(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022017870
(43)【公開日】2022-01-26
(54)【発明の名称】掘削作業支援システム
(51)【国際特許分類】
G01V 1/00 20060101AFI20220119BHJP
G01V 1/28 20060101ALI20220119BHJP
【FI】
G01V1/00 C
G01V1/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020120681
(22)【出願日】2020-07-14
(71)【出願人】
【識別番号】302060926
【氏名又は名称】株式会社フジタ
(71)【出願人】
【識別番号】592036391
【氏名又は名称】株式会社地球科学総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100089875
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 茂
(72)【発明者】
【氏名】村山 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】新井 智之
(72)【発明者】
【氏名】上野 博務
(72)【発明者】
【氏名】福田 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】谷川 学
(72)【発明者】
【氏名】川崎 慎治
(72)【発明者】
【氏名】今野 政明
(72)【発明者】
【氏名】田中 康久
(72)【発明者】
【氏名】菅原 宗
(72)【発明者】
【氏名】由井 紀光
【テーマコード(参考)】
2G105
【Fターム(参考)】
2G105AA02
2G105BB01
2G105CC01
2G105DD02
2G105EE01
2G105EE02
2G105GG03
2G105LL04
2G105LL05
(57)【要約】
【課題】トンネル掘削作業現場における作業領域近傍の地質性状をより直感的に誰もが理解可能に提示する。
【解決手段】掘削作業支援システム10は、トンネル掘削工事における掘削作業を支援する。地質評価部161は、トンネル掘削工事に付随する作業によって発生する発破振動を用いて、切羽前方の地質を予測する。地質予測部162は、地質の予測結果に基づいて切羽前方の所定範囲内の地質を評価する。予測表示部164は、地質予測部162の評価結果を表示する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネル掘削工事における掘削作業を支援する掘削作業支援システムであって、
前記トンネル掘削工事に付随する作業によって発生する地盤振動を用いて、切羽前方の地質を評価する地質評価部と、
前記地質の評価結果に基づいて前記切羽前方の所定範囲内の地質性状を予測する地質予測部と、
前記地質予測部の予測結果を表示する予測表示部と、
を備えたことを特徴とする掘削作業支援システム。
【請求項2】
前記地質予測部は、前記地盤振動が発生する毎に前記地質性状の予測結果を更新する、
ことを特徴とする請求項1記載の掘削作業支援システム。
【請求項3】
前記地質予測部は、予測対象の前記切羽前方の範囲内における前記地質の変化の大小に基づいて予測結果をラベリングする、
ことを特徴とする請求項1または2記載の掘削作業支援システム。
【請求項4】
前記地質予測部は、直近の作業日に前記トンネル掘削工事が行われる前記切羽前方の範囲の前記地質性状を予測する、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の掘削作業支援システム。
【請求項5】
前記予測表示部は、前記予測結果とともに直近の作業日における前記トンネル掘削工事の注意点を表すテキスト情報を表示する、
ことを特徴とする請求項4記載の掘削作業支援システム。
【請求項6】
前記地質予測部による地質性状の予測結果または前記地質評価部による地質の評価結果の少なくとも一方に対するフィードバックをユーザから受け付けるフィードバック受付部を更に備える、
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項記載の掘削作業支援システム。
【請求項7】
前記地質評価部は、
前記トンネルの坑内に設置され、前記トンネル掘削工事の施工に付随する作業によって発生する地盤振動を震源として、当該震源からの直接波と、前記切羽前方の地質変化による境界面で反射した反射波とを受信する受振器から受振記録を取得し、自己相関を用いた地震波干渉法により解析して前記反射波から前記直接波走時を除去することにより得られる、震源を仮想受振点とする複数の反射波の重ね合わせにより、前記切羽前方の地質を評価する、
ことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項記載の掘削作業支援システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル掘削工事における掘削作業を支援する掘削作業支援システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トンネル工事等の掘削作業を伴う工事現場では、事前に地質調査を行って工事箇所周辺の地質分布を把握した上で作業計画を作成している。一方で、実際の地質分布は事前の地質調査結果と異なる場合があり、工事施工中も随時地質探査を行って工事の安全性向上や作業進捗の効率化を図ることが有益となる。
例えば、下記特許文献1は、専用の人工震源なしでトンネルの掘削工事における切羽の前方の地質を高精度で探査可能とする方法である。より詳細には、トンネルの坑内に所定間隔で複数の受振手段を設置し、トンネル掘削工事の施工に付随する作業によって発生する地盤のノイズ振動を震源として、この震源からの直接波と、切羽前方の地質変化による境界面で反射した反射波を前記受振手段で受振し、その受振記録を地震波干渉法により解析して前記反射波から前記直接波を減算することにより前記切羽前方の地質状況を予測する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
トンネル工事現場では、掘削作業の進捗により作業箇所が日々変化し、地質探査を行った結果も日々更新されていく。このような地質探査結果を、例えば専門知識のない作業者に対しても直観的に理解できるように提示し、作業に活かすことが望まれる。
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、その目的は、トンネル掘削作業現場における作業領域近傍の地質性状をより直感的に理解可能に提示することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の目的を達成するため、本発明にかかる掘削作業支援システムは、トンネル掘削工事における掘削作業を支援する掘削作業支援システムであって、前記トンネル掘削工事に付随する作業によって発生する地盤振動を用いて、切羽前方の地質を評価する地質評価部と、前記地質の評価結果に基づいて前記切羽前方の所定範囲内の地質性状を予測する地質予測部と、前記地質予測部の予測結果を表示する予測表示部と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、トンネル掘削現場における作業領域近傍の地質性状をより直感的に理解可能に表現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施の形態にかかる掘削作業支援システムの構成を示すブロック図である。
【
図2】掘削作業支援システムにおける処理手順を示すフローチャートである。
【
図3】予測表示部による表示画面の一例を示す説明図である。
【
図4】トンネル坑内での機器類の配置と前方地山性状を模式的に表した説明図である。
【
図5】切羽位置での掘削発破の振動が受振点において直接波と切羽前方地山からの反射波となることを示す説明図である.
【
図6】
図5によって得られる振動を地震波干渉法の原理に基づき時刻「0」=「発破を実施した切羽位置」における自己相関処理を示す説明図である。
【
図7】1発の発破によって得られる自己相関処理波形の重ね合わせの概念を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に添付図面を参照して、本発明にかかる掘削作業支援システムの好適な実施の形態を詳細に説明する。
まず、実施の形態にかかる掘削作業支援システム10(
図1参照)における地質予測の概要について説明する。
実施の形態にかかる作業支援システム10は、トンネル掘削工事に付随する作業によって発生する地盤振動を用いて、切羽前方の地質を評価するとともに、地質性状の予測を行い、その予測結果を表示する。
【0009】
地盤振動は、例えば以下のような作業によって発生する。
