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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022178565
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】自動車用ドア及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B60J 5/10 20060101AFI20221125BHJP
   B60J 5/04 20060101ALI20221125BHJP
   B60J 1/02 20060101ALI20221125BHJP
【FI】
B60J5/10 R
B60J5/04 R
B60J1/02 101R
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021085450
(22)【出願日】2021-05-20
(71)【出願人】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【弁理士】
【氏名又は名称】河原 肇
(74)【代理人】
【識別番号】100165995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 寿人
(72)【発明者】
【氏名】高橋 信行
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 正広
(72)【発明者】
【氏名】大谷 和男
(72)【発明者】
【氏名】黒木 一博
(57)【要約】
【課題】ガラス部材と樹脂部材を備えるとともに両部材の接合強度が高い自動車用バックドアを提供すること。
【解決手段】ガラス部材(2)が窓ガラスであり、樹脂部材(5)が窓ガラスを固定するための少なくとも1つのパネルであり、ガラス部材と樹脂部材とが樹脂コーティング層を介して接合されており、樹脂コーティング層の少なくとも1層が、再変性-変性ポリフェニレンエーテルを含む樹脂組成物から形成された再変性-変性ポリフェニレンエーテル層であり、再変性-変性ポリフェニレンエーテル層は、変性ポリフェニレンエーテルと熱可塑性エポキシ樹脂との混合物である混合物1を含む層、及び変性ポリフェニレンエーテルと(メタ)アクリル樹脂との混合物である混合物2を含む層からなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス部材と、前記ガラス部材と接合される樹脂部材を含む枠体と、前記ガラス部材及び前記樹脂部材の少なくとも1つに積層された1層又は複数層の樹脂コーティング層とを備える自動車用ドアであって、
前記ガラス部材が窓ガラスであり、
前記樹脂部材が前記窓ガラスを固定するための少なくとも1つのパネルであり、
前記ガラス部材と前記樹脂部材とが前記樹脂コーティング層を介して接合されており、
前記樹脂コーティング層のうち、前記ガラス部材と接する層が、再変性-変性ポリフェニレンエーテルを含む樹脂組成物から形成された再変性-変性ポリフェニレンエーテル層であり、前記再変性-変性ポリフェニレンエーテル層は、変性ポリフェニレンエーテルと熱可塑性エポキシ樹脂との混合物である混合物1を含む層、及び変性ポリフェニレンエーテルと(メタ)アクリル樹脂との混合物である混合物2を含む層からなる群より選ばれる少なくとも1種である、自動車用ドア。
【請求項2】
前記混合物1が、変性ポリフェニレンエーテルを含む溶液中で、2官能エポキシ樹脂と2官能フェノール化合物を重付加反応させてなる、請求項1に記載の自動車用ドア。
【請求項3】
前記混合物1が、変性ポリフェニレンエーテルと熱可塑性エポキシ樹脂を混合してなる、請求項1に記載の自動車用ドア。
【請求項4】
前記混合物2が、変性ポリフェニレンエーテルを含む溶液中で、(メタ)アクリレートモノマーをラジカル重合させてなる、請求項1に記載の自動車用ドア。
【請求項5】
前記混合物2が、変性ポリフェニレンエーテルと(メタ)アクリル樹脂を混合してなる、請求項1に記載の自動車用ドア。
【請求項6】
前記樹脂コーティング層が、前記再変性-変性ポリフェニレンエーテル層と、前記再変性-変性ポリフェニレンエーテル層以外の層を含む複数層からなり、前記再変性-変性ポリフェニレンエーテル層以外の層の少なくとも1層が、熱可塑性エポキシ樹脂を含む樹脂組成物から形成された熱可塑性エポキシ樹脂層及び硬化性樹脂を含む樹脂組成物から形成された硬化性樹脂層からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1~5のいずれか一項に記載の自動車用ドア。
【請求項7】
前記硬化性樹脂が、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂及び不飽和ポリエステル樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項6に記載の自動車用ドア。
【請求項8】
前記ガラス部材と前記樹脂コーティング層との間に、前記ガラス部材と前記樹脂コーティング層に接して積層された官能基含有層を有し、
前記官能基含有層が、下記(1)~(7)からなる群より選ばれる少なくとも1つの官能基を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の自動車用ドア。
(1)シランカップリング剤由来であって、エポキシ基、アミノ基、(メタ)アクリロイル基及びメルカプト基からなる群より選ばれる少なくとも1つの官能基
(2)シランカップリング剤由来のアミノ基に、エポキシ化合物及びチオール化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種が反応して生成した官能基
(3)シランカップリング剤由来のメルカプト基に、エポキシ化合物、アミノ化合物、イソシアネート化合物、(メタ)アクリロイル基及びエポキシ基を有する化合物、並びに(メタ)アクリロイル基及びアミノ基を有する化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種が反応して生成した官能基
(4)シランカップリング剤由来の(メタ)アクリロイル基に、チオール化合物が反応して生成した官能基
(5)シランカップリング剤由来のエポキシ基に、アミノ基及び(メタ)アクリロイル基を有する化合物、アミノ化合物、並びにチオール化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種が反応して生成した官能基
(6)イソシアネート化合物由来のイソシアナト基
(7)チオール化合物由来のメルカプト基
【請求項9】
前記ガラス部材の、前記樹脂コーティング層と接触する面に、脱脂処理、UVオゾン処理、ブラスト処理、研磨処理、プラズマ処理及びコロナ放電処理からなる群より選ばれる少なくとも1種の表面処理が施されている、請求項1~8のいずれか一項に記載の自動車用ドア。
【請求項10】
前記ガラス部材がリアガラスであり、
前記樹脂部材がアウターパネル及びインナーパネルの少なくとも一方である、請求項1~9のいずれか一項に記載の自動車用ドア。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の自動車用ドアの製造方法であって、前記樹脂コーティング層を加熱し、加熱された前記樹脂コーティング層が前記ガラス部材と前記樹脂部材の間に介在するように前記ガラス部材と前記樹脂部材を圧着することにより、前記ガラス部材と前記樹脂部材を接合することを含む、自動車用ドアの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、自動車の車体後部に設けられる開閉式のバックドアに代表される自動車用ドア及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハッチバック式と呼ばれる自動車は、その後部に開閉式のバックドアを備えている。この種の自動車では、バックドアのアウターパネルの開口部を覆うようにリアガラスが取り付けられる。リアガラスは、例えばアウターパネルに対して車体室外側に取り付けることができ、またアウターパネルとバックドアのインナーパネルとの間に取り付けることもできる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-010086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アウターパネルやインナーパネルは、近年の軽量化の要請から、その大部分が樹脂によって形成されていることが多い。このような事情に鑑み、特許文献1のバックドアのように、ガラス部材(リアガラス)と樹脂部材(アウターパネル等)を接合してバックドアを製造する場合、バックドアに要求される強度を満足させるためには両部材が強固に接合されていることが好ましい。
【0005】
なお、自動車においてガラス部材と樹脂部材との接合部位を含むドアは、バックドアのようなハッチ型ドアに限られない。これらのドアには、スライドドア、ガルウイングドア、観音開き型のドアなども含まれ、これらのいずれについても、両部材が強固に接合されていることが好ましい。
【0006】
本開示は、上述した技術背景に鑑みてなされたもので、その目的は、ガラス部材と樹脂部材を備えるとともに両部材の接合強度が高く且つ簡便に得られる自動車用バックドア及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は以下の態様を包含する。
【0008】
[1] ガラス部材と、前記ガラス部材と接合される樹脂部材を含む枠体と、前記ガラス部材及び前記樹脂部材の少なくとも1つに積層された1層又は複数層の樹脂コーティング層とを備える自動車用バックドアであって、
前記ガラス部材が窓ガラスであり、
前記樹脂部材が窓ガラスを固定するための少なくとも1つのパネルであり、
前記ガラス部材と前記樹脂部材とが前記樹脂コーティング層を介して接合されており、
前記樹脂コーティング層のうち、前記ガラス部材と接する層が、再変性-変性ポリフェニレンエーテルを含む樹脂組成物から形成された再変性-変性ポリフェニレンエーテル層であり、前記再変性-変性ポリフェニレンエーテル層は、変性ポリフェニレンエーテルと熱可塑性エポキシ樹脂との混合物である混合物1を含む層、及び変性ポリフェニレンエーテルと(メタ)アクリル樹脂との混合物である混合物2を含む層からなる群より選ばれる少なくとも1種である、自動車用ドア。
[2] 前記混合物1が、変性ポリフェニレンエーテルを含む溶液中で、2官能エポキシ樹脂と2官能フェノール化合物を重付加反応させてなる、[1]に記載の自動車用バックドア。
[3] 前記混合物1が、変性ポリフェニレンエーテルと熱可塑性エポキシ樹脂を混合してなる、[1]に記載の自動車用ドア。
[4] 前記混合物2が、変性ポリフェニレンエーテルを含む溶液中で、(メタ)アクリレートモノマーをラジカル重合させてなる、[1]に記載の自動車用ドア。
[5] 前記混合物2が、変性ポリフェニレンエーテルと(メタ)アクリル樹脂を混合してなる、[1]に記載の自動車用ドア。
