(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022178572
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】三次元光造形用樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
B29C 64/124 20170101AFI20221125BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20221125BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20221125BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20221125BHJP
B22C 7/00 20060101ALI20221125BHJP
B22C 7/02 20060101ALI20221125BHJP
B22C 9/04 20060101ALI20221125BHJP
【FI】
B29C64/124
B33Y10/00
B33Y70/00
B33Y80/00
B22C7/00 112B
B22C7/02 101
B22C9/04 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021085469
(22)【出願日】2021-05-20
(71)【出願人】
【識別番号】000214250
【氏名又は名称】ナガセケムテックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】渡部 功治
(72)【発明者】
【氏名】尾添 弘章
【テーマコード(参考)】
4E093
4F213
【Fターム(参考)】
4E093FA03
4E093GA05
4F213AA21
4F213AA44
4F213AB04
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL02
4F213WL12
4F213WL23
4F213WL25
(57)【要約】
【課題】光硬化後に表面からの低分子量成分のブリードがなく、かつ、150℃程度の比較的低温で溶融して埋没材の鋳型から容易に除去することが可能な三次元光造形用樹脂組成物を提供する。
【解決手段】反応性モノマー、融点が20~150℃である非反応性化合物および光重合開始剤を含む三次元光造形用樹脂組成物に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応性モノマー、融点が20~150℃である非反応性化合物および光重合開始剤を含む、三次元光造形用樹脂組成物。
【請求項2】
さらに、重合禁止剤を含有する請求項1に記載の三次元光造形用樹脂組成物。
【請求項3】
さらに、連鎖移動剤を含有する請求項1又は2に記載の三次元光造形用樹脂組成物。
【請求項4】
硬化物のtanδの主ピーク温度が50℃以上である、請求項1~3のいずれかに記載の三次元光造形用樹脂組成物。
【請求項5】
反応性モノマーが、ホモポリマーとしたときのガラス転移温度が40℃以上となる反応性モノマーである、請求項1~4のいずれか1項に記載の三次元光造形用樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の三次元光造形用樹脂組成物を光硬化させた三次元造形物。
【請求項7】
鋳型作製のための原型として用いられる、請求項6に記載の三次元造形物。
【請求項8】
(1)請求項1~5のいずれか1項に記載の三次元光造形用樹脂組成物を光硬化させた三次元造形物を形成する工程と、
(2)三次元造形物を埋没材に埋没させて、埋没材を固化させる工程と、
(3)三次元造形物を加熱により除去して、鋳造品を得るための埋没材の鋳型を形成する工程と、
(4)鋳型に金属材料を流し込み、固化させて鋳造品を得る工程と、
を含む、鋳造品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元光造形用樹脂組成物、該組成物を光硬化させた三次元造形物、および、該組成物を使用した鋳造品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、歯科、宝飾等の用途に使用される金属製の鋳造品は、ワックスで作製した三次元造形物を埋没材に埋没させた後に埋没材を固化し、700~800℃もの高温での焼成によってワックスを除去して鍛造品用鋳型を作製し、該鋳型に金属を流し込んで作製する。ここで、ワックスで作製した三次元造形物は、ワックスを所望の形状の型に流し込み、固化させて作製するが、そのために金型を別途作製する必要があった。該金型の作製には、職人による加工が必要であり、少量の鍛造品の作製には、不向きであった。
【0003】
