(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022178579
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】化合物又はその塩、及び蛍光プローブ
(51)【国際特許分類】
C07F 5/02 20060101AFI20221125BHJP
C09B 23/01 20060101ALI20221125BHJP
C09K 11/06 20060101ALI20221125BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20221125BHJP
G01N 21/78 20060101ALI20221125BHJP
【FI】
C07F5/02 D CSP
C09B23/01
C07F5/02 F
C09K11/06
C09K11/06 660
G01N21/64 Z
G01N21/78 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021085478
(22)【出願日】2021-05-20
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)2020年日本化学会九州支部秋期研究発表会 予稿集、発行日:令和2年11月27日 (2)2020年日本化学会九州支部秋期研究発表会、開催日:令和2年11月28日
(71)【出願人】
【識別番号】504205521
【氏名又は名称】国立大学法人 長崎大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】真木 俊英
【テーマコード(参考)】
2G043
2G054
4H048
【Fターム(参考)】
2G043AA01
2G043CA03
2G043EA01
2G043JA01
2G054AA02
2G054CA03
2G054EA03
2G054GA04
4H048AA01
4H048AA03
4H048AB92
(57)【要約】
【課題】pHの変化に応じて蛍光波長シフトが生じる低分子の化合物の提供。
【解決手段】式(1)で表される化合物又はその塩。R
1は、式(2a)、(2b)又は(2c)で表される基を示し、R
2及びR
4は、それぞれ独立に置換又は無置換のアリール基を示し、R
3及びR
5は、それぞれ独立に置換若しくは無置換の鎖式炭化水素基、又は置換若しくは無置換のスチリル基を示し、X
1及びX
2は、それぞれ独立にフッ素原子又は-O-Rで表される基を示し、Rはアルコール残基又は糖残基を示す。
[化1]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物又はその塩。
【化1】
ただし、R
1は、下記式(2a)、(2b)又は(2c)で表される基を示し、
R
2及びR
4は、それぞれ独立に置換又は無置換のアリール基を示し、
R
3及びR
5は、それぞれ独立に置換若しくは無置換の鎖式炭化水素基、又は置換若しくは無置換のスチリル基を示し、
X
1及びX
2は、それぞれ独立にフッ素原子又は-O-Rで表される基を示し、Rはアルコール残基又は糖残基を示す。
【化2】
ただし、R
6~R
9は、それぞれ独立に水素原子、又は置換若しくは無置換のアルキル基を示し、R
6とR
7又はR
7とR
8が一緒になって、それらが結合した炭素原子とともに環構造を形成していてもよく、
R
10~R
13は、それぞれ独立に水素原子、又は置換若しくは無置換のアルキル基を示し、R
10とR
11又はR
11とR
12が一緒になって、それらが結合した炭素原子とともに環構造を形成していてもよく、
R
14~R
17は、それぞれ独立に水素原子、又は置換若しくは無置換のアルキル基を示し、R
14とR
15が一緒になって、それらが結合した炭素原子とともに環構造を形成していてもよく、R
16とR
17が一緒になって、それらが結合した炭素原子とともに環を形成していてもよい。
【請求項2】
前記式(1)中のR2及びR4が、それぞれ独立に置換若しくは無置換のフェニル基を示す、請求項1に記載の化合物又はその塩。
【請求項3】
前記式(1)中のR1が、アルキル置換若しくは無置換の2-、3-若しくは4-ピリジル基、又はアルキル置換若しくは無置換の2-、3-若しくは4-キノリル基を示す、請求項1又は2に記載の化合物又はその塩。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の化合物又はその塩を含む、蛍光プローブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物又はその塩、及び蛍光プローブに関する。
【背景技術】
【0002】
イメージング等、空間分解能が求められる測定には、分布による濃淡の影響を避けるために、レシオメトリック測定が望まれる。レシオメトリック測定では、例えば、pH等の変化により蛍光波長シフトが生じる蛍光色素を用い、2波長の蛍光強度を測定し、それらの蛍光強度の比からpH等を求める。
【0003】
蛍光波長シフトが生じる蛍光色素としては、高分子タイプの蛍光色素が知られている。
しかし、高分子タイプの蛍光色素は、空間分解能が充分ではない。そこで、蛍光波長シフトが生じる低分子タイプの蛍光色素が望まれる。
【0004】
低分子タイプの蛍光色素の一つとして、ボロンジピロメテン(BODIPY)を母核構造とするBODIPY色素が知られている。BODIPY色素は、安定で高い蛍光量子収率を有する。pH等に応じて蛍光をON-OFFする置換基をBODIPYのメソ位(8位)に導入することで、数多くの有用なセンサーが開発されている。
【0005】
特許文献1には、BODIPYのメソ位に、アミノ基(アルキル基が置換していてもよい)が置換したフェニル基を導入した化合物が記載されている。
特許文献2には、BODIPYのメソ位に、N-アルキルピリジニウム基を導入した化合物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2008/059910号
【特許文献2】中国特許出願公開第102993763号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1~2に記載の化合物は、pHに応じて蛍光強度は変化するが、蛍光波長シフトを生じさせることが困難であり、レシオメトリック測定ができなかった。
本発明は、pHの変化に応じて蛍光波長シフトが生じる低分子の化合物又はその塩、及びこれを用いた蛍光プローブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意検討の結果、BODIPYのメソ位にピリジン構造を導入するとともに、1位及び7位に芳香族構造を導入し、BODIPYを唯一の発色団とするテトラド型分子を構築することにより、上記課題を解決できることを見出した。
【0009】
本発明は、以下の態様を有する。
[1]下記式(1)で表される化合物又はその塩。
【0010】
【0011】
ただし、R1は、下記式(2a)、(2b)又は(2c)で表される基を示し、
R2及びR4は、それぞれ独立に置換又は無置換のアリール基を示し、
R3及びR5は、それぞれ独立に置換若しくは無置換の鎖式炭化水素基、又は置換若しくは無置換のスチリル基を示し、
X1及びX2は、それぞれ独立にフッ素原子又は-O-Rで表される基を示し、Rはアルコール残基又は糖残基を示す。
【0012】
【0013】
