(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022178476
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池の正極の製造方法、およびリチウムイオン二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/139 20100101AFI20221125BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20221125BHJP
H01M 4/1391 20100101ALI20221125BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/62 Z
H01M4/1391
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021085313
(22)【出願日】2021-05-20
(71)【出願人】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】多賀 一矢
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA02
5H050AA12
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050DA02
5H050DA10
5H050EA08
5H050GA03
5H050GA13
5H050HA04
5H050HA05
5H050HA06
(57)【要約】
【課題】リチウムイオン二次電池の入出力特性を向上する。
【解決手段】本発明のリチウムイオン二次電池の正極の製造方法では、集電体と、前記集電体に保持され正極活物質粒子と、導電材と、バインダを含む正極合材層とを備えたリチウムイオン二次電池の正極の製造方法であって、一次粒子が集合して中空の殻状に形成され、貫通孔を備えた殻部を有する多孔質の正極活物質の二次粒子の内外に、前記バインダとともに繊維状の前記導電材を配置する含侵工程である混錬工程(S12)と、前記二次粒子の少なくとも一部を圧壊するプレス工程(S15)とを備え、正極板の抵抗をよくせいすることでリチウムイオン二次電池の入出力特性を向上する。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体と、
前記集電体に保持され正極活物質粒子と、導電材と、バインダを含む正極合材層と
を備えたリチウムイオン二次電池の正極の製造方法であって、
一次粒子が集合して中空の殻状に形成され、貫通孔を備えた殻部を有する多孔質の正極活物質の二次粒子の内外に、前記バインダとともに繊維状の前記導電材を配置する含侵工程と、
前記二次粒子の少なくとも一部を圧壊するプレス工程と
を備えたことを特徴とするリチウムイオン二次電池の正極の製造方法。
【請求項2】
前記繊維状の導電材の平均径が、前記二次粒子の貫通孔の平均径の60%以下であることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池の正極の製造方法。
【請求項3】
前記プレス工程は、前記正極活物質粒子の50%以上が一次粒子とされていることを特徴とする請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池の正極の製造方法。
【請求項4】
前記含侵工程は、前記繊維状の導電材を含んだバインダを、前記繊維状の導電材とともに前記二次粒子の数量のうち85%以上の数量に含侵させることを特徴とする請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池の正極の製造方法。
【請求項5】
前記二次粒子の貫通孔は、直径が50nm以上であることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池の正極の製造方法。
【請求項6】
前記繊維状の導電材の直径が1nm~100nmであることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池の正極の製造方法。
【請求項7】
前記繊維状の導電材の長さが100nm~1000nmであることを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池の正極の製造方法。
【請求項8】
前記正極活物質は、リチウム遷移金属酸化物で構成されていることを特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池の正極の製造方法。
【請求項9】
前記繊維状の導電材がカーボンナノチューブからなることを特徴とする請求項1~8のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池の正極の製造方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池の正極の製造方法を含むリチウムイオン二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池の正極の製造方法、およびリチウムイオン二次電池の製造方法に関し、より詳しくは、反応抵抗の低いリチウムイオン二次電池の正極の製造方法、およびリチウムイオン二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電動車両、例えば電気自動車や、またはモータ及びエンジンを車両の駆動源として有するハイブリッド車両では、近年電源としてリチウムイオン二次電池が多用されている。
