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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022178614
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】避難経路表示装置
(51)【国際特許分類】
   G08B 17/00 20060101AFI20221125BHJP
【FI】
G08B17/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021085545
(22)【出願日】2021-05-20
(71)【出願人】
【識別番号】000111074
【氏名又は名称】ニッタン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】吉原 正寛
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 誠
(72)【発明者】
【氏名】乾 貴裕
【テーマコード(参考)】
5G405
【Fターム(参考)】
5G405AA01
5G405AA03
5G405AA06
5G405AD06
5G405AD07
5G405CA19
5G405CA21
5G405CA23
5G405CA28
5G405CA30
(57)【要約】
【課題】安全性の高い避難経路を選択して避難するのを支援することができる避難経路表示装置を提供する。
【解決手段】表示部と、火災の発生を表す発報情報およびアドレス情報を含む複数の火災感知器や火災受信機からの感知器情報を受信可能な受信部と、受信した情報を記憶可能な記憶部と、演算を行う制御部とを有し通路の途中に配設された避難経路表示装置において、記憶部には避難経路表示装置が設置されている建物階の通路および避難口を含む内部構造の情報、当該建物階における前記複数の火災感知器の設置位置情報および当該避難経路表示装置から当該建物階の避難口までの避難経路が予め記憶され、制御部は、受信部によって火災感知器からの発報情報を受信すると、当該発報情報を送出した火災感知器の設置位置と記憶されている避難経路との関係に基づいて複数の避難経路を選択して表示部の表示画面に選択された複数の避難経路を表示させるようにした。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表示画面を有する表示部と、火災の発生を表す発報情報およびアドレス情報を含む複数の火災感知器および/または火災受信機からの感知器情報を受信可能な受信部と、受信した情報を記憶可能な記憶部と、演算を行う制御部と、を有し、通路の途中に配設された避難経路表示装置であって、
前記記憶部には、前記避難経路表示装置が設置されている建物階の通路および避難口を含む内部構造の情報、当該建物階における前記複数の火災感知器の設置位置情報および当該避難経路表示装置から当該建物階の前記避難口までの避難経路が予め記憶され、
前記制御部は、前記受信部によって前記火災感知器からの前記発報情報を受信すると、当該発報情報を送出した火災感知器の設置位置と前記記憶されている避難経路との関係に基づいて複数の避難経路を選択して、前記表示部の前記表示画面に、前記選択された複数の避難経路を表示させる機能を有することを特徴とする避難経路表示装置。
【請求項2】
前記記憶部には、各避難経路の安全度を評価する値を算出するための所定の計算式が予め記憶され、
前記制御部は、前記発報情報を送出した火災感知器の設置位置と前記避難経路との関係に基づいて前記所定の計算式を用いて各避難経路の評価値を前記避難経路ごとに計算し、前記表示部の前記表示画面に前記内部構造の情報に重畳させて前記複数の避難経路を、前記評価値に応じ区別可能に表示させることを特徴とする請求項1に記載の避難経路表示装置。
【請求項3】
前記所定の計算式は、前記発報情報を送出した火災感知器の設置位置と前記避難経路の近接点との距離をパラメータとし、前記距離が大きいほど大きな評価値を導出する式であることを特徴とする請求項2に記載の避難経路表示装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記評価値が大きい避難経路ほど視覚的に訴求力が高い態様で前記表示部の前記表示画面に表示させることを特徴とする請求項2または3に記載の避難経路表示装置。
【請求項5】
前記制御部は、
