(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022178443
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】粘着剤組成物、及び、表面保護フィルム
(51)【国際特許分類】
C09J 153/02 20060101AFI20221125BHJP
C09J 11/08 20060101ALI20221125BHJP
C09J 7/38 20180101ALI20221125BHJP
【FI】
C09J153/02
C09J11/08
C09J7/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021085243
(22)【出願日】2021-05-20
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】郭 嘉謨
(72)【発明者】
【氏名】小谷野 春
(72)【発明者】
【氏名】山本 大翔
(72)【発明者】
【氏名】原田 美里
(72)【発明者】
【氏名】日野 久仁宏
(72)【発明者】
【氏名】下村 和弘
【テーマコード(参考)】
4J004
4J040
【Fターム(参考)】
4J004AA06
4J004AB01
4J004CA04
4J004CB03
4J004FA04
4J040DM011
4J040JA09
4J040JB09
4J040KA26
4J040LA01
4J040LA06
(57)【要約】
【課題】粘着力(初期粘着力)が高く、被着体への追従性に優れ、経時又は高温下でも粘着力が昂進しにくく糊残りなく剥離できる粘着剤層を形成することのできる粘着剤組成物を提供する。また、該粘着剤組成物からなる粘着剤層を有する表面保護フィルムを提供する。
【解決手段】スチレン系エラストマーと、粘着付与樹脂とを含有する粘着剤組成物であって、前記スチレン系エラストマーは、一般式A-Bで表される構造を有するスチレンブロック共重合体又はその水素添加物(1)と、一般式(A-B)nCで表される構造を有するスチレンブロック共重合体又はその水素添加物(2)とを含有し、前記スチレンブロック共重合体又はその水素添加物(1)の重量平均分子量(Mw1)は、5万~15万であり、前記スチレンブロック共重合体又はその水素添加物(2)の重量平均分子量(Mw2)は、前記スチレンブロック共重合体又はその水素添加物(1)の重量平均分子量(Mw1)の2.5倍以上であり、前記スチレン系エラストマー100重量%に占める前記スチレンブロック共重合体又はその水素添加物(1)の含有量は、5重量%以上、50重量%以下である粘着剤組成物。
A:芳香族アルケニル重合体ブロック
B:共役ジエン重合体ブロック
C:カップリング剤に由来する成分
n:2以上の整数
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系エラストマーと、粘着付与樹脂とを含有する粘着剤組成物であって、
前記スチレン系エラストマーは、一般式A-Bで表される構造を有するスチレンブロック共重合体又はその水素添加物(1)と、一般式(A-B)nCで表される構造を有するスチレンブロック共重合体又はその水素添加物(2)とを含有し、
前記スチレンブロック共重合体又はその水素添加物(1)の重量平均分子量(Mw1)は、5万~15万であり、
前記スチレンブロック共重合体又はその水素添加物(2)の重量平均分子量(Mw2)は、前記スチレンブロック共重合体又はその水素添加物(1)の重量平均分子量(Mw1)の2.5倍以上であり、
前記スチレン系エラストマー100重量%に占める前記スチレンブロック共重合体又はその水素添加物(1)の含有量は、5重量%以上、50重量%以下である
ことを特徴とする粘着剤組成物。
A:芳香族アルケニル重合体ブロック
B:共役ジエン重合体ブロック
C:カップリング剤に由来する成分
n:2以上の整数
【請求項2】
粘着剤組成物の21.2N荷重190℃でのMFRが1g/10min以上、20g/10min以下であることを特徴とする請求項1記載の粘着剤組成物。
【請求項3】
スチレン系エラストマーの21.2N荷重230℃でのMFRが1g/10min以上、18g/10min以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の粘着剤組成物。
【請求項4】
平均粒子径が10nm以上、100nm以下の球状の島成分を含む相分離構造を有することを特徴とする請求項1、2又は3記載の粘着剤組成物。
【請求項5】
粘着剤組成物の硬度(タイプA)が15以上、30以下であることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の粘着剤組成物。
【請求項6】
基材層と、請求項1、2、3、4又は5記載の粘着剤組成物からなる粘着剤層とを有することを特徴とする表面保護フィルム。
【請求項7】
基材層を構成する樹脂と、粘着剤層を構成する粘着剤組成物との間の21.2N荷重190℃でのMFRの差が10g/10min以下であることを特徴とする請求項6記載の表面保護フィルム。
【請求項8】
基材層は、融点の異なる2種以上のポリオレフィン樹脂を含有することを特徴とする請求項6又は7記載の表面保護フィルム。
【請求項9】
融点の異なる2種以上のポリオレフィン樹脂は、ポリプロピレン樹脂及びポリエチレン樹脂からなる群より選択される、融点の異なる2種以上の樹脂であることを特徴とする請求項8記載の表面保護フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着力(初期粘着力)が高く、被着体への追従性に優れ、経時又は高温下でも粘着力が昂進しにくく糊残りなく剥離できる粘着剤層を形成することのできる粘着剤組成物に関する。また、本発明は、該粘着剤組成物からなる粘着剤層を有する表面保護フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、光学デバイス、金属板、塗装した金属板、樹脂板、ガラス板等の部材の表面を保護するために、基材層と、その一方の面に積層された粘着剤層とを有する表面保護フィルム(一般に、プロテクトテープ等と称されることもある)が広く用いられている(例えば、特許文献1~3)。なかでも、液晶ディスプレイ用の光学部材の表面を保護するために、表面保護フィルムが使用されている。光学部材には、プリズムシート、拡散フィルム等のように片側又は両側の表面に凹凸形状を有するものがあり、この凹凸形状に損傷を与えないために、光学部材の使用に先立ち、その表面を表面保護フィルムで保護している。