ただし、R6~R9は、それぞれ独立に水素原子、又は置換若しくは無置換のアルキル基を示し、R6とR7又はR7とR8が一緒になって、それらが結合した炭素原子とともに環構造を形成していてもよく、
R10~R13は、それぞれ独立に水素原子、又は置換若しくは無置換のアルキル基を示し、R10とR11又はR11とR12が一緒になって、それらが結合した炭素原子とともに環構造を形成していてもよく、
R14~R17は、それぞれ独立に水素原子、又は置換若しくは無置換のアルキル基を示し、R14とR15が一緒になって、それらが結合した炭素原子とともに環を形成していてもよく、R16とR17が一緒になって、それらが結合した炭素原子とともに環構造を形成していてもよい。
[2]前記式(1)中のR2及びR4が、それぞれ独立に置換若しくは無置換のフェニル基を示す、前記[1]の化合物又はその塩。
[3]前記式(1)中のR1が、アルキル置換若しくは無置換の2-、3-若しくは4-ピリジル基、又はアルキル置換若しくは無置換の2-、3-若しくは4-キノリル基を示す、前記[1]又は[2]の化合物又はその塩。
[4]前記[1]~[3]のいずれかの化合物又はその塩を含む、蛍光プローブ。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、pHの変化に応じて蛍光波長シフトが生じる低分子の化合物又はその塩、及びこれを用いた蛍光プローブを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例1の化合物(2quBOD)のpH変化によるUV吸収スペクトル変化の評価結果。
【
図2】実施例1の化合物(2quBOD)のpH変化による蛍光スペクトル変化の評価結果。
【
図3】実施例1の化合物(2quBOD)のpH変化による蛍光強度比変化の評価結果。
【
図4】実施例2の化合物(2pyBOD)のpH変化によるUV吸収スペクトル変化の評価結果。
【
図5】実施例2の化合物(2pyBOD)のpH変化による蛍光スペクトル変化の評価結果。
【
図6】実施例2の化合物(2pyBOD)のpH変化による蛍光強度比変化の評価結果。
【
図7】実施例2の化合物(2pyBOD)のpHの繰り返しの切り替えの評価結果。
【
図8】実施例2の化合物(2pyBOD)のトリフルオロ酢酸濃度変化による蛍光スペクトル変化の評価結果。
【
図9】実施例2の化合物(2pyBOD)のトリフルオロ酢酸濃度変化による蛍光強度比変化の評価結果。
【
図10】実施例3の化合物(6Me2pyBOD)のpH変化による蛍光スペクトル変化の評価結果。
【
図11】実施例3の化合物(6Me2pyBOD)のpH変化による蛍光強度比変化の評価結果。
【
図12】実施例3の化合物(6Me2pyBOD)のpHの繰り返しの切り替えの評価結果。
【
図13】実施例3の化合物(6Me2pyBOD)のトリフルオロ酢酸濃度変化による蛍光スペクトル変化の評価結果。
【
図14】実施例3の化合物(6Me2pyBOD)のトリフルオロ酢酸濃度変化による蛍光強度比変化の評価結果。
【
図15】実施例4の化合物(4pyBOD)のpH変化による蛍光強度比変化の評価結果。
【
図16】2pyBOD及びプロトン化された2pyBODの基底状態のフロンティア軌道。
【
図17】プロトン化された2pyBOD及びプロトン化された比較例1の化合物(化合物5)のエネルギープロファイル。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一態様に係る化合物は、下記式(1)で表される。
以下、式(1)で表される化合物を「化合物(1)」とも記す。他の式で表される化合物も同様に記す。
【0017】
【0018】
ただし、R1は、下記式(2a)、(2b)又は(2c)で表される基を示し、
R2及びR4は、それぞれ独立に置換又は無置換のアリール基を示し、
R3及びR5は、それぞれ独立に置換若しくは無置換の鎖式炭化水素基、又は置換若しくは無置換のスチリル基を示し、
X1及びX2は、それぞれ独立にフッ素原子又は-O-Rで表される基(以下、単に「OR」とも記す。)を示し、Rはアルコール残基又は糖残基を示す。
【0019】
【0020】
ただし、R6~R9は、それぞれ独立に水素原子、又は置換若しくは無置換のアルキル基を示し、R6とR7又はR7とR8が一緒になって、それらが結合した炭素原子とともに環構造を形成していてもよく、
R10~R13は、それぞれ独立に水素原子、又は置換若しくは無置換のアルキル基を示し、R10とR11又はR11とR12が一緒になって、それらが結合した炭素原子とともに環構造を形成していてもよく、
R14~R17は、それぞれ独立に水素原子、又は置換若しくは無置換のアルキル基を示し、R14とR15が一緒になって、それらが結合した炭素原子とともに環構造を形成していてもよく、R16とR17が一緒になって、それらが結合した炭素原子とともに環構造を形成していてもよい。
式(2a)、(2b)及び(2c)中、波線を付した一重線は結合手を示す。
【0021】
R6~R17における無置換のアルキル基は、直鎖状でも分岐状でもよい。無置換のアルキル基の炭素数は、例えば1~3である。
置換のアルキル基における置換基としては、例えば、アルコキシ基が挙げられる。アルコキシ基の炭素数は、例えば1~3である。置換のアルキル基が有する置換基は1つでも2つ以上でもよい。
置換又は無置換のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、2-プロピル基が挙げられる。
【0022】
R6とR7又はR7とR8、R10とR11又はR11とR12、R14とR15、R16とR17それぞれが一緒になって、それらが結合した炭素原子とともに形成する環構造としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環が挙げられる。これらの中でも、含水溶媒への溶解性の点から、ベンゼン環が好ましい。
環構造は置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、置換又は無置換のアルキル基、アルコキシ基が挙げられる。置換又は無置換のアルキル基としては、前記と同様のものが挙げられる。
【0023】
式(2a)で表される基(以下、「基(2a)」とも記す。)の具体例としては、2-ピリジル基、6-メチル-2-ピリジル基、3-メチル-2-ピリジル基等の置換又は無置換の2-ピリジル基;2-キノリル基、3-メチル-2-キノリル等の置換又は無置換の2-キノリル基;2-イソキノリル基、3-メチル-2-イソキノリル等の置換又は無置換の2-イソキノリル基;2-(1,10-フェナントロニル)基等が挙げられる。
なお、置換の2-ピリジル基は、炭素原子に結合した水素原子の少なくとも一部が置換基で置換された2-ピリジル基である。2-ピリジル基以外の基の場合も同様である。
【0024】
置換の2-ピリジル基、置換の2-キノリル基、置換の2-イソキノリル基はそれぞれ、置換基として無置換のアルキル基を有するもの(アルキル置換2-ピリジル基、アルキル置換2-キノリル基、アルキル置換2-イソキノリル基)が好ましい。
アルキル置換2-ピリジル基、アルキル置換2-キノリル基、アルキル置換2-イソキノリル基それぞれが有するアルキル基の数は、例えば1~3個であり、1個が好ましい。
【0025】
