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特開2022-178385変更した事象・関連情報で訓練された生成器を含む領域内情報推定モデル、装置及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022178385
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】変更した事象・関連情報で訓練された生成器を含む領域内情報推定モデル、装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   G06N 3/04 20060101AFI20221125BHJP
   G06Q 10/04 20120101ALI20221125BHJP
   G06N 3/08 20060101ALI20221125BHJP
   G06N 20/00 20190101ALI20221125BHJP
【FI】
G06N3/04 154
G06Q10/04
G06N3/08
G06N20/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021085157
(22)【出願日】2021-05-20
(71)【出願人】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135068
【弁理士】
【氏名又は名称】早原 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100141313
【弁理士】
【氏名又は名称】辰巳 富彦
(72)【発明者】
【氏名】武田 直人
(72)【発明者】
【氏名】上坂 大輔
【テーマコード(参考)】
5L049
【Fターム(参考)】
5L049AA04
(57)【要約】
【課題】構築に必要な訓練データを準備することができ、関連し得る種々の情報を推定に反映させることも可能となる領域内情報推定モデルを提供する。
【解決手段】本モデルは、ある領域内で分布している事象に係る事象情報と、この領域内で分布しており、事象情報に対し相関し得る又は因果関係を持ち得る情報である少なくとも1つの関連情報との組である領域内事象・関連情報において、事象情報及び/又は関連情報の一部を変更した情報である変更事象・関連情報を入力として、出力としての生成事象・関連情報を生成する生成器であって、生成事象・関連情報が元の当該領域内事象・関連情報を復元したものとなるように訓練された生成器としてコンピュータを機能させる。ここで、この生成器は、推定の前提情報となる事象情報及び/又は関連情報を入力として、推定対象である事象情報及び/又は関連情報に係る情報である推定情報を出力する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ある領域内で分布している事象に係る情報である事象情報と、当該領域内で分布しており、当該事象情報に対し相関し得る又は因果関係を持ち得る情報である少なくとも1つの関連情報との組である領域内事象・関連情報において、当該事象情報及び/又は当該関連情報の一部を変更した情報である変更事象・関連情報を入力として、出力としての生成事象・関連情報を生成する生成器であって、当該生成事象・関連情報が元の当該領域内事象・関連情報を復元したものとなるように訓練された生成器としてコンピュータを機能させ、
前記生成器は、推定の前提情報となる当該事象情報及び/又は当該関連情報を入力として、推定対象である当該事象情報及び/又は当該関連情報に係る情報である推定情報を出力する
ことを特徴とする領域内情報推定モデル。
【請求項2】
ある当該変更事象・関連情報を入力とした前記生成器によって生成された当該生成事象・関連情報と、該ある変更事象・関連情報の元情報である当該領域内事象・関連情報とを判別するように訓練された識別器としてコンピュータを更に機能させ、
前記生成器は、自ら生成した当該生成事象・関連情報が、前記識別器によって判別されないように訓練されている
ことを特徴とする請求項1に記載の領域内情報推定モデル。
【請求項3】
前記生成器は、生成した当該生成事象・関連情報と、元の当該領域内事象・関連情報との誤差について単調増加を示し、また、前記識別器からの出力により決定される、当該生成事象・関連情報が別物である度合いについても単調増加を示す損失関数をもって訓練されていることを特徴とする請求項2に記載の領域内推定モデル。
【請求項4】
前記生成器は、当該事象情報及び当該関連情報をそれぞれ特徴量化する複数のCNN(Convolutional Neural Network)を含むオートエンコーダ(auto-encoder)を用いて構築されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の領域内情報推定モデル。
【請求項5】
当該変更事象・関連情報は、当該事象情報及び/又は当該関連情報の一部を欠損させた情報であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の領域内情報推定モデル。
【請求項6】
当該事象情報は、当該領域内に分布している、ある対象の所在位置群を含む移動軌跡情報であって、当該関連情報は、当該領域内に存在している人工物及び/又は自然物の分布、配置若しくはカテゴリに係る情報、当該領域内で設定されたPOI(Point of Interest)の分布、配置若しくはカテゴリに係る情報、当該領域内の所定の位置範囲間における最短経路を表す情報、当該領域内の各位置範囲における当該対象の数に係る情報、及び、当該領域内の各位置範囲におけるネットワーキングサービスの投稿の数若しくは当該投稿の分析結果に係る情報のうちの少なくとも1つを含む空間的・意味的情報であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の領域内情報推定モデル。
【請求項7】
前記生成器は、
当該前提情報としての当該空間的・意味的情報を入力として、推定対象である当該移動軌跡情報に係る当該推定情報を出力する、又は、
当該前提情報としての、当該移動軌跡情報及び推定対象ではない当該空間的・意味的情報を入力として、推定対象である当該空間的・意味的情報のうちの少なくとも1つに係る当該推定情報を出力する
ことを特徴とする請求項6に記載の領域内情報推定モデル。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載された領域内情報推定モデルを用いて、推定対象である当該事象情報及び/又は当該関連情報に係る情報を推定することを特徴とする領域内情報推定装置。
