IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ジャパンエンジンコーポレーションの特許一覧

<>
  • 特開-シリンダ注油システム 図1
  • 特開-シリンダ注油システム 図2
  • 特開-シリンダ注油システム 図3
  • 特開-シリンダ注油システム 図4
  • 特開-シリンダ注油システム 図5
  • 特開-シリンダ注油システム 図6
  • 特開-シリンダ注油システム 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022178606
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】シリンダ注油システム
(51)【国際特許分類】
   F01M 1/08 20060101AFI20221125BHJP
   F01M 1/06 20060101ALI20221125BHJP
【FI】
F01M1/08 B
F01M1/06 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021085533
(22)【出願日】2021-05-20
(71)【出願人】
【識別番号】303047034
【氏名又は名称】株式会社ジャパンエンジンコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松井 裕亮
(72)【発明者】
【氏名】徳楠 力一
(72)【発明者】
【氏名】舟越 好太郎
(72)【発明者】
【氏名】木下 芳彦
【テーマコード(参考)】
3G313
【Fターム(参考)】
3G313AA12
3G313AB11
3G313BB35
3G313BC04
3G313BD03
3G313EA03
(57)【要約】
【課題】シリンダの内部を往復運動するピストンに対して潤滑油を効率よく注油できるシリンダ注油システムを提供すること。
【解決手段】本発明の一態様であるシリンダ注油システムは、舶用内燃機関のシリンダの内部を往復運動するピストンに対し、前記シリンダに設けられている注油棒を通じて潤滑油を注油する注油器と、閉状態の場合において前記注油器に前記潤滑油を蓄積させ、開状態の場合において前記注油器に前記ピストンへの前記潤滑油の注油を行わせる電磁弁と、制御装置とを備える。前記制御装置は、エンジン負荷に応じて前記潤滑油の注油率を導出し、導出した前記注油率での前記ピストンのピストン上側部およびスカート部の各々への前記潤滑油の注油頻度および注油タイミングを決定し、決定した前記注油頻度および前記注油タイミングで前記注油器が前記潤滑油を注油するように前記電磁弁の開閉駆動を制御する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
舶用内燃機関のシリンダの内部を往復運動するピストンに対し、前記シリンダに設けられている注油棒を通じて潤滑油を注油する注油器と、
閉状態の場合において前記注油器に前記潤滑油を蓄積させ、開状態の場合において前記注油器に前記ピストンへの前記潤滑油の注油を行わせる電磁弁と、
前記舶用内燃機関の負荷に応じて前記潤滑油の注油率を導出し、導出した前記注油率での前記ピストンのピストン上側部およびスカート部の各々への前記潤滑油の注油頻度および注油タイミングを決定し、決定した前記注油頻度および前記注油タイミングで前記注油器が前記潤滑油を注油するように前記電磁弁の開閉駆動を制御する制御装置と、
を備えることを特徴とするシリンダ注油システム。
【請求項2】
前記制御装置は、前記スカート部への前記潤滑油の注油率が前記ピストン上側部への前記潤滑油の注油率に対して一定の割合となるように、前記ピストン上側部への前記潤滑油の注油頻度および注油タイミングと、前記スカート部への前記潤滑油の注油頻度および注油タイミングとを決定する、
ことを特徴とする請求項1に記載のシリンダ注油システム。
【請求項3】
前記制御装置は、前記舶用内燃機関の負荷が100%である場合の前記潤滑油の注油率を基準注油率として設定し、設定した前記基準注油率を基準として、前記舶用内燃機関の負荷に応じた前記潤滑油の注油率を導出する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載のシリンダ注油システム。
【請求項4】
前記基準注油率を変更可能に指定するための指定値を前記制御装置に入力する入力部を備え、
前記制御装置は、入力された前記指定値をもとに、前記基準注油率を設定する、
ことを特徴とする請求項3に記載のシリンダ注油システム。
【請求項5】
前記スカート部への前記潤滑油の注油を許可するための許可情報を前記制御装置に入力する入力部を備え、
前記制御装置は、入力された前記許可情報に基づいて、前記スカート部への前記潤滑油の注油を許可する、
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか一つに記載のシリンダ注油システム。
【請求項6】
前記制御装置は、前記ピストンの1往復運動を1サイクルとする一定サイクル期間に含まれるサイクル毎に、前記ピストンへ前記潤滑油を注油するか否かと、前記潤滑油を注油する場合において前記ピストン上側部または前記スカート部のいずれを注油対象とするかとを決定する、
ことを特徴とする請求項1~5のいずれか一つに記載のシリンダ注油システム。
【請求項7】
前記制御装置は、前記舶用内燃機関のクランク角度をもとに、上昇中の前記ピストンの前記ピストン上側部または下降中の前記ピストンの前記スカート部へ前記注油器が前記潤滑油を注油するように、前記電磁弁の開閉駆動を制御する、
ことを特徴とする請求項1~6のいずれか一つに記載のシリンダ注油システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダ注油システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、船舶に搭載されるエンジン(舶用内燃機関)では、ピストンを往復運動自在に収容するシリンダが複数設けられ、これら複数のシリンダの各内部におけるピストンの往復運動がクランクの回転運動に変換されて、クランクシャフトが回転するようになっている。一般に、舶用内燃機関においては、ピストンがシリンダの内部を往復運動する毎に、燃焼室内の燃焼用気体の圧縮や燃料の燃焼等が行われる。ピストンは、その冠部(ピストンクラウン)が燃焼室に面するようにシリンダ内に収容されており、燃焼室内の圧力(以下、筒内圧力という)を受けながらシリンダの内部を往復運動する。
【0003】
このようなピストンの外周部には、ピストンの往復運動方向に並ぶ複数のピストンリングが設けられている。これら複数のピストンリングは、シリンダの内周面に適度な面圧を加えながら摺接し、ピストンの往復運動に伴ってシリンダの内周面を摺動する。また、ピストンは、複数のピストンリングのうち最下段のピストンリングよりも下部に、スカート部(ピストンスカート)を有している。一般に、ピストンは、その構造上、シリンダの内部を往復運動しながら傾倒する場合がある。このピストンの傾倒は、シリンダの内周面とスカート部との摺接によって規制される。
【0004】
上述したようにシリンダの内部を往復運動するピストンと当該シリンダの内周面との間には、シリンダの内周面に対するピストンの摺動性を確保するために、潤滑油が供給(注油)される。例えば、特許文献1には、2サイクルエンジンのクランク角度およびエンジン回転数に基づいて、ピストンが上昇中にシリンダ内へ注油する第1の注油期間を調整し、エンジン回転数が低下して第1の注油期間内に最下段のピストンリングよりも下部へ注油できない場合、第1の注油期間の後である第2の注油期間内にピストンの当該下部へ補助的に注油する注油方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-83228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、シリンダ内のピストンは、一般に、往復運動の際に冠部に加わる筒内圧力が高いほど、姿勢が安定して傾倒し難く、この筒内圧力が低いほど、姿勢が不安定になって傾倒し易い。したがって、シリンダの内周面に対するピストンの摺動性を確保するためには、シリンダの内周面とピストンリングとの間に油膜が形成されるように潤滑油を注油することに加え、ピストンの傾倒に伴いスカート部がシリンダの内周面を摺動するに際して、シリンダの内周面とスカート部との間に油膜が形成されるように潤滑油を注油することが必要である。
【0007】
しかしながら、上述した特許文献1に記載の注油方法では、シリンダ内のピストンへ潤滑油を注油する期間およびタイミングをエンジン回転数に応じて制御しているので、たとえ筒内圧力の増大によってピストンが傾倒し難い場合であっても、スカート部へ潤滑油を無駄に注油する可能性があることから、シリンダ内のピストンへ潤滑油を効率よく注油することが困難である。
【0008】
すなわち、舶用内燃機関の筒内圧力は、エンジン回転数の高低によらず、航行中の船舶が海象の影響を受けて舶用内燃機関の負荷(以下、エンジン負荷という)が増減すれば、これに伴って増減し得る。例えば、エンジン回転数が低下しても、海象の影響によってエンジン負荷が増大した場合、筒内圧力は増大してピストンはシリンダ内で傾倒し難くなる。上述した特許文献1に記載の注油方法では、たとえピストンが上記のように傾倒し難い(すなわち、シリンダの内周面とスカート部との接触が起こり難い)場合であっても、エンジン回転数の低下に基づいてスカート部へ潤滑油を無駄に注油してしまう。
