造する場合は、電極準備工程S1と電極形成工程S6は行わないでよい。本発明の製造方法では、隣接層形成工程S3に用いる材料と発光層形成工程S4に用いる材料が上記条件(a)を満たすように、材料を選択して層を形成することが必要とされる。
【0069】
以下において、有機エレクトロルミネッセンス素子の各部材および発光層以外の各層について説明する。
【0070】
基材:
いくつかの実施形態では、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は基材により保持され、当該基材は特に限定されず、有機エレクトロルミネッセンス素子で一般的に用いられる、例えばガラス、透明プラスチック、クォーツおよびシリコンにより形成されたいずれかの材料を用いればよい。
【0071】
陽極:
いくつかの実施形態では、有機エレクトロルミネッセンス装置の陽極は、金属、合金、導電性化合物またはそれらの組み合わせから製造される。いくつかの実施形態では、前記の金属、合金または導電性化合物は高い仕事関数(4eV以上)を有する。いくつかの実施形態では、前記金属はAuである。いくつかの実施形態では、導電性の透明材料は、CuI、酸化インジウム・スズ(ITO)、SnOおよびZnOから選択される。いくつかの実施形態では、IDIXO(In-ZnO)などの、透明な導電性フィルムを形成できるアモルファス材料を使用する。いくつかの実施形態では、前記陽極は薄膜である。いくつかの実施形態では、前記薄膜は蒸着またはスパッタリングにより作製される。いくつかの実施形態では、前記フィルムはフォトリソグラフィー方法によりパターン化される。いくつかの実施形態では、パターンが高精度である必要がない(例えば約100μm以上)場合、当該パターンは、電極材料への蒸着またはスパッタリングに好適な形状のマスクを用いて形成してもよい。いくつかの実施形態では、有機導電性化合物などのコーティング材料を塗布しうるとき、プリント法やコーティング法などの湿式フィルム形成方法が用いられる。いくつかの実施形態では、放射光が陽極を通過するとき、陽極は10%超の透過度を有し、当該陽極は、単位面積あたり数百オーム以下のシート抵抗を有する。いくつかの実施形態では、陽極の厚みは10~1,000nmである。いくつかの実施形態では、陽極の厚みは10~200nmである。いくつかの実施形態では、陽極の厚みは用いる材料に応じて変動する。
【0072】
陰極:
いくつかの実施形態では、前記陰極は、低い仕事関数を有する金属(4eV以下)(電子注入金属と称される)、合金、導電性化合物またはその組み合わせなどの電極材料で作製される。いくつかの実施形態では、前記電極材料は、ナトリウム、ナトリウム-カリウム合金、マグネシウム、リチウム、マグネシウム-銅混合物、マグネシウム-銀混合物、マグネシウム-アルミニウム混合物、マグネシウム-インジウム混合物、アルミニウム-酸化アルミニウム(Al)混合物、インジウム、リチウム-アルミニウム混合物および希土類元素から選択される。いくつかの実施形態では、電子注入金属と、電子注入金属より高い仕事関数を有する安定な金属である第2の金属との混合物が用いられる。いくつかの実施形態では、前記混合物は、マグネシウム-銀混合物、マグネシウム-アルミニウム混合物、マグネシウム-インジウム混合物、アルミニウム-酸化アルミニウム(Al)混合物、リチウム-アルミニウム混合物およびアルミニウムから選択される。いくつかの実施形態では、前記混合物は電子注入特性および酸化に対する耐性を向上させる。いくつかの実施形態では、陰極は、蒸着またはスパッタリングにより電極材料を薄膜として形成させることによって製造される。いくつかの実施形態では、前記陰極は単位面積当たり数百オーム以下のシート抵抗を有する。いくつかの実施形態では、前記陰極の厚は10nm~5μmである。いくつかの実施形態では、前記陰極の厚は50~200nmである。いくつかの実施形態では、放射光を透過させるため、有機エレクトロルミネッセンス素子の陽極および陰極のいずれか1つは透明または半透明である。いくつかの実施形態では、透明または半透明のエレクトロルミネッセンス素子は光放射輝度を向上させる。
いくつかの実施形態では、前記陰極を、前記陽極に関して前述した導電性の透明な材料で形成されることにより、透明または半透明の陰極が形成される。いくつかの実施形態では、素子は陽極と陰極とを含むが、いずれも透明または半透明である。