前記発報情報を送出した火災感知器の設置位置と前記避難経路の近接点との距離が所定以下の前記避難経路については、前記評価値にかかわらず前記表示部の前記表示画面に表示させないことを特徴とする請求項2から4のいずれか1項に記載の避難経路表示装置。
【請求項6】
前記避難経路表示装置は、音声を出力可能な音声出力部をさらに備え、
前記制御部は、前記評価値に応じた音声案内を前記音声出力部より出力させることを特徴とする請求項2から5のいずれか1項に記載の避難経路表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、避難経路表示装置に関し、特にビルや地下街等の施設内において火災が発生した場合に避難経路を表示して避難の支援を行う避難経路表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ビルや地下街等の施設で火災等の災害が発生して内部の人が避難する際に、火災が発生した位置等の詳しい情報が分からないまま避難を開始することが多い。そのため、施設内に複数の避難ルートがある場合に、どの避難経路を選択すべきか適切な判断ができないことがある。
【0003】
従来、予め設定された空間を複数のエリアに分割し、各エリアにはセンサ及び送信機を設置し、センサにより災害が発生したエリアを特定して、そのエリアを避けて避難口へ誘導するための避難誘導情報を作成し、その避難誘導情報をエリアに設置された送信機からそれぞれ出力し、携帯電話等で受信して避難経路が示された誘導図を表示させるようにした発明が提案されている(例えば特許文献1参照)。
また、屋内における避難誘導に関しては、携帯端末を用いて防災要員に自身の位置情報及び火災の位置情報、避難経路を伝達できるようにした防災支援システムの発明が提案されている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-8591号公報
【特許文献2】特開2015-153177号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されている避難誘導システムの発明においては、複数の避難経路を提示するようにしているものの、いずれの避難経路がより安全に避難口までたどり着けるかの判断は避難者に委ねられている。そのため、避難者は明確な根拠を持たずに避難経路を選択することになるため、不安を抱えつつ避難することを余儀なくされるとともに、非常事態であるため冷静な判断ができず誤って相対的にリスクの高い避難経路を選択してしまうおそれがあるという課題がある。
【0006】
また、特許文献2に記載されている防災支援システムの発明は、携帯端末の表示部に当該携帯端末の現在位置や避難経路を示した地図を表示させることができるが、地図の向きは携帯端末の向きと合っていない場合があり、表示部に表示された地図を見てもどちらの方向へ避難すべきか直感的に認識することができないことがある。また、このシステムの場合も、非常事態であるため避難者は冷静な判断ができず、誤って相対的にリスクの高い避難経路を選択してしまうおそれがあるという課題がある。
【0007】
本発明は上記のような課題に着目してなされたものでその目的とするところは、複数の避難経路の中からより安全性の高い避難経路を選択して避難するのを支援することができ、避難者が安心して避難できる避難経路表示装置を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、表示部に表示された避難経路情報を見てどちらの方向へ避難すべきか直感的に認識することができる避難経路表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、この発明は、
表示画面を有する表示部と、火災の発生を表す発報情報およびアドレス情報を含む複数の火災感知器および/または火災受信機からの感知器情報を受信可能な受信部と、受信した情報を記憶可能な記憶部と、演算を行う制御部と、を有し、通路の途中に配設された避難経路表示装置において、
前記記憶部には、前記避難経路表示装置が設置されている建物階の通路および避難口を含む内部構造の情報、当該建物階における前記複数の火災感知器の設置位置情報および当該避難経路表示装置から当該建物階の前記避難口までの避難経路が予め記憶され、
前記制御部は、前記受信部によって前記火災感知器からの前記発報情報を受信すると、当該発報情報を送出した火災感知器の設置位置と前記記憶されている避難経路との関係に基づいて複数の避難経路を選択して、前記表示部の前記表示画面に、前記選択された複数の避難経路を表示させる機能を有するように構成したものである。
【0009】