すなわち、ダイナマイトなどの爆薬を用いて発破することにより掘削する発破掘削トンネルの施工では、例えば発破孔の穿孔、発破、重ダンプなどによるずり運搬、こそく(掘削によって切羽に現れた浮き石を取り去り、切羽を整形する作業)、ロックボルトのボアホール穿孔などの作業により地盤振動が発生する。また、自由断面掘削機、大型ブレーカあるいはトンネルボーリングマシン(TBM)などを用いて掘削する機械掘削トンネルの施工では、例えば機械掘削、ホイルローダや重ダンプなどによるずり運搬、ロックボルトのボアホール穿孔などの作業により地盤振動が発生する。
【0010】
これらの作業で発生する地盤振動のデータを
図4に示すように受振器12で受振して記録装置14に取り込み、そのデータを坑外の現場事務所等に設置された管理装置16(ワークステーション。
図1参照)で、地震波干渉法(自己相関)を用いた波形処理により解析して、切羽Fの前方の地質性状の予測を行う。
【0011】
ここで、地震波干渉法とは、1968年にClaerboutによって一次元モデルにおける反射記録が自己相関(auto-correlation)から導かれることが示され、2006年頃から物理探査分野で急速に注目されはじめたもので、異なる受振点で観測された振動記録の相互干渉により、あたかも一つの受振点位置を仮想的な震源として、他の受振点で観測を行ったような振動波形を合成することができる波形信号処理手法である。すなわち地震波干渉法によれば、受振点を仮想的な発震点あるいは発震点を仮想的な受振点として振動波形を合成できるので、特別な震源を用いなくても、従来ノイズとされてきた上述のような振動記録を地盤探査に有効に活用することができる。
【0012】
自己相関は、波形信号処理において時間領域信号又は空間領域信号等の関数または数列を解析するためにしばしば用いられる数学的手法であって、信号がそれ自身を時間シフトした信号とどれだけ良く整合するかを測る尺度であり、時間シフトの大きさの関数として表されるもので、シフト量ゼロのときに最大となる。言い換えれば、自己相関とは、ある信号のそれ自身との相互相関であって、信号に含まれる繰り返しパターンを探すのに有用であり、周期性を有する場合はその周期毎に値が大きくなるので、例えば、ノイズに埋もれた周期的信号の存在を判定したり、信号中の失われた基本周波数を倍音周波数による示唆に基づいて同定したりするために用いられる。
【0013】
掘削作業支援システム10は、例えば掘削発破における1発震点のデータを入力として自己相関解析を行う。段発10発の場合、取得データ長は例えば10秒とする。これは、段発10発の振動がすべて含まれる時間である。
掘削発破によって生じた振動パターンは、反射した波形にも基本的にパターンとして含まれるため、掘削発破時の観測波形に対し、自己相関を計算することにより、段発発破の発破間隔(200~250ミリ秒)で同一パターンが反射されることとなる、反射波に相当するパターンの値は大きくなり、また切羽Fから受振点までの到達時間は相殺されるので、切羽Fからの到達時間を示す波形に変換することができる。
よって、取得されたデータ長10秒のうち1発目の振動のみが記録され2発目の発破が起爆しない時間長として、200~250ミリ秒(10-3秒)程度を処理時間長(以下「ゲート長」と称する)としている。
【0014】
より詳細には、作業支援システム10は、
図4に示すように、本願の発明者らが先に開発したトンネル浅層反射法探査(SSRT:Shallow Seismic Reflection Survey for Tunnels)のうち、切羽Fでの段発発破を震源として坑内で連続的に振動を観測する連続SSRTにおいて自己相関を用いる地震波干渉法により解析を行う。
【0015】
すなわち、
図4に示すトンネルTは山岳地帯で施工され、切羽Fを、数メートル間隔で発破することによって掘り進められるものである。発破によって発生する地山振動のデータを取り込む受振器12は、たとえばジオフォンなどの小型地震計からなるものであって、坑内に設置され、記録装置14に接続されている。本実施の形態では、受振器12は坑内に1つ設置されているものとするが、地質予測の精度を向上させるために受振器12を複数設けてもよい。
【0016】
SSRTや連続SSRTと呼ばれる従来の手法(波形処理手法はVSPと呼ばれる手法)と本実施の形態における地震波干渉法(波形処理方法は自己相関処理、以下通称として「発破干渉法」という)とは、同じように掘削の段発発破を震源とした探査が可能であるが、前者は受振器が複数個(通常12ch)必要であるのに対して、後者は1つでよい。
また、従来手法では発破毎の発破時刻を記録する必要があるが、本実施の形態で用いる発破干渉法では発破時刻の記録不要である。より詳細には、波形処理のためのデータ切り出しの際に発破時刻を記録した方が効率的ではあるが、自己相関処理上必ず必要なデータではない。
