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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022178596
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】二酸化炭素選択的富化デバイス
(51)【国際特許分類】
   C25B 9/00 20210101AFI20221125BHJP
   C25B 11/032 20210101ALI20221125BHJP
   C25B 1/01 20210101ALI20221125BHJP
   C25B 9/17 20210101ALI20221125BHJP
   C01B 32/50 20170101ALI20221125BHJP
【FI】
C25B9/00 Z
C25B11/032
C25B1/01 Z
C25B9/17
C01B32/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021085514
(22)【出願日】2021-05-20
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 晴彦
(74)【代理人】
【識別番号】100197583
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 健
(72)【発明者】
【氏名】神谷 和秀
(72)【発明者】
【氏名】中西 周次
(72)【発明者】
【氏名】加藤 慎太郎
【テーマコード(参考)】
4G146
4K011
4K021
【Fターム(参考)】
4G146JA02
4G146JB09
4G146JB10
4G146JC05
4G146JD10
4K011AA11
4K011DA11
4K021AB25
4K021BA11
4K021DC15
(57)【要約】      (修正有)
【課題】二酸化炭素と酸素とを含む原料ガスから二酸化炭素を選択的に取り出しかつ富化可能な電気化学デバイスを提供すること。
【解決手段】本発明の一実施形態では、カソードである第1ガス拡散電極と、前記第1ガス拡散電極から離隔して配置され、かつアノードである第2ガス拡散電極と、少なくとも前記第1ガス拡散電極と前記第2ガス拡散電極との間にて、前記第1ガス拡散電極と前記第2ガス拡散電極とに接触して存在する電解液とを備え、前記電解液は、酸素と比べて相対的に高い電子求引性の官能基を備えたキノン系化合物を含んで成る、二酸化炭素選択的富化デバイスが提供される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソードである第1ガス拡散電極と、
前記第1ガス拡散電極から離隔して配置され、かつアノードである第2ガス拡散電極と、
少なくとも前記第1ガス拡散電極と前記第2ガス拡散電極との間にて、前記第1ガス拡散電極と前記第2ガス拡散電極とに接触して存在する電解液と
を備え、
前記電解液は、酸素と比べて相対的に高い電子求引性の官能基を備えたキノン系化合物を含んで成る、二酸化炭素選択的富化デバイス。
【請求項2】
前記キノン系化合物がヒドロキノン系化合物とベンゾキノン系化合物とを有し、前記電解液中でヒドロキノン系化合物とベンゾキノン系化合物とが循環している、請求項1に記載の二酸化炭素選択的富化デバイス。
【請求項3】
前記官能基を備えた前記ヒドロキノン系化合物が、前記酸素による酸化に対して耐性がある、請求項2に記載の二酸化炭素選択的富化デバイス。
【請求項4】
前記官能基を備えた前記キノン系化合物の酸化還元電位が前記酸素よりも高い、請求項1~3のいずれかに記載の二酸化炭素選択的富化デバイス。
【請求項5】
前記官能基がスルホン酸塩である、請求項1~4のいずれかに記載の二酸化炭素選択的富化デバイス。
【請求項6】
前記スルホン酸塩がスルホン酸ナトリウムである、請求項5に記載の二酸化炭素選択的富化デバイス。
【請求項7】
前記官能基が1つ以上4つ以下存在する、請求項1~6のいずれかに記載の二酸化炭素選択的富化デバイス。
【請求項8】
前記キノン系化合物の酸化還元反応により、前記カソードと前記アノードとの間にpH勾配が供される、請求項1~7のいずれかに記載の二酸化炭素選択的富化デバイス。
【請求項9】
前記ヒドロキノン系化合物がヒドロキシ基を含み、前記カソードでの還元反応により前記ヒドロキノン系化合物由来のプロトンが吸蔵されることで、前記カソード側のpHが、前記還元反応前と比べて相対的に高くなる、請求項2に従属する請求項8に記載の二酸化炭素選択的富化デバイス。
