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特開2022-178411水中潜行システム、操縦補助装置及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022178411
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】水中潜行システム、操縦補助装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   B63C 11/48 20060101AFI20221125BHJP
   B63H 25/04 20060101ALI20221125BHJP
   G01S 15/89 20060101ALI20221125BHJP
【FI】
B63C11/48 Z
B63H25/04 D
G01S15/89 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021085190
(22)【出願日】2021-05-20
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】沼崎 孝義
(72)【発明者】
【氏名】青山 裕作
(72)【発明者】
【氏名】徳永 篤
(72)【発明者】
【氏名】坪倉 正和
【テーマコード(参考)】
5J083
【Fターム(参考)】
5J083AA02
5J083AB09
5J083AB20
5J083AC29
5J083AD04
5J083AD17
5J083AE06
5J083AE10
5J083AF18
5J083BA01
5J083BD02
5J083CA12
5J083DC05
5J083EA12
5J083EA14
5J083EB04
(57)【要約】
【課題】水中潜行体が検査対象物に対して正対した状態を維持する。
【解決手段】操縦補助コンピュータ60が、ソナー21の測定結果たる分布図を含む基準画像中の基準の線状の像を基準の線分として検出し、その後の分布図を含む比較対象画像中の比較対象の線状の像を比較対象の線分として検出し、前記基準の線分と前記比較対象の線分との差分を算出し、操縦器40の信号に従った推進機15の制御を差分に基づき補正するよう制御ユニット22に指令する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中潜行体と、
操縦器と、
前記水中潜行体に設けられ、前記水中潜行体の前進及び後進のための推進力を発生させ、前記水中潜行体のヨーのためのモーメントを発生させる推進機と、
前記操縦器の信号に従って前記推進機を制御する制御部と、
前記水中潜行体に設けられ、前記水中潜行体の前方に向かって左右に拡がるビームを送波し、前記水中潜行体の前方の検査対象物から受波した反射波に基づいて、前記検査対象物までの距離及び方角ごとの反射波の強度を周期的に検出する検出部と、
前記検出部によって距離及び方角ごとの反射波の強度が検出される度に、距離及び方角ごとの反射波の強度を階調表現する分布図を含む画像を生成する分布図生成手段と、
前記分布図生成手段によって生成された所定の画像中の分布図において、前記検査対象物を表す基準の線状の像を基準の線分として検出する第一の検出手段と、
前記所定の画像の後の比較対象の画像が前記分布図生成手段によって生成される度に、前記比較対象の画像中の分布図において、前記検査対象物を表す比較対象の線状の像を比較対象の線分として検出する第二の検出手段と、
前記第二の検出手段によって前記比較対象の線分が検出される度に、前記基準の線分と前記比較対象の線分との差分を算出する差分算出手段と、
前記差分算出手段によって差分が算出される度に、前記操縦器の信号に従った前記推進機の制御を、前記差分算出手段によって算出された差分に基づき補正するよう、前記制御部に指令する操縦補助手段と、を備える水中潜行システム。
【請求項2】
前記操縦補助手段が、
前記差分算出手段によって算出された差分に基づいて、ヨーのモーメントの補正値を算出する第一の補正値算出手段と、
前記第一の補正値算出手段によって算出された補正値を前記制御部に出力する第一の出力手段と、を有し、
前記制御部が、前記操縦器の信号が表すモーメントの指令値に、前記第一の出力手段によって出力された補正値を加算して、その和に従ったモーメントを発生させるよう前記推進機を制御する
請求項1に記載の水中潜行システム。
【請求項3】
前記差分算出手段が、前記基準の線分と前記比較対象の線分との差分として、前記基準の線分に対する前記比較対象の線分の傾斜角を算出する
請求項2に記載の水中潜行システム。
【請求項4】
前記操縦補助手段が、
前記差分算出手段によって算出された差分に基づいて、前後の推進力の補正値を算出する第二の補正値算出手段と、
前記第二の補正値算出手段によって算出された補正値を前記制御部に出力する第二の出力手段と、を有し、
前記制御部が、前記操縦器の信号が表す前後の推進力の指令値に、前記第二の出力手段によって出力された補正値を加算して、その和に従った前後方向推進力を発生させるよう前記推進機を制御する
請求項1から3の何れか一項に記載の水中潜行システム。
【請求項5】
前記差分算出手段が、前記基準の線分と前記比較対象の線分との差分として、前記比較対象の線分の中点から前記基準の線分の中点までの距離を算出する
請求項4に記載の水中潜行システム。
【請求項6】
水中潜行体の前進及び後進のための推進力と前記水中潜行体のヨーのためのモーメントとを発生させる推進機が、前記水中潜行体に設けられ、
前記水中潜行体の前方に向かって左右に拡がるビームを送波し、前記水中潜行体の前方の検査対象物から受波した反射波に基づいて、前記検査対象物までの距離及び方角ごとの反射波の強度を周期的に検出する検出部が、前記水中潜行体に設けられ、
操縦器の信号に従って前記推進機を制御する制御部を制御する操縦補助装置であって、
前記操縦補助装置が、
前記検出部によって距離及び方角ごとの反射波の強度が検出される度に、距離及び方角ごとの反射波の強度を階調表現する分布図を含む画像を生成する分布図生成手段と、
前記分布図生成手段によって生成された所定の画像中の分布図において、前記検査対象物を表す基準の線状の像を基準の線分として検出する第一の検出手段と、
前記所定の画像の後の比較対象の画像が前記分布図生成手段によって生成される度に、前記比較対象の画像中の分布図において、前記検査対象物を表す比較対象の線状の像を比較対象の線分として検出する第二の検出手段と、
前記第二の検出手段によって前記比較対象の線分が検出される度に、前記基準の線分と前記比較対象の線分との差分を算出する差分算出手段と、