【0003】
表面保護フィルムには、用途に応じて高い粘着力が求められる。例えば、表面に凹凸形状を有する被着体に貼着する場合、大きな接触面積を得ることができず被着体と表面保護フィルムとの界面で剥離が生じやすい。このような用途では、表面保護フィルムに特に高い粘着力が要求される。
【0004】
表面保護フィルムの粘着剤層として、スチレン系エラストマーを用いることが検討されている。しかしながら、スチレン系エラストマーを用いた粘着剤層は、表面に凹凸形状を有する被着体に貼着する場合には粘着力が不充分であるという問題があった。
一般に、粘着力を向上させるには粘着剤層における粘着付与樹脂の配合量を増やすことが有効である。しかしながら、このような粘着剤層は、特に被着体が表面に凹凸形状を有する場合には、経時又は高温下で被着体と粘着剤層との間の接触面積が増加することによる粘着力の上昇、いわゆる粘着昂進の問題が生じ、剥離が困難になったり、糊残りを生じたりすることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平1-129085号公報
【特許文献2】特開平6-1958号公報
【特許文献3】特開平8-12952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、粘着力(初期粘着力)が高く、被着体への追従性に優れ、経時又は高温下でも粘着力が昂進しにくく糊残りなく剥離できる粘着剤層を形成することのできる粘着剤組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、該粘着剤組成物からなる粘着剤層を有する表面保護フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、スチレン系エラストマーと、粘着付与樹脂とを含有する粘着剤組成物であって、上記スチレン系エラストマーは、一般式A-Bで表される構造を有するスチレンブロック共重合体又はその水素添加物(1)と、一般式(A-B)nCで表される構造を有するスチレンブロック共重合体又はその水素添加物(2)とを含有し、上記スチレンブロック共重合体又はその水素添加物(1)の重量平均分子量(Mw1)は、5万~15万であり、上記スチレンブロック共重合体又はその水素添加物(2)の重量平均分子量(Mw2)は、上記スチレンブロック共重合体又はその水素添加物(1)の重量平均分子量(Mw1)の2.5倍以上であり、上記スチレン系エラストマー100重量%に占める上記スチレンブロック共重合体又はその水素添加物(1)の含有量は、5重量%以上、50重量%以下である粘着剤組成物である。
A:芳香族アルケニル重合体ブロック
B:共役ジエン重合体ブロック
C:カップリング剤に由来する成分
n:2以上の整数
以下に本発明を詳述する。
【0008】
スチレン系エラストマーと、粘着付与樹脂とを含有する粘着剤組成物からなる粘着剤層を含有する表面保護フィルムにおいて、経時又は高温下で粘着力が昂進することを抑えるためには、粘着剤層の高温(80~120℃付近)での貯蔵弾性率を上げることが考えられる。そして、粘着剤層の高温での貯蔵弾性率を上げるためには、スチレン系エラストマーの分子量、特にスチレン系エラストマーのハードセグメントの分子量を上げることが考えられる。しかしながら、スチレン系エラストマーの分子量を上げると、粘度が上昇して成膜が困難となり、また、粘着剤層の常温(0~50℃付近)での貯蔵弾性率が上昇して被着体に貼り付ける際の密着性が低下し、粘着力(初期粘着力)及び被着体への追従性が低下してしまう。
これに対し、本発明者らは、特定のスチレン系エラストマー、即ち、一般式A-Bで表される構造を有するスチレンブロック共重合体又はその水素添加物(1)と、一般式(A-B)nCで表される構造を有するスチレンブロック共重合体又はその水素添加物(2)とを含有するスチレン系エラストマーを用いることを検討した。本発明者らは、このようなスチレン系エラストマーを用い、その重量平均分子量及び含有量を特定範囲に調整することにより、成膜を良好に行うことができ、また、粘着剤層を被着体に貼り付ける際の密着性を高めて粘着力(初期粘着力)を高める一方で、経時又は高温下で粘着力が昂進することを抑え、糊残りを抑えることができることを見出した。また、粘着剤層の被着体への追従性も高めることができることを見出した。これにより、本発明を完成させるに至った。
【0009】
本発明の粘着剤組成物は、スチレン系エラストマーと、粘着付与樹脂とを含有する。
上記スチレン系エラストマーは、一般式A-Bで表される構造を有するスチレンブロック共重合体又はその水素添加物(1)と、一般式(A-B)nCで表される構造を有するスチレンブロック共重合体又はその水素添加物(2)とを含有する。
上記スチレン系エラストマーを含有することにより、本発明の粘着剤組成物から形成される粘着剤層は、常温での貯蔵弾性率は比較的低くなり、かつ、高温での貯蔵弾性率は比較的高くなる。このため、本発明の粘着剤組成物が上記スチレン系エラストマーを含有し、その重量平均分子量及び含有量が後述する範囲内であることにより、粘着剤層は、成膜性が向上し、また、被着体に貼り付ける際の密着性が上がって粘着力(初期粘着力)が高くなる一方で、経時又は高温下でも粘着力が昂進しにくく、糊残りなく剥離することができる。また、粘着剤層は、被着体への追従性も向上する。
A:芳香族アルケニル重合体ブロック
B:共役ジエン重合体ブロック
C:カップリング剤に由来する成分
n:2以上の整数
【0010】