式(2b)で表される基(以下、「基(2b)」とも記す。)の具体例としては、3-ピリジル基、4―メチル-3-ピリジル基等のアルキル置換又は無置換の3-ピリジル基;3-キノリル基、2-メチル-3-キノリル等のアルキル置換又は無置換の3-キノリル基;3-イソキノリル基、2-メチル-3-イソキノリル等のアルキル置換又は無置換の3-イソキノリル基;3-(1,10-フェナントロニル)基等が挙げられる。
【0026】
置換の3-ピリジル基、置換の3-キノリル基、置換の3-イソキノリル基はそれぞれ、置換基として無置換のアルキル基を有するもの(アルキル置換3-ピリジル基、アルキル置換3-キノリル基、アルキル置換3-イソキノリル基)が好ましい。
アルキル置換3-ピリジル基、アルキル置換3-キノリル基、アルキル置換3-イソキノリル基それぞれが有するアルキル基の数は、例えば1~3個であり、1個が好ましい。
【0027】
式(2c)で表される基(以下、「基(2c)」とも記す。)の具体例としては、4-ピリジル基、3,5-ジメチル-4-ピリジル基、2,5-ジメチル-4-ピリジル基等のアルキル置換又は無置換の4-ピリジル基;4-キノリル基、3-メチル-4-キノリル基等のアルキル置換又は無置換の4-キノリル基;4-(1,10-フェナントロニル)基等が挙げられる。
【0028】
置換の4-ピリジル基、置換の4-キノリル基はそれぞれ、置換基として無置換のアルキル基を有するもの(アルキル置換4-ピリジル基、アルキル置換4-キノリル基)が好ましい。
アルキル置換4-ピリジル基、アルキル置換4-キノリル基それぞれが有するアルキル基の数は、例えば1~3個であり、1~2個が好ましい。
【0029】
好ましい一態様において、R1は、アルキル置換若しくは無置換の2-、3-若しくは4-ピリジル基、又はアルキル置換若しくは無置換の2-、3-若しくは4-キノリル基である。R1がアルキル置換若しくは無置換の2-、3-若しくは4-ピリジル基、又はアルキル置換若しくは無置換の2-、3-若しくは4-キノリル基であれば、含水溶媒系における蛍光量子収率に優れる傾向がある。
【0030】
他の好ましい一態様において、R1は、基(2a)又は基(2c)である。R1が基(2a)又は基(2c)であれば、R1が基(2b)である場合に比べて、pHの変化に対する蛍光波長の変化が大きい傾向がある。
本態様において、基(2a)は、アルキル置換若しくは無置換の2-ピリジル基、又はアルキル置換若しくは無置換の2-キノリル基が好ましい。基(2c)は、アルキル置換若しくは無置換の4-ピリジル基、又はアルキル置換若しくは無置換の4-キノリル基が好ましい。
【0031】
R2及びR4において、無置換のアリール基は、単環式でも多環式でもよい。無置換のアリール基の炭素数は、例えば6~14である。
置換のアリール基における置換基としては、例えば、置換又は無置換のアルキル基、-NR21R22で表される基、-N+R23R24R25で表される基、-(OCH2CH2)nOHで表される基(以下、「ポリエチレングリコール基」とも記す。)、スルホン基等が挙げられる。R21及びR22はそれぞれ独立に水素原子又は置換若しくは無置換のアルキル基を示す。R23、R24及びR25はそれぞれ独立に置換又は無置換のアルキル基を示す。置換又は無置換のアルキル基としては、前記と同様のものが挙げられる。nは2以上の整数を示す。nの上限は、例えば24である。置換のアリール基が有する置換基は1つでも2つ以上でもよい。
置換又は無置換のアリール基の具体例としては、フェニル基、ナフチル基、トリメチルアンモニウム置換フェニル基、ポリエチレングリコール置換フェニル基が挙げられる。
R2及びR4は、含水溶媒系への溶解性の点から、置換又は無置換のフェニル基であることが好ましい。
【0032】
R3及びR5において、無置換の鎖式炭化水素基は、直鎖状でも分岐状でもよく、飽和でも不飽和でもよい。無置換の鎖式炭化水素基としては、例えば無置換のアルキル基、無置換のアルケニル基、無置換のアルキニル基が挙げられる。無置換のアルキル基の炭素数は、例えば1~12である。無置換のアルケニル基、無置換のアルキニル基それぞれの炭素数は、例えば2~12である。
置換の鎖式炭化水素基における置換基としては、例えば、アルコキシ基が挙げられる。アルコキシ基の炭素数は、例えば1~3である。置換の鎖式炭化水素基が有する置換基は1つでも2つ以上でもよい。
置換又は無置換の鎖式炭化水素基の具体例としては、メチル基、エチル基、ビニル基、エチニル基が挙げられる。
置換のスチリル基における置換基としては、例えば、置換又は無置換のアルキル基、ジアルキルアミノ基(ジメチルアミノ基等)が挙げられる。置換のスチリル基が有する置換基は1つでも2つ以上でもよい。
R3及びR5は、蛍光量子収率の点から、それぞれ独立にメチル基又はスチリル基であることが好ましく、メチル基であることが特に好ましい。
【0033】
X1及びX2において、ORのRはアルコール残基又は糖残基を示す。
アルコール残基は、アルコールから1つの水酸基を除いた基である。アルコールは1価アルコールでも多価アルコールでもよい。アルコールは、直鎖状でも分岐状でもよい。アルコールの炭素数は、例えば1~12である。
糖残基は、糖から1つの水酸基を除いた基である。糖の炭素数は、例えば5~18である。
アルコール又は糖の具体例としては、メタノール、エタノール、2-プロパノール、エチレングリコール、グリセロール、グルコース、ラクトース等が挙げられる。
X1及びX2は、化学的安定性の点では、フッ素原子が好ましい。
X1及びX2は、水溶性増大、生物代謝促進の点では、ORが好ましい。
【0034】
以下に、化合物(1)の具体例(R1~R5、X1及びX2の組み合わせ例)を示す。以下において、Fはフッ素原子を示す。
化合物(1-1a):R1=2-ピリジル基、R2=フェニル基、R3=メチル基、R4=フェニル基、R5=メチル基、X1=F、X2=F。
化合物(1-1b):R1=2-ピリジル基、R2=フェニル基、R3=メチル基、R4=フェニル基、R5=メチル基、X1=F、X2=OR。
化合物(1-1c):R1=2-ピリジル基、R2=フェニル基、R3=メチル基、R4=フェニル基、R5=メチル基、X1=OR、X2=OR。
化合物(1-2a):R1=3-ピリジル基、R2=フェニル基、R3=メチル基、R4=フェニル基、R5=メチル基、X1=F、X2=F。
化合物(1-2b):R1=3-ピリジル基、R2=フェニル基、R3=メチル基、R4=フェニル基、R5=メチル基、X1=F、X2=OR。
化合物(1-2c):R1=3-ピリジル基、R2=フェニル基、R3=メチル基、R4=フェニル基、R5=メチル基、X1=OR、X2=OR。
化合物(1-3a):R1=4-ピリジル基、R2=フェニル基、R3=メチル基、R4=フェニル基、R5=メチル基、X1=F、X2=F。
化合物(1-3b):R1=4-ピリジル基、R2=フェニル基、R3=メチル基、R4=フェニル基、R5=メチル基、X1=F、X2=OR。
化合物(1-3c):R1=4-ピリジル基、R2=フェニル基、R3=メチル基、R4=フェニル基、R5=メチル基、X1=OR、X2=OR。
化合物(1-4a):R1=6-メチル-2-ピリジル基、R2=フェニル基、R3=メチル基、R4=フェニル基、R5=メチル基、X1=F、X2=F。
化合物(1-4b):R1=6-メチル-2-ピリジル基、R2=フェニル基、R3=メチル基、R4=フェニル基、R5=メチル基、X1=F、X2=OR。
化合物(1-4c):R1=6-メチル-2-ピリジル基、R2=フェニル基、R3=メチル基、R4=フェニル基、R5=メチル基、X1=OR、X2=OR。