前記差分算出手段によって差分が算出される度に、前記操縦器の信号に従った前記推進機の制御を、前記差分算出手段によって算出された差分に基づき補正するよう、前記制御部に指令する操縦補助手段と、
を備える操縦補助装置。
【請求項7】
請求項6に記載の操縦補助装置であって、
前記操縦補助手段が、
前記差分算出手段によって算出された差分に基づいて、ヨーのモーメントの補正値を算出する補正値算出手段と、
前記補正値算出手段によって算出された補正値を前記制御部に出力する出力手段と、を有し、
前記制御部が、前記操縦器の信号が表すモーメントの指令値に、前記出力手段によって出力された補正値を加算して、その和に従ったモーメントを発生させるよう前記推進機を制御する
操縦補助装置。
【請求項8】
水中潜行体の前進及び後進のための推進力と前記水中潜行体のヨーのためのモーメントとを発生させる推進機が、前記水中潜行体に設けられ、
前記水中潜行体の前方に向かって左右に拡がるビームを送波し、前記水中潜行体の前方の検査対象物から受波した反射波に基づいて、前記検査対象物までの距離及び方角ごとの反射波の強度を周期的に検出する検出部が、前記水中潜行体に設けられ、
操縦器の信号に従って前記推進機を制御する制御部を制御するコンピュータを、
前記検出部によって距離及び方角ごとの反射波の強度が検出される度に、距離及び方角ごとの反射波の強度を階調表現する分布図を含む画像を生成する分布図生成手段、
前記分布図生成手段によって生成された所定の画像中の分布図において、前記検査対象物を表す基準の線状の像を基準の線分として検出する第一の検出手段、
前記所定の画像の後の比較対象の画像が前記分布図生成手段によって生成される度に、前記比較対象の画像中の分布図において、前記検査対象物を表す比較対象の線状の像を比較対象の線分として検出する第二の検出手段、
前記第二の検出手段によって前記比較対象の線分が検出される度に、前記基準の線分と前記比較対象の線分との差分を算出する差分算出手段、
前記差分算出手段によって差分が算出される度に、前記操縦器の信号に従った前記推進機の制御を、前記差分算出手段によって算出された差分に基づき補正するよう、前記制御部に指令する操縦補助手段、
として機能させるプログラム。
【請求項9】
請求項8に記載のプログラムであって、
前記プログラムが、前記操縦補助手段として機能する前記コンピュータを、
前記差分算出手段によって算出された差分に基づいて、ヨーのモーメントの補正値を算出する補正値算出手段、
前記補正値算出手段によって算出された補正値を前記制御部に出力する出力手段、
として機能させ、
前記制御部が、前記操縦器の信号が表すモーメントの指令値に、前記出力手段によって出力された補正値を加算して、その和に従ったモーメントを発生させるよう前記推進機を制御する
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中を潜行する水中潜行体を備える水中潜行システムに関するとともに、操縦器の信号に従った水中潜行体の推進機の制御を補正するよう制御部に指令する操縦補助装置及びそのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、推進機、カメラ及びソナー等が搭載された水中探査ロボットが開示されている。このような水中探査ロボットを用いてダム壁面を検査する。具体的には、推進機によって水中探査ロボットをダム壁面まで潜行させて、推進機によって水中探査ロボットをダム壁面に沿って移動させつつ、カメラによってダム壁面を撮影することによって損傷の有無・大きさ等を調査する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-26350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、水中探査ロボットがダム壁面に対して正対された状態が維持されないと、カメラによって撮影されるダム壁面に台形歪みが発生したり、映像中のダム壁面のスケールがばらついたりする。そうすると、ダム壁面の損傷を正確に調査することができない。
そこで、本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、水中探査ロボット等の水中潜行体がダム壁面等の検査対象物に対して正対した状態を維持できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題を解決するために、水中潜行システムは、水中潜行体と、操縦器と、前記水中潜行体に設けられ、前記水中潜行体の前進及び後進のための推進力を発生させ、前記水中潜行体のヨーのためのモーメントを発生させる推進機と、前記操縦器の信号に従って前記推進機を制御する制御部と、前記水中潜行体に設けられ、前記水中潜行体の前方に向かって左右に拡がるビームを送波し、前記水中潜行体の前方の検査対象物から受波した反射波に基づいて、前記検査対象物までの距離及び方角ごとの反射波の強度を周期的に検出する検出部と、前記検出部によって距離及び方角ごとの反射波の強度が検出される度に、距離及び方角ごとの反射波の強度を階調表現する分布図を含む画像を生成する分布図生成手段と、前記分布図生成手段によって生成された所定の画像中の分布図において、前記検査対象物を表す基準の線状の像を基準の線分として検出する第一の検出手段と、前記所定の画像の後の比較対象の画像が前記分布図生成手段によって生成される度に、前記比較対象の画像中の分布図において、前記検査対象物を表す比較対象の線状の像を比較対象の線分として検出する第二の検出手段と、前記第二の検出手段によって前記比較対象の線分が検出される度に、前記基準の線分と前記比較対象の線分との差分を算出する差分算出手段と、前記差分算出手段によって差分が算出される度に、前記操縦器の信号に従った前記推進機の制御を、前記差分算出手段によって算出された差分に基づき補正するよう、前記制御部に指令する操縦補助手段と、を備える。
【0006】
以上によれば、水中潜行体が検査対象物に正対した状態を維持することができるとともに、水中潜行体から検査対象物までの距離を一定に維持することができる。
【0007】
好ましくは、前記操縦補助手段が、前記差分算出手段によって算出された差分に基づいて、ヨーのモーメントの補正値を算出する第一の補正値算出手段と、前記第一の補正値算出手段によって算出された補正値を前記制御部に出力する第一の出力手段と、を有し、前記制御部が、前記操縦器の信号が表すモーメントの指令値に、前記第一の出力手段によって出力された補正値を加算して、その和に従ったモーメントを発生させるよう前記推進機を制御する。
より好ましくは、前記差分算出手段が、前記基準の線分と前記比較対象の線分との差分として、前記基準の線分に対する前記比較対象の線分の傾斜角を算出する。
