(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022178409
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】密封構造
(51)【国際特許分類】
F16J 15/10 20060101AFI20221125BHJP
【FI】
F16J15/10 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021085186
(22)【出願日】2021-05-20
(71)【出願人】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(74)【代理人】
【識別番号】100132403
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 儀雄
(74)【代理人】
【識別番号】100189289
【弁理士】
【氏名又は名称】北尾 拓洋
(72)【発明者】
【氏名】緒方 千代太
(72)【発明者】
【氏名】牛島 慎二
(72)【発明者】
【氏名】三木 陽平
(72)【発明者】
【氏名】山部 匡央
【テーマコード(参考)】
3J040
【Fターム(参考)】
3J040AA17
3J040BA01
3J040EA16
3J040EA22
3J040FA05
3J040HA03
3J040HA08
3J040HA09
(57)【要約】
【課題】シール性を維持しつつガスケットの装着性を向上させた密封構造を実現する。
【解決手段】内側に向かって湾曲した内向き曲率部120を一部に有する環形状の無端溝12が形成された端面11を有する第1部材1と、第1部材1の端面11に対向する対向面を有する第2部材と、無端溝12に嵌り込んで第1部材1の端面11と第2部材の対向面との間の隙間をシールする、弾性材料からなる無端状のガスケット3と、を備え、無端溝12に嵌り込んだガスケット3は、無端溝12の、内向き曲率部120を含む部分(内向き曲率部120および直線部121の一部)において、外側壁面12aから離間し、無端溝12の、内向き曲率部120を含む部分を除いた残りの部分(外向き曲率部122および直線部121の残りの部分)において外側壁面12aに当接するものである。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内側に向かって湾曲した内向き曲率部を一部に有する環形状の無端溝が形成された端面を有する第1部材と、
前記第1部材の前記端面に対向する対向面を有する第2部材と、
前記無端溝に嵌り込んで前記第1部材の前記端面と前記第2部材の前記対向面との間の隙間をシールする、弾性材料からなる無端状のガスケットと、を備え、
前記無端溝に嵌り込んだ前記ガスケットは、前記無端溝の、前記内向き曲率部を含む部分において、前記無端溝の壁面を構成する内側壁面および外側壁面のうちの前記外側壁面から離間し、前記無端溝の、前記内向き曲率部を含む前記部分を除いた残りの部分において前記外側壁面に当接するものである密封構造。
【請求項2】
前記無端溝に嵌り込んだ前記ガスケットの、前記無端溝の前記内向き曲率部において前記外側壁面から離間した部分は、前記ガスケットの伸張度が増すにつれて前記内側壁面に接近し、前記ガスケットの伸張度が所定の閾値レベルに達すると前記内側壁面への当接を開始するものである請求項1記載の密封構造。
【請求項3】
前記無端溝は、前記環形状として、円環の一部が内側に凹んで湾曲している環形状を有するものである請求項1又は2記載の密封構造。
【請求項4】
前記無端溝は、前記環形状として、矩形の環の一辺の一部が内側に凹んで湾曲している環形状を有するものである請求項1又は2記載の密封構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環形状の無端溝が形成された端面を有する第1部材と、その端面に対向する対向面を有する第2部材との間の隙間を、上記の無端溝に嵌りこむ、弾性体からなる無端状のガスケットによりシールする密封構造に関する。
【背景技術】
【0002】