このようなリチウムイオン二次電池においては、リチウムイオン(Liイオン)を可逆的に吸蔵および放出し得る材料(活物質)を正負の電極に備えており、正負の電極の間をLiイオンが行き来することによって充電及び放電が行われる。しかしながら、かかる活物質は、それ自身は電子伝導性が低いため、通常、正極では炭素粉等の導電材と混ぜ合わせて合材が構成されて正極が形成されている。この場合、正極の出力向上には、反応面積を大きくし、抵抗を低減させることが望ましい。
【0003】
リチウムイオン二次電池の正極板は、集電体と、集電体に保持され活物質粒子と導電材とを含む活物質層とを備える。活物質粒子は、焼成により生成される一次粒子と、これらが凝集して形成される二次粒子がある。二次粒子は、殻部と、殻部の内部に形成された中空部を有する。一般に粒子径は小さいほど反応に貢献する比表面積が大きくなる。そこで、二次粒子を粉砕して一次粒子化して比表面積を大きくすることが考えられる。しかしながら、事前に二次粒子を粉砕して一次粒子化すると、活物質粒子が凝集しやすくなる。凝集すると粘度が増加したり、固形分が低下したりすることで乾燥不良を生じるなど、合材作成工程で極めてハンドリングが悪くなる。そのため、一次粒子化すると、かえって目的の正極板が容易にできないという問題があった。
【0004】
そこで、特許文献1に記載の発明では、活物質層中に含まれる導電材が、二次粒子をそのまま、活物質粒子の二次粒子の中空部と、二次粒子の外部の活物質粒子間との双方に配置されていることを特徴とする。
【0005】
また特許文献2に記載された発明の蓄電素子では、第1電極板は、集電体と、該集電体上に積層された合材層とを含む。合材層は、結着剤及び導電助剤の少なくともいずれか一方と、活物質の一次粒子と、該一次粒子が複数集合して内側に中空領域を有するように形成された二次粒子とを含有する。結着剤及び導電助剤の少なくともいずれか一方の一部が中空領域に配されている。
【0006】
これらのように、複数の活物質の一次粒子から中空部を設けた活物質の二次粒子を生成する。このような二次粒子は活物質の結晶構造によりリチウムの吸蔵及び放出に好適である。そして、この二次粒子に貫通孔を設け、内部に導電材を配置することで正極の抵抗を低減するようにしていた。
【0007】
特許文献1や特許文献2に記載された発明では、活物質の二次粒子内に導電材を配置して抵抗を低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2013-45761号公報
【特許文献2】特開2014-150052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1や特許文献2に記載された発明では、活物質の二次粒子内に導電材を配置して抵抗を低減しているが、さらに抵抗を低減することが望ましい。
本発明のリチウムイオン二次電池の正極の製造方法、およびリチウムイオン二次電池の製造方法が解決しようとする課題は、より正極の抵抗を低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明のリチウムイオン二次電池の正極の製造方法では、集電体と、前記集電体に保持され正極活物質粒子と、導電材と、バインダを含む正極合材層とを備えたリチウムイオン二次電池の正極の製造方法であって、一次粒子が集合して中空の殻状に形成され、貫通孔を備えた殻部を有する多孔質の正極活物質の二次粒子の内外に、前記バインダとともに繊維状の前記導電材を配置する含侵工程と、前記二次粒子の少なくとも一部を圧壊するプレス工程とを備えた。
【0011】
前記繊維状の導電材の平均径が、前記二次粒子の貫通孔の平均径の60%以下であることが好ましい。
前記プレス工程は、前記正極活物質粒子の50%以上が一次粒子とされていることが好ましい。
【0012】
前記含侵工程は、前記繊維状の導電材を含んだバインダを、前記繊維状の導電材とともに前記二次粒子の数量のうち85%以上の数量に含侵させることが好ましい。
前記二次粒子の貫通孔は、直径が50nm以上であることが好ましい。
【0013】
前記繊維状の導電材の直径が1nm~100nmであることが好ましい。
前記繊維状の導電材の長さが100nm~1000nmであることが好ましい。
前記正極活物質は、リチウム遷移金属酸化物で構成されていることが好ましい。
【0014】
前記繊維状の導電材がカーボンナノチューブからなることが好ましい。
リチウムイオン二次電池の製造方法には、上記リチウムイオン二次電池の正極の製造方法を含むことができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のリチウムイオン二次電池の正極の製造方法では、正極の反応抵抗を抑制して、リチウムイオン二次電池の入出力特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図3】カーボンナノチューブからなる導電材の顕微鏡写真。
【
図4】混錬前の正極活物質の二次粒子を示す模式図。
【
図5】導電材を含むバインダと正極活物質を混錬する前の正極合材の状態を示す模式図。
【
図6】導電材を含むバインダと正極活物質を混錬した後の正極合材の状態を示す模式図。
【
図7】プレス工程(圧壊工程)後の正極合材層を示す模式図。
【
図8】本実施形態のリチウムイオン二次電池の製造方法を示すフローチャート。
【
図9】本実施形態の正極電極製造工程のフローチャート。
【
図10】実験1における本実施形態の実施例1の正極と、従来技術である比較例1の正極との比較を示す比較表。
【
図11】比較例1の活物質の二次粒子の外観を示す顕微鏡写真。
【
図12】比較例1の活物質の二次粒子の断面を示す顕微鏡写真。
【
図13】本実施形態の活物質の実施例1の二次粒子の外観を示す顕微鏡写真。
【
図14】本実施形態の活物質の実施例1の二次粒子の断面を示す顕微鏡写真。
【
図15】比較例1の活物質の二次粒子が圧壊されていない状態を示す顕微鏡写真。
【
図16】本実施形態の活物質の実施例1の二次粒子が圧壊された状態を示す顕微鏡写真。
【
図17】実験2における実施例2と比較例2、比較例3の条件を示す表。
【
図18】実施例2における正極板の断面の顕微鏡写真。