[6] 前記樹脂コーティング層が、前記再変性-変性ポリフェニレンエーテル層と、前記再変性-変性ポリフェニレンエーテル層以外の層を含む複数層からなり、前記再変性-変性ポリフェニレンエーテル層以外の層の少なくとも1層が、熱可塑性エポキシ樹脂を含む樹脂組成物から形成された熱可塑性エポキシ樹脂層及び硬化性樹脂を含む樹脂組成物から形成された硬化性樹脂層からなる群より選ばれる少なくとも1種である、[1]~[5]のいずれか1つに記載の自動車用ドア。
[7] 前記硬化性樹脂が、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂及び不飽和ポリエステル樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種である、[6]に記載の自動車用ドア。
[8] 前記ガラス部材と前記樹脂コーティング層との間に、前記ガラス部材と前記樹脂コーティング層に接して積層された官能基含有層を有し、
前記官能基含有層が、下記(1)~(7)からなる群より選ばれる少なくとも1つの官能基を含む、[1]~[7]のいずれか1つに記載の自動車用ドア。
(1)シランカップリング剤由来であって、エポキシ基、アミノ基、(メタ)アクリロイル基及びメルカプト基からなる群より選ばれる少なくとも1つの官能基
(2)シランカップリング剤由来のアミノ基に、エポキシ化合物及びチオール化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種が反応して生成した官能基
(3)シランカップリング剤由来のメルカプト基に、エポキシ化合物、アミノ化合物、イソシアネート化合物、(メタ)アクリロイル基及びエポキシ基を有する化合物、並びに(メタ)アクリロイル基及びアミノ基を有する化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種が反応して生成した官能基
(4)シランカップリング剤由来の(メタ)アクリロイル基に、チオール化合物が反応して生成した官能基
(5)シランカップリング剤由来のエポキシ基に、アミノ基及び(メタ)アクリロイル基を有する化合物、アミノ化合物、並びにチオール化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種が反応して生成した官能基
(6)イソシアネート化合物由来のイソシアナト基
(7)チオール化合物由来のメルカプト基
[9] 前記ガラス部材の、前記樹脂コーティング層と接触する面に、脱脂処理、UVオゾン処理、ブラスト処理、研磨処理、プラズマ処理及びコロナ放電処理からなる群より選ばれる少なくとも1種の表面処理が施されている、[1]~[8]のいずれか1つに記載の自動車用ドア。
[10]
前記ガラス部材がリアガラスであり、
前記樹脂部材がアウターパネル及びインナーパネルの少なくとも一方である、[1]~[9]のいずれか1つに記載の自動車用ドア。
[11] [1]~[10]のいずれか1つに記載の自動車用ドアの製造方法であって、前記樹脂コーティング層を加熱し、加熱された前記樹脂コーティング層が前記ガラス部材と前記樹脂部材の間に介在するように前記ガラス部材と前記樹脂部材を圧着することにより、前記ガラス部材と前記樹脂部材を接合することを含む、自動車用ドアの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、ガラス部材と樹脂部材の接合強度が高く且つ簡便な方法で自動車用ドアを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本開示の一実施形態に係る自動車用バックドアの概略斜視図である。
図2図2は、図1中のA-A線断面図である。
図3図3は、一実施形態の複合積層体の概略断面図である。
図4図4は、他の実施形態の複合積層体の概略断面図である。
図5図5は、ガラス部材と樹脂部材とが樹脂コーティング層を介して接合された状態の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本開示の実施形態について図面を参照して以下に説明する。
【0012】
本開示において、接合とは、物と物を繋ぎ合わせることを意味し、接着及び溶着はその下位概念である。接着とは、テープ、接着剤などの有機材料(硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等)を介して、2つの被着材(接着しようとするもの)を接合状態とすることを意味する。溶着とは、被着材である熱可塑性樹脂等の表面を熱によって溶融し、接触加圧と冷却により分子拡散による絡み合いと結晶化で接合状態とすることを意味する。
【0013】
本開示において、「(メタ)アクリロイル」とは、アクリロイル又はメタクリロイルを意味する。同様に、「(メタ)アクリル」とは、アクリル又はメタクリルを意味し、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート又はメタクリレートを意味する。
【0014】
本開示において、「常温」とは、25±5℃の範囲内の一般的な室温を意味する。
【0015】
[自動車用バックドア]
本開示は、自動車用ドア全般に適用できる技術に関する。即ち、本開示の適用対象には、ガラス部材と樹脂部材との接合部位を含めばいかなるタイプのドアも含まれる。具体的には、本開示の適用対象は、ハッチ型ドアに限られず、スライドドア、ガルウインドドア、観音開き型のドアなどのあらゆる自動車用ドアも本開示の適用対象となる。以下では、これらのドアの中でも特に、ハッチ型ドアの1種であるバックドアについて詳細に説明する。
図1は、本開示の一実施形態に係る自動車用バックドアの概略斜視図である。本開示では「自動車用バックドア」を単に「バックドア」とも呼ぶ。また、本開示(図面)に示す車長方向とは車両の進行方向(通常は長手方向)を意味し、車高方向とは鉛直方向を意味し、車幅方向とは車長方向と車高方向のいずれに対しても垂直な方向を意味する。
【0016】
図1に示すように、バックドア10は、ハッチバック式自動車の後部荷室への荷物の積み込み及び積み下ろしの際に開閉して使用されるドアである。バックドア10は、ガラス部材を接合する枠体としての樹脂製アウターパネル12と、アウターパネル12の車体室内側に取り付けられたインナーパネル(図示せず)と、アウターパネル12の空洞部Cを覆うようにアウターパネル12の車体室外側に取り付けられたリアガラス14とから構成されている。なお、図1に示す例は、枠体であるアウターパネル12全体が樹脂製の場合であるが、本開示はこれに限られない。すなわち、本開示には、枠体のうちガラス部材(リアガラス14)と接合される部分だけが樹脂部材であってその他の部分が樹脂以外の部材(例えば金属製)からなる場合も含まれる。
【0017】
アウターパネル12は、車高方向の最も下側に位置する第1のパネル部分12aと、第1のパネル部分12aの車高方向上側に位置する第2のパネル部分12bと、車高方向の最も上側に位置する第3のパネル部分12cと、車幅方向の各側で、第2のパネル部分12bと第3のパネル部分12cとの間に位置する一対のテールランプ12d、12dと、を含み、テールランプ12d、12dは、第4のパネル部材12e及び第5のパネル部材12fによって取り囲まれている。そして、第2のパネル部分12b、第3のパネル部分12c、及び第4のパネル部分12eにより、リアガラス14を嵌め込むための空洞部Cが区画形成されている。
【0018】
インナーパネルは、図示しないが、例えば補強材として用いられ、種々の装備品を取り付けるために複雑な凹凸形状をなすパネルである。インナーパネルは樹脂製であっても金属製であっても、またそれらの組み合わせであってもよい。
【0019】
リアガラス14は、例えば、ガラスの結露や凍結を取り除く装置であるデフォッガや、様々な周波数帯の電波を受信可能なアンテナ導体が取り付けられたガラス部品である。なお、図1においてデフォッガ及びアンテナ導体は示していない。
【0020】
図2は、図1中のA-A線断面図である。図2に示すように、リアガラス14は、第2のパネル部分12bのフランジ部分F1と、第3のパネル部分12cのフランジ部分F2とに、後述する樹脂コーティング層を介して接合される。なお、リアガラス14と接合するフランジ部分はこれらに限られず、図2では示していないが、第4のパネル部分12eにも同様に設けられている。その結果、空洞部Cを取り囲む、第2~第4のパネル部分12b、12c、12eのいずれにおいても空洞部C側に連続的にフランジが形成されており、これらのフランジ上に、リアガラス14の全ての縁部が樹脂コーティング層を介して接合されている。
【0021】
リアガラスとアウターパネルとは以下説明する樹脂コーティング層を介して接合されている。樹脂コーティング層は、リアガラスに積層されていてもよく、アウターパネルに積層されていてもよく、リアガラス及びアウターパネルの両方に積層されていてもよい。以下では、リアガラスを「ガラス部材2」とも記載し、アウターパネルを「樹脂部材5」とも記載する。
【0022】
[複合積層体]
一実施形態では、1層又は複数層の樹脂コーティング層は、ガラス部材2に積層されて複合積層体1を形成する。図3に、一実施形態の複合積層体1の概略断面図を示す。図3に示す複合積層体1は、ガラス部材2と、ガラス部材2に積層された1層又は複数層の樹脂コーティング層3とを備える。樹脂コーティング層3の少なくとも1層は、再変性-変性ポリフェニレンエーテルを含む樹脂組成物から形成された再変性-変性ポリフェニレンエーテル層31である。
【0023】
樹脂コーティング層3は、ガラス部材2の表面に優れた接合性で形成され、変性ポリフェニレンエーテルとも優れた接合性を発揮する。これにより、ガラス部材2に、変性ポリフェニレンエーテルを含む樹脂部材5に対する優れた接着性(樹脂コーティング層3を介した接合性)が付与される。したがって、樹脂コーティング層3はガラス部材2の接合面の上に配置された、複合積層体1におけるプライマー層であるともいえる。
【0024】
本開示において、プライマー層とは、複合積層体1と樹脂部材5が接合される際に、ガラス部材2と樹脂部材5との間に介在し、ガラス部材2の樹脂部材5に対する接着性(樹脂コーティング層3を介した接合性)を向上させる層を意味する。
【0025】
また、樹脂コーティング層3によりガラス部材2の表面が保護されるため、ガラス部材2の表面への汚れの付着を抑制することができる。そのため、数ヶ月間の長期にわたって保管した場合であっても、樹脂部材5に対する優れた接着性を維持することができる複合積層体1を得ることができる。
【0026】
<ガラス部材2>
ガラス部材2の形状は特に限定されない。ガラス部材の材質としては、例えば、ソーダ石灰ガラス、鉛ガラス、ホウケイ酸ガラス、及び石英ガラスが挙げられる。
【0027】
ガラス部材2の厚さは、強度の観点から、好ましくは0.3mm以上、より好ましくは0.5mm以上である。ガラス部材2の厚さの上限は特に制限されないが、好ましくは30mm以下、より好ましくは10mm以下である。
【0028】
〔表面処理(部)〕
ガラス部材2に樹脂コーティング層3を積層する前に、表面の汚染物の除去及び/又はアンカー効果を目的として、ガラス部材2に表面処理を施すことが好ましい。表面処理により、図3に示すように、ガラス部材2の表面に表面処理部21を形成して、ガラス部材2の表面と、樹脂コーティング層3との接着性を向上させることができる。