上記のような構成を有する避難経路表示装置によれば、発報情報を送出した火災感知器の設置位置と予め記憶されている避難経路との関係に基づいて複数の避難経路が選択され表示部の表示画面に、選択された前記複数の避難経路が表示されるため、避難者が複数の避難経路の中からより安全性の高い避難経路を選択して避難するのを支援することができる。
さらに、避難経路表示装置は建物の通路に設置されているため、マップの向きと実際のフロアの避難口の方向が一致するので、避難者は表示部に表示された避難経路情報を見てどちらの方向へ避難すべきか直感的に認識することができ、非常事態においても誤った避難経路を選択してしまうおそれがなく、より安全性の高い避難経路を選択して避難するのを支援することができる。
【0010】
ここで、望ましくは、前記記憶部には、各避難経路の安全度を評価する値を算出するための所定の計算式が予め記憶され、
前記制御部は、前記発報情報を送出した火災感知器の設置位置と前記避難経路との関係に基づいて前記所定の計算式を用いて各避難経路の評価値を前記避難経路ごとに計算し、前記表示部の前記表示画面に前記内部構造の情報に重畳させて前記複数の避難経路を、前記評価値に応じ区別可能に表示させるように構成する。
かかる構成によれば、避難経路の安全度を評価する値を算出するための所定の計算式に基づいて評価値を算出して、算出された評価値に応じて複数の避難経路を区別可能に表示するため、複数の避難経路が表示されたとしてもどの避難経路が比較的安全であるか認識でき、明確な根拠を持って選択することで安心して避難することができる。また、表示される避難経路に対する信頼性を高めることができる。
【0011】
また、望ましくは、前記所定の計算式は、前記発報情報を送出した火災感知器の設置位置と前記避難経路の近接点との距離をパラメータとし、前記距離が大きいほど大きな評価値を導出する式であるようにする。
かかる構成によれば、火元に近い箇所を通る避難経路とそうでない避難経路とを区別できるように表示されるため、表示を見て避難経路を選択した避難者は、安全に避難することができる。
【0012】
さらに、望ましくは、前記制御部は、前記評価値が大きい避難経路ほど視覚的に訴求力が高い態様で前記表示部の前記表示画面に表示させるように構成する。
かかる構成によれば、複数の避難経路が表示されたとしてもどの避難経路を選択すべきか容易に判断することができ、かつ安全に避難することができる。
【0013】
さらに、望ましくは、前記制御部は、前記発報情報を送出した火災感知器の設置位置と前記避難経路の近接点との距離が所定以下の前記避難経路については、前記評価値にかかわらず前記表示部の前記表示画面に表示させないように構成する。
かかる構成によれば、発報情報を送出した火災感知器と避難経路の近接点との距離が所定以下の避難経路は表示されないため、避難者が誤って火元に近い箇所を通る危険な経路を選択してしまうのを防止することができる。
【0014】
また、望ましくは、前記避難経路表示装置は音声を出力可能な音声出力部をさらに備え、
前記制御部は、前記評価値に応じた音声案内を前記音声出力部より出力させるように構成する。
かかる構成によれば、音声出力部により評価値に応じた音声案内が出力されるため、避難経路表示装置から離れた位置にいる避難者であっても避難方向を判断することが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る避難経路表示装置によれば、複数の避難経路の中からより安全性の高い避難経路を選択して避難するのを支援することができ、避難者が安心して避難することができる。また、表示部に表示された避難経路情報を見てどちらの方向へ避難すべきか直感的に認識することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の避難経路表示装置としての副受信機を用いた避難支援システムの一実施形態の構成を示すシステム構成図である。
図2】実施形態の避難経路表示装置の一構成例を示すブロック図である。
図3】(A)は避難経路表示装置の表示部に表示されるマップの一例を示す図、(B)は避難経路の一例を示す図である。
図4】(A)はマップ上における火災発生位置の例を示す図、(B)は避難経路の近接点までの距離を示す図である。
図5】(A)~(C)は避難経路表示装置の表示部に表示される推奨度に応じた避難経路の例を示す図である。
図6】建物内部の各部の距離や寸法の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、火災報知システムの副受信機を利用して本発明に係る避難経路表示装置を構成した場合の実施形態について説明する。図1は、避難経路表示装置としての副受信機を備えた火災報知システムの概略構成を示すブロック図である。