化合物(1-5a):R1=6-メチル-3-ピリジル基、R2=フェニル基、R3=メチル基、R4=フェニル基、R5=メチル基、X1=F、X2=F。
化合物(1-5b):R1=6-メチル-3-ピリジル基、R2=フェニル基、R3=メチル基、R4=フェニル基、R5=メチル基、X1=F、X2=OR。
化合物(1-5c):R1=6-メチル-3-ピリジル基、R2=フェニル基、R3=メチル基、R4=フェニル基、R5=メチル基、X1=OR、X2=OR。
化合物(1-6a):R1=6-メチル-4-ピリジル基、R2=フェニル基、R3=メチル基、R4=フェニル基、R5=メチル基、X1=F、X2=F。
化合物(1-6b):R1=6-メチル-4-ピリジル基、R2=フェニル基、R3=メチル基、R4=フェニル基、R5=メチル基、X1=F、X2=OR。
化合物(1-6c):R1=6-メチル-4-ピリジル基、R2=フェニル基、R3=メチル基、R4=フェニル基、R5=メチル基、X1=OR、X2=OR。
化合物(1-7a):R1=2-キノリル基、R2=フェニル基、R3=メチル基、R4=フェニル基、R5=メチル基、X1=F、X2=F。
化合物(1-7b):R1=2-キノリル基、R2=フェニル基、R3=メチル基、R4=フェニル基、R5=メチル基、X1=F、X2=OR。
化合物(1-7c):R1=2-キノリル基、R2=フェニル基、R3=メチル基、R4=フェニル基、R5=メチル基、X1=OR、X2=OR。
化合物(1-8a):R1=3-キノリル基、R2=フェニル基、R3=メチル基、R4=フェニル基、R5=メチル基、X1=F、X2=F。
化合物(1-8b):R1=3-キノリル基、R2=フェニル基、R3=メチル基、R4=フェニル基、R5=メチル基、X1=F、X2=OR。
化合物(1-8c):R1=3-キノリル基、R2=フェニル基、R3=メチル基、R4=フェニル基、R5=メチル基、X1=OR、X2=OR。
化合物(1-9a):R1=4-キノリル基、R2=フェニル基、R3=メチル基、R4=フェニル基、R5=メチル基、X1=F、X2=F。
化合物(1-9b):R1=4-キノリル基、R2=フェニル基、R3=メチル基、R4=フェニル基、R5=メチル基、X1=F、X2=OR。
化合物(1-9c):R1=4-キノリル基、R2=フェニル基、R3=メチル基、R4=フェニル基、R5=メチル基、X1=OR、X2=OR。
化合物(1-10a):R1=3,5-ジメチル-4-ピリジル基、R2=フェニル基、R3=スチリル基、R4=フェニル基、R5=スチリル基、X1=F、X2=F。
化合物(1-10b):R1=6-メチル-4-ピリジル基、R2=フェニル基、R3=メチル基、R4=フェニル基、R5=メチル基、X1=F、X2=OR。
化合物(1-10c):R1=6-メチル-4-ピリジル基、R2=フェニル基、R3=メチル基、R4=フェニル基、R5=メチル基、X1=OR、X2=OR。
化合物(1-11a):R1=3,5-ジメチル-4-ピリジル基、R2=2-トリメチルアンモニウム置換フェニル基、R3=メチル基、R4=2-トリメチルアンモニウム置換フェニル基、R5=メチル基、X1=F、X2=F。
化合物(1-11b):R1=3,5-ジメチル-4-ピリジル基、R2=2-トリメチルアンモニウム置換フェニル基、R3=メチル基、R4=2-トリメチルアンモニウム置換フェニル基、R5=メチル基、X1=F、X2=OR。
化合物(1-11c):R1=3,5-ジメチル-4-ピリジル基、R2=2-トリメチルアンモニウム置換フェニル基、R3=メチル基、R4=2-トリメチルアンモニウム置換フェニル基、R5=メチル基、X1=OR、X2=OR。
【0035】
化合物(1)の分子量は、600未満が好ましく、500以下がより好ましい。分子量が600未満であれば、イメージング等、空間分解能が求められる測定において、優れた空間分解能が得られ易い。
化合物(1)の分子量の下限は、上記式(1)を満たす範囲であれば特に制限はないが、例えば450である。
【0036】
化合物(1)は、例えば、化合物(3)と化合物(4)とを反応させ、得られた化合物(5)と化合物(6)とを塩化ホスホリル(POCl3)の存在下で反応させ、得られた化合物(7)と三フッ化ホウ素エーテル錯体とを三級アミンの存在下で反応させる方法により製造できる。これにより、X1及びX2がフッ素原子である化合物(1)が得られる。
その後、必要に応じて、生成した化合物とアルコール又は糖(ROH)とを反応させる。これにより、2個のフッ素原子いずれか一方又は両方がORで置換され、X1及びX2の一方がフッ素原子で、他方がORである化合物(1)、又はX1及びX2がORである化合物が得られる。
【0037】
【0038】
R1~R5は前記と同義である。
化合物(3)、(4)、(6)はそれぞれ市販品を使用できる。公知の方法により合成したものを用いてもよい。
三フッ化ホウ素エーテル錯体としては、例えば三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体(BF3・OEt2)が挙げられる。ここで、Etはエチル基を示す。
三級アミンとしては、例えばトリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミンが挙げられる。
【0039】
化合物(3)と化合物(4)との反応は、例えば、化合物(3)及び化合物(4)を溶媒に添加し、不活性雰囲気下(例えばN2雰囲気下)、15~30℃で12~72時間反応させる方法により実施できる。
溶媒としては、例えばジクロロメタン、クロロホルム、トルエンが挙げられる。
【0040】
化合物(5)と化合物(6)との反応は、例えば、化合物(5)及び化合物(6)を、塩化ホスホリルを溶媒に溶解した溶液に添加し、15~30℃で12~72時間反応させる方法により実施できる。
塩化ホスホリルの使用量は、例えば、化合物(5)100質量部に対して200~300質量部である。
反応後、必要に応じて、洗浄、抽出等を行ってもよい。
【0041】
化合物(7)と三フッ化ホウ素エーテル錯体との反応は、例えば、化合物(7)を溶媒に溶解した溶液に、三級アミン、三フッ化ホウ素エーテル錯体を順次加え、15~30℃で12~72時間反応させる方法により実施できる。
反応後、必要に応じて、反応物の精製等を行ってもよい。
三級アミンとしては、例えば、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミンが挙げられる。
三級アミンの使用量は、例えば、化合物(7)100質量部に対して500~1000質量部である。
反応後、必要に応じて、精製等を行ってもよい。
【0042】
X1及びX2がフッ素原子である化合物(1)と反応させるアルコール又は糖としては、ORに対応するものが用いられる。
X1及びX2がフッ素原子である化合物(1)とアルコール又は糖とは、比較的温和な条件(例えば、常温・常圧下)で反応させることができる。
反応後、必要に応じて、精製等を行ってもよい。
【0043】
ただし、化合物(1)の製造方法は上記の方法に限定されるものではなく、BODIPY色素等の合成方法として公知の方法を参照して適宜変更を加えることができる。
【0044】
化合物(1)は、塩の形態としてもよい。
塩としては、例えば、トリフルオロ酢酸塩、ホウフッ化水素酸塩が挙げられる。
【0045】
以上説明した化合物(1)にあっては、上記構造を有することから、pHの変化に応じて蛍光波長シフトが生じる。一例を挙げると、化合物(1)の溶液のpHを段階的に変化させ、各溶液に励起光を照射したときに、溶液のpHの変化に応じて、溶液からの蛍光の色調が変化する。他の例を挙げると、化合物(1)の溶液のpHを段階的に変化させ、各溶液に励起光を照射し、溶液からの蛍光スペクトルを測定し、互いに異なる2波長の蛍光強度の比を求めたときに、溶液のpHの変化に応じて、蛍光強度の比が変化する。