【
図19】比較例2における正極板の断面の顕微鏡写真。
【
図20】比較例3における正極板の断面の顕微鏡写真。
【
図21】実施例2における正極板の断面の一部を拡大した顕微鏡写真。
【
図22】比較例2における正極板の断面の一部を拡大した顕微鏡写真。
【
図23】比較例3における正極板の断面の一部を拡大した顕微鏡写真。
【
図24】実験2における入出力特性を比較するグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(実施形態の原理と概要)
本発明を、リチウムイオン二次電池の製造方法の一実施形態により図面を参照して説明する。本実施形態のリチウムイオン二次電池の製造方法では、正極電極製造工程において正極の出力向上のために反応面積を大きくし、抵抗を低減させる正極板2の製造を目的としている。そのため、正極活物質の粒子自体の表面積の拡大だけでなく、それに加えて導電材を適正に配置するものである。以下、その具体的構成を説明する。
【0018】
<リチウムイオン二次電池>
本実施形態のリチウムイオン二次電池は、負極にはリチウムの挿入脱離が可能なカーボンやグラファイトが用いられ、正極には各種リチウム複合酸化物を用いられる。
【0019】
充電時には正極の結晶の中にあったリチウム原子がリチウムイオンとして電解液中に放出され、同時に電解液中のリチウムイオンが負極の結晶の中に侵入し、放電時には負極中のリチウム原子が正極中に戻るように動作する。
【0020】
<正極活物質粒子3の材料>
正極活物質の合成方法は、一般的にリチウム塩粉末(LiOH、Li2Co3等)と遷移金属酸化物粉末とを混合し、これを焼成して合成する。
【0021】
正極活物質には、具体的には、コバルト酸リチウム(LiCoO2)が挙げられる。さらに、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)が挙げられる。また、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)が挙げられる。また、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム(LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2)が挙げられる。さらに、リン酸鉄リチウム(LiFePO4)なども挙げられる。焼成により、まず径の小さい一次粒子が生成され、さらに複数の一次粒子が凝集されて二次粒子が生成される。
【0022】
<正極板2の製造工程>
一般的に正極板2(
図18参照)の製造工程では、正極板2の原材料となる粒状の正極活物質粒子3に導電材33、溶剤により粘度が調整されたバインダ34とを混合してペースト状の正極合材を作成する。ペースト状の正極合材は、例えば、Al箔からなる集電体(正極基板)5に層状に塗工される。塗工されて形成された正極合材層4は、乾燥炉で乾燥され、プレス工程で所定の厚さに整形される。その後所定の形状にカットされて正極板2が完成する。
【0023】
<二次粒子32の構成>
図1は、正極活物質粒子3の二次粒子32の外観を示す模式図である。
図2は、正極活物質の二次粒子32の内部を示す端面図である。上記のような方法で合成された正極活物質粒子3は、一次粒子31が活物質の結晶形を反映して成長する。その平均径は例えば0.5~3μmである。この一次粒子31が凝集して、二次粒子32となり、粒径が大きくなる。二次粒子32の大きさは、例えば、平均径10~100μmであるのが好ましい。一次粒子31、二次粒子32の平均径は、形状が必ずしも規則的なものではないが、MIE散乱理論を用いたレーザ回折式粒度分布測定法で測定した50%積算値とすることができる。
【0024】
焼成した二次粒子32は、殻部32aと、殻部32aの内部に形成された中空部32bと、殻部32aを貫通する貫通孔32cとを有するものとなる場合がある。貫通孔32cが多い多孔質のものや少ないものがあるが、本実施形態では、貫通孔32cが多い多孔質のものが好ましい。
【0025】
<貫通孔32cの平均径W>
貫通孔32cの平均径Wは、SEM(走査型電子顕微鏡写真)観察による50%平均粒子径であり、大きなものから小さなものまでばらつきがある。本実施形態の目的のため、繊維状の導電材33(
図3参照)を、バインダ34の樹脂とともに、正極活物質の二次粒子32の貫通孔32cを介して、その内部に配置する。つまり、平均径Dの繊維状の導電材33を受け入れる貫通孔32cの径が必要である。貫通孔32cの平均径Wの条件として正極活物質の二次粒子32の貫通孔32cを介して、その内部に配置することができることである。このため、繊維状の導電材33の平均径Dは、二次粒子32の貫通孔32cの平均径Wの60%以下が望まれる。言い換えれば、二次粒子32の貫通孔32cの平均径Wは、繊維状の導電材33の平均径Dの167%以上であることが望まれる。
【0026】
<導電材33>
図3は、カーボンナノチューブからなる導電材33の顕微鏡写真である。本実施形態の正極板2の導電材33は、カーボンナノチューブから構成される。カーボンナノチューブは、炭素によって作られる六員環ネットワーク(グラフェンシート)が単層あるいは多層の同軸管状になった物質で、層状構造の炭素が筒状になった分子である。非常に高い導電性、熱伝導性・耐熱性を持つことを特性としている。本実施形態では、単層・複層、端部開放・閉鎖などの形状はいとわない。カーボンナノチューブからなる導電材33によれば、バインダ34に用いられる樹脂が通常は電気を伝導しない素材であっても、高い導電性を付加することができる。この導電材33により、集電体5と正極活物質粒子3と電解液との間の導通が良好となり、正極板2の抵抗を低く抑えることができる。
【0027】
<導電材33の平均長L>
そのためには、カーボンチューブ同士が接触して導電性ネットワークを構築することが望まれる。カーボンナノチューブは、長尺になると少量でも導電性や熱伝導性を発揮し、強度も高くなる。そこで、この観点からは繊維状の導電材33の平均長Lは長いものが望まれる。