【請求項9】
ある領域内で分布している事象に係る情報である事象情報と、当該領域内で分布しており、当該事象情報に対し相関し得る又は因果関係を持ち得る情報である少なくとも1つの関連情報との組である領域内事象・関連情報において、当該事象情報及び/又は当該関連情報の一部を変更した情報である変更事象・関連情報を入力として、出力としての生成事象・関連情報を生成する生成器に対し、当該生成事象・関連情報が元の当該領域内事象・関連情報を復元したものとなるように訓練を行うステップと、
訓練を行った前記生成器に対し、推定の前提情報となる当該事象情報及び/又は当該関連情報を入力して、推定対象である当該事象情報及び/又は当該関連情報に係る情報である推定情報を出力させるステップと
を有することを特徴とする、コンピュータにおける領域内情報推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ある領域内で分布している事象及びそれに関連し得る事象に係る情報である事象・関連情報において、未知の若しくは確認したい情報部分を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、所定のエリアにおける対象者(以下、ユーザとも称する)の移動軌跡を推定する技術が大いに注目されている。この技術を用いることにより、例えば、ユーザの将来の移動軌跡を推定してユーザが立ち寄ったり目標としたりする地点を予測し、当該地点に係る有用情報を予めユーザに提示するといったようなサービスが提供可能となる。
【0003】
このような移動軌跡推定技術として、例えば特許文献1には、過去の移動軌跡の情報がないユーザであってもその目的地を予測することの可能な目的地予測装置が開示されている。具体的にこの装置では、移動中の対象ユーザの移動軌跡に基づいて対象ユーザの残りの移動に関する情報を推定し、このように推定された情報と、移動傾向情報蓄積部に蓄積された、複数のユーザのエリア間の移動人数を示す情報とに基づいて、対象ユーザの目的地を予測している。
【0004】
ここで、対象ユーザにおける出発グリッドから目標グリッドまでの訪問確率は、他のユーザ群の移動傾向や、対象ユーザの現在の移動方向、移動距離、さらには移動手段等の推定結果を用いて算出されている。
【0005】
また、例えば非特許文献1には、Source cityにおける移動軌跡集合及び各グリッドにおける道路特徴量を利用して、移動軌跡データのないTarget cityにおける群衆の移動軌跡集合を推定する技術が開示されている。具体的にこの技術は、Mobility intention transfer、OD Generation、及びPath Generationの3つのステップを実施することによって上記の推定を行っている。
【0006】
最初にMobility intention transferでは、Source cityの移動軌跡集合における出発グリッドOと目標グリッドDとのペア(ODペア)を特徴量空間に埋め込む処理が実施される。ここでODペアは、含まれるPOI(Point of Interest)の数やカテゴリ、バス停や駅の数、さらにはOD間の最短パスの距離等によって表現される。このようなODペアの埋め込み処理の結果、「買い物のためのODペア」や「通勤のためのODペア」といったような各ODペアの特徴が学習されて、類似した目的のODペアは特徴量空間上で近傍にマッピングされることになる。
【0007】
次にOD Generationでは、Target cityにおけるODペア候補を生成する。演算コストを抑えるために全グリッドについてのODペアを計算することはせず、最長経路が(経験的な閾値である)6キロメートル(km)以下となるODペアのみについて計算を進めている。ここで算出されたODペアも、上記のSource cityと同様の手法で同一の特徴量空間上にマッピングされる。
【0008】
最後にPath Generationでは、Target cityにおけるODペア候補の間の移動軌跡を生成する。まず、ODペア候補の間の移動軌跡となり得る経路候補を最短経路順に抽出し、ここで所定以上の重なりがある2つのODペアについては一方を除外する。次いで、特徴量空間上で近傍しているSource cityのODペア間の移動軌跡集合を訓練データとしてDNN(Deep Neural Networks)モデルを構築する。各移動軌跡は道路のセグメント数やUターン数等をもって表現され、このDNNモデルの出力層から、各移動軌跡を選択する確率が出力されるのである。これにより、移動軌跡データが存在しないTarget cityにおける移動軌跡集合の発生確率を決定することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2020-112917号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Tianfu He, Jie Bao, Ruiyuan Li, Sijie Ruan, Yanhua Li, Li Song, Hui He and Yu Zheng. “What is the Human Mobility in a New City: Transfer Mobility Knowledge Across Cities”, In proceedings of the 2020 International World Wide Web Conference (WWW 2020), pp. 1355-1365, 2020年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上述したような従来技術では依然、構築する推定モデルの抱える問題によって、対象ユーザの移動軌跡を適切に推定することが困難となる場合が生じてしまう。
【0012】
例えば、特許文献1に記載された技術では、対象ユーザの目的地を推定するモデルを構築する際、学習データとして、推定対象エリアにおける他のユーザ群の移動軌跡データを大量に必要とする。しかしながら特に郊外等において、このような移動軌跡データを大量に入手することは一般に困難である。したがって、状況によっては高い確度をもって移動軌跡を推定することができなくなるのである。
【0013】
さらに、非特許文献1に記載された技術では、各ODペアについて1つのDNNモデルが構築されているが、これらのDNNモデルは、移動軌跡上の道路特徴しか学習しておらず、また短距離(6km以内)の移動軌跡を推定結果として生成するのみである。したがって、推定される移動軌跡は多くの場合に(道路特徴の許す範囲において)単なる最短距離のルートとなってしまう。すなわち非特許文献1に記載された技術では、例えばユーザの「人通りの多い道路を好む」傾向や「景色の良い道を好む」傾向等、道路そのもの以外の事情を反映した移動ルートの選択が、移動軌跡推定処理において行われる余地は全く生じないのである。