上記一般式A-Bで表される構造を有するスチレンブロック共重合体又はその水素添加物(1)は、上記Aで表される芳香族アルケニル重合体ブロックと、上記Bで表される共役ジエン重合体ブロックとを有するリニア状スチレンブロック共重合体又はその水素添加物である。そして、上記一般式(A-B)nCで表される構造を有するスチレンブロック共重合体又はその水素添加物(2)は、カップリング剤を中心にして、上記リニア状スチレンブロック共重合体又はその水素添加物が複数放射状に突出した構造を有する分岐状(ラジアル型)スチレンブロック共重合体又はその水素添加物である。
【0011】
上記Aで表される芳香族アルケニル重合体ブロックは、芳香族アルケニル化合物に由来する繰り返し単位を有する。
上記芳香族アルケニル化合物としては、例えば、スチレン、tert-ブチルスチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-エチルスチレン、ジビニルベンゼン、1,1-ジフェニルエチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、N,N-ジエチル-p-アミノエチルスチレン、ビニルピリジン等が挙げられる。なかでも、工業的に入手しやすいことから、スチレンが好ましい。
【0012】
上記Aで表される芳香族アルケニル重合体ブロックにおける上記芳香族アルケニル化合物に由来する繰り返し単位の含有量は特に限定されないが、好ましい下限は50重量%、好ましい上限は100重量%であり、より好ましい下限は70重量%である。
上記Aで表される芳香族アルケニル重合体ブロックが、上記芳香族アルケニル化合物に由来する繰り返し単位以外の他の化合物に由来する繰り返し単位を含有する場合、このような他の化合物に由来する繰り返し単位を有するブロックは特に限定されず、例えば、共役ジエン重合体、エチレン重合体、プロピレン重合体等が挙げられる。
【0013】
上記Bで表される共役ジエン重合体ブロックは、共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位を有する。
上記共役ジエン化合物としては、例えば、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、2-メチル-1,3-オクタジエン、1,3-ヘキサジエン、1,3-シクロヘキサジエン、4,5-ジエチル-1,3-オクタジエン、3-ブチル-1,3-オクタジエン、ミルセン、クロロプレン等が挙げられる。これらの共役ジエン化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、重合反応性が高く、工業的に入手しやすいことから、1,3-ブタジエン、イソプレンが好ましい。
【0014】
上記Bで表される共役ジエン重合体ブロックにおける上記共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位の含有量は特に限定されないが、好ましい下限は50重量%、好ましい上限は100重量%であり、より好ましい下限は70重量%である。
上記Bで表される共役ジエン重合体ブロックが、上記共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位以外の他の化合物に由来する繰り返し単位を含有する場合、このような他の化合物に由来する繰り返し単位を有するブロックは特に限定されず、例えば、芳香族アルケニル重合体、エチレン重合体、プロピレン重合体等が挙げられる。
【0015】
上記Cで表されるカップリング剤に由来する成分の原料となるカップリング剤は、上記リニア状スチレンブロック共重合体、即ち、上記スチレンブロック共重合体又はその水素添加物(1)を放射状に結合させる多官能性化合物である。
上記カップリング剤としては、ハロゲン化シラン、アルコキシシラン等のシラン化合物や、ハロゲン化スズ等のスズ化合物や、ポリカルボン酸エステル、エポキシ化大豆油等のエポキシ化合物や、ペンタエリスリトールテトラアクリレート等のアクリルエステルや、エポキシシラン、ジビニルベンゼン等のジビニル化合物等が挙げられる。より具体例には、例えば、トリクロロシラン、トリブロモシラン、テトラクロロシラン、テトラブロモシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラクロロスズ、ジエチルアジペート等が挙げられる。
【0016】
nは2以上の整数であれば特に限定されないが、3以上が好ましい。なお、nが3である場合は3分岐型ともいわれ、nが4である場合は4分岐型ともいわれる。
【0017】
上記スチレンブロック共重合体又はその水素添加物(1)、或いは、上記スチレンブロック共重合体又はその水素添加物(2)が水素添加物である場合、該水素添加物は、部分水素添加物であってもよく、完全水素添加物であってもよい。なかでも、上記共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位の二重結合(不飽和結合)の好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、更に好ましくは95%以上が水素添加により飽和結合に変換されている水素添加物が好ましい。
なお、水素添加の比率(水素添加率)は、四塩化炭素を溶媒として用い、270MHzでの1H-NMRスペクトルから算出した水素添加率を意味する。
【0018】
上記スチレンブロック共重合体又はその水素添加物(1)の重量平均分子量(Mw1)は、下限が5万、上限が15万である。上記重量平均分子量(Mw1)が5万以上であれば、上記スチレンブロック共重合体又はその水素添加物(2)の重量平均分子量(Mw2)も上がり、粘着剤層の高温での貯蔵弾性率が高くなるため、経時又は高温下でも粘着力が昂進しにくく、糊残りなく剥離することができる。上記重量平均分子量(Mw1)が15万以下であれば、上記スチレンブロック共重合体又はその水素添加物(2)の重量平均分子量(Mw2)が上がりすぎることがなく、粘着剤層の常温での貯蔵弾性率が上がりすぎることがないため、被着体に貼り付ける際の密着性が上がって粘着力(初期粘着力)が高くなり、被着体への追従性も向上する。上記重量平均分子量(Mw1)の好ましい下限は6万、好ましい上限は14万であり、より好ましい下限は7万、より好ましい上限は12万である。
