(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022178460
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】車両前部構造
(51)【国際特許分類】
B62D 25/08 20060101AFI20221125BHJP
【FI】
B62D25/08 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021085278
(22)【出願日】2021-05-20
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124110
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 大介
(74)【代理人】
【識別番号】100120400
【弁理士】
【氏名又は名称】飛田 高介
(72)【発明者】
【氏名】八代 裕直
(72)【発明者】
【氏名】笹木 隆史
【テーマコード(参考)】
3D203
【Fターム(参考)】
3D203AA02
3D203BB12
3D203BB15
3D203BB16
3D203BB43
3D203BB54
3D203BB62
3D203BC09
3D203BC14
3D203CA33
3D203CA34
3D203CA37
3D203CA45
3D203CB03
3D203CB09
(57)【要約】
【課題】効率よく荷重を吸収することが可能な車両前部構造を提供することを目的とする。
【解決手段】車両前部構造100は、パワーユニット搭載ルームの車幅方向の端側に設けられて車両前後に延びるフロントサイドメンバ110と、フロントサイドメンバ110の車外側の上方に配置されて後部103が車両前後方向に延びつつ前部105がフロントサイドメンバ110側に曲がって延びるカウルサイドメンバ102とを備える。カウルサイドメンバ102は、車両下方に面する底部122と、底部122の車幅方向の縁から上方に延びる側壁部118とを有する。側壁部118は、後部103に形成される側壁後部118aと、前部105に形成される側壁前部118bと、側壁前部118bの所定の上下方向にわたる範囲をフロントサイドメンバ110側に膨出させた状態に形成される第1ビード126とを有する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のパワーユニット搭載ルームの車幅方向の端側に設けられて車両前後方向に延びるフロントサイドメンバと、
前記フロントサイドメンバの車外側の上方または車内側の上方に配置されて後部が車両前後方向に延びつつ前部が該後部から前記フロントサイドメンバ側に曲がって延びるカウルサイドメンバとを備える車両前部構造であって、
前記カウルサイドメンバは、
車両下方に面する底部と、
前記底部の車幅方向の縁から上方に延びる側壁部とを有し、
前記側壁部は、
前記カウルサイドメンバの後部に形成される側壁後部と、
前記カウルサイドメンバの前部に形成される側壁前部と、
前記側壁前部の所定の上下方向にわたる範囲を前記フロントサイドメンバ側またはその反対側に膨出させた状態に形成される第1ビードとを有することを特徴とする車両前部構造。
【請求項2】
前記カウルサイドメンバはさらに、前記側壁前部および前記底部のうち前記第1ビードを含む範囲の寸法が車幅方向に窄んだ第1窄み部を有することを特徴とする請求項1に記載の車両前部構造。
【請求項3】
前記底部は、前方に向かうほど下方の前記フロントサイドメンバに向かって湾曲していて、
前記カウルサイドメンバはさらに、前記第1ビードよりも後方の前記底部の所定の車幅方向にわたる範囲を上方または下方に膨出させた状態に形成される第2ビードを有することを特徴とする請求項1または2に記載の車両前部構造。
【請求項4】
前記第2ビードは、前記底部から連続して前記側壁部に上方に延びるよう形成されていることを特徴とする請求項3に記載の車両前部構造。
【請求項5】
前記カウルサイドメンバはさらに、前記第2ビードよりも後方の前記底部の所定の車幅方向にわたる範囲を上方または下方に膨出させた状態に形成される第3ビードを有することを特徴とする請求項3または4に記載の車両前部構造。
【請求項6】
前記第3ビードは、前記底部から連続して前記側壁部に上方に延びるよう形成されていることを特徴とする請求項5に記載の車両前部構造。
【請求項7】
前記カウルサイドメンバはさらに、前記底部および前記側壁部のうち前記第2ビードおよび前記第3ビードを含む範囲の寸法が車幅方向に窄んだ第2窄み部を有することを特徴とする請求項5または6に記載の車両前部構造。
【請求項8】
車両前後方向における前記第1ビードと前記第2ビードとの距離は、該第2ビードと前記第3ビードとの距離よりも大きいことを特徴とする請求項5から7のいずれか1項に記載の車両前部構造。
【請求項9】
前記カウルサイドメンバはさらに、前記側壁部の上端から前記底部の上側に延びる天面部を有し、
前記第1ビードは、前記側壁部から連続して前記天面部に車幅方向に延びるよう形成されていることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の車両前部構造。
【請求項10】
前記カウルサイドメンバは、
前記底部および前記側壁部を有するカウルサイドアウタと、
前記カウルサイドアウタの前記第1ビードよりも後側に接続されて該カウルサイドアウタの前記底部および側壁部との間に閉断面を形成するカウルサイドインナとを含んでいて、
前記カウルサイドアウタはさらに、前記側壁部の上端のうち前記第1ビードの前後方向にわたる範囲から前記カウルサイドインナとは反対側に屈曲するフランジを有し、