【0028】
一方、本実施形態では、カーボンナノチューブを、バインダ34の樹脂とともに、正極活物質の二次粒子32の貫通孔32cを介して、その内部に配置する。そのため、必ずしも長ければよいというわけではない。繊維状の導電材33の平均長Lが長すぎるとかえって、カーボンナノチューブ間の分子間力、水素結合により凝集が発生し、二次粒子32の内部に侵入しにくくなる。
【0029】
本実施形態の正極合材層4に導電材33を満遍なく配置するという目的からは、長さを均一にする必要はなく、様々な長さのカーボンナノチューブが混在することも好ましい。
そこで、本実施形態では、繊維状の導電材33の平均長Lは、例えば、100~1000nmとしている。
【0030】
<導電材33の平均径D>
導電材33の平均径Dは、条件として正極活物質の二次粒子32の貫通孔32cを介して、その内部に配置することができることである。このため、繊維状の導電材33の平均径Dは、二次粒子32の貫通孔32cの平均径Wの60%以下であることが望まれる。
【0031】
一方、あまり細いものは、活物質に対する接地面が小さく、十分に導電性が確保できない場合がある。
なお、平均径Dも、正極活物質の二次粒子32の貫通孔32cを介して、その内部に配置することが目的であるので、必ずしも均一な太さを求めるものではなく、正極活物質の二次粒子32の貫通孔32cとの関係で、実際に試験を行って設定することが望ましい。
【0032】
そこで、本実施形態では、繊維状の導電材33の平均径Dは、例えば、1nm~100nmであるものを例示する。
<バインダ34>
バインダ34は、正極活物質粒子3と導電材33とを混錬工程(
図9:S12)で一体化して、正極合材層4を集電体5に塗工し(S13)、乾燥工程(S14)で固定するものである。本実施形態でバインダといった場合には、粘度を調整する溶剤や、その他特性を調整する添加剤を含む概念である。その後、プレス工程(S15)で整形される。バインダ34の材質としては、例えば、PVdF(ポリフッ化ビニリデン)などが例示できる。なお、本実施形態では、バインダの材質は特に限定されるものでない。なお、後述する実験例では、取り扱いの容易さ等からストルアス社のエポキシ樹脂からなる冷間埋込樹脂「スペシフィックス-20(登録商標)」をテスト用に用いている。このように樹脂の種類を変更しても、製品と実験結果には特性の差はないことを確認している。このようにバインダ34自体は、本実施形態において限定されるものではない。
【0033】
なお、本実施形態の目的は、繊維状の導電材33を、バインダ34の樹脂とともに、正極活物質の二次粒子32の貫通孔32cを介して、その内部に配置することになる。そのため、硬化前のバインダ34は、二次粒子32内に含侵できる程度の流動性が要求される。その程度は、二次粒子32の特性と、導電材33の特性により適宜調整される。
【0034】
<含侵率[%]>
ここで、本実施形態において「含侵率[%]」とは、含侵工程である混錬工程(S12)後の顕微鏡写真において、二次粒子32の内部に繊維状の導電材33を含んだバインダ34が進入すると二次粒子32の画像の濃度が濃くなる。そこで、それぞれの濃淡を目視で観察して、含侵率[%]を算出した。つまり、含侵率[%]は、導電材33含んだバインダ34が中空部32bに入った二次粒子32の個数の、全体の二次粒子の個数に対する比率である。本実施形態では、含侵率[%]は、85%以上になるように設定されている。
【0035】
<正極合材>
正極合材は、正極活物質粒子3、導電材33、溶剤を含むバインダ34、及び必要な添加剤などから構成される。その配分の一例は、正極活物質粒子3(LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2)が75~99%、導電材33(カーボンナノチューブ)が0.3~15%、バインダ34(PVdF)が0.3~15%となる。この材料が混錬されて正極合材のペーストが生成される。本実施形態における粘度は、概ね1000~5000Pa・sである。
【0036】
<正極合材層4>
得られた正極合材は、これをAl箔からなる集電体5に塗工し(S13)、乾燥工程(S14)を経て、プレス工程(S15)により厚さが調整されるとともに表面が平坦化されて、正極合材層4が完成する。このとき二次粒子32の一部が圧壊されて一次粒子31となるが、この点については後に詳述する。
【0037】
<本実施形態のリチウムイオン二次電池の製造方法の特徴>
本実施形態のリチウムイオン二次電池の製造方法の特徴は、含侵工程としての混錬工程(S12)と圧壊工程としてのプレス工程(S15)を備えている点である。
【0038】
「含侵工程」とは、一次粒子31が集合して球殻状に形成された中空または多孔質の貫通孔32cを備えた殻部32aを有する正極活物質の二次粒子32の中空部32bに、バインダ34とともに繊維状の導電材33を配置する工程である。
【0039】
「圧壊工程」とは、正極板2を両側から図示しないプレスロールでプレスすることで二次粒子32を圧壊して一次粒子化する工程である。
<混錬工程(含侵工程)(S12)>
図4は、混錬工程前の正極活物質を示す模式図である。図では、説明のため二次粒子32の端面図のみを示している。実際には、二次粒子32に育たなかった一次粒子や、二次粒子32が割れた一次粒子31も含まれるが省略している。また、模式的に示したもので実際の大きさを反映したものではない。これらは、
図5~7において同様である。
図4は混錬前、すなわち導電材33を含んだバインダ34と混ぜ合わせる前の状態である。
【0040】
図5は、導電材33を含むバインダ34と正極活物質粒子3である二次粒子32を混合したが、混錬する前のペースト状の正極合材の状態を示す模式図である。
この状態では、導電材33を含むバインダ34は、二次粒子32の周囲には存在するが、いまだ導電材33を含むバインダ34は、二次粒子32の中空部32bには浸入していない。