【0029】
表面処理としては、例えば、脱脂処理、UVオゾン処理、ブラスト処理、研磨処理、プラズマ処理、コロナ放電処理、レーザー処理、エッチング処理、及びフレーム処理が挙げられる。
【0030】
表面処理としては、ガラス部材2の表面を洗浄する表面処理又は表面に凹凸を付ける表面処理が好ましく、具体的には、脱脂処理、UVオゾン処理、ブラスト処理、研磨処理、プラズマ処理及びコロナ放電処理からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0031】
表面処理は、1種のみであってもよく、2種以上を施してもよい。これらの表面処理の具体的な方法としては、公知の方法を用いることができる。
【0032】
通常、ガラス表面には水酸基が存在すると考えられるが、表面処理によって新たに水酸基が生成され、ガラス部材2の表面の水酸基を増やすことができる。
【0033】
脱脂処理とは、ガラス部材2の表面の油脂などの汚れをアセトン、トルエン等の有機溶剤等で溶かして除去する方法である。
【0034】
UVオゾン処理とは、低圧水銀ランプから発光する短波長の紫外線の持つエネルギーとそれにより発生するオゾン(O)の作用で、表面を洗浄又は改質する方法である。ガラスの場合、表面の有機系不純物が除去される。一般に、低圧水銀ランプを用いた洗浄表面改質装置は、「UVオゾンクリーナー」、「UV洗浄装置」、「紫外線表面改質装置」などと呼ばれている。
【0035】
ブラスト処理としては、例えば、ウェットブラスト処理、ショットブラスト処理、及びサンドブラスト処理が挙げられる。ウェットブラスト処理は、ドライブラスト処理と比べより緻密な面が得られるため好ましい。
【0036】
研磨処理としては、例えば、研磨布を用いたバフ研磨、研磨紙(サンドペーパー)を用いたロール研磨、及び電解研磨が挙げられる。
【0037】
プラズマ処理とは、高圧電源とロッドから作られるプラズマビームを材料表面にぶつけることにより分子を励起させて活性状態とするものである。プラズマ処理としては、例えば、表面に水酸基又はその他の極性基を付与することができる大気圧プラズマ処理が挙げられる。
【0038】
コロナ放電処理とは、高分子フィルムの表面改質に一般に用いられ、電極から放出された電子が表面層の高分子の主鎖又は側鎖を切断し、発生したラジカルが表面に水酸基又はその他の極性基を生成する方法である。
【0039】
レーザー処理とは、レーザー照射によって表面層のみを急速に加熱及び冷却して、材料の表面特性を改善する技術であり、表面の粗面化に有効な方法である。レーザー処理として、公知のレーザー処理技術を使用することができる。
【0040】
エッチング処理としては、例えば、アルカリ法、リン酸-硫酸法、フッ化物法、クロム酸-硫酸法、塩鉄法等の化学的エッチング処理、及び電解エッチング法等の電気化学的エッチング処理が挙げられる。
【0041】
フレーム処理とは、燃焼ガスと空気の混合ガスを燃やすことにより空気中の酸素をプラズマ化させ、生成した酸素プラズマを材料表面に供給することで、材料表面を親水化する方法である。フレーム処理として、公知のフレーム処理技術を使用することができる。
【0042】
<樹脂コーティング層3>
ガラス部材2の上には樹脂コーティング層3が積層されている。樹脂コーティング層3は1層であってもよく、複数層で構成されてもよい。
【0043】
〔再変性-変性ポリフェニレンエーテル層31〕
樹脂コーティング層3の少なくとも1層は、再変性-変性ポリフェニレンエーテルを含む樹脂組成物から形成された再変性-変性ポリフェニレンエーテル層31である。本開示において、再変性-変性ポリフェニレンエーテルとは、後述の変性ポリフェニレンエーテルと熱可塑性エポキシ樹脂との混合物、及び/又は変性ポリフェニレンエーテルと(メタ)アクリル樹脂との混合物を意味する。樹脂コーティング層3が再変性-変性ポリフェニレンエーテル層31を含むことにより、ガラス部材2と樹脂部材5とを樹脂コーティング層3を介して接合することができる。
【0044】
樹脂コーティング層3を、再変性-変性ポリフェニレンエーテル層31と、再変性-変性ポリフェニレンエーテル層31以外の層とを含む複数層で構成し、再変性-変性ポリフェニレンエーテル層31以外の層の少なくとも1層を、熱可塑性エポキシ樹脂を含む樹脂組成物から形成された熱可塑性エポキシ樹脂層32及び硬化性樹脂を含む樹脂組成物から形成された硬化性樹脂層33からなる群より選ばれる少なくとも1種とすることもできる。
【0045】
樹脂コーティング層3が複数層から構成される場合、必須となる再変性-変性ポリフェニレンエーテル層31が、ガラス部材2と反対側の最表面となるように積層されることが好ましい。
【0046】
再変性-変性ポリフェニレンエーテル層31は、変性ポリフェニレンエーテルと熱可塑性エポキシ樹脂との混合物1を含む層及び変性ポリフェニレンエーテルと(メタ)アクリル樹脂との混合物2を含む層からなる群より選ばれる少なくとも1種で構成される。
【0047】
再変性-変性ポリフェニレンエーテル層31は、変性ポリフェニレンエーテルを50~95質量%含むことが好ましく、70~90質量%含むことがより好ましい。
【0048】
(変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE))
変性ポリフェニレンエーテルは、2,6-ジメチルフェニレンオキサイドの重合物であるポリフェニレンエーテル(PPE)と、ポリスチレン(PS)、ポリアミド(PA)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリプロピレン(PP)等とのポリマーアロイである。変性ポリフェニレンエーテルとしては、公知のものを使用することができ、具体的には、SABIC社製NORYLシリーズ(PPE/PS)731、7310、731F、及び7310F、旭化成ケミカルズ株式会社製ザイロンシリーズ(PPE/PS、PP/PPE、PA/PPE、PPS/PPE、及びPPA/PPE)、並びに三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製エピエースシリーズ及びレマロイシリーズ(PPE/PS、及びPPE/PA)が挙げられる。変性ポリフェニレンエーテルは、PPEとPSとのポリマーアロイであることが好ましい。
【0049】
(混合物1)
混合物1は、上記変性ポリフェニレンエーテルと熱可塑性エポキシ樹脂との混合物である。
【0050】
(熱可塑性エポキシ樹脂)
混合物1に用いることのできる熱可塑性エポキシ樹脂は、現場重合型フェノキシ樹脂、現場硬化型フェノキシ樹脂、現場硬化型エポキシ樹脂などとも呼ばれる樹脂であり、2官能エポキシ樹脂と2官能フェノール化合物とが触媒存在下で重付加反応することにより、熱可塑構造、すなわち、リニアポリマー構造を形成する。ここで、リニアポリマーとは、ポリマー分子中に架橋構造を含まず、1次元の直鎖状であるポリマーを意味する。熱可塑性エポキシ樹脂は、架橋構造による3次元ネットワークを構成する硬化性樹脂とは異なり、熱可塑性を有する。
【0051】
(2官能エポキシ樹脂)
2官能エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂、及びビフェニル型エポキシ樹脂が挙げられる。2官能エポキシ樹脂は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。2官能エポキシ樹脂としては、具体的には、三菱ケミカル株式会社製「jER(登録商標)828」、「jER(登録商標)834」、「jER(登録商標)1001」、「jER(登録商標)1004」、「jER(登録商標)1007」、及び「jER(登録商標)YX-4000」が挙げられる。
【0052】
(2官能フェノール化合物)
2官能フェノール化合物としては、例えば、ビスフェノール、及びビフェノールが挙げられる。2官能フェノール化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。2官能フェノール化合物の組み合わせとしては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂とビスフェノールA;ビスフェノールA型エポキシ樹脂とビスフェノールF;ビフェニル型エポキシ樹脂と4,4’-ビフェノール;及びナガセケムテックス株式会社製「WPE190」と「EX-991L」が挙げられる。
【0053】
混合物1は、変性ポリフェニレンエーテルを含む溶液中で、2官能エポキシ樹脂と2官能フェノール化合物とを触媒存在下で重付加反応させることで得ることができる。あるいは、混合物1は、2官能エポキシ樹脂と2官能フェノール化合物とを溶液中の触媒存在下で重付加反応させた後に、変性ポリフェニレンエーテルを混合して得ることもできる。
【0054】
熱可塑性エポキシ樹脂の重付加反応用触媒としては、例えば、トリエチルアミン、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールなどの3級アミン;及びトリフェニルホスフィンなどのリン系化合物が好ましい。
【0055】
混合物1を製造する際に使用する2官能エポキシ樹脂と2官能フェノール化合物の合計量は、変性ポリフェニレンエーテルを100質量部に対して、5~100質量部であることが好ましく、5~60質量部であることがより好ましく、20~40質量部であることがさらに好ましい。
【0056】
(混合物2)
混合物2は、上記変性ポリフェニレンエーテルと(メタ)アクリル樹脂との混合物である。
【0057】
((メタ)アクリル樹脂)
混合物2に用いることのできる(メタ)アクリル樹脂は、(メタ)アクリレートモノマーに由来する単位を25質量%以上含有する樹脂である。(メタ)アクリレートモノマー以外の他のモノマーが共重合されていてもよい。他のモノマーとしては、例えば、スチレン、(メタ)アクリル酸、及び(メタ)アクリルアミドが挙げられる。他のモノマーとしては、スチレン及びメタクリル酸が好ましい。層の強度向上させるために多官能モノマーを共重合させてもよい。
【0058】
((メタ)アクリレートモノマー)
(メタ)アクリレートモノマーとしては、公知の単官能(メタ)アクリレートを使用することができる。単官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2,3-ジブロモプロピル(メタ)アクリレート、及びグリシジル(メタ)アクリレート、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネートが挙げられる。(メタ)アクリレートモノマーは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0059】
混合物2は、変性ポリフェニレンエーテルを含む溶液中で、(メタ)アクリレートモノマー及び任意に他のモノマーをラジカル重合させることで得ることができる。あるいは、混合物2は、変性ポリフェニレンエーテルと、(メタ)アクリル樹脂とを常法により混合して得ることもできる。
【0060】
