(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022178702
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】リストバンド型スライドアジャスタ
(51)【国際特許分類】
A44B 11/24 20060101AFI20221125BHJP
【FI】
A44B11/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021085669
(22)【出願日】2021-05-20
(71)【出願人】
【識別番号】519181124
【氏名又は名称】SSH株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100178009
【弁理士】
【氏名又は名称】小河内 功佑
(72)【発明者】
【氏名】白井 庄史
(72)【発明者】
【氏名】小河内 功佑
(72)【発明者】
【氏名】金井 剣央
【テーマコード(参考)】
3B090
【Fターム(参考)】
3B090AA05
3B090AD03
3B090AD08
3B090AD09
3B090BD03
3B090BD06
(57)【要約】
【課題】バンドの曲げに対応できる柔らかさを実現しつつも、係合強度が落ちることがなく、かつ、バンドの厚みを極限まで薄くすることのできるリストバンド型スライドアジャスタを提供する。
【解決手段】本発明のリストバンド型スライドアジャスタは、係合溝を有する中空構造の芯材をバンド内に設置し、前記バンドの係合溝にバックルの係合爪を係合可能とし、前記係合溝に係合爪を係合させた状態において、前記バンドはバックルに接近自在であるが後退不能とされ、前記バックルの前記バンドが挿出する側に前記バンドのスライドをガイドするレールを設けた。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
係合溝を有する中空構造の芯材をバンド内に設置し、前記バンドの係合溝にバックルの係合爪を係合可能とし、前記係合溝に係合爪を係合させた状態において、前記バンドはバックルに接近自在であるが後退不能とされ、前記バックルの前記バンドが挿出する側に前記バンドのスライドをガイドするレールを設けたリストバンド型スライドアジャスタ。
【請求項2】
前記バンドを成形する場に予め前記芯材を設置することにより前記バンドを製造した請求項1記載のリストバンド型スライドアジャスタ。
【請求項3】
前記レールの厚みが前記バンドの厚みと同じである請求項1または2記載のリストバンド型スライドアジャスタ。
【請求項4】
前記係合溝をバンドの厚方向における中間部に設けた請求項1~3のいずれかに記載のリストバンド型スライドアジャスタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バンドをバックルに対してスライドさせ、バンドの長さを調節して固定するためのスライドアジャスタに関し、特に、腕時計、スマートウォッチ、携帯型ミュージックプレーヤーなどの精密器具を腕に装着するためのリストバンド型スライドアジャスタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、バンド(またはベルト)に係合溝を設け、この溝にバックルのフックを弾性的に係合し、随時、この係止状態を解放可能とするバックルが知られている。
特許第5706869号公報(特許文献1)には、バンドの縁部に沿って形成した鋸歯状の係合溝にバックルの係合爪を係合可能としたバンドとバックルのスライドアジャスタにおいて、前記バックルを、対向する底板と天板および両者を接続する側板とからなり内部をバンドの挿通空間としたバックル本体と、該バックル本体の内側に設置され、一端部に前記バンドの係合溝に係合可能な係合爪を有する操作片とから構成すると共に、該操作片を中間点にて前記底板および/または天板を結ぶ連結軸で支承することにより該中間点を支点として揺動自在とし、前記操作片の揺動を制御する制御片が前記バックル本体に設けられ、前記バンドの係合溝に前記係合爪を係合させ該係止状態において前記バンドを前記バックルの挿通空間内に進入させていくと、前記バンドの縁部が前記操作片の係合爪に接触して前記操作片の一端部を押し上げながら前進し、前記操作片は前記制御片に接触することによる反動で初期状態に戻ることによってバンドはバックルに接近自在であるが後退不能とされることを特徴とするバンドとバックルのスライドアジャスタが開示されている。
【0003】