【0014】
ちなみに以上に述べたような問題は当然、対象ユーザの移動軌跡情報を推定する場合にとどまらず、ある領域内で分布している事象に係る情報である「事象情報」や、この情報に対し相関し得る又は因果関係を持ち得る「関連情報」において、未知の若しくは確認したい情報部分を推定する際には少なからず生じる問題となっている。
【0015】
そこで、本発明は、ある領域内における事象情報や関連情報の情報部分を推定する領域内情報推定モデルであって、構築に必要な訓練(学習)データを準備することができ、関連し得る種々の情報を推定に反映させることも可能となる領域内情報推定モデル、並びに、当該モデルを利用した領域内情報推定装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明によれば、ある領域内で分布している事象に係る情報である事象情報と、当該領域内で分布しており、当該事象情報に対し相関し得る又は因果関係を持ち得る情報である少なくとも1つの関連情報との組である領域内事象・関連情報において、当該事象情報及び/又は当該関連情報の一部を変更した情報である変更事象・関連情報を入力として、出力としての生成事象・関連情報を生成する生成器であって、当該生成事象・関連情報が元の当該領域内事象・関連情報を復元したものとなるように訓練された生成器としてコンピュータを機能させ、
この生成器は、推定の前提情報となる当該事象情報及び/又は当該関連情報を入力として、推定対象である当該事象情報及び/又は当該関連情報に係る情報である推定情報を出力する
ことを特徴とする領域内情報推定モデルが提供される。
【0017】
この本発明による領域内情報推定モデルの一実施形態として、
本領域内情報推定モデルは、ある当該変更事象・関連情報を入力とした上記の生成器によって生成された当該生成事象・関連情報と、このある変更事象・関連情報の元情報である当該領域内事象・関連情報とを判別するように訓練された識別器としてコンピュータを更に機能させ、
生成器は、自ら生成した当該生成事象・関連情報が、この識別器によって判別されないように訓練されていることも好ましい。
【0018】
また、上記の実施形態において、生成器は、生成した当該生成事象・関連情報と、元の当該領域内事象・関連情報との誤差について単調増加を示し、また、識別器からの出力により決定される、当該生成事象・関連情報が別物である度合いについても単調増加を示す損失関数をもって訓練されていることも好ましい。
【0019】
さらに、本発明による領域内情報推定モデルの生成器は、当該事象情報及び当該関連情報をそれぞれ特徴量化する複数のCNN(Convolutional Neural Network)を含むオートエンコーダ(auto-encoder)を用いて構築されていることも好ましい。
【0020】
また、本発明に係る当該変更事象・関連情報は、当該事象情報及び/又は当該関連情報の一部を欠損させた情報であることも好ましい。
【0021】
さらに、本発明で取り扱う情報の好適な具体例として、当該事象情報は、当該領域内に分布している、ある対象の所在位置群を含む移動軌跡情報であって、
当該関連情報は、当該領域内に存在している人工物及び/又は自然物の分布、配置若しくはカテゴリに係る情報、当該領域内で設定されたPOI(Point of Interest)の分布、配置若しくはカテゴリに係る情報、当該領域内の所定の位置範囲間における最短経路を表す情報、当該領域内の各位置範囲における当該対象の数に係る情報、及び、当該領域内の各位置範囲におけるネットワーキングサービスの投稿の数若しくは当該投稿の分析結果に係る情報のうちの少なくとも1つを含む空間的・意味的情報であることも好ましい。
【0022】
また上記の具体例において、生成器は、当該前提情報としての当該空間的・意味的情報を入力として、推定対象である当該移動軌跡情報に係る当該推定情報を出力することも好ましく、又は、当該前提情報としての、当該移動軌跡情報及び推定対象ではない当該空間的・意味的情報を入力として、推定対象である当該空間的・意味的情報のうちの少なくとも1つに係る当該推定情報を出力することも好ましい。
【0023】
本発明によれば、また、以上に述べた領域内情報推定モデルを用いて、推定対象である当該事象情報及び/又は当該関連情報に係る情報を推定する領域内情報推定装置が提供される。
【0024】
本発明によれば、さらに、
ある領域内で分布している事象に係る情報である事象情報と、当該領域内で分布しており、当該事象情報に対し相関し得る又は因果関係を持ち得る情報である少なくとも1つの関連情報との組である領域内事象・関連情報において、当該事象情報及び/又は当該関連情報の一部を変更した情報である変更事象・関連情報を入力として、出力としての生成事象・関連情報を生成する生成器に対し、当該生成事象・関連情報が元の当該領域内事象・関連情報を復元したものとなるように訓練を行うステップと、
訓練を行ったこの生成器に対し、推定の前提情報となる当該事象情報及び/又は当該関連情報を入力して、推定対象である当該事象情報及び/又は当該関連情報に係る情報である推定情報を出力させるステップと
を有する、コンピュータにおける領域内情報推定方法が提供される。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、ある領域内における事象情報や関連情報の情報部分を推定する領域内情報推定モデルであって、構築に必要な訓練(学習)データを準備することができ、関連し得る種々の情報を推定に反映させることも可能となる領域内情報推定モデル、並びに、当該モデルを利用した領域内情報推定装置及び方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明による領域内情報推定モデルの一実施形態、及び本発明による領域内情報推定装置の一実施形態を示す模式図である。
図2】本発明に係る領域内事象・関連情報の一実施形態を説明するための模式図である。
図3】本発明に係る生成器における領域内情報推定処理の一実施形態を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0028】
[領域内情報推定モデル]
図1は、本発明による領域内情報推定モデルの一実施形態、及び本発明による領域内情報推定装置の一実施形態を示す模式図である。
【0029】