【請求項10】
前記アノードでの酸化反応により前記プロトンが放出されることで、前記アノード側のpHが、前記酸化反応前と比べて相対的に低くなる、請求項9に記載の二酸化炭素選択的富化デバイス。
【請求項11】
前記ヒドロキノン系化合物が式1で示されるタイロンである、請求項2~10のいずれかに記載の二酸化炭素選択的富化デバイス。
[式1]
【請求項12】
前記ベンゾキノン系化合物は、前記アノードでの酸化反応により、前記式1中のヒドロキシ基が式2に示されるカルボニル基に置換された化合物である、請求項11に記載の二酸化炭素選択的富化デバイス。
[式2]
【請求項13】
前記ガス拡散電極の表面に電極触媒が非存在である、請求項1~12のいずれかに記載の二酸化炭素選択的富化デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素選択的富化デバイスに関する。具体的には、本発明は、二酸化炭素と酸素とを含む原料ガスから二酸化炭素を選択的に取り出しかつ富化可能な電気化学デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化の原因とされている大気および/または工場排ガスに含まれる二酸化炭素を再資源化するための試みがより一層活発化している。例えば、電気化学還元反応を利用して、二酸化炭素をエチレン等の工業用ガスに変換する試みがなされている。かかる二酸化炭素につき、特許文献1~3には、電気化学デバイスを用いて得られることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5617048号公報
【特許文献2】特許第5697748号公報
【特許文献3】特許第5697749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、本願発明者らは、従前の電気化学デバイス(具体的には二酸化炭素透過又は富化デバイス)には改善可能な点があることを新たに見出した。具体的には、二酸化炭素の再資源化に際しては、二酸化炭素以外に酸素等が含まれていると、電気化学還元反応を利用する場合にエチレン等の工業用ガスへの変換効率が低下することが知られている。この点につき、特許文献1~3に示される電気化学デバイスでは、電気化学反応後にアノードから取り出されるガスは二酸化炭素に加え酸素を含んでいる。そのため、二酸化炭素の再資源化を好適に実現することは容易ではない虞がある。
【0005】
かかる事情に鑑み、本発明は、二酸化炭素と酸素とを含む原料ガスから二酸化炭素を選択的に取り出しかつ富化可能な電気化学デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の一実施形態では、
カソードである第1ガス拡散電極と、
前記第1ガス拡散電極から離隔して配置され、かつアノードである第2ガス拡散電極と、
少なくとも前記第1ガス拡散電極と前記第2ガス拡散電極との間にて、前記第1ガス拡散電極と前記第2ガス拡散電極とに接触して存在する電解液と
を備え、
前記電解液は、酸素と比べて相対的に高い電子求引性の官能基を備えたキノン系化合物を含んで成る、二酸化炭素選択的富化デバイスが提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一実施形態によれば、二酸化炭素と酸素とを含む原料ガスから二酸化炭素を選択的に取り出しかつ富化可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る二酸化炭素選択的富化デバイス(電気化学デバイス)を模式的に示す断面図である。
図2図2は、ヒドロキノン系化合物の酸化還元反応を示す模式図である。
図3図3は、ヒドロキノン系化合物の電流密度-電位曲線を示すグラフ(サイクリックボルタモグラム(CV))である。
図4図4は、電流オン時の二酸化炭素と酸素(原料ガス中の体積含有割合:50%/50%)のイオン電流挙動を示すグラフである。
図5図5は、アノードから取り出された二酸化炭素のガス流量と酸素のガス流量を示すグラフである。
図6図6は、印加電流値の違い(二酸化炭素の体積含有割合:100%)とイオン電流との関係を示すグラフである。
図7図7は、アノードから取り出された二酸化炭素のガス流量と印加電流値の違い(二酸化炭素の体積含有割合:100%)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態に係る二酸化炭素選択的富化デバイス(電気化学デバイス)について具体的に説明する。
【0010】