前記フランジは、前記第1ビードの延長上の近傍を切り欠いた切欠部を有することを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の車両前部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両前部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両の前輪の上方付近には、カウルサイドメンバと称される部材が設けられている。一般的なカウルサイドメンバは、ダッシュパネルの車幅方向の端部付近からホイールエプロンの上部に沿って、前方に先細りに突出するような形状になっている。
【0003】
例えば、特許文献1には、上記カウルサイドメンバと同様の部材として、ホイールエプロン1の上部にホイールエプロン・レインフォースメントパネル8が設けられている。ホイールエプロン・レインフォースメントパネル8は、前突等の発生時に、車内側のサスペンションタワー10を保護しつつ、座屈して荷重を吸収できるように、上下に延びる複数のビード17a等が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
車両によっては、小型車両など、ダッシュパネルよりも前方の車両前部の前後寸法が短く設定されたものが存在する。その場合、上記カウルサイドメンバも前後方向の寸法が短くなるため、前突時等に座屈を可能にする領域が確保し難くい。カウルサイドメンバの前後寸法が短いと、前突時等の荷重をカウルサイドメンバの座屈による衝撃エネルギーとして十分に消費し吸収することができず、カウルサイドメンバの後方に配置された部材に荷重が伝達されやすくなる。例えば、カウルサイドメンバの後方におけるフロントピラーの上端とルーフサイドメンバとの接合部などに荷重が集中し、これら部位が破損してしまうおそれがある。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑み、カウルサイドメンバの前後寸法の短縮およびカウルサイドメンバの後方への荷重伝達の抑制が可能な車両前部構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明にかかる車両前部構造の代表的な構成は、車両のパワーユニット搭載ルームの車幅方向の端側に設けられて車両前後方向に延びるフロントサイドメンバと、フロントサイドメンバの車外側の上方または車内側の上方に配置されて後部が車両前後方向に延びつつ前部が該後部からフロントサイドメンバ側に曲がって延びるカウルサイドメンバとを備える車両前部構造であって、カウルサイドメンバは、車両下方に面する底部と、底部の車幅方向の縁から上方に屈曲する側壁部とを有し、側壁部は、カウルサイドメンバの後部に形成される側壁後部と、カウルサイドメンバの前部に形成される側壁前部と、側壁前部の所定の上下方向にわたる範囲をフロントサイドメンバ側またはその反対側に膨出させた状態に形成される第1ビードとを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、カウルサイドメンバの前後寸法の短縮およびカウルサイドメンバの後方への荷重伝達の抑制が可能な車両前部構造を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施例の車両前部構造の概要を示す図である。
【
図2】
図1(b)の車両前部構造を別方向から見た斜視図である。
【
図3】
図2(b)のカウルサイドメンバを示した図である。
【
図4】
図2(b)のカウルサイドメンバのA-A断面図である。
【
図5】
図2(b)のカウルサイドメンバを車両前方から見て示した図である。
【
図6】
図3(b)のカウルサイドアウタの拡大図である。
【
図7】
図6のカウルサイドアウタを下方から示した図である。
【
図8】
図5の各ビードを拡大して示した斜視図である。
【
図9】
図7のカウルサイドアウタの各窄み部を示した図である。
【
図10】
図7のカウルサイドアウタの変形例を示した図である。
【
図11】
図8(a)の第1ビードの変形例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施の形態に係る車両前部構造は、車両のパワーユニット搭載ルームの車幅方向の端側に設けられて車両前後方向に延びるフロントサイドメンバと、フロントサイドメンバの車外側の上方または車内側の上方に配置されて後部が車両前後方向に延びつつ前部が該後部からフロントサイドメンバ側に曲がって延びるカウルサイドメンバとを備える車両前部構造であって、カウルサイドメンバは、車両下方に面する底部と、底部の車幅方向の縁から上方に延びる側壁部とを有し、側壁部は、カウルサイドメンバの後部に形成される側壁後部と、カウルサイドメンバの前部に形成される側壁前部と、側壁前部の所定の上下方向にわたる範囲をフロントサイドメンバ側またはその反対側に膨出させた状態に形成される第1ビードとを有することを特徴とする。
【0011】
上記カウルサイドメンバは、前方から荷重を受けた場合に、側壁前部に変形を誘発させて荷重を吸収することができる。例えば、側壁前部は、側壁後部に対して曲がって延びていることに加えて、側壁前部の第1ビードの周辺が第1ビードの膨出方向に湾曲または屈曲しやすいので、この屈曲領域に荷重が集まりやすく、効率よく変形することができる。加えて、カウルサイドメンバがフロントサイドメンバ側に曲がっていることで、フロントサイドメンバの座屈に沿ってカウルサイドメンバに変形を誘発させやすくなっている。その結果、側壁前部に伝達された荷重の一部をフロントサイドメンバ側に逃がすことができ、荷重をカウルサイドメンバの座屈による変形エネルギーとして吸収しきれなくとも、カウルサイドメンバの後方に伝達される荷重を低減することが可能になる。
【0012】
また、上記カウルサイドメンバは、後方から前方かつフロントサイドメンバ側に延びていることで、単に前後方向にのみ延びている場合に比べて、全長を延ばして変形可能な領域を確保しつつも車両前後方向においては寸法を抑えることが可能になっている。
【0013】
上記のカウルサイドメンバはさらに、側壁前部および底部のうち第1ビードを含む範囲の寸法が車幅方向に窄んだ第1窄み部を有してもよい。
【0014】
