(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022017865
(43)【公開日】2022-01-26
(54)【発明の名称】SARS-CoV-2の細胞傷害性T細胞エピトープペプチド及びその利用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/50 20060101AFI20220119BHJP
C07K 7/06 20060101ALI20220119BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20220119BHJP
C12N 5/078 20100101ALI20220119BHJP
C07K 14/705 20060101ALI20220119BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20220119BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20220119BHJP
A61K 9/127 20060101ALI20220119BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20220119BHJP
A61K 38/08 20190101ALI20220119BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20220119BHJP
A61K 35/15 20150101ALI20220119BHJP
【FI】
C12N15/50
C07K7/06 ZNA
C12N15/63 Z
C12N5/078
C07K14/705
A61P37/04
A61P31/14
A61K9/127
A61K31/7088
A61K38/08
A61K48/00
A61K35/15 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020120675
(22)【出願日】2020-07-14
(71)【出願人】
【識別番号】504013775
【氏名又は名称】学校法人 埼玉医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【弁理士】
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】松井 政則
(72)【発明者】
【氏名】高木 徹
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C084
4C086
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA94X
4B065AC20
4B065BA30
4B065BB19
4B065CA44
4B065CA45
4C076AA19
4C076BB01
4C076BB13
4C076BB15
4C076BB21
4C076BB24
4C076BB25
4C076BB27
4C076BB31
4C076BB40
4C076CC06
4C076CC35
4C076FF31
4C084AA02
4C084AA03
4C084AA07
4C084AA13
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA17
4C084BA23
4C084CA53
4C084MA24
4C084MA31
4C084MA52
4C084MA56
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4C084MA59
4C084MA63
4C084MA65
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZB091
4C084ZB092
4C084ZB331
4C084ZB332
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB09
4C086ZB33
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB64
4C087BB65
4C087NA14
4C087ZB09
4C087ZB33
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA15
4H045CA01
4H045DA86
4H045EA22
4H045EA29
4H045FA20
(57)【要約】 (修正有)
【課題】SARS-CoV-2の新規な細胞傷害性T細胞エピトープペプチド、前記ペプチドをコードする核酸分子、前記核酸分子を含むベクター、前記ペプチドを内包するペプチド内包リポソーム、前記ペプチドとHLA-A2分子との複合体を細胞表面に提示する抗原提示細胞の製造方法及び前記抗原提示細胞製造用剤、COVID-19の予防又は治療用医薬組成物、SARS-CoV-2特異的なHLA-A2拘束性細胞傷害性T細胞の誘導方法及び前記細胞傷害性T細胞誘導剤、並びに前記ペプチドとHLA-A2分子との複合体のテトラマーを提供する。
【解決手段】特定のアミノ酸配列からなり、ヒト白血球抗原-A2(HLA-A2)分子に結合でき、かつ細胞傷害性T細胞を誘導しさらに細胞傷害性T細胞に認識されるペプチドである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号2、3、4、5、9、13、16、20、35、52、53、58、63、64、67、70、71、及び72からなる群から選択されるいずれかの配列番号で表されるアミノ酸配列からなり、
ヒト白血球抗原-A2(HLA-A2)分子に結合でき、かつ細胞傷害性T細胞を誘導しさらに細胞傷害性T細胞に認識されることを特徴とするペプチド。
【請求項2】
請求項1に記載のペプチドをコードする塩基配列からなることを特徴とする核酸分子。
【請求項3】
請求項2に記載の核酸分子を含むことを特徴とするベクター。
【請求項4】
請求項1に記載のペプチドを内包することを特徴とするペプチド内包リポソーム。
【請求項5】
請求項1に記載のペプチドと、HLA-A2分子との複合体を細胞表面に提示する抗原提示細胞を製造するための抗原提示細胞製造用剤であって、
請求項1に記載のペプチド、請求項3に記載のベクター、及び請求項4に記載のペプチド内包リポソームからなる群から選択される少なくとも1つを含むことを特徴とする抗原提示細胞製造用剤。
【請求項6】
請求項1に記載のペプチドと、HLA-A2分子との複合体を細胞表面に提示する抗原提示細胞の製造方法であって、
HLA-A2分子を発現する細胞を、in vitroにおいて請求項5に記載の抗原提示細胞製造用剤と接触させることを含むことを特徴とする抗原提示細胞の製造方法。
【請求項7】
前記HLA-A2分子を発現する細胞が、自己由来である請求項6に記載の抗原提示細胞の製造方法。
【請求項8】
前記HLA-A2分子を発現する細胞が、同種由来である請求項6に記載の抗原提示細胞の製造方法。
【請求項9】
請求項1に記載のペプチド、請求項2に記載の核酸分子、請求項3に記載のベクター、請求項4に記載のペプチド内包リポソーム、及び請求項6から8のいずれかに記載の製造方法で製造された抗原提示細胞からなる群から選択される少なくとも1つを含むことを特徴とする新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の予防又は治療用医薬組成物。
【請求項10】
重症呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の感染を予防するためのワクチンである請求項9に記載の新型コロナウイルス感染症の予防又は治療用医薬組成物。
【請求項11】
更に、アジュバントを含む請求項10に記載の新型コロナウイルス感染症の予防又は治療用医薬組成物。
【請求項12】
請求項1に記載のペプチド、請求項4に記載のペプチド内包リポソーム、及び請求項6から8のいずれかに記載の製造方法で製造された抗原提示細胞からなる群から選択される少なくとも1つを含むことを特徴とするSARS-CoV-2特異的なHLA-A2拘束性細胞傷害性T細胞誘導剤。
【請求項13】
更に、アジュバントを含む請求項12に記載のSARS-CoV-2特異的なHLA-A2拘束性細胞傷害性T細胞誘導剤。
【請求項14】
HLA-A2陽性の新型コロナウイルス感染症患者より採取された末梢血単核球細胞を、in vitroにおいて請求項12から13のいずれかに記載のSARS-CoV-2特異的なHLA-A2拘束性細胞傷害性T細胞誘導剤と接触させることを含むことを特徴とするSARS-CoV-2特異的なHLA-A2拘束性細胞傷害性T細胞の誘導方法。
【請求項15】
