(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022178742
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】タービンディスク溝加工用ブローチおよび当該ブローチを用いたタービンディスクの溝加工方法
(51)【国際特許分類】
B23D 43/02 20060101AFI20221125BHJP
【FI】
B23D43/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021085762
(22)【出願日】2021-05-21
(71)【出願人】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100192614
【弁理士】
【氏名又は名称】梅本 幸作
(74)【代理人】
【識別番号】100158355
【弁理士】
【氏名又は名称】岡島 明子
(72)【発明者】
【氏名】野田 哲夫
【テーマコード(参考)】
3C050
【Fターム(参考)】
3C050BB03
3C050BD01
(57)【要約】
【課題】リブを有するタービンディスクの溝加工においてもタービンディスクの一部が損傷を受けることなく溝加工を行えるタービンディスク溝加工用ブローチおよび当該ブローチを用いたタービンディスクの溝加工方法を提供する。
【解決手段】長手方向に配列されている複数の切れ刃2a,2b,2c,2dと切れ刃2a,2b,2c,2dの底部を支える基部3を備えたタービンディスク溝加工用ブローチ1において、切れ刃2a,2b,2c,2dにタービンディスク溝加工用ブローチ1の幅方向に対する所定の傾斜角θを設ける。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リブ状の突起を有するタービンディスクの外周面に溝加工を行うためのタービンディスク溝加工用ブローチであって、前記タービンディスク溝加工用ブローチは長手方向に配列されている複数の切れ刃と、前記切れ刃の底部を支える基部と、を有しており、前記切れ刃には前記ブローチの幅方向に対して所定の傾斜角で傾斜していることを特徴とするタービンディスク溝加工用ブローチ。
【請求項2】
前記傾斜角は、0.5°以上10°以下の範囲であることを特徴とする請求項1に記載のタービンディスク溝加工用ブローチ。
【請求項3】
前記切れ刃の幅方向の寸法は、前記基部の幅方向の寸法の50%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のタービンディスク溝加工用ブローチ。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載のタービンディスク溝加工用ブローチを用いた前記タービンディスクの溝加工方法であって、前記タービンディスク溝加工用ブローチの幅方向の中心軸と前記タービンディスクの径方向の中心軸とを互いにずらした状態で前記タービンディスクの外周面に溝加工を行うことを特徴とするタービンディスクの溝加工方法。
【請求項5】
請求項1に記載のタービンディスク溝加工用ブローチを用いた前記タービンディスクの溝加工方法であって、前記傾斜角が0°である前記タービンディスク溝加工用ブローチを用いて前記タービンディスクの溝加工を行う第1溝加工工程と、前記第1溝加工工程後に前記傾斜角が0.5°以上10°以下の範囲である前記タービンディスク溝加工用ブローチを用いて前記タービンディスクの溝加工を行う第2溝加工工程と、を有することを特徴とするタービンディスクの溝加工方法。
【請求項6】
前記第2溝加工工程後に、前記傾斜角が0°である前記タービンディスク溝加工用ブローチを用いて前記タービンディスクの溝加工を再度行うことを特徴とする請求項5に記載のタービンディスクの溝加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジェットエンジンや発電機等で使用されるタービンディスク、特に内側もしくは外側にリブを設けたタービンディスクの円周上に溝加工を行う専用のブローチ、当該ブローチを用いたタービンディスクの溝加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、各種部品の内周側もしくは外周側に歯車加工を行う場合には、ブローチという切削工具を用いて行われる(特許文献1参照)。中でも、ジェットエンジン等で使用されるタービンディスクの円周に沿って、特殊な形状の溝加工を行う場合にも、その形状に即したブローチを用いて切削加工が行われる(特許文献2および3参照)。タービンディスク300の周縁部の部分断面図を
図5、
図5に示すタービンディスク300の周縁部に溝加工を行った模式底面図を
図6、別形態のタービンディスク400の周縁部の部分断面図を