【0019】
上記スチレンブロック共重合体又はその水素添加物(2)の重量平均分子量(Mw2)は、上記スチレンブロック共重合体又はその水素添加物(1)の重量平均分子量(Mw1)の2.5倍以上である。上記重量平均分子量(Mw2)が上記重量平均分子量(Mw1)の2.5倍以上であれば、上記粘着剤層の高温での貯蔵弾性率が高くなり、経時又は高温下でも粘着力が昂進しにくく、糊残りなく剥離することができる。なお、本明細書中、上記重量平均分子量(Mw2)が上記重量平均分子量(Mw1)の2.5倍以上である場合、スチレン系エラストマーはラジアル型であるという。上記重量平均分子量(Mw2)が上記重量平均分子量(Mw1)の2.5倍未満である場合、スチレン系エラストマーはリニア型であるという。上記重量平均分子量(Mw2)は上記重量平均分子量(Mw1)の2.7倍以上であることが好ましく、3.0倍以上であることがより好ましい。
なお、重量平均分子量(Mw)は、以下の方法により測定できる。
試料の溶液をフィルター(材質:ポリテトラフルオロエチレン、ポア径:0.2μm)で濾過する。得られた濾液をゲル浸透クロマトグラフ(例えば、Waters社製、2690 Separations Model)に供給して、サンプル流量1ミリリットル/min、カラム温度40℃の条件でGPC測定を行い、試料のポリスチレン換算分子量を測定して、重量平均分子量(Mw)を求める。カラムとしては、例えば、GPC KF-806L(昭和電工社製)を用い、検出器としては、示差屈折計を用いる。
【0020】
上記スチレン系エラストマー100重量%に占める上記スチレンブロック共重合体又はその水素添加物(1)の含有量(ジブロック比率)は、下限が5重量%、上限が50重量%である。上記スチレンブロック共重合体又はその水素添加物(1)の含有量が5重量%以上であれば、粘着剤層の常温での貯蔵弾性率が上がりすぎることがないため、被着体に貼り付ける際の密着性が上がって粘着力(初期粘着力)が高くなり、被着体への追従性も向上する。上記スチレンブロック共重合体又はその水素添加物(1)の含有量が50重量%以下であれば、粘着剤層の高温での貯蔵弾性率が高くなるため、経時又は高温下でも粘着力が昂進しにくく、糊残りなく剥離することができる。上記スチレンブロック共重合体又はその水素添加物(1)の含有量の好ましい下限は10重量%、好ましい上限は47重量%であり、より好ましい下限は15重量%、より好ましい上限は45重量%である。なお、上記スチレン系エラストマー100重量%中には、上記スチレンブロック共重合体又はその水素添加物(1)と、上記スチレンブロック共重合体又はその水素添加物(2)とに加えて、更に他の成分が含まれていてもよい。
なお、ジブロック比率は、ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)法により測定される各共重合体のピーク面積比から算出することができる。
【0021】
上記スチレン系エラストマー全体における、上記Aで表される芳香族アルケニル重合体ブロックと、上記Bで表される共役ジエン重合体ブロックとの重量比は特に限定されない。上記スチレン系エラストマー全体における、上記Aで表される芳香族アルケニル重合体ブロックと、上記Bで表される共役ジエン重合体ブロックとの合計に占める上記Bで表される共役ジエン重合体ブロックの含有量は、好ましい下限が35重量%、好ましい上限が90重量%である。上記Bで表される共役ジエン重合体ブロックの含有量が上記範囲内であれば、粘着剤層は、成膜性がより向上し、また、被着体に貼り付ける際の密着性が更に上がって粘着力(初期粘着力)が高くなる一方で、経時又は高温下でも粘着力が昂進しにくく、糊残りなく剥離でき、更に、被着体への追従性もより向上する。上記Bで表される共役ジエン重合体ブロックの含有量のより好ましい下限は45重量%、より好ましい上限は87重量%である。
【0022】
上記スチレン系エラストマーの種類としては、スチレン-エチレンブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)型、スチレン-エチレンプロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)型、スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体(SIBS)型等が挙げられる。
なお、例えば、上記スチレン系エラストマーの種類がSEBS型であるとは、上記スチレンブロック共重合体又はその水素添加物(1)、及び、上記スチレンブロック共重合体又はその水素添加物(2)が、スチレン由来の繰り返し単位と、エチレン由来の繰り返し単位と、ブチレン由来の繰り返し単位とを有することを意味する。即ち、上記Aで表される芳香族アルケニル重合体ブロックが、スチレン由来の繰り返し単位を有するブロックであり、上記Bで表される共役ジエン重合体ブロック(その水素添加物)が、エチレン由来の繰り返し単位と、ブチレン由来の繰り返し単位とを有するブロックであることを意味する。
【0023】
上記スチレン系エラストマーがスチレン由来の繰り返し単位を有する場合、上記スチレン系エラストマー全体におけるスチレン由来の繰り返し単位の含有量(スチレン含有量)は特に限定されないが、好ましい下限は5重量%、好ましい上限は20重量%である。上記スチレン含有量が上記範囲内であれば、粘着剤層は、成膜性がより向上し、また、被着体に貼り付ける際の密着性が更に上がって粘着力(初期粘着力)が高くなる一方で、経時又は高温下でも粘着力が昂進しにくく、糊残りなく剥離でき、更に、被着体への追従性もより向上する。上記スチレン含有量のより好ましい下限は7重量%、より好ましい上限は15重量%である。
【0024】
上記スチレン系エラストマーがブチレン由来の繰り返し単位を有する場合、上記スチレン系エラストマー全体におけるブチレン由来の繰り返し単位の含有量(ブチレン含有率)は特に限定されないが、好ましい下限は60重量%、好ましい上限は90重量%である。上記ブチレン含有率が上記範囲内であれば、粘着剤層は、成膜性がより向上し、また、被着体に貼り付ける際の密着性が更に上がって粘着力(初期粘着力)が高くなる一方で、経時又は高温下でも粘着力が昂進しにくく、糊残りなく剥離でき、更に、被着体への追従性もより向上する。上記ブチレン含有率のより好ましい下限は65重量%、より好ましい上限は85重量%である。