請求項1に記載のペプチドとHLA-A2分子との複合体の四量体であることを特徴とするテトラマー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SARS-CoV-2の細胞傷害性T細胞エピトープペプチド、前記ペプチドをコードする核酸分子、前記核酸分子を含むベクター、前記ペプチドを内包するペプチド内包リポソーム、前記ペプチドとHLA-A2分子との複合体を細胞表面に提示する抗原提示細胞の製造方法及び前記抗原提示細胞製造用剤、新型コロナウイルス感染症の予防又は治療用医薬組成物、SARS-CoV-2特異的なHLA-A2拘束性細胞傷害性T細胞の誘導方法及び前記細胞傷害性T細胞誘導剤、並びに前記ペプチドとHLA-A2分子との複合体のテトラマーに関する。
【背景技術】
【0002】
新型コロナウイルス感染症(Novel Coronavirus disease 2019;COVID-19)は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(severe acute respiratory syndrome coronavirus 2;SARS-CoV-2)を起因ウイルスとする感染症である。2019年11月22日に、中華人民共和国湖北省武漢市で初めて検出された新興感染症であり、以降世界各地で感染が拡大している。
【0003】
これまでに、COVID-19の患者の免疫反応を調べた結果が報告されている(非特許文献1参照)。前記報告では、ウイルスに対する抗体(IgG抗体、IgM抗体)は日が経過するにつれて増えていること、前記抗体を産生するB細胞はd7、d8、d9と日が経つにつれて増え、d20で減っているとされている。また、T細胞についても調べられており、CD4陽性T細胞もCD8陽性T細胞も日が経つにつれて増え、症状が改善されると減っている。前記報告によれば、インフルエンザの場合と同様に、B細胞とCD4陽性T細胞、CD8陽性T細胞が上手く働くことで、ウイルスを駆逐したとされている。
【0004】
現在、世界中で、COVID-19の起因ウイルスであるSARS-CoV-2に対するワクチンの開発が盛んに行われている。SARS-CoV-2は、2002年に発生したSARSの起因ウイルスSARS-CoV-1に酷似し、ウイルス表面にはスパイク領域がある。このスパイク領域にウイルスレセプターに結合する部分があることから、このスパイク部分に対する抗体を誘導する、抗体誘導型ワクチンの開発が進められている(非特許文献2参照)。
【0005】
一方で、抗体誘導型ワクチンは、近縁のSARS-CoV-1に対して十分な効果を示せなかった。また、2002年のSARSでは、抗体の誘導による病状悪化(抗体依存性感染増強)がみられた。さらに、SARSの回復者では、抗ウイルス抗体及びメモリーB細胞は1~2年で消失したが、メモリーT細胞は11年以上経っても存在した。
【0006】
また、健常人、軽症者(Non-ICU)、症状が重い人(ICUに入った人)のT細胞について調べた事例についても報告されている(非特許文献3参照)。この報告では、症状が重い人では、CD4陽性T細胞やCD8陽性T細胞が減っていることが示されており、T細胞が病気の回復に何らかの重要な役割を果たしていると考えられる。
【0007】
したがって、抗体誘導型ワクチンに加えて、ウイルス感染細胞を排除する細胞傷害性T細胞(以下、「CTL」と称することがある)誘導型ワクチンを開発することがSARS-CoV-2の根絶に有用であると考えられるが、SARS-CoV-2に対するCTLエピトープは未だ同定されていない。COVID-19の感染拡大は収束の気配すらみえておらず、また今後流行を繰り返す可能性が高く、CTL誘導型ワクチンの速やかな開発が強く求められているのが現状である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Irani Thevarajan et al., Breadth of Concomitant Immune Responses Prior to Patient Recovery: A Case Report of Non-Severe COVID-19, Nat Med. 2020 Apr;26(4):453-455(Published online: 16 March 2020)
【非特許文献2】Fatima Amanat et al., SARS-CoV-2 Vaccines: Status Report, Immunity. 2020 Apr 14; 52(4): 583-589
【非特許文献3】Bo Diao et al., Reduction and Functional Exhaustion of T Cells in Patients with Coronavirus Disease 2019 (COVID-19), medRxiv Feb. 2020
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、SARS-CoV-2の新規な細胞傷害性T細胞エピトープペプチド、前記ペプチドをコードする核酸分子、前記核酸分子を含むベクター、前記ペプチドを内包するペプチド内包リポソーム、前記ペプチドとHLA-A2分子との複合体を細胞表面に提示する抗原提示細胞の製造方法及び前記抗原提示細胞製造用剤、COVID-19の予防又は治療用医薬組成物、SARS-CoV-2特異的なHLA-A2拘束性細胞傷害性T細胞の誘導方法及び前記細胞傷害性T細胞誘導剤、並びに前記ペプチドとHLA-A2分子との複合体のテトラマーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 配列番号2、3、4、5、9、13、16、20、35、52、53、58、63、64、67、70、71、及び72からなる群から選択されるいずれかの配列番号で表されるアミノ酸配列からなり、
ヒト白血球抗原-A2(HLA-A2)分子に結合でき、かつ細胞傷害性T細胞を誘導しさらに細胞傷害性T細胞に認識されることを特徴とするペプチドである。
<2> 前記<1>に記載のペプチドをコードする塩基配列からなることを特徴とする核酸分子である。
<3> 前記<2>に記載の核酸分子を含むことを特徴とするベクターである。
<4> 前記<1>に記載のペプチドを内包することを特徴とするペプチド内包リポソームである。
<5> 前記<1>に記載のペプチドと、HLA-A2分子との複合体を細胞表面に提示する抗原提示細胞を製造するための抗原提示細胞製造用剤であって、
前記<1>に記載のペプチド、前記<3>に記載のベクター、及び前記<4>に記載のペプチド内包リポソームからなる群から選択される少なくとも1つを含むことを特徴とする抗原提示細胞製造用剤である。
<6> 前記<1>に記載のペプチドと、HLA-A2分子との複合体を細胞表面に提示する抗原提示細胞の製造方法であって、
HLA-A2分子を発現する細胞を、in vitroにおいて前記<5>に記載の抗原提示細胞製造用剤と接触させることを含むことを特徴とする抗原提示細胞の製造方法である。
<7> 前記<1>に記載のペプチド、前記<2>に記載の核酸分子、前記<3>に記載のベクター、前記<4>に記載のペプチド内包リポソーム、及び前記<6>に記載の製造方法で製造された抗原提示細胞からなる群から選択される少なくとも1つを含むことを特徴とするCOVID-19の予防又は治療用医薬組成物である。
<8> 前記<1>に記載のペプチド、前記<4>に記載のペプチド内包リポソーム、及び前記<6>に記載の製造方法で製造された抗原提示細胞からなる群から選択される少なくとも1つを含むことを特徴とするSARS-CoV-2特異的なHLA-A2拘束性細胞傷害性T細胞誘導剤である。
<9> HLA-A2陽性のCOVID-19患者より採取された末梢血単核球細胞を、in vitroにおいて前記<8>に記載のSARS-CoV-2特異的なHLA-A2拘束性細胞傷害性T細胞誘導剤と接触させることを含むことを特徴とするSARS-CoV-2特異的なHLA-A2拘束性細胞傷害性T細胞の誘導方法である。
<10> 前記<1>に記載のペプチドとHLA-A2分子との複合体の四量体であることを特徴とするテトラマーである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、SARS-CoV-2の新規な細胞傷害性T細胞エピトープペプチド、前記ペプチドをコードする核酸分子、前記核酸分子を含むベクター、前記ペプチドを内包するペプチド内包リポソーム、前記ペプチドとHLA-A2分子との複合体を細胞表面に提示する抗原提示細胞の製造方法及び前記抗原提示細胞製造用剤、COVID-19の予防又は治療用医薬組成物、SARS-CoV-2特異的なHLA-A2拘束性細胞傷害性T細胞の誘導方法及び前記細胞傷害性T細胞誘導剤、並びに前記ペプチドとHLA-A2分子との複合体のテトラマーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、試験例5の細胞内サイトカイン染色において、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの有無で抗原刺激した場合の結果を示す図である(左:ペプチドなし、右:ペプチドあり)。
【
図2】
図2は、試験例5の細胞内サイトカイン染色において、配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの有無で抗原刺激した場合の結果を示す図である(左:ペプチドなし、右:ペプチドあり)。
【
図3】