【0008】
以上によれば、水中潜行体が検査対象物に正対した状態を維持することができる。
【0009】
好ましくは、前記操縦補助手段が、前記差分算出手段によって算出された差分に基づいて、前後の推進力の補正値を算出する第二の補正値算出手段と、前記第二の補正値算出手段によって算出された補正値を前記制御部に出力する第二の出力手段と、を有し、前記制御部が、前記操縦器の信号が表す前後の推進力の指令値に、前記第二の出力手段によって出力された補正値を加算して、その和に従った前後方向推進力を発生させるよう前記推進機を制御する。
より好ましくは、前前記差分算出手段が、前記基準の線分と前記比較対象の線分との差分として、前記比較対象の線分の中点から前記基準の線分の中点までの距離を算出する。
【0010】
以上によれば、水中潜行体から検査対象物までの距離を一定に維持することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、水中潜行体が検査対象物に正対した状態に保たれる上、水中潜行体から検査対象物までの距離が一定に保たれる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】水中探査ロボットの斜視図である。
図2】水中探査システムのブロック図である。
図3】エコー強度の分布図の説明図である。
図4】表示デバイスに表示されるエコー強度の分布図の一例である。
図5】表示デバイスに表示されるエコー強度の分布図の一例である。
図6】表示デバイスに表示されるエコー強度の分布図の一例である。
図7】表示デバイスに表示されるエコー強度の分布図の一例である。
図8】水中探査ロボットが検査対象物に正対した状態と、水中探査ロボットが上下方向の軸回りに左右に傾いた状態とを示す。
図9】表示デバイスに表示されるエコー強度の分布図の一例である。
図10】操縦補助コンピュータの処理のフローチャートである。
図11】操縦補助コンピュータによって検出される基準線分の説明図である。
図12】表示デバイスに表示されるエコー強度の分布図の一例である。
図13】操縦補助コンピュータによって検出される比較対象線分の説明図である。
図14】操縦補助コンピュータによって算出される傾斜角及び距離の説明図である。
図15】水中探査ロボットの動作の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。但し、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
【0014】
<水中探査システム(水中潜行システム)の概要>
図1は、水中潜行体としての水中探査ロボット10の斜視図である。図2は、水中探査ロボット10を備える水中探査システムのブロック図である。水中探査システムは、水中潜行システムでもある。図1中に前後方向、左右方向及び上下方向の矢印が示されるところ、前後方向は、水中探査ロボット10に搭載された後述の前後スラスター15aによって生じる推進力の向きによって定義され、左右方向は、水中探査ロボット10に搭載された後述の左右スラスター15bによって生じる推進力の向きによって定義され、上下方向は、水中探査ロボット10に搭載された後述の上下スラスター15cによって生じる推進力の向きによって定義される。
【0015】
水中探査システムは、水中探査ロボット10、操縦器40及び2台のコンピュータシステムを備える。
一方のコンピュータシステムは、監視コンピュータ50、入力デバイス51、表示デバイス52及び記憶デバイス53を有する。監視コンピュータ50は、CPU、RAM、ROM、GPU、バス及び各種インターフェース等を有する。入力デバイス51は、キーボード及びポインティングデバイスからなる。表示デバイス52は、液晶ディスプレイデバイス又は有機ELディスプレイデバイスである。記憶デバイス53は、半導体メモリ、ソリッドステートドライブ又はハードディスクドライブ等からなる書き込み及び読み出しが可能な記憶装置である。
【0016】
他方のコンピュータシステムは、操縦補助コンピュータ60、入力デバイス61、表示デバイス62及び記憶デバイス63を有する。操縦補助コンピュータ60は、CPU、RAM、ROM、GPU、バス及び各種インターフェース等を有する。入力デバイス61は、キーボード及びポインティングデバイスからなる。表示デバイス62は、液晶ディスプレイデバイス又は有機ELディスプレイデバイスである。記憶デバイス63は、半導体メモリ、ソリッドステートドライブ又はハードディスクドライブ等からなる書き込み及び読み出しが可能な記憶装置である。
【0017】
水中探査ロボット10は、ケーブルを介して操縦器40、コンピュータ50,60に接続されている。作業員が水上において操縦器40を用いて水中探査ロボット10を操縦して、水中探査ロボット10を用いてダム壁面等の検査対象物を検査する。
【0018】
操縦された水中探査ロボット10は、水中において潜行しながら検査対象物の撮影を行う。水中探査ロボット10によって撮影された映像が監視コンピュータ50に転送され、その映像が監視コンピュータ50によって表示デバイス52に表示される。これにより、作業員が検査対象物を視覚的に検査できる。
【0019】
また、潜行中の水中探査ロボット10がそれ自体を撮影し、水中探査ロボット10の映像が監視コンピュータ50に転送され、その映像が監視コンピュータ50によって表示デバイス52に表示される。これにより、水上の作業員は水中探査ロボット10の状態を視覚的に確認することができる。
【0020】
また、水中探査ロボット10の動作状態の信号が監視コンピュータ50に転送され、水中探査ロボット10の動作状態が監視コンピュータ50によって表示デバイス52に表示される。これにより、作業員は水中探査ロボット10の動作状態を認識できる。
【0021】
水の懸濁等による視界不良が原因となって、水中探査ロボット10によって撮影される映像が鮮明でないこともある。そのような場合でも、検査対象物を探索できるように、水中探査ロボット10は音波探査機能を有する。つまり、水中探査ロボット10は音波ビームを送波するとともにエコーを受波することによって、距離及び方角ごとのエコー強度を測定する。音波とは、可聴域の音波のみならず、超音波も含む意である。エコーとは、音波ビームが検査対象物及び障害物等によって反射されることによって水中探査ロボット10へ進行する反射音波のことをいう。距離とは、水中探査ロボット10から前方への距離をいい、方角とは、前方から左右への角度をいう。距離及び方角ごとのエコー強度の検出結果が水中探査ロボット10に転送され、距離及び方角ごとのエコー強度の分布を表した極座標系の分布図が監視コンピュータ50によって表示デバイス52に表示される。作業員は分布図を見れば、水中探査ロボット10の近くに検査対象物又は障害物が存在するか否かを確認できる。また、作業員は、分布図中のエコー強度が高い距離及び方角を視覚的に確認することができ、そのような距離及び方角に検査対象物又は障害物が存在することを視覚的に確認できる。