[二酸化炭素選択的富化デバイス(電気化学デバイス)の基本的構成]
図1は、本発明の一実施形態に係る二酸化炭素選択的富化デバイス(電気化学デバイス)を模式的に示す断面図である。図1に示すように、本発明の一実施形態に係る二酸化炭素選択的富化デバイス(電気化学デバイス)100は、第1ガス拡散電極10(カソード)と、第1ガス拡散電極10から離隔して配置された第2ガス拡散電極20(アノード)と、電解液30と、直流電源(図示せず)とを備える。
【0011】
(第1ガス拡散電極10/第2ガス拡散電極20)
本発明の一実施形態では、第1ガス拡散電極10および第2ガス拡散電極20はそれぞれ多孔質導電体を有して成る。多孔質導電体は、反応面積を増大させるために比表面積が大きいことが好ましい。好ましくは、多孔質導電体の比表面積はBET吸着測定において1m/g以上、より好ましくは100m/g以上、さらに好ましくは500m/g以上である。
【0012】
多孔質導電体の比表面積がBET吸着測定において1m/gより小さい場合には、三相界面の面積が小さいために、反応量が小さくなり、二酸化炭素富化性能が十分ではない。また、多孔質導電体の表面抵抗による電圧損失を低減させるために、多孔質導電体の表面抵抗は低いほどよいが、好ましくは表面抵抗は1kΩ/□以下、より好ましくは200Ω/□以下である。多孔質導電体の好ましい例としては、カーボンシート、カーボンクロス、カーボンペーパーなどが挙げられる。
【0013】
二酸化炭素選択的富化デバイス(電気化学デバイス)100では、ガス拡散電極に、大気等の外部雰囲気から二酸化炭素および酸素を含む原料ガスを供することで駆動する。このため、ガス拡散電極は外部雰囲気との接触面積が大きくなるように設けられることが好ましい。
【0014】
第1ガス拡散電極10および第2ガス拡散電極20は互いに離隔しかつ対向して設置されることが好ましい。その離隔対向距離は、溶液抵抗による電圧降下(IRドロップ)をできる限り小さくするため、電極同士が互いに接触しない程度の距離で可能な限り近接させることが好ましい。電解液30のイオン濃度が十分高く、溶液抵抗が小さい場合には、IRドロップによる電圧損失を小さくすることができる。デバイスの構造上、電極同士を近接させることにより電極同士が接触する恐れがある場合には、両電極間にセパレータを挿入してもよい。このセパレータの性状としては、セパレータ中に電解液30を含有させることができ、かつ絶縁性を有することが好ましい。電解液30の拡散性が低下しないよう、セパレータの空隙率は高いほど好ましい。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレンに代表されるポリオレフィン多孔質膜、ポリエステル、脂肪族ポリアミド、芳香族ポリアミドの多孔質膜および不織布などが挙げられる。
【0015】
(直流電源)
直流電源は、第1ガス拡散電極10と第2ガス拡散電極20との間に電圧を印加するためのものである。本発明では、印加する電圧により、第1ガス拡散電極10にて、電解液に含まれる後述する化合物の還元反応が可能に構成され、第2ガス拡散電極20にて、同化合物の酸化反応が可能に構成されている。
【0016】
(電解液)
電解液30は溶質と、溶質が溶解される溶媒とから構成される。前者の溶質は、溶媒に溶解した際に炭酸を生じるか、電離により炭酸水素イオン、炭酸イオンを生じることが必要である。かかる溶質としては、アルカリ金属の炭酸水素塩、炭酸塩、アルカリ土類金属の炭酸水素塩、炭酸塩を用いることができる。具体的には、NaHCO、KHCO、LiHCO、NaCO、KCO、LiCOを用いることができる。溶媒としては、水を用いることができる。
【0017】
[本発明の特徴部分]
本願発明者らは、電気化学デバイスにおいて、二酸化炭素と酸素とを含む原料ガスから二酸化炭素を選択的に取り出しかつ富化可能とするための解決策について鋭意検討した。その結果、電解液30に特徴を有する本発明を案出するに至った。
【0018】
なお、本明細書でいう「富化」とは、特定の気体の濃度を初期状態よりも高い状態にすることを意味する。又、本明細書でいう「二酸化炭素選択的富化デバイス」とは、二酸化炭素を選択的に取り出し可能であって、かつ選択的に取り出す二酸化炭素の濃度を初期状態よりも高い状態にすることができるデバイスを意味する。本明細書でいう「二酸化炭素を選択的に取り出す」とは、二酸化炭素を他の成分から分離することを指す。
【0019】