環形状の無端溝が形成された端面を有する第1部材と、その端面に対向する対向面を有する第2部材との間の隙間を、上記の無端溝に嵌りこむ、弾性体からなる無端状のガスケットによりシールする密封構造が従来から知られている(たとえば特許文献1~3参照)。こうした密封構造は、ガスケットで囲まれる内側の空間を密封(すなわち外部から遮断)するのに用いられる。
【0003】
こうした密封構造の中には、環形状の無端溝の内周側の壁面(以下、内側壁面と呼ぶ)と外周側の壁面(以下、外側壁面と呼ぶ)のうち外側壁面の壁面にのみガスケットが当接するよう配置される、いわゆる外周沿わせガスケットを用いた密封構造が存在する。以下では、外周沿わせガスケットを用いた従来の密封構造の具体例について説明する。
【0004】
図1は、外周沿わせガスケットを用いた従来の密封構造10’を、密封構造10’における第1部材1’の端面11’側から表した図であり、
図2は、
図1の従来の密封構造10’のAA’線での断面図である。
【0005】
図1および
図2に示す従来の密封構造10’では、円環状の無端溝12’が形成された端面11’を有する第1部材1’と、端面11’に対向する対向面21’を有する第2部材2’との間の隙間が、無端溝12’に嵌りこむ、弾性体からなる無端状のガスケット3’によりシールされる。
図1および
図2に示すようにガスケット3’は、円環状の無端溝12’の内側壁面12b’と外側壁面12a’のうち外側壁面12a’にのみ当接するよう配置される。
【0006】
図3は、
図1とは異なる形状の無端溝12’’が形成されている、外周沿わせガスケットを用いた別の従来の密封構造10’’を表した図である。
【0007】
図3に示す従来の密封構造10’’では、第1部材1’’の端面11’に形成された矩形の環形状を有する無端溝12’’に嵌りこむ無端状のガスケット3’’によりシールが行われる。このガスケット3’’は、無端溝12’’の内側壁面12b’’と外側壁面12a’’のうち外側壁面12a’’にのみ当接するよう配置される。無端溝の形状が異なる点を除き、
図3の従来の密封構造10’’は、
図1および
図2の従来の密封構造10’と同じであり、たとえば、
図3の従来の密封構造10’’の断面は、
図2に示す断面と同様である。
【0008】
以上説明したような外周沿わせガスケットを用いた密封構造では、温度上昇に伴うガスケットの伸張(すなわち熱膨張)やガスケットで囲まれる内側の空間の圧力上昇の際に、外側方向に広がろうとするガスケットに対し無端溝の外側壁面がストッパーとして働く。このようなガスケットと外側壁面の当接によりシール面圧が上昇し、高いシール状態が実現する。このような性質により外周沿わせガスケットを用いた密封構造には、内側壁面と外側壁面の間の無端溝の中央部にガスケットが配置される、いわゆる中央配置のガスケットを用いた密封構造に比べてシール性に優れているという利点がある。
【0009】
特に、熱膨張によるガスケットの伸張を考慮すると、外周沿わせガスケットを用いた密封構造は、中央配置のガスケットを用いた密封構造に比べて低温下(温度上昇が小さい状況下)で速やかに高いシール状態が実現することができる。このため、燃料電池車(FCV)や電気自動車(EV)等で水素等の気体のシールに用いられる密封構造のように、シール対象が低温になりやすく漏れが許されない環境では、外周沿わせガスケットを用いた密封構造は特に有用である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2020-106106号公報
【特許文献2】特開2011-075031号公報
【特許文献3】実開平03-043171号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
外周沿わせガスケットを用いた密封構造は、シール性については優れているものの、その反面、中央配置のガスケットを用いた密封構造に比べてガスケットの無端溝への装着性が悪いという欠点がある。たとえば
図1および