上記構成によれば、カウルサイドメンバの側壁前部は、第1ビードおよび第1窄み部に変形を誘発させつつ、この第1ビードおよび第1窄み部を含む部分をフロントサイドメンバと共に座屈させて前突時等の荷重を変形エネルギーとして吸収することが可能になる。
【0015】
上記の底部は、前方に向かうほど下方のフロントサイドメンバに向かって湾曲していて、カウルサイドメンバはさらに、第1ビードよりも後方の底部の所定の車幅方向にわたる範囲を上方または下方に膨出させた状態に形成される第2ビードを有してもよい。
【0016】
上記構成によれば、カウルサイドメンバは、底部を車幅方向に延びる第2ビードを起点として下方のフロントサイドメンバに追従するように変形しやすくなり、荷重を効率良く吸収することが可能になる。また、上記カウルサイドメンバは、後方から前側下方のフロアサイドメンバに向かって延びていることによっても、単に前後方向にのみ延びている場合に比べて、全長を延ばして変形可能な領域を確保しつつも車両前後方向においては寸法を抑えることが可能になっている。
【0017】
上記の第2ビードは、底部から連続して側壁部に上方に延びるよう形成されていてもよい。
【0018】
上記構成によれば、カウルサイドメンバは、側壁部にまで延びた第2ビードを起点としてより変形しやすくなり、前突時等の荷重を効率よく吸収することが可能になる。特に、カウルサイドメンバは、第2ビードが底部から側壁部に連続して設けられていることで、フロントサイドメンバに追従するよう円滑に変形することが可能になる。
【0019】
上記のカウルサイドメンバはさらに、第2ビードよりも後方の底部の所定の車幅方向にわたる範囲を上方または下方に膨出させた状態に形成される第3ビードを有してもよい。
【0020】
上記構成によれば、カウルサイドメンバは、第3ビードを起点としてさらに変形しやすくなり、荷重を吸収することが可能になる。
【0021】
上記の第3ビードは、底部から連続して側壁部に上方に延びるよう形成されていてもよい。
【0022】
上記構成によれば、カウルサイドメンバは、側壁部にまで延びた第3ビードを起点としてより変形しやすくなり、前突時等の荷重を効率よく吸収することが可能になる。特に、カウルサイドメンバは、第3ビードが底部から側壁部に連続して設けられていることで、フロントサイドメンバに追従するよう円滑に変形することが可能になる。
【0023】
上記のカウルサイドメンバはさらに、底部および側壁部のうち第2ビードおよび第3ビードを含む範囲の寸法が車幅方向に窄んだ第2窄み部を有してもよい。
【0024】
上記第2窄み部によれば、前突時等の荷重が集まりやすくなり、前突時等に第2ビードおよび第3ビードに変形を誘発させてフロントサイドメンバと共に座屈させるなど、荷重を変形エネルギーとして効率よく吸収することが可能になる。
【0025】
車両前後方向における第1ビードと第2ビードとの距離は、該第2ビードと第3ビードとの距離よりも大きくてもよい。
【0026】
上記構成によれば、カウルサイドメンバは、第2ビードの前側と後側とで、二段階に変形して荷重を吸収することが可能になる。特に、第2ビードの前側の第1ビードとの間の範囲が、第2ビードと第3ビードとの間よりも広く確保されていることで、カウルサイドメンバがフロントサイドメンバ側に変形したときに第1ビードと第2ビードとの間の範囲の前面投影面積を増加させて前方からの荷重を受けやすくしつつ、その荷重をフロントサイドメンバに逃がしながら第2ビードや第3ビードの付近に集めて変形し吸収することが可能になる。
【0027】
上記のカウルサイドメンバはさらに、側壁部の上端から底部の上側に延びる天面部を有し、第1ビードは、側壁部から連続して天面部に車幅方向に延びるよう形成されていてもよい。
【0028】
上記のカウルサイドメンバは、底部および側壁部を有するカウルサイドアウタと、カウルサイドアウタの第1ビードよりも後側に接続されて該カウルサイドアウタの底部および側壁部との間に閉断面を形成するカウルサイドインナとを含んでいて、カウルサイドアウタはさらに、側壁部の上端のうち第1ビードの前後方向にわたる範囲からカウルサイドインナとは反対側に屈曲するフランジを有し、フランジは、第1ビードの延長上の近傍を切り欠いた切欠部を有してもよい。
【0029】
上記構成によれば、カウルサイドメンバの後側に閉断面を形成して剛性を高めることで、例えばカウルサイドメンバの後部の車内側に存在するサスペンションタワーなどの構造物を保護することができる。また、フランジにおける第1ビードの長手方向の延長上の近傍に切欠部を形成することで、第1ビードを起点とした変形とそれに伴う荷重の吸収を十全に行うことが可能になる。
【実施例0030】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施例について詳細に説明する。かかる実施例に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0031】
図1は、本発明の実施例の車両前部構造の概要を示す図である。
図1(a)は、当該車両前部構造100を実施した車両を車両右側から見た図である。以下、
図1その他の本願のすべての図面において、車両前後方向をそれぞれ矢印F(Forward)、B(Backward)、車幅方向の左右をそれぞれ矢印L(Leftward)、R(Rightward)、車両上下方向をそれぞれ矢印U(upward)、D(downward)で例示する。
【0032】
車両前部構造100は、フロントサイドメンバ110を中心として構成されていて、前突に起こり得る前方からの荷重を効率よく吸収することを可能にしている。具体的には、車両に前方から荷重が加わった場合、フロントサイドメンバ110を座屈させて、荷重をフロントサイドメンバ110の変形エネルギーとして吸収することを可能にしている。また、荷重をフロントサイドメンバ110の周辺に配置されるカウルサイドメンバ102に伝えて座屈させ、荷重の一部を変形エネルギーとして吸収することが可能になっている。
【0033】