図1に示した本実施形態の領域内情報推定モデル1は、
(a)ある領域(図1ではある地域)内で分布している事象(図1では対象である人物の移動)に係る情報である「事象情報」(図1ではこの人物の所在位置群を含む移動軌跡情報)と、
(b)当該領域内で分布しており、「事象情報」(移動軌跡情報)に対し相関し得る又は因果関係を持ち得る情報である少なくとも1つの「関連情報」と
の組である「領域内事象・関連情報」における情報部分、例えば未知の若しくは確かめたい移動軌跡部分、を推定可能なモデルとなっている。
【0030】
ここで上記(b)の「関連情報」は、「事象情報」を移動軌跡情報とした本実施形態において、
(b1)当該領域(地域)内に存在している道路、住宅や河川の分布若しくは配置に係る情報といったような空間的情報や、
(b2)当該地域内の各位置範囲における対象(例えば人物)の数に係る情報といったような意味的情報
となっているが、いずれにしても本発明による領域内情報推定モデルでは、関連し得る種々の情報を選択して「関連情報」に設定することが可能となっている。
【0031】
同じく図1において、領域内情報推定モデル1は、
(c)「領域内事象・関連情報」において、「事象情報」の一部、「関連情報」の一部、又は「事象情報」及び「関連情報」の一部を変更した(例えば欠損させた)情報である「変更事象・関連情報」
を入力として、出力としての「生成事象・関連情報」を生成する生成器12を備えている(生成器12としてコンピュータを機能させる)。なお上記(c)の「変更事象・関連情報」は本実施形態において、欠損生成部(変更生成部)11によって生成される。
【0032】
ここで生成器12は、自ら生成する「生成事象・関連情報」が、元の「領域内事象・関連情報」、言い換えると入力された「変更事象・関連情報」における変更前の「領域内事象・関連情報」を復元したものとなるように訓練されている。すなわち生成器12は、いわゆるGAN(Generative Adversarial Networks,敵対的生成ネットワーク)におけるGenerator(生成器)に相当するものとなっているのである。
【0033】
次いで、このように訓練された生成器12によって領域内情報推定処理を実施する。具体的には、この生成器12に対し、
(d1)推定の前提情報となる(既知の若しくは確定した)「事象情報」、「関連情報」、又は「事象情報」及び「関連情報」(以後、「事象情報」及び/又は「関連情報」と略称)
を入力として、
(d2)推定対象である(未知の若しくは確認したい)「事象情報」及び/又は「関連情報」に係る情報である推定情報
を出力させるのである。例えば、ある地域内における実際の道路、住宅や河川の分布情報(関連情報)、及び実際の人の分布情報(関連情報)を入力として、当該地域内におけるある人物の移動軌跡情報(事象情報)を出力させてもよい。
【0034】
また、当該地域内におけるある人物の実際の移動軌跡情報(事象情報)、及び実際の道路、住宅や河川の分布情報(関連情報)を入力として、当該地域内における人の分布情報(関連情報)を出力させることも可能となる。さらに、ある地域内における実際の道路、住宅や河川の分布情報(関連情報)、及び他の関連情報を入力として、当該地域内におけるある人物の移動軌跡情報(事象情報)、及び当該地域内における人の分布情報(関連情報)を出力させることもできる。またさらに、事象情報や関連情報においてその一部が欠損した情報を入力に含め、その欠損した情報部分が生成された(補完された)情報を出力させることも可能となるのである。
【0035】
このように、領域内情報推定モデル1によれば、「領域内事象・関連情報」における情報部分を推定するに当たり、意図して生成した「変更事象・関連情報」に対し、GANにおける少なくともGenerator(生成器)による元情報の復元機能を適用することによって、高い精度で当該情報部分を推定することができる。また、関連し得る種々の情報を、この推定に反映させることも可能となる。例えば後に詳述するが、ある人物の移動軌跡情報の推定結果に、この人物の「人通りの多い道路を好む」傾向や「景色の良い道を好む」傾向等を反映させることの可能な「関連情報」を選択することもできるのである。
【0036】
また、関連情報として、モデル構築に必要な訓練(学習)データを準備することが可能な(より好ましくは容易な)情報を選択することもできるので、領域内情報推定モデル1によれば、モデル構築に必要な訓練データを準備することが確実に可能となる。
【0037】
例えば、ある地域内におけるある人物の移動軌跡情報を推定するに当たり、当該地域内における他の人物群(群衆)の移動軌跡情報を「関連情報」として採用することも考えられるが、例えば郊外での場合のように、モデル構築に必要となる大量の移動軌跡情報を収集することが困難となることも少なくない。このような場合であっても、領域内情報推定モデル1によれば、他の人物群(群衆)の移動軌跡情報以外の、入手の容易な「関連情報」を選んで設定することができるのである。
【0038】
なお当然とはなるが、本発明に係る「領域」や「事象情報」は、以上に述べたような(2次元の)地域や移動軌跡情報に限定されるものではない。特に「事象情報」は例えば、ある地域において分布を示す社会的・経済的な事象に係る情報であって予測ニーズの高い情報、例えば各地区での犯罪発生率や、電気自動車充電ポイントの分布等に設定することができる。
【0039】
さらに、「領域」として、例えば現実の1次元空間や3次元空間、又は仮想的な(理論上の)1次元空間や2次元以上の空間を採用し、「事象情報」として、採用した空間において分布を示す事象に係る情報を採用することも可能である。例えば、菌の培養器における2次元又は3次元の培養域を「領域」として、菌の増殖「事象」に係る、培養域内での菌体濃度情報を「事象情報」とし、さらに、培養域内における栄養の分布情報や抗生物質の分布情報を「関連情報」としてもよい。また、時間軸のみを有する仮想的な1次元「領域」において、株の売買「事象」に係る株価の時間変化情報を「事象情報」とし、株価に影響を及ぼし得る様々な事件や現象に係る情報を「関連情報」とすることも可能である。
【0040】
さらに、時間軸と、ある道路上の位置についての軸とを有する仮想的な2次元「領域」において、自動車の走行事象に係る当該道路上における自動車分布の時間変化情報を「事象情報」とし、当該道路における事故や工事、さらには交通信号の状態といったような自動車の走行に影響し得る事象の発生・消滅に係る情報を「関連情報」とすることもできるのである。
【0041】
[モデル構成]