又、本明細書でいう「原料ガス」とは、本発明の二酸化炭素選択的富化デバイス内へと供され、少なくとも二酸化炭素と酸素とを含み、これら以外にも他の成分(窒素、硫黄成分等)を更に含み得るものを指す。本明細書でいう「原料ガス」は、具体例としては大気、工場排ガス等に相当し得る。大気(空気)の場合、二酸化炭素、酸素以外に主成分として窒素を含み得る。工場排ガスの場合、二酸化炭素、酸素以外に窒素および/または硫黄成分を含み得る。なお、本発明の一実施形態では以下にて、原料ガスが二酸化炭素と酸素とから構成されているものを例に採り説明するが、これに限定されることなく、原料ガスから二酸化炭素を選択的に取り出し可能であるならば、原料ガスは二酸化炭素および酸素以外に、窒素、硫黄成分等を含み得ることを確認的に述べておく。
【0020】
具体的には、本発明は、電解液30として、酸素と比べて相対的に高い電子求引性の官能基を備えたキノン系化合物を含むものを用いるという思想となっている。なお、本明細書において「キノン系化合物」とは、ヒドロキシ基を含むヒドロキノン系化合物と、ヒドロキノン系化合物の酸化により得られ、かつカルボニル基を含むベンゾキノン系化合物との総称を指す。又、本明細書において「キノン系化合物に含まれる官能基の電子求引性が酸素と比べて相対的に高い」とは、「電解液中のキノン系化合物に含まれる官能基」と「原料ガスに含まれる酸素」との間の電子引きつけ力が等しい関係となるものを指すのではなく、前者の官能基が後者の酸素よりも電子引きつけ力が大きい関係となるものを指す。即ち、本明細書において「キノン系化合物に含まれる官能基の電子求引性が酸素と比べて相対的に高い」とは、「電解液中のキノン系化合物に含まれる官能基」と「原料ガスに含まれる酸素」との間の電子受容の程度が等しい関係を指すのではなく、前者の官能基が後者の酸素よりも電子受容の程度が大きい(キノン系化合物に含まれる官能基>酸素)関係となるものを指す。
【0021】
上記思想によれば、電解液30に含まれるキノン系化合物が、酸素と比べて相対的に高い電子求引性の官能基を備えている。即ち、当該官能基が酸素と比べて相対的により電子引きつけ可能となっている。これにより、電解液30中に供される原料ガスが二酸化炭素のみならず酸素を含む場合において、キノン系化合物の相対的に大きな電子求引性の官能基の存在により、第1ガス拡散電極10側の電極反応に伴い生じる電子を、酸素よりもキノン系化合物が受けやすい。
【0022】
そのため、酸素よりもキノン系化合物が還元しやすくなり、カルボニル基を含むベンゾキノン系化合物がヒドロキシ基を含むヒドロキノン系化合物に還元される一方、酸素は還元されにくい。これにより、還元反応後のヒドロキノン系化合物がすぐさま酸素により酸化されるといったことを回避できる。即ち、電子求引基を備えたヒドロキノン系化合物は酸素による酸化に対して耐性がある。又、酸素はキノン系化合物と比べて電子求引性が小さいため、第1ガス拡散電極10から第2ガス拡散電極20に向かって還元反応により生じ得る水酸化物イオン等が電解液30中を拡散するレベル以下に抑えることができる。
【0023】
図3は、ヒドロキノン系化合物の電流密度-電位曲線を示すグラフ(サイクリックボルタモグラム(CV))である。別の観点(酸化還元電位の観点)から言うと、本発明の一実施形態では、キノン系化合物が酸素よりも相対的に大きな電子求引性の官能基を備えているところ、電子求引性の官能基の導入により酸化還元電位を正(ポジティブ)にでき得る。
【0024】
具体的には、対象とする分子と電極との間の電子移動を電流として直接測定する「サイクリックボルタンメトリー(CV)」によると、通常のヒドロキシキノンの酸化還元電位は約0Vvs.Ag/AgClである一方、電子求引性の官能基を備えたヒドロキノンの酸化還元電位は約0.7~1.1Vvs.Ag/AgClである。以上の事から、同官能基を備えていないヒドロキシキノンと比べて、酸化還元電位を正(ポジティブ)にすることができる。その結果、還元反応後の電子求引性の官能基を備えたヒドロキノン系化合物がすぐさま酸素により酸化されるといったことを回避できる。
【0025】
なお、本発明の一実施形態では、下記態様を採ることができる。
【0026】
まず、上記官能基は、一例としては、スルホン酸塩であることができる。スルホン酸塩は、スルホ基(-SO)とアルカリ金属元素とを有して成ることができ、例えばスルホン酸ナトリウムであり得る。又、上記官能基の数としては1つ以上あればよく、電子求引性を高める観点から2つ以上4つ以下であることが好ましい。
【0027】
キノン系化合物は、還元反応後では上記官能基に加えてヒドロキシ基を含むヒドロキノン系化合物であることができる。ヒドロキシ基の数としては、芳香族性の確保の観点から、2つ以上4つ以下であることができる。特に限定されるものではないが、ヒドロキノン系化合物としては、式1で示されるタイロンであることができる。