【0041】
図6は、導電材33を含むバインダ34と正極活物質粒子3である二次粒子32を混錬した後のペースト状の正極合材の状態を示す模式図である。導電材33を含むバインダ34は、適度の溶剤により粘度が調整され、二次粒子32の貫通孔32cに浸入する程度の粘度となっている。また、導電材33は、繊維状で柔軟なカーボンナノチューブから構成されているため、粘度が調整された流体のPVdF(ポリフッ化ビニリデン)の浸入とともに、二次粒子32の貫通孔32cから中空部32bに進入する。この場合、導電材33の平均長Lは、一定であってもばらつきがある。長さの短い導電材33は、その全体が二次粒子32の中空部32bに入りきる。一方、長さの長い導電材33は、一端が中空部32bに入り、他端が二次粒子32の外部に出ているような場合がある。このような場合は、二次粒子32の内外を導通する役目を果たすことになり好ましいといえる。このように、導電材33の長さのばらつきは、それぞれの役割を果たし、正極合材層4の中に導電材33による導電材ネットワークを構築する。
【0042】
<正極合材層4>
図7は、プレス工程(S15)の後の正極合材層4を示す模式図である。混錬工程(S12)で、二次粒子32の中空部32bには、含侵率[%]が85%以上となるように、導電材33が配置されている。このように二次粒子32の内外にバインダ34とともに導電材33が十分に配置されている。このような状態で、プレス工程(S15)では、正極板2を、図示しないプレスロールで両面から押圧する。プレス工程(S15)の一般的な目的は、正極板2の正極合材層4の厚みを設定値にするとともに、正極板2の表面を平坦に形成することを目的とする。本実施形態では、これらの目的に加え、正極活物質粒子3のうち二次粒子32を圧壊して一次粒子化することを目的とする。
【0043】
詳細には、プレス工程(S15)では、二次粒子32の正極活物質粒子3の50%以上を圧壊して「一次粒子化」する。なお、本実施形態でいう「一次粒子化」とは、必ずしも単体の正極活物質の一次粒子31まで分解することではなく、二次粒子32の中空部32bが露出するように複数の一次粒子31の塊に分解するような圧壊を含む。
【0044】
<リチウムイオン二次電池の製造工程>
図8は、本実施形態のリチウムイオン二次電池の製造工程を示すフローチャートである。
図8を参照して、本実施形態のリチウムイオン二次電池の製造工程の概略を説明する。
【0045】
<源泉工程(S1)>
本実施形態では、まず、源泉工程(S1)を行う。ここで源泉工程とは、リチウムイオン二次電池の要素の作成の工程である。具体的には、リチウムイオン二次電池の電池要素を構成する正極板2、図示しない負極板及びセパレータを作成する工程である。
【0046】
本実施形態のリチウムイオン二次電池の製造工程の特徴は、正極板2の作成に特徴がある。そこで、
図9を参照して、源泉工程(S1)の一部を構成する「正極電極板製造工程」について説明する。
【0047】
<正極電極板製造工程>
正極電極板製造工程では、二次粒子製造工程(S11)、混錬工程(S12)、塗工工程(S13)、乾燥工程(S14)、プレス工程(S15)、切断工程(S16)を行う。
【0048】
<二次粒子製造工程(S11)>
二次粒子製造工程(S11)では、原材料を混合して焼成し、一次粒子31を経て二次粒子32を生成するが、詳細な手順は、周知技術が利用できるため省略する。二次粒子製造工程(S11)では、一次粒子31が集合して球殻状に形成された殻部32aと、殻部32aの内部の中空部32bを備え、多くの貫通孔32cを備えた粒子を作成する。そして、平均径10~100μmで、貫通孔32cは、所定の貫通孔の平均径Wが50nm以上であるものとする。
【0049】
<混錬工程(含侵工程)(S12)>
本実施形態の混錬工程(S12)では、二次粒子32を含む正極活物質粒子3と、繊維状の導電材33と、粘度を調整したバインダ34を混合したペースト状の正極合材を混錬機で混錬する。本実施形態では、この混錬により、繊維状の導電材33を伴ったバインダ34が、二次粒子32の貫通孔32cを介して、中空部32bに浸入する。このとき、繊維状の導電材33であるカーボンナノチューブが、バインダ34とともに二次粒子32の内外に配置される。正極合材の粘度、混錬の速度、時間などの条件は、最終的には、正極板2の反応抵抗を測定して最適化される。
【0050】
<塗工工程(S13)>
繊維状の導電材33であるカーボンナノチューブが、二次粒子32の内外に配置されたペースト状の正極合材が、正極基板となるAl箔からなる集電体5に塗工される。集電体5は、ここでは長方形に切断される。図示しない塗工装置は、この集電体5の幅方向(長手方向と直交する方向)に沿って正極合材層4に対応するノズルを備える。ノズルは、正極合材を集電体5の長手方向の一端から他端に向けて相対移動させて走査するようにしてペースト状の正極合材を塗布する。相対移動は集電体5を載置したステージやノズル自体のいずれを移動させてもよい。塗工装置は、ローラやドクターブレードなどで、塗布されたペースト状の正極合材を所定の厚みに整える。
【0051】
<乾燥工程(S14)>
塗工工程(S13)が完了したら、例えば、赤外線乾燥装置などにより、バインダ34の溶剤を揮発させて、バインダ34を一定の硬度まで硬化させる。
【0052】
<プレス工程(圧壊工程)(S15)>
プレス工程は、図示しないプレス装置で行う。プレス装置は少なくとも1つのプレスロールを備え、集電体5に形成された正極合材層4の長手方向の一端から他端に向けて相対移動させて走査するようにプレスする。プレスロールは、塗工工程(S13)で形成された正極合材層4の表面よりも集電体5に近づいた位置で正極合材層4に接触する。すなわち、ギャップ(一対のプレスロール間の距離、若しくはプレスロールと、プレスロールと対向するステージ間の距離)は、正極板2の厚さより所定の長さだけ短い。つまり、プレス装置は、正極合材層4を潰すように働く。
