(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022178545
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】木材寸法安定化組成物及びこれを用いた木材の改質方法及び改質木材
(51)【国際特許分類】
B27K 3/36 20060101AFI20221125BHJP
【FI】
B27K3/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021085424
(22)【出願日】2021-05-20
(71)【出願人】
【識別番号】390015358
【氏名又は名称】大日本木材防腐株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136113
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寿浩
(72)【発明者】
【氏名】西澤 翔太
【テーマコード(参考)】
2B230
【Fターム(参考)】
2B230AA08
2B230AA12
2B230AA15
2B230CB08
2B230EB02
2B230EB05
2B230EB13
(57)【要約】
【課題】水分に曝され得る屋外で使用した場合でも溶出し難いことから、寸法安定性の低下を抑制できると共に、改質に伴う木材の変色をも抑制できる、木材寸法安定化組成物を提供する。
【解決手段】多価アルコールとリンゴ酸とを含有する。リンゴ酸は、クエン酸やコハク酸等の他の多価カルボン酸と比べて、改質に伴い木材が変色することを抑制することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多価アルコールと、リンゴ酸とを含有する、木材寸法安定化組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の木材寸法安定化組成物を木材に含浸させた後に加熱する、木材の改質方法。
【請求項3】
請求項1に記載の木材寸法安定化組成物が含浸・架橋された、改質木材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木材に寸法安定性を付与するための改質剤として使用されるものであって、水分に曝されるような屋外で使用した場合でも木材から溶出し難く、且つ改質による変色も抑制できる木材寸法安定化組成物と、これを用いた木材の改質方法及び改質木材に関する。
【背景技術】
【0002】
木材は、含水率によって収縮膨張する材料であり、建材等として使用する場合は、十分に乾燥させてから使用される。しかし、十分に乾燥させた後でも、雨水や空気中の湿気等を吸収すると容易に膨張するため、未処理のままでは寸法安定性の低い材料である。
【0003】
そこで従来から、寸法安定性を付与するための改質剤を木材に含浸させた改質木材としたうえで、建材等として使用することが一般的である。このような技術として、例えば下記特許文献1及び特許文献2がある。特許文献1では、木材にポリエチレングリコールを含浸させることで、寸法安定性を付与している。
【0004】
特許文献2には、多価アルコールと多価カルボン酸とを含有する木材寸法安定化組成物が開示されている。特許文献2では、多価カルボン酸としてクエン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、フタル酸を使用し得ることが開示されており、特にクエン酸が好ましいとしている。特許文献2では、多価アルコールと共に多価カルボン酸も含有する木材寸法安定化組成物を改質剤として木材へ含浸させることで、多価アルコールが多価カルボン酸によって架橋されてポリエステル化し、水に不溶ないし難溶となる。これにより、水分に曝され得る屋外で改質木材を使用した場合でも、雨水等による改質剤の溶出が抑制されることで木材の耐水性及び耐候性が向上し、寸法安定性の低下を抑制することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-241826号公報