【0009】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、シリンダの内部を往復運動するピストンに対して潤滑油を効率よく注油することができるシリンダ注油システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るシリンダ注油システムは、舶用内燃機関のシリンダの内部を往復運動するピストンに対し、前記シリンダに設けられている注油棒を通じて潤滑油を注油する注油器と、閉状態の場合において前記注油器に前記潤滑油を蓄積させ、開状態の場合において前記注油器に前記ピストンへの前記潤滑油の注油を行わせる電磁弁と、前記舶用内燃機関の負荷に応じて前記潤滑油の注油率を導出し、導出した前記注油率での前記ピストンのピストン上側部およびスカート部の各々への前記潤滑油の注油頻度および注油タイミングを決定し、決定した前記注油頻度および前記注油タイミングで前記注油器が前記潤滑油を注油するように前記電磁弁の開閉駆動を制御する制御装置と、を備えることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係るシリンダ注油システムは、上記の発明において、前記制御装置は、前記スカート部への前記潤滑油の注油率が前記ピストン上側部への前記潤滑油の注油率に対して一定の割合となるように、前記ピストン上側部への前記潤滑油の注油頻度および注油タイミングと、前記スカート部への前記潤滑油の注油頻度および注油タイミングとを決定する、ことを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係るシリンダ注油システムは、上記の発明において、前記制御装置は、前記舶用内燃機関の負荷が100%である場合の前記潤滑油の注油率を基準注油率として設定し、設定した前記基準注油率を基準として、前記舶用内燃機関の負荷に応じた前記潤滑油の注油率を導出する、ことを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係るシリンダ注油システムは、上記の発明において、前記基準注油率を変更可能に指定するための指定値を前記制御装置に入力する入力部を備え、前記制御装置は、入力された前記指定値をもとに、前記基準注油率を設定する、ことを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係るシリンダ注油システムは、上記の発明において、前記スカート部への前記潤滑油の注油を許可するための許可情報を前記制御装置に入力する入力部を備え、前記制御装置は、入力された前記許可情報に基づいて、前記スカート部への前記潤滑油の注油を許可する、ことを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係るシリンダ注油システムは、上記の発明において、前記制御装置は、前記ピストンの1往復運動を1サイクルとする一定サイクル期間に含まれるサイクル毎に、前記ピストンへ前記潤滑油を注油するか否かと、前記潤滑油を注油する場合において前記ピストン上側部または前記スカート部のいずれを注油対象とするかとを決定する、ことを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係るシリンダ注油システムは、上記の発明において、前記制御装置は、前記舶用内燃機関のクランク角度をもとに、上昇中の前記ピストンの前記ピストン上側部または下降中の前記ピストンの前記スカート部へ前記注油器が前記潤滑油を注油するように、前記電磁弁の開閉駆動を制御する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、シリンダの内部を往復運動するピストンに対して潤滑油を効率よく注油することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本発明の実施形態に係るシリンダ注油システムの一構成例を示す模式図である。
図2図2は、本発明の実施形態における注油棒の配置の一例を示す模式図である。
図3図3は、本発明の実施形態におけるピストン上側部についての注油制御に用いられる第1データテーブルの一例を示す模式図である。
図4図4は、本発明の実施形態におけるスカート部についての注油制御に用いられる第2データテーブルの一例を示す模式図である。
図5図5は、本発明の実施形態におけるピストン上側部5aへの注油の一例を示す模式図である。
図6図6は、本発明の実施形態におけるピストンスカートへの注油の一例を示す模式図である。
図7図7は、本発明の実施形態に係るシリンダ注油システムによる注油制御の処理フローの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、添付図面を参照して、本発明に係るシリンダ注油システムの好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本実施形態により、本発明が限定されるものではない。また、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係、各要素の比率などは、現実のものとは異なる場合があることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。また、各図面において、同一構成部分には同一符号が付されている。
【0020】
(シリンダ注油システムの構成)
図1は、本発明の実施形態に係るシリンダ注油システムの一構成例を示す模式図である。このシリンダ注油システム10は、舶用内燃機関のシリンダ1の内部を往復運動するピストン5に対して潤滑油を注油して、シリンダ1の内周面2aに対するピストン5の摺動性を確保するためのものである。特に図示しないが、舶用内燃機関は、船舶に搭載され、プロペラ軸を介して船舶の推進用プロペラを回転駆動させる推進用のエンジンであり、例えば、ユニフロー掃排気式のクロスヘッド型ディーゼルエンジン等の2ストロークディーゼルエンジンである。シリンダ1は、舶用内燃機関に設けられた複数のシリンダの一例である。シリンダ注油システム10は、これら複数のシリンダの各々について、図1に示すシリンダ1の場合と同様に潤滑油を注油する。
【0021】
詳細には、図1に示すように、シリンダ1は、シリンダライナ2とシリンダカバー3とによって構成される筒状の構造体(気筒)である。シリンダ1は、円筒形状のシリンダライナ2の内部にピストン5を往復運動自在に収容する。シリンダライナ2の上部には、シリンダカバー3が固定される。これらのシリンダライナ2とシリンダカバー3とピストン5とによって、舶用内燃機関の燃焼室4がシリンダ1の内部に形成(区画)される。また、シリンダカバー3には、排気弁9が設けられている。排気弁9は、シリンダ1内の燃焼室4に通じる排気口を開閉可能に閉止する弁である。
【0022】
ピストン5は、図1に示すように、ピストン本体6と、3つのピストンリング7a、7b、7cとを備える。本実施形態では、3つのピストンリング7a、7b、7cを備えたピストン5を例示しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、ピストン5は、複数(2つ以上)のピストンリングを備えたものでもよい。
【0023】
ピストン本体6は、図1に示すように、冠部6aと、スカート部6bと、中間部6cとによって構成され、シリンダライナ2の中心軸方向から見て円形をなすように形成されている。ピストンリング7a、7b、7cは、各々、ピストン本体6における冠部6aとスカート部6bとの間に位置する中間部6cの外周部に設けられた環状溝部に嵌め込まれ、シリンダライナ2の内周面2aに適度な面圧を加えながら摺接するように構成される。冠部6aは、ピストン本体6において最上段のピストンリング7aよりも上側(スカート部6bとは反対側)の部分であり、ピストンクラウンとも称される。ピストン本体6は、冠部6aが燃焼室4に面するように、シリンダ1におけるシリンダライナ2の内部に往復運動自在に収容される。スカート部6bは、ピストン本体6において最下段のピストンリング7cよりも下側(冠部6aとは反対側)の部分であり、ピストンスカートとも称される。
【0024】
また、図1に示すように、ピストン本体6には、ピストン棒8の一端部が回動自在に連結されている。特に図示しないが、ピストン棒8の他端部はクロスヘッドと回動自在に連結され、このクロスヘッドには、連接棒の一端部が回動自在に連結されている。この連接棒の他端部は、クランクシャフトのクランクと回動自在に連結されている。
【0025】
舶用内燃機関において、ピストン5は、図1に示すように、シリンダ1の内周面2aにピストンリング7a、7b、7cを摺接させながら、燃焼室4の筒内圧力を冠部6aに受けてシリンダ1内の上死点Ctと下死点Cbとの間を往復運動する。ピストン5がシリンダ1の内部を1往復運動する毎に、シリンダ1の内部においては、燃焼室4への燃焼用気体の導入、この燃焼用気体の圧縮、燃焼室4へ供給された燃料の燃焼、燃焼室4からの排気が順次行われる。このようなピストン5の往復運動は、ピストン棒8等を介してクランクの回転運動に変換される。この結果、クランクシャフトが回転して、プロペラ軸とともに船舶の推進用プロペラが回転する。
【0026】
また、ピストン5がシリンダ1の内部を往復運動している際、シリンダ1の中心軸に対してピストン5が傾倒する場合がある。この場合、スカート部6bは、シリンダライナ2の内周面2aと接触し、これにより、ピストン5の傾倒を抑制する。ピストン5は、シリンダ1の内部での往復運動を継続しながら、傾倒した姿勢から傾倒前の姿勢に復帰する。なお、ピストン5の傾倒は、冠部6aに加わる筒内圧力が大きいほど起こり難い傾向にあり、冠部6aに加わる筒内圧力が小さいほど起こり易い傾向にある。
【0027】
一方、シリンダ注油システム10は、図1に示すように、注油棒11と、注油器12と、電磁弁13と、給油ユニット14と、操作装置15と、制御装置16とを備える。なお、図1において、実線矢印は、潤滑油の流通および配管を模式的に示す。一点鎖線矢印は、電気信号線を模式的に示す。
【0028】
注油棒11は、図1に示すように、ピストン5の往復運動における上死点Ctと下死点Cbとの間に位置し且つシリンダ1の内部に注油口を向ける態様となるように、シリンダライナ2に設けられる。また、注油棒11は、配管を通じて注油器12と接続され、シリンダ1の内部と注油器12とを連通可能にする。なお、図1には、説明の便宜上、1つの注油棒11が示されているが、シリンダ注油システム10において、注油棒11は、シリンダライナ2に複数設けられている。
【0029】