フロントピラー106は、カウルサイドメンバ102の後方に存在するパネル部材である。従来、カウルサイドメンバ102に伝達された荷重が十分に吸収できない場合、例えばフロントピラー106の上端とルーフサイドメンバ108との接合部や、フロントピラー106とサイドシル104との接合部などに荷重が集まり、これら部位に破損が起こりやすいことが知られている。本実施例では、このような前方からの荷重がカウルサイドメンバ102から後方に伝わることを抑えつつ、荷重をカウルサイドメンバ102の座屈等を利用して効率的に吸収し、不測の損害を抑えることを可能にしている。
【0034】
図1(b)は、
図1(a)の車両前部構造100付近の拡大図である。フロントピラーアウタ106aは、車両のフロントピラー106の車外側を構成するパネル部材である。フロントサイドメンバ110は、車両前部の車体骨格を構成する部材であり、車両前部のパワーユニット搭載ルームの下部の車幅方向両端側に設けられる前後方向に長尺な部材であり、フロントピラー106よりも車内側から前方に向かって延びている。カウルサイドメンバ102は、前輪用のホイールエプロン112の上方に配置されていて、フロントピラー106のうちフロントサイドメンバ110よりも上側に接続され、そこから前方かつ下方に湾曲しながら延びている。
【0035】
図2は、
図1(b)の車両前部構造100を別方向から見た斜視図である。
図2(a)は、
図1(b)の車両前部構造100の車内側の斜視図である。カウルサイドメンバ102は、フロントサイドメンバ110に対して、車外側の上方に配置されている。カウルサイドメンバ102の車内側には、前輪用のサスペンションタワー114が設けられている。
【0036】
図2(b)は、
図1(b)の車両前部構造100を上から見た図である。カウルサイドメンバ102は、フロントピラー106から前方かつ車内側に延びていて、前側のマウントブラケット116aを介してフロントサイドメンバ110に差し渡されている。なお、後側のマウントブラケット116bは、主にサスペンションタワー114の前側のサスフロントパネルとフロントサイドメンバ110とを連結している。
【0037】
図3は、
図2(b)のカウルサイドメンバ102を示した図である。
図3(a)は、
図2(b)のカウルサイドメンバ102を単独で示している。カウルサイドメンバ102は、車両前後方向に延びつつ前側が車内側に湾曲した長尺な部材で、車外側のカウルサイドアウタ102aと、車内側のカウルサイドインナ102bとを含んで構成されている。
【0038】
図3(b)は、
図3(a)のカウルサイドメンバ102を分離させた図である。カウルサイドインナ102bは、カウルサイドアウタ102aのうち後述する第1ビード126(
図6参照)よりも後側の部分に接続される。
【0039】
図4は、
図2(b)のカウルサイドメンバ102のA-A断面図である。カウルサイドメンバ102は、サスペンションタワー114(
図2(b)参照)の車外側において、カウルサイドアウタ102aとカウルサイドインナ102bとの間に閉断面S1が形成されている。
【0040】
カウルサイドアウタ102aは、上下方向に延びる側壁部118、側壁部118の上端から車外側に屈曲して延びる上側フランジ120、側壁部118の下端から車内側に屈曲して車両下方に面するように延びる底部122、および底部122の車外側の端部から下方に屈曲して延びる下側フランジ124を有している。カウルサイドインナ102bは、カウルサイドアウタ102aの上側フランジ120と下側フランジ124とに接続され、側壁部118と底部122との間に閉断面S1を形成する。
【0041】
カウルサイドメンバ102の閉断面S1は、サスペンションタワー114(
図2(b)参照)の車外側に形成されている。このように、カウルサイドメンバ102の後側に閉断面S1を形成して剛性を高めることで、カウルサイドメンバ102の後部の車内側に存在するサスペンションタワー114などの構造物を保護し、例えば前突時にサスペンションタワー114が後方の客室に近づくことなどを防止できる。
【0042】
また、
図1(b)に示すように、カウルサイドアウタ102aの側壁部118には、後述する第1ビード126等よりも後方に形成されるビードとして、第4ビード136および第5ビード138が設けられている。第4ビード136および第5ビード138は、側壁部118のうち車両前後方向に長い範囲を車外側に膨出させた状態に形成されている。
【0043】
第4ビード136および第5ビード138もまた、サスペンションタワー114の車外側においてカウルサイドアウタ102aの剛性を高めて、サスペンションタワー114の近傍におけるカウルサイドメンバ102の変形を抑えている。例えば、
図2(b)において、第4ビード136(
図1(b)参照)は、サスペンションタワー114のサスペンション軸115の車外側、すなわちサスペンション軸115と車両前後方向において重なる位置に設けられている。
【0044】
図5は、
図2(b)のカウルサイドメンバ102を車両前方から見て示した図である。
図5では、サスペンションタワー114(
図2(b)参照)は省略している。フロントピラー106は、車外側のフロントピラーアウタ106aと、車内側のフロントピラーインナ106bとを含んで構成されている。カウルサイドメンバ102は、フロントピラー106から前方に延び、さらに車馬方向におけるフロントサイドメンバ110側、すなわち車内側に曲がって延びた形状になっている。カウルサイドメンバ102は、フロントサイドメンバ110に上方から接続されていて、前突時などのフロントサイドメンバ110の上方への変形を抑え、フロントサイドメンバ110の変形する方向を制御する役割も担っている。
【0045】
図6は、
図3(b)のカウルサイドアウタ102aの拡大図である。カウルサイドアウタ102aの底部122は、フロントピラー106(
図5参照)からフロントサイドメンバ110にわたるように延びている。カウルサイドアウタ102aは、後部103が車両前後方向に延びていて、前部105が後部103からフロントサイドメンバ110(
図2(b)等参照)側、すなわち車内側に曲がって延びている。