本実施形態の火災報知システムは、図1に示すように、ビル等の施設の所定エリア内の所定箇所に配設されている複数の火災感知器11と、火災感知器11からの火災検出信号を、感知器回線12を介して受信する火災受信機13と、伝送線14を介して火災受信機13から送信される情報信号に基づいて火災受信機13と同様な表示を行う避難経路表示装置としての副受信機15とを備えている。
【0018】
火災感知器11は、例えば熱、煙、炎などの火災に伴う異常現象の発生を検出すると、火災検出信号(発報情報)を、感知器回線12を介して火災受信機13へ送信する。なお、火災感知器11からの火災検出信号は中継器を介して火災受信機13へ送信されるように構成しても良い。中継器には、地区ベルや防排煙設備が接続される回線も接続される。
また、火災感知器11は、火災検出信号に自己の通信アドレスを付加するタイプの感知器が望ましい。火災受信機13は、自身の記憶装置に記憶されている情報(感知器のアドレスと設置位置との対応を示すリスト等)を参照して、火災検出信号に含まれている火災感知器の通信アドレスに基づいて火災の発生場所を特定する。
【0019】
火災受信機13は監視対象となる建築物の防災センターや管理室に設置され、各所に設置された火災感知器11の作動を集中監視し、作動時には火災受信機自身及び各地区のベル等の音響装置を鳴動させて火災警報出力を行う機能、地区ベル鳴動や排煙などの連動制御を行う機能、および火災の発生箇所を表示部に表示する機能を有する。
副受信機15は、火災受信機13と同様に火災の発生箇所を表示部に表示する機能及び火災警報音響出力機能を備えており、火災受信機13が設置された防災センターや管理室以外の場所においても火災監視状況を確認できるようにするために設置される。
【0020】
また、本実施形態の火災報知システムにおいては、副受信機15が配設されているエリアの火災感知器11の火災検出信号(発報情報)が信号線16を介して副受信機15へ伝送されるように構成されている。従って、副受信機15は、自身が配設されているエリア(フロア)内のどこで火災が発生しているか把握することができる。
なお、図1において、矢印は情報の伝送方向を表わしている。また、図1においては、各エリア(フロア)にそれぞれ副受信機15が配設されているが、副受信機15が配設されていないエリア(フロア)もある。
【0021】
図2には、副受信機15の構成例が示されている。
副受信機15は、図2に示すように、火災受信機(主受信機)13からの情報信号を受信する第1受信部21、火災感知器11からの検出信号または火災情報信号を受信する第2受信部22、CPU(中央処理ユニット)などからなる演算機能を備えた制御部23、CPU(23)が実行するプログラムやフロア図等のマップ情報、火災感知器の設置位置情報、避難経路の安全度(推奨度)を算出するための計算式、などを記憶する記憶部24、入力部25Aおよび表示部25Bを備えたタッチパネルディスプレイ25、音声を出力可能なスピーカ26、電源電圧を供給する電源部27などを備えている。火災感知器の設置位置情報は、火災感知器に付与された火災受信機との通信のためのアドレス情報に対応付けられて記憶部24に記憶されている。
【0022】
また、制御部23は、火災受信機(主受信機)13からの情報に基づいて表示部25Bに火災受信機の表示部に表示されている情報と同様な火災関連情報を表示させる火災情報処理部31、火災感知器11からの情報信号に基づいて火災発生箇所を判定する火災箇所判定部32、火災箇所判定部32により判定した位置情報および当該エリア(フロア)のマップ情報に基づいて各避難経路の安全度すなわち推奨度を算出する経路推奨度算出部33、算出された推奨度に応じた態様で避難経路を表示部25Bに表示させるマップ表示処理部34、入力部25Aより入力された避難経路を認識し記憶部24に記憶する避難経路設定部35、スピーカ26を駆動して音声を出力させる音声出力処理部36などを備えている。
【0023】
図3には、副受信機15が配設される1つのエリア(フロア)のレイアウト例が示されている。図3において、符号A1,A2,A3,A4が付されているのは廊下(通路)、符号E1,E2,E3,E4が付されているのは避難口である。図3(A)に示すように、感知器11はエリア(フロア)内に分散して配設され、副受信機15は、廊下(通路)A3の一方の壁面に配設されている。