図2の従来の密封構造10’では、無端溝12’に押し込まれたガスケット3’が伸張しようとして無端溝12’の外側壁面12a’に対し高い接触面圧で張りついてしまい所望の位置・姿勢にガスケット3’を装着し直すのが難しくなることがある。さらには、ガスケット3’が無端溝12’の周長に比して不必要に伸張して余りが生じることや、伸張しようとするガスケット3’を無端溝12’に無理に押し込むことにより無端溝12’からのガスケット3’の部分的な浮き上がりが生じることがある。このような場合、シール性の低下を招くおそれがある。
【0012】
このように、外周沿わせガスケットを用いた密封構造においては、シール性を維持しつつガスケットの装着性を向上させる点において、さらなる工夫が求められる。
【0013】
上記の事情を鑑み、本発明では、シール性を維持しつつガスケットの装着性を向上させた密封構造の実現を図っている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述の課題を解決するため、本発明は、以下の密封構造を提供する。
【0015】
[1]内側に向かって湾曲した内向き曲率部を一部に有する環形状の無端溝が形成された端面を有する第1部材と、前記第1部材の前記端面に対向する対向面を有する第2部材と、前記無端溝に嵌り込んで前記第1部材の前記端面と前記第2部材の前記対向面との間の隙間をシールする、弾性材料からなる無端状のガスケットと、を備え、前記無端溝に嵌り込んだ前記ガスケットは、前記無端溝の、前記内向き曲率部を含む部分において、前記無端溝の壁面を構成する内側壁面および外側壁面のうちの前記外側壁面から離間し、前記無端溝の、前記内向き曲率部を含む前記部分を除いた残りの部分において前記外側壁面に当接するものである密封構造。
【0016】
[2]前記無端溝に嵌り込んだ前記ガスケットの、前記無端溝の前記内向き曲率部において前記外側壁面から離間した部分は、前記ガスケットの伸張度が増すにつれて前記内側壁面に接近し、前記ガスケットの伸張度が所定の閾値レベルに達すると前記内側壁面への当接を開始するものである[1]に記載の密封構造。
【0017】
[3]前記無端溝は、前記環形状として、円環の一部が内側に凹んで湾曲している環形状を有するものである[1]又は[2]に記載の密封構造。
【0018】
[4]前記無端溝は、前記環形状として、矩形の環の一辺の一部が内側に凹んで湾曲している環形状を有するものである[1]又は[2]に記載の密封構造。
【発明の効果】
【0019】
本発明の密封構造では、無端溝の内向き曲率部においてガスケットが外側壁面からは離間しており、その内向き曲率部におけるガスケットが内側壁面に当接する形状となるまで、ガスケットが、ある程度変形(伸張)する余裕がある。このため、ガスケットと無端溝の外側壁面との間において不必要に高い接触面圧が発生するのを避けることができる。また、ガスケットの変形は内向き曲率部付近での限られたものであるため、シール性の低下を招くほどの変形には至らない。この結果、本発明の密封構造では、シール性を維持しつつガスケットの装着性が向上している。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】外周沿わせガスケットを用いた従来の密封構造を、この密封構造における第1部材の端面側から表した図である。
【
図2】
図1の従来の密封構造のAA’線での断面図である。
【
図3】
図1とは異なる形状の無端溝が形成されている、外周沿わせガスケットを用いた別の従来の密封構造を表した図である。
【
図4】本発明の一実施形態の密封構造を、この密封構造における第1部材の端面側から表した図である。
【
図5】
図4の密封構造のBB’線での断面図である。
【
図6】
図4の密封構造のCC’線での断面図である。
【
図7】断面形状が円形のガスケットを備えた密封構造を表した図である。
【
図8】矩形の環の一辺の一部が内側に凹んで湾曲している環形状を有する無端溝が採用されている密封構造を、この密封構造における第1部材の端面側から表した図である。
【
図9】装着時の実施例の密封構造における内向き曲率部付近でのガスケットの状態を表した図である。
【
図10】実施例の密封構造における内向き曲率部付近において、ガスケットが伸張して無端溝の内向き曲率部の内側壁面に当接したときの様子を表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しながら説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0022】