[式1]
【0028】
又、キノン系化合物は、酸化反応後では上記官能基に加えてカルボニル基を含むベンゾキノン系化合物であることができる。特に限定されるものではないが、当該ベンゾキノン系化合物は、第2ガス拡散電極20での酸化反応により、式1のタイロンのヒドロキシ基が式2に示されるカルボニル基に置換された化合物となることができる。
[式2]
【0029】
(電解液中のキノン系化合物の酸化還元反応挙動)
上記内容をふまえ、以下、電圧印加時における電解液中のキノン系化合物の酸化還元反応挙動について説明する。図2は、ヒドロキノン系化合物の酸化還元反応を示す模式図である。
【0030】
まず、第1ガス拡散電極10と第2ガス拡散電極20に直流電源を用いて電圧を印加する。かかる電圧印加により、第1ガス拡散電極10において還元反応が生じるため、図1および図2に示すように、ベンゾキノン系化合物(Q)が還元してヒドロキノン系化合物(QH)となる。
[式3]
Q+2H+2e→QH
【0031】
この際、ヒドロキノン系化合物由来のプロトン(H)が吸蔵されるため、第1ガス拡散電極10側のpHが還元反応前と比べて相対的に高くなる。pHが相対的に高くなると、二酸化炭素は、その性質により、電解液の溶媒としての水に溶けやすくなる。これにより、以下の反応により炭酸水素イオンが解離され得る。
[式4]
CO+HO→HCO
CO→H++HCO3-
HCO3-→H+CO 2-
【0032】
これに加えて、電圧印加により、第2ガス拡散電極20において酸化反応が生じるため、図1および図2に示すように、ヒドロキノン系化合物(QH)が酸化してベンゾキノン系化合物(Q)となる。
[式5]
QH→Q+2H+2e
【0033】
この際、ヒドロキノン系化合物由来のプロトン(H)が第2ガス拡散電極20の表面又はその近傍領域に放出されるため、第2ガス拡散電極20側のpHが酸化反応前と比べて相対的に低くなる。pHが相対的に低くなると、炭酸水素イオン、炭酸の平衡状態が炭酸側に偏る。これにより、以下の反応のように二酸化炭素が生成され得る。
[式6]
H++HCO3-→HCO
CO→CO+H
【0034】
以上の事からも、本発明の一実施形態では、従前の電気化学デバイスのように、電極表面に金属触媒が担持されなくとも、電解液中のキノン系化合物の酸化還元反応を好適に行うことができる。これにより、二酸化炭素および酸素を含む原料ガスが第1ガス拡散電極を介して電解液中へと供された場合、原料ガスに含まれる酸素と二酸化炭素とを好適に分離可能となっている。即ち、本発明の一実施形態では、対向電極である第2ガス拡散電極20から二酸化炭素は取り出される一方、酸素は取り出されない。かかる事項をふまえると、本発明の一実施形態に係る「二酸化炭素選択的富化デバイス」は、「二酸化炭素選択的取出し又は単離デバイス」としての機能を含む。
【0035】
又、キノン系化合物の酸化還元反応により、上記のとおり、第1ガス拡散電極10側のpHが相対的に高くなり、第2ガス拡散電極20側のpHが相対的に低くなる。この点、電解液30にてpH勾配が存在するとイオン等の移動が可能となることから、第1ガス拡散電極10側の電解液30に存在する炭酸水素イオン、炭酸、炭酸イオンを第2ガス拡散電極20側へと移動させることが可能となっている。これにより、第1ガス拡散電極10から第2ガス拡散電極20へと向かって電解液30中にて炭酸水素イオン、炭酸、炭酸イオンを濃度拡散させることができ、それによって最終的に取り出される二酸化炭素のガス流量を増加させることができる。
【0036】
以上の事からも、本発明の一実施形態によれば、原料ガス中の二酸化炭素のみを選択的に取り出すことが可能である。更に、上記のとおり取り出される二酸化炭素のガス流量の増加に伴い、第1ガス拡散電極を通じる原料ガス中の二酸化炭素の濃度よりも第2ガス拡散電極を通じる二酸化炭素の濃度を高くし得る。即ち、分離した二酸化炭素を富化可能である。その結果、全体として、本発明の一実施形態によれば、原料ガス中の二酸化炭素のみを選択的に取り出しかつ富化可能である。即ち、本発明の一実施形態によれば、二酸化炭素の製造効率を向上させることができる。
【0037】
又、従前の電気化学デバイスでは、アノードから取り出されるガスは二酸化炭素に加え酸素を含んでいる。即ち、アノードから取り出される時点では二酸化炭素と酸素とは分離された状態とはなっておらず、同分離を追加の別工程にて行う必要がある。
【0038】