混合物2を製造する際に使用する(メタ)アクリル樹脂の合計量は、変性ポリフェニレンエーテルを100質量部に対して、5~100質量部であることが好ましく、5~60質量部であることがより好ましく、20~40質量部であることがさらに好ましい。
【0061】
〔熱可塑性エポキシ樹脂層32〕
樹脂コーティング層3を、再変性-変性ポリフェニレンエーテル層31と、再変性-変性ポリフェニレンエーテル層31以外の層とを含む複数層で構成し、再変性-変性ポリフェニレンエーテル層31以外の層の少なくとも1層を、熱可塑性エポキシ樹脂を含む樹脂組成物から形成された熱可塑性エポキシ樹脂層32で構成することができる。
【0062】
熱可塑性エポキシ樹脂を含む樹脂組成物は、熱可塑性エポキシ樹脂を40質量%以上含むことが好ましく、70質量%以上含むことがより好ましい。
【0063】
(熱可塑性エポキシ樹脂)
熱可塑性エポキシ樹脂は、混合物1の製造に使用する熱可塑性エポキシ樹脂と同様に、2官能エポキシ樹脂と2官能フェノール化合物とが触媒存在下で重付加反応することにより、熱可塑構造、すなわち、リニアポリマー構造を形成する樹脂であり、架橋構造による3次元ネットワークを構成する硬化性樹脂とは異なり、熱可塑性を有する。熱可塑性エポキシ樹脂は、このような特徴を有していることにより、現場重合によって、ガラス部材2との接合性に優れ、かつ、再変性-変性ポリフェニレンエーテル層31との接合性に優れた熱可塑性エポキシ樹脂層32を形成することができる。したがって、複合積層体1を製造する際に、再変性-変性ポリフェニレンエーテル層31より下層(ガラス部材2側)に、熱可塑性エポキシ樹脂層32を形成することが好ましい。熱可塑性エポキシ樹脂層32は、熱可塑性エポキシ樹脂のモノマーを含む組成物を重付加反応させることにより形成することができる。
【0064】
熱可塑性エポキシ樹脂のモノマーを含む組成物の重付加反応は、後述する官能基含有層4の表面上で行うことが好ましい。このような態様で形成された熱可塑性エポキシ樹脂層32を含む樹脂コーティング層3は、ガラス部材2との接合性に優れ、かつ、後述する樹脂部材5との接合性に優れる。
【0065】
熱可塑性エポキシ樹脂のモノマーを含む組成物を用いて熱可塑性エポキシ樹脂層32を形成する方法は、特に限定されるものではなく、例えば、スプレー塗布法、及び浸漬法が挙げられる。
【0066】
熱可塑性エポキシ樹脂のモノマーを含む組成物は、熱可塑性エポキシ樹脂の重付加反応を十分に進行させ、所望の樹脂コーティング層を形成させるために、溶剤を含んでもよく、必要に応じて着色剤などの添加剤を含んでいてもよい。この場合、組成物の溶剤以外の成分中、熱可塑性エポキシ樹脂のモノマーが主成分であることが好ましい。主成分とは、熱可塑性エポキシ樹脂のモノマーの含有率が50~100質量%であることを意味する。熱可塑性エポキシ樹脂のモノマーの含有率は、好ましくは60質量%以上、より好ましくは80質量%以上である。
【0067】
熱可塑性エポキシ樹脂を得るためのモノマーは、2官能エポキシ樹脂と2官能フェノール性化合物との組み合わせが好ましい。
【0068】
重付加反応は、反応化合物の種類などにもよるが、温度120~200℃で、5~90分間加熱して行うことが好ましい。具体的には、組成物をコーティングした後、適宜溶剤を揮発させ、その後、加熱して重付加反応を行うことにより、熱可塑性エポキシ樹脂層を形成することができる。
【0069】
〔硬化性樹脂層33〕
樹脂コーティング層3を、再変性-変性ポリフェニレンエーテル層31と、再変性-変性ポリフェニレンエーテル層31以外の層とを含む複数層で構成し、再変性-変性ポリフェニレンエーテル層31以外の層の少なくとも1層を、硬化性樹脂を含む樹脂組成物から形成された硬化性樹脂層33で構成することもできる。
【0070】
硬化性樹脂を含む樹脂組成物は、硬化性樹脂の硬化反応を十分に進行させ、所望の樹脂コーティング層を形成させるため、溶剤を含んでもよく、必要に応じて着色剤などの添加剤を含んでいてもよい。この場合、樹脂組成物の溶剤以外の成分中、硬化性樹脂が主成分であることが好ましい。主成分とは、硬化性樹脂の含有率が40~100質量%であることを意味する。硬化性樹脂の含有率は、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上である。
【0071】
硬化性樹脂としては、例えば、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、及び不飽和ポリエステル樹脂が挙げられる。
【0072】
硬化性樹脂層33は、これらの樹脂のうちの1種で形成されていてもよく、2種以上が混合されて形成されていてもよい。硬化性樹脂層33を複数層で構成し、各層を異なる種類の硬化性樹脂を含む樹脂組成物で形成することもできる。
【0073】
硬化性樹脂のモノマーを含む組成物を用いて硬化性樹脂層33を形成する方法は、特に限定されるものではなく、例えば、スプレー塗布法、及び浸漬法が挙げられる。
【0074】
本開示において、硬化性樹脂とは架橋硬化する樹脂を意味し、加熱硬化タイプに限られず、常温硬化タイプ及び光硬化タイプも包含される。光硬化タイプは、可視光又は紫外線の照射によって短時間での硬化も可能である。光硬化タイプを、加熱硬化タイプ及び/又は常温硬化タイプと併用してもよい。光硬化タイプとしては、例えば、昭和電工株式会社製「リポキシ(登録商標)LC-760」、「リポキシ(登録商標)LC-720」などのビニルエステル樹脂が挙げられる。
【0075】
(ウレタン樹脂)
ウレタン樹脂は、通常、イソシアネート化合物のイソシアナト基とポリオール化合物の水酸基との反応によって得られる樹脂であり、ASTM D16において、「ビヒクル不揮発成分10重量%以上のポリイソシアネートを含む塗料」と定義されるものに該当するウレタン樹脂が好ましい。ウレタン樹脂は、一液型であってもよく、二液型であってもよい。
【0076】
一液型ウレタン樹脂としては、例えば、油変性型(不飽和脂肪酸基の酸化重合により硬化するもの)、湿気硬化型(イソシアナト基と空気中の水との反応により硬化するもの)、ブロック型(ブロック剤が加熱により解離し再生したイソシアナト基と水酸基が反応して硬化するもの)、及びラッカー型(溶剤が揮発して乾燥することにより硬化するもの)が挙げられる。これらの中でも、取り扱い容易性の観点から、湿気硬化型一液ウレタン樹脂が好適に用いられる。湿気硬化型一液ウレタン樹脂としては、具体的には、昭和電工株式会社製「UM-50P」が挙げられる。
【0077】
二液型ウレタン樹脂としては、例えば、触媒硬化型(イソシアナト基と空気中の水等とが触媒存在下で反応して硬化するもの)、及びポリオール硬化型(イソシアナト基とポリオール化合物の水酸基との反応により硬化するもの)が挙げられる。
【0078】
ポリオール硬化型におけるポリオール化合物としては、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、及びフェノール樹脂が挙げられる。
【0079】
ポリオール硬化型におけるイソシアナト基を有するイソシアネート化合物としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、テトラメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート等の脂肪族イソシアネート;2,4-若しくは2,6-トリレンジイソシアネート(TDI)又はその混合物、p-フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)又はその多核体混合物であるポリメリックMDI等の芳香族イソシアネート;及びイソホロンジイソシアネート(IPDI)等の脂環族イソシアネートが挙げられる。
【0080】
ポリオール硬化型の二液型ウレタン樹脂におけるポリオール化合物とイソシアネート化合物の配合比は、水酸基/イソシアナト基のモル当量比が0.7~1.5の範囲であることが好ましい。
【0081】
二液型ウレタン樹脂において使用されるウレタン化触媒としては、例えば、トリエチレンジアミン、テトラメチルグアニジン、N,N,N’,N’-テトラメチルヘキサン-1,6-ジアミン、ジメチルエーテルアミン、N,N,N’,N’’,N’’-ペンタメチルジプロピレン-トリアミン、N-メチルモルフォリン、ビス(2-ジメチルアミノエチル)エーテル、ジメチルアミノエトキシエタノール、トリエチルアミン等のアミン系触媒;及びジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズチオカルボキシレート、ジブチルスズジマレエート等の有機スズ系触媒が挙げられる。
【0082】
ポリオール硬化型においては、一般に、ポリオール化合物100質量部に対して、ウレタン化触媒が0.01~10質量部配合されることが好ましい。
【0083】
(エポキシ樹脂)
エポキシ樹脂は、1分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有する樹脂である。エポキシ樹脂の硬化前のプレポリマーとしては、例えば、エーテル系ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ポリフェノール型エポキシ樹脂、脂肪族型エポキシ樹脂、エステル系の芳香族エポキシ樹脂、環状脂肪族エポキシ樹脂、及びエーテル・エステル系エポキシ樹脂が挙げられる。これらの中でも、ビスフェノールA型エポキシ樹脂が好適に用いられる。エポキシ樹脂は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0084】
ビスフェノールA型エポキシ樹脂としては、具体的には、三菱ケミカル株式会社製「jER(登録商標)828」、及び「jER(登録商標)1001」が挙げられる。
【0085】
ノボラック型エポキシ樹脂としては、具体的には、ザ・ダウ・ケミカル・カンパニー製「D.E.N.(登録商標)438(登録商標)」が挙げられる。
【0086】
エポキシ樹脂に使用される硬化剤としては、例えば、脂肪族アミン、芳香族アミン、酸無水物、フェノール樹脂、チオール類、イミダゾール類、及びカチオン触媒が挙げられる。硬化剤を長鎖脂肪族アミン又は/及びチオール類と併用することにより、伸び率が大きく、耐衝撃性に優れる樹脂コーティング層3を形成することができる。
【0087】
チオール類の具体例としては、後述する官能基含有層4を形成するためのチオール化合物として例示するものと同じ化合物が挙げられる。これらの中でも、樹脂コーティング層3の伸び率及び耐衝撃性の観点から、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート)(例えば、昭和電工株式会社製「カレンズMT(登録商標)PE1」)が好ましい。
【0088】
(ビニルエステル樹脂)
ビニルエステル樹脂は、ビニルエステル化合物を重合性モノマー(例えば、スチレン)に溶解したものである。ビニルエステル樹脂は、一般にエポキシ(メタ)アクリレート樹脂とも呼ばれるが、本開示において、ビニルエステル樹脂にはウレタン(メタ)アクリレート樹脂も包含される。
【0089】