このように、発破干渉法は、従来手法(連続SSRT等)より簡易かつ機器のダウンサイジングを図ることができる(例えば設置する受振器が1台である、発破時刻を記録するための正確な時計(例えば原子時計等)が必要ない)というメリットがある。
【0017】
図4に示す構成において、トンネルTの切羽Fを発破掘削するために、切羽Fの前方の地山へ穿孔された発破孔(図示なし)内に装填された爆薬が、発破装置19から雷管への起爆電流によって炸裂すると、その発破点Pが起震源となり、それによる弾性波が受振器12により受振され、受振データ(受振記録)が記録装置14に記録されると共に、記録装置14から坑外の現場事務所等に設置された管理装置16(ワークステーション)へ送られる。管理装置16では、受振データに基づいて弾性波の伝搬時間を算出する。
【0018】
このとき、
図4に示すように、地山中に破砕帯や断層などによる地質変化部分Qが存在する場合は、発破点Pを起震源とする弾性波の一部は、地質変化部分Qの境界面で反射するので、受振器12は、発破点Pからの直接波のほか、地質変化部分Qからの反射波を受振することができる。そしてこの場合の受振器12の受振データは、
図5に示すように、発破点Pから各反射面までの距離情報が含まれたものとなる。
【0019】
詳しくは
図5において、T1は、切羽F上の発破点Pで発生した弾性波が直接、坑内側受振器12に到達するまでの直接波の走時であり、T2は、発破点Pで発生した弾性波が切羽Fの前方地山内の地質変化部分Qによる反射面で反射して坑内側受振器12に到達するまでの反射波の走時である。
【0020】
図5から、反射波の走時T2は、切羽F上の発破点Pで発生した弾性波が地質変化部分Qによる反射面で反射して切羽Fへ戻るまでの走時T3と、直接波の走時T1の和、すなわち
T2=T1+T3
であることがわかる。
【0021】
したがって
図6に示すように、時刻0(発破時刻)における自己相関関数を次式;
【0022】
【0023】
により算出でき、最大の値(矢印A0)となる。また、発破時刻から走時tのT3経過時点(坑内側受振器12による反射波の受振時点)における自己相関関数を次式;
【0024】
【0025】
により算出していくと、走時T3の時に再び大きな値(矢印At)となる。反射波の走時T2から直接波の走時T1を除去すれば、この時刻が、切羽F上の発破点Pを受振点と仮定した場合の反射波の走時に対応していることから、T3が反射波の往復走時として得られることになる。したがって、弾性波の伝播速度をVとすれば、
図5に示す発破点Pから反射面までの距離Lは、
L=V×T3/2
として求めることができる。
【0026】
図7は、1発の発破によって得られる自己相関処理波形の重ね合わせの概念を示すものである。すなわち
図7Aに示すように、切羽F(F1,F2・・・)の位置を掘削方向前方に所定距離ずらしながら発破すると、受振器12が直接波を受信してから反射波を受信するまでの時間は、
図7Bの受振波形の重ね合わせに示すように、切羽位置Fが地質変化部分Qからの距離が近いほど早く(走時が短く)なる。
【0027】
そこで、上述のような自己相関処理を行うことによって、
図7Bの受振波形の重ね合わせに示すように、切羽F(発破点)を仮想受振点とする振動記録が得られ、これは切羽前方に存在する断層や破砕帯等の地質変化部分Qの反射構造を反映するものとなる。
すなわち、
図7は、1発の発破と1か所の受振点で得られる発破切羽位置からの自己相関処理波形と切羽Fに進行に伴いその処理記録が蓄積されることによって複数記録を連続的に表現することが可能となり、これらの発破毎に蓄積されたデータを重合することによって精度を向上させることが期待できることを示している。
【0028】
したがって、この手法によれば、発破時刻の記録が不要であり、1発の発破でも複数の受振点によって切羽前方からの複数の反射記録を得て重ね合わせることができ、段発発破を震源として用いることによって、受振点が1カ所でも解析可能であるといったメリットがある。
【0029】
つぎに、掘削作業支援システム10の構成について説明する。
図1は、実施の形態にかかる掘削作業支援システムの構成を示すブロック図である。
掘削作業支援システム10は、受振器12、記録装置14、管理装置16および作業者端末18を備える。
受振器12は、上述のようにトンネルの坑内に設置され、トンネル掘削工事の施工に付随する作業によって発生する地盤振動を震源として、当該震源からの直接波と、切羽前方の地質変化による境界面で反射した反射波とを受信する。
受振器12は、坑内に少なくとも1つ設けられていればよい。
【0030】