上記のようなエリア(フロア)のレイアウトと自副受信機の設置位置、火災感知器の設置位置を示すマップ情報が、副受信機15の記憶部24に予め記憶される。本実施形態の副受信機15は、表示部25Bにマップと避難経路を表示する機能を備えているが、避難経路を表示する際には、感知器は表示されなくても良い。
【0024】
次に、本実施形態の副受信機15が備える避難経路の表示に関する機能について、図3図6を用いて説明する。先ず、推奨する避難経路の決定の仕方を説明する。なお、火災報知システムに複数の副受信機が配設される場合、副受信機ごとに記憶するマップが異なる。従って、避難経路も副受信機ごとに異なることになる。
そこで、本実施形態の副受信機においては、タッチパネルディスプレイ25の表示部25Bにマップを表示させ、表示されているマップ上において避難経路として設定したいルートを指でなぞることで避難経路を認識させて記憶部24に記憶させるルート設定モード(機能)を有するように構成されている。この機能により、例えば、図3のマップにおいては、図3(B)に示すように、R1,R2,R3,R4の4つの経路が設定される。なお、フロアの設計図面が事前に入手可能であるならば、工場出荷時にマップ上に避難経路を設定したものを記憶部24に記憶させておいてもよい。
【0025】
本実施形態における避難経路の決定は、第1に、火元から予め設定されている複数の避難経路の最短の位置(近接点)までの距離が長い経路ほど安全であると考え、第2に、避難経路の長さが短い経路ほど安全であると考える点に特徴がある。
また、複数の避難経路の中に見通しの悪いものがある場合や、途中に防火扉がある場合、特定の避難口に多くの避難者が殺到して混雑している場合など特殊な状況がある場合には、それらの条件を付加して決定する。
【0026】
例えば、図4(A)において、右上の感知器D1が火災を検知した場合、感知器D1から4つの経路R1,R2,R3,R4の最も近い位置までの距離(以下、近接点距離)l1,l2,l3,l4は、図4(B)から分かるように、l1>l2>l3>l4となる。また、経路の長さはR4>R3>R1>R2となるので、他の制約条件(見通しの良し悪し、防火扉)がなければ、経路R1とR2が比較的安全であり、経路R4は危険であると判断することとなる。
【0027】
また、途中に防火扉がある場合、防火扉で火災の延焼を抑えることができるエリアを通過する経路は、安全度を高く評価する。避難口の混雑度に基づく安全度の評価は、例えば避難口の近傍に設けられている監視カメラの映像を防災センターの係員が確認して火災受信機(主受信機)13から混雑度情報を入力して副受信機15へ送信し、副受信機15が受信した混雑度情報を加味して安全度を算出する方法が考えられる。副受信機15に、避難口の混雑度に関する情報を直接入力可能にする機能を持たせるようにしても良い。
【0028】
次に、上記のようにして決定した安全度に基づく表示部25Bへの避難経路の表示のさせ方について説明する。本実施形態における避難経路の表示は、避難方向を示す矢印で表わすとともに、安全度が高いほど明瞭になるようにして複数の避難経路を1つのマップと重ねて表示を行うものである。避難方向を示す矢印は、始点から終点の避難口へ向かって延びて行くような動画で表示するようにしても良い。また、表示部25Bへ避難経路を表示させるとともに、スピーカ26より、例えば「北側または東側避難口のうち、できるだけ北側の避難口へ向かってください」などのような音声ガイダンスを流すようにしてもよい。
【0029】
安全度が高いほど明瞭になる表示の具体例としては、図5の(A)に示すように安全度が高いほど避難方向を示す矢印の太さを太くして表示する方法、(B)に示すように避難方向を示す矢印を点滅させるとともに安全度が高いほど矢印の点滅周期を短くして表示する方法、(C)に示すように避難方向を示す矢印を点線で表示せるとともに安全度が低いほど単位長さ当りの線分の数を多くして表示する方法(線分の数が1の場合は実線であり最も安全度が高くなる)、あるいは上記方法を組み合わせて表示する方法、動画で表示する場合に安全度が高いほど変化速度を速くする(フレームレートを高くする)などが考えられる。
【0030】
さらに、避難方向を示す矢印の他の表示態様として、各矢印を色分けして表示するようにしてもよい。その場合、例えば交通信号機における点灯色に対応して、経路の安全度が高い場合には青色で、避難自体は可能ではあるが危険な面があり得る場合には赤色で、その中間なら黄色で表示することが考えられる。あるいは、差し迫った状況下において、避難者が表示画面を一瞥しただけで避難方向を判断できるように、視覚的に強い印象を与えられる赤色で安全度が高い矢印を表示してもよい。矢印が明瞭であれば、システムがその経路を選択することを推奨していることを意味していると直感的に認識することができるためである。さらに、色を利用した上記各表示態様と図5(A)~(C)の表示態様とを組み合わせて矢印を表示するようにしてもよい。