【0025】
上記スチレン系エラストマーのMFRは特に限定されないが、21.2N荷重230℃でのMFRが1g/10min以上、18g/10min以下であることが好ましい。上記21.2N荷重230℃でのMFRが1g/10min以上であれば、成膜時に粘着剤層にフィッシュアイが生じることを抑えることができる。上記21.2N荷重230℃でのMFRが18g/10min以下であれば、成膜時に粘着剤層にスジ(目ヤニ)が生じることを抑えることができる。上記21.2N荷重230℃でのMFRは2g/10min以上、15g/10min以下であることがより好ましい。
なお、MFRとは、メルトフローレートであり、溶液状態にある樹脂の流動性を示す尺度を意味する。MFRは、プラストメータのシリンダ内の温度、荷重及びピストンの位置について、規定の条件下で、規定の長さ及び直径をもつダイを通して、溶融した樹脂を押し出す速度であり、その速度は、規定の時間で押し出される質量として求められる。MFRは、10分間当たりのグラム数(g/10min)で表される。MFRの測定方法は、JIS K7210で規定されており、例えば、メルトインデックサ(東洋精機製作所社製、G-02)等により測定することができる。
【0026】
上記スチレン系エラストマーの硬度は特に限定されないが、硬度(タイプA)が30以上、40以下であることが好ましい。上記硬度が30以上であれば、成膜時に粘着剤層にスジ(目ヤニ)が生じることを抑えることができる。上記硬度が40以下であれば、成膜時に粘着剤層にフィッシュアイが生じることを抑えることができる。上記硬度は32以上、36以下であることがより好ましい。
なお、硬度(タイプA)とは、押し込み硬さの一種であって、圧子を用いて、試験荷重負荷時のくぼみ深さから求められるものである。硬度(タイプA)は、JIS K 6253に準拠して、ゴムのデュロメータにより測定することができる。
【0027】
上記スチレン系エラストマーの密度は特に限定されないが、好ましい下限は0.85g/cm3、好ましい上限は0.91g/cm3である。上記スチレン系エラストマーの密度が上記範囲内であれば、粘着剤層は、成膜性がより向上し、また、被着体に貼り付ける際の密着性が更に上がって粘着力(初期粘着力)が高くなる一方で、経時又は高温下でも粘着力が昂進しにくく、糊残りなく剥離でき、更に、被着体への追従性もより向上する。上記密度のより好ましい下限は0.86g/cm3、より好まし上限は0.90g/cm3である。
なお、密度は、JIS K7112に準拠して、測定することができる。
【0028】
上記スチレン系エラストマーを製造する方法は特に限定されず、例えば、以下の方法が挙げられる。
まず、上記Aで表される芳香族アルケニル重合体ブロックを合成する工程(a)を行う。次いで、上記Aで表される芳香族アルケニル重合体ブロックに対して、共役ジエン化合物を重合することにより、一般式A-Bで表される構造を有するスチレンブロック共重合体(1)を合成する工程(b)を行う。次いで、得られた一般式A-Bで表される構造を有するスチレンブロック共重合体(1)を、カップリング剤を用いてカップリング反応させることにより、一般式(A-B)nCで表される構造を有するスチレンブロック共重合体(2)を得る工程(c)を行う。このときのカップリング率は特に限定されないが、上記ジブロック比率(上記スチレン系エラストマー100重量%に占める上記スチレンブロック共重合体又はその水素添加物(1)の含有量)を上述した範囲に調整する観点から、好ましい下限は50%、好ましい上限は97%である。カップリング率のより好ましい下限は55%、より好ましい上限は95%であり、更に好ましい下限は60%である。必要に応じて、スチレンブロック共重合体(1)及びスチレンブロック共重合体(2)に対して水素添加を行う工程(d)を行う。
【0029】
上記粘着付与樹脂は特に限定されないが、軟化点が80℃以上であることが好ましく、90℃以上、140℃以下であることがより好ましい。
上記粘着付与樹脂として、例えば、脂肪族共重合体、芳香族共重合体、脂肪族芳香族共重合体、脂環式共重合体等の石油系樹脂、クマロン-インデン系樹脂、テルペン系樹脂、テルペンフェノール系樹脂、重合ロジン等のロジン系樹脂、(アルキル)フェノール系樹脂、キシレン系樹脂、及び、これらの水素添加物等が挙げられる。また、ポリオレフィン樹脂との混合物として市販されている粘着付与樹脂を用いてもよい。これらの粘着付与樹脂は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、経時又は高温下でも粘着剤層の粘着力が昂進しにくく、より糊残りなく剥離することができることから、上記粘着付与樹脂は、水素添加物であることが好ましい。
【0030】
上記粘着付与樹脂の含有量は特に限定されないが、上記スチレン系エラストマー100重量部に対する好ましい下限は3重量部、好ましい上限は50重量部である。上記粘着付与樹脂の含有量が3重量部以上であれば、粘着剤層の粘着力が充分に高くなる。上記粘着付与樹脂の含有量が50重量部以下であれば、経時又は高温下でも粘着剤層の粘着力が昂進しにくく、より糊残りなく剥離することができる。上記粘着付与樹脂の含有量のより好ましい下限は5重量部、より好ましい上限は40重量部である。
【0031】
本発明の粘着剤組成物は、更に必要に応じて、接着力調整剤、可塑剤、乳化剤、軟化剤、微粒子、充填剤、顔料、染料、シランカップリング剤、酸化防止剤、界面活性剤、ワックス等の公知の添加剤を含有してもよい。
【0032】
本発明の粘着剤組成物のMFRは特に限定されないが、21.2N荷重190℃でのMFRが1g/10min以上、20g/10min以下であることが好ましい。上記21.2N荷重190℃でのMFRが1g/10min以上であれば、成膜時に粘着剤層にフィッシュアイが生じることを抑えることができる。上記21.2N荷重190℃でのMFRが20g/10min以下であれば、成膜時に粘着剤層にスジ(目ヤニ)が生じることを抑えることができる。上記21.2N荷重190℃でのMFRは2g/10min以上、15g/10min以下であることがより好ましい。