以下、本発明による領域内情報推定モデルの一実施形態についてより詳細に説明を行う。なお、以下に示す実施形態では、領域、事象情報、及び関連情報がそれぞれ、所定地域、推定対象である対象人物の当該所定地域における移動軌跡情報、並びに当該所定地域における空間的情報及び意味的情報となっているが、上述したように本発明はこれらに限定されるものではない。
【0042】
同じく図1によれば、本実施形態の領域内情報推定モデル1は、
(A)欠損生成部(変更生成部)11と、(B)生成器12と、(C)識別器13と
を備えている。このうち、生成器12及び識別器13は、それぞれGANのGenerator(生成器)及びDiscriminator(識別器)に相当するものであって、後に詳述するように、本実施形態ではいずれもCNN(Convolutional Neural Networks)を含むニューラルネットワーク・アルゴリズムを用いて構築されている。
【0043】
上述したように領域内情報推定モデル1は、移動軌跡情報と空間的情報及び意味的情報(関連情報)との組である「領域内事象・関連情報」を処理対象として、領域内情報推定処理を実施する。ここで、この「領域内事象・関連情報」について説明を行う。
【0044】
図2は、本発明に係る領域内事象・関連情報の一実施形態を説明するための模式図である。
【0045】
最初に図2(A)には、事象情報としての移動軌跡情報の表現例が示されている。具体的に図2(A)の移動軌跡情報においては、所定地域が(例えば250m×250mの矩形である)グリッドの群に分割され、各グリッドにおいて、対象人物の所定期間における所在位置が当該グリッド内に存在するならば当該グリッドの値を1とし、存在しないならば0として、対象人物の移動軌跡(所在位置の変遷)が表現されている。このように移動軌跡情報は、グリッドを画素と見立てると、画素値が0又は1であるバイナリ画像情報と捉えることが可能となっている。
【0046】
ここで図2(A)の例では、値が1である互いに隣接したグリッド群において、一方の端をなすグリッドが、対象人物の出発地点を含む出発グリッドとなっており、また他方の端をなすグリッドが、対象人物の目的地点を含む目的グリッドとなっている。ただし、移動軌跡情報は、このような出発グリッド及び目的グリッドの一方又は両方が表現(設定)されていない情報とすることも可能である。
【0047】
ちなみに、対象人物の所在位置は、例えば対象人物の所持する通信端末の位置とすることができ、通信事業者ならば、当該位置に係る情報を取得可能となっている。具体的に、この通信端末の位置は、接続した基地局のカバーするエリア(の代表地点)としてもよく、基地局測位方式による測位結果や、通信端末に内蔵されたGPS(Global Positioning System)デバイスによる測位結果から決定することもできる。
【0048】
次に図2(B)には、意味的情報(関連情報)としてのメッシュ人数情報の表現例が示されている。具体的に図2(B)のメッシュ人数情報においては、上記の移動軌跡情報と同じ所定地域が同じグリッド群に分割され、各グリッドにおいて、当該グリッド内に所在している人物(の所持する通信端末)の数における当該所定期間での平均値を当該グリッドの値として、(1グリッドを1メッシュとした場合の)メッシュ人数が表現されている。このようにメッシュ人数情報も、グリッドを画素と見立てると、多値の画素値をとる画像情報と捉えることができるのである。
【0049】
なお、当該所定地域を分割した結果としてのグリッドは上記とは異なるサイズや形状のものであってよい。また、移動軌跡情報(事象情報)のグリッドとメッシュ人数情報(関連情報)のグリッドとを、後の推定精度に影響する可能性もあるが、サイズや形状の互いに異なるものに設定することも可能である。
【0050】
また以上説明したように事象情報を移動軌跡情報とした場合における関連情報は当然、上記のメッシュ人数情報に限定されるものではない。実際、移動軌跡情報に対し相関し得る又は因果関係を持ち得る情報であって、訓練データとして十分な量を入手可能な情報ならば、種々様々な情報を関連情報に採用することが可能となる。
【0051】
例えば、このような関連情報として、
<空間的情報>
(a)当該所定地域内に存在している道路、住宅、河川といったような人工物及び/又は自然物についてのグリッド群内での分布や配置、若しくはカテゴリに係る情報(グリッドの被覆情報)、
(b)当該所定地域内で設定された駅、レジャー・スポーツ施設や、店舗等といったようなPOI(Point of Interest)についてのグリッド群内での分布や配置、若しくはカテゴリに係る情報、及び
(c)当該所定地域内の所定の位置範囲間(例えば設定された2つのグリッド間)における最短経路を表す情報(例えば0又は1をとる各グリッド値からなる情報)や、
<意味的情報>
(a)当該所定地域内の各位置範囲(各グリッド)における人物や自動車といったような所定の対象の数に係る情報(例えば上記のメッシュ人数情報)、及び
(e)当該所定地域内の各位置範囲(各グリッド)における、SNS(Social Networking Service)やミニブログ(mini-blog)等のネットワーキングサービスの投稿の数若しくは当該投稿の分析結果(例えば頻出単語)に係る情報
のうちの少なくとも1つを関連情報とすることができるのである。ちなみに上述した情報(a)~(e)のいずれについても、図2(A)や図2(B)に示したような形の、グリッドを画素と見立てた画像情報と捉えることが可能となっている。
【0052】
以上、領域内事象・関連情報の構成について説明したが、この領域内事象・関連情報は例えば、D個の互いに異なる関連情報が設けられていて、事象情報及びD個の関連情報の各々がH×W個のグリッドで仕切られている場合、H×W×(D+1)次元の(階数3の)テンソル量とみなすことも可能である。
【0053】
図1に戻って、欠損生成部11は、以上に説明した領域内事象・関連情報において、移動軌跡情報(事象情報)の一部、空間的情報(関連情報)の一部、及び/又は意味的情報(関連情報)の一部を欠損させた情報である変更事象・関連情報を生成する。
【0054】
具体的に欠損生成部11は、移動軌跡情報、空間的情報や、意味的情報においてランダムに(又は所定のルールの下で)選択されたいずれか1つ又は2つ以上のグリッド値(図2(A)や図2(B)に示したようなグリッド内に記載された数値)を、「欠損であることを指定する値」に置換することができる。例えば移動軌跡情報において、グリッド値が(移動軌跡を含むことを示す)1であるグリッドのうちの1つをランダムに選択し、選択したグリッドのグリッド値を、(欠損であることを指定する)2に置換してもよい。
【0055】