図2は、本発明の実施形態における注油棒の配置の一例を示す模式図である。図2には、図1に示すシリンダライナ2の横断面が模式的に示されている。なお、図2において、実線矢印は、潤滑油の流通および配管を模式的に示す。図2に示すように、シリンダライナ2には、複数(本実施形態では8つ)の注油棒11が、シリンダライナ2の周方向に間隔をあけて配置されている。これら複数の注油棒11は、各々、配管を通じて注油器12と接続され、シリンダライナ2の内部と注油器12とを連通可能にしている。なお、複数の注油棒11の配置間隔は、各々所望の間隔であってもよいが、等間隔であることが好ましい。
【0030】
注油器12は、舶用内燃機関のシリンダ1の内部を往復運動するピストン5に対し、シリンダ1に設けられている注油棒11を通じて潤滑油を注油する。詳細には、図1に示すように、注油器12は、複数の配管を通じて注油棒11および給油ユニット14の各々と連通可能に接続されている。注油器12は、これらの配管に通じる蓄油室(図示せず)を内部に有し、給油ユニット14から供給された潤滑油を蓄油室内に蓄積する。また、注油器12は、例えば、油圧式のプランジャ(図示せず)等を有し、蓄油室内に蓄積した潤滑油を圧出する。これにより、注油器12は、配管を通じて注油棒11に潤滑油を圧送し、注油棒11からシリンダ1内のピストン5へ潤滑油を注油する。例えば、注油器12は、1回の注油動作当たりに、複数の注油棒11の各々から一定量の潤滑油を吐出する。
【0031】
電磁弁13は、注油器12に潤滑油の注油または蓄積を適宜行わせるための弁である。詳細には、図1に示すように、電磁弁13は、注油器12に通じる配管に設けられる。この配管は、例えば、注油器12と給油ユニット14とを連通する配管から分岐した分岐管である。電磁弁13は、制御装置16によって駆動制御され、分岐管を通じて注油器12と給油ユニット14とを連通させる開状態と、この分岐管を通じての注油器12と給油ユニット14との連通を閉じる閉状態とのいずれかの状態になる。例えば、電磁弁13は、通常、閉状態となっており、制御装置16からの作動指令の制御信号を受信した場合に開状態となる。電磁弁13は、閉状態の場合において、給油ユニット14から供給された潤滑油を注油器12に蓄積させる。また、電磁弁13は、開状態の場合において、シリンダ1内のピストン5への潤滑油の注油を注油器12に行わせる。
【0032】
給油ユニット14は、注油器12が注油棒11を通じてシリンダ1内のピストン5へ注油する潤滑油を注油器12へ供給するものである。詳細には、給油ユニット14は、ポンプおよび調圧弁等によって構成され、図1に示すように、配管を通じて注油器12の蓄油室と連通可能に接続されている。また、給油ユニット14は、この配管から分岐した分岐管と電磁弁13とを通じて、注油器12の作動室(図示せず)と連通可能に接続されている。給油ユニット14は、電磁弁13が閉状態である場合、調圧した潤滑油を、配管を通じて注油器12の蓄油室へ送給する。この潤滑油は、シリンダ1内のピストン5へ注油するために注油器12の蓄油室に蓄えられる。また、給油ユニット14は、電磁弁13が開状態である場合、調圧した潤滑油を、分岐管を通じて注油器12の作動室へ送給する。この潤滑油は、例えば油圧式シリンダの作動等によって注油器12に注油動作を行わせるための作動油として利用される。
【0033】
操作装置15は、表示デバイスおよび入力デバイス等によって構成され、ユーザの入力操作に応じて、各種情報を表示画面に表示し且つ制御装置に送信する。例えば、操作装置15は、潤滑油の基準注油率を変更可能に指定するための指定値を制御装置16に入力する第1入力部としての機能を有する。基準注油率は、制御装置16が注油制御の際に導出する注油率の基準となる値である。基準注油率の指定値は、舶用内燃機関の仕様等に基づいて許容される範囲内で変更可能に入力される。また、操作装置15は、ピストン5のスカート部6bへの潤滑油の注油を許可するための許可情報を制御装置16に入力する第2入力部としての機能を有する。この許可情報は、スカート部6bへの潤滑油の注油を制御装置16に対して許可する場合に入力される。
【0034】
制御装置16は、シリンダ1内のピストン5に対する潤滑油の注油を制御するものである。例えば、制御装置16は、CPUおよびメモリ等によって構成され、図1に示すように、注油制御を実行するための中央制御部17および駆動制御部19を有する。また、中央制御部17には、ピストン上側部5aに対する潤滑油の注油率と注油頻度および注油タイミングとの対応関係を示す第1データテーブル18aと、ピストン5のスカート部6bに対する潤滑油の注油率と注油頻度および注油タイミングとの対応関係を示す第2データテーブル18bとが、プログラミング等によって予め登録されている。なお、ピストン上側部5aは、図1に示すように、ピストン5のうちスカート部6bよりも上側の部分である。例えば、ピストン上側部5aには、ピストン5の冠部6aと中間部6cとピストンリング7a~7cとが含まれる。
【0035】
中央制御部17は、舶用内燃機関の負荷(エンジン負荷)に応じて、ピストン5への潤滑油の注油率を導出し、導出した注油率でのピストン5のピストン上側部5aおよびスカート部6bの各々への潤滑油の注油頻度および注油タイミングを決定する。
【0036】
詳細には、中央制御部17は、エンジン負荷が100%である場合のピストン5に対する潤滑油の注油率を基準注油率として設定する。例えば、中央制御部17は、第1データテーブル18aに含まれる複数の注油率のうち最大の注油率(以下、最大注油率という)を基準注油率として設定する。或いは、操作装置15によって基準注油率の指定値が制御装置16に入力された場合、中央制御部17は、この入力された指定値をもとに、基準注油率を設定する。
【0037】
中央制御部17は、上記のように設定した基準注油率を基準として、エンジン負荷に応じた潤滑油の注油率を導出する。この際、中央制御部17は、舶用内燃機関の動作モード別に注油率を導出する。例えば、舶用内燃機関の動作モードが平均有効圧比例モードである場合、中央制御部17は、回転数検出器22によって検出されたエンジン回転数と、負荷検出器23によって検出されたエンジン負荷とをもとに、舶用内燃機関の平均有効圧力を算出する。中央制御部17は、エンジン負荷が100%である場合の平均有効圧力に対する上記算出した平均有効圧力の割合を求め、この割合と基準注油率との乗算等によって、エンジン負荷に応じた注油率を導出する。或いは、舶用内燃機関の動作モードが出力比例モードである場合、中央制御部17は、負荷検出器23によって検出されたエンジン負荷と基準注油率との乗算等によって、エンジン負荷に応じた注油率を導出する。
【0038】
また、中央制御部17は、第1データテーブル18aおよび第2データテーブル18bを参照し、上記導出した注油率に基づいて、ピストン5への潤滑油の注油頻度および注油タイミングを決定する。詳細には、中央制御部17は、第1データテーブル18aに示される注油頻度および注油タイミングのうち、上記導出した注油率に対応する注油頻度および注油タイミングを、ピストン上側部5aへの潤滑油の注油頻度および注油タイミングとして決定する。また、中央制御部17は、第2データテーブル18bに示される注油頻度および注油タイミングのうち、上記導出した注油率の一定割合の値に対応する注油頻度および注油タイミングを、スカート部6bへの潤滑油の注油頻度および注油タイミングとして決定する。すなわち、中央制御部17は、スカート部6bへの潤滑油の注油率がピストン上側部5aへの潤滑油の注油率に対して一定の割合となるように、ピストン上側部5aへの潤滑油の注油頻度および注油タイミングと、スカート部6bへの潤滑油の注油頻度および注油タイミングとを決定する。中央制御部17は、上記のように決定した注油頻度および注油タイミングを、駆動制御部19に指示する。
【0039】
本実施形態では、シリンダ1の内部におけるピストン5の1往復運動を1サイクルとしたとき、このピストン5の1サイクル(以下、ピストンサイクルという)内に行われる注油は、ピストン上側部5aへの注油またはスカート部6bへの注油のいずれか一方である。したがって、ピストン上側部5aへの潤滑油の注油頻度は、複数のピストンサイクルを含む一定期間(以下、一定サイクル期間という)内にピストン上側部5aへの潤滑油の注油が行われるピストンサイクルの回数によって表される。これと同様に、スカート部6bへの潤滑油の注油頻度は、一定サイクル期間内にスカート部6bへの潤滑油の注油が行われるピストンサイクルの回数によって表される。
【0040】
また、ピストン上側部5aへの潤滑油の注油タイミングは、一定サイクル期間内に含まれる複数のピストンサイクルの各々を特定する特定情報と、ピストン上側部5aに対応するクランク角度とによって表される。これと同様に、スカート部6bへの潤滑油の注油タイミングは、一定サイクル期間内における上記各ピストンサイクルの特定情報と、スカート部6bに対応するクランク角度とによって表される。なお、ピストン上側部5aに対応するクランク角度は、シリンダライナ2に配置された注油棒11の注油口と対向する位置にピストン上側部5aが到達したときの舶用内燃機関のクランク角度である。スカート部6bに対応するクランク角度は、上記注油棒11の注油口と対向する位置にスカート部6bが到達したときの舶用内燃機関のクランク角度である。
【0041】
すなわち、本実施形態において、中央制御部17は、上記ピストン5の1往復運動を1サイクルとする一定サイクル期間に含まれるピストンサイクル毎に、ピストン5へ潤滑油を注油するか否かを決定する。且つ、中央制御部17は、ピストン5に対して潤滑油を注油する場合において、ピストン上側部5aまたはスカート部6bのいずれを注油対象とするかをピストンサイクル毎に決定する。
【0042】
また、本実施形態において、中央制御部17は、ピストン5への潤滑油の注油のうち、スカート部6bへの潤滑油の注油を、ユーザの操作に基づいて許可または禁止してもよい。例えば、操作装置15によってスカート部6bへの注油の許可情報が制御装置16に入力された場合、中央制御部17は、この入力された許可情報に基づいて、スカート部6bへの潤滑油の注油を許可する。この場合、中央制御部17は、許可フラグを立てる等により、スカート部6bへの潤滑油の注油を駆動制御部19に対して許可する。