【0033】
本発明の粘着剤組成物の硬度は特に限定されないが、硬度(タイプA)が15以上、30以下であることが好ましい。上記硬度が15以上であれば、成膜時に粘着剤層にスジ(目ヤニ)が生じることを抑えることができる。上記硬度が30以下であれば、充分な粘着力を有する粘着剤層とすることができる。上記硬度は17以上、28以下であることがより好ましい。
【0034】
本発明の粘着剤組成物は、平均粒子径が10nm以上、100nm以下の球状の島成分を含む相分離構造を有することが好ましい。このような相分離構造を有することで、粘着剤層は、常温での貯蔵弾性率は比較的低くなり、かつ、高温での貯蔵弾性率は比較的高くなるため、被着体に貼り付ける際の密着性が上がって粘着力(初期粘着力)が高くなる一方で、経時又は高温下でも粘着力が昂進しにくく、糊残りなく剥離することができる。上記球状の島成分の平均粒子径は15nm以上、80nm以下であることがより好ましい。
なお、粘着剤組成物が相分離構造を有すること、及び、相分離構造における球状の島成分の平均粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)(例えば、日本電子社製、JEM-2100等)を用いて、粘着剤層の相分離構造を観察することにより確認及び測定することができる。
【0035】
基材層と、本発明の粘着剤組成物からなる粘着剤層とを有する表面保護フィルムもまた、本発明の1つである。
上記基材層は特に限定されないが、ポリオレフィン樹脂を含有することが好ましい。上記ポリオレフィン樹脂は特に限定されず、従来公知のポリオレフィン樹脂を用いることができ、例えば、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリエチレン(PE)樹脂等が挙げられる。
上記ポリプロピレン樹脂として、例えば、ホモポリプロピレン、ランダムポリプロピレン、ブロックポリプロピレン等が挙げられる。上記ポリエチレン樹脂として、例えば、高圧法低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン等が挙げられる。なかでも、透明性、剛性、耐熱性の観点からポリプロピレン樹脂が好ましく、ホモポリプロピレン、又は、プロピレンと少なくとも1種のα-オレフィンとの共重合体がより好ましい。
【0036】
上記基材層は、融点の異なる2種以上のポリオレフィン樹脂を含有することが好ましい。上記基材層が融点の異なる2種以上のポリオレフィン樹脂を含有することにより、成膜時に設定幅よりも上記基材層の幅が狭くなる、いわゆるネックインの発生を抑えることができる。
上記融点の異なる2種以上のポリオレフィン樹脂は、ポリプロピレン樹脂及びポリエチレン樹脂からなる群より選択される、融点の異なる2種以上の樹脂であることが好ましい。
【0037】
上記基材層を構成する樹脂のMFRは特に限定されないが、21.2N荷重190℃でのMFRが3g/10min以上、15g/10min以下であることが好ましい。上記21.2N荷重190℃でのMFRが3g/10min以上であれば、成膜時に上記基材層にフィッシュアイが生じることを抑えることができる。上記21.2N荷重190℃でのMFRが15g/10min以下であれば、成膜時に上記基材層にスジ(目ヤニ)が生じることを抑えることができる。上記21.2N荷重190℃でのMFRは5g/10min以上、13g/10min以下であることがより好ましい。
【0038】
また、上記基材層を構成する樹脂と、上記粘着剤層を構成する粘着剤組成物との間の21.2N荷重190℃でのMFRの差が10g/10min以下であることが好ましい。上記MFRの差が10g/10min以下であれば、上記基材層と上記粘着剤層との間に界面荒れが生じることを抑制することができる。上記MFRの差は5g/10min以下であることがより好ましい。なお、上記基材層を構成する樹脂、及び、上記粘着剤層を構成する粘着剤組成物のいずれのMFRが大きくてもよい。
【0039】
上記基材層は、本発明の効果を損なわない範囲内で、帯電防止剤、離型剤、酸化防止剤、耐候剤、結晶核剤等の添加剤、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、エラストマー等の樹脂改質剤を含有してもよい。
【0040】
上記基材層の厚さは特に限定されないが、好ましい下限は25μm、好ましい上限は200μmである。上記基材層の厚さが上記範囲内であれば、表面保護フィルムの取扱い性が向上する。上記基材層の厚さのより好ましい下限は50μm、より好ましい上限は188μmである。
【0041】
上記粘着剤層の厚さは特に限定されないが、好ましい下限は3μm、好ましい上限は30μmである。上記粘着剤層の厚さが3μm以上であれば、粘着力が充分に高くなる。上記粘着剤層の厚さが30μm以下であれば、より容易に剥離することができる。上記粘着剤層の厚さのより好ましい下限は5μm、より好ましい上限は20μmである。
【0042】
本発明の表面保護フィルムを製造する方法は特に限定されず、例えば、予めTダイ成形又はインフレーション成形にて得られた基材層上に、押出ラミネーション、押出コーティング等の公知の積層法により粘着剤層を積層する方法が挙げられる。また、基材層と粘着剤層とを独立してフィルムとした後、得られた各々のフィルムをドライラミネーションにより積層する方法、基材層を構成する樹脂と本発明の粘着剤組成物とをTダイ法により共押出成形する方法等も挙げられる。
【0043】
本発明の表面保護フィルムは、粘着力(初期粘着力)が高く、被着体への追従性に優れ、経時又は高温下でも粘着力が昂進しにくく糊残りなく剥離することができる。本発明の表面保護フィルムは、表面が平滑な被着体の表面を保護するために用いられてもよいが、表面に凹凸形状を有する被着体の表面を保護するために用いたときに特に高い効果を発揮する。
【0044】