化合物(1)のR1中のピリジン環窒素は可逆的にプロトン化され、pHが変化すると、ピリジン環窒素がプロトン化されていない化合物(1)と、ピリジン環窒素がプロトン化された化合物(1)との比率が変化する。具体的には、pHが低く(高く)なると、プロトン化された化合物(1)の比率が高く(低く)なる。
BPDIPYのメソ位置換基であるR1の構造が変化すると、蛍光の波長も変化する。pHの変化に応じて、ピリジン環窒素がプロトン化されていない化合物(1)と、ピリジン環窒素がプロトン化された化合物(1)との比率が変化することで、蛍光波長シフトが生じ、全体としての色調や蛍光強度の比が変化すると考えられる。
【0046】
前述の特許文献2には、BODIPYのメソ位(8位)にN-アルキルピリジニウム基を導入し、BODIPYの1位と7位にメチル基を導入した化合物が記載されている。1,7位にメチル基が導入されている場合、メソ位の置換基の回転が完全に阻害され、ON-OFF型にしかできない。一方、1,7位のメチル基が存在しないと、蛍光がクエンチングする。
本態様においては、BODIPYのメソ位にピリジン構造を導入するとともに、1,7位に芳香族構造を導入し、BODIPYを唯一の発色団とするテトラド型分子を構築することにより、BODIPYとメソ位の置換基との共役の程度を制御して蛍光波長シフトを生じさせることができる。また、メソ位の置換基と1,7位の芳香族構造による疎水性パッキングにより、化合物(1)を溶解する溶媒との摩擦(無輻射失活を引き起こすと想定される)を回避して蛍光強度を維持できる。
【0047】
pHの変化に応じて蛍光波長シフトが生じることから、化合物(1)を蛍光プローブとして用いることで、pHのレシオメトリック測定が可能となる。また、化合物(1)は低分子化合物であることから、空間分解能に優れ、イメージング等、空間分解能が求められる測定に有用である。例えば、化合物(1)は低分子化合物であることから細胞内への導入が可能であり、細胞内pHのイメージングが可能である。化合物(1)やその塩を含む蛍光プローブの使用方法は、従来の蛍光プローブの使用方法と同様であってよい。
前記した色調や蛍光強度の比は、化合物(1)の酸解離定数pKa付近での変化が大きい。そのため、pH測定においては、測定対象のpH範囲に適したpKaを持つ化合物(1)を用いることが望ましい。化合物(1)にあっては、R1の構造を選択することによって、化合物(1)のpKaを、例えば1.2~3.7の範囲で制御でき、様々な測定対象に適用できる。例えば胃酸のような強酸性の試料にも適用できる。
pKaは、pH応答により得られたシグモイド曲線の変曲点により求められる。
【実施例0048】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
化合物の同定、評価に使用した機器を以下に示す。
蛍光スペクトル:島津製作所社製分光蛍光光度計「RF-1500」。
絶対量子収率:浜松ホトニクス社製「C9920-02G」。
UV吸収スペクトル:島津製作所社製紫外可視吸光光度計「UV-3100PC」。
赤外吸収スペクトル(IR):サーモフィッシャーサイエンティフィック社製「Nicolet Nexus 670NT FT-IR」。
核磁気共鳴スペクトル(NMR):アジレント・テクノロジー社製「NMR System 500PS SN」。
高分解能質量分析(HRMS):日本電子社製「JMS-700N」。
【0049】
(合成例1:2-メチル-4-フェニルピロールの合成)
NaNO3水溶液5mL(NaNO3換算で402mg、5.83mmol)を、0℃で、酢酸10mLにベンゾイル酢酸エチル1mL(5.83mmol)を溶解した溶液に加え、その混合物を室温で2時間撹拌した。続いて、得られた溶液を、酢酸4mLに亜鉛762mg(11.65mmol)及びアセト酢酸エチル0.736mL(5.83mmol)を混合した混合物に加え、120℃で一晩還流させた。次に、得られた反応物を水で洗浄し、酢酸エチルによる抽出を行った。抽出された有機相をMgSO4で乾燥し、残留物をカラムクロマトグラフィーにより精製してジエチル l 5-メチル-3-フェニル-1H-ピロール-2,4-ジカルボキシレート(1.11g、収率63%)を得た。
次いで、ジエチル l 5-メチル-3-フェニル-1H-ピロール-2,4-ジカルボキシレート714mg(2.37mmol)及びKOH652mg(11.62mmol)をエチレングリコールと混合し、得られた混合物を170℃で3時間撹拌した。その後、水で洗浄し、ジクロロメタンによる抽出を行った。抽出された有機相をMgSO4で乾燥し、残留物をカラムクロマトグラフィーにより精製して2-メチル-4-フェニルピロール(297mg、収率80%)を得た。
【0050】
【0051】
(実施例1)
<2quBODの製造>
式(1)中のR1が2-キノリル基、R2及びR4がフェニル基、R3及びR5がメチル基である化合物(以下、「2quBOD」とも記す。)(分子量499.36)を以下の手順で製造した。
キノリン-2-カルボニルクロリド塩酸塩(210mg、0.92mmol)をジクロロメタン(10mL)に溶解し、続いて2-メチル-4-フェニルピロール(145mg、0.92mmol)を加え、得られた混合物を、N2雰囲気下、室温で一晩撹拌した。得られた粗ケトン(165mg)及び2-メチル-4-フェニルピロール(146mg、0.93mmol)を、0℃で、POCl3(1.95mmol)を加えたジクロロメタン(15mL)に溶解した。得られた混合物を30℃で48時間撹拌し、水で洗浄し、ジクロロメタンによる抽出を行った。抽出された有機相を乾燥し、精製せずに再びジクロロメタン(15mL)に溶解した。この溶液に、トリエチルアミン(5mmol)及び三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体(7mmol)を順番に加え、反応を一晩行った。得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィーにより精製して、目的の化合物(67mg、収率14.5%)を得た。
得られた化合物の同定データを以下に示す。この結果から、得られた化合物が以下に示す構造を有することが確認された。
1H-NMR(500MHz,CDCl3,TMS,r.t.) δ(ppm) 2.70(6H,s),6.20(2H,s),6.44(6H,br,s),6.62(4H,m),6.82(1H,d,J=8.2Hz),7.21(1H,d,J=8.2Hz),7.38(2H,m),7.47(1H,m),7.55(1H,m);13C-NMR(75MHz,CDCl3,TMS,r.t.) δ(ppm) 14.87,121.48,123.98,125.67,126.62,126.74,126.82,128.18,128.74,128.98,131.23,133.99,135.00,146.17,147.41,150.93,156.63;IR(ATR) 696.2,759.8,974.8,1080.9,1110.8,1164.8,1203.4,1487.8,1541.8cm-1;HRMS:calcd for C32H24BF2N3[M],499.2031,Found 499.2031;融点236-241℃.