【0043】
駆動制御部19は、上記のように中央制御部17が決定した注油頻度および注油タイミングで注油器12が潤滑油を注油するように、電磁弁13の開閉駆動を制御する。詳細には、駆動制御部19は、角度検出器21によって検出された舶用内燃機関のクランク角度をもとに、ピストン上側部5aについて中央制御部17から指示された注油タイミングで、開駆動を開始し、開状態を所定の期間維持して閉駆動するように電磁弁13を制御する。また、駆動制御部19は、ピストン上側部5aとは異なるピストンサイクルにおいて、角度検出器21によって検出された舶用内燃機関のクランク角度をもとに、スカート部6bについて中央制御部17から指示された注油タイミングで開駆動を開始し、開状態を所定の期間維持して閉駆動するように電磁弁13を制御する。駆動制御部19は、中央制御部17から注油頻度および注油タイミングが指示される都度、一定サイクル期間毎に、指示された注油頻度を上限として上記電磁弁13の開閉駆動の制御を繰り返し行う。駆動制御部19は、指示された注油頻度まで上記電磁弁13の駆動制御を繰り返し行った場合、再度、一定サイクル期間内での上記電磁弁13の開閉駆動の制御を繰り返し行う。
【0044】
例えば、一定サイクル期間のうち、ピストン5への潤滑油の注油が行われるピストンサイクル毎に、駆動制御部19は、角度検出器21によって検出された舶用内燃機関のクランク角度をもとに、上昇中のピストン5のピストン上側部5aまたは下降中のピストン5のスカート部6bのいずれかへ注油器12が潤滑油を注油するように、電磁弁13の開閉駆動を制御する。本実施形態において、ピストン5がシリンダ1の内部を上昇中または下降中のいずれの状態であるかは、このピストンの往復運動に伴い回転するクランクの回転角度(クランク角度)によって特定することができる。例えば、ピストン5がシリンダ1内の上死点Ctに位置するときのクランク角度を基準(=0度)とした場合、ピストン5がシリンダ1内の下死点Cbに位置するときのクランク角度は180度となる。ピストン5が上死点Ct側から下死点Cb側へ移動(すなわち下降)している場合、クランク角度は、0度から180度までの間の角度である。ピストン5が下死点Cb側から上死点Ct側へ移動(すなわち上昇)している場合、クランク角度は、180度から360度までの間の角度である。
【0045】
また、駆動制御部19は、中央制御部17からスカート部6bへの潤滑油の注油が許可されていれば、スカート部6bについての注油タイミングで上記電磁弁13の開閉駆動の制御を行う。一方、中央制御部17からスカート部6bへの潤滑油の注油が許可されていなければ、駆動制御部19は、たとえスカート部6bについての注油タイミングが指示されていても、当該注油タイミングに上記電磁弁13の開閉駆動の制御を行わない。
【0046】
また、駆動制御部19は、温度検出器24によって検出された潤滑油の温度と、圧力検出器25によって検出された潤滑油の圧力とをもとに、開状態の電磁弁13に閉駆動させるタイミングを制御する。これにより、駆動制御部19は、注油器12による1回の注油動作当たりの潤滑油の注油量が一定量となるように、潤滑油の粘度等の状態変化に応じて、電磁弁13を開駆動させてから閉駆動させるまでの時間を補正することができる。なお、電磁弁13が開駆動してから閉駆動するまでの時間は、電磁弁13が開状態を維持する時間であり、注油器12によって潤滑油がピストン5へ注油される時間に相当する。
【0047】
角度検出器21は、舶用内燃機関のクランク角度を検出する。詳細には、角度検出器21は、シリンダ1の内部におけるピストン5の往復運動に伴って変化するクランク角度を、時系列に沿って連続的または断続的に検出する。角度検出器21は、クランク角度を検出する都度、検出したクランク角度を示す電気信号を制御装置16に送信する。このような角度検出器21は、例えば、舶用内燃機関の複数のシリンダに対応して、舶用内燃機関に複数設けられている。
【0048】
回転数検出器22は、舶用内燃機関に設けられ、この舶用内燃機関のエンジン回転数を検出する。例えば、回転数検出器22は、時系列に沿って連続的または断続的にエンジン回転数を検出し、その都度、検出したエンジン回転数を示す電気信号を制御装置16に送信する。
【0049】
負荷検出器23は、舶用内燃機関に設けられ、この舶用内燃機関のエンジン負荷を検出する。例えば、負荷検出器23は、時系列に沿って連続的または断続的にエンジン負荷を検出する。或いは、負荷検出器23は、所定の期間毎にエンジン負荷を複数検出し、検出した複数のエンジン負荷の平均値を算出する。負荷検出器23は、上記のように検出したエンジン負荷または算出したエンジン負荷の平均値を、舶用内燃機関の現時点でのエンジン負荷として取得し、その都度、取得したエンジン負荷を示す電気信号を制御装置16に送信する。
【0050】
温度検出器24は、例えば注油器12または給油ユニット14に設けられ、ピストン5へ注油される潤滑油の温度を時系列に沿って連続的または断続的に検出する。その都度、温度検出器24は、潤滑油の温度を検出する都度、検出した温度を示す電気信号を制御装置16に送信する。圧力検出器25は、例えば注油器12または給油ユニット14に設けられ、ピストン5へ注油される潤滑油の圧力を時系列に沿って連続的または断続的に検出する。圧力検出器25は、潤滑油の圧力を検出する都度、検出した圧力を示す電気信号を制御装置16に送信する。
【0051】
(データテーブル)
つぎに、本発明の実施形態における注油制御に用いられる第1データテーブル18aおよび第2データテーブル18bについて詳細に説明する。図3は、本発明の実施形態におけるピストン上側部についての注油制御に用いられる第1データテーブルの一例を示す模式図である。図3に示すように、第1データテーブル18aは、ピストン上側部5aへ潤滑油を注油する際の注油率QN[g/kWh]と注油頻度N[回]および注油タイミングTNとの対応関係を示すデータテーブルである。
【0052】
詳細には、図3に示す第1データテーブル18aにおいて、注油頻度Nは、ピストン上側部5aについての注油率QNとして登録された複数の注油率の各々における注油頻度(ピストン上側部5aへの注油頻度)を示す数値である。注油頻度Nの各数値としては、最大注油頻度Naと、これを起点として1ずつ減少する各数値とが挙げられる。最大注油頻度Naは、第1データテーブル18aに注油頻度Nとして登録されている複数の数値のうち最大値である。
【0053】
注油率QNは、上述した注油頻度Nの数値毎に対応付けられた複数の注油率からなる。例えば、図3に示すように、最大注油頻度Naには最大注油率Qaが対応付けられ、最大注油頻度Naから1を減じた注油頻度Na-1には注油率Q1が対応付けられ、この注油頻度Na-1から1を減じた注油頻度Na-2には注油率Q2が対応付けられている。このような注油率QNは、以下に示す式(1)によって算出される。

注油率QN=(最大注油率Qa/最大注油頻度Na)×注油頻度N ・・・(1)

上式(1)において、例えば、注油頻度Nが注油頻度Na-1である場合、注油率QNとして注油率Q1が算出される。注油頻度Nが注油頻度Na-2である場合、注油率QNとして注油率Q2が算出される。
【0054】
このような注油率QNには、図3に示すように、最大注油率Qa、上限注油率Qb、下限注油率Qc等が含まれる。最大注油率Qaは、第1データテーブル18aに登録されている複数の注油率のうち最大の注油率である。上限注油率Qbは、ピストン上側部5aおよびスカート部6bの各々へ潤滑油を注油する場合の注油率の上限値である。下限注油率Qcは、ピストン上側部5aへの潤滑油の注油において、シリンダ1の内周面2aに対するピストン5の潤滑性を確保するために必要な最小限度の注油率である。
【0055】
なお、第1データテーブル18aにおける注油頻度Nのうち、注油頻度Nbは上限注油率Qbに対応する注油頻度であり、注油頻度Ncは下限注油率Qcに対応する注油頻度である。また、注油頻度Na/2(最大注油頻度Naの1/2の注油頻度)は、注油率Qa/2(最大注油率Qaの1/2の注油率)に対応する注油頻度である。
【0056】
また、図3に示す第1データテーブル18aにおいて、注油タイミングTNは、ピストン上側部5aへの潤滑油の注油タイミングである。詳細には、図3に示すように、注油タイミングTNは、シリンダ1の内部におけるピストン5の1往復運動を1サイクルとするピストンサイクルのサイクル番号Yと、ピストン上側部5aに対応するクランク角度Aとの組み合わせによって表される。サイクル番号Yは、一定サイクル期間内に含まれる複数のピストンサイクルの各々を特定する番号であり、これら複数のピストンサイクルの時系列順序を示している。サイクル番号Yは、一定サイクル期間内における複数のピストンサイクルの時系列順序に沿って、図3に示すように1~Yeまで登録される。サイクル番号Yeは、一定サイクル期間内における最後のピストンサイクルを特定する番号である。例えば、サイクル番号Yeは、上述した最大注油頻度Naと同じ数値である。クランク角度Aは、ピストン上側部5aへの注油が行われるピストンサイクル毎の注油タイミングに相当する。すなわち、第1データテーブル18aにおいて、「有」および「無」は、ピストン上側部5aへの注油の有無をピストンサイクル毎に示している。「有」のピストンサイクルでは、舶用内燃機関のクランク角度が「A」になったタイミングにピストン上側部5aへの注油が行われる。「無」のピストンサイクルでは、ピストン上側部5aへの注油は行われない。この注油タイミングTNの一定サイクル期間内に含まれる「有」のピストンサイクル数は、この一定サイクル期間内に行われるピストン上側部5aへの注油頻度であり、上述した注油頻度Nによって表される。
【0057】