記録装置14は、受振器12により受振された受振データを記録する。
本実施の形態では、記録装置14に対してトリガー設定を行い、ある大きさ以上の振動=振幅データの波形のみ指定時間内(例えば10秒間)データを取得する。
管理装置16(より詳細には、波形処理部160)は、例えば数十分毎に記録装置14に受振データが記録されてないかを確認する。受振データが記録装置14の指定フォルダにあれば、管理装置16が受振データを読み出す。
【0031】
管理装置16は、坑外の現場事務所や遠隔地にある施工事業者社屋等に設置されたワークステーションであり、CPU、制御プログラムなどを格納・記憶するROM、制御プログラムの作動領域としてのRAM、各種データを書き換え可能に保持するEEPROM、周辺回路等とのインターフェースをとるインターフェース部、画像やテキストなどの情報を表示するディスプレイなどを含んで構成される。
【0032】
管理装置16は、上記CPUが上記制御プログラムを実行することにより、波形処理部160、地質評価部161、地質予測部162、予測表示部164およびフィードバック受付部166を実現する。
【0033】
波形処理部160は、記録装置14からの受振データの読み出し、後段の解析処理に必要なデータ部分の切り出し、および解析処理等を行う。
【0034】
地質評価部161は、トンネル掘削工事に付随する作業によって発生する地盤振動を用いて、切羽前方の地質を評価する。より詳細には、地質評価部161は、受振器12から取得した受振データについて、自己相関を用いた地震波干渉法により解析して反射波から直接波走時を除去することにより得られる、震源を仮想受振点とする複数の反射波の重ね合わせにより、切羽前方の地質状況を評価する。
【0035】
地質予測部162は、地質評価部161における地質の評価結果に基づいて、切羽前方の所定範囲内の地質性状を予測する。
本実施の形態では、地質予測部162は、予測対象の前記切羽前方の範囲内における前記地質の変化の大小に基づいて予測結果をラベリングする。すなわち、地質予測部162は、地質評価部161における地質の評価結果に対して「晴れ」「雨」等のラベリングを行うことにより、作業者により分かりやすく地質状況を伝えることを可能とする。
より詳細には、本実施の形態では、地質予測部162は、予測対象範囲内における地質の変化が小さいほど予測対象範囲に対してポジティブなラベリングを行う。上述のように、地質評価部161による評価は、切羽前方に存在する断層や破砕帯等の地質変化部分の位置を検出するものである。トンネル掘削作業中に切羽付近の地質が変化すると、地質に応じて掘削方法を変更する必要があり、作業効率が低下する。よって、地質予測部162は、予測対象範囲内に地質変化箇所が含まれている場合には予測対象範囲に対して相対的にネガティブなラベリングを行い、予測対象範囲内に地質変化箇所が含まれていない場合には予測対象範囲に対してポジティブなラベリングを行う。
【0036】
地質予測部162は、例えば地質変化が小さい場合を「晴れ」、地質変化が中程度の場合を「曇り」、地質変化が大きい場合を「雨」のように天気予報を模擬した表現とし、作業者等が予測結果を見た際に、当日の作業範囲の地質状況をより直感的に把握できるようにしてもよい。
【0037】
なお、地質評価部161は切羽前方の数百メートルの範囲に渡って地質を評価することが可能であるが、地質予測部162は、例えば直近の作業日にトンネル掘削工事が行われる切羽前方の範囲の地質性状を予測するようにしてもよい。1日に掘削が行われる範囲は、その箇所の地質等に左右されるが、一般に数メートル(1m~5m)程度と考えられる。
また、例えば直近の作業日を含む所定日数分(例えば1週間など)の工事範囲内における地質を予測してもよい。
【0038】
ここで、地質評価部161は、振動が発生する毎(本実施の形態では発破が実施される毎)に当該ノイズ振動の受振データを用いて地質を評価する。また、地質予測部162は、評価結果が更新される都度、切羽前方の地盤性状の予測を再度行う。すなわち、地質評価部161および地質予測部162は、地盤振動が発生する毎に地質の評価結果および地質性状の予測結果を更新する。このように、掘削発破の都度得られる受振データを用いて繰り返し評価および予測することによって、受振器12が少数であっても地質性状の予測精度を向上させることができる。
【0039】
予測表示部164は、地質予測部162の予測結果を表示する。予測表示部164は、例えば管理装置16のディスプレイ上に地質予測部162による予測結果を表示する。