【0073】
注入層:
注入層は、電極と有機層との間の層である。いくつかの実施形態では、前記注入層は駆動電圧を減少させ、光放射輝度を増強する。いくつかの実施形態では、前記注入層は、正孔注入層と電子注入層とを含む。前記注入層は、陽極と発光層または正孔輸送層との間、並びに陰極と発光層または電子輸送層との間に配置することがきる。いくつかの実施形態では、注入層が存在する。いくつかの実施形態では、注入層が存在しない。
以下に、正孔注入材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【0074】
【化18】
【0075】
次に、電子注入材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【化19】
【0076】
障壁層:
障壁層は、発光層に存在する電荷(電子または正孔)および/または励起子が、発光層の外側に拡散することを阻止できる層である。いくつかの実施形態では、電子障壁層は、発光層と正孔輸送層との間に存在し、電子が発光層を通過して正孔輸送層へ至ることを阻止する。いくつかの実施形態では、正孔障壁層は、発光層と電子輸送層との間に存在し、正孔が発光層を通過して電子輸送層へ至ることを阻止する。いくつかの実施形態では、障壁層は、励起子が発光層の外側に拡散することを阻止する。いくつかの実施形態では、電子障壁層および正孔障壁層は励起子障壁層を構成する。本明細書で用いる用語「電子障壁層」または「励起子障壁層」には、電子障壁層の、および励起子障壁層の機能の両方を有する層が含まれる。
【0077】
正孔障壁層:
正孔障壁層は、電子輸送層として機能する。いくつかの実施形態では、電子の輸送の間、正孔障壁層は正孔が電子輸送層に至ることを阻止する。いくつかの実施形態では、正孔障壁層は、発光層における電子と正孔との再結合の確率を高める。正孔障壁層に用いる材料は、電子輸送層について前述したのと同じ材料であってもよい。
以下に、正孔障壁層に用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【0078】
【化20】
【0079】
電子障壁層:
電子障壁層は、正孔を輸送する。いくつかの実施形態では、正孔の輸送の間、電子障壁層は電子が正孔輸送層に至ることを阻止する。いくつかの実施形態では、電子障壁層は、発光層における電子と正孔との再結合の確率を高める。電子障壁層に用いる材料は、正孔輸送層について前述したのと同じ材料であってもよい。
以下に電子障壁材料として用いることができる化合物の具体例を挙げる。
【0080】
【化21】
【0081】
励起子障壁層:
励起子障壁層は、発光層における正孔と電子との再結合を通じて生じた励起子が電荷輸送層まで拡散することを阻止する。いくつかの実施形態では、励起子障壁層は、発光層における励起子の有効な閉じ込め(confinement)を可能にする。いくつかの実施形態では、装置の光放射効率が向上する。いくつかの実施形態では、励起子障壁層は、陽極の側と陰極の側のいずれかで、およびその両側の発光層に隣接する。いくつかの実施形態では、励起子障壁層が陽極側に存在するとき、当該層は、正孔輸送層と発光層との間に存在し、当該発光層に隣接してもよい。いくつかの実施形態では、励起子障壁層が陰極側に存在するとき、当該層は、発光層と陰極との間に存在し、当該発光層に隣接してもよい。いくつかの実施形態では、正孔注入層、電子障壁層または同様の層は、陽極と、陽極側の発光層に隣接する励起子障壁層との間に存在する。いくつかの実施形態では、正孔注入層、電子障壁層、正孔障壁層または同様の層は、陰極と、陰極側の発光層に隣接する励起子障壁層との間に存在する。いくつかの実施形態では、励起子障壁層は、励起一重項エネルギーと励起三重項エネルギーを含み、その少なくとも1つが、それぞれ、発光材料の励起一重項エネルギーと励起三重項エネルギーより高い。
【0082】
正孔輸送層:
正孔輸送層は、正孔輸送材料を含む。いくつかの実施形態では、正孔輸送層は単層である。いくつかの実施形態では、正孔輸送層は複数の層を有する。