【0053】
プレス工程(S15)の目的は、従来と同じように正極合材層4の厚さを規定値にすることと、正極合材層4の表面を平坦に整形する点は同じである。
本実施形態のプレス工程(S15)は、それらに加えて以下のような圧壊工程としての作用がある。正極合材層4のバインダ34は、乾燥後も若干の可塑性を有するため塑性変形するが、二次粒子32は、ほとんど可塑性を有さず、圧縮する力に対して、圧壊して分割される。
【0054】
図6のプレス工程(S15)前の正極合材層4を模式的に示した図のような状態から、
図7のような状態となる。
このように、二次粒子32が圧壊されることで、小さな粒子に分解される一次粒子化が生じる。なおこの「一次粒子化」というのは、完全に一次粒子となるとの意味ではなく、大きな二次粒子32が小さな破片32dとなり、粒径が一次粒子31の大きさに近づくという程度の意味である。
【0055】
つまり、二次粒子32が圧壊して、分割されることで、二次粒子32自体の正極活物質の表面積が増大することにより正極活物質の反応面積が大きくなる。また、これまで外部に露出してなかった中空部32bの壁面も露出する。
【0056】
さらに、中空部32bの壁面の近傍には、多くの繊維状の導電材33が存在する。これらの繊維状の導電材33も二次粒子32の圧壊により露出することになる。
特に、プレス工程(S15)は、乾燥工程(S14)を経た後であるため、導電材33が流動しにくい。そのため、二次粒子32が一次粒子化しても、凝集することがない。さらにプレス工程(S15)を経ても、導電材33は、中空部32bの壁面近傍に存在したままである。したがって、これらが相俟って中空部32bからの導電ネットワークも確保されるので、二次粒子32の反応に貢献する有効な比表面積が大きくなる。
【0057】
<切断工程(S16)>
プレス工程(S15)が完了したら、必要に応じて組み立てる電池の規格に合わせて、正極板2の大きさを切断して、正極板2が完成する。
【0058】
<リチウムイオン二次電池の組み立て>
源泉工程(S1)では、説明を割愛したが、
図9に示した正極電極板製造工程と同時に負極電極板製造工程、セパレータ製造工程が行われる。
【0059】
源泉工程(S1)でこれらの手順が完了したら、セル電池の組み立て工程を行う。ここでは、まず捲回工程(S2)を行う。捲回工程(S2)は、源泉工程(S1)で作成した正極板2、負極板を、セパレータを挟んで積層し、その状態で捲回する。このように捲回した正極板2、負極板、セパレータを電池ケースに収容するために整形するとともに、極板間を密接にするために扁平プレス工程(S3)を行う。扁平プレス工程で整形した正極板2、負極板、セパレータからなる極板群は、一端が正極の正極合材層4のないAlの集電体5があり、図示を省略した他端には負極の負極合材層のないCuの集電体が突出する。これらの集電体は圧接され、端子溶接(S4)において、それぞれ、正極内部端子および負極内部端子が溶接される。これらの内部端子に電池ケースの蓋を介してそれぞれ外部端子が装着される。そして、捲回され扁平になった極板群とここに溶接された正極端子、負極端子は、ケース挿入(S5)の工程で、電池ケースに挿入される。封缶溶接(S6)の工程で、電池ケースと蓋がレーザ溶接などにより、密封される。この段階では、蓋の注液口が開口している。その後、セル乾燥(S7)の工程で、電池ケース内に残存している水分などを十分に乾燥させたら、注液・封止(S8)の工程で注液口から非水電解液を注液する。注液が完了したら、注液工を密封する。これで、セル電池の組み立てが完了する。セル電池の組み立てが完了したら、SEI(Solid Electrolyte Interphase)被膜の形成などを目的として、活性化(S9)の工程を行う。ここでは、初充電、エージングなどを行い、セル電池を化学的に活性化する。そして検査(S10)の工程では、セル電圧や、電池抵抗などの検査が行われ、所定の性能を発揮するものが製品となる。車載用のリチウムイオン二次電池では、セル電池が6~12個程度スタックされて電池モジュールとされ、さらに複数の電池モジュールが容器に収容され、制御装置や各種センサなどが装着されて車両用の電池パックとなる。
【0060】
(実施形態の作用)
次に、本実施形態の作用を、実験例により説明する。
<実験1>
図10は、実験1における本実施形態の実施例1の正極板2と、従来技術である比較例1の正極板2との比較を示す比較表である。実験1では、従来の正極板2と本実施形態の正極板2とを条件を変えて、正極板2の入出力を比較した。実験に用いたバインダは、取り扱いの容易さ等からストルアス社のエポキシ樹脂からなる冷間埋込樹脂「スペシフィックス-20(登録商標)」をテスト用に用いている。この樹脂は、製品で使用されるPVdF(ポリフッ化ビニリデン)などと同等の結果を導き出せることを確認している。
【0061】
<粒子形状>
図11は、比較例1の活物質の二次粒子32の外観を示す顕微鏡写真である。
図12は、比較例1の活物質の二次粒子の断面を示す顕微鏡写真である。
【0062】
従来技術の比較例1は、従来技術を示すもので、対象となる二次粒子32の粒子形状は、多孔質ではあるが、貫通孔32cの平均径Wは、25nmと、50nm未満の小さいものになっている。
【0063】
図13は、本実施形態の実施例1の活物質の二次粒子32の外観を示す顕微鏡写真である。
図14は、本実施形態の実施例1の活物質の二次粒子の断面を示す顕微鏡写真である。
【0064】
一方、本実施形態の実施例1では、二次粒子32の粒子形状は、多孔質で、貫通孔32cの平均径Wが200nmと、50nm以上の大きなものになっている。
バインダ34と混錬したところ、比較例1では、含侵率が85%未満の54.8%であったが、実施例1では、含侵率が85%以上の90%となった。
【0065】
記載を省略するが、条件を変えて多数の実験を行った結果、貫通孔32cの平均径Wと含侵率[%]の関係は、貫通孔32cの平均径Wが50nm以上の場合に、含侵率[%]が概ね85%以上となることを確認した。