光硬化性の材料を用い、3Dプリンタによって三次元造形物を作製すれば、ワックス製の三次元造形物を作製するための金型は不要となる。3Dプリンタに使用する光硬化性の材料として、例えば特許文献1には、犠牲型の製造に用いられる、溶解性樹脂を配合した光硬化性材料が開示されている。しかしながら、三次元造形物の表面から低分子量の成分がブリードするという問題があり、ワックスで作製した三次元造形物の代替として使用することはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、光硬化後に表面からの低分子量成分のブリードがなく、かつ、150℃程度の比較的低温で溶融して埋没材の鋳型から容易に除去することが可能な三次元光造形用樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、種々検討したところ、反応性モノマー、特定の融点を有する非反応性化合物および光重合開始剤を含む三次元光造形用樹脂組成物が、硬化後に表面からの低分子量成分のブリードがなく、かつ、150℃程度の比較的低温で溶融して埋没材の鋳型から容易に除去することが可能であることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、反応性モノマー、融点が20~150℃である非反応性化合物および光重合開始剤を含む、三次元光造形用樹脂組成物に関する。
【0008】
さらに、重合禁止剤を含有することが好ましい。
【0009】
さらに、連鎖移動剤を含有することが好ましい。
【0010】
硬化物のtanδの主ピーク温度が50℃以上であることが好ましい。
【0011】
反応性モノマーが、ホモポリマーとしたときのガラス転移温度が40℃以上となる反応性モノマーであることが好ましい。
【0012】
本発明はまた、本発明の三次元光造形用樹脂組成物を光硬化させた三次元造形物に関する。
【0013】
鋳型作製のための原型として用いられることが好ましい。
【0014】
本発明はさらに、
(1)本発明の三次元光造形用樹脂組成物を光硬化させた三次元造形物を形成する工程と、
(2)三次元造形物を埋没材に埋没させて、埋没材を固化させる工程と、
(3)三次元造形物を加熱により除去して、鋳造品を得るための埋没材の鋳型を形成する工程と、
(4)鋳型に金属材料を流し込み、固化させて鋳造品を得る工程と、
を含む、鋳造品の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の三次元光造形用樹脂組成物は、反応性モノマー、特定の融点を有する非反応性化合物および光重合開始剤を含むため、硬化後に表面からの低分子量成分のブリードがなく、かつ、150℃程度の比較的低温で溶融して埋没材の鋳型から容易に除去することが可能である。また、本発明の三次元造形物は、本発明の三次元光造形用樹脂組成物を光硬化させた三次元造形物であるため、特に少量の鍛造品を作製するための鋳型作製の原型として好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係る三次元光造形用樹脂組成物を用いて、光造形により三次元造形物を形成する工程を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の三次元光造形用樹脂組成物は、反応性モノマー、融点が20~150℃である非反応性化合物および光重合開始剤を含むことを特徴とする。
【0018】
反応性モノマーは、反応性モノマーのホモポリマーのガラス転移温度が40℃以上となるモノマーが好ましい。ガラス転移温度は80℃以上が好ましく、100℃以上がより好ましい。40℃未満では、耐熱性に劣ることになる。ここで、ガラス転移温度は、実際にホモポリマーを重合してガラス転移温度を測定しても良く、原子団寄与法により計算で求めることもできる。
【0019】
反応性モノマーは、光照射により発生したラジカルやイオンなどの作用により硬化または重合可能な光硬化性モノマーである。光硬化性モノマーとしては、重合性の官能基を有するモノマーが好ましい。光硬化性モノマーにおける重合性官能基の個数は、1個である。重合性官能基としては、ビニル基、アリル基などの重合性炭素-炭素不飽和結合を有する基、エポキシ基などが挙げられる。
【0020】
より具体的には、例えば、(メタ)アクリル系モノマーなどのラジカル重合性モノマー、エポキシ系モノマー、ビニル系モノマー、ジエン系モノマーなどのカチオン重合性モノマーなどが挙げられる。なかでも、反応速度の点で、(メタ)アクリル系モノマー、ビニル系モノマーが好ましい。
【0021】