【0022】
エコー強度の分布図の映像信号は、監視コンピュータ50から操縦補助コンピュータ60に転送される。操縦補助コンピュータ60は、その映像信号のキャプチャリング処理を行って、分布図の画像を取り込む。操縦補助コンピュータ60は、操縦器40による水中探査ロボット10の操縦を補助するように、分布図の画像に基づいて水中探査ロボット10を制御する。これにより、検査対象物から水中探査ロボット10までの距離が一定に保たれるとともに、水中探査ロボット10が検査対象物に正対した状態が保たれる。
【0023】
<水中探査ロボット(水中潜行体)>
水中探査ロボット10について詳細に説明する。
水中探査ロボット10は、フレーム11、耐圧容器12、撮影機13、魚眼レンズカメラ14、推進機15、姿勢制御装置16、清掃ユニット17、前照灯18、線状明部投射器19、ソナー21及び制御ユニット22を有する。
【0024】
フレーム11は、複数のパイプ材を直方体型に骨組みしたものである。
耐圧容器12は、フレーム11に取り付けられている。耐圧容器12内には、制御ユニット22及びバッテリーが収容されている。
【0025】
撮影機13は、フレーム11の前部に取り付けられている。ここで、撮影機13の向いた方向を前方と定義し、その反対の方向を後方と定義する。後ろから前に向かって見て、左右の向きを定める。
【0026】
撮影機13は、箱眼鏡13a及び電子カメラ13bを有する。
箱眼鏡13aは、密閉空間を内部に有するよう箱型に設けられている。箱眼鏡13aは、その内側から外側を視認できるように透明な面を有する。その透明な面が前方に向けられた状態で、箱眼鏡13aがフレーム11の前部に取り付けられている。
【0027】
電子カメラ13bは、前方に向けられた状態で箱眼鏡13aの内部に取り付けられている。電子カメラ13bは、前景を撮影して、撮影された前景の映像の信号を制御ユニット22に出力する。電子カメラ13bはズーム機能を有し、電子カメラ13bの画角が電動により調整可能である。また、電子カメラ13bは上下左右に傾動するチルト・パン機能を有し、電子カメラ13bの光軸の仰俯角及び方位角が電動により調整可能である。
【0028】
清水が箱眼鏡13a内に充填され、電子カメラ13bがその清水に浸漬される。そのため、電子カメラ13bによって前景を鮮明に撮影することができる。
【0029】
魚眼レンズカメラ14は、フレーム11の後部の支柱に取り付けられている。魚眼レンズカメラ14は、水中探査ロボット10の上から水中探査ロボット10を撮影して、撮影された映像の信号を制御ユニット22に出力する。
【0030】
推進機15は、フレーム11に取り付けられている。推進機15は、水中探査ロボット10を前後方向、左右方向及び上下方向に推進させるとともに、上下の軸の回りに回転させる。推進機15は、水中探査ロボット10をドリフトさせることもできる。ドリフトとは、前、後、上、下、左又は右の推進と、上下の軸の回りの回転とを同時に行うことである。以下では、上下の軸回りの回転をヨーといい、前後の軸回りの回転をロールといい、左右の軸回りの回転をピッチという。また、上下の軸が鉛直になり、且つ前後の軸及び左右の軸が水平になった場合の水中探査ロボット10の姿勢を基本姿勢という。基本姿勢からの前後の軸回りの回転角をロール角といい、基本姿勢からの左右の軸回りの回転角をピッチ角という。
推進機15は、制御ユニット22によって制御されることによって、前後左右上下の推進力とヨーのモーメントとを調整する。
【0031】
推進機15は、それぞれ2台の前後スラスター15a、左右スラスター15b及び上下スラスター15cを有する。ここで、図1中、フレーム11の左後部に設けられた前後スラスター15aが図示され、フレーム11の右後部に設けられた前後スラスター15aは水中探査ロボット10の部品の裏に隠れているため図示されていない。同様に、一方の左右スラスター15bが図示され、他方の左右スラスター15bは水中探査ロボット10の部品の裏に隠れているため図示されてない。
【0032】
前後スラスター15aは、単体で前後方向の推進力を発生させる。前後スラスター15aは個別に推進力が調整可能であるため、前後スラスター15aは両者の推進力のバランスによりヨーのモーメントを発生させる。従って、前後スラスター15aは、水中探査ロボット10を前後方向に推進させるとともに、水中探査ロボット10をヨーさせる。
左右スラスター15bは、水中探査ロボット10を左右方向に推進させる。
上下スラスター15cは、水中探査ロボット10を上下方向に推進させる。
【0033】
姿勢制御装置16は、筐体、フライホイール、三軸ジンバル、スピンドルモーター及びジャイロセンサー等を有する。制御ユニット22が姿勢制御装置16のジャイロセンサーの検出角速度に基づいて姿勢制御装置16の三軸ジンバル及びスピンドルモーターを制御する。これにより、姿勢制御装置16は、水流等の外力によって水中探査ロボット10に作用するモーメントを打ち消すように、フライホイールのジャイロ効果によってロール、ピッチ及びヨーのモーメントを制御する。これにより、水中探査ロボット10の姿勢が安定的に基本姿勢に維持される。また、姿勢制御装置16は、ピッチのモーメントの制御により水中探査ロボット10をピッチさせて、水中探査ロボット10を前傾姿勢にしたり、後傾姿勢にしたりする。姿勢制御装置16は、ロールのモーメントの制御により水中探査ロボット10を左下がり姿勢にしたり、右下がり姿勢にしたりする。
【0034】
浮力材20は、フレーム11に取り付けられている。浮力材20は、水中探査ロボット10に浮力を付与する。浮力材20による浮力は水中探査ロボット10の自重による沈降力に釣り合うように設定されている。また、これら浮力材20の浮力のバランスが、水中探査ロボット10の基本姿勢を保つように取られている。
【0035】
清掃ユニット17は、フレーム11の後部に取り付けられている。清掃ユニット17は、例えば回転式の電動ケレンであり、清掃ユニット17に接触する検査対象物の表面の付着物を剥離する。清掃ユニット17は、制御ユニット22によって駆動される。
【0036】
前照灯18は、左右に対となって、前方に向けられた状態でフレーム11の前部に取り付けられている。前照灯18は、前方へ照明光を照射して、電子カメラ13bの撮影範囲を照明する。前照灯18が制御ユニット22によって制御されることによって、前照灯18の点灯、消灯及び調光がなされる。