これに対して、本発明の一実施形態では、第1ガス拡散電極と第2ガス拡散電極20との間に電圧印加がされている際には、電解液30中にて、電子授受に伴い「ベンゾキノン系化合物(Q)⇒ヒドロキノン系化合物(QH)の還元反応」と「ヒドロキノン系化合物(QH)⇒ベンゾキノン系化合物(Q)酸化反応」とが循環して行われる。かかる循環を電解液30中にて行うのみで、二酸化炭素と酸素との分離が可能である。この点でも、従前と比べて、本発明の一実施形態では、二酸化炭素のみの選択的取り出しを効率的に行うことができると言える。
【0039】
なお、第1ガス拡散電極側の二酸化炭素は、炭酸水素イオンHCO3-、炭酸イオンCO 2-、炭酸HCOの形でデバイスの電解液30中を移動するため、電圧印加直後に二酸化炭素を富化させるためには、電解液30中の総無機炭素濃度が、100μmol/L以上であってよい。本明細書でいう「総無機炭素」とは、二酸化炭素が溶媒に溶解されて生成されたものであって、炭素由来成分である、炭酸水素イオン、炭酸、および炭酸イオンから構成されるものを指す。総無機炭素濃度が、100μmol/Lよりも少ない場合には、第1ガス拡散電極から第2ガス拡散電極20まで炭酸水素イオンHCO3-、炭酸イオンCO 2-、炭酸HCOが拡散する速度が律速となり、本発明のデバイス100の性能が低下することになる。総無機炭素濃度が、100μmol/L以上であることにより、上記の拡散速度が律速とならず、デバイス100の性能低下を抑制することができる。
【0040】
又、電解液30のpHは5以上12以下、好ましくは5以上11以下、より好ましくは5以上10以下、更により好ましくは5以上9以下であり得る。電解液30のpHが5よりも小さい場合には、二酸化炭素の吸収速度が極めて遅くなることで二酸化炭素の吸収が律速となり、デバイス100を駆動していくに従って電解液30中の総無機炭素濃度が減少していき、デバイスの性能が低下することになる。電解液30のpHが5以上であることにより、二酸化炭素の吸収が律速とならず、デバイスの性能低下を抑制することができる。
【0041】
以下、本発明の一実施形態に係る二酸化炭素選択的富化デバイスの製造方法の一例について説明する。なお、下記の製造方法はあくまでも一例にすぎず、これに限定されるものではないことを確認的に述べておく。
【0042】
(ガス拡散電極(アノード及びカソード)の作製)
まず、導電性多孔質材料を含むカーボンペーパーを用いてガス拡散電極を形成する。カーボンペーパーとしては、例えば気孔率60%以上80%以下、厚さ0.2mm以上1.0mm以下のものを用いることができる。なお、撥水加工を施してガス拡散性を向上させる観点から、同カーボンペーパーの表面にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等を含有する溶液を塗布して、窒素雰囲気電気炉中で300℃以上400℃以下の温度において数十分間焼成して樹脂をカーボンペーパーに固着させることができる。
【0043】
(電解液の調製)
溶媒としての水に、溶質として、少なくとも上記の電子求引性の官能基を備えたキノン系化合物を溶解させることで、電解液30を得ることができる。
【0044】
(デバイスの組み立て)
第1ガス拡散電極および第2ガス拡散電極を互いに離隔して配置し、その間に電解液30を充填満たす。電解液30は、2つの電極を介して外気に触れないように密閉し、両電極を直流電源に接続する。具体的には、第1ガス拡散電極を直流電源の負極、第2ガス拡散電極を正極に接続する。以上により、本発明の一実施形態に係る二酸化炭素選択的富化デバイス100を得ることができる。
【0045】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、あくまでも典型例を例示したに過ぎない。従って、本発明はこれに限定されず、本発明の要旨を変更しない範囲において種々の態様が考えられることを当業者は容易に理解されよう。
【0046】
上記では、図1に示すように、第1ガス拡散電極と第2ガス拡散電極20との間に、電解液30が第1ガス拡散電極と第2ガス拡散電極20とに接触して存在する態様であることを前提として説明した。即ち、図1に示す態様は、ガス拡散電極を境界として、気相と液相とが分けられているものであった。
【0047】
しかしながら、これに限定されることなく、液相中に、二酸化炭素および酸素等の原料ガス(気体)が混じるような態様であってもよい。この場合、電解液は、カソードとアノードとの間のみならずそれ以外の領域にも存在し、デバイス100として、カソード側室とアノード側室を隔てる陰イオン交換膜が必要となり得る。
【実施例0048】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0049】