【0066】
<合材状態>
従来技術の比較例1では、導電材33である粒状のアセチレンブラックの平均径Dが、200nmと30nmを超えるもので、平均長Lも200nmと500nm未満である。そして、導電材33は、二次粒子32の外部のみに存在した。
【0067】
一方、本実施形態の実施例1では、導電材33である繊維状のカーボンナノチューブの平均径Dが、20nm(貫通孔の32cの10%)と30nm以下のもので、平均長Lが700nmと500nm以上1000nm以下である。そして、導電材33は、二次粒子32の貫通孔32cから中空部32b内にも進入しており、二次粒子32の外部のみならず内部にも存在した。
【0068】
<プレス後の正極板2>
図15は、比較例1の活物質の二次粒子32が圧壊されていない状態を示す顕微鏡写真である。二次粒子32が圧壊されていないと、中空部32bは、導電材33とは、接触できないので反応に寄与できない領域が存在することになる。
【0069】
なお、仮にプレス工程(S15)で二次粒子32を圧壊したとしても、圧壊された二次粒子32の中空部32bの壁面近傍には、導電材33が存在しない。そのため、中空部32bの壁面が露出しても、結局その領域は反応に寄与できないこととなる。
【0070】
図16は本実施形態の実施例1の活物質の二次粒子が圧壊された状態を示す顕微鏡写真である。本実施形態の実施例1では、プレス工程(S15)で二次粒子32が圧壊されている。さらに、もともと中空部32bには、導電材33が侵入して存在している。そのため、圧壊された二次粒子32の中空部32bの壁面近傍にも導電材33が存在する。そのため、中空部32bの壁面が露出すれば、その領域は反応に寄与することができる。また、二次粒子32の内外に配置された導電材33が有効に導電ネットワークを形成する。
【0071】
<結果>
比較例1では、正極活物質粒子3において、導電材33とは接触できず導電ネットワークとはつながらず、反応に寄与できない領域が存在することになる。このため、正極板2の入出力が不足する。
【0072】
一方、本実施形態の実施例1では、二次粒子32が、一次粒子化することで、正極活物質の表面積が増加する。これとともに、圧壊された二次粒子32の中空部32bの壁面近傍にも導電材33が存在する。このため、二次粒子32の内外に配置された導電材33が有効に導電ネットワークを形成する。その結果、正極板2の入出力が向上した。
【0073】
<実験2>
図17は、実験2における実施例2と比較例2、比較例3の条件を示す表である。極板状態、活物質の二次粒子32の貫通孔の平均径W、含侵率[%]、導電材33の平均径Dを変えて入出力特性を比較したものである。実験1の実施例1と実験2の実施例2は、共通のものである。
【0074】
ここで、
図18は、実施例2における正極板2の断面の顕微鏡写真である。
図18に示す実施例2は、二次粒子32の内外に繊維状の導電材33を配置してプレスして一次粒子化した例である。
図19は、比較例2における正極板2の断面の顕微鏡写真である。
図19に示す比較例2は、二次粒子32の内外に繊維状の導電材33を配置するが、プレスして一次粒子化をしなかった例である。
図20は、比較例3における正極板2の断面の顕微鏡写真である。
図20に示すように、比較例3は、二次粒子32を一部一次粒子化したが、導電材33を繊維状のカーボンナノチューブではなく、粒状のアセチレンブラックを導電材とした例である。
【0075】
<極板状態>
図21は、実施例2における正極板2の断面の一部を拡大した顕微鏡写真である。実施例2は、
図21に示すように、繊維状の導電材33が一部一次粒子化した二次粒子32の内外に存在していることがわかる。
【0076】
図22は、比較例2における正極板2の断面の一部を拡大した顕微鏡写真である。比較例2では、
図22に示すように、繊維状の導電材33が二次粒子32の内外に存在することがわかる。
【0077】
図23は、比較例3における正極板2の断面の一部を拡大した顕微鏡写真である。比較例3では、繊維状の導電材33が一部一次粒子化した二次粒子32の内外に存在しない。
<活物質の二次粒子32の貫通孔の平均径W>
実施例2の活物質の二次粒子32の貫通孔の平均径Wは、200nmと大きく、比較例2の活物質の二次粒子32の貫通孔の平均径Wは、100nmとやや小さく、実施例3の活物質の二次粒子32の貫通孔の平均径Wは、25nmと小さい。
【0078】
<導電材33の平均径D>
実施例2の繊維状の導電材33の平均径Dは、10nm(貫通孔32cの5%)と細く、比較例2の繊維状の導電材33の平均径Dは、同様に10nmと細い。一方、比較例3の導電材33は、粒状で平均径Dが200nm以上となっている。
【0079】
<含侵率[%]>
実施例2の含侵率[%]は、90.0%である。一方、比較例2では、63.3%、比較例3では54.8%と低くなっている。特に比較例3では、バインダ34は二次粒子32に含侵できたとしても、それに伴う導電材33の進入は、その平均径Dが大きいことからほとんどない。
【0080】
<結果>
図24は、実験例2における入出力特性を比較するグラフである。ここでは、従来技術である比較例2の入出力特性を100%とした。このとき、実施例2では、概ね135%と、高い入出力特性を示した。
【0081】
また、比較例2では、概ね90%程度で、低い入出力特性を示した。その理由としては、二次粒子32は一次粒子化されていないことが挙げられる。また、正極活物質の二次粒子32の貫通孔32cの平均径Wが小さく含侵率[%]が低かったことが挙げられる。
【0082】
比較例3では、正極活物質粒子3において、二次粒子32が一部一次粒子化しても、導電材33が繊維状ではなく粒状であるため、ほとんど中空部32bには進入できず導電ネットワークを形成しにくいのが原因であるものと推定できる。
【0083】
