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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022178694
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】塗布処理方法および塗布処理装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/027 20060101AFI20221125BHJP
   B05C 11/08 20060101ALI20221125BHJP
【FI】
H01L21/30 564D
H01L21/30 564C
B05C11/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021085657
(22)【出願日】2021-05-20
(71)【出願人】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100108523
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 雅博
(74)【代理人】
【識別番号】100125704
【弁理士】
【氏名又は名称】坂根 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100187931
【弁理士】
【氏名又は名称】澤村 英幸
(72)【発明者】
【氏名】松 泰司
(72)【発明者】
【氏名】小椋 浩之
(72)【発明者】
【氏名】和田 卓也
(72)【発明者】
【氏名】馬渕 康史
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 優史
(72)【発明者】
【氏名】古川 正晃
【テーマコード(参考)】
4F042
5F146
【Fターム(参考)】
4F042AA06
4F042AB00
4F042EB09
4F042EB13
4F042EB17
5F146JA09
5F146JA24
(57)【要約】
【課題】塗布膜の厚みによらず膜厚分布を低コストで均一化することが可能な塗布処理方法および塗布処理装置を提供する。
【解決手段】基板の下面中央部が回転保持部により水平姿勢で保持される。保持された基板が鉛直軸の周りで回転する。回転する基板の上面に塗布液が供給される。基板が回転する状態で、塗布液の供給が終了した第1の時点t4の経過後基板上の塗布液の流動性がなくなる第2の時点t8までの液流動期間のうち第2の時点t8よりも前の液供給期間p2中に、回転する基板の下面のうち下面中央部を取り囲む下面環状部の少なくとも一部に揮発性のリンス液が供給される。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転保持部により基板の下面中央部が吸着された基板を水平姿勢で保持しつつ鉛直軸の周りで回転させるステップと、
前記回転保持部により回転される基板の上面に塗布液を供給するステップと、
前記回転保持部により保持された基板が回転する状態で、塗布液の供給が終了した第1の時点経過後基板上の塗布液の流動性がなくなる第2の時点までの液流動期間のうち前記第2の時点よりも前の液供給期間中に、前記回転保持部により回転される基板の下面のうち前記下面中央部を取り囲む下面環状部の少なくとも一部に揮発性のリンス液を供給するステップとを含む、塗布処理方法。
【請求項2】
前記第2の時点は、前記第1の時点経過後基板の前記上面に供給された塗布液の表面に発生する干渉縞が消滅する時点である、請求項1記載の塗布処理方法。
【請求項3】
前記液供給期間の長さは、10秒以下である、請求項1または2記載の塗布処理方法。
【請求項4】
前記回転させるステップは、前記第1の時点の経過後前記第2の時点よりも前の第3の時点にかけて基板の前記上面に供給された塗布液が基板の前記上面全体を覆うように基板を回転させることを含み、
前記液供給期間の開始時点は、前記第3の時点から5秒経過するまでの時間内に定められる、請求項1~3のいずれか一項に記載の塗布処理方法。
【請求項5】
前記下面環状部は、前記回転保持部により回転される基板の前記下面のうち基板の外周端部を含む環状の下面周縁部と前記下面中央部との間に位置する、請求項1~4のいずれか一項に記載の塗布処理方法。
【請求項6】
基板の下面中央部を吸着することにより基板を水平姿勢で保持しつつ鉛直軸の周りで回転させる回転保持部と、
前記回転保持部により回転される基板の上面に塗布液を供給する塗布液供給部と、
前記回転保持部により回転される基板の下面のうち前記下面中央部を取り囲む下面環状部の少なくとも一部に揮発性のリンス液を供給するリンス液供給部と、
前記回転保持部により保持された基板が回転する状態で、基板の前記上面に塗布液が供給され、塗布液の供給が終了した第1の時点経過後基板上の塗布液の流動性がなくなる第2の時点までの液流動期間のうち前記第2の時点よりも前の液供給期間中にリンス液が基板の前記下面環状部に供給されるように前記回転保持部、前記塗布液供給部および前記リンス液供給部を制御する制御部とを備える、塗布処理装置。
【請求項7】
前記第2の時点は、前記第1の時点経過後基板の前記上面に供給された塗布液の表面に発生する干渉縞が消滅する時点である、請求項6記載の塗布処理装置。
【請求項8】
前記液供給期間の長さは、10秒以下である、請求項6または7記載の塗布処理装置。
【請求項9】
前記制御部は、前記第1の時点の経過後前記第2の時点よりも前の第3の時点にかけて基板の前記上面に供給された塗布液が基板の前記上面全体を覆うように前記回転保持部を制御し、
前記液供給期間の開始時点は、前記第3の時点から5秒経過するまでの時間内に定められる、請求項6~8のいずれか一項に記載の塗布処理装置。
【請求項10】
前記下面環状部は、前記回転保持部により回転される基板の前記下面のうち基板の外周端部を含む環状の下面周縁部と前記下面中央部との間に位置する、請求項6~9のいずれか一項に記載の塗布処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板に塗布膜を形成する塗布処理方法および塗布処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体基板、液晶表示装置もしくは有機EL(Electro Luminescence)表示装置等のFPD(Flat Panel Display)用基板、光ディスク用基板、磁気ディスク用基板、光磁気ディスク用基板、フォトマスク用基板、セラミック基板または太陽電池用基板等の基板に種々の処理を行うために、基板処理装置が用いられる。
【0003】
基板処理装置の一例として、基板の上面にレジスト膜または反射防止膜等の塗布膜を形成する塗布処理装置がある。塗布処理装置においては、例えば一枚の基板がスピンチャックにより水平姿勢で保持される。また、スピンチャックにより保持された基板が回転する。回転する基板の上面に対して、形成されるべき塗布膜の種類に応じた塗布液が供給される。基板上に供給された塗布液は、遠心力により基板の上面全体に広がる。基板上の塗布液が乾燥することにより塗布膜が形成される。