このような注油タイミングTNは、図3に示すように、注油頻度Nとともに注油率QNと対応付けられている。例えば、注油率QNが最大注油率Qaである場合、注油頻度Nは最大注油頻度Naであり、注油タイミングTNは、最大注油頻度Naでの注油タイミングとなる。この場合、ピストン上側部5aへの注油は、サイクル番号1~Yeの全ピストンサイクルにおいて「有」となる。注油率QNが注油率Q1である場合、注油頻度Nは注油頻度Na-1であり、注油タイミングTNは、この注油頻度Na-1での注油タイミングとなる。この場合、ピストン上側部5aへの注油は、サイクル番号Yの順に、「有」→「有」→「有」→「無」→「有」→「有」→「有」→「有」、・・・、→「有」のようなパターンで行われる。注油率QNが上限注油率Qbである場合、注油頻度Nは注油頻度Nbであり、注油タイミングTNは、この注油頻度Nbでの注油タイミングとなる。この場合、ピストン上側部5aへの注油は、サイクル番号Yの順に、「有」→「無」→「有」→「有」→「無」→「有」→「有」→「無」、・・・、→「有」のようなパターンで行われる。注油率QNが注油率Qa/2である場合、注油頻度Nは注油頻度Na/2であり、注油タイミングTNは、この注油頻度Na/2での注油タイミングとなる。この場合、ピストン上側部5aへの注油は、サイクル番号Yの順に、「有」→「無」→「有」→「無」→「有」→「無」→「有」→「無」、・・・、「無」のようなパターンで行われる。注油率QNが下限注油率Qcである場合、注油頻度Nは注油頻度Ncであり、注油タイミングTNは、この注油頻度Ncでの注油タイミングとなる。この場合、ピストン上側部5aへの注油は、サイクル番号Yの順に、「無」→「有」→「無」→「無」→「有」→「無」→「無」→「有」、・・・、→「無」のようなパターンで行われる。
【0058】
図4は、本発明の実施形態におけるスカート部についての注油制御に用いられる第2データテーブルの一例を示す模式図である。図4に示すように、第2データテーブル18bは、スカート部6bへ潤滑油を注油する際の注油率QM[g/kWh]と注油頻度M[回]および注油タイミングTMとの対応関係を示すデータテーブルである。
【0059】
詳細には、図4に示す第2データテーブル18bにおいて、注油率QMは、上述したピストン上側部5aについての注油率QNに対して一定割合Rの数値となるように登録されている。すなわち、注油率QMは、上述の注油率QNと一定割合Rとの乗算(QN×R)によって表される。例えば、図4に示すように、ピストン上側部5aについての注油率QNが最大注油率Qaである場合、注油率QMは、最大注油率Qaと一定割合Rとの乗算値(=Qa×R)である。本実施形態において、この注油率QM(=Qa×R)は、ピストン上側部5aについての最大注油率Qaに対応する注油率である。これらの注油率QM、QNの対応関係は、図4に示すように、最大注油率Qa以外の注油率QNにおいても同様である。また、上述した一定割合Rは、例えば、10%以上15%以下であることが好ましい。
【0060】
注油頻度Mは、スカート部6bについての注油率QMとして登録された複数の注油率の各々における注油頻度(スカート部6bへの注油頻度)を示す数値である。注油頻度Mの各数値は、一定サイクル期間内においてピストン上側部5aへ注油が行われないピストンサイクル数以下である。具体的には、注油頻度Mの各数値は、一定サイクル期間内に含まれるピストンサイクル数(=Ye)からピストン上側部5aへの注油頻度Nを減じた値(Ye-N)を上限として設定される。ただし、スカート部6bについての注油率QMがQb×Rを上回る場合、図4に示すように、注油頻度Mは零(M=0)である。なお、第2データテーブル18bにおける注油頻度Mのうち、注油頻度Maは上限注油率Qbに対応する注油頻度であり、注油頻度Mdは注油率Qa/2に対応する注油頻度であり、注油頻度Meは下限注油率Qcに対応する注油頻度である。
【0061】
また、図4に示す第2データテーブル18bにおいて、注油タイミングTMは、スカート部6bへの潤滑油の注油タイミングである。詳細には、図4に示すように、注油タイミングTMは、上述したピストンサイクルのサイクル番号Yと、スカート部6bに対応するクランク角度Bとの組み合わせによって表される。この注油タイミングTMにおけるサイクル番号Yは、図3に示したピストン上側部5aについての注油タイミングTNと同じサイクル番号である。すなわち、スカート部6bについての注油タイミングTMにおけるピストンサイクルは、ピストン上側部5aについての注油タイミングTNにおけるピストンサイクルと同期している。クランク角度Bは、スカート部6bへの注油が行われるピストンサイクル毎の注油タイミングに相当する。すなわち、第2データテーブル18bにおいて、「有」および「無」は、スカート部6bへの注油の有無をピストンサイクル毎に示している。「有」のピストンサイクルでは、舶用内燃機関のクランク角度が「B」になったタイミングにスカート部6bへの注油が行われる。「無」のピストンサイクルでは、スカート部6bへの注油は行われない。この注油タイミングTMの一定サイクル期間内に含まれる「有」のピストンサイクル数は、この一定サイクル期間内に行われるスカート部6bへの注油頻度であり、上述した注油頻度Mによって表される。
【0062】
このような注油タイミングTMは、図4に示すように、注油頻度Mとともに注油率QM(すなわちQN×R)と対応付けられ、1つのピストンサイクル内でピストン上側部5aへの注油とスカート部6bへの注油とが重複しないように設定されている。例えば、注油率QNが最大注油率Qaである場合、注油率QM=Qa×Rであり、注油頻度M=0である。この場合、注油タイミングTMにおいて、スカート部6bへの注油は、サイクル番号1~Yeの全ピストンサイクルにおいて「無」となる。注油率QNが上限注油率Qbである場合、注油率QM=Qb×Rであり、注油頻度Mは注油頻度Maであり、注油タイミングTMは、この注油頻度Maでの注油タイミングとなる。この場合、スカート部6bへの注油は、サイクル番号Yの順に、「無」→「有」→「無」→「無」→「有」→「無」→「無」→「有」、・・・、→「無」のようなパターンで行われる。注油率QNが注油率Qa/2である場合、注油率QM=(Qa/2)×Rであり、注油頻度Mは注油頻度Mdであり、注油タイミングTMは、この注油頻度Mdでの注油タイミングとなる。この場合、スカート部6bへの注油は、サイクル番号Yの順に、「無」→「無」→「無」→「有」→「無」→「有」→「無」→「無」、・・・、→「有」のようなパターンで行われる。注油率QNが下限注油率Qcである場合、注油率QM=Qc×Rであり、注油頻度Mは注油頻度Meであり、注油タイミングTMは、この注油頻度Meでの注油タイミングとなる。この場合、スカート部6bへの注油は、サイクル番号Yの順に、「無」→「無」→「無」→「無」→「無」→「無」→「有」→「無」、・・・、→「有」のようなパターンで行われる。
【0063】
なお、図3、4に示した注油タイミングTN、TMは、ピストン上側部5aおよびスカート部6bの各々における注油タイミングの一例であり、本発明を限定するものではない。注油タイミングTN、TMは、1つのピストンサイクル内でピストン上側部5aへの注油とスカート部6bへの注油とが重複しない限り、図3、4に示したパターン以外の注油タイミングであってもよい。
【0064】
(ピストン上側部への注油)
つぎに、ピストン上側部5aへの注油について詳細に説明する。図5は、本発明の実施形態におけるピストン上側部5aへの注油の一例を示す模式図である。本実施形態において、ピストン上側部5aへの注油は、例えば、ピストン5がシリンダ1の内部を往復運動する過程で下死点Cb側から上死点Ct側へ上昇している際に行われる。
【0065】
詳細には、図5に示すように、ピストン5は、シリンダライナ2の内周面2aにピストンリング7a~7cを摺接させた状態で、シリンダライナ2の内部を上昇する。この際、ピストン5は、シリンダライナ2に設けられている注油棒11の注油口の位置に向かって上昇している。
【0066】
ここで、舶用内燃機関のクランク角度がクランク角度Aになったタイミング(以下、第1タイミングという)において、上昇中のピストン5は、ピストン上側部5aの所定部位、例えば図5に示すように、冠部6aの下端部を注油棒11の注油口と対向させる位置に到達する。なお、冠部6aの下端部は、図5に示すように、最上段のピストンリング7aの上端部に隣接する部位である。この第1タイミングにおいて、図5に示すように、ピストン上側部5aへの潤滑油30の注油が開始される。この際、潤滑油30は、まず、注油棒11から冠部6aの下端部へ吐出される。
【0067】
その後、ピストン5は、継続してシリンダライナ2の内部を上昇し、例えば図5に示すように、ピストン上側部5aの下端部、すなわち、最下段のピストンリング7cを注油棒11の注油口と対向させる位置に到達する。上昇中のピストン5が当該位置に到達したタイミング(以下、第2タイミングという)において、ピストン上側部5aへの潤滑油30の注油が終了する。すなわち、潤滑油30は、上述した第1タイミングから第2タイミングまでの期間、継続して注油棒11からピストン上側部5aへ吐出される。当該期間は、図1に示した電磁弁13が開駆動してから閉駆動するまでの期間(開状態を維持している期間)と同じである。潤滑油30は、上昇中のピストン5における冠部6aの下端部から最下段のピストンリング7cに亘る領域に注油される。
【0068】
このように潤滑油30が注油されたピストン5は、ピストンリング7a~7cによって潤滑油30を塗り広げる等しながら、シリンダライナ2の内部を継続して往復運動する。これにより、シリンダライナ2の内周面2aとピストン5との間には、潤滑油30の油膜が形成される。
【0069】
(ピストンスカートへの注油)
つぎに、ピストンスカート(すなわちピストン5のスカート部6b)への注油について詳細に説明する。図6は、本発明の実施形態におけるピストンスカートへの注油の一例を示す模式図である。本実施形態において、スカート部6bへの注油は、例えば、ピストン5がシリンダ1の内部を往復運動する過程で上死点Ct側から下死点Cb側へ下降している際に行われる。
【0070】
詳細には、図6に示すように、ピストン5は、シリンダライナ2の内周面2aにピストンリング7a~7cを摺接させた状態で、シリンダライナ2の内部を下降する。この際、ピストン5は、シリンダライナ2に設けられている注油棒11の注油口の位置に向かって下降している。
【0071】