ビニルエステル樹脂としては、例えば、「ポリエステル樹脂ハンドブック」(日刊工業新聞社、1988年発行)、「塗料用語辞典」(色材協会、1993年発行)等に記載されているものを使用することができる。ビニルエステル樹脂としては、具体的には、昭和電工株式会社製「リポキシ(登録商標)R-802」、「リポキシ(登録商標)R-804」、及び「リポキシ(登録商標)R-806」が挙げられる。
【0090】
ウレタン(メタ)アクリレート樹脂としては、例えば、イソシアネート化合物とポリオール化合物とを反応させた後、水酸基含有(メタ)アクリルモノマー(及び必要に応じて水酸基含有アリルエーテルモノマー)を反応させて得られるラジカル重合性不飽和基含有オリゴマーが挙げられる。ウレタン(メタ)アクリレート樹脂としては、具体的には、昭和電工株式会社製「リポキシ(登録商標)R-6545」が挙げられる。
【0091】
ビニルエステル樹脂は、有機過酸化物等の触媒存在下での加熱によるラジカル重合で硬化させることができる。
【0092】
有機過酸化物としては、例えば、ケトンパーオキサイド類、パーオキシケタール類、ハイドロパーオキサイド類、ジアリルパーオキサイド類、ジアシルパーオキサイド類、パーオキシエステル類、及びパーオキシジカーボネート類が挙げられる。これらの有機過酸化物をコバルト金属塩等と組み合わせることにより、常温での硬化も可能となる。
【0093】
コバルト金属塩としては、例えば、ナフテン酸コバルト、オクチル酸コバルト、及び水酸化コバルトが挙げられる。これらの中でも、ナフテン酸コバルト及びオクチル酸コバルトが好ましい。
【0094】
(不飽和ポリエステル樹脂)
不飽和ポリエステル樹脂は、ポリオール化合物と不飽和多塩基酸(及び必要に応じて飽和多塩基酸)とのエステル化反応による縮合生成物(不飽和ポリエステル)を重合性モノマー(例えば、スチレン)に溶解したものである。
【0095】
不飽和ポリエステル樹脂としては、例えば、「ポリエステル樹脂ハンドブック」(日刊工業新聞社、1988年発行)、「塗料用語辞典」(色材協会、1993年発行)等に記載されているものを使用することができる。不飽和ポリエステル樹脂としては、具体的には、昭和電工株式会社製「リゴラック(登録商標)」が挙げられる。
【0096】
不飽和ポリエステル樹脂は、ビニルエステル樹脂と同様の触媒存在下での加熱によるラジカル重合で硬化させることができる。
【0097】
<官能基含有層4>
図4に示すように、ガラス部材2と樹脂コーティング層3との間に、ガラス部材2と樹脂コーティング層3に接して積層された一層又は複数層の官能基含有層4を設けることもできる。官能基含有層4を設ける場合、官能基含有層4が有する官能基が、ガラス部材2の表面の水酸基及び樹脂コーティング層3を構成する樹脂が有する官能基と、それぞれ反応して化学結合を形成することにより、ガラス部材2の表面と、樹脂コーティング層3との接着性を向上させることができ、その結果、複合積層体1と接合対象である樹脂部材5との接着性(樹脂コーティング層3を介した接合性)も向上させることができる。
【0098】
官能基含有層4は、二次元に広がったシランカップリング剤処理層表面の官能基の少なくとも一部に、イソシアネート化合物、チオール化合物、エポキシ化合物、及びアミノ化合物からなる群より選ばれる一種以上の化合物を反応させることにより、有機材料が有する官能基と化学結合可能な官能基が三次元方向に延びる官能基含有構造とすることができる。イソシアネート化合物、チオール化合物、エポキシ化合物、及びアミノ化合物からなる群より選ばれる一種以上の化合物は、シランカップリング剤処理層表面の官能基と反応可能な基及び樹脂コーティング層を構成する樹脂が有する官能基と反応可能な基を有する化合物であることが好ましい。
【0099】
〔処理〕
官能基含有層4は、ガラス部材2の表面に下記(1’)~(7’)からなる群より選ばれる少なくとも1種の処理を施すことにより形成されたものであることが好ましい。
(1’)エポキシ基、アミノ基、(メタ)アクリロイル基及びメルカプト基からなる群より選ばれる少なくとも1つの官能基を有するシランカップリング剤を用いた処理
(2’)アミノ基を有するシランカップリング剤を用いた処理後に、エポキシ化合物及びチオール化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を付加する処理
(3’)メルカプト基を有するシランカップリング剤を用いた処理後に、エポキシ化合物、アミノ化合物、イソシアネート化合物、(メタ)アクリロイル基及びエポキシ基を有する化合物、並びに(メタ)アクリロイル基及びアミノ基を有する化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を付加する処理
(4’)(メタ)アクリロイル基を有するシランカップリング剤を用いた処理後に、チオール化合物を付加する処理
(5’)エポキシ基を有するシランカップリング剤を用いた処理後に、アミノ基及び(メタ)アクリロイル基を有する化合物、アミノ化合物、並びにチオール化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を付加する処理
(6’)イソシアネート化合物を用いた処理
(7’)チオール化合物を用いた処理
【0100】
〔官能基〕
官能基含有層4は、処理により導入された官能基を含むことが好ましく、具体的には、下記(1)~(7)からなる群より選ばれる少なくとも1つの官能基を含むことが好ましい。
(1)シランカップリング剤由来であって、エポキシ基、アミノ基、(メタ)アクリロイル基及びメルカプト基からなる群より選ばれる少なくとも1つの官能基
(2)シランカップリング剤由来のアミノ基に、エポキシ化合物及びチオール化合物から選ばれる少なくとも1種が反応して生成した官能基
(3)シランカップリング剤由来のメルカプト基に、エポキシ化合物、アミノ化合物、イソシアネート化合物、(メタ)アクリロイル基及びエポキシ基を有する化合物、並びに(メタ)アクリロイル基及びアミノ基を有する化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種が反応して生成した官能基
(4)シランカップリング剤由来の(メタ)アクリロイル基に、チオール化合物が反応して生成した官能基
(5)シランカップリング剤由来のエポキシ基に、アミノ基及び(メタ)アクリロイル基を有する化合物、アミノ化合物、並びにチオール化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種が反応して生成した官能基
(6)イソシアネート化合物由来のイソシアナト基
(7)チオール化合物由来のメルカプト基
【0101】
ガラス部材2に官能基含有層4を形成する前に、ガラス部材2の表面に上述した表面処理部21を設けることもできる。表面処理としては、脱脂処理、UVオゾン処理、ブラスト処理、研磨処理、プラズマ処理及びコロナ放電処理からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。表面処理部21の微細な凹凸によるアンカー効果と、官能基含有層4が有する官能基がガラス部材2の表面の水酸基及び樹脂コーティング層3を構成する樹脂が有する官能基のそれぞれと反応して形成する化学結合との相乗効果によって、ガラス部材2の表面と樹脂コーティング層3との接着性、及び複合積層体1と接合対象である樹脂部材5との接着性(樹脂コーティング層3を介した接合性)を更に向上させることもできる。
【0102】
シランカップリング剤、イソシアネート化合物、チオール化合物などを用いて官能基含有層4を形成する方法は、特に限定されるものではなく、例えば、スプレー塗布法、及び浸漬法が挙げられる。具体的には、ガラス部材2を、濃度5~50質量%のシランカップリング剤等の常温~100℃の溶液中に1分~5日間浸漬した後、常温~100℃で1分~5時間乾燥させることにより官能基含有層4を形成することができる。
【0103】
〔シランカップリング剤〕
シランカップリング剤としては、例えば、ガラス繊維の表面処理等に用いられる公知のものを使用することができる。シランカップリング剤を加水分解させて生成したシラノール基、又はシラノール基が縮合して生成したオリゴマー化物のシラノール基が、ガラス部材2の表面に存在する水酸基と反応して結合することにより、樹脂コーティング層3と化学結合可能なシランカップリング剤の構造に基づく官能基を、ガラス部材2に対して付与する(導入する)ことができる。
【0104】
シランカップリング剤は特に限定されないが、例えば、エポキシ基を有するシランカップリング剤、アミノ基を有するシランカップリング剤、メルカプト基を有するシランカップリング剤、又は(メタ)アクリロイル基を有するシランカップリング剤を使用することができる。シランカップリング剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0105】
エポキシ基を有するシランカップリング剤としては、例えば、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、及び3-グリシドキシプロピルトリエトキシシランが挙げられる。
【0106】
アミノ基を有するシランカップリング剤としては、例えば、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、及び3-アミノプロピルトリエトキシシランが挙げられる。
【0107】
メルカプト基を有するシランカップリング剤としては、例えば、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、及びジチオールトリアジンプロピルトリエトキシシランが挙げられる。
【0108】
(メタ)アクリロイル基を有するシランカップリング剤としては、例えば、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、及び3-アクリロキシプロピルトリメトキシシランが挙げられる。
【0109】
その他の有効なシランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン等のビニル基を有するシランカップリング剤、3-イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(ビニルベンジル)-2-アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩、トリス(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、及び3-ウレイドプロピルトリアルコキシシランが挙げられる。
【0110】
〔エポキシ化合物〕