【0046】
カウルサイドアウタ102aの底部122は、前方に向かうほど下方のフロントサイドメンバ110(
図1(b)参照)に向かって湾曲している。側壁部118は、底部122のフロントサイドメンバ110とは反対側の縁、すなわち車外側の縁から上方に屈曲して形成されている。
【0047】
図7は、
図6のカウルサイドアウタ102aを下方から示した図である。カウルサイドアウタ102aは、前側がフロントサイドメンバ110(
図5参照)に向かって車内側に屈曲した形状になっている。この形状に伴って、側壁部118は、当該カウルサイドアウタ102aの後部103に形成される側壁後部118aと前部105に形成される側壁前部118bとに分けることができる。側壁後部118aは、フロントピラー106(
図5参照)から前方に延びている部分である。側壁前部118bは、側壁後部118aの前端からフロントサイドメンバ110側に曲がって延びている部分である。
【0048】
本実施例では、前突等の衝撃発生時にカウルサイドアウタ102aに変形を誘発して荷重を吸収するために、変形誘発部として第1ビード126などの複数のビードが設けられている。第1ビード126は、側壁前部118bの後端側の部分を、車内側すなわちフロントサイドメンバ110(
図2(b)等参照)側に膨出させた状態に形成されている。
【0049】
第2ビード128は、第1ビード126よりも後方の底部122の車幅方向にわたる範囲を上方に膨出させた状態に形成されている。第3ビード130は、第2ビード128よりも後方の底部122の車幅方向にわたる範囲を上方に膨出させた状態に形成されている。これら第2ビード128および第3ビード130は、
図2(b)に例示するサスペンション軸115よりも前方に設けられている。
【0050】
図8は、
図5の各ビードを拡大して示した斜視図である。
図8(a)は、
図8の第1ビード126を拡大した斜視図である。第1ビード126は、側壁前部118bを上下方向に延び、そこから底部122を車幅方向に延びている。
【0051】
第1ビード126は側壁前部118bを車内側に膨出させて形成されていて、第1ビード126の下端は側壁前部118bと底部122とがなす外角132が車内側に窪んだ状態になっている。この構成によって、カウルサイドアウタ102aの側壁前部118bおよび底部122は、車両前方から荷重が加えられたときに第1ビード126を起点として変形しやすくなり、当該荷重を好適に吸収することができる。
【0052】
上述したように、カウルサイドアウタ102aは、前方から荷重を受けた場合に、側壁前部118bに変形を誘発させて荷重を吸収する。特に、側壁前部118bは、側壁後部118aに対して車内側、すなわちフロントサイドメンバ110(
図5等参照)側に曲がって延びていることに加えて、側壁前部118bの第1ビード126の周辺が第1ビード126の膨出方向に湾曲または屈曲しやすいので、この屈曲領域に荷重が集まりやすく、効率よく変形することができる。
【0053】
加えて、カウルサイドアウタ102aがフロントサイドメンバ110側に曲がっていることで、フロントサイドメンバ110の座屈に沿ってカウルサイドメンバ102に変形を誘発させやすくなる。その結果、側壁前部118bに伝達された荷重の一部をフロントサイドメンバ110側に逃がすことができ、荷重をカウルサイドメンバ102の座屈による変形エネルギーとして吸収しきれなくとも、カウルサイドメンバ102の後方に伝達される荷重を低減することが可能になる。
【0054】
このように、カウルサイドアウタ102aは、側壁前部118bに伝達された荷重をフロントサイドメンバ110側に伝達することができる。そのため、カウルサイド102aは、例えばフロントサイドメンバ110の座屈を促進し、フロントピラー106(
図1(b)参照)等の後方の部材への荷重の伝達を抑えることができる。さらに、カウルサイドアウタ102aは、フロントサイドメンバ110の座屈に沿って変形することができるため、フロントサイドメンバ110の座屈の挙動を安定させることも可能である。
【0055】
再び
図1(b)を参照する。フロントサイドメンバ110は、車両前方に配置される前側水平部110aと、前側水平部110aの後端から後側下方に傾斜する傾斜部110b、および傾斜部110bから車両後方に延びる後側水平部110cを有している。また、前側水平部110aと傾斜部110bとの間には前側屈曲部111aが形成され、傾斜部110bと後側水平部110bとの間には後側屈曲部111bが形成されている。
【0056】
フロントサイドメンバ110は、前突時の衝撃を前側屈曲部111aと後側屈曲部111bの変形エネルギーとして吸収することが可能である。このとき、カウルサイドメンバ102は、第1ビード126がフロントサイドメンバ110の前側屈曲部111aの周辺に配置されている。
【0057】
上記構成のフロントサイドメンバ110は、前方から荷重を受けると、前側屈曲部111aおよび後側屈曲部111bがさらに屈曲するよう変形し、前側水平部110aが後方に移動する。そして、フロントサイドメンバ110に対して車外側上方に位置するカウルサイドメンバ102は、第1ビード126付近を中心にして車内側下方のフロントサイドメンバ110側に変形することが可能になっている。
【0058】
さらに、カウルサイドメンバ102の前部105は、前方に向かって上下方向の寸法が徐々に小さくなっていて、湾曲しやすくなっている。また、第1ビード126の周辺は上下方向の寸法が窄んでいる。さらに、カウルサイドメンバ102の上面(
図2(a)のカウルサイドインナ102bの上面)と下面(
図7のカウルサイドアウタの底面122)は、略円弧状(楕円含む)に形成されていて、前突時の衝撃が上面および下面の一部に局所的に集中し座屈することが抑制されている。
【0059】
このように、本実施例のカウルサイドメンバ102は、フロントサイドメンバ110の座屈に追従して変形しやすくなっていて、当該カウルサイドメンバ102に伝達された荷重をフロントサイドメンバ110側に逃がしたり、フロントサイドメンバ110の座屈の挙動を安定させたりすることが可能になっている。