ここで、舶用内燃機関のクランク角度がクランク角度Bになったタイミング(以下、第3タイミングという)において、下降中のピストン5は、スカート部6bの所定部位、例えば図6に示すように、スカート部6bの下端部を注油棒11の注油口と対向させる位置に到達する。この第3タイミングにおいて、図6に示すように、スカート部6bへの潤滑油30の注油が開始される。この際、潤滑油30は、まず、注油棒11からスカート部6bの下端部へ吐出される。
【0072】
その後、ピストン5は、継続してシリンダライナ2の内部を下降し、例えば図6に示すように、スカート部6bの上端部を注油棒11の注油口と対向させる位置に到達する。なお、スカート部6bの上端部は、図6に示すように、最下段のピストンリング7cの下端部に隣接する部位である。下降中のピストン5が当該位置に到達したタイミング(以下、第4タイミングという)において、スカート部6bへの潤滑油30の注油が終了する。すなわち、潤滑油30は、上述した第3タイミングから第4タイミングまでの期間、継続して注油棒11からスカート部6bへ吐出される。当該期間は、図1に示した電磁弁13が開駆動してから閉駆動するまでの期間と同じである。潤滑油30は、下降中のピストン5におけるスカート部6bの下端部から上端部に亘る領域に注油される。
【0073】
このように潤滑油30が注油されたピストン5は、ピストンリング7a~7cによって潤滑油30を塗り広げる等しながら、シリンダライナ2の内部を継続して往復運動する。これにより、シリンダライナ2の内周面2aとスカート部6bとの間には、潤滑油30の油膜が形成される。
【0074】
(注油制御)
つぎに、本発明の実施形態に係るシリンダ注油システム10による注油制御について詳細に説明する。図7は、本発明の実施形態に係るシリンダ注油システムによる注油制御の処理フローの一例を示すフローチャートである。シリンダ注油システム10(図1参照)は、図7に示すステップS101~S116の各処理を適宜行うことにより、シリンダ1内のピストン5に対する潤滑油の注油を制御する。
【0075】
詳細には、図7に示すように、シリンダ注油システム10は、注油制御における基準注油率Qsを設定する(ステップS101)。ステップS101において、中央制御部17は、エンジン負荷が100%である場合の注油率を基準注油率Qsとして設定する。
【0076】
例えば、制御装置16に操作装置15から基準注油率の指定値が入力されていない場合、中央制御部17は、第1データテーブル18aを参照し、この第1データテーブル18aに登録されている複数の注油率QNのうち最大注油率Qaを基準注油率Qsとして設定する。或いは、制御装置16に操作装置15から基準注油率の指定値が入力されている場合、中央制御部17は、この入力された指定値をもとに、基準注油率Qsを設定する。この際、中央制御部17は、第1データテーブル18aに登録されている複数の注油率QNの中から、上記指定値に最も近い注油率を基準注油率Qsとして設定する。例えば、これら複数の注油率QNの中に上記指定値と同値の注油率がある場合、中央制御部17は、この指定値と同値の注油率を基準注油率Qsとして設定する。これら複数の注油率QNの中に上記指定値と同値の注油率がない場合、中央制御部17は、これら複数の注油率QNのうち上記指定値との差が最も小さい注油率を基準注油率Qsとして設定する。
【0077】
ステップS101の処理を実行後、シリンダ注油システム10は、シリンダ1内のピストン5へ注油する潤滑油の注油率Qを導出する(ステップS102)。ステップS102において、中央制御部17は、舶用内燃機関のエンジン負荷に応じて、注油率Qを導出する。
【0078】
詳細には、舶用内燃機関の動作モードが平均有効圧比例モードである場合、制御装置16は、回転数検出器22によって検出された舶用内燃機関の現時点のエンジン回転数と、負荷検出器23によって検出された舶用内燃機関の現時点のエンジン負荷とを取得する。中央制御部17は、これら取得したエンジン回転数とエンジン負荷とをもとに、シリンダ1の平均有効圧力を算出する。ついで、中央制御部17は、エンジン負荷が100%である場合の平均有効圧力に対する上記算出した平均有効圧力の割合を求め、この得られた割合と基準注油率Qsとの乗算等の処理により、現時点のエンジン負荷に応じた注油率Qを導出する。或いは、舶用内燃機関の動作モードが出力比例モードである場合、制御装置16は、負荷検出器23によって検出された舶用内燃機関の現時点のエンジン負荷を取得する。中央制御部17は、この取得したエンジン負荷と基準注油率Qsとの乗算等の処理により、現時点のエンジン負荷に応じた注油率Qを導出する。
【0079】
ステップS102の処理を実行後、シリンダ注油システム10は、導出した注油率Qのレベルを判定する(ステップS103)。ステップS103において、中央制御部17は、ステップS102の処理によって導出した注油率Qと、第1データテーブル18aに登録されている上限注油率Qbおよび下限注油率Qcとを比較する。中央制御部17は、この比較処理により、注油率Qが上限注油率Qbを上回るか否か、注油率Qが下限注油率Qc以上、上限注油率Qb以下の範囲内であるか否か、注油率Qが下限注油率Qcを下回るか否か、を判定する。
【0080】
注油率Qが上限注油率Qbを上回る場合(ステップS103,Q>Qb)、制御装置16は、ピストン5の上半部分(ピストン上側部5a)について、注油率Qでの注油頻度および注油タイミングを決定する(ステップS104)。
【0081】
ステップS104において、注油率Qは、第1データテーブル18aに登録されている注油率QNのうち、上限注油率Qb超、最大注油率Qa以下の範囲内のいずれかと同値である。中央制御部17は、第1データテーブル18aに登録されている注油頻度Nおよび注油タイミングTNのうち、この注油率Qに対応する注油頻度および注油タイミングを、ピストン上側部5aへの潤滑油の注油頻度および注油タイミングとして決定する。すなわち、中央制御部17は、一定サイクル期間毎にピストン上側部5aへ潤滑油を注油する頻度と、一定サイクル期間内に含まれる複数のピストンサイクルのうち潤滑油の注油を実行するピストンサイクルと、当該ピストンサイクル毎の注油対象(ピストン上側部5a)とを決定する。中央制御部17は、上記のように決定した注油頻度および注油タイミングを駆動制御部19へ指示する。
【0082】
ステップS104の処理を実行後、シリンダ注油システム10は、ピストン上側部5aについて、潤滑油の注油を制御する(ステップS105)。ステップS105において、駆動制御部19は、ステップS104の処理によって中央制御部17から指示された注油頻度および注油タイミングで注油器12が潤滑油を注油するように、電磁弁13の開閉駆動を制御する。
【0083】
詳細には、駆動制御部19は、中央制御部17から指示された注油頻度をもとに、一定サイクル期間毎のピストン上側部5aへの注油頻度Nを把握する。また、駆動制御部19は、中央制御部17から指示された注油タイミングをもとに、一定サイクル期間内においてピストン上側部5aへの注油を実行する注油有りのピストンサイクルのサイクル番号Yと、当該注油を実行する際のクランク角度Aとを把握する。さらに、駆動制御部19は、角度検出器21によって検出された舶用内燃機関のクランク角度を時系列に沿って順次取得する。駆動制御部19は、ピストン上側部5aへの注油有りのピストンサイクルにおいて、上記取得したクランク角度がクランク角度Aとなったタイミングで開駆動するように電磁弁13を制御する。その後、駆動制御部19は、開状態を所定の期間維持して閉駆動するように電磁弁13を制御する。駆動制御部19は、角度検出器21によって検出されたクランク角度をもとに、ピストンサイクルの1サイクルを把握し、上記のような電磁弁13の開閉駆動の制御をピストンサイクルのサイクル番号Yの順(時系列順)に順次実行する。注油器12は、電磁弁13が開状態である期間、例えば図5に示したように、注油棒11等を通じて、シリンダ1内を上昇中のピストン5のピストン上側部5aへ潤滑油を注油する。
【0084】
ステップS105の処理を実行後、シリンダ注油システム10は、舶用内燃機関のエンジン負荷が一定であるか否かを判断する(ステップS106)。ステップS106において、中央制御部17は、負荷検出器23から順次取得した各エンジン負荷の間で所定値以上の変化がある場合、エンジン負荷は一定ではない(変化した)と判断する。また、中央制御部17は、負荷検出器23から順次取得した各エンジン負荷の差が所定値未満である場合、エンジン負荷は一定であると判断する。
【0085】
ステップS106においてエンジン負荷が一定である場合(ステップS106,Yes)、シリンダ注油システム10は、ステップS105に戻り、このステップS105以降の処理を繰り返す。一方、ステップS106においてエンジン負荷が変化した場合(ステップS106,No)、シリンダ注油システム10は、ステップS102に戻り、このステップS102以降の処理を繰り返す。
【0086】
一方、上述したステップS103の処理において、注油率Qが下限注油率Qc以上、上限注油率Qb以下の範囲内である場合(ステップS103,Qc≦Q≦Qb)、制御装置16は、ピストン5のピストン上側部5aおよびスカート部6bについて、注油率Qでの注油頻度および注油タイミングを決定する(ステップS107)。
【0087】
ステップS107において、注油率Qは、第1データテーブル18aに登録されている注油率QNのうち、下限注油率Qc以上、上限注油率Qb以下の範囲内のいずれかと同値である。中央制御部17は、この注油率Qに対応する注油頻度および注油タイミングを、上述したステップS104と同様にピストン上側部5aへの潤滑油の注油頻度および注油タイミングとして決定する。
【0088】
また、ステップS107において、中央制御部17は、第2データテーブル18bに登録されている注油頻度Mおよび注油タイミングTMのうち、この注油率Qと一定割合Rとの乗算値(注油率Q×R)に対応する注油頻度および注油タイミングを、スカート部6bへの潤滑油の注油頻度および注油タイミングとして決定する。すなわち、中央制御部17は、一定サイクル期間毎にピストン上側部5aおよびスカート部6bの各々へ潤滑油を注油する各頻度と、一定サイクル期間内に含まれる複数のピストンサイクルのうち潤滑油の注油を実行するピストンサイクルと、当該ピストンサイクル毎の注油対象(ピストン上側部5aまたはスカート部6bのいずれか)とを決定する。中央制御部17は、上記のように決定した注油頻度および注油タイミングを駆動制御部19へ指示する。