いくつかの実施形態では、正孔輸送材料は、正孔の注入または輸送特性および電子の障壁特性のうちの1つの特性を有する。いくつかの実施形態では、正孔輸送材料は有機材料である。いくつかの実施形態では、正孔輸送材料は無機材料である。本発明で使用できる公知の正孔輸送材料の例としては、限定されないが、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導剤、イミダゾール誘導体、カルバゾール誘導体、インドロカルバゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導剤、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリルアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導剤、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、アニリンコポリマーおよび導電性ポリマーオリゴマー(特にチオフェンオリゴマー)、またはその組合せが挙げられる。いくつかの実施形態では、正孔輸送材料はポルフィリン化合物、芳香族三級アミン化合物およびスチリルアミン化合物から選択される。いくつかの実施形態では、正孔輸送材料は芳香族三級アミン化合物である。以下に正孔輸送材料として用いることができる好ましい化合物の具体例を挙げる。
【0083】
【化22】
【0084】
電子輸送層:
電子輸送層は、電子輸送材料を含む。いくつかの実施形態では、電子輸送層は単層である。いくつかの実施形態では、電子輸送層は複数の層を有する。
いくつかの実施形態では、電子輸送材料は、陰極から注入された電子を発光層に輸送する機能さえあればよい。いくつかの実施形態では、電子輸送材料はまた、正孔障壁材料としても機能する。本発明で使用できる電子輸送層の例としては、限定されないが、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、カルボジイミド、フルオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタン、アントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体、アゾール誘導体、アジン誘導体またはその組合せ、またはそのポリマーが挙げられる。いくつかの実施形態では、電子輸送材料はチアジアゾール誘導剤またはキノキサリン誘導体である。いくつかの実施形態では、電子輸送材料はポリマー材料である。以下に電子輸送材料として用いることができる好ましい化合物の具体例を挙げる。
【0085】
【化23】
【0086】
さらに、各有機層に添加可能な材料として好ましい化合物例を挙げる。例えば、安定化材料として添加すること等が考えられる。
【0087】
【化24】
【0088】
有機エレクトロルミネッセンス素子に用いることができる好ましい材料を具体的に例示したが、本発明において用いることができる材料は、以下の例示化合物によって限定的に解釈されることはない。また、特定の機能を有する材料として例示した化合物であっても、その他の機能を有する材料として転用することも可能である。
【0089】
デバイス:
いくつかの実施形態では、発光層はデバイス中に組み込まれる。例えば、デバイスには、OLEDバルブ、OLEDランプ、テレビ用ディスプレイ、コンピューター用モニター、携帯電話およびタブレットが含まれるが、これらに限定されない。
いくつかの実施形態では、電子デバイスは、陽極、陰極、および当該陽極と当該陰極との間の発光層を含む少なくとも1つの有機層を有するOLEDを含む。
いくつかの実施形態では、本願明細書に記載の構成物は、OLEDまたは光電子デバイスなどの、様々な感光性または光活性化デバイスに組み込まれうる。いくつかの実施形態では、前記構成物はデバイス内の電荷移動またはエネルギー移動の促進に、および/または正孔輸送材料として有用でありうる。前記デバイスとしては、例えば有機発光ダイオード(OLED)、有機集積回線(OIC)、有機電界効果トランジスタ(O-FET)、有機薄膜トランジスタ(O-TFT)、有機発光トランジスタ(O-LET)、有機太陽電池(O-SC)、有機光学検出装置、有機光受容体、有機磁場クエンチ(field-quench)装置(O-FQD)、発光燃料電池(LEC)または有機レーザダイオード(O-レーザー)が挙げられる。