図3は、試験例5の細胞内サイトカイン染色において、配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの有無で抗原刺激した場合の結果を示す図である(左:ペプチドなし、右:ペプチドあり)。
【
図4】
図4は、試験例5の細胞内サイトカイン染色において、配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの有無で抗原刺激した場合の結果を示す図である(左:ペプチドなし、右:ペプチドあり)。
【
図5】
図5は、試験例5の細胞内サイトカイン染色において、配列番号9で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの有無で抗原刺激した場合の結果を示す図である(左:ペプチドなし、右:ペプチドあり)。
【
図6】
図6は、試験例5の細胞内サイトカイン染色において、配列番号13で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの有無で抗原刺激した場合の結果を示す図である(左:ペプチドなし、右:ペプチドあり)。
【
図7】
図7は、試験例5の細胞内サイトカイン染色において、配列番号16で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの有無で抗原刺激した場合の結果を示す図である(左:ペプチドなし、右:ペプチドあり)。
【
図8】
図8は、試験例5の細胞内サイトカイン染色において、配列番号35で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの有無で抗原刺激した場合の結果を示す図である(左:ペプチドなし、右:ペプチドあり)。
【
図9】
図9は、試験例5の細胞内サイトカイン染色において、配列番号52で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの有無で抗原刺激した場合の結果を示す図である(左:ペプチドなし、右:ペプチドあり)。
【
図10】
図10は、試験例5の細胞内サイトカイン染色において、配列番号53で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの有無で抗原刺激した場合の結果を示す図である(左:ペプチドなし、右:ペプチドあり)。
【
図11】
図11は、試験例5の細胞内サイトカイン染色において、配列番号58で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの有無で抗原刺激した場合の結果を示す図である(左:ペプチドなし、右:ペプチドあり)。
【
図12】
図12は、試験例5の細胞内サイトカイン染色において、配列番号63で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの有無で抗原刺激した場合の結果を示す図である(左:ペプチドなし、右:ペプチドあり)。
【
図13】
図13は、試験例5の細胞内サイトカイン染色において、配列番号64で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの有無で抗原刺激した場合の結果を示す図である(左:ペプチドなし、右:ペプチドあり)。
【
図14】
図14は、試験例5の細胞内サイトカイン染色において、配列番号67で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの有無で抗原刺激した場合の結果を示す図である(左:ペプチドなし、右:ペプチドあり)。
【
図15】
図15は、試験例5の細胞内サイトカイン染色において、配列番号70で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの有無で抗原刺激した場合の結果を示す図である(左:ペプチドなし、右:ペプチドあり)。
【
図16】
図16は、試験例5の細胞内サイトカイン染色において、配列番号71で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの有無で抗原刺激した場合の結果を示す図である(左:ペプチドなし、右:ペプチドあり)。
【
図17】
図17は、試験例5の細胞内サイトカイン染色において、配列番号72で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの有無で抗原刺激した場合の結果を示す図である(左:ペプチドなし、右:ペプチドあり)。
【
図18】
図18は、試験例5の細胞内サイトカイン染色において、配列番号20で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの有無で抗原刺激した場合の結果を示す図である(左:ペプチドなし、右:ペプチドあり)。
【
図19】
図19は、試験例6の細胞内サイトカイン染色の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(ペプチド)
本発明のペプチドは、下記の配列番号2、3、4、5、9、13、16、20、35、52、53、58、63、64、67、70、71、及び72からなる群から選択されるいずれかの配列番号で表されるアミノ酸配列からなり、HLA-A2分子に結合でき、かつ細胞傷害性T細胞を誘導しさらに細胞傷害性T細胞に認識されるペプチドである。
1) VLSEARQHL(配列番号2:S2pp1a-38)
2) GLVEVEKGV(配列番号3:S2pp1a-52)
3) VMVELVAEL(配列番号4:S2pp1a-84)
4) TLGVLVPHV(配列番号5:S2pp1a-103)
5) GLNDNLLEI(配列番号9:S2pp1a-445)
6) VMAYITGGV(配列番号13:S2pp1a-597)
7) FLRDGWEIV(配列番号16:S2pp1a-641)
8) KLWAQCVQL(配列番号20:S2pp1a-3886)
9) YLATALLTL(配列番号35:S2pp1a-1675)
10) AIFYLITPV(配列番号52:S2pp1a-2785)
11) FLPRVFSAV(配列番号53:S2pp1a-2884)
12) LLFLMSFTV(配列番号58:S2pp1a-3083)
13) FLNGSCGSV(配列番号63:S2pp1a-3403)
14) VLAWLYAAV(配列番号64:S2pp1a-3467)
15) LLLTILTSL(配列番号67:S2pp1a-3583)
16) RIMTWLDMV(配列番号70:S2pp1a-3662)
17) TLMNVLTLV(配列番号71:S2pp1a-3710)
18) SMWALIISV(配列番号72:S2pp1a-3732)
前記ペプチドの中でも、前記配列番号2、4、16、35、53、64、67、70、71、及び72からなる群から選択されるいずれかの配列番号で表されるアミノ酸配列からなるペプチドが好ましく、前記配列番号2、4、16、及び72からなる群から選択されるいずれかの配列番号で表されるアミノ酸配列からなるペプチドがより好ましい。
【0014】
本発明において、「ペプチドがHLA-A2分子に結合できる」とは、ペプチドがHLA-A2分子と複合体を形成し得ることをいう。
【0015】
本発明において、「細胞傷害性T細胞を誘導する」とは、ペプチドが特異的なCTLを生体内で誘導することができることをいい、「細胞傷害性T細胞に認識される」とは、ペプチドが特異的なCTLに認識される、即ち、ペプチド・HLA-A2分子複合体を細胞表面に提示する抗原提示細胞又は標的細胞をペプチド特異的CTLが認識して活性化されることができることをいう。
【0016】
前記ペプチドは、SARS-CoV-2のORF1aポリプロテイン領域由来のCTLエピトープである。前記ペプチドは、HLA-A2拘束性CTLエピトープであり、より具体的には、HLA-A*02:01拘束性CTLエピトープである。
【0017】
前記ペプチドは、CTLエピトープとしての機能を損なわれない限り、未変性、融合体、グリコシル化、非グリコシル化などの様々な形態で用いることができる。また、アミド化、エステル化、アルデヒド化等のC末端修飾、アセチル化、ビオチン化、蛍光標識等のN末端修飾、リン酸化、硫酸化、ビオチン化等の官能基の化学修飾が施されていてもよい。
【0018】
前記ペプチドは、細胞内でプロテアソームなどの作用により切断されて生じるように設計されたものであってもよい。
また、前記ペプチドは、細胞内でMHC上に提示される際に、MHCの個人差(多型性)による提示抗原の選別を克服できるような残基を付加配列として有していてもよい。
【0019】
前記ペプチドの製造方法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができ、例えば、化学合成により製造する方法、生合成により製造する方法などが挙げられる。
【0020】
前記ペプチドは、後述する抗原提示細胞製造用剤、COVID-19の予防又は治療用医薬組成物、SARS-CoV-2特異的なHLA-A2拘束性細胞傷害性T細胞誘導剤、テトラマーなどに好適に用いることができる。
【0021】
(核酸分子)