【0089】
ステップS107の処理を実行後、シリンダ注油システム10は、スカート部6bへの潤滑油の注油を許可するか否かを判断する(ステップS108)。シリンダ注油システム10では、ユーザが操作装置15を操作して制御装置16に許可情報入力することにより、スカート部6bへの潤滑油の注油が許可される。ステップS108において、中央制御部17は、操作装置15から制御装置16に許可情報が入力された場合、この入力された許可情報に基づいて、許可フラグを立てる等の処理により、スカート部6bへの潤滑油の注油を駆動制御部19に対して許可する。一方、中央制御部17は、操作装置15から制御装置16に許可情報が入力されていない場合、スカート部6bへの潤滑油の注油を駆動制御部19に対して禁止する。
【0090】
ステップS108において、スカート部6bへの潤滑油の注油が許可された場合(ステップS108,Yes)、シリンダ注油システム10は、ピストン上側部5aおよびスカート部6bの各々について、潤滑油の注油を制御する(ステップS109)。ステップS109において、駆動制御部19は、ステップS107の処理によって中央制御部17から指示された注油頻度および注油タイミングで注油器12が潤滑油を注油するように、電磁弁13の開閉駆動を制御する。
【0091】
詳細には、駆動制御部19は、ピストン上側部5aについて、上述したステップS105と同様に、一定サイクル期間毎の注油頻度Nと、一定サイクル期間内における注油有りのピストンサイクルのサイクル番号Yと、当該注油を実行する際のクランク角度Aとを把握する。また、駆動制御部19は、スカート部6bについて中央制御部17から指示された注油頻度をもとに、一定サイクル期間毎のスカート部6bへの注油頻度Mを把握する。さらに、駆動制御部19は、スカート部6bについて中央制御部17から指示された注油タイミングをもとに、一定サイクル期間内においてスカート部6bへの注油を実行する注油有りのピストンサイクルのサイクル番号Yと、当該注油を実行する際のクランク角度Bとを把握する。駆動制御部19は、ピストン上側部5aについての一定サイクル期間内のピストンサイクルと、スカート部6bについての一定サイクル期間内のピストンサイクルとを同期させる。すなわち、一定サイクル期間内のピストンサイクルのサイクル番号Yは、ピストン上側部5aとスカート部6bとに共通している。
【0092】
また、駆動制御部19は、角度検出器21によって検出された舶用内燃機関のクランク角度を時系列に沿って順次取得する。駆動制御部19は、ピストン上側部5aへの潤滑油の注油について、上述したステップS105と同様に電磁弁13の開閉駆動を制御する。これに並行して、駆動制御部19は、スカート部6bへの注油有りのピストンサイクルにおいて、上記取得したクランク角度がクランク角度Bとなったタイミングで開駆動するように電磁弁13を制御する。その後、駆動制御部19は、開状態を所定の期間維持して閉駆動するように電磁弁13を制御する。駆動制御部19は、角度検出器21によって検出されたクランク角度をもとに、ピストンサイクルの1サイクルを把握し、上記のような電磁弁13の開閉駆動の制御をピストンサイクルのサイクル番号Yの順(時系列順)に順次実行する。
【0093】
注油器12は、電磁弁13が上述の第1タイミング(クランク角度Aのタイミング)から第2タイミングまで継続して開状態である期間、例えば図5に示したように、注油棒11等を通じて、シリンダ1内を上昇中のピストン5のピストン上側部5aへ潤滑油を注油する。また、注油器12は、ピストン上側部5aの注油タイミングとは異なるピストンサイクルにおいて、電磁弁13が上述の第3タイミング(クランク角度Bのタイミング)から第4タイミングまで継続して開状態である期間、例えば図6に示したように、注油棒11等を通じて、シリンダ1内を下降中のピストン5のスカート部6bへ潤滑油を注油する。
【0094】
一方、上述したステップS108において、スカート部6bへの潤滑油の注油が許可されていない場合(ステップS108,No)、シリンダ注油システム10は、スカート部6bへの潤滑油の注油は行わず、ピストン上側部5aについて、潤滑油の注油を制御する(ステップS110)。ステップS110において、駆動制御部19は、ステップS107の処理によって中央制御部17から指示された注油頻度および注油タイミングのうち、ピストン上側部5aについての注油頻度および注油タイミングで注油器12が潤滑油を注油するように、電磁弁13の開閉駆動を制御する。
【0095】
詳細には、駆動制御部19は、上述したステップS105と同様に、ピストン上側部5aへの潤滑油の注油が行われるよう電磁弁13の開閉駆動を制御する。また、駆動制御部19は、たとえ角度検出器21から取得したクランク角度がクランク角度Bとなったタイミングであっても、電磁弁13の開閉駆動の制御を行わず、これにより、スカート部6bへの潤滑油の注油を注油器12に対して禁止する。注油器12は、電磁弁13が上述の第1タイミングから第2タイミングまで継続して開状態である期間、例えば図5に示したように、注油棒11等を通じて、シリンダ1内を上昇中のピストン5のピストン上側部5aへ潤滑油を注油する。一方、注油器12は、スカート部6bへの潤滑油の注油を行わない。
【0096】
ステップS109またはステップS110の処理を実行後、シリンダ注油システム10は、舶用内燃機関のエンジン負荷が一定であるか否かを判断する(ステップS111)。ステップS111において、中央制御部17は、上述したステップS106と同様に、エンジン負荷が一定であるか否かを判断する。
【0097】
ステップS111においてエンジン負荷が一定である場合(ステップS111,Yes)、シリンダ注油システム10は、ステップS108に戻り、このステップS108以降の処理を繰り返す。一方、ステップS111においてエンジン負荷が変化した場合(ステップS111,No)、シリンダ注油システム10は、ステップS102に戻り、このステップS102以降の処理を繰り返す。
【0098】
ここで、シリンダ注油システム10がステップS108~ステップS111の各処理を繰り返し実行する場合、スカート部6bへの潤滑油の注油は、一旦禁止された後に許可される可能性がある。この場合、ピストン上側部5aへの潤滑油の注油が開始されている一定サイクル期間内の途中のピストンサイクルから、スカート部6bへの潤滑油の注油が追加されることが起こり得る。本実施形態では、上述したように、ピストン上側部5aについての一定サイクル期間内のピストンサイクルと、スカート部6bについての一定サイクル期間内のピストンサイクルとが同期している。このため、上記のように途中のピストンサイクルからスカート部6bへの潤滑油の注油が追加されても、1つのピストンサイクル内にピストン上側部5aへの潤滑油の注油とスカート部6bへの潤滑油の注油とが重複する事態を回避することができる。
【0099】
一方、上述したステップS103の処理において、注油率Qが下限注油率Qcを下回る場合(ステップS103,Q<Qc)、制御装置16は、ピストン5のピストン上側部5aおよびスカート部6bについて、注油率Qではなく下限注油率Qcでの注油頻度および注油タイミングを決定する(ステップS112)。
【0100】
ステップS112において、下限注油率Qcは、第1データテーブル18aに登録されている注油率QNのうち最小の注油率である。中央制御部17は、この下限注油率Qcに対応する注油頻度および注油タイミングを、上述したステップS107と同様にピストン上側部5aへの潤滑油の注油頻度および注油タイミングとして決定する。
【0101】
また、ステップS112において、中央制御部17は、第2データテーブル18bに登録されている注油頻度Mおよび注油タイミングTMのうち、この下限注油率Qcと一定割合Rとの乗算値(注油率Qc×R)に対応する注油頻度および注油タイミングを、上述したステップS107と同様にスカート部6bへの潤滑油の注油頻度および注油タイミングとして決定する。中央制御部17は、上記のように決定した注油頻度および注油タイミングを駆動制御部19へ指示する。
【0102】
ステップS112の処理を実行後、シリンダ注油システム10は、スカート部6bへの潤滑油の注油を許可するか否かを判断する(ステップS113)。ステップS113において、中央制御部17は、上述したステップS108と同様に、操作装置15から制御装置16に入力された許可情報に基づいて、スカート部6bへの潤滑油の注油を許可し、当該許可情報が入力されていない場合、スカート部6bへの潤滑油の注油を禁止する。
【0103】
ステップS113において、スカート部6bへの潤滑油の注油が許可された場合(ステップS113,Yes)、シリンダ注油システム10は、ピストン上側部5aおよびスカート部6bの各々について、潤滑油の注油を制御する(ステップS114)。ステップS114において、駆動制御部19は、注油率Qが下限注油率Qcに置き換えられたこと以外、上述したステップS109と同様に、ピストン上側部5aおよびスカート部6bの各々について、電磁弁13の開閉駆動を制御する。
【0104】
一方、上述したステップS113において、スカート部6bへの潤滑油の注油が許可されていない場合(ステップS113,No)、シリンダ注油システム10は、スカート部6bへの潤滑油の注油は行わず、ピストン上側部5aについて、潤滑油の注油を制御する(ステップS115)。ステップS115において、駆動制御部19は、注油率Qが下限注油率Qcに置き換えられたこと以外、上述したステップS110と同様に、ピストン上側部5aについて、電磁弁13の開閉駆動を制御する。
【0105】
ステップS114またはステップS115の処理を実行後、シリンダ注油システム10は、舶用内燃機関のエンジン負荷が一定であるか否かを判断する(ステップS116)。ステップS116において、中央制御部17は、上述したステップS106と同様に、エンジン負荷が一定であるか否かを判断する。
【0106】