図4は、本発明の一実施形態の密封構造10を、密封構造10における第1部材1の端面11側から表した図であり、
図5は、
図4の密封構造10のBB’線での断面図であり、
図6は、
図4の密封構造10のCC’線での断面図である。
【0023】
密封構造10は、
図4~
図6に示すように、第1部材1、第2部材2、およびガスケット3を備えている。
【0024】
第1部材1は、環形状の無端溝12が形成された端面11を有する部材であり、無端溝12の壁面は、内側壁面12bおよび外側壁面12aにより構成されている。
図4に示すように無端溝12は、内側に向かって湾曲した内向き曲率部120を一部に有している。無端溝12において、内向き曲率部120の両側の2つの部分は直線状となっている直線部121であり、内向き曲率部120と2つの直線部121以外の残りの部分は、外側に向かって湾曲している外向き曲率部122である(
図4参照)。
【0025】
以下では、内向き曲率部120と外向き曲率部122の間に直線部121が存在するものとして説明を続けるが、本発明では、内向き曲率部が、外側に向かって湾曲している外向き曲率部に直接に接続しているものであってもよい。
【0026】
ここで、本願明細書では、「環形状」という語を、一次元的に延びるものが周回してその先端と末端とが結合したときの端の無い無端状一般を指す語として用いている。こうした「環形状」としては、円環の形状、楕円の環の形状、矩形の環の形状、といった形状が典型であるが、それらの形状の一部が変形して完全な円形、楕円形、矩形ではなくなった無端状も「環形状」には含まれる。
【0027】
たとえば、
図4の無端溝12の環形状は、円環の一部が内側に凹んで湾曲している環形状である。ただし、これは、あくまでも一具体例であり、後述するように、本発明では、他の環形状も採用できる。
【0028】
第1部材1以外の
図4~
図6の密封構造10の構成要素の説明を続ける。
【0029】
第2部材2は、第1部材1の端面11に対向する対向面21を有する部材である。
図5および
図6に示すように第1部材1と第2部材2とは、端面11と対向面21とを対向させた状態で互いに近接している。
【0030】
ガスケット3は、無端溝12に嵌り込んで第1部材1の端面11と第2部材2の対向面21との間の隙間をシールする役割を担う、弾性材料からなる無端状の部材である。
【0031】
無端溝12に嵌り込んだガスケット3は、
図4および
図6に示すように無端溝12の、内向き曲率部120を含む部分において、無端溝12の外側壁面12aから離間している。ここでいう「内向き曲率部120を含む部分」とは、より具体的には、内向き曲率部120の全体とその両側の2つの直線部121の一部とを合わせたものである。
【0032】
ただし、このような「内向き曲率部120を含む部分」はあくまでも一例であり、本発明でいう「内向き曲率部を含む部分」は、内向き曲率部そのものであってもよいし、内向き曲率部全体に加えて外側に向かって湾曲している外向き曲率部の一部を含むものであってもよい。
【0033】
また、無端溝12に嵌り込んだガスケット3は、
図4および
図5に示すように無端溝12の、内向き曲率部120を含む上述の部分(内向き曲率部120の全体+2つの直線部121の一部)を除いた残りの部分において外側壁面12aに当接している。ここでいう「残りの部分」とは、より具体的には、2つの直線部121の残りの部分と外向き曲率部122の全体とを合わせたものである。
【0034】
すなわち大雑把に言えば、
図4~
図6のガスケット3は、内向き曲率部120を含む部分において外側壁面12aから離間している点を除き、外周沿わせガスケットに近いものである。このため、
図1~
図3で説明したのと同様の理由で、ガスケット3を有する本実施形態の密封構造10は、いわゆる中央配置のガスケットを用いた密封構造に比べてシール性に優れている。たとえば、低温下(温度上昇が小さい状況下)でも速やかに高いシール状態が実現することができ、燃料電池車(FCV)や電気自動車(EV)等で水素等の気体のシールに用いられる密封構造のように、シール対象が低温になりやすく漏れが許されない環境では特に有用である。