【0090】
バルブまたはランプ:
いくつかの実施形態では、電子デバイスは、陽極、陰極、当該陽極と当該陰極との間の発光層を含む少なくとも1つの有機層を含むOLEDを含む。
いくつかの実施形態では、デバイスは色彩の異なるOLEDを含む。いくつかの実施形態では、デバイスはOLEDの組合せを含むアレイを含む。いくつかの実施形態では、OLEDの前記組合せは、3色の組合せ(例えばRGB)である。いくつかの実施形態では、OLEDの前記組合せは、赤色でも緑色でも青色でもない色(例えばオレンジ色および黄緑色)の組合せである。いくつかの実施形態では、OLEDの前記組合せは、2色、4色またはそれ以上の色の組合せである。
いくつかの実施形態では、デバイスは、
取り付け面を有する第1面とそれと反対の第2面とを有し、少なくとも1つの開口部を画定する回路基板と、
前記取り付け面上の少なくとも1つのOLEDであって、当該少なくとも1つのOLEDが、陽極、陰極、および当該陽極と当該陰極との間の発光層を含む少なくとも1つの有機層を含む、発光する構成を有する少なくとも1つのOLEDと、
回路基板用のハウジングと、
前記ハウジングの端部に配置された少なくとも1つのコネクターであって、前記ハウジングおよび前記コネクターが照明設備への取付けに適するパッケージを画定する、少なくとも1つのコネクターと、を備えるOLEDライトである。
いくつかの実施形態では、前記OLEDライトは、複数の方向に光が放射されるように回路基板に取り付けられた複数のOLEDを有する。いくつかの実施形態では、第1方向に発せられた一部の光は偏光されて第2方向に放射される。いくつかの実施形態では、反射器を用いて第1方向に発せられた光を偏光する。
【0091】
ディスプレイまたはスクリーン:
いくつかの実施形態では、本発明の発光層はスクリーンまたはディスプレイにおいて使用できる。いくつかの実施形態では、本発明に係る化合物は、限定されないが真空蒸発、堆積、蒸着または化学蒸着(CVD)などの工程を用いて基材上へ堆積させる。いくつかの実施形態では、前記基材は、独特のアスペクト比のピクセルを提供する2面エッチングにおいて有用なフォトプレート構造である。前記スクリーン(またマスクとも呼ばれる)は、OLEDディスプレイの製造工程で用いられる。対応するアートワークパターンの設計により、垂直方向ではピクセルの間の非常に急な狭いタイバーの、並びに水平方向では大きな広範囲の斜角開口部の配置を可能にする。これにより、TFTバックプレーン上への化学蒸着を最適化しつつ、高解像度ディスプレイに必要とされるピクセルの微細なパターン構成が可能となる。
ピクセルの内部パターニングにより、水平および垂直方向での様々なアスペクト比の三次元ピクセル開口部を構成することが可能となる。更に、ピクセル領域中の画像化された「ストライプ」またはハーフトーン円の使用は、これらの特定のパターンをアンダーカットし基材から除くまで、特定の領域におけるエッチングが保護される。その時、全てのピクセル領域は同様のエッチング速度で処理されるが、その深さはハーフトーンパターンにより変化する。ハーフトーンパターンのサイズおよび間隔を変更することにより、ピクセル内での保護率が様々異なるエッチングが可能となり、急な垂直斜角を形成するのに必要な局在化された深いエッチングが可能となる。
蒸着マスク用の好ましい材料はインバーである。インバーは、製鉄所で長い薄型シート状に冷延された金属合金である。インバーは、ニッケルマスクとしてスピンマンドレル上へ電着することができない。蒸着用マスク内に開口領域を形成するための適切かつ低コストの方法は、湿式化学エッチングによる方法である。
いくつかの実施形態では、スクリーンまたはディスプレイパターンは、基材上のピクセルマトリックスである。いくつかの実施形態では、スクリーンまたはディスプレイパターンは、リソグラフィー(例えばフォトリソグラフィーおよびeビームリソグラフィー)を使用して加工される。いくつかの実施形態では、スクリーンまたはディスプレイパターンは、湿式化学エッチングを使用して加工される。更なる実施形態では、スクリーンまたはディスプレイパターンは、プラズマエッチングを使用して加工される。
【0092】
デバイスの製造方法:
OLEDディスプレイは、一般的には、大型のマザーパネルを形成し、次に当該マザーパネルをセルパネル単位で切断することによって製造される。通常は、マザーパネル上の各セルパネルは、ベース基材上に、活性層とソース/ドレイン電極とを有する薄膜トランジスタ(TFT)を形成し、前記TFTに平坦化フィルムを塗布し、ピクセル電極、発光層、対電極およびカプセル化層、を順に経時的に形成し、前記マザーパネルから切断することにより形成される。
OLEDディスプレイは、一般的には、大型のマザーパネルを形成し、次に当該マザーパネルをセルパネル単位で切断することによって製造される。通常は、マザーパネル上の各セルパネルは、ベース基材上に、活性層とソース/ドレイン電極とを有する薄膜トランジスタ(TFT)を形成し、前記TFTに平坦化フィルムを塗布し、ピクセル電極、発光層、対電極およびカプセル化層、を順に経時的に形成し、前記マザーパネルから切断することにより形成される。
【0093】
本発明の他の態様では、有機発光ダイオード(OLED)ディスプレイの製造方法を提供し、当該方法は、
マザーパネルのベース基材上に障壁層を形成する工程と、
前記障壁層上に、セルパネル単位で複数のディスプレイユニットを形成する工程と、
前記セルパネルのディスプレイユニットのそれぞれの上にカプセル化層を形成する工程と、
前記セルパネル間のインタフェース部に有機フィルムを塗布する工程と、を含む。
いくつかの実施形態では、障壁層は、例えばSiNxで形成された無機フィルムであり、障壁層の端部はポリイミドまたはアクリルで形成された有機フィルムで被覆される。いくつかの実施形態では、有機フィルムは、マザーパネルがセルパネル単位で軟らかく切断されるように補助する。
いくつかの実施形態では、薄膜トランジスタ(TFT)層は、発光層と、ゲート電極と、ソース/ドレイン電極と、を有する。複数のディスプレイユニットの各々は、薄膜トランジスタ(TFT)層と、TFT層上に形成された平坦化フィルムと、平坦化フィルム上に形成された発光ユニットと、を有してもよく、前記インタフェース部に塗布された有機フィルムは、前記平坦化フィルムの材料と同じ材料で形成され、前記平坦化フィルムの形成と同時に形成される。いくつかの実施形態では、前記発光ユニットは、不動態化層と、その間の平坦化フィルムと、発光ユニットを被覆し保護するカプセル化層と、によりTFT層と連結される。前記製造方法のいくつかの実施形態では、前記有機フィルムは、ディスプレイユニットにもカプセル化層にも連結されない。
【0094】
前記有機フィルムと平坦化フィルムの各々は、ポリイミドおよびアクリルのいずれか1つを含んでもよい。いくつかの実施形態では、前記障壁層は無機フィルムであってもよい。いくつかの実施形態では、前記ベース基材はポリイミドで形成されてもよい。前記方法は更に、ポリイミドで形成されたベース基材の1つの表面に障壁層を形成する前に、当該ベース基材のもう1つの表面にガラス材料で形成されたキャリア基材を取り付ける工程と、インタフェース部に沿った切断の前に、前記キャリア基材をベース基材から分離する工程と、を含んでもよい。いくつかの実施形態では、前記OLEDディスプレイはフレキシブルなディスプレイである。
いくつかの実施形態では、前記不動態化層は、TFT層の被覆のためにTFT層上に配置された有機フィルムである。いくつかの実施形態では、前記平坦化フィルムは、不動態化層上に形成された有機フィルムである。いくつかの実施形態では、前記平坦化フィルムは、障壁層の端部に形成された有機フィルムと同様、ポリイミドまたはアクリルで形成される。いくつかの実施形態では、OLEDディスプレイの製造の際、前記平坦化フィルムおよび有機フィルムは同時に形成される。いくつかの実施形態では、前記有機フィルムは、障壁層の端部に形成されてもよく、それにより、当該有機フィルムの一部が直接ベース基材と接触し、当該有機フィルムの残りの部分が、障壁層の端部を囲みつつ、障壁層と接触する。
【0095】
いくつかの実施形態では、前記発光層は、ピクセル電極と、対電極と、当該ピクセル電極と当該対電極との間に配置された有機発光層と、を有する。いくつかの実施形態では、前記ピクセル電極は、TFT層のソース/ドレイン電極に連結している。
いくつかの実施形態では、TFT層を通じてピクセル電極に電圧が印加されるとき、ピクセル電極と対電極との間に適切な電圧が形成され、それにより有機発光層が光を放射し、それにより画像が形成される。以下、TFT層と発光ユニットとを有する画像形成ユニットを、ディスプレイユニットと称する。