【0037】
線状明部投射器19は、左右に対となって、前方に向けられた状態で、フレーム11の前部に取り付けられている。線状明部投射器19は、上下方向に拡散し左右方向に集束した相互平行なビームを前方の撮影範囲内にそれぞれ照射する。線状明部投射器19から出射した相互平行なビームが前方の検査対象物に入射することによって、上下方向に延びた互いに平行な線状明部がその検査対象物に形成される。線状明部の間隔が所定値に設定されており、線状明部を視標として距離或いは長さを推測することができる。
【0038】
線状明部投射器19が制御ユニット22によって制御されることによって、線状明部投射器19の点灯及び消灯がなされる。
【0039】
ソナー21は、前方に向けられた状態で、フレーム11の前部に取り付けられている。ソナー21は、前方の検査対象物までの距離及び方角を検出する検出部であって、複数の送波器、複数の受波器及び信号処理回路を有するマルチビームソナーである。ソナー21の各送波器が制御ユニット22によって駆動されると、ソナー21は、左右方向に拡がって上下方向に絞られた音波ビームを前方に向けて複数の送波器によって送波する。音波ビームのスワス幅の方向が左右方向であり、ソナー21から左右に扇状に拡がる音波ビームの中心線の方向が前後方向である。方角とは、音波ビームの中心線から左右への角度をいう。ソナー21は、送波された音波ビームによるエコーを前方から受波器によって受波して、エコーの強度を検出する。ソナー21の各受波器によって検出されたエコー強度が信号処理回路によって信号処理されると、距離及び方角ごとにエコー強度が信号処理回路によって演算される。距離及び方角ごとのエコー強度の信号はソナー21の信号処理回路から制御ユニット22に出力される。ソナー21は、このような距離及び方角ごとのエコー強度の検出を周期的に行う。
【0040】
<制御ユニット、監視コンピュータ及び操縦器>
制御ユニット22は、電子カメラ13b、魚眼レンズカメラ14、推進機15、姿勢制御装置16、清掃ユニット17、前照灯18、線状明部投射器19及びソナー21を統合的に制御する。
【0041】
制御ユニット22が電子カメラ13bを制御することによって、電子カメラ13bが前景を撮影し、その映像の信号が制御ユニット22に転送される。制御ユニット22は、電子カメラ13bによって撮影された映像の信号を監視コンピュータ50に転送する。監視コンピュータ50は、電子カメラ13bによって撮影された映像の鮮明化処理を行った上で、鮮明化処理後の映像の信号を表示デバイス52に出力する。そのため、電子カメラ13bによって撮影された映像が表示デバイス52に表示される。同様にして、制御ユニット22が魚眼レンズカメラ14を制御することによって、魚眼レンズカメラ14によって撮影された映像が表示デバイス52に表示される。
【0042】
監視コンピュータ50は、電子カメラ13bによって撮影された鮮明化処理後の映像の信号を所定の動画形式に変換しながら、その形式の動画を記憶デバイス53に記録する。また、監視コンピュータ50は、電子カメラ13bによって撮影された鮮明化処理後の映像の信号のキャプチャリング処理を所定タイミング又は所定周期で行って、静止画像を記憶デバイス53に記録する。
【0043】
制御ユニット22は、姿勢制御装置16のジャイロセンサーによって検出された角速度から水中探査ロボット10のロール角、ピッチ角及びヨー角を演算して、ロール角、ピッチ角及びヨー角に基づき姿勢制御装置16を制御する。これにより、姿勢制御装置16がロール、ピッチ及びヨーのモーメントを調整して、水中探査ロボット10の姿勢を安定させる。また、制御ユニット22は、演算したロール角及びピッチ角を監視コンピュータ50に転送し、監視コンピュータ50は、ロール角及びピッチ角を数値で表示デバイス52に表示させる。制御ユニット22には方位センサが内蔵されており、方位センサによって検出された方位角が制御ユニット22によって監視コンピュータ50に転送される。監視コンピュータ50は、方位角を表示デバイス52に表示させる。
【0044】
操縦器40には、電子カメラ13bの操作用のスイッチが設けられている。作業員が操縦器40のスイッチを操作すると、操作信号が操縦器40から制御ユニット22を介して電子カメラ13bに送信される。これにより、電子カメラ13bのオン・オフ、ズーム、チルト及びパンの操縦を行える。同様に、作業員が操縦器40を操作して、魚眼レンズカメラ14、清掃ユニット17、前照灯18、線状明部投射器19及びソナー21のオン・オフを行える。
【0045】
制御ユニット22は前照灯18及び線状明部投射器19のオン・オフを検出して、その検出結果を監視コンピュータ50に転送する。監視コンピュータ50は、前照灯18及び線状明部投射器19のオン・オフの検出結果を表示デバイス52に表示させる。
制御ユニット22は清掃ユニット17の動作状態、例えばケレンの回転方向を検出して、その検出結果を監視コンピュータ50に転送する。監視コンピュータ50は、清掃ユニット17の動作状態の検出結果を表示デバイス52に表示させる。
【0046】
操縦器40には、前後の進行用の操作レバーが設けられている。作業員がこの操作レバーを操作すると、この操作レバーの変位に従った推進力の指令値が信号として操縦器40から制御ユニット22に送信され、制御ユニット22が推進機15の前後スラスター15aの推進力を指令値に制御する。これにより、水中探査ロボット10の前後方向の進行の加速度及び速度を調整することができる。同様に、左右スラスター15bの推進力は左右の進行用の操作レバーの変位に従って制御され、上下スラスター15cの推進力は上下の進行用の操作レバーの変位に従って制御される。
【0047】
操縦器40には、左右転回用の操作レバーが設けられている。作業員がこの操作レバーを操作すると、この操作レバーの変位に従ったヨーのモーメントの指令値が信号として操縦器40から制御ユニット22に送信され、制御ユニット22が推進機15の前後スラスター15aのモーメントを指令値に制御する。これにより、水中探査ロボット10のヨーの角加速度及び角速度を調整することができる。
【0048】
また、操縦器40には、前傾及び後傾用の操作レバーが設けられている。作業員がこの操作レバーを操作すると、信号が操縦器40から制御ユニット22に送信され、制御ユニット22が姿勢制御装置16を制御する。これにより、水中探査ロボット10のピッチ角を調整することができる。同様に、左下がり及び右下がり用の操作レバーが操縦器に設けられ、制御ユニット22がこの操作レバーの信号に従って姿勢制御装置16を制御することによって、水中探査ロボット10のロール角を調整することができる。
【0049】