また変更態様として、欠損生成部11は変更生成部として機能し、移動軌跡情報、空間的情報や、意味的情報においてランダムに(又は所定のルールの下で)選択されたいずれか1つ又は2つ以上のグリッド値を、取り得る別のグリッド値に置換してもよい。例えば移動軌跡情報において、グリッド値が1であるグリッドのうちの1つをランダムに選択し、選択したグリッドのグリッド値を(移動軌跡を含まないことを示す)0に置換することもできる。さらに、あるグリッドにおいてPOIの数を1つ増やし、この分のPOIのカテゴリ(を指定する値)を1つ追加することも可能である。
【0056】
同じく図1において、生成器12は、欠損生成部(変更生成部)11で生成された変更事象・関連情報を入力として、出力としての生成事象・関連情報を生成し、ここで、この生成事象・関連情報が、入力された変更事象・関連情報の元情報である領域内事象・関連情報を復元したものとなるように訓練されることによって構築された機能構成部である。
【0057】
具体的に生成部12は、上述したようにGANのGeneratorに相当し、このGeneratorを構成可能な種々の機械学習アルゴリズムを用いて構成することができる。ここで本実施形態の生成部12は、入力される変更事象・関連情報がD個の互いに異なる関連情報(空間的情報・意味的情報)を含むとして、
(12a)それぞれ変更事象・関連情報の移動軌跡情報及びD個の関連情報を入力とし、その特徴量を抽出して出力する、言い換えると移動軌跡情報及びD個の関連情報をそれぞれ特徴量化する(D+1)個のCNNと、
(12b)(D+1)個のCNNからの出力データを結合させる結合層と、
(12c)いずれも上記(12b)の結合層からの出力データを入力として、それぞれ生成事象・関連情報の移動軌跡情報及びD個の関連情報を出力する(D+1)個の逆CNNと
を含むオートエンコーダ(autoencoder)となっている。
【0058】
すなわち、生成部12は本実施形態において、入力された移動軌跡情報及びD個の関連情報をいずれも画像情報(画像データ)とみなし、それらの画像特徴量を抽出した上で、元の(欠損又は変更前の)移動軌跡情報及びD個の関連情報を復元する処理(欠損させたのであれば欠損補完処理)を一括して実施するものとなっている。これにより、例えば各ODペアに対し1つのDNNモデルを構築する非特許文献1に記載された軌道軌跡推定技術と比較すると、推定処理のための計算コストが相当に低減されることが分かる。
【0059】
ここで、オートエンコーダとしての生成部12の訓練について説明を行う。基本的に、生成部12は上述したように、
(a)出力する生成事象・関連情報と、
(b)入力された変更事象・関連情報の元情報である領域内事象・関連情報と
の差異(誤差)ができるだけ小さくなるように訓練される。具体的には、上記(a)の生成事象・関連情報のグリッドのグリッド値(画素値)と、上記(b)の領域内事象・関連情報における対応するグリッドのグリッド値(画素値)とについての平均二乗誤差(MSE)を関数値とする損失関数MSE_Lossを用いて、訓練処理を実施することができる。
【0060】
なお、この損失関数MSE_Lossだけで生成器12の訓練を行う場合、この後説明する識別器13は不要となり、したがって領域内情報推定モデル1は、生成器12だけをもって領域内情報推定処理を実施することが可能となる。しかしながら本実施形態では、GAN本来の推定精度を確保するために識別器13からの出力も合わせて利用し、生成器12の訓練処理を実施するのである。
【0061】
同じく図1において、識別器13は、
(a)ある変更事象・関連情報を入力とした生成器12によって生成された生成事象・関連情報と、
(b)上記(a)の変更事象・関連情報の元情報である領域内事象・関連情報と
を入力とし、これら2つの情報を判別するように訓練された機能構成部である。
【0062】
具体的に識別器13は、上述したようにGANのDiscriminatorに相当し、このDiscriminatorを構成可能な種々の機械学習アルゴリズムを用いて構成することができる。ここで本実施形態の識別器13は、入力される領域内事象・関連情報及び変更事象・関連情報がいずれもD個の互いに異なる関連情報(空間的情報・意味的情報)を含むとして、
(13a)それぞれ領域内事象・関連情報の移動軌跡情報及びD個の関連情報を入力とし、その特徴量を抽出して出力する(D+1)個のCNNと、
(13b)それぞれ生成事象・関連情報の移動軌跡情報及びD個の関連情報を入力とし、その特徴量を抽出して出力する(D+1)個のCNNと、
(13c)上記(13a)及び(13b)のCNNからの出力データを結合させる結合層と、
(13d)上記(13c)の結合層からの出力データに基づき、生成事象・関連情報と領域内事象・関連情報との判別に係る情報、例えば両者が同一の情報である(生成事象・関連情報が元の通りに復元された情報である)確率を出力する出力層と
を含むニューラルネットワークとなっている。
【0063】
また、この識別器13の訓練処理は例えば、二値分類モデル訓練用の損失関数として公知のBinary Cross Entropy Loss(二値交差エントロピー損失)を利用して、
・(上記(13a)のCNNへ入力する)領域内事象・関連情報と、この情報と同一の(上記(13b)のCNNへ入力する)領域内事象・関連情報との組であって、"同一情報"とのラベルが付与された組である多数の第1の訓練データ、及び
・(上記(13a)のCNNへ入力する)領域内事象・関連情報と、この情報から生成器12で生成された(上記(13b)のCNNへ入力する)生成事象・関連情報との組であって、"相違する情報"とのラベルが付与された組である多数の第2の訓練データ
を学習させることにより実施することができる。
【0064】
ここで、識別器13における上記(13d)の出力層からの出力は、本実施形態において入力された生成事象・関連情報及び領域内事象・関連情報が同一の情報である確率pCとなっている。上述した生成器12は本実施形態において、この出力(確率pC)も用いて訓練されるのである。
【0065】
具体的に、生成器12の訓練処理は、例えば次式
(1) Loss=α・MSE_Loss+(1-α)・GAN_Loss
GAN_Loss=1-pC
で表される損失関数Lossを用いて実施することができる。ここで、αは所定値に設定される重み付けパラメータである。また、上式(1)のGAN_Loss(=1-pC)は、識別器13からの出力(確率pC)により決定される、生成事象・関連情報が別物である度合いを示す量として解釈されるものとなっている。したがって生成器12は、このようなGAN_Lossを含む損失関数を用いることによって、自ら生成した生成事象・関連情報が、識別器13によって判別されないように、すなわち、識別器13から見ても元の領域内事象・関連情報を復元したものとみなせるように訓練されることになるのである。