【0031】
次に、各避難経路の安全度すなわち推奨度の算出式の一例(数1)について説明する。なお、以下の説明では、各避難経路の識別記号をj、避難経路jの推奨度をIndex(j)と記す。下記の計算式により得られるIndex(j)の値が大きいほど安全度すなわち推奨度は高くなる。
【数1】
上記式において、W’ijは条件係数、Wijは重み係数、iはパラメータXの番号であり、例えばn=5の場合、X1は火元から各避難経路の近接点までの距離、X2は各避難経路の長さの逆数、X3は見通しの良し悪し、X4は防火扉の有無、X5は避難口の混雑度合いとする。
【0032】
X2として避難経路の長さの逆数をとっているのは、避難経路の長さが大きいほど危険度が増すので、安全度を小さく見積もるには逆数をとるのが有効であるためである。同様に、X5に関しても、避難口の混雑度合いが高いほど危険度が増すので、単位面積当たりの人数の逆数をとったものをパラメータとするのが良い。
重み係数Wijを掛けているのは、各パラメータのうち重要度の高いものほど算出値に大きな影響を及ぼすように重みづけをして、精度の高い安全度を算出できるようにするためである。どのパラメータの重要度を高くするかは、対象となる建物の構造、副受信機15の設置位置等の条件に依存するので、副受信機15ごとに調整して設定すると良い。
【0033】
条件係数W’ijとしては、例えば火元の階と同一または上の階か下の階かなどの条件がある。火災に伴い有毒ガスが発生することがあり、有毒ガスは上の階から下の階へ流れるため、火元の階と同一または上の階なら「1」とし、下の階なら「0」とする。ただし、これは地上階であることを想定したもので、地下階の場合には、火元と同じか上の階の場合にはすぐに出口に到達する方が望ましいこと、および火元階より下の階の場合は火元階を通って出口に到達する必要があることを考慮して0と1を上記と逆に定義しても良い。
なお、パラメータXは上記5種類に限定されるものではない。また、X1とX2には、距離の値をそのまま使用するのではなく、複数の経路のうち最大のものに対する比を用いるようにしても良い。
【0034】
さらに、上記計算式には、別のW’ij、Wij以外の係数やパラメータが含まれていても良い。例えば最初の火災発生を検知してからの経過時間あるいは火災を検知した感知器の数などが考えられる。
具体的には、時間的に変化する係数a(j,t)を設けて、火災発生当初はa(j,t)=1とし、例えば経路上にあり、最も避難口に近い熱or煙感知器が反応したとの信号を(主)受信機から受信するとその経路は望ましくなくなったとして、0に近い値に変更することが考えられる。また、経路上に多数の感知器がある場合には、反応した感知器の数が一定以上になると0に近い値としてもよい。さらに、反応した感知器の割合に応じ、割合が高くなるほど段階的にa(j,t)を1から0に近づけるようにしてもよい。
【0035】
次に、上記計算式を用いた具体的な推奨度Index(j)の算出例について説明する。
ここでは、一例として、図3(A)のマップにおける各部の距離や寸法が、図6に示すような値であり、副受信機15が設置されているフロアの感知器D1で火災が検知されたと仮定し、パラメータとしてX1,X2,X3を使用した場合を説明する。避難経路の識別記号jは、図4(B)の避難経路R1~R4の添字と同じ数字とする。
火元から各避難経路R1~R4の近接点までの距離に相当するX1の値は、避難経路R1に関しては火元から経路の終点(避難口E4)までの距離が100m-15m=85mで火元から経路の始点までの距離が√(45^2+65^2)=79mであるので、短い方の79mを採用する。また、避難経路R2は√(45^2+65^2)=79m、避難経路R3は10m+30m+5m=45m、避難経路R4は10mとなる。
【0036】
次に、各避難経路R1~R4の距離(長さ)の逆数であるX2の値については、避難経路R1は距離が30m+30m=60mであるので逆数は1/60、避難経路R2は距離が30mであるので逆数は1/30、避難経路R3は距離が70mであるので逆数は1/70、避難経路R4は距離が70m+30m=100mであるので逆数は1/100となる。