前記スライドアジャスタにおいて、バンドの係合溝には金属をインサートすることができる。特にバンドとバックルの係合状態において、バックルの係合爪が当接する部分に超合金をインサートすることにより、バンドとバックルの係合強度を上げることができるほか、外観の体裁も良くなるため、スライドアジャスタの高級感が増す。バンド自体を曲げる必要がある場合には、係合溝の最深位置以外の箇所に金属をインサートすることが好ましい。
【0004】
しかしながら、バンドの係合溝に金属をインサートするのは効率的ではなく、コスト高となる傾向にある。また、バンド自体を曲げる必要がある場合に、係合溝の最深位置以外の箇所に金属をインサートする場合は、さらに技術的に製造困難であり、また、係合溝の最深位置については依然として強度を上げることができないという問題があった。
【0005】
特開2014-124488号公報(特許文献2)には、バンドに形成した鋸歯状の係合溝にバックルの係合爪を係合可能としたバンドとバックルのスライドアジャスタであって、前記係合爪が前記係合溝に係止した状態では、バンドはバックルに接近自在であるが後退不能とされ、前記バックルは、対向する底板と天板および両者を接続する側板とからなり内部をバンドの挿通空間とされ、前記天板が前記バンドの進入方向に延伸されることにより前記挿通空間を進出したバンドが前記延伸された天板の下部に完全に隠れることを特徴とするバンドとバックルのスライドアジャスタが開示されている。
【0006】
前記スライドアジャスタにおいて、天板、側板に加えて、底板をバンドの進行方向に延伸すれば、時計等の腕部に装着する製品に用いた場合、腕時計等を腕部に装着したままスライドアジャスタを操作したときでも、延伸された底板が腕部と当接しているため、腕部がバンドのスライドを妨げることなく、スムーズなスライド操作を確保することができる。
【0007】
しかしながら、天板、側板、または底板を延伸することにより、スライドアジャスタの厚みが増えてしまい、デザイン上好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第5706869号公報
【特許文献2】特開2014-124488号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、バンドの曲げに対応できる柔らかさを実現しつつも、係合強度が落ちることがなく、かつ、バンドの厚みを極限まで薄くすることのできるリストバンド型スライドアジャスタを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のリストバンド型スライドアジャスタは、係合溝を有する中空構造の芯材をバンド内に設置し、前記バンドの係合溝にバックルの係合爪を係合可能とし、前記係合溝に係合爪を係合させた状態において、前記バンドはバックルに接近自在であるが後退不能とされ、前記バックルの前記バンドが挿出する側に前記バンドのスライドをガイドするレールを設けた。
【0011】
前記バンドを成形する場に予め前記芯材を設置することにより前記バンドを製造したことが好ましい。
【0012】
前記レールの厚みが前記バンドの厚みと同じであることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明のリストバンド型スライドアジャスタは、係合溝を有する中空構造の芯材をバンド内に設置したため、芯材を硬質な素材で構成することにより、バックルとバンドの係合強度を上げながら、バンド自体は曲げに対応できる柔らかさを実現することが可能となる。また、バックルのバンドが挿出する側にバンドのスライドをガイドするレールを設けたので、スムーズなスライド操作を確保しながらもバンドの厚みを極限まで薄くすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明のリストバンド型スライドアジャスタを構成するバンドおよびバックルを示す斜視図(
図1(1)、(2))である。
【
図2】バンド内に設置される中空構造の芯材を示す斜視図である。
【
図3】バックルとバンドの係合状態を示す部分断面図(
図3(1)~(3))である。
【
図4】スライドアジャスタを腕時計に応用した実施形態を示す斜視図である。
【
図5】スライドアジャスタを腕時計に応用した別の実施形態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係るリストバンド型スライドアジャスタの実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は本発明のリストバンド型スライドアジャスタを構成するバンドおよびバックルを示す斜視図(