本発明の核酸分子としては、本発明のペプチドをコードする塩基配列からなるものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。なお、前記核酸分子は、必要に応じて本発明のペプチドをコードする塩基配列以外の塩基配列を含んでもよい。
【0022】
前記核酸の種類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、DNA、RNAなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0023】
前記核酸分子の製造方法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができる。
【0024】
前記核酸分子は、後述するCOVID-19の予防又は治療用医薬組成物などに好適に用いることができる。
【0025】
(ベクター)
本発明のベクターは、本発明の核酸分子を少なくとも含み、必要に応じて更にその他の構成を含む。
【0026】
前記ベクターの種類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、プラスミド、ウイルスベクターなどが挙げられる。
前記ウイルスベクターの具体例としては、アデノウイルスベクター、アデノ関連ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクターなどが挙げられる。
【0027】
前記ベクターの製造方法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択して調製することができる。
【0028】
前記ベクターは、後述する抗原提示細胞製造用剤、COVID-19の予防又は治療用医薬組成物などに好適に用いることができる。
【0029】
(ペプチド内包リポソーム)
本発明のペプチド内包リポソームは、本発明のペプチドを内包し、必要に応じて更にその他の構成を含む。
【0030】
<ペプチド>
前記ペプチド内包リポソームにおけるペプチドは、上記した本発明のペプチドである。前記ペプチドは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0031】
<リポソーム>
前記リポソームとは、閉鎖空間を有するリン脂質二重膜のことをいう。前記リポソームを構成するリン脂質膜は、両親媒性界面活性剤であるリン脂質が、極性基を水相側に向けて界面を形成し、疎水基が界面の反対側に向く構造を有する。
【0032】
前記リポソームにおけるリン脂質としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、リポソームに用いられる公知のリン脂質を適宜選択することができる。前記リン脂質は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0033】
前記リポソームの製造方法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができる。
【0034】
<その他の成分>
前記ペプチド内包リポソームにおけるその他の成分としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、リポソームの安定化剤などが挙げられる。
前記リポソームの安定化剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ステロール類、トコフェロール類などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記ステロール類の具体例としては、コレステロール、シトステロール、カンペステロール、スチグマステロール、ブラシカステロールなどが挙げられる。これらの中でも、入手性などの点で、コレステロールが好ましい。
前記トコフェロール類の具体例としては、α-トコフェロールなどが挙げられる。これらの中でも、入手性などの点で、α-トコフェロールが好ましい。
【0035】
<内包>
前記ペプチド内包リポソームは、前記ペプチドが前記リポソームに内包されている。本発明において、「ペプチドがリポソームに内包されている」とは、ペプチドが、リン脂質二重膜の閉鎖空間内に存在している状態のことをいう。
【0036】
前記ペプチドをリポソームに内包する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて公知の方法を適宜選択することができ、例えば、市販のキットを用いる方法などが挙げられる。
前記市販のキットの具体例としては、例えば、リポカプセレーター(Lipocapsulater)FD-S PE、FD-S MA、FD-S PL、FD-U PE、FD-U PL(株式会社ヒュギエイアバイオサイエンス)などが挙げられる。前記製造方法によれば、溶液状態のペプチドをリポソームに内包させることができる。
【0037】
前記ペプチド内包リポソームの形態、粒径などとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0038】
前記ペプチド内包リポソームは、後述する抗原提示細胞製造用剤、COVID-19の予防又は治療用医薬組成物、SARS-CoV-2特異的なHLA-A2拘束性細胞傷害性T細胞誘導剤などに好適に用いることができる。
【0039】
(抗原提示細胞製造用剤)
本発明の抗原提示細胞製造用剤は、本発明のペプチドと、HLA-A2分子との複合体を細胞表面に提示する抗原提示細胞を製造するための抗原提示細胞製造用剤であって、本発明のペプチド、本発明のベクター、及び本発明のペプチド内包リポソームからなる群から選択される少なくとも1つを含み、必要に応じて更にその他の成分を含む。
【0040】
<ペプチド、ベクター、及びペプチド内包リポソームからなる群から選択される少なくとも1つ>
前記ペプチド、前記ベクター、及び前記ペプチド内包リポソームは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。また、前記ペプチド、前記ベクター、及び前記ペプチド内包リポソームのそれぞれについても、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記抗原提示細胞製造用剤における前記ペプチド、前記ベクター、及び前記ペプチド内包リポソームの合計含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。前記抗原提示細胞製造用剤は、前記ペプチド、前記ベクター、及び前記ペプチド内包リポソームのいずれかのみからなるものであってもよい。
【0041】
<その他の成分>
前記抗原提示細胞製造用剤におけるその他の成分としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、後述するCOVID-19の予防又は治療用医薬組成物のその他の成分の項目に記載したものと同様のものが挙げられる。前記その他の成分は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記抗原提示細胞製造用剤における前記その他の成分の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0042】
前記抗原提示細胞製造用剤は、後述する抗原提示細胞の製造方法に好適に用いることができる。
【0043】
前記抗原提示細胞製造用剤は、含まれる成分をすべて含む組成物の態様であってもよいし、含まれる成分を1つ又は2つ以上に分けて収容したキットの態様であってもよい。
【0044】
(抗原提示細胞の製造方法)
本発明の抗原提示細胞の製造方法は、本発明のペプチドと、HLA-A2分子との複合体を細胞表面に提示する抗原提示細胞の製造方法であって、接触工程を少なくとも含み、必要に応じて更にその他の工程を含む。
【0045】
前記接触工程は、HLA-A2分子を発現する細胞を、in vitroにおいて本発明の抗原提示細胞製造用剤と接触させる工程である。
前記接触工程により、前記抗原提示細胞製造用剤に含まれる前記ペプチド、前記ベクター、及び前記ペプチド内包リポソームからなる群から選択される少なくとも1つが前記細胞に導入される。そして、前記ペプチドと、HLA-A2分子との複合体を細胞表面に提示する抗原提示細胞を製造することができる。前記抗原提示細胞は、SARS-CoV-2特異的なHLA-A2拘束性細胞傷害性T細胞を誘導し得る。
【0046】
前記抗原提示細胞製造用剤を前記HLA-A2分子を発現する細胞と接触させる方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記細胞を前記抗原提示細胞製造用剤と共に培養する方法、前記細胞に前記抗原提示細胞製造用剤を注入する方法などが挙げられる。
【0047】
前記HLA-A2分子を発現する細胞としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、T細胞、マクロファージ、B細胞、樹状細胞などが挙げられる。
前記HLA-A2分子を発現する細胞の由来としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、自己由来、同種由来であることが、好ましい。