【0052】
【0053】
【0054】
2quBODを溶媒に溶解し、励起波長λAbs、蛍光波長λem、モル吸光係数、蛍光量子収率φfを求めた。結果を表1に示す。ACNはアセトニトリルを示す。
【0055】
【0056】
<pH変化によるUV吸収スペクトル変化の評価>
2quBODを、最終的な濃度が5.0μMとなるように50質量%アセトニトリル水溶液に溶解し、塩酸でpHを3.6から0.2まで段階的に変化させた。
各溶液についてUV吸収スペクトルを測定した。結果を
図1に示す。
図1に示すように、pH3.6のときは波長520nm付近に吸収のピークが見られた。pHが低下するにつれて波長520nm付近の吸収が小さくなり、ピークが長波長側にシフトし、pH0.2のときは波長528nm付近にピークが見られた。
pH3.6付近では、プロトン化されていない2quBODが主に存在し、pH0.2付近では、プロトン化された2quBOD(2quBOD-H)が主に存在していたと考えられる。
【0057】
<pH変化による蛍光スペクトル変化の評価>
2quBODを、最終的な濃度が5.0μMとなるように50質量%アセトニトリル水溶液に溶解し、塩酸でpHを2.8から0.2まで段階的に変化させた。各溶液について蛍光スペクトルを測定した。結果を
図2に示す。
図2に示すように、pH2.8のときは波長545nm付近に蛍光強度のピークが見られた。pHが低下するにつれて波長545nm付近の蛍光強度が小さくなり、ピークが長波長側にシフトした。pH0.2のときは波長582nm付近にピークが見られた。
また、各溶液の蛍光の色調は、pH2.8のときが緑色で、pHが低下するにつれて黄緑色、黄色、薄い橙色と変化していき、pH0.2では濃い橙色となった。
【0058】
<pH変化による蛍光強度比変化の評価>
2quBODを、最終的な濃度が5.0μMとなるように50質量%アセトニトリル水溶液に溶解し、塩酸又は水酸化ナトリウムでpHを8から0.2まで段階的に変化させた。各溶液について蛍光スペクトルを測定し、波長545nmの蛍光強度(F
545)に対する波長582nmの蛍光強度(F
582)の比(F
582/F
545)を求めた。結果を
図3に示す。
図3に示すように、pHの変化に応じて蛍光強度比(F
582/F
545)が変化した。また、その変曲点のpHは1.1であった。よって2quBODのpKaは1.1であった。
【0059】
(実施例2)
<2pyBODの製造>
キノリン-2-カルボニルクロリド塩酸塩の代わりにピリジン-2-カルボニルクロリド塩酸塩(164mg、0.92mmol)を用いた以外は実施例1と同様にして、式(1)中のR1が2-ピリジル基、R2及びR4がフェニル基、R3及びR5がメチル基である化合物(以下、「2pyBOD」とも記す。)(分子量)を製造した。収率は26%であった。
得られた化合物の同定データを以下に示す。この結果から、得られた化合物が以下に示す構造を有することが確認された。
1H-NMR(500MHz,CDCl3,TMS,r.t.) δ(ppm) 2.68(6H,s),6.20(2H,s),6.51(2H,t,J=6.0Hz),6.69(4H,d,J=7.6Hz),6.82(9H,m),7.71(H,d,J=4.4Hz);13C-NMR(125MHz,CDCl3,TMS,r.t.) δ(ppm) 14.87,121.77,123.22,126.15,127.21,127.44,128.36,130.97,133.92,135.52,141.01,147.38,147.97,150.21,156.47;IR(KBr) 698,754,973,1081,1111,1165,1206,1500cm-1;HRMS:calcd for C28H23BF2N3[M+H]+,450.1953,Found 450.1963;Decomposed>.
【0060】
【0061】
2pyBODを溶媒に溶解し、励起波長λAbs、蛍光波長λem、モル吸光係数、蛍光量子収率φfを求めた。結果を表2に示す。
【0062】
【0063】
<pH変化によるUV吸収スペクトル変化の評価>
2pyBODについて、pHを4.0から0.9まで変化させたこと以外は実施例1と同様にして、pH変化によるUV吸収スペクトル変化を評価した。結果を
図4に示す。
図4に示すように、pH4.0のときは波長520nm付近に吸収のピークが見られた。pHが低下するにつれて波長520nm付近の吸収が小さくなり、ピークが長波長側にシフトし、pH0.9のときは波長535nm付近にピークが見られた。
pH4.0付近では、プロトン化されていない2pyBODが主に存在し、pH0.9付近では、プロトン化された2pyBOD(2pyBOD-H)が主に存在していたと考えられる。
【0064】
<pH変化による蛍光スペクトル変化の評価>
2pyBODについて、pHを4.0から0.9まで変化させたこと以外は実施例1と同様にして、pH変化による蛍光スペクトル変化を評価した。結果を
図5に示す。
図5に示すように、pH4.0のときは波長541nm付近に蛍光強度のピークが見られた。pHが低下するにつれて波長541nm付近の蛍光強度が小さくなり、ピークが長波長側にシフトした。pH0.9のときは波長563nm付近にピークが見られた。
【0065】
<pH変化による蛍光強度比変化の評価>
2pyBODについて、pHを4.0から0.9まで変化させたこと以外は実施例1と同様にして蛍光スペクトルを測定し、波長541nmの蛍光強度(F
541)に対する波長563nmの蛍光強度(F
563)の比(F
563/F
541)を求めた。結果を
図6に示す。
図6に示すように、pHの変化に応じて蛍光強度比(F
563/F
541)が変化した。また、その変曲点のpHは1.7であった。よって2pyBODのpKaは1.7であった。
【0066】
<pHの繰り返しの切り替えの評価>
2pyBODを、最終的な濃度が5.0μMとなるように50質量%アセトニトリル水溶液に溶解し、塩酸又は水酸化ナトリウムでpH8.3とpH1.2との間でpHを繰り返し切り替えた。各溶液について、上記と同様にして蛍光スペクトルを測定し、蛍光強度比(F
563/F
541)を求めた。結果を
図7に示す。
図7に示すように、pHを繰り返し切り替えても、各pHにおける蛍光強度比の値は同等であった。
【0067】
<トリフルオロ酢酸濃度の変化による蛍光スペクトル・蛍光強度比の変化の評価>
2pyBODを、最終的な濃度が5.0μMとなるようにアセトニトリルに溶解し、トリフルオロ酢酸を添加し、トリフルオロ酢酸濃度が10μM~4mMの溶液を調製した。各溶液について蛍光スペクトルを測定し、波長563nmの蛍光強度(F
563)に対する波長541nmの蛍光強度(F