【0004】
塗布処理装置において基板上に形成される塗布膜の厚みは、基板の全体にわたって均一であることが好ましい。基板上に塗布膜が形成される過程で基板上に広がる塗布液の温度分布に大きなばらつきがあると、膜厚分布を均一化することは難しい。そこで、基板の上面への塗布液の供給時または供給後に、基板の下面に温度調整用の液体(温調液)を供給することにより、基板および基板上の塗布液の温度を調整する塗布処理方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、温度調整用の液体としてシンナー等の溶剤を用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000-114152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、デバイスの高密度化および高集積化に伴い、基板上に形成される塗布膜の厚みをより大きくすることが求められている。大きい厚みを有する塗布膜を形成するために、高粘度の塗布液が用いられる。このような高粘度の塗布液は、低粘度の塗布液に比べて基板上で広がりにくい。また、大きい厚みを有する塗布膜の形成時には、小さい厚みを有する塗布膜の形成時に比べて、乾燥に要する時間が長くなる。
【0007】
そのため、高粘度の塗布液を用いて大きな厚みを有する塗布膜を形成する塗布処理においては、長時間に渡って基板および基板上の塗布液の温度を調整する必要がある。しかしながら、基板の下面に長時間に渡って継続して温度調整用の液体を供給すると、塗布処理のコストが高くなる。
【0008】
本発明の目的は、塗布膜の厚みによらず膜厚分布を低コストで均一化することが可能な塗布処理方法および塗布処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)第1の発明に係る塗布処理方法は、回転保持部により基板の下面中央部が吸着された基板を水平姿勢で保持しつつ鉛直軸の周りで回転させるステップと、回転保持部により回転される基板の上面に塗布液を供給するステップと、回転保持部により保持された基板が回転する状態で、塗布液の供給が終了した第1の時点経過後基板上の塗布液の流動性がなくなる第2の時点までの液流動期間のうち第2の時点よりも前の液供給期間中に、回転保持部により回転される基板の下面のうち下面中央部を取り囲む下面環状部の少なくとも一部に揮発性のリンス液を供給するステップとを含む。
【0010】
その塗布処理方法においては、回転する基板の上面に塗布液が供給される。基板の上面に供給された塗布液は、遠心力により基板の上面を流れる。液供給期間中に基板の下面環状部にリンス液が供給される。液供給期間中に基板に供給されたリンス液の少なくとも一部は、液供給期間の経過後第2の時点が経過するまでの間に気化する。この場合、基板の下面環状部の温度が、リンス液の気化に伴って発生する気化熱により高い効率で調整される。
【0011】
基板の下面環状部の温度が適切に調整されることにより、基板の半径方向に流れる塗布液の移動状態に局所的な変化が生じることを抑制することができる。それにより、基板上に形成される塗布膜の厚みを均一化することができる。したがって、塗布膜の厚みを均一化するために、液流動期間中継続して温度調整用の液体を基板に供給する必要がない。その結果、塗布膜の厚みによらず膜厚分布を低コストで均一化することが可能になる。
【0012】
(2)第2の時点は、第1の時点経過後基板の上面に供給された塗布液の表面に発生する干渉縞が消滅する時点であってもよい。この場合、干渉縞の発生および消滅の状態を予め確認しておくことにより、液供給期間を容易かつ適切に設定することができる。
【0013】
(3)液供給期間の長さは、10秒以下であってもよい。これにより、リンス液の消費量をさらに低減することができる。また、基板の温度をより適切に調整することができる。
【0014】
(4)回転させるステップは、第1の時点の経過後第2の時点よりも前の第3の時点にかけて基板の上面に供給された塗布液が基板の上面全体を覆うように基板を回転させることを含み、液供給期間の開始時点は、第3の時点から5秒経過するまでの時間内に定められてもよい。これにより、基板の温度をより適切に調整することができる。
【0015】
(5)下面環状部は、回転保持部により回転される基板の下面のうち基板の外周端部を含む環状の下面周縁部と下面中央部との間に位置してもよい。これにより、基板の下面中央部の周辺に位置する部分の温度をより適切に調整することができる。
【0016】
(6)第2の発明に係る塗布処理装置は、基板の下面中央部を吸着することにより基板を水平姿勢で保持しつつ鉛直軸の周りで回転させる回転保持部と、回転保持部により回転される基板の上面に塗布液を供給する塗布液供給部と、回転保持部により回転される基板の下面のうち下面中央部を取り囲む下面環状部の少なくとも一部に揮発性のリンス液を供給するリンス液供給部と、回転保持部により保持された基板が回転する状態で、基板の上面に塗布液が供給され、塗布液の供給が終了した第1の時点経過後基板上の塗布液の流動性がなくなる第2の時点までの液流動期間のうち第2の時点よりも前の液供給期間中にリンス液が基板の下面環状部に供給されるように回転保持部、塗布液供給部およびリンス液供給部を制御する制御部とを備える。
【0017】
その塗布処理装置においては、回転する基板の上面に塗布液が供給される。基板の上面に供給された塗布液は、遠心力により基板の上面を流れる。その後、液供給期間中に基板の下面環状部にリンス液が供給される。液供給期間中に基板に供給されたリンス液の少なくとも一部は、液供給期間の経過後第2の時点が経過するまでの間に気化する。この場合、基板の下面環状部の温度が、リンス液の気化に伴って発生する気化熱により高い効率で調整される。
【0018】
基板の下面環状部の温度が適切に調整されることにより、基板の半径方向に流れる塗布液の移動状態に局所的な変化が生じることを抑制することができる。それにより、基板上に形成される塗布膜の厚みを均一化することができる。したがって、塗布膜の厚みを均一化するために、液流動期間中継続して温度調整用の液体を基板に供給する必要がない。その結果、塗布膜の厚みによらず膜厚分布を低コストで均一化することが可能になる。
【0019】
(7)第2の時点は、第1の時点経過後基板の上面に供給された塗布液の表面に発生する干渉縞が消滅する時点であってもよい。この場合、干渉縞の発生および消滅の状態を予め確認しておくことにより、液供給期間を容易かつ適切に設定することができる。
【0020】
(8)液供給期間の長さは、10秒以下であってもよい。これにより、リンス液の消費量をさらに低減することができる。また、基板の温度をより適切に調整することができる。
【0021】