(メタ)アクリル系モノマーとしては、(メタ)アクリロイル基を有するモノマーが挙げられる。たとえば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸ネオペンチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸セチル、(メタ)アクリル酸エチルカルビトール、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸メトキシブチル、(メタ)アクリル酸イソボルニルなどの(メタ)アクリル酸エステル、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-プロピル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-t-ブチル(メタ)アクリルアミド、N-オクチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン、ジアセトン(メタ)アクリルアミドなどの(メタ)アクリル酸アミド、スチレン、イタコン酸メチル、イタコン酸エチル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、N-ビニルピロリドン、N-ビニルカプロラクタム、3-ビニル-5-メチル-2-オキサゾリジノンなどが挙げられる。なかでも、ホモポリマーのTgの観点から、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸アミドが好ましい。また、(メタ)アクリル酸エステルの中では、(メタ)アクリル酸イソボルニルが好ましく、(メタ)アクリル酸アミドの中では、(メタ)アクリロイルモルホリン、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミドが好ましい。
【0022】
(メタ)アクリル系モノマーとして、(メタ)アクリル酸エステルと(メタ)アクリル酸アミドを併用することが好ましい。併用する場合、(メタ)アクリル酸エステルと(メタ)アクリル酸アミドとの配合比は、重量比で1/99~60/40が好ましく、5/95~50/50がより好ましい。(メタ)アクリル酸エステルが60よりも多いと、柔らかくなり造形が困難となることがあり、1よりも少ないと、熱で溶解が困難となることがある。なお、本明細書において、アクリル酸およびメタクリル酸を(メタ)アクリル酸と称し、アクリル酸エステル(またはアクリレート)およびメタクリル酸エステル(またはメタクリレート)を、(メタ)アクリル酸エステル(または(メタ)アクリレート)と称することがある。
【0023】
ビニル系モノマーとしては、ポリオールポリ(ビニルエーテル)などのビニルエーテル、スチレンなどの芳香族ビニルモノマー、ビニルアルコキシシランなどが例示できる。ポリオールポリ(ビニルエーテル)を構成するポリオールとしては、アクリル系モノマーについて例示したポリオール(ブタンジオール)が例示される。ジエン系モノマーとしては、例えば、イソプレン、ブタジエンなどが挙げられる。
【0024】
エポキシ系モノマーとしては、分子内に1個のエポキシ基を有する化合物を挙げることができる。エポキシ系モノマーは、例えば、エポキシシクロヘキサン環または2,3-エポキシプロピロキシ基を含む化合物が挙げられる。
【0025】
本発明の三次元光造形用樹脂組成物中の反応性モノマーの含有量は、特に限定されないが、99.5~1質量%が好ましく、90~60質量%がより好ましい。1質量%未満では、樹脂が高粘度になる傾向があり、99.5質量%を超えると、硬化収縮が大きくなる傾向がある。
【0026】
非反応性化合物は、反応性モノマーと反応しない化合物であれば、特に限定されない。非反応性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのポリエーテル、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリエステル、ポリウレタンなどが挙げられる。非反応性モノマーとしては、例えば、エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物、オキセタン化合物などが挙げられる。これら以外の非反応性化合物としては、イソシアネート化合物、フェノール化合物などが挙げられる。
【0027】
非反応性化合物の融点は、20~150℃であれば特に限定されないが、30~120℃が好ましく、40~100℃がより好ましい。非反応性化合物の融点が20℃未満であると、三次元光造形用樹脂組成物の硬化物からなる三次元造形物が常温で溶融してしまい、鋳造作製のための原型として使用できなくなることがあり、150℃を超えると、該三次元造形物を加熱により溶融させて除去することが困難となることがある。
【0028】
非反応性ポリマーの重量平均分子量は、特に限定されないが、500~30000が好ましく、800~10000がより好ましい。重量平均分子量が500未満であると、硬化後にブリードアウトしやすくなることがあり、30000を超えると、三次元光造形用樹脂組成物の硬化物からなる三次元造形物の溶融後の粘度が高くなり、除去することが困難となることがある。
【0029】