[実施例]
実施例1
以下工程を経てデバイス100を製造した。なお、実施例1では、原料ガスが二酸化炭素と酸素とから構成されているものを例に採り説明する。しかしながら、これに限定されることなく、下記のとおり原料ガスから二酸化炭素を選択的に取り出し可能であるならば、原料ガスは二酸化炭素および酸素以外に窒素、硫黄成分等を含み得ることを確認的に述べておく。
【0050】
まず、カーボンペーパー(気孔率70%、厚さ0.4mm)の表面にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)30wt%分散した溶液を塗布して、窒素雰囲気電気炉中で350℃の温度において20分間焼成して樹脂をカーボンペーパーに固着させた。これにより、各ガス拡散電極を作製した。
【0051】
溶媒としての水に、溶質として、0.7Mタイロン+1MKHCOを溶解させて、電解液30を得た。
【0052】
第1ガス拡散電極および第2ガス拡散電極を互いに離隔して配置し、その間に電解液30を充填満たした。電解液30は、2つの電極を介して外気に触れないように密閉し、両電極を直流電源に接続した。以上により、デバイス100を製造した。
【0053】
製造したデバイス100を用いて、上記電解液を充填した状態で第1ガス拡散電極と第2ガス拡散電極20との間で2.2Vの直流電圧を印加した。
【0054】
電圧印加後、DEMS法(電気化学質量分析法)に従い電流オン時における二酸化炭素と酸素のイオン電流挙動について測定した。又、第2ガス拡散電極20から排出された二酸化炭素および酸素の流量について測定した。二酸化炭素および酸素の流量については、電子式流量計を用いて測定した。その結果を図4および図5にそれぞれ示す。
【0055】
なお、上記測定等における具体的条件は以下のとおりである。
第1ガス拡散電極10:カソード
第2ガス拡散電極20:アノード
原料ガス:二酸化炭素(50体積%)+酸素(50体積%)
電解液:0.7Mタイロン+1MKHCO水溶液(二酸化炭素飽和)(pH7.4)
反応時間:15分又は30分
原料ガスの流速:18mL・min-1
アノード外側のキャリアガス:アルゴンガス
第1ガス拡散電極の表面積:6.76cm-2
第2ガス拡散電極20の表面積:6.76cm-2
定量方法:DEMS法(電気化学質量分析法)(印加電流:50mA)
電子式流量計:マスフローコントローラ(MODEL 8500SERIES)/コフロック株式会社製
【0056】
図4に示すように、二酸化炭素については、電流オンの間に0nA付近→2.0nAまでイオン電流値が上昇する挙動が確認できた。一方、酸素については、電流オン前後でイオン電流値に特段の変化は確認できなかった。
【0057】
又、図5に示すように、第2ガス拡散電極20から排出された二酸化炭素の流量について、電圧印加の間に0.35mL・min-1の確認ができた。一方、酸素については、電圧印加の間に略0.01mL・min-1程の確認しかできなかった。
【0058】
以上の事から、電解液にタイロンが含有されるものを用いた場合、原料ガスの二酸化炭素と酸素とを好適に分離可能であることが分かった。即ち、本実施例1によれば、二酸化炭素と酸素とを含む原料ガスから二酸化炭素を選択的に取り出し可能であることが分かった。又、二酸化炭素に関するイオン電流値の上昇により二酸化炭素の流量も上昇可能であることが分かった。
【0059】
実施例2
実施例1と同様の手法でデバイス100を製造した。
【0060】
製造したデバイス100を用いて、上記電解液を充填した状態で第1ガス拡散電極と第2ガス拡散電極20との間で所定値の直流電圧を印加した。
【0061】
電圧印加後、DEMS法(電気化学質量分析法)に従い電流オン時における二酸化炭素と酸素のイオン電流挙動について測定した。又、第2ガス拡散電極20から排出された二酸化炭素および酸素の流量について測定した。二酸化炭素および酸素の流量については、電子式流量計を用いて測定した。その結果を図6および図7にそれぞれ示す。
【0062】
なお、上記測定等における具体的条件は以下のとおりである。
第1ガス拡散電極10:カソード
第2ガス拡散電極20:アノード
原料ガス:二酸化炭素(100体積%)
電解液:0.7Mタイロン+1MKHCO水溶液(二酸化炭素飽和)(pH7.4)
反応時間:15分又は30分
原料ガスの流速:7.8mL・min-1
アノード外側のキャリアガス:アルゴンガス
第1ガス拡散電極10の表面積:6.76cm-2
第2ガス拡散電極20の表面積:6.76cm-2
定量方法:DEMS法(電気化学質量分析法)(印加電流:5、10、25、50mA/印加電圧:2.0、2.4、2.5、3.2V)