(9)制御部は、第1の時点の経過後第2の時点よりも前の第3の時点にかけて基板の上面に供給された塗布液が基板の上面全体を覆うように回転保持部を制御し、液供給期間の開始時点は、第3の時点から5秒経過するまでの時間内に定められてもよい。これにより、基板の温度をより適切に調整することができる。
【0022】
(10)下面環状部は、回転保持部により回転される基板の下面のうち基板の外周端部を含む環状の下面周縁部と下面中央部との間に位置してもよい。これにより、基板の下面中央部の周辺に位置する部分の温度をより適切に調整することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、塗布膜の厚みによらず膜厚分布を低コストで均一化することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の一実施の形態に係る塗布処理装置の模式的断面図である。
図2図1の塗布処理装置の模式的平面図である。
図3】膜厚分布にばらつきが生じたレジスト膜の一例を示す平面図である。
図4図3の膜厚分布のばらつきの発生について推定されるメカニズムを説明するための断面図である。
図5】本発明の一実施の形態に係る塗布処理の具体例を説明するための図である。
図6】好ましいリンス開始時点を確認するための塗布処理が施された3つの基板のレジスト膜の膜厚分布を示す図である。
図7】好ましい液供給期間の長さを確認するための塗布処理が施された6つの基板のレジスト膜の膜厚分布を示す図である。
図8】好ましい液供給期間の長さを確認するために塗布処理が施された6つの基板のレジスト膜の膜厚分布の均一性を示す図である。
図9】基板の外側環状部分へのリンス液の供給によりレジスト膜の膜厚を調整することが可能であるか否かを確認するための塗布処理が施された8つの基板のレジスト膜の膜厚分布を示す図である。
図10】他の実施の形態に係る塗布処理装置の一構成例を示す模式的断面図である。
図11】他の実施の形態に係る塗布処理装置の他の構成例を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の一実施の形態に係る塗布処理方法および塗布処理装置について図面を参照しつつ説明する。以下の説明において、基板とは、液晶表示装置または有機EL(Electro Luminescence)表示装置等に用いられるFPD(Flat Panel Display)用基板、半導体基板、光ディスク用基板、磁気ディスク用基板、光磁気ディスク用基板、フォトマスク用基板、セラミック基板または太陽電池用基板等をいう。また、本実施の形態では、基板の上面が回路形成面(表面)であり、基板の下面が回路形成面と反対側の面(裏面)である。さらに、本実施の形態では、基板は、平面視でノッチの形成部分を除いて円形状を有する。
【0026】
[1]塗布処理装置の全体構成
図1は本発明の一実施の形態に係る塗布処理装置の模式的断面図であり、図2図1の塗布処理装置1の模式的平面図である。図2では、図1の塗布処理装置1の複数の構成要素のうち一部の構成要素の図示が省略されている。また、図2では、図1の基板Wが一点鎖線で示される。
【0027】
図1に示すように、本実施の形態に係る塗布処理装置1は、主として回転保持装置10、液供給装置20および制御部30を備える。回転保持装置10は、基板Wの下面中央部を吸着保持しつつ回転させることが可能に構成される。
【0028】
液供給装置20は、レジストノズル21および塗布液供給系22を含む。塗布液供給系22は、レジストノズル21に塗布液としてレジスト液を供給する。レジストノズル21は、回転保持装置10により保持される基板Wの側方の位置と基板Wの上方の位置との間を移動可能に設けられる。レジストノズル21は、回転保持装置10により吸着保持されて回転する基板Wの上方の位置にある状態で、塗布液供給系22から供給されたレジスト液を基板Wの上面に吐出する。制御部30は、CPU(中央演算処理装置)およびメモリ、またはマイクロコンピュータを含み、回転保持装置10および液供給装置20の動作を制御する。
【0029】
回転保持装置10の具体的な構成について説明する。回転保持装置10は、吸着保持部11、回転軸12、回転駆動部13、吸引装置14、カップ15、排液案内管16、複数の下面ノズル17およびリンス液供給系18を含む。
【0030】
吸着保持部11は、基板Wの下面中央部を吸着保持する円形の上面11uを有し、上下方向に延びる回転軸12の上端部に取り付けられている。吸着保持部11の上面11uには、多数の吸引孔h(図2)が形成されている。回転駆動部13は、回転軸12をその軸心の周りで回転させる。
【0031】
図1に太い点線で示すように、吸着保持部11および回転軸12の内部には、吸気経路vpが形成されている。吸気経路vpは、吸引装置14に接続されている。吸引装置14は、例えばアスピレータ等の吸引機構を含み、吸気経路vpおよび多数の吸引孔hを通して吸着保持部11の上面11u上の空間の雰囲気を吸引し、塗布処理装置1の外部に排出する。
【0032】
図2に示すように、カップ15は、平面視で吸着保持部11の周囲を取り囲むように設けられるとともに、図示しない昇降機構により上下方向における複数の位置に移動可能に構成される。図1に示すように、カップ15は、底部15xおよび外周壁部15yを含む。底部15xは、略円環形状を有する。底部15xの内周端部は所定高さ分上方に向かって屈曲している。外周壁部15yは、底部15xの外周端部から所定高さ分上方に延び、屈曲し、さらに吸着保持部11に向かって斜め上方に延びるように形成されている。
【0033】
カップ15の底部15xには、ドレイン15dが形成されている。底部15xにおけるドレイン15dの形成部分には、排液案内管16が取り付けられている。排液案内管16の下端部は図示しない排液系に接続されている。
【0034】
図2に示すように、平面視でカップ15の外周壁部15yの内周端部と吸着保持部11の外周端部との間には、複数の下面ノズル17が設けられている。本例では、4つの下面ノズル17が設けられている。複数の下面ノズル17は、平面視で吸着保持部11を取り囲むように吸着保持部11の中心を基準として等角度間隔で配置されている。各下面ノズル17の上端部には、上方に向く液吐出口17bが設けられている。
【0035】
図1に示すように、各下面ノズル17の液吐出口17bは、吸着保持部11の外周端部近傍の位置で、吸着保持部11により吸着保持される基板Wの下面に対向する。より具体的には、各下面ノズル17は、平面視で、吸着保持部11の半径方向において吸着保持部11の外周端部から5mm~80mm程度離間した位置に設けられる。なお、塗布処理装置1は、図示しない筐体内に回転保持装置10および液供給装置20が収容された構成を有する。下面ノズル17は、例えば塗布処理装置1の筐体に固定される。下面ノズル17は、リンス液供給系18から供給されるリンス液を、液吐出口17bから基板Wの下面に吐出する。本実施の形態では、リンス液としては、後述するレジスト膜を溶解可能な揮発性の溶剤(シンナー等)が用いられる。
【0036】