反応性モノマーと非反応性化合物の配合比は、重量比で90/10~30/70が好ましく、80/20~50/50がより好ましい。反応性モノマーが90よりも多いと、三次元光造形用樹脂組成物の硬化物からなる三次元造形物を加熱により溶融させることが困難となることがあり、30よりも少ないと、光硬化が不充分となり、三次元造形物を形成することが困難となることがある。
【0030】
非反応性化合物の含有量は、特に限定されないが、10~70質量%が好ましく、20~50質量%がより好ましい。10質量%未満であると、三次元光造形用樹脂組成物の硬化物からなる三次元造形物を加熱により溶融させることが困難となることがあり、70質量%を超えると、三次元光造形用樹脂組成物の固化が進行し液状を保つことができなくなることがある。
【0031】
光重合開始剤は、光の作用により活性化して、反応性モノマーの重合を開始させる。光重合開始剤としては、例えば、光の作用によりラジカルを発生するラジカル重合開始剤のほか、光の作用により塩基(またはアニオン)や酸(またはカチオン)を生成するもの(具体的には、アニオン発生剤、カチオン発生剤)が挙げられる。光重合開始剤は、光硬化性モノマーのタイプ、例えば、ラジカル重合性であるか、イオン重合性であるかなどに応じて選択することができる。ラジカル重合開始剤(ラジカル光重合開始剤)としては、例えば、アルキルフェノン系光重合開始剤、アシルホスフィンオキサイド系光重合開始剤などが挙げられる。
【0032】
アルキルフェノン系重合開始剤としては、例えば2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、2-ヒロドキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オン、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1、2-(ジメチルアミノ)-2-[(4-メチルフェニル)メチル]-1-[4-(4-モルホリニル)フェニル]-1-ブタノンなどが挙げられる。
【0033】
アシルホスフィンオキサイド系重合開始剤としては、例えば、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-ホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイドなどが挙げられる。
【0034】
光重合開始剤の添加量は、反応性モノマー100重量部に対して0.01~10重量部が好ましく、0.1~5重量部がより好ましい。0.01重量部未満では、硬化不良となる傾向となり、10重量部を超えると、貯蔵安定性の不良や吸収による硬化不良となる傾向がある。
【0035】
本発明の三次元光造形用樹脂組成物は、硬化性樹脂、染料、紫外線増感剤、重合禁止剤、連鎖移動剤、可塑剤、紫外線吸収剤、顔料、界面活性剤などの公知の添加剤を含むことができる。
【0036】
重合禁止剤としては、例えば、4-メトキシフェノール、ハイドロキノン、メチルハイドロキノン、tert-ブチル-ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、4-メチルキノリン、フェノチアジン、2,6-ジイソブチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、アンモニウム-N-ニトロソフェニルヒドロキシルアミン、N-ニトロソフェニルヒドロキシルアミンアンモニウム等が挙げられる。重合禁止剤の配合量は、全組成物中0.001~1.0質量%が好ましく、0.01~0.3質量%がより好ましい。
【0037】
連鎖移動剤を配合することにより、反応性モノマーの重合度(反応性モノマーからなるポリマーの分子量)を制御することができる。連鎖移動剤としては、例えば、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、1,4-ビス(3-メルカプトブチリルオキシ)ブタン、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート)等のチオール基含有化合物等が挙げられる。連鎖移動剤の配合量は、全組成物中0.00001~5質量%が好ましく、0.0001~1質量%がより好ましい。
【0038】
本発明の三次元光造形用樹脂組成物は、室温で液状であることが好ましい。室温で液状であることで、3Dプリンタなどを用いて容易に光造形することができる。本発明の三次元光造形用樹脂組成物の25℃における粘度は5000mPa・s以下が好ましく、2000mPa・s以下がより好ましい。なお、樹脂組成物の粘度は、コーンプレート型のE型粘度計を用いて、20rpmの回転速度で測定することができる。
【0039】
本発明の三次元光造形用樹脂組成物の硬化物のtanδの主ピーク温度は特に限定されないが、25℃以上が好ましく、40℃以上がより好ましく、60℃以上がさらに好ましく、80℃以上が特に好ましい。25℃未満では、耐熱性が不十分となる。tanδは、動的粘弾性測定装置(DMA)を用いて測定されるTgである。硬化物を低温側から高温側(例えば、-100℃から+200℃)まで昇温しながら測定することができる。ピークが複数存在する場合には、大きい方のピーク(主ピーク)のピーク温度とする。