【0035】
ここで本実施形態の密封構造10では、内向き曲率部120においてガスケット3が外側壁面12aから離間しており、内向き曲率部120におけるガスケット3が内側壁面12bに当接する形状となるまで、ガスケット3が、ある程度変形(伸張)する余裕がある。このため、ガスケット3と無端溝12の外側壁面12aとの間において不必要に高い接触面圧が発生するのを避けることができる。また、ガスケット3の変形は内向き曲率部120付近での限られたものであるため、シール性の低下を招くほどの変形には至らない。この結果、本実施形態の密封構造10では、シール性を維持しつつガスケットの装着性が向上している。
【0036】
ここで、無端溝12に嵌り込んだガスケット3の、内向き曲率部120において外側壁面12aから離間した部分が、ガスケット3の伸張度が増すにつれて、
図6に示すように内側壁面12bに接近し、さらにガスケット3の伸張度が所定の閾値レベルに達すると内側壁面12bへの当接を開始するものであることが好ましい。
【0037】
このような形態によれば、上記の所定の閾値レベルに達するまでガスケット3が変形(伸張)する余裕があることとなり、その間は、ガスケット3と無端溝12の外側壁面12aとの間において不必要に高い接触面圧が発生するのを避けることができる。
【0038】
なお、以上の説明では、
図5および
図6に示すようにガスケット3の断面は多角形(より具体的には八角形)であったが、これはあくまでも一例であり、ガスケット3の断面は他の形状であってもよい。
【0039】
図7は、断面形状が円形のガスケット3を備えた密封構造10を表した図である。
【0040】
図7は
図4のBB’線での断面図であり、
図7では、説明の簡単化のため、
図4~
図6の構成要素や部位と対応する構成要素や部位については同じ符号が付されている。
図7に示すような断面形状が円形のガスケット3であっても、
図4のように内向き曲率部120においてガスケット3が外側壁面12aから離間していることで、シール性を維持しつつガスケットの装着性の向上を図ることができる。
【0041】
また、以上の説明では、
図4に示すように無端溝12は、円環の一部が内側に凹んで湾曲している環形状を有していたが、本発明では、矩形の環の一辺の一部が内側に凹んで湾曲している環形状を有する無端溝が採用されてもよい。
【0042】
図8は、矩形の環の一辺の一部が内側に凹んで湾曲している環形状を有する無端溝12Aが採用されている密封構造10Aを、密封構造10Aにおける第1部材1Aの端面11A側から表した図である。
【0043】
密封構造10Aにおける第1部材1Aの端面11Aには、矩形の環の一辺の一部が内側に凹んで湾曲している環形状を有する無端溝12Aが形成されている。この無端溝12の壁面は、内側壁面12Abおよび外側壁面12Aaにより構成されている。
図8に示すように矩形の無端溝12Aは、その一辺の一部に、内側に向かって湾曲した内向き曲率部120Aを有している。なお、
図8では不図示であるが密封構造10Aにおける第2部材は、第1部材1Aの端面11Aに対向する対向面を有しており、その対向面を端面11Aと対向させた状態で第1部材1Aに近接している。密封構造10Aにおけるガスケット3Aは、無端溝12Aに嵌り込んで第1部材1Aの端面11Aと不図示の第2部材の対向面との間の隙間をシールする、弾性材料からなる無端状の部材である。
【0044】
無端溝12Aに嵌り込んだガスケット3Aは、
図8に示すように、無端溝12Aの、内向き曲率部120Aを含む部分において、無端溝12Aの外側壁面12Aaから離間しており、残りの部分において外側壁面12Aaに当接している。大雑把に言えば、
図8のガスケット3Aは、内向き曲率部120Aを含む部分において外側壁面12aから離間している点を除き、外周沿わせガスケットに近いものであり、シール性に優れている。
【0045】
ここで密封構造10Aでは、内向き曲率部120Aにおいてガスケット3Aが外側壁面12Aaから離間しており、内向き曲率部120Aにおけるガスケット3Aが内側壁面12Abに当接する形状となるまで、ガスケット3Aが、ある程度変形(伸張)する余裕がある。このため、