いくつかの実施形態では、ディスプレイユニットを被覆し、外部の水分の浸透を防止するカプセル化層は、有機フィルムと無機フィルムとが交互に積層する薄膜状のカプセル化構造に形成されてもよい。いくつかの実施形態では、前記カプセル化層は、複数の薄膜が積層した薄膜状カプセル化構造を有する。いくつかの実施形態では、インタフェース部に塗布される有機フィルムは、複数のディスプレイユニットの各々と間隔を置いて配置される。いくつかの実施形態では、前記有機フィルムは、一部の有機フィルムが直接ベース基材と接触し、有機フィルムの残りの部分が障壁層の端部を囲む一方で障壁層と接触する態様で形成される。
【0096】
一実施形態では、OLEDディスプレイはフレキシブルであり、ポリイミドで形成された柔軟なベース基材を使用する。いくつかの実施形態では、前記ベース基材はガラス材料で形成されたキャリア基材上に形成され、次に当該キャリア基材が分離される。
いくつかの実施形態では、障壁層は、キャリア基材の反対側のベース基材の表面に形成される。一実施形態では、前記障壁層は、各セルパネルのサイズに従いパターン化される。例えば、ベース基材がマザーパネルの全ての表面上に形成される一方で、障壁層が各セルパネルのサイズに従い形成され、それにより、セルパネルの障壁層の間のインタフェース部に溝が形成される。各セルパネルは、前記溝に沿って切断できる。
【0097】
いくつかの実施形態では、前記の製造方法は、更にインタフェース部に沿って切断する工程を含み、そこでは溝が障壁層に形成され、少なくとも一部の有機フィルムが溝で形成され、当該溝がベース基材に浸透しない。いくつかの実施形態では、各セルパネルのTFT層が形成され、無機フィルムである不動態化層と有機フィルムである平坦化フィルムが、TFT層上に配置され、TFT層を被覆する。例えばポリイミドまたはアクリル製の平坦化フィルムが形成されるのと同時に、インタフェース部の溝は、例えばポリイミドまたはアクリル製の有機フィルムで被覆される。これは、各セルパネルがインタフェース部で溝に沿って切断されるとき、生じた衝撃を有機フィルムに吸収させることによってひびが生じるのを防止する。すなわち、全ての障壁層が有機フィルムなしで完全に露出している場合、各セルパネルがインタフェース部で溝に沿って切断されるとき、生じた衝撃が障壁層に伝達され、それによりひびが生じるリスクが増加する。しかしながら、一実施形態では、障壁層間のインタフェース部の溝が有機フィルムで被覆されて、有機フィルムがなければ障壁層に伝達されうる衝撃を吸収するため、各セルパネルをソフトに切断し、障壁層でひびが生じるのを防止してもよい。一実施形態では、インタフェース部の溝を被覆する有機フィルムおよび平坦化フィルムは、互いに間隔を置いて配置される。例えば、有機フィルムおよび平坦化フィルムが1つの層として相互に接続している場合には、平坦化フィルムと有機フィルムが残っている部分とを通じてディスプレイユニットに外部の水分が浸入するおそれがあるため、有機フィルムおよび平坦化フィルムは、有機フィルムがディスプレイユニットから間隔を置いて配置されるように、相互に間隔を置いて配置される。
【0098】
いくつかの実施形態では、ディスプレイユニットは、発光ユニットの形成により形成され、カプセル化層は、ディスプレイユニットを被覆するためディスプレイユニット上に配置される。これにより、マザーパネルが完全に製造された後、ベース基材を担持するキャリア基材がベース基材から分離される。いくつかの実施形態では、レーザー光線がキャリア基材へ放射されると、キャリア基材は、キャリア基材とベース基材との間の熱膨張率の相違により、ベース基材から分離される。
いくつかの実施形態では、マザーパネルは、セルパネル単位で切断される。いくつかの実施形態では、マザーパネルは、カッターを用いてセルパネル間のインタフェース部に沿って切断される。いくつかの実施形態では、マザーパネルが沿って切断されるインタフェース部の溝が有機フィルムで被覆されているため、切断の間、当該有機フィルムが衝撃を吸収する。いくつかの実施形態では、切断の間、障壁層でひびが生じるのを防止できる。
いくつかの実施形態では、前記方法は製品の不良率を減少させ、その品質を安定させる。