また、予測表示部164は、地質の予測結果とともに直近の作業日におけるトンネル掘削工事の注意点を表すテキストを表示するようにしてもよい。例えば、当該作業日における作業範囲が地質変化の少ない領域である場合には「本日は地質が安定しています。どんどん作業を進めましょう」等のコメントを、地質変化が多い領域である場合には「本日は地質が不安定です。注意して作業を進めて下さい」等のコメントを表示する。
これにより、地質の予測結果をどのように作業に活かせばよいかを作業者に具体的に提示することができ、地質探査の有用性を向上させることができる。
【0040】
また、予測表示部164は、例えば事前の地質調査結果に基づいて、直近の作業日にトンネル掘削工事が行われる範囲における地質の種類を特定し、地質の種類によって注意点の内容を変えるようにしてもよい。例えば、切羽前方30m地点に不良地質による地質変化部分が予測される場合には「切羽先方に不安定地山あり。切羽は晴れ(安定)から雨(不良)に移行するでしょう」などのコメントを表示する。また、例えば不良地質箇所を通過し、しばらく安定した地質が続く場合には「既に切羽は不良箇所を通過し、この先〇〇日は快晴(良好地山)が続くでしょう」などのコメントを表示する。
このように、地質変化箇所に加えて地質の種類を考慮したコメントを表示することによって、作業者等が工事作業をより適切に行うことができ、地質探査の有用性をより向上させることができる。
【0041】
図3は、予測表示部による表示画面の一例を示す説明図である。
図3に示す表示画面300には、地形断面
図302、推定地質分布304、振動毎地質評価306、切羽位置情報308、切羽予報表示部310および後述するフィードバック入力部312が表示されている。
【0042】
地形断面
図302は、トンネル掘削工事が行われる山をトンネル軸断面で切断した断面図が表示される。図に示すトンネルは、図中右から左に向かって掘削されており、全長は約1900m程度である。図中の矢印は現在の切羽位置を示す。後述する切羽位置情報308にも表示されるように、
図3の例では切羽は坑口から1000mの位置にある(TD=1000m)。
推定地質分布304は、後述する振動毎地質評価306を重ね合わせて推定した地質分布である。
振動毎地質評価306は、トンネル掘削時の発破毎に得られた受振データに基づく地質の評価結果である。
図3の例では12個の地質評価M1~M12を図示している。地質評価M12は最新の発破(TD=1000m)の振動に基づく評価結果であり、地質評価M1~M11は過去の発破の振動に基づく評価結果(例えばM1はTD=約400mにおける発破振動に基づく評価)である。
振動毎予測地質306に表示する予測地質の数は、ユーザの視認性を考慮して決定すればよい。発破が生じる毎に、下段側(予測地質M12側)に新規の地質評価が表示されていく。
なお、推定地質分布304を推定するのに用いる地質評価は直近の予測結果の所定個、などとしてもよい。これは、切羽の位置は発破が進む毎に深くなっていくため、トンネルの深い位置における地質は、初期の発破による予測結果よりも直近の発破による予測結果の方が精度が高いと考えられるためである。
【0043】
切羽位置情報308は、坑口から切羽までの位置(トンネル深さ:TD)であり、
図3の例では1000mとなっている。
切羽予報表示部310は、推定地質分布304に基づいて切羽前方の所定範囲内の地質性状を予測した結果を表示する。
図3の例では、当日の作業範囲の地質を3段階に評価しており、地質変化が小さい場合を「晴れ」、地質変化が中程度の場合を「曇り」、地質変化が大きい場合を「雨」と表現している。
図3の例では、「晴れ」が他の項目と異なる色で表示され、現在の切羽予報が「晴れ」であることがわかる。
【0044】
なお、
図3に示す各項目の表示方法は、図示したものに限らず従来公知の様々な態様を適用可能である。例えば発破毎に推定地質分布304および切羽予報表示部310を更新し、その内容を作業者端末18にメールで送信(または専用アプリケーション上に表示)してもよい。
【0045】
図1の説明に戻り、フィードバック受付部166は、地質予測部162による地質の予測結果に対するフィードバック(評価)を作業者等のユーザから受け付ける。
フィードバック受付部166は、例えば予測表示部164による予測結果の提示と併せて、当該予測に対するフィードバックを入力するための入力ボタンを提示する。
例えば
図3の例では、切羽予報表示部310の下に、〇ボタン312A、△ボタン312B、×ボタン312からなるフィードバック入力部312を表示している。ユーザ(作業者等)は、予測結果が実際の地質と一致している場合には〇ボタン312Aを押下する。また、予測結果と実際の地質とが一部異なる場合には△ボタン312Bを、全く異なる場合には×ボタン312Cを、それぞれ押下する。なお、より詳細に実際の地質との差異を入力できるようにしてもよい。