ステップS116においてエンジン負荷が一定である場合(ステップS116,Yes)、シリンダ注油システム10は、ステップS113に戻り、このステップS113以降の処理を繰り返す。一方、ステップS116においてエンジン負荷が変化した場合(ステップS116,No)、シリンダ注油システム10は、ステップS102に戻り、このステップS102以降の処理を繰り返す。
【0107】
なお、上述したステップS113~ステップS116の各処理を繰り返し実行する場合においても、ピストン上側部5aについての一定サイクル期間内のピストンサイクルと、スカート部6bについての一定サイクル期間内のピストンサイクルとが同期しているため、1つのピストンサイクル内にピストン上側部5aへの潤滑油の注油とスカート部6bへの潤滑油の注油とが重複する事態を回避することができる。
【0108】
また、エンジン負荷が変化した場合、上述したステップS102では、注油率Qが、変化後のエンジン負荷に応じて導出される。その後、上述したステップS104、S107、S112の各々において、ピストン5に対する注油頻度および注油タイミングは、エンジン負荷が変化した後の注油率Qでの注油頻度および注油タイミングに切り替えられる。上述したステップS105、S109、S110、S114、S115の各々では、上記のようにエンジン負荷の変化に応じて切り替えられた注油頻度および注油タイミングでピストン5への潤滑油の注油が制御される。この際、エンジン負荷の変化前に一定サイクル期間内の途中のピストンサイクルまで注油制御が進んでいたとしても、ピストン5への潤滑油の注油は、上記切り替え後の注油頻度および注油タイミングで一定サイクル期間内の最初(サイクル番号Y=1)のピストンサイクルから制御し直される。
【0109】
なお、シリンダ注油システム10において、制御装置16は、操作装置15から基準注油率の指定値が新たに入力された場合、その都度、上述したステップS101の処理を行い、その後、ステップS102以降の処理を適宜繰り返してもよい。
【0110】
以上、説明したように、本発明の実施形態に係るシリンダ注油システム10では、制御装置16が、舶用内燃機関のエンジン負荷に応じてピストン5に対する潤滑油の注油率Qを導出し、導出した注油率Qでのピストン5の上半部分(ピストン上側部5a)およびスカート部6bの各々への潤滑油の注油頻度および注油タイミングを決定し、決定した注油頻度および注油タイミングで注油器12がピストン5に対する潤滑油の注油を行うように、電磁弁13の開閉駆動を制御する。この制御装置16による駆動制御に基づき、電磁弁13が閉状態の場合において、注油器12は、潤滑油を蓄積する。電磁弁13が開状態の場合において、注油器12は、舶用内燃機関のシリンダ1の内部を往復運動するピストン5に対し、シリンダ1に設けられている注油棒11を通じて潤滑油を注油する。
【0111】
このため、ピストン5の冠部6aに加えられる筒内圧力に応じて、ピストン上側部5aおよびスカート部6bの各々への潤滑油の注油頻度および注油タイミングを制御することができる。これにより、シリンダ1の内周面2aに対するピストン5の摺動性を確保するために必要な潤滑油をシリンダ1の内周面2aとピストン5との間に注油できるとともに、筒内圧力が増大してピストン5がシリンダ1の内部で傾倒し難い場合においてスカート部6bへの潤滑油の注油が過度になる事態と、筒内圧力が減少してピストン5がシリンダ1の内部で傾倒し易い場合においてスカート部6bへの潤滑油の注油が不足になる事態とを回避することができる。この結果、ピストン上側部5aおよびスカート部6bの各々に対する潤滑油の注油量の過不足を抑制できることから、シリンダ1の内部を往復運動するピストン5に対して潤滑油を効率よく注油することができる。
【0112】
また、本発明の実施形態に係るシリンダ注油システム10では、制御装置16は、スカート部6bへの潤滑油の注油率がピストン上側部5aへの潤滑油の注油率に対して一定の割合となるように、ピストン上側部5aへの潤滑油の注油頻度および注油タイミングと、スカート部6bへの潤滑油の注油頻度および注油タイミングとを決定している。このため、ピストン上側部5aおよびスカート部6bの各々に対して潤滑油をバランスよく注油することができ、これにより、ピストン5への潤滑油の注油効率をより向上させることができる。
【0113】
また、本発明の実施形態に係るシリンダ注油システム10では、制御装置16は、操作装置15によって変更可能に入力された指定値をもとに、エンジン負荷が100%である場合の基準注油率を設定し、設定した基準注油率を基準として、エンジン負荷に応じた潤滑油の注油率Qを導出している。このため、ユーザの入力操作に応じて入力される指定値を変更することにより、基準注油率を容易に変更することができる。これにより、舶用内燃機関の運転時間(稼働時間)、ピストン5に設けられたピストンリングやシリンダ1の内周面2aの状態等に応じて、基準注油率を減らすことができる。この結果、船舶の運航に要するコストの低減を促進することができる。
【0114】
また、本発明の実施形態に係るシリンダ注油システム10では、制御装置16は、操作装置15によって入力された許可情報に基づいて、ピストン5のスカート部6bへの潤滑油の注油を許可している。このため、スカート部6bへの潤滑油の注油を許可するか否かをユーザ側で選択することができ、これにより、スカート部6bへの潤滑油の注油を、ユーザ側の判断で必要に応じて行うことができる。
【0115】
また、本発明の実施形態に係るシリンダ注油システム10では、舶用内燃機関のクランク角度をもとに、上昇中のピストン5のピストン上側部5aまたは下降中のピストン5のスカート部6bへ注油器12が潤滑油を注油するように、電磁弁13の開閉駆動が制御されている。このため、ピストン上側部5aへ注油された潤滑油を、ピストン5の往復運動に伴いシリンダ1の内周面2aと少なくともピストン上側部5aとの間に塗り広げて油膜化することができる。また、スカート部6bへ注油された潤滑油を、ピストン5の往復運動に伴いシリンダ1の内周面2aと少なくともスカート部6bとの間に塗り広げて油膜化することができる。これにより、シリンダ1の内周面2aとピストン5との間に、当該内周面2aに対するピストン5の摺動性を確保するための潤滑油の油膜を効率よく形成することができる。
【0116】
なお、上述した実施形態では、1つのシリンダ1に8つの注油棒11が設けられた場合を例示したが、本発明は、これに限定されるものではない。本発明において、1つのシリンダ1に設けられる注油棒11の配置数は、特に問われず、例えば、2つ以上(複数)であってもよい。
【0117】
また、上述した実施形態では、ピストン5が上昇している際にピストン上側部5aへ潤滑油を注油し、ピストン5が下降している際にスカート部6bへ潤滑油を注油していたが、本発明は、これに限定されるものではない。例えば、ピストン5が下降している際にピストン上側部5aへ潤滑油が注油されてもよい。この際、ピストン上側部5aのうち、最下段のピストンリング7cの位置から、潤滑油の注油が開始されてもよい。また、ピストン5が上昇している際にスカート部6bへ潤滑油が注油されてもよい。この際、スカート部6bの上端部(最下段のピストンリング7cに隣接する部位)から、潤滑油の注油が開始されてもよい。
【0118】
また、上述した実施形態では、制御装置16に許可情報が入力された場合にスカート部6bへの潤滑油の注油が許可されていたが、本発明は、これに限定されるものではない。例えば、操作装置15は、ユーザの入力操作に応じて、スカート部6bへの潤滑油の注油を禁止するための禁止情報を制御装置16に入力し、制御装置16は、この入力された禁止情報に基づいて、スカート部6bへの潤滑油の注油を禁止してもよい。
【0119】
また、上述した実施形態では、1つの操作装置15に、基準注油率の指定値を入力する第1入力部としての機能と、スカート部6bへの注油の許可情報を入力する第2入力部としての機能とを兼備させていたが、本発明は、これに限定されるものではない。例えば、上記の第1入力部と第2入力部とを、各々別体の入力部(操作装置)としてシリンダ注油システム10が備えてもよい。
【0120】
また、上述した実施形態では、ピストン本体の外周部に設けられる複数のピストンリングの一例として3つのピストンリングを例示したが、本発明は、これに限定されるものではない。例えば、ピストン本体の外周部には、当該ピストン本体の往復運動方向に並ぶように2つ以上のピストンリングが設けられていてもよい。
【0121】
また、上述した実施形態では、角度検出器21、回転数検出器22および負荷検出器23が舶用内燃機関に設けられている場合を例示したが、本発明は、これに限定されるものではない。例えば、これらの角度検出器21、回転数検出器22および負荷検出器23は、それぞれ、本発明の実施形態に係るシリンダ注油システム10の一構成例であってもよい。これと同様に、温度検出器24および圧力検出器25もシリンダ注油システム10の一構成例であってもよい。
【0122】
また、上述した実施形態により本発明が限定されるものではない。上述した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。その他、上述した実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施形態、実施例および運用技術等は全て本発明の範疇に含まれる。
【符号の説明】
【0123】
1 シリンダ
2 シリンダライナ
2a 内周面
3 シリンダカバー
4 燃焼室
5 ピストン
5a ピストン上側部
6 ピストン本体
6a 冠部
6b スカート部
6c 中間部
7a、7b、7c ピストンリング
8 ピストン棒
9 排気弁
10 シリンダ注油システム
11 注油棒
12 注油器
13 電磁弁
14 給油ユニット
15 操作装置
16 制御装置
17 中央制御部
18a 第1データテーブル
18b 第2データテーブル
19 駆動制御部
21 角度検出器
22 回転数検出器
23 負荷検出器
24 温度検出器
25 圧力検出器
30 潤滑油
Ct 上死点
Cb 下死点
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7