エポキシ化合物としては、公知のエポキシ化合物を使用することができる。エポキシ化合物は、多価エポキシ化合物、及びエポキシ基以外にアルケニル基を有する化合物が好ましい。エポキシ化合物としては、特に限定されるものではなく、例えば、末端基がラジカル反応性基である(メタ)アクリロイル基又はアリル基を有するグリシジル(メタ)アクリレート及びアリルグリシジルエーテル、末端基がエポキシ基である1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、及び分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂が挙げられる。エポキシ化合物は、脂環式エポキシ化合物であってもよい。脂環式エポキシ樹脂としては、例えば、3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレート(株式会社ダイセル製サイクロ(登録商標)マーM100)、1,2-エポキシ-4-ビニルシクロヘキサン(株式会社ダイセル製セロキサイド2000)、及び3’,4’-エポキシシクロヘキシルメチル3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(株式会社ダイセル製セロキサイド2021P)が挙げられる。
【0111】
〔チオール化合物〕
チオール化合物は、チオール化合物中のメルカプト基が、ガラス部材2の表面に存在する水酸基と反応して結合することにより、樹脂コーティング層3又は樹脂部材5と化学結合可能なチオール化合物の構造に基づく官能基を、ガラス部材2に対して付与する(導入する)ことができる。
【0112】
チオール化合物としては、特に限定されるものではなく、例えば、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)(例えば、三菱ケミカル株式会社製「QX40」、東レ・ファインケミカル株式会社製「QE-340M」)、エーテル系一級チオール(例えば、コグニス(Cognis)社製「カップキュア3-800」)、1,4-ビス(3-メルカプトブチリルオキシ)ブタン(例えば、昭和電工株式会社製「カレンズMT(登録商標)BD1」)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート)(例えば、昭和電工株式会社製「カレンズMT(登録商標)PE1」)、及び1,3,5-トリス(3-メルカプトブチルオキシエチル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン(例えば、昭和電工株式会社製「カレンズMT(登録商標)NR1」)が挙げられる。
【0113】
〔アミノ化合物〕
アミノ化合物としては、公知のアミノ化合物を使用できる。アミノ化合物は、多官能アミノ化合物、及びアミノ基(アミド基を含む)以外にアルケニル基を有する化合物が好ましい。アミノ化合物としては、特に限定されるものではなく、例えば、末端がアミノ基となるエチレンジアミン、1,2-プロパンジアミン、1,3-プロパンジアミン、1,4-ジアミノブタン、ヘキサメチレンジアミン、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジアミン、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、4-アミノメチルオクタメチレンジアミン、3,3’-イミノビス(プロピルアミン)、3,3’-メチルイミノビス(プロピルアミン)、ビス(3-アミノプロピル)エーテル、1,2-ビス(3-アミノプロピルオキシ)エタン、p-メンタン-1,8-ジアミン、イソホロンジアミン、ビスアミノメチルノルボルナン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(4-アミノ-3-メチルシクロヘキシル)メタン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、3,9-ビス(3-アミノプロピル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、及びアミノエチルピペラジン、並びに末端基がラジカル反応性基である(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリルアミドが挙げられる。
【0114】
〔イソシアネート化合物〕
イソシアネート化合物は、イソシアネート化合物中のイソシアナト基が、ガラス部材2の表面に存在する水酸基と反応して結合することにより、樹脂コーティング層3と化学結合可能なイソシアネート化合物の構造に基づく官能基を、ガラス部材2に対して付与する(導入する)ことができる。
【0115】
イソシアネート化合物としては、特に限定されるものではなく、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)等の末端基がイソシアナト基である多官能イソシアネート;及び2-イソシアナトエチルメタクリレート(例えば、昭和電工株式会社製「カレンズMOI(登録商標)」)、2-イソシアナトエチルアクリレート(例えば、昭和電工株式会社製「カレンズAOI(登録商標)」、「AOI-VM(登録商標)」)、1,1-(ビスアクリロイルオキシエチル)エチルイソシアネート(例えば、昭和電工株式会社製「カレンズBEI(登録商標)」)等の末端基がラジカル反応性基であるイソシアネート化合物が挙げられる。
【0116】
[自動車用バックドア10(ガラス-変性ポリフェニレンエーテル接合体)]
図5は、ガラス部材2と樹脂部材5とが樹脂コーティング層3を介して接合された状態の概略断面図であり、例えば図1の丸囲み部分Xを示す図である。図5に示す自動車用バックドア(ガラス-ポリ変性フェニレンエーテル接合体)10では、複合積層体1の樹脂コーティング層3側の面と樹脂部材5とが接合されている。
【0117】
上述したように、熱可塑性エポキシ樹脂層32を含む樹脂コーティング層3は、ガラス部材2との接合性に優れ、かつ、樹脂部材5との接合性に優れるため、ガラス部材2と樹脂部材5とが高い強度で接合されたバックドア10を製造することができる。したがって、本開示の自動車用ドアによれば、ガラス材料と樹脂材料との間において優れた接合強度を実現することができる。
【0118】
樹脂コーティング層3の厚さ(乾燥厚さ)は、樹脂部材5の樹脂の種類及び接合面積にもよるが、樹脂部材5との優れた接合強度を得る観点、及び材料間の熱収縮の違いにより界面の樹脂端部に応力が集中することを抑制する観点から、1μm~10mmであることが好ましく、より好ましくは20μm~3mm、更に好ましくは40μm~1mmである。樹脂コーティング層3が複数層の場合、樹脂コーティング層3の厚さ(乾燥後の厚さ)は、各層の合計の厚さである。
【0119】
<樹脂部材5>
樹脂部材5は変性ポリフェニレンエーテルを含む。変性ポリフェニレンエーテルは、特に限定されるものではなく、例えば、再変性-変性ポリフェニレンエーテル層31について上述した、SABIC社製NORYLシリーズ(PPE/PS)731、7310、731F、及び7310F、旭化成ケミカルズ株式会社製ザイロンシリーズ(PPE/PS、PP/PPE、PA/PPE、PPS/PPE、及びPPA/PPE)、並びに三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製エピエースシリーズ及びレマロイシリーズ(PPE/PS、及びPPE/PA)が挙げられる。
【0120】
[自動車用バックドア10(ガラス-変性ポリフェニレンエーテル接合体)の製造方法]
一実施形態の自動車用バックドア10の製造方法としては、複合積層体1の樹脂コーティング層3に、熱風溶着法、熱板溶着法、超音波溶着法、振動溶着法、電磁誘導法、高周波法、レーザー法、熱板溶着法、及び熱プレス法からなる群より選ばれる少なくとも1種の方法で、樹脂部材5を接合する方法が挙げられる。樹脂部材5は、複合積層体1とは別個に作製することができる。
【0121】
別の実施形態の自動車用バックドア10の製造方法としては、複合積層体1の樹脂コーティング層3の上に、射出成形、プレス成形、フィラメントワインディング成形、ハンドレイアップ成形、トランスファー成形等によって樹脂部材5を成形し、その際に、複合積層体1の樹脂コーティング層3側の面と、樹脂部材5とを接合させる方法が挙げられる。
【0122】
製造装置への要求の軽減、製造工程の簡略化、及び樹脂部材の設計自由度の観点から、自動車用バックドア10は、熱プレス法により製造されることが有利である。具体的には、樹脂コーティング層3を加熱し、加熱された樹脂コーティング層3がガラス部材2と樹脂部材5の間に介在するようにガラス部材2と樹脂部材5を圧着することにより、自動車用バックドア10を製造することができる。特に、上記のような熱プレス法による製造工程の簡略化により、本開示の製造方法によれば、自動車用ドアを簡便に得ることができる。
【0123】
樹脂コーティング層3の加熱温度は、接合させる樹脂の融点又は軟化点に依存し、100℃~350℃であることが好ましい。融点を持つ樹脂コーティング層3は、加熱温度を融点±5℃とすることが好ましく、軟化点を持つ樹脂コーティング層3は、加熱温度を軟化点±15℃にすることが好ましい。圧着時の圧力は、0.005MPa~10MPaであることが好ましい。
【0124】
別の実施形態では、ガラス部材2ではなく、樹脂部材5がその上に積層された1層又は複数層の樹脂コーティング層3’を有することで、複合積層体1’が形成されてもよい。樹脂コーティング層3’は、上述した樹脂コーティング層3と同様の材料を使用して樹脂部材5の表面に形成することができる。この実施形態において、再変性-変性ポリフェニレンエーテル層31は、樹脂部材5に直接に接するように形成されることが好ましい。したがって、樹脂コーティング層3’が複数層からなる場合、再変性-変性ポリフェニレンエーテル層31を樹脂部材5の上に形成した後、その他の層、例えば硬化性樹脂層33を再変性-変性ポリフェニレンエーテル層31の上に積層することが好ましい。この実施形態において、ガラス部材2と樹脂部材5の接合は、上述の「ガラス部材2」をこの実施形態における「樹脂部材5」に、上述の「樹脂部材5」をこの実施形態における「ガラス部材2」に、上述の「複合積層体1」を「複合積層体1’」に、それぞれ読み替えることより実施することができる。
【0125】
更に別の実施形態では、ガラス部材2及び樹脂部材5に上述の樹脂コーティング層3及び3’がそれぞれ積層されて複合積層体1及び1’が形成されており、複合積層体1の樹脂コーティング層3と複合積層体1’の樹脂コーティング層3’とが溶着されている。これにより、ガラス部材2と樹脂部材5とが樹脂コーティング層3、3’を介して接合される。この実施形態において、自動車用バックドア10は、熱風溶着法、熱板溶着法、超音波溶着法、振動溶着法、電磁誘導法、高周波法、レーザー法、熱板溶着法、及び熱プレス法からなる群より選ばれる少なくとも1種の方法、好ましくは熱プレス法を用いて、複合積層体1の樹脂コーティング層3と複合積層体1’の樹脂コーティング層3’とを溶着することによって製造することができる。
【0126】
別の実施形態において、樹脂コーティング層3の少なくとも1層は、ガラス部材2とは別の基材の上で形成されたフィルムに由来する層である。フィルムの少なくとも1層は、上記の再変性-変性ポリフェニレンエーテル層31である。
【0127】
フィルムは1層であってもよく、複数層で構成されてもよい。フィルムを、上記の再変性-変性ポリフェニレンエーテル層31と、当該再変性-変性ポリフェニレンエーテル層31以外の層とを含む複数層で構成し、当該再変性-変性ポリフェニレンエーテル層31以外の層を、上記の熱可塑性エポキシ樹脂層32及び上記の硬化性樹脂層33から選ばれる少なくとも1種とすることもできる。この場合、フィルムの再変性-変性ポリフェニレンエーテル層31が樹脂部材5に接合され、フィルムの再変性-変性ポリフェニレンエーテル層31以外の層が、表面処理を有する若しくは有さないガラス部材2又は官能基含有層4に接合される。