本発明の表面保護フィルムは、光学デバイス、金属板、塗装した金属板、樹脂板、ガラス板等の部材の表面を保護するために好適に用いられる。なかでも、プリズムシート、拡散フィルム等のように片側又は両側の表面に凹凸形状を有する光学部材の保護に特に好適である。
【発明の効果】
【0045】
本発明によれば、粘着力(初期粘着力)が高く、被着体への追従性に優れ、経時又は高温下でも粘着力が昂進しにくく糊残りなく剥離できる粘着剤層を形成することのできる粘着剤組成物を提供することができる。また、本発明によれば、該粘着剤組成物からなる粘着剤層を有する表面保護フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0047】
<スチレン系エラストマー>
実施例、比較例においては、表1に示した樹脂1~17をスチレン系エラストマーとして用いた。
なお、樹脂1~8及び15~17の合成法は以下のとおりである。
【0048】
(樹脂1の合成)
(合成例1)
窒素置換された反応容器に、脱気、脱水されたシクロヘキサン500重量部、スチレン10重量部及びテトラヒドロフラン5重量部を仕込み、重合開始温度の40℃にてn-ブチルリチウム0.13重量部を添加して、昇温重合を行い、芳香族アルケニル重合体ブロック(ブロックA)を得た。
芳香族アルケニル重合体ブロックの重合転化率が略100%に達した後、反応液を15℃に冷却し、次いで、1,3-ブタジエン90重量部を加え、更に昇温重合を行い、共役ジエン重合体ブロック(ブロックB)を得た。これにより、一般式A-Bで表される構造を有するスチレンブロック共重合体(1)を得た。
重合転化率がほぼ100%に達した後、カップリング剤としてテトラクロロシラン0.06重量部を加え、カップリング反応を行った。カップリング反応が完結した後、水素ガスを0.4MPa-Gaugeの圧力で供給しながら10分間放置した。これにより、一般式(A-B)4Cで表される構造を有するスチレンブロック共重合体(2)を得た。
【0049】
その後、反応容器内に、ジエチルアルミニウムクロライド0.03重量部及びビス(シクロペンタジエニル)チタニウムフルフリルオキシクロライド0.06重量部を加え、撹拌した。水素ガス供給圧0.7MPa-Gauge、反応温度80℃で水素添加反応を開始し、水素の吸収が終了した時点で、反応溶液を常温、常圧に戻し、反応容器から抜き出した。これにより、一般式A-Bで表される構造を有するスチレンブロック共重合体の水素添加物(1)と、一般式(A-B)4Cで表される構造を有するスチレンブロック共重合体の水素添加物(2)とを含有するスチレン系エラストマーを得た。
一部取り出したポリマーについてGPC分析を行い、重量平均分子量(Mw)を求めた。
【0050】
(樹脂2~8及び樹脂15~17の合成)
(合成例2~11)
ブロックAとブロックBとの重量比、カップリング反応におけるカップリング率、カップリング剤の種類、水素添加反応における水素添加率等を表1に示したように変更したこと以外は樹脂1の合成(合成例1)と同様にして、スチレン系エラストマーを得た。
なお、カップリング剤としては、樹脂2~5及び樹脂15~17においてはテトラクロロシランを用い、樹脂6~8においてはメチルジクロロシランを用いた。これにより、樹脂2~5及び樹脂15~17においてはラジアル型、樹脂6~8においてはリニア型のスチレン系エラストマーを得た。
【0051】
また、樹脂9~14として以下の市販品を用いた。これらの樹脂はリニア型のスチレン系エラストマーであった。
DR1321P(水添スチレンブタジエンゴム(HSBR)、JSR社製)
DR1320P(水添スチレンブタジエンゴム(HSBR)、JSR社製)
G1645(スチレン-エチレンブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、Kraton社製)
G1643(スチレン-エチレンブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、Kraton社製)
G1657(スチレン-エチレンブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、Kraton社製)
セプトン2063(スチレン-エチレンプロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、クラレ社製)
【0052】
【0053】
<粘着付与樹脂>
実施例、比較例においては、表2に示した粘着付与樹脂1~3(TF1~3)を粘着付与樹脂として用いた。
【0054】
【0055】
<基材層を構成する樹脂>
実施例、比較例においては、表3に示した樹脂A~Jを基材層を構成する樹脂として用いた。
【0056】
【0057】
(実施例1)
基材層の原料として、樹脂Aを80重量部、樹脂Iを20重量部配合し、樹脂組成物を得た。粘着剤層の原料として、スチレン系エラストマーとして樹脂1を100重量部、粘着付与樹脂としてTF1を30重量部配合し、粘着剤組成物を得た。
基材層の原料として上記で得られた樹脂組成物を、粘着剤層の原料として上記で得られた粘着剤組成物を用い、Tダイ法により共押出成形し、基材層35μm、粘着剤層5μmの表面保護フィルムを得た。
表面保護フィルムの粘着剤層と同様な配合を用いて、200℃でプラストミール機で5分間混錬し、180℃と室温でプレスし、5mm厚さのプレスシートのサンプルを作製した。作製したサンプルについて、シートデュロメータにより、硬度(タイプA)を測定した。また、メルトインデックサ(東洋精機製作所社製、G-02)により、21.2N荷重190℃でのMFRを測定した。
表面保護フィルムの基材層について、メルトインデックサ(東洋精機製作所社製、G-02)により、21.2N荷重190℃でのMFRを測定した。
【0058】
(実施例2~15、比較例1~13)
表4~5に示すようにスチレン系エラストマー、粘着付与樹脂、基材層を構成する樹脂ベース樹脂を変更したこと以外は実施例1と同様にして、表面保護フィルムを得た。
【0059】
<評価1>
実施例1~15、比較例1~13で得られた表面保護フィルムについて、以下の評価を行った。結果を表4~5に示した。