前記HLA-A2分子を発現する細胞の調製方法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができる。
【0048】
<その他の工程>
前記抗原提示細胞の製造方法における前記その他の工程としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0049】
前記抗原提示細胞の製造方法で得られた抗原提示細胞は、後述するCOVID-19の予防又は治療用医薬組成物、SARS-CoV-2特異的なHLA-A2拘束性細胞傷害性T細胞誘導剤などに好適に用いることができる。また、前記HLA-A2分子を発現する細胞を採取した個体の体内に戻し、体内でのSARS-CoV-2特異的なHLA-A2拘束性細胞傷害性T細胞の誘導を促進するためにも好適に用いることができる。
【0050】
(COVID-19の予防又は治療用医薬組成物)
本発明のCOVID-19の予防又は治療用医薬組成物は、本発明のペプチド、本発明の核酸分子、本発明のベクター、本発明のペプチド内包リポソーム、及び本発明の抗原提示細胞の製造方法で製造された抗原提示細胞からなる群から選択される少なくとも1つを含み、必要に応じて更にその他の成分を含む。
本発明において、予防とはSARS-CoV-2の感染や増殖を抑えたり、COVID-19の発症を抑えたりすることをいい、治療とは発症したCOVID-19の症状を低減したり、感染したSARS-CoV-2の増殖を抑えたりすることをいう。
【0051】
<ペプチド、核酸分子、ベクター、ペプチド内包リポソーム、及び抗原提示細胞の製造方法で製造された抗原提示細胞からなる群から選択される少なくとも1つ>
前記ペプチド、前記核酸分子、前記ベクター、前記ペプチド内包リポソーム、及び前記抗原提示細胞は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。また、前記ペプチド、前記核酸分子、前記ベクター、前記ペプチド内包リポソーム、及び前記抗原提示細胞のそれぞれについても、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記COVID-19の予防又は治療用医薬組成物における前記ペプチド、前記核酸分子、前記ベクター、前記ペプチド内包リポソーム、及び前記抗原提示細胞の合計含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。前記COVID-19の予防又は治療用医薬組成物は、前前記ペプチド、前記核酸分子、前記ベクター、前記ペプチド内包リポソーム、及び前記抗原提示細胞のいずれかのみからなるものであってもよい。
【0052】
<その他の成分>
前記COVID-19の予防又は治療用医薬組成物におけるその他の成分としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アジュバント、薬理学的に許容され得る担体、希釈剤、賦形剤などが挙げられる。前記その他の成分は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記COVID-19の予防又は治療用医薬組成物における前記その他の成分の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0053】
前記COVID-19の予防又は治療用医薬組成物は、SARS-CoV-2の感染を予防するためのワクチンとして使用することが好ましい。前記新型コロナウイルス感染症の予防又は治療用医薬組成物は、ワクチンとして使用する場合、更にアジュバントを含むことが好ましい。
【0054】
前記アジュバントとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水酸化アルミニウムゲル、完全フロイントアジュバント、不完全フロイントアジュバント、百日咳菌アジュバント、ポリ(I,C)、CpG-DNAなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。前記アジュバントの中でも、CpG-DNAが好ましい。前記CpG-DNAは、細菌の非メチル化CpGモチーフを含むDNAであり、特定の受容体(Toll-like receptor 9)のリガンドとして働くことが知られている(Biochim. Biophys. Acta 1489, 107-116 (1999)、 Curr. Opin. Microbiol. 6, 472-477 (2003)参照)。
【0055】
前記COVID-19の予防又は治療用医薬組成物における前記アジュバントの含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0056】
前記COVID-19の予防又は治療用医薬組成物は、他の成分を有効成分とする医薬組成物と併せて使用されてもよい。
また、前記COVID-19の予防又は治療用医薬組成物は、他の成分を有効成分とする医薬中に、配合された状態で使用されてもよい。
【0057】
前記COVID-19の予防又は治療用医薬組成物の剤形としては、特に制限はなく、公知の剤形を適宜選択することができ、経口又は非経口(例えば、血管内、皮下など)投与に適する剤形とすることができる。前記剤形のCOVID-19の予防又は治療用医薬組成物は、常法に従い製造することができる。
【0058】
前記COVID-19の予防又は治療用医薬組成物の投与方法、投与量、投与時期、投与間隔、及び投与対象としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0059】
前記COVID-19の予防又は治療用医薬組成物は、免疫応答が効果的に成立するように、従来からワクチン投与に用いられることが知られているアジュバントとともに投与することが好ましく、投与方法としては、例えば、皮内投与、皮下投与などが挙げられる。
また、前記COVID-19の予防又は治療用医薬組成物は、腹腔内注射、静脈内注射、筋肉内注射等の非経口的注射や、経口、経鼻、肺等の粘膜投与、眼を通じた投与、経皮投与、坐剤などで投与することもできる。
【0060】
前記投与量、投与時期、及び投与間隔としては、特に制限はなく、投与対象の個体の疾患の状態、年齢、体重、体質、他の成分を有効成分とする医薬組成物の投与の有無などを考慮して適宜選択することができ、例えば、投与1回あたり、前記ペプチドの量として、0.01μg~1mgが好ましく、0.1μg~500μgがより好ましく、1.0μg~100μgが特に好ましく、これを数日間~数か月間に1回又は複数回投与することが好ましい。
例えば、初期免疫では成人患者に対して、ペプチドの量として1.0μg~500μgを投与し、患者の血液におけるCTL活性の測定による患者の応答及び状態に応じて、数週間から数か月間にわたるブースティング療法に従う1.0μg~100μgのペプチドのブースティング投与がそれに続く。
【0061】
また、前記抗原提示細胞の投与細胞数としても、投与対象の個体の疾患の状態、年齢、体重、体質、他の成分を有効成分とする医薬組成物の投与の有無などを考慮して適宜選択することができるが、106個~109個が好ましく、107個~108個が好ましい。
【0062】
前記投与対象としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ヒト、ヒト以外の動物などが挙げられる。前記投与対象の中でも、HLA-A2を発現するヒトが好ましく、HLA-A*02:01を発現するヒトがより好ましい。
【0063】
(SARS-CoV-2特異的なHLA-A2拘束性細胞傷害性T細胞誘導剤)
本発明のSARS-CoV-2特異的なHLA-A2拘束性細胞傷害性T細胞誘導剤(以下、「SARS-CoV-2特異的なHLA-A2拘束性細胞傷害性T細胞活性化剤」と称することもある)は、本発明のペプチド、本発明のペプチド内包リポソーム、及び本発明の抗原提示細胞の製造方法で製造された抗原提示細胞からなる群から選択される少なくとも1つを含み、必要に応じて更にその他の成分を含む。
【0064】
<ペプチド、ペプチド内包リポソーム、及び抗原提示細胞からなる群から選択される少なくとも1つ>
前記ペプチド、前記ペプチド内包リポソーム、及び前記抗原提示細胞は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。また、前記ペプチド、前記ペプチド内包リポソーム、及び前記抗原提示細胞のそれぞれについても、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記SARS-CoV-2特異的なHLA-A2拘束性細胞傷害性T細胞誘導剤における前記ペプチド、前記ペプチド内包リポソーム、及び前記抗原提示細胞の合計含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。前記SARS-CoV-2特異的なHLA-A2拘束性細胞傷害性T細胞誘導剤は、前記ペプチド、前記ペプチド内包リポソーム、及び前記抗原提示細胞のいずれかのみからなるものであってもよい。
【0065】
<その他の成分>