541)の比(F
541/F
563)を求めた。蛍光スペクトルを
図8に、蛍光強度比(F
541/F
563)を
図9に示す。
図8に示すように、トリフルオロ酢酸濃度が10μMのときは波長541nm付近に吸収のピークが見られた。トリフルオロ酢酸濃度が上昇(pHが低下)するにつれて波長541nm付近の吸収が小さくなり、ピークが長波長側にシフトし、トリフルオロ酢酸濃度が4mMのときは波長566nm付近にピークが見られた。
図9に示すように、トリフルオロ酢酸濃度が高くなるにつれて蛍光強度比(F
541/F
563)が大きくなっていた。特に、トリフルオロ酢酸濃度が5~750μMの範囲内のときに、良好な相関が得られた。
【0068】
(実施例3)
<6Me2pyBODの製造>
キノリン-2-カルボニルクロリド塩酸塩の代わりに6-メチルピリジン-2-カルボニルクロリド塩酸塩(177mg、0.92mmol)を用いた以外は実施例1と同様にして、式(1)中のR1が6-メチル-2-ピリジル基、R2及びR4がフェニル基、R3及びR5がメチル基である化合物(以下、「6Me2pyBOD」とも記す。)(分子量=463.33)を製造した。収率は42.5%であった。
得られた化合物の同定データを以下に示す。この結果から、得られた化合物が以下に示す構造を有することが確認された。
1H-NMR(500MHz,CDCl3,TMS,r.t.) δ(ppm) 1.98(3H,s),2.67(6H,s),6.19(2H,s),6.37(1H,d,J=7.1Hz),6.65(2H,m),6.72 (4H,d,J=7.1Hz),6.87(6H,m);13C-NMR(125MHz,CDCl3,TMS,r.t.) δ(ppm) 14.85,23.50,115.17,121.66,122.65,124.54,126.22,127.00,128.28,134.57,135.64,147.29,149.48,156.34,156.81;IR(ATR) 695.2,753.1,970.0,1067.4,1111.8,1161.9,1202.4,1360.5,1487.8,1541.8cm-1;HRMS:calcd for C29H24BF2N3[M],463.2031,Found 463.2031;融点248-253℃.
【0069】
【0070】
6Me2pyBODを溶媒に溶解し、励起波長λAbs、蛍光波長λem、モル吸光係数、蛍光量子収率φfを求めた。結果を表3に示す。
【0071】
【0072】
<pH変化による蛍光スペクトル変化の評価>
6Me2pyBODについて、pHを7.3から1.2まで変化させたこと以外は実施例1と同様にして、pH変化による蛍光スペクトル変化を評価した。結果を
図10に示す。
図10に示すように、pH7.3のときは波長540nm付近に蛍光強度のピークが見られた。pHが低下するにつれて波長540nm付近の蛍光強度が小さくなり、ピークが長波長側にシフトした。pH1.2のときは波長562nm付近にピークが見られた。
pH7.3付近では、プロトン化されていない6Me2pyBODが主に存在し、pH1.2付近では、プロトン化された6Me2pyBOD(6Me2pyBOD-H)が主に存在していたと考えられる。
【0073】
<pH変化による蛍光強度比変化の評価>
6Me2pyBODについて、pHを7.3から1.2まで変化させたこと以外は実施例1と同様にして蛍光スペクトルを測定し、波長540nmの蛍光強度(F
540)に対する波長562nmの蛍光強度(F
562)の比(F
562/F
540)を求めた。結果を
図11に示す。
図11に示すように、pHの変化に応じて蛍光強度比(F
562/F
540)が変化した。また、その変曲点のpHは2.3であった。よって6Me2pyBODのpKaは2.3であった。
【0074】
<pHの繰り返しの切り替えの評価>
6Me2pyBODを、最終的な濃度が5.0μMとなるように50質量%アセトニトリル水溶液に溶解し、塩酸又は水酸化ナトリウムでpH8.5とpH1.8との間でpHを繰り返し切り替えた。各溶液について、上記と同様にして蛍光スペクトルを測定し、蛍光強度比(F
562/F
540)を求めた。結果を
図12に示す。
図12に示すように、pHを繰り返し切り替えても、各pHにおける蛍光強度比の値は同等であった。
【0075】
<トリフルオロ酢酸濃度の変化による蛍光スペクトル・蛍光強度比の変化の評価>
6Me2pyBODを、最終的な濃度が5.0μMとなるようにアセトニトリルに溶解し、トリフルオロ酢酸を添加し、トリフルオロ酢酸濃度が5μM~1mMの溶液を調製した。各溶液について蛍光スペクトルを測定し、波長564nmの蛍光強度(F
564)に対する波長541nmの蛍光強度(F
541)の比(F
541/F
564)を求めた。蛍光スペクトルを
図13に、蛍光強度比(F
541/F
564)を
図14に示す。
図13に示すように、トリフルオロ酢酸濃度が5μMのときは波長541nm付近に吸収のピークが見られた。トリフルオロ酢酸濃度が上昇(pHが低下)するにつれて波長541nm付近の吸収が小さくなり、ピークが長波長側にシフトし、トリフルオロ酢酸濃度が1mMのときは波長562nm付近にピークが見られた。
図14に示すように、トリフルオロ酢酸濃度が高くなるにつれて蛍光強度比(F
541/F
564)が大きくなっていた。
【0076】
(実施例4)
<4pyBODの製造>
キノリン-2-カルボニルクロリド塩酸塩の代わりにピリジン-4-カルボニルクロリド塩酸塩(164mg、0.92mmol)を用いた以外は実施例1と同様にして、式(1)中のR1が4-ピリジル基、R2及びR4がフェニル基、R3及びR5がメチル基である化合物(以下、「4pyBOD」とも記す。)(分子量=449.30)を製造した。収率は24.1%であった。
得られた化合物の同定データを以下に示す。この結果から、得られた化合物が以下に示す構造を有することが確認された。
1H-NMR(300MHz,CDCl3,TMS,r.t.) δ(ppm) 2.70(6H,s),6.22(2H,s),6.66(6H,m),6.85(4H,t,J=7.3Hz),6.97(2H,m),7.67(2H,d,J=5.9Hz);13C-NMR(125MHz,CDCl3,TMS,r.t.) δ(ppm) 14.89,122.18,126.20,127.21,127.32,128.51,134.87,147.36,156.79;IR(KBr) 1075,1112,1171,1206,1502,1552cm-1;HRMS:calcd for C28H23BF2N3[M+H]+,450.1953,Found 450.1948;融点236-241℃.