【0128】
フィルムは、例えば、以下の手順で作製することができる。(1)変性ポリフェニレンエーテルと熱可塑性エポキシ樹脂との混合物である混合物1、又は(2)変性ポリフェニレンエーテルと(メタ)アクリル樹脂との混合物である混合物2と、必要に応じて溶剤とを含むフィルム前駆組成物1を用意する。混合物1及び混合物2は、再変性-変性ポリフェニレンエーテル層31について説明したものと同じである。フィルム前駆組成物1を、シリコーン系などの剥離コーティングを有する離型フィルム又は離型紙の上に、乾燥後の厚さが1μm~10mmのフィルム状になるように、塗布、噴霧、又は押出積層する。塗布は、バーコーター、ロールコーターなどを用いて行うことができる。噴霧は、スプレーコーターなどを用いて行うことができる。押出積層は、単軸又は2軸押出装置を用いて行うことができる。その後、室温~40℃の環境下で放置し溶剤を揮発させることにより、フィルムを離型フィルム又は離型紙の上に形成することできる。フィルムを形成した後に、離型フィルム又は離型紙をフィルムのキャリア(支持体)としてフィルムの取り扱いに利用してもよく、フィルムを離型フィルム又は離型紙から剥がして自立フィルムを得てもよい。
【0129】
フィルムの再変性-変性ポリフェニレンエーテル層31には、混合物1又は混合物2の構成単位となる成分(例えば、2官能エポキシ樹脂、2官能フェノール化合物、(メタ)アクリレートモノマーなど)が、完全に反応した状態で含まれてもよく、それらの一部が未反応の状態で含まれてもよい。後者の場合、ガラス部材2又は樹脂部材5とフィルム(樹脂コーティング層3)を接合する際に、未反応の成分を更に反応させてもよい。この未反応の成分の反応に伴って、フィルム(樹脂コーティング層3)とガラス部材2又は樹脂部材5との接合強度を高めることができる場合がある。
【0130】
再変性-変性ポリフェニレンエーテル層31と、当該再変性-変性ポリフェニレンエーテル層31以外の層とを含む複数層で構成されるフィルムは、例えば、以下の手順で作製することができる。(1a)熱可塑性エポキシ樹脂を含む樹脂組成物、(1b)熱可塑性エポキシ樹脂のモノマーを含む組成物、又は(2)硬化性樹脂を含む樹脂組成物と、必要に応じて溶剤とを含むフィルム前駆組成物2を用意する。熱可塑性エポキシ樹脂を含む樹脂組成物、及び熱可塑性エポキシ樹脂のモノマーを含む組成物は、熱可塑性エポキシ樹脂層32について説明したものと同じである。硬化性樹脂を含む樹脂組成物は、硬化性樹脂層33について説明したものと同じである。フィルム前駆組成物2を、シリコーン系などの剥離コーティングを有する離型フィルム又は離型紙の上に、乾燥後の厚さが1μm~10mmのフィルム状になるように、塗布、噴霧、又は押出積層する。その後、室温~40℃の環境下で放置し溶剤を揮発させる、加熱して重付加反応又は硬化反応を進行させる、又は可視光若しくは紫外線を照射して硬化反応を進行させることにより、熱可塑性エポキシ樹脂層32又は硬化性樹脂層33を離型フィルム又は離型紙の上に形成する。これらの層の上に、上述の手順で再変性-変性ポリフェニレンエーテル層31を形成することにより、再変性-変性ポリフェニレンエーテル層31と、当該再変性-変性ポリフェニレンエーテル層31以外の層とを含む複数層で構成されるフィルムを得ることができる。
【0131】
フィルムの熱可塑性エポキシ樹脂層32又は硬化性樹脂層33には、これらの樹脂の構成単位となる成分(例えば、2官能エポキシ樹脂、2官能フェノール化合物、ポリオール、イソシアネート化合物など)が、完全に反応した状態で含まれてもよく、その一部が未反応の状態で含まれてもよい。後者の場合、ガラス部材2とフィルムを接合する際に、未反応の成分を更に反応させてもよい。この未反応の成分の反応に伴って、フィルムとガラス部材2との接合強度を高めることができる場合がある。
【0132】
フィルムをガラス部材2の上に配置し、加圧及び加熱することにより、ガラス部材2の上に樹脂コーティング層3が積層された複合積層体1を作製することができる。ガラス部材2は、必要に応じて、上記の表面処理及び/又は官能基含有層4を有してもよく、これらの上にフィルムを配置して、加圧及び加熱することにより樹脂コーティング層3を積層してもよい。再変性-変性ポリフェニレンエーテル層31と、当該再変性-変性ポリフェニレンエーテル層31以外の層とを含む複数層で構成されるフィルムは、再変性-変性ポリフェニレンエーテル層31以外の層が、表面処理を有する若しくは有さないガラス部材2又は官能基含有層4に接触するように積層される。
【0133】
このようにして得られた複合積層体1と樹脂部材5とを接合(接着)して一体化させることにより、自動車用バックドア10(ガラス-変性ポリフェニレンエーテル接合体)を製造することができる。複合積層体1と樹脂部材5との接合(接着)は、熱風溶着法、熱板溶着法、超音波溶着法、振動溶着法、電磁誘導法、高周波法、レーザー法、熱板溶着法、及び熱プレス法からなる群より選ばれる少なくとも1種の方法で行うことができる。
【0134】
複合積層体1の樹脂コーティング層3(フィルムに由来)の上に、射出成形法(インサート成形法を含む)、トランスファー成形法、プレス成形法、フィラメントワインディング成形法、ハンドレイアップ成形法等の方法で樹脂部材5を成形することにより、複合積層体1と樹脂部材5を接合(接着)して一体化させることにより、自動車用バックドア10を成形してもよい。
【0135】
ガラス部材2と樹脂部材5との間にフィルムを挟み、超音波溶着法、振動溶着法、電磁誘導法、高周波法、レーザー法、及び熱プレス法からなる群より選ばれる少なくとも1種の方法で、ガラス部材2と樹脂部材5とを樹脂コーティング層3(フィルムに由来)を介して接合(接着)して一体化させることにより、自動車用バックドア10を製造することもできる。この場合、複合積層体1の作製と自動車用バックドア10の製造が同時に行われる。ガラス部材2が表面処理及び/又は官能基含有層4を有する場合、フィルムはガラス部材2の表面処理面又は官能基含有層4と接触するように配置される。
【0136】
本発明のいくつかの実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で様々に変更可能である。上述した実施形態は、リアガラスをアウターパネルに対して車体室外側に取り付ける形態であるが、本開示はこのよう形態に限られない。本開示には、その他、リアガラスをアウターパネルとインナーパネルとの間に取り付ける実施形態も含まれる。但し、リアガラスをアウターパネルとインナーパネルとの間に取り付ける形態においては、両パネルのリアガラスとの接触部分は本開示所定の樹脂部材で構成されていることが肝要である。
【実施例0137】
本発明に関連した実施試験例及び比較試験例を以下に示すが、本発明は下記実施試験例に限定されるものではない。
【0138】
<製造例1>
フラスコに変性ポリフェニレンエーテル(SABIC社製NOLYL731):3.77g、キシレン:95gを仕込み、撹拌しながら125℃に昇温して溶解した。次に、2官能エポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製jER(登録商標)1001):1.0g、ビスフェノールA:0.22g、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール:0.005gをフラスコ中に投入し、125℃で30分間撹拌し、変性ポリフェニレンエーテル100質量部を32質量部の熱可塑性エポキシ樹脂で変性した再変性-変性ポリフェニレンエーテル:再変性m-PPE-1を得た。
【0139】
<製造例2>
フラスコに変性ポリフェニレンエーテル(SABIC社製NOLYL731):3.75g、キシレン:95gを仕込み、撹拌しながら125℃に昇温して溶解した。次に、2官能エポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製jER(登録商標)1007):1.18g、ビスフェノールA:0.065g、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール:0.004gをフラスコ中に投入し、125℃で30分間撹拌して、変性ポリフェニレンエーテル100質量部を33質量部の熱可塑性エポキシ樹脂で変性した再変性-変性ポリフェニレンエーテル:再変性m-PPE-2を得た。
【0140】
<製造例3>
フラスコに変性ポリフェニレンエーテル(SABIC社製NOLYL731):7.0g、キシレン:95gを仕込み、撹拌しながら125℃に昇温して溶解した。次にメタクリル酸:1.0g、メタクリル酸メチル:1.0g、スチレン:1.0gを混合したモノマー混合物に有機過酸化物触媒(日油株式会社製パーブチル(登録商標)O):0.1gを混合したものを滴下しながら125℃で30分間撹拌して、メタクリル樹脂で変性した再変性-変性ポリフェニレンエーテル:再変性m-PPE-3を得た。
【0141】
<製造例4>
フラスコに、2官能エポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製jER(登録商標)1007):1.18g、ビスフェノールA:0.065g、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール:0.004g、キシレン:95gを仕込み、140℃に昇温して1時間撹拌しながら反応させて熱可塑性エポキシ樹脂を得た。次に、変性ポリフェニレンエーテル(SABIC社製NOLYL731):1.24gを投入し、10分間撹拌混合して、熱可塑性エポキシ樹脂で変性した再変性-変性ポリフェニレンエーテル:再変性m-PPE-4を得た。
【0142】
<製造例5>
フラスコにキシレン:95gを仕込み、メタクリル酸:1.0g、メタクリル酸メチル:1.0g、スチレン:1.0gを混合したモノマー混合物に有機過酸化物触媒(日油株式会社製パーブチル(登録商標)O):0.1gを混合したものを滴下しながら125℃で30分間撹拌して、メタクリル樹脂溶液を得た。次にポリフェニレンエーテル(SABIC社製NOLYL731):3.0gを投入し、10分間撹拌混合して、メタクリル樹脂で変性した再変性ポリフェニレンエーテル:再変性m-PPE-5を得た。
【0143】
<実施試験例1>
(表面処理工程)
18mm×45mm、厚さ1.2mmのガラス基材(日本電気硝子株式会社製、化学強化ガラス)表面を、アセトンで脱脂処理した。
【0144】
(官能基含有層形成工程)
次に、アセトン脱脂処理後のガラス基材を、3-アミノプロピルトリメトキシシラン(信越シリコーン株式会社製KBM-903;シランカップリング剤)2gを工業用エタノール1000gに溶解させた70℃のシランカップリング剤含有溶液中に20分間浸漬した後、ガラス基材を取り出して乾燥させ、ガラス基材表面に官能基(アミノ基)含有層を形成した。
【0145】
(樹脂コーティング層形成工程)