【0066】
なお、損失関数Lossは当然ながら、上式(1)の形に限定されるものではない。いずれにしても生成器12を訓練するための損失関数Lossとしては、
(a)生成器12で生成された生成事象・関連情報と、元の領域内事象・関連情報との誤差(例えばグリッド毎の誤差の合計値)について単調増加を示し、また、
(b)識別器13からの出力により決定される、生成事象・関連情報が別物である度合いについても単調増加を示す
ものを採用することが好ましいのである。
【0067】
また変更態様として、生成器12の訓練処理を、GAN_Lossのみを用いて、又は上記(b)の「生成事象・関連情報が別物である度合いについて単調増加を示す」損失関数のみを用いて実施することも可能である。この場合、訓練処理において損失関数MSE_Lossの計算コストをかけずに済むことになる。
【0068】
同じく図1において、以上詳細に説明したような訓練処理を施された生成器12は、領域内情報推定処理として、
(a)前提情報としての事象情報及び/又は関連情報である「推定用前提情報」
を入力として、
(b)推定対象としての「事象情報及び/又は関連情報」に係る情報である「推定情報」
を出力する。
【0069】
具体的に生成器12は、本実施形態において、
(ア)「推定用前提情報」としての関連情報(空間的情報,意味的情報)を入力として、推定対象である移動軌跡情報に係る「推定情報」を出力する、又は、
(イ)「推定用前提情報」としての、移動軌跡情報及び推定対象ではない関連情報(空間的情報,意味的情報)を入力として、推定対象である関連情報(空間的情報,意味的情報)のうちの少なくとも1つに係る「推定情報」を出力するのである。
【0070】
図3は、生成器12における領域内情報推定処理の一実施形態を説明するための模式図である。
【0071】
図3に示した実施形態において、(後述する訓練部93において訓練された)訓練済みの生成器12は、
(a)出発地点及び目的地点をそれぞれ含む出発グリッド及び目的グリッドが指定されていて残りのグリッドは欠損状態にある移動軌跡情報と、
(b)推定の前提となる、例えば実際の関連情報(空間的情報,意味的情報)と
の組である推定用前提情報を入力として、
(c)上記(a)の出発グリッド及び目的グリッドをそれぞれ出発範囲及び目的範囲とした場合の推定される移動軌跡を表した(具体的には推定される所在位置群を含むグリッド群の各グリッド値を1とした)移動軌跡情報を含む、又は当該移動軌跡情報そのものである推定情報
を出力する。
【0072】
このように、訓練済みの生成器12によれば、例えば訓練データに係る地域とは異なる新たな地域における出発グリッド及び目的グリッドと、この新たな地域における実際の道路、住宅や河川の位置・分布や、実際のメッシュ人数等を表した関連情報とを指定して、例えば訓練データに係る人物と同一のある人物の当該地域における移動軌跡を推定することが可能となる。
【0073】
例えば、ある人物が引っ越し前に住んでいた地域に係る訓練データで訓練された生成器12を用い、当該人物の引っ越し先の新たな地域における新居の位置を含む出発グリッド、及び新たな通勤先となる職場の位置を含む目的グリッドを指定し、さらに引っ越し先の新たな地域における関連情報も合わせて指定することによって、当該人物の新たな地域における新たな通勤ルートを生成・推定することもできるのである。
【0074】
ここで関連情報として、例えば各メッシュにおける所在人数の時間平均値(メッシュ人数)や、道路沿いにある所定以上の高さの建築物の数等を採用することによって、例えば当該人物の「人通りの多い道路を好む」傾向や「景色の良い道を好む」傾向等が反映された、当該人物についてより尤もらしい移動軌跡(通勤ルート)を推定することも可能となるのである。
【0075】
なお、以上に説明した例では、生成器12は、訓練データに係る特定の人物専用の推定器となっており、上述したように、推定結果に当該人物の(経路選択における)嗜好や傾向を反映させることも可能となっている。しかしながら変更態様として、生成器12を、所定の組織・集団に属する若しくは所定の属性を有する人物群に係る訓練データをもって訓練し、この訓練済みの生成器12を用いて、上記に該当する人物の移動軌跡を推定してもよい。また、不特定の人物群に係る訓練データをもって訓練された生成器12を用いて、任意の人物の移動軌跡を推定することも可能である。
【0076】
またさらに、例えば、ある地域の移動軌跡情報として、多数の人物(の所持する通信端末群)の所在位置群、すなわち人物群(群衆)の移動軌跡群を表した移動軌跡情報を採用し、訓練データに係る当該地域とは異なる新たな地域における(当該地域の道路分布とは異なる)道路分布を推定用前提情報(関連情報)に含めて指定し、この新たな地域における群衆の移動軌跡情報(道路使用状況情報)を推定することも可能である。この場合、非特許文献1に記載された移動軌跡推定技術のように短距離(6km以内)の移動軌跡推定に限定されることなく、実際の群衆の移動に即した軌跡に係る情報が推定可能となるのである。
【0077】
また、以上に説明した例では、訓練データに係る地域とは異なる別の地域における移動軌跡を推定しているが、当然、同じ地域における移動軌跡を推定することも可能である。例えば、訓練データには含まれていなかった新設のPOI(例えば、新しい商業施設)を含むPOIの配置・分布・カテゴリ情報である関連情報を指定して、当該同じ地域におけるPOIの新設が反映された移動軌跡、例えば通勤ルートを推定してもよい。このように、生成器12によれば、引越し、旅行や、新規出店、さらには工事や災害の発生等、推定対象の人物にとっての環境が変化した場合における新たな移動軌跡を推定することも可能となる。
【0078】
さらに、領域内情報推定処理の他の実施形態として、移動軌跡情報を推定用前提情報に含めて、関連情報のうちの少なくとも1つを推定することもできる。例えば群衆の移動軌跡群を表した移動軌跡情報を固定し、一方で関連情報、例えば各グリッドに存在するPOIのカテゴリ情報や各グリッドの人数(メッシュ人数)情報の一部を欠損させた(又は変更した)変更事象・関連情報を、訓練データとして用いて生成器12を構築してもよい。この場合、この生成器12によって、ある地域における大量の移動軌跡情報から、各グリッドの人数(メッシュ人数)を推定したり、各グリッドのPOIのカテゴリを推定したりすることができる。
【0079】
またさらに、推定用前提情報に含める移動軌跡情報の一部を(未知情報若しくは確認したい情報として)欠損させておき、メッシュ人数やPOIのカテゴリを推定するのに並行して、移動軌跡情報のこの欠損部分の復元・推定を行うことも可能である。