【0060】
図5を参照して説明したように、上記カウルサイドアウタ102aは、後方のフロントピラーアウタ106aから前方かつ車内側に延びている。そのため、カウルサイドメンバ102は、単に前後方向にのみ延びている場合に比べて、全長を延ばして変形可能な領域を確保しつつも車両前後方向においては寸法を短縮することが可能になっている。
【0061】
図8(a)の上側フランジ120は、側壁部118の上端のうち第1ビード126の前後方向にわたる範囲からカウルサイドインナ102b(
図4参照)とは反対側すなわち車外側に屈曲して形成されている。そして、上側フランジ120には、第1ビード126の長手方向の延長上の前後近傍に第1切欠部134および第2切欠部140が形成されている。
【0062】
第1切欠部134は、上側フランジ120における第1ビード126の延長上の後側の範囲を切り欠くことで形成されている。第2切欠部140は、上側フランジ120における第1ビード126の延長上の前側の範囲を切り欠くことで形成されている。カウルサイドアウタ102aは、これら第1切欠部134および第2切欠部140を設けることで、第1ビード126の周辺における上側フランジ120の剛性を削減し、第1ビード126を起点とした変形とそれに伴う荷重の吸収を十全に行うことが可能になる。
【0063】
上記第1ビード126、第1切欠部134および第2切欠部140は、
図2(b)の車両前後方向において、前側のマウントブラケット116aの上面後端と、後側のマウントブラケット116bの上面前端との間の範囲E1に位置するよう設けられている。この範囲E1内に設けることで、カウルサイドアウタ102aは、マウントブラケット116a、116bによってフロントサイドメンバ110に接続されつつ、フロントサイドメンバ110に追従して好適に変形することが可能になっている。
【0064】
図8(b)は、
図5の第2ビード128および第3ビード130を拡大した斜視図である。第2ビード128は、底部122から連続して側壁部118に上方に延びるよう形成されている。特に、第2ビード128は、底部122を上方に膨出させつつ側壁部118を車内側すなわちフロントサイドメンバ110側(
図5等参照)に膨出させた状態になっている。カウルサイドアウタ102aは、第2ビード128によって、側壁部118と底部122とがなす外角132が窪んだ状態になっている。
【0065】
第3ビード130もまた、底部122から連続して側壁部118に上方に延びるよう形成されている。特に、第3ビード130は、底部122を上方に膨出させつつ側壁部118を車内側すなわちフロントサイドメンバ110側(
図5等参照)に膨出させた状態になっている。カウルサイドアウタ102aは、第3ビード130によっても、側壁部118と底部122とがなす外角132が窪んだ状態になっている。
【0066】
上記構成によれば、カウルサイドアウタ102aは、上記構成の第2ビード128および第3ビード130を起点として底部122および側壁部118をより変形させ、荷重を効率よく吸収することが可能になっている。特に、カウルサイドメンバ102は、第2ビード128および第3ビード130が底部122に車幅方向に延びるよう形成され、そこから側壁部118を上方に延びるよう連続して設けられていることで、フロントサイドメンバ110(
図5等参照)に追従して効率よく変形することができる。
【0067】
また、第2ビード128および第3ビード130は、底部122から側壁部118にわたって形成されることで、側壁部118にのみ形成された第1ビード126(
図8(a)参照)よりも剛性がやや高く設定されている。この構成によって、カウルサイドアウタ102aは、前方の第1ビード126から優先的に変形するなど、変形時に不足の挙動を抑えることが可能になっている。
【0068】
図7に示したように、車両前後方向における第1ビード126と第2ビード128との距離L1は、第2ビード128と第3ビード130との距離L2よりも大きく設定されている(L1>L2)。この構成によれば、カウルサイドアウタ102aは、第2ビード128の前側と後側とで、二段階に変形して荷重を吸収することが可能になる。
【0069】
第2ビード128から第1ビード128までの範囲には、側壁前部118bを含むカウルサイド102aの前部105が含まれている。この前部105は、
図5に例示したように車内側に曲がっているため、前後方向に延びる後部103に比べて、車両の正面から見たときの面積である前方投影面積が広い。
【0070】
上記の通り、カウルサイドアウタ102aの第2ビード128の前側の第1ビード126との間の範囲(距離L1)は、第2ビード128と第3ビードとの間の範囲(距離L2)よりも、前後方向に広く確保されているだけでなく、前方投影面積も広い構成になっている。よって、第1ビード126と第2ビード128との間の範囲は、前面投影面積が増加していることで、カウルサイドメンバ102がフロントサイドメンバ110(
図5参照)側に変形したときに前方からの荷重が受けやすい。この構成によって、カウルサイドアウタ102aは、受けた荷重をフロントサイドメンバ110に逃がしつつ第2ビード128や第3ビード130の付近にも集めて変形し吸収することが可能になっている。
【0071】
図9は、
図7のカウルサイドアウタ102aの各窄み部(第1窄み部142、第2窄み部144)を示した図である。カウルサイドアウタ102aには、第1ビードの前側に、変形誘発部として第1窄み部142が形成されている。第1窄み部142は、側壁前部118bおよび底部122のうち第1ビード126を含む所定範囲の寸法を車幅方向に窄ませた部分である。第1ビード126は、第1窄み部142の車両後側に形成されている。
【0072】
上記構成によって、カウルサイドアウタ102aの側壁前部118bは、第1ビード126および第1窄み部142付近に変形を誘発させつつ、第1ビード126および第1窄み部142を含む部分をフロントサイドメンバ110(