【0060】
(1)成膜性の評価
(1-1)粘着剤層のスジ(目ヤニ)の評価
実施例1~15、比較例1~13と同様な配合を用いて、金型のリップ掃除後、押出量300kg/hにて表面保護フィルムを連続生産し、外観センサーにより初めて粘着剤層側のスジ不良モードが発生した時間を評価した。
〇:20時間以上
×:20時間未満
【0061】
(1-2)粘着剤層のフィッシュアイの評価
フィッシュアイセンサーを用いて、流れ方向が100μm以上の大きさのフィッシュアイの数量(個数/m2)を評価した。なお、発生部位が粘着剤層であることを特徴とするフィッシュアイの数量を評価した。
◎:2個以下
〇:2個を超えるが10個未満
×:10個以上
【0062】
(1-3)界面荒れ(基材層-粘着剤層)の評価
グリーンライトを用いて、目視で粘着剤層と基材層の界面における模様の有無を評価した。
◎:表面保護フィルムを2枚の偏光板の間に入れて、偏光板をクロースニコールの状態として粘着剤層と基材層の界面に模様が見られなかった
〇:直接目視で粘着剤層と基材層の界面に模様は見られなかったが、表面保護フィルムを2枚の偏光板の間に入れて、偏光板をクロースニコールの状態として粘着剤層と基材層の界面に模様が見られた
×:直接目視で粘着剤層と基材層の界面に模様が見られた
【0063】
(4)初期粘着力の測定
被着体(クラレ社製、PMMA板)上を覆うように25mm幅の表面保護フィルムを貼り付けて、試験片を作製した。貼り付けは、23℃及び相対湿度50%RHの環境下で、2kgの圧着ゴムローラーを用いて、300mm/分の速度で圧締することにより行った。
得られた試験片を23℃及び相対湿度50%RHの環境下で30分放置した。放置後、JIS Z0237に準拠して、被着体から引張速度300mm/分で180°方向に表面保護フィルムを剥離し、初期粘着力を測定した。また、初期粘着力を下記の基準で判定した。
◎:5.5N/25mm以上
○:5.0N/25mm以上、5.5N/25mm未満
×:5.0N/25mm未満
【0064】
(5)粘着昂進率の測定
上記(4)と同様にして得られた試験片を50℃の温度環境下で168時間放置した。放置後、試験片を室温に取り出し、更に60分間放置した後、JIS Z0237に準拠して、被着体から引張速度300mm/分で180°方向に表面保護フィルムを剥離し、経時粘着力を測定した。
得られた初期粘着力及び経時粘着力を用い、初期粘着力から経時粘着力への変化率(粘着昂進率)を次式で算出し、以下の基準により評価した。
粘着昂進率(%)=(経時粘着力/初期粘着力)×100
◎:125%以下
○:125%超え、150%未満
×:150%以上
【0065】
(6)糊残りの評価
上記(5)において被着体から表面保護フィルムを剥離した後、被着体を確認し、糊残りの有無を評価した。以下の基準により評価した。
○:糊残りが見られなかった
×:糊残りが見られた
【0066】
(7)被着体への追従性の評価
プリズム層を有する被着体(プリズム層の凹凸のピッチ間隔24μm、プリズム層側の表面を1μm変位したときの反発力0.05mN)のプリズム層に表面保護フィルムを貼り付けて、試験片を作製した。
貼り付けは、23℃及び相対湿度50%RHの環境下で、2kgの圧着ゴムローラーを用いて、300mm/分の速度で圧締することにより行った。
得られた試験片を23℃及び相対湿度50%RHの環境下で30分放置した。放置後、表面保護フィルムの浮きの有無を判断した。
微小押込み硬さ試験機(エリオニクス社製、超微小押込み硬さ試験機、型式ENT-2100)を用い、JIS Z2255に準拠して、荷重と変位の曲線を測定する方法により反発力を測定することにより、浮きの有無を判断した。
〇:浮きが見られなかった
×:浮きが見られた
【0067】
【0068】
【0069】
(実施例16~19)
表6に示すように基材層を構成する樹脂ベース樹脂を変更したこと以外は実施例1と同様にして、表面保護フィルムを得た。
【0070】
<評価2>
実施例1、実施例16~19で得られた表面保護フィルムについて、以下の評価を行った。結果を表6に示した。
【0071】
(1)成膜性の評価
(1-1)基材層のスジ(目ヤニ)の評価
実施例1、実施例16~19と同様な配合を用いて、金型のリップ掃除後、押出量300kg/hにて表面保護フィルムを連続生産し、外観センサーにより初めて基材層側のスジ不良モードが発生した時間を評価した。
〇:20時間以上
×:20時間未満
【0072】
(1-2)基材層のフィッシュアイの評価
フィッシュアイセンサーを用いて、流れ方向が100μm以上の大きさのフィッシュアイの数量(個数/m2)を評価した。なお、発生部位が基材層であることを特徴とするフィッシュアイの数量を評価した。
◎:2個以下
〇:2個を超えるが10個未満
×:10個以上
【0073】
(1-3)界面荒れ(基材層-粘着剤層)の評価
グリーンライトを用いて、目視で粘着剤層と基材層の界面における模様の有無を評価した。
◎:表面保護フィルムを2枚の偏光板の間に入れて、偏光板をクロースニコールの状態として粘着剤層と基材層の界面に模様が見られなかった
〇:直接目視で粘着剤層と基材層の界面に模様は見られなかったが、表面保護フィルムを2枚の偏光板の間に入れて、偏光板をクロースニコールの状態として粘着剤層と基材層の界面に模様が見られた
×:直接目視で粘着剤層と基材層の界面に模様が見られた
【0074】
(2)幅変動(ネックイン)の評価
金型の出口幅に対して、チルロールにより、冷却後の表面保護フィルムの製品幅の変動率を評価した。
〇:小:製品幅/金型の出口幅が70%以上、100%以下
×:大:製品幅/金型の出口幅が70%未満
【0075】
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明によれば、粘着力(初期粘着力)が高く、被着体への追従性に優れ、経時又は高温下でも粘着力が昂進しにくく糊残りなく剥離できる粘着剤層を形成することのできる粘着剤組成物を提供することができる。また、本発明によれば、該粘着剤組成物からなる粘着剤層を有する表面保護フィルムを提供することができる。