なお、操縦器40の機能は監視コンピュータ50及び入力デバイス51によってソフトウェア的に実現されてもよい。従って、作業員が入力デバイス51を操作することによって、電子カメラ13b、魚眼レンズカメラ14、推進機15、清掃ユニット17、前照灯18及び線状明部投射器19を遠隔操作することができる。この場合、監視コンピュータ50及び入力デバイス51の組合せが操縦器に相当する。
【0050】
制御ユニット22がソナー21を制御することによって、ソナー21が音波ビームを送波し、受波したエコーに基づき方距離及び方角ごとにエコー強度を検出する。ソナー21が距離及び方角ごとのエコー強度を制御ユニット22に出力し、制御ユニット22が距離及び方角ごとのエコー強度を監視コンピュータ50に転送する。監視コンピュータ50は、距離及び方角ごとのエコー強度信号に基づいて、距離及び方角ごとのエコー強度の分布を表した極座標系の分布図を生成する。監視コンピュータ50のこのような分布図生成処理は、分布図生成手段に相当する。監視コンピュータ50は、生成した分布図を映像信号に変換して、その映像信号を表示デバイス52に出力する。表示デバイス52は、映像信号に従って分布図を表示する。
【0051】
図3は、表示デバイス52に表示される分布図の説明図である。
図3中、破線で示したものは補助線であって、分布図に表示されるものではない。この分布図は、距離及び方角ごとのエコー強度を画素の色彩によって階調表現する。この分布部において、原点Oがソナー21の位置を表し、原点Oを中心とした径方向の半径Rが距離を表し、原点Oを通る軸Axが音波ビームの中心線を表し、軸Axからの中心角θが方角を表す。軸Axは画像の垂直方向に延びている。以上のように分布図は極座標系のものであるが、その分布図の画像の各画素の位置は直交座標系で表されるものである。
【0052】
ダム壁等の検査対象物がソナー21の前方に存在しないと、どの距離及びどの方角からのエコー強度も非常に低い。そのため、図4に示すように、分布図は一様な色彩となる。
【0053】
一方、ダム等の検査対象物がソナー21の前方に存在すると、その検査対象物が存在する距離及び方角からのエコー強度が高くなる。そのため、図5図7に示すように、分布図には、他の部分の色彩と異なる色彩の線状の像80が表示される。線状の像80は検査対象物を表し、画像の水平方向に対する線状の像80の傾きから、水中探査ロボット10が検査対象物に対して正対しているのか、水中探査ロボット10が検査対象物に対して斜めに向き合っているのかを把握することができる。図5に示すように線状の像80が画像の水平方向に対して平行であれば、図8中の実線によって示すように水中探査ロボット10が検査対象物90に対して正対していることになる。図6に示すように線状の像80が画像中で右肩上がりであれば、図8中の2点鎖線によって示すように水中探査ロボット10が正対状態から上下の軸の回りに右に傾いていることになる。図7に示すように線状の像80が画像中で左肩上がりであれば、図8中の破線によって示すように水中探査ロボット10が正対状態から上下の軸の回りに左に傾いていることになる。
【0054】
なお、ソナー21は、所定周期で周期的に動作し、距離及び方角ごとのエコー強度を1周期ごとに検出する。そのため、監視コンピュータ50は1周期ごとに分布図を生成し、その映像信号を表示デバイス52に出力するため、表示デバイス52に表示される分布図が1周期ごとに変化する。また、ソナー21が距離及び方角ごとのエコー強度を検出する度に、監視コンピュータ50から操縦補助コンピュータ60に転送されるエコー強度の分布図の映像信号が更新される。
【0055】
監視コンピュータ50は、生成した分布図の映像信号を表示デバイス52のほかに操縦補助コンピュータ60にも出力する。
【0056】
以上のような監視コンピュータ50の機能は、記憶デバイス53に格納されたプログラム53aによって実現される。
【0057】
<操縦補助コンピュータ>
操縦補助コンピュータ60の機能は、記憶デバイス63に格納されたプログラム63aによって実現される。プログラム63aが操縦補助コンピュータ60に実行させる処理の流れについては後に詳細に説明する。
【0058】
<水中探査システムの動作及び使用方法>
続いて、水中探査システムの動作及び使用方法について説明する。
作業員が水中探査ロボット10を水中に投入する。また、作業員が操縦器40を操作して、電子カメラ13b、魚眼レンズカメラ14、前照灯18及びソナー21をオンさせる。そうすると、電子カメラ13bによって撮影された水中探査ロボット10の前景の映像が表示デバイス52に表示され、魚眼レンズカメラ14によって撮影された水中探査ロボット10の映像が表示デバイス52に表示され、エコー強度の分布図が表示デバイス52,62に表示される。
【0059】
そして、作業員が操縦器40を用いて水中探査ロボット10の推進機15を操縦する。これにより、水中探査ロボット10を検査対象物90の近くまで潜行させる。この際、作業員が表示デバイス52に表示された前景映像及び分布図を確認しながら、水中探査ロボット10が障害物に当たらないように障害物を避ける。
【0060】
水中探査ロボット10が検査対象物90に近づいたら、作業員が操縦器40により水中探査ロボット10の推進機15を操縦して、水中探査ロボット10の後部を検査対象物90に向けて、清掃ユニット17を検査対象物90に接触させる。そして、作業員が操縦器40により清掃ユニット17をオンさせると、清掃ユニット17が作動して、付着物が清掃ユニット17によって検査対象物90から剥離される。この際、作業員が操縦器40により水中探査ロボット10の推進機15を操縦して、水中探査ロボット10を検査対象物90に沿って潜行させる。清掃の完了後、清掃ユニット17をオフさせる。
【0061】
次に、作業員が操縦器40を用いて水中探査ロボット10の推進機15を操縦することによって水中探査ロボット10を潜行させ、水中探査ロボット10を検査対象物90から水中探査ロボット10までの間隔を空けるとともに、水中探査ロボット10の正面を検査対象物90に向ける。この際、表示デバイス52を見て、水中探査ロボット10のロール角及びピッチ角がゼロ°又はその近似値になるように、水中探査ロボット10の姿勢を決める。
【0062】
水中探査ロボット10が検査対象物90に正対しているため、図9に示すように、表示デバイス52,62に表示される分布図においては、検査対象物90を表す線状の像81が画像の水平方向に延びている。
【0063】