【0040】
本発明の三次元光造形用樹脂組成物の硬化物のショアD硬度は特に限定されないが、30以上が好ましく、45以上がより好ましく、60以上がさらに好ましい。30未満では、強度が不十分となる傾向がある。ここで、ショアD硬度は、タイプDデュロメータを用い、JIS K7215:1986に準拠して測定する。
【0041】
本発明の三次元光造形用樹脂組成物は、様々な造形方法により、二次元や三次元などの造形物(またはパターン)を形成することができ、特に、光造形に適している。三次元光造形用樹脂組成物は、室温で液状であるため、例えば、バット方式の光造形に用いてもよく、インクジェット式の光造形に用いてもよい。
【0042】
本発明の三次元造形物は、本発明の三次元光造形用樹脂組成物を光硬化させて得られる造形物(硬化物)であり、150℃程度に加熱することで溶融して埋没材の鋳型から容易に除去することが可能なため、鋳型作製のための原型として好適に用いられる。なかでも少量の鍛造品の鋳型の原型に最適である。
【0043】
本発明の鋳造品の製造方法は、
(1)本発明の三次元光造形用樹脂組成物を光硬化させて三次元造形物を形成する工程と、
(2)三次元造形物を埋没材に埋没させて、埋没材を固化させる工程と、
(3)三次元造形物を加熱により除去して、鋳造品を得るための埋没材の鋳型を形成する工程と、
(4)鋳型に金属材料を流し込み、固化させて鋳造品を得る工程と、
を含む。
【0044】
(1)本発明の三次元光造形用樹脂組成物を光硬化させて三次元造形物を形成する工程
工程(1)は、
(1-1)本発明の三次元光造形用樹脂組成物からなる第1液膜を形成し、第1液膜を硬化させて第1パターンを形成する工程、および、
(1-2)第1パターンに接するように、本発明の三次元光造形用樹脂組成物からなる第2液膜を形成し、第2液膜を硬化させて第2パターンを積層し、三次元造形物を形成する工程
を含む。
【0045】
以下に、
図1を参照しながら、バット式の光造形の手順について説明する。
図1は、樹脂槽(バット)を備える光造形装置(パターニング装置)を用いて三次元造形物を形成する場合の一例である。図示例では、吊り下げ方式の造形について示したが、三次元光造形用樹脂組成物を用いて三次元光造形することができる方法であれば特に制限されない。また、光照射(露光)の方式についても特に制限されず、点露光でも、面露光でもよい。
【0046】
光造形装置1は、パターン形成面2aを備えるプラットフォーム2と、三次元光造形用樹脂組成物5を収容した樹脂槽3と、面露光方式の光源としてのプロジェクタ4とを備える。
【0047】
(1-1)第1液膜を形成し、硬化させて第1パターンを形成する工程
工程(1-1)では、(a)に示すように、まず、樹脂槽3に収容された三次元光造形用樹脂組成物5に、プラットフォーム2のパターン形成面2aを、プロジェクタ4(樹脂槽3の底面)に向けた状態で浸漬させる。このときに、パターン形成面2aとプロジェクタ4(または樹脂槽3の底面)との間に液膜7a(液膜a)が形成されるように、パターン形成面2a(またはプラットフォーム2)の高さを調整する。次いで、(b)に示すように、プロジェクタ4から液膜7aに向けて、光Lを照射(面露光)することで、液膜7aを光硬化させて第1パターン8a(パターンa)を形成する。
【0048】
光造形装置1では、樹脂槽3が、三次元光造形用樹脂組成物5の供給ユニットとしての役割を有する。液膜に光源から光が照射されるように、樹脂槽の少なくとも、液膜とプロジェクタ4との間に存在する部分(
図1では底面)は露光波長に対して透明であることが望ましい。プラットフォーム2の形状、材質、およびサイズなどは特に制限されない。
【0049】
液膜aを形成した後、光源から液膜aに向かって光照射することにより、液膜aを光硬化させる。光照射は、公知の方法で行うことができる。露光方式は、特に制限されず、点露光でも面露光でもよい。光源としては、光硬化に使用される公知の光源が使用できる。点露光方式の場合には、例えば、プロッター式、ガルバノレーザ(またはガルバノスキャナ)方式、SLA(ステレオリソグラフィー)方式などが挙げられる。面露光方式の場合には、光源としては、簡便性の点でプロジェクタが好ましい。プロジェクタとしては、LCD(透過型液晶)方式、LCoS(反射型液晶)方式、およびDLP(登録商標、Digital Light Processing)方式などが挙げられる。露光波長は、三次元光造形用樹脂組成物の構成成分(特に、光重合開始剤の種類)に応じて適宜選択できる。
【0050】
(1-2)第1パターンに接するように、第2液膜を形成し、第2液膜を硬化させて第2パターンを積層し、三次元造形物を作製する工程