図4~
図6の密封構造10と同様に、密封構造10Aにおいても、シール性を維持しつつガスケットの装着性が向上している。
【実施例0046】
以下では、本発明の効果を示すさらに具体的な実施例および比較例によって説明する。なお、本発明は実施例によって何ら限定されるものではない。
【0047】
(実施例)
実施例の密封構造は、
図4~
図6の密封構造10の一具体例である。実施例の密封構造10におけるガスケット3では、弾性材料としてエチレンプロピレンゴムが用いられている。このガスケット3は、曲率半径10mmで内向きに湾曲した中心角270°の円弧状の部分と、その両側の長さ5mmの直線状の部分と、これら2つの直線状の部分をつなぐ、曲率半径35mmで外向きに湾曲した中心角270°の円弧状の部分とからなる。従って、実施例の密封構造におけるガスケット3の全長は、2π×10mm×(270/360)+2×5mm+2π×35mm×(270/360)=約220mmである。
【0048】
実施例の密封構造10における無端溝12は、このガスケット3の形状や寸法に対応した形状や寸法を有している。ガスケット3における上述の、内向きに湾曲した円弧状の部分、その両側の2つの直線状の部分、および、外向きに湾曲した円弧状の部分が、実施例の密封構造10における無端溝12の、内向き曲率部120、2つの直線部121、および、外向き曲率部122にそれぞれ嵌り込むことでガスケット3の無端溝12への装着が行われる。ここで、装着時の実施例の密封構造10では、ガスケット3で囲まれる内側の空間の圧力(内圧)は外側の空間の圧力と同程度であるが、ガスケット3は、内向き曲率部120を除き、無端溝12の外側壁面12aに当接している。
【0049】
より詳しく説明すると、実施例の密封構造10では、ガスケット3が無端溝12に組み付けられる前の自然状態のガスケット3の寸法(設計寸法)は、ガスケット3が無端溝12の全周にわたって無端溝12の外側壁面12aに密接するとしたときの長さとほぼ同じである。ただしガスケット3が無端溝12に組み付けられる際に受ける押圧力により、ガスケット3は僅かに伸張し、その伸張により内向き曲率部120において外側壁面12aから離間するようになる。さらに、第1部材1と第2部材2に挟まれることでガスケット3が受ける押圧力によってもガスケット3は内向き曲率部120において外側壁面12aから離間するようになる。
【0050】
図9は、装着時の実施例の密封構造10における内向き曲率部120付近でのガスケット3の状態を表した図である。
【0051】
実施例の密封構造10では、無端溝12の内向き曲率部120においては、ガスケット3は外側壁面12aから少しだけ離間しているがその離間量はわずかである。このため、
図9に示すように、ガスケット3は、外観上、ほぼその全長にわたって外側壁面12aに当接しているように見える。このため、実施例の密封構造10では、装着時の実施例の密封構造10におけるガスケット3は、外周沿わせガスケットときわめてよく似ている。なお、実施例の密封構造10において、このように装着時の状態が外周沿わせガスケットときわめてよく似ているガスケット3を用いる理由は、以下に説明する比較例のガスケット3’となるべく同一の条件で比較できるようにするためである。
【0052】
(比較例)
比較例の密封構造は、
図1および
図2の密封構造10’の一具体例である。比較例の密封構造におけるガスケット3’では、実施例の密封構造におけるガスケット3と同様に、弾性材料としてエチレンプロピレンゴムが用いられている。このガスケット3’は、半径35mmの円環状の部材であって、その全長は2π×35mm=約220mmであり、実施例1のガスケット3の全長とほぼ同じである。
【0053】
比較例の密封構造10’における無端溝12’は、このガスケット3’の形状や寸法に対応した寸法の円環状を有しており、ガスケット3’がこの無端溝12’に嵌り込むことでガスケット3’の無端溝12’への装着が行われる。ここで、装着時の比較例の密封構造10’では、ガスケット3で囲まれる内側の空間の圧力(内圧)は外側の空間の圧力と同程度であるが、この状態でガスケット3’は、