次に、製造例1で得た再変性m-PPE-1を、官能基含有層の表面に塗布し、キシレンを揮発させ、150℃で30分間保持して、官能基含有層の表面に、厚さ30μmの再変性m-PPE-1の樹脂コーティング層が形成された複合積層体を作製した。
【0146】
複合積層体の樹脂コーティング層側の表面に、変性ポリフェニレンエーテル樹脂(SABIC社製NOLYL731)(接合対象)を、射出成形機(住友重機械工業株式会社製SE100V;シリンダー温度290℃、ツール温度120℃、インジェクションスピード50mm/sec、ピーク/ホールディング圧力60/55[MPa/MPa])にて射出成形することにより、ISO19095に準拠した引張試験用試験片(m-PPE樹脂、10mm×45mm×3mm、接合部長さ5mm)(ガラス-変性ポリフェニレンエーテル接合体)を作製した。
【0147】
〔接着性評価〕
作製した引張試験用試験片(ガラス-変性ポリフェニレンエーテル接合体)について、常温(温度23℃、50%RH)で1日間放置後、ISO19095 1-4に準拠して、引張試験機(株式会社島津製作所製万能試験機オートグラフ「AG-IS」;ロードセル10kN、引張速度10mm/min、温度23℃、50%RH)にて、引張剪断接合強度試験を行い、接合強度を測定した。測定結果を表1に示す。
【0148】
<実施試験例2>
(表面処理工程)
実施試験例1と同様の操作を行い、ガラス基材(18mm×45mm、厚さ1.2mmの日本電気硝子株式会社製、化学強化ガラス)の表面を、アセトンで脱脂処理した。
【0149】
(官能基含有層形成工程)
次に、実施試験例1と同様の操作を行い、アセトン脱脂処理後のガラス基材の表面に、官能基含有層を形成した。
【0150】
(樹脂コーティング層形成工程:1層目)
官能基含有層の表面に、2官能エポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製jER(登録商標)1001):100g、ビスフェノールA:24g、及びトリエチルアミン:0.4gを、アセトン250g中に溶解してなる熱可塑性エポキシ樹脂組成物を、乾燥後の厚さが30μmになるようにスプレー法にて塗布した。空気中に常温で30分間放置することによって溶剤を揮発させた後、150℃の炉中に30分間放置して重付加反応を行い、常温まで放冷して、1層目の樹脂コーティング層(熱可塑性エポキシ樹脂層)を形成した。
【0151】
(樹脂コーティング層形成工程:2層目)
次に、製造例3で得た再変性m-PPE-3を、熱可塑性エポキシ樹脂層の表面に塗布し、キシレンを揮発させ、150℃で30分間保持して、熱可塑性エポキシ樹脂層の表面に、厚さ30μmの再変性m-PPE-3の樹脂コーティング層が形成された複合積層体を作製した。
【0152】
複合積層体の2層目の樹脂コーティング層側の表面に、実施試験例1と同様の操作を行い、引張試験用試験片を作製した。その試験片について、実施試験例1と同じ手法で接合強度を測定した。測定結果を表1に示す。
【0153】
<実施試験例3>
(表面処理工程)
実施試験例1と同様の操作を行い、ガラス基材(18mm×45mm、厚さ1.2mmの日本電気硝子株式会社製、化学強化ガラス)の表面を、アセトンで脱脂処理した。
【0154】
(官能基含有層形成工程)
次に、アセトン脱脂処理後のガラス基材を、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越シリコーン株式会社製KBM-503;シランカップリング剤)0.5gを工業用エタノール100gに溶解させた70℃のシランカップリング剤含有溶液中に5分間浸漬した後、ガラス基材を取り出して乾燥させ、ガラス基材の表面にシランカップリング剤由来の官能基(メタクリロイルオキシ基)を導入した。更に、2官能チオール化合物である1,4-ビス(3-メルカプトブチリルオキシ)ブタン(昭和電工株式会社製カレンズMT(登録商標)BD1):0.6g、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール(DMP-30):0.05gをトルエン150g中に溶解した溶液に70℃で10分間浸漬した後に引き上げて乾燥した。このようにして、化学結合可能な官能基を有する官能基(メルカプト基)含有層を形成した。
【0155】
(樹脂コーティング層形成工程)
次に、製造例2で得た再変性m-PPE-2をガラス基材の官能基含有層の表面に塗布し、キシレンを揮発させ、150℃で30分間保持して、官能基含有層の表面に、厚さ30μmの再変性m-PPE-2の樹脂コーティング層が形成された複合積層体を作製した。
【0156】
複合積層体の樹脂コーティング層側の表面に、実施試験例1と同様の操作を行い、引張試験用試験片を作製した。その試験片について、実施試験例1と同じ手法で接合強度を測定した。測定結果を表1に示す。
【0157】
<実施試験例4>
(表面処理工程)
18mm×45mm、厚さ1.2mmのガラス基材(日本電気硝子株式会社製、化学強化ガラス)に対し、ウェットブラスト処理を行い、ガラス基材の表面に微細な凹凸を形成した。
【0158】
(官能基含有層形成工程)
次に、ウェットブラスト処理後のガラス基材を、3-アミノプロピルトリメトキシシラン(信越シリコーン株式会社製KBM-903;シランカップリング剤)2gを工業用エタノール1000gに溶解させた70℃のシランカップリング剤含有溶液中に20分間浸漬した後、ガラス基材を取り出して乾燥させ、ガラス基材の表面に官能基(アミノ基)含有層を形成した。
【0159】
(樹脂コーティング層形成工程)
次に、製造例4で得た再変性m-PPE-4を、官能基含有層の表面に塗布し、キシレンを揮発させ、150℃で30分間保持して、官能基含有層の表面に、厚さ30μmの再変性m-PPE-4の樹脂コーティング層が形成された複合積層体を作製した。
【0160】
複合積層体の樹脂コーティング層側の表面に、実施試験例1と同様の操作を行い、引張試験用試験片を作製した。その試験片について、実施試験例1と同じ手法で接合強度を測定した。測定結果を表1に示す。
【0161】
<実施試験例5>
(表面処理工程)
18mm×45mm、厚さ1.2mmのガラス基材(日本電気硝子株式会社製、化学強化ガラス)に対し、ウェットブラスト処理を行い、ガラス基材の表面に微細な凹凸を形成した。
【0162】
(樹脂コーティング層形成工程)
次に、製造例5で得た再変性m-PPE-5を、ウェットブラスト処理したガラス基材の表面に塗布し、キシレンを揮発させ、150℃で30分間保持して、ガラス基材の表面に、厚さ30μmの再変性m-PPE-5の樹脂コーティング層が形成された複合積層体を作製した。
【0163】
複合積層体の樹脂コーティング層側の表面に、実施試験例1と同様の操作を行い、引張試験用試験片を作製した。その試験片について、実施試験例1と同じ手法で接合強度を測定した。測定結果を表1に示す。
【0164】
<実施試験例6>
(表面処理工程)
18mm×45mm、厚さ1.2mmのガラス基材(日本電気硝子株式会社製、化学強化ガラス)に対し、ウェットブラスト処理を行い、ガラス基材の表面に微細な凹凸を形成した。
【0165】
(官能基含有層形成工程)
次に、ウェットブラスト処理後のガラス基材を、3-アミノプロピルトリメトキシシラン(信越シリコーン株式会社製KBM-903;シランカップリング剤)2gを工業用エタノール1000gに溶解させた70℃のシランカップリング剤含有溶液中に20分間浸漬した後、ガラス基材を取り出して乾燥させ、ガラス基材の表面にシランカップリング剤由来の官能基(アミノ基)を導入した。更に、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート)(昭和電工株式会社製カレンズMT(登録商標)PE1):1.2g、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール(DMP-30):0.05gをトルエン150g中に溶解した溶液に70℃で5分間浸漬した後に引き上げて乾燥した。このようにして、化学結合可能な官能基(メルカプト基)を有する官能基含有層を形成した。
【0166】
(樹脂コーティング層形成工程:1層目)
官能基含有層の表面に、固形ビニルエステル樹脂(昭和電工株式会社製VR-77)100gをアセトン100g中に溶解し、更に有機過酸化物(化薬アクゾ株式会社製パーブチル(登録商標)O)1.0gを混合した硬化性樹脂組成物を、乾燥後の厚さが15μmになるようにスプレー法にて塗布した。空気中に常温で1時間放置することによって溶剤を揮発させた後、120℃の炉中に30分間放置してビニルエステル樹脂の硬化を行い、1層目の樹脂コーティング層(硬化性樹脂層)を形成した。
【0167】
(樹脂コーティング層形成工程:2層目)
次に、製造例5で得た再変性m-PPE-5を、硬化性樹脂層の表面に塗布し、キシレンを揮発させ、150℃で30分間保持して、硬化性樹脂層の表面に、厚さ30μmの再変性m-PPE-5の樹脂コーティング層が形成された複合積層体を作製した。
【0168】
複合積層体の2層目の樹脂コーティング層側の表面に、実施試験例1と同様の操作を行い、引張試験用試験片を作製した。その試験片について、実施試験例1と同じ手法で接合強度を測定した。測定結果を表1に示す。
【0169】
<比較試験例1>
(表面処理工程)
実施試験例1と同様の操作を行い、ガラス基材(18mm×45mm、厚さ1.2mmの日本電気硝子株式会社製、化学強化ガラス)の表面を、アセトンで脱脂処理した。
【0170】
アセトン脱脂処理後のガラス基材の表面に、実施試験例1と同様の射出成形操作を行った。しかし、m-PPE樹脂はガラス基材表面に接着せず、ガラス-変性ポリフェニレンエーテル接合体を作製することはできなかった。
【0171】
<比較試験例2>
(表面処理工程)
実施試験例1と同様の操作を行い、ガラス基材(18mm×45mm、厚さ1.2mmの日本電気硝子株式会社製、化学強化ガラス)の表面を、アセトンで脱脂処理した。
【0172】
(官能基含有層形成工程)
次に、実施試験例1と同様の操作を行い、アセトン脱脂処理後のガラス基材の表面に、官能基(アミノ基)含有層を形成した。
【0173】
官能基含有層の表面に、実施試験例1と同様の操作を行い、引張試験用試験片を作製した。その試験片について、実施試験例1と同じ手法で接合強度を測定した。測定結果を表1に示す。
【0174】
【表1】
【表2】
【0175】
表1の評価結果から分かるように、実施試験例1~6のガラス-変性ポリフェニレンエーテル接合体はいずれも高い接合強度を有していた。
【産業上の利用可能性】
【0176】
本発明は、自動車用ドア及びその製造方法に利用可能である。
【符号の説明】
【0177】
1 複合積層体
2 ガラス部材
21 表面処理部
3 樹脂コーティング層
31 再変性-変性ポリフェニレンエーテル層
32 熱可塑性エポキシ樹脂層
33 硬化性樹脂層
4 官能基含有層
5 樹脂部材(変性ポリフェニレンエーテル)
10 自動車用バックドア(ガラス-変性ポリフェニレンエーテル接合体)
12 アウターパネル
12a 第1のパネル部分
12b 第2のパネル部分
12c 第3のパネル部分
12d テールランプ
12e 第4のパネル部分
12f 第5のパネル部分
14 リアガラス
C 空洞部
F1、F2 フランジ部分
X 丸囲み部分
図1
図2
図3
図4
図5