図1(1)、(2))である。
図2はバンド内に設置される中空構造の芯材を示す斜視図である。
【0016】
図1(1)に示す通り、所要の長さ、幅、厚みを有するバンド10には鋸歯状の係合溝12が形成されている。バンド10の長さ、幅および厚については、リストバンド型スライドアジャスタの使用目的により適宜決定される。バンド10はその一端に腕時計本体等と接続するための接続部13を有する。前記係合溝12は
図2に示す中空構造の芯材50をバンド10内に設置することにより形成される。バンド10の両端には後記するバックルのレールに嵌合する凸部14が設けられている。
【0017】
芯材50の材質、形状については、バンド10の曲げに対応できる材質、形状であれば格別の制限はない。バンド10を成形する場に予め前記芯材50を設置することで、容易に係合溝12をバンド10に形成することが可能となる。バンド10の成形方法としては、金型による射出成型や3Dプリンターによる出力などが挙げられる。
【0018】
図1(2)に示す通り、バックル20は、底板21、これに対向する天板22、および底板21と天板22とを接続する側板23、23とからなる偏平かつ筒状のバックル本体24により主体が構成されている。バックル本体24はバンド10のスライド方向が挿通口として開口され、その内部はバンド10の挿通空間26となる。バックル20のバンド10が挿出する側にはバンド10のスライドをガイドするレール27が設けられている。レール27は前記バンド10の凸部14が嵌合するように凹部として形成されている。バックル20はその一端に腕時計本体等と接続するための接続部28を有する。
【0019】
図3はバックル20とバンド10の係合状態を示す部分断面図である。本実施形態において、バックル本体24の内側には、その内に納まる大きさの操作片30が設置される。操作片30の一端部には、バンド10の係合溝12に係合可能な係合爪31を突設している。
【0020】
操作片30の長手方向の中間部には、連結軸35が形成され、この連結軸35は底板21および/または天板22に支承されている。その結果、操作片30は該中間部を支点として揺動自在とされる。
この実施形態では連結軸35の断面を円形としたが、楕円形、その他種々の断面形状とすることができる。連結軸35は操作片30を揺動自在に軸支すると共に、滑らかな操作性を確保する為に可及的に細くすることが望まれるが、反復的な揺動により破損しない形状、大きさとすれば良い。
【0021】
連結軸の材質に格別の制限はなく、弾性を有する合成樹脂の他、弾性を有しない金属や樹脂等の硬い素材を用いても良い。これらの硬い素材を用いた場合は連結軸自体の強度が上がるので、バンド10とバックル20の係合強度が向上する。
【0022】
バックル本体24には、操作片30の揺動を制御する制御片40が設置される。制御片40の形状に格別の制限はなく、後記するように操作片30の揺動を制御する機能を果たすものであれば良い。
【0023】
続いて、上記スライドアジャスタの作用を説明する。
図3(1)は、バックル20の挿通空間26内にバンド10が挿入され、バンド10の係合溝12に、バックル20の係合爪31が係合した状態を示している。係合溝12はスライド方向の断面形状が鋸歯状、即ち、バンド10の進行方向に向けて漸次深くなるテーパ面と、この最深位置より略垂直に立上る壁面とからなっている。
係合溝12の切除深さ(バンド10の幅方向の長さ)は2~10mm程度とすることが好ましく、隣り合う係合溝12、12同士の間隔は3~7mm程度とすることが好ましい。
【0024】
本実施形態では、切欠きをバンド10の厚方向の中途までとした係合溝としたが、バンド10の厚方向に係合溝12を完全に切欠くこともできる。
さらに、バンド10の厚方向における中間部に係合溝を設けること、即ち、前記鋸歯状の係合溝をバンド内部に後退させて形成し、バンド10の縁部を直線状とすることも可能である。この場合、バンド10の長手方向におけるバンド幅が一定に確保されるので、バンド10が容易には座屈しなくなる。また、鋸歯状に切除した形状が外観に現れないので、意匠面における自由度を増すことができる。
【0025】
図3(1)において、バンド10をバックルの左側の挿通口から挿通空間26内に進入させていくと、バンド10の縁部が操作片30の係合爪31に接触して、操作片30の一端部を押し上げながら前進し、係合爪31は係合溝12から外れる(