上記の構成を有する塗布処理装置1について、塗布処理時の動作の概要を説明する。基板Wの塗布処理が開始される際には、まず吸着保持部11により基板Wが水平姿勢で保持される。さらに、基板Wが回転される。このとき、吸着保持部11および基板Wの温度は、室温(例えば23℃)である。
【0037】
また、水平方向において外周壁部15yの内周面が基板Wの外周端部に対向するように、カップ15が上下方向に位置決めされる。この状態で、レジストノズル21が図示しないノズル移動装置により基板Wの上方に移動する。また、レジストノズル21から基板Wの上面に所定量のレジスト液が吐出される。それにより、回転する基板Wの上面にレジスト液が塗布される。このとき、レジストノズル21から基板Wに供給されるレジスト液の温度は、室温(例えば23℃)である。また、基板W上に塗布されるレジスト液の粘度は、室温(例えば23℃)で1cP以上20000cP以下である。
【0038】
回転する基板Wから外方に飛散するレジスト液は、カップ15の外周壁部15yの内周面により受け止められる。受け止められたレジスト液は、カップ15の底部15xに収集され、ドレイン15dから排液案内管16を通して図示しない排液系に導かれる。上記のように、基板Wの塗布処理のうち基板Wの上面全体にレジスト液を塗布する工程、すなわち基板Wの上面全体にレジスト液の液膜を形成する工程を液膜形成工程と呼ぶ。
【0039】
次に、レジストノズル21から基板Wへのレジスト液の吐出が停止された状態で、基板Wの回転が継続されることにより、基板Wの上面に塗布されたレジスト液のうち余分なレジスト液が振り切られる。また、基板W上に残留するレジスト液の液膜が乾燥する。それにより、基板Wの上面にレジスト膜が形成される。本実施の形態で基板W上に形成されるレジスト膜の厚みは、20nm以上20000nm以下である。上記のように、基板Wの塗布処理のうち基板Wの上面に塗布されたレジスト液の液膜を乾燥させる工程を液膜乾燥工程と呼ぶ。液膜乾燥工程では、特定の期間中に複数の下面ノズル17から基板Wの下面にリンス液が吐出される。この理由については後述する。
【0040】
基板Wの上面にレジスト膜が形成された後、基板Wの下面に付着したレジスト液またはレジスト膜を除去するために、複数の下面ノズル17から基板Wの下面に向けてリンス液が吐出される。各下面ノズル17から基板Wに供給されるリンス液の温度は、吸着保持部11の温度(本例では室温)以上である。
【0041】
その後、各下面ノズル17から基板Wへのリンス液の吐出が停止される。この状態で、基板Wの回転が継続されることにより、基板Wの下面に塗布されたリンス液が乾燥する。それにより、基板Wの下面に付着したレジスト液またはレジストの固形物が除去される。塗布処理装置1の上記の一連の動作によりレジスト膜が形成された基板Wは、塗布処理装置1から搬出され、図示しない露光装置により露光処理が施される。
【0042】
[2]塗布処理において発生するレジスト膜の膜厚分布のばらつき
塗布処理中の液膜乾燥工程では、基板Wの温度分布および基板Wを取り囲む空間に発生する気流の強さに起因して、基板W上のレジスト液の乾燥状態にばらつきが生じる。それにより、基板W上に形成されるレジスト膜の膜厚分布にばらつきが生じる。図3は、膜厚分布にばらつきが生じたレジスト膜の一例を示す平面図である。図3では、基板Wのうち吸着保持部11により吸着保持される部分(以下、接触部分と呼ぶ。)の外縁が太い点線で示される。図3の平面図においては、基板W上に形成されるレジスト膜R2が、そのレジスト膜R2の厚みに応じた濃度のドットパターンで示される。ドットパターンの濃度が高い部分はレジスト膜R2の厚みが大きいことを表し、ドットパターンの濃度が低い部分はレジスト膜R2の厚みが小さいことを表す。
【0043】
図4は、図3の膜厚分布のばらつきの発生について推定されるメカニズムを説明するための断面図である。図4では、上下に2つの断面図が示される。それらの断面図においては、図3のレジスト膜R2の例と同様に、基板W上に形成されるレジスト液R1の液膜およびレジスト膜R2が、それらの厚みに応じた濃度のドットパターンで示される。
【0044】
塗布処理装置1は、基本的にクリーンルーム内に収容される。塗布処理装置1を取り囲む空間には、所定温度(例えば23℃)に維持された清浄な空気の下降気流(ダウンフロー)が形成される。それにより、図4の上段に白抜きの矢印で示すように、塗布処理中の基板Wには上方から継続して空気が吹き付けられる。
【0045】
液膜乾燥工程において、基板W上に塗布されたレジスト液R1の一部(レジスト液R1の液膜の上層部分)は、基板Wの中心から外周端部に向かって広がり、基板Wの外方に飛散する。ここで、本例のレジスト液は、揮発性の溶剤を含む。そのため、図4の上段に太い実線の矢印で示すように、基板W上に塗り広げられたレジスト液RLの溶剤は気化する。このとき、上方の位置から基板Wに向かう下降気流は、レジスト液R1の溶剤の気化、すなわちレジスト液R1の液膜の乾燥を促進する。
【0046】
基板Wのうち吸着保持部11に接触しない部分(以下、非接触部分と呼ぶ。)の熱容量は、接触部分の熱容量よりも小さい。そのため、基板W上のレジスト液R1の溶剤の気化が促進されると、気化熱の影響により、接触部分に比べて非接触部分の温度が低下する。
【0047】
レジスト液は、温度が低いほど乾燥(硬化)に要する時間が長くなる。そのため、非接触部分上に塗り広げられるレジスト液R1は、基板Wが回転することにより比較的流動しやすい状態にある。しかしながら、実際には、非接触部分であっても、基板Wの外周端部およびその近傍の部分では、周囲の空間に強い気流が発生することによりレジスト液R1の溶剤の気化が促進され、レジスト液R1が硬化しやすい。
【0048】
したがって、最終的には、図4の下段に示すように、基板Wの非接触部分のうち接触部分の近傍に形成されるレジスト膜R2の厚みが、接触部分に形成される液膜の厚みよりも小さくなる。また、基板Wの非接触部分のうち基板Wの外周端部の近傍に形成されるレジスト膜の厚みが、基板Wの接触部分に形成されるレジスト膜の厚みと同じかまたはそれよりも大きくなる。
【0049】
図3および図4の膜厚分布のばらつきの発生を抑制するために、本実施の形態では、液膜乾燥工程における特定の期間中に複数の下面ノズル17から基板Wの非接触部分の下面に揮発性のリンス液が連続的に供給される。そのリンス液は、基板Wに接触する時点で吸着保持部11の温度(本例では室温)以上の温度を有する。以下の説明では、この特定の期間を液供給期間と呼ぶ。液供給期間は、液膜乾燥工程の開始時点以降で基板W上のレジスト液の流動性がなくなる時点までの期間内に設定される。
【0050】
[3]塗布処理装置1による塗布処理の具体例
図5は、本発明の一実施の形態に係る塗布処理の具体例を説明するための図である。図5では、図1の塗布処理装置1による塗布処理中の基板Wの回転速度の変化がグラフによって示される。図5のグラフにおいて、縦軸は基板Wの回転速度を表し、横軸は時間を表す。
【0051】