工程(1-2)では、工程(1-1)で得られたパターンaと、光源との間に、三次元光造形用樹脂組成物5を供給して、液膜(液膜b)を形成する。つまり、パターン形成面に形成されたパターンa上に液膜bを形成する。三次元光造形用樹脂組成物5の供給は、工程(1-1)と同様である。
【0051】
例えば、
図1の(c)に示すように、第1パターン8a(二次元パターンa)を形成した後、第1パターン形成面2aをプラットフォーム2ごと上昇させてもよい。そして、第1パターン8aと樹脂槽3の底面との間に三次元光造形用樹脂組成物5を供給することにより、液膜7b(液膜b)を形成することができる。
【0052】
形成した液膜bに対して、光源から露光して、液膜bを光硬化させ、第1パターンaに別のパターン(液膜bの光硬化により得られるパターンb)を積層する。このようにパターンが厚み方向に積層されることで、三次元造形パターンを形成することができる。
【0053】
例えば、
図1の(d)に示すように、第1パターン8a(パターンa)と樹脂槽3の底面との間に形成された液膜7b(液膜b)に、プロジェクタ4から露光して、液膜7bを光硬化させる。この光硬化により、液膜7bが第2パターン8b(パターンb)に変換される。このようにして、第1パターン8aに第2パターン8bを積層することができる。光源や露光波長などは、工程(1-1)についての記載を参照できる。
【0054】
工程(1-2)は複数回繰り返すことができる。繰り返すことにより、複数のパターンbが厚み方向に積層されることになり、さらに立体的な造形パターンが得られる。繰り返し回数は、所望する三次元造形物(三次元造形パターン)の形状やサイズなどに応じて適宜決定できる。
【0055】
例えば、
図1の(e)に示すように、パターン形成面2a上に第1パターン8a(パターンa)および第2パターン8b(パターンb)が積層された状態のプラットフォーム2を上昇させる。このとき、第2パターン8bと樹脂槽3の底面との間に液膜7b(液膜b)が形成される。そして、
図1の(f)に示すように、プロジェクタ4から液膜7bに対して露光し、液膜7bを光硬化させる。これにより、第1パターン8b上に別のパターン8b(パターンb)が形成される。そして、(e)と(f)とを交互に繰り返すことで、複数のパターン8b(二次元パターンb)を積層させることができる。
【0056】
工程(1)は、さらに、第1パターンおよび第2パターンを、溶剤で洗浄する工程を含むことが好ましい。得られた三次元造形パターンには、未硬化の三次元光造形用樹脂組成物が付着しているため、該組成物を取り除くために行われる。溶剤は、ハンセン溶解度パラメータが25MPa0.5以下のものが好ましい。具体的な溶剤としては、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールなどが挙げられる。
【0057】
得られた三次元造形パターンには、必要に応じて、後硬化を施してもよい。後硬化は、パターンに光照射することで行うことができる。光照射の条件は、三次元光造形用樹脂組成物の種類や得られたパターンの硬化の程度などに応じて適宜調節できる。後硬化は、パターンの一部に対して行ってもよく、全体に対して行ってもよい。
【0058】
(2)三次元造形物を埋没材に埋没させて、埋没材を固化させる工程
埋没材としては、特に限定されないが、クリストバライト埋没材、石英埋没材などの石膏系埋没材、リン酸塩系埋没材などが挙げられる。三次元造形物を埋没材に埋没させる方法、および、埋没材を固化させる方法としては、従来公知の方法を採用することができる。
【0059】
(3)三次元造形物を加熱により除去して、鋳造品を得るための埋没材の鋳型を形成する工程
加熱温度は、特に限定されないが、100~1000℃が好ましく、150~800℃がより好ましい。加熱温度が100℃未満であると、三次元造形物が十分に溶融せず、埋没材の鋳型から除去することが困難となることがあり、1000℃以上であると、埋没材が耐えられなくなることがある。
【0060】
(4)鋳型に金属材料を流し込み、固化させて鋳造品を得る工程
金属材料としては、特に限定されないが、例えば、チタン、コバルト、ニッケル、クロム、金、銀、白金、これらの合金等が挙げられる。鋳型に金属材料を流し込む方法、および、金属材料を固化させる方法としては、従来公知の方法を採用することができる。
【0061】
本発明の鋳造品の製造方法により得られた鋳造品は、歯科、宝飾などの分野での用途に好適に用いられる。
【実施例0062】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。以下、「部」又は「%」は特記ない限り、それぞれ「重量部」又は「重量%」を意味する。
【0063】
以下に、実施例及び比較例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
【0064】
<<反応性モノマー>>
アクリロイルモルホリン(ACMO)(KJケミカルズ株式会社製、ホモポリマーのTg144℃)
イソボルニルアクリレート(IBXA)(大阪有機化学工業株式会社製、ホモポリマーのTg97℃)