前記SARS-CoV-2特異的なHLA-A2拘束性細胞傷害性T細胞誘導剤におけるその他の成分としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、上述したCOVID-19の予防又は治療用医薬組成物のその他の成分の項目に記載したものと同様のものが挙げられる。前記その他の成分は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記SARS-CoV-2特異的なHLA-A2拘束性細胞傷害性T細胞誘導剤における前記その他の成分の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0066】
前記SARS-CoV-2特異的なHLA-A2拘束性細胞傷害性T細胞誘導剤は、更に、アジュバントを含むことが好ましい。
【0067】
前記SARS-CoV-2特異的なHLA-A2拘束性細胞傷害性T細胞誘導剤は、後述するSARS-CoV-2特異的なHLA-A2拘束性細胞傷害性T細胞の誘導方法に好適に用いることができる。
【0068】
前記SARS-CoV-2特異的なHLA-A2拘束性細胞傷害性T細胞誘導剤は、含まれる成分をすべて含む組成物の態様であってもよいし、含まれる成分を1つ又は2つ以上に分けて収容したキットの態様であってもよい。
【0069】
(SARS-CoV-2特異的なHLA-A2拘束性細胞傷害性T細胞の誘導方法)
本発明のSARS-CoV-2特異的なHLA-A2拘束性細胞傷害性T細胞の誘導方法は、接触工程を少なくとも含み、必要に応じて更にその他の工程を含む。
【0070】
<接触工程>
前記接触工程は、HLA-A2陽性のCOVID-19患者より採取された末梢血単核球細胞を、in vitroにおいて本発明のSARS-CoV-2特異的なHLA-A2拘束性細胞傷害性T細胞誘導剤と接触させる工程である。
前記接触工程により、SARS-CoV-2特異的なHLA-A2拘束性細胞傷害性T細胞を誘導することができる。
【0071】
前記SARS-CoV-2特異的なHLA-A2拘束性細胞傷害性T細胞誘導剤を前記HLA-A2陽性のCOVID-19患者より採取された末梢血単核球細胞と接触させる方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記細胞を前記SARS-CoV-2特異的なHLA-A2拘束性細胞傷害性T細胞誘導剤の存在下で培養する方法などが挙げられる。
【0072】
<その他の工程>
前記SARS-CoV-2特異的なHLA-A2拘束性細胞傷害性T細胞の誘導方法における前記その他の工程としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0073】
前記SARS-CoV-2特異的なHLA-A2拘束性細胞傷害性T細胞の誘導方法で得られたSARS-CoV-2特異的なHLA-A2拘束性細胞傷害性T細胞は、前記末梢血単核細胞を採取した個体の体内に戻して、SARS-CoV-2に感染した細胞を傷害する方法に好適に用いることができる。
【0074】
(テトラマー)
本発明のテトラマーは、本発明のペプチドとHLA-A2分子との複合体の四量体であり、ビオチン、アビジンなど必要に応じて更にその他の構成を含む。
【0075】
前記テトラマーの製造方法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができ、例えば、組換えタンパク質として調製したHLA-A2分子の重鎖とβ2-マイクログロブリン(β2m)に前記ペプチドを加えてフォールディング操作を行い、可溶性のHLA-A2分子とペプチド複合体のモノマーを形成し、次いで、前記複合体中のHLA-A2分子の重鎖のC末端に予め付加しておいたビオチン化配列中のリジン残基をビオチン化し、カラムクロマトグラフィーにて精製して精製ビオチン化モノマーを得、その後、蛍光標識したアビジンと混合することで四量体化させる方法などが挙げられる。なお、CD8分子との非特異的な結合を抑えるために、HLAクラスI重鎖α3ドメインに変異を入れてもよい。
【0076】
MHCクラスI分子とペプチドとの複合体の四量体は、プローブとして利用することで抗原特異的CTLの検出、定量に有用であることが知られている。
【0077】
前記テトラマーは、それを認識するT細胞受容体を有するT細胞に安定に結合する。したがって、前記テトラマーに蛍光色素などの標識を結合させることで、生体内での前記ペプチド特異的T細胞の状態を定量的・定性的に解析可能である。
【0078】
そのため、in vitroにおいて、前記テトラマーと、COVID-19患者由来の試料(末梢血)とを接触させることで、前記試料に含まれるSARS-CoV-2特異的CTLの量を測定することができる。COVID-19の病状はT細胞の数によって変わるため、前記テトラマーを用いて、COVID-19患者由来の試料中の前記ペプチドに対するCTLの量を測定することで、患者の病状を評価することができる。
【0079】
したがって、本発明は、本発明のテトラマーを用いることを含むことを特徴とするSARS-CoV-2特異的なHLA-A2拘束性細胞傷害性T細胞の検出方法、本発明のテトラマーを用いて被検体由来の試料中のSARS-CoV-2特異的なHLA-A2拘束性細胞傷害性T細胞の量を測定することを含むことを特徴とする新型コロナウイルス感染症の病状を評価するためのデータを収集する方法にも関する。
また、本発明は、被検体由来の試料中のSARS-CoV-2特異的なHLA-A2拘束性細胞傷害性T細胞の量を指標とすることを含み、前記被検体由来の試料中のSARS-CoV-2特異的なHLA-A2拘束性細胞傷害性T細胞の量が、本発明のテトラマーを用いて測定されたものであることを特徴とする新型コロナウイルス感染症の病状を評価するための方法にも関する。前記指標としては、例えば、被検体由来の試料中のSARS-CoV-2特異的なHLA-A2拘束性細胞傷害性T細胞の量が基準値よりも減っている場合に、病状が重いと評価することができる。前記基準値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、症状が軽い被検体由来の試料中のSARS-CoV-2特異的なHLA-A2拘束性細胞傷害性T細胞の量に基づく値などが挙げられる。
【0080】
(新型コロナウイルス感染症を予防又は治療するための方法)
本発明は、個体に、本発明の新型コロナウイルス感染症の予防又は治療用医薬組成物を投与することを特徴とする、新型コロナウイルス感染症を予防又は治療するための方法にも関する。また、前記新型コロナウイルス感染症を予防又は治療するための方法は、本発明のSARS-CoV-2特異的なHLA-A2拘束性細胞傷害性T細胞を誘導するための方法により誘導されたSARS-CoV-2特異的なHLA-A2拘束性細胞傷害性T細胞を個体の体内に戻すことにより行ってもよい。
【実施例0081】
以下、試験例を挙げて、本発明を説明するが、本発明は、以下の試験例に何ら限定されるものではない。
【0082】
(試験例1:CTLエピトープの予測)
下記の3種類のエピトープ予測コンピュータプログラムを用いて、SARS-CoV-2(GenBankアクセッション番号:LC528232.1及びLC528233.1)のORF1aポリプロテイン由来のHLA-A*02:01拘束性CTLエピトープを予測した。優れたスコアを示すエピトープ候補ペプチドを82種類選抜した。選抜したペプチドのアミノ酸配列を表1-1~1-2に示す。
[コンピュータプログラム]
・ YFPEITHI(http://www.syfpeithi.de/)(Rammensee et al., 1999)
・ nHLAPred(http://www.imtech.res.in/raghava/nhlapred/)(Bhasin et al., 2006)
・ ProPred-I(https://webs.iiitd.edu.in/raghava/propred1/gloss.html)(Singh et al., 2003)
【0083】
【0084】
【表1-2】
表1-1及び1-2中、「位置」とは、各ペプチドにおけるN末端(1番目)のアミノ酸が、ORF1aポリプロテインにおけるN末端のアミノ酸から何番目に該当するかを表す。
【0085】
(試験例2:ペプチドの製造)
前記試験例1で選抜した82種類のペプチドを人工合成した(ユーロフィンジェノミクス社)。
【0086】
(試験例3:ペプチドのHLA-A*02:01分子との結合アフィニティの測定)
試験例1で選抜した82種類のペプチドについて、HLA-A*02:01分子との結合アフィニティを測定した。
【0087】
測定には、TAP遺伝子が欠損したマウスリンパ腫細胞株であるRMA-S細胞に、HHD遺伝子(α1、α2領域がHLA-A*02:01でα3領域以下がマウスMHCクラスIのキメラHLA-A*02:01遺伝子にヒトβ2-マイクログロブリン(β2-m)遺伝子を融合した遺伝子)を導入した細胞株であるRMA-S-HHD細胞(Pascolo, S., Bervas, N., Ure, J.M., Smith, A.G., Lemonnier, F.A., Perarnau, B.,1997. HLA-A2.1-restricted education and cytolytic activity of CD8+ T lymphocytes from β2 microglobulin (β2m) HLA-A2.1 monochain transgenic H-2Db β2m double knockout mice. J. Exp. Med. 185, 2043-2051.)を用いた。なお、RMA-S-HHD細胞は、10%FCS及び500μg/mLのG418を含むRPMI-1640培地で培養した。