なお、基板Wの回転速度は、制御部30が図1の回転駆動部13を制御することにより調整される。また、基板Wの上面S1に対するレジスト液R1の供給および停止は、制御部30が図1の塗布液供給系22を制御することにより行われる。さらに、基板Wの下面に対するリンス液の供給および停止は、制御部30が図1のリンス液供給系18を制御することにより行われる。
【0052】
塗布処理装置1による塗布処理の初期状態においては、未処理の基板Wが、図1の吸着保持部11により水平姿勢で吸着保持される。このとき、基板Wの回転速度は0に維持される。さらに、カップ15の外周壁部15yの内周面が基板Wの外周端部に対向するように、カップ15が上下方向に位置決めされる。
【0053】
図5に示すように、塗布処理が開始されると、まず基板Wの回転速度が0からs1まで上昇する。また、基板Wの回転速度がs1で維持される。回転速度s1は、例えば0rpm以上2000rpm以下の範囲内に設定される。その後、時点t1から液膜形成工程が開始される。なお、塗布処理の開始時点から時点t1までの期間には、基板Wの上面を改質させるために基板Wの上面上に溶剤が供給されてもよい。この処理は、いわゆるプリウェットである。
【0054】
液膜形成工程においては、時点t1から時点t4までの期間p1で、回転する基板Wの上面に所定量のレジスト液が供給される。このとき、時点t1から時点t3およびt4よりも前の時点t2にかけて基板Wの回転速度がs1よりも高いs2まで上昇する。回転速度s2は、例えば1000rpm以上4500rpm以下の範囲内に設定される。それにより、基板Wの上面の中央部に一定の広がりを有するレジスト液R1のコア(塊)が形成される。また、時点t2から一定期間の経過後、基板Wの回転速度がs1に戻され、時点t3から時点t4までの間、基板Wの回転速度がs1で維持される。それにより、時点t3から時点t4にかけてレジスト液R1のコアが整形される。
【0055】
次に、基板Wへのレジスト液R1の供給が停止された状態で、時点t4から時点t5にかけて基板Wの回転速度がs1からs2まで上昇する。また、時点t5から一定期間の経過後、時点t6にかけて基板Wの回転速度がs1よりも高くs2よりも低いs3まで下降する。回転速度s3は、例えば400rpm以上2500rpm以下の範囲内に設定される。
【0056】
上記の時点t4から時点t6にかけて基板Wの中心から外周端部に向けてレジスト液R1が広がる。それにより、時点t6では、基板Wの上面全体にレジスト液R1の液膜が形成され、液膜形成工程が終了する。
【0057】
次に、液膜乾燥工程が開始される。液膜乾燥工程では、時点t6から時点t9にかけて基板Wの回転速度がs3で維持される。ここで、時点t9においては、基板W上のレジスト液R1全体が乾燥することにより液膜乾燥工程が終了するものとする。
【0058】
液膜乾燥工程の初期の段階では、基板W上に供給されたレジスト液R1の一部(レジスト液R1の液膜の上層部分)は、基板Wの中心から外周端部に向かって広がり、基板Wの外方に飛散する。その後、基板W上のレジスト液R1の溶剤成分の一部が気化することによりレジスト液R1の流動性がなくなると、基板W上のレジスト液R1の液膜の厚みがレジスト膜R2の厚みとしてほぼ決定される。そのため、基板W上のレジスト膜R2の膜厚分布を均一化するためには、基板W上のレジスト液R1の流動性がなくなる時点よりも前に、基板W上に形成されるレジスト膜R2の厚みを調整するための処理を行う必要がある。
【0059】
そこで、図5の例では、時点t6の経過後で基板W上のレジスト液R1の流動性がなくなる時点を時点t8と定義した上で、時点t6から時点t8よりも前の時点t7までの期間p2において、基板Wの下面の非接触部分にリンス液が連続的に供給される。この期間p2は、上記の液供給期間に相当する。以下の説明では、レジスト液R1の流動性がなくなる時点t8を、適宜膜厚プロファイル決定時点と呼ぶ。
【0060】
上記のように、リンス液は、吸着保持部11の温度(本例では室温)以上の温度を有する。そのため、液供給期間(期間p2)においては、基板Wの非接触部分の温度が一時的に上昇する。基板Wの温度が上昇する部分では、レジスト液R1の温度が上昇してレジスト液R1の流動性が低下することにより、レジスト膜R2が厚くなる傾向がある。それにより、基板Wの非接触部分のうち接触部分の近傍に形成されるレジスト膜R2の厚みが接触部分に形成されるレジスト膜R2に比べて小さくなることが抑制される。
【0061】
また、液膜乾燥工程においては、液供給期間(期間p2)の経過後膜厚プロファイル決定時点(時点t8)よりも前に、基板Wの下面に供給されたリンス液が気化する。それにより、一時的に上昇した基板Wの非接触部分の温度が、リンス液の気化熱により調整される。このようにして、基板Wの非接触部分の温度が、時点t6から時点t8にかけて局所的に調整される。その結果、基板W上のレジスト液R1が流動しなくなる膜厚プロファイル決定時点(時点t8)が経過するまでの間に、基板W上のレジスト液R1の膜厚分布を均一にすることができる。
【0062】
なお、室温(例えば23℃)で60cP程度の粘度を有するレジスト液R1を用いて基板W上に4.5μm程度の厚みを有するレジスト膜R2を形成する場合を考える。この場合、時点t6から時点t9までの液膜乾燥工程の期間の長さは、例えば30秒以上90秒以下に設定される。また、時点t6から時点t7までの液供給期間(期間p2)の長さは、例えば1秒以上5秒以下に設定される。
【0063】
液膜乾燥工程のうち時点t8から時点t9までの期間においては、基板W上で流動しないレジスト液R1の溶剤成分の気化が継続して促進される。それにより、液膜形成工程の終了時点で基板W上のレジスト液R1が乾燥する。すなわち、基板W上にレジスト膜R2が形成される。
【0064】
次に、時点t9から時点t11にかけて、基板Wの下面の被接触部分に再度リンス液が供給される。このとき、時点t9から時点t11よりも前の時点t10にかけて基板Wの回転速度がs3よりも低いs4まで低下し、一定期間維持される。さらにその後、基板Wへの溶剤の供給が停止され、基板Wの回転速度がs4よりも高くs3よりも低いs5に変更され、一定期間維持される。
【0065】
上記の時点t9から時点t11にかけての処理は、いわゆるバックリンスである。バックリンスによれば、基板Wの下面に付着したレジスト液R1またはレジストの固形物が溶剤により除去される。
【0066】
最後に、時点t11から時点t12にかけて、基板Wに処理液(リンス液およびレジスト液等)が供給されない状態で基板Wの回転速度が段階的に調整される。それにより、基板Wの全体が乾燥し、塗布処理が終了する。
【0067】
[4]液供給期間(期間p2)の終了時点
上記のように、液供給期間(期間p2)の終了時点(時点t7)は、膜厚プロファイル決定時点(時点t8)よりも前に定められる。ここで、例えば図5の例において、液膜乾燥工程の間、基板Wの回転速度をs3で一定に維持する場合には、基板W上のレジスト液R1の全体の流動性がなくなる前に、液膜の上層部分を流動するレジスト液R1により干渉縞が発生する。この干渉縞は、基板Wの回転速度およびレジスト液R1の種類によって視認することが可能である。