比較例2では、繊維状の導電材33を用いているため、導電材33同士では導電ネットワークができやすいといえる。しかし、繊維状の導電材33が二次粒子32内に進入しにくい。さらに、二次粒子32が一次粒子化していないため、表面積が小さく、二次粒子32の中空部32bの壁面は反応に寄与しにくい領域となることが入出力特性の低下の原因になるものと推定できる。
【0084】
一方、本実施形態の実施例2では、繊維状の導電材33が二次粒子32内に進入しやすい。さらに、二次粒子32が一次粒子化することで正極活物質の表面積が増加する。これとともに、圧壊された二次粒子32の中空部32bの壁面近傍にも繊維状の導電材33が存在する。このため、二次粒子32の内外に配置された導電材33が有効に導電ネットワークを形成しやすい。その結果、正極板2の入出力特性が向上する。
【0085】
(本実施形態の効果)
(1)本実施形態のリチウムイオン二次電池の製造方法では、正極板2の抵抗を低減し、正極の入出力特性を向上させることができる。
【0086】
(2)本実施形態では、一次粒子31が集合して中空の殻状に形成され、貫通孔32cを備えた殻部32aを有する多孔質の正極活物質の二次粒子32を備える。そしてその内外に、バインダ34とともに繊維状の導電材33を配置する混錬工程(含侵工程)(S12)を備える。このため、二次粒子32の内部にも繊維状の導電材33を配置することができる。
【0087】
(3)二次粒子32を圧壊工程であるプレス工程(S15)により、圧壊して、一次粒子化するため、一次粒子化した活物質粒子の凝集などを生じさせずに、分散させた状態で一次粒子化した活物質を正極合材層4に配置することができる。
【0088】
(4)また、プレス工程(S15)は、従来の正極合材層4の厚さ調整と表面の整形を行うプレス工程と、変わりがない。そのため、従来の生産方法においても、プレスギャップの調整などをすれば、別段新規な装置などを導入することなく本実施形態のリチウムイオン二次電池の製造方法を実施することができる。
【0089】
(5)繊維状の導電材33の平均径Dが、二次粒子32の貫通孔の平均径Wの60%以下とされているため、繊維状の導電材33が、バインダ34とともに二次粒子32の中空部32bに進入しやすくなっている。
【0090】
(6)プレス工程(S15)では正極活物質粒子3の二次粒子32の50%以上が一次粒子とされているため、反応に貢献する表面積が大きくなっている。
(7)含侵工程である混錬工程(S12)は、繊維状の導電材33を含んだバインダ34を、繊維状の導電材33とともに二次粒子32の数量のうち85%以上の数量に含侵させる。このため、中空部32b近傍に多くの繊維状の導電材33を配置できるため、有効な導電ネットワークを構築できる。
【0091】
(8)二次粒子32の貫通孔32cは、直径が50nm以上とされている。このため、繊維状の導電材33を含んだバインダ34を、円滑に二次粒子32の中空部32bに導入することができる。
【0092】
(9)繊維状の導電材33の直径が1nm~100nmと細く設定されているため、繊維状の導電材33を含んだバインダ34を、円滑に二次粒子32の中空部32bに導入することができる。
【0093】
(10)繊維状の導電材33の長さが100nm~1000nmに設定されている。このため、二次粒子32の中空部32bと外部を連絡する導電ネットワークを構築できる。
また、長すぎて凝集を生じてしまうようなこともない。
【0094】
(11)正極活物質は、リチウム遷移金属酸化物で構成されているので、性能の高いリチウムイオン二次電池とすることができる。
(12)繊維状の導電材33をカーボンナノチューブから構成した。このため、極めて高い導電性を備え、入出力特性の優れた導電ネットワークを構築することができる。
【0095】
(13)ペースト状の正極合材を作成するときに、正極活物質が二次粒子32の状態であるので、活物質粒子が凝集しやすくなる。凝集すると粘度が増加したり、固形分が低下したりすることで乾燥不良を生じにくくなる。そのため合材作成工程で良好なハンドリングとすることができる。
【0096】
(14)入出力特性の優れた正極とすることで、性能の高いリチウムイオン二次電池を製造することができる。
(変形例)
上記実施形態は、以下のように実施することもできる。
【0097】
○本実施形態で例示した一次粒子31、二次粒子32の粒径、貫通孔32cの平均径W、導電材33の平均径D、導電材の平均長L、含侵率などは、バインダ34の粘度等は例示である。従って、当業者により最適できることは言うまでもなく、これらの数値範囲に限定されるものではない。
【0098】
○正極活物質は、リチウムイオン二次電池の目的などにより最適な材料が選択され、その焼成等の製造方法も当業者により最適化される。
○バインダ34の構成も、実施形態において例示されたものに限定されず、正極活物質の材質や特性、形状、導電材33の材質や形状により、当業者により適宜、材料、粘度、混錬条件などが最適化される。
【0099】
〇実施形態のフローチャートは1例であり、その順序や内容に限定されるものではない。
○実施形態では、車載用のリチウムイオン二次電池を例示したが、その目的や大きさなど限定されるものではない。
【0100】
○本発明は、上記実施形態により限定して解釈されることはなく、当業者であれば、特許請求の範囲を逸脱しない範囲で、その構成を付加し、削除し、若しくは置換して実施できることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0101】
2…正極板
3…正極活物質粒子
31…一次粒子
32…二次粒子
32a…殻部
32b…中空部
32c…貫通孔
32d…破片
W…(貫通孔の)平均径
33…導電材
D…(導電材の)平均径
L…(導電材の)平均長
34…バインダ
4…正極合材層
5…集電体
S1…源泉工程
S11…二次粒子製造工程
S12…混錬工程(含侵工程)
S13…塗工工程
S14…乾燥工程
S15…プレス工程(圧壊工程)
S16…切断工程