水中探査ロボット10を検査対象物90に正対させたら、作業員が入力デバイス51を操作して、監視コンピュータ50に動画記録処理を実行させる。そうすると、監視コンピュータ50は、電子カメラ13bによって撮影された映像の信号を所定の動画形式に変換しながら、その形式の動画を記憶デバイス53に記録する。動画の記録中、監視コンピュータ50が、所定の周期で、電子カメラ13bによって撮影された映像から静止画像を取り込んで、静止画像を記憶デバイス53に記録する。このような動画及び静止画像が記憶デバイス53に記録されることで、後に、検査対象物90の亀裂の有無等を検査することができる。
【0064】
動画の撮影中、作業員が操縦器40を用いて水中探査ロボット10の推進機15を操縦して、水中探査ロボット10を検査対象物90に沿って潜行させる。水中探査ロボット10の潜行中、水中探査ロボット10が水流等によって検査対象物90に対して接離したり、ヨーしたりする虞がある。そうすると、動画及び静止画像中の検査対象物90の像のスケールが変化したり、検査対象物90の像が台形歪みしたりする虞がある。そのようなスケール変化及び台形歪みを抑えるべく、作業員による水中探査ロボット10の推進機15の操縦が操縦補助コンピュータ60によって補助される。以下、具体的に説明する。
【0065】
まず、上述のように水中探査ロボット10を検査対象物90に正対させた時に、作業員が入力デバイス63を操作して、図10に示すような処理の流れのプログラム63aを操縦補助コンピュータ60に実行させる。或いは、上述のように作業員が入力デバイス61によって監視コンピュータ50に動画記録処理を実行させた場合、監視コンピュータ50がプログラム開始信号を操作補助コンピュータ60に転送し、これに基づき操作補助コンピュータ60がプログラム63aを実行する。
【0066】
そうすると、操縦補助コンピュータ60が、監視コンピュータ50から転送されたエコー強度の分布図の映像信号のキャプチャリング処理を行って、分布図の画像を取り込む(ステップS1)。図9を用いて説明したように、この分布図の画像中の線状の像81が画像の水平方向に延びている。以下、このように取り込んだラスター形式又はベクター形式の分布図の画像を基準画像という。また、基準画像が取り込まれる時に水中探査ロボット10の位置を基準位置という。
【0067】
次に、操縦補助コンピュータ60は、基準画像に対してエッジ検出処理等の特徴抽出処理を実施することによって、線状の像81を抽出するとともに線状の像81をベクター形式の線分81A(図11参照)として検出する(ステップS2)。以下、この線分81Aを基準線分81Aという。なお、操縦補助コンピュータ60のステップS2の処理が第一の検出手段に相当する。
【0068】
その後、監視コンピュータ50から操縦補助コンピュータ60に転送されるエコー強度の分布図の映像信号が更新される度に、つまりソナー21が距離及び方角ごとのエコー強度を検出する度に、操縦補助コンピュータ60がステップS3~ステップS7の処理を実行する。
【0069】
ステップS3では、操縦補助コンピュータ60が、監視コンピュータ50から転送されたエコー強度の分布図の映像信号のキャプチャリング処理を行って、分布図の画像を取り込む。以下、このように取り込んだラスター形式又はベクター形式の画像を比較対象画像という。ここで、水中探査ロボット10が水流等によって検査対象物90に対して接離したり、ヨーしたりすると、図12に示すように、比較対象画像中の線状の像82が基準の線状の像81の位置から画像の垂直方向にずれていたり、基準の線状の像81に対して傾斜したりする。
【0070】
次のステップS4の操縦補助コンピュータ60の処理は第二の検出手段に相当する。ステップS4では、操縦補助コンピュータ60が、比較対象画像に対してエッジ検出処理等の特徴抽出処理を実施することによって、線状の像82を抽出するとともに線状の像82をベクター形式の線分82A(図13参照)として検出する。以下、この線分82Aを比較対象線分82Aという。
【0071】
次のステップS5の操縦補助コンピュータ60の処理は差分算出手段に相当する。ステップS5では、操縦補助コンピュータ60が、基準線分81Aの位置と比較対象線分82Aの位置との差分を算出する。具体的には、操縦補助コンピュータ60は、図14に示すように、基準線分81Aに対する比較対象線分82Aの傾斜角θと、比較対象線分82Aの中点82Bから基準線分81Aの中点81Bまでの画像の垂直方向に沿った距離Dとを算出する。
【0072】
ここで、傾斜角θ及び距離Dは、絶対値ではなく、正及び負の値を取り得る。例えば、比較対象線分82Aの中点82Bが基準線分81Aの中点81Bよりも画像の垂直方向上側に位置すれば、距離Dが正の値を取り、比較対象線分82Aの中点82Bが基準線分81Aの中点81Bよりも画像の垂直方向下側に位置すれば、距離Dが負の値を取る。比較対象線分82Aが基準線分81Aに対して右上がりに傾斜すれば、傾斜角θが正の値をとり、比較対象線分82Aが基準線分81Aに対して左上がりに傾斜すれば、傾斜角θが負の値をとる。これらの関係は逆であってもよい。
【0073】
その後のステップS6及びS7の操縦補助コンピュータ60の処理は操縦補助手段に相当し、ステップS6の操縦補助コンピュータ60の処理は第一及び第二の補正値算出手段に相当し、ステップS7の操縦補助コンピュータ60の処理は第一及び第二の出力手段に相当する。ステップS6では、操縦補助コンピュータ60が、ステップS5で算出した差分に基づいて、ヨーのモーメントの補正値と、前後方向の推進力の補正値とを算出する。具体的には、操縦補助コンピュータ60は、ステップS5で算出した傾斜角θからヨーのモーメントの補正値を算出するところ、例えば傾斜角θとヨーのモーメントの補正値が正比例の関係にある。また、操縦補助コンピュータ60は、ステップS5で算出した距離Dから前後方向の推進力の補正値を算出するところ、例えば距離Dと前後方向の推進力の補正値が正比例の関係にある。
【0074】
ステップS7では、操縦補助コンピュータ60が、ステップS6で算出したヨーのモーメントの補正値を制御ユニット22に出力する。このような補正値の出力は、操縦器40の信号に従った推進機15の制御を補正するような指令に相当する。従って、制御ユニット22は、ヨーのモーメントの補正値に基づいて、操縦器40の左右転回用操作レバーの変位に従ったモーメントの指令値を補正する。つまり、制御ユニット22は、操縦器40の左右転回用操作レバーの変位に従ったモーメントの指令値に、ヨーのモーメントの補正値を加算し、その和に従って前後スラスター15aを制御することによって、前後スラスター15aのモーメントをその和に制御する。そのため、作業員による水中探査ロボット10の操縦が補助され、水中探査ロボット10が検査対象物90に正対した状態に戻るようヨーする。これにより、次回のステップS6で算出される傾斜角θがゼロに近づく。例えば、図14に示すように比較対象線分82Aが基準線分81Aに対して右肩上がりに傾斜する場合、つまり、水中探査ロボット10が正対状態から上下の軸の回りに右に傾いている場合、前後スラスター15aが左へのモーメントを発生させて、図15中の矢印Aのように水中探査ロボット10が左へヨーする。逆に、水中探査ロボット10が正対状態から上下の軸の回りに左に傾いている場合、前後スラスター15aが右へのモーメントを発生させて、水中探査ロボット10が右へヨーする。