【特許文献2】特開2018-103585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、改質成分としてポリエチレングリコールのみを含浸させているので、耐水性・耐候性の問題がある。すなわち、ポリエチレングリコール等の多価アルコール類は水溶性の高分子であるため、雨水等の水分に曝されるような屋外で使用した場合、含浸された多価アルコールが改質木材中から溶出してしまい、寸法安定性が低下する。特許文献1では、屋内の床材として使用することだけを想定しているのでこのような問題は生じないが、これを屋外用の建材として使用することはできない。
【0007】
特許文献2では、多価アルコールと共に多価カルボン酸も含有する木材寸法安定化組成物を改質剤として木材へ含浸させているので、特許文献1のような問題は生じない。しかし、特許文献1で開示されている多価カルボン酸を含侵させると、場合によっては木材全体が変色したり、木材全体としては変色しないとしても、部分的に変色したりすることで見栄えが悪くなることがあった。
【0008】
そこで本発明は、上記課題を解決するものであって、水分に曝され得る屋外で使用した場合でも木材から溶出し難く、且つ改質による変色も抑制できる木材寸法安定化組成物と、これを用いた木材の改質方法及び改質木材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そのための手段として、本発明は次の手段を採る。
(1)多価アルコールと、リンゴ酸とを含有する、木材寸法安定化組成物。
(2)(1)に記載の木材寸法安定化組成物を木材に含浸させた後に加熱する、木材の改質方法。
(3)(1)に記載の木材寸法安定化組成物が含浸・架橋された、改質木材。
【発明の効果】
【0010】
本発明の木材寸法安定化組成物によれば、従来から寸法安定性を付与するための改質剤として使用されていた多価アルコールと共に、多価カルボン酸も含有する。当該木材寸法安定化組成物を改質剤として木材へ含浸させ、そのうえで木材を加熱すると、多価アルコールが多価カルボン酸によって架橋されてポリエステル化し、水に不溶ないし難溶となる。これにより、木材の耐水性及び耐候性が向上し、寸法安定性の低下を抑制することができ、水分に曝され得る屋外で改質木材を使用した場合でも、雨水等による改質剤の溶出量が抑制される。さらに、多価カルボン酸の中でもリンゴ酸を使用することで、改質に伴う木材の変色を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の木材寸法安定化組成物は、木材に寸法安定性を付与して改質するため、改質剤として木材に含浸される。改質対象となる木材の種類としては、従来から建材用として使用されている木材であれば特に制限はなく、針葉樹でも広葉樹でも構わない。木材の態様としても特に制限はなく、無垢材、集成材、合板等に適用可能である。中でも、無垢材が好ましい。
【0013】
木材寸法安定化組成物は、多価アルコールと、リンゴ酸とを必須成分として含有する。多価アルコールは、主として木材寸法を安定化させるための成分である。多価アルコールとしては、分子量100~1,600、好ましくは150~1,000の水溶性アルコールとする。例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,2-ブチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、1,4-ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。これら多価アルコール類は、一種類のみを用いてもよいし、二種類以上を混合してもよい。
【0014】
リンゴ酸は、多価アルコールをエステル化し、改質剤の水への溶出を防いで木材の耐水性・耐候性を向上するための成分である。これにより、木材寸法はより安定する。さらに、リンゴ酸は、クエン酸やコハク酸等の他の多価カルボン酸と比べて、改質による木材の変色を有効に抑制することができる。
【0015】
木材寸法安定化組成物は、水に溶融した改質液(水溶液)としたうえで、木材に含浸される。このとき、改質液における多価アルコールの含有量は1~20重量%が好ましく、5~15重量%がより好ましい。多価アルコールの含有量が少なすぎると、寸法安定性が不足する。一方、多価アルコールの含有量が多すぎると、反って耐水性が低下するおそれがある。
【0016】
改質液におけるリンゴ酸の含有量も、1~20重量%が好ましく、5~15重量%がより好ましい。リンゴ酸の含有量が少なすぎると、リンゴ酸を併用する効果が小さすぎて木材の耐水性や耐候性が不足し、改質剤が水に溶出し易くなる。一方、リンゴ酸の含有量が多すぎても、反って耐水性が低下するおそれがある。