【0068】
そのため、基板W上に発生する干渉縞が消滅する時点は、膜厚プロファイル決定時点とみなすことができる。したがって、上記の干渉縞を確認することが可能である場合、液供給期間(期間p2)の終了時点は、液膜乾燥工程が開始された後、基板W上に発生する干渉縞が消滅するよりも前の時点となるように定めることが好ましい。
【0069】
[5]液膜乾燥工程におけるリンス液の供給開始時点
本発明者らは、液膜乾燥工程におけるリンス液の供給開始時点として好ましい時点が存在するか否かを確認するために、3つの塗布処理方法で3枚の基板W1,W2,W3にレジスト膜R2を形成した。3つの塗布処理方法は、液膜乾燥工程におけるリンス液の供給開始時点が互いに異なる点を除いて、基本的に図5の塗布処理方法と同じである。以下の説明では、液膜乾燥工程において基板Wにリンス液を供給する開始時点をリンス開始時点と呼ぶ。
【0070】
具体的には、本発明者らは、基板W1について液膜乾燥工程の開始時点(図5の時点t6)から3秒後の時点をリンス開始時点として塗布処理を行った。また、本発明者らは、基板W2について液膜乾燥工程の開始時点から6秒後の時点をリンス開始時点として塗布処理を行った。さらに、本発明者らは、基板W3について液膜乾燥工程の開始時点から9秒後の時点をリンス開始時点として塗布処理を行った。基板W1~W3は共通の外形を有する。なお、これらの基板W1~W3の塗布処理においては、液供給期間の長さを6秒とした。
【0071】
その後、本発明者らは、塗布処理後の基板W1~W3について、各基板の中心を通る直線上のレジスト膜R2の膜厚分布を測定した。図6は、好ましいリンス開始時点を確認するための塗布処理が施された3つの基板W1~W3のレジスト膜R2の膜厚分布を示す図である。
【0072】
図6では、基板W1~W3のレジスト膜R2の膜厚分布がグラフによって示される。図6のグラフにおいては、縦軸がレジスト膜R2の膜厚を表し、横軸が各基板W1~W3の中心を通る直線上の位置を表す。なお、横軸においては、「0」は基板W1~W3の中心を表す。また、「150」は基板W1~W3の表面上で基板W1~W3の中心を通る直線の一端部を表し、「-150」は基板W1~W3の表面上で基板W1~W3の中心を通る直線の他端部を表す。
【0073】
さらに、図6のグラフにおいては、実線が基板W1に対応する膜厚分布を示し、一点鎖線が基板W2に対応する膜厚分布を示し、点線が基板W3に対応する膜厚分布を示す。また、図6のグラフにおいては、横軸に「60」および「-60」の数値が付されている。図6の横軸における「60」から「-60」までの範囲CAは、吸着保持部11により保持される基板W1~W3の部分(接触部分)を表す。
【0074】
図6に示すように、基板W1~W3のレジスト膜R2の厚みは、非接触部分における接触部分の両端部近傍で局所的に大きくなっている。ここで、接触部分の両端部近傍のレジスト膜R2の厚みについて基板W1~W3を比較すると、基板W1のレジスト膜R2の厚みは、基板W2,W3のレジスト膜R2の厚みに比べて基板中央部の厚みに近い。一方、基板W2,W3のレジスト膜R2の厚みは、互いにほぼ等しい。
【0075】
これらの結果によれば、リンス開始時点が液膜乾燥工程の開始時点から6秒以上後に設定されている場合には、基板W上に形成されるレジスト膜R2の膜厚分布が均一化されにくいことがわかる。したがって、リンス開始時点は、液膜乾燥工程の開始時点から5秒経過するまでの時間内に設定されることが好ましく、液膜乾燥工程の開始時点から3秒経過するまでの時間内に設定されることがより好ましいことが確認された。それにより、基板W上に形成されるレジスト膜R2の厚みをより均一化することができる。
【0076】
[6]液供給期間の長さ
本発明者らは、液供給期間の長さとして好ましい時間が存在するか否かを確認するために、6つの塗布処理方法で6枚の基板W11,W12,W13,W14,W15,W16にレジスト膜R2を形成した。6つの塗布処理方法は、液膜乾燥工程における液供給期間が互いに異なる点を除いて、基本的に図5の塗布処理方法と同じである。
【0077】
具体的には、本発明者らは、基板W11について液供給期間(図5の期間p2)の長さを3秒に設定して塗布処理を行い、基板W12について液供給期間の長さを4秒に設定して塗布処理を行った。また、本発明者らは、基板W13について液供給期間の長さを5秒に設定して塗布処理を行い、基板W14について液供給期間の長さを6秒に設定して塗布処理を行った。また、本発明者らは、基板W15について液供給期間の長さを9秒に設定して塗布処理を行い、基板W16について液供給期間の長さを12秒に設定して塗布処理を行った。なお、これらの基板W11~W16の塗布処理においては、リンス開始時点は液膜乾燥工程の開始時点(図5の時点t6)から3秒後とした。
【0078】
その後、本発明者らは、塗布処理後の基板W11~W16について、各基板の中心を通る直線上のレジスト膜R2の膜厚分布を測定した。図7は、好ましい液供給期間の長さを確認するための塗布処理が施された6つの基板W11~W16のレジスト膜R2の膜厚分布を示す図である。
【0079】
図7では、基板W11~W16のレジスト膜R2の膜厚分布がグラフによって示される。図7のグラフにおいては、図6の例と同様に、縦軸がレジスト膜R2の膜厚を表し、横軸が各基板W11~W16の中心を通る直線上の位置を表す。また、図7においては、点線が基板W11に対応する膜厚分布を示し、二点鎖線が基板W12に対応する膜厚分布を示し、太い実線がW13に対応する膜厚分布を示す。さらに、太い一点鎖線が基板W14に対応する膜厚分布を示し、一点鎖線が基板W15に対応する膜厚分布を示し、実線が基板W16に対応する膜厚分布を示す。また、図7のグラフにおいては、さらに図6の例と同様に、横軸における「60」から「-60」までの範囲CAが、吸着保持部11により保持される基板W11~W16の部分(接触部分)を表す。
【0080】
図7に示すように、基板W11~W16のレジスト膜R2の厚みは、基板中央部でほぼ等しく、非接触部分における接触部分の両端部近傍で大きく異なる。図7の例によれば、接触部分の両端部近傍のレジスト膜R2の厚みは、液供給期間の長さが短い塗布処理が施された基板ほど小さい。一方、接触部分の両端部近傍のレジスト膜R2の厚みは、液供給期間の長さが長い塗布処理が施された基板ほど大きい。それにより、基板W11~W16の間では、レジスト膜R2の膜厚分布に大きなばらつきが確認された。
【0081】
図8は、好ましい液供給期間の長さを確認するために塗布処理が施された6つの基板W11~W16のレジスト膜R2の膜厚分布の均一性を示す図である。図8では、基板W11~W16のレジスト膜R2の膜厚分布の均一性がグラフによって示される。
【0082】