【0065】
<<非反応性化合物>>
ポリエチレングリコール(日油株式会社製、PEG600、重量平均分子量600、融点14℃)
ポリエチレングリコール(日油株式会社製、M-1000、重量平均分子量1000、融点40℃)
ポリカーボネート(三菱ケミカル株式会社製、NL1010、重量平均分子量1000、融点50℃)
エポキシ化合物(三菱ケミカル株式会社製、YL6810、融点45℃)
ビフェニル型エポキシ化合物(三菱ケミカル株式会社製、YX4000、融点105℃)
【0066】
<<光重合開始剤>>
ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイド(IGM resin社製、Omnirad 819)
【0067】
<<重合禁止剤>>
4-メトキシフェノール(東京化成工業株式会社製)
【0068】
<<連鎖移動剤>>
ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート)(昭和電工株式会社製、Karenz PE1)
【0069】
<<埋没材>>
クリストバライト埋没材(株式会社ユーデント製、ユーデントクリストバライトF30)
【0070】
<<金属材料>>
Ag925(井嶋金銀工業株式会社製)
【0071】
実施例1~9および比較例1~4
表1に示す配合量(重量比)で、各成分を混合した。攪拌しながら80℃のオーブンで加熱して、固形成分を溶解させることにより均一な液状の樹脂組成物を調製した。得られた樹脂組成物を用いて以下の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0072】
<結晶析出>
樹脂組成物を23℃で放置し、目視により結晶析出の有無を確認し、下記の基準で評価した。
○:析出なし
△:濁り物あり
×:樹脂組成物の固化
【0073】
<靭性>
樹脂組成物約1gをガラス板に挟み、UV照射装置(株式会社アイテックシステム製)を用い、7mW/cm2で片面60秒ごとに照射して、厚みが約0.11mmの板状のサンプルを作製した。得られたサンプルを180°に折り曲げることにより、靭性を下記の基準で評価した。
○:割れない
△:亀裂が入る
×:割れる
【0074】
<ブリードアウト>
LCD方式の3Dプリンタ(Phrozen社製、Phrozcen sonic mini)を用いて、1層当たりの照射時間15秒およびz軸(高さ方向)のピッチ50μmの条件で、短冊状のサンプル(縦35mm×横20mm×厚み(高さ)6mm)を作製した。23℃で24時間放置した後に造形物の表面を観察することによりブリードアウトの有無を確認し、下記の基準で評価した。
○:ブリードアウトなし
×:ブリードアウトあり
【0075】
<粘度>
コーンプレート型のE型粘度計を用いて、20rpmの回転速度で、25℃における粘度を測定した。
【0076】
<tanδの主ピーク温度>
樹脂組成物約1gをガラス板に挟み、UV照射装置(株式会社アイテックシステム製)を用い、7mW/cm2で片面60秒ごとに照射して、厚みが約1mmの板状のサンプルを作製した。得られたサンプルについて、DVA-2000(アイティー計測制御株式会社製)を用いて、周波数1Hz、5℃/minの昇温速度で、-100℃ から+200℃まで昇温した。そして、tanδがトップピークとなる温度を樹脂組成物の硬化物のTgとして求めた。なお、tanδが極大となるピークが複数ある場合には、より大きいピークのピーク温度(マトリックスとなるポリマーのTg)をとった。
【0077】
<ショアD硬度>
LCD方式の3Dプリンタ(Phrozen社製、Phrozen Shuffle XL)を用いて、1層当たりの照射時間15秒およびz軸(高さ方向)のピッチ50μmの条件で、短冊状のサンプル(縦35mm×横20mm×厚み(高さ)6mm)を作製した。タイプD デュロメータを用い、JIS K7215:1986に準拠して、ショアD 硬度を測定した。
【0078】
<熱溶融性>
LCD方式の3Dプリンタ(Phrozen社製、Phrozen sonic mini)を用いて、1層当たりの照射時間15秒およびz軸(高さ方向)のピッチ50μmの条件で、短冊状のサンプル(縦35mm×横20mm×厚み(高さ)6mm)を作製した。その造形物を150℃に加温したオーブンに1時間入れた後の変化を目視で確認することにより、下記の基準で熱溶融性を評価した。
○:溶融
×:変化なし
【0079】
<鋳造性>
LCD方式の3Dプリンタ(Phrozen社製、Phrozen sonic mini)を用いて、1層当たりの照射時間15秒およびz軸(高さ方向)のピッチ50μmの条件で、短冊状のサンプル(縦35mm×横20mm×厚み(高さ)6mm)を作製した。得られた造形物、埋没材、および金属材料を用いて、前述の鋳造品の製造方法にしたがって鋳造品を製造し、下記の基準で鋳造性を評価した。
○:鋳造品にバリの発生なし
×:鋳造品にバリの発生あり
【0080】