図3(2)参照)。さらにバンド10を進入させていくと、操作片30は制御片40に接触することによる反動で初期位置に戻り、係合爪31は隣の係合溝12と噛み合う(
図3(3)参照)。バンド10はこの動作を繰り返しながら、挿通空間26内を進入し、バックル20に対するバンド10の接近・離隔位置が調節される。つまり、この状態では係合爪31が所定の係合溝12と噛み合って係止し、バンド10はバックル20に対して進出自在であるが、後退不能とされる。
【0026】
本実施形態では、制御片40が操作片30の一端部をバンド10の係合溝12側に付勢するバネの機能を果たすようにしたが、必ずしも制御片40を設ける必要はなく、連結軸35自体にバネの機能を持たせたり、コイルバネ等を別部品として設けたりすることもできる。
【0027】
制御片40を設けることによって、連結軸35自体にバネの機能を持たせる必要がない。従って、連結軸35に弾性を有しない金属や樹脂等の素材を用いれば、バックルを小型化するために連結軸35を細くしても、バンド10をバックル20から引き離す方向に強い力が作用した際に連結軸35が破損する虞はない。また、連結軸35の弾性力がクリープ現象(合成樹脂に対して長時間強い圧力がかかっていると合成樹脂がゆっくりと変形する性質)に起因して経時的に低下することによる係合強度弱化の虞もない。
さらに、コイルバネ等を別部品として設ける必要はなく、部品点数を最小限に抑えることができることに加えて、バックル20の構造をより簡便なものとすることができる。
【0028】
バックル20の挿通空間26の大きさは、バンド10がスムーズに挿通可能であれば良いが、係合爪31に近接する位置において、バンド10の進出方向と直交する平面内におけるバンド10の揺動を規制するガイドを設けることが好ましい。ガイドを設置することにより、バンド10がスムーズに挿通するばかりでなく、バンド10の係合溝12とバックル20の係合爪31との係合が的確に行われ、係合爪31近辺における操作片30の破損、または、係合爪31近辺におけるバンド10の座屈といった障害を回避することができる。バックル20の挿通空間26内にガイドを設置するには、挿通空間26を係合爪31に近接する位置においてバックル20の内壁を部分的に狭めることにより形成することが望ましく、必ずしもバックル20と別体のガイド部材を設置するには及ばない。ガイドの縦横の長さは、バンド10の幅および厚と可及的に等しくし、バンド10の周囲と接触する程度とすることが好ましい。バンド進出方向におけるガイドの長さは、前記した隣り合う係合溝12、12同士の間隔と同等またはそれ以上とすることが好ましい。
【0029】
本発明のリストバンド型スライドアジャスタによれば、前記芯材50を硬質な素材で構成することにより、バックル20とバンド10の係合強度を上げながら、バンド10自体は曲げに対応できる柔らかさを実現することが可能となる。
【0030】
また、バックル20のバンド10が挿出する側にバンド10のスライドをガイドするレール27を設けたので、スムーズなスライド操作を確保しながらもバンドの厚みを極限まで薄くすることが可能となる。バンドの厚みを極限まで薄くするために、前記レール27の厚みを前記バンド10と同じ厚みとすることが好ましい。なお、レール27の厚みをバンド10の厚みと同じとした上で、レール27の外表面にカバーや装飾的構造物を施すことも可能である。
【0031】
図4は本発明のリストバンド型スライドアジャスタを腕時計に応用した実施形態を示す斜視図である。本実施形態において、バンド10の接続部13およびバックル20の接続部28を介して腕時計本体と本発明のリストバンド型スライドアジャスタを接続している。
バンド10はバックル本体24に挿通され、バンド10の凸部14がレール27に嵌合することでそのスライドがガイドされている。本実施形態において、レール27をバンド10の凸部14と嵌合するように凹部として形成したが、バンド10のスライドをガイドできる形態であれば良い。したがって、
図5に示すようにレール27を凸部として形成した上で、レールの凸部に嵌合するようにバンド10に凹部15を設けることも可能である。特に、前記したとおり、係合溝をバンドの厚方向における中間部に設ける場合には、レールを凸部として形成した上で、レールの凸部に嵌合するようにバンド10に凹部を設けることが好ましい。
【符号の説明】
【0032】
10 バンド
12 係合溝
13 接続部
14 凸部
15 凹部
20 バックル
24 バックル本体
26 挿通空間
28 接続部
30 操作片
31 係合爪
35 連結軸
40 制御片
50 芯材