【0017】
改質液におけるリンゴ酸の含有量は、多価アルコールの含有量(重量%)に対して50~400重量%が好ましく、55~300重量%がより好ましく、60~250重量%がさらに好ましい。多価アルコールの含有量に対してリンゴ酸の含有量が少なすぎると、水に対する耐候性が不足する。一方、多価アルコールの含有量に対してリンゴ酸の含有量が多すぎると、変色抑制効果が低下するおそれがある。
【0018】
改質液には、本発明の作用効果を阻害しない範囲で、防腐剤、防蟻剤、難燃剤、染料など、その他の添加剤を添加してもよい。例えば防腐剤としては、第4級アンモニウム塩のクロライド塩、プロピオネート塩、カーボネート塩、アジピン酸塩、サルフェート塩、メタサルフェート塩などが挙げられる。
【0019】
木材寸法安定化組成物(改質剤)を含む改質液は、従来から行われている公知の方法で木材に含浸させればよい。具体的には、予め十分に乾燥させた木材を含浸液に浸漬したうえで、減圧含浸方法、加圧含浸方法、減圧・加圧含浸方法等により含浸させる。このとき、改質剤の浸透性(含浸性)を向上するため、必要に応じて予め木材に複数の浸透孔を穿設しておくことも好ましい。
【0020】
木材へ改質剤を含浸させた後は、乾燥させたうえで、100~200℃で加熱処理する。すると、多価アルコールがリンゴ酸によって架橋されてポリエステル化し、水に不溶ないし難溶となる。これにより、木材に耐水性及び耐候性が付与されて雨水等による改質剤の溶出量が抑制され、寸法安定性の低下が抑制された改質木材を得ることができる。さらに、リンゴ酸であれば、他の多価カルボン酸を使用した場合よりも木材の変色を抑制できる。
【0021】
本発明の改質木材は、屋内用はもちろん、屋外用の建材としても使用可能である。特に、屋外用の建材として好適である。水分に曝され得る環境でも、寸法安定性の低下が抑制されているからである。
【実施例0022】
多価アルコールと多価カルボン酸とを、表1、2に示す割合で含む改質液(水溶液)を、幅100mm・厚み10mm・長さ200mmのスギ材に、加圧含浸方法によって含浸させた。続いて、60℃で乾燥させた後、120℃、24時間の熱処理を行って、各実施例及び比較例の改質木材を得た。
【0023】
(色の測定)
得られた各改質木材の変色について、改質前と改質後の色を測定したΔL*とΔE*を表1,2に示す。色の測定には、日本電色工業社製の分光色差計NF333を用いた。CIELAB色空間におけるL*、a*、b*を測定し、処理前後の各値の変化量からΔL*と色差ΔE*を算出した。測定条件は、抗原をD65、視野角10度、測色部直径を 8mmとした。改質後の材面において早材部、晩材部それぞれ10か所ずつ測定し、平均値を求めた。
【0024】
早材部とは、年輪の中で生長の早い春にできる材部であり、春材部とも称される。細胞は大きく細胞膜は薄い。一方、晩材部とは、夏以降の生長の遅くなる時期にできた材部であり、夏材部や秋材部とも称される。細胞は小さく細胞膜は厚い。両者の差の程度は樹種により異なるが、スギ材は早材部と晩材部との差が比較的大きい部類である。
【0025】
(抗膨潤性能と改質剤残存率)
各実施例・比較例の木材を水に24時間浸漬させ、浸漬前後の寸法から下記式(1)により膨潤率を求め、無処理材の膨潤率から抗膨潤性能(ASE)を下記式(2)により算出した。
式1:膨潤率(%)=(湿潤状態の寸法/全乾状態の寸法-1)×100
式2:ASE(%)=(1-処理木材の膨潤率/無処理木材の膨潤率)×100
【0026】
改質剤含浸前に105℃での全乾重量を求めておき、改質剤含浸後に、再度105℃での全乾重量を求め、先の測定重量との差を固形分(改質剤)重量とした。これを水中に沈めて3時間の煮沸を行い、未反応の薬剤を溶出させた後、105℃にて乾燥させ溶脱後の固形分重量をもとめ、その重量割合から改質剤(固形分)の残存率を算出した。その結果も表1、2に示す。
【0027】
最後に、前項の煮沸操作を実施した試験体を用いて、上記式(1)・(2)により膨潤率及びASEを求めた。その結果も表1、2に示す。
【0028】
また、実施例3と比較例3の外観写真を、それぞれ
図1,2に示す。
【0029】
【0030】
【0031】
表1,2の結果から、実施例と比較例とでは寸法安定性や耐候性はほぼ同等であるが、多価カルボン酸の中でも特にリンゴ酸を使用した場合(実施例)に、木材の変色が効果的に抑制されていることが確認された。