【0077】
【0078】
4pyBODを溶媒に溶解し、励起波長λAbs、蛍光波長λem、モル吸光係数、蛍光量子収率φfを求めた。結果を表4に示す。
【0079】
【0080】
<pH変化による蛍光強度比変化の評価>
4pyBODについて、pHを7.0から1.5まで変化させたこと以外は実施例1と同様にして蛍光スペクトルを測定し、波長540nmの蛍光強度(F
540)に対する波長562nmの蛍光強度(F
562)の比(F
562/F
540)を求めた。結果を
図15に示す。
図15に示すように、pHの変化に応じて蛍光強度比(F
562/F
540)が変化した。また、その変曲点のpHは3.3であった。よって2pyBODのpKaは3.3であった。
【0081】
(比較例1)
<化合物5の製造>
下記式5で表される化合物(以下、「化合物5」とも記す。)(分子量372.22)を以下の手順で製造した。
キノリン-2-カルボニルクロリド塩酸塩の代わりにジメチルホルムアミド(67mg、0.92mmol)及びPOCl3(1.95mmol)を用いた以外は実施例1と同様にして、目的の化合物5(収率6.3%)を得た。
得られた化合物の同定データを以下に示す。この結果から、得られた化合物が以下に示す構造を有することが確認された。
1H-NMR(500MHz,CDCl3,TMS,r.t.) δ(ppm) 2.66(6H,s),6.39(2H,s),7.28(1H,s),7.41(10H,m);13C-NMR(125MHz,CDCl3,TMS,r.t.) δ(ppm) 14.98,117.84,125.89,128.50,128.60,128.97,132.79,133.54,145.46,156.72;IR(ATR) 699.1,763.7,970.0,1018.2,1064.5,1155.2,1201.4,1486.8,1513.8,1585.2cm-1;HRMS:calcd for C23H19BF2N2[M],372.1609,Found 372.1610;融点199-204℃.
【0082】
【0083】
化合物5を溶媒に溶解し、励起波長λAbs、蛍光波長λem、モル吸光係数、蛍光量子収率φfを求めた。結果を表5に示す。
【0084】
【0085】
<pH変化による蛍光強度比変化の評価>
化合物5について、pHを7.0から1.3まで変化させたこと以外は実施例1と同様にして蛍光スペクトルを測定したところ、波長のシフトはほとんど観察されなかった(pH7.0において波長538nm、pH1.3において波長539nm)。その結果、有効な蛍光強度比を測定できなかった。
【0086】
(比較例2)
2-ピリジンカルボキサアルデヒド(99mg、0.92mmol)をジクロロメタン(10mL)に溶解し、続いて2-メチル-ピロール(150mg、1.84mmol)を加え、得られた混合物にトリフルオロ酢酸(7.7μL、0.1mmol)を加え、N2雰囲気下、室温で一晩撹拌した。得られた混合物を重曹水に注ぎ、ジクロロメタン50mLで3回抽出し、ジクロロメタン抽出液を硫酸マグネシウム2gで乾燥させた。硫酸マグネシウムを濾過で取り除いた濾液を、減圧下濃縮した。得られた残渣を、ジクロロメタン-水混合溶媒(ジクロロメタン:水=1:1)10mLに溶解し、この溶液にジクロロジシアノベンゾキノン(DDQ)(209mg、0.92mmol)を加えて室温で30分攪拌した。反応後、混合物を重曹水に注ぎ、ジクロロメタン50mLで3回抽出し、ジクロロメタン抽出液を硫酸マグネシウム2gで乾燥させた。硫酸マグネシウムを濾過で取り除いた濾液を、減圧下濃縮した。得られた残渣を、ジクロロメタン10mLに溶解させ、この溶液に、トリエチルアミン(10mmol)及び三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体(7mmol)を順番に加え、反応を一晩行った。得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィーにより精製して、下記式6で表される化合物(以下、「化合物6」とも記す。)を製造した。収率は17.4%であった。
得られた化合物の同定データを以下に示す。この結果から、得られた化合物が以下に示す構造を有することが確認された。
1H-NMR(300MHz,CDCl3,TMS,r.t.) δ(ppm) 2.65(6H,s),6.28(2H,d,J=3.5Hz),6.79(2H,d,J=4.1Hz),7.44(1H,dd,J=7.33,5.0Hz),7.57(1H,d,J=8.2Hz),7.84(1H,t,J=7.6Hz),8.78(1H,d,J=4.7Hz);13C-NMR(125MHz,CDCl3,TMS,r.t.) δ(ppm) 14.95,119.81,124.25,126.03,130.45,134.29,136.26,139.27,149.88,152.94,158.32;IR(KBr) 720,986,1009,1080,1150,1275,1493,1552cm-1;HRMS:calcd for C16H15BF2N3[M+H]+,298.1327,Found 298.1330;融点141-145℃.
【0087】
【0088】
化合物6を溶媒に溶解し、励起波長λAbs、蛍光波長λem、モル吸光係数、蛍光量子収率φfを求めた。結果を表6に示す。
【0089】
【0090】
<pH変化による蛍光強度比変化の評価>
化合物6について、pHを7.0から1.0まで変化させたこと以外は実施例1と同様にして蛍光スペクトルを測定したところ、pH2.0未満の酸性領域で波長563nmの蛍光強度の著しい減衰が生じ、波長439nmの蛍光強度(F439)に対する波長563nmの蛍光強度(F563)の比を有意な値として求めることは出来なかった。
【0091】
(分子軌道計算)
実施例1~4の化合物のUV吸収スペクトル及び蛍光スペクトルでは、pHの低下に伴い、ピークが22~38nm程度長波長側にシフトした。この場合、蛍光に関する分子軌道はプロトン化によって再編成する必要がある。
図16に、アセトニトリル中の2pyBOD及び2pyBOD-Hについて、基底状態のフロンティア軌道を示す。ab-initio計算は、Gaussian16により、密度汎関数CAM-B3LYP、6-31G(d)基底系により行った。
図16に示すように、メソ置換基とBODIPYの間の二面角は、アセトニトリル中の基底状態で、2pyBODで67.48°、2pyBOD-Hで66.29°と計算された。これらの化合物のHOMOの形状は似ているが、2pyBOD-HのLUMOは主にメソ置換基で拡張され、結果としてエネルギーが低下している。
【0092】
図17に、アセトニトリル中の2pyBOD-H及びプロトン化された化合物5について、BODIPYとメソ置換基の間の二面角(40~140°)に依存したエネルギープロファイルを示す。
図17に示すように、2pyBOD-Hの二面角(40~140°)に依存したエネルギープロファイルは、プロトン化された化合物5の場合とは異なり、90°で小さな障壁(7.3kJ/mol)の存在を示した。これは、メソ置換基の回転とともに協調して回転する1,7-ジフェニル基によるものと考えられる。
【0093】
この計算結果は、上述の評価結果を説明できる。つまり、1,7-ジフェニル基は、メソ置換基とBODIPYの二面角を60~70°で制御する。これにより、LUMOとの部分的な結合が可能になり、一方でHOMOでは不可能になる。メソ置換基がプロトン化されると、LUMOエネルギーが低下し、LUMOがメソ置換基上に広がり、蛍光シフトを引き起こすと考えられる。
本発明の化合物又はその塩は、低分子化合物でありながら、pHの変化に応じて蛍光波長シフトが生じる。そのため、これを蛍光プローブとして用いることで、レシオメトリック測定が可能となる。また、イメージング等、空間分解能が求められる測定において優れた空間分解能が得られる。