【0088】
RMA-S-HHD細胞は、TAP遺伝子が欠失しているため、自己ペプチドを結合していない、空のHLA-A*02:01が細胞表面に発現する。RMA-S-HHD細胞を26℃で培養すると、空のHLA-A*02:01が安定し、抗HLA-A2モノクローナル抗体BB7.2(ATCC:Parham, P and Brodsky, FM (1981). Partial purification and some properties of BB7.2. A cytotoxic monoclonal antibody with specificity for HLA-A2 and a variant of HLA-A28. Hum Immunol 3: 277-299.)で検出できるようになる。このときを、HLA-A*02:01の発現の最大値とする。一方、37℃では、空のHLA-A*02:01は不安定であり、前記BB7.2は結合せず、検出することはできない。
【0089】
細胞外部に添加したペプチドが、空のHLA-A*02:01に結合すると、HLA-A*02:01複合体を形成し、37℃で安定化し、前記BB7.2で検出できる。この原理を利用し、形成されたHLA-A*02:01複合体量と添加したペプチドの濃度との関係から結合アフィニティを算出した。
【0090】
なお、ポジティブコントロールとして、インフルエンザAウイルスのマトリックスタンパク質1(FMP)由来のペプチド(FMP58-66;FMPの58~66番目のアミノ酸からなる。配列は「GILFGVFTL」(配列番号83))と、HIV逆転写酵素由来のペプチド(HIV pol;HIV逆転写酵素の476~484番目のアミノ酸からなる。配列は「ILKEPVHGV」(配列番号84))を用いた。
【0091】
具体的には、下記のようにして結合アフィニティを測定した。
(1) RMA-S-HHD細胞を26℃、5%CO2で、14~16時間インキュベートした。
(2) 50μLのペプチドを様々な濃度(PBSで、200μM、20μM、2μM、0.2μM、0.02μM、又は0μM。即ち、最終濃度は、100μM、10μM、1μM、0.1μM、0.01μM、又は0μM)で、U型96ウェルプレートに入れた。
(3) RMA-S-HHD細胞懸濁液(20%FCSを含むPBS中)50μLを加えた(2×105細胞/ウェル)。また、コントロール染色のために4~6ウェルを用意した。
(4) 26℃で1時間インキュベートした。
(5) 10%FCSを含むPBSを100μL追加した。37℃で、CO2インキュベーター内で、3時間インキュベートした。
(6) スピンダウンし、デカンテーションにより上清を取り除き、プレートをボルテックスした。
(7) 一次抗体であるBB7.2を100μL加え、氷上で30分間インキュベートした。
(8) FACSバッファー(2%FCS及び0.1%アジ化ナトリウムを含むPBS)で2回洗浄した。
(9) FACSバッファーで希釈した、FITC標識二次抗体(FITC標識ヤギ抗マウスIgG抗体)を50μL加えた。プレートをアルミホイルで覆い、氷上で30分間インキュベートした。
(10) FACSバッファーで2回洗浄した。
(11) 100μLのFACS fix(1%ホルマリンを含むFACSバッファー)で細胞を再懸濁した。
(12) RMA-S-HHD細胞の表面に発現しているHLA-A2*02:01の平均蛍光強度(MFI)は、フローサイトメトリー(FACSCantoTM II, BD Biosciences)により測定し、下記の式によって、相対結合率(%)として標準化した。また、50%の相対結合率となる各ペプチドの濃度を、最大値の半分の結合レベル(BL50)として計算した。実験は3回行い、その平均値を下記の表2-1~2-2に示した。
<式>
相対結合率(%)={(A-B)/(C-B)}×100
前記式中、「A」は「各ペプチドでパルスされた細胞のMFI」、「B」は「ペプチドなしで、37℃でインキュベートした細胞のMFI」、「C」は「ペプチドなしで、26℃でインキュベートした細胞のMFI」を表す。
【0092】
下記の表2-1~2-2中、「結合レベル」は、下記の評価基準にしたがって評価した。
高 ・・・ BL50が10μM未満
中 ・・・ BL50が10μM以上100μM以下
低 ・・・ BL50が100μM超、又はND(検出できなかった)。
【0093】
【0094】
【0095】
(試験例4:ペプチド内包リポソームの製造)
試験例3において、結合レベルが「中」又は「高」だったペプチドについて、下記のようにして、ペプチド内包リポソームを製造した。
リポソームカプセル化キットであるリポカプセレーター(Lipocapsulater) FD-U PL(株式会社ヒュギエイアバイオサイエンス)を用い、キットの指示書をわずかに変更した以外はキットの指示書に従って、ペプチド内包リポソームを調製した。簡単に説明すると、上記ペプチドのそれぞれを最終濃度が10mMとなるように、DMSOに溶かした。同量の4~5種類の10mMのペプチドを混合して合計100μLとし、1.9mLのH2Oで希釈した。ペプチドの混合溶液を10mgの乾燥リポソームを含むLipocapsulaterのバイアルに加え、室温で15分間インキュベートし、ペプチド内包リポソームを含む溶液を得た。
【0096】
(試験例5)
<マウスへの免疫>
マウスには、マウスMHCクラスIとβ2-マイクログロブリン(β2-m)をノックアウトしたマウスに、HHD遺伝子(α1、α2領域がHLA-A*02:01でα3領域以下がマウスMHCクラスIのキメラHLA-A*02:01遺伝子にヒトβ2-m遺伝子を融合した遺伝子)を導入したHHD IIマウス(フランス・パスツール研究所、F. A. Lemonnier博士より供与された。)を用いた。6~10週齢のマウスをすべての実験に使用した。
【0097】
マウスへの免疫は、マウスの足蹠(foot pad)に、CpG-ODN(5002;配列5’-TCCATGACGTTCTTGATGTT-3’(配列番号85);北海道システムサイエンス株式会社)(5μg/マウス)と共に各ペプチド内包リポソーム(100μL/マウス)を1週間間隔で2回(又は1回)皮下投与して行った。
【0098】
<細胞内サイトカイン染色(ICS)(IFN-γ産生CD8+T細胞の検出)>
下記のようにして、IFN-γ産生CD8+T細胞の検出を行い、CTL誘導活性を調べた。
(1) 免疫1週間後、免疫したマウスから脾臓細胞を調製した。
(2) R10で脾臓細胞を2×107細胞/mLとなるように再懸濁した。
(3) U型の96ウェルプレートの各ウェルに、抗原ペプチド(最終濃度50μM)を含む又は含まないR10を100μL加えた。
(4) 各ウェルに、1:25に希釈したブレフェルディンA(GolgiPlug、BD Biosciences)5μLを加えた。
(5) 各ウェルに、100μLの細胞懸濁液を加えた。
(6) 37℃で5時間インキュベートした。
(7) 4℃で30分間、0.5μgのFITC標識抗マウスCD8抗体(BioLegend)を含む50μLのFACSバッファーで細胞を染色した。
(8) 200μLのFACSバッファーで2回洗浄した。
(9) 1ウェルあたり100μLのCytofix/Cytoperm溶液(BD Biosciences)で、4℃で20分間、細胞を再懸濁した。
(10) 200μLの1×Perm/Wash溶液(BD Biosciences)で細胞を2回洗浄した。
(11) 0.5μgのPE-標識抗マウスIFN-γ抗体を含む50μLの1×Perm/Wash溶液に固定及び浸透化処理した細胞を再懸濁し、4℃で30分間、インキュベートした。
(12) 200μLの1×Perm/Wash溶液で細胞を2回洗浄し、100μLのFACS fixバッファーに再懸濁した。
(13) フローサイトメトリー分析(FACSCantoTM II, BD Biosciences)を行った。結果を表3-1~3-3に示す。
【0099】
下記の表3-1~3-3中、「ICS」は、CD8+細胞全体に占めるIFN-γ陽性細胞の割合を下記の評価基準にしたがって評価した結果を示す。また、評価結果が、(+++)、(++)、又は(+)だった18種のペプチドについての分析結果を
図1~18に併せて示す。
-評価基準-
ペプチドを加えた場合のCD8+細胞全体に占めるIFN-γ陽性細胞の割合(%)から、ペプチドを加えていない場合のCD8+細胞全体に占めるIFN-γ陽性細胞の割合(%)を引いた値(以下、「A」と称することがある)を算出し、下記の評価基準にしたがって評価した。
(+++) ・・・ 前記Aが、10%以上
(++) ・・・ 前記Aが、5%以上10%未満
(+) ・・・ 前記Aが、1%以上5%未満
(±) ・・・ 前記Aが、0.5%以上1%未満