図8のグラフにおいては、縦軸が均一性を表し、横軸が基板の種類(基板W11~W16)を表す。また、図8のグラフにおいては、基板W11~W16の各々について測定されたレジスト膜R2の複数の部分の厚みに基づいて、均一性として算出されたレンジおよび3σがハッチングおよびドットパターンの帯(bar)によってそれぞれ示される。図8に示されるレンジおよび3σは、値が小さいほどレジスト膜R2の膜厚分布が均一であり、値が大きい程レジスト膜R2の膜厚分布のばらつきが大きいことを表す。
【0083】
図7および図8の結果によれば、基板W14のレジスト膜R2の膜厚分布は、複数の基板W11~W16のレジスト膜R2の膜厚分布のうち最も高い均一性を有する(ばらつきが少ない)ことが確認された。すなわち、液供給期間の長さを6秒に設定して塗布処理を行うことにより、レジスト膜R2の膜厚分布を最も均一にすることが可能であることが確認された。一方、基板W11のレジスト膜R2の膜厚分布は、複数の基板W11~W16のレジスト膜R2の膜厚分布のうち最も低い均一性を有する(ばらつきが大きい)ことが確認された。
【0084】
上記のように、基板上に形成されるレジスト膜R2の膜厚分布は、塗布処理時に設定された液供給期間の長さに応じて大きく異なることがわかる。したがって、液供給期間の長さは、シミュレーションまたは実験等に基づいて、レジスト膜R2の膜厚分布がより均一となるように、より適切に定めることが好ましい。
【0085】
[7]リンス液の供給位置
図1の塗布処理装置1においては、複数の下面ノズル17の各々は、平面視で吸着保持部11の外周端部近傍に配置されている。そのため、各下面ノズル17から吐出されるリンス液は、基板Wの非接触部分のうち吸着保持部11の外周端部に近くかつ基板Wの外周端部から遠い部分に供給される。
【0086】
以下の説明では、基板Wの非接触部分のうち吸着保持部11の外周端部から遠くかつ基板Wの外周端部に近い部分を外側環状部分と呼ぶ。なお、外側環状部分は、基板Wが300mmの直径を有する場合に、基板Wの外周端部から例えば50mm程度内側に位置する。
【0087】
本発明者らは、外側環状部分にリンス液が供給される場合に、レジスト膜R2の膜厚を調整することが可能であるか否かを確認するために、図1の塗布処理装置1の複数の下面ノズル17の位置を変更した。具体的には、本発明者らは、複数の下面ノズル17から吐出されるリンス液が基板Wの外側環状部分に供給されるように、各下面ノズル17を、平面視で吸着保持部11の外周端部よりもカップ15の内周端部に近い位置に配置した。また、本発明者らは、複数の下面ノズル17の位置が変更された塗布処理装置1を用いて、8つの塗布処理方法で8枚の基板W21,W22,W23,W24,W25,W26,W27,W28にレジスト膜R2を形成した。8つの塗布処理方法は、液膜乾燥工程における液供給期間が互いに異なる点を除いて、基本的に図5の塗布処理方法と同じである。
【0088】
具体的には、本発明者らは、基板W21について液供給期間(図5の期間p2)の長さを1秒に設定して塗布処理を行い、基板W22について液供給期間の長さを2秒に設定して塗布処理を行った。また、本発明者らは、基板W23について液供給期間の長さを3秒に設定して塗布処理を行い、基板W24について液供給期間の長さを4秒に設定して塗布処理を行った。また、本発明者らは、基板W25について液供給期間の長さを5秒に設定して塗布処理を行い、基板W26について液供給期間の長さを6秒に設定して塗布処理を行った。さらに、本発明者らは、基板W27について液供給期間の長さを9秒に設定して塗布処理を行い、基板W28について液供給期間の長さを12秒に設定して塗布処理を行った。なお、これらの基板W21~W28の塗布処理においては、リンス開始時点は液膜乾燥工程の開始時点(図5の時点t6)から3秒後とした。
【0089】
その後、本発明者らは、塗布処理後の基板W21~W28について、各基板の中心を通る直線上のレジスト膜R2の膜厚分布を測定した。図9は、基板Wの外側環状部分へのリンス液の供給によりレジスト膜R2の膜厚を調整することが可能であるか否かを確認するための塗布処理が施された8つの基板W21~W28のレジスト膜R2の膜厚分布を示す図である。
【0090】
図9では、基板W21~W28のレジスト膜R2の膜厚分布がグラフによって示される。図9のグラフにおいては、図6の例と同様に、縦軸がレジスト膜R2の膜厚を表し、横軸が各基板W21~W28の中心を通る直線上の位置を表す。また、図9においては、点線が基板W21に対応する膜厚分布を示し、二点鎖線が基板W22に対応する膜厚分布を示し、一点鎖線がW23に対応する膜厚分布を示し、実線が基板W24に対応する膜厚分布を示す。さらに、太い点線が基板W25に対応する膜厚分布を示し、太い二点鎖線が基板W26に対応する膜厚分布を示し、太い一点鎖線が基板W27に対応する膜厚分布を示し、太い実線が基板W28に対応する膜厚分布を示す。また、図9のグラフにおいては、さらに図6の例と同様に、横軸における「60」から「-60」までの範囲CAが、吸着保持部11により保持される基板W21~W28の部分(接触部分)を表す。
【0091】
図9に示すように、基板W21~W28の非接触部分に形成されたレジスト膜R2の厚みは互いに異なる。具体的には、図9のグラフによれば、非接触部分のレジスト膜R2の厚みは、液供給期間の長さが短い塗布処理が施された基板ほど小さく、液供給期間の長さが長い塗布処理が施された基板ほど大きい。さらに、これらの厚みの差は、基板Wの外周端部に近づくにつれて大きくなっている。これにより、基板Wの外側環状部分へリンス液を供給する場合でも、液供給期間の長さを適宜調整することにより、基板Wの非接触部分に形成されるレジスト膜R2の膜厚を調整することが可能であることが確認された。
【0092】
[8]効果
(1)本実施の形態に係る塗布処理装置1においては、塗布処理時に、回転する基板Wの上面にレジスト液が供給される。基板Wの上面に供給されたレジスト液R1は、遠心力により基板Wの上面を流れる。液供給期間中に基板Wの非接触部分にリンス液が供給される。液供給期間中に基板Wに供給されたリンス液の少なくとも一部は、膜厚プロファイル決定時点が経過するまでの間に気化する。この場合、基板Wの非接触部分の温度が、リンス液の気化に伴って発生する気化熱により高い効率で調整される。
【0093】
基板Wの非接触部分の温度が適切に調整されることにより、基板Wの半径方向に流れるレジスト液の移動状態に局所的な変化が生じることを抑制することができる。それにより、基板W上に形成されるレジスト膜R2の厚みを均一化することができる。液供給期間は、基板Wへのレジスト液R1の供給が停止されてから膜厚プロファイル決定時点までの間の期間に比べて短い。したがって、レジスト膜R2の厚みを均一化するために、基板W上をレジスト液R1が流動する期間中継続してリンス液を基板Wに供給する必要がない。その結果、レジスト膜R2の厚みによらず膜厚分布を低コストで均一化することが可能になる。
【0094】
(2)上記のように、基板W上に発生する干渉縞が消滅する時点は、膜厚プロファイル決定時点とみなすことができる。したがって、干渉縞の発生および消滅の状態を予め確認しておくことにより、液供給期間を容易かつ適切に設定することができる。
【0095】