見通しの良し悪しを表わすX3に関しては、経路上に火元を見通せるポイントがある場合には「0」、火元を見通せるポイントがない場合には「1」を設定すると、避難経路R1は「1」、避難経路R2は「1」、避難経路R3は「0」、避難経路R4は「0」となる。また、副受信機の設置階は火元の階と同一であるので条件係数W’ijは「1」である。
【0037】
ここで、X1の最大値は79(m)であるのに対し、X2の最大値は1/30=0.033(1/m)であり、このままではIndex(j)の値に対する影響度に極端な差がある。この差を小さくするために、重み係数Wijを掛けるのであるが、重み係数Wijの設定は難しい。そこで、X1,X2に関しては、各経路のうち最大値のものとの比率に書き替える。
すると、X1の値は、避難経路R1とR2は79/79=1、避難経路R3は45/79=0.57、避難経路R4は10/79=0.13となる。また、X2の値は、避難経路R2の逆数1/30が最も大きいのでこれを「1」すると、避難経路R1は30/60=0.5、避難経路R3は30/70=0.43、避難経路R4は30/100=0.3となり、共に最大値は「1」であるので、Index(j)の値に対する影響度はほぼ同じになる。X1とX2のどちらか一方の影響度を少しだけ大きくしたい場合には、大きくしたい方の重み係数Wijを大きくすればよい。
【0038】
重み係数Wijを共に「1」とした場合、上記X1、X2、X3の値を前記[数1]の式に代入して推奨度Index(j)の値を算出すると、避難経路R1の推奨度(j=1)はIndex(1)=1.0+0.5+1=2.5、避難経路R2の推奨度(j=2)はIndex(2)=1.0+1.0+1=3.0、避難経路R3の推奨度(j=3)はIndex(3)=0.57+0.43+0=1.0、避難経路R4の推奨度(j=4)はIndex(4)=0.13+0.3+0=0.43が得られる。
上記算出値より、避難経路R2の推奨度が最も大きく、次に避難経路R1の推奨度、避難経路R3の推奨度、避難経路R4の推奨度の順となる。このうち火元から各避難経路R1~R4の近接点までの距離が最も短いすなわち最も危険な避難経路R4を表示しないとすると、図5(A)~(C)に示すような表示が行われることとなる。
【0039】
以上説明したように、上記実施形態によれば、副受信機15の表示部15Bに表示された避難経路を見た避難者は、自らの意思で複数の避難経路の中からより安全性の高い避難経路を選択して安心して避難することができる。また、副受信機15は通路脇に設置されているため、マップ上に表示された避難口と建物内の実際の避難口との位置関係を直感的に判断することができるので、避難する方向を正確かつ短時間に判断することができる。
【0040】
以上、本発明を実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、上記実施形態では、避難経路を表示する表示部を副受信機15に設けたものについて説明したが、通路の壁に設置されている消火栓扉や発信機と警報ランプとスピーカが1つの筐体に一体に収納された複合装置などの防災関連機器に表示部を設けたり、別途専用の表示装置を通路の壁に設置したりして避難経路を表示させるようにしても良い。
【0041】
また、上記実施形態では、副受信機15へ感知器11からの検知信号を直接入力しているが、副受信機15は火災受信機(主受信機)13から受信した発報情報と発報した感知器の位置情報に基づいて、上記のような避難経路の表示を行うように構成しても良い。さらに、前述の[数1]の計算式による推奨度の算出は、火災受信機13で行い、結果を副受信機15へ送信して表示部へ表示させるように構成しても良い。
【0042】
また、上記実施形態では、表示装置のみで避難経路を表示して避難支援をしているが、例えば副受信機15が配設されていない側の通路に、赤色と緑色のランプの組を複数設置して、副受信機15から信号を送って安全な方向にあるランプは緑色を点灯させ、危険な方向にあるランプは赤色に点灯させるようにしても良い。
さらに、避難口に設置されている誘導灯を明るさ調整可能に構成して、副受信機15から有線あるいは無線で信号を送って安全な避難口誘導灯は明るく点灯させ、危険な避難口誘導灯は暗く点灯もしくは消灯させるようにしても良い。このようにすることによって、副受信機15が配設されていない通路にいる避難者に対しても安全な方向を知らせることができる。
【符号の説明】
【0043】
11 火災感知器(感知器)
12 感知器回線
13 火災受信機
14 伝送線
15 副受信機
16 信号線
21 第1受信部
22 第2受信部
23 制御部
24 記憶部
25 タッチパネルディスプレイ
26 スピーカ(音声出力部)
27 電源部
図1
図2
図3
図4
図5
図6