電子式流量計:マスフローコントローラ(MODEL 8500SERIES)/コフロック株式会社製
【0063】
図6に示すように、原料ガスが二酸化炭素のみから構成されている場合にて、電流オンの間に二酸化炭素に関するイオン電流値が0nA付近から上昇する挙動が確認できた。更に、印加電流の違いによりイオン電流値に違いが出ることが分かった。なお、酸素については、電流オン前後でイオン電流値に変化は確認できなかった。
【0064】
又、図7に示すように、第2ガス拡散電極20から排出された二酸化炭素の流量について、印加電流/印加電圧が増えるに伴い上昇する挙動が確認できた。一方、酸素については、印加電流/印加電圧が増えても変化は確認できなかった。
【0065】
以上の事から、電解液にタイロンが含有されるものを用いた場合において、印加電流/印加電圧を上昇させると、これに伴い二酸化炭素の流量も増やすことが可能であることが分かった。
【0066】
従って、実施例1および実施例2の結果をふまえると、本発明によれば、二酸化炭素と酸素とを含む原料ガスから二酸化炭素を選択的に取り出し、即ち原料ガス中に含まれる二酸化炭素と二酸化炭素以外の他の成分を分離可能であり、かつ分離した二酸化炭素を富化可能であることが分かった。
【0067】
以下、比較例について説明する。
【0068】
[比較例]
以下工程を経てデバイス100’を製造した。まず、カーボンペーパー(気孔率70%、厚さ0.4mm)の表面にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)30wt%分散した溶液を塗布して、窒素雰囲気電気炉中で350℃の温度において20分間焼成して樹脂をカーボンペーパーに固着させた。これにより、各ガス拡散電極を作製した。
【0069】
溶媒としての水に、溶質として、0.7Mヒドロキノン+1MKHCOを溶解させて、電解液30’を得た。
【0070】
第1ガス拡散電極’および第2ガス拡散電極20’としてのガス拡散電極を互いに離隔して配置し、その間に電解液30’を充填満たした。電解液30’は、2つの電極を介して外気に触れないように密閉し、両電極を直流電源に接続した。以上により、デバイス100’を製造した。
【0071】
製造したデバイス100’を用いて、上記電解液を充填した状態で第1ガス拡散電極’と第2ガス拡散電極20’との間で2.2Vの直流電圧を印加した。
【0072】
DEMS法(電気化学質量分析法)に従い電流オン時における二酸化炭素と酸素のイオン電流挙動について測定した。又、第2ガス拡散電極20’から排出された二酸化炭素および酸素の流量について測定した。なお、二酸化炭素および酸素の流量については、電子式流量計を用いて測定した。
【0073】
なお、上記測定等における具体的条件は以下のとおりである。
第1ガス拡散電極10’:カソード
第2ガス拡散電極20’:アノード
原料ガス:二酸化炭素(50体積%)+酸素(50体積%)
電解液:0.7Mヒドロキノン+1MKHCO水溶液(二酸化炭素飽和)(pH7.4)
反応時間:15分又は30分
原料ガスの流速:18mL・min-1
アノード外側のキャリアガス:アルゴンガス
第1ガス拡散電極10’の表面積:6.76cm-2
第2ガス拡散電極20’の表面積:6.76cm-2
定量方法:DEMS法(電気化学質量分析法)(印加電流:50mA)
電子式流量計:マスフローコントローラ(MODEL 8500SERIES)/コフロック株式会社製
【0074】
二酸化炭素については、電流オンの間に0nA付近からのイオン電流値が上昇する挙動が確認された。一方、酸素についても、0nA付近からのイオン電流値が上昇する挙動が確認された。
【0075】
又、電圧印加の間に、アノード2’(ガス拡散電極)からの二酸化炭素の排出の確認がされた。一方、電圧印加の間に酸素の排出の確認がされた。
【0076】
以上の事から、電解液にヒドロキノンが含有されるものを用いた場合、原料ガスの二酸化炭素と酸素とを好適に分離できないことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の一実施形態に係る二酸化炭素選択的富化デバイスは、大気および/または工場排ガスに含まれる二酸化炭素を再資源化するために用いることができる。
【符号の説明】
【0078】
100 二酸化炭素選択的富化デバイス
10 第1ガス拡散電極(カソード)
20 第2ガス拡散電極(アノード)
30 電解液
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7