(3)本実施の形態に係る塗布処理装置1による塗布処理においては、液供給期間の長さは、10秒以下であることが好ましい。これにより、リンス液の消費量をさらに低減することができる。したがって、レジスト膜R2の膜厚分布をより低コストで均一化することが可能になる。
【0096】
(4)上記のように、リンス開始時点は、液膜形成工程の開始時点から5秒以内となるように定められることが好ましい。この場合、基板Wの温度をより適切に調整することが可能になる。それにより、基板W上に形成されるレジスト膜R2の膜厚分布をより均一化することができる。
【0097】
(5)図1の塗布処理装置1においては、複数の下面ノズル17の各々から吐出されるリンス液は、基板Wの非接触部分のうち吸着保持部11の外周端部に近くかつ基板Wの外周端部から遠い位置に供給される。すなわち、リンス液は、基板Wの下面のうち基板Wの接触部分と外周部との間の領域に供給される。これにより、基板Wの非接触部分のうち接触部分の近傍に位置する部分の温度をより適切に調整することができる。
【0098】
[9]他の実施の形態
(1)上記実施の形態に係る塗布処理装置1においては、複数の下面ノズル17は塗布処理装置1の筐体に固定されているが、本発明はこれに限定されない。図10は、他の実施の形態に係る塗布処理装置1の一構成例を示す模式的断面図である。図10の塗布処理装置1は、当該塗布処理装置1が下面ノズル駆動部81を備える点を除いて図1の塗布処理装置1と同じ構成を有する。
【0099】
図10に太い矢印で示すように、下面ノズル駆動部81は、複数の下面ノズル17の各々を基板Wの半径方向に移動させることが可能に構成され、制御部30により制御される。この構成によれば、基板Wの種類およびレジスト液の種類等の各種条件に応じて、基板Wの下面におけるリンス液の供給位置を調整することができる。また、液供給期間中にリンス液の供給位置を移動させることもできる。したがって、基板Wの温度調整の自由度が向上する。
【0100】
(2)上記実施の形態に係る塗布処理装置1においては、複数の下面ノズル17から基板Wに供給されるリンス液の温度は吸着保持部11の温度以上であるが、本発明はこれに限定されない。基板Wに供給されるリンス液の温度は吸着保持部11の温度よりも低くてもよい。
【0101】
また、塗布処理装置1は、基板Wに供給されるリンス液の温度を調整可能に構成されてもよい。図11は、他の実施の形態に係る塗布処理装置1の他の構成例を示す模式的断面図である。図11の塗布処理装置1は、当該塗布処理装置1が温度調整部82を備える点を除いて図1の塗布処理装置1と同じ構成を有する。
【0102】
図11に示すように、温度調整部82は、リンス液供給系18から下面ノズル17に供給されるリンス液の温度を予め設定された温度に調整可能に構成され、制御部30により制御される。この構成によれば、基板Wの種類およびレジスト液の種類等の各種条件に応じて、基板Wの下面に供給されるリンス液の温度を適切に調整することができる。
【0103】
(3)上記実施の形態に係る塗布処理においては、液供給期間中、基板Wの下面にリンス液が連続的に供給されるが本発明はこれに限定されない。基板Wの下面へのリンス液の供給は、液供給期間中断続的に行われてもよい。
【0104】
(4)上記実施の形態に係る塗布処理においては、基板Wの非接触部分の温度を調整するためにリンス液として溶剤が用いられるが、本発明はこれに限定されない。基板Wの非接触部分の温度を調整するためのリンス液として、溶剤に代えてレジスト膜R2を溶解不可能な純水が用いられてもよい。
【0105】
(5)上記実施の形態に係る塗布処理装置1においては、基板Wの下面にリンス液を供給するために4つの下面ノズル17が設けられるが、本発明はこれに限定されない。基板Wの下面にリンス液を供給する下面ノズル17は、1つであってもよいし、2つであってもよいし、3つであってもよい。あるいは、下面ノズル17の数は5以上であってもよい。
【0106】
(6)上記実施の形態に係る塗布処理装置1においては、塗布液として基板Wにレジスト液R1が供給されるが、本発明はこれに限定されない。塗布処理装置1においては、反射防止膜用の塗布液が基板Wに供給されてもよい。あるいは、塗布処理装置1においては、SOC(Spin On Glass)膜、SOG(Spin On Glass)膜またはSiARC(Si-rich Anti Reflective Coating)膜用の塗布液が基板Wに供給されてもよい。
【0107】
(7)上記実施の形態に係る塗布処理装置1においては、複数の下面ノズル17がバックリンスのためのリンス液の供給装置として用いられるが、本発明はこれに限定されない。塗布処理装置1は、上記の複数の下面ノズル17に加えて、バックリンス専用の1または複数のノズルを有してもよい。この場合、複数の下面ノズル17を、基板Wの温度を調整するためにより適した位置に設けることができる。また、バックリンス専用の1または複数のノズルを、基板Wの下面に付着するレジスト液R1またはレジスト膜R2を除去するためにより適した位置に設けることができる。その結果、基板W上に形成されるレジスト膜R2の膜厚の均一性を向上させることができるとともに、基板Wの下面をより清浄に保つことが可能になる。
【0108】
[10]請求項の各構成要素と実施の形態の各要素との対応関係
以下、請求項の各構成要素と実施の形態の各要素との対応の例について説明する。上記実施の形態では、基板Wの接触部分が基板の下面中央部の例であり、回転保持装置10が回転保持部の例であり、液供給装置20が塗布液供給部の例であり、基板Wの非接触部分が基板の下面環状部の例であり、複数の下面ノズル17およびリンス液供給系18がリンス液供給部の例である。
【0109】
また、液膜形成工程においてレジスト液R1の供給が停止される時点(図5の時点t4)が第1の時点の例であり、膜厚プロファイル決定時点(図5の時点t8)が第2の時点の例であり、制御部30が制御部の例であり、塗布処理装置1が塗布処理装置の例であり、液膜形成工程の終了時点でありかつ液膜乾燥工程の開始時点である時点(図5の時点t6)が第3の時点の例である。請求項の各構成要素として、請求項に記載されている構成または機能を有する他の種々の要素を用いることもできる。
【符号の説明】
【0110】
1…塗布処理装置,10…回転保持装置,11…吸着保持部,11u…上面,12…回転軸,13…回転駆動部,14…吸引装置,15…カップ,15d…ドレイン,15x…底部,15y…外周壁部,16…排液案内管,17…下面ノズル,17b…液吐出口,18…リンス液供給系,20…液供給装置,21…レジストノズル,22…塗布液供給系,30…制御部,81…下面ノズル駆動部,82…温度調整部,CA…範囲,h…吸引孔,p1,p2…期間,R1…レジスト液,R2…レジスト膜,vp…吸気経路,W,W1,W2,W3,W11,W12,W13,W14,W15,W16,W21,W22,W23,W24,W25,W26,W27,W28…基板
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