【0080】
いずれにしても、これらの実施形態の領域内情報推定モデル1は、意図して生成した変更事象・関連情報に対し、GANによる元情報の復元機能を適用して、事象・関連情報(推定用前提情報)における未知の若しくは確認したい情報部分を復元し、推定することを可能とするのである。また、事象・関連情報(推定用前提情報)における事象情報や関連情報として、構築に必要な訓練データを準備可能な種々様々な情報を選んで採用することができる。その結果、事象情報や関連情報を適切に選択・調整することを通して、所望の領域内情報をより高い精度で推定することも可能となっているのである。
【0081】
[領域内情報推定装置、プログラム及び方法]
以下、図1に戻って、以上詳細に説明したような領域内情報推定モデル1を搭載しており、この領域内情報推定モデル1を用いて、推定対象である事象情報及び/又は関連情報に係る推定情報(例えば、移動経路情報や、各グリッドに存在するPOIのカテゴリ情報等)を、推定結果として出力可能とする領域内情報推定装置9について説明する。
【0082】
図1に示したように、領域内情報推定装置9は、入力部91と、事象・関連情報生成部92と、訓練部93と、領域内情報推定部94と、出力部95とを備えている。このうち、事象・関連情報生成部92、訓練部93及び領域内情報推定部94は、本発明による領域内情報推定方法の一実施形態を実施する主要部であり、また、本発明による領域内情報推定プログラムの一実施形態を保存したプロセッサ・メモリの機能と捉えることもできる。
【0083】
またこのことから、領域内情報推定装置9は、領域内情報推定の専用装置であってもよいが、本発明による領域内情報推定プログラムを搭載した、例えばクラウドサーバ、非クラウドのサーバ装置、パーソナル・コンピュータ(PC)、ノート型若しくはタブレット型コンピュータ、又はスマートフォン等とすることも可能である。
【0084】
同じく図1において、領域内情報推定装置9の入力部91は、通信機能を備えていて、領域内事象・関連情報を生成するための情報を受信し取得する。例えば所定のAPI(Application Programming Interface)を用いて、外部に設置された通信事業者の例えば通信管理サーバから、通信端末(を所持した人物)の所在位置に係る時系列情報を取得したり、所定の業者の例えば地図情報管理サーバから、対象となる地域における道路、住宅や、河川、さらには建築物や各種施設等であるPOIに関する情報を含む地図情報を取得したり、ネットワーキングサービス事業者の例えば投稿管理サーバから、各エリアにおける投稿の数に係る時系列情報や投稿の分析結果(例えば頻出単語)に係る情報を取得してもよい。
【0085】
事象・関連情報生成部92は、入力部91で取得された、対象となる地域についての上述したような各種情報から、予め設定された当該地域を分割するグリッド群におけるグリッド毎の情報を決定し、これにより当該地域における領域内事象・関連情報を生成する。
【0086】
訓練部93は、生成された多数の領域内事象・関連情報から多数の変更事象・関連情報を生成し、生成した変更事象・関連情報とその元の(欠損又は変更前の)情報である領域内事象・関連情報との組を訓練(学習)データとして、領域内情報推定モデル1を構築する。また、例えば最新の訓練データによって、構築された領域内情報推定モデル1を更新してもよい。
【0087】
領域内情報推定部94は、装置ユーザによって(入力部91を介し)指示された、推定すべき領域内情報に合わせて(例えば図3に示したような出発グリッド及び目的グリッドを指定した)推定用前提情報を生成し、この推定用前提情報を、構築・更新された領域内情報推定モデル1へ入力し、この領域内情報推定モデル1からの出力として、(例えば図3に示したような出発グリッドと目的グリッドとを結ぶ移動軌跡を補完・推定した)推定情報を取得する。
【0088】
出力部95は、領域内情報推定部94から受け取った推定情報を、通信機能を備えている場合に外部の情報処理装置へ送信したり、ディスプレイを備えている場合に当該ディスプレイに表示させたりする。例えば、当該地域の地図画像上に、推定した移動軌跡を強調して表示させたり、推定したPOIのカテゴリを、例えば当該POIの位置からの吹き出しの形で提示させたり、推定したメッシュ人数を、地図画像上の濃淡で表現させたりしてもよい。
【0089】
以上詳細に説明したように、本発明によれば、領域内事象・関連情報における情報部分を推定するに当たり、生成した変更事象・関連情報に対し、GANにおける少なくともGenerator(生成器)による元情報の復元機能を適用することによって、高い精度で当該情報部分を推定することができる。また、モデル構築に必要な訓練(学習)データを準備可能であるような種々の情報を、この推定に反映させることもできるのである。
【0090】
さらに例えば、本発明に係る事象情報として人物群や自動車群の移動軌跡情報を採用することによって、都市部でのイベント発生時、災害時や、緊急事態発令時における人流や自動車等のトラヒックを予測し、この予測結果に基づき適切な人流制御やトラヒック制御を実施することも可能となる。このように本発明は、現在話題となっているスマートシティにおける種々の事象の定常変動要因を推定する場面においても、大いに活用されるものとなっているのである。
【0091】
また本発明によれば、例えば、住民がアクセスし易いような、又はアクセスする住民の渋滞が発生しないような(交通機関を含む)社会インフラや商業施設の配置・分布を決定したり、さらに、電力の適切な受け入れ・供給体制を実現すべく、コジェネやソーラパネル等の電力供給源や各種の電力消費主体の適切な配置・分布を決定したりすることも可能となる。すなわち本発明によれば、国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標11「都市を包摂的、安全、レジリエントかつ持続可能にする」に貢献することも可能となるのである。
【0092】
前述した本発明の種々の実施形態について、本発明の技術思想及び見地の範囲の種々の変更、修正及び省略は、当業者によれば容易に行うことができる。前述の説明はあくまで例であって、何ら制約しようとするものではない。本発明は、特許請求の範囲及びその均等物として限定するものにのみ制約される。
【符号の説明】
【0093】
1 領域内情報推定モデル
11 欠損生成部(変更生成部)
12 生成器
13 識別器
9 領域内情報推定装置
91 入力部
92 事象・関連情報生成部
93 訓練部
94 領域内情報推定部
95 出力部
図1
図2
図3