図7に示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10-118837号公報
【特許文献2】特開2001-234704号公報
【特許文献3】特表2016-508888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、
図5ないし
図7に示す様にタービンディスク300,400の内側もしくは(および)外側にはリブ301,401,402が設けられている場合、従来のブローチで溝加工を行ってもリブ301,401,402の溝加工時にブローチを形成している切れ刃が一方側のみで切削加工が行われることがある。また、
図6に示す様にブローチの幅方向の中心C11がタービンディスクの中心C12が所定の角度α(スキュー角とも言う)を有した状態で切削加工を行う場合もある。従来のタービンディスク溝加工用ブローチを用いたタービンディスク500の溝加工工程(第1工程~第3工程)の模式図を
図8ないし
図10に示す。
【0005】
前述したようにタービンディスク500の周縁部にはリブ501を有しており、かつスキュー角を有した状態、すなわちブローチの幅方向の中心C21がタービンディスク500の中心C22が所定の角度を有した状態で溝加工を行う場合、
図8に示す様に従来のタービンディスク溝加工用ブローチ70(71~73)を用いて、リブ501のいずれか一方の端部で溝加工が完了する。
【0006】
先に溝加工が完了した端部は、その後の従来のタービンディスク溝加工用ブローチ70(71~74)を用いた溝加工では、ブローチによる拘束を受けない状態で
図9に示す様にリブ501の中央部や反対側の端部は溝加工が進む。同時に、当該リブ501の一部が大きな塊Bとして発生する。
【0007】
その後、反対側の端部の溝加工が完了すると、
図10に示す様に従来のタービンディスク溝加工用ブローチ70(71~75)を用いることで各ブローチによる拘束を受けずに切削加工が進むので、当該リブ501の一部である塊Bによってタービンディスク500の一部が損なわれるという問題があった。
【0008】
そこで、本発明はリブを有するタービンディスクの溝加工においても、タービンディスクの一部が損傷を受けることなく溝加工を行うことができるタービンディスク溝加工用ブローチおよび当該ブローチを用いた溝加工方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のタービンディスク溝加工用ブローチは、リブ状の突起を有するタービンディスクの外周面に溝加工を行うためのタービンディスク溝加工用ブローチであり、当該タービンディスク溝加工用ブローチは、長手方向に配列されている複数の切れ刃とこれら複数の切れ刃の底部を支える基部から形成されている。そして、これらの切れ刃に当該ブローチの幅方向に対して所定の傾斜角を設け、この傾斜角は、0.5°以上10°以下の範囲とすることが望ましい。また、これらの切れ刃の幅方向の寸法は、基部の幅方向の寸法の50%以下とすることができる。
【0010】
当該タービンディスク溝加工用ブローチを用いたタービンディスクの溝加工方法の発明については、タービンディスク溝加工用ブローチの幅方向の中心軸とタービンディスクの径方向の中心軸とを互いにずらした状態(離間させた状態)でタービンディスクの外周面に溝加工を行う溝加工方法とする。
【0011】
また、当該タービンディスク溝加工用ブローチを用いたタービンディスクの溝加工方法において、当該ブローチの切れ刃の傾斜角を0°としたブローチを用いてタービンディスクの溝加工を行う第1溝加工工程、第1溝加工工程後に傾斜角が0.5°以上10°以下の範囲であるタービンディスク溝加工用ブローチを用いてタービンディスクの溝加工を行う第2溝加工工程、を含むタービンディスクの溝加工方法とすることもできる。
【0012】
さらに、前述の第2溝加工工程後に、ブローチの切れ刃の傾斜角を0°としたタービンディスク溝加工用ブローチを用いてタービンディスクの溝加工を再度行っても構わない。
【発明の効果】
【0013】
本発明のタービンディスク溝加工用ブローチを形成する各切れ刃に当該ブローチの幅方向に対して所定の範囲で傾斜角を設けることで、リブを有するタービンディスクの溝加工であってもリブの部分に対して均等に切削加工が行われるので、タービンディスクの一部が損傷を受けることなく溝加工を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明のタービンディスク溝加工用ブローチ1の正面図である。
【
図2】本発明のタービンディスク溝加工用ブローチ1の右側面図である。
【
図3】本発明のタービンディスク溝加工用ブローチ10を用いたタービンディスク100の溝加工形態(第1加工形態)の模式図である。
【