図1に示すように、その全長にわたって無端溝12’の外側壁面12a’に当接している。
【0054】
[試験]
以上の実施例および比較例の密封構造を用いて以下の試験を行った。実施例および比較例の密封構造の各ガスケットの周長を0.44mmずつ5段階に分けて2.20mmまで伸張させた。各ガスケットの周長の伸びにより各無端溝の壁面への各ガスケットの接触の度合いが増すと、各ガスケットと各無端溝の壁面(特に外向き曲率部の外側壁面)との間の接触面圧(MPa)や各ガスケットの反力が増加する。そこで、この試験では、各ガスケットの周長の伸びに伴う各ガスケットの外観上の形状変化を観察しながら、0.44mmの周長の伸びごとに(すなわち、周長伸びが、0.44mm、0.88mm、1.32mm、1.76mm、2.20mmの各段階において)、各ガスケットと各無端溝の外向き曲率部の外側壁面との間の接触面圧(MPa)と各ガスケットの反力(N/mm)とを測定した。
【0055】
[試験の結果]
(外観上の形状変化)
実施例の密封構造10では、ガスケット3は、その周長の伸びとともに、
図9の白抜き矢印に示す方向に向かって無端溝12の内向き曲率部120の外側壁面12aから離間していき、周長の伸びが0.88mm程度となったときに内向き曲率部120の内側壁面12bに当接した。
【0056】
図10は、実施例の密封構造10における内向き曲率部120付近において、ガスケット3が伸張して無端溝12の内向き曲率部120の内側壁面12bに当接したときの様子を表した図である。
【0057】
無端溝12の内向き曲率部120付近において、実施例の密封構造10のガスケット3は、周長の伸びが0mm~0.88mmの間では、周長の伸びとともに、
図9に示す状態から、
図10に示すような、内向き曲率部120の内側壁面12bに当接する状態に変形していった。そして、周長の伸びが0.88mm程度で当接した後の、周長の伸びが0.88mm~2.20mmの間において、この当接状態が持続した。
【0058】
一方、比較例の密封構造10’では、周長の伸びが0mm~2.20mmの全区間においてガスケット3’の外側壁面12a’への当接状態が持続した。
【0059】
(接触面圧と反力の結果)
実施例および比較例における、各ガスケットと各無端溝の外向き曲率部の外側壁面との間の接触面圧(MPa)と各ガスケットの反力(N/mm)の測定結果を下記の表1および表2にそれぞれ示す。
【0060】
【0061】
【0062】
図11は、表1の結果を表したグラフであり、
図12は、表2の結果を表したグラフである。
【0063】
図11や
図12に示されているように、実施例では、周長の伸びが0mm~0.88mmの間は、接触面圧や反力にそれほど大きな変化が見られず、周長の伸びが0.88mm~2.20mmの間には、接触面圧や反力が周長の伸びとともに増加した。一方、比較例では、周長の伸びが0mm~2.20mmの全区間において、接触面圧や反力が周長の伸びとともに増加した。
【0064】
[試験結果の考察]
各ガスケットの各無端溝の壁面への当接の度合いが進んでいる状態では接触面圧や反力が周長の伸びとともに増加している。しかしながら、以上の結果から、実施例のように無端溝12の内向き曲率部120付近における無端溝12の壁面からのガスケット3の離間が実現している区間(周長の伸びが0mm~0.88mの区間)では接触面圧や反力があまり増加しないことがわかる。このことから、無端溝12に内向き曲率部120を設けてガスケット3にこの箇所での変形(伸張)の余裕を与えることで、大きな接触面圧や反力の発生を回避できることが結論できる。すなわち、ガスケット3を無端溝12へ組み付ける際に小さな力で済む(ガスケット3を押し込む際の押圧力を小さくできる)ので組付け性が良くなることがわかる。
【0065】
なお、以上の実施例の説明では、比較例や実施例として、
図1や
図4に示すような円環状あるいは円環の一部を変形した形状のガスケットが採用された具体例について説明した。しかしながら、上述の試験結果の考察を踏まえると、比較例や実施例として、
図3や
図8に示すような矩形の環形状あるいは矩形の環の一部を変形した形状のガスケットが採用された場合についても同様の結論が期待される。