ユーザから受け付けたフィードバックは管理装置16に記憶され、例えば地質評価部161における地質評価アルゴリズムや地質予測部162における地質予測アルゴリズムに反映される。
具体的には、例えばフィードバックに基づく平均弾性波速度Vの見直しが考えられる。地質変化点が予測よりも早めに切羽に出現した場合、弾性波速度としてやや早い速度を採用していることとなり、予測よりも遅めに出現した場合、弾性波速度としてやや遅い速度を採用していることになる。フィードバックが一定程度蓄積した段階で、平均弾性波速度V等のパラメータを再検討し、必要に応じて調整する。
【0046】
作業者端末18は、トンネル掘削工事に従事する作業者等が作業中に保持する携帯情報処理端末であり、タブレット端末やノートパソコン、スマートフォン等である。
作業者端末18は、予測表示部180およびフィードバック受付部182を備える。予測表示部180およびフィードバック受付部182の機能は、それぞれ管理装置16の予測表示部164およびフィードバック受付部166の機能と同じである。
作業者端末18から切羽前方の地質予測を確認できることにより、実際に作業に従事する作業者が容易に地質情報にアクセスすることができ、地質情報をより有効に活用することができるとともに、トンネル掘削作業をより効率的に実施することができる。
なお、例えば管理装置16上で地質予測を確認できれば足りる場合は、作業支援システム10に作業者端末18を含める必要はない。また、管理装置16上で地質予測を確認できなくてもよい場合には、作業者端末18にのみ予測表示部180やフィードバック受付部182を設けるようにしてもよい。
【0047】
図2は、作業支援システムにおける処理手順を示すフローチャートである。
切羽の掘削発破が行われると、受振器12が発破に伴う振動を受振する(ステップS200)。受振器12の受振データは、記録装置14を介して管理装置16へと送信される(ステップS202)。
管理装置16の地質評価部161は、記録装置14から送信された受振データを用いて切羽前方の地質を評価する(ステップS204)。
地質予測部162は、今回の地質の評価結果に基づいて、例えば直近の作業日に作業が行われる切羽前方の範囲の地質性状を予測する(ステップS206)。
地質の予測結果は、管理装置16の予測表示部164の他、作業者端末18の予測表示部180に送信され、それぞれの装置上で作業者等のユーザに表示される(ステップS208)。
その後、実際に作業を行った(地質状況を確認した)ユーザからフィードバック入力があった場合(ステップS210:Yes)、フィードバック受付部166,182でこれを受け付ける。フィードバック結果は、適宜地質予測アルゴリズムや地質評価アルゴリズムに反映させる(ステップS212)。
【0048】
以上説明したように、実施の形態にかかる掘削作業支援システム10は、トンネル掘削工事に付随する作業で発生する地盤振動を用いて切羽前方の地質を評価し、評価した切羽前方の地質性状を予測し、これを表示する。これにより、地質性状そのものを提示する場合と比較して、掘削作業を行う作業者等に地質の状況をより分かりやすく伝達することができ、掘削作業の安全性および効率を向上させることができる。
【0049】
また、掘削作業支援システム10は、地盤振動が発生する毎に地質の予測結果を更新するので、複数の受振データに基づいてより高精度な地質予測を行うことができるとともに、採掘により刻々と変化する切羽近傍の地質状況を提示することができる。
【0050】
また、掘削作業支援システム10において、地質の予測結果とともに直近の作業日におけるトンネル掘削工事の注意点を表すテキストを表示するようにすれば、作業者に対してより具体的に作業に対する注意を与えることができ、トンネル掘削工事の安全性および効率を向上させることができる。
【0051】
また、掘削作業支援システム10において、地質の予測結果または地質の評価結果のフィードバックを作業者等のユーザから受け付けるようにすれば、フィードバックを各種アルゴリズムに反映させることにより、地質の予測精度または地質の評価精度を向上させることができる。
【符号の説明】
【0052】
10 作業支援システム
12 受振器
14 記録装置
16 管理装置
18 作業者端末
19 発破装置
160 波形処理部
161 地質評価部
162 地質予測部
164,180 予測表示部
166,182 フィードバック受付部