図4】本発明のタービンディスク溝加工用ブローチ20を用いたタービンディスク200の溝加工形態(第2加工形態)の模式図である。
【
図5】タービンディスク300の周端部(第1形態)の模式断面図である。
【
図6】
図5に示すタービンディスク300の周端部の模式底面図である。
【
図7】タービンディスク400の周端部(第2形態)の模式断面図である。
【
図8】従来のタービンディスク溝加工用ブローチ70(71~73)を用いたタービンディスク500の溝加工工程(第1工程)の模式図である。
【
図9】従来のタービンディスク溝加工用ブローチ70(71~74)を用いたタービンディスク500の溝加工工程(第2工程)の模式図である。
【
図10】従来のタービンディスク溝加工用ブローチ70(71~75)を用いたタービンディスク500の溝加工工程(第3工程)の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のタービンディスク溝加工用ブローチの一実施形態について図面を用いて以下に説明する。本発明の第1実施形態であるタービンディスク溝加工用ブローチ1の正面図を
図1、タービンディスク溝加工用ブローチ1の右側面図を
図2にそれぞれ示す。
【0016】
本発明のタービンディスク溝加工用ブローチ1は、
図1に示す様に複数の切れ刃2a,2b,2c,2dが長手方向(切削加工時におけるタービンディスク溝加工用ブローチの移動方向)に配列されている。これら複数の切れ刃2a,2b,2c,2dの台座部分は、これらの切れ刃2a,2b,2c,2dの底部を支える基部3が形成されている。
【0017】
また、各切れ刃2a,2b,2c,2dは、
図2に示す様にタービンディスク溝加工用ブローチ1の幅方向に対して所定の角度θで傾斜している(以下、傾斜角という)。この傾斜角θは、0.5°以上10°以下の範囲とする。これらの切れ刃2a,2b,2c,2dの幅方向の寸法hは、基部3の幅方向の寸法Hの50%以下としても構わない。
【0018】
次に、前述したタービンディスク溝加工用ブローチを用いるタービンディスクの溝加工方法の発明について図面を用いて説明する。本発明のタービンディスク溝加工用ブローチ10(11~13)を用いたタービンディスク100の溝加工形態(第1加工形態)の模式図を
図3に示す。本発明の溝加工は、第1および第2の溝加工工程から形成される。第1溝加工工程は、
図3に示す様にまず切れ刃の傾斜角が0°であるタービンディスク溝加工用ブローチ51,52を用いて、外周面にリブ101を有したタービンディスク100の溝加工を行う。
【0019】
その後、切れ刃の傾斜角が0.5°以上10°以下の範囲であるタービンディスク溝加工用ブローチ10(11,12,13)を用いてタービンディスクの溝加工を行う(第2溝加工工程)。第2溝加工工程の後、切れ刃の傾斜角が0°であるタービンディスク溝加工用ブローチ53を用いて、タービンディスクの溝加工を再度行うこともできる。
【0020】
本溝加工方法を用いることで、
図3に示したタービンディスク溝加工用ブローチの幅方向の中心軸C1とタービンディスクの径方向の中心軸C2を互いにずらした状態(
図6に示すスキュー角αを有した状態)で溝加工を行うこともできる。
【0021】
次に、本発明のタービンディスク溝加工用ブローチ20(21~25)を用いたタービンディスク200の溝加工形態(第2加工形態)の模式図を
図4に示す。本発明の溝加工方法は、第1加工形態と同様に、
図4に示す様にまず切れ刃の傾斜角が0°であるタービンディスク溝加工用ブローチ61,62を用いてタービンディスク200の溝加工を行う(第1溝加工工程)。本溝加工では、タービンディスク溝加工用ブローチの幅方向の中心C3とタービンディスクの径方向の中心軸C3は互いに一致しているものとする。
【0022】
その後、切れ刃の傾斜角が0.5°以上10°以下の範囲であるタービンディスク溝加工用ブローチ20(21~25)を用いてタービンディスク200の溝加工を行う(第2溝加工工程)。第2溝加工工程の後、切れ刃の傾斜角が0°であるタービンディスク溝加工用ブローチ63,64を用いて、タービンディスク200の溝加工を再度行う。
【0023】
なお、
図4に示すように本発明の溝加工方法において、切れ刃の幅方向の大きさが互いに異なる複数のタービンディスク溝加工用ブローチ22,23を組み合わせることで溝の同一幅方向の加工を行うこともできる。
【符号の説明】
【0024】
1,11~13,21~25 タービンディスク溝加工用ブローチ
2(2a,2b,2c,2d)切れ刃
3 基部
C1,C11 タービンディスク溝加工用ブローチの中心軸
C2,C12 タービンディスクの径方向の中心軸
h 切れ刃の幅方向の寸法
H 基部の幅方向の寸法
θ 切れ刃の傾斜角
α タービンディスク溝加工用ブローチの中心軸とタービンディスクの径方向の中心軸の成す角度