図1(b)等参照)と共に座屈させて前突時等の荷重を変形エネルギーとして吸収することができる。
【0073】
カウルサイドアウタ102aには変形誘発部としてさらに、底部122および側壁部118のうち第2ビード128および第3ビード130を含む範囲の寸法を車幅方向に窄ませた第2窄み部144が形成されている。
【0074】
第2窄み部144を設けた部分は、前突時等の荷重が集まりやすくなり、前突時等に第2ビード128および第3ビード130に変形を誘発させてフロントサイドメンバ110(
図1(b)等参照)と共に座屈させるなど、荷重を変形エネルギーとして効率よく吸収することが可能になっている。
【0075】
以上のように、当該車両前部構造100では、カウルサイドメンバ102(
図3参照)、特にカウルサイドアウタ102aを利用して、前突時などの前方からの荷重を好適に吸収することが可能になっている。特に、カウルサイドアウタ102aは、フロントサイドメンバ110側に湾曲することで車両前後方向の寸法を抑えることができるため、車両前部の前後寸法が短い車両にも適用することが可能になっている。
【0076】
当該車両前部構造100では、
図8(a)の第1ビード126の他の例として、第1ビード126は側壁部118を車外側すなわちフロントサイドメンバ110(
図5等参照)とは反対側に膨出させた状態に形成することも可能である。
【0077】
図8(b)の第2ビード128および第3ビード130の他の例として、第2ビード128および第3ビード130は、底部122を下方に膨出させ、側壁部118を車外側すなわちフロントサイドメンバ110(
図5等参照)とは反対側に膨出させた状態に形成することも可能である。例えば、第2ビード128と第3ビード130のうち、一方を底部122を上方に膨出させた状態に形成し、他方を下方に膨出させた状態に形成することも可能である。また、第2ビード128と第3ビード130は底部122から側壁部118にかけて連続的に形成するだけでなく、例えば外角132の付近でいったん途切れた断続的なビードとして設けることも可能である。さらに、第3ビード130の後方に、底面122を上方または下方に膨出させたさらなるビードを設けることも可能である。
【0078】
さらに、当該車両前部構造100のカウルサイドメンバ102(
図5参照)の他の例として、例えばカウルサイドメンバは、フロントサイドメンバ110に対して車内側の上方に位置し、後方から前方かつ車外側に湾曲した構成として実現することも可能である。その場合、カウルサイドメンバは、例えば
図6に示した構成と左右対称な構成として実施し、側壁部118が底部122の車内側の縁から上方に屈曲した構成とすることが可能である。
【0079】
また、本実施例では、
図9に示すように、変形誘発部として、第1ビード126および第1窄み部142を重ねて配置しているが、第1ビード126および第1窄み部142は互いに重ねずに配置することも可能であり、第1ビード126または第1窄み部142の一方のみを設けることも可能である。第1ビード126と第1窄み部142とを離間させて設けた場合、第1ビード126または第1窄み部142の一方のみを設けた場合のいずれにおいても、これら第1ビード126や第1窄み部142に変形を誘発させることで、カウルサイドメンバ102が受けた荷重を吸収し、カウルサイドメンバ102の後方の部材への荷重の伝達を低減することが可能である。
【0080】
変形誘発部として設けた第2ビード128、第3ビード130および第2窄み部144もまた、互いに重ねずに配置することも可能であり、第2ビード128および第3ビード130のみ、または第2窄み部144のみを設けることも可能である。第2ビード128、第3ビード130と第2窄み部144とを離間させて設けた場合、第2ビード128、第3ビード130または第2窄み部144の一方のみを設けた場合のいずれにおいても、これら第2ビード128、第3ビード130や第2窄み部144に変形を誘発させることで、カウルサイドメンバ102が受けた荷重を吸収し、カウルサイドメンバ102の後方の部材への荷重の伝達を低減することが可能である。
【0081】
(変形例)
図10は、
図7のカウルサイドアウタ102aの変形例(カウルサイドアウタ200)を示した図である。
図9以降では、上記実施例にて既に説明した構成要素と同じものには同じ符号を付していて、これによって既出の構成要素については説明を省略する。また、以下の説明において、既に説明した構成要素と同じ名称のものについては、例え異なる符号を付していても、特に明記しない場合は同じ機能を有しているものとする。
【0082】
カウルサイドアウタ200は、複数の部材を結合して形成されている。例えば、カウルサイドアウタ200は、当該カウルサイドアウタ200の前部202を構成する前側部品206と、後部204を構成する後側部品208とを含んで構成されている。
【0083】
図10(b)は、
図10(a)のカウルサイドアウタ200を前側部品206と後側部品208とに分割した図である。カウルサイドアウタ200は、湾曲度合が大きい部位の周辺を境に前側部品206と後側部品208とに分割することで、全体としての成形がより容易になる。
【0084】
図10(a)に示すように、本変形例では第1ビード126の前側で前側部品206と後側部品208に分割され、これら部品が互いに重なった接合部位210で接合されている。接合部位210は、前側部品206と後側部品208との間の接続剛性を高めるために、フランジ120、側壁前部118bおよび底部122に渡って溶接等を行うことで接合されている。
【0085】
接合部位210の範囲内には、ボルトを締結可能なボルト孔212が設けられている。
図10(b)に示すように、後側部品208にはボルト孔212aが設けられ、前側部品206にはボルト孔212bが設けられている。接合部位210は、これらボルト孔212a、212bを重ねてボルトで締結することによって、前側部品206と後側部品208とを固定して接続剛性を高めることが可能になっている。
【0086】