なお、水中探査ロボット10が検査対象物90に正対した状態からのヨー角が大きい程、水中探査ロボット10が検査対象物90に正対した状態に戻る際のヨーのモーメントが大きい。これは、傾斜角θとヨーのモーメントの補正値が正比例の関係にあるためである。
【0075】
また、ステップS7では、操縦補助コンピュータ60が、ステップS6で算出した前後方向の推進力の補正値を制御ユニット22に出力する。このような補正値の出力は、操縦器40の信号に従った推進機15の制御を補正するような指令に相当する。制御ユニット22は、前後方向の推進力の補正値に基づいて、操縦器40の前後進行用操作レバーの変位に従った推進力の指令値を補正する。つまり、制御ユニット22は、操縦器40の前後進行用操作レバーの変位に従った推進力の指令値に、推進力の補正値を加算し、その和に従って前後スラスター15aを制御することによって、前後スラスター15aの推進力をその和に制御する。そのため、作業員による水中探査ロボット10の操縦が補助され、水中探査ロボット10が検査対象物90から一定の距離に戻るように前後方向に推進する。例えば、図14に示すように比較対象線分82Aの中点82Bが基準線分81Aの中点81Bの中点よりも画像中の上の方に位置する場合、つまり、水中探査ロボット10が基準位置から後方にずれた場合、水中探査ロボット10が前進する。逆に、水中探査ロボット10が基準位置から前方にずれた場合、水中探査ロボット10が後進する。これにより、次回のステップS6で算出される距離Dがゼロに近づく。なお、水中探査ロボット10から検査対象物90までの距離が一定の距離から大きくずれる程、水中探査ロボット10が検査対象物90から一定の距離に戻る際の推進力が大きい。これは、距離Dと前後方向の推進力の補正値が正比例の関係にあるためである。
【0076】
図15に示す例では、水中探査ロボット10がドリフトするが、水中探査ロボット10が正対状態から傾いていない場合、水中探査ロボット10がヨーせずに前後方向に推進する。水中探査ロボット10が基準位置から前後にずれていない場合、水中探査ロボット10が前後方向に推進せずにヨーする。
【0077】
以後、操縦補助コンピュータ60がステップS3~ステップS7の処理を繰り返し実行する。そのため、水中探査ロボット10は、検査対象物90に正対した状態に保たれるとともに、検査対象物90から一定の距離を保って離れている。それゆえ、電子カメラ13bによって撮影される映像中の検査対象物90の像のスケールが一定に保たれるとともに、検査対象物90の像が歪まない。
【0078】
なお、図10に示すような処理の開始後に、作業者が操縦器40の左右進行用操作レバーを操作すれば、水中探査ロボット10が左右に推進する。作業者が操縦器40の上下進行用操作レバーを操作すれば、水中探査ロボット10が上下に推進する。
【0079】
<有利な効果>
以上の実施の形態では、次のような有利な効果が生じる。
【0080】
(1) 水中探査ロボット10の操縦が操縦補助コンピュータ60によって補助されることによって、水中探査ロボット10が検査対象物90に正対した状態に保たれる上、水中探査ロボット10から検査対象物90までの距離が一定に保たれる。よって、映像中の検査対象物90の像のスケールが一定に保たれるとともに、検査対象物の像が歪まない。
【0081】
(2) 操縦補助コンピュータ60の処理にはソナー21の測定結果が利用される。そのため、ソナー21を水中探査ロボット10の操縦に有効利用することができる。
【0082】
(3) 監視コンピュータ50とは別に操縦補助コンピュータ60が準備され、水中探査ロボット10の操縦が操縦補助コンピュータ60によって補助されることから、監視コンピュータ50の処理負担が軽減される。なお、監視コンピュータ50の処理能力が高ければ、操縦補助コンピュータ60の上述の処理は監視コンピュータ50によって実行されてもよい。
【0083】
<変形例>
上記実施形態では、ヨーのモーメントの補正値は基準線分81Aに対する比較対象線分82Aの傾斜角に基づいて算出され、前後方向の推進力の補正値は中点82Bから中点82Bまでの画像の垂直方向に沿った距離に基づいて算出される。それに対して、ヨーのモーメントの補正値及び前後方向の推進力の補正値は、比較対象線分82Aの両端から基準線分81Aまで基準線分81Aに直角な垂線を下ろして、垂線と基準線分81Aの交点から比較対象線分82Aの両端までの距離やそれら距離の差分に基づいて算出されてもよい。
【0084】
上記実施形態では、左右に扇状に拡がる音波ビームを前方へ送波するソナー10が検出部として用いられる。それに対して、光学的検出部が検出部として用いられてもよい。光学的検出部は、左右方向に拡がって上下方向に絞られた光波ビームを前方に向けて送波し、前方からの反射光を受波することによって距離及び方角ごとに反射光の強度を検出する。或いは、光学的検出部は、レーザー光線を前方に照射するとともにそのレーザー光線を左右に偏向させることによって、左右に拡がる走査ビームを前方に向けて送波し、前方からの反射光を受波することによって距離及び方角ごとに反射光の強度を検出する。この場合、距離及び方角ごとの反射光強度の信号は光学的検出部から制御ユニット22を介して監視コンピュータ50に転送される。監視コンピュータ50は、距離及び方角ごとの反射光強度信号に基づいて、距離及び方角ごとの反射光強度の分布を表した極座標系の分布図を生成する。
【0085】
上記実施形態では、監視コンピュータ50が分布図生成手段として機能するが、操縦補助コンピュータ60が分布図生成手段として機能してもよい。この場合、距離及び方角ごとのエコー強度の信号はソナー10から制御ユニット22及び監視コンピュータ50を介して操縦補助コンピュータ60に転送される。
【符号の説明】
【0086】
10…水中探査ロボット(水中潜行体)
15…推進機
21…ソナー(検出部)
22…制御ユニット(制御部)
40…操縦器
50…監視コンピュータ(分布図生成手段)
60…操縦補助コンピュータ(第一の検出手段、第二の検出手段、差分算出手段、操縦補助手段、第一の補正値算出手段、第一の出力手段、第二の補正値算出手段、第二の出力手段)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15