他の態様は、ベース基材上に形成された障壁層と、障壁層上に形成されたディスプレイユニットと、ディスプレイユニット上に形成されたカプセル化層と、障壁層の端部に塗布された有機フィルムと、を有するOLEDディスプレイである。
【実施例0099】
以下に実施例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下に示す材料、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。なお、発光特性の評価は、ソースメータ(ケースレー社製:2400シリーズ)、半導体パラメータ・アナライザ(アジレント・テクノロジー社製:E5273A)、光パワーメータ測定装置(ニューポート社製:1930C)、光学分光器(オーシャンオプティクス社製:USB2000)、分光放射計(トプコン社製:SR-3)およびストリークカメラ(浜松ホトニクス(株)製C4334型)を用いて行った。また、以下の実施例と比較例で用いた化合物の最低励起一重項エネルギーES1と最低励起三重項エネルギーET1は、以下の表に示す通りである。
【表1】
【0100】
(実施例1)
膜厚100nmのインジウム・スズ酸化物(ITO)からなる陽極が形成されたガラス基材上に、各薄膜を真空蒸着法にて、真空度1×10-6Paで積層した。まず、ITO上にHATCNを10nmの厚さに形成し、その上にNPDを35nmの厚さに形成し、さらにその上にEB1を10nmの厚さに形成した。次に、化合物H4を5nmの厚さに形成して隣接層を形成した。さらに化合物H4(69.5重量%)と化合物T13(30.0重量%)と化合物E1(0.5重量%)を異なる蒸着源から共蒸着し、40nmの厚さの発光層を形成した。次に、HB1を13nmの厚さに形成し、続いて、ET1を20nmの厚さで形成した。さらに、Liqを2nmの厚さに形成し、次いでアルミニウム(Al)を100nmの厚さに蒸着することにより陰極を形成した。これによって、図1に示す層構成を有する実施例1の有機エレクトロルミネッセンス素子を作製した。
【0101】
(比較例1)
隣接層を形成しなかった点だけを変更して、実施例1の製法を実施することにより、比較例1の有機エレクトロルミネッセンス素子を作製した。
【0102】
(比較例2)
隣接層に化合物H4のかわりに化合物T13を用いた点だけを変更して、実施例1の製法を実施することにより、比較例2の有機エレクトロルミネッセンス素子を作製した。
【0103】
(評価)
製造した各有機エレクトロルミネッセンス素子に通電したところ、第3有機化合物E1に由来する遅延蛍光の放射が認められた(いずれも極大発光波長472nm)。3つの有機エレクトロルミネッセンス素子の外部量子効率(EQE)を測定した。また、2mA/cmで通電を続けて発光強度が通電開始時の95%になるまでの時間(LT95)を測定し、比較例1の素子のLT95を1としたときの相対値を表2に示した。表2に示すように、第1有機化合物からなる隣接層を形成した実施例1の素子は、隣接層を形成しなかった比較例1の素子や、第1有機化合物ではない化合物からなる隣接層を形成した比較例2の素子よりも、発光効率が高く、素子寿命も長いことが確認された。特に、隣接層を形成しなかった比較例1の素子よりも、本発明の実施例1の素子は、発光効率が3.5%向上して23.6%もの高いEQEを達成し、素子寿命も1.52倍長くなった。
【0104】
【表2】
【0105】
(実施例2)
発光層における組成を化合物H4(69.7重量%)と化合物T13(30.0重量%)と化合物E1(0.3重量%)にした点だけを変更して、実施例1の製法を実施することにより、実施例2の有機エレクトロルミネッセンス素子を作製した。LT95を測定したところ、実施例1の素子よりもさらに1.2倍素子寿命が長いことが確認された。
【0106】
【化25】
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明によれば、寿命が長くて発光効率が高い有機発光素子を提供することができる。このため、本発明は産業上の利用可能性が高い。
【符号の説明】
【0108】
1 ガラス基板
2 陽極
3 正孔注入層
4 正孔輸送層
5 電子障壁層
6 隣接層
7 発光層
8 正孔障壁層
9 電子輸送層
10 電子注入層
11 陰極
図1
図2