接合部位210は、剛性が高められているため、前突時に周囲を変形し難くさせ、カウルサイドアウタ200のフロントサイドメンバ110(
図1(b)等参照)に追従した座屈の妨げにもなりかねない。そのため、本変形例では、接続部位210の後側に隣接して第1ビード126を形成し、フロントサイドメンバ110に追従した座屈が十全に生じるよう調整している。
【0087】
図11は、
図8(a)の第1ビード126の変形例(第1ビード228)を示した図である。第1ビード228は、カウルサイドメンバ220のうち、カウルサイドインナ222に設けられている点で、
図8(a)の第1ビード126と構成が異なっている。
【0088】
カウルサイドインナ222は、上下方向に延びる側壁部224と、側壁部224の上端から底部122の上側に屈曲して延びる天面部226とを有している。側壁部224は、カウルサイドアウタ102aの側壁前部118bと同様に、カウルサイドインナ222のうち車内側に曲がった側壁前部を想定することができる。
【0089】
第1ビード228は、カウルサイドインナ222の側壁部224および天面部226をカウルサイドメンバ220の閉断面S1の内側に膨出させることで形成されている。詳しくは、第1ビード228は、側壁部224に上下方向に延びるよう設けられる側部ビード部228aと、側部ビード228aから連続して天面部226に車幅方向に延びるよう設けられる上部ビード228bとで構成されている。
【0090】
上記構成の第1ビード228によっても、カウルサイドメンバ220をフロントサイドメンバ110(
図1(b)等)に追従するよう変形させて荷重をフロントサイドメンバ110側に逃がし、カウルサイドメンバ220の後方に存在する部材を保護することが可能になる。
【0091】
なお、カウルサイドインナ222の第1ビード228は、カウルサイドアウタ102a(
図7参照)の第1ビード126と共に設けることも可能である。カウルサイドアウタ102aおよびカウルサイドインナ222それぞれの側壁前部に第1ビード126、228を設けることで、カウルサイドメンバ220をより変形しやすくすることができる。
【0092】
第1ビード126のさらなる変形例として、第1ビードは、カウルサイドアウタ102a(
図4、
図11参照)の底部122に車幅方向に延びるよう設けることも可能である。このとき、底部122の第1ビードは、側壁部118、224の第1ビードのどちらか一方または両方に連続して設けてもよい。また、第1ビードは、カウルサイドアウタ102aの底部122と、カウルサイドインナ222の天面部226それぞれに車幅方向に延びるよう設けることもできる。
【0093】
これらのように、第1ビードは、カウルサイドメンバ102、220(
図4、11等参照)の車幅方向両側の側壁部、底部および天面部の計4つの面のうち、1つの面に設けてもよく、複数の面またはすべての面に連続的または非連続的に設けることが可能である。いずれの構成においても、第1ビードは、前方から荷重を受けた場合にカウルサイドメンバ102、220を変形しやすくさせ、荷重を吸収し、カウルサイドメンバ102、220の後方の部材への荷重の伝達を低減することが可能である。
【0094】
第2ビード128(
図8(b)参照)もまた、変形例として、カウルサイドメンバ102、220(
図4、11等参照)の両側壁部、底部および天面部の計4つの面のうち、1つの面に設けてもよく、複数の面またはすべての面に連続的または非連続的に設けることが可能である。同様に、第3ビード130(
図8(b)参照)もまた、変形例として、カウルサイドメンバ102、220(
図4、11等参照)の両側壁部、底部および天面部の計4つの面のうち、1つの面に設けてもよく、複数の面またはすべての面に連続的または非連続的に設けることが可能である。いずれの例においても、第2ビードおよび第3ビードを起点としてカウルサイドメンバ102、220をより変形させ、荷重を効率よく吸収することが可能である。
【0095】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0096】
例えば、上記各実施例では、カウルサイドメンバ102の変形を誘発する変形誘発部として第1ビード126、第2ビード128、第3ビード130等の複数のビードを設けているが、各ビードに代えて、同様の変形誘発部として側壁部118の所定の上下に渡る範囲に切欠きや板厚を薄くした薄肉部などの脆弱部を設けることも可能である。これら構成においても、前突時にカウルサイドメンバ102に衝撃が伝達された場合に、カウルサイドメンバ102のフロントサイドメンバ110側への変形を誘発させ、荷重をフロントサイドメンバ110側に逃がすことが可能になる。
E1…マウントブラケットの間の範囲、S1…閉断面、L1、L2…距離、100…車両前部構造、102…カウルサイドメンバ、102a…カウルサイドアウタ、102b…カウルサイドインナ、103…後部、104…フロアサイドメンバ、105…前部、106…フロントピラー、106a…フロントピラーアウタ、106b…フロントピラーインナ、108…ルーフサイドメンバ、110…フロントサイドメンバ、110a…水平部、110b…傾斜部、110c…後側水平部、111a…前側屈曲部、111b…後側屈曲部、112…ホイールエプロン、114…サスペンションタワー、115…サスペンション軸、116a、116b…マウントブラケット、118…側壁部、118a…側壁後部、118b…側壁前部、120…上側フランジ、122…底部、124…下側フランジ、126…第1ビード、128…第2ビード、130…第3ビード、132…外角、134…第1切欠部、136…第4ビード、138…第5ビード、140…第2切欠部、142…第1窄み部、144…第1窄み部、200…カウルサイドアウタ、204…後部、202…前部、206…前側部品、208…後側部品、210…接合部位、212、212a、212b…ボルト孔、220…カウルサイドメンバ、222…カウルサイドインナ、224…側壁部、226…天面部、228…第1ビード、228a…側部ビード、228b…上部ビード