(-) ・・・ 前記Aが、0.5%未満
【0100】
【0101】
【0102】
【0103】
<In vivo CTLアッセイ>
上記した細胞内サイトカイン染色において、評価結果が、(+++)、(++)、又は(+)だった18種のペプチドについて、下記のようにして、In vivo CTLアッセイを行い、CTL応答活性を調べた。
(1) ナイーブマウスから脾臓細胞を調製した。
(2) 2mLのRPMIで合計2×108細胞を再懸濁し、2本のチューブそれぞれにこの懸濁液の1mLのアリコットを入れた。
(3) 最終濃度50μMでペプチドを一方のチューブに入れ、両方のチューブを37℃で1~2時間インキュベートした。
(4) 10mLのRPMIで細胞を1回洗浄し、遠心分離し、上清を除去した。
(5) 20mLのPBS/0.1% BSAで各細胞ペレットを再懸濁し、短時間ボルテックスした。
(6) 10μLの5mM CFSE(カルボキシフルオレセインジアセテートスクシンイミジルエステル、Molecular Probes)を、ペプチドをパルスした細胞懸濁液に加え、すぐにボルテックスした。
(7) ペプチドとインキュベートしなかった細胞のチューブに、1μLの5mM CFSEを加え、すぐにボルテックスした。
(8) 両方のチューブを37℃のウォーターバスで10分間インキュベートした。
(9) 両方のチューブを遠心分離し、上清を除去した。10mLのRPMIを加えて細胞を1回洗浄し、スピンし、上清を除去した。次いで、生細胞数を数えた。
(10) それぞれの細胞集団を5×107細胞/mLとなるようにRPMIに再懸濁した。
(11) 各細胞懸濁液を等量(等しい細胞数)ずつ混ぜ、200μL(1×107細胞/マウス)の混合細胞懸濁液を予め免疫した各レシピエントマウスに静脈内注入した。
(12) 細胞注入から16時間後、マウスから脾臓細胞を回収した。
(13) 脾臓細胞を懸濁した細胞懸濁液をFACSバッファーに再懸濁し、フローサイトメトリー分析(FACSCantoTM II, BD Biosciences)を行った。結果を表4に示す。
【0104】
下記の表4中、「Killing」は、CTLによる標的細胞のペプチド特異的溶解率(%)を示す。なお、CTLによる標的細胞のペプチド特異的溶解率(%)は、下記の式から算出した。
<式>
CTLによる標的細胞のペプチド特異的溶解率(%)=[1-{(A)÷(B)}÷{(C)÷(D)}]×100
式中、(A)は「非免疫マウスにおける低濃度CFSEで染色した細胞の数」を表し、(B)は「非免疫マウスにおける高濃度CFSEで染色した細胞の数」を表し、(C)は「免疫したマウスにおける低濃度CFSEで染色した細胞の数」を表し、(D)は「免疫したマウスにおける高濃度CFSEで染色した細胞の数」を表す。
【0105】
【表4】
上記表4中、「ICS(%)」は、ペプチドを加えた場合のCD8+細胞全体に占めるIFN-γ陽性細胞の割合(%)から、ペプチドを加えていない場合のCD8+細胞全体に占めるIFN-γ陽性細胞の割合(%)を引いた値を表す。
【0106】
(試験例6)
試験例5の<細胞内サイトカイン検出>において評価結果が良好であった10種類のペプチド(配列番号2、4、16、35、53、64、67、70、71、又は72で表されるアミノ酸配列からなるペプチド))を等量含むペプチド内包リポソーム溶液を試験例4と同様にして調製した。
前記ペプチド内包リポソーム溶液(100μL/マウス)を用い、投与回数を1回とした以外は、試験例5と同様にして、9匹のマウスを免疫した。
免疫1週間後にマウスから脾臓細胞を調製し、試験例5と同様にして、細胞内サイトカイン染色を行った。結果を
図19に示す。
図19中、横軸は抗原ペプチドの配列番号を表し、縦軸はペプチドを加えた場合のCD8+細胞全体に占めるIFN-γ陽性細胞の割合(%)から、ペプチドを加えていない場合のCD8+細胞全体に占めるIFN-γ陽性細胞の割合(%)を引いた値を表し、グラフ中の「○」はマウス1匹における数値を表し、「-」は平均値を表す。
【0107】
以上の結果から、配列番号2、3、4、5、9、13、16、20、35、52、53、58、63、64、67、70、71、及び72のいずれかで表されるアミノ酸配列が、SARS-CoV-2由来CTL抗原エピトープであることが確認された。これらの中でも、配列番号2、4、16、35、53、64、67、70、71、及び72のいずれかで表されるアミノ酸配列が好ましく、配列番号2、4、16、及び72のいずれかで表されるアミノ酸配列がより好ましいことが確認された。
【0108】
本発明の態様としては、例えば、以下のものなどが挙げられる。
<1> 配列番号2、3、4、5、9、13、16、20、35、52、53、58、63、64、67、70、71、及び72からなる群から選択されるいずれかの配列番号で表されるアミノ酸配列からなり、
HLA-A2分子に結合でき、かつ細胞傷害性T細胞を誘導しさらに細胞傷害性T細胞に認識されることを特徴とするペプチドである。
<2> 前記<1>に記載のペプチドをコードする塩基配列からなることを特徴とする核酸分子である。
<3> 前記<2>に記載の核酸分子を含むことを特徴とするベクターである。
<4> 前記<1>に記載のペプチドを内包することを特徴とするペプチド内包リポソームである。
<5> 前記<1>に記載のペプチドと、HLA-A2分子との複合体を細胞表面に提示する抗原提示細胞を製造するための抗原提示細胞製造用剤であって、
前記<1>に記載のペプチド、前記<3>に記載のベクター、及び前記<4>に記載のペプチド内包リポソームからなる群から選択される少なくとも1つを含むことを特徴とする抗原提示細胞製造用剤である。
<6> 前記<1>に記載のペプチドと、HLA-A2分子との複合体を細胞表面に提示する抗原提示細胞の製造方法であって、
HLA-A2分子を発現する細胞を、in vitroにおいて前記<5>に記載の抗原提示細胞製造用剤と接触させることを含むことを特徴とする抗原提示細胞の製造方法である。
<7> 前記HLA-A2分子を発現する細胞が、自己由来である前記<6>に記載の抗原提示細胞の製造方法である。
<8> 前記HLA-A2分子を発現する細胞が、同種由来である前記<6>に記載の抗原提示細胞の製造方法である。
<9> 前記<1>に記載のペプチド、前記<2>に記載の核酸分子、前記<3>に記載のベクター、前記<4>に記載のペプチド内包リポソーム、及び前記<6>から<8>のいずれかに記載の製造方法で製造された抗原提示細胞からなる群から選択される少なくとも1つを含むことを特徴とする新型コロナウイルス感染症の予防又は治療用医薬組成物である。
<10> SARS-CoV-2の感染を予防するためのワクチンである前記<9>に記載の新型コロナウイルス感染症の予防又は治療用医薬組成物である。
<11> 更に、アジュバントを含む前記<10>に記載の新型コロナウイルス感染症の予防又は治療用医薬組成物である。
<12> 前記<1>に記載のペプチド、前記<4>に記載のペプチド内包リポソーム、及び前記<6>から<8>のいずれかに記載の製造方法で製造された抗原提示細胞からなる群から選択される少なくとも1つを含むことを特徴とするSARS-CoV-2特異的なHLA-A2拘束性細胞傷害性T細胞誘導剤である。
<13> 更に、アジュバントを含む前記<12>に記載のSARS-CoV-2特異的なHLA-A2拘束性細胞傷害性T細胞誘導剤である。
<14> HLA-A2陽性の新型コロナウイルス感染症患者より採取された末梢血単核球細胞を、in vitroにおいて前記<12>から<13>のいずれかに記載のSARS-CoV-2特異的なHLA-A2拘束性細胞傷害性T細胞誘導剤と接触させることを含むことを特徴とするSARS-CoV-2特異的なHLA-A2拘束性細胞傷害性T細胞の誘導方法である。
<15> 前記<1>に記載のペプチドとHLA-A2分子との複合体の四量体であることを特徴とするテトラマーである。
<16> 新型コロナウイルス感染症を予防又は治療するための方法であって、個体に、前記<9>から<11>のいずれかに記載の医薬組成物を投与することを特徴とする方法である。
<17> 新型コロナウイルス感染症を予防又は治療するための方法であって、個体に、前記<14>に記載の方法で誘導されたSARS-CoV-2特異的なHLA-A2拘束性細胞傷害性T細胞を投与することを特徴とする方法である。
<18> 前記<15>に記載のテトラマーを用いることを含むことを特徴とするSARS-CoV-2特異的なHLA-A2拘束性細胞傷害性T細胞の検出方法である。
<19> 新型コロナウイルス感染症の病状を評価するためのデータを収集する方法であって、
前記<15>に記載のテトラマーを用いて被検体由来の試料中のSARS-CoV-2特異的なHLA-A2拘束性細胞傷害性T細胞の量を測定することを含むことを特徴とする方法である。
<20> 新型コロナウイルス感染症の病状を評価するための方法であって、
被検体由来の試料中のSARS-CoV-2特異的なHLA-A2拘束性細胞傷害性T細胞の量を指標とすることを含み、
前記被検体由来の試料中のSARS-CoV-2特異的なHLA-A2拘束性細胞傷害性T細胞の量が、前記<15>に記載のテトラマーを用いて測定されたものであることを特徴とする方法である。